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特許7338470熱可塑性ポリエステル樹脂組成物およびその成形品
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  • 特許-熱可塑性ポリエステル樹脂組成物およびその成形品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】熱可塑性ポリエステル樹脂組成物およびその成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20230829BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20230829BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20230829BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20230829BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20230829BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
C08L67/02
C08L23/08
C08L63/00 Z
C08L83/04
C08K7/02
B29C45/14
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019546947
(86)(22)【出願日】2019-08-07
(86)【国際出願番号】 JP2019031049
(87)【国際公開番号】W WO2020032083
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2022-07-07
(31)【優先権主張番号】P 2018150083
(32)【優先日】2018-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山川 隆行
(72)【発明者】
【氏名】前田 恭雄
(72)【発明者】
【氏名】鍋谷 光太
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/072216(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/135055(WO,A1)
【文献】特開2014-196484(JP,A)
【文献】特開2002-356611(JP,A)
【文献】国際公開第00/078867(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/047662(WO,A1)
【文献】特開2015-129073(JP,A)
【文献】特開2006-152122(JP,A)
【文献】特開2013-155279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/16
B29C 45/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、(B)エラストマを1~40重量部、(C)繊維状強化材を15~100重量部、(D)シリコーン化合物を0.4~5重量部、および(E)エポキシ当量が200~400g/eqであるエポキシ化合物を0.1~10重量部配合してなる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物であって、前記(B)エラストマが、エチレンとα,β-不飽和カルボン酸アルキルエステルを共重合させてなるエチレン系共重合体であり、前記(D)シリコーン化合物が、粘度が100mm /s以上1,000mm /s以下のジメチルシリコーンである、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
前記(E)エポキシ化合物が、ノボラック型エポキシ化合物である請求項1に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
熱可塑性ポリエステル樹脂組成物のカルボキシル基濃度が0~16eq/tである請求項1または2に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
前記(C)繊維状強化材が、ガラス繊維またはワラステナイトである請求項1~のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を成形してなる成形品。
【請求項6】
ウェルド部およびネジ部から選択される少なくとも一つを有する、請求項に記載の成形品。
【請求項7】
請求項またはに記載の成形品と、インサート部材および圧入部材から選択される少なくとも一つの部材とからなる複合成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐アルカリ性、耐加水分解性、及び耐冷熱衝撃性に優れた熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリエステル樹脂は、優れた耐熱性、成形性、耐薬品性及び電気絶縁性などを有していることから、射出成形用を中心として各種自動車部品、電気部品、機械部品及び建設部品などの用途に使用されている。このような用途では、例えば、トイレ用洗浄剤、漂白剤、浴槽用洗浄剤、融雪剤、カーシャンプー等が頻繁にかかる場合がある。これらの薬剤は、その成分として、水酸化ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウム、過炭酸ナトリウム、塩化カルシウム等を含むため、樹脂成形品はアルカリ環境下に曝されることになる。
【0003】
樹脂成形品に、ネジ締め、金属圧入、金属インサート等により過大な歪みがかかった状態で、上記のようなアルカリ環境下に長時間曝されると、歪みとアルカリ成分の双方の影響で、いわゆる環境応力割れを起こし、成形品の強度低下、及びクラックが発生するため問題となっている。また、最近では各種成形品の軽量化・小型化に対する要求が高まっているため、耐アルカリ性へのスペックは高いレベルが要求されるようになってきている。
【0004】
過去から、耐アルカリ性を改善した熱可塑性ポリエステル樹脂組成物が検討されている。特許文献1には、(A)ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体を含むポリブチレンテレフタレート系樹脂30~95重量部、(B)ポリカーボネート樹脂1~30重量部、(C)エラストマ1~30重量部、(D)繊維状強化材3~60重量部、及び(E)シリコーン化合物0.1~5重量部を含むポリエステル系樹脂組成物が耐アルカリ性に優れることが開示されている。
【0005】
特許文献2には、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂、(B)耐衝撃性付与剤1~25重量%、(C)シリコーン系化合物及び/又はフッ素系化合物0.1~15重量%、(D)無機充填材1~50重量%、および(E)エポキシ化合物、イソシアネート化合物、およびカルボン酸二無水物などの多官能性化合物0.1~10重量%を含む熱可塑性ポリエステル樹脂組成物が、耐アルカリ性に優れていることが開示されている。
【0006】
特許文献3には、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、(B)ポリアミド樹脂10~80質量部、(C)コア/シェル型エラストマなど特定構造のエラストマ1~10質量部、(D)エポキシ化合物1~15質量部、(E)強化充填材30~100質量部、及び(F)離型剤0.1~3質量部を含む熱可塑性ポリエステル樹脂が、耐アルカリ性に優れていることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2002-356611号公報
【文献】国際公開第2000/078867号
【文献】特開2016-056355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に開示された樹脂組成物では、アルカリ環境下でのウェルド部のクラック割れはある程度改善されるものの、耐アルカリ性は不十分であった。また、熱可塑性ポリエステル樹脂は、加水分解により劣化しやすいため、機械機構部品、電気・電子部品および自動車部品などの工業用材料として使用するためには、長期における耐加水分解性を有することも求められるが、特許文献1に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、耐加水分解性が不十分であった。
【0009】
また、特許文献2に開示された熱可塑性ポリエステル樹脂では、耐アルカリ性が不十分であった。
【0010】
さらに、特許文献3に開示された樹脂組成物は、ポリアミド樹脂の吸水により寸法変化が大きくなり、電気絶縁性が低下するという課題があった。また、特許文献3の実施例において具体的に開示されている樹脂組成物は、エポキシ化合物の配合量が多く、滞留安定性が低下している恐れがある。
【0011】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決することを目的としたものである。さらに、電気・電子機器部品や自動車電装部品では、金属インサート成形や、圧入部、ネジ部を有する場合が多く、使用環境の温度変化に伴い樹脂と金属の線膨張係数差により樹脂成形品が割れないこと、すなわち耐冷熱衝撃性も要求される。
【0012】
すなわち、本発明は、耐アルカリ性、耐加水分解性および耐冷熱衝撃性に優れ、かつ、滞留安定性にも優れた熱可塑性ポリエステル樹脂組成物、並びにその組成物を用いた成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記した課題を解決するために検討を重ねた結果、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂に対し、(B)エラストマ、(C)繊維状強化材、および(D)シリコーン化合物を配合し、さらに(E)特定量のエポキシ当量を有するエポキシ化合物を配合することにより上記課題が解決することを見出し、本発明に達した。すなわち本発明は、以下の構成を有する。
【0014】
本発明は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、(B)エラストマを1~40重量部、(C)繊維状強化材を15~100重量部、(D)シリコーン化合物を0.4~5重量部、および(E)エポキシ当量が200~400g/eqであるエポキシ化合物を0.1~10重量部配合してなる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物であって、前記(B)エラストマが、エチレンとα,β-不飽和カルボン酸アルキルエステルを共重合させてなるエチレン系共重合体であり、前記(D)シリコーン化合物が、粘度が100mm /s以上1,000mm /s以下のジメチルシリコーンである、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物である。
【0015】
また、本発明は、上記熱可塑性ポリエステル樹脂組成物からなる成形品である。
【0016】
また、本発明は、上記成形品と、インサート部材および圧入部材から選択される少なくとも一つの部材とからなる複合成形品である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物によれば、車両用部品(特に、自動車部品)、機械部品、電気・電子部品などに極めて有用な耐アルカリ性、耐加水分解性、および耐冷熱衝撃性に優れる成形品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例における耐冷熱衝撃性評価のために用いた直方体形状の鉄製インサート物の模式図である。(a)は正面図を、(b)は側面図をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、(B)エラストマを1~40重量部、(C)繊維状強化材を15~100重量部、(D)シリコーン化合物を0.4~5重量部、および(E)エポキシ当量が200~400g/eqであるエポキシ化合物を0.1~10重量部を配合してなる。本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、樹脂組成物を構成する個々の成分同士が反応した反応物を含むが、当該反応物は高分子同士の複雑な反応により生成されたものであるから、その構造を特定することは実際的ではない事情が存在する。したがって、本発明は配合する成分により発明を特定するものである。
【0020】
[(A)熱可塑性ポリエステル樹脂]
本発明で用いる(A)熱可塑性ポリエステル樹脂としては、ジカルボン酸(あるいは、そのエステル形成性誘導体)とジオール(あるいは、そのエステル形成性誘導体)とを主成分とする重縮合反応によって得られる重合体ないしは共重合体などが使用できる。
【0021】
上記ジカルボン酸としてテレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,2’-ビフェニルジカルボン酸、3,3’-ビフェニルジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルフォンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルイソプロピリデンジカルボン酸、1,2-ビス(フェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボン酸、2,5-アントラセンジカルボン酸、2,6-アントラセンジカルボン酸、4,4’-p-ターフェニレンジカルボン酸、2,5-ピリジンジカルボン酸などが挙げられ、テレフタル酸が好ましく使用できる。
【0022】
これらのジカルボン酸は2種以上を混合して使用してもよい。なお、少量であればこれらのジカルボン酸とともにアジピン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸を一種以上混合して使用することができる。
【0023】
また、ジオール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ネオペンチルグリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどの脂肪族ジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノールなどの脂環族ジオール、およびそれらの混合物などが挙げられる。なお少量であれば、分子量400~6,000の長鎖ジオール、すなわち、ポリエチレングリコール、ポリ-1,3-プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどを1種以上共重合せしめてもよい。
【0024】
これらの重合体ないし共重合体の好ましい例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリヘキシレンテレフタレート(PHT)、ポリエチレン-1,2-ビス(フェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボキシレート、ポリシクロヘキサン-1,4-ジメチロールテレフタレートなどのほか、ポリエチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリブチレンテレフタレート/デカンジカルボキシレートなどの共重合ポリエステルが挙げられる。これらのうち、ポリブチレンテレフタレートが好ましく使用できる。なお、ここで「/」は共重合体を意味する。
【0025】
本発明で用いる(A)熱可塑性ポリエステル樹脂のカルボキシル基量は、特に限定されないが、耐アルカリ性、耐加水分解性の点で、50eq/t以下であることが好ましく、30eq/t以下であることがより好ましく、20eq/t以下であることがさらに好ましい。カルボキシル基量の下限値は0eq/tであってもよい。なお、本発明において、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂のカルボキシル基量は、熱可塑性ポリエステル樹脂をo-クレゾール/クロロホルム溶媒に溶解させた後、エタノール性水酸化カリウムで滴定し測定した値である。
【0026】
本発明で用いる(A)熱可塑性ポリエステル樹脂の粘度は、溶融混練が可能であれば特に限定されないが、成形性の点で、o-クロロフェノール溶液を用いて25℃で測定したときの固有粘度が0.36~1.60dl/gの範囲であることが好ましく、0.50~1.50dl/gの範囲であることがより好ましい。
【0027】
本発明で用いる(A)熱可塑性ポリエステル樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の重縮合法や開環重合法などにより製造することができ、バッチ重合および連続重合のいずれでもよく、また、エステル交換反応および直接重合による反応のいずれでも適用することができる。
【0028】
また、本発明で用いる(A)熱可塑性ポリエステル樹脂は2種類以上を混ぜて使用することができる。
【0029】
なお、エステル化反応またはエステル交換反応および重縮合反応を効果的に進めるために、これらの反応時に重合反応触媒を添加することが好ましい。重合反応触媒の具体例としては、チタン酸のメチルエステル、テトラ-n-プロピルエステル、テトラ-n-ブチルエステル、テトライソプロピルエステル、テトライソブチルエステル、テトラ-tert-ブチルエステル、シクロヘキシルエステル、フェニルエステル、ベンジルエステル、トリルエステル、あるいはこれらの混合エステルなどの有機チタン化合物、ジブチルスズオキシド、メチルフェニルスズオキシド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキシド、シクロヘキサヘキシルジスズオキシド、ジドデシルスズオキシド、トリエチルスズハイドロオキシド、トリフェニルスズハイドロオキシド、トリイソブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、ジブチルスズジクロライド、トリブチルスズクロライド、ジブチルスズサルファイド、ブチルヒドロキシスズオキシド、およびメチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸、ブチルスタンノン酸などのアルキルスタンノン酸、などのスズ化合物、ジルコニウムテトラ-n-ブトキシドなどのジルコニア化合物、三酸化アンチモン、酢酸アンチモンなどのアンチモン化合物などが挙げられるが、これらの中でも有機チタン化合物およびスズ化合物が好ましく、さらに、チタン酸のテトラ-n-プロピルエステル、テトラ-n-ブチルエステルおよびテトライソプロピルエステルが好ましく、チタン酸のテトラ-n-ブチルエステルが特に好ましい。これらの重合反応触媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用することもできる。重合反応触媒の添加量は、機械特性、成形性および色調の点で、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、0.005~0.5重量部の範囲が好ましく、0.01~0.2重量部の範囲がより好ましい。
【0030】
[(B)エラストマ]
本発明で用いられる(B)エラストマとしては、オレフィン系、ブタジエン系、ポリエステル系、ポリアミド系、シリコーン系等のエラストマが挙げられる。中でも、オレフィン系エラストマが好ましく、エチレンと、α,β-不飽和カルボン酸アルキルエステルを共重合させてなるエチレン系共重合体を用いることが、耐アルカリ性、耐冷熱衝撃性の点から好ましい。前記エチレン系共重合体に対して、さらに不飽和カルボン酸グリシジルエステルをグラフト重合させたものは、エラストマの分散性が向上し、耐冷熱衝撃性の点から好ましい。
【0031】
エチレン系共重合体の具体例としては、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/1-ブテン共重合体、エチレン/ペンテン共重合体、エチレン/オクテン共重合体、エチレン/アクリル酸共重合体、エチレン/メタクリル酸共重合体、エチレン/アクリル酸メチル共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル共重合体、エチレン/アクリル酸エチル共重合体、エチレン/メタクリル酸エチル共重合体、エチレン/アクリル酸ブチル共重合体、エチレン/メタクリル酸ブチル共重合体、エチレン/アクリル酸メチル/グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン/アクリル酸エチル/グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン/アクリル酸ブチル/グリシジルメタクリレート共重合体等が挙げられる。これらのエラストマは単独で用いてもよいし、あるいは2種以上を併用して使用しても差し支えない。
【0032】
(B)エラストマの配合量は、耐アルカリ性および耐冷熱衝撃性の点から、本発明の(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、1~40重量部である。(B)エラストマの配合量の下限値は、好ましくは5重量部以上、より好ましくは10重量部以上である。配合量が1重量部未満であると、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の耐アルカリ性、耐冷熱衝撃性が劣る。(B)エラストマの配合量の上限値は、好ましくは35重量部以下、より好ましくは30重量部以下である。配合量が40重量部を超えると、ウェルド強度が低下する。
【0033】
[(C)繊維状強化材]
本発明で用いられる(C)繊維状強化材は、ガラス繊維、ワラステナイト、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、炭素繊維、アルミナ繊維、金属繊維、および有機繊維(ナイロン、ポリエステル、アラミド、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー、アクリル等樹脂からなる繊維)等を使用することが可能である。(C)繊維状強化材を用いることにより、機械的特性と耐冷熱衝撃性をより向上させることができる。1種または2種以上の繊維状強化材を併用することも可能であるが、ガラス繊維あるいはワラステナイトを配合するのが好ましい。
【0034】
なお、本発明の(A)熱可塑性ポリエステル樹脂と(C)繊維状強化材との界面の密着性を向上させるために、(C)繊維状強化材の表面を集束剤などの表面処理剤によって処理するのが好ましい。表面処理剤として、アミノシラン化合物やエポキシシラン化合物などのシランカップリング剤、ウレタン、アクリル酸/スチレン共重合体などのアクリル酸からなる共重合体、アクリル酸メチル/メタクリル酸メチル/無水マレイン酸共重合体などの無水マレイン酸からなる共重合体、酢酸ビニル、ビスフェノール型エポキシ化合物やノボラック型エポキシ化合物などの一種以上のエポキシ化合物などを含有した集束剤で処理されたガラス繊維が好ましく用いられる。表面処理剤としては、ビスフェノール型エポキシ化合物および/またはノボラック型エポキシ化合物で表面処理された繊維状強化材が耐アルカリ性、耐加水分解性、耐冷熱衝撃性および機械的特性の点から好ましい。
【0035】
繊維状強化材の繊維径は通常1~30μmの範囲が好ましい。ガラス繊維の樹脂中の分散性の観点から、その下限値は好ましくは5μmである。機械的特性の点からその上限値は好ましくは15μmである。
【0036】
(C)繊維状強化材の配合量は、機械的特性および耐冷熱衝撃性の点から、本発明の(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、15~100重量部である。(C)繊維状強化材の配合量の下限値は、好ましくは20重量部以上、より好ましくは30重量部以上である。配合量が15重量部未満であると、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の機械的特性、耐冷熱衝撃性が劣る。(C)繊維状強化材の配合量の上限値は、80重量部以上が好ましく、より好ましくは90重量部以上である。100重量部を超えると、成形性が低下するため好ましくない。
【0037】
また、成形品の寸法安定性向上などを目的として、非繊維状充填材を併用することができる。かかる非繊維状充填材としては、ゼオライト、セリサイト、カオリン、マイカ、クレー、ベントナイト、アスベスト、タルク、アルミナシリケート、などの珪酸塩、アルミナ、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、ガラスフレーク、ガラスビーズ、セラミックビーズ、雲母、窒化ホウ素、炭化珪素およびシリカなどが挙げられる。
【0038】
[(D)シリコーン化合物]
本発明で用いる(D)シリコーン化合物は、下記一般式(1)~(4)で表される化学的に結合されたシロキサン構造単位(ここで、Rはそれぞれ独立に飽和または不飽和一価炭化水素、水素原子、ヒドロキシル基、アルコキシル基、アリール基、ビニル基およびアリル基から選ばれる基を表す。)を少なくとも1種有する、ポリオルガノシロキサンである。該シリコーン化合物の中では、ジメチルシリコーンオイルが好ましく、さらに、JIS Z8803に準じて25℃で測定した粘度が100~10,000mm/sのジメチルシリコーンが耐アルカリ性の点から好ましい。粘度が100mm/s以上であるとガスによるウェルド強度低下が抑制され、外観が良好な成形品を得ることができる。粘度が10,000mm/s以下であると、樹脂中への分散性が向上し、耐アルカリ性が向上する。中でも、耐アルカリ性の観点から、粘度の上限値は、1,000mm/s以下が好ましい。
【0039】
【化1】
【0040】
また、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を電子部品に適用した場合の接点障害を防止するために、このジメチルシリコーンオイルは、分子量800以下の低分子シロキサンを5000ppm以下含有するジメチルシリコーンオイルであることが好ましい。以上の条件を満たすジメチルシリコーンオイルは市販されており、入手可能である。例えば、ダウ・東レ株式会社製のSH200シリーズ、SH200CVシリーズなどが挙げられる。
【0041】
(D)シリコーン化合物の配合量は、耐アルカリ性および機械的特性の点から、本発明の(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、0.4~5重量部である
(D)シリコーン化合物の配合量の下限値は、好ましくは0.8以上、より好ましくは1.2重量部以上である。配合量が0.4重量部未満であると、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の耐アルカリ性が劣る。(D)シリコーン化合物の配合量の上限値は、4重量部以下が好ましく、より好ましくは3重量部以下である。5重量部を超えると、ウェルド強度などの機械的特性が低下する。
【0042】
[(E)エポキシ化合物]
本発明で用いる(E)エポキシ化合物は、一分子中に一個以上のエポキシ基を有するものであればよく、通常はアルコール、フェノール類またはカルボン酸などとエピクロロヒドリンとの反応物であるグリシジル化合物や、オレフィン性二重結合をエポキシ化した化合物を用いればよい。
【0043】
また、本発明で用いる(E)エポキシ化合物は、エポキシ当量が200~400g/eqであるものを用いる。前記範囲のエポキシ当量を有するエポキシ化合物を配合することにより、耐アルカリ性および耐加水分解性が飛躍的に向上する。エポキシ当量が200g/eq未満であると、耐アルカリ性、耐加水分解性が低下する。エポキシ当量が400g/eqを超えると、耐アルカリ性、耐加水分解性が低下する。エポキシ当量は、より好ましくは220~350g/eqである。
【0044】
(E)エポキシ化合物としては、ビスフェノールやノボラックとエピクロロヒドリンとの反応から得られる、ビスフェノール型エポキシ化合物やノボラック型エポキシ化合物が好ましい。中でも下記一般式(5)で表されるノボラック型エポキシ化合物が、耐アルカリ性、耐加水分解性の点から好ましい。
【0045】
【化2】
【0046】
上記一般式(5)中、Xは上記一般式(6)または(7)で表される二価の基を表す。上記一般式(5)および(7)中、R、R、RおよびRはそれぞれ独立に炭素数1~8のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を表し、それぞれ同一でも相異なってもよい。Rは、水素原子、炭素数1~8のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を表す。上記一般式(5)中、nは0より大きく10以下の値を表す。上記一般式(5)および(7)中、a、c、dはそれぞれ独立に0~4の整数を表し、bは0~3の整数を表す。
【0047】
耐アルカリ性、耐加水分解性をより向上させる点から、上記一般式(5)におけるXは、上記一般式(6)で表される二価の基が好ましい。
【0048】
炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基などが挙げられる。これらの中でも反応性の点でメチル基が好ましい。炭素数6~10のアリール基としては、例えば、フェニル基、メチルフェニル基、ジメチルフェニル基、ナフチル基などが挙げられる。これらの中でも反応性の点でフェニル基が好ましい。a、b、c、dは反応性の点で0~1が好ましい。
【0049】
上記一般式(5)のnとしては、0より大きく10以下の範囲を表す。繰り返し単位数nが少ないと、該エポキシ化合物同士が溶融してブロッキング現象を起こし、押出機へ供給できなくなるため望ましくない。繰り返し単位数nが多いと、該エポキシ化合物同士の反応が進みやすく架橋構造を形成しやすくなり、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の滞留安定性が低下する。ブロッキング性および滞留安定性の点から、繰り返し単位数nは好ましくは1~4、さらに好ましくは1~3である。
【0050】
(E)エポキシ化合物の配合量は、本発明の(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、0.1~10重量部である。中でも耐アルカリ性、耐加水分解性と成形性のバランスから、その下限値は0.3重量部以上が好ましく、0.6重量部以上がさらに好ましい。配合量が0.1重量部未満の場合は、耐アルカリ性および耐加水分解性に劣る。また、(E)エポキシ化合物の配合量の上限値は、8重量部以下が好ましく、6重量部以下がさらに好ましい。配合量が10重量部を超える場合は、エポキシ基の量が多くなるため樹脂組成物の粘度が高くなり、成形性が低下する恐れがある。
【0051】
また本発明においては、従来の技術では達成できなかった耐アルカリ性を付与するために、特定範囲のエポキシ当量を有する(E)エポキシ化合物を配合し、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂に元々存在するカルボキシル基を、反応により減少させることが重要である。
【0052】
前記観点から、溶融混練後の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物におけるカルボキシル基濃度はできる限り低いことが好ましく、16eq/t以下が好ましく、15eq/t以下であることがさらに好ましい。最も好ましい態様は0eq/tである。カルボキシル基濃度が16eq/tを超えると、耐アルカリ性が低下する傾向がある。
【0053】
なお、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物におけるカルボキシル基濃度は、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物をo-クレゾール/クロロホルム溶媒に溶解させた後、エタノール性水酸化カリウムで滴定し測定した値である。
【0054】
ところで、前記の溶融混練後の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物におけるカルボキシル基濃度を低減することは、エポキシ当量が400g/eqを超えるエポキシ化合物を、多く配合することで達成することも可能であるが、この手法によると滞留安定性が低下する。一方で、一般式(5)で表されるエポキシ化合物は、その特定構造に由来して、溶融混練後の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物におけるカルボキシル基濃度を低減させ、かつ、滞留安定性を維持することができる。
【0055】
[その他成分]
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、他の樹脂成分、無機充填材、離型剤、酸化防止剤、安定剤、結晶核剤、着色剤、滑剤などの通常の添加剤を配合することができる。これらを二種以上配合してもよい。
【0056】
他の樹脂成分としては、溶融成形可能な樹脂であればいずれでもよく、例えば、AS樹脂(アクリロニトリル/スチレン共重合体)、水添または未水添SBS樹脂(スチレン/ブタジエン/スチレントリブロック共重合体)、水添または未水添SIS樹脂(スチレン/イソプレン/スチレントリブロック共重合体)、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、環状オレフィン系樹脂、酢酸セルロースなどのセルロース系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂などが挙げられる。(A)成分以外の結晶性樹脂を配合する場合、その結晶性樹脂の好ましい配合量は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂の機能を維持する点から、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、0重量部以上、9重量部以下である。
【0057】
無機充填材としては、板状、粉末状、粒状などのいずれの充填材も使用することができる。具体的には、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカーなどの繊維状またはウィスカー状充填剤、マイカ、タルク、カオリン、シリカ、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスマイクロバルーン、クレー、二硫化モリブデン、ワラステナイト、モンモリロナイト、酸化チタン、酸化亜鉛、ポリリン酸カルシウム、グラファイト、硫酸バリウムなどの粉状、粒状または板状充填剤などが挙げられる。これらを二種以上配合してもよい。
【0058】
離型剤としては、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の離型剤に用いられるものをいずれも使用することができる。例えば、モンタンワックス等の鉱物系ワックス、またはステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミニウム等の金属石鹸、エチレンビスステアリルアミドなどの高級脂肪酸アミド、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス等の石油系ワックスなどが挙げられる。これらを二種以上配合してもよい。
【0059】
酸化防止剤の例としては、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、テトラキス(メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)メタン、トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート等のフェノール系化合物、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネート、ジミリスチル-3,3’-チオジプロピオネート等のイオウ系化合物、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト等のリン系化合物等が挙げられる。
【0060】
安定剤としては、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾールを含むベンゾトリアゾール系化合物、ならびに2,4-ジヒドロキシベンゾフェノンのようなベンゾフェノン系化合物、モノまたはジステアリルホスフェート、トリメチルホスフェートなどのリン酸エステルなどを挙げることができる。
【0061】
結晶核剤としてはポリエーテルエーテルケトン樹脂、タルク等を挙げることができる。
【0062】
また、着色剤としては、例えば、有機染料、有機顔料、無機顔料などが挙げられる。これらを二種以上配合してもよい。
【0063】
これらの各種添加剤は、2種以上を組み合わせることによって相乗的な効果が得られることがあるので、併用してもよい。
【0064】
なお、例えば酸化防止剤として例示した添加剤は、安定剤や紫外線吸収剤として作用することもある。また、安定剤として例示したものについても酸化防止作用や紫外線吸収作用のあるものがある。すなわち前記分類は便宜的なものであり、作用を限定したものではない。
【0065】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の製造方法としては、例えば、単軸あるいは二軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダーあるいはミキシングロールなどの公知の溶融混練機を用いて、各成分を溶融混練する方法を挙げることができる。各成分は、予め一括して混合しておき、それから溶融混練してもよい。なお、各成分に含まれる水分は少ない方がよく、必要により予め乾燥しておくことが望ましい。
【0066】
また、溶融混練機に各成分を投入する方法としては、例えば、単軸あるいは二軸の押出機を用い、スクリュー根元側に設置した主投入口から前記(A)、(B)、(D)および(E)成分を供給し、主投入口と押出機先端の間に設置した副投入口から(C)成分を供給し溶融混合する方法が挙げられる。
【0067】
溶融混練温度は、流動性および機械特性に優れるという点で、200℃以上が好ましく、220℃以上がより好ましく、240℃以上がさらに好ましい。また、360℃以下が好ましく、320℃以下がより好ましく、280℃以下がさらに好ましい。ここで、溶融混練温度とは、溶融混練機の設定温度を指し、例えば二軸押出機の場合、シリンダー温度を指す。
【0068】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、公知の射出成形、押出成形、ブロー成形、プレス成形、紡糸などの任意の方法で成形することにより、各種成形部品に加工し利用することができる。射出成形時の温度は、流動性をより向上させる観点から240℃以上が好ましく、機械特性を向上させる観点から280℃以下が好ましい。
【0069】
中でも、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、応力下で水、アルカリなどと接触する用途で用いられるような、金属インサート部、圧入部、ネジ部、およびウェルド部から選択される少なくとも一つを有する成形品に好適である。圧入される硬質部材としては、金属製の部材、熱硬化性樹脂製の部材が代表的である。又、本発明のインサート成形品は成形用金型に金属等をあらかじめ装着し、その外側に上記の配合樹脂組成物を充填して複合成形品としたものである。樹脂を金型に充填するための成形法としては射出成形法、押出圧縮成形法などがあるが、射出成形法が一般的である。また、樹脂にインサートする素材は、その特性を生かし且つ樹脂の欠点を補う目的で使用されるため、成形時に樹脂と接触したとき、形が変化したり溶融しないものが使用される。このため、主としてアルミニウム、マグネシウム、銅、鉄、真鍮及びそれらの合金などの金属類やガラス、セラミックスのような無機固体類であらかじめ棒、ピン、ネジ等に成形されているものが使用される。
【0070】
本発明において、上記各種成形品は、自動車部材、電気・電子部材、建築部材、各種容器、日用品、生活雑貨および衛生用品など各種用途に利用することができる。特に、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、耐アルカリ性、耐加水分解性、耐冷熱衝撃性に優れた成形品を得ることができるため、自動車分野においては、コネクター、イグニッションコイル部品などのエンジン周りの部品、各種コントロールユニット、各種センサー部品、電気・電子分野としては、コネクター類、スイッチ部品、リレー部品、コイル部品などの成形品として好適である。
【実施例
【0071】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。各実施例および比較例で使用する原料について以下に示す。
(A)熱可塑性ポリエステル樹脂
A-1:ポリブチレンテレフタレート(カルボキシル基量:24eq/t、固有粘度:0.85dl/g)
A-2:ポリブチレンテレフタレート(カルボキシル基量:15eq/t、固有粘度:0.74dl/g)
(B)エラストマ
B-1:エチレン/アクリル酸メチル/グリシジルメタクリレート共重合体(E/MA(27)/GMA(6))
各成分の重量比は、エチレン/アクリル酸メチル/グリシジルメタクリレート=67/27/6wt%。MFR=7g/10min(測定法:JIS-K6760(190℃、2160gf)、エポキシ当量:2370g/eq。
B-2:エチレン/アクリル酸エチル共重合体(E/EA(34))
各成分の重量比は、エチレン/アクリル酸エチル=66/34wt%。MFR=25g/10min(測定法:JIS-K6760(190℃、2160gf)。
B-3:エチレン/アクリル酸エチル共重合体(E/EA(15))
各成分の重量比は、エチレン/アクリル酸エチル=85/15wt%。MFR=6g/10min(測定法:JIS-K6760(190℃、2160gf)。
B-4:エチレン/アクリル酸ブチル(E/BA(35))
各成分の重量比は、エチレン/アクリル酸ブチル=65/35wt%。MFR=40g/10min(測定法:JIS-K6760(190℃、2160gf)。
(C)繊維状強化材
C-1:ガラス繊維(平均繊維径10μmチョップドストランド)、表面処理剤:ビスフェノール型エポキシ化合物
C-2:ガラス繊維(平均繊維径10μmチョップドストランド)、表面処理剤:ビスフェノール型エポキシ化合物およびノボラック型エポキシ化合物
C-3:ガラス繊維(平均繊維径13μmチョップドストランド)、表面処理剤:ビスフェノール型エポキシ化合物
(D)シリコーン化合物
D-1:シリコーンオイル
(粘度:300mm/s、分子量800以下の成分含有量250ppm)
(E)エポキシ化合物
E-1:一般式(5)で表されるエポキシ当量:276g/eqのジシクロペンタジエンノボラック型エポキシ化合物:DIC(株)製“HP-7200H”を用いた。
E-2:一般式(5)で表されるエポキシ当量:252g/eqのジシクロペンタジエンノボラック型エポキシ化合物:日本化薬(株)製“XD-1000”を用いた。
E’-3:下記一般式(8)で表されるエポキシ当量:920g/eqのビスフェノール型エポキシ化合物:三菱ケミカル(株)製“jER1004K”を用いた。
【0072】
【化3】
【0073】
上記一般式(8)中のnは、3~6の値を示す。
E’-4:エポキシ当量:185g/eqのビスフェノール型エポキシ化合物:(株)ADEKA製“EP-17”を用いた。
(F)リン系安定剤
(F-1)ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト:(株)ADEKA製“アデカスタブ”(登録商標)PEP36。
【0074】
[各特性の測定方法]
本実施例、比較例においては以下に記載する測定方法によって、その特性を評価した。なお、射出成形機にて成形品を得る過程においては、成形前に、得られた熱可塑性ポリエステル樹脂組成物のペレットを130℃の熱風乾燥機で3時間以上乾燥させてから用いた。
【0075】
(1)耐アルカリ性
各実施例及び比較例により得られた樹脂組成物を用いて、住友重機械工業(株)社製SE50D型射出成形機にて、シリンダ温度260℃、金型温度80℃で、縦80mm、横80mm、厚み1mmであるフィルムゲートの角板を成形した。この角板成形品を熱風乾燥機にて、160℃で3時間アニール処理を行った。次にこの成形品を、ウェルド部を長さ方向の中央部に有する、幅10mm、長さ80mmの短冊試験片へ切削した。この短冊試験片を、SUS製の蒲鉾型の治具に長手方向に曲がるように治具に固定し、常時1.5%の曲げ歪みがウェルド部に加わる状態とした。この状態のまま、治具ごと、室温下、10wt%水酸化ナトリウム水溶液に20時間浸漬した。浸漬後、治具を水酸化ナトリウム水溶液から引き上げ、水で十分洗浄し、2日間乾燥させた。こうして得た短冊試験片をチャック間距離50mm、引張速度10mm/minにて引張試験を行い、引張強度を測定した。水酸化ナトリウム水溶液へ浸漬する前の短冊試験片の引張強度も同様に測定し、以下の算出式より引張強度保持率を求め、ウェルド部の耐アルカリ性の評価を行なった。
引張強度保持率(%)=(引張強度(水酸化ナトリウム水溶液浸漬後)(MPa)/引張強度(水酸化ナトリウム水溶液浸漬前)(MPa))×100
引張強度保持率が、60%以上であれば成形品の耐アルカリ性は良好と判断できる。
引張強度保持率80%以上をA、60%以上80%未満をB、60%未満をCと判定した。
【0076】
(2)引張特性(引張強度)
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物を用いて、ISO527-1,2:2012年に準拠して、シリンダ温度260℃、金型温度80℃で試験片を成形し、引張強度を測定した。
【0077】
(3)耐加水分解性
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物を用いて、上記(2)に記載の方法と同様の方法で成形した試験片に対し、(株)TABAI ESPEC製HAST CHAMBER EHS-221Mを用いて、121℃、100%RHの条件で加水分解処理を100時間行った。加水分解処理後の試験片の引張強度を(2)と同様の手法で測定し、以下の算出式より引張強度保持率を求め、耐加水分解性の評価を行った。
引張強度保持率(%)=(引張強度(加水分解処理後)(MPa)/引張強度(加水分解処理前)(MPa))×100
引張強度保持率が80%以上であれば、成形品の耐加水分解性は良好と判断できる。引張強度保持率90%以上をA、80%以上90%未満をB、80%未満をCと判定した。
【0078】
(4)耐冷熱衝撃性
図1に示す、縦35mm、横50mm、高さ5mm、中央部に2つの孔4を有し、材質がSUS製のカセット形状の金属インサートコア2をインサート成形用の金型に設置した。次に、住友重機械工業(株)社製SE50D型射出成形機を用い、各実施例および比較例に示す組成の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を、上記金型にゲート1を通して射出成形し、前記金属インサートコア2を厚み1.5mmの樹脂で被覆した金属インサート成形品3を得た。本成形品は、中央部に孔4を設けることでウェルド部5を意図的に発生させた成形品であり、ウェルド部5の耐冷熱衝撃性を評価することを想定したものである。射出条件は、シリンダー温度260℃、金型温度80℃、射出圧40MPa、射出時間10秒、冷却時間10秒にて実施した。上記インサート成形品について、株式会社TABAI ESPEC製THERMAL SHOCK CHAMBER TSA-103-ES-W冷熱試験機を用いて、-40℃×1時間の冷却、130℃×1時間の加熱を1サイクルとする条件で冷却-加熱を繰り返し行い、上記インサート成形品にクラックが発生するサイクル回数を測定した。クラックの発生の有無については4サイクルに1回、確認をおこなった。サイクル回数が20サイクル以上であってもクラックが発生しなければ実用上問題のない製品レベルといえるが、クラック発生までのサイクル数が多いほど耐冷熱衝撃性に優れ、好ましい。
【0079】
(5)ウェルド強度
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物を用いて、シリンダ温度260℃、金型温度80℃で、両端にゲートを有する金型を使用してASTM1号型のウェルド試験片を成形し、チャック間距離114mm、引張速度1mm/minで引張試験を行い、ウェルド強度を求めた。
【0080】
(6)滞留安定性
東洋精機(株)製C501DOSを用いて、温度270℃、荷重5000gf条件で、ASTM D1238:1999年に準じて、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の溶融粘度指数(メルトフローレート(MFR))を測定した。
【0081】
さらに、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物をシリンダ内で15分滞留させた後、同条件で再び溶融粘度指数を測定し、滞留前の溶融粘度指数に対する滞留後の溶融粘度指数の差の割合(変化率(%))を求めた。ここで算出される変化率(%)は絶対値であり、正の値で算出した。溶融粘度指数の変化率が50%以上である場合は滞留安定性に劣ると判断し、変化率が小さいほど滞留安定性に優れると判断した。変化率50%未満をA、変化率50%以上をBと判定した。
【0082】
(7)熱可塑性ポリエステル樹脂のカルボキシル基量、および熱可塑性ポリエステル樹脂組成物のカルボキシル基濃度(溶融混練後のカルボキシル基濃度)
熱可塑性ポリエステル樹脂のカルボキシル基量、および熱可塑性ポリエステル樹脂組成物におけるカルボキシル基濃度(溶融混練後の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物のカルボキシル基濃度)は、熱可塑性ポリエステル樹脂または熱可塑性ポリエステル樹脂組成物をo-クレゾール/クロロホルム(2/1,vol/vol)混合溶液に溶解させた溶液を、1%ブロモフェノールブルーを指示薬として、0.05mol/Lエタノール性水酸化カリウムで滴定することにより算出した。
【0083】
[実施例1~20、比較例1~5]
表1および表2に示す配合組成に従い、(A)、(B)、(D)、(E)成分、ならびにその他添加剤全てを二軸押出機の元込め部から供給し、(C)成分を主投入口と押出機先端の間に設置した副投入口から供給して、シリンダ温度250℃に設定したスクリュー径37mmφの二軸押出機(東芝機械(株)社製TEM37SS(商品名))で溶融混練を行った。ダイスから吐出されたストランドを冷却バス内で冷却した後、ストランドカッターにてペレット化し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物について、上記方法で評価した結果を表1および表2に記した。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
表1および表2の結果より以下のことが明らかである。
【0087】
実施例1~20と比較例1~5の比較から、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、(B)エラストマを1~40重量部、(C)繊維状強化材を15~100重量部、(D)シリコーン化合物を0.4~5重量部、(E)エポキシ当量が200~400g/eqであるエポキシ化合物を0.1~10重量部配合してなる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、耐アルカリ性、耐加水分解性、耐冷熱衝撃性、ウェルド強度に優れることが分かった。
【符号の説明】
【0088】
1.ゲート
2.金属インサートコア
3.金属インサート成形品
4.孔
5.成形品のウェルド部
図1