(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】自動変速機の制御方法および制御装置
(51)【国際特許分類】
F16H 61/16 20060101AFI20230829BHJP
【FI】
F16H61/16
(21)【出願番号】P 2020048039
(22)【出願日】2020-03-18
【審査請求日】2023-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002549
【氏名又は名称】弁理士法人綾田事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロッシ セルヒオ
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-019292(JP,A)
【文献】特開2014-052025(JP,A)
【文献】特開2018-194049(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00-61/12,61/16-61/24,
61/66-61/70,63/40-63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のコントローラが、車速を目標車速に収束させる定速走行制御中に第1の条件が成立した場合、エンジンから駆動輪へ至る動力伝達経路上に設けられた自動変速機のシフトアップまたはシフトダウンを実行し、当該シフトアップまたはシフトダウン後に第2の条件が成立したとき前記自動変速機のシフトアップまたはシフトダウンを連続的に実行するにあたり、
前記連続的なシフトアップまたはシフトダウンの実行回数を制限する、
自動変速機の制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の自動変速機の制御方法であって、
前記コントローラは、前記連続的なシフトアップの実行回数を制限し、
前記第1の条件は、車速が前記目標車速以下のとき成立し、
前記第2の条件は、車両が減速状態であるとき成立する、
自動変速機の制御方法。
【請求項3】
請求項2に記載の自動変速機の制御方法であって、
前記コントローラは、前記第1の条件が成立したときの前記自動変速機の変速段が低速側であるほど、前記制限する実行回数を多くする、
自動変速機の制御方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の自動変速機の制御方法であって、
車速が前記目標車速を所定以上下回ったとき、前記制限を解除する、
自動変速機の制御方法。
【請求項5】
エンジンから駆動輪へ至る動力伝達経路上に設けられた自動変速機の制御装置であって、
車速を検出するセンサと、
車速を目標車速に収束させる定速走行制御中に第1の条件が成立した場合、前記自動変速機のシフトアップまたはシフトダウンを実行し、当該シフトアップまたはシフトダウン後に第2の条件が成立したとき前記自動変速機のシフトアップまたはシフトダウンを連続的に実行するにあたり、前記連続的なシフトアップまたはシフトダウンの実行回数を制限するコントローラと、
を備える自動変速機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機の制御方法および制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、クルーズコントロール中、降坂路で車速が目標車速をオーバーシュートした場合、自動変速機のシフトダウンを実行してエンジンブレーキ力を大きくし、その後車速が目標車速に収束すると自動変速機のシフトアップを実行してエンジンブレーキ力を小さくすることにより、車速を目標車速に収束させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術において、シフトアップしても減速が続く場合は、連続してシフトアップすることが考えられるが、シフトアップが連続するとシフトビジーとなり、ドライバに違和感を与えるおそれがある。
本発明の目的は、シフトビジーを抑制できる自動変速機の制御方法および制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、定速走行中に自動変速機のシフトダウンまたはシフトアップを連続的に実行するにあたり、連続的なシフトアップまたはシフトダウンの実行回数を制限する。
【発明の効果】
【0006】
よって、本発明にあっては、シフトビジーを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態1の車両の走行制御装置1の構成図である。
【
図2】クルーズコントロール中の降坂路変速制御の流れを示すフローチャートである。
【
図3】クルーズコントロール中の降坂路変速制御のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔実施形態1〕
図1は、実施形態1の車両の走行制御装置1の構成図である。
車両は走行用の動力源としてエンジン2を有する。エンジン2の出力は、トルクコンバータ4を介して自動変速機(以下、AT)3に入力され、所望の変速比によって変速された後、図外の駆動輪へ伝達される。AT3は、前進9速段、後進1速段の有段変速機である。
エンジン2およびAT3は、走行制御装置1により制御される。走行制御装置1は、エンジン2を制御するエンジンコントローラ5、およびAT3を制御するATコントローラ6を備える。
【0009】
走行制御装置1には、アクセルペダルセンサ7、クルーズコントロールスイッチ8、車速センサ9、エンジン回転数センサ10および加速度センサ11から信号が入力される。アクセルペダルセンサ7は、ドライバによるアクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)を検出する。クルーズコントロールスイッチ8は、ドライバがクルーズコントロール(定速走行制御)における速度設定(クルーズ目標車速の設定)、増速、減速および解除を行うスイッチである。車速センサ9は、車速を検出する。エンジン回転数センサ10は、エンジン回転数を検出する。加速度センサ11は、車両の前後方向加速度(以下、単に加速度と称す。)を検出する。
【0010】
エンジンコントローラ5は、アクセルペダルセンサ7により検出されたアクセル開度、車速センサ9により検出された車速に応じて、エンジン2のスロットルアクチュエータによる吸入空気量、インジェンクタによる燃料噴射量および点火プラグによる点火時期を制御する。ATコントローラ6は、アクセル開度、車速やドライバの操作するセレクトレバーの操作位置、またはエンジンコントローラ5からの変速要求に応じて、エンジン駆動されるオイルポンプからの作動油を媒介とし、AT3の変速制御を行う。
【0011】
また、エンジンコントローラ5は、クルーズコントロールスイッチ8によりクルーズコントロールがオンされている場合、車速センサ9により検出された車速が、ドライバにより設定されたクルーズ目標車速に収束するよう、エンジン2のスロットルアクチュエータによる吸入空気量、インジェクタによる燃料噴射量および点火プラグによる点火時期を制御するクルーズコントロールを実施する。エンジンコントローラ5は、クルーズコントロール中、降坂路で車速とクルーズ目標車速との間に乖離が生じた場合、車速をクルーズ目標車速に収束させることを狙いとし、以下に示すような降坂路変速制御を実施する。
【0012】
図2は、クルーズコントロール中の降坂路変速制御の流れを示すフローチャートである。
ステップS1では、クルーズコントロール中であるかを判定する。YESの場合はステップS2へ進み、NOの場合は降坂路変速制御を終了する。
ステップS2では、車速が開始車速以上、かつ、エンジン2が燃料カット状態であるかを判定する。YESの場合はステップS3へ進み、NOの場合は降坂路変速制御を終了する。開始車速は、クルーズ目標車速よりも所定値αだけ高い車速であって、降坂路を走行していると判定できる車速とする。つまり、コースト走行中に車速がクルーズ目標車速を所定値α以上超過している場合には、車両が降坂路を走行していると判定できる。
【0013】
ステップS3では、シフトダウン目標ギア段を演算する。シフトダウン目標ギア段は、AT3の現在のギア段から1段低速側のギア段とする。
ステップS4では、ATコントローラ6に対し、AT3のギア段をステップS3で演算した目標ギア段とする変速要求を出力する。
ステップS5では、変速(シフトダウン)完了後、車両が加速しているかを判定する。YESの場合はステップS6へ進み、NOの場合はステップS9へ進む。このステップでは、加速度センサ11により検出された加速度の符号が正である場合に、車両が加速していると判定する。
ステップS6では、加速度が連続ダウン閾値以上である状態が所定時間継続し、かつ、車速が開始車速以上であるかを判定する。YESの場合はステップS7へ進み、NOの場合はステップS5へ進む。連続ダウン閾値は、0[G]よりも高い所定の正の加速度とする。
【0014】
ステップS7では、シフトダウン目標ギア段を演算する。シフトダウン目標ギア段は、現在のギア段から1段低速側のギア段とする。
ステップS8では、ATコントローラ6に対し、AT3のギア段をステップS7で演算した目標ギア段とする変速要求を出力する。
ステップS9では、車速がクルーズ目標車速以下であるか(第1の条件)を判定する。YESの場合はステップS10へ進み、NOの場合はステップS5へ進む。このステップでは、車速が目標車速に収束したか否かを判定している。上記の判定に代えて、車速がクルーズ目標車速+所定値以下であるかを判定してもよい。クルーズ目標車速+所定値は、開始車速よりも低く、クルーズ目標車速に近い車速とする。
【0015】
ステップS10では、シフトアップの制限ギア段を演算する。制限ギア段は、現在のギア段に制限段数を加えたギア段とする。制限段数は、現在のギア段が低速側であるほど大きくする。例えば、前進9速段の場合、現在のギア段が3~5速段のときは制限段数を2段とし、現在のギア段が6~8速段のときは制限段数を1段とする。ここで、1速段および2速段はクルーズコントロール中に使用されないギア段であり、9速段は最高段であるため、現在のギア段が1速段、2速段および9速段のときは制限段数を0としている。
なお、ステップS10における制限ギア段の演算は、降坂路変速制御の開始後1回だけ行われる。つまり、既に制限ギア段が設定されている場合には、再度制限ギア段を演算せず、既に設定されている制限ギア段を維持する。
【0016】
ステップS11では、シフトアップ目標ギア段を演算する。シフトアップ目標ギア段は、現在のギア段から1段高速側のギア段とする。
ステップS12では、ATコントローラ6に対し、AT3のギア段をステップS11で演算した目標ギア段とする変速要求を出力する。
ステップS13では、変速(シフトアップ)完了後、車両が減速しているか(第2の条件)を判定する。YESの場合はステップS14へ進み、NOの場合はステップS2へ進む。このステップでは、加速度センサ11により検出された加速度の符号が負である場合に、車両が減速していると判定する。
ステップS14では、車速が解除車速以下であるかを判定する。YESの場合は降坂路変速制御を終了し、NOの場合はステップS15へ進む。解除車速は、クルーズ目標車速よりも所定値βだけ低い車速であって、シフトアップによるエンジンブレーキ力の調整のみでは車速をクルーズ目標車速まで高められないと判定できる車速とする。
【0017】
ステップS15では、加速度が連続アップ閾値以下である状態が所定時間継続しているかを判定する。YESの場合はステップS16へ進み、NOの場合はステップS14へ進む。連続アップ閾値は、0[G]よりも低い所定の負の加速度とする。
ステップS16では、シフトアップ目標ギア段を演算する。このステップでは、現在のギア段から1段高速側のギア段と、ステップS10で演算した制限ギア段とのセレクトローによりシフトアップ目標ギア段を決定する。
ステップS17では、ATコントローラ6に対し、AT3のギア段をステップS16で演算した目標ギア段とする変速要求を出力する。
なお、エンジンコントローラ5は、上記降坂路変速制御中はエンジン2への燃料供給を停止し、降坂路変速制御を終了したときエンジン2への燃料供給を再開する。
【0018】
図3は、クルーズコントロール中の降坂路変速制御のタイムチャートである。
時刻t1では、クルーズコントロール中に車両が降坂路の走行を開始し、エンジン2は燃料カット状態となる。時刻t1~t2の区間では、降坂路により車速とクルーズ目標車速との差が徐々に大きくなる。
時刻t2では、エンジン2の燃料カット状態で車速が開始車速に達したため、変速制御を開始し、AT3を現在のギア段である8速段から7速段へシフトダウンさせる。
【0019】
時刻t3では、8速段から7速段への変速完了後も車両の加速度が連続ダウン閾値以上である状態が所定時間継続し、かつ、車速が開始車速よりも高いため、AT3を7速段から6速段へシフトダウンさせる。
時刻t4では、7速段から6速段への変速完了後も車両の加速度が連続ダウン閾値以上である状態が所定時間継続し、かつ、車速が開始車速よりも高いため、AT3を現在のギア段である6速段から5速段へシフトダウンさせる。
時刻t5では、6速段から5速段への変速完了後も車両の加速度が連続ダウン閾値以上である状態が所定時間継続し、かつ、車速が開始車速よりも高いため、AT3を現在のギア段である5速段から4速段へシフトダウンさせる。時刻t5~t6の区間では、車両が加速から減速に転じる。
【0020】
時刻t6では、車速がクルーズ目標車速まで低下したため、シフトアップの制限ギア段を、現在のギア段(4速段)+制限段数(2段)の6速段に設定すると共に、AT3を4速段から5速段へシフトアップさせる。
時刻t7では、4速段から5速段への変速完了後も車両の加速度が連続アップ閾値以下である状態が所定時間継続したため、AT3を5速段から6速段へシフトアップさせる。
時刻t8では、路面勾配の変化に伴い車両の加速度が連続アップ閾値以下となるが、AT3のギア段は既に制限ギア段である6速段に到達しているため、7速段へのシフトアップは抑制される。
【0021】
時刻t9では、車速が開始閾値に達したため、AT3を現在のギア段である6速段から5速段へシフトダウンさせる。
時刻t10では、車速がクルーズ目標車速まで低下したため、AT3を5速段から4速段へシフトアップさせる。
時刻t11では、車両の加速度は連続アップ閾値以下であるが、AT3のギア段は既に制限ギア段である6速段に達しているため、7速段へのシフトアップは抑制される。
時刻t12では、車速が解除閾値まで低下したため、変速制御を終了する。
【0022】
以上説明したように、実施形態1の車両の走行制御装置1では、車速をクルーズ目標車速に収束させるクルーズコントロール中に車速がクルーズ目標車速以下となった場合、AT3のシフトアップを実行し、当該シフトアップ後に車両が減速状態となったときAT3のシフトアップを連続的に実行するにあたり、連続的なシフトアップの実行回数を制限する。これにより、シフトビジーを抑制でき、ドライバに与える違和感を軽減できる。
【0023】
ここで、シフトビジーを抑制する方法としては、タイマー等で変速段を保持し、変速頻度を減らす方法や、フューエルカットリカバリーやブレーキとの協調によってシフトアップ頻度を減らす方法が考えられる。しかしながら、前者の場合はクルーズ目標車速に対する追従性の悪化が懸念される。また、後者の場合は大きな設計変更工数を要するため、大幅なコストアップを招く。これに対し、実施形態1におけるシフトビジーの抑制方法は、連続的なシフトアップの回数を制限するものである。よって、AT3のギア段が制限ギア段に到達するまでは車両の状態変化(車速や加速度の変化)に対して遅れなくシフトアップを実行できるため、クルーズ目標車速に対する追従性の悪化を抑制できる。また、大きな設計変更工数を要しないため、コストアップを抑えられる。
【0024】
エンジンコントローラ5は、車速がクルーズ目標車速以下となったときAT3のシフトアップを実行し、当該シフトアップの実行後、車両の減速状態が継続しているときシフトアップを連続的に実行する。つまり、車速がクルーズ目標車速に収束した場合には、エンジンブレーキ力を小さくすることで、クルーズ目標車速に対する車速の乖離を抑制できる。さらに、シフトアップ後も車速の減速状態が継続している場合には、連続的にエンジンブレーキ力を小さくすることで、クルーズ目標車速に対する車速の乖離をより確実に抑制できる。
【0025】
ここで、車両の減速状態は、加速度センサ11の検出信号に基づいて判定しているため、勾配変化が激しい路面を走行している場合、加速度の変動が激しいと、車両が増速し始めているときでも車両が減速していると誤判定し、シフトアップを繰り返すおそれがある。実施形態1では、連続的なシフトアップの実行回数を制限するため、上記誤判定が生じた場合であっても、シフトビジーを抑制できる。
【0026】
エンジンコントローラ5は、車速がクルーズ目標車速以下となったとき、すなわちシフトアップ開始時のAT3のギア段が低速側であるほど、制限する実行回数を多くする。ここで、ギア段が低速側であるほどエンジンブレーキ力は大きいため、車速をクルーズ目標車速まで確実に回復させるには、ギア段が低速側であるほどエンジンブレーキ力を減少させる際の調整代をより大きくしておく必要がある。よって、シフトアップ開始時のギア段が低速側であるほど制限する実行回数を多くすることにより、シフトアップ開始時のギア段にかかわらず、車速をクルーズ目標車速までより確実に回復できる。
【0027】
エンジンコントローラ5は、車速が解除車速以下となった場合には、降坂路変速制御を終了する。つまり、車速がクルーズ目標車速を所定値β以上下回った場合には、制限ギア段による連続的なシフトアップの制限を解除する。シフトアップによりエンジンブレーキ力を小さくしているにもかかわらず、車速が大きく低下している場合は、走行路の下り勾配が緩やかになっていると判定できる。このため、さらにシフトアップを実行しても車速はクルーズ目標車速まで回復しないため、この場合は連続的なシフトアップの制限を解除し、降坂路変速制御を終了して通常のクルーズコントロールに復帰する。これにより、変速による車速制御からエンジントルクによる車速制御へと切り替わるため、車速をクルーズ目標車速までより確実に回復できる。
【0028】
(他の実施形態)
以上、本発明を実施するための形態を、実施形態に基づいて説明したが、本発明の具体的な構成は、実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。
例えば、実施形態1では、連続的なシフトアップの実施回数を制限する例を示したが、連続的なシフトダウンの実施回数を制限してもよい。
シフトアップの制限ギア段は、自動変速機の諸元(各ギア段の変速比や変速段数)に応じて任意に設定でき、少なくとも第1の条件が成立したときのギア段が低速側であるほど、制限する実行回数が多くなるように設定すればよい。
【符号の説明】
【0029】
1 走行制御装置
2 エンジン
3 AT(自動変速機)
4 トルクコンバータ
5 エンジンコントローラ(コントローラ)
6 ATコントローラ
7 アクセルペダルセンサ
8 クルーズコントロールスイッチ
9 車速センサ(センサ)
10 エンジン回転数センサ
11 加速度センサ