(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】Niペーストおよび積層セラミックコンデンサ
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20230829BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
H01G4/30 201D
H01B1/22 A
H01G4/30 516
(21)【出願番号】P 2020553736
(86)(22)【出願日】2019-10-11
(86)【国際出願番号】 JP2019040151
(87)【国際公開番号】W WO2020090415
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-08-17
(31)【優先権主張番号】P 2018205568
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000186762
【氏名又は名称】昭栄化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡村 寛志
(72)【発明者】
【氏名】秋本 裕二
【審査官】木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-145119(JP,A)
【文献】特開2017-28246(JP,A)
【文献】特開2011-199252(JP,A)
【文献】特開2000-63901(JP,A)
【文献】特開平4-305021(JP,A)
【文献】国際公開第2014/024592(WO,A1)
【文献】特開2010-189252(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/30
H01G 4/008
H01B 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)Niを主とする導電性粉末と、
(B)バインダ樹脂と、
(C)有機溶剤と、
(D)Snと、Ta及びNbのうちのずれか一方又は両方と、を含むパイロクロア型酸化物と、
を含有し、
前記パイロクロア型酸化物の含有量が、(A)Niを主とする導電性粉末100質量部に対して、0.05~2.0質量部であること、
を特徴とするNiペースト。
【請求項2】
前記パイロクロア型酸化物の含有量が、前記(A)Niを主とする導電性粉末100質量部に対して、0.1~0.6質量部であることを特徴とする請求項1記載のNiペースト。
【請求項3】
前記パイロクロア型酸化物が、下記一般式(1):
Sn
2+
2-xM
zSn
4+
yO
7-x-y/2 (1)
(式中、MはTa及びNbのうちのいずれか1種又は2種であり、xは0~0.6、yは0~0.5、y+z=2である。)
で表されるパイロクロア型酸化物であることを特徴とする請求項1又は2いずれか1項記載のNiペースト。
【請求項4】
複数のセラミック誘電体層と、Niを含む複数の内部電極層と、が交互に積層されているセラミック積層体と、
前記セラミック積層体の外表面に形成されている外部電極と、
を備え、
前記内部電極層が、請求項1~3いずれか1項記載のNiペーストが900~1400℃で焼成された焼成物で形成されていること、
を特徴とする積層セラミックコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信頼性の高い積層セラミックコンデンサを製造するための内部電極形成用等のNiペーストと、これを用いて製造される積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年のエレクトロニクス技術の発展に伴い、積層セラミックコンデンサに対する小型化および大容量化の要求がさらに高まっている。これらの要求を満たすために、積層セラミックコンデンサを構成する誘電体層の薄層化が進められている。しかし、誘電体層を薄層化すると、1層あたりに加わる電界強度が相対的に高くなる。そこで、電圧印加時における信頼性の向上が求められる。
【0003】
ここで、積層セラミックコンデンサは、一般に次のようにして製造される。先ず、誘電体セラミック原料粉末を樹脂バインダ中に分散させ、シート化してなるセラミックグリーンシートに、導電性粉末と所望によりセラミック粉末等を含む無機粉末、樹脂バインダおよび溶剤を主成分とする内部電極用の導電性ペーストを所定のパターンで印刷し、乾燥して溶剤を除去し、内部電極乾燥膜を形成する。次いで、得られた内部電極乾燥膜を有するセラミックシートを複数枚積み重ね、圧着して積層体とし、所定の形状に切断した後、高温で焼成してセラミック素体を得る。この後、セラミック素体の両端面に外部電極用の導電性ペーストを塗布した後、焼成して積層セラミックコンデンサを得る。なお、外部電極は、未焼成の積層体に外部電極用ペーストを塗布し、セラミック素体と同時に焼成されることもある。そして、内部電極としてはNiを主成分として用いたものが知られている(例えば、特許文献1)。
【0004】
内部電極にNiを主成分として用いた積層セラミックコンデンサを製造する際には、Niの酸化を防止するために還元雰囲気で焼成を行う必要があるが、この際、誘電体層に酸素欠損が導入されてしまい、それが高温負荷寿命の低下を引き起こすという問題があった。
【0005】
そこで、特許文献2には、NiにSnが固溶した内部電極を用いることにより、誘電体層と電極層の界面の電気的障壁の高さが変化し、高温負荷寿命を達成しようとしている発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-101926
【文献】WO2012/111592
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、NiにSnが固溶するとNiの融点が低下し焼結が促進されるため、焼成時に電極層の各所でボールアップが起こり易くなり、電極膜の連続性を低下させることとなる。そして、電極膜の連続性の低下はコンデンサの容量低下を招く。
【0008】
そこで、本発明の目的は、NiへのSn固溶による融点降下を極力抑え、且つ、高温負荷寿命を向上することができる内部電極用のNiペーストを提供することにある。また、本発明の目的は、誘電体層の更なる薄層化および高電界強度の電圧印加が行われても、優れた信頼性を示す積層セラミックコンデンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、以下の本発明により解決される。
すなわち、本発明(1)は、(A)Niを主とする導電性粉末と、
(B)バインダ樹脂と、
(C)有機溶剤と、
(D)Snと、Ta及びNbのうちのずれか一方又は両方と、を含むパイロクロア型酸化物と、
を含有し、
前記パイロクロア型酸化物の含有量が、(A)Niを主とする導電性粉末100質量部に対して、0.05~2.0質量部であること、
を特徴とするNiペーストを提供するものである。
【0010】
また、本発明(2)は、前記パイロクロア型酸化物の含有量が、前記(A)Niを主とする導電性粉末100質量部に対して、0.1~0.6質量部であることを特徴とする(1)のNiペーストを提供するものである。
【0011】
また、本発明(3)は、前記パイロクロア型酸化物が、下記一般式(1):
Sn2+
2-xMzSn4+
yO7-x-y/2 (1)
(式中、MはTa及びNbのうちのいずれか1種又は2種であり、xは0~0.6、yは0~0.5、y+z=2である。)
で表されるパイロクロア型酸化物であることを特徴とする(1)又は(2)いずれかのNiペーストを提供するものである。
【0012】
また、本発明(4)は、複数のセラミック誘電体層と、Niを含む複数の内部電極層と、が交互に積層されているセラミック積層体と、
前記セラミック積層体の外表面に形成されている外部電極と、
を備え、
前記セラミック誘電体層と前記内部電極層との界面に、Snと、Ta及びNbのうちのずれか一方又は両方と、を含む複合酸化物が存在すること、
を特徴とする積層セラミックコンデンサを提供するものである。
【0013】
また、本発明(5)は、複数のセラミック誘電体層と、Niを含む複数の内部電極層と、が交互に積層されているセラミック積層体と、
前記セラミック積層体の外表面に形成されている外部電極と、
を備え、
前記内部電極層が、(1)~(3)いずれかのNiペーストが900~1400℃で焼成された焼成物で形成されていること、
を特徴とする積層セラミックコンデンサを提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、NiへのSn固溶による融点降下を極力抑え、且つ、高温負荷寿命を向上することができる内部電極用のNiペーストを提供することができる。また、本発明によれば、誘電体層の更なる薄層化および高電界強度の電圧印加が行われても、優れた信頼性を示す積層セラミックコンデンサを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のNiペーストは、
(A)Niを主とする導電性粉末と、
(B)バインダ樹脂と、
(C)有機溶剤と、
(D)Snと、Ta及びNbのうちのずれか一方又は両方と、を含むパイロクロア型酸化物と、
を含有し、
前記パイロクロア型酸化物の含有量が、前記(A)Niを主とする導電性粉末100質量部に対して、0.05~2.0質量部であること、
を特徴とするNiペーストである。
【0016】
本発明のNiペーストは、積層セラミックコンデンサの内部電極形成用途に好適に用いられ、また、積層セラミックアクチュエータ等の他のセラミック電子部品へも適用可能である。
【0017】
本発明のNiペーストは、少なくとも、(A)Niを主とする導電性粉末、(B)バインダ樹脂と、(C)有機溶剤と、(D)Snと、Ta及びNbのうちのいずれか一方又は両方と、を含むパイロクロア型酸化物と、を含有する。
【0018】
本発明のNiペーストに係る(A)Niを主とする導電性粉末は、内部電極の形成用のNiペーストにおいて、導電性粉末として用いられ、Niを主として含有する粉末である。(A)Niを主とする導電性粉末としては、金属Niのみからなる粉末が挙げられる。また、(A)Niを主とする導電性粉末としては、本発明の作用効果を奏する限りにおいて、Niと他の化合物との複合粉末、Niと他の化合物との混合粉末、Niと他の金属との合金粉末等が挙げられる。Niと他の化合物との複合粉末としては、例えば、Ni粉末の表面がガラス質薄膜で被覆されている複合粉末、Ni粉末の表面が酸化物で被覆されている複合粉末、Ni粉末の表面が有機金属化合物、界面活性剤、脂肪酸類などで表面処理された複合粉末が挙げられる。Niと他の化合物との混合粉末としては、例えば、Ni粉末と、後述する共材粉末などとの混合粉末が挙げられる。また合金粉末において利用可能な他の金属としては、Niと合金化する際に融点降下を起こしにくい金属であれば良く、一例としてCu、Ag、Pd、Pt、Rh、Ir、Re、Ru、Os、In、Ga、Zn、Bi、Pb、Fe、V、Y等が挙げられる。(A)Niを主とする導電性粉末中のNi含有量は、本発明の作用効果を奏する限りにおいて、特に制限されないが、好ましくは60質量%以上、特に好ましくは80質量%以上、更に好ましくは100質量%である。
【0019】
(A)Niを主とする導電性粉末の平均粒径は、特に限定されないが、好ましくは0.05~1.0μmである。(A)Niを主とする導電性粉末の平均粒径が上記範囲内にあることにより、緻密で平滑性が高く、薄い内部電極層が形成され易くなる。なお、本明細書において数値範囲を示す符号「~」は、特に断らない限り、符号「~」の前後に記載された数値を含む範囲を示すものとする。すなわち、例えば「0.05~1.0」という表記は、特に断らない限り、「0.05以上1.0以下」と同義である。
【0020】
本発明のNiペースト中、(A)Niを主とする導電性粉末の含有量は、特に制限されず、Niペーストの仕上がり粘度、印刷性、保存安定性等々を考慮して、通常は30~95質量%の範囲で、適宜選択される。また、本発明のNiペースト中の(A)Niを主とする導電性粉末の含有量としては、50~95質量%の範囲で選択されてもよい。
【0021】
本発明のNiペーストに係る(B)バインダ樹脂は、内部電極形成用の導電性ペーストに使用可能なものであれば、特に制限されない。(B)バインダ樹脂としては、内部電極形成用の導電性ペーストとして一般的に使用されているもの、例えば、エチルセルロースなどのセルロース系樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ブチラール樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ロジン等が挙げられる。
【0022】
本発明のNiペーストにおける(B)バインダ樹脂の含有量は、特に制限されず、(A)Niを主とする導電性粉末100質量部に対し、通常は0.1~30質量部、好ましくは1~15質量部である。
【0023】
本発明のNiペーストに係る(C)有機溶剤は、(B)バインダ樹脂を溶解するものであれば特に限定されず、例えば、アルコール系、エーテル系、エステル系、炭化水素系等の溶剤やこれらの混合溶剤が挙げられる。
【0024】
本発明のNiペーストに係る(D)Snと、Ta及びNbのうちのずれか一方又は両方と、を含むパイロクロア型酸化物は、SnとTaとからなる複合酸化物、SnとNbとからなる複合酸化物又はSnとTaとNbとからなる複合酸化物であり、且つ、パイロクロア型の構造有する酸化物である。本発明のNiペーストが、(D)SnとTa及びNbのうちのずれか一方又は両方とを含むパイロクロア型酸化物を含有することにより、焼成後の積層セラミックコンデンサの高温負荷寿命が向上する。(D)SnとTa及びNbのうちのずれか一方又は両方とを含むパイロクロア型酸化物は、本発明の効果を奏する限り、Sn、Ta及びNb以外の金属元素を含んでいてもよい。
【0025】
本発明のNiペースト中、(D)SnとTa及びNbのうちのずれか一方又は両方とを含むパイロクロア型酸化物の含有量は、(A)Niを主とする導電性粉末100質量部に対して、0.05~2.0質量部、好ましくは0.1~0.6質量部である。本発明のNiペースト中の(D)SnとTa及びNbのうちのずれか一方又は両方とを含むパイロクロア型酸化物の含有量が上記範囲にあることにより、電極層および誘電体層側への元素拡散が極力抑えられ、効率良くかつ確実に高温負荷寿命が向上する。一方、Niペースト中の(D)SnとTa及びNbのうちのずれか一方又は両方とを含むパイロクロア型酸化物の含有量が、上記範囲を超えて多くなると、高温負荷寿命向上が少なくなる傾向にあり、また、寿命のバラツキが大きくなる。また、Niペースト中の(D)SnとTa及びNbのうちのずれか一方又は両方とを含むパイロクロア型酸化物の含有量が、上記範囲未満だと、上記高温負荷寿命の向上効果が得られない。
【0026】
(D)SnとTa及びNbのうちのずれか一方又は両方とを含むパイロクロア型酸化物は、Sn2(Ta,Nb)2O7を基本にしたパイロクロア構造を有しているが、従前から
知られているように、パイロクロア構造は次の一般式(1)で表される範囲内で単相を保つことができる。
【0027】
(D)SnとTa及びNbのうちのずれか一方又は両方とを含むパイロクロア型酸化物は、好ましくは下記一般式(1):
Sn2+
2-xMzSn4+
yO7-x-y/2 (1)
(式中、MはTa及びNbのうちのいずれか1種又は2種であり、xは0~0.6、yは0~0.5、y+z=2である。)
で表されるパイロクロア型酸化物である。一般式(1)で表されるパイロクロア型酸化物において、M元素は、Taのみであってもよいし、Nbのみであってもよいし、TaとNbの組み合わせであってもよい。つまり、一般式(1)で表されるパイロクロア型酸化物では、M元素であるTaとNbの比率は、モル比で100:0~0:100である。なお、上記一般式(1)の記載に従えば、Sn2Ta2O7はSn2+
2Ta2O7になるが、本明細書では慣例に従い、Sn2Ta2O7と表わすものとする。
【0028】
本発明のNiペーストへの(D)SnとTa及びNbのうちのずれか一方又は両方とを含むパイロクロア型酸化物(以下、(D)成分とも記載する。)の添加方法としては、例えば、(D)成分を粉末として添加する方法、(D)成分の粉末をスラリー化して添加する方法、(A)Niを主とする導電性粉末の表面を(D)成分で被覆する方法等が挙げられる。(D)成分を粉末又はスラリーとして用いる場合、(D)成分の平均粒径は、(A)Niを主とする導電性粉末の平均粒径の50%以下が好ましく、30%以下が特に好ましい。本発明のNiペースト中の(D)成分の含有量が少ないことから、(D)成分の平均粒径が上記範囲にあることにより、印刷後の電極膜内により均質に分散させることができる。
【0029】
なお、本発明者等による実験によれば、焼成後にパイロクロア型酸化物となる量で、SnOとTa2O5とを秤量し、Niペーストへ添加し、焼成した場合には、高温負荷寿命の向上は見られるものの、本発明の作用効果に比べて小さくなる。
【0030】
本発明のNiペーストは、通常、内部電極形成用のNiペーストに添加されている共材粉末を含有することができる。任意に含有される共材粉末は、内部電極の焼結収縮挙動を誘電体層に近似させることを目的としたものであり、この共材粉末の種類は、特に限定されないが、セラミック誘電体との反応によるコンデンサの特性変化が最小になるように選択されることが望ましい。共材粉末としては、通常内部電極形成用のNiペーストに使用されているような、一般式:ABO3(但し、AはBa、CaおよびSrの少なくとも1種であり、Bは、Ti、ZrおよびHfの少なくとも1種である。)で表されるセラミック粉末、例えば、チタン酸バリウム、ジルコン酸ストロンチウム、ジルコン酸カルシウム等のペロブスカイト型酸化物粉末や、これらに種々の添加剤が添加されたものが好ましい。また、共材粉末としては、誘電体層の主成分として使用される誘電体セラミック原料粉末と同一の組成、又は近似した組成のものが、好ましい。なお、予め(A)Niを主とする導電性粉末の表面に共材粉末を付着させてから、Niペースト中の他の成分と混合してもよい。
【0031】
本発明のNiペーストが共材粉末を含有する場合、本発明のNiペースト中、共材粉末の含有量は、(A)Niを主とする導電性粉末100質量部に対し、共材粉末合計で30質量部以下である。Niペースト中の共材粉末の含有量が、上記範囲を超えると、電極層が厚くなり、構造欠陥を生じ易くなる他、電極層が不連続膜になる。
【0032】
共材粉末の平均粒径は、特に限定されないが、(A)Niを主とする導電性粉末の平均粒径の30%以下であることが、より優れた焼結抑制効果および緻密性向上効果を示すので好ましい。更に、ペースト中における共材粉末の総比表面積が、(A)Niを主とする導電性粉末の総比表面積よりも大きいことが、高温負荷寿命の向上効果が高まる点で好ましい。なお、共材粉末の平均粒径及び含有量を選択することにより、ペースト中における共材粉末の総比表面積を、(A)Niを主とする導電性粉末の総比表面積よりも大きくすることができる。ただし、共材粉末の平均粒径が小さ過ぎると、表面積の増大により伴い、粉末自身の焼結が速くなり過ぎるため、Niを主とする導電性粉末の焼結抑制効果が低くなるので、共材粉末の平均粒径は0.01μm以上であることが好ましい。
【0033】
本発明のNiペーストは、上記の他、内部電極形成用のNiペーストに通常添加されることのある可塑剤、分散剤、界面活性剤等の添加剤を、必要に応じて含有することができる。
【0034】
本発明のNiペーストは、上述した(A)Niを主とする導電性粉末、(B)バインダ樹脂、(C)有機溶剤、(D)SnとTa及びNbのうちのずれか一方又は両方とを含むパイロクロア型酸化物、及びその他必要に応じて添加される共材粉末や種々の添加剤を、常法に従って均一に混合分散させることにより、調製される。
【0035】
本発明の積層セラミックコンデンサは、本発明のNiペーストを用いて、以下のような方法で製造される。
【0036】
先ず、誘電体セラミック原料粉末を、樹脂バインダ中に分散させ、ドクターブレード法やダイコーター法等でシート成形し、誘電体セラミック原料粉末を含むセラミックグリーンシートを作製する。誘電体層を形成するための誘電体セラミック原料粉末としては、チタン酸バリウム系、ジルコン酸ストロンチウム系、ジルコン酸カルシウムストロンチウム系などのペロブスカイト型酸化物、又はこれらを構成する金属元素の一部を他の金属元素で置換したものなど、通常のペロブスカイト型酸化物を主成分とする粉末が使用される。必要に応じて、これらの原料粉末に、コンデンサ特性を調整するための各種添加剤が配合される。原料粉末の粒径は、例えば誘電体セラミック層の厚みを5.0μm以下とする場合、平均粒径が0.05~0.4μm程度が好ましい。次いで、得られるセラミックグリーンシート上に、本発明のNiペーストをスクリーン印刷等の通常の方法で塗布し、乾燥して溶剤を除去し、所定のパターンの内部電極ペースト乾燥膜を形成する。次いで、内部電極ペースト膜が形成されたセラミックグリーンシートを所定の枚数だけ積み重ね、加圧積層して、未焼成の積層体を作製する。次いで、得られる積層体を所定の形状に切断した後、高温で焼成し、誘電体層と電極層を同時に焼結し、積層セラミックコンデンサ素体を得る。その後、素体の両端面に端子電極を焼付けて形成して、本発明の積層セラミックコンデンサを得る。なお、端子電極は、上記の積層体の焼成前に取付けて積層体と同時に焼成してもよい。
【0037】
このようにして得られる本発明の積層セラミックコンデンサは、複数のセラミック誘電体層と、Niを含む複数の内部電極層と、が交互に積層されているセラミック積層体と、
前記セラミック積層体の外表面に形成されている外部電極と、
を備え、
前記セラミック誘電体層と前記内部電極層との界面に、Snと、Ta及びNbのうちのずれか一方又は両方と、を含む複合酸化物が存在すること、
を特徴とする積層セラミックコンデンサである。
【0038】
本発明の積層セラミックコンデンサに係るセラミック誘電体層は、誘電体セラミック原料粉末として、チタン酸バリウム系、ジルコン酸ストロンチウム系、ジルコン酸カルシウムストロンチウム系などのペロブスカイト型酸化物、又はこれらを構成する金属元素の一部を他の金属元素で置換したものなど、通常のペロブスカイト型酸化物を主成分とする粉末を用いて、これらの誘電体セラミック原料粉末を成形し、還元性雰囲気下で、900~1400℃、好ましくは1100~1300℃で焼成することにより、形成されたものである。
【0039】
本発明の積層セラミックコンデンサは、Niを含む内部電極層が、本発明のNiペーストを用いて形成されたもの、すなわち、本発明のNiペーストをスクリーン印刷等により、誘電体層形成用のセラミックグリーンシート上に成形し、乾燥し、焼成することにより形成されたものである。そのため、本発明の積層セラミックコンデンサに係るNiを含む内部電極層は、セラミック誘電体層と内部電極層との界面に、「Snと、Ta及びNbのうちのずれか一方又は両方と、を含む複合酸化物」が存在する。そして、本発明の積層セラミックコンデンサは、セラミック誘電体層と内部電極層との界面に、「Snと、Ta及びNbのうちのずれか一方又は両方と、を含む複合酸化物」が存在することにより、NiへのSn固溶による融点降下を極力抑えられ、且つ、高温負荷寿命が向上するので、誘電体層の更なる薄層化および高電界強度の電圧印加が行われても、優れた信頼性を示す。
【0040】
なお、セラミック誘電体層と内部電極層との界面に、「Snと、Ta及びNbのうちのずれか一方又は両方と、を含む複合酸化物」が存在することは、TEM(透過型電子顕微鏡)とEDS(エネルギー分散型X線分光法)やWDS(波長分散型X線分光法)、またはEELS(電子エネルギー損失分光法)などの元素分析手法を組み合わせることにより確認される。
【0041】
本発明の積層セラミックコンデンサに係るNiを含む内部電極層は、本発明のNiペーストを、還元性雰囲気下、900~1400℃、好ましくは1100~1300℃で焼成して形成されたものである。
【0042】
本発明の積層セラミックコンデンサに係る外部電極は、積層セラミックコンデンサの外部電極として用いることができるものであれば、特に制限されない。
【0043】
また、本発明の積層セラミックコンデンサは、複数のセラミック誘電体層と、Niを含む複数の内部電極層と、が交互に積層されているセラミック積層体と、
前記セラミック積層体の外表面に形成されている外部電極と、
を備え、
前記内部電極層が、本発明のNiペーストが900~1400℃で焼成された焼成物で形成されていること、
を特徴とする積層セラミックコンデンサである。
【0044】
本発明の積層セラミックコンデンサにおいて、内部電極層は、本発明のNiペーストをスクリーン印刷等により、積層層形成用のセラミックグリーンシート上に成形し、乾燥し、焼成することにより形成されたものである。本発明のNiペーストの焼成温度は、900~1400℃、好ましく1100~1300℃であり、焼成雰囲気は、還元性雰囲気である。
【0045】
以下、本発明を具体的な実験例に基づき説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0046】
(実施例1)
<Niペースト及び積層セラミックコンデンサの製造>
先ず、組成Sn2Ta2O7のパイロクロア型酸化物を得るため、SnO粉末とTa2O5粉末をそれぞれ秤量及び混合し、N2-0.1%H2-H2Oガスからなる還元雰囲気中において1000℃で焼成した後、平均粒径が0.05μmになるまで粉砕してSnとTaを含むパイロクロア型酸化物を製造した。なお、得られたものがSnとTaを含むパイロクロア型酸化物であることを、XRD(X線回折)により確認した。
次に、平均粒径0.3μmの球状ニッケル粉末100質量部に対して、共材粉末として平均粒径0.05μmのBaTiO3粉末を10.0質量部、エチルセルロース(バインダ樹脂)6.0質量部、界面活性剤2.0質量部、可塑剤1.0質量部、及びジヒドロターピネオールアセテート(有機溶剤)100質量部の比率で準備し、これに上記で得たSnとTaを含むパイロクロア型酸化物粉末を表1に示す量でそれぞれ混合し、3本ロールミルを使用して混練することによって12種のNiペーストを作製した。
次に、セラミックグリーンシートの主成分となる平均粒径0.2μmのBaTiO3粉末にポリビニルブチラール系バインダとエタノールとコンデンサ特性を調整する添加剤を加えてメディアミルにより湿式混合し、セラミックスラリーを調製した。
このセラミックスラリーをダイコーター法によりシート成形し、厚み5.5μmのセラミックグリーンシートを準備した。
続いて、このセラミックグリーンシート上に、Niペーストを1.5mm×3.0mmの矩形のパターンに印刷した後、乾燥することにより、内部電極乾燥膜を形成した。内部電極乾燥膜の厚さは1.5μmであった。内部電極乾燥膜を有するセラミックグリーンシートを、誘電体有効層が50層になるように積み重ね、90℃で1250kg/cm2の圧力を加えて圧着及び成形して未焼成のセラミック積層体を得た。
このセラミック積層体を、N2-0.1%H2-H2Oガスからなる雰囲気中で700℃に加熱し、バインダを燃焼させた後、1220℃での酸素分圧が1×10-8atmのN2-0.1%H2-H2Oガスからなる還元雰囲気中において、5℃/minの昇温速度で昇温し、1220℃にて2時間保持して焼結緻密化させ、その後、冷却段階にてN2-H2Oガス雰囲気中で1000℃にて3時間の再酸化処理を行うことによって積層セラミック素体を得た。
次いで、積層セラミック素体の両端面に、Cu粉末とBaO系ガラスフリットを含む外部電極形成用のCuペーストを塗布し、N2雰囲気中、780℃の温度で焼き付けて外部電極を形成することにより積層セラミックコンデンサを作製した。
これを前出の12種のNiペースト全てに対して行うことにより、表1の試料番号1~12の試料を得た。なお、表1において、試料番号に*を付した試料は本発明の要件を満たさない比較例である。
得られた積層セラミックコンデンサの外形寸法は、幅(W):1.6mm、長さ (L):3.2mm、厚さ(T):0.7mmであり、内部電極層の厚みは1.2μmであり、内部電極間に介在するセラミック誘電体層の厚みは4.0μmであった。また、誘電体層の1層あたりの対向電極の面積は3.25mm2であった。
【0047】
<特性の評価>
上述のようにして作製した各積層セラミックコンデンサ(表1の試料番号1~12の試料)について、以下に説明する方法で、高温負荷試験を行うとともに、内部電極層の連続性の評価、及び誘電体層と内部電極層の界面近傍の観察を行った。
(1)高温負荷試験
試料番号1~12の各試料からそれぞれ15個をサンプリングし、180℃、60Vの条件で高温負荷試験を行い、絶縁抵抗が1桁低下するまでに要する時間を、各積層セラミックコンデンサの故障時間とした。そして、この故障時間をワイブルプロットし、MTTF(平均故障時間)を求めた。
また、ワイブルプロットから得られる形状パラメータm値は、故障時間のばらつきを評価するためのもので、このm値が大きいほど故障時間のばらつきが小さく、コンデンサとして望ましい。
MTTFおよびm値の評価結果を表1に併記する。
(2)内部電極層の連続性評価
試料番号1~12のそれぞれの積層セラミックコンデンサを、内部電極層に直交する面で切断してSEM(走査型電子顕微鏡)にて観察を行った。観察倍率は1000倍で、観察視野の中から内部電極を無作為に10本選択し、電極が存在している部分の、全体の長さに対する割合を計測して、連続性として評価した。ここでは連続性が95%以上を○とし、95%未満を×として表1に併記した。
(3)誘電体層と内部電極層の界面近傍の観察
試料番号1~12のそれぞれの積層セラミックコンデンサ素体を、内部電極層に直交する面で切断し、チップの中央部にあたる領域について、FIB(集束イオンビーム)によるマイクロサンプリング加工法を用いて加工し、薄片化された分析用の試料を作製した。この試料を高分解能のTEM(透過型電子顕微鏡)で観察した。観察箇所は誘電体層と内部電極層の界面近傍とした。
【0048】
【表1】
1)球状ニッケル粉末100質量部に対するSnとTaを含むパイロクロア型酸化物粉末の添加量(質量部)
【0049】
表1に示すように、Sn2Ta2O7のパイロクロア型酸化物を添加していない試料(試料番号1)に対して、Sn2Ta2O7のパイロクロア型酸化物を添加した全ての試料(試料番号2~12)においてMTTFが増加した。Sn2Ta2O7のパイロクロア型酸化物の添加量を、球状ニッケル粉末100質量部に対し、0.1質量部以上にすることで、MTTFは2倍以上に向上した。
一方で、Sn2Ta2O7のパイロクロア型酸化物を添加した全ての試料(試料番号2~12)において誘電体層と内部電極層の間にSnとTaの複合酸化物層の存在を確認することができた。したがって、MTTFの向上はSnとTaの複合酸化物層の存在と相関があるといえる。
また、故障時間のばらつきの指標であるm値は、Sn2Ta2O7のパイロクロア型酸化物の添加量が、球状ニッケル粉末100質量部に対して0.4質量部前後で極大を示し、そして、0.7質量部以上になるとm値は無添加のものよりも小さくなった。これは誘電体層において、誘電体層の内部領域よりも内部電極近傍で粒成長が促進されていたことと一致していた。
また、内部電極の連続性は試料番号1~11で98%以上を示し、Sn2Ta2O7のパイロクロア型酸化物の添加量が、球状ニッケル粉末100質量部に対して3.0質量部であった試料番号12では連続性は93%であり、電極膜のボールアップが顕著になっていた。
以上のことから、Niへの元素固溶による融点降下を極力抑えて高温負荷寿命を向上させるためには、球状ニッケル粉末100質量部に対して、Sn2Ta2O7のパイロクロア型酸化物の添加量が0.05~2.0質量部の範囲内であれば良く、更に0.1~0.6部の範囲内であれば、m値を低下させることなくMTTFを2倍以上に向上でき、効率良くかつ確実に高温負荷寿命を向上させることが可能になる。
【0050】
(実施例2)
Sn2Ta2O7のパイロクロア型酸化物の組成を、Sn2+
1.865Ta2O6.865と、Sn2+
1.75Ta1.75Sn4+
0.25O6.625にした以外は、実施例1と同様の実験を行ったところ、両者とも実施例1と同様の結果が得られた。すなわち、SnとTaを含む単相のパイロクロア型酸化物をNiペースト中に含むことにより、本発明の作用効果を奏することを確認できた。