(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】燃料噴射弁およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
F02M 61/16 20060101AFI20230829BHJP
【FI】
F02M61/16 K
F02M61/16 M
(21)【出願番号】P 2020093343
(22)【出願日】2020-05-28
【審査請求日】2022-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128509
【氏名又は名称】絹谷 晴久
(74)【代理人】
【識別番号】100119356
【氏名又は名称】柱山 啓之
(72)【発明者】
【氏名】大蘆 嘉郎
【審査官】二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-120246(JP,A)
【文献】特開2018-189043(JP,A)
【文献】特開2016-183666(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 39/00-71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブボディと、
ノズルボディと、
前記ノズルボディを前記バルブボディに取り付けるリテーニングナットと、
前記リテーニングナットおよび前記
ノズルボディの間に形成された半径方向の隙間と、
前記隙間に充填され、前記隙間の内面に直接的に接触される金属の粉状体と、
前記隙間の入口部に設けられ、前記粉状体を固結させると共に前記入口部を封止する封止材と、
を備え、
前記粉状体は、前記ノズルボディを形成する第1金属よりイオン化傾向が高い第2金属により形成されており、
前記隙間は、軸方向における先端側が開放され基端側が閉じられた袋小路状の隙間であり、
前記粉状体は、前記隙間の軸方向先端側における入口部から軸方向基端側の位置まで充填され、
前記封止材は、前記粉状体の充填領域のうち、最も軸方向先端側の位置から基端側に向かう途中の位置まで設けられ、当該途中の位置から軸方向基端側には設けられない
ことを特徴とする燃料噴射弁。
【請求項2】
前記封止材は、前記第2金属を含む塗料により形成される
請求項1に記載の燃料噴射弁。
【請求項3】
前記封止材は、塗料、光硬化樹脂、エポキシ樹脂またはエポキシ接着剤により形成される
請求項1に記載の燃料噴射弁。
【請求項4】
前記第2金属は亜鉛である
請求項1~3の何れか一項に記載の燃料噴射弁。
【請求項5】
前記粉状体および前記封止材は固体である
請求項1~4の何れか一項に記載の燃料噴射弁。
【請求項6】
前記隙間は、軸方向基端側の第1部分と、軸方向先端側の第2部分と、前記第1部分および前記第2部分の間に形成された第3部分とを有し、
前記入口部は前記第2部分に形成され、
前記第2部分の隙間の大きさは、前記第1部分の隙間の大きさより大きくされ、前記第3部分の隙間の大きさは、軸方向基端側に向かうにつれ徐々に縮小される
請求項1~5の何れか一項に記載の燃料噴射弁。
【請求項7】
バルブボディと、
ノズルボディと、
前記ノズルボディを前記バルブボディに取り付けるリテーニングナットと、
前記リテーニングナットおよび前記
ノズルボディの間に形成された半径方向の隙間と、
前記隙間に充填され、前記隙間の内面に直接的に接触される金属の粉状体と、
前記隙間の入口部に設けられ、前記粉状体を固結させると共に前記入口部を封止する封止材と、
を備え、
前記粉状体は、前記バルブボディを形成する第1金属よりイオン化傾向が高い第2金属により形成されており、
前記隙間は、軸方向における先端側が開放され基端側が閉じられた袋小路状の隙間であり、
前記粉状体は、前記隙間の軸方向先端側における入口部から軸方向基端側の位置まで充填され、
前記封止材は、前記粉状体の充填領域のうち、最も軸方向先端側の位置から基端側に向かう途中の位置まで設けられ、当該途中の位置から軸方向基端側には設けられない
燃料噴射弁の製造方法であって、
前記入口部から前記隙間に前記粉状体を充填する第1ステップと、
前記入口部に液状の前記封止材を充填する第2ステップと、
充填された前記封止材を乾燥させる第3ステップと、
を備えたことを特徴とする燃料噴射弁の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は燃料噴射弁およびその製造方法に係り、特に、内燃機関のシリンダヘッドに取り付けられる燃料噴射弁およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に内燃機関、特に直噴式ディーゼルエンジンにおいては、シリンダヘッドに燃料噴射弁(もしくはインジェクタ)が取り付けられている。燃料噴射弁の先端部はシリンダ内の燃焼室に露出され、その先端部には複数の噴孔が設けられている。これら噴孔から燃焼室内に燃料が放射状に噴射される。
【0003】
燃料噴射弁は、バルブボディと、前記噴孔が形成されたノズルボディと、ノズルボディをバルブボディに取り付けるリテーニングナットとを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ノズルボディとリテーニングナットの間には半径方向の小さい隙間が存在する。エンジン運転時に燃焼室内のガスが隙間に浸入する。その後エンジンが停止され、燃料噴射弁が冷却されると、隙間内に残留したガスに含まれる水蒸気が凝縮して凝縮水が発生することがある。この凝縮水は、腐食能力の高い酸性水である。そのため、凝縮水によってノズルボディが錆びたり腐食したりする損傷が生じる可能性がある。
【0006】
そこで本開示は、かかる事情に鑑みて創案され、その目的は、ノズルボディの損傷を抑制することができる燃料噴射弁およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一の態様によれば、
バルブボディと、
ノズルボディと、
前記ノズルボディを前記バルブボディに取り付けるリテーニングナットと、
前記リテーニングナットおよび前記バルブボディの間に形成された半径方向の隙間と、
前記隙間に充填され、前記隙間の内面に直接的に接触される金属の粉状体と、
前記隙間の入口部に設けられ、前記粉状体を固結させると共に前記入口部を封止する封止材と、
を備え、
前記粉状体は、前記ノズルボディを形成する第1金属よりイオン化傾向が高い第2金属により形成されている
ことを特徴とする燃料噴射弁が提供される。
【0008】
好ましくは、前記封止材は、前記第2金属を含む塗料により形成される。
【0009】
好ましくは、前記封止材は、塗料、光硬化樹脂、エポキシ樹脂またはエポキシ接着剤により形成される。
【0010】
好ましくは、前記第2金属は亜鉛である。
【0011】
好ましくは、前記隙間は、軸方向における先端側が開放され基端側が閉じられた袋小路状の隙間である。
【0012】
好ましくは、前記隙間は、軸方向基端側の第1部分と、軸方向先端側の第2部分と、前記第1部分および前記第2部分の間に形成された第3部分とを有し、
前記入口部は前記第2部分に形成され、
前記第2部分の隙間の大きさは、前記第1部分の隙間の大きさより大きくされ、前記第3部分の隙間の大きさは、軸方向基端側に向かうにつれ徐々に縮小される。
【0013】
本開示の他の態様によれば、
バルブボディと、
ノズルボディと、
前記ノズルボディを前記バルブボディに取り付けるリテーニングナットと、
前記リテーニングナットおよび前記バルブボディの間に形成された半径方向の隙間と、
前記隙間に充填され、前記隙間の内面に直接的に接触される金属の粉状体と、
前記隙間の入口部に設けられ、前記粉状体を固結させると共に前記入口部を封止する封止材と、
を備え、
前記粉状体は、前記バルブボディを形成する第1金属よりイオン化傾向が高い第2金属により形成されている
燃料噴射弁の製造方法であって、
前記入口部から前記隙間に前記粉状体を充填する第1ステップと、
前記入口部に液状の前記封止材を充填する第2ステップと、
充填された前記封止材を乾燥させる第3ステップと、
を備えたことを特徴とする燃料噴射弁の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、ノズルボディの損傷を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本開示の実施形態に係る燃料噴射弁を示す縦断面図である。
【
図4】本実施形態の製造方法を示すフローチャートである。
【
図6】第2および第3ステップの様子を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して本開示の実施形態を説明する。なお本開示は以下の実施形態に限定されない点に留意されたい。
【0017】
図1は、内燃機関(エンジン)のシリンダヘッド1に取り付けられた燃料噴射弁(もしくはインジェクタ)2を示す。本実施形態のエンジンは車両用ディーゼルエンジンであるが、その種類、用途等に特に限定はなく、例えばエンジンはガソリンエンジンであってもよい。
【0018】
符号Cは燃料噴射弁2の中心軸(バルブ軸という)であり、バルブ軸Cは図示しないシリンダの中心軸(シリンダ軸という)と同軸である。以下、特に断らない限り、バルブ軸Cを基準とした軸方向、半径方向および周方向を単に軸方向、半径方向および周方向という。
【0019】
燃料噴射弁2は、その先端部(図中下側の端部)を下方に向けた下向き状態でシリンダヘッド1に取り付けられている。シリンダヘッド1の下側には、シリンダ(図示せず)内の燃焼室3が形成されている。燃料噴射弁2は、例えばコモンレール式燃料噴射システムに適用され、コモンレールから供給された高圧燃料を燃焼室3内に噴射する。
【0020】
燃料噴射弁2は、バルブボディ4と、バルブボディ4の下側(先端側)に隣接して配置された燃料噴射ノズル5のノズルボディ17と、ノズルボディ17をバルブボディ4に密接して取り付ける略円筒状のリテーニングナット(もしくはスリーブナット)6とを備える。リテーニングナット6は、その下端面7から上端面8まで軸方向に延びる。ノズルボディ17は、その先端側に軸部9を有し、軸部9は、リテーニングナット6より下方の位置まで軸方向に延びる。軸部9はリテーニングナット6より小径である。軸部9の周囲すなわち半径方向外側に、燃料噴射弁2の肩部10が、リテーニングナット6の下端部によって形成されている。
【0021】
シリンダヘッド1には、燃料噴射弁2が上方から同軸に挿入されるバルブ挿入穴11が設けられている。バルブ挿入穴11はシリンダ軸と同軸である。バルブ挿入穴11は、バルブボディ4およびリテーニングナット6が挿入される大径のボディ挿入穴12と、軸部9が挿入される小径の軸部挿入穴13とを有する。軸部挿入穴13は、ボディ挿入穴12から連続して下方かつ軸方向に延びると共に、シリンダヘッド1の下面14の位置で開口する。これにより軸部挿入穴13およびボディ挿入穴12は燃焼室3に連通される。
【0022】
ボディ挿入穴12の下端と軸部挿入穴13の上端とは、座面15によって段差状に接続される。座面15は、シリンダヘッド1に設けられ軸部挿入穴13の上端の周囲に形成された、全周に延びる上向きの円環状面である。座面15は軸方向に垂直(すなわち水平)な平面により形成されている。この座面15にパッキン16を介してリテーニングナット6が上方から押し付けられることにより、燃料噴射弁2はシリンダヘッド1に気密に取り付けられる。なお燃料噴射弁2は図外上方の位置において図示しないフォーク状の部材により軸方向下方に押圧される。
【0023】
図2には
図1のII部詳細を示す。燃料噴射ノズル5は、燃料の実質的な噴射部分をなすもので、略円筒状のノズルボディ17と、ノズルボディ17内に同軸かつ昇降可能に収容されたニードル弁18(仮想線で示す)とを備える。
【0024】
ノズルボディ17は、上方から順に、外径がD1の第1部分19と、外径がD2(<D1)の第2部分20と、外径がD3(<D2)の前述の軸部9と、下方に向かうにつれ外径が順次縮小されるテーパ部21と、テーパ部21の下端部から軸方向下方に突出された略半球状のサック部22とを一体的に有する。
【0025】
第1部分19からテーパ部21までの間の部分の中心部に、ニードル弁18を昇降可能に収容するためのニードル弁穴23が、軸方向に延びて形成される。またサック部22内には、ニードル弁穴23に連通されたサック室24が形成される。サック部22には、燃料出口である複数(本実施形態では八つ)の噴孔25が周方向等間隔で貫通形成される。周知のように、ニードル弁18が下降されその先端部がテーパ部21内面に押し付けられたとき、噴孔25への燃料供給が停止され、燃料噴射弁2が閉弁状態となる。そして、ニードル弁18が上昇されその先端部がテーパ部21内面から離間されたとき、噴孔25へ燃料が供給され、燃料噴射弁2が開弁状態となる。このとき燃料は噴孔25から燃焼室3内に斜め下向きかつ放射状に噴射される。
【0026】
第1部分19の下端と第2部分20の上端とは、軸方向に垂直なノズル押圧面26によって段差状に接続される。また第2部分20の下端と軸部9の上端とは、下方に向かうにつれ縮径するテーパ面27によって接続される。テーパ面27は、パッキン16より上方に位置される。軸部9は、一定の外径D3を有して軸方向に所定長さ延びている。軸部9の下端部(先端部)に形成されたテーパ部21の下側部分と、サック部22の全体とは、シリンダヘッド1の下面14より下方に位置され、燃焼室3内に露出されている。
【0027】
リテーニングナット6は、第1部分19にほぼ隙間無くぴったりと嵌合される第1嵌合部分28と、第2部分20に半径方向の小さな隙間(ナット内隙間という)29を隔てて嵌合される第2嵌合部分30とを有する。第1嵌合部分28の内周面下端と第2嵌合部分30の内周面上端とは、軸方向に垂直なナット押圧面31によって段差状に接続される。
【0028】
リテーニングナット6は、図外上方の位置に雌ネジを有する。この雌ネジが、バルブボディ4の雄ネジに締め付けられることにより、ナット押圧面31がノズル押圧面26を押し上げ、ノズルボディ17が上方のバルブボディ4に密着される。これにより燃料噴射ノズル5ないしノズルボディ17がバルブボディ4に一体的に取り付けられる。
【0029】
図示する燃料噴射弁2の取付状態において、軸部9と軸部挿入穴13の間には半径方向の小さな隙間(穴内隙間という)32が形成される。パッキン16と軸部9の間にも、半径方向の小さな隙間(パッキン内隙間という)33が形成される。これら穴内隙間32およびパッキン内隙間33と前述のナット内隙間29とは、互いに連通され、かついずれも燃焼室3に連通される。
【0030】
パッキン16は、所定の厚さを有し全周に延びる円環状ないしドーナツ状の部材であり、本実施形態では金属板により形成される。パッキン16は、シリンダヘッド1の座面15と、リテーニングナット6の下端面7との間に挟まれて固定され、これらの間をガス漏れ無きようシールする。
【0031】
ところで、ナット内隙間29は、パッキン内隙間33および穴内隙間32を通じて燃焼室3に連通されている。よってエンジン運転時に燃焼室3内のガスがナット内隙間29に浸入する。その後エンジンが停止され、燃料噴射弁2が冷却されると、ナット内隙間29に残留したガスに含まれる水蒸気が凝縮して凝縮水が発生することがある。この凝縮水は、腐食能力の高い酸性水である。そのため、凝縮水によってノズルボディ5が錆びたり腐食したりする損傷が生じる可能性がある。
【0032】
そこで本実施形態では、こうした損傷を抑制するために次の構造を採用している。
【0033】
図3には
図2のIII部詳細を示す。図示するようにナット内隙間29には、金属で形成された多数の粉状体41が充填されている。粉状体41は、ナット内隙間29の内面に直接的に接触されている。
【0034】
またナット内隙間29の下端部すなわち入口部42には、粉状体41を固結させると共に入口部42を封止する封止材43が設けられている。
【0035】
詳しくは、ナット内隙間29は、軸方向基端側すなわち上端側の第1部分44と、軸方向先端側すなわち下端側の第2部分45と、第1部分44および第2部分45の間に形成された第3部分46とを有する。第1部分44は、リテーニングナット6と第2部分20の間に形成された半径方向隙間である。第2部分45は、リテーニングナット6と軸部9の間に形成された半径方向隙間である。第3部分44は、リテーニングナット6とテーパ面27の間に形成された半径方向隙間である。入口部42は第2部分45によって形成される。ナット内隙間29を形成するリテーニングナット6の内周面は一定の内径を有する。
【0036】
第1部分44、第2部分45および第3部分46の隙間の大きさはそれぞれH1,H2,H3である。H2>H1である。H3は、軸方向基端側すなわち上端側に向かうにつれ徐々に縮小され、H2からH1まで変化される。このようにナット内隙間29の大きさは、入口側から奥側に向かうにつれ次第に縮小される。
【0037】
なお、第2部分20の上端部がノズル押圧面26に向かって徐々に拡径されるので、第1部分44の上端部における隙間の大きさは、上方に向かうにつれ徐々に縮小される。
【0038】
ナット内隙間29の入口部42とは、燃焼室3内のガスがナット内隙間29に浸入しようとするときに入口となる部分を意味する。従って入口部42はナット内隙間29の下端部、すなわち第2部分45に形成され、パッキン内隙間33に直接連通される。
【0039】
ナット内隙間29は、下端側すなわち入口側が開放され、上端側すなわち出口側が閉じられた袋小路状の隙間である。従ってここに凝縮水が一旦浸入すると、その凝縮水は抜けづらく(もしくは乾燥しづらく)、残留しがちである。
【0040】
ノズルボディ17およびリテーニングナット6は、鉄(鉄を主成分とする鋼材等の材料を含む)により形成されている。特にノズルボディ17を形成する金属を第1金属という。因みにシリンダヘッド1は鉄またはアルミ(アルミを主成分とするアルミ合金等の材料を含む)により形成されている。
【0041】
粉状体41は、第1金属よりイオン化傾向が高い第2金属、すなわち犠牲防食金属により形成されている。本実施形態の第2金属は亜鉛である。但し第2金属は任意であり、アルミニウム等であってもよい。本実施形態の粉状体41は亜鉛粉によって形成されている。
【0042】
図示例では、粉状体41は球形として示してあるが、この粉状体41の形状も限定されない。粉状体41は、例えばキューブ形状、サイコロ形状、ブロック形状、ペレット形状、カプセル形状等であってもよい。
【0043】
ここで粉状体41とは、粉状または粒状の物を意味する。従って粉状体41が粉状の物に限らず、粒状の物も含む点に留意されたい。粉状体41は、乾燥した固体の粉末または微粒子の形態を有する。
【0044】
粉状体41の平均粒径は、ナット内隙間29の大きさより十分に小さい。これにより粉状体41をナット内隙間29に高密度で充填することができる。特に粉状体41の平均粒径は、最小である第1部分44の隙間の大きさH1より小さい。これにより第1部分44の最も奥側もしくは深部側まで、粉状体41を確実に充填することができる。
【0045】
例えば、H1=130(μm)の場合、粉状体41の平均粒径は、一般的に入手可能なサイズである7.5(μm)とすることができる。
【0046】
粉状体41がナット内隙間29に充填される結果、粉状体41は、ノズルボディ17の外周面とリテーニングナット6の内周面とに直接的に接触される。この状態で、入口部42に封止材43が設けられることにより、粉状体41は落下することなくナット内隙間29に保持される。封止材43は、ナット内隙間29の下向きの入口部42を栓するかの如く封止する。
【0047】
本実施形態では、入口部42すなわち第2部分45に加え、第3部分46にも封止材43が設けられ、封止効果が高められている。
【0048】
封止材43は、粉状体41同士の隙間に浸入して粉状体41同士を固結もしくは結合させ、同時に、固結した粉状体41群をナット内隙間29の内面、すなわちノズルボディ17の外周面とリテーニングナット6の内周面とに固着させる。封止材43は耐熱性であり、施工時には液体だが施工後は固体である。
【0049】
本実施形態の封止材43は、第2金属を含む塗料、具体的には亜鉛を含む塗料(所謂亜鉛リッチペイント)により形成される。これにより後述する犠牲防食効果を高めることができる。但し封止材43の材料は任意であり、例えば第2金属を含まない通常の塗料、光硬化樹脂、エポキシ樹脂またはエポキシ接着剤であってもよい。なお封止材43は、図示の如き使用状態では乾燥後の固体である。
【0050】
封止材43と、これによって固結された粉状体41群との下端の高さ位置は、パッキン16より上方とされ、それらがパッキン16に干渉しないようにされている。
【0051】
次に、本実施形態の燃料噴射弁2の製造方法を説明する。
図4に示すように、製造方法は、入口部42からナット内隙間29に粉状体41を充填する第1ステップS101と、入口部42に液状の封止材43を充填する第2ステップS102とを備える。また製造方法は、充填された封止材43を乾燥させる第3ステップS103を備える。
【0052】
図5に示すように、第1ステップS101においては、予め、粉状体41および封止材43が充填される前の燃料噴射弁2を用意する。そしてこの燃料噴射弁2を上下反転させ、ナット内隙間29の入口部42を鉛直方向上向きにして、適宜の固定台にセットする。この状態で入口部42からナット内隙間29内に、粉状体41を自重で落下させ、充填していく。
【0053】
この状態ではパッキン16(仮想線で示す)が無いので、比較的大きな隙間である入口部42すなわち第2部分45から粉状体41を充填することができ、作業は容易である。
【0054】
また、充填中に空洞ができ充填不足が生じるのを避けるため、充填中に燃料噴射弁2を振動させるのが好ましい。
【0055】
加えて、ナット内隙間29の容積に見合った充填予定量の粉状体41を予め計量しておき、この粉状体41の全量が充填されるまで充填作業を続けるのが好ましい。計量は、計量容器で粉状体41の容積を量ったり、重量計で粉状体41の重量を量ったりすることで行うことができる。計量容器で量る場合には、充填予定量に等しい容積を有する容器を用いると、すり切り一杯で丁度の量が量れるので便利である。
【0056】
こうして充填作業が終了すると、ナット内隙間29には、予定の高さ位置まで、粉状体41が高密度で充填され、同時に無数の粉状体41が、ナット内隙間29の内面に直接接触されるようになる。
【0057】
次に
図6に示すように、第2ステップS102においては、液状またはゲル状の封止材43を自重で流下させ、入口部42に充填する。こうすると封止材43が粉状体41、ノズルボディ17およびリテーニングナット6の間の隙間に入り込み、下方に向かって浸透していく。本実施形態では、第3部分46のほぼ全体まで封止材43が浸透するよう、適切な量の封止材43が充填される。
【0058】
パッキン16が無い状態で、比較的大きな入口部42から封止材43を充填することができるので、この作業も容易である。
【0059】
最後に、第3ステップS103では、充填された封止材43を乾燥させ、封止材43に含まれる溶剤を蒸発気化させる。これにより封止材43が固化され、粉状体41同士を強固に固結してノズルボディ17およびリテーニングナット6の表面に強固に固着させると共に、入口部42を栓するかの如く封止する。
【0060】
乾燥時間を短縮するため、外部からヒータで加熱してもよい。但し自然乾燥も当然に可能である。
【0061】
奥側の第1部分44には封止材43が充填されないので、乾燥時間を大幅に短縮することができる。
【0062】
次に、本実施形態の作用効果を説明する。
【0063】
図2および
図3に示すように、エンジン運転時、燃焼室3内のガスは、穴内隙間32、パッキン内隙間33を順に通じてナット内隙間29に入ろうとする。しかしナット内隙間29の入口部42は、粉状体41および封止材43によって閉鎖されている。そのためガスのナット内隙間29への浸入を抑制でき、ガスに起因するノズルボディ17ひいてはリテーニングナット6の錆び、腐食等の損傷を抑制できる。
【0064】
また、粉状体41を充填するだけだと、運転中の振動等によって粉状体41が脱落もしくは流出する虞があるが、本実施形態では入口部42の粉状体41を封止材43で固結、固着させるので、こうした脱落を防止し、粉状体41をナット内隙間29内に安定して保持することができる。
【0065】
また、エンジン運転時、経年劣化等で劣化した封止材43を突き破って、燃焼室3内のガスがナット内隙間29に浸入する可能性がある。特に、圧縮時や燃焼時には筒内圧が上昇するため、ガスがナット内隙間29に強制的に押し込まれる可能性がある。
【0066】
その後エンジンが停止され、燃料噴射弁2が冷却されると、ナット内隙間29に残留したガスに含まれる水蒸気が凝縮し、凝縮水が発生することがある。この凝縮水は、腐食能力の高い酸性水である。そのため凝縮水によって、ノズルボディ17およびリテーニングナット6が錆びたり腐食したりする損傷が生じる可能性がある。
【0067】
特に、ナット内隙間29は細長くて狭い袋小路状の隙間であるため、ここに凝縮水が溜まると、その凝縮水は抜けづらく残留しがちである。
【0068】
リテーニングナット6は、単にノズルボディ17をバルブボディ4に固定する部材なので、それが腐食しても、外観上の問題を除けば、機能上それ程問題ではない。しかし、ノズルボディ17が腐食すると、ノズルボディ17に亀裂等が生じて内部の燃料が漏れ出す虞がある。従ってノズルボディ17の腐食は可能な限り回避すべきである。
【0069】
本実施形態によれば、ナット内隙間29で凝縮水が発生したとしても、ノズルボディ17およびリテーニングナット6に優先して、犠牲防食金属により形成された粉状体41を腐食させることができる。従って、ノズルボディ17およびリテーニングナット6の損傷を確実に抑制することができる。
【0070】
また、本実施形態によれば、ナット内隙間29に粉状体41を密に充填し、その入口部42には封止材43をさらに充填する。よって、ナット内隙間29の実質的な空間容積を著しく減少することができる。そしてガス浸入量と凝縮水発生量を大幅に低減し、ノズルボディ17およびリテーニングナット6の損傷を抑制することができる。
【0071】
特にガスは、ピストンの昇降動作に伴う筒内圧の上昇、下降によって、ナット内隙間29に押し込まれたり、ナット内隙間29から吸引されたりする呼吸作用を行う。本実施形態によれば、ナット内隙間29の実質的な空間容積を減少したので、この呼吸作用によるガスの押し込み量を低減することができる。
【0072】
ところで、ナット内隙間29における金属の腐食は、ナット内隙間29に酸素と水が存在すると発生し、場合によってはこれらに加え、塩素イオン、硫酸イオン等の腐食性イオンが存在すると発生する。これらはいずれも燃焼室内ガスに含まれるものである。
【0073】
ナット内隙間29において、粉状体41が優先的に腐食すると、これによって腐食生成物が生成される。腐食生成物としては、酸化亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛等を例示できる。生成された腐食生成物は膨張すなわち体積増加する。すると、粉状体41同士の隙間が狭窄され、ナット内隙間29の実質的な空間容積が減少する。つまり腐食生成物が、ナット内隙間29へのガス浸入を妨げるバリヤーの如く機能する。
【0074】
こうなると、腐食性イオンが粉状体41同士の隙間を通って拡散するときの拡散速度を低下させることができる。よって腐食性イオンによる腐食を抑制することができる。
【0075】
なお、特許文献1には、犠牲防食用金属粉を含有したグリス等のペースト状物質を隙間内のノズルボディ表面に塗布することが開示されている。しかし、こうしたペースト状物質は、温度上昇により粘度が低下し、長時間使用後に隙間から流出する虞がある。また、狭い隙間に空隙を残さぬよう高粘度のペースト状物質を充填するには、大掛かりなインジェクション装置や真空引き装置が必要となり、製造の手間とコストが増大する。
【0076】
本実施形態によれば、封止材43が温度上昇しても実質的に変性しないため、封止効果を維持し、粉状体41を安定的に保持することができる。また重力落下や、必要に応じて振動を併用することで、粉状体41を手作業で空隙無く密に充填できる。よって、上記のような大掛かりな装置は不要であり、製造の手間とコストを削減することができる。
【0077】
本実施形態では、ナット内隙間29の第3部分46まで封止材43を設けるので、上記の効果を益々増強することができる。
【0078】
本実施形態の封止材43は、第2金属を含む塗料(具体的には亜鉛リッチペイント)により形成されるので、封止材43自体にも犠牲防食機能を与えることができ、全体としての犠牲防食効果を高めることができる。
【0079】
以上、本開示の実施形態を詳細に述べたが、本開示の実施形態ないし変形例は他にも様々考えられる。
【0080】
(1)例えば、
図6に代替する
図7に示すように、封止材43は、ナット内隙間29の第1部分44まで設けてもよい。図示例の場合、封止材43は、第1部分44の最も奥側すなわち基端側まで設けられ、ナット内隙間29の全体に設けられている。しかしながら、封止材43は第1部分44の途中まで設けられてもよい。
【0081】
(2)図示しないが、逆に封止材43は、第3部分46に設けられず、入口部42すなわち第2部分45のみに設けられてもよい。
【0082】
(3)封止材43が第2金属を含む塗料である場合、粉状体41をなす第2金属と、封止材43に含まれる第2金属との種類を変えてもよい。
【0083】
(4)シリンダヘッド1に取り付けられたときの燃料噴射弁2の配置は、シリンダ軸と同軸でなくてもよい。シリンダ軸と非同軸であってもよいし、シリンダ軸と平行または非平行であってもよい。
【0084】
本開示の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本開示の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本開示に含まれる。従って本開示は、限定的に解釈されるべきではなく、本開示の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0085】
2 燃料噴射弁
4 バルブボディ
6 リテーニングナット
17 ノズルボディ
29 ナット内隙間
41 粉状体
42 入口部
43 封止材
44 第1部分
45 第2部分
46 第3部分