(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】粘着剤および粘着シート
(51)【国際特許分類】
C09J 133/00 20060101AFI20230829BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20230829BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20230829BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20230829BHJP
【FI】
C09J133/00
C09J11/06
C09J11/08
C09J7/38
(21)【出願番号】P 2019226918
(22)【出願日】2019-12-17
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004506
【氏名又は名称】トーヨーケム株式会社
(72)【発明者】
【氏名】戸根 嘉孝
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特許第6108023(JP,B1)
【文献】特開平10-158618(JP,A)
【文献】特開平11-217548(JP,A)
【文献】特開2005-281338(JP,A)
【文献】特許第6607330(JP,B2)
【文献】国際公開第2008/139742(WO,A1)
【文献】特開2020-100767(JP,A)
【文献】特開平10-158623(JP,A)
【文献】特開平10-204401(JP,A)
【文献】特開2005-146151(JP,A)
【文献】特開2015-048394(JP,A)
【文献】特開2002-129122(JP,A)
【文献】国際公開第2019/087816(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0270490(US,A1)
【文献】特開2017-137471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 133/00
C09J 11/06
C09J 11/08
C09J 7/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル重合体(A)、金属キレート化合物(B)、および
塩素化ポリオレフィン(C
1)を含み、
前記アクリル重合体(A)を構成するモノマー混合物100重量%中、酸性基を有するモノマー(a1)を0.1質量%以上6質量%未満
、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が-40℃以下のモノマー(a2)を40質量%以上94.9質量%以下、およびホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が-20℃以上50℃以下のモノマー(a3)を5質量%以上30質量%以下含有し、
前記モノマー(a2)が、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が-60℃以下のモノマー(a2-1)を含み、
前記塩素化ポリオレフィン(C1)の塩素含有率が20~45質量%であり、
前記塩素化ポリオレフィン(C1)の含有量は、アクリル重合体(A)100質量部に対して、0.1~5質量部であることを特徴とする、粘着剤。
【請求項2】
前記アクリル重合体(A)を構成するモノマー混合物100重量%中、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が-20℃以上50℃以下のモノマー(a3)を11質量%以上30質量%以下含有することを特徴とする、請求項
1記載の粘着剤。
【請求項3】
さらに、酸化防止剤(D)を含有することを特徴とする、請求項1
または2記載の粘着剤。
【請求項4】
基材シートと、請求項1~
3いずれか1項記載の粘着剤の硬化物からなる粘着層とを備えた、粘着シート。
【請求項5】
前記粘着層は、JIS Z0237の方法で測定した、傾斜角30°でのボールタック値が6以上であることを特徴とする、請求項
4記載の粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤および粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来からアクリル系粘着剤は、粘着力、凝集力やタックといった粘着基本性能の制御が、モノマー組成や相溶する添加剤の調整により容易であるメリットがあり、一度貼りつけたら剥がすことの無い強粘着力が必要なものから貼付後一定期間後に剥がす必要がある再剥離用途まで多岐にわたる用途において用いられている。
近年、自動車分野や包装材を始めとしたラベル用、工業材用途においてポリオレフィン系材料の使用が増加しており、金属板のような高極性被着体だけでなく、低極性被着体への高い粘着性能が要求される傾向にある。
しかしながら、アクリル系粘着剤は低極性被着体に対して粘着力が低いという課題があった。
また、粘着剤は製造直後から硬化が進むが、初期の架橋性が低いと、塗工層または粘着層が、塗工層の加熱乾燥時の熱風、または、加熱乾燥後に得られる粘着シートの巻取り時および養生時に受ける機械的応力の影響を受け、粘着層に巻芯段差痕、ゆず肌、および巻癖等の表面外観不良が生じる恐れがある。
【0003】
このような問題に対して、例えば、特許文献1では、(メタ)アクリル酸エステルに塩素化ポリプロピレン、およびイソシアネート系架橋剤を添加した粘着剤組成物が開示されているが、高極性被着体および低極性被着体いずれに対しても粘着力は十分でなかった。さらに、イソシアネート系架橋剤を用いているために初期架橋性も不十分であった。
【0004】
特許文献2では、アクリル系共重合体、テルペンフェノール系樹脂及び/又は重合ロジンエステル含む粘着付与剤、イソシアネート系架橋剤を用いた粘着剤組成物が開示されているが、これらの粘着付与剤は軟化点が高く、イソシアネート硬化剤も高い凝集エネルギーを有するため、その結果粘着剤塗膜を高弾性化し、ボールタックの低下および、剥離時のジッピングが生じやすいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平02-155976号公報
【文献】特開2002-129122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、被着体の極性によらず、高極性被着体および低極性被着体のいずれに対しても高い粘着力を有し、かつ初期架橋性に優れ、高いタック性を発現し、剥離時のジッピングを抑制できる粘着層を形成することが可能な粘着剤、および粘着シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下に示す粘着剤により、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明の粘着剤は、アクリル重合体(A)、金属キレート化合物(B)、およびポリオレフィン(C)を含み、前記アクリル重合体(A)を構成するモノマー混合物100質量%中、酸性基を有するモノマー(a1)を0.01質量%以上6質量%未満含有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、被着体の極性によらず、高極性被着体および低極性被着体のいずれに対しても高い粘着力を有し、かつ初期架橋性に優れ、高いタック性を発現し、剥離時のジッピングを抑制できる粘着層を形成することが可能な粘着剤、および粘着シートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の詳細を説明する。なお、本明細書では、「(メタ)アクリル酸」、「(メタ)アクリレート」と表記した場合には、特に説明がない限り、それぞれ、「アクリル酸またはメタクリル酸」、「アクリレートまたはメタクリレート」を表すものとする。また、「(メタ)アクリル酸エステルモノマー」とは、「アクリル酸エステルモノマー」と「メタクリル酸エステルモノマー」の総称を指す。
尚、本明細書では、酸性基を有するモノマー(a1)、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が-40℃以下のモノマー(a2)、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が-20℃以上50℃以下のモノマー(a3)、およびその他モノマー(a4)を、それぞれモノマー(a1)、モノマー(a2)、モノマー(a3)、およびモノマー(a4)と略記することがある。
【0010】
本明細書において、「Mw」はゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)測定によって求めたポリスチレン換算の重量平均分子量である。「Mn」はGPC測定によって求めたポリスチレン換算の数平均分子量である。これらは、[実施例]の項に記載の方法にて測定することができる。
【0011】
≪粘着剤≫
本発明の粘着剤は、アクリル重合体(A)、金属キレート化合物(B)、およびポリオレフィン(C)を含み、前記アクリル重合体(A)を構成するモノマー混合物100質量%中、酸性基を有するモノマー(a1)を0.01質量%以上6質量%未満含有する。
このような粘着剤により、被着体の極性によらず、高極性被着体および低極性被着体のいずれに対しても高い粘着力を有し、かつ初期架橋性に優れ、高いタック性を発現し、剥離時のジッピングを抑制できる粘着層を形成することが可能となる。
【0012】
<アクリル重合体(A)>
アクリル重合体(A)は、(メタ)アクリル酸エステルモノマーを含むエチレン性不飽和結合を有するモノマー混合物の重合体であり、モノマー混合物100質量%中、酸性基を有するモノマー(a1)を0.01質量%以上6質量%未満含有する。
【0013】
エチレン性不飽和結合を有するモノマーは、酸性基を有するモノマー(a1)、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が-40℃以下のモノマー(a2)、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が-20℃以上50℃以下のモノマー(a3)、その他モノマー(a4)に分類される。
【0014】
アクリル重合体(A)は、モノマーとして、酸性基を有するモノマー(a1)に加えて、下記モノマー(a2)~(a3)を含むことが好ましく、さらに必要に応じてその他モノマーを含んでもよい。
【0015】
[モノマー(a1)]
モノマー(a1)は、酸性基を有するモノマーであり、後述する金属キレート化合物(B)が有する反応性官能基との架橋反応によりポリマーネットワークを形成し、アクリル重合体(A)の凝集力や耐熱性の向上ができる。
【0016】
モノマー(a1)としては、例えば(メタ)アクリル酸、2-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-コハク酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-フタル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸等の不飽和結合を有するカルボン酸等が挙げられ、凝集力や金属キレート化合物(B)との架橋性の点から、(メタ)アクリル酸、2-カルボキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
モノマー(a1)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
モノマー(a1)の含有率は、アクリル重合体(A)を構成する全モノマー混合物100質量%中、0.01質量%以上6質量%未満であれば特に限定されないが、0.01質量%以上5質量%以下の範囲であることが好ましく、0.1質量%以上4質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上3質量%以下であることが更に好ましい。
モノマー(a1)の含有率が、0.01質量%以上であることにより、金属キレート化合物(B)と十分な架橋を形成し保持力や初期架橋性を向上させることができ、モノマー(a1)の含有率が6質量%未満であることにより、タックの低下抑制や剥離時のジッピングを抑制できる。
【0018】
[モノマー(a2)]
モノマー(a2)は、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が-40℃以下のモノマーである。
【0019】
モノマー(a2)としては、例えば、n-ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプタンアクリレート、n-オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシルメタクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリルメタクリレート、2-メトキシエチルアクリレート、エチルカルビトールアクリレート、メトキシポリエチレングリコール#400アクリレート(新中村化学工業社製)等が挙げられる。
モノマー(a2)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
モノマー(a2)のなかでも、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が-60℃以下のエチレン性不飽和結合を有するモノマー(a2-1)がより好ましい。モノマー(a2-1)としては、例えば、n-オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリルメタクリレート、エチルカルビトールアクリレート、メトキシポリエチレングリコール#400アクリレート(新中村化学工業社製)等が挙げられる。
これらの中でも、特に、2-エチルヘキシルアクリレート、ラウリルメタクリレートが、粘着力とタックを両立し易く、塗膜の軟化に伴い剥離性をより良化し易い点からより好ましい。
【0021】
モノマー(a2)の含有率は、特に限定されないが、アクリル重合体(A)を構成するモノマー混合物100質量%中、20質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが更に好ましい。好ましくは94.9質量%以下であり、さらに好ましくは90質量%以下である。モノマー(a2)の含有率がこの範囲であると、高いタックを発現し、剥離時のジッピングをより効果的に抑制できる。
【0022】
[モノマー(a3)]
モノマー(a3))は、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が-20℃以上50℃以下のモノマーである。
【0023】
モノマー(a3)としては、例えば、メチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチルアクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、オクチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、イソステアリルアクリレート、ベンジルアクリレート、酢酸ビニル等が挙げられる。
モノマー(a3)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
モノマー(a3)のなかでも、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が0℃以上40℃以下のモノマー(a3-1)であることがより好ましい。
モノマー(a3-1)としては、メチルアクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、sec-ブチルメタクリレート、tert-ブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジルアクリレート、酢酸ビニル等が挙げられ。モノマー(a3-1)の中でも特に、tert-ブチルアクリレート、酢酸ビニルが高い凝集力を有し、高いタックを発現できる点から好ましい。
【0025】
モノマー(a3)の含有率は、特に限定されないが、アクリル重合体(A)を構成するモノマー混合物100質量%中、5質量%以上30質量%以下であることが好ましく、11質量%以上25質量%以下であることがより好ましく、13質量%以上20質量%以下であることが更に好ましい。モノマー(a3)の含有率が5質量%以上である場合、特に高極性被着体に対する粘着力や耐熱性を向上することができる。
【0026】
[モノマー(a4)]
モノマー(a4)は、モノマー(a1)、モノマー(a2)、およびモノマー(a3)以外のその他モノマーである。
その他モノマーは、官能基を有さないその他モノマーと、官能基を有するその他モノマーに分類される。
【0027】
官能基を有さないその他モノマーは、例えば、エチルアクリレート、イソブチルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、イソボルニルアクリレート、ジシクロペンタジエニルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、tert-ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、フェニルメタクリレート等が挙げられる。
官能基を有さないその他モノマーは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
官能基を有するその他モノマーは、水酸基を有するモノマー、アミノ基を有するモノマー、エポキシ基を有するモノマー、イソシアナト基を有するモノマー等が挙げられる。
官能基を有するその他モノマーは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、水酸基を有するモノマーは、酸性基を有するモノマー(a1)と金属キレート化合物(B)の架橋反応を促進し、初期架橋性の向上や短エージング化が可能になる点で好ましい。
【0029】
水酸基を有するモノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0030】
アミノ基を有するモノマーとしては、例えば、モノメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、モノエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、モノメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、モノエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等の、モノアルキルアミノエステル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0031】
エポキシ基を有するモノマーとしては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、6-メチル-3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0032】
イソシアナト基を有するモノマーとしては、例えば、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0033】
その他モノマーの含有率は、特には限定されないが、アクリル重合体(A)を構成するモノマー混合物100質量%中、0.01質量%以上10質量%以下の範囲であることが好ましく、0.1質量%以上5質量%であることがより好ましく、0.5質量%以上3質量%以下であることが更に好ましい。
【0034】
[アクリル重合体(A)の製造方法]
アクリル重合体(A)の製造方法としては、特に制限はなく、例えば公知のラジカル重合反応で、上記のエチレン性不飽和結合を有するモノマーを重合させて得ることができる。反応は無溶剤下でも構わないが、合成安定性およびハンドリングの観点から溶剤を使用することが好ましい。また、分子量制御の観点から、ラジカル重合開始剤(以下、「重合開始剤」と略記することがある)を使用することが好ましい。その他、連鎖移動剤等の公知の添加剤を用いてもよい。
【0035】
溶剤としては、後述する溶剤が使用できる。これらの溶剤は、特に制限されないが1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーベンゾエート、クメンヒドロパーオキシドやジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2-エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシネオデカノエート、tert-ブチルパーオキシビバレート、(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキシド、ジプロピオニルパーオキシド、ジアセチルパーオキシド等の有機過酸化物や、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチル-4-メトキシバレロニトリル)、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリック酸)、2,2’-アゾビス(2-ヒドロキシメチルプロピオニトリル)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]等のアゾ系化合物が挙げられる。これらの重合開始剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
連鎖移動剤としては、例えば、オクチルメルカプタン、ノニルメルカプタン、デシルメルカプタン、ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類、チオグリコール酸オクチル、チオグリコール酸ノニル、チオグリコール酸-2-エチルヘキシル等のチオグリコール酸エステル類、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン、1-メチル-4-イソプロピリデン-1-シクロヘキセン、α-ピネン、β-ピネン等が挙げられる。特に、チオグリコール酸エステル類、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン、1-メチル-4-イソプロピリデン-1-シクロヘキセン、α-ピネン、β-ピネン等が、得られる重合体が低臭気となる点で好ましい。
【0038】
アクリル重合体(A)の重量平均分子量Mwは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算値で、20万~200万であることが好ましく、30万~100万であることがより好ましく、40万~70万であることが更に好ましい。重量平均分子量が20万以上であると、十分な凝集力と耐熱性を得ることができる。重量平均分子量が200万以下であると、粘度の増加を抑制でき、良好な塗工適性を得ることができる。
【0039】
アクリル重合体(A)の重量平均分子量が低いと、粘着剤の不揮発分を高めることができるが、十分な凝集力を得られない傾向にある。本発明の粘着剤は、アクリル重合体(A)の重量平均分子量、アクリル重体(A)を構成するモノマー組成および配合比率、金属キレート化合物(B)、およびポリオレフィン(C)の種類および配合率を最適化することで、良好な粘着物性を有したまま高い不揮発分を有する粘着剤を作製することができる。
【0040】
アクリル重合体(A)の分子量分散度Mw/Mnは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算値で、2.0~12であることが好ましく、4~10であることがより好ましく、4.5~8が更に好ましく、5.2~7であることが最も好ましい。分子量分散度が上記範囲であることによって、被着体に対して十分な投錨性が得られ粘着力を向上させることができる。
【0041】
アクリル重合体(A)のガラス転移温度(Tg)は、特には限定されないが、-70~-25℃であることが好ましく、-65~-35℃であることが好ましく、-60~-45℃であることが更に好ましく、-55~-45℃であることが最も好ましい。ガラス転移温度が-70℃以上であると、十分な凝集力が得られ、粘着力および耐熱性を向上させることができる。ガラス転移温度が-25℃以下であると、タックの低下や剥離時のジッピングを抑制できる。
【0042】
なお、本発明においてアクリル重合体(A)のガラス転移温度(Tg)は、下記式(1)(Fox式)に基づいて計算された値である。
1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+・・・+Wn/Tgn (1)
[式(1)中、Tgはアクリル重合体(A)のTg(単位:K)、Tgi(i=1、2、・・・n)はラジカル重合性モノマーiがホモポリマーを形成した際のTg(単位:K)、Wi(i=1、2、・・・n)はラジカル重合性モノマーiの全モノマー成分中の質量分率を表す。なお、ホモポリマーのTgは文献値やカタログ値などの公表値を使用する。]
上記式(1)は、アクリル重合体(A)が、モノマー1、モノマー2、・・・、モノマーnのn種類のモノマー成分から構成される場合の計算式である。
【0043】
<硬化剤>
本発明の粘着剤は、硬化剤として、金属キレート化合物(B)を含有する。
金属キレート化合物(B)は、アクリル重合体(A)に含まれる酸性基を有するモノマー(a1)と疑似架橋点を形成することで、高い粘着力、耐熱性を発現するとともに、粘着剤塗膜を柔軟化し剥離時のジッピングを抑制することができる。さらに、後述するポリオレフィン(C)と併用することで、効果的に粘着剤塗膜界面を軟化し、より高い剥離時のジッピング抑制効果を得ることができる。
さらに、金属キレート化合物(B)は、酸性基を有するモノマー(a1)と高い反応性を有するため、他の硬化剤よりも初期架橋性を向上させることができる。
【0044】
[金属キレート化合物(B)]
金属キレート化合物(B)は、公知のものを使用でき、例えば、アルミニウム、鉄、銅、亜鉛、スズ、チタン、ニッケル、アンチモン、マグネシウム、バナジウム、クロム、ジルコニウム等の多価金属と、アセチルアセトン、アセト酢酸エチル等の配意子との配位化合物等が挙げられる。中でも、多価金属にアルミニウム、配位子にアセチルアセトン、及び/またはアセト酢酸エステルを組み合わせた化合物が好ましい。
【0045】
金属キレート化合物(B)は、例えば、アルミニウムイソプロピレート、モノsec-ブトキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムsec-ブチレート、アルミニウムエチレート等のアルミニウムアルコキシド、
エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムモノアセチルアセテートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)等のアルミニウムキレート、
チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラノルマルブトキシド、チタンブトキシダイマー、チタンテトラ-2-エチルヘキソキシド等のチタンアルコキシド、
チタンイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)、リン酸エステルチタン錯体、チタンオクチレングリコレート等のチタンキレート、
ジルコニウムテトラノルマルプロポキシド、ジルコニウムテトラノルマルブトキシド等のジルコニウムアルコキシド、
ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトネート、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)等のジルコニウムキレート、
ステアリン酸ジルコニウム等のジルコニウムアシレートが挙げられる。
金属キレート化合物(B)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、架橋性、粘着力、耐熱性、透明性の点から、アルミニウムを含有することが好ましく、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムモノアセチルアセテートビス(エチルアセトアセテート)、またはアルミニウムトリス(アセチルアセトネート)がより好ましい。
【0046】
金属キレート化合物(B)の含有量は、特に限定されないが、アクリル重合体(A)100質量部に対して、0.01質量部以上2質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以上1質量部以下であることがより好ましく、0.2質量部以上0.6質量部以下であることが更に好ましい。金属キレート化合物(B)の含有量が、0.01質量部以上であると、十分な凝集力および耐熱性が得られやすく、2質量部以下であると粘着力の低下をより抑制することができる。
【0047】
[その他硬化剤]
本発明の粘着剤は、さらに、金属キレート化合物(B)以外の、その他硬化剤を併用できる。その他硬化剤は、例えばイソシアネート硬化剤、エポキシ硬化剤またはアジリジン硬化剤等が挙げられる。
その他硬化剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの硬化剤を含むことで、粘着剤の凝集力が高まり耐熱性がより向上することができる。その他硬化剤として好ましくは、イソシアネート硬化剤、またはエポキシ硬化剤である。
【0048】
イソシアネート硬化剤は、例えば、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、およびポリメチレンポリフェニルイソシアネート等のジイソシアネートと、トリメチロールプロパン等のポリオール化合物とのアダクト体、ならびにそのビュレット体、ならびにそのイソシアヌレート体、ならびに上記ジイソシアネートと、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、アクリルポリオール、ポリブタジエンポリオール、およびポリイソプレンポリオール等の内のいずれかのポリオールとのアダクト体などの分子内に3個以上のイソシアネート基を有する化合物;またはこれらのアロファネート体等の分子内に2個のイソシアネート基を有する化合物等が挙げられる。これらの中でも、トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、キシリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、ヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体が粘着物性を容易に調整できるため好ましい。なお、イソシアネート基の個数は平均個数である。
【0049】
エポキシ硬化剤は、例えば、ビスフェノールA-エピクロロヒドリン型のエポキシ系樹脂、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、N,N,N',N'-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン、1、3-ビス(N、N’-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、およびN,N,N',N'-テトラグリシジルアミノフェニルメタン等が挙げられる。
【0050】
アジリジン硬化剤は、例えばN,N’-ジフェニルメタン-4,4'-ビス(1-アジリジンカルボキサイト)、N,N’-トルエン-2,4-ビス(1-アジリジンカルボキサイト)、ビスイソフタロイル-1-(2-メチルアジリジン)、トリ-1-アジリジニルホスフィンオキサイド、N,N’-ヘキサメチレン-1,6-ビス(1-アジリジンカルボキサイト)、2,2’-ビスヒドロキシメチルブタノール-トリス[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]、トリメチロールプロパントリ-β-アジリジニルプロピオネート、テトラメチロールメタントリ-β-アジリジニルプロピオネート、およびトリス-2,4,6-(1-アジリジニル)-1、3、5-トリアジン等が挙げられる。
【0051】
その他硬化剤の含有量は、特に限定されないが、アクリル重合体(A)100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることが更に好ましい。その他硬化剤は、酸性基を有するモノマー(a1)や水酸基含有モノマーと共有結合を形成し粘着剤塗膜を剛直化する傾向にあるため、金属キレート化合物(B)よりも少ない含有量であることが特に好ましい。
【0052】
<ポリオレフィン(C)>
ポリオレフィン(C)は、ポリプロピレンのような低極性被着体と高い親和性を有し、効果的に粘着力を向上させることができる。さらにポリオレフィン(C)は、アクリル重合体(A)との極性差から粘着剤塗膜界面に配向されやすく、剥離時のジッピングを抑制することができる。さらに、前述した金属キレート化合物(B)と併用することで、効果的に粘着剤塗膜界面を軟化し、より高い剥離時のジッピング抑制効果を得ることができる。
【0053】
ポリオレフィン(C)は、塩素化ポリオレフィン(C1)と、非塩素化ポリオレフィン(C2)に分類される。
塩素化ポリオレフィン(C1)としては、例えば、塩素化ポリプロピレン、酸変性塩素化ポリプロピレン、アクリル変性塩素化ポリプロピレン、塩素化ポリエチレン、塩素化エチレン酢酸ビニルコポリマー等が挙げられる。
塩素化ポリオレフィン(C1)は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、溶解性に優れ低極性被着体への粘着力向上効果が高いという点から塩素化ポリプロピレン、酸変性塩素化ポリプロピレン、アクリル変性塩素化ポリプロピレンが好ましく、塩素化ポリプロピレンがより好ましい。
【0054】
塩素化ポリオレフィンの塩素含有率は、20質量%以上45質量%以下が好ましく、30質量%以上40質量%以下がより好ましい。塩素含有率が20質量%以上であればアクリル重合体(A)との相溶性が高まり低極性被着体に対する十分な粘着力向上効果を得ることができる。塩素含有率が45質量%以下であれば、オレフィン含有率が高くなり、低極性被着体に対する十分な粘着力向上効果を得ることができる。
【0055】
非塩素化ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、αオレフィン-プロピレンコポリマー、エチレン-酢酸ビニルコポリマー、ポリブテン、マレイン化ポリブテン、ポリブタジエン及びその水素化物、ポリイソプレン及びその水素化物、マレイン化ポリブタジエン、マレイン化ポリイソプレン、ポリブタジエンポリオール及びその水素化物、ポリイソプレンポリオール及びその水素化物、プロセスオイルや流動パラフィン等の潤滑油等が挙げられる。これらの中でも、溶解性に優れ低極性被着体への粘着力が高いという点からαオレフィン-ポリプロピレンコポリマー、ポリブテン、潤滑油が好ましい。潤滑油としては、パラフィン系潤滑油、ナフテン系潤滑油等が好ましい。
【0056】
本発明の粘着剤で用いられるポリオレフィン(C)としては、塩素化ポリオレフィン(C1)が、ポリプロピレンのような低極性被着体に対して高い粘着力向上効果が得られ、剥離時のジッピング抑制効果も高い粘着剤とすることができるために、好ましい。
【0057】
ポリオレフィン(C)の重量平均分子量は、特に限定されないが、5000~15万が好ましく、1万~10万がより好ましく、2万~7万が更に好ましい。重量平均分子量が5000以上であれば凝集力が高まり高い粘着力向上効果を得ることができる。重量平均分子量が15万以下であればアクリル重合体(A)との相溶性が高まり低極性被着体に対する十分な粘着力向上効果を得ることができる。
【0058】
ポリオレフィン(C)の含有量は、アクリル重合体(A)100質量部に対して、0.01質量部以上10質量部未満が好ましく、0.1質量部以上5質量部以下がより好ましく、0.5質量部以上2質量部以下が更に好ましい。ポリオレフィン(C)の含有量が0.01質量部以上であれば、ポリオレフィンのような低極性被着体に対して十分な粘着力向上効果が得られ、10質量部未満であれば、過度な添加に伴う耐熱性や初期架橋性の低下を抑制することができるために好ましい。
【0059】
<溶剤>
本発明の粘着剤は、溶剤を含んでもよい。
溶剤は、粘着剤に含有していればよく、配合するタイミングは特に問わず、アクリル重合体(A)の製造時に使用してもよく、粘着剤の製造時に粘度を調整する希釈溶剤として使用してもよい。溶剤は、塗工の際のレベリング性、および乾燥性、ならびに環境、および人体への影響などの観点で選択できる。溶剤は、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、芳香族炭化水素、エステル、ケトン、アルコール等が好ましい。
【0060】
溶剤は、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、トルエン、キシレン、アニソール等の炭化水素系溶剤、メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノール等のアルコール溶剤が挙げられるが、粘着剤のポットライフの観点から、エステル系溶剤および/またはアルコール溶剤を含むことが好ましい。これらの溶剤は、特に制限されないが1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
溶剤の配合量は、アクリル重合体(A)100質量部に対して、10質量部以上含むことが好ましく、30質量部以上含むことがより好ましい。上限値としては特に制限はされないが、塗工性の観点から2000質量部以下であることが好ましい。
【0062】
<その他添加剤>
本発明の粘着剤は、さらに、粘着付与樹脂、可塑剤、酸化防止剤(D)、触媒、帯電防止剤(AS剤)、紫外線吸収剤、光安定剤、潤滑剤、腐食防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、加水分解防止剤、防黴剤、増粘剤、充填剤(タルク、炭酸カルシウム、および酸化チタン等)、シランカップリング剤、重合禁止剤、消泡剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、染料、ワックス、乳剤、磁性体、誘電特性調整剤等の公知の添加剤を必要に応じて配合することができる。
本発明の粘着剤は、粘着剤のポットライフを向上させる目的で、アセチルアセトン等の公知の触媒作用抑制剤を添加することが好ましい。
【0063】
[粘着付与樹脂]
本発明の粘着剤は、必要に応じて、1種以上の粘着付与樹脂を含むことができる。粘着付与樹脂は、溶液重合の際に使用する方法、アクリル重合体(A)に配合する方法等任意の方法で使用できる。粘着付与樹脂は、溶液重合の際に使用すると連鎖移動剤として作用しアクリル重合体(A)の分子量調整が容易になる。また、アクリル重合体(A)に配合すると粘着力をより向上できる。
【0064】
粘着付与樹脂の軟化点は、80℃~170℃が好ましく、90℃~160℃がより好ましく、100℃~150℃が更に好ましい。
粘着付与樹脂の軟化点が上記範囲であることで粘着力と耐熱性を高いレベルで両立し易くなる。なお、軟化点は、JIS SK5902に規定されている乾球法に従って測定した軟化温度である。
【0065】
粘着付与樹脂としては、以下の例には限定されないが、ロジン系樹脂、重合ロジン系樹脂、ロジンエステル系樹脂、重合ロジンエステル系樹脂、テルペン系樹脂、テルペンフェノール系樹脂、クマロン系樹脂、クマロンインデン系樹脂、スチレン系樹脂、キシレン系樹脂、フェノール系樹脂、石油系樹脂等が挙げられる。これらの中でもアクリル重合体(A)との相溶性が良く粘着性能がより向上できる点から、ロジン系樹脂、重合ロジン系樹脂、ロジンエステル系樹脂および重合ロジンエステル系樹脂が好ましく、ロジンエステル系樹脂および重合ロジンエステル系樹脂がより好ましい。
粘着付与樹脂は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
粘着付与樹脂の含有量としては、アクリル重合体(A)100質量部に対して、40質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、10質量部以下が更に好ましく、5質量部以下が最も好ましい。下限値としては、ボールタックおよび剥離性の点から0質量部が最も好ましいが、ボールタックおよび剥離性を損なわない範囲で、粘着力と凝集力を向上する目的で添加しても構わない。
【0067】
[可塑剤]
本発明の粘着剤は必要に応じて、1種以上の可塑剤を含むことができる。可塑剤を含むことにより、剥離時のジッピングをより抑制することができる。可塑剤としては特に制限されないが、有機酸エステル、リン酸エステル、またはエポキシ系可塑剤等が挙げられ、なかでもアクリル重合体(A)との相溶性等の観点から、有機酸エステルが好ましい。有機酸エステルは、例えば、一塩基酸もしくは多塩基酸とアルコールとのエステル、その他の酸とアルコールとのエステル、または一塩基酸もしくは多塩基酸とポリアルキレングリコールとのエステル等が挙げられる。
【0068】
一塩基酸または多塩基酸とアルコールとのエステルとしては、例えば、ラウリン酸イソステアリル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソセチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸イソステアリル、ステアリン酸イソセチル、オレイン酸オクチルドデシル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジベンジル、フタル酸ブチルベンジル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジイソステアリル、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジイソセチル、アセチルクエン酸トリブチル、トリメリット酸トリブチル、トリメリット酸トリオクチル、トリメリット酸トリヘキシル、トリメリット酸トリオレイル、およびトリメリット酸トリイソセチル等が挙げられる。
【0069】
その他の酸とアルコールとのエステルとしては、例えば、ミリストレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、イソパルミチン酸、およびイソステアリン酸等の不飽和脂肪酸または分岐酸と、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、およびソルビタン等のアルコールとのエステルが挙げられる。
【0070】
一塩基酸または多塩基酸とポリアルキレングリコールとのエステルとしては、例えば、ジヘキシル酸ポリエチレングリコール、ジ-2-エチルヘキシル酸ポリエチレングリコール、ジラウリル酸ポリエチレングリコール、ジオレイン酸ポリエチレングリコール、およびアジピン酸ジポリエチレングリコールメチルエーテル等が挙げられる。
【0071】
リン酸エステル系可塑剤としては、例えば、トリクレジルホスフェート(TCP)、トリフェニルホスフェート(TPP)、トリ-2-エチルヘキシルホスフェート(TOP)、トリキシレニルホスフェート(TXP)、トリエチルホスフェート(TEP)等が挙げられる。
【0072】
エポキシ系可塑剤としては、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化ステアリン酸オクチル、エポキシ化脂肪酸ブチル及びエポキシ化アマニ油脂肪酸ブチル等が挙げられる。
【0073】
可塑剤の分子量(式量またはMn)は、好ましくは250~1000、より好ましくは400~900、特に好ましくは500~850である。分子量が250以上であれば粘着層の耐熱性が良好となり、分子量が1000以下であれば十分なジッピング抑制効果が得られる。
【0074】
可塑剤の含有量としては、特には制限されないが、アクリル重合体(A)100質量部に対して、0.01質量部以上30質量部以下が好ましく、0.05質量部以上20質量部以下がより好ましく、0.1質量部以上10質量部以下が更に好ましく、0.3質量部以上5質量部以下が特に好ましい。可塑剤の含有量が0.01質量部以上であれば十分な剥離時のジッピング抑制効果が得られ、30質量部以下であれば、粘着力の低下を抑制できるために好ましい。
【0075】
[酸化防止剤(D)]
酸化防止剤(D)としては、ラジカル捕捉剤および過酸化物分解剤等が挙げられる。ラジカル捕捉剤としては、フェノール系化合物、またはアミン系化合物等が挙げられる。過酸化物分解剤としては、硫黄系化合物、またはリン系化合物等が挙げられる。
【0076】
フェノール系化合物としては、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、ステアリン-β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、3,9-ビス[1,1-ジメチル-2-[β-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、ベンゼンプロパン酸,3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシ-,C7-C9側鎖アルキルエステル、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス-[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ビス[3,3’-ビス-(4’-ヒドロキシ-3’-t-ブチルフェニル)ブチリックアシッド]グリコールエステル、1,3,5-トリス(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)-S-トリアジン-2,4,6-(1H,3H,5H)トリオン、およびトコフェロール等が挙げられる。
【0077】
硫黄系酸化防止剤としては、ジラウリル3,3’-チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3’-チオジプロピオネート、およびジステアリル3,3’-チオジプロピオネート等が挙げられる。
【0078】
リン系化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェニルジトリデシル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシルホスファイト)、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、ジイソデシルペンタエリスリトールジフォスファイト、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド、10-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド、10-デシロキシ-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト、および2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト等が挙げられる。
【0079】
酸化防止剤(D)を用いることで、アクリル重合体(A)の熱劣化を防ぐことができ耐熱性を向上できるために好ましい。
酸化防止剤(D)の配合量は特に制限されず、アクリル重合体(A)100質量部に対して、0.01質量部以上5質量部以下が好ましく、0.1質量部以上3質量部以下がより好ましく、0.2質量部以上2質量部以下が更に好ましい。
【0080】
酸化防止剤(D)としては、透明性と重合禁止効果の点から、ラジカル捕捉剤であるフェノール系化合物が好ましい。フェノール系化合物は、アクリル重合体(A)の合成時残留モノマー成分が継時で低分子量成分を生成し耐熱性を低下させるのを効果的に抑制することができる。
【0081】
<粘着剤の製造方法>
本発明の粘着剤の製造方法は、特に制限されない。
アクリル重合体(A)に対して、金属キレート化合物(B)、およびポリオレフィン(C)、および必要に応じて溶剤等の任意成分を添加混合することで、本発明の粘着剤を製造することができる。
【0082】
本発明の粘着剤は、不揮発分濃度が43質量%以上75質量%以下が好ましく、45質量%以上65質量%以下がより好ましく、47質量%以上60質量%以下が更に好ましい。粘着剤の不揮発分濃度を高く設定することで、相対的に溶剤の含有量を抑制できるため、塗工時の乾燥コスト抑制、ならびに環境および人体への負荷を抑制できる。
【0083】
粘着剤の粘度は、25℃における粘度が1500~20000mPa・sであることが好ましく、2000~10000mPa・sがより好ましく、2500~7000mPa・sが更に好ましい。粘着剤の粘度が上記範囲にあることによって塗工性が向上し、表面が平滑な粘着剤層が得やすくなる。なお、粘度は、25℃雰囲気下、BL型粘度計を使用して、#3ローター、回転数12rpmで回転開始1分後に測定した粘度である。
【0084】
≪粘着シート≫
本発明の粘着シートは、基材シートと、上記の本発明の粘着剤の硬化物からなる粘着層とを備える。粘着層は、基材シートの片面または両面に形成することができる。必要に応じて、粘着層の露出面は、剥離シートで被覆することができる。なお、剥離シートは、粘着シートを被着体に貼着する際に剥離される。
【0085】
粘着剤を塗工するに際し、前述した溶剤を用いて粘度を調整することもできるし、粘着剤を加熱して粘度を低下させることもできる。
【0086】
基材シートとしては特に制限されず、樹脂シート、紙、および金属箔等が挙げられる。基材シートは、これら基材シートの少なくとも一方の面に任意の1つ以上の層が積層された積層シートであってもよい。基材シートの粘着層を形成する側の面には、必要に応じて、コロナ放電処理およびアンカーコート剤塗布等の易接着処理が施されていてもよい。
【0087】
樹脂シートの構成樹脂としては特に制限されず、ポリエチレンテレフタレート(PET)等エステル系樹脂;ポリエチレン(PE)およびポリプロピレン(PP)等のオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル等のビニル系樹脂;ナイロン66等のアミド系樹脂;ウレタン系樹脂(発泡体を含む);これらの組合せ等が挙げられる。
ポリウレタンシートを除く樹脂シートの厚みは特に制限されず、好ましくは15~300μmである。ポリウレタンシート(発泡体を含む)の厚みは特に制限されず、好ましくは20~50000μmである。
【0088】
紙としては特に制限されず、普通紙、コート紙、およびアート紙等が挙げられる。
金属箔の構成金属としては特に制限されず、アルミニウム、銅、およびこれらの組合せ等が挙げられる。
【0089】
剥離シートとしては特に制限されず、樹脂シートまたは紙等の基材シートの表面に剥離剤塗布等の公知の剥離処理が施された公知の剥離シートを用いることができる。
【0090】
粘着シートは、公知の方法にて製造することができる。
はじめに、基材シートの表面に本発明の粘着剤を塗工して、本発明の粘着剤からなる塗工層を形成する。塗布方法は公知方法を適用でき、ロールコーター法、コンマコーター法、ダイコーター法、リバースコーター法、シルクスクリーン法、およびグラビアコーター法等が挙げられる。
【0091】
次に、塗工層を乾燥および硬化して、本発明の粘着剤の硬化物からなる粘着層を形成する。加熱乾燥温度は特に制限されず、60~150℃程度が好ましい。粘着層の厚み(乾燥後の厚み)は用途によって異なるが、好ましくは0.1~200μmである。
次に必要に応じて、公知方法により粘着層の露出面に剥離シートを貼着する。
以上のようにして、片面粘着シートを製造することができる。
上記操作を両面に行うことで、両面粘着シートを製造することができる。
【0092】
上記方法とは逆に、剥離シートの表面に本発明の粘着剤を塗工して、本発明の粘着剤からなる塗工層を形成し、次いで塗工層を乾燥および硬化して、本発明の粘着剤の硬化物からなる粘着層を形成し、粘着層の露出面に基材シートを積層してもよい。
【0093】
粘着シートの製造方法は好ましくは、基材シート上に粘着剤を塗工する塗工工程と、形成された塗工層を加熱乾燥処理して粘着剤の硬化物を含む粘着層を形成する加熱工程と、得られた粘着シートを巻芯に巻取って粘着シートロールの形態とする巻取工程と、粘着シートロールを養生する養生工程とを含む。
【0094】
粘着層は、JIS Z0237の方法で測定した、傾斜角30°でのボールタック値が6以上であることが好ましい。より好ましくは8以上である。更に好ましくは10以上である。
本発明の粘着層は、アクリル重合体(A)、金属キレート化合物(B)、およびポリオレフィン(C)を含有し、前記アクリル重合体(A)を構成するモノマー混合物100質量%中、酸性基を有するモノマー(a1)が0.01質量%以上6質量%未満である粘着剤により形成されることにより、ボールタック値が高く、更に、ジッピング現象を抑制することができるために好ましい。
【実施例】
【0095】
以下、合成例、本発明に係る実施例、および比較例について説明する。なお、以下の記載において、特に明記しない限り、「部」は質量部を意味し、「%」は質量%を意味し、「RH」は相対湿度を意味するものとする。
また、表中の配合量は、質量部であり、溶剤以外は、不揮発分換算値である。尚、表中の空欄は配合していないことを表す。
【0096】
[重量平均分子量(Mw)、分子量分散度(Mw/Mn)の測定]
重量平均分子量(Mw)および、分子量分散度(Mw/Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)法により測定した。測定条件は以下の通りとした。なお、Mn、Mw、Mw/Mnはいずれも、ポリスチレン換算値である。
<測定条件>
装置:島津製作所社製、LC-GPCシステム「Prominence」、
カラム:東ソー社製GMHXL 4本、東ソー社製HXL-H 1本を直列に連結、
検出器:示差屈折率検出器(RID-10A)、
溶媒:テトラヒドロフラン(THF)、
流速:1mL/分、
溶媒温度:40℃、
試料濃度:0.2%、
試料注入量:100μL。
【0097】
[不揮発分の測定]
試料溶液約1gを金属容器に秤量し、150℃オーブンにて20分間乾燥して、残分を秤量して残率計算をし、不揮発分(不揮発分濃度)とした。
【0098】
[粘度の測定]
試料溶液約180gをガラス容器に秤量し、25℃にてBL型粘度計により#3コーターを用いて12rpmにて回転1分後に測定した値である。
【0099】
[材料]
使用した材料は、以下の通りである。
<アクリル重合体(A)>
[モノマー(a1)]
AA:アクリル酸(Tg:106℃)
β-CEA:2-カルボキシエチルアクリレート(Tg:37℃)
【0100】
[モノマー(a2)]
BA:n-ブチルアクリレート(Tg:-55℃)
2EHA:2-エチルヘキシルアクリレート(Tg:-70℃)
OA:オクチルアクリレート(Tg:-65℃)
LMA:ラウリルメタクリレート(Tg:-65℃)
【0101】
[モノマー(a3)]
MA:メチルアクリレート(Tg:6℃)
VAc:酢酸ビニル(Tg:32℃)
2EHMA:2-エチルヘキシルメタクリレート(Tg:-10℃)
【0102】
[モノマー(a4)]
EA:エチルアクリレート(Tg:-24℃)
MMA:メチルメタクリレート(Tg:-105℃)
HEA:2-ヒドロキシエチルアクリレート(Tg:-14℃)
【0103】
<硬化剤>
[金属キレート化合物(B)]
(B-1):アルミキレートA、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、川研ファインケミカル社製
(B-2):アルミキレートD、アルミニウムモノアセチルアセテートビス(エチルアセトアセテート)、川研ファインケミカル社製
(B-3):TC-750、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)、マツモトファインケミカル社製
[その他硬化剤]
TDIアダクト:トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体
TETRAD-X:エポキシ系硬化剤、三菱ガス化学社製
【0104】
<ポリオレフィン(C)>
(C2-1):アウローレン200S:日本製紙社製、(塩素化率:0%)
(C1-1):スーパークロン814HS:日本製紙社製、(塩素化率:41%、重量平均分子量1.5万、Tg:約62℃)
(C1-2):スーパークロン360T:日本製紙社製、(塩素化率:36%、重量平均分子量9千、Tg:約35℃)
(C1-3):スーパークロン390S:日本製紙社製、(塩素化率:41%、重量平均分子量2.6万、Tg:約55℃)
(C1-4):スーパークロン2032S:日本製紙社製、(塩素化率:32%、重量平均分子量11.2万、Tg:約37℃)
【0105】
<その他添加剤>
[可塑剤]
アセチルクエン酸トリブチル:三菱化学社製、製品名:ATBC
アデカサイザーRS700:ADEKA社製
[酸化防止剤(D)]
(D-1):IRGANOX1010:BASF社製、フェノール系酸化防止剤
(D-2):IRGAFOS168:BASF社製、リン系酸化防止剤
[粘着付与樹脂]
スーパーエステル A-75:荒川化学社製、ロジンエステル、軟化点75℃
【0106】
<アクリル重合体(A)の製造>
(合成例1)
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下漏斗、窒素導入管を備えた反応容器(以下、単に「反応容器」と称することがある)に、モノマー(a1)~(a4)それぞれの30質量%分である、n-ブチルアクリレート24.6部、メチルアクリレート4.5部、アクリル酸0.6部、2-ヒドロキシエチルアクリレート0.3部、および、酢酸エチル10.69部、メチルエチルケトン(MEK)26部、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.015部を仕込んだ後、反応容器内の空気を窒素ガスで置換した。更に、滴下漏斗に、モノマー(a1)~(a4)それぞれの70質量%分である、n-ブチルアクリレート57.4部、メチルアクリレート10.5部、アクリル酸1.4部、2-ヒドロキシエチルアクリレート0.7部、酢酸エチル30部、AIBN0.035部を仕込んだ。次いで、反応容器内を窒素雰囲気下で撹拌しながら、80℃まで加熱し、反応を開始した後、滴下漏斗内容物を2時間かけて滴下しながら、窒素雰囲気下にて還流温度で8時間重合反応を行った。反応終了後、冷却し、アセチルアセトン0.8部、酢酸エチルを加えて希釈し、不揮発分52%、粘度5500のアクリル重合体(A-1)溶液を得た。
得られたアクリル重合体(A-1)の重量平均分子量は61万、分子量分散度は4.4、ガラス転移温度(Tg)は-42.2℃であった。
【0107】
(合成例2~18)
表1、表2の材料および配合比率に変更した以外は、合成例1と同様の方法でそれぞれアクリル重合体(A2)~(A16)、(Z1)~(Z2)を合成した。
【0108】
【0109】
【0110】
<粘着剤の製造>
(実施例1)
アクリル重合体(A-1)100部に対し、金属キレート化合物(B-1)0.4部、ポリオレフィン(C1-3)1.0部、酸化防止剤(D-1)0.5部、をそれぞれ不揮発分換算にて配合し、更に、溶剤として酢酸エチルを不揮発分が50%となるように加え、均一になるよう混合して溶剤型粘着剤を得た。
【0111】
<粘着シートの製造>
得られた溶剤型粘着剤を、厚さ38μmの剥離性シート(ポリエチレンテレフタレート製)以下「剥離性フィルム基材」という)の剥離処理面上に、乾燥後の厚みが25μmとなるように上記で得られた粘着剤を塗工し、熱風オーブンにて100℃、2分間乾燥して粘着剤層を作製した。乾燥後、厚さ50μmの基材(ポリエチレンテレフタレート製)にラミネートし、さらに23℃50%RHで7日間養生し、粘着シートを得た。
【0112】
(実施例2~35)
実施例1と同様の方法で、アクリル重合体(A)、金属キレート化合物(B)、硬化剤、ポリオレフィン(C)、可塑剤、酸化防止剤(D)、粘着付与樹脂の種類および配合量を表2-1~表2-2に示す通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法で、それぞれ粘着剤組成物と粘着シートを得た。
但し、実施例1、6~8、20、26および29は参考例である。
【0113】
(比較例1~4)
実施例1と同様の方法で、アクリル重合体(A)、アクリル重合体(Z)、金属キレート化合物(B)、硬化剤、ポリオレフィン(C)、可塑剤、酸化防止剤(D)、粘着付与樹脂を表3に示す通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法で、それぞれ粘着剤組成物と粘着シートを得た。
【0114】
[評価項目および評価方法]
粘着層の物性値、粘着剤および粘着シートの評価項目および評価方法は、以下の通りである。
【0115】
(ボールタック)
測定はJIS Z-0237に準じ、23℃-50%RH雰囲気下で傾斜式ボールタック試験装置を用いて測定を行った。23℃-50%RHの雰囲気下で1週間養生した後の粘着シートから幅35mm長さ300mmの試験片を切り出した。傾斜角度30°、助走路100mm、測定部(試験片の粘着面)100mmになるように25mm幅の試験片を、粘着面を上にして両面テープで固定した。直径1/32から32/32インチまでの32種類のベアリング玉を転がし、粘着面に留まったボールの最大No.を測定値とした。
ボールタック値は高いほど良好であり、それにより剥離性が優れたものとすることができる。
【0116】
(SUS粘着力)
23℃-50%RHの雰囲気下で1週間養生した後の粘着シートから幅25mm長さ100mmの試験片を切り出した。次いで、23℃-50%RHの雰囲気下で、試験片から剥離シートを剥離し、露出した粘着層をステンレス板(SUS304)の表面に貼着し、2kgロールを1往復して圧着した。その後、23℃-50%RHの雰囲気下に24時間放置した。次いで、JISZ0237に準拠し、引張試験機(テンシロン:オリエンテック社製)を用いて、剥離速度300mm/分、剥離角度180°の条件で粘着力(加熱前の粘着力)を測定した。評価基準は以下の通りである。
◎:16N/25mm以上、優良。
○:12N/25mm以上16N/25mm未満、良好。
△:8N/25mm以上12N/25mm未満、実用可。
×:8N/25mm未満、または、剥離面が全て凝集破壊である、実用不可。
【0117】
(PP粘着力)
23℃-50%RHの雰囲気下で1週間養生した後の粘着シートから幅25mm長さ100mmの試験片を切り出した。次いで、23℃-50%RHの雰囲気下で、試験片から剥離シートを剥離し、露出した粘着層をポリプロピレン板の表面に貼着し、2kgロールを1往復して圧着した。その後、23℃-50%RHの雰囲気下に24時間放置した。次いで、JISZ0237に準拠し、引張試験機(テンシロン:オリエンテック社製)を用いて、剥離速度300mm/分、剥離角度180°の条件で粘着力(加熱前の粘着力)を測定した。評価基準は以下の通りである。
◎:16N/25mm以上、優良。
○:12N/25mm以上16N/25mm未満、良好。
△:8N/25mm以上12N/25mm未満、実用可。
×:8N/25mm未満、または、剥離面が全て凝集破壊である、実用不可。
【0118】
(保持力)
23℃-50%RHの雰囲気下で1週間養生した後の粘着シートから幅25mm長さ150mmの試験片を切り出した。切り出した粘着シートから剥離性シートを剥がして露出した粘着剤層を、幅30mm、長さ150mmのSUS板の下端部幅25mm、長さ25mmの部分に貼着し、2kgロールで1往復させて圧着後、40℃雰囲気で粘着シートの下端部に1kgの荷重をかけ、7万秒放置することで保持力を測定した。評価は、粘着シートの貼付面上端部が元の位置から下にずれた長さを測定した。評価基準は以下の通りである。
◎:ずれた長さが0.5mm未満、優良
○:ずれた長さが0.5mm以上5mm未満、良好
△:ずれた長さが5mm以上25mm未満、実用可
×:ずれた長さが25mm以上で7万秒以内に落下、使用不可
【0119】
(初期架橋性)
23℃-50%RHの雰囲気下で3時間養生した後の粘着シートから幅25mm長さ150mmの試験片を切り出した。切り出した粘着シートから剥離性シートを剥がして露出した粘着剤層を、幅30mm、長さ150mmのSUS板の下端部幅25mm、長さ25mmの部分に貼着し、2kgロールで1往復させて圧着後、40℃雰囲気で粘着シートの下端部に1kgの荷重をかけ、7万秒放置することで保持力を測定した。評価は、粘着シートの貼付面上端部が元の位置から下にずれた長さを測定した。評価基準は以下の通りである。
◎:ずれた長さが5mm未満、優良
○:ずれた長さが5mm以上25mm未満、良好
△:4万秒以上7万秒以内に落下、実用可
×:4万秒以内に落下、使用不可
【0120】
(剥離性)
23℃-50%RHの雰囲気下で1週間養生した後の粘着シートから幅25mm長さ100mmの試験片を切り出した。次いで23℃-50%RHの環境下、粘着シートから剥離性シートを剥がして露出した粘着剤層を、二軸延伸ポリプロピレンフィルム(東洋紡社製、商品名:P-2161、厚さ20μm、表面コロナ放電処理;以下、OPPと略する)のコロナ放電未処理面に貼付し、2kgロールにより1往復させて測定試料を作製した。この測定試料を、23℃-50%RHの環境下で貼付から1分以内に、手による剥離を行い、剥離時のジッピング現象の有無を確認した。
さらに、剥離後の粘着シートを繰り返し、前記OPPフィルムに貼付し、2kgロールにより1往復させて測定試料を作製した。この測定試料を、23℃-50%RHの環境下で貼付から1分以内に、手による剥離を行った。本作業を繰り返し5回行った。評価は、下記基準に基づいて評価した。評価基準は以下の通りである。
◎:5回繰り返し剥離した際に、ジッピング現象が認められない、優良
○:5回繰り返し剥離した際に、1~2回のジッピング現象が認められたが、1回剥離した際にはジッピング現象は認められなかった、良好
△:1回剥離した際に、1~2回のジッピング現象が認められた、実用可
×:1回剥離した際に、複数回のジッピング現象が認められ、粘着シートにジッピングスジが残っている、または、OPPフィルムに糊残りが認められる、使用不可
【0121】
[評価結果]
評価結果を表3~6に示す。
【0122】
【0123】
【0124】
【0125】
【0126】
本発明のアクリル重合体(A)、金属キレート化合物(B)、およびポリオレフィン(C)を含み、前記アクリル重合体(A)を構成するモノマー混合物100質量%中、酸性基を有するモノマー(a1)を0.01質量%以上6質量%未満含有することを特徴とする、粘着剤はいずれも、高極性被着体であるポリプロピレンおよび低極性被着体であるステンレス板のいずれに対しても高い粘着力を有しており、被着体の極性によらず、優れた粘着力を有することが確認できた。さらに、高いタック性を発現し、剥離時のジッピングを抑制できる粘着シートを製造することができた。
【0127】
金属キレート化合物(B)を含有しない比較例1で得られた粘着シートは、初期架橋性および剥離性が不良であった。
【0128】
ポリオレフィン(C)を含有しない比較例2で得られた粘着シートは、PP粘着力、および剥離性が不良であった。
【0129】
酸性基を有するモノマー(a1)を含有しない、アクリル重合体(Z)を用いた比較例3で得られた粘着シートは、粘着力、保持力、初期架橋性、剥離性が不良であった。
【0130】
酸性基を有するモノマー(a1)を6質量%以上含有する、アクリル重合体(Z)を用いた比較例4で得られた粘着シートは、ボールタックおよび剥離性が不良であった。