(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】非水冷却液組成物及び冷却システム
(51)【国際特許分類】
C09K 5/10 20060101AFI20230829BHJP
C09K 21/08 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
C09K5/10 F
C09K21/08
(21)【出願番号】P 2020156332
(22)【出願日】2020-09-17
【審査請求日】2022-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】児玉 康朗
(72)【発明者】
【氏名】渡部 雅王
(72)【発明者】
【氏名】床桜 大輔
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/011889(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/011888(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K5/00-5/20
C09K21/00-21/14
B60K6/20-6/547
B60W10/00-20/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素系オイルから選択される少なくとも1種のハロゲン系難燃剤を含む、非水冷却液組成物であって、
フッ素系オイルが、クロロトリフルオロエチレン低重合物を含む、非水冷却液組成物。
【請求項2】
塩素化パラフィンから選択される少なくとも1種のハロゲン系難燃剤を含む、非水冷却液組成物。
【請求項3】
塩素化パラフィンの炭素数が、10~30である、請求項2に記載の非水冷却液組成物。
【請求項4】
鉱油及び合成油から選択される少なくとも1種の基油をさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水冷却液組成物。
【請求項5】
ハロゲン系難燃剤の含有量が、1~80質量%であり、
基油の含有量が、20~99質量%である、請求項4に記載の非水冷却液組成物。
【請求項6】
フッ素系オイルから選択される少なくとも1種のハロゲン系難燃剤を含む、非水冷却液組成物であって、
鉱油及び合成油から選択される少なくとも1種の基油をさらに含み、
フッ素系オイルが、クロロトリフルオロエチレン低重合物を含み、
ハロゲン系難燃剤の含有量が、1~55質量%であり、
基油の含有量が、45~99質量%である、非水冷却液組成物。
【請求項7】
塩素化パラフィンから選択される少なくとも1種のハロゲン系難燃剤を含む、非水冷却液組成物であって、
鉱油及び合成油から選択される少なくとも1種の基油をさらに含み、
ハロゲン系難燃剤の含有量が、1~80質量%であり、
基油の含有量が、20~99質量%である、非水冷却液組成物。
【請求項8】
ハロゲン系難燃剤及び基油の総含有量が、80~100質量%である、請求項5~7のいずれか1項に記載の非水冷却液組成物。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の非水冷却液組成物を冷媒として用いる冷却システム。
【請求項10】
走行用モーターを備える自動車に搭載される発熱機器を冷却するための、請求項
9に記載の冷却システム。
【請求項11】
発熱機器が、インバーター、コンバーター、ジェネレーター、モーター又はバッテリーである、請求項
10に記載の冷却システム。
【請求項12】
発熱機器がパワーカードを有し、非水冷却液組成物とパワーカードが物理的に接触している、請求項
10又は
11に記載の冷却システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水冷却液組成物、及び該非水冷却液組成物を用いた冷却システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車及び電気自動車等の走行用モーターを備える自動車は、電力を適切にコントロールするためのパワーコントロールユニット(PCU)を備える。PCUは、モーターを駆動するインバーターや、電圧をコントロールする昇圧コンバーター、高電圧を降圧するDCDCコンバーター等を含む。インバーター又はコンバーターは、半導体素子を内蔵したカード型パワーモジュールであるパワーカードを有し、パワーカードは、スイッチング動作に伴って発熱する。そのため、インバーターやコンバーターは、高温に発熱し得る機器である。また、走行用モーターを備える自動車における発熱機器としては、インバーター及びコンバーターの他にも、例えばバッテリーが挙げられる。したがって、走行用モーターを備える自動車には、インバーターやコンバーター、バッテリー等を冷却するための冷却システムが備え付けられる。
【0003】
例えば、特許文献1には、走行用モーターを備える自動車(例えば、電気自動車又はハイブリッド自動車)の駆動系のインバーターに用いられている半導体装置の構成が記載されている(
図1)。
図1の半導体装置2は、複数のパワーカード10と複数の冷却器3が積層されたユニットである。なお、
図1では、一つのパワーカードだけに符号10を付し、他のパワーカードには符号を省略している。また、半導体装置2の全体が見えるように、半導体装置2を収容するケース31は点線で描いてある。1個のパワーカード10は、2個の冷却器3に挟まれる。パワーカード10と一方の冷却器3との間には絶縁板6aが挟まれており、パワーカード10と他方の冷却器3との間には絶縁板6bが挟まれている。パワーカード10と絶縁板6a、6bの間には、グリスが塗布される。絶縁板6a、6bと冷却器3の間にもグリスが塗布される。なお、
図1は、理解し易いように、1個のパワーカード10と絶縁板6a、6bを半導体装置2から抜き出して描いてある。パワーカード10には半導体素子が収容されている。パワーカード10は、冷却器3を通る冷媒により冷却される。冷媒は液体であり、典型的には水である。パワーカード10と冷却器3は交互に積層されており、ユニットの積層方向の両端には冷却器3が位置している。複数の冷却器3は、連結パイプ5a、5bで連結されている。ユニットの積層方向の一端に位置する冷却器3には、冷媒供給管4aと冷媒排出管4bが連結されている。冷媒供給管4aを通じて供給される冷媒は、連結パイプ5aを通じて全ての冷却器3に分配される。冷媒は各冷却器3を通る間に隣接するパワーカード10から熱を吸収する。各冷却器3を通った冷媒は連結パイプ5bを通り、冷媒排出管4bから排出される。
【0004】
冷却液としては、鉱油等の非水系冷却液や、水を含む水系冷却液(例えばエチレングリコールと水との混合物)等が一般に用いられている。例えば、特許文献2では、水系冷却液として、(A)多価アルコール;(B)水;(C)シクロヘキサノール;及び(D)所定式で表され且つHLB値が11.0以上である非イオン性界面活性剤を含有する冷却液組成物が開示されている。水系冷却液は、一般的に、優れた冷却性を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-017228号公報
【文献】特開2020-026471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示される半導体装置の構成のように、一般に、冷却液は、パワーカードやバッテリー等の発熱機器の近くを循環しているため、冷却液には優れた絶縁性が求められる。また、パワーカード等の発熱機器が冷却液に直接接触する冷却システムでは、冷却液に優れた冷却性と難燃性の両立が求められる。そのため、冷却液は、優れた絶縁性、冷却性及び難燃性を併せ持つことが求められる。この点、一般的に用いられているエチレングリコール及び水の混合物や特許文献2に記載の組成物等の水系冷却液は、一般に、冷却性(すなわち伝熱性)に優れており、また、優れた難燃性を有するという利点を有するものの、導電率が高く、絶縁性に劣る。一方、鉱油等の非水系冷却液は、絶縁性に優れているものの、難燃性の点で改善の余地がある。
【0007】
そこで、本開示は、優れた絶縁性、冷却性及び難燃性を併せ持つ非水系の冷却液組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施形態の態様例は、以下の通りに記載される。
(1) フッ素系オイル及び塩素化パラフィンから選択される少なくとも1種のハロゲン系難燃剤を含む、非水冷却液組成物。
(2) ハロゲン系難燃剤が、フッ素系オイルを含む、(1)に記載の非水冷却液組成物。
(3) フッ素系オイルが、クロロトリフルオロエチレン低重合物を含む、(1)又は(2)に記載の非水冷却液組成物。
(4) ハロゲン系難燃剤が、塩素化パラフィンを含む、(1)に記載の非水冷却液組成物。
(5) 塩素化パラフィンの炭素数が、10~30である、(4)に記載の非水冷却液組成物。
(6) 鉱油及び合成油から選択される少なくとも1種の基油をさらに含む、(1)~(5)のいずれか1つに記載の非水冷却液組成物。
(7) ハロゲン系難燃剤の含有量が、1~80質量%であり、
基油の含有量が、20~99質量%である、(6)に記載の非水冷却液組成物。
(8) 鉱油及び合成油から選択される少なくとも1種の基油をさらに含み、
ハロゲン系難燃剤が、フッ素系オイルを含み、
ハロゲン系難燃剤の含有量が、1~55質量%であり、
基油の含有量が、45~99質量%である、(1)に記載の非水冷却液組成物。
(9) 鉱油及び合成油から選択される少なくとも1種の基油をさらに含み、
ハロゲン系難燃剤が、塩素化パラフィンを含み、
ハロゲン系難燃剤の含有量が、1~80質量%であり、
基油の含有量が、20~99質量%である、(1)に記載の非水冷却液組成物。
(10) ハロゲン系難燃剤及び基油の総含有量が、80~100質量%である、(7)~(9)のいずれか1つに記載の非水冷却液組成物。
(11) 20℃における導電率が、0.1μS/cm以下である、(1)~(10)のいずれか1つに記載の非水冷却液組成物。
(12) (1)~(11)のいずれか1つに記載の非水冷却液組成物を冷媒として用いる冷却システム。
(13) 走行用モーターを備える自動車に搭載される発熱機器を冷却するための、(12)に記載の冷却システム。
(14) 発熱機器が、インバーター、コンバーター、ジェネレーター、モーター又はバッテリーである、(13)に記載の冷却システム。
(15) 発熱機器がパワーカードを有し、非水冷却液組成物とパワーカードが物理的に接触している、(13)又は(14)に記載の冷却システム。
【発明の効果】
【0009】
本開示により、優れた絶縁性、冷却性及び難燃性を併せ持つ非水系の冷却液組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】走行用モーターを備える自動車の駆動系のインバーターに用いられている半導体装置の構成例を示す模式的斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態は、フッ素系オイル及び塩素化パラフィンから選択される少なくとも1種のハロゲン系難燃剤を含む、非水冷却液組成物である。
【0012】
本実施形態に係る非水冷却液組成物は、優れた絶縁性、冷却性及び難燃性を併せ持つ。特に、本実施形態に係る非水冷却液組成物は、優れた絶縁性及び難燃性を有するため、ショート等の発生を抑制することができる。また、本実施形態に係る非水冷却液組成物は、優れた冷却性もさらに有する。そのため、ハイブリッド車や電気自動車等の走行用モーターを備える自動車において、好ましく用いることができる。
【0013】
本実施形態に係る非水冷却液組成物の別の効果として、以下の点も挙げられる。本実施形態におけるハロゲン系難燃剤は、イオン溶出性が低い。そのため、本実施形態に係る非水冷却液組成物は、冷却システムに用いられる冷媒管(例えばゴム製)等からイオンが溶出し難く、長期使用に伴う導電率の増加が少ない。そのため、本実施形態に係る非水冷却液組成物は、優れた絶縁性を長期間保持することができる。
【0014】
本実施形態に係る非水冷却液組成物の別の効果として、以下の点も挙げられる。従来、一般的に使用されるエチレングリコールベースの水系冷却液は、冷却性に優れる一方で、絶縁性に劣る。そのため、
図1に示すように、冷却対象の部品側を絶縁構造にする必要があった。具体的には、
図1に示すように、絶縁板(
図1の6a、6b)を設けて、電子機器と非水冷却液組成物との間の絶縁性を確保する必要があった。しかし、絶縁板を設置すると、非水冷却液組成物と電子機器との間の伝熱効率が低下するため、結果として冷却システムの冷却性能は低下してしまう。本実施形態に係る非水冷却液組成物は絶縁性に優れるため、絶縁板の設置を不要とすることができ、結果として、冷却性能に優れる冷却システムを提供することができる。
【0015】
本実施形態に係る非水冷却液組成物の別の効果として、以下の点も挙げられる。電子機器の冷却手段の例として、電子機器を非水冷却液組成物中に少なくとも部分的に(部分的に又は完全に)浸漬させる方法がある。例えば、冷却のために、パワーカードを非水冷却液組成物と物理的に接触させて配置することができる。このような冷却構造は、熱伝導効率に非常に優れているが、電子機器と非水冷却液組成物が直接接するため、非水冷却液組成物に優れた絶縁性が求められる。本実施形態に係る非水冷却液組成物は、優れた絶縁性を有するとともに、非毒性であり、腐食を起こし難いため、このような冷却構造を有する冷却システムにも好ましく用いることができる。
【0016】
以下、本実施形態について詳細に説明する。
【0017】
1.非水冷却液組成物
本実施形態に係る非水冷却液組成物は、非水系である。本明細書において、非水系とは、水を実質的に含まないことを意味し、「水を実質的に含まない」とは、非水冷却液組成物が本実施形態の効果の発現を妨げるような含有量の範囲で水を含まないことを意味し、好ましくは、水の非水冷却液組成物中の含有量が1.0質量%以下であることを意味し、好ましくは、水の非水冷却液組成物中の含有量が0.5質量%以下であることを意味し、好ましくは、水の非水冷却液組成物中の含有量が0.1質量%以下であることを意味し、好ましくは、水の非水冷却液組成物中の含有量が0.01質量%以下であることを意味し、好ましくは、水の非水冷却液組成物中の含有量が0質量%(検出不可)であることを意味する。
【0018】
本実施形態に係る非水冷却液組成物は、非水系基剤として、フッ素系オイル及び塩素化パラフィンから選択される少なくとも1種のハロゲン系難燃剤を含む。ハロゲン系難燃剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
本実施形態におけるハロゲン系難燃剤(フッ素系オイル又は塩素化パラフィン)は、特に、低い導電率(優れた絶縁性)及び高い引火点(優れた難燃性)を有する。また、本実施形態におけるハロゲン系難燃剤のイオン溶出性は低いため、冷媒管(例えばゴム製)等からのイオンの溶出を抑制することができる。その結果、本実施形態におけるハロゲン系難燃剤は、優れた絶縁性を非水冷却液組成物に長期間付与することができる。
【0020】
ハロゲン系難燃剤の分子量は、好ましくは、100~1200の範囲内であり、150~1000の範囲内であり、200~800の範囲内である。ハロゲン系難燃剤の分子量がこれらの範囲内である場合、粘度上昇を抑制し、高い冷却性を得ることができる。
【0021】
フッ素系オイルは、フッ素原子を含有するオイルであれば、特に制限されるものではない。フッ素系オイルとしては、好ましくは、フッ素原子を含有する電気絶縁性のオイルである。フッ素系オイルとしては、例えば、クロロトリフルオロエチレン低重合物、パーフルオロポリエーテル油、パーフルオロアルキルエーテル、又はフッ素変性シリコーンオイル等を挙げることができる。これらの中でも、クロロトリフルオロエチレン低重合物が好ましい。フッ素原子は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
フッ素系オイルの市販品としては、例えば、「クライトックス(登録商標)GPL102」(ケマーズ社製)、「ダイフロイル(登録商標)#1」、「ダイフロイル#3」、「ダイフロイル#10」、「ダイフロイル#20」、「ダイフロイル#50」、「ダイフロイル#100」、「デムナム(登録商標)S-65」(ダイキン工業社製)等が挙げられる。
【0023】
フッ素系オイルに含有されるフッ素の原子数Aと炭素の原子数Bの比(A/B)は、好ましくは1.0~2.0であり、好ましくは1.5~2.0である。
【0024】
フッ素系オイルの25℃における動粘度は、好ましくは1mm2/s~50mm2/sであり、好ましくは1mm2/s~20mm2/sである。
【0025】
フッ素系オイルの平均分子量は、例えば、100~1200であり、好ましくは200~1000であり、好ましくは300~800であり、好ましくは400~600である。フッ素系オイルの平均分子量がこれらの範囲内である場合、粘度上昇を抑制し、高い冷却性を保持することができる。
【0026】
クロロトリフルオロエチレン低重合物は、クロロトリフルオロエチレンの重合物である。クロロトリフルオロエチレン低重合物は、下記式(1)で表される繰り返し構造単位を有する化合物である。
【0027】
【化1】
[(式(1)中、nは、2以上の整数である。]
【0028】
クロロトリフルオロエチレン低重合物の平均分子量は、好ましくは100~1200であり、好ましくは200~1000であり、好ましくは300~800であり、好ましくは400~600である。
【0029】
クロロトリフルオロエチレン低重合物の25℃における動粘度は、好ましくは50mm2/s以下であり、好ましくは40mm2/s以下であり、好ましくは30mm2/s以下であり、好ましくは25mm2/s以下である。クロロトリフルオロエチレン低重合物の25℃における動粘度が50mm2/s以下である場合、非水冷却液組成物の冷却性を効果的に向上することができる。なお、動粘度は、JIS K2283に従って測定することができる。
【0030】
塩素化パラフィンは、アルカンに塩素を結合させた有機塩素化合物の総称である。塩素化パラフィンは、塩素とノルマルパラフィン又はパラフィンワックスを原料とし、様々な塩素化率の製品が提供されている。塩素化パラフィンは、特に、優れた絶縁性及び難燃性を有する。また、塩素化パラフィンのイオン溶出性は低いため、冷媒管(例えばゴム製)等からのイオンの溶出を抑制することができる。その結果、塩素化パラフィンは、優れた絶縁性を非水冷却液組成物に長期間付与することができる。
【0031】
塩素化パラフィンの炭素数は、例えば、10~30である。塩素化パラフィンとしては、例えば、炭素数10~13である短鎖塩素化パラフィン、炭素数14~17である中鎖塩素化パラフィン、又は炭素数18~30である長鎖塩素化パラフィンが挙げられる。これらのうち、冷却性の観点から、炭素数10~13である短鎖塩素化パラフィン、炭素数14~17である中鎖塩素化パラフィンが好ましい。
【0032】
塩素化パラフィンの平均分子量は、好ましくは100~1200であり、好ましくは200~1000であり、好ましくは300~800であり、好ましくは400~600である。塩素化パラフィンの平均分子量がこれらの範囲内である場合、粘度上昇を抑制し、高い冷却性を得ることができる。
【0033】
塩素化パラフィンの市販品としては、例えば、「エンパラ(登録商標)40」、「エンパラ70」、「エンパラK-45」、「エンパラK-47」、「エンパラK-50」、「エンパラAR-500」(味の素ファインテクノ社製)、「トヨパラックス(登録商標)250」、「トヨパラックス265」、「トヨパラックス270」、「トヨパラックス150」、又は「トヨパラックスA-50」(東ソー社製)等が挙げられる。
【0034】
ハロゲン系難燃剤の非水冷却液組成物中の含有量は、例えば、1質量%以上であり、好ましくは5質量%以上であり、好ましくは10質量%以上であり、好ましくは20質量%以上であり、好ましくは30質量%以上である。ハロゲン系難燃剤の含有量が多い程、非水冷却液組成物の難燃性を向上することができる。ハロゲン系難燃剤の非水冷却液組成物中の含有量は、例えば、100質量%以下であり、好ましくは90質量%以下であり、好ましくは80質量%以下であり、好ましくは70質量%以下である。
【0035】
本実施形態に係る非水冷却液組成物は、上記ハロゲン系難燃剤に加えて、鉱油及び合成油から選択される少なくとも1種の基油を含むことが好ましい。すなわち、一実施形態において、非水冷却液組成物は、非水系基剤として、上記ハロゲン系難燃剤の他に、鉱油及び合成油から選択される少なくとも1種の基油を含む。他の非水系基剤としてこれらの基油を含むことにより、非水冷却液組成物の優れた絶縁性、冷却性及び難燃性を効率的に実現することができる。また、基油とハロゲン系難燃剤は、相溶性が高く、混合しても相分離等の問題が生じ難い。そのため、ハロゲン系難燃剤と基油を含む非水冷却液組成物は、上記利点に加えて、液体組成物として良好な安定性を有する冷却液である。鉱油としては、例えば、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油、又はこれらの混合物が挙げられる。合成油としては、例えば、エステル系合成油、合成炭化水素油、シリコーン油、フッ素化油、又はこれらの混合物が挙げられる。基油としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0036】
基油の動粘度(40℃)は、特に制限されるものではないが、例えば、0.5~100mm2/sであり、好ましくは0.5~20mm2/sであり、好ましくは0.5~10mm2/sである。
【0037】
基油の非水冷却液組成物中の含有量は、好ましくは10質量%以上であり、好ましくは20質量%以上であり、好ましくは30質量%以上である。
【0038】
非水冷却液組成物がハロゲン系難燃剤及び基油を含む場合、好ましくは、ハロゲン系難燃剤の非水冷却液組成物中の含有量が1~80質量%であり、基油の非水冷却液組成物中の含有量が20~99質量%であり、好ましくは、ハロゲン系難燃剤の非水冷却液組成物中の含有量が10~80質量%であり、基油の非水冷却液組成物中の含有量が20~90質量%であり、好ましくは、ハロゲン系難燃剤の非水冷却液組成物中の含有量が20~70質量%であり、基油の非水冷却液組成物中の含有量が30~80質量%である。
【0039】
非水冷却液組成物がフッ素系オイル及び基油を含む場合、好ましくは、フッ素系オイルの非水冷却液組成物中の含有量が1~55質量%であり、基油の非水冷却液組成物中の含有量が45~99質量%であり、好ましくは、フッ素系オイルの非水冷却液組成物中の含有量が10~50質量%であり、基油の非水冷却液組成物中の含有量が50~90質量%であり、好ましくは、フッ素系オイルの非水冷却液組成物中の含有量が15~45質量%であり、基油の非水冷却液組成物中の含有量が55~85質量%である。
【0040】
非水冷却液組成物が塩素化パラフィン及び基油を含む場合、好ましくは、塩素化パラフィンの非水冷却液組成物中の含有量が1~80質量%であり、基油の非水冷却液組成物中の含有量が20~99質量%であり、好ましくは、塩素化パラフィンの非水冷却液組成物中の含有量が10~80質量%であり、基油の非水冷却液組成物中の含有量が20~90質量%であり、好ましくは、塩素化パラフィンの非水冷却液組成物中の含有量が20~70質量%であり、基油の非水冷却液組成物中の含有量が30~80質量%である。
【0041】
ハロゲン系難燃剤及び基油の非水冷却液組成物中の総含有量は、好ましくは80~100質量%であり、好ましくは85質量%以上であり、好ましくは90質量%以上であり、好ましくは95質量%以上であり、好ましくは98質量%以上であり、好ましくは100質量%である。
【0042】
非水冷却液組成物、上記ハロゲン系難燃剤及び基油以外に、他の非水系基剤を含んでもよいし、含まなくてもよい。他の非水系基剤の非水冷却液組成物中の含有量は、例えば、0.1~10質量%であり、好ましくは5質量%以下であり、好ましくは1質量%以下である。
【0043】
本実施形態に係る非水冷却液組成物は、上述の成分以外に、抗酸化剤、防錆剤、摩擦緩和剤、防食剤、粘度指数改良剤、流動点降下剤、分散剤/界面活性剤、耐摩耗剤、又は固体潤滑剤等の添加剤を含んでもよいし、含まなくてもよい。添加剤の非水冷却液組成物中の含有量は、例えば、0.1~20質量%であり、好ましくは10質量%以下であり、好ましくは5質量%以下であり、好ましくは1質量%以下である。
【0044】
本実施形態に係る非水冷却液組成物の動粘度(20℃)は、例えば、0.1~100mm2/sであり、好ましくは、0.1~10mm2/sである。
【0045】
非水冷却液組成物は冷却システム中で強制的に循環されるため、粘度は低い方が好ましい。非水冷却液組成物の粘度は、例えば、添加する基油の粘度とその量で調整することができる。
【0046】
本実施形態に係る非水冷却液組成物の導電率(20℃)は、好ましくは0.1μS/cm以下であり、好ましくは0.01μS/cm以下であり、好ましくは0.001μS/cm以下である。
【0047】
2.冷却システム
本実施形態に係る非水冷却液組成物は、冷却システムに用いられ、好ましくは、走行用モーターを備える自動車に備えられる冷却システムに用いられる。すなわち、本実施形態の一態様は、本実施形態に係る非水冷却液組成物を冷媒として用いる冷却システムである。また、本実施形態の一態様は、走行用モーターを備える自動車に搭載される発熱機器を冷却するための冷却システムである。また、本実施形態の一態様は、本実施形態に係る冷却システム、及び該冷却システムで冷却される発熱機器を有する、走行用モーターを備える自動車である。
【0048】
本明細書における「走行用モーターを備える自動車」には、エンジンを備えず走行用モーターだけを動力源として備える電気自動車と、走行用モーター及びエンジンの両者を動力源として備えるハイブリッド車の双方を含む。また、燃料電池車も「走行用モーターを備える自動車」に含まれる。
【0049】
環境問題対策の一つとして、モーターの駆動力により走行するハイブリッド車、燃料電池車、電気自動車等の走行用モーターを備える自動車が注目されている。このような自動車において、モーター、ジェネレーター、インバーター、コンバーター及びバッテリーなどの発熱機器は高温に発熱するため、これらの発熱機器を冷却する必要がある。本実施形態に係る非水冷却液組成物は、上述の通り、優れた絶縁性、冷却性及び難燃性を兼ね備えており、ショート等が起こり難く、また、冷却性に優れている。そのため、走行用モーターを備える自動車における冷却システムに好ましく用いることができる。
【0050】
冷却システムは、例えば、冷媒である非水冷却液組成物が流れる冷媒管、非水冷却液組成物を収容するリザーブタンク、非水冷却液組成物を循環経路内で循環させるための循環装置、又は非水冷却液組成物の温度を低下させるための冷却装置を含む。循環装置としては、例えば、電動ポンプが挙げられる。冷却装置としては、例えば、ラジエーター、チラー又はオイルクーラーが挙げられる。冷却システムの冷却対象は、インバーター、コンバーター、ジェネレーター、モーター又はバッテリー等の発熱機器である。
【0051】
冷却システムの構成は、特に制限されるものではない。冷却システムは、例えば、冷媒管、リザーブタンク、電動ポンプ、ラジエーター、及び発熱機器に備えられた冷却ユニットを含む。冷却ユニットは、発熱機器から熱を受け取る部分であり、例えば、
図1の冷却器3が冷却ユニットに相当する。例えば、非水冷却液組成物は、電動ポンプによりリザーブタンクから汲み上げられた後、冷却ユニットで発熱機器を冷却し、その後、下流のラジエーターを経由し、リザーブタンクに戻る。冷却ユニットを冷却した非水冷却液組成物は、その温度が上昇するため、ラジエーターにより温度上昇した非水冷却液組成物の温度が下げられる。また、冷媒管の途中にオイルクーラーを配置し、このオイルクーラーによりモーターを冷却する構成を採用することもできる。
【0052】
本実施形態に係る冷却システムは、走行用モーターを備える自動車に用いられることが好ましい。すなわち、本実施形態の一態様は、本実施形態に係る冷却システムを備える走行用モーターを備える自動車である。また、本実施形態の一態様は、本実施形態に係る冷却システムを備える電気自動車、ハイブリッド車又は燃料電池車である。
【0053】
また、上述したように、本実施形態に係る非水冷却液組成物は、絶縁性に非常に優れるとともに、非毒性であり、腐食を起こし難いため、電子機器を非水冷却液組成物中に少なくとも部分的に(部分的に又は完全に)浸漬させる冷却構造を有する冷却システムに好ましく用いることができる。電子機器としては、例えば、半導体素子を内蔵したパワーカードやCPUが挙げられる。このような冷却システムの具体的な形態は、例えば、米国特許第7,403,392号又は米国特許出願公開第2011/0132579号に見出すことができる。具体的には、本実施形態の一態様は、発熱機器がパワーカードを有し、非水冷却液組成物とパワーカードが物理的に接触している、走行用モーターを備える自動車である。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を挙げて本実施形態を説明するが、本開示はこれらの例によって限定されるものではない。
【0055】
<材料>
・クロロトリフルオロエチレン低重合物(ダイフロイル#1、ダイキン工業社製、平均分子量500)
・塩素化パラフィン(エンパラK-50、味の素ファインテクノ社製)
・鉱油:動粘度(20℃)0.1~10mm2/s
・従来LLC(トヨタ純正、商品名:スーパーロングライフクーラント、エチレングリコールと添加剤を含む。)
・エチレングリコール(東京化成工業社製)(以下、EGとも称す。)
・イオン交換水
【0056】
<調製方法>
下記表1及び表2に記載の組成で各材料を混合し、非水冷却液組成物を調製した。
【0057】
<導電率>
各非水冷却液組成物の20℃における導電率は、導電率測定機(横河電機株式会社製、パーソナルSCメータSC72、検出器:SC72SN-11)を用いて測定した。結果を表1及び表2に示す。
【0058】
<冷却性>
各非水冷却液組成物の冷却性について、冷媒として各非水冷却液組成物を用いたラジエーターにおける冷却性能を下記式で算出した。結果を表1及び表2に示す。
【0059】
冷媒は、入口温度が65℃となるように調整した。その他の条件は、以下の通りである。ラジエーターへの送風量:4.5m/sec、冷媒流量:10L/min、冷媒と外気の温度差:40℃(冷媒:65℃、外気:25℃)。
【0060】
【数1】
Q
W:冷却性能、V
W:冷媒の流量、γ
W:冷媒の密度、C
PW:冷媒の比熱、t
W1:冷媒の入口温度、t
W2:冷媒の出口温度
【0061】
<難燃性>
各非水冷却液組成物の引火点を、ASTM D93に準拠して測定し、難燃性を以下の基準に基づいて評価した。
【0062】
A:150℃以上
B:140℃以上150℃未満
C:140℃未満
【0063】
結果を表1及び表2に示す。なお、比較例1~3については、引火点が存在しないため、表1及び2において「-」と示した。
【0064】
【0065】
【0066】
いずれの実施例の非水冷却液組成物も、導電率が0.0009μS/cm未満であり、優れた絶縁性を有していた。また、いずれの実施例の非水冷却液組成物を用いたラジエーターの冷却性能も190W/K以上であり、いずれの実施例の非水冷却液組成物も実用に十分な冷却性を有していた。また、いずれの実施例の非水冷却液組成物も、引火点が鉱油(比較例4)のものよりも高くなっており、改善された引火点を有していた。特に、ハロゲン系難燃剤の含量が多くなるに従って、難燃性が向上した。一方、従来の非水冷却液組成物の構成(エチレングリコールと水の混合物又は水単独)を有する比較例1~3では、導電率が高くなり、絶縁性が不十分であった。
【0067】
以上の結果より、本実施形態に係る非水冷却液組成物が、優れた絶縁性、冷却性及び難燃性を有することが実証された。
【0068】
本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語及び科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0069】
本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。したがって、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」等)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。
【0070】
本明細書中に記載した数値範囲の上限値及び/又は下限値は、それぞれ任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。例えば、数値範囲の上限値及び下限値を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、数値範囲の上限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、また、数値範囲の下限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。
【0071】
以上、本実施形態を詳述してきたが、本開示の具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本開示に含まれるものである。
【符号の説明】
【0072】
2:半導体装置
3:冷却器
4a:冷媒供給管
4b:冷媒排出管
5a、5b:連結パイプ
6a、6b:絶縁板
10:パワーカード
31:ケース