(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】ヒートシンク付き絶縁回路基板及び電子機器
(51)【国際特許分類】
H01L 23/36 20060101AFI20230829BHJP
H01L 23/40 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
H01L23/36 C
H01L23/40 F
(21)【出願番号】P 2019224419
(22)【出願日】2019-12-12
【審査請求日】2022-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】青木 慎介
(72)【発明者】
【氏名】大井 宗太郎
(72)【発明者】
【氏名】大開 智哉
【審査官】豊島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-140198(JP,A)
【文献】特開2016-181549(JP,A)
【文献】特開昭59-132633(JP,A)
【文献】特開平7-99268(JP,A)
【文献】特開2018-182175(JP,A)
【文献】特開2014-29974(JP,A)
【文献】特開2007-173496(JP,A)
【文献】特開2020-145361(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L21/54
H01L23/00 -23/04
H01L23/06 -23/26
H01L23/29
H01L23/34 -23/36
H01L23/373-23/427
H01L23/44
H01L23/467-23/473
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板の一方の面に回路層が形成されているとともに、前記セラミックス基板の他方の面に金属層が形成されてなる絶縁回路基板における前記金属層と、中央部に前記絶縁回路基板の少なくとも一部が収容される収容凹部が形成されたヒートシンクにおける前記収容凹部の底面とがろう付けされたヒートシンク付き絶縁回路基板であって、
前記収容凹部の周壁部の内側側面の少なくとも一部にろう溜まり凹部が形成されており、前記ろう溜まり凹部は、前記セラミックス基板よりも前記収容凹部の底面側に位置していることを特徴とするヒートシンク付き絶縁回路基板。
【請求項2】
前記ろう溜まり凹部の底面は、前記収容凹部の底面と一致していることを特徴とする請求項1に記載のヒートシンク付き絶縁回路基板。
【請求項3】
前記ろう溜まり凹部は、前記周壁部の内側側面の全周にわたって形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のヒートシンク付き絶縁回路基板。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のヒートシンク付き絶縁回路基板と、
前記絶縁回路基板の前記回路層上に設けられる電子部品と、
前記電子部品上及び前記収容凹部内にモールドされた樹脂材と、を備えることを特徴とする電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートシンク付き絶縁回路基板及びこれを用いた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁回路基板として、窒化アルミニウムを始めとするセラミックス基板からなる絶縁層の一方の面に回路層が形成されるとともに、他方の面に金属層を介してヒートシンクが接合されたヒートシンク付き絶縁回路基板が知られている。
例えば、特許文献1に開示されているヒートシンク付き絶縁回路基板は、セラミックス基板の一方の面に回路層が形成されるとともに、セラミックス基板の他方の面に放熱層を介してヒートシンクが接合されてなり、ヒートシンクには、絶縁回路基板が収容される収容凹部が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1に開示されている絶縁回路基板をヒートシンクに接合する際には、ろう材を絶縁回路基板とヒートシンクとの間に挟んで、加圧しながら加熱する。このようなろう材としては、アルミニウム系ろう材が用いられ、特に、マグネシウム(Mg)を含むアルミニウム合金クラッド材を用いて接合すると、比較的低温で接合することが可能である。
【0005】
しかしながら、Mgを含むアルミニウム合金クラッド材を用いると、余剰な溶融ろうがヒートシンクにおける収容凹部の底部から該収容凹部の内側側面を這い上がり、収容凹部の外周に位置する周壁部の天面にまで達することがある。この内側側面及び周壁部の天面に這い上がった溶融ろうは、これらの表面で固化する。この場合、固化した溶融ろう(以下、残存ろうという)は、Al-Mg系合金となり、表面にMgが拡散し、酸化被膜がMgOを含む多孔質な被膜となるため、収容凹部に樹脂(例えば、エポキシ樹脂などの樹脂材)を注入してモールドした場合、樹脂材と周壁部との密着性が低下する。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、ヒートシンク付き絶縁回路基板におけるヒートシンクの周壁部の樹脂密着性を向上できるヒートシンク付き絶縁回路基板及び電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のヒートシンク付き絶縁回路基板は、セラミックス基板の一方の面に回路層が形成されているとともに、前記セラミックス基板の他方の面に金属層が形成されてなる絶縁回路基板における前記金属層と、中央部に前記絶縁回路基板の少なくとも一部が収容される収容凹部が形成されたヒートシンクにおける前記収容凹部の底面とがろう付けされたヒートシンク付き絶縁回路基板であって、前記収容凹部の周壁部の内側側面の少なくとも一部にろう溜まり凹部が形成されており、前記ろう溜まり凹部は、前記セラミックス基板よりも収容凹部の底面側に位置している。
【0008】
周壁部の内側側面において、ろう溜まり凹部がセラミックス基板よりも収容凹部の底面とは反対側(セラミックス基板より上側)に形成されていると、周壁部における溶融ろうが這い上がる領域(残存ろうが固定される領域)が広くなるため、樹脂密着性が低下する。
一般に、セラミックス基板の周縁部は、回路層や金属層の周縁部より外方に張り出して形成される。このため、収容凹部が樹脂材によりモールドされた場合、セラミックス基板の周縁部は、冷熱サイクル時において樹脂材への応力が最も高くなる。また、周壁部における残存ろうが固定された領域は、残存ろうが固定されていない領域に比べて樹脂密着性が低いことから、ろう溜まり凹部を周壁部の内側側面におけるセラミックス基板の周縁部と対向する位置に形成すると、樹脂密着性が低い部分と、応力が最もかかる部分とが近接することとなるので、モールドされた樹脂材が剥がれやすくなる。
【0009】
本発明では、セラミックス基板よりも収容凹部の底面側に位置するろう溜まり凹部に溶融ろうが溜まることから、周壁部の内側側面における溶融ろうが這い上がる領域を小さくできる。このため、収容凹部が樹脂材によりモールドされた場合の樹脂密着性を向上できる。特に、固化した溶融ろう(残存ろう)に樹脂密着性を低下させるマグネシウムなどの元素が含まれている場合に有用である。また、セラミックス基板の周縁部と同じ高さに収容凹部が形成されないことから、樹脂への応力が最も高くなる部分と樹脂密着性が低い部分とが近接することがないので、収容凹部から樹脂が剥がれることを抑制できる。
【0010】
本発明のヒートシンク付き絶縁回路基板の好ましい態様としては、前記ろう溜まり凹部の底面は、前記収容凹部の底面と一致しているとよい。
上記態様では、絶縁回路基板とヒートシンクとを接合する際に生じた余剰な溶融ろうは、収容凹部の底面を伝って、直接ろう溜まり凹部へと流入し、ろう溜まり凹部内に溜め置かれる。このため、溶融ろうの周壁部の内側側面への這い上がりを確実に抑制できる。また、周壁部の内側側面の一部分にのみ残存ろうが固定されるので、収容凹部が樹脂材によりモールドされた場合における樹脂密着性をより向上できる。
【0011】
本発明のヒートシンク付き絶縁回路基板の好ましい態様としては、前記ろう溜まり凹部は、前記周壁部の内側側面の全周にわたって形成されているとよい。
上記態様では、ろう溜まり凹部が周壁部の内側側面の全周にわたって形成されているので、ヒートシンクにおける収容凹部の底面と絶縁回路基板の金属層とをろう材を用いて接合する際に生じる余剰な溶融ろうをろう溜まり凹部に確実に溜めることができ、ヒートシンクの周壁部の樹脂密着性をより高めることができる。
【0012】
本発明の電子機器は、上記ヒートシンク付き絶縁回路基板と、前記絶縁回路基板の前記回路層上に設けられる電子部品と、前記電子部品上及び前記収容凹部内にモールドされた樹脂材と、を備える。
【0013】
本発明では、ヒートシンクの周壁部の内側側面における残存ろうが固定される領域を小さくすることで、収容凹部の内側側面と樹脂との密着性を高めることができ、信頼性の高い電子機器を提供できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ヒートシンク付き絶縁回路基板におけるヒートシンクの周壁部の樹脂密着性を向上でき、かつ、信頼性の高い電子機器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るヒートシンク付き絶縁回路基板を用いたパワーモジュールを示す断面図である。
【
図2】
図1に示すヒートシンク付き絶縁回路基板の一部を拡大して示す拡大図である。
【
図3】
図1に示すヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法を説明する断面図であり、絶縁回路基板とヒートシンクとの接合前の状態を示す図である。
【
図4】
図1に示すヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法を説明する断面図であり、絶縁回路基板とヒートシンクとの接合後の状態を示す図である。
【
図5】上記実施形態におけるヒートシンク付き絶縁回路基板の平面図である。
【
図6】上記実施形態におけるパワーモジュールのケースへの取り付け例を示す分解斜視図である。
【
図7】本発明の第2実施形態に係るヒートシンク付き絶縁回路基板を用いたパワーモジュールを示す断面図である。
【
図8】本発明の第3実施形態に係るヒートシンク付き絶縁回路基板の一部を拡大して示す図である。
【
図9】上記第3実施形態に係るヒートシンク付き絶縁回路基板の側面を示す側面図である。
【
図10】本発明の第4実施形態に係るヒートシンク付き絶縁回路基板の一部を拡大して示す図である。
【
図11】上記第4実施形態に係るヒートシンク付き絶縁回路基板の側面を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0017】
[ヒートシンク付き絶縁回路基板の概略構成]
本発明のヒートシンク付き絶縁回路基板1は、
図1に示すように、絶縁回路基板10に、複数のフィンが立設されたフィン一体型のヒートシンク20が接合されたものである。
【0018】
[パワーモジュールの構成]
そして、このヒートシンク付き絶縁回路基板1の表面に半導体チップ等の電子部品30が搭載され、その上に樹脂材60がモールドされることにより、パワーモジュール100(電子機器)が製造される。
なお、フィン一体型のヒートシンク20を備えるパワーモジュール100は、例えば
図5に示すようなケース40に取り付けられた状態で使用される。このケース40は、複数のピン状フィン25を内部に挿入状態として取り付けるための開口部41が形成されるとともに、その開口部41の周囲を囲むようにパッキン収容溝42が形成されている。そして、パッキン収容溝42の外側にねじ穴43が形成されており、ヒートシンク20をピン状フィン25が下方を向くように配置することにより開口部41内に挿入し、開口部41の周囲にパッキン50を介して密接させ、ねじ止めにより固定する構成とされる。
図5に示す例では、2個のヒートシンク付き絶縁回路基板1(パワーモジュール100)が取り付けられるようになっており、白抜き矢印で示すように、ケース40の内部に冷却媒体が流通して挿入状態のピン状フィン25を冷却するようになっている。
【0019】
[絶縁回路基板の構成]
ヒートシンク付き絶縁回路基板を構成する絶縁回路基板10は、セラミックス基板11と、セラミックス基板11の一方の面に形成された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面に形成された金属層13とを備える。
セラミックス基板11は、回路層12と金属層13の間の電気的接続を防止する絶縁材であって、例えば窒化アルミニウム(AlN)、窒化珪素(Si3N4)等により形成され、矩形板状に形成されている。このセラミックス基板11は、回路層12及び金属層13よりも若干大きく形成され、その板厚は0.2mm~1.2mmである。
【0020】
[回路層の構成]
回路層12は、セラミックス基板11よりも若干小さい矩形板状に形成されている。この回路層12は、
図1に示す例では、2つの小回路層により構成され、その上にそれぞれ電子部品30が配置されている。なお、回路層12は、2つの小回路層に限らず、3つ以上の小回路層から構成されてもよいし、1つの回路層からなってもよい。
このような回路層12は、セラミックス基板11に接合された第1回路層121と、第1回路層121の上面に接合された第2回路層122とを備えている。
【0021】
これらのうち第1回路層121は、純度99質量%以上の純アルミニウムが用いられ、JIS規格では1000番台の純アルミニウム、特に1N90(純度99.9質量%以上:いわゆる3Nアルミニウム)又は1N99(純度99.99質量%以上:いわゆる4Nアルミニウム)を用いることができる。一方、第2回路層122は、A6063系等のアルミニウム合金が用いられている。例えば、第1回路層121の厚さは、0.4mm~1.6mmに設定され、第2回路層122の厚さは、0.5mm~1.5mmに設定されている。
【0022】
[金属層の構成]
金属層13は、セラミックス基板11よりも若干小さい矩形状に形成されている。この金属層13には、純度99質量%以上の純アルミニウム又はアルミニウム合金が用いられ、JIS規格では1000番台のアルミニウム、特に1N99(純度99.99質量%以上:いわゆる4Nアルミニウム)を用いることができる。例えば、金属層13の厚さは、0.4mm~1.6mmに設定されている。
【0023】
[ヒートシンクの構成]
この絶縁回路基板10に接合されるヒートシンク20は、A6063系等のアルミニウム合金からなる板材により形成される。そして、金属層13に接合されるヒートシンクの中央部21に、絶縁回路基板10の少なくとも一部が収容される収容凹部22が形成され、収容凹部22の外周側に厚肉部分が残されることにより周壁部23が形成されている。この収容凹部22の底面に絶縁回路基板10の金属層13が、アルミニウム系のろう材箔14(
図3参照)を介して積層し、これらを積層方向に加圧して加熱することにより絶縁回路基板10にヒートシンク20が接合される。
例えば、ヒートシンク20の中央部21は、平面視で77mm×67mm、周壁部23の外径は、平面視で100mm×80mmとされ、絶縁回路基板10は、平面視で75mm×65mmとされている。
【0024】
また、ヒートシンク20は、中央部21の厚み寸法(収容凹部22の底面部分の厚み寸法)が周壁部23の厚み寸法よりも薄く形成されている。本実施形態においては、ヒートシンク20がA6063系アルミニウム合金からなる総厚2.1mm~6.8mmの板材により形成され、周壁部23の厚み寸法が2.1mm~6.8mm、収容凹部22の底面部分の厚み寸法が0.5mm~1.5mmに設定されている。このヒートシンク20の中央部21の下面21bには、複数のピン状フィン25が立設され、このピン状フィン25の先端位置は水平面上に揃えられ、下面21bの表面からほぼ等しい立設高さとなるように形成されている。
【0025】
さらに、ヒートシンク20の収容凹部22の周壁部23の内側側面230にろう溜まり凹部231が形成されている。ろう溜まり凹部231は、
図1及び2に示すように、内側側面230におけるセラミックス基板11よりも下側(セラミックス基板11よりも収容凹部22の底面側)に位置している。
【0026】
また、ろう溜まり凹部231は、
図5に示すように、周壁部23の内側側面230の全周にわたって形成される溝部により構成されている。また、ろう溜まり凹部231の縦幅w1は、絶縁回路基板10とヒートシンク20とを接合する際に用いられるろう材箔14(
図3参照)の厚さよりも大きく形成され、例えば、その厚さは0.05mm~0.5mmに設定されている。このろう溜まり凹部231の縦幅w1がろう材箔14の厚さより小さいと、余剰なろう材を保持できなくなる可能性がある。
また、ろう溜まり凹部231は、ヒートシンク20に絶縁回路基板10をろう付けする際に生じた余剰な溶融ろうを溜めおく必要があるため、その深さh1は、例えば、0.05mm~10mmに設定されている。
【0027】
例えば、
図3に示すろう材箔14の平面視における縦寸法がXmm、横寸法がYmmに形成され、絶縁回路基板10とヒートシンク20との接合に最低必要なろう材箔14の厚さが0.01mmであると推定される場合、上記接合に必要なろう材箔14の体積は、0.01・X・Ymm
3となる。この場合において、ろう材箔14の厚さが0.03mmである場合、余剰となるろう材の体積は0.02・X・Ymm
3となる。このため、ろう溜まり凹部231の体積は、0.02・X・Ymm
3以上であることが好ましい。
この場合、接合に必要なろう材箔の厚さより大きい厚さである0.03mmの厚さのろう材箔14を用いるのは、最低必要な厚さである0.01mmであるとした場合、絶縁回路基板10とヒートシンク20との位置ずれ等により、これらの接合が安定せず、接合率が低下するおそれがあるためである。
ろう溜まり凹部231の体積が上記のように設定されているので、このろう溜まり凹部231には、
図2に示すように、上記ろう付けの際に周壁部23の内側側面230を這い上がった溶融ろうが確実に流入し、固化する。
【0028】
なお、このようなヒートシンク20の外周縁には、例えば
図6に示すように、ケース40等の各種機器への取り付けの際にねじ止めを行うための締結穴26が形成されている。
また、ヒートシンク20に立設されるフィンの形状は特に限定されるものではなく、本実施形態のようなピン状フィン25の他、ひし形フィンや帯板状のフィン等を形成することもできる。
【0029】
なお、パワーモジュール100を構成する電子部品30は、必ずしも限定されるものではないが、回路層12の表面に形成されたNiめっき(不図示)上に、Sn-Ag-Cu系、Zn-Al系、Sn-Ag系、Sn-Cu系、Sn-Sb系もしくはPb-Sn系等のはんだ材を用いて接合される。また、電子部品30と回路層12の端子部との間は、アルミニウムからなるボンディングワイヤ(不図示)により接続される。
【0030】
[ヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法]
次に、本実施形態のヒートシンク付き絶縁回路基板1の製造方法について説明する。
その製造方法は、セラミックス基板11に回路層12及び金属層13を接合して絶縁回路基板10を形成する絶縁回路基板形成工程と、絶縁回路基板10にヒートシンク20を接合するヒートシンク接合工程とからなる。以下、この工程順に説明する。
【0031】
(絶縁回路基板形成工程)
第1回路層121、セラミックス基板11、金属層13を、それぞれAl-Si系、Al-Ge系、Al-Cu系、Al-Mg系、Al-Mn系、又はAl-Si-Mg系ろう材箔を介して積層し、その積層体を積層方向に加圧した状態で加熱した後、冷却することにより、セラミックス基板11の一方の面11aに第1回路層121、他方の面11bに金属層13が接合される。
このときの接合条件は、必ずしも限定されるものではないが、真空雰囲気中で、積層方向の加圧力が0.3MPa~1.5MPaで、630℃以上655℃以下の加熱温度に20分以上120分以下保持するのが好適である。
【0032】
そして、第1回路層121上にアルミニウム系ろう材箔を介して積層し、その積層体を積層方向に加圧した状態で加熱した後、冷却することにより、第1回路層121と第2回路層122とを強固に接合する。このろう材箔は、例えば、Al-Si系やAl-Si-Mg系ろう材箔を用いることもできるが、好適には、A3003等のアルミニウム合金の両面にAl-Si-Mg系ろう材(一例として、Al-10.5質量%Si-1.5質量%Mg)が形成されたアルミニウム合金クラッド材を用いるとよい。このような、クラッド材を用いると、比較的固相線温度の低いアルミニウム合金からなる第2回路層122を比較的低温で接合することができる。この積層方向の加圧力は、0.1MPa~0.5MPaで、590℃以上615℃以下の加熱温度に3分以上20分以下保持するのが好適である。
これにより、セラミックス基板11の一方の面に回路層12(第1回路層121及び第2回路層122)が形成され、他方の面に金属層13が形成された絶縁回路基板10が形成される。
【0033】
(ヒートシンク接合工程)
そして、
図3に示すように、絶縁回路基板10の金属層13の下面と、ヒートシンク20の収容凹部22の底面(中央部21)との間にアルミニウム系ろう材箔14を介在させ、積層方向に加圧した状態で加熱することにより、金属層13とヒートシンク20とを接合する。なお、アルミニウム系ろう材箔14としては、例えば、Al-Si系やAl-Si-Mg系ろう材箔を用いることもできるが、ヒートシンクが比較的の固相線温度が低いアルミニウム合金から構成されることから、A3003等のアルミニウム合金の両面にAl-Si-Mg系ろう材が形成されたアルミニウム合金クラッド材を用いることが好適である。
これにより、絶縁回路基板10にヒートシンク20が接合され、
図4に示すヒートシンク付き絶縁回路基板1が形成される。
なお、この積層方向の加圧力は、0.1MPa~0.5MPaで、590℃以上615℃以下の加熱温度に3分以上20分以下保持するのが好適である。
【0034】
なお、第1回路層121と第2回路層122との接合と、ヒートシンク接合工程は同時に行うことが可能である。この場合、同じアルミニウム系ろう材箔14を用いることが好ましい。すなわち、第1回路層121とセラミックス基板11と金属層13の接合体に対し、第1回路層121上にアルミニウム系ろう材箔14を介して第2回路層122を積層するとともに、ヒートシンク20上にアルミニウム系ろう材箔14を介して金属層13が接触するように積層し、この積層体を積層方向に加圧しながら加熱して、第1回路層121と第2回路層122とを接合するとともに、ヒートシンク20と金属層13とを接合してヒートシンク付き絶縁回路基板1を製造することができる。なお、この積層方向の加圧力は、0.1MPa~0.5MPaで、590℃以上615℃以下の加熱温度に3分以上20分以下保持するのが好適である。
【0035】
そして、上記製造方法により製造されたヒートシンク付き絶縁回路基板1の回路層12の表面に半導体チップ等の電子部品30が搭載され、その上に樹脂材60がモールドされることにより、パワーモジュール100が製造される。
【0036】
ここで、ヒートシンク接合工程において、アルミニウム系ろう材箔14を用いて絶縁回路基板10をヒートシンク20に接合すると、余剰な溶融ろうがヒートシンク20における収容凹部22の底面から周壁部23の内側側面230を這い上がる。特に、アルミニウム系ろう材箔にMgを含む場合や、上述した、A3003等のアルミ合金の両面にAl-Si-Mg系ろう材が形成されたアルミニウム合金クラッド材を用いた場合には、ろう材が溶融しやすいため、このような這い上がりが顕著に生じる。
周壁部23の内側側面230において、このような残存ろう14aが固定された領域は、残存ろうが固定されていない領域に比べて樹脂密着性が低いため、収容凹部22内に樹脂材60を注入してモールドした場合、樹脂材60と周壁部23との密着性が低下する。特に、アルミニウム系ろう材箔14がMgを多く含んでいると、残存ろう14aの表面にMgが拡散し、酸化被膜がMgOを含む多孔質な被膜となるため、収容凹部22内に樹脂材60を注入してモールドした場合、樹脂材60と周壁部23との密着性がより低下する。
【0037】
本実施形態では、内側側面230にろう溜まり凹部231が形成されているので、
図2に示すように、ヒートシンク20における収容凹部22の底面と絶縁回路基板10の金属層13とを上記ろう材箔14を用いて接合する際に生じる余剰な溶融ろうは、ろう溜まり凹部231に溜まる。そして、積層体の加熱が終了して、これが冷却されると、溶融ろうが固化して残存ろう14aとなり、この残存ろう14aが内側側面230のセラミックス基板11よりも下側の一部及びろう溜まり凹部231内に固定される。
【0038】
この点、周壁部23の内側側面230において、ろう溜まり凹部231がセラミックス基板11よりも収容凹部22の底面とは反対側(セラミックス基板11より上側)に形成されていると、周壁部23における溶融ろうが這い上がる領域が広くなるため、樹脂密着性が低下する。
また、本実施形態では、セラミックス基板11の周縁部は、回路層12や金属層13の周縁部より外方に張り出して形成されている。このため、収容凹部22が樹脂材60によりモールドされた場合、セラミックス基板11の周縁部は、冷熱サイクル時において樹脂材60への応力が最も高くなる。また、周壁部23における残存ろう14aが固定された領域は、残存ろう14aが固定されていない領域に比べて樹脂密着性が低いことから、ろう溜まり凹部231を周壁部23の内側側面230におけるセラミックス基板11の周縁部と対向する位置に形成すると、樹脂密着性が低い部分と応力が最もかかる部分とが近接することとなるので、モールドされた樹脂材60が剥がれやすくなる。
このため、本実施形態では、周壁部23の内側側面230におけるセラミックス基板11よりも下側にろう溜まり凹部231を形成している。
【0039】
本実施形態のヒートシンク付き絶縁回路基板1では、周壁部23の内側側面230におけるセラミックス基板11よりも収容凹部22の底面側に位置するろう溜まり凹部231に溶融ろうが溜まることから、周壁部23の内側側面230における溶融ろうが這い上がる領域を小さくできる。このため、残存ろう14aに樹脂密着性を低下させるマグネシウムが含まれている場合でも、収容凹部22が樹脂材60によりモールドされた場合の樹脂密着性を向上できる。また、セラミックス基板11の周縁部と同じ高さにろう溜まり凹部231が形成されないことから、セラミックス基板11の樹脂材60への応力が最も高くなる部位とは離れた位置に残存ろう14aが固定されるので、収容凹部22から樹脂材がはがれることを抑制できる。さらに、ろう溜まり凹部231が周壁部23の内側側面230の全周にわたって形成されているので、余剰な溶融ろうを、ろう溜まり凹部231に確実に溜めることができる。
また、ヒートシンク付き絶縁回路基板1を用いたパワーモジュール100は、周壁部23の内側側面230における残存ろう14aが固定される領域を小さくすることで、周壁部23の内側側面230と樹脂との密着性を高めることができ、信頼性の高いパワーモジュールを提供できる。
なお、周壁部23の内側側面230にろう溜まり凹部231が形成されているので、周壁部23の上面24に溶融ろうが這い上がることがないため、その外観も合わせて向上できる。
【0040】
[第2実施形態]
図7は、第2実施形態に係るヒートシンク付き絶縁回路基板1Aを示す断面図である。なお、以下の説明では、第1実施形態と同一又は略同一の構成については、同じ番号を付し、説明を省略又は簡略化して説明する。
本実施形態では、ろう溜まり凹部231Aは、周壁部23の内側側面230における収容凹部22の底面側の端部に形成されている。具体的には、収容凹部22の底面とろう溜まり凹部231Aの底面とが一致している。このため、絶縁回路基板10とヒートシンク20とを接合する際に生じた余剰な溶融ろうは、収容凹部22の底面を伝って、直接ろう溜まり凹部231Aへと流入し、ろう溜まり凹部231A内に溜められることとなる。
【0041】
ここで、第1実施形態のように、ろう溜まり凹部231が周壁部23の内側側面230の中間部(セラミックス基板11よりも下側の中間部)に形成されている場合、内側側面230におけるろう溜まり凹部231に達するまでの領域には、残存ろう14aが固定されることとなる。
これに対し、本実施形態では、ろう溜まり凹部231Aが周壁部23の内側側面230における底面側の端部に形成されているので、溶融ろうの内側側面230の這い上がりを確実に抑制できる。また、内側側面230の大部分に残存ろう14aが固定されることがないので、収容凹部22内に樹脂材60をモールドした際における樹脂密着性をさらに向上できる。
【0042】
[第3実施形態]
図8は、第3実施形態に係るヒートシンク付き絶縁回路基板1Bの一部を拡大して示す断面図であり、
図9は、第3実施形態に係るヒートシンク付き絶縁回路基板1Bの側面を示す側面図である。
本実施形態では、ろう溜まり凹部231Bは、
図8に示すように、上記第1実施形態と同様に周壁部23の内側側面230におけるセラミックス基板11よりも収容凹部22の底面側に形成されている。このろう溜まり凹部231Bは、
図9に示すように、複数(例えば、20個)の細長い溝部からなり、例えば、1つの溝部の縦幅w1が0.2mm、横寸法w2が5mm、深さ寸法h1が5mmとされる。これら複数の溝部のそれぞれは、所定の間隔をあけて断続的に配置され、隣り合う溝部の間隔w3は、例えば、0.05mm~10mmとされる。また、このろう溜まり凹部231Bを構成する複数の溝部の体積の総和は、絶縁回路基板10とヒートシンク20とを接合する際に生じた余剰な溶融ろうの体積よりも大きく設定されている。
【0043】
このため、本実施形態においても絶縁回路基板10とヒートシンク20とを接合する際に生じた余剰な溶融ろうは、収容凹部22の底面及び周壁部23を伝って、ろう溜まり凹部231B(複数の溝部)へと流入し、ろう溜まり凹部231B内に溜められることとなることから、周壁部23の内側側面230における溶融ろうが這い上がる領域を小さくできる。
【0044】
[第4実施形態]
図10は、第4実施形態に係るヒートシンク付き絶縁回路基板1Cの一部を拡大して示す断面図であり、
図11は、第4実施形態に係るヒートシンク付き絶縁回路基板1Cの側面を示す側面図である。
本実施形態では、ろう溜まり凹部232は、
図10に示すように、周壁部23の内側側面230におけるセラミックス基板11よりも収容凹部22の底面側に形成されている。このろう溜まり凹部232は、
図11に示すように、複数(例えば、32個)の貫通孔からなり、例えば、1つの貫通孔の径w1が0.2mmとされる。これら複数の貫通孔のそれぞれは、所定の間隔をあけて断続的に配置され、隣り合う貫通孔の間隔w4は、例えば、0.05mm~10mmとされる。
なお、本実施形態では、ろう溜まり凹部232が複数の貫通孔により構成されているため、複数の貫通孔の体積の総和は、絶縁回路基板1とヒートシンク20とを接合する際に生じた余剰な溶融ろうの体積よりも大きくする必要はない。
【0045】
このため、本実施形態では、絶縁回路基板10とヒートシンク20とを接合する際に生じた余剰な溶融ろうは、収容凹部22の底面及び周壁部23を伝って、ろう溜まり凹部232(複数の貫通孔)へと流入し、ろう溜まり凹部232内に溜まるか、若しくは、周壁部23の外周面側へと流れ出ることから、周壁部23の内側側面230における溶融ろうが這い上がる領域を小さくできる。
【0046】
その他、細部構成は実施形態の構成のものに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記各実施形態では、第2回路層122は、A6063系等のアルミニウム合金が用いられることとしたが、これに限らず、銅又は銅合金を用いてもよい。また、回路層12は、第1回路層121及び第2回路層122を備えることとしたが、これに限らず、純アルミニウム又はアルミニウム合金からなる1層構造であってもよい。
【0047】
また、上記実施形態では、金属層13を純アルミニウム又はアルミニウム合金からなる1層構造であることとしたが、回路層12のように第1金属層及び第2金属層を有する2層構造であってもよい。この場合、第1金属層及び第2金属層を第1回路層121及び第2回路層122と同じ組成としてもよいし、第1金属層を純アルミニウム又はアルミニウム合金により形成し、第2金属層を銅又は銅合金により形成してもよい。
【0048】
上記第3実施形態及び第4実施形態では、ろう溜まり凹部231B,232は、第1実施形態と同じ位置に形成されていることとしたが、これに限らず、ろう溜まり凹部231B,232の底面と収容凹部22の底面とを一致させるよう形成にしてもよい。
【0049】
上記実施形態では、ヒートシンク付き絶縁回路基板1,1A,1B,1Cを用いた電子機器としてパワーモジュール100を例示したが、これに限らず、ヒートシンク付き絶縁回路基板1,1A,1B,1Cは、例えば、LEDモジュール等、その他の電子機器にも適用できる。
【符号の説明】
【0050】
1 1A 1B 1C ヒートシンク付き絶縁回路基板
10 絶縁回路基板
11 セラミックス基板
12 回路層
121 第1回路層
122 第2回路層
13 金属層
14 アルミニウム系ろう材箔
14a 残存ろう
20 ヒートシンク
21 中央部
22 収容凹部
23 周壁部
230 内側側面
231 231A 231B ろう溜まり凹部
232 ろう溜まり凹部
24 上面
25 ピン状フィン
26 締結穴
30 電子部品
40 ケース
41 開口部
42 パッキン収容溝
43 ねじ穴
50 パッキン
60 樹脂材
100 パワーモジュール(電子機器)