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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】医療デバイスおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/34 20060101AFI20230829BHJP
   A61L 27/16 20060101ALI20230829BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20230829BHJP
   A61L 27/52 20060101ALI20230829BHJP
   A61L 15/24 20060101ALI20230829BHJP
   A61L 15/44 20060101ALI20230829BHJP
   A61L 29/08 20060101ALI20230829BHJP
   A61L 29/04 20060101ALI20230829BHJP
   A61L 29/14 20060101ALI20230829BHJP
   A61L 29/16 20060101ALI20230829BHJP
   A61L 31/10 20060101ALI20230829BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20230829BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20230829BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20230829BHJP
   A61M 25/00 20060101ALI20230829BHJP
   A61L 15/26 20060101ALI20230829BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20230829BHJP
   A61L 27/22 20060101ALI20230829BHJP
   A61L 29/06 20060101ALI20230829BHJP
   A61L 31/16 20060101ALI20230829BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20230829BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20230829BHJP
   A61K 31/4415 20060101ALI20230829BHJP
   A61K 31/704 20060101ALI20230829BHJP
   A61K 31/4172 20060101ALI20230829BHJP
   A61K 31/192 20060101ALI20230829BHJP
   A61K 31/405 20060101ALI20230829BHJP
   A61K 31/407 20060101ALI20230829BHJP
   A61K 31/05 20060101ALI20230829BHJP
   A61K 31/194 20060101ALI20230829BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20230829BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20230829BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230829BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230829BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
A61L27/34
A61L27/16
A61L27/54
A61L27/52
A61L15/24 100
A61L15/44 100
A61L29/08 100
A61L29/04 100
A61L29/14 300
A61L29/16
A61L31/10
A61L31/04 110
A61L31/14 300
A61L31/06
A61M25/00 610
A61L15/26 100
A61L27/18
A61L27/22
A61L29/06
A61L31/16
A61K47/32
A61K47/34
A61K31/4415
A61K31/704
A61K31/4172
A61K31/192
A61K31/405
A61K31/407
A61K31/05
A61K31/194
A61P37/08
A61P3/02 101
A61P29/00
A61P31/04
A61P27/06
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019568258
(86)(22)【出願日】2019-12-05
(86)【国際出願番号】 JP2019047628
(87)【国際公開番号】W WO2020121940
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2018232197
(32)【優先日】2018-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】北川 瑠美子
(72)【発明者】
【氏名】中村 正孝
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/207644(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/146102(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/119256(WO,A1)
【文献】特開平10-085320(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、親水性ポリマー層を含み、次の要件を満たす医療デバイス:
(1)前記基材が、ヒドロゲル、シリコーンヒドロゲル、低含水性軟質材料、および低含水性硬質材料、からなる群から選ばれる1種類以上を含むものであり、前記基材表面の少なくとも一部に前記親水性ポリマー層が設けられている;
(2)前記親水性ポリマー層が、酸性基を有する親水性ポリマーと、酸性基および環構造を有する化合物とを含み、前記酸性基を有する親水性ポリマーが、アクリル酸、および、N,N-ジメチルアクリルアミドを含むモノマーの共重合体であり、前記酸性基および環構造を有する化合物が、グリチルリチン酸二カリウム、グリチルリチン酸二カリウム水和物、ピリドキシン塩酸塩、L-ヒスチジン、安息香酸ナトリウム、フタル酸二ナトリウムおよびテレフタル酸二ナトリウムから選ばれた化合物であり
(3)リン酸緩衝液に静置して浸漬した後に、リン酸緩衝液から引き上げて空中において保持した際の、表面の液膜が保持される時間(液膜保持時間)が10秒以上である。
【請求項2】
乾燥状態において、走査透過型電子顕微鏡観察によって測定された前記親水性ポリマー層の厚さが、1nm以上100nm未満の範囲内である請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項3】
前記親水性ポリマー層の少なくとも一部が基材と混和した状態で存在する、請求項1または2に記載の医療デバイス。
【請求項4】
前記酸性基を有する親水性ポリマーがさらにアミド基を有する、請求項1~3のいずれかに記載の医療デバイス。
【請求項5】
前記酸性基および環構造を有する化合物が抗菌薬、抗アレルギー薬、緑内障治療薬、抗炎症薬、抗白内障薬、角膜治療薬、ビタミン薬からなる群から選ばれる1種以上を含むものである、請求項1~4のいずれかに記載の医療デバイス。
【請求項6】
前記ヒドロゲルが、tefilcon、tetrafilcon、helfilcon、mafilcon、polymacon、hioxifilcon、alfafilcon、omafilcon、hioxifilcon、nelfilcon、nesofilcon、hilafilcon、acofilcon、deltafilcon、etafilcon、focofilcon、ocufilcon、phemfilcon、methafilcon、およびvilfilconからなる群から選ばれる1種類以上を含むものである、請求項に記載の医療デバイス。
【請求項7】
前記シリコーンヒドロゲルが、lotrafilcon、galyfilcon、narafilcon、senofilcon、comfilcon、enfilcon、balafilcon、efrofilcon、fanfilcon、somofilcon、samfilcon、olifilcon、asmofilcon、formofilcon、stenfilcon、abafilcon、mangofilcon、riofilcon、sifilcon、larafilcon、およびdelefilconからなる群から選ばれる1種類以上を含むものである、請求項に記載の医療デバイス。
【請求項8】
前記低含水性軟質材料が、ケイ素原子を含む材料である、請求項に記載の医療デバイス。
【請求項9】
前記低含水性硬質材料が、ケイ素原子を含む材料である、請求項に記載の医療デバイス。
【請求項10】
前記低含水性硬質材料が、ポリメチルメタクリレートである、請求項に記載の医療デバイス。
【請求項11】
前記低含水性硬質材料が、neofocon、pasifocon、telefocon、silafocon、paflufocon、petrafocon、fluorofocon、およびtisilfoconからなる群から選ばれる1種類以上を含むものである、請求項に記載の医療デバイス。
【請求項12】
眼用レンズ、皮膚用被覆材、創傷被覆材、皮膚用保護材、皮膚用薬剤担体、輸液用チューブ、気体輸送用チューブ、排液用チューブ、血液回路、被覆用チューブ、カテーテル、ステント、シース、バイオセンサーチップ、または内視鏡用被覆材である、請求項1~1のいずれかに記載の医療デバイス。
【請求項13】
前記眼用レンズがコンタクトレンズである、請求項12に記載の医療デバイス。
【請求項14】
基材と、親水性ポリマー層を含む医療デバイスを製造する方法であって、
前記基材が、ヒドロゲル、シリコーンヒドロゲル、低含水性軟質材料、および低含水性硬質材料、からなる群から選ばれる1種類以上を含むものであり、
前記基材を、2.0以上6.0以下の初期pHを有する溶液中に配置して、前記溶液を加熱する工程を含み、
前記溶液が、酸性基を有する親水性ポリマーと、酸性基および環構造を有する化合物とを含み、前記酸性基を有する親水性ポリマーが、アクリル酸、および、N,N-ジメチルアクリルアミドを含むモノマーの共重合体であり、前記酸性基および環構造を有する化合物が、グリチルリチン酸二カリウム、グリチルリチン酸二カリウム水和物、ピリドキシン塩酸塩、L-ヒスチジン、安息香酸ナトリウム、フタル酸二ナトリウムおよびテレフタル酸二ナトリウムから選ばれた化合物である、医療デバイスの製造方法。
【請求項15】
前記溶液がさらに環構造を有さない低分子の酸を含むものである請求項14に記載の医療デバイスの製造方法。
【請求項16】
前記環構造を有さない低分子の酸が有機酸である請求項15に記載の医療デバイスの製造方法。
【請求項17】
前記溶液を加熱する工程が、前記溶液を50℃~100℃の範囲内で加熱する工程である、請求項1416のいずれかに記載の医療デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療デバイスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の分野においてシリコーンゴム、ヒドロゲル等の樹脂製軟質材料を用いたデバイス、および、金属、ガラス等の硬質材料を用いたデバイスが多様な用途に用いられている。軟質材料を用いたデバイスの用途としては、生体内に導入したり、生体表面を被覆したりする医療デバイスや、細胞培養シート、組織再生用足場材料等のバイオテクノロジー用デバイスや、顔用パック等の美容デバイスが挙げられる。硬質材料を用いたデバイスの用途としては、パソコン、携帯電話、ディスプレイ等の電化製品;注射薬に使用されるアンプル、毛細管、バイオセンシングチップなどの診断・分析ツールとしての使用が挙げられる。
【0003】
種々のデバイスを、例えば医療デバイスとして生体内に導入したり、生体表面に貼付したりして用いる場合、医療デバイスの表面改質が重要となる。表面改質によって、医療デバイスに表面改質前よりも良好な特性、例えば親水性、易滑性、生体適合性、薬効といった特性を与えることができれば、使用者(患者等)にとっては、使用感の向上、不快感の低減、症状の改善などを期待することができる。
【0004】
医療デバイスの基材の表面を改質させる方法に関しては、種々の方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
従来技術においては1種類のポリマー材料では十分な親水性を付与することが難しかったことから、2種類以上のポリマー材料の層を1層ずつコーティングして積層する方法が知られている(たとえば特許文献1を参照)。中でも、2種類以上のポリマー材料を、1層ずつ下の層の荷電と反対の荷電を有する層を上に積層して、交互に異なる荷電を有する層をコーティングする方法は、LbL法(Layer by Layer法)などと呼ばれる。かかるLbL法により得られるコーティングにおいては、基材およびポリマー材料の各々の層が、他の層と静電相互作用によって結合されていると考えられている。
【0006】
また、2種類以上のポリマー材料を基材に架橋して厚み0.1μm以上のポリマー層を基材にコーティングする方法が知られている(たとえば特許文献2を参照)。
【0007】
最近では、コスト効率をよくするため、LbL法を改良した方法として、ポリイオン性物質とオートクレーブ時加水分解物質を使用し、1度の熱処理によりシリコーンヒドロゲル表面にポリイオン性物質を吸着させ、同時にシリコーンヒドロゲル表面を親水化する方法が開示されている(特許文献3参照)。
【0008】
また、1度の熱処理によりシリコーンヒドロゲル表面に2種類の親水性ポリマーを架橋させる方法が開示されている(特許文献4参照)。
【0009】
また、イオン性重合体によるコンタクトレンズの表面コーティングが開示されている(特許文献5~7参照)。
【0010】
さらに、湿潤剤を用いてカップリング剤を添加することなしに湿潤性を改良させる医療用デバイスの表面コーティングが開示されている(特許文献8参照)。
【文献】国際公開第2013/024799号
【文献】特表2013-533517号公報
【文献】特表2010-508563号公報
【文献】特表2014-533381号公報
【文献】特開昭54-116947号公報
【文献】特開昭63-246718号公報
【文献】特開2002-047365号公報
【文献】特表2003-535626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載されているような、従来のLbLコーティングにおいては、3層~20層程度といった多層を積層させることが通常行われている。多層を積層させると製造工程が増えるため、製造コストの増大を招くおそれがあった。また、この方法により得られたLbLコーティングについて検討したところ、耐久性に課題がみられた。
【0012】
特許文献2に記載されているような架橋を用いたコーティングにおいては、架橋したポリマー層の厚みが0.1μm以上であるため、例えば、眼用レンズといった医療デバイスに用いる場合に、ポリマー層の厚みを厳密に制御しないと網膜に焦点をあわせるための光の屈折が乱れて視界不良が起こりやすくなる問題があった。また、ポリマー層の厚みの厳密な制御を必要としたり、ポリマーを基材に架橋するため複雑な工程を必要としたりするため、製造コストの増大を招くおそれがあった。
【0013】
特許文献3に記載されているような改良されたLbLコーティングにおいては、適用できる基材は含水性のヒドロゲルに限定されている。さらに、この方法により得られたLbLコーティングについて検討したところ、表面の親水性などの性能が不十分であった。
【0014】
特許文献4に記載されているような、1度の熱処理によりシリコーンヒドロゲル表面に2種類の親水性ポリマーを架橋させる方法に関しても、適用できる基材は含水性のヒドロゲルに限定されている。また、熱処理は115℃~125℃の温度で実施されるため、オートクレーブ処理を必要とするものであった。さらに、特許文献4に記載されているような方法では、熱処理前にカルボキシル基含有ポリマーをシリコーンヒドロゲル表面に架橋させる工程が必要である。また、架橋しうる親水性ポリマー材料のエポキシド基と、シリコーンヒドロゲル表面に架橋されたカルボキシル基との間の共有結合を介して、親水性ポリマーをレンズ表面に架橋させている。この架橋は水溶液中で行われる。このような複雑な工程を必要とするため、製造コストの増大を招くおそれがあった。
【0015】
特許文献5~7に記載されているような、イオン性重合体によるコンタクトレンズの表面コーティングにおいては、表面の親水性などの性能が依然不十分であった。
【0016】
特許文献8に記載されている医療用デバイスの表面コーティングにおいては、表面の親水性などの性能が依然不十分であった。
【0017】
本発明は、上記の従来技術が有する課題に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明では、表面が親水化された耐久性に優れる医療デバイスおよびそれを簡便に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の目的を達成するために、本発明は次の構成を有する。
【0019】
本発明は、基材と、親水性ポリマー層を含み、次の要件を満たす医療デバイスに関する。
(1)前記基材の少なくとも一部に前記親水性ポリマー層を有する;
(2)前記親水性ポリマー層が、酸性基を有する親水性ポリマーと、酸性基および環構造を有する化合物とを含む;
(3)リン酸緩衝液に静置して浸漬した後に、リン酸緩衝液から引き上げて空中において保持した際の、表面の液膜が保持される時間(液膜保持時間)が10秒以上である。
【0020】
また、本発明は、基材と、親水性ポリマー層を含む医療デバイスを製造する方法であって、前記基材を、2.0以上6.0以下の初期pHを有する溶液中に配置して、前記溶液を加熱する工程を含み、前記溶液が、酸性基を有する親水性ポリマーと、酸性基および環構造を有する化合物を含むものである、医療デバイスの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、従来技術とは異なり、耐久性に優れた親水性が付与された医療デバイスを得ることができる。また、適用できる基材は含水性のヒドロゲルおよびシリコーンヒドロゲルに限られない。また、これらの医療デバイスを、加圧を要しないより簡便な熱処理によって得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の医療デバイスは、基材と、親水性ポリマー層を含み、次の要件を満たす。
(1)前記基材の少なくとも一部に前記親水性ポリマー層を有する;
(2)前記親水性ポリマー層が、酸性基を有する親水性ポリマーと、酸性基および環構造を有する化合物とを含む;
(3)リン酸緩衝液に静置して浸漬した後に、リン酸緩衝液から引き上げて空中において保持した際の、表面の液膜が保持される時間(液膜保持時間)が10秒以上である。
【0023】
本発明の医療デバイスは、レンズ形状を有しても良く、眼用レンズであることが好ましい。具体的には、コンタクトレンズ、眼内レンズ、人工角膜、角膜インレイ、角膜オンレイ、メガネレンズなどの眼用レンズが挙げられる。
【0024】
本発明の医療デバイスは、チューブ状をなしても良い。チューブ状デバイスの例として、輸液用チューブ、気体輸送用チューブ、排液用チューブ、血液回路、被覆用チューブ、カテーテル、ステント、シース、チューブコネクター、アクセスポートなどが挙げられる。
【0025】
本発明の医療デバイスは、シート状またはフィルム状をなしても良い。具体的には、皮膚用被覆材、創傷被覆材、皮膚用保護材、皮膚用薬剤担体、バイオセンサーチップ、内視鏡用被覆材などが挙げられる。
【0026】
本発明の医療デバイスは、収納容器形状を有しても良い。具体的には、薬剤担体、カフ、排液バッグなどが挙げられる。
【0027】
眼用レンズ、中でもコンタクトレンズは本発明の最も好ましい態様の一つである。
【0028】
本発明において、医療デバイスの基材としては、含水性の基材および非含水性の基材のいずれも使用することができる。含水性の基材の材料としては、ヒドロゲルおよびシリコーンヒドロゲル等を挙げることができる。シリコーンヒドロゲルは、優れた装用感を与える柔軟性と高い酸素透過性を有するために特に好ましい。非含水性の基材の材料としては、低含水性軟質材料および低含水性硬質材料等を挙げることができる。
【0029】
本発明は、含水性の基材の材料に関しては、シリコーンを含まない一般のヒドロゲルにも、シリコーンを含むヒドロゲル(以下、シリコーンヒドロゲルと呼ぶ)にも適用可能である。表面物性を大きく向上させることができることからシリコーンヒドロゲルに特に好適に用いることができる。
【0030】
以下、素材を表すのにUnited States Adopted Names(USAN)を用いる場合がある。USANにおいては末尾にA、B、C等の記号を添えて素材の変種を表す場合があるが、本明細書では末尾の記号を付与しない場合にはすべての変種を含むものとする。例えば単に「ocufilcon」と表記した場合は、「ocufilconA」、「ocufilconB」、「ocufilconC」、「ocufilconD」、「ocufilconE」、「ocufilconF」等のocufilconのすべての変種を表す。
【0031】
ヒドロゲルの具体例としては、例えばヒドロゲルがコンタクトレンズの場合、米国食品医薬品局(FDA)が定めるコンタクトレンズの分類Group1~Group4に属する群から選ばれる1種類以上を含むヒドロゲルが好ましい。良好な水濡れ性および防汚性を示すことから、より好ましくはGroup2およびGroup4に属する群から選ばれる1種類以上、特に好ましいはGroup4に属する群から選ばれる1種類以上である。
【0032】
Group1は、含水率50質量%未満かつ非イオン性のヒドロゲルレンズを示す。具体的には、tefilcon、tetrafilcon、helfilcon、mafilcon、polymaconおよびhioxifilconなどが挙げられる。
【0033】
Group2は、含水率が50質量%以上かつ非イオン性のヒドロゲルレンズを示す。具体的には、alfafilcon、omafilcon、hioxifilcon、nelfilcon、nesofilcon、hilafilconおよびacofilconなどが挙げられる。良好な水濡れ性および防汚性を示すことから、omafilcon、hioxifilcon、nelfilcon、nesofilconがより好ましく、omafilcon、hioxifilconがさらに好ましく、omafilconが特に好ましい。
【0034】
Group3は、含水率50質量%未満かつイオン性のヒドロゲルレンズを示す。具体的には、deltafilconなどが挙げられる。
【0035】
Group4は、含水率が50質量%以上かつイオン性のヒドロゲルレンズを示す。具体的には、etafilcon、focofilcon、ocufilcon、phemfilcon、methafilcon、およびvilfilconなどが挙げられる。良好な水濡れ性および防汚性を示すことから、etafilcon、focofilcon、ocufilcon、phemfilconがより好ましく、etafilcon、ocufilconがさらに好ましく、etafilconが特に好ましい。
【0036】
また、シリコーンヒドロゲルの具体例としては、例えば医療デバイスがコンタクトレンズの場合、米国食品医薬品局(FDA)が定めるコンタクトレンズの分類Group5に属する群から選ばれるシリコーンヒドロゲルが好ましい。
【0037】
シリコーンヒドロゲルとしては、主鎖および/または側鎖にケイ素原子を含有し、かつ、親水性を有するポリマーが好ましく、例えばシロキサン結合を含有するモノマーと親水性モノマーとのコポリマーなどが挙げられる。
【0038】
具体的には、lotrafilcon、galyfilcon、narafilcon、senofilcon、comfilcon、enfilcon、balafilcon、efrofilcon、fanfilcon、somofilcon、samfilcon、olifilcon、asmofilcon、formofilcon、stenfilcon、abafilcon、mangofilcon、riofilcon、sifilcon、larafilconおよびdelefilconなどが挙げられる。良好な水濡れ性および易滑性を示すことから、lotrafilcon、galyfilcon、narafilcon、senofilcon、comfilcon、enfilcon、stenfilcon、somofilcon、delefilcon、balafilcon、samfilconがより好ましく、lotrafilcon、narafilcon、senofilcon、comfilcon、enfilconがさらに好ましく、narafilcon、senofilcon、comfilconが特に好ましい。
【0039】
低含水性軟質材料および低含水性硬質材としては、例えば、眼用レンズ等の医療デバイスに用いた場合、角膜への十分な酸素供給が可能な高い酸素透過性を示すことから、ケイ素原子を含む材料が好ましい。
【0040】
低含水性硬質材料の具体例としては、例えば低含水性硬質材料がコンタクトレンズの場合、米国食品医薬品局(FDA)が定めるコンタクトレンズの分類に属する群から選ばれる低含水性硬質材料が好ましい。
【0041】
かかる低含水性硬質材料としては、主鎖および/または側鎖にケイ素原子を含有するポリマーが好ましい。ケイ素原子を含有するポリマーにおいて、酸素透過性の点からケイ素原子がシロキサン結合によりポリマー中に含有されるものが好ましい。かかるポリマーの具体例としては、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルメタクリレート、両末端に二重結合を持ったポリジメチルシロキサン、シリコーン含有(メタ)アクリレートなどを用いたホモポリマー、あるいはこれらのモノマーと他のモノマーとのコポリマーなどが挙げられる。
【0042】
具体的には、neofocon、pasifocon、telefocon、silafocon、paflufocon、petrafocon、fluorofoconおよびtisilfoconなどが挙げられる。良好な水濡れ性と防汚性を示すことから、neofocon、pasifocon、telefocon、silafoconおよびtisilfoconがより好ましく、neofocon、pasifocon、telefoconおよびtisilfoconがさらに好ましく、neofoconおよびtisilfoconが特に好ましい。
【0043】
本発明の医療デバイスがコンタクトレンズ以外の態様である場合、低含水性硬質材料として好適なものは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド、ポリエステル、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル等などが挙げられる。良好な水濡れ性と防汚性を示すことからポリスルホン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレートがさらに好ましく、ポリメチルメタクリレートが特に好ましい。
【0044】
低含水性軟質材料の具体例としては、例えば国際公開第2013/024799号に記載されているような含水率が10質量%以下、弾性率が100kPa以上2,000kPa以下、引張伸度が50%以上3,000%以下の医療デバイスに使用される低含水性軟質材料が挙げられる。elastofilconもまた好適である。
【0045】
本発明の医療デバイスが眼用レンズ以外の態様である場合、低含水性軟質材料の好適な例は、シリコーンエラストマー、軟質ポリウレタン、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、軟質ポリエステル樹脂、軟質アクリル樹脂、軟質ポリ塩化ビニル、天然ゴム、各種合成ゴム等である。
【0046】
本発明によれば、基材が含水性であっても、低含水性であっても、医療デバイスの表面に適度な親水性と易滑性を付与することができる。したがって、基材の含水率としては0~99質量%のいずれでもよい。医療デバイス表面に適度な親水性と易滑性を付与する効果が一段と高いことから、基材の含水率としては0.0001質量%以上が好ましく、特に好ましくは0.001質量%以上である。また、基材の含水率は、60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。
【0047】
医療デバイスがコンタクトレンズである場合、眼の中でのレンズの動きが確保されやすいことから、基材の含水率としては15質量%以上が好ましく、さらに好ましくは20質量%以上である。
【0048】
本発明の医療デバイスは、基材の少なくとも一部に親水性ポリマー層が設けられており、前記親水性ポリマー層が、酸性基を有する親水性ポリマーと、酸性基および環構造を有する化合物とを含む。
【0049】
ここで、基材の少なくとも一部に親水性ポリマー層が設けられているとは、親水性ポリマー層が基材の表面および基材の内部の何れに存在しても良い。また基材の表面と基材の内部の両方に親水性ポリマー層が存在していても良い。親水性ポリマーの持つ親水性を好適に発揮させるためには、少なくとも基材表面の一部に親水性ポリマー層が設けられていることが好ましい。少なくとも基材表面の一部に親水性ポリマー層が設けられていることによって、医療デバイスの表面の少なくとも一部に親水性が与えられる。また、表面に形成された親水性ポリマー層の一部が、基材の内部に入り込んでいてもよい。
【0050】
本発明の医療デバイスにおいて、親水性ポリマー層を構成する材料は、通常は基材とは異なる材料である。ただし、所定の効果が得られるのであれば、親水性ポリマー層を構成する材料と基材を構成する材料が同一の材料であってもよい。
【0051】
本発明の医療デバイスにおける親水性ポリマー層は、酸性基を有する親水性ポリマーを含む。
【0052】
ここで、親水性ポリマーとは、室温(20~23℃)の水100質量部に0.0001質量部以上可溶なポリマーである。親水性ポリマーは、水100質量部に0.01質量部以上可溶であるとより好ましく、0.1質量部以上可溶であればさらに好ましく、1質量部以上可溶であれば特に好ましい。
【0053】
酸性基を含む親水性ポリマーは、水濡れ性のみならず体液等に対する防汚性に優れた表面を形成できるために好ましい。ここでいう酸性基としては、カルボキシ基およびスルホン酸基から選ばれた基が好ましく、カルボキシ基が特に好ましい。酸性基は、塩になっていてもかまわない。
【0054】
上記酸性基を有する親水性ポリマーの例は、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸、ポリ(ビニル安息香酸)、ポリ(チオフェン-3-酢酸)、ポリ(4-スチレンスルホン酸)、ポリビニルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)およびこれらの塩などである。以上はホモポリマーの例であるが、前記親水性ポリマーを構成する親水性モノマー同士の共重合体、あるいは該親水性モノマーと他のモノマーの共重合体も好適に用いることができる。
【0055】
酸性基を含む親水性ポリマーが共重合体である場合、該共重合体を構成する酸性基を有する親水性モノマーとしては、重合性の高さという点でアリル基、ビニル基、および(メタ)アクリロイル基から選ばれた基を有するモノマーが好ましく、(メタ)アクリロイル基を有するモノマーが特に好ましい。このようなモノマーとして好適なものを例示すれば、(メタ)アクリル酸、ビニル安息香酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、およびこれらの塩などが挙げられる。これらの中で、(メタ)アクリル酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、およびこれらの塩から選ばれたモノマーがより好ましく、特に好ましいのは(メタ)アクリル酸、およびその塩から選ばれたモノマーである。
【0056】
上記酸性基を有する親水性ポリマーは、酸性基に加えて、アミド基を有することが好ましい。酸性基に加えてアミド基を有する場合、親水性ポリマーが水に溶解されたときに適度な粘性を発現するため、水濡れ性のみならず易滑性のある表面を基材上に形成できる。なお、本発明においてアミド基とはN-C=Oで表される構造を含む基である。
【0057】
酸性基およびアミド基を有する親水性ポリマーの例としては、カルボキシル基を有するポリアミド類、前記酸性基を有する親水性モノマーとアミド基を有するモノマーとの共重合体などを挙げることができる。
【0058】
カルボキシル基を有するポリアミド類の好適な例としては、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸などのポリアミノ酸やポリペプチド類などを挙げることができる。
【0059】
アミド基を有するモノマーとしては、重合の容易さの点で(メタ)アクリルアミド基を有するモノマーおよびN-ビニルカルボン酸アミド(環状のものを含む)から選ばれたモノマーが好ましい。かかるモノマーの好適な例としては、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルアセトアミド、N-メチル-N-ビニルアセトアミド、N-ビニルホルムアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-ブチルアクリルアミド、N-tert-ブチルアクリルアミド、N-ヒドロキシメチルアクリルアミド、N-メトキシメチルアクリルアミド、N-エトキシメチルアクリルアミド、N-プロポキシメチルアクリルアミド、N-イソプロポキシメチルアクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N-ブトキシメチルアクリルアミド、N-イソブトキシメチルアクリルアミド、N-ヒドロキシメチルメタクリルアミド、N-メトキシメチルメタクリルアミド、N-エトキシメチルメタクリルアミド、N-プロポキシメチルメタクリルアミド、N-ブトキシメチルメタクリルアミド、N-イソブトキシメチルメタクリルアミド、アクリロイルモルホリン、およびアクリルアミドを挙げることができる。これら中でも易滑性の点で好ましいのは、N-ビニルピロリドン、N,N-ジメチルアクリルアミドおよびN,N-ジエチルアクリルアミドであり、N,N-ジメチルアクリルアミドが特に好ましい。
【0060】
酸性基を有する親水性モノマーとアミド基を有するモノマーとの共重合体の好ましい具体例は、(メタ)アクリル酸/N-ビニルピロリドン共重合体、(メタ)アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体、(メタ)アクリル酸/N,N-ジエチルアクリルアミド共重合体、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸/N-ビニルピロリドン共重合体、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体および2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸/N,N-ジエチルアクリルアミド共重合体である。特に好ましくは(メタ)アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体である。
【0061】
酸性基を有する親水性モノマーとアミド基を有するモノマーの共重合体を用いる場合、その共重合比率は、[酸性基を有する親水性モノマーの質量]/[アミド基を有するモノマーの質量]が1/99~99/1のものが好ましい。酸性基を有する親水性モノマーの共重合比率は、2質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましく、7質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらにより好ましい。また、酸性基を有する親水性モノマーの共重合比率は、90質量%以下がより好ましく、80質量%以下がさらに好ましく、70質量%以下がさらにより好ましい。アミド基を有するモノマーの共重合比率は、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましく、30質量%以上がさらにより好ましい。また、アミド基を有するモノマーの共重合比率は、98質量%以下がより好ましく、95質量%以下がさらに好ましく、93質量%以下がさらに好ましく、90質量%以下がさらにより好ましい。酸性基を有する親水性モノマーとアミド基を有するモノマーの共重合比率が上記の範囲であれば、易滑性や体液に対する防汚性などの機能を発現しやすくなる。
【0062】
また、上記酸性基を有する親水性モノマーやアミド基を有するモノマーとしては、それぞれ2種類以上のモノマーを共重合させることも可能である。また、酸性基やアミド基を有しないモノマーを1種類もしくは複数共重合させることも可能である。
【0063】
上記以外のモノマーの好適な例としては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性2?ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N?(4?ヒドロキシフェニル)マレイミド、ヒドロキシスチレン、ビニルアルコール(もしくは、前駆体としてのカルボン酸ビニルエステル)を挙げることができる。この内、重合の容易さの点で(メタ)アクリロイル基を有するモノマーが好ましく、(メタ)アクリル酸エステルモノマーがより好ましい。体液に対する防汚性を向上させる観点から、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、およびグリセロール(メタ)アクリレートが好ましく、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが特に好ましい。また、親水性、抗菌性、防汚性、薬効性等といった機能を示すモノマーを使用することも可能である。
【0064】
酸性基を有する親水性モノマーとアミド基を有するモノマーの共重合体に、酸性基やアミド基を有しないモノマーである第3のモノマー成分を共重合させる場合、第3のモノマー成分の共重合比率は、2質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましく、10質量%以上がさらにより好ましい。また、第3のモノマー成分の共重合比率は、90質量%以下がより好ましく、80質量%以下がさらに好ましく、70質量%以下がさらにより好ましい。
【0065】
酸性基を有するモノマーとアミド基を有するモノマーおよび第3のモノマー成分の共重合比率が上記の範囲であれば、易滑性や体液に対する防汚性などの機能を発現しやすくなる。
【0066】
また、親水性ポリマー層には、酸性基を含む親水性ポリマーに加え、他の親水性ポリマーが1種類もしくは複数含まれていてもよい。ただし、製造方法が複雑になる傾向があることから、親水性ポリマー層は、1種類の酸性基を含む親水性ポリマーのみからなることが好ましい。
【0067】
ここで、1種類のポリマーとは、1の合成反応により製造されたポリマーもしくはポリマー群(異性体、錯体等)を意味する。複数のモノマーを用いて共重合ポリマーとする場合は、構成するモノマー種が同一であっても、配合比を変えて合成したポリマーは同じ1種類のポリマーとは言わない。
【0068】
また、親水性ポリマー層が1種類の酸性基を含む親水性ポリマーのみからなるとは、親水性ポリマー層が、該酸性基を有する親水性ポリマー以外のポリマーを全く含まないか、もしくは、仮にそれ以外のポリマーを含んだとしても、該酸性基を有する親水性ポリマー100質量部に対し、それ以外のポリマーの含有量が3質量部以下であることを意味する。それ以外のポリマーの含有量は、0.1質量部以下がより好ましく、0.0001質量部以下がさらに好ましい。
【0069】
それ以外のポリマーが塩基性基を含む塩基性ポリマーの場合であっても、含有量が上記の範囲内であれば、透明性に問題が生じることを抑制できる。ここで、塩基性基とは、塩基性の官能基を示し、アミノ基およびその塩などが挙げられる。従来技術においては、静電吸着作用を利用して基材の表面に親水性ポリマーを積層するため、酸性ポリマーと塩基性ポリマーを併用していたが、本発明によれば、1種類のポリマーのみからなる親水性ポリマー層を基材表面上に形成することもできる。
【0070】
親水性ポリマー層が塩基性ポリマーを含む場合、親水性ポリマー層に含まれる塩基性基/酸性基の数比は0.2以下が好ましい。酸性基と塩基性基の反応由来の塩が形成されず、透明性に優れることから、該比率は0.1以下がより好ましく、0.05以下がさらに好ましい。
【0071】
親水性ポリマー層を構成する酸性基を有する親水性ポリマーは、基材の表面の少なくとも一部と、水素結合、イオン結合、ファンデルワールス結合、疎水結合および錯形成から選ばれる1種類以上の化学結合を形成することが好ましい。ここで、親水性ポリマー層は、基材との間に共有結合により結合されていてもよいが、簡便な工程での製造が可能となることから、むしろ、基材との間に共有結合を有していないことが好ましい。
【0072】
本発明の医療デバイスにおける親水性ポリマー層は、酸性基を有する親水性ポリマーに加えて、酸性基および環構造を有する化合物を含む。酸性基および環構造を有する化合物を含むことにより、より低い温度の熱処理条件、あるいは、加圧を要しないより簡便な熱処理条件において基材上に親水性ポリマー層を形成させやすいことから、好ましい。
【0073】
さらに、前記酸性基および環構造を有する化合物として、抗菌薬、抗アレルギー薬、緑内障治療薬、抗炎症薬、抗白内障薬、角膜治療薬およびビタミン薬からなる群から選ばれる1種以上の薬効を有する化合物を含むことが好ましい。この場合、上記親水性ポリマー層に、薬効性を付与可能であることからさらに好ましい。
【0074】
酸性基および環構造を有する化合物の酸性基としては、カルボキシ基、ヒドロキシル基およびスルホン酸基から選ばれた基が好ましく、カルボキシ基またはヒドロキシル基がより好ましく、カルボキシ基がさらに好ましい。化合物中にカルボキシル基とヒドロキシル基の両方を有していることが最も好ましい。酸性基は、塩になっていてもかまわない。
【0075】
上記酸性基および環構造を有する化合物の例としては、グリチルリチン酸二カリウム、グリチルリチン酸二カリウム水和物、ピリドキシン塩酸塩、L-ヒスチジン、イブプロフェン、インドメタシン、エトドラク、カテコール、フェノール、レゾルシノール、安息香酸ナトリウム、フタル酸二ナトリウムおよびテレフタル酸二ナトリウムなどが挙げられる。グリチルリチン酸二カリウムおよびグリチルリチン酸二カリウム水和物は抗アレルギー薬として使用される。ピリドキシン塩酸塩およびL-ヒスチジンはビタミン薬として使用される。イブプロフェン、インドメタシンおよびエトドラクは抗炎症薬として使用される。カテコール、フェノール、レゾルシノール、安息香酸ナトリウム、フタル酸二ナトリウムおよびテレフタル酸二ナトリウムは抗菌薬または緑内障治療薬として使用される。
【0076】
親水性ポリマー溶液に対する溶解性が良好で取り扱い性に優れることから、中でもグリチルリチン酸二カリウム、グリチルリチン酸二カリウム水和物、ピリドキシン塩酸塩、L-ヒスチジン、フェノール、カテコール、レゾルシノール、安息香酸ナトリウム、フタル酸二ナトリウムおよびテレフタル酸二ナトリウムから選ばれた化合物が好ましく、より緩和された熱処理条件で基材に親水性ポリマー層を形成させやすいことから、グリチルリチン酸二カリウム、グリチルリチン酸二カリウム水和物、ピリドキシン塩酸塩、L-ヒスチジン、安息香酸ナトリウム、フタル酸二ナトリウムおよびテレフタル酸二ナトリウムから選ばれた化合物がより好ましく、グリチルリチン酸二カリウムまたはグリチルリチン酸二カリウム水和物がさらに好ましい。
【0077】
本発明の医療デバイスにおける親水性ポリマー層には、親水性の発現を損ねない限りは、上記以外の添加剤等が含まれていてもよい。
【0078】
本発明の医療デバイスは、基材の少なくとも一部に親水性ポリマー層が設けられている。基材の少なくとも一部に前記親水性ポリマー層が設けられているとは、例えば、基材表面における一つの面の全面にポリマー層が存在することが挙げられる。基材が厚みを有しない、または、厚みがあっても無視できる程度の2次元形状の場合は、基材表面の片面全面の上にポリマー層が存在することも好ましい。また、基材の全表面の上にポリマー層が存在することも好ましい。
【0079】
また、親水性ポリマー層は、基材が含水性であるか、非含水性であるかを問わずに、簡便な工程での製造が可能となることから、基材との間に共有結合を有していないことが好ましい。共有結合を有していないことは、化学反応性基、あるいはそれが反応して生じた基を含まないことで判定する。化学反応性基の具体例としては、アゼチジニウム基、エポキシ基、イソシアネート基、アジリジン基、アズラクトン基およびそれらの組合せなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0080】
親水性ポリマー層の厚みは、乾燥状態のデバイスの垂直断面を、透過型電子顕微鏡を用いて観察したときに、1nm以上100nm未満であることが好ましい。厚みがこの範囲にある場合に、水濡れ性や易滑性などの機能を発現しやすくなる。厚みは、5nm以上がより好ましく、10nm以上がさらに好ましい。また、厚みは、95nm以下がより好ましく、90nm以下がさらに好ましく、85nm以下がさらに好ましく、50nm以下がさらに好ましく、30nm以下がさらに好ましく、20nm以下がさらに好ましく、15nm以下がさらに好ましく、特に好ましくは、10nm以下である。親水性ポリマー層の厚みが100nm未満であれば、水濡れ性や易滑性に優れ、例えば、眼用レンズといった医療デバイスに用いる場合、網膜に焦点をあわせるための光の屈折が乱れず視界不良が起こりにくくなる。
【0081】
また、本発明の医療デバイスは、前記親水性ポリマー層の少なくとも一部が基材と混和した状態で存在することが好ましい。親水性ポリマー層が基材と混和した状態は、医療デバイスの断面を走査透過電子顕微鏡法、電子エネルギー損失分光法、エネルギー分散型X線分光法、飛行時間型2次イオン質量分析法等の元素分析または組成分析を行える観察手段で観察したときに、親水性ポリマー層形成前後における基材の断面構造および親水性ポリマー層の少なくとも一部に基材由来の元素が検出されることで確認できる。親水性ポリマー層が基材と混和することにより、親水性ポリマー層が基材により強固に固定されうる。
【0082】
親水性ポリマー層の少なくとも一部が基材と混和した状態で存在する場合、「親水性ポリマー層の少なくとも一部が基材と混和した層」(以下混和層)と「親水性ポリマーからなる層」(以下単独層)からなる二層構造が観察されることが好ましい。混和層の厚みは、混和層と単独層の合計厚みに対して、3%以上が好ましく、5%以上がより好ましく、10%以上がさらに好ましい。混和層の厚みは、混和層と単独層の合計厚みに対して、98%以下が好ましく、95%以下がより好ましく、90%以下がさらに好ましく、80%以下が特に好ましい。混和層の厚み割合が上記3%以上であると、親水性ポリマーと基材の混和が十分となり、親水性ポリマーが基材により強固に固定されうるため好ましい。また、混和層の厚み割合が上記98%以下であると、親水性ポリマーのもつ親水性が十分に発現しやすくなるため好ましい。
【0083】
本発明の医療デバイスが、例えば生体表面に貼付して用いられる医療デバイスや眼用レンズといった眼用デバイスである場合、使用者の皮膚等への貼り付きを防止する観点および装用者の角膜への貼り付きを防止する観点から、医療デバイスの表面の液膜保持時間が長いことが好ましい。
【0084】
ここで、本発明における液膜保持時間とは、本発明の医療デバイスをリン酸緩衝液に静置して浸漬した後に、リン酸緩衝液から引き上げて空中において保持した際の、表面の液膜が保持される時間をいう。詳しくは、リン酸緩衝液に静置して浸漬した医療デバイスを液から引き上げ、空中に表面が垂直になるように保持した際に、医療デバイスを垂直になるように保持し始めた時点から、医療デバイス表面を覆っているリン酸緩衝液の液膜が切れるまでの時間である。なお「液膜が切れる」とは医療デバイスの表面で水をはじく現象が起き、医療デバイス表面が完全に液膜に覆われている状態ではなくなる状態を指す。
【0085】
本発明の医療デバイスは、リン酸緩衝液に静置して浸漬した後に、リン酸緩衝液から引き上げて空中において保持した際の、表面の液膜が保持される時間(液膜保持時間)が10秒以上である。また、液膜保持時間は、15秒以上が好ましく、20秒以上がより好ましい。液膜保持時間の上限範囲は特に限定されないが、本発明の医療デバイスにおいては、液膜保持時間が長過ぎると医療デバイス表面からの水分蒸発が進行しやすく親水性ポリマー層の効果が薄くなることから300秒以下であることが好ましく、200秒以下であることがより好ましい。
【0086】
本発明の医療デバイスが、例えば眼用レンズといった眼用デバイスである場合、装用者の角膜への貼り付きを防止する観点から、医療デバイス表面の動的接触角が低いことが好ましい。動的接触角は、60°以下が好ましく、55°以下がより好ましく、50°以下が特に好ましい。動的接触角(前進時、浸漬速度:0.1mm/sec)は、リン酸緩衝液による湿潤状態の試料にて測定される。リン酸緩衝液による湿潤状態とは、試料をリン酸緩衝液に浸漬して室温で24時間以上静置した状態である。
【0087】
また、本発明の医療デバイスが例えば生体内に挿入して用いられる医療デバイスである場合、医療デバイスの表面が優れた易滑性を有することが好ましい。易滑性を表す指標としては、本明細書の実施例に示した方法で測定される摩擦係数が小さい方が好ましい。摩擦係数は、0.7以下が好ましく、0.5以下がより好ましく、0.3以下が特に好ましい。また、摩擦が極端に小さいと脱着用時の取扱が難しくなる傾向があるので、摩擦係数は0.001以上が好ましく、0.002以上がより好ましい。
【0088】
本発明の医療デバイスの引張弾性率は、医療デバイスの種類に応じて適宜選択されるべきものであるが、眼用レンズなどの軟質医療デバイスの場合は、引張弾性率は10MPa以下が好ましく、5MPa以下が好ましく、3MPa以下がより好ましく、2MPa以下がさらに好ましく、1MPa以下がよりいっそう好ましく、0.6MPa以下が最も好ましい。また、引張弾性率は、0.01MPa以上が好ましく、0.1MPa以上がより好ましく、0.2MPa以上がさらに好ましく、0.25MPa以上が最も好ましい。眼用レンズなどの軟質医療デバイスの場合は、引張弾性率が小さすぎると、軟らかすぎてハンドリングが難しくなる傾向がある。引張弾性率が大きすぎると、硬すぎて装用感および装着感が悪くなる傾向がある。
【0089】
本発明の医療デバイスの防汚性は、脂質(パルミチン酸メチル)付着により、評価することができる。これらの評価による付着量が少ないものほど、使用感に優れるとともに、細菌繁殖リスクが低減されるために好ましい。防汚性の測定方法の詳細は後述する。
【0090】
次に、本発明の医療デバイスの製造方法について説明する。
【0091】
本発明の医療デバイスの製造方法は、基材と、親水性ポリマー層を含む医療デバイスを製造する方法であって、前記基材を、2.0以上6.0以下の初期pHを有する溶液中に配置して、前記溶液を加熱する工程を含み、前記溶液が、酸性基を有する親水性ポリマーと、酸性基および環構造を有する化合物とを含むものである、また、前記溶液が、酸を含んでもよい。
【0092】
ここで、本発明の発明者らは、基材を、酸性基を有する親水性ポリマーおよび酸性基および環構造を有する化合物を含有する、初期pH2.0以上6.0以下の溶液中に配置した状態で加熱するという極めて簡便な方法によって、医療デバイスに優れた水濡れ性や易滑性等を付与しうることを見出した。さらに、加熱の条件は100℃未満の低温を採用できることから必ずしも加圧を必要としない。
【0093】
この方法によれば、従来知られている特別な方法、たとえば酸性ポリマーと塩基性ポリマーを併用した静電吸着作用を利用した方法、などによらずとも、酸性基を含む親水性ポリマー層を有した基材を得ることができる。さらに酸性基および環構造を有する化合物が、抗菌薬、抗アレルギー薬、緑内障治療薬、抗炎症薬、抗白内障薬、角膜治療薬およびビタミン薬からなる群から選ばれる1種以上の薬効を有する化合物である場合、上記親水性ポリマー層にそれらの薬効性を付与することも可能である。これらは製造工程の短縮化という観点から、工業的に非常に重要な意味を持つ。
【0094】
親水性ポリマーは、2,000~1,500,000の分子量を有することが好ましい。十分な水濡れ性や易滑性を示すことから、分子量は、好ましくは、50,000以上であり、より好ましくは、250,000以上であり、さらに好ましくは500,000以上である。また、分子量は、1,200,000以下が好ましく、1,000,000以下がより好ましく、900,000以下がさらに好ましい。ここで、上記分子量としては、ゲル浸透クロマトグラフィー法(水系溶媒)で測定されるポリエチレングリコール換算の質量平均分子量を用いる。
【0095】
また、製造時の親水性ポリマーの溶液中の濃度については、これを高くすると、通常、得られる親水性ポリマー層の厚さは増す。しかし、親水性ポリマーの濃度が高すぎる場合、粘度増大により製造時の取り扱い難さが増す可能性があるため、親水性ポリマーの溶液中の濃度については、0.0001~30質量%が好ましい。親水性ポリマーの濃度は、より好ましくは、0.001質量%以上であり、さらに好ましくは、0.005質量%以上である。また、親水性ポリマーの濃度は、より好ましくは、20質量%以下であり、さらに好ましくは、15質量%以下である。
【0096】
さらに、製造時の酸性基および環構造を有する化合物の溶液中の濃度については、濃度が高すぎる場合、親水性ポリマー層の膜厚が過剰となるために製造時の取り扱い難さが増す可能性があるため、酸性基および環構造を有する化合物の溶液中の濃度については、0.0001~0.4質量%が好ましい。酸性基および環構造を有する化合物の濃度は、より好ましくは0.001質量%以上であり、さらに好ましくは、0.005質量%以上である。また、酸性基および環構造を有する化合物の濃度は、より好ましくは、0.3質量%以下であり、さらに好ましくは、0.2質量%以下である。
【0097】
上記工程において、親水性ポリマーを含有する溶液の初期pHの範囲としては、溶液に濁りが生じず、透明性が良好な医療デバイスが得られることから、2.0~6.0の範囲内であることが好ましい。初期pHは、2.1以上がより好ましく、2.2以上がさらに好ましく、2.4以上がさらにより好ましく、2.5以上が特に好ましい。また、初期pHは、5.0以下がより好ましく、4.0以下がさらに好ましく、3.5未満がさらにより好ましい。
【0098】
初期pHが2.0以上であると、溶液の濁りが生じる場合がより少なくなる。溶液に濁りが生じないと、医療デバイスの表面の水濡れ性および易滑性が高い傾向があるため好ましい。初期pHが6.0以下である場合、得られる親水性ポリマー層は基材と混在して存在する傾向が見られやすく、医療デバイスの表面の水濡れ性および易滑性が低下することもないため、好ましい。
【0099】
優れた水濡れ性と易滑性を基材に付与可能であることから、基材がケイ素原子を含む材料である場合、親水性ポリマーを含有する溶液の初期pHの範囲としては、3.4以下が好ましく、3.3以下がより好ましく、3.2以下がさらに好ましい。基材がケイ素原子を含まない材料である場合、初期pHの範囲として4.0以下が好ましく、3.5以下がより好ましく、3.3以下がさらに好ましい。
【0100】
上記溶液のpHは、pHメーター(例えばpHメーター Eutech pH2700(Eutech Instruments))を用いて測定することができる。ここで、親水性ポリマーを含有する溶液の初期pHとは、溶液に親水性ポリマーおよび前記化合物ならびに酸を全て添加した後、室温(23~25℃)にて2時間回転子を用い撹拌し、溶液を均一とした後であって、かつ、基材を溶液中に配置して加熱する前に測定した溶液のpHの値を指す。なお、本発明において、pHの値の小数点以下第2位は四捨五入する。
【0101】
なお、溶液のpHは、加熱操作を行った際に変化し得る。加熱操作を行った後の溶液のpHも、2.0~6.0であることが好ましい。加熱後のpHは、2.1以上がより好ましく、2.2以上がより好ましく、2.3以上が特に好ましい。また加熱後のpHは、5.9以下がより好ましく、5.5以下がより好ましく、5.0以下がさらに好ましく、4.8以下が特に好ましい。加熱操作を行った後の溶液のpHが、上記範囲である場合、加熱工程の間、溶液のpHが適切な条件に保たれ、得られる医療デバイスの物性が好適なものとなる。なお、本発明における加熱操作を行って医療デバイスに用いられる基材の表面を改質した後で、中和処理を行ったり、水を加えたりしてpHを調整することもできるが、ここでいう加熱操作を行った後の溶液のpHとは、かかるpH調整処理を行う前のpHである。
【0102】
上記親水性ポリマーを含む溶液の溶媒としては、水溶性有機溶媒、水、およびこれらの混合溶媒が好ましい例として挙げられる。水と水溶性有機溶媒の混合物、および水がより好ましく、水が最も好ましい。水溶性有機溶媒としては、各種水溶性アルコール類が好適であり、炭素数6以下の水溶性アルコールがより好適であり、炭素数5以下の水溶性アルコールがさらに好適である。
【0103】
溶液のpHは、溶液に酸を添加することによって調整することができる。このような酸としては、環構造を有さない低分子の酸が好ましい。ここで低分子とは、分子量が500以下、好ましくは300以下、さらに好ましくは250以下であることを意味する。環構造を有さない低分子の酸としては、有機酸および無機酸が使用できる。有機酸の好適な具体例としては、酢酸、クエン酸、ギ酸、アスコルビン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、メタンスルホン酸、プロピオン酸、酪酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸などを挙げることができる。無機酸の好適な具体例としては、硝酸、硫酸、リン酸、塩酸などを挙げることができる。これらの中で、より優れた親水性表面が得られやすいこと、生体に対する安全性が高いこと、取り扱いが容易であること、などの観点では有機酸が好ましく、炭素数1~20の有機酸がより好ましく、炭素数2~10の有機酸がさらに好ましい。有機酸の中では酢酸、クエン酸、ギ酸、アスコルビン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、メタンスルホン酸、プロピオン酸、酪酸、グリコール酸、乳酸およびリンゴ酸から選ばれた酸が好ましく、ギ酸、リンゴ酸、クエン酸およびアスコルビン酸から選ばれた酸がより好ましく、クエン酸またはアスコルビン酸がさらに好ましい。無機酸の中では、揮発性がなく無臭で取り扱いが容易であることなどの観点では、硫酸が好ましい。
【0104】
また、pHの微調整を容易にすることや基材が疎水性成分を含む材料である場合に基材が白濁化しにくくなることから、溶液に緩衝剤を添加することも好ましい。
【0105】
緩衝剤としては、生理学的に適合性のある公知の緩衝剤を使用することができる。例としては以下のとおりである。ホウ酸、ホウ酸塩類(例:ホウ酸ナトリウム)、クエン酸、クエン酸塩類(例:クエン酸カリウム)、重炭酸塩(例:重炭酸ナトリウム)、リン酸緩衝液(例:NaHPO、NaHPO、およびKHPO)、TRIS(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)、2-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ-2-(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオール、ビス-アミノポリオール、トリエタノールアミン、ACES(N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸)、BES(N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸)、HEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)、MES(2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸)、MOPS(3-[N-モルホリノ]-プロパンスルホン酸)、PIPES(ピペラジン-N,N’-ビス(2-エタンスルホン酸)、TES(N-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]-2-アミノエタンスルホン酸)、およびそれらの塩。
【0106】
緩衝剤の量としては、所望のpHを達成する上で有効であるために必要な分が用いられる。通常は、溶液中において0.001質量%~2質量%、好ましくは、0.01質量%~1質量%、より好ましくは、0.05質量%~0.30質量%存在することが好ましい。上記上限および下限のいずれを組み合わせた範囲であってもよい。
【0107】
上記加熱操作における加熱の方法としては、加温法(熱風)、高圧蒸気滅菌法、電磁波(γ線、マイクロ波など)照射、乾熱法、火炎法などが挙げられる。水濡れ性、易滑性、および製造工程短縮の観点から、加温法(熱風)が最も好ましい。装置としては、定温乾燥器または熱風循環式オーブンを用いることが好ましい。
【0108】
加熱温度は、良好な水濡れ性および易滑性を示す医療デバイス表面が得られ、かつ、医療デバイス自体の強度に影響が少ない観点から、50℃~100℃の範囲内であることが好ましい。加熱温度は、55℃以上がより好ましく、60℃以上がさらに好ましく、65℃以上がさらに好ましく、70℃以上が特に好ましい。また加熱温度は、99℃以下がより好ましく、90℃以下がさらに好ましく、85℃以下が特に好ましい。
【0109】
従来技術の加熱操作においては、加圧を必要とする100℃以上の条件において、基材表面に水酸基を有する親水性ポリマーをより固定化可能であった(例えば国際公開第2017/146102号)。
【0110】
しかし、本発明者らが検討したところ、加圧を必要としない低温条件においても、酸性基および環構造を有する化合物と、酸性基を有する親水性ポリマーを併用することによって、親水性ポリマー層をデバイス表面に固定化できることを見出し、処理温度の低温化に成功した。
【0111】
この理由は定かではないが、酸性基および環構造を有する化合物が、酸性基を有する親水性ポリマーとデバイス間の水素結合などの分子間相互作用を促進することにより、加圧を必要としない低温条件下でもデバイス表面に親水性ポリマー層を固定化できると推定している。
【0112】
なお、本発明の製造方法によって得られる医療デバイスにおいて、酸性基および環構造を有する化合物が得られた医療デバイスに残存している場合は、該化合物が薬効を有する場合、該化合物が本来有する薬効を医療デバイスにも付加することが可能であるメリットがあることは前記の通りである。しかしながら本発明の製造方法によれば、医療デバイスに酸性基および環構造を有する化合物が残存していない場合においても、上述の処理温度の低温化という効果を享受できる。
【0113】
加熱時間は、短すぎると良好な水濡れ性および易滑性を示す医療デバイス表面が得られにくく、長過ぎると医療デバイス自体の強度に影響を及ぼすおそれがあることから5分~600分が好ましい。加熱時間は、10分以上がより好ましく、15分以上がより好ましい。また、加熱時間は、400分以下がより好ましく、300分以下がより好ましい。
【0114】
上記の加熱処理後、得られた医療デバイスにさらに他の処理を行ってもよい。他の処理としては、親水性ポリマーを含んだ溶液中において再び同様の加熱処理を行う方法、溶液を、親水性ポリマーを含まない溶液に入れ替えて同様の加熱処理を行う方法、放射線照射を行う方法、反対の荷電を有するポリマー材料を1層ずつ交互にコーティングするLbL処理(Layer by Layer処理)を行う方法、金属イオンによる架橋処理を行う方法、化学架橋処理を行う方法などが挙げられる。
【0115】
また、上記の加熱処理前に、基材に前処理を行ってもよい。前処理としては、例えばポリアクリル酸などの酸や水酸化ナトリウムなどのアルカリを用いた加水分解処理などが挙げられる。
【0116】
ただし、簡便な方法により基材表面の親水化を可能とする本発明の思想に照らし、製造工程が複雑になり過ぎることのない範囲での処理の実施が好ましい。
【0117】
上記の放射線照射に用いる放射線としては、各種のイオン線、電子線、陽電子線、エックス線、γ線、中性子線などが好ましく、より好ましくは電子線またはγ線であり、最も好ましくはγ線である。
【0118】
上記のLbL処理としては、例えば国際公開第2013/024800号公報に記載されているような、酸性ポリマーと塩基性ポリマーを使用した処理を用いると良い。
【0119】
上記の金属イオンによる架橋処理に用いる金属イオンとしては、各種の金属イオンが好ましく、より好ましくは1価および2価の金属イオンであり、最も好ましくは2価の金属イオンである。また、キレート錯体を用いても良い。
【0120】
上記の化学架橋処理としては、例えば特表2014-533381号公報に記載されているようなエポキシ基とカルボキシル基との間の反応や公知の水酸基を有する酸性の親水性ポリマーとの間で形成される架橋処理を用いると良い。
【0121】
上記の溶液を、親水性ポリマーを含まない溶液に入れ替えて、同様の加熱処理を行う方法において、親水性ポリマーを含まない溶液としては、特に限定されないが、緩衝剤溶液が好ましい。緩衝剤としては、前記のものを用いることができる。
【0122】
緩衝剤溶液のpHは、生理学的に許容できる範囲である6.3~7.8が好ましい。緩衝剤溶液のpHは、好ましくは6.5以上、さらに好ましくは6.8以上である。また、緩衝剤溶液のpHは、7.6以下が好ましく、さらに好ましくは7.4以下である。
【0123】
本発明の製造方法においては、前記加熱する工程の終了後に得られる医療デバイスと、前記加熱する工程の開始前における基材の含水率との変化量が、10パーセンテージポイント以下であることが好ましい。ここで、含水率の変化量(パーセンテージポイント)とは、得られた医療デバイスの含水率(質量%)と、その原料となる基材の含水率(質量%)との差のことである。
【0124】
親水性ポリマー層形成前後の医療デバイスの含水率変化量は、例えば眼用レンズといった眼用デバイスに用いる場合、含水率が向上したことによる屈折率の歪みから引き起こされる視界不良や変形を防止する観点から、10パーセンテージポイント以下が好ましく、8パーセンテージポイント以下がより好ましく、6パーセンテージポイント以下が特に好ましい。含水率変化量の測定方法の詳細は後述する。
【0125】
本発明の医療デバイスの親水性ポリマー層形成前後の引張弾性率変化率は、15%以下が好ましく、14%以下がより好ましく、13%以下が特に好ましい。引張弾性率変化率が大きすぎると、変形や使用感不良を引き起こす恐れがあり好ましくない。引張弾性率変化率の測定方法の詳細は後述する。
【0126】
また、親水性ポリマー層形成前後の医療デバイスのサイズ変化率は、例えば眼用レンズといった眼用デバイスに用いる場合、変形に伴う角膜損傷を防止する観点から、5%以下が好ましく、4以下がより好ましく、3%以下が特に好ましい。サイズ変化率の測定方法の詳細は後述する。
【実施例
【0127】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。まず、分析方法および評価方法を示す。
【0128】
<水濡れ性(液膜保持時間)>
医療デバイスを保存容器中において、室温で24時間以上静置した。比較例記載の市販コンタクトレンズそのものを評価した場合は、室温でビーカー中のリン酸緩衝液50mL中で軽く洗浄後、新たなリン酸緩衝液50mL中に24時間以上静置した。
【0129】
医療デバイスを静置浸漬させていたリン酸緩衝液から引き上げ、空中に保持した際の表面の液膜が保持される時間を目視観察した。液膜保持時間を測定数3で測定し、その平均値を下記基準で判定した。ここで、液膜が保持される時間とは、空中に医療デバイスを垂直になるように保持し始めた時点から、医療デバイス表面を覆っているリン酸緩衝液の液膜が切れるまでの時間のことである。
A:表面の液膜が20秒以上保持される。
B:表面の液膜が15秒以上20秒未満で切れる。
C:表面の液膜が10秒以上15秒未満で切れる。
D:表面の液膜が1秒以上10秒未満で切れる。
E:表面の液膜が瞬時に切れる(1秒未満)。
【0130】
<易滑性>
各実施例において製造した医療デバイスを保存容器中において、室温で24時間以上静置した。比較例において市販コンタクトレンズそのものを評価した場合は、室温でビーカー中のリン酸緩衝液50mL中で軽く洗浄後、新たなリン酸緩衝液50mL中に24時間以上静置した。
【0131】
医療デバイスを静置浸漬させていたリン酸緩衝液から引き上げ、人指で5回擦った時の官能評価で行った。
A:非常に優れた易滑性がある(医療デバイス表面を流れるように指が滑り、抵抗を全く感じない)。
B:AとCの中間程度の易滑性がある。
C:中程度の易滑性がある(医療デバイス表面を指が滑り、抵抗をほとんど感じない)。
D:易滑性がほとんど無い(CとEの中間程度)。
E:易滑性が無い(医療デバイス表面を指が容易に滑らず、大きな抵抗を感じる)。
【0132】
<基材および医療デバイスの含水率>
基材をリン酸緩衝液に浸漬して室温で24時間以上静置した。基材をリン酸緩衝液から引き上げ、表面水分をワイピングクロス(日本製紙クレシア製“キムワイプ”(登録商標))で拭き取った後、基材の質量(Ww)を測定した。その後、真空乾燥器で基材を40℃、2時間乾燥した後、質量(Wd)を測定した。これらの質量から、下式(1)により基材の含水率を算出した。得られた値が1%未満の場合は測定限界以下と判断し、「1%未満」と表記した。含水率を測定数3で測定し、その平均値を含水率とした。親水性ポリマー層を有した基材、すなわち医療デバイスについても同様に含水率を算出した。
基材の含水率(%)=100×(Ww-Wd)/Ww 式(1)。
【0133】
<親水性ポリマー層形成前後の基材の含水率変化量>
上記基材および医療デバイスの含水率の測定結果から、下式(2)により、含水率の変化量を算出した。
親水性ポリマー層形成前後の基材の含水率変化量(パーセンテージポイント)=医療デバイスの含水率(質量%)-基材の含水率(質量%) 式(2)。
【0134】
<摩擦係数>
以下の条件でリン酸緩衝液(市販コンタクトレンズ測定の場合はパッケージ中の保存液)で濡れた状態の医療デバイス表面の摩擦係数を測定数5で測定し、平均値を摩擦係数とした。
装置:摩擦感テスターKES-SE(カトーテック株式会社製)
摩擦SENS:H
測定SPEED:2×1mm/sec
摩擦荷重:44g。
【0135】
<脂質付着量>
20ccのスクリュー管にパルミチン酸メチル0.03g、純水10g、およびコンタクトレンズ形状のサンプル1枚を入れた。37℃、165rpmの条件下3時間スクリュー管を振とうさせた。振とう後、スクリュー管内のサンプルを40℃の水道水と家庭用液体洗剤(ライオン製“ママレモン(登録商標)”)を用いて擦り洗いした。洗浄後のサンプルをリン酸緩衝液の入ったスクリュー管内に入れ、4℃の冷蔵庫内で1時間保管した。その後、サンプルを目視観察し、白濁した部分があればパルミチン酸メチルが付着していると判定して、サンプルの表面全体に対するパルミチン酸メチルが付着した部分の面積を観察した。
【0136】
<引張弾性率>
コンタクトレンズ形状の基材から、規定の打抜型を用いて幅(最小部分)5mm、長さ14mmの試験片を切り出した。該試験片を用い、株式会社エー・アンド・デイ社製のテンシロンRTG-1210型を用いて引張試験を実施した。引張速度は100mm/分で、グリップ間の距離(初期)は5mmであった。親水性ポリマー層の形成前の基材と親水性ポリマー層の形成後の医療デバイスの両方について測定を行った。測定数8で測定を行い、最大値と最小値を除いたN6回の測定値の平均値を引張弾性率とした。親水性ポリマー層を有した基材、すなわち医療デバイスについても同様に引張弾性率を測定した。
【0137】
<親水性ポリマー層形成前後の基材の引張弾性率変化率>
上記基材および医療デバイスの引張弾性率の測定結果から、下式(3)により算出した。
親水性ポリマー層形成前後の基材の引張弾性率変化率(%)=(親水性ポリマー層形成後の医療デバイスの引張弾性率-親水性ポリマー層形成前の基材の引張弾性率)/親水性ポリマー層形成前の基材の引張弾性率×100 式(3)。
【0138】
<サイズ>
コンタクトレンズ形状の基材について、測定数3で直径を測定し、平均値をサイズとした。親水性ポリマー層を有した基材、すなわち医療デバイスについても同様にサイズを測定した。
【0139】
<親水性ポリマー層の形成前後のサイズ変化率>
上記基材および医療デバイスのサイズの測定結果から、下式(4)により算出した。
【0140】
親水性ポリマー層の形成前後のサイズ変化率(%)=(親水性ポリマー層の形成後の医療デバイスのサイズ-親水性ポリマー層の形成前の基材のサイズ)/親水性ポリマー層の形成前の基材のサイズ×100 式(4)。
【0141】
<分子量測定>
親水性ポリマーの分子量は以下に示す条件で測定した。
装置:島津製作所製 Prominence GPCシステム
ポンプ:LC-20AD
オートサンプラ:SIL-20AHT
カラムオーブン:CTO-20A
検出器:RID-10A
カラム:東ソー社製GMPWXL(内径7.8mm×30cm、粒子径13μm)
溶媒:水/メタノール=1/1(0.1N硝酸リチウム添加)
流速:0.5mL/分
測定時間:30分
サンプル濃度:0.1~0.3質量%
サンプル注入量:100μL
標準サンプル:Agilent社製ポリエチレンオキシド標準サンプル(0.1kD~1258kD)。
【0142】
<pH測定法>
pHメーターEutech pH2700(Eutech Instruments社製)を用いて溶液のpHを測定した。表において、親水性ポリマーを含有する溶液の初期pHは、各実施例記載の溶液に親水性ポリマー、酸性基および環構造を有する化合物、並びに酸を全て添加した後、室温(23~25℃)にて2時間回転子を用いて撹拌し、溶液を均一とした後に測定した。また、表において、「加熱処理後pH」は、加熱処理を1回行った後、溶液を室温(23~25℃)まで冷却した直後に測定したpHである。
【0143】
<親水性ポリマー層の元素組成分析>
親水性ポリマー層の元素組成分析は、乾燥状態の医療デバイスの断面をエネルギー分散型X線分光法によって観察することによって行った。
【0144】
<装置: 電界放出型電子顕微鏡JEOL製JEM2100F>
EDX(Energy dispersive X-ray
Spectroscopy)
JEOL製JED-2300T(Si<Li>半導体検出器、UTW型)
<システム: Analysis Station>
加速電圧: 200kV
ビーム径: 0.7nmφ
画像取得: Digital Micrograph
<試料調製>
RuO染色を用いた超薄切片法により試料調製を行った。基材とコート層の判別が困難な場合、OsO染色を加えても良い。
【0145】
<親水性ポリマー層の膜厚>
乾燥状態の親水性ポリマー層の膜厚は、乾燥状態の医療デバイスの断面を、透過型電子顕微鏡を用いて観察することで行った。
装置: 透過型電子顕微鏡条件: 加速電圧 100kV
試料調製: RuO染色を用いた超薄切片法により試料調製を行った。基材と親水性ポリマー層の判別が困難な場合、OsO染色を加えても良い。
3ヶ所場所を変えて、各視野につき、3ヶ所膜厚を測定し、計9ヶ所の膜厚の平均値を記載した。
【0146】
[製造例1]
式(M1)で表される両末端にメタクリロイル基を有するポリジメチルシロキサン(FM7726、JNC株式会社、Mw:30,000)28質量部、式(M2)で表されるシリコーンモノマー(FM0721、JNC株式会社、Mw:5,000)7質量部、トリフルオロエチルアクリレート(ビスコート(登録商標)3F、大阪有機化学工業株式会社)57.9質量部、2-エチルへキシルアクリレート(東京化成工業株式会社)7質量部およびジメチルアミノエチルアクリレート(株式会社興人)0.1質量部と、これらのモノマーの総質量に対し、光開始剤イルガキュア(登録商標)819(長瀬産業株式会社)5,000ppm、紫外線吸収剤(RUVA-93、大塚化学)5,000ppm、着色剤(RB246、Arran chemical)100ppmを準備し、さらに前記モノマーの総質量100質量部に対して10質量部のt-アミルアルコールを準備して、これら全てを混合し、撹拌した。撹拌された混合物をメンブレンフィルター(孔径:0.45μm)でろ過して不溶分を除いてモノマー混合物を得た。
【0147】
透明樹脂(ベースカーブ側の材質:ポリプロピレン、フロントカーブ側の材質:ポリプロピレン)製のコンタクトレンズ用モールドに上記モノマー混合物を注入し、光照射(波長405nm(±5nm)、照度:0~0.7mW/cm、30分間)して重合し、ケイ素原子を含む低含水性軟質材料からなる成型体を得た。
【0148】
重合後に、得られた成型体を、フロントカーブとベースカーブを離型したモールドごと、60℃の100質量%イソプロピルアルコール水溶液中に1.5時間浸漬して、モールドからコンタクトレンズ形状の成型体を剥離した。得られた成型体を、60℃に保った大過剰量の100質量%イソプロピルアルコール水溶液に2時間浸漬して残存モノマーなどの不純物を抽出した。その後、室温(23℃)中で12時間乾燥させた。
【0149】
【化1】
【0150】
<リン酸緩衝液>
下記実施例、比較例のプロセスおよび上記した測定において使用したリン酸緩衝液の組成は、以下の通りである。
KCl 0.2g/L
KHPO 0.2g/L
NaCl 8.0g/L
NaHPO(anhydrous) 1.15g/L
EDTA 0.25g/L。
【0151】
[実施例1]
基材として、シリコーンを主成分とする市販シリコーンヒドロゲルレンズ“MyDay(登録商標)”(クーパービジョン社製、stenfilcon A)を使用した。アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(塩基性基/酸性基の数比0、共重合におけるモル比1/9、Mw:800,000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.19質量%、グリチルリチン酸二カリウムを0.2質量%含有させた溶液をクエン酸によりpH3.2に調整した。該溶液に前記基材を浸漬し、80℃30分間DKN602 Constant Temperature Oven(ヤマト科学株式会社製)を用いて加熱した。得られた医療デバイスをリン酸緩衝液に静置浸漬させ洗浄した後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた医療デバイスについて上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0152】
[実施例2~7]
酸性基および環構造を有する化合物を表1に示す化合物に変更した以外は、実施例1と同様に実験を行った。得られた医療デバイスについて上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0153】
[実施例8]
酸性基を有する親水性ポリマーと、酸性基および環構造を有する化合物を含む溶液中で加熱する条件を60℃30分間に変更した以外は、実施例1と同様に実験を行った。得られた医療デバイスについて上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0154】
[実施例9]
酸性基を有する親水性ポリマーと、酸性基および環構造を有する化合物を含む溶液の初期pHを2.6に変更した以外は、実施例5と同様に実験を行った。得られた医療デバイスについて上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0155】
[実施例10]
基材として、シリコーンを主成分とする市販シリコーンヒドロゲルレンズ“MyDay(登録商標)”(クーパービジョン社製、stenfilcon A)を使用した。アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(塩基性基/酸性基の数比0、共重合におけるモル比1/9、Mw:800,000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.19質量%、テレフタル酸二ナトリウムを0.2質量%含有させた溶液をクエン酸によりpH2.6に調整した。該溶液に前記基材を浸漬し、80℃30分間DKN602 Constant Temperature Oven(ヤマト科学株式会社製)を用いて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液に静置浸漬させ洗浄した後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた医療デバイスについて上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0156】
[実施例11]
基材として、製造例1で得られた成型体を使用した。アクリル酸/N-ビニルピロリドン/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(塩基性基/酸性基の数比0、共重合におけるモル比1/1/8、Mw:600,000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.19質量%、グリチルリチン酸二カリウムを0.2質量%含有させた溶液をクエン酸によりpH3.2に調整した。該溶液に前記基材を浸漬し、80℃30分間DKN602 Constant Temperature Oven(ヤマト科学株式会社製)を用いて加熱した。得られた医療デバイスをリン酸緩衝液に静置浸漬させ洗浄した後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた医療デバイスについて上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0157】
[実施例12]
基材として、メタクリル酸2-ヒドロキシエチルを主成分とする市販ハイドロゲルレンズ“1day Acuvue(登録商標)”(Johnson&Johnson社製、etafilconA)を使用した。アクリル酸/メタクリル酸2-ヒドロキシエチル/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(塩基性基/酸性基の数比0、共重合におけるモル比1/1/2、Mw:400,000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.18質量%、グリチルリチン酸二カリウム水和物を0.2質量%含有させた溶液をクエン酸によりpH3.2に調整した。該溶液に前記基材を浸漬し、90℃30分間DKN602 Constant Temperature Oven(ヤマト科学株式会社製)を用いて加熱した。得られた医療デバイスをリン酸緩衝液に静置浸漬させ洗浄した後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた医療デバイスについて上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0158】
[実施例13]
基材として、シリコーン成分を主成分とする市販ハードレンズ“メニコンZ(登録商標)”(メニコン社製、tisilfoconA)を使用した。アクリル酸/メトキシポリエチレングリコールメタクリレート/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(塩基性基/酸性基の数比0、共重合におけるモル比1/1/8、Mw:700,000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.18質量%、グリチルリチン酸二カリウムを0.2質量%含有させた溶液をクエン酸によりpH3.2に調整した。該溶液に前記基材を浸漬し、85℃30分間DKN602 Constant Temperature Oven(ヤマト科学株式会社製)を用いて加熱した。得られた医療デバイスをリン酸緩衝液に静置浸漬させ洗浄した後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた医療デバイスについて上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0159】
[比較例1]
シリコーンを主成分とする市販シリコーンヒドロゲルレンズ“MyDay(登録商標)”(クーパービジョン社製、stenfilcon A)について、上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。未測定の項目、市販品を用いたために測定し得ない項目については、「なし」と示す(表1~3における「なし」との記載はいずれも同様である)。
【0160】
[比較例2~5]
グリチルリチン酸二カリウムを表1に示す化合物に変更した以外は、実施例1と同様に実験を行った。得られた医療デバイス(親水性ポリマー層は確認されず)について上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0161】
[比較例6]
基材として、シリコーンを主成分とする市販シリコーンヒドロゲルレンズ“MyDay(登録商標)”(クーパービジョン社製、stenfilcon A)を使用した。アクリル酸/アクリルアミド共重合体(塩基性基/酸性基の数比0、共重合におけるモル比7/93、Mw:200,000、自製)をリン酸緩衝液中に0.19質量%含有させた水溶液をクエン酸によりpH3.2に調整した。該溶液に前記基材を浸漬し、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で30秒浸漬洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた医療デバイス(親水性ポリマー層は確認されず)について上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0162】
[比較例7]
アクリル酸/アクリルアミド共重合体をアクリル酸/アクリルアミド共重合体(塩基性基/酸性基の数比0、共重合におけるモル比1/9、Mw:200,000、自製)に変更した以外は、比較例6と同様に実験を行った。得られた医療デバイス(親水性ポリマー層は確認されず)について上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0163】
[比較例8]
アクリル酸/アクリルアミド共重合体をアクリル酸/アクリルアミド共重合体(塩基性基/酸性基の数比0、共重合におけるモル比3/7、Mw:200,000、自製)に変更した以外は、比較例6と同様に実験を行った。得られた医療デバイス(親水性ポリマー層は確認されず)について上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0164】
[比較例9]
基材として、製造例1で得られた成型体を使用した。アクリル酸/ビニルピロリドン共重合体(塩基性基/酸性基の数比0、共重合におけるモル比1/9、Mw:400,000、大阪有機化学工業株式会社製)0.1質量%およびウレア0.3質量%を純水中に含有させた水溶液を硫酸によりpH3.8に調整した。該溶液に前記基材を浸漬し、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×30秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた医療デバイス(親水性ポリマー層は確認されず)について上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0165】
[比較例10]
基材として、ポリビニルピロリドンおよびシリコーンを主成分とする市販シリコーンヒドロゲルレンズ“1day Acuvue TruEye(登録商標)”(Johnson&Johnson社製、narafilcon A)を使用した。アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(塩基性基/酸性基の数比0、共重合におけるモル比1/9、Mw:800,000、大阪有機化学工業株式会社製)0.2質量%およびウレア0.3質量%を純水中に含有させた水溶液を硫酸によりpH3.0に調整した。該溶液に前記基材を浸漬し、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×30秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた医療デバイス(親水性ポリマー層は確認されず)について上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0166】
[比較例11]
ポリビニルピロリドンおよびシリコーンを主成分とする市販シリコーンヒドロゲルレンズ“1day Acuvue TruEye(登録商標)”(Johnson&Johnson社製、narafilcon A)について、上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0167】
[比較例12]
製造例1で得られた成型体について、上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0168】
【表1】
【0169】
【表2】
【0170】
【表3】