(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 10/06 20060101AFI20230829BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20230829BHJP
F02D 17/02 20060101ALI20230829BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20230829BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20230829BHJP
B60L 58/10 20190101ALI20230829BHJP
B60K 6/445 20071001ALN20230829BHJP
B60W 20/15 20160101ALN20230829BHJP
【FI】
B60W10/06 900
B60W10/08 900
F02D17/02 U
F02D17/02 R
B60L50/16
B60L50/60
B60L58/10
B60K6/445 ZHV
B60W20/15
(21)【出願番号】P 2020156261
(22)【出願日】2020-09-17
【審査請求日】2022-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】杉本 仁己
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-233001(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/06
B60W 10/08
F02D 17/02
B60L 50/16
B60L 50/60
B60L 58/10
B60K 6/445
B60W 20/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪に付与する駆動トルクを生成する動力発生装置を備えた車両に適用され、
前記動力発生装置は、複数の気筒を有した内燃機関を含み、
前記複数の気筒のうちの一部の気筒における燃焼制御を停止する停止処理と、
前記停止処理による前記車両の駆動トルクの不足分を補償するように前記動力発生装置を操作する補償処理と、
前記補償処理による所定以上の補償ができないと判定する場合、前記停止処理を禁止する禁止処理と、を実行する内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記動力発生装置は、電動機を含み、
前記車両は、前記電動機に電力を供給する供給装置を備え、
前記補償処理は、前記電動機によって、前記一部の気筒の圧縮上死点後の所定期間におけるトルクの不足を補償するように補償トルクを付与する付与処理を含み、
前記禁止処理は、前記供給装置の出力が前記付与処理のための必要な電力に対して所定以上不足する場合、前記停止処理の実行を禁止する処理を含む請求項1記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記禁止処理は、前記内燃機関のクランク軸の回転速度が大きい場合に小さい場合よりも前記停止処理の実行を禁止するうえでの前記供給装置の出力が前記付与処理のための必要な電力に対して不足する量の下限値を大きくする処理を含む請求項2記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記補償トルクは、1燃焼サイクルを周期として周期的に変化するトルクであり、
前記付与処理は、前記周期的に変化する前記補償トルクの最大値と最小値との差を、前記クランク軸の回転速度および負荷の2つのうちの少なくとも1つに基づき可変設定する振幅設定処理を含む請求項3記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記補償処理は、前記停止処理による前記内燃機関の出力の低下を抑制するように前記複数の気筒のうちの前記一部の気筒とは別の気筒における燃焼エネルギ量を増量するエネルギ増量処理を含む請求項2~4のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記内燃機関は、排気通路と、該排気通路に備えられた排気の後処理装置と、を備え、
前記複数の気筒のうちの前記一部の気筒とは異なる気筒における混合気の空燃比を基準となる空燃比よりもリッチ化すべく、前記内燃機関の燃料噴射弁による噴射量を増量する燃料増量処理と前記停止処理とを含む前記後処理装置の再生処理と、
前記再生処理の実行要求の有無を判定する判定処理と、を実行し、
前記エネルギ増量処理は、前記停止処理を実行しない場合と比較して前記異なる気筒の充填効率を増量制御するものであって且つ、前記燃料増量処理による燃料の増量量に応じて前記充填効率を増量制御する充填効率増量処理を含む請求項5記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
前記補償処理は、前記停止処理による前記内燃機関の出力の低下を抑制するように前記複数の気筒のうちの前記一部の気筒とは別の気筒における燃焼エネルギ量を増量するエネルギ増量処理を含み、
前記動力発生装置に対する要求トルクの増加速度が所定以上の場合、所定未満の場合と比較して同一の出力をより低回転で実現するように前記内燃機関の動作点を操作する高トルク応答処理を実行し、
前記禁止処理は、前記高トルク応答処理が実行されている場合、前記補償処理による所定以上の補償ができないとして前記停止処理を禁止する処理を含む請求項1~6のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば下記特許文献1には、内燃機関および電動機を備えたハイブリッド車両において、内燃機関に対する要求出力が閾値未満となる場合、内燃機関の各気筒への燃料供給を停止させるフューエルカット処理を実行する制御装置が記載されている。この制御装置は、フューエルカット処理を実行する場合、フューエルカット処理に起因したトルクショックを抑制するための補償トルクを電動機によって生成する制御を実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、内燃機関に対する要求出力が大きい場合にフューエルカット処理を実行する場合、フューエルカット処理に起因した不都合を補償するために必要なトルクを生成することができないおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するための手段およびその作用効果について記載する。
1.駆動輪に付与する駆動トルクを生成する動力発生装置を備えた車両に適用され、前記動力発生装置は、複数の気筒を有した内燃機関を含み、前記複数の気筒のうちの一部の気筒における燃焼制御を停止する停止処理と、前記停止処理による前記車両の駆動トルクの不足分を補償するように前記動力発生装置を操作する補償処理と、前記補償処理による所定以上の補償ができないと判定する場合、前記停止処理を禁止する禁止処理と、を実行する内燃機関の制御装置である。
【0006】
上記構成では、内燃機関の一部の気筒の燃焼制御を停止する停止処理による駆動トルクの不足分を補償するように動力発生装置を操作する補償処理を実行する。ただし、補償処理による所定以上の補償ができないと判定する場合には、停止処理を禁止する。これにより、停止処理に起因してトルクが大きく不足する事態を抑制できる。
【0007】
2.前記動力発生装置は、電動機を含み、前記車両は、前記電動機に電力を供給する供給装置を備え、前記補償処理は、前記電動機によって、前記一部の気筒の圧縮上死点後の所定期間におけるトルクの不足を補償するように補償トルクを付与する付与処理を含み、前記禁止処理は、前記供給装置の出力が前記付与処理のための必要な電力に対して所定以上不足する場合、前記停止処理の実行を禁止する処理を含む上記1記載の内燃機関の制御装置である。
【0008】
停止処理を行う場合、圧縮上死点の出現間隔程度の短い期間において燃焼制御の停止に起因して駆動トルクが不足する。そのため、上記構成では、電動機によって、一部の気筒の圧縮上死点後の所定期間におけるトルクの不足を補償する補償トルクを付与することにより、上記短い期間における駆動トルクの不足を抑制する。
【0009】
ただし、電動機のトルクの上限値は、供給装置の出力に依存する。そのため、供給装置の出力によっては、電動機が補償トルクを十分生成できないおそれがある。そこで上記構成では、供給装置の出力が付与処理のために必要な電力に対して所定以上不足する場合に、停止処理の実行を禁止する。これにより、停止処理に起因して駆動トルクが大きく不足する事態を抑制できる。
【0010】
3.前記禁止処理は、前記内燃機関のクランク軸の回転速度が大きい場合に小さい場合よりも前記停止処理の実行を禁止するうえでの前記供給装置の出力が前記付与処理のための必要な電力に対して不足する量の下限値を大きくする処理を含む上記2記載の内燃機関の制御装置である。
【0011】
内燃機関のクランク軸の回転速度が大きい場合には小さい場合と比較して、クランク軸の慣性エネルギが大きいことから、燃焼制御の停止によるクランク軸の回転変動が小さくなる。そのため、クランク軸の回転速度が大きい場合には、小さい場合と比較して、燃焼制御の停止による駆動力の不足が顕在化しにくい。そのため、上記構成では、内燃機関の回転速度が大きい場合には小さい場合よりも上記下限値を大きくすることにより、停止処理を実行する機会を増やすことと、駆動トルクの不足の顕在化を抑制することとの好適な両立を図ることができる。
【0012】
4.前記補償トルクは、1燃焼サイクルを周期として周期的に変化するトルクであり、前記付与処理は、前記周期的に変化する前記補償トルクの最大値と最小値との差を、前記クランク軸の回転速度および負荷の2つのうちの少なくとも1つに基づき可変設定する振幅設定処理を含む上記3記載の内燃機関の制御装置である。
【0013】
燃焼制御の停止による内燃機関のクランク軸のトルクの変動は、クランク軸の回転速度および負荷に応じて異なり得ることから、適切な補償トルクも回転速度および負荷に応じて異なり得る。そこで上記構成では、クランク軸の回転速度および負荷の2つのうちの少なくとも1つに基づき補償トルクの最大値と最小値との差を可変設定することにより、可変設定しない場合と比較して、燃焼制御の停止によるクランク軸のトルクの変動を抑制するうえで補償トルクをより適切な値とすることができる。
【0014】
5.前記補償処理は、前記停止処理による前記内燃機関の出力の低下を抑制するように前記複数の気筒のうちの前記一部の気筒とは別の気筒における燃焼エネルギ量を増量するエネルギ増量処理を含む上記2~4のいずれか1つに記載の内燃機関の制御装置である。
【0015】
上記構成では、停止処理を行う場合、燃焼制御の停止対象とならない気筒における燃焼エネルギ量を増量することにより、内燃機関の規定期間あたりの出力の低下を抑制できる。ただし、その場合であっても、規定期間よりも短い期間においては燃焼制御の停止に起因して駆動トルクが不足する。そのため、付与処理の利用価値が特に大きい。
【0016】
6.前記内燃機関は、排気通路と、該排気通路に備えられた排気の後処理装置と、を備え、前記複数の気筒のうちの前記一部の気筒とは異なる気筒における混合気の空燃比を基準となる空燃比よりもリッチ化すべく、前記内燃機関の燃料噴射弁による噴射量を増量する燃料増量処理と前記停止処理とを含む前記後処理装置の再生処理と、前記再生処理の実行要求の有無を判定する判定処理と、を実行し、前記エネルギ増量処理は、前記停止処理を実行しない場合と比較して前記異なる気筒の充填効率を増量制御するものであって且つ、前記燃料増量処理による燃料の増量量に応じて前記充填効率を増量制御する充填効率増量処理を含む上記5記載の内燃機関の制御装置である。
【0017】
上記構成では、一部の気筒とは異なる気筒における混合気の空燃比をリッチ化するために燃料を増量することから、充填効率が同一であっても増量しない場合とは燃焼エネルギが異なる。そのため、充填効率を増量制御する際に燃料の増量量を参照することにより、参照しない場合と比較して、燃焼エネルギ量を駆動トルクの不足を補償するうえでより適切な量とすることができる。
【0018】
7.前記補償処理は、前記停止処理による前記内燃機関の出力の低下を抑制するように前記複数の気筒のうちの前記一部の気筒とは別の気筒における燃焼エネルギ量を増量するエネルギ増量処理を含み、前記動力発生装置に対する要求トルクの変化速度が所定以上の場合、所定未満の場合と比較して同一の出力をより低回転で実現するように前記内燃機関の動作点を操作する高トルク応答処理を実行し、前記禁止処理は、前記高トルク応答処理が実行されている場合、前記補償処理による所定以上の補償ができないとして前記停止処理を禁止する処理を含む上記1~6のいずれか1つに記載の内燃機関の制御装置である。
【0019】
上記構成では、エネルギ増量処理によって、規定期間における内燃機関の平均的な出力が停止処理によって低下することを補償できる。
また、上記構成では、要求トルクの増加速度が所定以上の場合、所定未満の場合と比較して同一の出力をより低回転で実現するように内燃機関の動作点を操作する。そのため、要求トルクの増加速度が所定以上の場合、内燃機関の出力を増量する際の回転速度の上昇量を小さくすることができる。内燃機関の回転速度が上昇する期間においては、燃焼エネルギの増量分の少なくとも一部は、回転速度の上昇に費やされることから、駆動輪に付与されるトルクの増量に寄与しない。したがって、高トルク応答処理によれば、駆動輪に付与されるトルクを迅速に上昇させることができる。
【0020】
そして上記構成では、高トルク応答処理が実行される場合、停止処理を禁止する。高トルク応答処理が実行されている場合には迅速に駆動トルクを増加させることが要求されるため、停止処理によるトルクの不足を十分に補償できないおそれがある。そのため、停止処理を禁止することによって、停止処理によって駆動トルクが不足する事態を好適に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】第1の実施形態にかかる駆動系およびその制御系を示す図。
【
図2】同実施形態にかかるENGECUが実行する処理を示すブロック図。
【
図3】同実施形態にかかるENGECUが実行する処理の手順を示す流れ図。
【
図4】同実施形態にかかるHVECUが実行する処理の手順を示す流れ図。
【
図5】同実施形態にかかるHVECUが実行する処理の手順を示す流れ図。
【
図6】同実施形態にかかるMGECUが実行する処理の手順を示す流れ図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<第1の実施形態>
以下、第1の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1に示すように、内燃機関10は、気筒#1~#4の4つの気筒を備える。内燃機関10の吸気通路12には、スロットルバルブ14が設けられている。吸気通路12に吸入された空気は、吸気バルブ16の開弁に伴って、燃焼室18に流入する。燃焼室18には、筒内噴射弁22から燃料が噴射される。また、燃焼室18内の空気と燃料との混合気は、点火プラグ24の火花放電に伴って燃焼に供される。そのときに生成される燃焼エネルギは、クランク軸26の回転エネルギに変換される。
【0023】
燃焼室18において燃焼に供された混合気は、排気バルブ28の開弁に伴って、排気として排気通路30に排出される。排気通路30には、酸素吸蔵能力を有した三元触媒32と、ガソリンパティキュレートフィルタ(GPF34)とが設けられている。なお、本実施形態では、GPF34として、PMを捕集するフィルタに三元触媒が担持されたものを例示している。
【0024】
クランク軸26は、動力分割装置を構成する遊星歯車機構50のキャリアCに機械的に連結されている。遊星歯車機構50のサンギアSには、第1モータジェネレータ52の回転軸52aが機械的に連結されている。また、遊星歯車機構50のリングギアRには、第2モータジェネレータ54の回転軸54aと駆動輪60とが機械的に連結されている。第1モータジェネレータ52の端子には、インバータ56によって交流電圧が印加される。また、第2モータジェネレータ54の端子には、インバータ58によって交流電圧が印加される。インバータ56,58は、直流電圧源であるバッテリ59の端子電圧を交流電圧に変換する。なお、本実施形態では、バッテリ59として、リチウムイオン2次電池等の2次電池を想定している。
【0025】
ENGECU70は、内燃機関10を制御対象とし、その制御量としてのトルクや排気成分比率等を制御するために、スロットルバルブ14、筒内噴射弁22、および点火プラグ24等の内燃機関10の操作部を操作する。
図1には、スロットルバルブ14、筒内噴射弁22、および点火プラグ24のそれぞれの操作信号MS1~MS3を記載している。
【0026】
ENGECU70は、制御量を制御するために、エアフローメータ80によって検出される吸入空気量Ga、およびクランク角センサ82の出力信号Scrを参照する。またENGECU70は、三元触媒32の上流側に設けられた上流側空燃比センサ84の検出値である上流側検出値Afu、および三元触媒32の下流側に設けられた下流側空燃比センサ86の検出値である下流側検出値Afdを参照する。またENGECU70は、排気圧センサ88によって検出されるGPF34に流入する排気の圧力Pex、および水温センサ90によって検出される水温THWを参照する。
【0027】
ENGECU70は、CPU72、ROM74、および周辺回路76を備えており、それらが通信線78によって通信可能とされている。ここで、周辺回路76は、内部の動作を規定するクロック信号を生成する回路や、電源回路、リセット回路等を含む。ENGECU70は、ROM74に記憶されたプログラムをCPU72が実行することにより制御量を制御する。
【0028】
ENGECU70は、さらに、外部のMGECU100およびHVECU120と通信可能となっている。
MGECU100は、第1モータジェネレータ52を制御対象とし、その制御量である回転速度を制御すべく、インバータ56を操作する。また、MGECU100は、第2モータジェネレータ54を制御対象とし、その制御量であるトルクを制御すべくインバータ58を操作する。
図1には、インバータ56,58の操作信号MS4,MS5を記載している。MGECU100は、制御量を制御するために、第1モータジェネレータ52の回転角を検知する第1回転角センサ110の出力信号Sm1、および第2モータジェネレータ54の回転角を検知する第2回転角センサ112の出力信号Sm2を参照する。
【0029】
MGECU100は、CPU102、ROM104および周辺回路106を備えており、それらが通信線108によって通信可能とされている。MGECU100は、ROM104に記憶されたプログラムをCPU102が実行することにより制御量を制御する。
【0030】
HVECU120は、内燃機関10、第1モータジェネレータ52および第2モータジェネレータ54を備えるハイブリッドシステムを制御対象とし、ENGECU70に内燃機関10に対する指令値を出力したり、MGECU100に第1モータジェネレータ52および第2モータジェネレータ54の指令値を出力したりする。HVECU120は、指令値を出力するために、アクセルセンサ130によって検出されるアクセルペダルの踏み込み量であるアクセル操作量ACCP、およびリングギアRの回転角を検知する出力側回転角センサ132の出力信号Spを参照する。HVECU120は、CPU122,ROM124および周辺回路126を備えており、それらが通信線128によって通信可能とされている。HVECU120は、ROM124に記憶されたプログラムをCPU122が実行することにより指令値を算出して、外部に出力する。
【0031】
図2に、ENGECU70が実行する処理を示す。
図2に示す処理は、ROM74に記憶されたプログラムをCPU72がたとえば所定周期で繰り返し実行することにより実現される。
【0032】
スロットル開口度指令値設定処理M10は、内燃機関10に対するトルクの指令値である機関要求トルクTe*を入力とし、スロットルバルブ14の開口度の指令値であるスロットル開口度指令値TA*を設定する処理である。スロットル操作処理M12は、スロットル開口度指令値TA*に基づきスロットルバルブ14の開口度を操作すべくスロットルバルブ14に操作信号MS1を出力する処理である。
【0033】
ベース噴射量算出処理M14は、充填効率ηに基づき、ベース噴射量Qbを算出する処理である。ここで、充填効率ηは、吸入空気量Gaに基づきCPU72によって算出される。ベース噴射量Qbは、たとえば、燃焼室18内の混合気の空燃比を理論空燃比とすべく、充填効率ηに比例係数を乗算した値とすればよい。
【0034】
要求噴射量算出処理M16は、ベース噴射量Qbに基づき、筒内噴射弁22から噴射する燃料量の要求値である要求噴射量Qdを算出する処理である。
噴射弁操作処理M18は、筒内噴射弁22から噴射される燃料の量が要求噴射量Qdに応じた値となるように筒内噴射弁22を操作すべく、筒内噴射弁22に操作信号MS2を出力する処理である。
【0035】
堆積量算出処理M20は、回転速度NE、充填効率η、水温THW、およびGPF34の温度Tgpfに基づき、GPF34が捕集しているPM量である堆積量DPMを算出する処理である。この処理は、たとえば、回転速度NE、充填効率η、および水温THWに基づき排気中のPM量を算出する処理と、回転速度NE、充填効率ηおよび温度Tgpfと排気中のPM量とに基づき堆積量DPMの更新量を算出する処理とを含んで実現すればよい。
【0036】
温度推定処理M22は、回転速度NEおよび充填効率ηに基づき、温度Tgpfを推定する処理である。
再生処理M24は、GPF34が捕集したPMを燃焼除去するための処理である。再生処理M24は、気筒#1~#4のうちの一部の気筒に関しては、要求噴射量Qdをゼロとすべく、要求噴射量算出処理M16においてベース噴射量Qbに乗算する係数に「0」を代入する処理である。また、再生処理M24は、気筒#1~#4のうちの残りの気筒に関しては、混合気の空燃比を理論空燃比よりもリッチとすべく、要求噴射量算出処理M16においてベース噴射量Qbに乗算する係数に値KiQを代入する処理である。ここで、「KiQ」は「1」よりも大きい。
【0037】
図3に、ENGECU70が実行する処理の手順を示す。
図3に示す処理は、ROM74に記憶されたプログラムをCPU72がたとえば所定周期で繰り返し実行することにより実現される。なお、以下では、先頭に「S」が付与された数字によって各処理のステップ番号を表現する。
【0038】
図3に示す一連の処理において、CPU72は、まず、堆積量DPMが閾値DPMth以上であるか否かを判定する(S10)。CPU72は、閾値DPMth以上であると判定する場合(S10:YES)、内燃機関10の所定の診断処理を実行しているときであるか否かを判定する(S12)。この処理は、再生処理の実行を許可する条件の1つが成立するか否かを判定する処理である。
【0039】
ここで、所定の診断処理としては、たとえば三元触媒32の酸素吸蔵量の最大値が過度に小さい値となっている異常である劣化異常の有無の診断処理がある。最大値は、たとえば、下流側検出値Afdが理論空燃比よりもリーンとなったタイミングから混合気の空燃比をリッチとし、下流側検出値がリッチに反転するまでに三元触媒32に流入した未燃燃料量に基づき算出すればよい。ここで未燃燃料量は、CPU72により、吸入空気量Gaや上流側検出値Afuに基づき算出すればよい。
【0040】
また、所定の診断処理としては、たとえば、上流側空燃比センサ84の応答性の劣化の有無の診断処理がある。これは、CPU72により、混合気の空燃比を理論空燃比よりもリッチとする状態とリーンとする状態とを周期的に繰り返し、上流側検出値Afuに基づき上流側空燃比センサ84の無駄時間等を検知することによって実行される。
【0041】
また所定の診断処理としては、燃料供給系の異常の有無の診断処理がある。これは、CPU72により、上流側検出値Afuを目標値にフィードバック制御し、フィードバック制御の操作量の絶対値が閾値以上となる場合に異常である旨判定する処理である。
【0042】
また診断処理としては、たとえば、インバランス異常の有無の診断処理がある。これは、CPU72により、気筒#1~#4の全てにおいて混合気の空燃比が所定の空燃比となるように筒内噴射弁22を操作した際の上流側検出値Afuの挙動およびクランク軸26の回転挙動の2つのうちの少なくとも1つに基づき、混合気の空燃比が平均値から大きくずれている気筒があるか否かを判定する処理である。
【0043】
CPU72は、所定の診断処理を実行していないと判定する場合(S12:NO)、気筒#2~#4の要求噴射量Qdを定めるための値KiQを、温度Tgpfおよび堆積量DPMに応じて算出する(S14)。ここで、CPU72は、温度Tgpfが低い場合に高い場合よりも、噴射量を増量すべく、値KiQを大きい値とする。また、CPU72は、堆積量DPMに応じて値KiQを可変設定する。具体的には、温度Tgpfおよび堆積量DPMを入力変数とし、値KiQを出力変数とするマップデータがROM74に予め記憶された状態で、CPU72により値KiQをマップ演算する。
【0044】
ここで、マップデータとは、入力変数の離散的な値と、入力変数の値のそれぞれに対応する出力変数の値と、の組データである。また、マップ演算は、たとえば、入力変数の値がマップデータの入力変数の値のいずれかに一致する場合、対応するマップデータの出力変数の値を演算結果とするのに対し、一致しない場合、マップデータに含まれる複数の出力変数の値の補間によって得られる値を演算結果とする処理とすればよい。
【0045】
次にCPU72は、温度Tgpfおよび堆積量DPMに基づき、再生処理において燃焼制御を停止する気筒数、すなわちフューエルカットする気筒数を決定する(S16)。
そして、CPU72は、再生処理を実行することによる内燃機関10の出力の低下率Rdpを算出し、HVECU120に送信する(S18)。ここで、CPU72は、低下率Rdpを、燃焼制御を停止する気筒数と、値KiQとに基づき算出する。また、CPU72は、HVECU120に、再生処理の実行の可否の判定をリクエストする(S20)。
【0046】
CPU72は、HVECU120から実行の許可が通知される場合(S22:YES)、HVECU120から、機関要求トルクTe*を受信する(S24)。そして、CPU72は、S14において設定した値KiQと、S16の処理において決定した燃焼制御を停止する気筒数と、に従って、再生処理を実行する(S26)。
【0047】
なお、CPU72は、S26の処理を完了する場合や、S10,S22の処理において否定判定する場合、S12の処理において肯定判定する場合には、
図3に示す一連の処理を一旦終了する。
【0048】
図4および
図5に、HVECU120の実行する処理の手順を示す。
図4および
図5に示す処理は、ROM124に記憶されたプログラムをCPU122がたとえば所定周期で繰り返し実行することにより実現される。
【0049】
図4および
図5に示す一連の処理において、CPU122は、まず、リングギアRの回転速度である出力側回転速度Npと、アクセル操作量ACCPと、を取得する(S30)。ここで、出力側回転速度Npは、CPU122によって、出力信号Spに基づき算出される。次にCPU122は、アクセル操作量ACCPおよび出力側回転速度Npに基づき、駆動輪60に要求されるトルクである要求駆動トルクTrq*を算出する(S32)。ただし、本実施形態では、要求駆動トルクTrq*は、リングギアRのトルクに換算されている。次にCPU122は内燃機関10、第1モータジェネレータ52および第2モータジェネレータ54に要求される出力の総和である要求出力Pd*を算出する(S34)。ここで、CPU122は、要求駆動トルクTrq*と出力側回転速度Npとの積から、バッテリ59の放電電力の指令値である放電電力指令値Pg*を減算した値を、要求出力Pd*に代入する。ここで、放電電力指令値Pg*は、バッテリ59が充電される場合に負となり、バッテリ59が放電する場合に正となる。
【0050】
次にCPU122は、HVモードであるか否かを判定する(S36)。CPU122は、要求出力Pd*等に基づき、内燃機関10を稼働状態とするHVモードとするか、第2モータジェネレータ54の動力のみで駆動輪60を駆動するEVモードとするかを決定する。CPU122は、HVモードであると判定する場合(S36:YES)、内燃機関10に対する要求出力のベース値である機関要求出力ベース値Peb*と第2モータジェネレータ54に対する要求出力のベース値である第2要求出力ベース値Pmg2b*とを算出する(S38)。CPU122は、要求出力Pd*に基づき機関要求出力ベース値Peb*と第2要求出力ベース値Pmg2b*とを算出する。なお、ここでCPU122は、バッテリ59の温度や充電率等を参照することが望ましい。
【0051】
次にCPU122は、低下率Rdpを受信したか否かを判定する(S40)。CPU122は、受信したと判定する場合(S40:YES)、MGECU100に対し、振幅Aおよび上限値Tmg2thをリクエストする(S42)。振幅Aは、再生処理時に第2モータジェネレータ54によって生成される補償トルクΔTmg2の振幅である。また、上限値Tmg2thは、第2モータジェネレータ54のトルクの上限値である。
【0052】
そしてCPU122は、MGECU100から通知される振幅Aと、第2モータジェネレータ54の要求トルクのベース値である第2要求トルクベース値Tmg2b*と、の和に「0」よりも大きく「1」以下の係数Kjを乗算した値が、上限値Tmg2th以下であるか否かを判定する(S44)。第2要求トルクベース値Tmg2b*は、CPU122により、第2要求出力ベース値Pmg2b*を第2回転速度Nm2で除算することによって算出される。第2回転速度Nm2は、第2モータジェネレータ54の回転軸54aの回転速度であり、CPU102によって出力信号Sm2に基づき算出され、HVECU120に通知される。S44の処理は、再生処理をする場合に、内燃機関10のトルクの不足を第2モータジェネレータ54によって補償することができるか否かを判定する処理である。
【0053】
ここで、CPU122は、係数Kjを、第2回転速度Nm2が大きい場合に小さい場合よりも小さい値に設定する。
CPU122は、上限値Tmg2th以下であると判定する場合(S44:YES)、単位時間当たりのアクセル操作量ACCPの増加量ΔACCPが、所定量Δth以上であるか否かを判定する(S46)。この処理は、駆動輪60に要求されるトルクの増加速度を所定以上とすることが要求されているか否かを判定する処理である。
【0054】
CPU122は、上限値Tmg2thよりも大きいと判定する場合(S44:NO)や、所定量Δth以上であると判定する場合(S46:YES)、内燃機関10の一部の気筒のフューエルカット処理を禁止する旨の判定をする(S48)。CPU122は、S48の処理を完了する場合や、S40の処理において否定判定する場合には、機関要求出力ベース値Peb*を、機関要求出力Pe*に代入する(S50)。
【0055】
これに対し、CPU122は、所定量Δth未満であると判定する場合(S46:NO)、MGECU100に、再生処理によるトルク不足を第2モータジェネレータ54によって補償するように要求するトルク補償要求を出力する(S52)。次にCPU122は、機関要求出力ベース値Peb*を「1-Rdp」で除算した値を、機関要求出力Pe*に代入する(S54)。この処理は、再生処理が実行される場合に、内燃機関10の実際の出力を機関要求出力ベース値Peb*とするために必要な量を計算するうえでの変数として機関要求出力Pe*を算出する処理である。
【0056】
CPU122は、S50,S54の処理を完了する場合、
図5のS60の処理を実行する。すなわち、CPU122は、内燃機関10のクランク軸26の回転速度NEの指令値である機関速度指令値NE*を算出する。ここで、CPU122は、機関要求出力ベース値Peb*に基づき、原則、
図5に実線にて示す燃費ラインに従って機関速度指令値NE*を算出する。燃費ラインは、同一の出力を実現するうえで極力燃料消費率が小さくなる動作点に対応する機関速度指令値NE*をトレースする。ただし、CPU122は、S46の処理において肯定判定する場合には、
図5に一点鎖線にて示すパワーラインに従って機関速度指令値NE*を算出する。パワーラインは、燃費ラインよりも低回転速度側の機関速度指令値NE*をトレースする。これは、駆動輪60に付与されるトルクを迅速に増大させるための設定である。すなわち、内燃機関10の出力を機関要求出力ベース値Peb*とするうえで、回転速度NEを上昇させる場合、回転速度NEを上昇させている期間には、内燃機関10の燃焼エネルギの増加量の一部は、クランク軸26の回転を加速させて回転速度NEを上昇させることに費やされる。そして、内燃機関10の燃焼エネルギの増加量のうち、クランク軸26の回転を加速させて回転速度NEを上昇させることに費やされる量については、駆動輪60のトルクの増加に寄与しない。
【0057】
次にCPU122は、回転速度NEを機関速度指令値NE*に制御するうえで必要な第1モータジェネレータ52のトルクの指令値である第1要求トルクTmg1*を算出し、MGECU100に送信する(S62)。次に、CPU122は、機関要求出力Pe*を機関速度指令値NE*で除算することによって、機関要求トルクTe*をENGECU70に送信する(S64)。また、CPU72は、第2要求トルクベース値Tmg2b*をMGECU100に送信する(S66)。
【0058】
なお、CPU122は、S66の処理を完了する場合や、S36の処理において否定判定する場合には、
図4および
図5に示す一連の処理を一旦終了する。
図6に、MGECU100が実行する処理の手順を示す。
図6に示す処理は、ROM104に記憶されたプログラムをCPU102がたとえば所定周期で繰り返し実行することにより実現される。
【0059】
図6に示す一連の処理において、CPU122は、まず、HVECU120から、第2要求トルクベース値Tmg2b*を受信する(S70)。次に、CPU102は、第1上限値Tmg2th1と第2上限値Tmg2th2とのうちの小さい方を、第2モータジェネレータ54のトルクの上限値Tmg2thに代入する(S72)。
【0060】
第1上限値Tmg2th1は、バッテリ59の出力の上限値Woutを超えない旨の制約を守るうえでのトルクの上限値である。CPU102は、第2モータジェネレータ54の回転速度である第2回転速度Nm2と、上限値Woutと、第1モータジェネレータ52の発電電力Pm1*とに基づき、第1上限値Tmg2th1を算出する。CPU102は、第2回転速度Nm2が大きい場合には小さい場合よりも第1上限値Tmg2th1を小さい値に算出する。また、CPU102は、上限値Woutから発電電力Pm1*を減算した値が大きい場合に小さい場合よりも第1上限値Tmg2th1を大きい値に算出する。詳しくは、上限値Woutから発電電力Pm1*を減算した値と、第2回転速度Nm2とを入力変数とし、第1上限値Tmg2th1を出力変数とするマップデータがROM104に予め記憶された状態で、CPU102により第1上限値Tmg2th1をマップ演算する。
【0061】
第2上限値Tmg2th2は、第2モータジェネレータ54の定格トルクである。CPU72は、第2回転速度Nm2が大きい場合に小さい場合よりも第2上限値Tmg2th2を小さい値に算出する。詳しくは、第2回転速度Nm2を入力変数とし第2上限値Tmg2th2を出力変数とするマップデータがROM104に予め記憶された状態で、CPU102により第2上限値Tmg2th2をマップ演算する。
【0062】
次に、CPU102は、HVECU120からトルク補償要求が出力されたことと、振幅Aおよび上限値Tmg2thのリクエストがあることとの論理和が真であるか否かを判定する(S74)。CPU102は、論理和が真であると判定する場合(S74:YES)、補償トルクの振幅Aを算出する(S76)。補償トルクは、再生処理によって内燃機関10の一部の気筒で燃焼制御を停止することに起因した内燃機関10のクランク軸26の1燃焼サイクル周期のトルク変動を補償するために、第2モータジェネレータ54が生成するトルクである。CPU102は、振幅Aを、回転速度NEおよび充填効率ηに基づき算出する。ここで、回転速度NEは、クランク軸26の慣性エネルギを把握するための変数である。慣性エネルギが大きい場合には小さい場合よりも、圧縮上死点周期の燃焼エネルギの差に起因したクランク軸26の回転変動量が小さくなる。ここで、回転変動量とは、瞬時速度の変動量のことである。また、瞬時速度は、圧縮上死点間の出現間隔以下の間隔におけるクランク軸26の回転速度である。また、充填効率ηは、1つの気筒内での燃焼エネルギの大きさを把握するパラメータである。充填効率ηが大きい場合には小さい場合と比較して、燃焼エネルギが大きくなることから、燃焼制御を停止している気筒と燃焼制御を継続している気筒とのエネルギ差が大きくなり、ひいては回転変動量が大きくなる。
【0063】
詳しくは、回転速度NEおよび充填効率ηを入力変数とし、振幅Aを出力変数とするマップデータがROM104に予め記憶された状態で、CPU102によって振幅Aをマップ演算する。
【0064】
次にCPU102は、HVECU120からトルク補償要求が出力されたか否かを判定する(S78)。CPU102は、トルク補償要求が出力されたと判定する場合(S78:YES)、補償トルクΔTmg2を算出する(S82)。本実施形態では、補償トルクΔTmg2を、振幅Aを有した、1燃焼サイクル周期の正弦波とする。
図6には、クランク角θを、「0~720°CA」の変数とし、正弦関数の独立変数を「(θ/2)+φ」と記載している。ここで、位相φは、適合要素である。一方、CPU102は、トルク補償要求が出力されていないと判定する場合(S78:NO)、振幅Aと上限値Tmg2thとを、HVECU120に送信する(S80)。また、CPU102は、補償トルクΔTmg2に、「0」を代入する(S84)。
【0065】
CPU102は、S82,S84の処理を完了する場合、第2要求トルクベース値Tmg2b*に補償トルクΔTmg2を加算した値と、上限値Tmg2thとのうちの小さい方を、第2要求トルクTmg2*に代入する(S86)。そして、CPU102は、第2モータジェネレータ54のトルクを第2要求トルクTmg2*に制御すべく、インバータ58に操作信号MG5を出力する(S88)。また、CPU102は、S62の処理によってHVECU120から送信された第1要求トルクTmg1*を受信する(S90)。そしてCPU102は、第1モータジェネレータ52のトルクを第1要求トルクTmg1*に制御すべく、インバータ56に操作信号MS4を出力する(S92)。
【0066】
なお、CPU102は、S92の処理を完了する場合、
図6に示す一連の処理を一旦終了する。
ここで、本実施形態の作用および効果について説明する。
【0067】
ENGECU70のCPU72は、堆積量DPMが閾値DPMth以上となる場合、内燃機関10の所定の異常診断処理を実行していないことを条件に、GPF34の再生処理を実行すべく、燃焼制御気筒の噴射量の増量係数の値KiQや、低下率Rdpを算出する。そしてCPU72は、低下率Rdpと、フューエルカット処理の許可判定のリクエスト信号とを、HVECU120に送信する。
【0068】
HVECU120のCPU122は、低下率Rdpやリクエスト信号を受信すると、MGECU100に、内燃機関10のフューエルカット処理に対する補償トルクΔTmg2の振幅Aと上限値Tmg2thをリクエストする。そして、CPU122は、補償トルクΔTmg2を用いたトルク補償を十分に実行することができるか否かを、第2要求トルクベース値Tmg2b*と振幅Aとの和と上限値Tmg2thとの大小比較に基づき判定する。そして、CPU122は、十分にトルク補償ができると判定する場合、低下率Rdpに基づき機関要求出力Pe*を、機関要求出力ベース値Peb*に対して増量補正し、増量補正された機関要求出力Pe*に基づき機関速度指令値NE*を算出する。そして、CPU122は、機関要求トルクTe*をENGECU70に送信する。
【0069】
ENGECU70のCPU72は、受信した機関要求トルクTe*に基づき、スロットル開口度指令値TA*を設定してスロットルバルブ14を操作する。これにより、機関要求出力ベース値Peb*から機関要求トルクTe*を算出する場合と比較すると、燃焼制御がなされる気筒の充填効率が上昇する。そのため、1燃焼サイクル当たりの内燃機関10の出力を、機関要求出力ベース値Peb*に制御することが可能となる。
【0070】
一方、MGECU100のCPU102では、HVECU120によって算出された第2要求トルクベース値Tmg2b*に補償トルクΔTmg2を重畳させたものに、第2モータジェネレータ54のトルクを制御する。これにより、フューエルカット処理に起因して内燃機関10のトルクが不足する際に第2モータジェネレータ54のトルクによってこれを補償することができる。したがって、駆動輪60に付与されるトルクの変動を抑制できる。特に、本実施形態では、補償トルクΔTmg2を正および負の双方の符号となりうるものとした。そのため、フューエルカット処理に起因して内燃機関10のトルクが不足する際にこれを補償するのみならず、1燃焼サイクルにおける内燃機関10と第2モータジェネレータ54とが駆動輪60に付与するトルクが過剰となることを抑制できる。すなわち、上述したように、本実施形態では、1燃焼サイクル当たりの内燃機関10の出力が機関要求出力ベース値Peb*となるように制御されている。そのため、第2モータジェネレータ54がフューエルカット処理に起因したトルクの不足分を補償するのみの場合には、1燃焼サイクルにおける出力の時間積分値が狙いとする値に対して過剰となる。
【0071】
また、MGECU100のCPU102は、バッテリ59の出力の上限値Woutに基づき第2モータジェネレータ54のトルクの上限値Tmg2thを算出する。そして、HVECU120のCPU122は、第2要求トルクベース値Tmg2b*に補償トルクΔTmg2を重畳した値が上限値Tmg2thを大きく上回る場合、第2モータジェネレータ54によってフューエルカット処理に起因したトルクの不足を十分に補償することができないとして、再生処理を禁止する。これにより、再生処理に起因して駆動輪60へとつながる駆動系のトルクが大きく不足する事態を抑制できる。
【0072】
以上説明した本実施形態によれば、さらに以下に記載する作用および効果が得られる。
(1)CPU122は、第2回転速度Nm2が大きい場合に小さい場合よりも係数Kjを小さい値に算出した。ここで、第2回転速度Nm2が大きい場合には、内燃機関10のクランク軸26の回転速度NEも大きくなる。したがって、回転速度NEが大きい場合に小さい場合よりも係数Kjが小さい値に設定される。これにより、回転速度NEが大きい場合には、再生処理を実行するうえで第2要求トルクベース値Tmg2b*に補償トルクΔTmg2を重畳した値が上限値Tmg2thを下回る量がより大きくなることが許容される。一方、回転速度NEが大きい場合には小さい場合と比較して慣性エネルギが大きいことから、回転速度NEが大きい場合には小さい場合と比較して一部の気筒で燃焼制御を停止することによるクランク軸26の回転変動が小さくなる。そのため、回転速度NEが大きい場合には、再生処理時に一部の気筒で燃焼制御を停止することに起因した車両の振動等を抑制するうえで最低限必要な補償トルクが小さくなる傾向がある。そのため、本実施形態では、再生処理を極力早期に実行することと、ユーザが感知しうる車両の振動等を抑制することとの好適な折衷を図ることができる。
【0073】
(2)CPU102は、補償トルクΔTmg2の振幅Aを、回転速度NEおよび充填効率ηに基づき可変設定した。ここで、回転速度NEはクランク軸26の慣性エネルギ量を把握するための変数であることから、一部の気筒における燃焼制御を停止することに起因したクランク軸26の回転変動量等を示す変数である。また、充填効率ηは、燃焼制御がなされている気筒の燃焼エネルギと正の相関を有するパラメータであることから、一部の気筒における燃焼制御を停止することに起因したトルク変動やクランク軸26の回転変動を示す変数である。これらの変数に基づき振幅Aを算出することにより、振幅Aを固定値とする場合と比較して、補償トルクΔTmg2を、トルクの不足を補償する上でより適切な値とすることができる。
【0074】
(3)ENGECU70のCPU72が、燃焼制御を継続する気筒における混合気の空燃比に基づき、低下率Rdpを算出した。これにより、空燃比によらずに燃焼制御を停止する気筒数のみから低下率Rdpを算出する場合と比較すると、低下率Rdpをより高精度の算出できる。そのため、HVECU120のCPU122が低下率Rdpに基づき算出する機関要求トルクTe*を、燃焼制御の停止に起因した内燃機関10の規定期間あたりの出力低下を高精度に補償する値とすることができる。
【0075】
(4)アクセル操作量ACCPの単位時間当たりの変化量が大きい場合、再生処理を禁止した。これにより、駆動輪60に付与するトルクを急激に増大させることが要求されているときに、その要求を再生処理よりも優先することによって、同要求を十分に満たすことができる。
【0076】
<対応関係>
上記実施形態における事項と、上記「課題を解決するための手段」の欄に記載した事項との対応関係は、次の通りである。以下では、「課題を解決するための手段」の欄に記載した解決手段の番号毎に、対応関係を示している。[1]動力発生装置は、内燃機関10、第1モータジェネレータ52、第2モータジェネレータ54に対応する。停止処理は、S26の処理に対応する。補償処理は、S82の処理を実行しているときのS88の処理に対応する。禁止処理は、S44~S48の処理に対応する。[2]電動機は、第2モータジェネレータ54に対応する。供給装置は、バッテリ59に対応する。付与処理は、S82の処理を実行しているときのS88の処理に対応する。[3]S44の処理において、係数Kjが第2回転速度Nm2が大きい場合に小さい場合よりも小さい値とされることに対応する。[4]振幅設定処理は、S76の処理に対応する。[5]エネルギ増量処理は、S54の処理が実行されているときのスロットル操作処理M12に対応する。[6]燃料増量処理は、再生処理M24によって増量係数KiQを出力する処理に対応する。判定処理は、S10の処理に対応する。充填効率設定処理は、S54の処理によって設定された機関要求出力Pe*に応じて定められた機関要求トルクTe*に応じてスロットル開口度指令値TA*が設定されることに対応する。[7]エネルギ増量処理は、S54の処理が実行されているときのスロットル操作処理M12に対応する。高トルク応答処理は、S46の処理において肯定される場合のS60,S64の処理に基づくスロットル操作処理M12に対応する。
【0077】
<その他の実施形態>
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0078】
「振幅設定処理について」
・
図6においては、振幅Aを、回転速度NEおよび充填効率ηに応じて設定したが、これに限らない。たとえば負荷を示す変数としては、充填効率ηに限らず、機関要求出力ベース値Peb*を機関速度指令値NE*にて除算した値であってもよい。また、回転速度NEおよび負荷を示す変数の双方に基づき振幅Aを設定することも必須ではなく、たとえば、回転速度NEおよび負荷を示す変数の2つに関しては、それらのうちのいずれか1つのみに応じて振幅Aを設定してもよい。もっとも、振幅Aを可変設定すること自体必須ではない。
【0079】
「付与処理について」
・
図6に例示した処理では、補償トルクΔTmg2を、1燃焼サイクル周期の正弦波としたが、これに限らない。たとえば、補償トルクΔTmg2を、フューエルカット処理を実行する気筒の圧縮上死点を基準とする圧縮上死点の出現間隔程度の期間に限ってゼロよりも大きくなる量としてもよい。
【0080】
「充填効率増量処理について」
・上記実施形態では、S54の処理において低下率Rdpに基づき増量補正した機関要求出力Pe*に基づき機関要求トルクTe*を算出することによって、スロットル開口度指令値TA*が増大補正され、ひいては充填効率が増量される処理を例示したが、これに限らない。たとえばスロットル開口度指令値設定処理M10が、機関要求出力Pe*から充填効率指令値を算出する処理を有する場合、機関要求出力Pe*を低下率Rdpに基づき増量補正する代わりに、充填効率指令値を低下率Rdpに基づき増量補正してもよい。
【0081】
・充填効率を上昇させるための操作量としては、スロットルバルブ14の開口度に限らない。たとえば、吸気バルブ16のバルブ特性を可変とするアクチュエータを備える場合、吸気バルブ16の開弁時期やリフト量を操作量としてもよい。
【0082】
「エネルギ増量処理について」
・再生処理による内燃機関10の1燃焼サイクル当たりの平均的な出力の低下を抑制するように再生処理の対象となっていない気筒における燃焼エネルギ量を増量する処理としては、充填効率を増量する処理に限らない。たとえば点火時期をMBTに近づける処理であってもよい。
【0083】
「補償処理について」
・たとえば「車両について」の欄に記載したように、車両の動力発生装置が内燃機関10のみからなる車両の場合、充填効率を上昇させる処理のみによって補償処理を構成してもよい。
【0084】
「禁止処理について」
・S44の処理では、係数Kjを第2回転速度Nm2に応じて可変設定したが、これに限らず、たとえば回転速度NEに応じて可変設定してもよい。
【0085】
・補償トルクΔTmg2の最大値と第2要求トルクベース値Tmg2b*との和に係数Kjを乗算した値が上限値Tmg2thを超える場合に、フューエルカット処理を禁止したが、これに限らない。たとえば係数Kjを乗算しなくてもよい。
【0086】
・補償トルクΔTmg2による補償ができるか否かを判定する処理としては、S44の処理やその上記変更例に限らない。たとえば、第2モータジェネレータ54のトルクを「Tmg2b*+ΔTrq」とするうえで必要な電力が「Wout-Pg*」以下であるか否かによって判定する処理であってもよい。
【0087】
「再生処理について」
・上記実施形態では、フューエルカットする気筒数を可変としたが、これに限らず、たとえば常時1つの気筒に制限してもよい。
【0088】
・上記実施形態では、フューエルカット処理を実行しない気筒の混合気の空燃比を可変としたが、これに限らず、理論空燃比よりもリッチ側の予め定められた値に固定してもよい。もっとも、理論空燃比よりもリッチとする処理に限らない。たとえば排気通路30に燃料を添加する添加弁を備えて再生処理に利用する場合、理論空燃比としてもよい。
【0089】
・堆積量DPMの推定処理としては、
図2において例示したものに限らない。たとえば、GPF34の上流側と下流側との圧力の差と吸入空気量Gaとに基づき堆積量DPMを推定してもよい。具体的には、圧力の差が大きい場合に小さい場合よりも堆積量DPMを大きい値に推定し、圧力の差が同一であっても、吸入空気量Gaが小さい場合に大きい場合よりも堆積量DPMを大きい値に推定すればよい。ここで、GPF34の下流側の圧力を一定値とみなす場合、差圧に代えて上記圧力Pexを用いることができる。
【0090】
「停止処理について」
・停止処理としては、再生処理に限らない。たとえば、内燃機関10の出力を調整するために一部の気筒における燃料の供給を停止する処理であってもよい。またたとえば、1部の気筒において異常が生じた場合に、その気筒における燃焼制御を停止する処理であってもよい。またたとえば、三元触媒32の酸素吸蔵量が規定値以下となる場合に、一部の気筒のみ燃焼制御を停止し、残りの気筒における混合気の空燃比を理論空燃比とする制御を実行する処理であってもよい。
【0091】
「供給装置について」
・上記実施形態では、第2モータジェネレータ54に電力を供給する供給装置として、バッテリ59を例示したが、これに限らない。たとえば、キャパシタであってもよい。またたとえば、キャパシタと燃料電池との並列接続体であってもよい。
【0092】
「後処理装置について」
・GPF34としては、三元触媒が担持されたフィルタに限らず、フィルタのみであってもよい。また、GPF34としては、排気通路30のうちの三元触媒32の下流に設けられるものに限らない。また、後処理装置がGPF34を備えること自体必須ではない。たとえば後処理装置が三元触媒32のみからなる場合であっても、その昇温処理時においては、上記実施形態やそれらの変更例に例示した処理を実行することが有効である。
【0093】
「制御装置について」
・S44の処理をMGECU100によって実行し、その判定結果をHVECU120に通知してもよい。振幅Aを算出する処理をHVECU120によって実行し、MGECU100に通知してもよい。
【0094】
・制御装置としては、互いに別の筐体を有したENGECU70、MGECU100およびHVECU120を備えるものに限らない。たとえばそれらの全てを備えた単一の駆動系ECUとして構成されるものであってもよい。
【0095】
・制御装置がCPU72,102,122とROM74,104,124とを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。たとえば、上記実施形態においてソフトウェア処理されたものの少なくとも一部を、ハードウェア処理する専用のハードウェア回路(たとえばASIC等)を備えてもよい。すなわち、制御装置は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。(a)上記処理の全てを、プログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶するROM等のプログラム格納装置とを備える。(b)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置およびプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備える。(c)上記処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備える。ここで、処理装置およびプログラム格納装置を備えたソフトウェア処理回路や、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。すなわち、上記処理は、1または複数のソフトウェア処理回路および1または複数の専用のハードウェア回路の少なくとも一方を備えた実行装置によって実行されればよい。
【0096】
「車両について」
・車両としては、シリーズ・パラレルハイブリッド車に限らず、たとえばパラレルハイブリッド車やシリーズハイブリッド車であってもよい。もっとも、ハイブリッド車に限らず、たとえば、車両の動力発生装置が内燃機関10のみの車両であってもよい。
【0097】
「そのほか」
・再生処理の実行の可否の判定にかかわる上述の所定の診断処理としては、上記実施形態において例示したものに限らない。
【符号の説明】
【0098】
10…内燃機関
12…吸気通路
14…スロットルバルブ
26…クランク軸
32…三元触媒
34…GPF
50…遊星歯車機構
52…第1モータジェネレータ
54…第2モータジェネレータ
59…バッテリ
60…駆動輪