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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】差動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 48/11 20120101AFI20230829BHJP
   F16H 48/285 20120101ALI20230829BHJP
   F16H 57/04 20100101ALI20230829BHJP
【FI】
F16H48/11
F16H48/285
F16H57/04 B
F16H57/04 J
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020004455
(22)【出願日】2020-01-15
(65)【公開番号】P2021110437
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金 鶴
(72)【発明者】
【氏名】串▲崎▼ 健二
(72)【発明者】
【氏名】浅見 健二
(72)【発明者】
【氏名】李 松杰
(72)【発明者】
【氏名】津田 拓也
(72)【発明者】
【氏名】原田 康平
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-320057(JP,A)
【文献】特開2002-286114(JP,A)
【文献】特開平9-112656(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 48/11
F16H 48/285
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2のピニオンギヤを互いに噛み合わせてなる複数のピニオンギヤ組と、前記第1のピニオンギヤに噛み合う第1のサイドギヤと、前記第2のピニオンギヤに噛み合う第2のサイドギヤと、前記複数のピニオンギヤ組をそれぞれ収容する複数のボアが形成されたハウジングとを備え、
前記第1及び第2のピニオンギヤは、前記ハウジングの回転軸を公転軸とし、かつ前記公転軸に平行な自転軸を中心として前記ボア内で回転可能に保持されており、
前記ハウジングは、前記複数のボアを区画する複数の柱部を有し、これら複数の柱部の内径面に潤滑油の供給孔が開口しており、
前記複数のボアは、前記複数の柱部のそれぞれの前記内径面から径方向外方に窪んで凹設されており、かつその外径側の底部に開口が形成されていない潤滑油溜まり構造を有する、
差動装置。
【請求項2】
前記ハウジングには、前記第1及び第2のピニオンギヤの中心軸よりも前記ハウジングの径方向内方で前記第1及び第2のピニオンギヤの軸端面に対向する部位に、軸方向の貫通孔が形成されている、
請求項1に記載の差動装置。
【請求項3】
前記第1及び第2のサイドギヤと前記ハウジングの内面との間に、第1及び第2のサイドワッシャがそれぞれ配置されており、
前記ハウジングには、前記複数の柱部のそれぞれの前記内径面から前記第1及び第2のサイドワッシャのうち少なくとも何れかのサイドワッシャに潤滑油を導く導油溝が形成されている、
請求項1又は2に記載の差動装置。
【請求項4】
前記ハウジングには、前記少なくとも何れかのサイドワッシャが嵌合する嵌合凹部が形成されており、
前記導油溝は、前記嵌合凹部の外縁に連通して、前記嵌合凹部と前記柱部の前記内径面との間に延在している、
請求項3に記載の差動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両に搭載されて左右輪の差動を抑制しながら駆動源の駆動力を左右輪に配分可能な差動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の駆動源の駆動力を一対の出力軸に差動を許容して配分する差動装置には、出力軸間の差動を制限することで、一方の出力軸によって駆動力が伝達される車輪(例えば左車輪)にスリップが発生した場合にも、他方の出力軸によって駆動力が伝達される車輪(例えば右車輪)に駆動力を伝達可能とし、低μ路走行時等の走行安定性を高めたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の差動装置は、第1及び第2のサイドギヤと、複数のピニオンギヤ組と、複数のピニオンギヤ組をそれぞれ収容する複数のボアが形成されたハウジング(デフケース)とを備えている。ピニオンギヤ組は、第1のサイドギヤに噛み合う第1のピニオンギヤと、第2のサイドギヤに噛み合う第2のピニオンギヤとを有し、第1のピニオンギヤと第2のピニオンギヤとが互いに噛み合わされている。ハウジングには、潤滑油を内部に導く複数の潤滑油導入溝と、潤滑油を排出するための複数の潤滑油排出孔とが形成されている。潤滑油導入溝は、ハウジングの回転によって潤滑油をハウジング内部に導くように形成されており、潤滑油排出孔は、ボアの底部に開口してハウジングを径方向に貫通している。潤滑油導入溝から導入された潤滑油は、ハウジング内の各部を潤滑して潤滑油排出孔から排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-203483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように構成された差動装置は、例えばトランスミッションケース内に封入された潤滑油(トランスミッションオイル)にハウジングの一部が浸かるように、油浴して配置される。しかし、近年では燃費性能の向上等のためにトランスミッションケース内の潤滑油が減らされる傾向にあり、特にハウジングが高速で回転する際には、ハウジング内に潤滑油が導入されにくくなると共に、遠心力によって潤滑油が排出されやすくなる。このようにしてハウジング内が貧潤滑状態になると、部分的に油切れが発生しやすくなり、部材間の摺動部における摩耗や発熱が大きくなるおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、ハウジング内に供給される潤滑油が少ない場合にも、ハウジング内の摺動部における油切れの発生を抑制し、摺動部における摩耗や発熱を抑えることが可能な差動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の目的を達成するため、第1及び第2のピニオンギヤを互いに噛み合わせてなる複数のピニオンギヤ組と、前記第1のピニオンギヤに噛み合う第1のサイドギヤと、前記第2のピニオンギヤに噛み合う第2のサイドギヤと、前記複数のピニオンギヤ組をそれぞれ収容する複数のボアが形成されたハウジングとを備え、前記第1及び前記第2のピニオンギヤは、前記ハウジングの回転軸を公転軸とし、かつ前記公転軸に平行な自転軸を中心として前記ボア内で回転可能に保持されており、前記ハウジングは、前記複数のボアを区画する複数の柱部を有し、これら複数の柱部の内径面に潤滑油の供給孔が開口しており、前記複数のボアは、前記複数の柱部のそれぞれの前記内径面から径方向外方に窪んで凹設されており、かつその外径側の底部に開口が形成されていない潤滑油溜まり構造を有する、差動装置を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る差動装置によれば、ハウジング内に供給される潤滑油が少ない場合にも、ハウジング内の摺動部における油切れの発生を抑制し、摺動部における摩耗や発熱を抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態に係る差動装置の構成例を示す断面図である。
図2図1のA-A線断面図である。
図3】差動装置の分解斜視図である。
図4】(a)は、第2ハウジング部材を示す斜視図である。(b)は、第2ハウジング部材を図1のB-B線で示す断面図である。
図5】ハウジングの要部を示す断面斜視図である。
図6】軸方向に沿ったハウジングの部分断面図である。
図7】(a)は、従来例に係る第2ハウジング部材を示す斜視図である。(b)は、従来例に係る第2ハウジング部材の断面図である。
図8】従来例に係るハウジングの一部を示す断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施の形態]
本発明の実施の形態について、図1乃至図6を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0011】
図1は、本発明の実施の形態に係る差動装置の構成例を示す断面図である。図2は、図1のA-A線断面図である。図3は、差動装置の分解斜視図である。図4(a)は、第2ハウジング部材を示す斜視図である。図4(b)は、第2ハウジング部材を図1のB-B線で示す断面図である。図5は、ハウジングの要部を示す断面斜視図である。図6は、軸方向に沿ったハウジングの部分断面図である。
【0012】
この差動装置1は、車両の駆動源の駆動力を一対の出力軸に差動を許容して配分するために用いられる。駆動源は、例えばエンジンや電動モータであり、一対の出力軸は、例えば左右のドライブシャフトである。また、差動装置1は、トランスミッションケース内に封入された潤滑油にハウジング5の一部が浸かるように、油浴して配置される。
【0013】
差動装置1は、第1及び第2のピニオンギヤ21,22を互いに噛み合わせてなる複数のピニオンギヤ組2と、第1のピニオンギヤ21に噛み合う第1のサイドギヤ31と、第2のピニオンギヤ22に噛み合う第2のサイドギヤ32と、第1のサイドギヤ31と第2のサイドギヤ32との間に配置されたセンタワッシャ40と、第1及び第2のサイドワッシャ41,42と、これらを収容するハウジング5とを備えている。
【0014】
第1及び第2のサイドギヤ31,32ならびにハウジング5は、共通の回転軸Oを中心として相対回転可能である。以下、回転軸Oに平行な方向を「軸方向」という。ハウジング5には、複数のピニオンギヤ組2をそれぞれ収容する複数のボア(空洞)50が形成されている。本実施の形態では、ハウジング5に5つのボア50が周方向等間隔に形成されており、これらのボア50に5組のピニオンギヤ組2がそれぞれ収容されている。第1及び第2のピニオンギヤ21,22は、ハウジング5の回転軸Oを公転軸とし、かつ回転軸Oに平行な自転軸を中心としてボア50内で回転可能に保持されている。
【0015】
第1のピニオンギヤ21は、円柱状の軸部210と、軸部210の一端部に設けられた長ギヤ部211と、軸部210の他端部に設けられた短ギヤ部212とを一体に有している。同様に、第2のピニオンギヤ22は、円柱状の軸部220と、軸部220の一端部に設けられた長ギヤ部221と、軸部220の他端部に設けられた短ギヤ部222とを一体に有している。第1及び第2のピニオンギヤ21,22は、長ギヤ部211,221の軸方向長さが短ギヤ部212,222の軸方向長さよりも長く形成されている。第1のピニオンギヤ21の長ギヤ部221は、第2のピニオンギヤ22の短ギヤ部222と噛み合わされ、第1のピニオンギヤ21の短ギヤ部212は、第2のピニオンギヤ22の長ギヤ部221と噛み合わされている。
【0016】
第1のサイドギヤ31は、外周面にギヤ部311を有しており、このギヤ部311が第1のピニオンギヤ21の長ギヤ部211に噛み合わされている。また、第1のサイドギヤ31の中心部には、スプライン嵌合孔310が設けられており、このスプライン嵌合孔310に一方の出力軸(例えば左車輪のドライブシャフト)が相対回転不能に連結される。同様に、第2のサイドギヤ32は、外周面にギヤ部321を有しており、このギヤ部321が第2のピニオンギヤ21の長ギヤ部221に噛み合わされている。第2のサイドギヤ32の中心部には、スプライン嵌合孔320が設けられており、このスプライン嵌合孔320に他方の出力軸(例えば右車輪のドライブシャフト)が相対回転不能に連結される。
【0017】
ハウジング5は、第1ハウジング部材6と第2ハウジング部材7と有している。第1ハウジング部材6は、円盤状の円盤部61と、円盤部61の外周に設けられたフランジ部62とを一体に有している。第2ハウジング部材7は、円筒状の円筒部71と、円筒部71の一端部に設けられた円盤状の円盤部72と、円筒部71の他端部の外周に設けられたフランジ部73とを一体に有している。第1ハウジング部材6のフランジ部62と第2ハウジング部材7のフランジ部73とは、互いに付き合わされることにより、それぞれのボルト挿通孔620,730同士が連通する。このボルト挿通孔620,730には、図略のリングギヤを固定するためのボルトが挿通される。ハウジング5には、このリングギヤから駆動源の駆動力が入力される。
【0018】
第1ハウジング部材6には、第1のサイドワッシャ41が嵌合する嵌合凹部63が形成されている。第1のサイドワッシャ41は、図3に示すように、円環板状の本体部411と、本体部411の外周面から径方向外方に突出して設けられた複数の突部412とを有している。嵌合凹部63は、図5に示すように、第1のサイドワッシャ41の本体部411が収容される環状部631と、複数の突部412がそれぞれ収容される複数の窪部632を有している。第1のサイドワッシャ41は、突部412が窪部632に嵌合することで、第1ハウジング部材6に対して回り止めされる。第1のサイドワッシャ41の本体部411は、図1に示すように、嵌合凹部63における環状部631の底面631aと、第1のサイドギヤ31の軸方向端面31aとの間に配置されている。環状部631の底面631aは、ハウジング5の内面の一部である。
【0019】
同様に、第2ハウジング部材7には、図4(a)に示すように、第2のサイドワッシャ42が嵌合する嵌合凹部74が形成されている。第2のサイドワッシャ42は、円環板状の本体部421と、本体部421の外周面から径方向外方に突出して設けられた複数の突部422とを有している。嵌合凹部74は、第2のサイドワッシャ42の本体部421が収容される環状部741と、複数の突部422がそれぞれ収容される複数の窪部742を有している。第2のサイドワッシャ42は、突部422が窪部742に嵌合することで、第2ハウジング部材7に対して回り止めされる。第2のサイドワッシャ42の本体部421は、図1に示すように、嵌合凹部74における環状部741の底面741aと、第2のサイドギヤ32の軸方向端面32aとの間に配置されている。
【0020】
ハウジング5の複数のボア50は、第2ハウジング部材7の円筒部71に設けられた複数の柱部711によって区画されている。柱部711は、軸方向に延在しており、その内径面711aには、潤滑油供給孔710が開口している。複数のボア50は、複数の柱部711の内径面711aから円筒部71の径方向外方に窪んで凹設されている。換言すれば、複数の柱部711は、周方向に隣り合うボア50の間から径方向内方に向かって突出している。内径面711aは、複数の柱部711の突出方向の先端面に相当する。
【0021】
滑油供給孔710は、第2ハウジング部材7の円筒部71を径方向に貫通して形成されており、図4(b)の断面で示すように、径方向外側ほど回転方向前方側に向かって開口幅が増大するように形成されている。図4(b)では、車両が前進走行する際のハウジング5の回転方向を矢印Rで示しており、ハウジング5がこの矢印R方向に回転することにより、トランスミッションケース内の潤滑油が掻き上げられて滑油供給孔710に導入される。
【0022】
ボア50は、第1のピニオンギヤ21を収容する第1収容部501と、第2のピニオンギヤ22を収容する第2収容部502とを有している。第1収容部501の内面501aは、第1のピニオンギヤ21の長ギヤ部211及び短ギヤ部212の歯先面が摺動する円弧状の摺動面となっている。また、第2収容部502の内面502aは、第2のピニオンギヤ22の長ギヤ部221及び短ギヤ部222の歯先面が摺動する円弧状の摺動面となっている。
【0023】
第1ハウジング部材6の円盤部61には、第1及び第2のピニオンギヤ21,22の軸方向一方側の軸端面21a,22aに対向する対向面61aが形成されている。また、第2ハウジング部材7の円盤部72には、第1及び第2のピニオンギヤ21,22の軸方向他方側の軸端面21b,22bに対向する対向面72aが形成されている。対向面61a,72aは、軸方向に対して垂直な平坦面である。
【0024】
第1及び第2のピニオンギヤ21,22の長ギヤ部211,221及び短ギヤ部212,222、ならびに第1及び第2のサイドギヤ31,32のギヤ部311,321は、噛み合いによって軸方向のスラスト力を発生させるヘリカルギヤである。これにより、ハウジング5に駆動力が入力され、この駆動力が複数のピニオンギヤ組2を経て第1及び第2のサイドギヤ31,32から出力される際、第1及び第2のピニオンギヤ21,22ならびに第1及び第2のサイドギヤ31,32には、軸方向のスラスト力が作用する。そして、このスラスト力により、第1及び第2のサイドギヤ31,32と第1及び第2のサイドワッシャ41,42もしくはセンタワッシャ40との間に摩擦力が発生する。この摩擦力は、第1のサイドギヤ31と第2のサイドギヤ32との差動を制限する差動制限力となる。
【0025】
また、第1のピニオンギヤ21は、第1のサイドギヤ31との噛み合い反力により、長ギヤ部211が第1収容部501の内面501aに押し付けられ、第2のピニオンギヤ22は、第2のサイドギヤ32との噛み合い反力により、長ギヤ部221が第2収容部502の内面502aに押し付けられる。そして、これらの噛み合い反力によって発生する摩擦力も、第1のサイドギヤ31と第2のサイドギヤ32との差動を制限する差動制限力となる。
【0026】
第1のピニオンギヤ21の長ギヤ部211及び短ギヤ部212の歯先面と第1収容部501の内面501aとの摩擦摺動、ならびに第2のピニオンギヤ22の長ギヤ部221及び短ギヤ部222の歯先面と第2収容部502の内面502aとの摩擦摺動は、ボア50内に供給された潤滑油によって潤滑される。ここで、ボア50には、ハウジング5の径方向における外径側の底部に開口が形成されていない。より具体的には、第1収容部501の内面501a及び第2収容部502の内面502aの何れにも潤滑油を流出させる孔の開口が形成されておらず、潤滑油供給孔710から供給された潤滑油は、ボア50内に貯留される。すなわち、ボア50は、潤滑油溜まり構造を有している。
【0027】
また、第1ハウジング部材6の円盤部61には、第1及び第2のピニオンギヤ21,22の中心軸(自転軸)よりもハウジング5の径方向内方で第1及び第2のピニオンギヤ21,22の軸方向一方側の軸端面21a,22aに対向する部位に、軸方向の貫通孔610が形成されている。
【0028】
同様に、第2ハウジング部材7の円盤部72には、第1及び第2のピニオンギヤ21,22の中心軸(自転軸)よりもハウジング5の径方向内方で第1及び第2のピニオンギヤ21,22の軸方向他方側の軸端面21b,22bに対向する部位に、軸方向の貫通孔720が形成されている。第1ハウジング部材6の貫通孔610は、円盤部61の対向面61aに対して垂直に形成されており、第2ハウジング部材7の貫通孔720は、円盤部72の対向面72aに対して垂直に形成されている。
【0029】
図4(b)では、第1のピニオンギヤ21の中心軸をCで示すと共に、第2のピニオンギヤ22の中心軸をCで示し、中心軸をCと中心軸をCとを通過する直線を仮想線Lとして二点鎖線で示している。貫通孔720は、その全体が仮想線Lよりも径方向内方に形成されている。なお、第1ハウジング部材6の貫通孔610も、同様の位置及び範囲に形成されている。すなわち、本実施の形態において、「ハウジング5の径方向における外径側の底部に開口が形成されていない。」とは、仮想線Lよりも外径側におけるボア50の内面に開口が形成されていないことをいう。
【0030】
これらの貫通孔610,720により、ボア50内に第1及び第2のピニオンギヤ21,22を潤滑するために十分な量の潤滑油を確保することができると共に、過剰な潤滑油がボア50から排出されるので、潤滑油をハウジング5の内外で円滑に循環させることが可能となる。なお、本実施の形態では、軸方向から見た貫通孔610,720が、径方向に対して直交する方向に長い長円形状であるが、第1及び第2のピニオンギヤ21,22の中心軸よりもハウジング5の径方向内方に形成されていれば、長円形状に限らず例えば丸孔であってもよい。また、本実施の形態では、各ボア50に対応する対向面61a,72aにそれぞれ単一の貫通孔610,720が形成されているが、それぞれの対向面61a,72aに複数の貫通孔610,720が開口していてもよい。
【0031】
また、第1ハウジング部材6には、図5及び図6に示すように、複数の柱部711のそれぞれの内径面711aから第1のサイドワッシャ41に潤滑油を導く複数の導油溝65が形成されている。導油溝65は、軸方向に対して垂直な平面65aから軸方向に窪んで形成されており、この平面65aには柱部711が軸方向に突き合わされている。なお、平面65aと柱部711との間に、僅かな隙間が形成されていてもよい。
【0032】
導油溝65は、嵌合凹部63の外縁に連通して、嵌合凹部63と柱部711の内径面711aと間に延在している。本実施の形態では、ハウジング5の周方向における導油溝65の幅が内径側ほど広く、導油溝65の内径側の端部が窪部632に連通している。これにより、潤滑油供給孔710から供給された潤滑油が柱部711の内径面711a及び導油溝65を経由して第1のサイドワッシャ41と第1のサイドギヤ31の軸方向端面31aとの間に円滑に供給される。なお、導油溝65の内径側の端部が嵌合凹部63の環状部631に連通していてもよい。
【0033】
また、第2ハウジング部材7の円盤部72にも、第1ハウジング部材6の導油溝65と同様の導油溝を形成してもよい。この場合、第2のサイドワッシャ42にも円滑に潤滑油が供給される。また、第2ハウジング部材7のみに、潤滑油を柱部711の内径面711aから第2のサイドワッシャ42に導く導油溝を形成してもよい。つまり、ハウジング5には、複数の柱部711のそれぞれの内径面711aから第1及び第2のサイドワッシャ41,42の少なくとも何れかに潤滑油を導く導油溝が形成されていれば、ハウジング5の内部における摺動部の潤滑性を高めることができる。
【0034】
(従来例)
次に、図7及び図8を参照して、従来例について説明する。この従来例は、ボア50の底部に貫通孔713,714が形成されると共に、第1ハウジング部材6及び第2ハウジング部材7の対向面61a,72aに開口する軸方向の貫通孔611,721が、上記実施の形態の貫通孔610,720よりも径方向外方に形成されている。また、潤滑油を柱部711の内径面711aから第2のサイドワッシャ42に導く導油溝が形成されておらず、第1のハウジング部材6の対向面61aと嵌合凹部63との間に、嵌合凹部63を画成する環状の壁部64が軸方向に突出して設けられている。なお、図7及び図8では、上記の実施の形態と共通する構成要素については、図4及び図5に付したものと同一の符号を付している。
【0035】
この従来例では、ボア50の底部に形成された貫通孔713,714、及び対向面72aに形成された貫通孔721を介して潤滑油が流入出し得るが、ハウジング5の回転速度が高速になるにつれ、ボア50内の潤滑油が貫通孔713,714から遠心力によって排出されやすくなり、第1のピニオンギヤ21の長ギヤ部211及び短ギヤ部212の歯先面と第1収容部501の内面501aとの摩擦摺動、及び第2のピニオンギヤ22の長ギヤ部221と短ギヤ部222の歯先面と第2収容部502の内面502aとの摩擦摺動の潤滑を十分に行えなくなるおそれがある。
【0036】
また、嵌合凹部63を画成する環状の壁部64が形成されていることにより、貫通孔713,714から潤滑油が供給されても、第1のサイドワッシャ41に潤滑油が流入しにくく、第1のサイドワッシャ41と第1のサイドギヤ31の軸方向端面31aとの摩擦摺動の潤滑を十分に行えないおそれがある。
【0037】
(実施の形態の効果)
本発明の実施の形態によれば、ボア50が、ハウジング5の径方向における外径側の底部に開口が形成されていない潤滑油溜まり構造を有しているので、ハウジング5内に供給される潤滑油が少ない場合にも、ハウジング5内の摺動部における油切れの発生を抑制することができ、摩耗や発熱を抑えることが可能となる。また、潤滑油供給孔710から供給された潤滑油が、柱部711の内径面711a及び導油溝65を経由して第1のサイドワッシャ41と第1のサイドギヤ31の軸方向端面31aとの間に円滑に供給される。
【0038】
(付記)
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、この実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で、一部の構成を省略し、あるいは構成を追加もしくは置換して、適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0039】
1…差動装置 2…ピニオンギヤ組
21…第1のピニオンギヤ 21…第2のピニオンギヤ
21a,22a,21b,22b…軸端面 22…第2のピニオンギヤ
31…第1のサイドギヤ 32…第2のサイドギヤ
41…第1のサイドワッシャ 42…第2のサイドワッシャ
5…ハウジング 50…ボア
610…貫通孔 63…嵌合凹部
65…導油溝 710…潤滑油供給孔
711…柱部 711a…内径面
720…貫通孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8