(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】異常判定装置
(51)【国際特許分類】
G01M 17/007 20060101AFI20230829BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
G01M17/007 J
G01H17/00 Z
(21)【出願番号】P 2020135299
(22)【出願日】2020-08-07
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】樗澤 英明
(72)【発明者】
【氏名】吉川 徹哉
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 恵
(72)【発明者】
【氏名】山口 賢一
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-219955(JP,A)
【文献】特表2012-522985(JP,A)
【文献】特開平08-219865(JP,A)
【文献】特開2000-283891(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0143447(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/00 - 17/10
G01M 13/00 - 13/045
G01M 99/00
G01H 1/00 - 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトの回転によって動力を伝達する変速装置を備えた車両に適用され、
実行装置と、記憶装置と、を備え、
前記記憶装置には、機械学習によって学習済みの写像を規定するデータである写像データが記憶されており、
前記写像は、前記シャフトの回転速度の時系列データを示す変数が入力変数として入力されると、前記シャフトの状態を示す変数である
複数の状態変数を出力変数として出力するものであり、
複数の前記状態変数には、前記シャフトが正常な状態であることを示す変数、前記シャフトが発散振動している状態であることを示す変数、前記シャフトがねじり振動している状態であることを示す変数、及び前記シャフトが曲げ振動している状態であることを示す変数、の4つの状態変数が含まれ、
前記実行装置は、
前記時系列データを示す変数を取得して前記入力変数の値とする取得処理と、
前記入力変数の値を前記写像に入力することによって該写像が
前記出力変数として出力する
前記4つの状態変数の値を基に、前記変速装置に異常が発生しているか否かを判定する判定処理と、を実行する
異常判定装置。
【請求項2】
前記実行装置は、前記時系列データを加工した特徴量を算出する特徴量算出処理を実行し、
前記取得処理は、前記特徴量を取得して前記入力変数の値とするものであり、
前記特徴量算出処理では、前記時系列データを構成する前記回転速度の値を該回転速度の大きさで階級分けして、各階級における度数を前記特徴量として算出する
請求項1に記載の異常判定装置。
【請求項3】
前記特徴量算出処理は、前記回転速度の最大値が「1」となり前記回転速度の最小値が「0」となるように前記時系列データを正規化する処理を含む
請求項2に記載の異常判定装置。
【請求項4】
前記特徴量は、時間特徴量であり、
前記特徴量算出処理は、前記時間特徴量を算出する度数分析処理であり、
前記実行装置は、前記時系列データを高速フーリエ変換して得られる周波数成分の分布を周波数特徴量として算出する周波数分析処理を実行し、
前記取得処理は、前記時系列データを加工した前記時間特徴量および前記周波数特徴量を取得して前記入力変数の値とする
請求項2または請求項3に記載の異常判定装置。
【請求項5】
前記実行装置は、前記時系列データを加工した周波数特徴量を算出する周波数分析処理を実行し、
前記取得処理は、前記周波数特徴量を取得して前記入力変数の値とするものであり、
前記周波数分析処理では、前記時系列データを高速フーリエ変換して得られる周波数成分の分布を前記周波数特徴量として算出する
請求項1に記載の異常判定装置。
【請求項6】
前記周波数分析処理は、前記時系列データにおける前記回転速度の平均値に基づいて1次周波数を算出し、該1次周波数を基準として前記周波数成分を正規化する処理を含む
請求項4または請求項5に記載の異常判定装置。
【請求項7】
前記時系列データは、前記シャフトの回転速度を検出する回転速度センサの検出信号に基づいて算出される
請求項1~6のいずれか一項に記載の異常判定装置。
【請求項8】
前記入力変数には、前記変速装置内の作動油の温度を示す変数が含まれる
請求項1~7のいずれか一項に記載の異常判定装置。
【請求項9】
前記入力変数には、前記シャフトが伝達するトルクの大きさを示す変数が含まれる
請求項1~8のいずれか一項に記載の異常判定装置。
【請求項10】
前記入力変数には、前記シャフトの諸元に基づいた当該シャフトの寸法を示す変数が含まれる
請求項1~9のいずれか一項に記載の異常判定装置。
【請求項11】
前記入力変数には、前記シャフトのアンバランス量を示す変数が含まれる
請求項1~10のいずれか一項に記載の異常判定装置。
【請求項12】
前記入力変数には、前記シャフトと該シャフトの軸受とのはめあい公差を示す変数が含まれる
請求項1~11のいずれか一項に記載の異常判定装置。
【請求項13】
前記入力変数には、前記シャフトと該シャフトの軸受との同軸度を示す変数が含まれる
請求項1~12のいずれか一項に記載の異常判定装置。
【請求項14】
前記入力変数には、振動を検出する振動センサによる検出値を示す変数が含まれる
請求項1~13のいずれか一項に記載の異常判定装置。
【請求項15】
前記入力変数には、音を検出する音センサによる検出値を示す変数が含まれる
請求項1~14のいずれか一項に記載の異常判定装置。
【請求項16】
前記入力変数には、車両の制動装置における液圧を示す変数が含まれる
請求項1~15のいずれか一項に記載の異常判定装置。
【請求項17】
前記入力変数には、車両の走行距離を示す変数が含まれる
請求項1~16のいずれか一項に記載の異常判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャフトの回転によって動力を伝達する変速装置に異常が発生しているか否かを判定する異常判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、検出値が正常域および異常域のいずれにあるかに基づいて異常を検知する検知装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
異常判定装置としては、異常が発生しているか否かだけではなく、その異常を引き起こしている現象を把握したいという要望がある。たとえば、検査の対象物が異常によって振動する場合には、振動モードが異なれば検査の対象物の状態も異なることが推測される。すなわち、振動モードを特定することができれば検査の対象物の状態を判定することができ、現象の実態を把握する一助になる。特許文献1に開示されている検知装置のように判定を行う場合には異常が発生しているか否かを検知することはできるが、検査の対象物の状態を判定することはできない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するための手段およびその作用効果について記載する。
1.シャフトの回転によって動力を伝達する変速装置を備えた車両に適用され、実行装置と、記憶装置と、を備え、前記記憶装置には、機械学習によって学習済みの写像を規定するデータである写像データが記憶されており、前記写像は、前記シャフトの回転速度の時系列データを示す変数が入力変数として入力されると、前記シャフトの状態を示す変数である複数の状態変数を出力変数として出力するものであり、複数の前記状態変数には、前記シャフトが正常な状態であることを示す変数、前記シャフトが発散振動している状態であることを示す変数、前記シャフトがねじり振動している状態であることを示す変数、及び前記シャフトが曲げ振動している状態であることを示す変数、の4つの状態変数が含まれ、前記実行装置は、前記時系列データを示す変数を取得して前記入力変数の値とする取得処理と、前記入力変数の値を前記写像に入力することによって該写像が前記出力変数として出力する前記4つの状態変数の値を基に、前記変速装置に異常が発生しているか否かを判定する判定処理と、を実行する異常判定装置である。
【0006】
変速装置において異常が発生して、動力を伝達するシャフトが振動することがある。シャフトが振動している場合には、シャフトの回転速度の時系列データは、シャフトが振動していない場合の時系列データとは異なる特徴を示すと推測できる。また、時系列データが示す特徴は、シャフトの振動モードに応じて異なると推測できる。
【0007】
上記構成によれば、シャフトの回転速度の時系列データを示す変数が写像に入力されることによって、シャフトの状態を示す変数である状態変数が出力される。これによって、シャフトの回転速度の時系列データを示す変数に基づいて、シャフトの状態を判定することができる。すなわち、シャフトの回転速度の時系列データに基づいて、シャフトの回転速度の大きさのみからは捉えられない特徴を抽出して、シャフトの状態を判定することができ、変速装置に異常が発生しているか否かを判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】一実施形態にかかる車両および制御装置の構成を示す図。
【
図2】同実施形態にかかる制御装置が実行する処理の手順を示す流れ図。
【
図3】(a)および(b)は、同実施形態にかかるシャフトの回転速度の時系列データを示す図。
【
図4】(a)および(b)は、同実施形態にかかるシャフトの回転速度の時系列データを加工した特徴量を示す図。
【
図6】ねじり振動している状態のシャフトの回転速度の時系列データを示す図。
【
図7】変更例の制御装置が実行する処理によって、ねじり振動している状態のシャフトの回転速度の時系列データを加工した特徴量を示す図。
【
図8】他の変更例にかかるシステムの構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、異常判定装置の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1に示すように、車両VCは、内燃機関10、第1モータジェネレータ22および第2モータジェネレータ24を備えている。内燃機関10のクランク軸12には、動力分割装置20が機械的に連結されている。動力分割装置20は、内燃機関10、第1モータジェネレータ22、および第2モータジェネレータ24の動力を分割する。動力分割装置20は、遊星歯車機構を備えている。遊星歯車機構のキャリアCは、クランク軸12と機械的に連結されている。遊星歯車機構のサンギアSは、第1モータジェネレータ22の回転軸22aと機械的に連結されている。遊星歯車機構のリングギアRは、第2モータジェネレータ24の回転軸24aと機械的に連結されている。なお、第1モータジェネレータ22の端子には、第1インバータ23の出力電圧が印加される。また、第2モータジェネレータ24の端子には、第2インバータ25の出力電圧が印加される。
【0040】
動力分割装置20のリングギアRには、第2モータジェネレータ24の回転軸24aに加えて、変速装置26を介して駆動輪30が機械的に連結されている。変速装置26は、動力を伝達する回転軸であるシャフトを備えている。シャフトは、回転可能な状態で軸受によって支えられている。
【0041】
動力分割装置20のキャリアCには、オイルポンプ32の従動軸32aが機械的に連結されている。オイルポンプ32は、オイルパン34内のオイルを潤滑油として動力分割装置20に循環させたり、同オイルを作動油として変速装置26に吐出したりするポンプである。なお、オイルポンプ32から吐出された作動油は、変速装置26内の油圧制御回路26aによってその圧力が調整されて作動油として利用される。
【0042】
制御装置40は、内燃機関10を制御対象とする。制御装置40は、内燃機関10の制御量であるトルクや排気成分比率等を制御すべく、内燃機関10の各種操作部を操作する。また、制御装置40は、第1モータジェネレータ22を制御対象とする。制御装置40は、第1モータジェネレータ22の制御量であるトルクや回転速度等を制御すべく、第1インバータ23を操作する。また、制御装置40は、第2モータジェネレータ24を制御対象とする。制御装置40は、第2モータジェネレータ24の制御量であるトルクや回転速度等を制御すべく、第2インバータ25を操作する。なお、
図1には、制御装置40が内燃機関10や変速装置26を操作するために送信する信号を操作信号MSと表示している。
【0043】
制御装置40は、上記制御量を制御する際、クランク角センサ50の出力信号Scrや、第1モータジェネレータ22の回転軸22aの回転角を検知する第1回転角センサ52の出力信号Sm1、第2モータジェネレータ24の回転軸24aの回転角を検知する第2回転角センサ54の出力信号Sm2を参照する。また、制御装置40は、油温センサ56によって検出されるオイルの温度である油温Toilを参照する。
【0044】
制御装置40は、CPU42、ROM44、電気的に書き換え可能な不揮発性メモリである記憶装置46、および周辺回路48を備えている。CPU42、ROM44、電気的に書き換え可能な不揮発性メモリである記憶装置46、および周辺回路48は、ローカルネットワーク49を介して通信可能とされている。ここで、周辺回路48は、内部の動作を規定するクロック信号を生成する回路や、電源回路、リセット回路等を含む。制御装置40は、ROM44に記憶されたプログラムをCPU42が実行することによって、上記制御量を制御する。
【0045】
制御装置40が実行する処理の一部を説明する。
制御装置40は、駆動トルク設定処理を実行する。駆動トルク設定処理は、駆動輪30に付与すべきトルクの指令値である駆動トルク指令値Trq*を算出する処理である。駆動トルク指令値Trq*は、車両VCが備えるアクセル操作部材の操作量を入力として、当該操作量が大きいほど大きい値に算出される。
【0046】
制御装置40は、駆動力分配処理を実行する。駆動力分配処理は、駆動トルク指令値Trq*に基づき、内燃機関10に対するトルク指令値Trqe*、第1モータジェネレータ22に対するトルク指令値Trqm1*、および第2モータジェネレータ24に対するトルク指令値Trqm2*を設定する処理である。これらトルク指令値Trqe*,Trqm1*,Trqm2*は、内燃機関10、第1モータジェネレータ22および第2モータジェネレータ24によってそれぞれ生成されることによって、駆動輪30に付与されるトルクが駆動トルク指令値Trq*となる値にされる。
【0047】
制御装置40は、回転速度算出処理を実行する。回転速度算出処理は、変速装置26に搭載されているシャフトの回転速度としてシャフト回転速度Nshaftを算出する処理である。シャフト回転速度Nshaftは、出力信号Sm1に基づいて算出される。シャフト回転速度Nshaftは、所定期間毎に算出される。シャフト回転速度Nshaftの推移がシャフト回転速度Nshaftの時系列データとして記憶装置46に記憶される。
【0048】
制御装置40は、変速装置26のシャフトの異常を判定するための処理を実行する。以下、この処理について説明する。
図2に、制御装置40が実行する処理の手順を示す。
図2に示す処理は、ROM44に記憶されたプログラムをCPU42がたとえば所定周期で繰り返し実行することによって実現される。なお、以下では、先頭に「S」が付与された数字によって、各処理のステップ番号を表現する。
【0049】
図2に示す一連の処理において、CPU42は、まず、シャフト回転速度Nshaftの時系列データおよび油温Toilを取得する(S101)。次にCPU42は、規定期間におけるシャフト回転速度Nshaftの時系列データを正規化する正規化処理を実行する(S102)。CPU42は、さらに、正規化した時系列データを加工した正規化特徴量NFvを算出する(S103)。正規化特徴量NFvは、規定期間におけるシャフト回転速度Nshaftの度数分布を表すデータとして算出される。
【0050】
図3および
図4を用いて、S102およびS103の処理を説明する。
図3(a)は、シャフトに異常な振動が生じていない場合、すなわちシャフトが正常である場合におけるシャフト回転速度Nshaftの時系列データの一部を例示したものである。
図3(b)は、シャフトが発散振動している場合、すなわちシャフトに異常が生じている場合におけるシャフト回転速度Nshaftの時系列データの一部を例示したものである。なお、
図3(a)と
図3(b)とでは、例示している期間における駆動トルク指令値Trq*の大きさが等しいものとする。
【0051】
図3(a)に示すように、シャフトに異常が生じていない場合には、シャフト回転速度Nshaftは、規則的な周期および振幅で推移している。一方、
図3(b)に示すように、シャフトに異常が生じている場合には、シャフト回転速度Nshaftは、
図3(a)に示す波形とは異なる波形を示すように推移している。特に
図3(b)はシャフトが発散振動している場合の例であるため、時間が経過するほどシャフト回転速度Nshaftの振幅が大きくなっている。このように、シャフトに異常な振動が生じている場合には、シャフト回転速度Nshaftの値が極端に大きくなったり極端に小さくなったりすることがある。さらに、シャフトに異常な振動が生じている場合には、シャフトの振動モードによってシャフト回転速度Nshaftの推移が異なる。
【0052】
本実施形態では、規定期間におけるシャフト回転速度Nshaftが一定のサンプリング周期でサンプリングされる場合の、時系列的に連続した複数のサンプリング値によってシャフト回転速度Nshaftの時系列データを構成する。
図3における図中の丸は、一定のサンプリング周期でサンプリングされるサンプリング値を例示したものである。シャフト回転速度Nshaftをサンプリングする期間が規定期間である。
【0053】
CPU42は、S102の処理では、規定期間におけるシャフト回転速度Nshaftの最大値が「1」となり規定期間におけるシャフト回転速度Nshaftの最小値が「0」となるようにシャフト回転速度Nshaftの時系列データを正規化する。たとえば、以下の数式(式1)に基づいて正規化を行うことができる。
【0054】
N=(n-nmin)/(nmax-nmin) …(式1)
上記数式(式1)において、「N」は、正規化後のシャフト回転速度Nshaftである。「n」は、正規化の対象とするシャフト回転速度Nshaftである。「nmax」は、正規化前のシャフト回転速度Nshaftの最大値である。「nmin」は、正規化前のシャフト回転速度Nshaftの最小値である。
【0055】
CPU42は、S103の処理では、まず、規定期間におけるシャフト回転速度Nshaftの最小値から最大値までの範囲を五等分して五つの階級に分ける。換言すれば、各階級の幅が「0.2」となるように階級分けを行う。そして、CPU42は、各階級におけるシャフト回転速度Nshaftのサンプリング値の数、すなわち度数を正規化特徴量NFvとして算出する。以下、五つの階級は、小さい方から順に、第1階級Bin1、第2階級Bin2、第3階級Bin3、第4階級Bin4、第5階級Bin5という。
【0056】
図4(a)は、シャフトに異常が発生していない場合のシャフト回転速度Nshaftの時系列データにS102およびS103の処理が施された場合の一例である。すなわち、
図4(a)は、シャフトに異常が生じていない場合における正規化特徴量NFvの一例を示す。
図4(a)に示すように、シャフトに異常が発生していない場合には、第1階級Bin1における度数、第2階級Bin2における度数、第3階級Bin3における度数の順に度数が多くなっている。五つの階級における度数のうちシャフト回転速度Nshaftの中央値を含む第3階級Bin3における度数が最も多く、第4階級Bin4における度数、第5階級Bin5における度数の順に度数が少なくなっている。また、第2階級Bin2における度数と第4階級Bin4における度数とが等しく、第1階級Bin1における度数と第5階級Bin5における度数とが等しい。すなわち、第3階級Bin3を中心に左右対称の分布を示している。
【0057】
図4(b)は、シャフトに異常が発生している場合のシャフト回転速度Nshaftの時系列データにS102およびS103の処理が施された場合の一例である。すなわち、
図4(b)は、シャフトに異常が生じている場合における正規化特徴量NFvの一例を示す。
図4(a)と同様に、第3階級Bin3における度数が最も多く、第1階級Bin1における度数および第5階級Bin5における度数が最も少なくなっている。しかし、シャフトに異常が発生していない場合の
図4(a)とは異なり、第3階級Bin3における度数が他の階級の度数に比して極端に多くなっている。これは、シャフト回転速度Nshaftの不規則な変動によって中央値から大きく離れた少数の値がサンプリングされているためである。より詳しく説明するため、中央値から大きく離れた少数の値がサンプリングされているデータの度数分布を考える。当該データにおけるシャフト回転速度Nshaftの最小値から最大値までの範囲を、規則的に推移するシャフト回転速度Nshaftの時系列データが加工された
図4(a)に示す例と同じ数の階級に分ける。この結果として、最頻値を含む階級には
図4(a)に示す例と比較して多くのサンプルが含まれることになる。このように、中央値から大きく離れた少数の値がサンプリングされていると、最頻値を含む階級の度数がより多くなる一方で他の階級の度数が少なくなる。
【0058】
図4(a)および
図4(b)に示すように、シャフト回転速度Nshaftの時系列データを加工した正規化特徴量NFvは、シャフトに異常が発生していない場合とシャフトが振動している場合とで異なる特徴を示す。また、シャフトが振動している場合には、振動モードに応じて正規化特徴量NFvが示す特徴が異なる。
【0059】
図2に戻り、CPU42は、正規化特徴量NFvを算出すると、次に、
図1に示した記憶装置46に記憶されている写像データDMによって規定される写像への入力変数x(1)~x(6)に、S103の処理によって算出した正規化特徴量NFvおよび油温Toilを代入する(S104)。より詳しくは、入力変数x(1)~x(5)には、第1階級Bin1の度数~第5階級Bin5の度数をそれぞれ代入する。入力変数x(6)には、油温Toilを代入する。ここでは、規定期間における油温Toilの平均値を入力変数x(6)に代入することができる。
【0060】
次にCPU42は、上記写像に入力変数x(1)~x(6)の値を代入することによって、シャフトの状態を示す変数である出力変数y(0)~y(4)の値を算出する(S105)。
【0061】
本実施形態では、写像として関数近似器を例示し、詳しくは、中間層が1層の全結合順伝搬型のニューラルネットワークを例示する。具体的には、S105の処理によって値が代入された入力変数x(1)~x(6)とバイアスパラメータであるx(0)とが、係数wFjk(j=1~m,k=0~6)によって規定される線形写像にて変換された「m」個の値のそれぞれが活性化関数fに代入されることによって、中間層のノードの値が定まる。また、係数wSij(i=0~3)によって規定される線形写像によって中間層のノードの値のそれぞれが変換された値のそれぞれが活性化関数gに代入されることによって、出力変数y(0),y(1),y(2),y(3)の値が定まる。なお、活性化関数fとしては、ハイパボリックタンジェント等を採用することができる。活性化関数gとしては、ソフトマックス関数を採用することができる。
【0062】
図5に示すように、出力変数y(0),y(1),y(2),y(3)は、シャフトの状態を特定する状態変数となっている。出力変数y(0)は、シャフトに異常な振動が発生していない状態、すなわちシャフトが正常な状態である確率を示す。出力変数y(1)は、シャフトが発散振動している状態である確率を示す。出力変数y(2)は、シャフトがねじり振動している状態である確率を示す。出力変数y(3)は、シャフトが曲げ振動している状態である確率を示す。
【0063】
図2に戻り、CPU42は、出力変数y(0)~y(3)のうちの最大値ymaxを選択する(S106)。そしてCPU42は、出力変数y(0)~y(3)のうちの最大値ymaxと等しい出力変数に基づき、シャフトの状態を判定する(S107)。次に、CPU42は、シャフトの状態を判定した結果を記憶装置46に記憶する記憶処理を実行する(S108)。たとえばCPU42は、出力変数y(1)の値が最大値ymaxに等しい場合には、シャフトが発散振動している状態であることを記憶装置46に記憶する。S108の処理において、CPU42は、
図1に示す表示器70を操作して、記憶装置46に記憶させたシャフトの状態に基づいて変速装置26の状態を報知する報知処理を実行することもできる。表示器70は、変速装置26の状態を報知する報知装置の一例である。たとえば、報知装置をスピーカとして、スピーカを操作して音声信号を出力することによって報知処理を実行してもよい。CPU42は、S108の処理が完了すると、
図2に示す一連の処理を一旦終了する。
【0064】
なお、写像データDMは、予め学習された学習済みモデルである。写像データDMの学習には、正規化特徴量NFvおよび油温Toilに対して、実際のシャフトの状態を示すデータが正解としてラベル付けされた教師データを用いる。教師データにおける正規化特徴量NFvは、試作車等を運転することによって得られるシャフト回転速度Nshaftの時系列データに基づいてS102およびS103の処理と同様の処理にて算出した値である。写像データDMは、シャフトが正常である状態のデータ、シャフトが発散振動している状態のデータ、シャフトがねじり振動している状態のデータ、および、シャフトが曲げ振動している状態のデータが含まれている教師データを用いて学習される。
【0065】
ここで、本実施形態の作用および効果について説明する。
CPU42は、シャフト回転速度Nshaftの時系列データに基づきシャフトの状態を判定する。このようにシャフト回転速度Nshaftの時系列データを参照することによって、変速装置26に異常が生じたか否かを判定することができる。
【0066】
以上説明した本実施形態によれば、さらに以下に記載する作用および効果が得られる。
(1)写像への入力変数を、シャフト回転速度Nshaftの時系列データを加工して算出する正規化特徴量NFvとした。時系列データが、
図4に示すような度数分布を表すデータに加工されることによって、シャフトに異常が発生している場合にシャフト回転速度Nshaftの時系列データが示す特徴と、シャフトに異常が発生していない場合にシャフト回転速度Nshaftの時系列データが示す特徴とを判別しやすくなる。すなわち、シャフトの状態を判別する精度を向上させることができ、変速装置26に異常が発生しているか否かを判定する精度を向上させることができる。
【0067】
(2)シャフト回転速度Nshaftの時系列データを正規化特徴量NFvに加工する際には、シャフト回転速度Nshaftが階級分けされる。このため、入力変数の次数を削減することができる。これによって、シャフトの異常を判定するための処理の演算負荷を軽減することができる。
【0068】
(3)シャフト回転速度Nshaftの時系列データが正規化特徴量NFvのように正規化されることで、シャフト回転速度Nshaftの絶対値の大きさに影響を受けることなく、シャフト回転速度Nshaftの変動を時系列データが示す特徴として捉えてシャフトの状態を判定することができる。
【0069】
(4)写像に一度に入力される入力変数に、正規化特徴量NFvに加えて、規定期間における油温Toilの平均値を含めた。これによって、オイルの温度を踏まえて状態変数の値を算出できる。異なる種類の変数を入力することによって、シャフトの状態を判定する精度を向上させることができる。
【0070】
(5)CPU42は、出力変数y(0)~y(3)の値を算出すると、そのうちの最大値に基づきシャフトの状態を判定して記憶装置46に記憶した。シャフトに異常が生じているか否かだけではなく、シャフトに異常が生じている場合にはシャフトの状態を特定することができる。すなわち、シャフトが発散振動している状態、シャフトがねじり振動している状態、または、シャフトが曲げ振動している状態を検知できる。
【0071】
(6)シャフトの状態を判定した結果が記憶装置46に記憶されるため、車両VCが修理工場に持ち込まれた場合に、記憶装置46に記憶されている異常の要因に応じた対処を行うことができる。
【0072】
(7)変速装置26に異常が生じてシャフトが振動し始めた初期の時点では、変速装置26は、性能が低下する段階には至っていない可能性がある。シャフト回転速度Nshaftの時系列データに表れる変化を捉えてシャフトの状態を判定することによって、シャフトが異常な振動を始めたことを検知できる。すなわち、変速装置26の性能が低下する前に異常を検知することができる。
【0073】
<対応関係>
上記実施形態における事項と、上記「課題を解決するための手段」の欄に記載した事項との対応関係は、次の通りである。以下では、「課題を解決するための手段」の欄に記載した解決手段の番号毎に、対応関係を示している。[1]異常判定装置は、
図1の制御装置40に対応する。実行装置は、
図1のCPU42およびROM44に対応する。記憶装置は、
図1の記憶装置46に対応する。写像データは、写像データDMに対応する。取得処理は、
図2のS104の処理に対応する。判定処理は、
図2のS105~S107の処理に対応する。[2,3]特徴量算出処理は、
図2のS102,S103の処理に対応する。
【0074】
<その他の実施形態>
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0075】
「制御装置が参照する値について」
・
図8に示すように、制御装置40は、油温センサ56によって検出される油温Toilに限らず車両VCが備える各種センサによって検出される検出値を参照することもできる。なお、
図8に示す部材のうち
図1に示した部材に対応する部材については、便宜上同一の符号を付してその説明を省略する。
【0076】
たとえば制御装置40は、車輪速センサ57によって検出される車輪速度を参照することができる。制御装置40は、車輪速度に基づいて車速SPDを算出することができる。制御装置40は、車両VCに搭載された振動センサ58によって検出される振動VBを参照することができる。制御装置40は、変速装置26に搭載された音センサ59によって検出される音NZを参照することができる。
【0077】
また、制御装置40は、車両VCが備える計器による測定値または他の制御装置から取得できる状態量を参照することもできる。たとえば制御装置40は、車両VCに搭載された走行距離計60によって計測される車両VCの積算走行距離ODを参照することができる。制御装置40は、制動制御装置80から取得できるブレーキ圧PBを参照することもできる。制動制御装置80は、車両VCの制動装置を対象とする制御装置である。たとえば、制動操作部材が操作される踏圧をブレーキ圧PBとして参照することができる。制動装置が液圧制動装置である場合には、マスタシリンダ圧をブレーキ圧PBとして参照することもできる。
【0078】
「時系列データについて」
・
図3にシャフト回転速度Nshaftの時系列データを例示したが、
図3は、規定期間におけるシャフト回転速度Nshaftのサンプリング数を限定するものではない。
【0079】
・上記実施形態の回転速度算出処理では、出力信号Sm1に基づいてシャフト回転速度Nshaftを算出する例を示した。シャフトの回転速度であるシャフト回転速度Nshaftを算出する手段は、これに限らない。たとえば、変速装置26が備えるシャフトの回転速度は、車速SPDと相関がある。このため、シャフト回転速度Nshaftは、車速SPDに基づいて算出することもできる。また、シャフトの回転速度を検出するためのセンサを採用して、当該センサによって検出される値に基づいてシャフト回転速度Nshaftを算出することもできる。
【0080】
「入力変数としての特徴量について」
・上記実施形態におけるS102の処理では、規定期間におけるシャフト回転速度Nshaftの最大値が「1」となり規定期間におけるシャフト回転速度Nshaftの最小値が「0」となるようにシャフト回転速度Nshaftの時系列データを正規化した。シャフト回転速度Nshaftの時系列データを正規化する手法は、この限りではない。たとえば、シャフト回転速度Nshaftの平均値が「0」となり分散が「1」となるようにシャフト回転速度Nshaftの時系列データを正規化することも考えられる。
【0081】
・上記実施形態におけるS103の処理では、規定期間におけるシャフト回転速度Nshaftの最小値から最大値までの範囲を五等分して五つの階級に分けた。入力変数としての特徴量において階級の数が揃っているのであれば、S103の処理において設定する階級の数は適宜変更することができる。換言すれば、各階級の幅は、変更することができる。
【0082】
・上記実施形態におけるS102およびS103の処理では、シャフト回転速度Nshaftの時系列データを正規化してから、正規化したデータを加工して度数分布を表す正規化特徴量NFvを算出した。これに限らず、シャフト回転速度Nshaftの時系列データを加工して度数分布を表す特徴量として特徴量Fvを算出してから、特徴量Fvに基づいて正規化特徴量NFvを算出することもできる。
【0083】
・上記実施形態では、写像データDMによって規定される写像への入力変数として正規化特徴量NFvを例示したが、これに限らない。たとえば、シャフト回転速度Nshaftの時系列データから度数分布を表すデータである特徴量Fvを算出して、特徴量Fvを入力変数としてもよい。すなわち、正規化処理は必須ではない。階級の幅が調整されていない特徴量Fvであっても、特徴量Fvは、シャフト回転速度Nshaftの時系列データから特徴が抽出されたデータである。特徴量Fvを入力変数とすることで、シャフトの状態を判定することができる。
【0084】
・上記実施形態では、シャフト回転速度Nshaftの時系列データを加工した特徴量として度数分布を表すデータを例示したが、これに限らない。たとえば、シャフト回転速度Nshaftの時系列データを高速フーリエ変換して得られる周波数成分の分布を特徴量として算出することもできる。このように算出した特徴量を写像への入力変数とすることによって、周波数領域に表れる時系列データの特徴に基づいてシャフトの状態を判定することができる。すなわち、シャフト回転速度Nshaftの時系列データを周波数分析して得られる特徴に基づいてシャフトの状態を判定することができる。以下では、時系列データを高速フーリエ変換によって周波数領域に変換して特徴量を算出する処理のことを周波数分析処理と云うこともある。周波数分析処理によって算出した特徴量のことを周波数特徴量と云うこともある。
【0085】
・シャフト回転速度Nshaftの時系列データを高速フーリエ変換して得られる周波数成分の分布を正規化して、正規化後の特徴量を写像への入力変数とすることもできる。すなわち、周波数分析処理では正規化した周波数特徴量を算出してもよい。たとえば、規定期間におけるシャフト回転速度Nshaftの平均値から1次周波数を算出し、1次周波数を基準として上記周波数成分を正規化する処理を行ってもよい。周波数成分を正規化することによって、周波数成分の強度に影響を受けることなく、シャフト回転速度Nshaftの時系列データを周波数分析して得られる特徴に基づいてシャフトの状態を判定することができる。
【0086】
・シャフト回転速度Nshaftの時系列データを周波数分析して得られる特徴量を入力変数とする場合には、周波数領域を複数の周波数帯に区切り、各周波数帯における上記周波数成分の強度の平均値を当該周波数帯での強度としてもよい。以下、この処理を削減処理という。削減処理を行うことによって、シャフト回転速度Nshaftの時系列データを周波数分析して得られる特徴量を入力変数とする場合に、入力変数の要素を削減することができる。すなわち、シャフトが振動しているか否かを判定する処理における演算負荷を軽減することができる。
【0087】
・周波数特徴量を算出する周波数分析処理の処理内容は、上記変更例の構成に限らない。
図6および
図7を用いて、他の周波数分析処理の一例を説明する。
図6は、シャフトがねじり振動している状態におけるシャフト回転速度Nshaftの時系列データを例示している。
図6に示すように、シャフトがねじり振動している場合には、時系列データは、
図3(b)に示した発散振動の例とは異なる推移を示す。
図7は、シャフトがねじり振動している状態におけるシャフト回転速度Nshaftの時系列データが周波数分析処理によって加工された正規化特徴量を例示している。
【0088】
この周波数分析処理では、CPU42は、まずシャフト回転速度Nshaftの時系列データを高速フーリエ変換して得られる周波数成分の分布を特徴量として算出する。
次に、CPU42は、上記削減処理と同様に、周波数領域を複数の周波数帯に区切る処理を実行する。この削減処理は、実行を省略することもできる。
【0089】
さらに、CPU42は、シャフトの振動モードがねじり振動である場合の1次共振周波数における周波数成分の強度が「1」となるように、周波数成分を正規化する処理を実行する。シャフトの共振周波数は、実験等によって予め算出された値が記憶されている。
【0090】
この結果として、
図7に示す例では、1次共振周波数において強度が最大値を示しており、周波数成分の強度が「0」~「1」の範囲に正規化されている。振動モードがねじり振動であり共振が発生している状態のデータでは、振動モードがねじり振動である場合の共振周波数における周波数成分の強度が他の周波数における強度と比較して相対的に高くなる。このため、ねじり振動が発生している状態のデータが入力されて、上記構成のように周波数分析処理が実行されると、
図7に示すように、1次、2次、…n次共振周波数における周波数成分の強度の高さが強調された周波数特徴量が算出される。
【0091】
一方で、ねじり振動が発生していない状態の時系列データが周波数領域に変換されると、振動モードがねじり振動である場合の共振周波数における強度と、他の周波数における強度と、の差が大きくならないと推測できる。このため、ねじり振動が発生していない状態のデータが上記周波数分析処理によって加工されると、周波数領域の全体で度数が大きい分布になることが推測される。
【0092】
このように、共振周波数における周波数成分の強度を基準にして正規化した周波数特徴量を算出することによって、シャフトの振動モードがねじり振動である場合とねじり振動ではない場合とで、シャフト回転速度Nshaftの時系列データから抽出できる特徴の違いが顕著になる。これによって、シャフトの状態を判別しやすくなる。
【0093】
・上記変更例では、1次共振周波数における周波数成分の強度が「1」となるように、周波数成分を正規化する処理を例示した。これに替えて、2次共振周波数における周波数成分の強度や3次共振周波数における周波数成分の強度を基準にして周波数成分を正規化してもよい。1次共振周波数における周波数成分の強度に限らず、n次共振周波数における周波数成分の強度が「1」となるように周波数成分を正規化することで、上記変更例と同様に、共振周波数における周波数成分の強度の高さが強調された正規化特徴量を算出することができる。なお、たとえば2次共振周波数における周波数成分の強度が「1」となるように正規化を行う場合、1次共振周波数における周波数成分の強度が「1」よりも大きくなることが予想される。このように「1」よりも大きい値が算出された場合には、算出された値を用いてもよいし、「1」よりも大きい値を「1」として扱ってもよい。
【0094】
・上記変更例では、1次共振周波数における周波数成分の強度が「1」となるように、周波数成分を正規化する処理を例示した。周波数成分の強度の最大値を「1」とすることは必須の要件ではない。共振周波数における周波数成分の強度を基準にして、正規化した周波数特徴量を算出すればよい。
【0095】
・上記変更例では、シャフトの振動モードがねじり振動である場合の共振周波数における周波数成分の強度が「1」となるように周波数成分を正規化する処理を例示した。これに替えて、シャフトの振動モードが曲げ振動である場合の共振周波数における周波数成分の強度が「1」となるように周波数成分を正規化する処理を実行してもよい。この処理によれば、上記変更例とは異なり、シャフトの振動モードが曲げ振動である場合の時系列データが入力された場合に、曲げ振動の1次、2次、…n次共振周波数における周波数成分の強度の高さが強調された周波数特徴量を算出することができる。このため、シャフトの振動モードが曲げ振動である場合と曲げ振動ではない場合とで、シャフト回転速度Nshaftの時系列データから抽出できる特徴の違いが顕著になる。これによって、シャフトの状態を判別しやすくなる。
【0096】
・上記実施形態における正規化特徴量NFvのように度数分布を表す特徴量と、上記変更例のような周波数分析処理によって得られる周波数特徴量と、の両者を入力変数としてもよい。異なる加工が行われたデータの組み合わせが写像に入力されることによって、時系列データが示す特徴をより判別しやすくなり、判定の精度がさらに向上することを期待できる。
【0097】
・上記変更例では、シャフト回転速度Nshaftの時系列データを周波数分析して得られる特徴量を入力変数とする例を示した。これに限らず、シャフト回転速度Nshaftの時系列データを回転次数比分析して得られる特徴量を入力変数とすることもできる。
【0098】
「写像への入力変数について」
・上記実施形態では、シャフト回転速度Nshaftの時系列データを加工した特徴量を写像への入力変数としているが、シャフト回転速度Nshaftの時系列データを入力変数としてもよい。たとえば、サンプリング値を入力変数とすることができる。
【0099】
・上記実施形態では、油温Toilの平均値を写像への入力変数としているが、これに限らない。たとえば、油温Toilの時系列データを入力変数としてもよい。
・写像データDMによって規定される写像への入力変数に、油温Toilを含めることは必須ではない。入力変数には、シャフト回転速度Nshaftの時系列データが含まれていればよい。
【0100】
・写像データDMによって規定される写像への入力変数に、振動VBを含めてもよい。
・写像データDMによって規定される写像への入力変数に、音NZを含めてもよい。
・写像データDMによって規定される写像への入力変数に、積算走行距離ODを含めてもよい。積算走行距離ODに替えて、車両VCが始動している間の積算時間を用いることもできる。この構成によれば、変速装置26に異常が発生しているか否かを判定する際に、シャフトや軸受等の経年変化を考慮することができる。
【0101】
・写像データDMによって規定される写像への入力変数に、ブレーキ圧PBを含めてもよい。この構成によれば、変速装置26に異常が発生しているか否かを判定する際に、車両VCが減速することによる振動、および車両VCの減速に伴うシャフト回転速度Nshaftの変動等を考慮することができる。
【0102】
・写像データDMによって規定される写像への入力変数に、シャフトの諸元に基づいた各部の寸法を示す設計値を含めてもよい。設計値は、シャフトの内径、シャフトの外径およびシャフトの軸方向における長さ等である。
【0103】
たとえば、シャフトの諸元に基づいた各部の寸法を示す設計値を含むシャフトデータDSを、
図8に示すように記憶装置46に記憶させておくことができる。CPU42は、シャフトデータDSから値を読み出して、入力変数に代入することができる。
【0104】
なお、シャフトデータDSには、変速装置26に搭載されているシャフトの諸元に基づいた諸元データに加えて、以下のデータが含まれていてもよい。シャフトデータDSに含まれるデータの一例は、シャフトの製造後に測定されたシャフトの各部の寸法を示す実測値である。シャフトデータDSに含まれるデータの一例は、シャフトと軸受とのはめあい公差の値である。シャフトデータDSに含まれるデータの一例は、シャフトのアンバランス量である。シャフトデータDSに含まれるデータの一例は、軸受に支えられているシャフトの同軸度である。アンバランス量および同軸度は、変速装置26が製造される際に予め測定された値である。
【0105】
・写像データDMによって規定される写像への入力変数に、シャフトの実測値を含めてもよい。
・写像データDMによって規定される写像への入力変数に、アンバランス量を含めてもよい。
【0106】
・写像データDMによって規定される写像への入力変数に、はめあい公差の値を含めてもよい。
・写像データDMによって規定される写像への入力変数に、同軸度の値を含めてもよい。
【0107】
・写像データDMによって規定される写像への入力変数に、シャフトによって伝達されるトルクの大きさを含めてもよい。
「写像について」
・ニューラルネットワークとしては、全結合順伝播型ネットワークに限らない。たとえば、1次元の畳み込みニューラルネットワークを用いてもよい。もっとも、機械学習による学習済みモデルとしては、ニューラルネットワークに限らない。たとえば、サポートベクターマシンによる分類を用いてシャフトの状態を判別してもよい。
【0108】
・S105の処理においては、中間層の層数が1層のニューラルネットワークを例示したが、これに限らず、中間層の層数が2層以上であってもよい。
・写像としては、出力変数y(0),y(1),y(2),y(3)の四つを出力変数とするものに限らない。時系列データを加工した特徴量に基づいて特定できるシャフトの状態がさらにあれば、新たに状態変数として採用して写像の出力変数とすることができる。
【0109】
・写像の出力変数に応じてシャフトに異常が発生しているか否かを判定してもよい。すなわち、写像が出力する出力変数として、シャフトに異常が発生している確率と、シャフトに異常が発生していない確率とが算出されるようにしてもよい。
【0110】
・車両VCの記憶装置46には、
図8に示すように複数の写像データが記憶されていてもよい。一例として、第1写像データDM(A1)~第3写像データDM(A3)の三つの写像データが記憶装置46に記憶されていてもよい。第1写像データDM(A1)は、シャフトが正常である状態の正規化特徴量NFvに基づく教師データと、シャフトが発散振動している状態であるときの正規化特徴量NFvに基づく教師データとを用いて予め学習された学習済みモデルである。第2写像データDM(A2)は、シャフトが正常である状態の正規化特徴量NFvに基づく教師データと、シャフトがねじり振動している状態の正規化特徴量NFvに基づく教師データとを用いて予め学習された学習済みモデルである。第3写像データDM(A3)は、シャフトが正常である状態の正規化特徴量NFvに基づく教師データと、シャフトが曲げ振動している状態の正規化特徴量NFvに基づく教師データとを用いて予め学習された学習済みモデルである。
【0111】
複数の写像データが記憶されている場合には、複数の写像データから一つの写像データを選択して、選択した写像データを用いて上記実施形態の
図2に示す一連の処理の流れに従って判定処理を実行するとよい。たとえば、第1写像データDM(A1)を選択した場合には、シャフトの状態を示す変数である出力変数として、シャフトが正常である確率、およびシャフトが発散振動している状態である確率が算出される。CPU42は、算出した出力変数の最大値に基づいてシャフトの状態を判定する。たとえばCPU42は、シャフトが正常である確率が8割以上であるという結果が示された場合には、シャフトが正常であると判定する。一方で、CPU42は、シャフトが発散振動している状態である確率が8割以上であるという結果が示された場合には、シャフトが発散振動していると判定する。また、CPU42は、シャフトが正常である確率およびシャフトが発散振動している状態である確率のいずれも8割未満であるという結果が示された場合には、発散振動とは異なる異常が発生していると判定する。
【0112】
シャフトの状態を判別できるまで写像データの選択と判定処理の実行とを繰り返すことによって、一つの写像データによってシャフトの状態を判別しようとする場合と比較して、判定処理を伴う一連の処理を実行する際の一回当たりの実行装置の演算負荷を軽減することができる。これによって、変速装置26に異常が発生しているか否かを判定する際に、実行装置の演算負荷が高くなったり判定の精度が低下したりすることを抑制できる。
【0113】
・上記変更例では、複数の写像データとして第1写像データDM(A1)~第3写像データDM(A3)の三つの写像データを例示したが、二つの写像データを使い分けてもよいし、複数の写像データとして四つ以上の写像データを採用することもできる。
【0114】
「記憶処理について」
・上記実施形態では、判定結果を記憶する記憶装置を、写像データDMが記憶されている記憶装置と同一としたが、これに限らない。
【0115】
・出力変数の判定結果を記憶する記憶処理を実行する代わりに、車両VCの製造メーカやデータ解析センタ等に判定結果を送信する送信処理を実行してもよい。記憶処理と送信処理とを実行することもできる。
【0116】
「実行装置について」
・実行装置としては、CPU42とROM44とを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。たとえば、上記実施形態においてソフトウェア処理されたものの少なくとも一部を、ハードウェア処理するたとえばASIC等の専用のハードウェア回路を備えてもよい。すなわち、実行装置は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。(a)上記処理のすべてを、プログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶するROM等のプログラム格納装置とを備える。(b)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置およびプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備える。(c)上記処理のすべてを実行する専用のハードウェア回路を備える。ここで、処理装置およびプログラム格納装置を備えたソフトウェア実行装置や、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。
【0117】
「車両について」
・上記実施形態では、内燃機関10、第1モータジェネレータ22および第2モータジェネレータ24を備えている車両VCを例示した。シャフトによって動力を伝達する変速装置を備えている車両であれば、制御装置40を適用することができ、上記実施形態と同様にシャフトの状態を判定することができる。
【符号の説明】
【0118】
10…内燃機関
22…第1モータジェネレータ
24…第2モータジェネレータ
26…変速装置
30…駆動輪
32…オイルポンプ
40…制御装置
42…CPU
44…ROM
46…記憶装置
50…クランク角センサ
52…第1回転角センサ
54…第2回転角センサ
56…油温センサ
57…車輪速センサ
58…振動センサ
59…音センサ
60…走行距離計
80…制動制御装置