(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20230829BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20230829BHJP
H02P 6/04 20160101ALI20230829BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20230829BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20230829BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20230829BHJP
B62D 137/00 20060101ALN20230829BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
H02P6/04
B62D101:00
B62D113:00
B62D119:00
B62D137:00
(21)【出願番号】P 2020041992
(22)【出願日】2020-03-11
【審査請求日】2023-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】小寺 隆志
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-144974(JP,A)
【文献】特開2017-149373(JP,A)
【文献】特開2019-137370(JP,A)
【文献】特開2019-209789(JP,A)
【文献】国際公開第2018/147371(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第19654769(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
B62D 101/00-137/00
B60W 10/00- 50/16
H02P 6/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動源とするアクチュエータが付与するモータトルクによりステアリングホイールの操舵に必要な操舵トルクを可変とする操舵装置を制御対象とし、前記モータトルクの目標値となるトルク指令値を演算するトルク指令値演算部を備え、前記トルク指令値に応じた前記モータトルクが発生するように前記モータの作動を制御する操舵制御装置において、
前記トルク指令値演算部は、
前記トルク指令値を演算するために加味される指令値成分を演算する指令値成分演算部と、
前記操舵装置の動作に応じて変化する状態量の変化に対して前記指令値成分がヒステリシス特性を有して変化するように加味されるヒステリシス成分を演算するヒステリシス成分演算部と、を有し、
前記ヒステリシス成分演算部は、
前記状態量に基づいて、前記ヒステリシス成分の基礎成分として、前記状態量が大きくなるほど、絶対値が大きくなる且つ前記状態量に対する変化量であるヒステリシス勾配の絶対値が小さくなるように変化するヒステリシス基礎成分を演算するヒステリシス基礎成分演算部と、
前記ヒステリシス基礎成分を微分して得られる成分であるヒステリシス微分成分を演算するヒステリシス微分成分演算部と、を有し、
前記ヒステリシス成分演算部は、前記ヒステリシス基礎成分に対して前記ヒステリシス微分成分を加味することで前記ヒステリシス成分を演算するように構成されている
ことを特徴とする操舵制御装置。
【請求項2】
前記ヒステリシス基礎成分演算部は、前記ステアリングホイールの操舵に関連して回転する回転軸の角度の変化量に基づいて、前記ヒステリシス基礎成分を変更する請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項3】
前記ヒステリシス基礎成分演算部は、車速に基づいて、前記ヒステリシス基礎成分を変更する請求項1又は請求項2に記載の操舵制御装置。
【請求項4】
前記ヒステリシス微分成分演算部は、前記車速に基づいて、前記ヒステリシス微分成分を変更する請求項3に記載の操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用の操舵装置として、運転者による操舵を補助するためのアシスト力をモータによって付与する電動パワーステアリング装置(EPS)がある。また、車両用の操舵装置として、運転者により操舵される操舵ユニットと運転者の操舵に応じて転舵輪を転舵装置がある。SBW式の操舵装置では、操舵ユニットに設けられた操舵側モータによって運転者の操舵に抗する操舵反力が付与され、転舵ユニットに設けられた転舵側モータによって転舵輪を転舵させる転舵力が付与される。
【0003】
こうした操舵装置を制御対象とする操舵制御装置では、操舵フィーリングの向上を図るべく、種々の成分に基づいてモータが操舵装置に付与するモータトルクの指令値を演算する。例えば特許文献1に記載の操舵制御装置では、操舵トルクに基づくアシスト力の基礎成分から、切り込み又は切り戻しの操舵状態に応じたヒステリシス成分を減算することにより得られる値に基づいてトルク指令値を演算する。そして、同操舵制御装置では、操舵装置が搭載される車両のばね特性に基づいてヒステリシス成分を変更することで、操舵感を調整し、操舵フィーリングの最適化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、操舵装置における操舵フィーリングの向上の構成は、より一層強まっており、上記のような構成を採用してもなお、要求される水準に達しているとは言い切れないのが実情である。そのため、より良好な操舵フィーリングを実現することのできる新たな技術の創出が求められていた。
【0006】
本発明の目的は、操舵フィーリングの向上を図ることのできる操舵制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する操舵制御装置は、モータを駆動源とするアクチュエータが付与するモータトルクによりステアリングホイールの操舵に必要な操舵トルクを可変とする操舵装置を制御対象とし、前記モータトルクの目標値となるトルク指令値を演算するトルク指令値演算部を備え、前記トルク指令値に応じた前記モータトルクが発生するように前記モータの作動を制御する操舵制御装置において、前記トルク指令値演算部は、前記トルク指令値を演算するために加味される指令値成分を演算する指令値成分演算部と、前記操舵装置の動作に応じて変化する状態量の変化に対して前記指令値成分がヒステリシス特性を有して変化するように加味されるヒステリシス成分を演算するヒステリシス成分演算部と、を有し、前記ヒステリシス成分演算部は、前記状態量に基づいて、前記ヒステリシス成分の基礎成分として、前記状態量が大きくなるほど、絶対値が大きくなる且つ前記状態量に対する変化量であるヒステリシス勾配の絶対値が小さくなるように変化するヒステリシス基礎成分を演算するヒステリシス基礎成分演算部と、前記ヒステリシス基礎成分を微分して得られる成分であるヒステリシス微分成分を演算するヒステリシス微分成分演算部と、を有し、前記ヒステリシス成分演算部は、前記ヒステリシス基礎成分に対して前記ヒステリシス微分成分を加味することで前記ヒステリシス成分を演算するようにしている。
【0008】
ここで、ヒステリシス基礎成分については、これを加味することによって操舵に対する手応えを運手者に与えることができるようになる。この操舵に対する手応えとして、しっかりとした手応えを運転者に与えるには、ヒステリシス基礎成分の立ち上がり時の勾配であるヒステリシス勾配をより大きくして応答性を高めることが考えられる。この場合、ヒステリシス勾配を無理に大きくして応答性を高め過ぎると応答性能が足りていない等の理由から、ヒステリシス基礎成分で振動的な応答の特性が顕著になり安定性の面で不利になる。つまり、しっかりとした手応えを運転者に与えるべく、ヒステリシス基礎成分のヒステリシス勾配を大きくして応答性を高めようにも限界がある。
【0009】
これに対して、上記構成において、ヒステリシス微分成分は、ヒステリシス基礎成分で生じる振動的な応答の特性を抑制するように作用することになる。これは、つまりヒステリシス基礎成分のヒステリシス勾配を大きくした際の振動的な応答の特性を抑制することができるようになる。これにより、ヒステリシス基礎成分のヒステリシス勾配として大きくして高められる応答性の限界を、ヒステリシス微分成分を加味しない場合と比較して大きくすることができるようになる。したがって、ヒステリシス微分成分を加味しない場合と比較して、ヒステリシス勾配を大きくして応答性を高めたヒステリシス基礎成分の設計が可能になり、しっかりとした手応えを運転者に与えて操舵フィーリングの向上を図ることができる。
【0010】
上記操舵制御装置において、前記ヒステリシス基礎成分演算部は、前記ステアリングホイールの操舵に関連して回転する回転軸の角度の変化量に基づいて、前記ヒステリシス基礎成分を変更することが好ましい。
【0011】
上記構成によれば、例えば、ステアリングホイールの操舵に関連して回転する回転軸の角度の変化量が大きいほど、ヒステリシス勾配を小さくして応答性を低下させるようにヒステリシス基礎成分を変更すると、早い操舵では手応えを抑えた状態ですっと操舵させることができるようになる。これにより、しっかりとした手応えを運転者に与えたり、すっと操舵できるようにしたり、ステアリングホイールの操舵の状態に応じた適切な操舵フィーリングを設定することができるようになる。したがって、操舵フィーリングの向上を図るのに効果的である。
【0012】
また、上記操舵制御装置において、前記ヒステリシス基礎成分演算部は、車速に基づいて、前記ヒステリシス基礎成分を変更することが好ましい。
上記構成によれば、例えば、車速が小さいほど、ヒステリシス勾配を大きくして応答性を高めるようにヒステリシス基礎成分を変更すると、停車時などでは十分な手応えを運転者に与えることができるようになる。これにより、しっかりとした手応えを運転者に与えたり、十分な手応えを運転者に与えたり、車両の走行の状態に応じた適切な操舵フィーリングを設定することができるようになる。したがって、操舵フィーリングの向上を図るのに効果的である。
【0013】
ここで、ヒステリシス基礎成分を車速に基づき変更すると、当該ヒステリシス基礎成分を微分して得られる成分であるヒステリシス微分成分についても成り行きで車速に基づき変更されることとなる。ただし、この成り行きで車速に基づき変更されるヒステリシス微分成分は、操舵フィーリングの向上を目的とした場合に必ずしも適切な成分であるとは言えない。
【0014】
そこで、上記操舵制御装置において、前記ヒステリシス微分成分演算部は、前記車速に基づいて、前記ヒステリシス微分成分を変更することが好ましい。
上記構成によれば、ヒステリシス基礎成分を車速に基づき変更するなかで、当該ヒステリシス基礎成分に対して加味するヒステリシス微分成分を操舵フィーリングの向上を目的とした場合に適切な成分として演算することができるようになる。これにより、操舵フィーリングの向上に寄与することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の操舵制御装置によれば、操舵フィーリングの向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図3】第1実施形態の目標反力トルク演算部の機能を示すブロック図。
【
図4】第1実施形態のヒステリシス成分演算部の機能を示すブロック図。
【
図5】(a)は切り込み操舵時における転舵角とヒステリシス基礎成分との関係を示すグラフ、(b)は切り戻し操舵時における転舵角とヒステリシス基礎成分との関係を示すグラフ。
【
図6】サイン操舵した場合の転舵角とヒステリシス基礎成分との関係を示すグラフ。
【
図7】転舵角と目標操舵トルクとの関係を示すグラフ。
【
図8】
図5(a)について第1象限の関係を拡大して示す拡大図。
【
図9】
図7について第1象限の関係を拡大して示す拡大図。
【
図10】第2実施形態の目標反力トルク演算部の機能を示すブロック図。
【
図11】第3実施形態の角度軸力演算部の機能を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
以下、操舵制御装置をステアバイワイヤ式の操舵装置に適用した第1実施形態を図面に従って説明する。
【0018】
図1に示すように、本実施形態の操舵装置1は、ステアバイワイヤ式の操舵装置である。操舵装置1は、当該操舵装置1の作動を制御する操舵制御装置2を備えている。操舵装置1は、ステアリングホイール3を介して運転者により操舵される操舵機構4と、運転者による操舵機構4の操舵に応じて転舵輪5を転舵させる転舵機構6とを備えている。本実施形態の操舵装置1は、操舵機構4と、転舵機構6との間の動力伝達路が機械的に常時分離した構造を有している。
【0019】
操舵機構4は、ステアリングホイール3が連結されるステアリングシャフト11と、ステアリングシャフト11を介してステアリングホイール3に対して操舵に抗する力である操舵反力を付与する操舵側アクチュエータ12とを備えている。
【0020】
操舵側アクチュエータ12は、駆動源となる操舵側モータ13と、ウォームアンドホイールからなる減速機14とを備えている。操舵側モータ13は、減速機14を介してステアリングシャフト11に連結されている。
【0021】
転舵機構6は、ピニオン軸21と、ピニオン軸21に連結された転舵シャフトとしてのラック軸22と、ラック軸22を軸方向への往復動可能に収容するラックハウジング23と、ピニオン軸21及びラック軸22からなるラックアンドピニオン機構24とを備えている。ラック軸22とピニオン軸21とは、ラックハウジング23内に所定の交差角をもって配置されている。ラックアンドピニオン機構24は、ピニオン軸21に形成されたピニオン歯21aとラック軸22に形成されたラック歯22aとが噛合されることで構成されている。また、ラック軸22の両端には、ボールジョイントからなるラックエンド25を介してタイロッド26が連結されており、タイロッド26の先端は、転舵輪5が組み付けられた図示しないナックルに連結されている。
【0022】
ピニオン軸21は、ラック軸22をラックハウジング23の内部に支持するために設けられている。すなわち、転舵機構6に設けられる図示しない支持機構によって、ラック軸22はその軸線方向に沿って移動可能に支持されるとともに、ピニオン軸21へ向けて押圧される。これにより、ラック軸22はラックハウジング23の内部に支持される。また、ラック軸22の回転が規制される。ただし、ピニオン軸21を使用せずにラック軸22をラックハウジング23に支持する他の支持機構を設けてもよい。この場合、転舵機構6としてピニオン軸21を割愛した構成を採用してもよい。
【0023】
また、転舵機構6は、ラック軸22に対して転舵輪5を転舵させるべく軸方向へ移動するための動力を付与する転舵側アクチュエータ31を備えている。転舵側アクチュエータ31は、駆動源となる転舵側モータ32と、ベルト機構33と、ボール螺子機構34とを備えている。そして、転舵側アクチュエータ31は、転舵側モータ32の回転をベルト機構33を介してボール螺子機構34に伝達し、ボール螺子機構34にてラック軸22の軸方向への往復動に変換することで当該ラック軸22に対して動力を付与する。
【0024】
このように構成された操舵装置1では、運転者によるステアリング操舵に応じて転舵側アクチュエータ31からラック軸22に対してモータトルクが動力として付与されることで、転舵輪5の舵角が変更される。このとき、操舵側アクチュエータ12からは、運転者の操舵に抗する操舵反力がステアリングホイール3に対して付与される。つまり、操舵装置1では、操舵側アクチュエータ12から付与されるモータトルクである操舵反力により、ステアリングホイール3の操舵に必要な操舵トルクThが変更される。
【0025】
図1に示すように、操舵側モータ13及び転舵側モータ32には、各モータ13,32の駆動を制御する操舵制御装置2が接続されている。操舵制御装置2は、各種のセンサの検出結果に基づき、各モータ13,32の制御量である電流の供給を制御することによって、各モータ13,32の駆動を制御する。各種のセンサとしては、例えば、車速センサ41、トルクセンサ42、操舵側回転角センサ43、及び転舵側回転角センサ44がある。
【0026】
車速センサ41は、車両の走行速度である車速を示す値である車速値Vを検出する。トルクセンサ42は、運転者のステアリング操舵によりステアリングシャフト11に付与されたトルクを示す値である操舵トルクThを検出する。操舵側回転角センサ43は、操舵側モータ13の回転軸の角度である操舵側回転角θsを360°の範囲内で検出する。転舵側回転角センサ44は、転舵側モータ32の回転軸の角度である転舵側回転角θtを360°の範囲内で検出する。なお、操舵トルクTh、操舵側回転角θs、及び転舵側回転角θtは、例えば右方向に操舵した場合に正の値、左方向に操舵した場合に負の値として検出する。
【0027】
次に、操舵制御装置2の機能について説明する。
操舵制御装置2は、図示しない中央処理装置(CPU)やメモリを備えており、所定の演算周期ごとにメモリに記憶されたプログラムをCPUが実行する。これにより、各種の処理が実行される。
【0028】
図2に、操舵制御装置2が実行する処理の一部を示す。
図2に示す処理は、メモリに記憶されたプログラムをCPUが実行することで実現される処理の一部を、実現される処理の種類毎に記載したものである。
【0029】
操舵制御装置2は、操舵側モータ制御信号Msを出力する操舵側制御部51と、操舵側モータ制御信号Msに基づいて操舵側モータ13に駆動電力を供給する操舵側駆動回路52とを備えている。操舵側制御部51には、操舵側駆動回路52と操舵側モータ13の各相のモータコイルとの間の接続線53を流れる操舵側モータ13の各相電流値Ius,Ivs,Iwsを検出する操舵側電流センサ45が接続されている。操舵側電流センサ45は、操舵側モータ13に対応して設けられる図示しないインバータにおいて、スイッチング素子のそれぞれのソース側に接続されたシャント抵抗の電圧降下を電流として取得する。なお、
図2では、説明の便宜上、各相の接続線53及び各相の操舵側電流センサ45をそれぞれ1つにまとめて図示している。
【0030】
また、操舵制御装置2は、転舵側モータ制御信号Mtを出力する転舵側制御部54と、転舵側モータ制御信号Mtに基づいて転舵側モータ32に駆動電力を供給する転舵側駆動回路55とを備えている。転舵側制御部54には、転舵側駆動回路55と転舵側モータ32の各相のモータコイルとの間の接続線56を流れる転舵側モータ32の各相電流値Iut,Ivt,Iwtを検出する転舵側電流センサ46が接続されている。転舵側電流センサ46は、転舵側モータ32に対応して設けられる図示しないインバータにおいて、スイッチング素子のそれぞれのソース側に接続されたシャント抵抗の電圧降下を電流として取得する。なお、
図2では、説明の便宜上、各相の接続線56及び各相の転舵側電流センサ46をそれぞれ1つにまとめて図示している。本実施形態の操舵側駆動回路52及び転舵側駆動回路55には、例えばFET等の複数のスイッチング素子を有する周知のPWMインバータがそれぞれ採用されている。また、操舵側モータ制御信号Ms及び転舵側モータ制御信号Mtは、それぞれ各スイッチング素子のオンオフ状態を規定するゲートオンオフ信号となっている。
【0031】
操舵側制御部51は、操舵側モータ制御信号Msを操舵側駆動回路52に出力することにより、車載電源Bから操舵側モータ13への駆動電力の供給を通じて当該操舵側モータ13の駆動を制御する。また、転舵側制御部54は、転舵側モータ制御信号Mtを転舵側駆動回路55に出力することにより、車載電源Bから転舵側モータ32への駆動電力の供給を通じて転舵側モータ32の駆動を制御する。
【0032】
次に、操舵側制御部51の機能について説明する。
操舵側制御部51には、操舵トルクTh、車速値V、操舵側回転角θs、各相電流値Ius,Ivs,Iws、後述の実電流値Iqt、及び後述の転舵角θpが入力される。操舵側制御部51は、これら入力された各状態量に基づいて、操舵側モータ制御信号Msを生成して出力する。なお、実電流値Iqtは、各相電流値Iut,Ivt,Iwtに基づき演算される。また、転舵角θpは、転舵側回転角θtに基づき演算される。
【0033】
具体的には、操舵側制御部51は、ステアリングホイール3、すなわちステアリングシャフト11の回転角である操舵角θhを演算する操舵角演算部61と、操舵反力の目標値となる目標トルクとしての目標反力トルクTs*を演算する目標反力トルク演算部62と、操舵側モータ制御信号Msを演算する操舵側モータ制御信号演算部63とを備えている。
【0034】
操舵角演算部61には、操舵側回転角θsが入力される。操舵角演算部61は、操舵側回転角θsを、例えば、車両が直進しているときのステアリングホイール3の位置であるステアリング中立位置からの操舵側モータ13の回転数をカウントすることにより、360°を超える範囲を含む積算角に換算する。操舵角演算部61は、換算して得られた積算角に減速機14の回転速度比に基づく換算係数を乗算することで、操舵角θhを演算する。こうして得られた操舵角θhは、目標反力トルク演算部62に出力される。
【0035】
目標反力トルク演算部62には、操舵トルクTh、車速値V、操舵角θh、及び実電流値Iqtが入力される。目標反力トルク演算部62は、これら入力された状態量に基づいて、目標反力トルクTs*を演算する。こうして得られた目標反力トルクTs*は、操舵側モータ制御信号演算部63に出力される。また、目標反力トルク演算部62は、目標反力トルクTs*を演算する過程で、ステアリングホイール3の操舵角θhの目標値である目標操舵角θh*を演算する。こうして得られた目標操舵角θh*は、転舵側制御部54に出力される。本実施形態において、目標反力トルク演算部62はトルク指令値演算部の一例であり、目標反力トルクTs*はトルク指令値の一例である。
【0036】
操舵側モータ制御信号演算部63には、目標反力トルクTs*に加え、操舵側回転角θs及び各相電流値Ius,Ivs,Iwsが入力される。操舵側モータ制御信号演算部63は、目標反力トルクTs*に基づいて、dq座標系におけるd軸上のd軸目標電流値Ids*及びq軸上のq軸目標電流値Iqs*を演算する。目標電流値Ids*,Iqs*は、dq座標系におけるd軸上の目標電流値及びq軸上の目標電流値をそれぞれ示す。具体的には、操舵側モータ制御信号演算部63は、目標反力トルクTs*の絶対値が大きくなるほど、より大きな絶対値を有するq軸目標電流値Iqs*を演算する。なお、本実施形態では、d軸上のd軸目標電流値Ids*は、基本的にゼロに設定される。そして、操舵側モータ制御信号演算部63は、dq座標系における電流フィードバック制御を実行することにより、操舵側駆動回路52に出力する操舵側モータ制御信号Msを生成する。なお、以下の説明では、フィードバックという文言を「F/B」と記すことがある。
【0037】
すなわち、操舵側モータ制御信号演算部63は、操舵側回転角θsに基づいて実電流値Iqsをdq座標上に写像することにより、dq座標系における操舵側モータ13の実電流値であるd軸の実電流値Ids及びq軸の実電流値Iqsを演算する。操舵側モータ制御信号演算部63は、d軸の実電流値Idsをd軸目標電流値Ids*に追従させるべく、またq軸の実電流値Iqsをq軸目標電流値Iqs*に追従させるべく、d軸及びq軸上の各電流偏差に基づいて目標電圧値を演算し、該目標電圧値に基づくデューティ比を設定するための操舵側モータ制御信号Msを生成する。こうして得られた操舵側モータ制御信号Msは、操舵側駆動回路52に出力される。これにより、操舵側モータ13には、操舵側駆動回路52から操舵側モータ制御信号Msに応じた駆動電力が供給される。そして、操舵側モータ13は、目標反力トルクTs*に示される操舵反力をステアリングホイール3に付与する。
【0038】
次に、転舵側制御部54の機能について説明する。
転舵側制御部54には、転舵側回転角θt、目標操舵角θh*、及び各相電流値Iut,Ivt,Iwtが入力される。転舵側制御部54は、これら入力された各状態量に基づいて、転舵側モータ制御信号Mtを生成して出力する。なお、本実施形態の操舵装置1では、操舵角θhと転舵角θpとの比である舵角比が1:1の比率で一定に設定されており、転舵角θpの目標値となる目標転舵角は、目標操舵角θh*と等しい。
【0039】
具体的には、転舵側制御部54は、ピニオン軸21の回転角である転舵角θpを演算する転舵角演算部71と、転舵輪5を転舵させる転舵力の目標値となる目標転舵トルクTt*を演算する目標転舵トルク演算部72と、転舵側モータ制御信号Mtを演算する転舵側モータ制御信号演算部73とを備えている。
【0040】
転舵角演算部71には、転舵側モータ32の転舵側回転角θtが入力される。転舵角演算部71は、入力される転舵側回転角θtを、例えば、車両が直進しているときのラック軸22の位置であるラック中立位置からの転舵側モータ32の回転数をカウントすることにより、360°を超える範囲を含む積算角に換算する。転舵角演算部71は、換算して得られた積算角にベルト機構33の減速比、ボール螺子機構34のリード、及びラックアンドピニオン機構24の回転速度比に基づく換算係数を乗算することで、転舵角θpを演算する。こうして得られた転舵角θpは、目標転舵トルク演算部72に出力される。
【0041】
目標転舵トルク演算部72には、目標操舵角θh*及び転舵角θpが入力される。目標転舵トルク演算部72は、転舵角θpを目標操舵角θh*に追従させる角度F/B演算を実行することにより、目標転舵トルクTt*を演算する。具体的には、目標転舵トルク演算部72は、角度F/B演算を行う転舵角F/B制御部74を備えている。転舵角F/B制御部74には、目標転舵角である目標操舵角θh*から転舵角θpを差し引いて減算器75を通じて得られる角度偏差Δθpが入力される。目標転舵トルク演算部72は、角度偏差Δθpを入力とする比例要素、積分要素、及び微分要素のそれぞれの出力値の和を、目標転舵トルクTt*として演算する。こうして得られた目標転舵トルクTt*は、転舵側モータ制御信号演算部73に出力される。
【0042】
転舵側モータ制御信号演算部73には、目標転舵トルクTt*に加え、転舵側回転角θt及び各相電流値Iut,Ivt,Iwtが入力される。転舵側モータ制御信号演算部73は、目標転舵トルクTt*に基づいて、dq座標系におけるd軸上のd軸目標電流値Idt*及びq軸上のq軸目標電流値Iqt*を演算する。具体的には、転舵側モータ制御信号演算部73は、目標転舵トルクTt*の絶対値が大きくなるほど、より大きな絶対値を有するq軸目標電流値Iqt*を演算する。なお、本実施形態では、d軸上のd軸目標電流値Idt*は、基本的にゼロに設定される。そして、転舵側モータ制御信号演算部73は、操舵側モータ制御信号演算部63と同様に、dq座標系における電流F/B演算を実行することにより、転舵側駆動回路55に出力する転舵側モータ制御信号Mtを生成する。また、転舵側モータ制御信号演算部73の演算を通じて転舵側モータ制御信号Mtを生成する過程で得られる実電流値Iqtは、操舵側制御部51の目標反力トルク演算部62に出力される。こうして得られた転舵側モータ制御信号Mtは、転舵側駆動回路55に出力される。これにより、転舵側モータ32には、転舵側駆動回路55から転舵側モータ制御信号Mtに応じた駆動電力が供給される。そして、転舵側モータ32は、目標転舵トルクTt*に示される転舵力を転舵輪5に付与する。
【0043】
次に、目標反力トルク演算部62の機能について説明する。
図3に示すように、目標反力トルク演算部62は、運転者の操舵方向にステアリングホイール3を回転させる力である入力トルク成分としてトルクF/B成分Tfbtを演算する入力トルク成分演算部81を備えている。また、目標反力トルク演算部62は、運転者の操舵によるステアリングホイール3の回転に抗する力、すなわち転舵輪5からラック軸22に作用する軸力である配分軸力Firを演算する反力成分演算部82を備えている。また、目標反力トルク演算部62は、目標操舵角θh*を演算する目標操舵角演算部83と、操舵角F/B成分Tfbhを演算する操舵角F/B成分演算部84を備えている。
【0044】
具体的には、入力トルク成分演算部81は、ステアリングホイール3に入力すべき操舵トルクThの目標値となる目標操舵トルクThb*を演算する目標操舵トルク演算部91と、目標操舵トルクThb*がヒステリシス特性を有して変化するように加味されるヒステリシス成分Thy*を演算するヒステリシス成分演算部92とを備えている。また、入力トルク成分演算部81は、トルクF/B演算の実行によりトルクF/B成分Tfbtを演算するトルクF/B成分演算部93を備えている。
【0045】
目標操舵トルク演算部91には、操舵トルクThにトルクF/B成分Tfbtを加算した加算器94を通じて得られる駆動トルクTcが入力される。目標操舵トルク演算部91は、駆動トルクTcの絶対値が大きいほど、より大きな絶対値となる目標操舵トルクThb*を演算する。なお、駆動トルクTcは、操舵機構4と転舵機構6とが機械的に連結されたものにおいて、転舵輪5を転舵させるトルクであり、近似的にラック軸22に作用する軸力と釣り合う力を示すものである。つまり、駆動トルクTcは、ラック軸22に作用する軸力を推定した演算上の軸力に相当する。
【0046】
ヒステリシス成分演算部92には、転舵角θp及び車速値Vが入力される。ヒステリシス成分演算部92は、転舵角θp及び車速値Vに基づいて、ヒステリシス成分Thy*を演算する。なお、ヒステリシス成分Thy*の具体的な演算の方法は後で詳しく説明する。こうして得られたヒステリシス成分Thy*は、目標操舵トルクThb*を加算して加算器95を通じて得られる目標操舵トルクTh*として減算器96に出力される。また、こうして得られた目標操舵トルクTh*は、さらに操舵トルクThから差し引いて減算器96を通じて得られるトルク偏差ΔThとしてトルクF/B成分演算部93に出力される。
【0047】
トルクF/B成分演算部93には、トルク偏差ΔThが入力される。トルクF/B成分演算部93は、トルク偏差ΔThに基づいて、操舵トルクThを目標操舵トルクTh*に追従させるトルクF/B演算、すなわちトルクフィードバック制御を行うことで、トルクF/B成分Tfbtを演算する。トルクF/B成分演算部93は、トルク偏差ΔThを入力とする比例要素、積分要素、及び微分要素のそれぞれの出力値の和を、トルクF/B成分Tfbtとして演算する。こうして得られたトルクF/B成分Tfbtは、加算器94及び目標操舵角演算部83に出力される。なお、トルクF/B成分Tfbtは、後述の加算器85にも出力される。
【0048】
反力成分演算部82は、転舵輪5に作用する軸力、すなわち転舵輪5に伝達される伝達力の理想値である角度軸力Fibを演算する角度軸力演算部101と、転舵輪5に作用する軸力、すなわち転舵輪5に伝達される伝達力の推定値である電流軸力Ferを演算する電流軸力演算部102とを備えている。また、反力成分演算部82は、角度軸力Fib及び電流軸力Ferを所定配分比率で合算して得られるラック軸22に作用する軸力を推定した演算上の軸力に相当する配分軸力Firを演算する配分軸力演算部103を備えている。本実施形態において、角度軸力Fibは、任意に設定する車両のモデルにより規定される軸力の理想値として演算され、車両の横方向への挙動に影響を与えない微小な凹凸や車両の横方向への挙動に影響を与える段差等の路面情報が反映されない軸力として演算される。また、電流軸力Ferは、車両が走行や停止している際に実際に作用する軸力の推定値として演算され、上記路面情報が反映される軸力として演算される。なお、これら各軸力Fib,Ferは、トルクの次元(N・m)で演算される。
【0049】
角度軸力演算部101には、転舵角θp及び車速値Vが入力される。角度軸力演算部101は、転舵角θpに基づいて、当該転舵角θpの絶対値が大きくなるほど、絶対値が大きい角度軸力Fibを演算する。また、角度軸力演算部101は、車速値Vが大きくなるにつれて絶対値が大きくなるように角度軸力Fibを演算する。こうして得られた角度軸力Fibは、配分軸力演算部103に出力される。
【0050】
電流軸力演算部102には、実電流値Iqtが入力される。電流軸力演算部102は、実電流値Iqtに基づいて、当該実電流値Iqtの絶対値が大きくなるほど、絶対値が大きい電流軸力Ferを演算する。こうして得られた電流軸力Ferは、配分軸力演算部103に出力される。
【0051】
配分軸力演算部103には、角度軸力Fib、電流軸力Fer、及び車速値Vが入力される。配分軸力演算部103は、車速値Vに基づいて、車速値Vが大きくなるほど、角度軸力Fibの配分比率を小さくし、電流軸力Ferの配分比率を大きくするように調整するなかで、角度軸力Fib及び電流軸力Ferを合算して配分軸力Firを演算する。
【0052】
目標操舵角演算部83には、車速値V、操舵トルクTh、トルクF/B成分Tfbt、及び配分軸力Firが入力される。目標操舵角演算部83は、トルクF/B成分Tfbtに操舵トルクThを加算するとともに、配分軸力Firを減算して得られる値である入力トルクTin*と目標操舵角θh*とを関係づける下記式(1)のステアリングモデル式を利用して、目標操舵角θh*を演算する。
【0053】
Tin*=C・θh*´+J・θh*´´…(1)
このモデル式は、ステアリングホイール3と転舵輪5とが機械的に連結されたもの、すなわち操舵機構4と転舵機構6とが機械的に連結されたものにおいて、ステアリングホイール3の回転に伴って回転する回転軸のトルクと回転角との関係を定めて表したものである。そして、このモデル式は、操舵装置1の摩擦等をモデル化した粘性係数C、操舵装置1の慣性をモデル化した慣性係数Jを用いて表される。なお、粘性係数C及び慣性係数Jは、車速値Vに応じて可変設定される。こうして得られた目標操舵角θh*は、目標転舵トルク演算部72及び操舵角F/B成分演算部84に出力される。
【0054】
操舵角F/B成分演算部84には、目標操舵角θh*から操舵角θhを差し引いて減算器86を通じて得られる角度偏差Δθhが入力される。操舵角F/B成分演算部84は、角度偏差Δθhに基づいて、操舵角θhを目標操舵角θh*に追従させる角度F/B演算を行うことで、操舵角F/B成分Tfbhを演算する。具体的には、操舵角F/B成分演算部84は、角度偏差Δθhを入力とする比例要素、積分要素、及び微分要素のそれぞれの出力値の和を、操舵角F/B成分Tfbhとして演算する。こうして得られた操舵角F/B成分Tfbhは、トルクF/B成分Tfbtを加算して加算器85を通じて得られる目標反力トルクTs*として操舵側モータ制御信号演算部63に出力される。
【0055】
本実施形態において、目標反力トルク演算部62は、トルクF/B演算に用いる目標操舵トルクTh*を演算上の軸力である駆動トルクTcに基づき演算するとともに、角度F/B演算に用いる目標操舵角θh*を演算上の軸力である配分軸力Firに基づき演算し、これらを足し合わせて目標反力トルクTs*として演算している。そのため、操舵側モータ13が付与する操舵反力は、基本的には運転者の操舵に抗する力として作用することになるが、ラック軸22に作用する演算上の軸力と、実際の軸力との偏差によっては、運転者の操舵を補助する力として作用することもある。
【0056】
ここで、ヒステリシス成分演算部92の機能についてさらに詳しく説明する。
図4に示すように、ヒステリシス成分演算部92は、ヒステリシス成分Thy*の基礎成分であるヒステリシス基礎成分Thyb*を演算するヒステリシス基礎成分演算部111と、ヒステリシス基礎成分Thyb*の微分値であるヒステリシス微分成分Thyd*を演算するヒステリシス微分成分演算部112とを備えている。
【0057】
ヒステリシス基礎成分演算部111には、車速値V、転舵角θp、及び角速度ωpが入力される。角速度ωpは、転舵角θpを微分して微分器113を通じて得られる微分値であり、ステアリングホイール3の操舵に関連して回転するピニオン軸21の転舵角θpの変化量である。
【0058】
図5(a),(b)に示すように、ヒステリシス基礎成分演算部111は、転舵角θpと、ヒステリシス基礎成分Thyb*との関係を定めたヒステリシスマップM1,M2を備えており、転舵角θpを入力とし、ヒステリシス基礎成分Thyb*をマップ演算する。ヒステリシス基礎成分演算部111は、転舵角θpや角速度ωpの符号及び増減に基づき判定される切り込み操舵であるか、切り戻し操舵であるかに応じたヒステリシスマップM1,M2のいずれかを用いてヒステリシス基礎成分Thyb*をマップ演算する。本実施形態において、切り込み操舵は操舵の方向が同一の一方向への操舵を継続する操舵のことであり、切り戻し操舵は操舵の方向が変化した後の僅か所定範囲内の転舵角θpの間の操舵のことである。なお、ヒステリシスマップM1,M2において、「θp」とは、後述のように、切り込み操舵や切り戻し操舵の開始位置での転舵角θpを原点とした場合の転舵角θpの変化量を示している。
【0059】
具体的には、ヒステリシス基礎成分演算部111は、切り込み操舵時には、ヒステリシスマップM1を用いて、ヒステリシス基礎成分Thyb*を演算する。この場合、ヒステリシス基礎成分Thyb*は、転舵角θpの絶対値が大きくなるほど、絶対値が大きくなるとともに、転舵角θpに対するヒステリシス基礎成分Thyb*の立ち上がり時の変化率であるヒステリシス勾配の絶対値が小さくなるように算出される。この場合のヒステリシス基礎成分Thyb*の絶対値は、転舵角θpが所定以上の範囲で飽和するようになっており、その時の値が最大値Tmax以下となるように算出される。
【0060】
そして、ヒステリシス基礎成分演算部111は、右方向への切り込み操舵時、その切り込み操舵の開始位置での転舵角θpをヒステリシスマップM1の原点として第1象限に示される値を用いる。また、ヒステリシス基礎成分演算部111は、左方向への切り込み操舵を行う場合、その切り込み操舵の開始位置での転舵角θpをヒステリシスマップM1の原点として第3象限に示される値を用いる。
【0061】
一方、ヒステリシス基礎成分演算部111は、切り戻し操舵時には、ヒステリシスマップM2を用いて、ヒステリシス基礎成分Thyb*を演算する。この場合、ヒステリシス基礎成分Thyb*は、転舵角θpに比例するように算出される。この場合のヒステリシス基礎成分Thyb*は、原点から所定範囲内の転舵角θpの場合にのみ算出される。
【0062】
そして、ヒステリシス基礎成分演算部111は、右方向への切り戻し操舵を行う場合、その切り戻し操舵の開始位置での転舵角θpをヒステリシスマップM2の原点として、当該原点から転舵角θpが所定範囲内にある間だけ第1象限に示される値を用いる。また、ヒステリシス基礎成分演算部111は、左方向への切り戻し操舵を行う場合、その切り戻し操舵の開始位置での転舵角θpをヒステリシスマップM2の原点として、当該原点から転舵角θpが所定範囲内にある間だけ第3象限に示される値を用いる。
【0063】
本実施形態において、ヒステリシスマップM1,M2は、角速度ωpに応じてヒステリシス基礎成分Thyb*を変更するように構成されているとともに、車速値Vに応じてヒステリシス基礎成分Thyb*を変更するように構成されている。ヒステリシスマップM1,M2は、所望の操舵フィーリングを実現することを目的として、角速度ωpや車速値Vに応じてヒステリシス基礎成分Thyb*を変更する。本実施形態では、例えば、角速度ωpが大きいほど、ヒステリシス勾配を小さくして応答性を低下させるようにヒステリシス基礎成分Thyb*を変更するようにしているとともに、車速値Vが小さいほど、ヒステリシス勾配を大きくして応答性を高めるようにヒステリシス基礎成分Thyb*を変更するようにしている。
【0064】
これにより、
図6に示すように、例えば、ステアリングホイール3を一定周波数で周期的に切り込み操舵及び切り戻し操舵を繰り返し行うサイン操舵した際において、ヒステリシス基礎成分演算部111は、転舵角θpの変化に対してヒステリシス特性を有するヒステリシス基礎成分Thyb*を演算する。こうして得られたヒステリシス基礎成分Thyb*は、ヒステリシス微分成分演算部112及び加算器114に出力される。本実施形態において、入力トルク成分演算部81の特に目標操舵トルク演算部91は指令値成分演算部の一例であり、目標操舵トルクThb*は指令値成分の一例であり、転舵角θpが操舵装置1の動作に応じて変化する状態量の一例である。
【0065】
ヒステリシス微分成分演算部112は、ヒステリシス基礎成分Thyb*及び車速値Vが入力される。ヒステリシス微分成分演算部112は、ヒステリシス基礎成分Thyb*を微分して微分器115を通じて得られる値に対して、車速値Vに応じたゲインKyを乗算して乗算器116を通じて得られるヒステリシス基礎成分Thyb*の微分成分であるヒステリシス微分成分Thyd*を演算する。本実施形態において、ヒステリシス微分成分Thyd*は、ヒステリシス基礎成分Thyb*で生じる振動的な応答の特性を抑制するように作用する成分として演算される。
【0066】
本実施形態において、ヒステリシス微分成分Thyd*は、ヒステリシス基礎成分Thyb*が車速値Vに基づき変更されることに起因して、成り行きで車速値Vに基づき変更される。これに対して、ヒステリシス微分成分Thyd*は、操舵フィーリングの向上を目的として、車速値Vに応じたゲインKyに基づき調整して適切な成分として変更されるように構成されている。
【0067】
こうして得られたヒステリシス微分成分Thyd*は、ヒステリシス基礎成分Thyb*を加算して加算器114を通じて得られるヒステリシス成分Thy*として加算器95に出力される。本実施形態において、ヒステリシス微分成分Thyd*は、ヒステリシス基礎成分Thyb*に対する加算を通じて、ヒステリシス基礎成分Thyb*で生じる振動的な応答の特性を抑制するように作用する成分として加味される。そして、ヒステリシス成分Thy*は、目標操舵トルクTh*に対する加算を通じて、当該目標操舵トルクTh*がヒステリシス特性を有して変化するように作用する成分として加味される。なお、本実施形態では、ヒステリシス基礎成分Thyb*で生じる振動的な応答の特性を抑制するように作用させることを考えれば、ヒステリシス微分成分Thyd*をヒステリシス基礎成分Thyb*に対する減算を通じて加味するようにしても同様の効果を得ることができる。
【0068】
以下、本実施形態の作用を説明する。
本実施形態において、ヒステリシス基礎成分Thyb*については、これを加味することによって操舵に対する手応えを運手者に与えることができるようになる。
【0069】
図7に示すように、例えば、上記サイン操舵した際において、転舵角θpと目標操舵トルクTh*との関係により示される操舵特性は、ヒステリシス基礎成分Thyb*に基づいたヒステリシス特性を有して変化する特性を示すようになる。そして、ヒステリシス基礎成分Thyb*の立ち上がり時の勾配であるヒステリシス勾配は、例えば、転舵角θpが原点の零からの右方向への切り込み操舵の開始時や、その後の左方向への切り戻し操舵後の左方向への切り込み操舵の開始時に特に影響を与えることになる。
【0070】
つまり、操舵に対する手応えとして、しっかりとした手応えを運転者に与えるには、ヒステリシス基礎成分Thyb*のヒステリシス勾配をより大きくして応答性を高めることが考えられる。この場合、ヒステリシス勾配を無理に大きくして応答性を高め過ぎると応答性能が足りていない等の理由から、ヒステリシス基礎成分Thyb*で振動的な応答の特性が顕著になり安定性の面で不利になる。つまり、しっかりとした手応えを運転者に与えるべく、ヒステリシス基礎成分Thyb*のヒステリシス勾配を大きくして応答性を高めようにも限界がある。
【0071】
これに対して、本実施形態において、ヒステリシス微分成分Thyd*は、ヒステリシス基礎成分Thyb*で生じる振動的な応答の特性を抑制するように作用することになる。これは、つまりヒステリシス基礎成分Thyb*のヒステリシス勾配を大きくした際の振動的な応答の特性を抑制することができるようになる。これにより、ヒステリシス基礎成分Thyb*のヒステリシス勾配として大きくして高められる応答性の限界を、ヒステリシス微分成分Thyd*を加味しない場合と比較して大きくすることができるようになる。
【0072】
具体的には、
図8に、
図5(a)で示したヒステリシスマップM1の転舵角θpが原点の零からの右方向への切り込み操舵の開始時に対応する第1象限の一部を拡大して示すように、ヒステリシス基礎成分Thyb*のヒステリシス勾配の絶対値を、図中の仮想線に対して矢印の如く大きくした実線で示すように設計することができるようになる。これは、ヒステリシスマップM1の転舵角θpが原点の零からの左方向への切り込み操舵の開始時に対応する第3象限でのヒステリシス基礎成分Thyb*のヒステリシス勾配の絶対値についても同様である。
【0073】
これにより、
図9に、
図7で示した操舵特性の転舵角θpが原点の零からの右方向への切り込み操舵に対応する第1象限を拡大して示すように、右方向への切り込み開始時の転舵角θpの変化に対する目標操舵トルクTh*の勾配の絶対値を、図中の仮想線に対して矢印の如く大きくして実線で示すように変更することができるようになる。また、同図に示すように、左方向への切り戻し操舵後の左方向への切り込み操舵開始時の転舵角θpの変化に対する目標操舵トルクTh*の勾配の絶対値を図中の矢印の如く大きくすることができるようになる。
【0074】
以下、本実施形態の効果を説明する。
(1)本実施形態では、ヒステリシス成分Thy*を演算するにあたり、ヒステリシス基礎成分Thyb*に対してヒステリシス微分成分Thyd*を加味するようにしている。したがって、本実施形態では、ヒステリシス微分成分Thyd*を加味しない場合と比較して、ヒステリシス勾配を大きくして応答性を高めたヒステリシス基礎成分Thyb*の設計が可能になり、しっかりとした手応えを運転者に与えて操舵フィーリングの向上を図ることができる。
【0075】
(2)本実施形態では、角速度ωpに基づきヒステリシス基礎成分Thyb*を変更する際、当該角速度ωpが大きいほど、ヒステリシス勾配を小さくして応答性を低下させるようにヒステリシス基礎成分Thyb*を変更することで、早い操舵では手応えを抑えた状態ですっと操舵させることができるようにしている。これにより、しっかりとした手応えを運転者に与えたり、すっと操舵できるようにしたり、ステアリングホイール3の操舵の状態に応じた適切な操舵フィーリングを設定するようにしている。したがって、操舵フィーリングの向上を図るのに効果的である。
【0076】
(3)本実施形態では、車速値Vに基づきヒステリシス基礎成分Thyb*を変更する際、当該車速値Vが小さいほど、ヒステリシス勾配を大きくして応答性を高めるようにヒステリシス基礎成分Thyb*を変更することで、停車時などでは十分な手応えを運転者に与えることができるようにしている。これにより、しっかりとした手応えを運転者に与えたり、十分な手応えを運転者に与えたり、車両の走行の状態に応じた適切な操舵フィーリングを設定するようにしている。したがって、操舵フィーリングの向上を図るのに効果的である。
【0077】
(4)ここで、ヒステリシス基礎成分Thyb*を車速値Vに基づき変更すると、当該ヒステリシス基礎成分Thyb*を微分して得られる成分であるヒステリシス微分成分についても成り行きで車速値Vに基づき変更されることとなる。ただし、この成り行きで車速値Vに基づき変更されるヒステリシス微分成分は、操舵フィーリングの向上を目的とした場合に必ずしも適切な成分であるとは言えない。
【0078】
そこで、本実施形態では、ヒステリシス基礎成分Thyb*を車速値Vに基づき変更するなかで、当該車速値Vに基づきヒステリシス微分成分Thyd*を変更することで、操舵フィーリングの向上を目的とした場合に適切な成分となるようにしている。これにより、操舵フィーリングの向上に寄与することができる。
【0079】
(第2実施形態)
次に、操舵制御装置の第2実施形態について説明する。なお、既に説明した実施形態と同一構成等は、同一の符号を付す等して、その重複する説明を省略する。
【0080】
図10に示すように、本実施形態の入力トルク成分演算部81は、ステアリングホイール3に入力された操舵トルクThに対して出力するべきモータトルクの基礎成分となるアシスト基礎成分Tb*を演算するアシスト基礎成分演算部122を備えている。また、入力トルク成分演算部81は、アシスト基礎成分Tb*がヒステリシス特性を有して変化するように加味される第1ヒステリシス成分Tby*を演算する第1ヒステリシス成分演算部123を備えている。また、入力トルク成分演算部81は、上記第1ヒステリシス成分Tby*と同じくアシスト基礎成分Tb*がヒステリシス特性を有して変化するように加味される第2ヒステリシス成分Tyを演算する第2ヒステリシス成分演算部121を備えている。本実施形態において、入力トルク成分演算部81の特にアシスト基礎成分演算部122は指令値成分演算の一例であり、アシスト基礎成分Tb*は指令値成分の一例であり、転舵角θpや操舵トルクThが操舵装置1の動作に応じて変化する状態量の一例である。
【0081】
第2ヒステリシス成分演算部121には、操舵トルクTh及び転舵角θpが入力される。第2ヒステリシス成分演算部121は、操舵トルクThに対して出力するべきモータトルクとして予め定めた以上のモータトルクを引き出すべく、操舵トルクThの絶対値を実際の値よりも小さい値となるように見せかけの操舵トルクTh´を演算する。なお、第2ヒステリシス成分演算部121は、ラック中立位置である転舵角θpの零付近では基本的に操舵トルクThの絶対値の実際の値を操舵トルクTh´として演算する一方、転舵角θpの絶対値が大きいほど、操舵トルクThの絶対値が実際の値よりもより小さな値となるように操舵トルクTh´を演算する。こうして得られた操舵トルクTh´は、アシスト基礎成分演算部122及び目標操舵角演算部125に出力される。
【0082】
第2ヒステリシス成分演算部121は、第1実施形態のヒステリシス成分演算部92と同様に構成されており、転舵角θpを操舵トルクTh、ヒステリシス基礎成分Thyb*を操舵トルク基礎成分Thb、ヒステリシス微分成分Thyd*を操舵トルク基礎成分Thbを微分して得られる値である操舵トルク微分成分Thdと読み替えるものである。また、第2ヒステリシス成分演算部121は、ヒステリシス成分Thy*を操舵トルク基礎成分Thbと操舵トルク微分成分Thdとを加算して得られる操舵トルクTh´と読み替えるものである。また、第2ヒステリシス成分演算部121は、
図5(a),(b)に示したヒステリシスマップM1,M2の縦軸を操舵トルクThの絶対値の実際の値に対して小さい値にする差分「ΔTh」に変更したマップを備えている。なお、本実施形態では、操舵トルク微分成分Thdを操舵トルク基礎成分Thbに対する減算を通じて加味するようにしてもよいことは第1実施形態と同様である。
【0083】
アシスト基礎成分演算部122には、操舵トルクTh´及び車速値Vが入力される。アシスト基礎成分演算部122は、操舵トルクTh´及び車速値Vに基づいて、アシスト基礎成分Tb*を演算して生成する。なお、アシスト基礎成分演算部122は、操舵トルクTh´の絶対値が大きいほど、車速値Vが小さいほど、より大きな絶対値となるアシスト基礎成分Tb*を演算する。つまり、本実施形態において、アシスト基礎成分Tb*は、操舵トルクThのトルクフィードフォワード制御を通じて演算される。こうして得られたアシスト基礎成分Tb*は、加算器124に出力される。
【0084】
第1ヒステリシス成分演算部123には、転舵角θp及び車速値Vが入力される。第1ヒステリシス成分演算部123は、転舵角θp及び車速値Vに基づいて、第1ヒステリシス成分Tby*を演算する。こうして得られた第1ヒステリシス成分Tby*は、アシスト基礎成分Tb*を加算して加算器124を通じて得られるアシスト成分Tb*´として目標操舵角演算部125に出力される。
【0085】
第1ヒステリシス成分演算部123は、第1実施形態のヒステリシス成分演算部92と同様に構成されており、ヒステリシス基礎成分Thyb*を第1ヒステリシス基礎成分Tbyb*、ヒステリシス微分成分Thyd*を第1ヒステリシス基礎成分Tbyb*を微分して得られる値である第1ヒステリシス微分成分Tbyd*と読み替えるものである。また、第1ヒステリシス成分演算部123は、ヒステリシス成分Thy*を第1ヒステリシス基礎成分Tbyb*と第1ヒステリシス微分成分Tbyd*とを加算して得られる第1ヒステリシス成分Tby*と読み替えるものである。また、第1ヒステリシス成分演算部123は、
図5(a),(b)に示したヒステリシスマップM1,M2の縦軸を第1ヒステリシス基礎成分Tbyb*に変更したマップを備えている。なお、本実施形態では、第1ヒステリシス微分成分Tbyd*を第1ヒステリシス基礎成分Tbyb*に対する減算を通じて加味するようにしてもよいことは第1実施形態と同様である。
【0086】
そして、本実施形態の目標操舵角演算部125には、車速値V、操舵トルクTh´、アシスト成分Tb*´、及び配分軸力Firが入力される。目標操舵角演算部125は、アシスト成分Tb*´に操舵トルクTh´を加算するとともに、配分軸力Firを減算して得られる値である入力トルクTin*と目標操舵角θh*とを関係づける上記第1実施形態と同様の上記式(1)のステアリングモデル式を利用して、目標操舵角θh*を演算する。こうして得られた目標操舵角θh*は、目標転舵トルク演算部72及び操舵角F/B成分演算部84に出力される。
【0087】
本実施形態によれば、上記第1実施形態の作用及び効果に対応する作用及び効果を奏する他、以下の効果を奏する。
(5)本実施形態のように、アシスト基礎成分Tb*を演算する際に操舵トルクThのトルクフィードフォワード制御を採用する場合、操舵トルクThが狙った値となるように制御するトルクフィードバック制御を採用する上記第1実施形態とは異なり、操舵トルクThが成り行きで変化していく。この場合、ヒステリシス特性を有するようにアシスト基礎成分Tb*に対して第1ヒステリシス成分Tby*を加味したとしても、その反映が転舵角θpの範囲全体に及ばず、例えば、ラック中立位置である転舵角θpの零付近を外れてくると反映度が小さくなり、転舵角θpの上限付近ではほとんど反映されなくなる場合がある。この場合、転舵角θpの上限付近ではアシスト基礎成分Tb*がヒステリシス特性をほとんど有さなくなる。
【0088】
これに対して、本実施形態では、転舵角θpの範囲全体に亘りアシスト基礎成分Tb*がヒステリシス特性を有するように、転舵角θpの上限付近での操舵トルクThの絶対値を実際の値よりも小さい値である見せかけの操舵トルクTh´に置き換えるようにしている。これにより、転舵角θpの上限付近では、その時に必要なモータトルクに対して小さいモータトルクが出力されるようになり、運転者としては転舵輪5を転舵させるために実際の操舵トルクThよりも絶対値の大きい値の操舵トルクThを入力しなければいけなくなる。この場合、運転者による操舵トルクThの絶対値が大きくなる結果、モータトルクの出力も上がるようにアシスト基礎成分Tb*の絶対値が大きくなる。したがって、転舵角θpの上限付近でもアシスト基礎成分Tb*がヒステリシス特性を有するようになり、所望の操舵フィーリングの実現に寄与することができる。
【0089】
(第3実施形態)
次に、操舵制御装置の第3実施形態について説明する。なお、既に説明した実施形態と同一構成等は、同一の符号を付す等して、その重複する説明を省略する。
【0090】
図11に示すように、本実施形態の角度軸力演算部101は、ヒステリシス特性を有するように角度軸力Fibを演算する。
具体的には、角度軸力演算部101は、角度軸力Fibの基礎成分である角度軸力基礎成分Fibbを演算する角度軸力基礎成分演算部131と、角度軸力Fibがヒステリシス特性を有して変化するように加味されるヒステリシス成分Fibbyを演算するヒステリシス成分演算部132とを備えている。本実施形態において、角度軸力演算部101は指令値成分演算の一例であり、角度軸力Fibは指令値成分の一例であり、転舵角θpが操舵装置1の動作に応じて変化する状態量の一例である。
【0091】
角度軸力基礎成分演算部131には、転舵角θp及び車速値Vが入力される。角度軸力基礎成分演算部131は、上記第1実施形態の角度軸力演算部101が演算する角度軸力Fibを角度軸力基礎成分Fibbとして演算する。こうして得られた角度軸力基礎成分Fibbは、加算器133に出力される。
【0092】
ヒステリシス成分演算部132には、転舵角θp及び車速値Vが入力される。ヒステリシス成分演算部132は、転舵角θp及び車速値Vに基づいて、ヒステリシス成分Fibbyを演算する。こうして得られたヒステリシス成分Fibbyは、角度軸力基礎成分Fibbを加算して加算器133を通じて得られる角度軸力Fibとして配分軸力演算部103に出力される。
【0093】
ヒステリシス成分演算部132は、第1実施形態のヒステリシス成分演算部92と同様に構成されており、ヒステリシス基礎成分Thyb*をヒステリシス基礎成分Fibbyb、ヒステリシス微分成分Thyd*をヒステリシス基礎成分Fibbybを微分して得られる値であるヒステリシス微分成分Fibbydと読み替えるものである。また、ヒステリシス成分演算部132は、ヒステリシス成分Thy*をヒステリシス基礎成分Fibbybとヒステリシス微分成分Fibbydとを加算して得られるヒステリシス成分Fibbyと読み替えるものである。また、ヒステリシス成分演算部132は、
図5(a),(b)に示したヒステリシスマップM1,M2の縦軸をヒステリシス基礎成分Fibbybに変更したマップを備えている。なお、本実施形態では、ヒステリシス微分成分Fibbydをヒステリシス基礎成分Fibbybに対する減算を通じて加味するようにしてもよいことは第1実施形態と同様である。また、本実施形態は、上記第1実施形態の角度軸力演算部101の構成を変更して適用するに限らず、上記第2実施形態の角度軸力演算部101の構成を変更して適用することもできる。
【0094】
本実施形態によれば、上記第1実施形態の作用及び効果に対応する作用及び効果を奏する。
上記各実施形態は次のように変更してもよい。また、以下の他の実施形態は、技術的に矛盾しない範囲において、互いに組み合わせることができる。
【0095】
・上記第1実施形態では、車速値Vに基づきヒステリシス微分成分Thyd*を変更しなくてもよい。これは、上記第2及び第3実施形態においてヒステリシス微分成分Thyd*に対応する微分成分についても同様である。
【0096】
・上記第1実施形態では、車速値Vに基づきヒステリシス基礎成分Thyb*を、例えば、車速値Vが小さいほど、ヒステリシス勾配を小さくして応答性を低下させるようにする等、変更する態様を適宜変更可能である。これは、上記第2及び第3実施形態においてヒステリシス基礎成分Thyb*に対応する基礎成分についても同様である。
【0097】
・上記第1実施形態では、角速度ωpに基づきヒステリシス基礎成分Thyb*を、例えば、角速度ωpが大きいほど、ヒステリシス勾配を大きくして応答性を高めるようにする等、変更する態様を適宜変更可能である。これは、上記第2及び第3実施形態においてヒステリシス基礎成分Thyb*に対応する基礎成分についても同様である。
【0098】
・上記第1実施形態では、角速度ωpの代わりに角加速度αpに基づきヒステリシス基礎成分Thyb*を変更するようにしてもよい。これは、上記第2及び第3実施形態においてヒステリシス基礎成分Thyb*に対応する基礎成分についても同様である。
【0099】
・上記第1実施形態では、ヒステリシス微分成分Thyd*を演算する際、微分の手法の代わりに、例えば、ヒステリシス基礎成分Thyb*の変化量を算出してこれを微分成分として用いるようにしてもよいし、位相進みフィルタを通じてフィルタ処理された結果を微分成分として用いるようにしてもよい。
【0100】
・上記第1実施形態では、転舵角θpを用いている部分について、転舵角θpの代わりに、当該転舵角θp、すなわち転舵輪5の舵角と相関のある状態量に基づき各種成分を演算するようにしてもよい。このような転舵輪5の舵角と相関のある状態量としては、例えば、目標操舵角θh*、すなわち目標転舵角や、操舵角θhや、操舵側回転角θsや、転舵側回転角θtであり、これらは操舵装置1の動作に応じて変化する状態量の一例でもある。つまり、ヒステリシス基礎成分Thyb*や角度軸力Fibは、例えば、目標操舵角θh*に基づき演算されるようにしてもよい。本変形例の場合であっても、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。これは、上記第2及び第3実施形態においても同様である。
【0101】
・上記第1実施形態では、トルクF/B成分Tfbtが目標反力トルクTs*となるように制御構成を構築することもできるし、トルクF/B成分Tfbtを加算しない操舵角F/B成分が目標反力トルクTs*となるように制御構成を構築することもできる。
【0102】
・上記第1実施形態において、目標操舵トルク演算部91では、目標操舵トルクThb*を演算する際、操舵トルクThを少なくとも用いていればよく、車速値Vを用いなくてもよいし、他の要素を組み合わせて用いるようにしてもよい。これは、上記第2実施形態においてアシスト基礎成分Tb*を演算する際についても同様であり、操舵トルクTh´を少なくとも用いていればよく、車速値Vを用いなくてもよいし、他の要素を組み合わせて用いるようにしてもよい。
【0103】
・上記第1実施形態において、ヒステリシス成分演算部92では、ヒステリシス基礎成分演算部111がヒステリシス基礎成分Thyb*を演算する際、転舵角θpを少なくとも用いていればよく、車速値Vや角速度ωpを用いなくてもよいし、他の要素を組み合わせて用いるようにしてもよい。また、ヒステリシス微分成分演算部112がヒステリシス微分成分Thyd*を演算する際、ヒステリシス基礎成分Thyb*を少なくとも用いていればよく、車速値Vを用いなくてもよいし、他の要素を組み合わせて用いるようにしてもよい。これは、上記第2及び第3実施形態において上記各種成分に対応する成分を演算する際についても同様である。
【0104】
・上記第1実施形態において、ヒステリシス成分演算部92では、ヒステリシス成分Thy*を演算する際、切り込み操舵のなかでもラック中立位置である転舵角θpの零側から離間する側へのエンド側操舵時に限り、ヒステリシス基礎成分Thyb*に対してヒステリシス微分成分Thyd*を加味するようにしてもよい。この場合、ヒステリシス基礎成分演算部111やヒステリシス微分成分演算部112が上記エンド側操舵時であるか否かを操舵トルクTh等に基づき判定したり、当該判定を行う演算部を新たに設けるようにしたりすればよい。本別例では、
図9に示すうち、左方向への切り戻し操舵後の左方向への切り込み操舵開始時の転舵角θpの変化に対する目標操舵トルクTh*の勾配の絶対値を図中の矢印の如く大きくすることができないが、操舵フィーリングの向上を図る点では十分に効果的である。これは、上記第2及び第3実施形態においてヒステリシス成分演算部92に対応する演算部についても同様である。
【0105】
・上記第1実施形態において、角度軸力演算部101では、角度軸力Fibを演算する際、転舵角θpを少なくとも用いていればよく、車速値Vを用いなくてもよいし、他の要素を組み合わせて用いるようにしてもよい。これは、電流軸力演算部102が電流軸力Ferを演算する際や、配分軸力演算部103が配分軸力Firを演算する際についても同様である。なお、上記第3実施形態について言えば、角度軸力演算部101について、角度軸力基礎成分演算部131が角度軸力基礎成分Fibbを演算する際についても同様である。
【0106】
・上記第2実施形態では、第1ヒステリシス成分演算部123の構成を少なくとも有していれば、第2ヒステリシス成分演算部121の構成を削除してもよい。この場合であっても、上記第1実施形態の作用及び効果に対応する作用及び効果を奏することができる。
【0107】
・上記各実施形態では、操舵角θhと転舵角θpとの舵角比を一定としたが、車速値Vや転舵角θp等に応じて可変可能にしてもよい。この場合、目標操舵角θh*と目標転舵角とが異なる値になる。
【0108】
・上記各実施形態では、上記式(1)に対して車両のサスペンションやホイールアライメント等の仕様によって決定されるバネ係数Kを用いた、所謂バネ項を追加してモデル化したモデル式を利用して目標操舵角θh*を演算することもできる。
【0109】
・上記各実施形態において、転舵側アクチュエータ31として、例えばラック軸22の同軸上に転舵側モータ32を配置するものや、ウォーム減速機とラックアンドピニオン機構とを介してラック軸22に連結するものを採用してもよい。
【0110】
・上記各実施形態において、操舵制御装置2を構成するCPUは、コンピュータプログラムを実行する1つ以上のプロセッサ、あるいは各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する特定用途向け集積回路等の1つ以上の専用ハードウェア回路、あるいは上記プロセッサ及び上記専用ハードウェア回路の組み合わせを含む回路として実現してもよい。また、メモリには、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体によって構成してもよい。
【0111】
・上記各実施形態は、操舵装置1を、操舵機構4と転舵機構6との間が機械的に常時分離したリンクレスの構造としたが、これに限らず、クラッチにより操舵機構4と転舵機構6との間が機械的に分離可能な構造としてもよい。また、操舵装置1は、ステアリングホイール3の操舵を補助するための力であるアシスト力を付与する電動パワーステアリング装置としてもよい。この場合、ステアリングホイール3は、ステアリングシャフト11を介してピニオン軸21が機械的に接続される。
【0112】
次に、上記各実施形態及び変形例から把握できる技術的思想について以下に追記する。
(イ)上記指令値成分演算部は、上記ステアリングホイールに入力すべき操舵トルクの目標値となる目標操舵トルクを上記指令値成分として演算し、上記トルク指令値演算部は、上記ステアリングホイールに入力される上記操舵トルクを上記目標操舵トルクに追従させるフィードバック制御を実行することにより、上記トルク指令値を演算するものであり、上記ヒステリシス基礎成分は、上記ステアリングホイールの操舵に関連して回転する回転軸の角度を上記状態量として、当該角度の変化に対して上記目標操舵トルクがヒステリシス特性を有して変化するように加味されるものである。
【0113】
上記構成によれば、操舵トルクが狙った値となるように制御するトルクフィードバック制御を採用する場合において、しっかりとした手応えを運転者に与えて操舵フィーリングの向上を図ることができる。
【0114】
(ロ)上記指令値成分演算部は、上記ステアリングホイールに入力される操舵トルクに対して上記モータが発生させるべき上記モータトルクの目標値となる目標モータトルクを上記指令値成分として演算し、上記トルク指令値演算部は、上記操舵トルクをフィードフォワード制御することにより、上記トルク指令値を演算するものであり、上記ヒステリシス基礎成分は、上記ステアリングホイールの操舵に関連して回転する回転軸の角度を上記状態量として、当該角度の変化に対して上記目標モータトルクがヒステリシス特性を有して変化するように加味されるものである。
【0115】
上記構成によれば、指令値成分を演算する際に操舵トルクのトルクフィードフォワード制御を採用する場合において、しっかりとした手応えを運転者に与えて操舵フィーリングの向上を図ることができる。
【0116】
(ハ)上記指令値成分演算部は、上記ステアリングホイールに入力される操舵トルクに対して上記モータが発生させるべき上記モータトルクの目標値となる目標モータトルクを上記指令値成分として演算し、上記トルク指令値演算部は、上記操舵トルクをフィードフォワード制御することにより、上記トルク指令値を演算するものであり、上記ヒステリシス基礎成分は、上記ステアリングホイールの操舵に関連して回転する回転軸の角度を上記状態量として、当該角度の変化に対して上記目標モータトルクがヒステリシス特性を有して変化するように加味される第1ヒステリシス基礎成分と、上記操舵トルクを上記状態量として、当該操舵トルクの変化に対して上記目標モータトルクがヒステリシス特性を有して変化するように加味される第2ヒステリシス基礎成分とを含むものである。
【0117】
上記構成によれば、指令値成分を演算する際に操舵トルクのトルクフィードフォワード制御を採用する場合において、状態量に変化に対して指令値成分がヒステリシス特性を有さなくなるような状況の発生を抑え、所望の操舵フィーリングの実現に寄与することができる。
【0118】
(ニ)上記指令値成分演算部は、転舵輪を転舵させるべく上記操舵装置が備える転舵軸に作用する軸力を上記指令値成分として演算し、上記ヒステリシス基礎成分は、上記ステアリングホイールの操舵に関連して回転する回転軸の角度を上記状態量として、当該角度の変化に対して上記軸力がヒステリシス特性を有して変化するように加味されるものである。
【0119】
上記構成によれば、転舵軸に作用する軸力を演算して指令値成分として採用する場合において、しっかりとした手応えを運転者に与えて操舵フィーリングの向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0120】
1…操舵装置
2…操舵制御装置
3…ステアリングホイール
12…操舵側アクチュエータ(アクチュエータ)
13…操舵側モータ(モータ)
41…車速センサ
62…目標反力トルク演算部(トルク指令値演算部)
91…目標操舵トルク演算部(指令値成分演算部)
92…ヒステリシス成分演算部
111…ヒステリシス基礎成分演算部
112…ヒステリシス微分成分演算部
121…第2ヒステリシス成分演算部
122…アシスト基礎成分演算部(指令値成分演算部)
123…第1ヒステリシス成分演算部
101…角度軸力演算部(指令値成分演算部)
132…ヒステリシス成分演算部