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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】高圧タンク
(51)【国際特許分類】
   F17C 1/06 20060101AFI20230829BHJP
   F16J 12/00 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
F17C1/06
F16J12/00 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020117511
(22)【出願日】2020-07-08
(65)【公開番号】P2022014965
(43)【公開日】2022-01-21
【審査請求日】2022-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片野 剛司
【審査官】永田 勝也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-089768(JP,A)
【文献】特開2017-110669(JP,A)
【文献】特開2019-183935(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0158286(US,A1)
【文献】特開2018-135918(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0144866(US,A1)
【文献】特開2018-179084(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 1/06
F16J 12/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧タンクであって、
ガスバリア性を有する樹脂製のライナと、
前記ライナの周囲に配置された繊維強化樹脂製の補強層と、
前記ライナの一端に設けられ、フランジ部を有する口金と、
を備え、
前記補強層は、前記フランジ部の底面のうち前記フランジ部の外端を含む少なくとも一部と、前記ライナとの間に配置された繊維強化樹脂製の第1補強層を含む、高圧タンク。
【請求項2】
請求項1に記載の高圧タンクであって、
前記補強層は、更に、前記フランジ部の上面に配置された繊維強化樹脂製の第2補強層を含む、高圧タンク。
【請求項3】
請求項2に記載の高圧タンクであって、
前記補強層は、補強パイプ部と、前記補強パイプ部の両端の開口にそれぞれ接合された一対の補強ドーム部とを含み、
前記一対の補強ドーム部のそれぞれは、前記第1補強層と前記第2補強層を含み、
前記補強層は、更に、前記補強パイプ部と前記一対の補強ドーム部を含む接合体の外面に設けられた繊維強化樹脂製の外ヘリカル層を含む、高圧タンク。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の高圧タンクであって、
前記第1補強層は、前記フランジ部の前記底面の全体に接するように配置されている、高圧タンク。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の高圧タンクであって、
前記口金は、第1開口部を有し、
前記ライナは、前記口金に接合されているライナ部分において前記第1開口部よりも径が小さい第2開口部を有し、
前記第1開口部と前記第2開口部とは、前記高圧タンクの内部と外部を連通する流路の一部を構成する、高圧タンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高圧タンクに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、樹脂製のライナと、CFRP製の補強層と、金属製の口金とを有する高圧タンクの構造が記載されている。この従来技術では、補強層は口金のフランジ部の外側に配置されている。口金のフランジ部の外端は、ライナと補強層の2つの層に接している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-140830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来技術の構造では、高圧タンクが高温になったり内圧が上昇したりした場合に、口金のフランジ部の外端に接するライナ部分が変形して、ライナが破損してしまう可能性があるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本開示の一形態によれば、高圧タンクが提供される。この高圧タンクは、ガスバリア性を有する樹脂製のライナと、前記ライナの周囲に配置された繊維強化樹脂製の補強層と、前記ライナの一端に設けられ、フランジ部を有する口金と、を備え、前記補強層は、前記フランジ部の底面のうち前記フランジ部の外端を含む少なくとも一部と、前記ライナとの間に配置された繊維強化樹脂製の第1補強層を含む。
この高圧タンクによれば、フランジ部の外端を含む少なくとも一部の底面とライナとの間に繊維強化樹脂製の第1補強層が配置されているので、口金のフランジ部の外端によってライナが破損してしまう可能性を低減できる。
(2)上記高圧タンクにおいて、前記補強層は、更に、前記フランジ部の上面に配置された繊維強化樹脂製の第2補強層を含むものとしてもよい。
この高圧タンクによれば、第1補強層の厚みを過度に大きくすることなく、十分な補強を行うことができる。
(3)上記高圧タンクにおいて、前記補強層は、補強パイプ部と、前記補強パイプ部の両端の開口にそれぞれ接合された一対の補強ドーム部とを含み、前記一対の補強ドーム部のそれぞれは、前記第1補強層と前記第2補強層を含み、前記補強層は、更に、前記補強パイプ部と前記一対の補強ドーム部を含む接合体の外面に設けられた繊維強化樹脂製の外ヘリカル層を含むものとしてもよい。
この高圧タンクによれば、第1補強層と第2補強層と外ヘリカル層とを有する高圧タンクを容易に製造できる。
(4)上記高圧タンクにおいて、前記第1補強層は、前記フランジ部の前記底面の全体に接するように配置されているものとしてもよい。
この高圧タンクによれば、口金のフランジ部の外端によってライナが破損してしまう可能性を更に低減できる。
(5)上記高圧タンクにおいて、前記口金は、第1開口部を有し、前記ライナは、前記口金に接合されているライナ部分において前記第1開口部よりも径が小さい第2開口部を有し、前記第1開口部と前記第2開口部とは、前記高圧タンクの内部と外部を連通する流路の一部を構成するものとしてもよい。
この高圧タンクによれば、ライナと口金との接合を強固にできる。
【0007】
なお、本開示は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、高圧タンクの製造方法等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態における高圧タンクの構成を示す断面図。
図2】高圧タンクの一端を拡大して示す断面図。
図3】比較例においてライナが変形する様子を示す説明図。
図4】高圧タンクの製造方法を示すフローチャート。
図5】補強パイプ部の形成方法の一例を示す説明図。
図6】補強ドーム部の形成方法の一例を示す説明図。
図7】外ヘリカル層の形成方法を示す説明図。
図8】第2実施形態における高圧タンクの構成を示す断面図。
図9】第3実施形態における高圧タンクの構成を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A.第1実施形態:
図1は、第1実施形態における高圧タンク100の構成を示す断面図であり、図2はその一部を拡大して示す図である。高圧タンク100は、水素ガス等の気体を貯蔵する貯蔵容器であり、例えば、車両用の燃料電池や、定置用の燃料電池に供給する水素を貯蔵するために使用される。高圧タンクとは、一般に、20℃においてゲージ圧で200kPa以上の圧力で気体を貯蔵するタンクである。燃料電池用の高圧タンクは、典型的には20℃においてゲージ圧で30MPa以上の圧力で水素を貯蔵するものが使用される。
【0010】
高圧タンク100は、ガスバリア性を有する樹脂製のライナ20と、ライナ20の周囲に配置された補強層30と、高圧タンク100の両端部に設置された2つの口金80,90と、を備えている。第1の口金80は、ライナ20内の空間と外部空間とを連通する連通孔81と、フランジ部82とを有する。連通孔81には、バルブを含む接続装置が設置される。フランジ部82は、口金80の底部において略円盤状に広がる部分である。図2に示すように、フランジ部82は、上面82uと底面82bとを有する。フランジ部82の上面82uは、フランジ部82の両面のうちで高圧タンク100の中心から遠い方の面を意味し、フランジ部82の底面82bは高圧タンク100の中心に近い方の面を意味する。本実施形態では、フランジ部82の底面82bは、口金80全体の底面を構成している。第2の口金90は、外部空間に連通する連通孔を有していないが、連通孔を有するものとしてもよい。また、第2の口金90は省略してもよい。
【0011】
ライナ20は、気体の外部への透過を抑制するガスバリア性を有する樹脂で構成されている。ライナ20を形成する樹脂としては、例えば、ポリアミド、ポリエチレン、及びエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)、ポリエステル等の熱可塑性樹脂や、エポキシ等の熱硬化性樹脂を用いることができる。
【0012】
補強層30は、ライナ20を補強する繊維強化樹脂層であり、補強ドーム部50と補強パイプ部60とを含む接合体40と、外ヘリカル層70とを有する。補強層30を「補強体」とも呼ぶことも可能である。接合体40は、補強パイプ部60と、その両端にそれぞれ配置された補強ドーム部50とを含む。本実施形態において、接合体40は、更に、補強ドーム部50に接合された口金80,90を含んでいる。
【0013】
補強ドーム部50は、第1ドーム部51と第2ドーム部52とを有する。第1ドーム部51と第2ドーム部52は、いずれもドーム状の形状を有している。より具体的には、第1ドーム部51は、その一端から他端の開口端に向けて外径が次第に増大する形状を有する。ここで、「開口端」とは、高圧タンク100の軸方向に沿った第1ドーム部51の両端のうち、高圧タンク100の中心により近い方の端である。開口端と反対側の第1ドーム部51の端は、口金80に接している。図1に示す例では、第1ドーム部51は、中空の略球体の一部を切断して得られる形状を有しているが、これ以外の種々の形状を採用可能である。第2ドーム部52も同様である。フランジ部82に隣接する第1ドーム部51の一部は、フランジ部82の底面82bとライナ20との間に配置されている。図2に示すように、本実施形態では、第1ドーム部51は、フランジ部82の底面82bの全体に接するように配置されている。但し、第1ドーム部51は、フランジ部82の底面82bのうち、フランジ部82の外端を含む一部の底面部分のみに接するように配置されていてもよい。フランジ部82に隣接する第2ドーム部52の一部は、フランジ部82の上面82uに接するように配置されている。また、第1ドーム部51と第2ドーム部52は、フランジ部82の外端よりも外側の部分において互いに接合されている。第1ドーム部51は本開示の「第1補強層」に相当し、第2ドーム部52は「第2補強層」に相当する。補強ドーム部50の形成方法については後述する。
【0014】
補強パイプ部60は、直管状の形状を有する。補強パイプ部60の形成方法については後述する。補強パイプ部60の両端の開口には、補強ドーム部50がそれぞれ接合されている。本実施形態では、補強ドーム部50の開口端が補強パイプ部60の外側に位置するように補強ドーム部50が配置されている。但し、補強ドーム部50の開口端が補強パイプ部60の内側に位置するように補強ドーム部50が配置されていてもよい。
【0015】
外ヘリカル層70は、補強ドーム部50と補強パイプ部60を含む接合体40の外面に樹脂含浸繊維をヘリカル巻きすることによって形成された層である。外ヘリカル層70の主な機能は、高圧タンク100の内圧が高くなったときに補強ドーム部50が補強パイプ部60から外れてしまうことを防止することにある。図1では、図示の便宜上、外ヘリカル層70とライナ20のハッチングを省略している。
【0016】
補強層30を形成する樹脂としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、及びエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることができ、特に、機械的強度等の観点からエポキシ樹脂を用いることが好ましい。補強層30を形成する繊維としては、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、及び炭素繊維等を用いることができ、特に、軽量性や機械的強度等の観点から炭素繊維を用いることが好ましい。
【0017】
図2に示すように、ライナ20は、補強ドーム部50の内面、すなわち第1ドーム部51の内面に接するように配置されており、更に、口金80の底部において連通孔81の内面81sに接合されている。ライナ20が口金80に接合されることによって、ライナ20の内部が気密に保たれる。ライナ20の口金80との接合部において、ライナ20の開口部は内径D20を有する。一方、口金80の連通孔81はその出口付近において内径D81を有する。本実施形態では、ライナ20の内径D20が、口金80の連通孔81の出口付近の内径D81よりも小さく設定されている。こうすれば、バルブを含む接続装置を連通孔81に容易に接続することができ、また、ライナ20と口金80の接合を強固にすることができる。内径D81を有する口金80の開口部は、本開示の「第1開口部」に相当し、内径D20を有するライナ20の開口部は、本開示の「第2開口部」に相当する。これらの第1開口部と第2開口部は、高圧タンク100の内部と外部を連通する流路の一部を構成している。
【0018】
図3は、比較例においてライナ20が変形する様子を示す説明図である。図3の左側に示す比較例の構成は、図2に示した第1実施形態の構成から第1ドーム部51を省略した構成を有しており、口金80のフランジ部82の外端は、ライナ20とドーム部52の2つの層に接している。この比較例において、例えば高圧タンク100の温度が上昇して口金80が膨張したりタンク内圧が上昇したりすると、図3の右側に示すように、口金80の外端に接するライナ20の部分が変形してキンクKKが発生し、ライナ20が破損してしまう可能性がある。このような不具合が発生する理由は、ライナ20とドーム部52と口金80の3つの部品の膨張率や伸び率が互いに異なるためである。
【0019】
一方、図2に示した第1実施形態の構成では、フランジ部82の底面82bとライナ20との間に第1ドーム部51が配置されているので、口金80のフランジ部82の外端によってライナ20が破損してしまう可能性を低減できる。なお、フランジ部82の底面82bとライナ20との間に配置される補強層として、第1ドーム部51よりも小さな補強層を用いてもよい。例えば、第2ドーム部52のみで補強ドーム部50を構成し、第1ドーム部51の代わりに、フランジ部82の底面82bとライナ20との間のみに配置される小さな補強層を用いてもよい。但し、本実施形態のように、第1ドーム部51の一部をフランジ部82の底面82bとライナ20との間に配置するようにすれば、高圧タンク100をより容易に製造できる。
【0020】
本実施形態では、更に、第1ドーム部51が、フランジ部82の底面82bの全体に接するように配置されているので、口金80のフランジ部82の外端によってライナが破損してしまう可能性を更に低減できる。但し、第1ドーム部51が、フランジ部82の底面82bの一部のみに接するように配置されていてもよい。本実施形態では、更に、補強ドーム部50が、フランジ部82の上面82uに配置された第2ドーム部52を含むので、第1ドーム部51の厚みを過度に大きくすることなく、十分な補強を行うことができる。
【0021】
図4は、高圧タンク100の製造方法を示すフローチャートである。以下の各ステップで使用される方法の例については後述する。ステップS10では、補強パイプ部60を形成する。ステップS20では、補強ドーム部50を形成する。ステップS30では、補強ドーム部50に口金80又は90を接合する。ステップS40では、2つの補強ドーム部50を補強パイプ部60の両端部に接合して接合体40を形成する。ステップS50では、接合体40の外面に外ヘリカル層70を形成する。ステップS60では、補強層30の未硬化の樹脂を硬化する。ステップS70では、補強層30の内面にライナ20を形成する。
【0022】
図5は、図4のステップS10における補強パイプ部60の形成方法の一例を示す説明図である。補強パイプ部60は、フィラメントワインディング法を用いて、略円筒状のマンドレル66に繊維束FBを巻き付けることによって形成することができる。フィラメントワインディング法では、マンドレル66を回転させながら、繊維束ガイド210を移動させることによってマンドレル66に繊維束FBを巻き付ける。図5の例では、フープ巻きによって繊維束FBを巻き付けているが、ヘリカル巻きを用いてもよい。フィラメントワインディング(FW)法としては、以下に説明するウェットFWとドライFWのいずれかを利用可能である。
【0023】
一般に、繊維強化樹脂製の物体を形成する典型的な方法としては、以下のような方法が存在する。
<ウェットFW>
ウェットFWは、繊維束FBを巻き付ける直前に、低粘度化した液状の樹脂を繊維束FBに含浸させ、その樹脂含浸繊維束をマンドレルに巻き付ける方法である。
<ドライFW>
ドライFWは、線維束に予め樹脂を含浸させて乾燥させたトウプリプレグを準備し、トウプリプレグをマンドレルに巻き付ける方法である。
<RTM(Resin Transfer Molding)成形>
RTM成形は、雌雄一対の成形型内に繊維を設置し、型を閉締した後、樹脂注入口より樹脂を注入して繊維に含浸させて成形する方法である。
<CW(Centrifugal Winding)>
CWは、回転する円筒形の型の内面に繊維シートを貼り付けることによって筒状の部材を形成する方法である。繊維シートとしては、予め樹脂が含浸された繊維シートを用いてもよく、樹脂が含浸されていない繊維シートを用いてもよい。後者の場合には、繊維シートを筒状に巻いた後に、型内に樹脂を流し込んで繊維シートに樹脂を含浸させる。
【0024】
上述した図5の例では、フィラメントワインディング法を使用して補強パイプ部60を形成しているが、RTM成形等の他の方法を用いて補強パイプ部60を形成してもよい。補強パイプ部60の樹脂の硬化は、ステップS10において実行してもよく、あるいは、ステップS60において実行してもよい。
【0025】
ステップS10で補強パイプ部60の樹脂の硬化を行う場合には、樹脂の粘度がそれらの目標値以上で安定した状態となるまで完全に硬化を行う本硬化を行ってもよいが、本硬化に至らない予備硬化を行ってもよい。一般に、未硬化の熱硬化型樹脂は、加熱すると最初は粘度が低下し、その後も加熱を続けると粘度が上昇してゆき、加熱を十分な時間継続すると樹脂の粘度がその目標値以上で安定した状態となる。このような経過を前提としたとき、粘度の低下後に粘度が再上昇して当初の粘度に到達した時点以降も硬化を継続し、本硬化の終点に至る前のいずれかの時点で硬化を終了する処理を「予備硬化」と呼ぶ。ステップS10において予備硬化を実行し、後述するステップS60において本硬化を実行するようにすれば、補強パイプ部60を、補強ドーム部50及び外ヘリカル層70に対してより強固に接合することができる。
【0026】
図6は、図4のステップS20における第1ドーム部51の形成方法の一例を示す説明図である。第1ドーム部51は、フィラメントワインディング法を用いて、マンドレル56に繊維束FBを巻き付けることによって形成することができる。マンドレル56は、第1ドーム部51を2つ合わせた外形を有するものとすることが好ましい。このフィラメントワインディング法では、マンドレル56を回転させながら、繊維束ガイド210を移動させることによってマンドレル56に繊維束FBを巻き付ける。図6の例では、ヘリカル巻きによって繊維束FBを巻き付けている。フィラメントワインディング法としては、上述したウェットFWとドライFWのいずれも利用可能である。繊維束FBの巻き付けが終了した後に、切断線CLに沿って切断することにより、2つの第1ドーム部51を得ることができる。なお、RTM成形等の他の方法を用いて第1ドーム部51を形成してもよい。第2ドーム部52も、第1ドーム部51とほぼ同様の方法で形成できる。なお、第1ドーム部51と第2ドーム部52の樹脂の硬化は、ステップS20において実行してもよく、あるいは、ステップS60において実行してもよい。
【0027】
図4のステップS30では、補強ドーム部50を構成する第1ドーム部51及び第2ドーム部52と、口金80又は90とが接合される。ステップS40では、ステップS30で形成された接合体に、更に、補強パイプ部60を接合することによって図1に示した接合体40が形成される。ステップS30とステップS40における接合は、例えば接着剤や粘着剤を用いて行うことができる。
【0028】
図7は、図4のステップS50における外ヘリカル層70の形成方法を示す説明図である。外ヘリカル層70は、フィラメントワインディング法を用いて、接合体40の外面に繊維束FBを巻き付けることによって形成することができる。このフィラメントワインディング法では、中心軸AXを中心として接合体40を回転させながら、繊維束ガイド210を移動させることによって接合体40に繊維束FBを巻き付ける。フィラメントワインディング法としては、ウェットFWとドライFWのいずれも利用可能である。前述したように、外ヘリカル層70の主な機能は、高圧タンク100の内圧が高くなったときに補強ドーム部50が補強パイプ部60から外れてしまうことを防止することにある。この機能を達成するため、繊維束FBの巻き付け角度αは、45度以下とすることが好ましい。巻き付け角度αは、接合体40の中心軸AXに対する繊維束FBの角度である。
【0029】
図4のステップS60では、補強層30の未硬化の樹脂を硬化させる。この硬化は図5に即して説明した本硬化である。ステップS70では、硬化後の補強層30の内面に、ライナ20を形成する。ステップS70におけるライナの形成は、例えば、口金付きの補強層30の内部に液状のライナ材料を入れて、補強層30を回転させながらライナ材料を硬化させることによって行うことができる。こうして、ライナ20の形成が終了すると、図1に示した高圧タンク100が完成する。
【0030】
なお、ライナ20は、図4のステップS70以外の工程で形成してもよい。例えば、補強ドーム部50及び補強パイプ部60とは別個にライナ20を形成し、その後、前述したステップS30においてライナ20と2つの補強ドーム部50と口金80,90とを接合してもよい。このようなライナ20の形成は、例えば、射出成形によって行うことが可能である。この際、ライナ20の全体を略中央で2分割した分割体を別個に射出成形し、射出成形型から取り出した後に2つの分割体を接合することによって、ライナ20を形成してもよい。
【0031】
以上のように、本実施形態では、第1補強層としての第1ドーム部51が、フランジ部82の底面82bとライナ20との間に配置されている。この結果、フランジ部82の底面82bとライナ20との間に補強層が配置されていない場合に比べて、口金80のフランジ部82の外端によってライナ20が破損してしまう可能性を低減できる。
【0032】
B.他の実施形態:
図8は、第2実施形態における高圧タンク100aの構成を示す断面図である。この高圧タンク100aは、口金80aと第1ドーム部51aの形状が図1に示した第1実施形態と異なるだけであり、他の構成は第1実施形態とほぼ同じである。
【0033】
口金80aは、フランジ部82の底面82bの内側にある底面83が、フランジ部82の底面82bよりも高圧タンク100aの中心に近い方向に突出している。また、第1ドーム部51aは、フランジ部82の底面82bの全体に接しているが、フランジ部82の底面82bには接していない。この第2実施形態の構成も、第1実施形態とほぼ同様の効果を奏する。
【0034】
図9は、第3実施形態における高圧タンク100bの構成を示す断面図である。この高圧タンク100bは、第2ドーム部52が省略されている点、及び、第1ドーム部51bの形状が第1実施形態と異なるだけであり、他の構成は第1実施形態とほぼ同じである。第3実施形態では第2ドーム部52が省略されているので、十分な補強強度を確保するために、第1ドーム部51bの厚みが第1実施形態の第1ドーム部51の厚みよりも大きく設定されている。この第3実施形態の構成も、第1実施形態とほぼ同様の効果を奏する。
【0035】
本開示は、上述の実施形態や実施形態、変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、開示の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施形態、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部または全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えや組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0036】
20…ライナ、30…補強層、40…接合体、50…補強ドーム部、51,51a,51b…第1ドーム部、52…第2ドーム部、56…マンドレル、60…補強パイプ部、66…マンドレル、70…外ヘリカル層、80,90…口金、81…連通孔、81s…連通孔の内面、82…フランジ部、82b…フランジ部の底面、82u…フランジ部の上面、83…口金の底面、100,100a,100b…高圧タンク、210…繊維束ガイド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9