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特許7338527体液検体中のアレルゲン特異的IgE抗体の検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】体液検体中のアレルゲン特異的IgE抗体の検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20230829BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
G01N33/53 N
G01N33/53 Q
G01N33/48 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020049012
(22)【出願日】2020-03-19
(65)【公開番号】P2021148610
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中川 舞
(72)【発明者】
【氏名】若山 翔
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正照
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/152040(WO,A1)
【文献】特開2012-97086(JP,A)
【文献】特開2001-281249(JP,A)
【文献】特開2000-266746(JP,A)
【文献】特開2003-166994(JP,A)
【文献】特開平10-19894(JP,A)
【文献】Walter WEISS et al.,Identification and characterization of wheat grain albumin/globulin allergens,Electrophoresis,1997年05月,Vol.18, No.5,pp.826-833
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48,33/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体液検体中のアレルゲン特異的IgE抗体を検出する方法であって、
体液検体から分子サイズ300kDa以上の成分を、分子サイズに基づく分離方法を用いて除去する工程(a)、
工程(a)で得られた分子サイズ300kDa以上の成分を除去後の体液検体からIgG抗体を除去する工程(b)、および
工程(b)で得られたIgG抗体除去後の体液検体を、アレルゲンが固定化された担体に接触させ、当該担体に固定化されたアレルゲンと複合体を形成したアレルゲン特異的IgE抗体を検出する工程(c)、
を含む方法。
【請求項2】
前記体液検体が、血液検体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記血液検体が、採血用繊維に付着し乾燥した状態から抽出した検体である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記工程(a)における分子サイズに基づく分離方法が、限外ろ過膜による膜ろ過である、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記工程(b)におけるにおけるIgG抗体の除去が、プロテインGが固定化された担体にIgG抗体を吸着して除去するものである、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体液検体中のアレルゲン特異的IgE抗体を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、低侵襲かつ安全なアレルギー検査法として、患者から採取した体液検体中のアレルゲン特異的IgE抗体を体外で検出する方法が汎用されている。この方法では、各種アレルゲン、例えば、スギ、ダニまたは牛乳等のアレルゲン(アレルギー誘発物質)を固定化した担体を、血液等の体液検体と接触させることで、アレルゲンと特異的IgE抗体との複合体を形成させ、次いで当該複合体を酵素、蛍光色素または放射性物質等で標識された抗IgE抗体を用いて検出することで、体液検体中の特異的IgE抗体を検出する。
【0003】
体液検体中のアレルゲン特異的IgE抗体を検出する場合、特異的IgE抗体とアレルゲン特異性を同じくする特異的IgG抗体が体液検体中に共存し、体液検体とアレルゲン固定化担体とを接触させた際、このアレルゲン特異的IgG抗体が特異的IgE抗体と競合してアレルゲンと複合体を形成しようとすることで、特異的IgE抗体とアレルゲンの複合体形成が阻害され、特異的IgE抗体の検出の感度と正確性を低下させるという課題が存在することが知られている。この課題の解決方法として、体液検体をアレルゲン固定化担体と接触させる前に、IgG抗体を特異的に吸着するリガンドを用いて、体液検体からアレルゲン特異的IgG抗体を予め除去するIgG除去工程を導入する方法が報告されている(特許文献1、2)。特許文献2では、血清中のアレルゲン特異的IgE抗体を検出する際、IgG除去工程の導入により検出値が向上し、共存する特異的IgG抗体の競合による妨害を受けずに特異的IgE抗体を測定できると報告されている。
【0004】
また、アレルゲン特異的IgE抗体の検出に使用する体液検体としては、静脈穿刺により採取した血液が主に使用されているが、より侵襲性の低い穿刺器具であるランセットを用いて採取した血液や、無痛で採取可能な唾液や鼻汁なども使用されることがある。特に、ランセットを用いた採血は、指、かかと、耳たぶなどの柔らかい皮膚にランセットを刺し、染み出た血液を毛細管やろ紙などで採取する方法であり、血液1滴ほどの微量ではあるものの、静脈穿刺と比較して安全に血液を採取することができる。例えば、特許文献3には、ランセットにより採取した血液をろ紙に吸収させた後に乾燥させることで得られる乾燥ろ紙血から、アレルゲン特異的IgE抗体を検出する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-266746号公報
【文献】特開2001-281249号公報
【文献】特開2003-166994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、体液検体中に共存するアレルゲン特異的IgG抗体の除去による検出値向上の効果を期待して、ランセット採血により得られた微量の血液中のアレルゲン特異的IgE抗体を検出するため、特許文献2および特許文献3に記載の方法を参考に、特異的IgE抗体の検出を実施した。具体的には、後述する比較例1のとおり、ランセット採血により得られた血液を吸収し乾燥させた乾燥ろ紙血より抽出した検体を用い、IgG抗体の除去を行い、特異的IgE抗体を検出した。その結果、特許文献2で報告されている血清中の特異的IgE抗体を検出する場合と異なり、本発明者らが実施したランセット採血により得られた血液中のアレルゲン特異的IgE抗体の検出では、IgG除去による検出値の向上が確認されなかった。すなわち、ランセット採血により得られた乾燥ろ紙血からの抽出検体中の特異的IgE抗体の検出においては、IgGの除去を実施しても、検出値を向上させることができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を克服するために鋭意検討した結果、体液検体中に含まれる分子サイズ300kDa以上の成分を除去した後に、IgG抗体の除去を実施することで、体液検体中のアレルゲン特異的IgE抗体の検出において検出値を向上させることができることを見出した。
【0008】
本発明は以下(1)~(5)の通りである。
(1)体液検体中のアレルゲン特異的IgE抗体を検出する方法であって、
体液検体から分子サイズ300kDa以上の成分を、分子サイズに基づく分離方法を用いて除去する工程(a)、
工程(a)で得られた分子サイズ300kDa以上の成分を除去後の体液検体からIgG抗体を除去する工程(b)、および
工程(b)で得られたIgG抗体除去後の体液検体を、アレルゲンが固定化された担体に接触させ、当該担体に固定化されたアレルゲンと複合体を形成したアレルゲン特異的IgE抗体を検出する工程(c)、
を含む方法。
(2)前記体液検体が、血液検体である、(1)に記載の方法。
(3)前記血液検体が、採血用繊維に付着し乾燥した状態から抽出した検体である、(2)記載の方法。
(4)前記工程(a)における分子サイズに基づく分離方法が、限外ろ過膜による膜ろ過である、(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
(5)前記工程(b)におけるにおけるIgG抗体の除去が、プロテインGが固定化された担体にIgG抗体を吸着して除去するものである、(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
体液検体から、分子サイズ300kDa以上の成分を膜ろ過により除去した後に、IgG抗体を除去することで、アレルゲン特異的IgE抗体の検出において検出値を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、体液検体中のアレルゲン特異的IgE抗体を検出する方法であって、
体液検体から分子サイズ300kDa以上の成分を、分子サイズに基づく分離方法を用いて除去する工程(a)、
工程(a)で得られた分子サイズ300kDa以上の成分を除去後の体液検体からIgG抗体を除去する工程(b)、および
工程(b)で得られたIgG抗体除去後の体液検体を、アレルゲンが固定化された担体に接触させ、当該担体に固定化されたアレルゲンと複合体を形成したアレルゲン特異的IgE抗体を検出する工程(c)、
を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明で用いる体液検体としては、血液、汗、尿、涙液、唾液、喀痰・気道分泌液、母乳、羊水、脳脊髄液、腹水、胸水、関節液、精液、膣分泌物等が挙げられるが、アレルゲン特異的IgE抗体を含む可能性の高い血液が好ましい。
【0012】
体液検体として血液を用いる場合、その採取方法としては、例えば、真空採血管や注射器を用いて静脈穿刺により採取する方法、針やランセットを用いて皮膚に損傷を与えて表出させた血液をピペットや毛細管で採取する方法、同じく針やランセットを用いて皮膚に損傷を与えて表出させた血液を採血用繊維に付着もしくは吸収させて採取する方法などが挙げられる。
【0013】
血液を付着もしくは吸収させる採血用繊維としては、ろ紙、糸、綿棒、ニトロセルロース、ナイロンメンブレン、布などが挙げられるが、ろ紙を用いるのが好ましい。
【0014】
体液検体の状態は、採取直後の液状、採取後に冷蔵保存した状態または凍結保存した後に凍結融解された状態のいずれでもよい。
【0015】
採血用繊維を用いる場合は、体液検体として、血液を採血用繊維に付着し乾燥した状態から抽出した検体を用いてもよい。
【0016】
採血用繊維に付着した血液の乾燥は、衛生上の問題や二次感染の可能性を考慮し、完全に乾燥させることが好ましい。この際、ドライヤーの使用など、熱を加えての乾燥は行わず、自然乾燥で行うことが好ましい。一般的に、採血用繊維に付着した血液量は、血液1、2滴程度(数十μL程度)であるため、1時間以上自然乾燥させることで、完全乾燥ができるとされている。室温で一晩放置することで、簡便に乾燥を行うことができる。
【0017】
採血用繊維上で乾燥させた状態から検体を抽出する方法としては、例えば、繊維全体または検体の吸収部分を4~20℃で緩衝液に30~60分間浸漬し、緩衝液を回収する方法が挙げられる。抽出に使用する緩衝液としては、一般的な生化学試験で用いられる緩衝液が好ましく、例えば、生化学検査でよく用いられているリン酸緩衝液(Phosphate Buffer Saline)、トリス緩衝液(Tris Buffer Saline)、などが挙げられる。
【0018】
本発明では、体液検体からIgG抗体を除去する前に、分子サイズ300kDa以上の成分を除去する工程(a)を行うことを特徴とする。
【0019】
体液検体中には、検出対象であるアレルゲン特異的IgE抗体以外に、水分、糖類、脂質、タンパク質、ナトリウムイオン、ホルモン、老廃物、その他の無機物(電解質など)などが含まれている。さらに、血液中には、上記に加えて、血球由来の成分(血液細胞およびその分解物)などが含まれている。また、体液検体の採取方法や採取後の保存状態、凍結融解の回数などによっては、上記にあげた成分が酸化や還元され、沈殿物または凝集体もしくは会合体に変化したような成分も含まれることがある。本発明では、体液検体中に含まれる分子サイズ300kDa以上の成分を除去する。
【0020】
本発明では、体液検体から、分子サイズ300kDa以上の成分を除去する方法として、分子サイズに基づく分離方法を用いる。分子サイズに基づく分離方法としては、沈殿、サイズ排除クロマトグラフィー、限外ろ過膜による膜ろ過などが挙げられるが、限外ろ過膜による膜ろ過が好ましい。
【0021】
膜ろ過により分子サイズ300kDa以上の成分を除去する場合、使用する限界ろ過膜の分画分子量(MWCO:Molecular Weight Cut Off)は、300kDa以下であることが好ましい。分画分子量とは、限界ろ過膜の分子サイズに基づく分離性能を表す指標であり、膜ろ過により90%以上除去できる分子サイズを表す。例えば、分画分子量が300kDaの限界ろ過膜を用いてろ過を行った場合、分子サイズ300kDa以上の成分を90%以上除去することができる。また、本発明では、限外ろ過膜の使用により、検出対象であるアレルゲン特異的IgE抗体の損失を防ぐため、特異的IgE抗体の分子サイズ188kDaであることから、限外ろ過膜の分画分子量は200kDa以上、300kDa以下であることがより好ましく、250kDa以上、300kDa以下であることがさらに好ましい。
【0022】
膜ろ過を行う場合、市販の限外ろ過膜を用いることができる。例えば、市販製品名としては「アミコンフィルター」(メルク株式会社)や「ナノセップ」(ポール株式会社)などが挙げられる。
【0023】
本発明では、工程(a)で分子サイズ300kDa以上の成分を除去して得られた体液検体からIgG抗体を除去する工程(b)を行うことを特徴とする。IgG抗体の除去する工程(b)は、体液検体中のIgG抗体を吸着して除去する方法により行うことができる。吸着除去する方法としては、アフィニティークロマトグラフィーやイオン交換クロマトグラフィー等のクロマトグラフィーが挙げられるが、所要時間の短さからアフィニティークロマトグラフィーが好ましい。アフィニティークロマトグラフィーを用いて、体液検体中のIgG抗体を吸着して除去するには、IgG抗体と選択的に結合できるリガンドが固定化された担体に体液検体を接触させればよい。具体的には、上記担体に体液検体を懸濁させ、当該懸濁液を遠心分離し、体液検体を回収する方法が挙げられるが、上記担体を充填しカラムを用いる方法が好ましい。
【0024】
上記アフィニティークロマトグラフィーにおいて、担体に固定化するリガンドとしては、抗IgG抗体、黄色ブドウ球菌細胞壁タンパク質のプロテインA、プロテインG等の公知のリガンドを用いることができるが、IgG抗体に対する親和性および選択性の高さからプロテインGを用いることが好ましい。
【0025】
上記アフィニティークロマトグラフィーに用いる担体の材質としては、樹脂、ガラス、金属、シリコンウェハ等のいずれを用いてもよいが、表面処理の容易性、量産性の観点から樹脂が好ましい。担体の材質となる樹脂としては、例えば、アガロース、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリエステル等が挙げられるが、体液検体中成分との非特異吸着の少ないアガロースが好ましい。上記リガンドを固定化する担体の形態としては、粒子や基板等のいずれを用いてもよいが、比表面積が大きく上記リガンドの固定化量を多くできる点では粒子が好ましい。上記担体は、GEヘルスケア社製当の市販品を購入して用いてもよいし、リガンド未固定の担体を購入し、所望のリガンドを固定化させてもよい。
【0026】
本発明の工程(c)では、工程(b)で得られたIgG抗体除去後の体液検体を、アレルゲンが固定化された担体に接触させ、当該担体に固定化されたアレルゲンと複合体を形成した特異的IgE抗体を検出する。その検出方法としては、例えば、結合による屈折率差を検出原理とする表面プラズモン共鳴法や共振周波数差を検出原理とする水晶振動子マイクロバランス法などによる検出法が挙げられる。また、蛍光物質(蛍光色素)や、発色・発光物質を生成する酵素、放射性同位体元素等で修飾(標識)した抗IgE抗体などの二次抗体を用いる方法も挙げられる。これらの中でも、安全かつ簡便に取り扱いが可能な、蛍光物質で標識された抗IgE抗体を用いる方法が好ましい。
【0027】
本発明において、担体上に固定化できるアレルゲンとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ハウスダスト、チリダニ、食物、花粉、真菌、昆虫、寄生虫、化学物質、または、薬物等、従来公知のアレルゲンを対象とすることができる。各アレルゲンとして、市販品[例えば、グリア(GREER)社などから入手可能]を用いることもできるし、あるいは、所望のアレルゲンを調製することもできる。例えば、原料となる抗原物質をそのまま、あるいは粉砕処理した後、場合によっては有機溶媒(例えば、エーテル、アセトン、またはヘキサンなど)で脱脂処理を行った後、緩衝液[例えば、リン酸緩衝溶液(PBS)など]中で攪拌抽出し、遠心上清を適当なタンパク濃度に希釈することにより、アレルゲンを調製することができる。
【0028】
本発明で用いることのできるアレルゲン固定化担体の材料としては、ガラス、樹脂、金属、金属酸化物、ゲル、セルロース、炭素材料などが挙げられるが、固定化が可能な担体であればこれらに限定されない。担体の材料として用いられる樹脂には、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンスクシネート、ポリ乳酸、ポリアミド系樹脂、ABSなどを用いることができる。担体の材料として用いられる金属には、金、銀、銅、白金、チタン、パラジウム、鉄、アルミニウム、ニッケルまたはこれらの合金などを用いることができる。固相担体の材料として用いられる金属酸化物には、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化セリウム、酸化ジルコニウム又は複合酸化物などを用いることができる。担体の形状は、板状、薄膜、粒子状、多孔質状などから、適宜選択すればよいが、好ましくは板状である。板状の担体の材料には、射出成型による製造が可能な、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリプロピレンなどの樹脂材料が生産性の面から好ましい。
【0029】
アレルゲン抽出物を担体に固定化する方法としては、物理吸着による方法と化学結合による化学的方法のいずれも適用できるが、化学結合により固定化する方法が好ましい。また、化学的固定化の中でも共有結合による固定化が好ましい。共有結合によって、担体にアレルゲン抽出物の加熱処理物を固定化させるためには、アレルゲン抽出物と結合可能な官能基を有する担体を用いる。例えば、担体上に公知の方法でカルボキシル基を生成させることで、アレルゲン抽出物のアミノ基と共有結合で固定化することができる。
【実施例
【0030】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0031】
<参考例1>アレルゲン特異的IgE抗体検出用のアレルゲン固定化担体の作製
以降の実施例と比較例では、本参考例の方法で作製した特異的抗体検出用のアレルゲン固定化担体を用いた。
【0032】
担体としてポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂製の基板(クラレ製、外形75mm×25mm×1mm、平均分子量3万)を用いた。本基板を10規定の水酸化ナトリウムに70℃で14時間浸漬させた後、純水で3回洗浄し、乾燥した。このようにして、基板表面のPMMAの側鎖を加水分解して、カルボキシル基を生成した。次いで、50mM MES緩衝液(pH6)で基板を3回洗浄し、20%N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を含む50mM MES緩衝液(pH6)に1-エチル―3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)塩酸塩(富士フイルム和光純薬社製)およびN-ヒドロキシスルホスクシンイミドナトリウム(スルホ-NHS)(富士フイルム和光純薬社製)が5重量%となるように調製した溶液に室温で1時間浸漬させた後、0.5mM塩酸で3回洗浄してNHSエステル化PMMA樹脂基板を得た。
【0033】
次いで、各アレルゲン抽出物を、スポッティング用ロボット(日本レーザー電子(株)、GTMASStamp-2)を用いて上記で作製した同一のNHSエステル化PMMA樹脂基板上に4点スポットした。次いで、基板を、密閉したプラスチック容器に入れて、37℃、湿度100%の条件で一晩インキュベートし、各アレルゲン抽出物を固定化した。続いて、0.05%Tween20を含むPBS(以下、「PBST」)で3回洗浄し、乾燥させて、特異的抗体検出用のアレルゲン固定化担体を得た。
【0034】
<実施例1>
(1)ダニアレルゲン固定化担体の作製
ダニアレルゲン抽出液はGREER社より入手した。凍結乾燥粉末を「MilliQ」で溶解し、添付文書記載のアレルゲン濃度のアレルゲン溶液を得た。このアレルゲン溶液を用いて参考例1の通り、ダニアレルゲン固定化担体を作製した。
【0035】
(2)検体の調製
ランセット採血によって得られた検体は、あらかじめ株式会社エスアールエルでCAP法検査を行い、アレルゲン特異的IgE抗体濃度を確認した。あわせて、ランセット採血検体を採血用ろ紙(栄研株式会社「輸送採血ろ紙セット」)の血液吸収部(4スポット/ろ紙1枚)に血液30μLずつ吸収させた後、室温で一晩放置して乾燥させた。乾燥血部位の中心から直径8mmの円形に切り出したサンプル(1スポット分)をPBS60μLとともにチューブに入れ1時間浸漬させ、乾燥血部位から検体を抽出した。
【0036】
(3)限外ろ過膜による膜ろ過(工程(a))
限外ろ過膜(日本ポール株式会社製「ナノセップ300K」)を使用して、(2)で得られた乾燥ろ紙血からの抽出検体から、300kDa以上の成分を除去した。具体的には「ナノセップ300K」に、乾燥ろ紙血からの抽出検体100μLを添加し、14000Gで10分間遠心した後、透過液をPBSでメスアップして、検体を得た。
【0037】
ここで、比較対照として、限外ろ過膜を使用した膜ろ過による除去工程は行わずに、次の(4)IgG抗体の除去工程を行う検体も調製し、(5)ダニアレルゲン特異的IgE抗体の検出を行った。
【0038】
(4)IgG抗体の除去(工程(b))
「ProteinG Sepharose 4 Fast Flow Lab Packs」(GEヘルスケアライフサイエンス社製)の懸濁液150μLをスピンカラム(MoBiTec社製、35μmフィルター)をセットしたチューブに分注後、1500Gで1分遠心し、20mMリン酸緩衝液300μLで洗浄(1500G、1分遠心)した。この操作を2回行った後、チューブを新しいものに変えた。そのセファロース充填部に、(3)で得た検体を滴下し、室温で1時間静置させ、セファロース内のプロテインGと検体中のIgG抗体を結合させた。その後に、10000Gで2分遠心し、透過液として検体を取得した。
【0039】
(5)アレルゲン特異的IgE抗体の検出(工程(c))
(4)で得られた検体中に存在するアレルゲン特異的IgE抗体を、蛍光色素で標識された抗IgE抗体を用いて蛍光強度を測定することにより行った。(1)で作製したアレルゲン固定化担体を、1重量%ウシ血清アルブミン(BSA)(シグマアルドリッチ社製)を含むPBS溶液に4℃で一晩浸漬させてブロッキング処理したのち、PBSTで3回洗浄した。次いで、(4)で調製した各検体10μLについて1重量%BSAを含むPBS水溶液で3倍希釈した溶液を、上記処理後の担体のアレルゲンが固定化されている部分に滴下し、ギャップカバーグラス(松波硝子工業株式会社製:24mm×25mm、ギャップサイズ20μm)を被せて封止した。37℃で2時間反応させた後、ギャップカバーグラスを外し、PBSTで3回洗浄した。次いで、1重量%BSAを含むPBSTで1000倍希釈した、Dylight-650色素標識抗ヒトIgEヤギポリクローナル抗体(Novus biologicals製)を30μL基板に添加し、ギャップカバーグラスを被せて室温で1時間反応させた。その後、ギャップカバーグラスを外し、PBSTで3回洗浄後に乾燥させて、スキャナー装置(東レ株式会社製、「3D-GeneScanner3000」)で、次の条件で蛍光強度を測定した。その結果を表1に示した。
【0040】
ここで、比較対照として、上記(3)の限外ろ過膜を使用した膜ろ過による除去工程は行わずに、上記(4)のIgG抗体の除去工程を行う検体も調製し、ダニアレルゲン特異的IgE抗体の検出を行った。
【0041】
(蛍光強度測定条件)
装置:3D-GeneScanner3000(東レ製)
励起光波長:635nm
検出波長:670nm
PMT:30。
【0042】
【表1】
【0043】
乾燥ろ紙血から抽出した検体に対して、限外ろ過膜として「ナノセップ300K」により膜ろ過処理を行った後にIgG除去を行った場合、膜ろ過処理を行わなかった比較対照と比べて、アレルゲン特異的IgE抗体の検出値の向上が見られた。体液検体中に含まれる分子サイズ300kDa以上の成分を除去することで、IgG除去工程における除去効率が向上したためと考えらえる。
【0044】
<比較例1>
実施例1のうち(3)限外ろ過膜による膜ろ過(工程(a))を実施しなかったこと以外は実施例1と同様にして、ランセット採血により採取した血液検体中のダニアレルゲン特異的IgE抗体の検出を行った。その結果を表2に示した。
【0045】
ここで、比較対照として、限外ろ過膜を使用した膜ろ過による除去工程(工程(a))およびIgG抗体の除去工程(工程(b))のいずれも行わない検体も調製し、ダニアレルゲン特異的IgE抗体の検出を行った。
【0046】
【表2】
【0047】
乾燥ろ紙血から抽出した検体に対して、限外ろ過膜による膜ろ過を実施しなかった場合には、IgG抗体を除去しても、アレルゲン特異的IgE抗体の検出値は向上しなかった。乾燥ろ紙血から抽出した抽出検体には、プロテインGをリガンドとしてIgG抗体を吸着する除去工程を妨害する成分が存在していると考えられた。
【0048】
<比較例2>
実施例1のうち、(3)限外ろ過膜による膜ろ過(工程(a))の代わりに、精密ろ過膜を用いて膜ろ過を実施したこと以外は実施例1と同様にして、ランセット採血により採取した血液検体中のダニアレルゲン特異的IgE抗体の検出を行った。
【0049】
具体的には、低蛋白吸着性フィルターとして、精密ろ過膜(0.22μmシリンジフィルター:アズフィル社製)を使用し、チューブにこのフィルターをセットし、フィルター上部に、実施例1の(2)と同様にして乾燥ろ紙血から抽出して得た検体120μL(乾燥血部位2スポット分)を滴下後、シリンジで加圧ろ過し、ろ液を得た。ろ液として得られた検体に対しIgG抗体除去を実施し、アレルゲン特異的IgE抗体の検出を行った。その結果を表3に示した。
【0050】
ここで、比較対照として、精密ろ過膜を使用した膜ろ過による除去工程は行わずに、IgG抗体の除去工程を行う検体も調製し、アレルゲン特異的IgE抗体の検出を行った。
【0051】
【表3】
【0052】
IgG抗体除去工程前の膜ろ過として、精密ろ過膜(0.22μmシリンジフィルター)を用いた場合、アレルゲン特異的IgE抗体の検出値の向上は確認できなかった。これは、0.22μmシリンジフィルターでは孔径が大きすぎて、乾燥ろ紙血検体中の分子サイズ300kDa以上の成分が十分に除去できなかったためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、小児(特に乳幼児)からの採取検体など、検体が微量であっても、高感度でアレルゲン特異的IgE抗体を検出することができる。