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  • 特許-ガスバリア性積層体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】ガスバリア性積層体
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/34 20060101AFI20230829BHJP
   B32B 27/10 20060101ALI20230829BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20230829BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20230829BHJP
   D21H 19/40 20060101ALI20230829BHJP
   D21H 19/44 20060101ALI20230829BHJP
   D21H 19/82 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
G01N33/34
B32B27/10
B32B27/20 Z
B65D65/40 D
D21H19/40
D21H19/44
D21H19/82
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020117029
(22)【出願日】2020-07-07
(65)【公開番号】P2022014610
(43)【公開日】2022-01-20
【審査請求日】2022-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】鶴原 正啓
(72)【発明者】
【氏名】磯崎 友史
(72)【発明者】
【氏名】社本 裕太
(72)【発明者】
【氏名】野一色 泰友
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-069783(JP,A)
【文献】特開2004-027444(JP,A)
【文献】特開2009-276634(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/34
B32B 27/10
B32B 27/20
B65D 65/40
D21H 19/40
D21H 19/44
D21H 19/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙支持体の少なくとも一方の面上に水蒸気バリア層を有し、前記水蒸気バリア層が層状無機化合物、カチオン性樹脂およびアニオン性バインダーを含有するガスバリア性積層体の評価方法であって、
前記水蒸気バリア層断面における前記層状無機化合物の均一分散率が15%以上であると、水蒸気バリア性に優れると評価することを有し、
前記均一分散率は、前記水蒸気バリア層断面の二値化処理を施したSEM画像において閾値よりも輝度が小さい黒色部の面積と前記SEM画像の全面積とに基づいて「(前記黒色部の面積/前記SEM画像の全面積)×100」で算出される値であり、
前記閾値は、前記SEM画像における最大輝度と最小輝度とに基づいて「(前記最大輝度-前記最小輝度)×0.4+前記最小輝度」で算出される値である、ガスバリア性積層体の評価方法。
【請求項2】
前記水蒸気バリア層断面における前記層状無機化合物の輝度の標準偏差が25以下であると、水蒸気バリア性に優れると評価することを有する、請求項1に記載のガスバリア性積層体の評価方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙を支持体とするガスバリア性積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
紙を基材とし、水蒸気バリア性やガスバリア性(特に、酸素バリア性)を付与した包装材料は、食品、医療品、電子部品等の包装において、内容物の品質低下を防止するために、従来から用いられてきている。
【0003】
紙基材に水蒸気バリア性やガスバリア性を付与する方法としては、紙を支持体としてガスバリア性に優れた合成樹脂フィルムや金属箔を積層する方法が一般的である。しかし、紙基材に合成樹脂フィルム等を積層した材料は、使用後に紙や合成樹脂等をリサイクルすることが困難であり、環境面において課題を有するものであった。
【0004】
そこで、合成樹脂フィルム等を使用せずに、紙を基材としたガスバリア性材料の開発が進められてきている。例えば、特許文献1には、紙基材上に、水蒸気バリア層、ガスバリア層がこの順で設けられた紙製バリア材料が開示されている。前記水蒸気バリア層は、水蒸気バリア性樹脂及び撥水剤を含有し、且つ前記ガスバリア層は、水溶性高分子及び界面活性剤を含有する。
【0005】
また、特許文献2には、紙基材上に水蒸気バリア層およびガスバリア層が設けられた紙製バリア包装材料が開示されている。水蒸気バリア層は、平均粒子径5μm以上、アスペクト比10以上のカオリンを全顔料に対して50~100重量%含有し、ガスバリア層のバインダー樹脂は、ポリビニルアルコール樹脂である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6234654号公報
【文献】特許第5331265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された紙製バリア材料は、水蒸気バリア層が撥水剤を含有しているため、水蒸気バリア層の上にガスバリア層を塗工する際に、均一な塗工層を形成することが困難となる懸念を有していた。また、特許文献2に記載された紙製バリア材料は、水蒸気バリア層におけるカオリンの存在形態に起因して、水蒸気バリア性に改良の余地を有するものであった。
【0008】
本発明は、上記のような状況に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の課題は、水蒸気バリア性に優れたガスバリア性積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、水蒸気バリア層における層状無機化合物の分散状態に着目して検討を進めたところ、層状無機化合物の分散状態を特定のパラメータを用いて定量化することに成功し、その特定のパラメータが特定の数値範囲のときに水蒸気バリア性に優れたガスバリア性積層体となることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。すなわち、本発明は、以下のような構成を有している。
【0010】
(1)紙支持体の少なくとも一方の面上に水蒸気バリア層を有するガスバリア性積層体であって、前記水蒸気バリア層が層状無機化合物、カチオン性樹脂およびアニオン性バインダーを含有し、前記水蒸気バリア層断面における前記層状無機化合物の均一分散率が15%以上であることを特徴とするガスバリア性積層体。
【0011】
(2)前記水蒸気バリア層断面における前記層状無機化合物の輝度の標準偏差が25以下である前記(1)に記載のガスバリア性積層体。
【0012】
(3)前記層状無機化合物がマイカ、ベントナイトおよびカオリンからなる群より選ばれる少なくとも1種である前記(1)または前記(2)に記載のガスバリア性積層体。
【0013】
(4)前記アニオン性バインダーがスチレン・ブタジエン系共重合体、スチレン・アクリル系共重合体およびオレフィン・不飽和カルボン酸系共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種である前記(1)~(3)のいずれか1項に記載のガスバリア性積層体。
【0014】
(5)前記カチオン性樹脂は表面電荷が0.1~10meq/gである前記(1)~(4)のいずれか1項に記載のガスバリア性積層体。
【0015】
(6)前記一方の面上にさらに水溶性高分子を含有するガスバリア層を有する前記(1)~(5)のいずれか1項に記載のガスバリア性積層体。
【0016】
(7)少なくとも一方の最外層にシーラント層を有する前記(1)~(6)のいずれか1項に記載のガスバリア性積層体。
【0017】
(8)包装用材料である前記(1)~(7)のいずれか1項に記載のガスバリア性積層体。
【発明の効果】
【0018】
本発明のガスバリア性積層体は、水蒸気バリア性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】(a)は実施例1のガスバリア性積層体断面のSEM写真である。(b)は実施例2のガスバリア性積層体断面のSEM写真である。(c)は実施例3のガスバリア性積層体断面のSEM写真である。(d)は比較例1のガスバリア性積層体断面のSEM写真である。倍率はいずれも2000倍である。図1の各SEM写真において、上側に存在する帯状の領域部分Aが水蒸気バリア層であり、下側の大きな隙間空間を多数包含する領域部分Bが紙支持体である。ガスバリア層は水蒸気バリア層の上に極薄く存在している。
図2】(a)は実施例1のガスバリア性積層体の水蒸気バリア層断面の5箇所のSEM画像および二値化画像である。(b)は実施例2のガスバリア性積層体の水蒸気バリア層断面の5箇所のSEM画像および二値化画像である。(c)は実施例3のガスバリア性積層体の水蒸気バリア層断面の5箇所のSEM画像および二値化画像である。(d)は比較例1のガスバリア性積層体の水蒸気バリア層断面の5箇所のSEM画像および二値化画像である。画像面積は(a)、(b)、(d)は5μm四方であるが、(c)は水蒸気バリア層が薄いため5μm×2.5μmである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を具体的に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0021】
本実施形態のガスバリア性積層体は、紙支持体の少なくとも一方の面上に水蒸気バリア層を有している。紙支持体の片面のみに水蒸気バリア層を設けてもよいし、紙支持体の両面に水蒸気バリア層を設けてもよい。
以下、本実施形態のガスバリア性積層体を構成する各層について説明する。
【0022】
[紙支持体]
本実施形態に用いられる紙支持体は、植物由来のパルプを主成分として一般的に用いられている紙であれば特に制限はない。具体的には、晒または未晒クラフト紙、上質紙、板紙、ライナー紙、塗工紙、片艶紙、グラシン紙、グラファン紙等を挙げることができる。機械的離解作用により水中で分散しやすいパルプを主成分とする紙であることが好ましい。
【0023】
紙支持体のJIS P8121:2012に準じて測定した離解フリーネス(濾水度)は、バリア性を向上させる観点から、800ml以下とすることが好ましく、500ml以下がより好ましい。ここで、離解フリーネスとは、抄紙後の紙をJIS P8220-1に準拠して離解したパルプを、JIS P8121:2012に準拠して測定したカナダ標準ろ水度(Canadian standard freeness)のことである。離解フリーネスを調製するために、パルプを叩解する方法については、公知の方法を使用することができる。
【0024】
紙支持体の坪量は、特に限定されないが、20~400g/mであることが好ましく、30~320g/mがより好ましい。
【0025】
紙支持体のサイズ度は、特に限定されないが、バリア性を向上させる観点から、JIS P 8122:2004に準ずるステキヒトサイズ度が1秒以上とすることが好ましい。紙支持体のサイズ度は、ロジン系、アルキルケテンダイマー系、アルケニル無水コハク酸系、スチレン-アクリル系、高級脂肪酸系、石油樹脂系等の内添サイズ剤の種類や含有量、パルプの種類、平滑化処理等によって制御することができる。内添サイズ剤の含有量は、特に限定されないが、紙支持体のパルプ100質量部に対して0~3質量部程度の範囲が好ましい。
【0026】
紙支持体にはさらに、公知の内添薬品を適宜添加することができる。内添薬品としては、例えば、二酸化チタン、カオリン、タルク、炭酸カルシウム等の填料、紙力増強剤、歩留り向上剤、pH調整剤、濾水性向上剤、耐水化剤、柔軟剤、帯電防止剤、消泡剤、スライムコントロール剤、染料・顔料等を挙げることができる。
【0027】
[水蒸気バリア層]
水蒸気バリア層は、水蒸気の透過を阻止する機能を有する層である。水蒸気バリア層は、紙支持体の少なくとも一方の面上に形成された層であり、層状無機化合物、カチオン性樹脂およびアニオン性バインダーを含有している。
【0028】
(層状無機化合物)
層状無機化合物の形態は、平板状である。層状無機化合物とカチオン性樹脂とアニオン性バインダーとの混合溶液を作製し、紙支持体上に塗工すると、水蒸気バリア層が形成される。水蒸気バリア層内においては、平板状の層状無機化合物が紙支持体の平面(表面)とほぼ平行に積層した状態に配列する。そうすると、平面方向では層状無機化合物が存在していない面積が小さくなることから、水蒸気の透過が抑制される。また、厚さ方向では平板状の層状無機化合物が紙支持体平面に対して平行に配列して存在するため、層中の水蒸気は層状無機化合物を迂回しながら透過することとなり、水蒸気の透過が抑制される。その結果、水蒸気バリア層は優れた水蒸気バリア性を発現することができる。
【0029】
層状無機化合物は、平均長さが1μm~100μmであることが好ましい。平均長さが1μm以上であると、塗工層中における層状無機化合物が紙支持体に対して平行に配列し易い。また、平均長さが100μm以下であると層状無機化合物の一部が水蒸気バリア層から突出する懸念が少ない。ここで、水蒸気バリア層中に含まれている状態での層状無機化合物の長さは、以下のようにして求められる。水蒸気バリア層の断面について、電子顕微鏡を用いて拡大写真を撮影する。このとき、画面内に層状無機化合物が20~30個程度含まれる倍率とする。画面内の層状無機化合物の個々の層状無機化合物の長さを測定する。そして、得られた長さの平均値を算出して、層状無機化合物の長さとする。なお、層状無機化合物の長さは、粒子径という表現で記載されることもある。
【0030】
層状無機化合物は、アスペクト比が50以上であることが好ましい。言い換えるとアスペクト比が50または50より大きい。アスペクト比が50以上であると、所定の水蒸気透過度を効果的に達成することが可能となる。層状無機化合物のアスペクト比は、80以上がより好ましく、300以上がさらに好ましく、500以上が特に好ましい。アスペクト比が大きいほど、水蒸気の透過が抑制され、水蒸気バリア性が向上する。また、アスペクト比が大きいほど、層状無機化合物の添加量を低減させることができる。アスペクト比の上限は特に限定されず、塗工液の粘度の観点から10000以下程度が好ましい。ここで、アスペクト比とは、水蒸気バリア層の断面の顕微鏡拡大写真を撮ったときに、層状無機化合物の長さをその厚さで除した値の平均値である。
【0031】
層状無機化合物は、厚さが200nm以下であることが好ましい。言い換えると厚さが200nmまたは200nmより小さい。層状無機化合物の厚さは、100nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることがさらに好ましい。層状無機化合物の平均厚さが小さい方が、水蒸気バリア層中における層状無機化合物の積層数が大きくなるため、高い水蒸気バリア性を発揮することができる。ここで、水蒸気バリア層中に含まれている状態での層状無機化合物の厚さは、以下のようにして求められる。水蒸気バリア層の断面について、電子顕微鏡を用いて拡大写真を撮影する。このとき、画面内に層状無機化合物が20~30個程度含まれる倍率とする。画面内の層状無機化合物の個々の層状無機化合物の厚さを測定する。そして、得られた厚さの平均値を算出して、層状無機化合物の厚さとする。
【0032】
層状無機化合物の具体例としては、雲母族、脆雲母族等のマイカ、ベントナイト、カオリナイト(カオリン鉱物)、パイロフィライト、タルク、スメクタイト、バーミキュライト、緑泥石、セプテ緑泥石、蛇紋石、スチルプノメレーン、モンモリロナイトなどが挙げられる。
【0033】
これらの中でも特に、バリア性を向上させる観点から、マイカ、ベントナイトおよびカオリンからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、マイカまたはベントナイトがより好ましい。マイカには、合成マイカ、白雲母(マスコバイト)、絹雲母(セリサイト)、金雲母(フロコパイト)、黒雲母(バイオタイト)、フッ素金雲母(人造雲母)、紅マイカ、ソーダマイカ、バナジンマイカ、イライト、チンマイカ、パラゴナイト、ブリトル雲母などが挙げられる。また、ベントナイトはモンモリロナイトが挙げられる。
【0034】
層状無機化合物の含有量は、水蒸気バリア層の全固形分中80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましく、20質量%以下が特に好ましく、10質量%以下が最も好ましい。一方、層状無機化合物の含有量は、水蒸気バリア層の全固形分中1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましい。
【0035】
本実施形態では、層状無機化合物のアスペクト比を大きくし、厚さを小さくすることによって、層状無機化合物の含有量を低減することもできる。また、水蒸気バリア層の強度を高めて、層状無機化合物の水蒸気バリア層からの脱落を抑えることもできる。しかしながら、水蒸気バリア層断面の顕微鏡拡大写真を撮ったときに、層状無機化合物の長さと厚さ、言い換えるとアスペクト比の大きい層状無機化合物を可能な限り少なく使用する場合と、アスペクト比の小さい層状無機化合物を可能な限り多く使用する場合との双方で、優れたバリア性を発揮する場合があり、水蒸気バリア層の内部構造を明らかにする必要がある。
【0036】
そこで、本発明者らは、水蒸気バリア層において層状無機化合物が凝集せずに均一に分散している状態を定量化するため、均一分散性の程度の定量化方法について種々検討を進めた。その結果、以下に説明する方法が有効であることを見出した。
【0037】
ガスバリア性積層体のサンプルをエポキシ樹脂に包埋して、エポキシ樹脂を硬化させる。ミクロトームを用いて、ガスバリア性積層体のMD方向に沿って、エポキシ樹脂に包埋されたガスバリア性積層体を、積層体表面と直角方向にスライスして、ガスバリア性積層体の断面を露出させた薄片を得る。走査型電子顕微鏡(SEM、日立製作所製、S-3600)を用いて、当該薄片を観察し、ガスバリア性積層体の拡大断面写真(2000倍)を撮影する。ガスバリア性積層体の拡大断面写真の水蒸気バリア層の断面部分から、ランダムに5箇所の5μm四方の画像を得る。当該各画像について、画像解析ソフト(アイ・スペック社製、IOMate2007)を用いて、画像の全面積を12万個の微小領域に均等に分割して、すべての微小領域の輝度を測定する。それらの中で、最大の輝度を示した微小領域の輝度を最大輝度とし、最小の輝度を示した微小領域の輝度を最小輝度とする。下記式(1)に基づいて、各画像について閾値を算出する。
閾値=(最大輝度-最小輝度)×0.4+最小輝度 ・・・ (1)
【0038】
前記個々の画像に対して、各画像毎に得られた閾値を用いて、当該閾値よりも輝度が大きい領域を白色、当該閾値よりも輝度が小さい領域を黒色として、二値化処理(モノクロ化処理)を施す。
白色部は、層状無機化合物が凝集している部分であり、輝度が大きくなる部分を意味している。一方、黒色部は、層状無機化合物が凝集せずに分散している部分または空隙部分であり、輝度が小さくなる部分を意味している。
二値化処理後の各画像において、下記式(2)に基づいて、層状無機化合物の均一分散率(%)を算出する。
均一分散率(%)=(黒色部の面積/画像の全面積)×100 ・・・ (2)
【0039】
均一分散率の数値が大きいほど、水蒸気バリア層内で層状無機化合物が均一に分散している領域が広いことを示している。一方、均一分散率の数値が小さいほど、水蒸気バリア層内で層状無機化合物が均一に分散している領域が狭いことを示している。
尚、各ガスバリア性積層体の均一分散率の数値は、各ガスバリア性積層体毎に、5箇所の画像から得られた均一分散率の数値の平均値として求められる。
【0040】
後記する実施例の結果から、本実施形態において、優れた水蒸気バリア性を発揮するためには、水蒸気バリア層断面における層状無機化合物の均一分散率は15%以上であることが必要であり、20%以上が好ましく、30%以上がより好ましい。
【0041】
次に、上記の走査型電子顕微鏡写真の画像解析より得られた各画像毎に12万個の微小領域の輝度のデータについて、輝度の標準偏差を算出する。得られた輝度の標準偏差は、各画像毎に、層状無機化合物の分散のばらつきの程度を示している。すなわち、輝度の標準偏差が大きいほど、層状無機化合物の分散のばらつきの程度が大きいことを意味し、輝度の標準偏差が小さいほど、層状無機化合物の分散のばらつきの程度が小さいことを意味している。
尚、各ガスバリア性積層体の輝度の標準偏差は、各ガスバリア性積層体毎に、5箇所の画像から得られた輝度の標準偏差の平均値として求められる。
【0042】
後記する実施例の結果から、本実施形態において、優れた水蒸気バリア性を発揮するためには、水蒸気バリア層断面における層状無機化合物の輝度の標準偏差は、25以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましく、10以下であることがさらに好ましく、5以下であることが特に好ましい。
【0043】
ガスバリア性積層体の水蒸気バリア層断面において、層状無機化合物の均一分散率を15%以上とし、輝度の標準偏差を25以下とするためには、水蒸気バリア層が層状無機化合物、カチオン性樹脂およびアニオン性バインダーを含有し、塗工液の調製において、固形分濃度5~30%程度となるように十分な量である水を加える方法、強撹拌が可能なコーレス分散機、ホモミキサー等を用いて混合撹拌を行う方法、層状無機化合物を固形分濃度50%以下の水分散液として使用する方法、固形分濃度が好ましくは50%以下、より好ましくは10%以下と低いカチオン性樹脂を使用する方法、層状無機化合物の水分散液またはアニオン性バインダーをカチオン性樹脂に添加する方法等が好ましく採用される。また、塗工液の乾燥において100℃以下で熱風乾燥を行う方法、表面温度100℃以下の恒率乾燥を行う方法等が好ましく採用される。
【0044】
層状無機化合物の含有量は、特に限定されず、水蒸気バリア層のアニオン性バインダー100質量部に対して0.1~800質量部の範囲で適宜調整することができる。層状無機化合物の含有量は、好ましくは、水蒸気バリア層のアニオン性バインダー100質量部に対して1~400質量部であり、より好ましくは、1~200質量部であり、さらに好ましくは1~100質量部であり、特に好ましくは1~50質量部であり、最も好ましくは1~20質量部である。層状無機化合物の含有量が、水蒸気バリア層のアニオン性バインダー100質量部に対して0.1質量部以上であると、水蒸気バリア性が発現し易い。また、層状無機化合物の含有量が、水蒸気バリア層のアニオン性バインダー100質量部に対して800質量部以下であると、層状無機化合物の一部が層表面から露出して水蒸気バリア性が低減するといった懸念が低減する。また、ガスバリア層の塗工性が低下して均一なガスバリア層が形成されずにガスバリア性が低下するといった懸念が低減する。
【0045】
(カチオン性樹脂)
本発明者らは、層状無機化合物を含有する水蒸気バリア層にカチオン性樹脂を添加することによって、水蒸気バリア性が大きく向上することを見出した。
【0046】
カチオン性樹脂を添加することによって、水蒸気バリア性が大きく向上する理由については、以下のように考えている。層状無機化合物は、平板状の形態の平面部分がアニオン性、エッジ部分がカチオン性に帯電し易いため、層状無機化合物が相互に立体的に凝集した、いわゆるカードハウス構造をとることが知られている。このカードハウス構造のために、層状無機化合物の水分散液は粘度が非常に高くなる。一方、カードハウス構造は攪拌などにより力を加えると簡単に壊れるため、層状無機化合物の水分散液はチキソトロピー性を示す。
【0047】
ここに、適切なカチオン性樹脂を添加すると、層状無機化合物のアニオン性の平面部分にカチオン性樹脂が吸着することによって、カードハウス構造が破壊される。その結果、層状無機化合物が立体的に凝集することが抑制され、平板状の層状無機化合物が紙支持体平面に対して平行に積層し易くなり、水蒸気バリア性の向上につながるものと推定している。
【0048】
カチオン性樹脂の具体例としては、ポリアルキレンポリアミン、ポリアミド化合物、変性ポリアミド系化合物、ポリアミドアミン-エピハロヒドリン又はホルムアルデヒド縮合反応生成物、ポリアミン-エピハロヒドリン又はホルムアルデヒド縮合反応生成物、ポリアミドポリ尿素-エピハロヒドリン又はホルムアルデヒド縮合反応生成物、ポリアミンポリ尿素-エピハロヒドリン又はホルムアルデヒド縮合反応生成物、ポリアミドアミンポリ尿素-エピハロヒドリン又はホルムアルデヒド縮合反応生成物、ポリアミドポリ尿素化合物、ポリアミンポリ尿素化合物、ポリアミドアミンポリ尿素化合物及びポリアミドアミン化合物、ポリエチレンイミン、ポリビニルピリジン、アミノ変性アクリルアミド系化合物、ポリビニルアミン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリドなどを挙げることができる。
【0049】
カチオン性樹脂は、表面電荷が0.1~10meq/gであることが好ましく、0.1~5.0meq/gであることがより好ましい。カチオン性樹脂の表面電荷が前記範囲内であると、カードハウス構造を破壊することが可能であり、後記するアニオン性バインダーとも適度に共存することができる。なお、カチオン性樹脂の表面電荷は、以下に記載する方法で測定する。
【0050】
試料となる重合体を水に溶解して、重合体濃度1ppmの溶液を得る。その溶液に対し、チャージアナライザーMutek PCD-04型(BTG社製)を用いて、0.001Nポリエチレンスルホン酸ナトリウムを滴下して電荷量を測定する。
【0051】
カチオン性樹脂の含有量は、水蒸気バリア層に使用される層状無機化合物とアニオン性バインダーの種類に応じて適宜選択すればよいが、バリア性を向上させる観点から、層状無機化合物100質量部に対して、1~300質量部が好ましく、1~250質量部がより好ましく、10~150質量部がさらに好ましく、20~150質量部が特に好ましく、20~100質量部が最も好ましい。
【0052】
また、カチオン性樹脂の含有量は、水蒸気バリア層のアニオン性バインダー100質量部に対して0.1~20質量部であることが好ましく、0.1~15質量部であることがより好ましく、1~10質量部がさらに好ましい。
【0053】
(アニオン性バインダー)
本発明者らは、さらに、バインダーがアニオン性を示す方が、水蒸気バリア性がより向上することも見出した。前記したように、層状無機化合物の平面部分はアニオン性であるが、カチオン性樹脂が吸着すると表面がカチオン性になる。そのため、アニオン性であるバインダーとの親和性が高まることとなる。
【0054】
アニオン性のバインダーとしては、カルボン酸基を含む単量体で変性されたバインダーが好ましい。アニオン性バインダーの骨格となるポリマーとしては、スチレン・ブタジエン系共重合体、スチレン・アクリル系共重合体、メタクリレート・ブタジエン系共重合体、アクリルニトリル・ブタジエン系共重合体、オレフィン・不飽和カルボン酸系共重合体、アクリルエステル系重合体などが挙げられる。これらの中では、耐水性が良好で、伸びがよく、折割れによる塗工層の亀裂が生じにくいことから、スチレン・ブタジエン系共重合体、スチレン・アクリル系共重合体およびオレフィン・不飽和カルボン酸系共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0055】
スチレン・ブタジエン系共重合体は、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、p-t-ブチルスチレン、クロロスチレンなどのスチレン系化合物と、1,3-ブタジエン、イソプレン(2-メチル-1,3-ブタジエン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエンなどのブタジエン系化合物、およびこれらと共重合可能なその他の化合物からなる単量体を乳化重合することによって得られる共重合体である。スチレン系化合物としてはスチレン、またブタジエン系化合物としては1,3-ブタジエンが好適である。
【0056】
スチレン・アクリル系共重合体は、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、p-t-ブチルスチレン、クロロスチレンなどのスチレン系化合物と、アクリル酸、メタクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、(メタ)アクリル酸スルホアルキルナトリウム塩(アルキル基の炭素数が2以上3以下)などのアクリル系化合物およびこれらと共重合可能なその他の化合物からなる単量体を乳化重合することによって得られる共重合体である。スチレン系化合物としてはスチレンが好適であり、またアクリル系化合物としてはアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルが好適であり、アクリル酸、アクリル酸エステルがより好適である。(メタ)アクリル酸エステルとしてはアクリル酸アルキルエステルが好ましくは、アルキル基の炭素数は好ましくは1~6である。
【0057】
オレフィン・不飽和カルボン酸系共重合体は、オレフィン、とりわけ、プロピレン等のα-オレフィンまたはエチレンと、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、ブテントリカルボン酸などの不飽和カルボン酸、イタコン酸モノエチルエステル、フマル酸モノブチルエステル及びマレイン酸モノブチルエステルなどの、少なくとも1個のカルボキシ基を有する不飽和ポリカルボン酸アルキルエステルおよびこれらと共重合可能なその他の化合物からなる単量体を乳化重合することによって得られる共重合体である。オレフィンとしては、エチレンまたはα-オレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。また不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸などが好適である。オレフィン・不飽和カルボン酸系共重合体の具体例としては、例えばエチレン・アクリル酸共重合体アンモニウム塩の水性分散液が、ザイクセン(登録商標)AC等(アクリル酸の共重合比率20%、住友精化株式会社製)として市販されており、容易に入手し利用することができる。
【0058】
アニオン性バインダーは、骨格となるポリマーが酸基を有していない場合には、上記の骨格となるポリマーにカルボキシ基等の酸基を含む単量体を共重合して、変性させることにより得ることができる。アニオン性バインダーにおけるカルボキシ基等の酸基を含む単量体の共重合比率は、1~50mol%であることが好ましい。すなわち、アニオン性バインダーは、酸基を有するスチレン・ブタジエン系共重合体、酸基を有するスチレン・アクリル系共重合体およびオレフィン・不飽和カルボン酸系共重合体のうち1種以上であることがより好ましい。
【0059】
アニオン性バインダーの重量平均分子量は、塗工液粘度の観点から、1万~1000万が好ましく、10万~500万がより好ましい。
【0060】
アニオン性バインダーの含有割合は、特に限定されないが、水蒸気バリア層の全固形分中20質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましく、70質量%以上が特に好ましく、80質量%以上が最も好ましい。
【0061】
水蒸気バリア層は、層状無機化合物、カチオン性樹脂およびアニオン性バインダー以外に、必要に応じて適宜、分散剤、界面活性剤、消泡剤、濡れ剤、染料、色合い調整剤、増粘剤などを添加することが可能である。
【0062】
水蒸気バリア層の厚さは、1~30μmであることが好ましく、3~20μmであることがより好ましい。また、水蒸気バリア層の塗工量は、固形分として、1~30g/mであることが好ましく、3~20g/mであることがより好ましい。
【0063】
[ガスバリア層]
ガスバリア層は、主として酸素ガスの透過を阻止する機能を有する層である。ガスバリア層は、紙支持体の一方の面上に形成された層であり、水溶性高分子を含有することが好ましい。
【0064】
(水溶性高分子)
水溶性高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、デンプンおよびその誘導体、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ウレタン系樹脂、ポリアクリル酸およびその塩、カゼイン、ポリエチレンイミン等が挙げられる。
【0065】
これらの中でも、ガスバリア性がより優れていることから、完全ケン化もしくは部分ケン化したポリビニルアルコール、または変性ポリビニルアルコールが好ましい。変性ポリビニルアルコールとしては、エチレン変性ポリビニルアルコール、カルボキシ変性ポリビニルアルコール、珪素変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル変性ポリビニルアルコール、ジアセトン変性ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0066】
水溶性高分子の含有量は、ガスバリア層の全固形分中50~100質量%であることが好ましく、70~100質量%であることがより好ましい。
【0067】
ガスバリア層には、水蒸気バリア層と同様に、前記した層状無機化合物を含有させてもよい。層状無機化合物をガスバリア層に含有させる場合、層状無機化合物の含有量は、特に限定されないが、ガスバリア層の水溶性高分子100質量部に対して、1~20質量部程度が好ましく、5~15質量部がより好ましい。層状無機化合物としては、バリア性を向上させる観点から、マイカ、ベントナイトおよびカオリンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。ガスバリア層に含有させる層状無機化合物は、水蒸気バリア層に含有させる層状無機化合物と同一の種類であってもよいし、異なる種類であってもよい。
【0068】
ガスバリア層は、水溶性高分子と層状無機化合物以外に、必要に応じて適宜、顔料、分散剤、界面活性剤、消泡剤、濡れ剤、染料、色合い調整剤、増粘剤などを添加することが可能である。
【0069】
ガスバリア層の厚さは、0.1~10μmであることが好ましく、0.5~5μmであることがより好ましい。また、ガスバリア層の塗工量は、固形分として、0.1~10g/mであることが好ましく、0.5~5g/mであることがより好ましい。
【0070】
[ガスバリア性積層体]
(製造方法)
ガスバリア性積層体は、紙支持体上に、まず水蒸気バリア層形成用塗工液を塗工して、水蒸気バリア層を形成した後、ガスバリア層形成用塗工液を塗工して、ガスバリア層を形成することにより、製造することができる。各層は、塗工液を逐次塗工および乾燥させて形成してもよく、同時多層塗工した後に乾燥させて形成してもよい。
【0071】
塗工液の溶媒としては、特に制限はなく、水またはエタノール、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトンもしくはトルエンなどの有機溶媒を用いることができる。
【0072】
塗工液を紙支持体に塗工するための塗工設備には、特に限定はなく、公知の設備を用いることができる。塗工設備としては、例えば、ブレードコーター、バーコーター、エアナイフコーター、スリットダイコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、ゲートロールコーターなどが挙げられる。特に水蒸気バリア層の形成には、ブレードコーター、バーコーター、エアナイフコーター、スリットダイコーターなどの塗工表面をスクレイプするコーターが層状無機化合物の配向を促すという点で好ましい。
【0073】
塗工層を乾燥するための乾燥設備には、特に限定はなく、公知の設備を用いることができる。乾燥設備としては、例えば、熱風乾燥機、赤外線乾燥機、ガスバーナー、熱板などが挙げられる。
【0074】
[シーラント層]
ガスバリア性積層体は、紙支持体の少なくとも一方の面上に水蒸気バリア層および必要により紙支持体の一方の面上にガスバリア層を有しているが、さらに、当該ガスバリア性積層体の少なくとも一方の最外層にシーラント層を形成してもよい。すなわち、シーラント層は、水蒸気バリア層およびガスバリア層を形成した側の当該ガスバリア層の上に形成してもよいし、水蒸気バリア層およびガスバリア層を形成していない側の紙支持体の上に形成してもよいし、両方の上に形成してもよい。
【0075】
シーラント層は、加熱や超音波で溶融し接着する層であり、ガスバリア性積層体同士をヒートシール等により相互に結合させることができる層である。
【0076】
シーラント層は、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・酢酸ビニル系重合体、ポリ酢酸ビニル重合体などの合成樹脂を溶融押出ラミ法やドライラミ法によって積層することによって形成することができる。また、シーラント層は、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・酢酸ビニル系重合体、ポリ酢酸ビニル重合体などの合成樹脂の乳化分散液を塗工することによって形成することもできる。
【0077】
シーラント層は、生分解性樹脂を含有することが好ましい。生分解性樹脂の具体例としては、特に限定されず、例えばポリ乳酸(PLA).ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、3-ヒドロキシブタン酸・3-ヒドロキシヘキサン酸共重合体(PHBH)等が挙げられる。
【0078】
シーラント層の厚さは、1~50μmであることが好ましく、3~35μmであることがより好ましい。また、シーラント層の形成量は、固形分として、1~50g/mであることが好ましく、3~35g/mであることがより好ましい。
【0079】
本実施形態のガスバリア性積層体は、水蒸気バリア層に層状無機化合物、カチオン性樹脂およびアニオン性バインダーを含有していることから、水蒸気バリア層中の層状無機化合物がカードハウス構造を形成せず、均一に分散された状態で積層されるため、水蒸気バリア性に優れている。さらに、水蒸気バリア層の表面が平滑に形成されるため、その上のガスバリア層も均一に形成することが可能であり、ガスバリア性に優れている。
【0080】
本実施形態のガスバリア性積層体は、上記の優れた水蒸気バリア性およびガスバリア性を生かして、食品、医療品、電子部品等の包装用材料として好適に用いることができる。また、本実施形態のガスバリア性積層体は、折割れに耐性を有することから、軟包装用材料として好適に用いることができる。
【実施例
【0081】
以下に実施例を挙げて本発明のガスバリア性積層体をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例および比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り、それぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。
【0082】
ガスバリア性積層体の性能として、以下に示す項目を評価した。各項目の評価方法は、下記に示す通りである。
【0083】
<水蒸気透過度>
JIS-Z-0208(カップ法)B法(40℃±0.5℃,90%±2%RH)で、水蒸気バリア層を内側にして測定した。なお、水蒸気透過度の基準としては、50g/m・24h以下であれば、水蒸気バリア層として実用性がある。
【0084】
<酸素透過度>
酸素透過率測定装置(MOCON社製、OX-TRAN2/20)を使用し、23℃,50%RH条件にて測定した。なお、酸素透過度の基準として、10cc/m・24h以下であれば、ガスバリア層として実用性がある。
【0085】
実施例1~3及び比較例1で用いた原材料は、以下のとおりである。
(1)紙支持体
晒クラフト紙:坪量50g/m、厚さ70μm
(2)層状無機化合物
マイカ:膨潤性マイカ、粒子径6.3μm、アスペクト比約1000、厚さ約5nm、固形分6%、製品名:NTO-05、トピー工業社製
カオリン:エンジニアードカオリン、粒子径9.0μm、アスペクト比80~100、厚さ約100nm、固形分100%、製品名:バリサーフHX、イメリスミネラルズ社製
(3)カチオン性樹脂
ポリアミド系樹脂:固形分2.5%、製品名:W4027、星光PMC社製、表面電荷3.3meq/g
(4)アニオン性バインダー
オレフィン・不飽和カルボン酸系樹脂:エチレン・アクリル酸共重合体の水系エマルジョン、固形分29.0%、製品名:ザイクセンAC、住友精化株式会社製
スチレン・アクリル系共重合体:スチレン・アクリル系樹脂の水系エマルジョン、固形分53.8%、製品名:ハービルC-3、第一塗料製造所製
(5)水溶性高分子
エチレン共重合ポリビニルアルコール:製品名:エクセバールAQ4104、クラレ社製
【0086】
(実施例1)
固形分換算で層状無機化合物(エンジニアードカオリン:バリサーフHX)の50%水分散液100部と、アニオン性バインダーとしてスチレン・アクリル系樹脂の水系エマルジョン(ハービルC-3)100部とを、カチオン性樹脂としてポリアミド系樹脂(W4027)の2部に加え、コーレス分散機で混合撹拌した。さらに、希釈水を加え、固形分濃度40%とし、水蒸気バリア層の塗工液とした。
水溶性高分子としてエチレン共重合ポリビニルアルコール(エクセバールAQ4104)の固形分濃度10%水溶液を調製し、ガスバリア層の塗工液とした。
【0087】
得られた水蒸気バリア層の塗工液を、水蒸気バリア層の乾燥後の塗工量が10g/mとなるように、晒クラフト紙の一方の面上にメイヤーバーで塗工した後、熱風乾燥機内で100℃、2分間乾燥し、水蒸気バリア層を形成した。さらに、水蒸気バリア層の上に、ガスバリア層の塗工液をガスバリア層の乾燥後の塗工量が2g/mとなるように、メイヤーバーで塗工した後、熱風乾燥機内で120℃、1分間乾燥し、ガスバリア層を形成し、ガスバリア性積層体を得た。塗工量は、塗工液の固形分濃度とメイヤーバーの番手によって調節した。
【0088】
(実施例2)
固形分換算で層状無機化合物の水分散液(膨潤性マイカ:NTO-05)5部と、アニオン性バインダーとしてエチレン・アクリル酸共重合体の水系エマルジョン(ザイクセンAC)100部とを、カチオン性樹脂としてポリアミド系樹脂(W4027)の1部に加え、コーレス分散機で混合撹拌した。さらに、希釈水を加え、固形分濃度20%とし、十分な量である水を加えた水蒸気バリア層の塗工液とした。
水溶性高分子としてエチレン共重合ポリビニルアルコール(エクセバールAQ4104)の固形分濃度10%水溶液を調製し、ガスバリア層の塗工液とした。
【0089】
得られた水蒸気バリア層の塗工液を、水蒸気バリア層の乾燥後の塗工量が6g/mとなるように、晒クラフト紙の一方の面上にメイヤーバーで塗工した後、熱風乾燥機内で100℃、2分間乾燥し、水蒸気バリア層を形成した。さらに、水蒸気バリア層の上に、ガスバリア層の塗工液をガスバリア層の乾燥後の塗工量が2g/mとなるように、メイヤーバーで塗工した後、熱風乾燥機内で120℃、1分間乾燥し、ガスバリア層を形成し、ガスバリア性積層体を得た。塗工量は、塗工液の固形分濃度とメイヤーバーの番手によって調節した。
【0090】
(実施例3)
固形分換算で層状無機化合物(エンジニアードカオリン:バリサーフHX)の50%水分散液100部と、アニオン性バインダーとしてエチレン・アクリル酸共重合体の水系エマルジョン(ザイクセンAC)100部とを、カチオン性樹脂としてポリアミド系樹脂(W4027)の1部に加え、コーレス分散機で混合撹拌した。さらに、希釈水を加え、固形分濃度40%とし、水蒸気バリア層の塗工液とした。
水溶性高分子としてエチレン共重合ポリビニルアルコール(エクセバールAQ4104)の固形分濃度10%水溶液を調製し、ガスバリア層の塗工液とした。
【0091】
得られた水蒸気バリア層の塗工液を、水蒸気バリア層の乾燥後の塗工量が10g/mとなるように、晒クラフト紙の一方の面上にメイヤーバーで塗工した後、熱風乾燥機内で100℃、2分間乾燥し、水蒸気バリア層を形成した。さらに、水蒸気バリア層の上に、ガスバリア層の塗工液をガスバリア層の乾燥後の塗工量が2g/mとなるように、メイヤーバーで塗工した後、熱風乾燥機内で120℃、1分間乾燥し、ガスバリア層を形成し、ガスバリア性積層体を得た。塗工量は、塗工液の固形分濃度とメイヤーバーの番手によって調節した。
【0092】
(比較例1)
比較例1として、水蒸気バリア層の層状無機化合物としてカオリンを用いた市販の従来タイプのガスバリア紙を用いた。
【0093】
得られたガスバリア性積層体(実施例1~3、比較例1)について、水蒸気バリア性(水蒸気透過度)、ガスバリア性(酸素透過度)を評価した。評価結果を表1に示した。
【0094】
【表1】
【0095】
得られたガスバリア性積層体(実施例1~3、比較例1)について、以下に記載する方法で、水蒸気バリア層における層状無機化合物の分散状態についての評価を行った。
【0096】
(SEM写真の撮影)
ガスバリア性積層体のサンプルをエポキシ樹脂に包埋して、エポキシ樹脂を硬化させた。ミクロトームを用いて、エポキシ樹脂に包埋されたガスバリア性積層体を、積層体表面と直角方向にスライスして、ガスバリア性積層体の断面を露出させた薄片を得た。走査型電子顕微鏡(SEM、日立製作所製、S-3600)を用いて、当該薄片を観察し、ガスバリア性積層体の拡大断面写真(2000倍)を撮影した。
【0097】
(画像解析)
ガスバリア性積層体の拡大断面写真の水蒸気バリア層の断面部分から、ランダムに5箇所の5μm四方の画像を得た。当該各画像について、画像解析ソフト(アイ・スペック社製、IOMate2007)を用いて、画像の全面積を12万個の微小領域に均等に分割して、すべての微小領域の輝度を測定した。それらの中で、最大の輝度を示した微小領域の輝度を最大輝度とし、最小の輝度を示した微小領域の輝度を最小輝度とした。下記式(1)に基づいて、各画像について閾値を算出した。
閾値=(最大輝度-最小輝度)×0.4+最小輝度 ・・・ (1)
【0098】
(均一分散率)
前記個々の画像に対して、各画像毎に得られた閾値を用いて、当該閾値よりも輝度が大きい領域を白色、当該閾値よりも輝度が小さい領域を黒色として、二値化処理(モノクロ化処理)を施した。
二値化処理後の各画像において、下記式(2)に基づいて、層状無機化合物の均一分散率(%)を算出した。
均一分散率(%)=(黒色部の面積/画像の全面積)×100 ・・・ (2)
各ガスバリア性積層体の均一分散率の数値は、各ガスバリア性積層体毎に、5箇所の画像から得られた均一分散率の数値の平均値として求めた。
【0099】
(標準偏差)
各ガスバリア性積層体の水蒸気バリア層の断面部分から得られた5箇所の各画像について、画像解析ソフト(アイ・スペック社製、IOMate2007)を用いて、画像の全面積を12万個の微小領域に均等に分割して、すべての微小領域の輝度を測定した。各画像毎に得られた12万個の微小領域の輝度のデータについて、輝度の標準偏差を算出した。
各ガスバリア性積層体の輝度の標準偏差は、各ガスバリア性積層体毎に、5箇所の画像から得られた輝度の標準偏差の平均値として求めた。
実施例1~3および比較例1の均一分散率、標準偏差の評価結果を表2に示した。
【0100】
【表2】
【0101】
図1において、層状無機化合物としてエンジニアードカオリンを用いた実施例1および実施例3のガスバリア性積層体(a)および(c)に比べて、層状無機化合物として膨潤性マイカを用いた実施例2のガスバリア性積層体(b)の方が、上側に存在する帯状の水蒸気バリア層Aの均一分散性に優れていることが分かる。比較例1のガスバリア性積層体(d)は、水蒸気バリア層Aに空隙が多数存在し、層状無機化合物の均一分散性において劣っていることが分かる。
【0102】
表2において、実施例1のガスバリア性積層体および実施例2のガスバリア性積層体はいずれも、均一分散率(平均値)が30%以上の値であり、標準偏差(平均値)は10以下の値であり、層状無機化合物の均一分散性において優れていることが分かる。両者間の比較では、標準偏差の数値および図2(b)の画像の均一性から、膨潤性マイカを用いた実施例2のガスバリア性積層体の方が層状無機化合物の均一分散性において優れていた。
実施例3は、均一分散率(平均値)が20%以下であり、標準偏差(平均値)が20以上であり、また図2(c)の画像の均一性においても、実施例1および実施例2に比べて層状無機化合物の均一分散性においてやや劣るものの、水蒸気バリア性および酸素バリア性において実用上問題ないものであった。
比較例1は、均一分散率が小さな値であり、また図2(d)の画像の均一性も良好ではなく、層状無機化合物の均一分散性において劣っていた。
【0103】
以上の評価結果から、優れた水蒸気バリア性および酸素バリア性を発揮するためには、水蒸気バリア層断面における層状無機化合物の均一分散率は15%以上が好ましいことが判明した。また、優れた水蒸気バリア性および酸素バリア性を発揮するためには、水蒸気バリア層断面における層状無機化合物の輝度の標準偏差は、25以下が好ましいことが判明した。
図1
図2