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特許7338454ガラスダイレクトロービング及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】ガラスダイレクトロービング及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 37/12 20060101AFI20230829BHJP
   D06M 15/227 20060101ALI20230829BHJP
   D06M 101/00 20060101ALN20230829BHJP
【FI】
C03B37/12 Z
D06M15/227
D06M101:00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019233189
(22)【出願日】2019-12-24
(65)【公開番号】P2021100904
(43)【公開日】2021-07-08
【審査請求日】2022-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】國友 晃
【審査官】須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-040640(JP,A)
【文献】特開2003-212590(JP,A)
【文献】特開2007-112636(JP,A)
【文献】国際公開第2019/124033(WO,A1)
【文献】特開2018-150650(JP,A)
【文献】特開平05-254877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 37/00
C03C 25/00
D06M
D01
D02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本のガラスフィラメントと、前記ガラスフィラメントの表面に形成された被膜とを有するガラスストランドが、回転軸を中心として直接巻き取られてなるガラスダイレクトロービングであって、
前記ガラスダイレクトロービングが、第1の端面部と、前記第1の端面部に対向する第2の端面部と、前記第1の端面部及び前記第2の端面部とを接続する外周部を有し、
前記ガラスダイレクトロービングにおける整列本数が35.5以上、88以下であり、前記ガラスダイレクトロービングの高さが0.25m以上、0.325m以下であり、前記ガラスストランドの番手が300tex以上、3000tex以下であり、
前記ガラスダイレクトロービングにおける整列本数を前記ガラスダイレクトロービングの高さにより割った値をYとし、前記ガラスストランドの番手をXとしたときに、式1の関係が満たされるように前記ガラスストランドが巻かれてなる、ガラスダイレクトロービング。
-0.0656X+295.4≦Y≦-0.0656X+395.4…式1
【請求項2】
前記ガラスダイレクトロービングの高さ方向において、前記第1の端面部からの高さが前記ガラスダイレクトロービングの高さに対して35%以上、65%以下の領域を第1の領域とし、前記第1の端面部から0%以上、35%未満の領域を第2の領域とし、前記第1の端面部から65%超、100%以下の領域を第3の領域とした場合、
前記第2の領域における外径及び前記第3の領域における外径の平均値が、前記第1の領域における外径の平均値の90%以上、100%未満である、請求項1に記載のガラスダイレクトロービング。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のガラスダイレクトロービングの製造方法であって、
前記複数本のガラスフィラメントの表面に集束剤を塗布し、前記複数本のガラスフィラメントを集束することにより、集束体を形成する工程と、
前記回転軸が延びる方向に前記集束体を往復させることにより綾掛けを行いながら前記集束体を巻き取り、巻回体を作製する工程と、
前記集束剤を乾燥させ、前記ガラスフィラメントの表面に被膜を形成することにより、前記ガラスストランドを形成する工程と、
を備え、
前記式1の関係が満たされるように、前記巻回体を作製する工程において前記集束体を巻き取る、ガラスダイレクトロービングの製造方法。
【請求項4】
前記集束体の水分率が8%以下である、請求項3に記載のガラスダイレクトロービングの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスダイレクトロービング及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスダイレクトロービング(DR:Direct Roving)は、複数本のガラスフィラメントの集束体が直接巻き取られてなる巻回体として知られている。ガラスダイレクトロービングから引き出されたガラスストランドは、引抜成形法やフィラメントワインディング法等により、容易に樹脂との複合材を形成することができるので、樹脂の補強繊維として広く用いられている。
【0003】
ガラスダイレクトロービングとしては、例えば、溶融ガラスを紡糸装置より引き出し、引き出された数百~数千本のガラスフィラメントの表面に塗布装置を用いて集束剤を塗布し、ガラスフィラメントを集束させて集束体とした後に、回転するコレットに綾を掛けながら巻き取り、乾燥させ、被膜を形成することにより製造されることが知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-184059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガラスダイレクトロービングの綾掛けは、生産の安定性及び補強繊維としてのガラスダイレクトロービングの特性に大きな影響を与える。ここで、ガラスダイレクトロービングには、ガラスストランドの引っ張り強度等の他、補強繊維として用い易いこと、形状が崩れ難いこと、解舒に問題がないこと、ガラスストランドの樹脂への含浸性等が求められる。しかしながら、特許文献1のようなガラスダイレクトロービングにおいては、生産性を維持しつつ、補強繊維としてのガラスダイレクトロービングの特性を十分とすることは困難であった。
【0006】
本発明の目的は、生産性を維持しつつ補強繊維としての特性を高めることができる、ガラスダイレクトロービング及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るガラスダイレクトロービングは、複数本のガラスフィラメントと、ガラスフィラメントの表面に形成された被膜とを有するガラスストランドが、回転軸を中心として直接巻き取られてなるガラスダイレクトロービングであって、ガラスダイレクトロービングが、第1の端面部と、第1の端面部に対向する第2の端面部と、第1の端面部及び第2の端面部とを接続する外周部を有し、整列本数をガラスダイレクトロービングの高さにより割った値をYとし、ガラスストランドの番手をXとしたときに、式1の関係が満たされるようにガラスストランドが巻かれてなることを特徴とする。
-0.0656X+295.4≦Y≦-0.0656X+395.4…式1
【0008】
ガラスダイレクトロービングの高さ方向において、第1の端面部からの高さがガラスダイレクトロービングの高さに対して35%以上、65%以下の領域を第1の領域とし、第1の端面部から0%以上、35%未満の領域を第2の領域とし、第1の端面部から65%超、100%以下の領域を第3の領域とした場合、第2の領域における外径及び第3の領域における外径の平均値が、第1の領域における外径の平均値の90%以上、100%未満であることが好ましい。
【0009】
本発明に係るガラスダイレクトロービングの製造方法は、上記ガラスダイレクトロービングの製造方法であって、複数本のガラスフィラメントの表面に集束剤を塗布し、複数本のガラスフィラメントを集束することにより、集束体を形成する工程と、回転軸が延びる方向に集束体を往復させることにより綾掛けを行いながら集束体を巻き取り、巻回体を作製する工程と、集束剤を乾燥させ、ガラスフィラメントの表面に被膜を形成することにより、ガラスストランドを形成する工程と、を備え、式1の関係が満たされるように、巻回体を作製する工程において集束体を巻き取ることを特徴とする。
【0010】
集束体の水分率が8%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、補強繊維としての特性を高めることができる、ガラスダイレクトロービング及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1の実施形態に係るガラスダイレクトロービングを示す模式的斜視図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係るガラスダイレクトロービングの製造方法を説明するための模式図である。
図3】回帰数について説明するための模式的平面図である。
図4】ガラスストランドの番手Xと、ガラスダイレクトロービングにおける整列本数/高さYとの関係を示すグラフである。
図5】本発明の第2の実施形態に係るガラスダイレクトロービングを示す模式的正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0014】
(ガラスダイレクトロービング)
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係るガラスダイレクトロービングを示す模式的斜視図である。ガラスダイレクトロービング1は、ガラスストランド2が、回転軸Zを中心として直接巻き取られてなる。具体的には、ガラスダイレクトロービング1は、ガラスストランド2を備える。ガラスストランド2は、複数本のガラスフィラメントと、被膜とを有する。被膜は、複数本のガラスフィラメントの表面を覆っている。ガラスダイレクトロービング1は、ガラスストランド2が層状になるように重ねて巻き取られ、かつ綾掛けされた円筒形状の構造を有している。
【0015】
ガラスダイレクトロービング1は、第1の端面部1a及び第2の端面部1bを有する。回転軸Zが延びる方向を軸方向としたときに、第1の端面部1a及び第2の端面部1bは軸方向において対向し合っている。また、第1の端面部1aと第2の端面部1bとを接続する外周部3を有する。
【0016】
本明細書において、ガラスダイレクトロービング1の高さは、ガラスダイレクトロービング1の軸方向に沿う寸法である。ガラスダイレクトロービング1の高さは、例えば、100mm~1000mmの範囲とすることができる。ガラスダイレクトロービング1の内径は、例えば、140mm~250mmの範囲とすることができる。また、ガラスダイレクトロービング1の外径は、例えば、260mm~315mmの範囲とすることができる。
【0017】
図2は、第1の実施形態に係るガラスダイレクトロービングの製造方法を説明するための模式図である。図2に示すように、ガラスダイレクトロービング1の製造の際には、まず、複数本のガラスフィラメント12に、集束剤塗布機構13によって集束剤を塗布する。次に、複数本のガラスフィラメント12を集束シュー14等の集束装置によって集束させ、集束体15を形成する。次に、集束体15を、コレット16を用いて巻き取ることにより、巻回体17を作製する。次に、集束剤を乾燥させ、ガラスフィラメントの表面に被膜を形成することにより、図1に示すガラスストランド2を形成する。
【0018】
ここで、集束体15の巻き取りに際しては、トラバース18を用いて軸方向に集束体15を往復させることにより綾掛けを行いながら巻き取る。綾掛けにおいて用いられるパラメータとして、例えば、ワインド数や回帰数を挙げることができる。
【0019】
ワインド数は、コレット16の回転速度と、トラバース18により集束体15を軸方向に移動させる速度の比率により決定される。より具体的には、ワインド数は、集束体15が軸方向に片道進行している間に、コレット16が何回転したかを示す数値である。なお、片道進行とは、例えば、図1に示すガラスダイレクトロービング1の第1の端面部1aに相当する部分から第2の端面部1bに相当する部分まで、1回移動することをいう。本明細書においては、ガラスストランド2における位置についても、片道進行と記載することがある。回帰数について、図3を用いて説明する。
【0020】
図3は、回帰数について説明するための模式的平面図である。なお、図3中の複数の二点鎖線はいずれも、回転軸Zを中心する円状の仮想線である。各仮想線は、それぞれ、点A、点B、点C、点D及び点Eを通る。これらの仮想線は、集束体15が巻き付けられる毎に、回転軸Zから遠ざかっていることを示すための仮想線である。
【0021】
集束体15の巻き取りが、図3に示す点Aから開始されるとする。点Aは、図1に示した第1の端面部1aに相当する部分に位置する。集束体15が軸方向において0.5往復したときに、集束体15は点Bに位置する。集束体15が軸方向においてさらに0.5往復したときに、集束体15は点Cに位置する。集束体15が軸方向においてさらに一往復したときに、集束体は点Dに位置する。そして、3回目の往復のときに、集束体15は点Eに至る。点Bは、図1に示した第2の端面部1bに相当する部分に位置し、点C~Eは、第1の端面部1aに相当する部分に位置する。ここで、ガラスダイレクトロービング1を軸方向から見たときに、回転軸Zから、第1の端面部1aに位置する任意の位置を通り、外周部3までを最短距離で結ぶ線と、回転軸Zから、第1の端面部1a又は第2の端面部1bに位置する他の点を通り、外周部3までを最短距離で結ぶ線とがなす角度をθとする。点A及び回転軸Zを通り、外周部3まで延びる線Fと、点E及び回転軸Zを通り、外周部3まで延びる線Gとがなす角度θは0°である。点Aから巻き取りが開始されてから、角度θが0°となる点Eに回帰するまでの片道進行の回数は6回である。点Eのような、θが0°となる点を回帰点とする。
【0022】
上記回帰数とは、集束体15の巻き取りの開始点から、角度θが0°となる最初の回帰点に至るまでの、片道進行の回数をいう。なお、集束体15の巻取り開始が第1の端面部1aから開始されない場合は、最初に第1の端面部1aに達した時を集束体15の巻取りの開始点とする。図3に示す例の場合には、回帰数は6である。なお、回帰点は、第2の端面部1bに相当する部分に位置することもある。この場合、回帰数は奇数となる。
【0023】
ここで、ガラスストランド2は集束体15に塗布された集束剤が乾燥されることにより形成されるため、巻回体17における集束体15と、ガラスダイレクトロービング1におけるガラスストランド2との位置関係は同様である。さらに、集束体15の巻き取りは、一定の条件下において行われる。そのため、ガラスダイレクトロービング1の第1の端面部1aに位置する、ガラスストランド2の任意の点を第1の点としたときに、第1の点から、角度θが0°の点に回帰するまでの片道進行の回数も、回帰数と同じ回数である。より具体的には、第1の端面部1a又は第2の端面部1bに位置する点を第2の点とし、第2の点が上記回帰点であるとする。すなわち、軸方向から見たときに、第1の点及び回転軸Zを結ぶ線と、回転軸Zから第2の点を通って外周部3まで最短距離で結ぶ線とがなす角度θが0°であるとする。図3に示す例の場合、製造されたガラスダイレクトロービング1における、第1の点から最初の第2の点に至るまでの片道進行の回数は、回帰数と同じ6回である。
【0024】
整列本数について、図3を用いて説明する。整列本数とは、集束体15の巻き取りの開始点から、角度θが0°となる最初の回帰点に至るまでに、ガラスストランド2が回転軸Zの周りを回転した回数を表す。なお、集束体15の巻取り開始が第1の端面部1aから開始されない場合は、最初に第1の端面部1aに達したときを集束体15の巻取りの開始点とする。なお、1回転は、ガラスストランド2が回転軸Zの周りを360°回転したことを表す。ワインド数は、整列本数/回帰数により表すことができる。例えば、整列本数が78.5、回帰数が19である場合、ワインド数は、78.5/19=4.131となる。
【0025】
本実施形態の特徴は、整列本数をガラスダイレクトロービング1の高さにより割った値である、整列本数/高さをYとし、ガラスストランド2の番手をXとしたときに、式1の関係が満たされることにある。
【0026】
-0.0656X+295.4≦Y≦-0.0656X+395.4…式1
【0027】
それによって、ガラスダイレクトロービング1において、ガラスストランド2の番手に応じた好適なワインド数とすることができ、補強繊維としての特性を高めることができる。この詳細を以下において説明する。なお、番手X及び整列本数/高さYを単にX及びY記載することがある。
【0028】
上述したように、巻回体17の紡糸時には、複数本のガラスフィラメント12に集束剤が塗布される。集束剤には水分が含まれている。塗布した集束剤を加熱乾燥することによって、水分を蒸発させ、被膜を形成することにより、巻回体17からガラスダイレクトロービング1とする。このとき、ガラスダイレクトロービング1のガラスストランド2間の隙間が小さすぎると、ガラスダイレクトロービング1の密閉性が過度に高くなる。そのため、ガラスダイレクトロービング1に加わる水蒸気の圧力が過度に高くなることにより、ガラスダイレクトロービング1が破裂するおそれがある。
【0029】
さらに、ガラスストランド2間の隙間が小さすぎるような巻き取りがなされる場合、ガラスストランド2が押し込まれるように巻き付けられていることとなる。この場合には、ガラスストランド2において、幅方向外側から内側に加わる力及び軸方向外側に向かって加わる力が大きくなる。そのため、ガラスダイレクトロービング1の第1の端面部1a又は第2の端面部1bに相当する部分の突出が生じ易くなり、形状が崩れ易い。
【0030】
一方で、ガラスダイレクトロービング1のガラスストランド2間の隙間が大きすぎると、ガラスストランド2の巻密度が小さくなる。そのため、ガラスダイレクトロービング1が柔らかくなる。このような場合には、複数のガラスダイレクトロービング1を積層して輸送する際等において、ガラスダイレクトロービング1に変形が生じ易くなる。さらに、ガラスストランド2間の隙間が大きい場合、ガラスストランド2及び隙間により形成される凹凸における、凹部の幅が広くなる。そのため、上記凹凸がある面にガラスストランド2が連続的に巻き付けられている場合には、ガラスストランド2自体にも凹凸が形成され易い。この凹凸は、ガラスストランド2の不均一性の原因となる。このようなガラスストランド2の不均一性によって、ガラスストランド2の開繊が不十分となったり、集束剤の含浸の均一性が低下したり、ガラスストランド2の解舒テンションが不均一となる等の問題が生じる。これらの問題が生じることにより、補強繊維としての特性が不十分となるおそれがある。
【0031】
これに対して、本実施形態においては、式1の関係が満たされている。
【0032】
-0.0656X+295.4≦Y≦-0.0656X+395.4…式1
【0033】
式1を満たすことにより、ガラスストランド2の番手Xに応じた、好適なガラスストランド2の間隔とすることができる。それによって、ガラスダイレクトロービング1におけるガラスストランド2の巻密度を番手に応じて高めることができ、形状が崩れ難い。さらに、ガラスストランド2間の隙間を番手に応じて小さくすることができ、ガラスストランド2に凹凸が生じ難い。よって、ガラスストランド2の開繊における問題は生じ難く、集束剤の含浸の均一性が低下し難く、かつ解舒テンションの均一性も低下し難い。従って、本実施形態においては、補強繊維としてのガラスダイレクトロービング1の特性を高めることができる。しかも、式1を満たすことにより、ガラスダイレクトロービング1における密閉性を好適に低くすることができるため、水分の蒸発によるガラスダイレクトロービング1の破裂も生じ難い。
【0034】
以下において、上記式1の詳細を説明する。
【0035】
式1の導出に際し、ガラスストランドの番手、ワインド数、整列本数、回帰数及びガラスダイレクトロービングの高さをそれぞれ異ならせて、実施例1~9のガラスダイレクトロービングを作製した。他方、比較例1及び2のガラスダイレクトロービングも作製した。実施例1~9並びに比較例1及び2における各条件は、表1に示す通りである。
【0036】
【表1】
【0037】
実施例1~9においては、いずれも補強繊維としてのガラスダイレクトロービングの特性は良好であった。他方、比較例1においては、Xに対するYが大きすぎ、ガラスストランド間の隙間が小さすぎたため、第1の端面部又は第2の端面部からの突出が生じ、形状の崩れが生じた。比較例2においては、Xに対するYが比較的小さく、ガラスストランド間の隙間が大きかったため、ガラスダイレクトロービングが柔らかく、形状が崩れ易かった。さらに、ガラスストランドの解舒テンションが不均一となっていた。
【0038】
図4は、ガラスストランドの番手Xと、ガラスダイレクトロービングにおける整列本数/高さYとの関係を示すグラフである。なお、比較例1は、図4に示す範囲よりもYの値が大きいため、図4には示されていない。
【0039】
図4中の実線は、実施例1~9における番手X及び整列本数/高さYから、最小自乗法によって導出した式の関係を示す。なお、該式は、Y=-0.0656X+345.4である。ここで、実施例1~9、比較例1又は比較例2と上記式とにおいての、同じXにおけるYの差をΔYとする。実施例1~9、比較例1及び比較例2におけるそれぞれのΔYを表1に示す。実施例1~9におけるΔYのうち、実施例3におけるΔYの絶対値が最も大きい。具体的には、実施例3においてはΔYは-47であり、絶対値が50に近い値である。よって、上記式における各Xにおいて、Y±50以内の範囲においても、実施例1~9と同等の特性を得られるといえる。なお、上記式におけるYに50を加算した場合及びYから50を減算した場合のX及びYの関係を、図4中の破線により示す。具体的には、各破線で示すX及びYの関係は、それぞれ、Y=-0.0656X+345.4及びY=-0.0656X+245.4により表すことができる。従って、式1の関係を満たすことにより、補強繊維としてのガラスダイレクトロービングの特性を高めることができる。
【0040】
-0.0656X+295.4≦Y≦-0.0656X+395.4…式1
【0041】
(製造方法)
以下において、第1の実施形態に係るガラスダイレクトロービング1の製造方法をより詳細に説明する。なお、以下に示す製造方法は一例であって、ガラスダイレクトロービング1の製造方法はこれに限定されるものではない。
【0042】
まず、図2に示すように、複数本のガラスフィラメント12を形成する。より具体的には、ガラス溶融炉内に投入されたガラス原料を溶融して溶融ガラスとする。この溶融ガラスを均質な状態とした後に、ブッシングに付設された耐熱性を有するノズルから溶融ガラスを引き出す。その後、引き出された溶融ガラスを冷却して複数本のガラスフィラメント(モノフィラメント)12を形成する。なお、ブッシングとしては、例えば、白金製のブッシングを用いることができる。
【0043】
ガラスフィラメント12の組成は、特に限定されず、例えば、Eガラス、Sガラス、Dガラス、ARガラス等が用いられる。これらのなかでも、Eガラスは、安価であり、かつ樹脂と複合化した際に複合材の機械的強度をより一層高めることができるため好ましい。また、Sガラスは、複合材の機械的強度をさらに一層高めることができるため好ましい。
【0044】
ガラスフィラメント12の本数は、特に限定されないが、好ましくは800本以上であり、好ましくは10000本以下であり、より好ましくは6000本以下であり、さらに好ましくは4000本以下である。ガラスフィラメント12の本数が、上記下限値以上である場合、樹脂と複合化した際に複合材の機械的強度をより一層高めることができる。また、ガラスフィラメント12の本数が、上記上限値以下である場合、各ガラスフィラメント12の長さをより一層揃い易くすることができる。
【0045】
ガラスフィラメント12の繊維径は、好ましくは6μm以上であり、好ましくは24μm以下であり、より好ましくは20μm以下であり、さらに好ましくは17μm以下である。ガラスフィラメント12の繊維径が、上記範囲内にある場合、樹脂と複合化した際の複合材の機械的強度をより一層高めることができる。なお、ガラスフィラメント12の繊維径は、例えば、溶融ガラスの粘度や、巻き取りの際の巻き取り速度等を変更することにより調整することができる。なお、ガラスストランド2の番手は、ガラスフィラメント12の繊維径、ガラスフィラメント12の本数、ガラスフィラメント12の組成により調整可能である。
【0046】
次に、得られた複数本のガラスフィラメント12の表面に、集束剤を塗布する。集束剤が均等に塗布された状態で、複数本のガラスフィラメント12を、数百から数千本引き揃え、集束する。複数本のガラスフィラメント12は、例えば、集束シュー14により引き揃え、集束することができる。これにより、集束体15を形成する。
【0047】
集束剤は、例えば、ポリプロピレン樹脂、ナイロン樹脂、ポリ酢酸ビニル及びポリフェニレンスルフィド樹脂の群から選択された1種以上の熱可塑性樹脂、又は、ポリエステル(不飽和ポリエステル)樹脂、エポキシ樹脂及びポリウレタン樹脂の群から選択された1種以上の熱硬化性樹脂を含有していてもよい。集束剤には、潤滑剤、ノニオン系の界面活性剤及び帯電防止剤等の各成分を添加することも可能であり、これらの成分の配合比については、必要に応じて適宜設定すればよい。
【0048】
次に、トラバース18により集束体15を軸方向に往復させることにより綾掛けを行いながら、例えばコレット16を用いて巻き取り、巻回体17を作製する。集束体15の巻き取りに際し、例えば、直径140mm~250mmのコレット16を用いることができる。コレット16の直径は、好ましくは230mm以下、より好ましくは200mm以下である。
【0049】
また、巻回体17における集束体15の巻き厚みは、好ましくは50mm以上、好ましくは85mm以下である。巻回体17における集束体15の巻き厚みが上記範囲内にある場合、集束体15の巻き始め部分から巻き終わり部分までより一層均一に加熱乾燥することができる。
【0050】
次に、集束剤を加熱乾燥させ、水分を蒸発させることにより、ガラスフィラメント12の表面に被膜を形成する。加熱乾燥の方法としては、例えば、熱風乾燥又は誘電乾燥を用いることができる。加熱乾燥は、例えば、100℃~150℃の温度範囲において、1~24時間行う。これにより、本発明のガラスダイレクトロービング1を得ることができる。
【0051】
巻回体17における径方向外側に位置する集束剤は、径方向内側に位置する集束剤よりも乾燥し易いため、径方向における外側及び内側において乾燥状態に差異が生じる場合もある。乾燥状態が進んでいる部分では、集束剤の成分は濃縮された状態となり、乾燥状態が比較的進んでいない部分においては、集束剤の成分は相対的に薄い状態となる。このような場合、集束剤の成分が、該成分の濃度が濃い部分から薄い部分に移動するという、マイグレーションが生じるおそれがある。
【0052】
これに対して、巻回体17における集束体15の水分率は9%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましく、7%以下であることがさらに好ましい。これらの場合においては、巻回体17の径方向における外側及び内側において、集束剤の乾燥状態に差異が生じ難いため、マイグレーションを効果的に抑制することができる。加えて、水分が蒸発した際、ガラスダイレクトロービング1に加わる水蒸気の圧力を小さくすることができ、ガラスダイレクトロービング1の破裂を効果的に抑制することができる。なお、本明細書における水分率は、JIS R 3420:2013に基づく。
【0053】
なお、巻回体17における集束剤を加熱乾燥する際、熱風乾燥を用いることが好ましい。この場合、集束体15の巻き始め部分から巻き終わり部分までより一層均一に加熱乾燥することができる。熱風乾燥であれば、集束剤を一定範囲の温度で保持することがより容易かつ確実であるので好ましい。なお、熱風乾燥以外にも、誘電乾燥であってもよい。
【0054】
上記のようにして製造されたガラスダイレクトロービングは、巻回形状に巻き取られ、その形状でストックし、必要に応じて使用することができる。巻回形状に巻き取られたガラスダイレクトロービングは、防塵や汚れの防止や、繊維表面の保護等の目的のため、有機フィルム材、例えばシュリンク包装やストレッチフィルム等、用途に応じた包装を施して保管することができる。複数段に積層した状態で保管してもよい。
【0055】
(ガラスダイレクトロービング)
(第2の実施形態)
図5は、第2の実施形態に係るガラスダイレクトロービングを示す模式的正面図である。ガラスダイレクトロービング21は、第1の領域22、第2の領域23及び第3の領域24を有する。軸方向において、第1の領域22は、第2の領域23及び第3の領域24により挟まれるように配置されている。第1の領域22は、ガラスダイレクトロービング21の高さ方向において、第1の端面部1aからの高さがガラスダイレクトロービング21の高さに対して、35%以上、65%以下の位置である。第2の領域23は、ガラスダイレクトロービング21の高さに対して、第1の端面部1aから0%以上、35%未満の位置である。第3の領域24は、ガラスダイレクトロービング21の高さに対して、第1の端面部1aから65%超、100%以下の位置である。
【0056】
本実施形態においては、第2の領域23における外径及び第3の領域24における外径の平均値が、第1の領域22における外径の平均90%以上、100%未満である。より具体的には、第2の領域23においては、第1の領域22側から第1の端面部1a側にかけて、外径が徐々に小さくなっている。同様に、第3の領域24においては、第1の領域22側から第2の端面部1b側にかけて、外径が徐々に小さくなっている。このように、第1の端面部1a側及び第2の端面部1b側において外径が小さいため、ガラスストランド2に軸方向外側に向かう力が加わった場合においても、形状の崩れが生じ難い。
【0057】
さらに、ガラスダイレクトロービング21においては、軸方向に対するガラスストランド2の傾斜角度が、第2の領域23及び第3の領域24と、第1の領域22とにおいて異なっている。ここで、第1の領域22における軸方向に対するガラスストランド2の傾斜角度の平均をα、第2の領域23における軸方向に対するガラスストランド2の傾斜角度の平均をβ、第3の領域24における軸方向に対するガラスストランド2の傾斜角度の平均をγとする。本実施形態においては、式2を満たす。
【0058】
α>(β+γ)/2…式2
【0059】
式2を満たす場合、第1の端面部1a側に位置する第2の領域23における傾斜角度の平均β及び第2の端面部1b側に位置する第3の領域24における傾斜角度の平均γのうちの少なくとも一方は、第1の領域22における傾斜角度の平均αよりも小さい。具体的には、第1の端面部1a側及び第2の端面部1b側のうちの少なくとも一方において、ガラスストランド2が延びる方向が軸方向に近い。それによって、軸方向外側に向かう力が加わった場合において、変形に対する抵抗を大きくすることができる。従って、形状の崩れを効果的に抑制することができる。なお、傾斜角度の平均β及び傾斜角度の平均γの双方が傾斜角度の平均αより小さいことが好ましい。それによって、形状の崩れがより一層生じ難い。
【0060】
ガラスダイレクトロービング21の製造に際しては、例えば、巻回体を作製する工程において、集束体の軸方向の移動速度を位置によって異ならせればよい。具体的には、第2の領域23及び第3の領域24のうちの少なくとも一方に相当する部分における集束体の軸方向の移動速度を、第1の領域22に相当する部分における移動速度より高くすればよい。
【符号の説明】
【0061】
1…ガラスダイレクトロービング
1a…第1の端面部
1b…第2の端面部
2…ガラスストランド
3…外周部
12…ガラスフィラメント
13…集束剤塗布機構
14…集束シュー
15…集束体
16…コレット
17…巻回体
18…トラバース
21…ガラスダイレクトロービング
22…第1の領域
23…第2の領域
24…第3の領域
図1
図2
図3
図4
図5