(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】誘電体組成物および電子部品
(51)【国際特許分類】
C04B 35/495 20060101AFI20230829BHJP
H01B 3/12 20060101ALI20230829BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
C04B35/495
H01B3/12 312
H01B3/12 313
H01B3/12 319
H01B3/12 335
H01B3/12 338
H01G4/30 515
H01G4/30 201L
(21)【出願番号】P 2020060194
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2022-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 哲弘
(72)【発明者】
【氏名】秋場 博樹
(72)【発明者】
【氏名】野村 涼太
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-126895(JP,A)
【文献】特開2020-038853(JP,A)
【文献】特開2019-099427(JP,A)
【文献】国際公開第2018/074290(WO,A1)
【文献】特開2018-135258(JP,A)
【文献】国際公開第2017/163843(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/163844(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/163845(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/495
H01B 3/12
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式Ba
2LaZr
2(Nb
1-xTa
x)
3O
15+σで表され、xが、0.35≦x≦0.65である関係を満足するタングステンブロンズ型複合酸化物を主成分として含む誘電体組成物であって、
前記誘電体組成物は、前記主成分から構成される結晶粒子を主相として有し、
前記結晶粒子の少なくとも一部は、ニオブの含有率が異なる第1領域と第2領域とを有する結晶粒子であり、
前記第1領域におけるニオブの含有率をC1
Nb(at.%)とし、前記第2領域におけるニオブの含有率をC2
Nb(at.%)としたとき、C1
NbおよびC2
Nbが、1.20≦C1
Nb/C2
Nb≦2.10である関係を満足する誘電体組成物。
【請求項2】
前記第1領域におけるタンタルの含有率をC1
Ta(at.%)としたとき、C1
NbおよびC1
Taが、0.98≦C1
Nb/C1
Ta≦2.57である関係を満足し、
前記第2領域におけるタンタルの含有率をC2
Ta(at.%)としたとき、C2
NbおよびC2
Taが、0.39≦
C2
Nb
/C2
Ta
≦1.02である関係を満足する請求項1に記載の誘電体組成物。
【請求項3】
前記誘電体組成物に含まれる結晶粒子の全個数に対する、前記第1領域および前記第2領域を有する結晶粒子の個数割合をαとしたとき、αが、α≧50%である関係を満足する請求項1または2に記載の誘電体組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の誘電体組成物を含む誘電体層と、電極と、を備える電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体組成物、および、当該誘電体組成物から構成される誘電体層を備える電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサは、その信頼性の高さやコストの安さから多くの電子機器に搭載されている。
【0003】
具体的な電子機器としては、携帯電話等の情報端末、家電、自動車電装品が挙げられる。この中でも車載用として使用される積層セラミックコンデンサは、家電や情報端末等に使用されている積層セラミックコンデンサに比べて、より高温域までの動作保証が求められている。さらに、150℃以上の高温域で使用が考えられているSiCまたはGaN等パワー半導体を用いたインバータ回路に搭載されるサージ電圧除去用の積層セラミックコンデンサは、200℃付近においても、高い絶縁破壊電圧が求められる。
【0004】
特許文献1は、組成式(1-a)(K1-xNax)(Sr1-y-zBayCaz)2Nb5O15-a(Ba1-bCab)TiO3で表されるタングステンブロンズ構造系化合物とペロブスカイト構造系化合物との混晶系を主成分として含み、かつ、主成分100mol部に対して0.1~40mol部の副成分Mを含有する誘電体セラミック組成物を開示している。また、特許文献1は、当該誘電体セラミック組成物の175℃における抵抗率のlogが8.0以上であることを開示している。
【0005】
特許文献2は、組成式(NaxK1-x)(NbyTa1-y)O3で表される主成分100モルに対して、LiおよびFをLiF換算で0.1~10.0モル含むセラミック粒子が、コアシェル構造を有していることを開示している。また、特許文献2は、当該誘電体磁器組成物の200℃における絶縁抵抗が109Ω程度であることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2008/155945号
【文献】特開2013-35746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の誘電体組成物は、200℃以上の高温度域において、絶縁特性、特に絶縁破壊電圧については評価されていない。
【0008】
また、特許文献2に記載の誘電体磁器組成物は、200℃以上の高温度域において、絶縁特性、特に絶縁破壊電圧については評価されていない。
【0009】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、高温度域において、高い絶縁破壊電圧を示す誘電体組成物と、その誘電体組成物から構成される誘電体層を備える電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の態様は以下の通りである。
[1]化学式Ba2LaZr2(Nb1-xTax)3O15+σで表され、xが、0.35≦x≦0.65である関係を満足するタングステンブロンズ型複合酸化物を主成分として含む誘電体組成物であって、
誘電体組成物は、主成分から構成される結晶粒子を主相として有し、
結晶粒子の少なくとも一部は、ニオブの含有率が異なる第1領域と第2領域とを有する結晶粒子であり、
第1領域におけるニオブの含有率をC1Nb(at.%)とし、第2領域におけるニオブの含有率をC2Nb(at.%)としたとき、C1NbおよびC2Nbが、1.20≦C1Nb/C2Nb≦2.10である関係を満足する誘電体組成物である。
【0011】
[2]第1領域におけるタンタルの含有率をC1Ta(at.%)としたとき、C1NbおよびC1Taが、0.98≦C1Nb/C1Ta≦2.57である関係を満足し、
第2領域におけるタンタルの含有率をC2Ta(at.%)としたとき、C2NbおよびC2Taが、0.39≦C2
Nb
/C2
Ta
≦1.02である関係を満足する[1]に記載の誘電体組成物である。
【0012】
[3]誘電体組成物に含まれる結晶粒子の全個数に対する、第1領域および第2領域を有する結晶粒子の個数割合をαとしたとき、αが、α≧50%である関係を満足する[1]または[2]に記載の誘電体組成物である。
【0013】
[4][1]から[3]のいずれかに記載の誘電体組成物を含む誘電体層と、電極と、を備える電子部品である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高温度域において、高い絶縁破壊電圧を示す誘電体組成物と、その誘電体組成物から構成される誘電体層を備える電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
【
図2】
図2は、誘電体組成物において、第1領域および第2領域の存在状態を示す模式図である。
【
図3】
図3は、C1
Nb、C2
Nb、C1
TaおよびC2
Taを算出する方法と説明するための模式図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施例において、第1領域および第2領域を有する結晶粒子についてニオブおよびタンタルのマッピング分析結果を示す。
【
図5】
図5は、
図4に示す線分上におけるニオブおよびタンタルの点分析結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を、具体的な実施形態に基づき、以下の順序で詳細に説明する。
1.積層セラミックコンデンサ
1.1.積層セラミックコンデンサの全体構成
1.2.誘電体層
1.3.内部電極層
1.4.外部電極
2.誘電体組成物
2.1.複合酸化物
2.2.主相
3.積層セラミックコンデンサの製造方法
4.本実施形態のまとめ
5.変形例
【0017】
(1.積層セラミックコンデンサ)
(1.1.積層セラミックコンデンサの全体構成)
本実施形態に係る電子部品の一例としての積層セラミックコンデンサ1が
図1に示される。積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と、内部電極層3と、が交互に積層された構成の素子本体10を有する。この素子本体10の両端部には、素子本体10の内部で交互に配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4が形成してある。素子本体10の形状に特に制限はないが、通常、直方体状とされる。また、素子本体10の寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよい。
【0018】
(1.2.誘電体層)
誘電体層2は、後述する本実施形態に係る誘電体組成物から構成されている。その結果、誘電体層2を有する積層セラミックコンデンサは、高温度域においても、高い電界強度下で高い絶縁破壊電圧を示すことができる。
【0019】
誘電体層2の1層あたりの厚み(層間厚み)は特に限定されず、所望の特性や用途等に応じて任意に設定することができる。通常は、層間厚みは100μm以下であることが好ましく、より好ましくは30μm以下である。本実施形態では、層間厚みの下限は、特に制限されないが、たとえば0.5μm程度である。また、誘電体層2の積層数は特に限定されないが、本実施形態では、たとえば20以上であることが好ましく、50以上であることがより好ましい。
【0020】
(1.3.内部電極層)
本実施形態では、内部電極層3は、各端面が素子本体10の対向する2端部の表面に交互に露出するように積層してある。
【0021】
内部電極層3に含有される導電材としては特に限定されない。本実施形態では、Ni、Ni系合金、CuまたはCu系合金が好ましい。より好ましくは、NiまたはNi系合金である。さらに好ましくは、内部電極層3の主成分をNiまたはNi系合金とし、副成分としてAl、Si、Li、CrおよびFeから選択される1種以上を含有する導電材である。なお、内部電極層3の主成分とは、内部電極層3全体に対して85質量%以上含有される成分を指す。
【0022】
内部電極層3が、主成分としてNiまたはNi系合金を含有し、副成分としてAl、Si、Li、CrおよびFeから選択される1種以上を含有することで、内部電極層3に含まれるNiが酸化されにくくなる。そして、250℃程度の高温下で積層セラミックコンデンサ1を連続使用しても内部電極層3の酸化による内部電極層3の連続性および導電性の劣化が起こりにくくなる。
【0023】
内部電極層3が副成分としてAl、Si、Li、CrおよびFeから選択される1種以上を含有することで、内部電極層3に含まれるNiが酸化されにくくなる理由は下記の通りである。内部電極層3がAl、Si、Li、CrおよびFeから選択される1種以上を含有する場合には、Niが大気中の酸素と反応しNiOになる前に、上記副成分と酸素とが反応し、内部電極3に含まれるNiの表面に上記副成分の酸化膜を形成する。これにより、大気中の酸素は酸化膜を通過しないとNiと反応できなくなるため、Niが酸化され難くなる。
【0024】
なお、内部電極層3には、P等の各種微量成分が0.1質量%程度以下含まれていてもよい。また、内部電極層3は、市販の電極用ペーストを使用して形成してもよい。内部電極層3の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0025】
(1.4.外部電極)
外部電極4に含有される導電材は特に限定されない。たとえばNi、Cu、Ag、Pd、Pt、Auあるいはこれらの合金、導電性樹脂など公知の導電材を用いればよい。外部電極4の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0026】
(2.誘電体組成物)
本実施形態に係る誘電体組成物は、タングステンブロンズ型結晶構造を有する複合酸化物を主成分として含有している。具体的には、複合酸化物は、本実施形態に係る誘電体組成物100mol中に、50molよりも多く含有され、75mol以上含まれることが好ましい。
【0027】
(2.1.複合酸化物)
当該複合酸化物は、化学式Ba2LaZr2(Nb1-xTax)3O15+σで表される。ニオブ(Nb)およびタンタル(Ta)は、タングステンブロンズ型結晶構造のBサイトを占める5価の元素である。ニオブおよびタンタルは所定の割合でBサイトを占めており、Bサイトに存在するニオブおよびタンタルの総数を1としたとき、タンタルが占める割合がxである。
【0028】
本実施形態では、xは、0.35≦x≦0.65である関係を満足する。すなわち、ニオブとタンタルとが同数含まれる組成(x=0.5)を基準として、若干ニオブリッチな組成範囲と、若干タンタルリッチな組成範囲とを含む。
【0029】
タングステンブロンズ型結晶構造では、Bサイトを占める4価の元素(ジルコニウム)に酸素が6配位して形成される酸素八面体と、Bサイトを占める5価の元素(ニオブおよびタンタル)に酸素が6配位して形成される酸素八面体と、が互いの頂点を共有した3次元ネットワークを形成している。さらに、これらの酸素八面体の間隙にAサイトを占める2価の元素(バリウム)および3価の元素(ランタン)が位置している。
【0030】
(2.2.主相)
本実施形態に係る誘電体組成物は、多結晶体であり、上記の複合酸化物から構成される多数の結晶粒子が粒界を介して結合している。したがって、上記の複合酸化物から構成される結晶粒子が、本実施形態に係る誘電体組成物の主相を構成する。
【0031】
主相を構成する結晶粒子は、通常、粒子内のどの領域においてもほぼ同じ組成を有している。しかしながら、本実施形態では、主相を構成する結晶粒子の少なくとも一部は、粒子内において、ニオブの含有率が異なる第1領域と第2領域とを有する結晶粒子である。
【0032】
すなわち、粒子全体としては、上記の化学式で表される組成を有しているが、第1領域と第2領域とにおいてニオブの含有率が化学式で表されるニオブの組成比から偏倚している。具体的には、第1領域は、ニオブの含有率が、上記の化学式におけるニオブの組成比(1-x)と同じまたは高い領域である。一方、第2領域は、上記の化学式におけるニオブの組成比(1-x)よりも、ニオブの含有率が低い領域である。
【0033】
本実施形態では、結晶粒子における第1領域および第2領域の存在状態は特に制限されない。たとえば、
図2に示すように、第1領域と第2領域とを有する結晶粒子21は、第1領域21aの周囲の一部または全部を第2領域21bが取り囲む構造を有していてもよいし、第2領域21bの周囲の一部または全部を第1領域21aが取り囲む構造を有していてもよい。また、第1領域21aおよび/または第2領域21bが複数存在していてもよい。
【0034】
本実施形態では、第1領域におけるニオブの含有率をC1Nb(at.%)とし、第2領域におけるニオブの含有率をC2Nb(at.%)としたとき、C1NbおよびC2Nbが、1.20≦C1Nb/C2Nb≦2.10である関係を満足する。
【0035】
上記の関係を満足することにより、結晶粒子内部での酸素欠陥の移動が抑制されると考えられる。その結果、高電界強度下における絶縁破壊電圧が向上する傾向にある。
【0036】
また、本実施形態では、第1領域におけるタンタルの含有率をC1Ta(at.%)とし、第2領域におけるタンタルの含有率をC2Ta(at.%)としたとき、第1領域においては、C1NbおよびC1Taが、0.98≦C1Nb/C1Ta≦2.57である関係を満足することが好ましく、第2領域においては、0.39≦C2Nb/C2Ta≦1.02である関係を満足することが好ましい。すなわち、化学式におけるニオブとタンタルとの含有比(Nb/Ta=0.35/0.65~0.65/0.35)よりも、C1NbとC1Taとの含有比は大きく、C2NbとC2Taとの含有比は小さい方が好ましい。第1領域および第2領域におけるニオブとタンタルとの濃度差を、ニオブとタンタルとの組成比から大きくずらすことにより、高電界強度下における絶縁破壊電圧がさらに向上する傾向にある。
【0037】
本実施形態では、誘電体組成物に含まれる結晶粒子の全個数に対する、第1領域および第2領域を有する結晶粒子の個数割合をαとしたとき、αが、α≧50%である関係を満足することが好ましい。αを上記の範囲内にすることにより、高電界強度下における絶縁破壊電圧がさらに向上する傾向にある。
【0038】
誘電体組成物において、第1領域と第2領域とを有する結晶粒子を特定する方法、および、第1領域におけるC1NbおよびC1Taと、第2領域におけるC2NbおよびC2Taとを測定する方法としては、たとえば、以下のような方法が例示される。
【0039】
誘電体組成物の任意の断面について、走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いて、誘電体組成物の主相を構成する結晶粒子と結晶粒子間の粒界とを区別でき、各結晶粒子を判別可能な倍率で観察し、観察視野内に存在する結晶粒子を特定し、その個数を算出する。倍率は、結晶粒子径に応じて適宜決定すればよいが、たとえば、1万倍~100万倍程度である。
【0040】
次に、同一観察視野において、STEMに付属のエネルギー分散型X線分光装置(EDS)を用いて、ニオブおよびタンタルについてマッピング分析を行う。マッピング分析結果から、ニオブ濃度が複合酸化物におけるニオブの組成比と同じまたは高い領域と、複合酸化物におけるニオブの組成比よりも低いニオブ濃度を有する領域とを同一粒子内に有する結晶粒子を、第1領域および第2領域を有する結晶粒子として特定し、その個数を算出する。観察視野内に存在する結晶粒子の個数と、第1領域および第2領域を有する結晶粒子に個数とから、第1領域および第2領域を有する結晶粒子の個数割合を算出し、その値をαとする。観察視野の倍率は1万倍~20万倍程度であり、観察視野数は3~5程度であることが好ましい。
【0041】
次に、所定の個数の第1領域および第2領域を有する結晶粒子を抽出する。抽出する個数は、たとえば、5~200個程度である。
【0042】
図3に示すように、抽出した第1領域および第2領域を有する結晶粒子21に対して、結晶粒子を横断し、かつ第1領域21a(または第2領域21b)の重心を通り、粒界30と共有点Pを有する線分のうち、最長の線分LSを設定する。設定した線分の長さに対して、十分密な間隔でEDSを用いて点分析を行う。本実施形態では、たとえば、設定した線分を100等分する間隔で点分析を行えばよい。
【0043】
点分析結果から、第1領域21aに属する点におけるニオブ濃度の平均値を第1領域のニオブ濃度とし、各結晶粒子について算出された第1領域のニオブ濃度の平均値をC1Nbとする。同様にして、C1Ta、C2NbおよびC2Taも算出できる。算出したC1Nb、C1Ta、C2NbおよびC2Taから、C1Nb/C2Nb、C1Nb/C1TaおよびC2Nb/C2Taが算出される。
【0044】
(3.積層セラミックコンデンサの製造方法)
次に、
図1に示す積層セラミックコンデンサ1の製造方法の一例について以下に説明する。
【0045】
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1は、従来の積層セラミックコンデンサと同様の公知の方法で製造することができる。公知の方法としては、たとえば、誘電体組成物の原料を含むペーストを用いてグリーンチップを作製し、これを焼成して積層セラミックコンデンサを製造する方法が例示される。以下、製造方法について具体的に説明する。
【0046】
まず、誘電体組成物の出発原料を準備する。本実施形態では、当該出発原料は粉末であることが好ましい。誘電体組成物の出発原料として、主相を構成する主成分の仮焼き粉末を準備する。
【0047】
主成分の仮焼き粉末の出発原料としては、主成分である上述した複合酸化物に含まれる各金属の酸化物、または、焼成により当該複合酸化物を構成する成分となる各種化合物を用いることができる。各種化合物としては、たとえば炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等が例示される。
【0048】
たとえば、バリウムの炭酸塩粉末、ランタンの水酸化物粉末、ジルコニウム、ニオブおよびタンタルの酸化物粉末を準備する。なお、各粉末の平均粒子径は、たとえば、0.1~1.0μmの範囲内である。
【0049】
まず、バリウムの原料とニオブの原料またはタンタルの原料とをモル比で5:4となるように秤量して混合する。混合した粉末を、600~800℃、1~10h、大気中の条件で熱処理を行い、バリウムとニオブまたはタンタルとの複合酸化物を得る。バリウムとニオブとの複合酸化物の場合、この複合酸化物は、たとえば、化学式Ba5Nb4O15で表される。
【0050】
得られるバリウムとニオブまたはタンタルとの複合酸化物を粉砕し、粉砕後の粉末に、上述した組成となるようにバリウム、ランタン、ジルコニウム、タンタルおよびニオブの原料を添加して、混合する。混合した粉末を、800~1200℃、2~10h、還元雰囲気の条件で熱処理を行い、主成分の仮焼き粉末を得る。還元雰囲気としては、酸素分圧PO2が1.0×10-8~1.0×10-15MPaの範囲内である雰囲気が好ましい。
【0051】
上記のように2段階の熱処理を行って、主成分の仮焼き粉末を得ることにより、第1領域および第2領域を有し、各領域におけるニオブ濃度とタンタル濃度とが上述した関係を満足する結晶粒子が得られやすい。
【0052】
その後、得られた主成分の仮焼き粉末を解砕し、誘電体組成物の原料粉末を得る。誘電体組成物原料粉末の平均粒子径は、たとえば、0.5μm~2.0μmである。
【0053】
続いて、グリーンチップを作製するためのペーストを調製する。得られた誘電体組成物原料粉末と、バインダと、溶剤と、を混練し塗料化して誘電体層用ペーストを調製する。バインダおよび溶剤は、公知のものを用いればよい。また、誘電体層用ペーストは、必要に応じて、可塑剤等の添加物を含んでもよい。
【0054】
内部電極層用ペーストは、上述した導電材の原料と、バインダと、溶剤と、を混練して得られる。バインダおよび溶剤は、公知のものを用いればよい。内部電極層用ペーストは、必要に応じて、共材や可塑剤等の添加物を含んでもよい。
【0055】
外部電極用ペーストは、内部電極層用ペーストと同様にして調製することができる。
【0056】
上記した各ペースト中のバインダおよび溶剤の含有量は特に制限はされず、通常の含有量であればよい。たとえば、バインダは1質量%~5質量%程度、溶剤は10質量%~50質量%程度であればよい。また、各ペースト中には、必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体材料、絶縁体材料等から選択される添加物が含有されていてもよい。これらの総含有量は10質量%以下とすることが好ましい。
【0057】
分散剤の種類は任意である。たとえば、界面活性剤型分散剤、高分子型分散剤を用いることができる。可塑剤の種類は任意である。たとえば、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチルを用いることができる。誘電体材料の種類は任意である。たとえば、Ba3ZrNb4O15系、Ca3TiTa4O15系を用いることができる。絶縁体材料の種類は任意である。たとえば、Al2O3、SiO2を用いることができる。
【0058】
得られた各ペーストを用いて、グリーンシートおよび内部電極パターンを形成し、これらを積層してグリーンチップを得る。
【0059】
焼成前に、グリーンチップに脱バインダ処理を施す。脱バインダ条件としては、昇温速度を好ましくは5℃/時間~300℃/時間、保持温度を好ましくは400℃~800℃、温度保持時間を好ましくは0.5時間~24時間とする。また、雰囲気は、空気もしくは還元雰囲気とする。また、上記した脱バインダ処理において、脱バインダ処理の雰囲気は加湿してもよい。加湿する方法は任意である。たとえばウェッター等を使用すればよい。この場合、水温は5℃~75℃程度が好ましい。
【0060】
脱バインダ処理後、グリーンチップの焼成を行い、素子本体を得る。焼成条件としては、以下のような条件が例示される。焼成温度は、好ましくは1100℃~1400℃である。焼成温度が低すぎると、素子本体の緻密化が不十分となる。焼成温度が高すぎると、内部電極層の異常焼結による電極の途切れ、および、内部電極層を構成する材料の拡散による容量変化率の悪化が生じやすくなる。さらに、主成分から構成される粒子が粗大化して、高温負荷寿命を低下させてしまうおそれがある。
【0061】
また、昇温速度は好ましくは7000℃/時間~20000℃/時間である。昇温速度を上記の範囲内とすることにより、第1領域および第2領域を有し、各領域におけるニオブ濃度とタンタル濃度とが上述した関係を満足する結晶粒子が得られやすい。また、焼成時の温度保持時間、および、焼成後の冷却速度は任意である。焼成後の主成分から構成される主相粒子の粒度分布を0.5μm~5.0μmの範囲内に制御し、主相粒子同士の体積拡散を抑制するために、温度保持時間は好ましくは0.1時間~1.0時間であり、冷却速度は好ましくは100℃/時間~500℃/時間である。
【0062】
また、焼成雰囲気としては、加湿したN2とH2との混合ガスを用い、酸素分圧が10-2~10-6Paであることが好ましい。内部電極層がNiを含む場合、酸素分圧が高い状態で焼成を行うと、Niが酸化してしまい、導電性が低下してしまう場合がある。しかしながら、Niを主成分とする導電材に対し、Al、Si、Li、Cr、Feから選択された1種類以上の内部電極用副成分を含有させることで、Niの耐酸化性が向上し、酸素分圧が高い雰囲気で焼成する場合でも、内部電極層の導電性を確保することが容易となる。
【0063】
焼成後、得られた素子本体に対し、必要に応じてアニール処理を行う。アニール処理条件は、公知の条件とすればよく、たとえば、アニール処理時の酸素分圧を焼成時の酸素分圧よりも高い酸素分圧とし、保持温度を1100℃以下とすることが好ましい。
【0064】
また、上記の脱バインダ処理、焼成およびアニール処理は、独立して行ってもよく、連続して行ってもよい。
【0065】
上記のようにして得られた素子本体の誘電体層を構成する誘電体組成物は、上述した誘電体組成物である。この素子本体に端面研磨を施し、外部電極用ペーストを塗布して焼き付けし、外部電極4を形成する。そして、必要に応じて、外部電極4の表面に、めっき等により被覆層を形成する。
【0066】
このようにして、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサが製造される。
【0067】
(4.本実施形態のまとめ)
本実施形態では、タングステンブロンズ型結晶構造を有する複合酸化物を主相として有する誘電体組成物において、複合酸化物に含まれるニオブおよびタンタルの組成比を上述した範囲内とし、かつ同一結晶粒子内において、ニオブの濃度がニオブの組成比と同じまたは高い領域(第1領域)と低い領域(第2領域)とを有する結晶粒子を形成している。
【0068】
このようにすることにより、第1領域と第2領域とを有する結晶粒子内において、酸素欠陥の移動が阻害される。すなわち、酸素欠陥と共に生じる電子の移動も阻害される。したがって、このような誘電体組成物から構成される誘電体層を有する電子部品において、誘電体層中を流れる電流の増加が抑制され、高電界強度下においても、誘電体層自体の発熱を抑制することができると考えられる。その結果、誘電体層の発熱に起因する絶縁破壊モードである純熱破壊が発生し難くなり、絶縁破壊電圧が向上すると考えられる。
【0069】
第1領域および第2領域を有する結晶粒子の割合、第1領域および第2領域におけるニオブ濃度とタンタル濃度との比が上述した関係を満足することにより、上記の効果はさらに向上する。
【0070】
(5.変形例)
上述した実施形態では、本実施形態に係る電子部品が積層セラミックコンデンサである場合について説明したが、本実施形態に係る電子部品は、積層セラミックコンデンサに限定されず、上述した誘電体組成物を有する電子部品であれば何でもよい。
【0071】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の範囲内において種々の態様で改変してもよい。
【実施例】
【0072】
以下、実施例および比較例を用いて、本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0073】
(実験1)
まず、主成分の出発原料として平均粒径1.0μm以下のBaCO3、La(OH)3、ZrO2、Nb2O5およびTa2O5の各粉末を準備した。BaCO3とNb2O5とをバリウムおよびニオブのモル比で5:4となるように秤量して混合した。混合した粉末を、700℃、4h、大気中の条件で熱処理を行い、化学式Ba5Nb4O15で表される複合酸化物を得た。
【0074】
得られた複合酸化物を粉砕し、粉砕後の粉末に、表1に示す組成となるようにBaCO3、La(OH)3、ZrO2、Nb2O5およびTa2O5を添加して、混合した。混合した粉末を、1150℃、5h、酸素分圧PO2が1.0×10-10MPaの条件で熱処理を行い、主成分の仮焼き粉末を得た。
【0075】
上記の方法で得られた主成分の仮焼き粉末を解砕し、誘電体組成物原料粉末を得た。次に、誘電体組成物原料粉末1000gに対して、トルエン+エタノール溶液(トルエン:エタノール=50:50(重量比))、可塑剤(フタル酸ジオクチル(DOP)(ジェイ・プラス製))および分散剤(マリアリムAKM-0531(日油製))を90:6:4(重量比)で混合した溶剤を700g添加し、混合物を得た。次に、得られた混合物を、バスケットミルを用いて2時間分散させ、誘電体層用ペーストを作製した。なお、全ての試料において、誘電体層用ペーストの粘性が約200cpsになるように調整した。具体的には、トルエン+エタノール溶液を微量添加することで粘度の調整を行った。
【0076】
内部電極層の原料として、平均粒径が0.2μmのNi粉末、平均粒径が0.1μm以下のAlの酸化物粉末、および、平均粒径が0.1μm以下のSiの酸化物粉末を準備した。AlおよびSiの合計がNiに対して5質量%となるように、これらの粉末を秤量し、混合した。その後、加湿したN2とH2との混合ガス中において1200℃以上で熱処理した。熱処理後の粉末をボールミル等により解砕することで、平均粒径0.20μmの内部電極層の原料粉末を準備した。
【0077】
準備した内部電極層の原料粉末100質量%、有機ビヒクル(エチルセルロース樹脂8質量%をブチルカルビトール92質量%に溶解したもの)30質量%、およびブチルカルビトール8質量%を、3本ロールにより混練、ペースト化し、内部電極層用ペーストを得た。
【0078】
そして、作製した誘電体層用ペーストをPETフィルム上に塗布してグリーンシートを形成した。この際に、乾燥後のグリーンシートの厚みが10μmとなるようにした。次いで、内部電極層用ペーストを用いて、所定パターンの内部電極層をグリーンシート上に印刷した。その後、PETフィルムからグリーンシートを剥離することで、内部電極層が所定パターンで印刷されたグリーンシートを作製した。次いで、内部電極層が所定パターンで印刷されたグリーンシートを複数枚積層し、加圧接着することによりグリーン積層体とした。さらに、グリーン積層体を所定の形状に切断することにより、グリーンチップを得た。
【0079】
次いで、得られたグリーンチップについて、脱バインダ処理、焼成およびアニール処理を行うことで積層セラミック焼成体を得た。脱バインダ処理、焼成およびアニールの条件は以下に示す通りである。また、脱バインダ処理、焼成およびアニール処理において、雰囲気ガスの加湿にはウェッターを用いた。
【0080】
(脱バインダ処理)
昇温速度:100℃/時間
保持温度:400℃
温度保持時間:8.0時間
雰囲気ガス:加湿したN2とH2との混合ガス
【0081】
(焼成)
昇温速度:12000℃/時間
焼成温度:1200℃~1400℃
温度保持時間:0.5時間
冷却速度:300℃/時間
雰囲気ガス:加湿したN2とH2との混合ガス
酸素分圧:10-5~10-9Pa
【0082】
(アニール処理)
保持温度:800℃~1000℃
温度保持時間:2.0時間
昇温、降温速度:200℃/時間
雰囲気ガス:加湿したN2ガス
【0083】
得られた各積層セラミック焼成体の誘電体層(誘電体組成物)についてICP発光分光分析法を用いて組成分析を行った結果、分析後の組成は、表1および2に記載されている組成と実質的に同組成であることが確認できた。また、誘電体組成物に対してX線回折測定を行った結果、得られたX線回析パターンより、誘電体組成物がタングステンブロンズ型の結晶構造を有していることが確認できた。
【0084】
得られた積層セラミック焼成体の端面をサンドブラストにて研磨した後、外部電極としてIn-Ga共晶合金を塗布し、
図1に示す積層セラミックコンデンサと同形状の各積層セラミックコンデンサ試料を得た。得られた積層セラミックコンデンサ試料のサイズは、いずれも3.2mm×1.6mm×1.2mmであり、誘電体層の厚み7μm、内部電極層の厚み2μm、内部電極層に挟まれた誘電体層の数は50層とした。
【0085】
得られた各積層セラミックコンデンサ試料の積層方向に沿った誘電体層(誘電体組成物)の断面を研磨し、走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いて、研磨断面を倍率10万倍で観察し、主相を構成する結晶粒子を特定した。次に、STEMに付属のエネルギー分散型X線分光装置(EDS)を用いて、ニオブおよびタンタルについてマッピング分析を行った。マッピング分析結果から、ニオブ濃度がニオブの組成比と同じまたは高い領域と低い領域とを有する結晶粒子を、第1領域および第2領域を有する結晶粒子とした。観察視野中に存在する全結晶粒子の個数と、第1領域および第2領域を有する結晶粒子の個数とから、第1領域および第2領域を有する結晶粒子の個数割合(α)を算出した。結果を表1に示す。
【0086】
続いて、第1領域および第2領域を有する結晶粒子を10個抽出し、当該結晶粒子上に、当該結晶粒子を横断し、かつ第1領域の重心を通り、端点が粒界と共有点を有する直線を設定し、設定した直線を100等分する間隔でEDSを用いて点分析を行った。10個の粒子に対する点分析結果から、第1の領域に属する点のニオブ濃度の平均値を算出し、C1Nbとした。同様の手法により、C2Nb、C1TaおよびC2Taを算出した。また、得られたC1Nb、C2Nb、C1TaおよびC2Taから、C1Nb/C2Nb、C1Nb/C1TaおよびC2Nb/C2Taを算出した。結果を表1に示す。
【0087】
図4に、試料番号32に存在する第1領域および第2領域を有する結晶粒子についてニオブおよびタンタルのマッピング分析結果を示す。
図4より、試料番号32に存在する第1領域および第2領域を有する結晶粒子において、2つの第1領域が第2領域に取り囲まれていることが確認できた。
【0088】
また、
図5に、
図4に示す線分上におけるニオブおよびタンタルの点分析結果を示す。試料番号32については、
図5に示す結果に基づき、C1
Nb、C2
Nb、C1
TaおよびC2
Taを算出した。
【0089】
【0090】
得られた積層セラミックコンデンサ試料について、225℃において、比誘電率、直流電圧印加時の比抵抗、絶縁破壊電圧および高温負荷寿命を下記に示す方法により測定した。
【0091】
(225℃での比誘電率)
積層セラミックコンデンサ試料に対し、225℃において、デジタルLCRメータ(YHP社製4284A)にて、周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)1Vrmsの信号を入力し、静電容量を測定した。そして、比誘電率(単位なし)を、誘電体層の厚みと、有効電極面積と、測定の結果得られた静電容量とに基づき算出した。比誘電率は高い方が好ましい。本実施例では、比誘電率が200以上である試料を良好であると判断した。結果を表2に示す。
【0092】
(225℃での直流電圧印加時の比抵抗)
積層セラミックコンデンサ試料に対し、225℃において、デジタル抵抗メータ(ADVANTEST社製R8340)にて、測定電圧280V(電界強度40V/μm)、測定時間60秒の条件で絶縁抵抗を測定した。得られた絶縁抵抗の測定値、積層セラミックコンデンサ試料の電極面積および誘電体層の厚みから比抵抗を算出した。比抵抗は高いほうが好ましい。本実施例では、測定電圧280V(電界強度40V/μm)において、1.00×1012Ωcm以上である試料を良好であると判断した。結果を表2に示す。
【0093】
(225℃での絶縁破壊電圧(BDV))
積層セラミックコンデンサ試料を、225℃のオイルバス中に載置し、昇圧速度100V/secの条件で直流電圧を印加し、漏れ電流が10mAを超えた時点での電圧値を耐電圧とした。得られた耐電圧を誘電体層の厚みで割ることにより、単位厚みあたりの耐電圧(絶縁破壊電圧)を算出した。絶縁破壊電圧は高いほうが好ましい。本実施例では、絶縁破壊電圧が250V/μm以上である試料を良好であると判断した。絶縁破壊電圧が280V/μm以上である試料がより好ましい。結果を表2に示す。
【0094】
【0095】
表1および2より、第1領域および第2領域を有し、第1領域および第2領域におけるニオブの含有率およびタンタルの含有率が上述した範囲内にある結晶粒子と有する誘電体組成物を誘電体層とする積層セラミックコンデンサ試料は、225℃においても、良好な絶縁破壊電圧を示すことが確認できた。
【0096】
これに対し、第1領域および第2領域を有する結晶粒子が存在しない場合、ニオブの含有率およびタンタルの含有率が上述した範囲外である場合には、絶縁破壊電圧が低いことが確認できた。
【0097】
(実験2)
焼成後の誘電体組成物が表3に示す組成を有するように、準備した出発原料を秤量した以外は、実験1と同じ方法により、コンデンサ試料を作製した。また、作製したコンデンサ試料に対して、実験1と同じ方法により、225℃における特性を評価した。結果を表4に示す。
【0098】
【0099】
【0100】
表3および4より、第1領域および第2領域におけるニオブの含有率およびタンタルの含有率が上述した範囲内にある場合には、絶縁破壊電圧がさらに向上することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本実施形態に係る誘電体組成物は、高温度域において、高い電界強度下においても高い絶縁破壊電圧を示すことができる。したがって、150℃程度の高温領域での使用が求められる車載用途の電子部品に好適に用いることができる。また、200℃程度の高温領域での使用が求められるSiCやGaN系の半導体を用いたパワーデバイス用のスナバコンデンサに好適に用いることができる。さらには、200℃程度の高温領域での使用が求められる自動車のエンジンルーム内のノイズ除去に用いるコンデンサ等に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0102】
1… 積層セラミックコンデンサ
10… 素子本体
2… 誘電体層
3… 内部電極層
4… 外部電極