(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】計測装置、計測方法及びそのプログラム
(51)【国際特許分類】
G01B 11/24 20060101AFI20230829BHJP
G01B 11/02 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
G01B11/24 K
G01B11/02 H
(21)【出願番号】P 2021038425
(22)【出願日】2021-03-10
【審査請求日】2022-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森本 凌平
(72)【発明者】
【氏名】豊田 千恵
【審査官】櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-300440(JP,A)
【文献】特開2017-110970(JP,A)
【文献】特開平08-015163(JP,A)
【文献】特開平09-257437(JP,A)
【文献】特表2019-505759(JP,A)
【文献】特開2019-144137(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物の外周表面を計測する計測装置であって、
1以上の分岐により複数の方向から前記測定対象物の複数の測定面に対してスリット光を、該複数の測定面に交差し且つ第1の傾斜角を有して照射する照射部と、
前記照射部の光軸に対して第2の傾斜角を有し、前記複数の測定面に対して照射されたスリット光の反射光を含む画像を撮像する撮像部と、を備え、
前記照射部は、前記スリット光を前記測定面の境界線に直交する基準線に対して前記第1の傾斜角で傾けることによって、前記測定面に直接照射されるスリット光と前記測定面への分岐のための光路を経たスリット光とが前記測定面に照射された際に、空間的に重なることを防ぎ、
前記撮像部は、前記測定面に直接照射されたスリット光の反射光と、前記測定面への分岐のための光路を経たスリット光の反射光とを受光する、計測装置。
【請求項2】
前記照射部は、前記測定面の境界線に直交する基準線に対して5°以上45°以下の範囲で前記第1の傾斜角を有する前記スリット光を前記測定面に対して照射する、請求項1に記載の計測装置。
【請求項3】
前記撮像部は、前記第2の傾斜角が5°以上45°以下の範囲で配設されている、請求項1又は2に記載の計測装置。
【請求項4】
前記照射部は、前記測定面に直接照射されるスリット光に対して分岐した前記スリット光の光路長を補正する光路長補正部材と該光路長を補正したスリット光を反射して前記測定面に照射するミラーとを含む光学系部材を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の計測装置。
【請求項5】
前記照射部は、直接スリット光を第1測定面に照射する第1光路と、分岐してスリット光を第2測定面に照射する第2光路と、分岐してスリット光を第3測定面に照射する第3光路と、を有し、
前記撮像部は、前記第1測定面、前記第2測定面及び前記第3測定面に対して照射されたスリット光を含む画像を撮像する、請求項1~4のいずれか1項に記載の計測装置。
【請求項6】
前記照射部は、可視光を照射する、請求項1~5のいずれか1項に記載の計測装置。
【請求項7】
前記撮像部は、前記スリット光の反射光と前記測定面とを複数含む画像を結像する撮像素子を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の計測装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の計測装置であって、
前記撮像した画像の複数のスリット光から前記測定対象物の外周表面を検出する処理部、を備えた計測装置。
【請求項9】
前記照射部は、前記測定対象物として円柱又は多角柱状の電極、及び円柱又は多角柱状の単セルのうち1以上に対して前記スリット光を照射する、請求項1~8のいずれか1項に記載の計測装置。
【請求項10】
測定対象物の外周表面を計測する計測方法であって、
1以上の分岐により複数の方向から前記測定対象物の複数の測定面に対してスリット光を、該複数の測定面に交差し且つ傾きを有するよう照射する照射ステップと、
前記複数の測定面に対して照射されたスリット光の反射光を含む画像を撮像する撮像ステップと、
前記撮像した画像の複数のスリット光から前記測定対象物の外周表面を検出する処理ステップと、を含み、
前記照射ステップでは、前記スリット光を前記測定面の境界線に直交する基準線に対して傾けることによって、前記測定面に直接照射されるスリット光と前記測定面への分岐のための光路を経たスリット光とが前記測定
対象物に照射された際に、2以上のスリット光が空間的に重なることを防ぎ、
前記撮像ステップでは、前記測定面に直接照射されたスリット光の反射光と、前記測定面への分岐のための光路を経たスリット光の反射光とを受光する、計測方法。
【請求項11】
前記照射ステップでは、前記測定面の境界線に直交する基準線に対して5°以上45°以下の範囲で傾きを有する前記スリット光を前記測定面に対して照射する、請求項10に記載の計測方法。
【請求項12】
前記照射ステップでは、前記測定面に直接照射されるスリット光に対して分岐した前記スリット光の光路長を補正する光路長補正部材と該光路長を補正したスリット光を反射して前記測定面に照射するミラーとを含む光学系部材を介して前記スリット光を前記測定面に対して照射する、請求項10又は11に記載の計測方法。
【請求項13】
前記照射ステップでは、直接スリット光を第1測定面に照射する第1光路と、分岐してスリット光を第2測定面に照射する第2光路と、分岐してスリット光を第3測定面に照射する第3光路と、を介して前記スリット光を前記測定面に対して照射し、
前記撮像ステップでは、前記第1測定面、前記第2測定面及び前記第3測定面に対して照射されたスリット光を含む画像を撮像する、請求項10~12のいずれか1項に記載の計測方法。
【請求項14】
前記照射ステップでは、可視光を照射する、請求項10~13のいずれか1項に記載の計測方法。
【請求項15】
前記撮像ステップでは、前記スリット光の反射光と前記測定面とを複数含む1つの画像を取得する、請求項10~14のいずれか1項に記載の計測方法。
【請求項16】
前記照射ステップでは、前記測定対象物として円柱又は多角柱状の電極及び/又は円柱又は多角柱状の単セルに対して前記スリット光を照射する、請求項10~15のいずれか1項に記載の計測方法。
【請求項17】
請求項10~16のいずれか1項に記載の計測方法のステップを1又は複数のコンピュータに実現させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では計測装置、計測方法及びそのプログラムを開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、測定対象物を観察する装置としては、例えば、複数のプリズムを用いて光路を分岐し、細胞観察などをおこなうことで三次元的な構造把握を可能とするものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この観察装置では、三次元的な構造をもつ被写体の観察等において、多方向から観察した被写体の情報を一度に取得し、迅速な構造把握を可能とする多面画像取得システムを提供することができるとしている。また、測定対象物としては、例えば、第1活物質を有する柱状体である第1電極と、第2活物質を有する第2電極と、イオン伝導性を有し第1電極と第2電極とを絶縁する分離膜と、を備えた二次電池が提案されている(例えば、特許文献2など参照)。この二次電池では、エネルギー密度を高めると共に、安全性をより高めることができる新規な二次電池を提供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-187485号公報
【文献】特開2018-152229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1では、細胞などを多面的に同時撮影することで迅速に三次元的な構造把握をおこなっているが、定量的な形状計測は困難であった。また、測定対象物としての特許文献2の二次電池では、負極を中心として隔壁および正極を同心円状に塗布したファイバー状の電極からなり、例えば、分離膜や第2活物質層が正規に形成されているかを迅速且つ正確に計測することが望まれていた。
【0005】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、周方向の大きさおよび形状を定量的に計測することができる新規な計測装置、計測方法及びそのプログラムを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、撮像部に対して光軸を傾けて配置し、更に光軸を中心として更に傾けたスリット光を用いると、周方向の大きさおよび形状を定量的に計測することができることを見いだし、本明細書で開示する発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本明細書で開示する計測装置は、
測定対象物の外周表面を計測する計測装置であって、
1以上の分岐により複数の方向から前記測定対象物の複数の測定面に対してスリット光を、該複数の測定面に交差し且つ第1の傾斜角を有して照射する照射部と、
前記照射部の光軸に対して第2の傾斜角を有し、前記複数の測定面に対して照射されたスリット光の反射光を含む画像を撮像する撮像部と、
を備えたものである。
【0008】
本明細書で開示する計測方法は、
測定対象物の外周表面を計測する計測方法であって、
1以上の分岐により複数の方向から前記測定対象物の複数の測定面に対してスリット光を、該複数の測定面に交差し且つ傾きを有するよう照射する照射ステップと、
前記複数の測定面に対して照射されたスリット光の反射光を含む画像を撮像する撮像ステップと、
前記撮像した画像の複数のスリット光から前記測定対象物の外周表面を検出する処理ステップと、
を含むものである。
【0009】
本明細書で開示するプログラムは、上述した計測方法の各ステップを1又は複数のコンピュータに実現させるものである。このプログラムはコンピュータが読み取り可能な記録媒体(例えばハードディスク、ROM、FD、CD、DVDなど)に記録されていてもよいし、伝送媒体(インターネットやLANなどの通信網)を介してあるコンピュータから別のコンピュータへ配信されてもよいし、その他どのような形で授受されてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本開示では、周方向の大きさおよび形状を定量的に計測することができる新規な計測装置、計測方法及びそのプログラムを提供することができる。本開示がこのような効果を奏する理由は、以下のように推察される。例えば、線状に照射されるスリット光源と撮像部の光軸とが所定の傾斜角を有し同一直線上に無いことにより、測定対象物上に投影されるスリット光形状が測定対象物の形状に応じて変化する。このとき、測定対象物の形状は、スリット光源の光軸と撮像部の光軸との間の角度が既知であれば算出可能である。このスリット光を分岐させ、2以上の方向から測定対象物へ照射することにより、測定対象物の周方向形状を知ることができる。また、測定対象物の長手方向において同一の箇所へスリット光が照射されると周方向でスリット光の重なる部分が生じるが、この計測装置では、スリット光を光軸中心に所定の第2傾斜角を有しており、このスリット光の重なりをより抑制し、測定対象物の形状を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】計測装置20の光路長補正による多面同時撮影の一例を示す説明図。
【
図3】照射部21及び撮像部26の一例を示す説明図。
【
図4】測定対象物Sの形状を反映した反射光(散乱光)の説明図。
【
図6】外周形状計測処理ルーチンの一例を示すフローチャート。
【
図7】六角柱の多面同時撮影時のスリット光の重なりの説明図。
【
図8】六角柱の多面同時撮影時のスリット光の傾斜による撮像画像。
【
図9】撮影像から再構成した六角柱の測定対象物の断面形状。
【
図10】溝付き円柱構造体の多面同時撮影の撮像画像。
【
図11】撮影像から再構成した溝付き円柱構造の測定対象物の断面形状。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(計測装置)
本明細書で開示する計測装置の実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。
図1は、計測システム10の一例を示す概略説明図である。
図2は、計測装置20の光路長補正による多面同時撮影の一例を示す説明図であり、
図2Aが計測装置20の構成の説明図、
図2Bが測定対象物Sの撮像画像の一例である。
図3は、照射部21及び撮像部26の一例を示す説明図である。
図4は、測定対象物Sの形状を反映した反射光(散乱光)の説明図である。
図5は、測定対象物Sの一例としての蓄電デバイス40を示す説明図である。
【0013】
計測システム10は、立体形状を有する測定対象物Sの外周形状を計測するシステムである。測定対象物Sは、立体形状を有する物体であれば特に限定されないが、例えば、長尺状の部材としてもよい。このような測定対象物Sに対しては、計測装置20は、測定対象物Sを移動しながら、連続的にその外周形状を計測することができる。ここで、測定対象物Sの一例としての単セル11及びそれを用いた蓄電デバイス40について説明する。
【0014】
蓄電デバイス40は、例えば、ハイブリッドキャパシタ、疑似電気二重層キャパシタ、リチウムやナトリウムのアルカリ金属二次電池、アルカリ金属イオン電池、空気電池などが挙げられる。このうち、蓄電デバイス40としては、リチウム二次電池、特にリチウムイオン二次電池が好ましい。ここでは、蓄電デバイス40がリチウムイオン二次電池であるものとして主として説明する。蓄電デバイス40は、
図5に示すように、例えば、柱状電極15と、分離膜16と、対極18と集電体41,42とを備える。柱状電極15は、第1活物質を含む柱状体12からなる。ここで「柱状」とは、屈曲しない太さのもののほか、屈曲可能な太さのものも含むものとする。柱状電極15は、負極としてもよいし、正極としてもよいが、負極であることが好ましい。対極18は、正極としてもよいし、負極としてもよいが、正極であることが好ましい。集電体41は、導電性を有し、柱状電極15から集電する部材であり、柱状電極15の端面に電気的に接続されている。集電体42は、導電性を有し、対極18から集電する部材であり、対極18の端面に電気的に接続されている。
【0015】
柱状電極15が有する柱状体12は、第1活物質を含む繊維体13を結束したものとしてもよい。柱状電極15は、柱状であればよく、その断面は円形であってもよいし、多角形であってもよい。蓄電デバイス40では、複数の柱状電極15が所定方向に配列されている。この柱状電極15は、長手方向に垂直な断面の平均直径が10μm以上500μm以下の範囲であることが好ましい。また、繊維体13は、その平均直径が5μm以上50μm以下の範囲であることが好ましい。この柱状体12の長手方向の長さは、蓄電デバイスの用途などに応じて適宜定めることができ、例えば、20mm以上200mm以下の範囲などとしてもよい。繊維体13は、例えば、金属の繊維体としてもよいし、リチウムイオンを吸蔵放出する炭素材料の繊維としてもよい。炭素材料は、導電性が高く、柱状電極15として好ましい。炭素材料としては、例えば、グラファイト類や、コークス類、ガラス状炭素類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類のうち1以上が挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が好ましい。また、繊維体13は、グラファイト構造を有する炭素繊維としてもよい。
【0016】
分離膜16は、キャリアイオン(例えばリチウムイオン)のイオン伝導性を有し柱状電極15と第2電極22とを絶縁し、短絡を防止するものであり、セパレータの機能を有する。この分離膜16としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)や、PVdFとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(PVdF-HFP)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、及びPMMAとアクリルポリマーとの共重合体などの樹脂が挙げられる。この分離膜20は、その厚さが、例えば、2μm以上40μm以下の範囲であることが、絶縁性を確保する上で好ましい。また、分離膜16の厚さが2~40μmの範囲では、イオン伝導性及び絶縁性が好適である。この分離膜16には、電解液を含むものとしてもよい。
【0017】
対極18は、第2活物質を有し分離膜16を介して柱状電極15と対向する電極である。対極18は、分離膜16の外周面に形成され、単セル11を結束する構造を有していてもよいし、隣合う分離膜16同士の間を埋めるように設けられていてもよい。第2活物質は、例えば、キャリアであるリチウムを吸蔵放出可能な材料が挙げられる。第2活物質としては、例えば、リチウムと遷移金属とを有する化合物、例えば、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物や、リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物などが挙げられる。具体的には、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0≦x≦1など、以下同じ)やLi(1-x)Mn2O4などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoaNibMncO2(a>0、b>0、c>0、a+b+c=1)、Li(1-x)CoaNibMncO4(0<a<1、0<b<1、1≦c<2、a+b+c=2)などとするリチウムコバルトニッケルマンガン複合酸化物、基本組成式をLiV2O3などとするリチウムバナジウム複合酸化物、基本組成式をV2O5などとする遷移金属酸化物などを用いることができる。また、基本組成式をLiFePO4とするリン酸鉄リチウム化合物などを正極活物質として用いることができる。これらのうち、リチウムコバルトニッケルマンガン複合酸化物、例えば、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2やLiNi0.4Co0.3Mn0.3O2などが好ましい。なお、「基本組成式」とは、他の元素、例えば、AlやMgなどの成分を含んでもよい趣旨である。
【0018】
このように構成された単セル11では、柱状体12を移動させながらその表面に分離膜16や対極18を形成することがあり、柱状体12の結束や、短絡防止のための外周面全面に形成する分離膜16や、対極18などの状態を計測する必要がある。計測装置20では、このような長尺状の部材の外周面を計測することができるため、測定対象物Sとして柱状体12、単セル11などは好適である。
【0019】
計測システム10は、計測装置20と、管理PC30とを備えている。計測装置20は、測定対象物Sの外周表面を計測する装置である。この計測装置20は、
図1~3に示すように、照射部21と、撮像部26と、処理部28とを備える。照射部21は、1以上の分岐により複数の方向から測定対象物Sの複数の測定面に対してスリット光を照射する。また、照射部21は、スリット光をこの複数の測定面に交差し且つ第1の傾斜角θ1を有して照射する(
図3参照)。照射部21は、光源22と、スリット23とを有する。光源22は、測定対象物Sで反射する波長の光であれば特に限定されないが、例えば、可視光域の光を照射することが好ましい。スリット23は、撮像部26による撮像画像で識別できるものとすれば、その幅は、特に限定されず、例えば、0.1mm以上5mm以下の範囲としてもよい。この照射部21は、測定対象物Sとして円柱又は多角柱状の電極、及び円柱又は多角柱状の単セルのうち1以上に対してスリット光を照射する。
【0020】
照射部21は、更に光学系として光路長補正部材24と、ミラー25とを備えるものとしてもよい。光路長補正部材24は、測定面に直接照射されるスリット光に対して分岐したスリット光の光路長を補正する部材である。この光路長補正部材24は、例えば、石英で形成された透明部材としてもよい。また、ミラー25は、光路長を補正したスリット光を反射して測定面に照射する部材である。照射部21は、
図2に示すように、スリット光を測定対象物Sに直接照射する第1光路D1と、光路長補正部材24及びミラー25を介してスリット光を分岐して測定対象物Sに照射する第2光路D2と、別の光路長補正部材24及びミラー25を介してスリット光を分岐して測定対象物Sに照射する第3光路D3とを有する。照射部21は、測定対象物Sに対して、120°ずつ回転した位置から光を照射し、測定対象物Sの外周全体にスリット光を照射する。なお、照射部21では、直接光と2つの分岐光とを用いるものとして説明するが、1以上の直接光と1以上の分岐光を用いるものとすれば、特にこれに限定されない。
【0021】
照射部21は、
図3に示すように、スリット光を測定対象物Sの測定面の境界線Bに直交する基準線Lに対して第1の傾斜角θ1で傾けることによって、測定面に直接照射されるスリット光と分岐されたスリット光とが測定面に照射された際に、空間的に重なることを防ぐ。詳しくは後述するが、測定対象物Sに対して3面からスリット光を照射すると、特定の測定面のほか、他の測定面に照射されたスリット光も撮像範囲に入るため、どれがその測定面に該当するスリット光であるかの判定が困難になる。ここでは、光軸を中心として所定の傾斜角θ1でスリット光を傾斜させるため、他の測定面のスリット光を分離することができる。この傾斜角θ1は、スリット光を分離可能であれば、特に限定されないが、例えば、基準線Lに対して5°以上45°以下の範囲であることが好ましい。傾斜角θ1が5°以上ではスリット光を十分に分離可能であり、45°以下では画像をよりコンパクトにでき好ましい。なお、この傾斜角θ1は、基準線Lとスリットとのなす角であるが、鋭角側の角度をいうものとする。
【0022】
撮像部26は、複数の測定面に対して照射されたスリット光の反射光を含む画像を撮像するカメラである。撮像部26は、光を結像する撮像素子27を備えている。撮像素子27は、スリット光の反射光と測定面とを複数含む画像を結像するものであり、例えば、CMOSやCCDなどのイメージセンサとしてもよい。この撮像部26は、照射部21の光軸に対して第2の傾斜角θ2を有した状態で固定されている(
図3参照)。この傾斜角θ2は、例えば、5°以上45°以下の範囲であるものとしてもよい。傾斜角θ2が5°以上では、スリット光の立体的な反射波の分解能をより高めることができ、測定対象物Sの外周面の形状を把握しやすく好ましい。また、傾斜角θ2が45°以下では、測定対象物Sの表面にある凹凸などによって生じる影の影響などをより抑制でき、好ましい。計測装置20では、照射部21と撮像部26とが傾斜することによって、線状のスリット光の形状の変化に基づいて、測定対象物Sの外表面の形状を計測することができる。なお、この傾斜角θ2は、照射部21の光軸と撮像部26からの撮像方向とのなす角であるが、鋭角側の角度をいうものとする。この撮像部26は、測定対象物Sの第1測定面、第2測定面及び第3測定面に対して照射されたスリット光を含む画像を撮像素子27によって撮像する。撮像部26は、
図2Bに示すように、第1光路D1、第2光路D2及び第3光路D3でのスリット光の反射光に基づいて、それぞれ第1画像P1、第2画像P2及び第3画像P3を1つの撮像素子27によって撮像する。この撮像部26では、同一の画像に同一外周の形状を反映したスリット光の画像が得られるため、処理が円滑である。
【0023】
処理部28は、計測装置20の全体を制御するコントローラである。処理部28は、撮像した画像に含まれる複数のスリット光から測定対象物Sの外周表面を検出する処理を実行する。計測装置20では、例えば、
図3に示す円柱状の単セル11を撮像すると、
図4に示す画像が得られる。このとき、単セル11の下面に位置する基準面Rからの単セル11の高さ△zは、△y/tanθ2の式で得られる。処理部28は、このような計算を実行し、単セル11の立体像を得る。
【0024】
管理PC30は、計測システム10のデータなどを管理する管理装置として構成されている。この管理PC30は、
図1に示すように、回線29を介して計測装置20と情報のやりとりを行う。管理PC30は、制御部31と、記憶部32と、入力装置37と、表示装置38と、通信部とを有する。制御部31は、CPUを中心に構成されたマイクロプロセッサであり、装置全体を制御する。記憶部32は、データを記憶するデバイスであり、例えば、HDDやフラッシュROMなどが挙げられる。記憶部32には、測定結果を含む測定結果情報33や、測定対象物Sの外周形状計測処理プログラムなどが記憶されていてもよい。入力装置37は、キーボードやマウスを含むデバイスであり、作業者からの指令を入力する。表示装置38は、画像や文字を表示出力するディスプレイである。通信部は、外部機器と情報のやりとりを行うインターフェイスである。
【0025】
(計測方法)
本開示の計測方法は、測定対象物Sの外周表面を計測する方法である。この計測方法は、例えば、上述した計測装置20を用いて実行されるものとしてもよい。なお、計測装置20で説明した条件や構成などを適宜用いるものとして、それらの内容については、ここでの詳細な説明を割愛する。この計測方法は、例えば、照射ステップと、撮像ステップと、処理ステップとを含む。なお、各ステップは、計測装置20で実行されてもよいし、管理PC30で実行されてもよいし、分担されて複数の装置で実行されてもよい。この計測方法では、円柱又は多角柱状の電極、及び円柱又は多角柱状の単セルのうち1以上を測定対象物Sとすることができる。
【0026】
照射ステップでは、1以上の分岐により複数の方向から測定対象物Sの複数の測定面に対してスリット光を照射させる。このとき、スリット光を複数の測定面に交差し且つ傾きを有するよう照射するものとする。このステップでは、スリット光を測定面の境界線Bに直交する基準線Lに対して傾斜角θ1で傾けることによって、測定面に直接照射されるスリット光及び分岐されたスリット光が測定対象物である測定面被計測物に照射された際に、2以上のスリット光が空間的に重なることを防ぐものとする。この傾斜角θ1は、境界線Bに直交する基準線Lに対して5°以上45°以下の範囲であることが好ましい。また、このステップでは、測定面に直接照射されるスリット光に対して分岐したスリット光の光路長を補正する光路長補正部材24と光路長を補正したスリット光を反射して測定面に照射するミラー25とを含む光学系部材を介してスリット光を測定面に対して照射するものとしてもよい。また、このステップでは、直接スリット光を第1測定面に照射する第1光路D1と、分岐してスリット光を第2測定面に照射する第2光路D2と、分岐してスリット光を第3測定面に照射する第3光路D3と、を介してスリット光を測定面に対して照射するものとしてもよい。この照射ステップでは、可視光を測定対象物Sへ照射することが好ましい。
【0027】
撮像ステップでは、複数の測定面に対して照射されたスリット光の反射光を含む画像を撮像する処理を行う。このステップでは、測定対象物Sの第1測定面、第2測定面及び第3測定面に対して照射されたスリット光を含む画像を撮像するものとしてもよい。また、撮像ステップでは、スリット光の反射光と測定面とを複数含む1つの画像を取得するものとしてもよい。1つの画像にまとめられると、その後の処理を円滑に進めることができ、好ましい。
【0028】
処理ステップでは、撮像した画像の複数のスリット光から測定対象物Sの外周表面を検出する処理を行う。このような処理を実行することによって、測定対象物Sの外周表面の形状を計測することができる。
【0029】
次に、こうして構成された本実施形態の計測装置20の動作、特に、計測装置20が実行する単セル11の外周形状を計測する処理について説明する。
図6は、計測装置20の処理部28が実行する外周形状計測処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、図示しない処理部28が有する図示しない記憶部に記憶され、作業者の実行指令に基づいて実行される。ここでは、
図1~3に示した計測装置20を用いてこのルーチンを実行するものとする。このルーチンを開始すると、処理部28は、まず、傾斜角θ1でスリット光を傾斜させ、傾斜角θ2で照射部21を傾斜させた状態で測定対象物Sへスリット光を照射させる(S100)。次に、処理部28は、第1光路D1、第2光路D2及び第3光路D3から受光した反射光を撮像素子27で撮像し(S110)、得られた撮像画像に含まれるスリット光の形状を解析し、計算式を用いて測定対象物Sの外周形状を計算によって求める(S120)。そして、処理部28は、計算によって得られた測定結果を記憶し(S130)、全ての測定結果が得られたか否かを判定する(S140)。例えば、処理部28は、長尺状の単セル11を連続的に移動させながらその外周形状を計測し、このステップで、この単セル11の測定結果を全て得られたかを判定してもよい。全ての測定結果が得られていないときには、処理部28は、S100以降の処理を実行し、全ての測定結果が得られたときには、このルーチンを終了する。
【0030】
以上説明した本実施形態の計測装置20及び計測方法では、周方向の大きさおよび形状を定量的に計測することができる新規な計測装置、計測方法及びそのプログラムを提供することができる。本開示がこのような効果を奏する理由は、以下のように推察される。例えば、線状に照射されるスリット光と撮像部の光軸とが所定の傾斜角を有し同一直線上に無いことにより、測定対象物上に投影されるスリット光形状が測定対象物の形状に応じて変化する。このとき、測定対象物の形状は、スリット光源の光軸と撮像部の光軸との間の角度が既知であれば算出可能である。また、このスリット光を分岐させ、2以上の方向から測定対象物へ照射することにより、測定対象物の周方向形状を知ることができる。また、測定対象物の長手方向において同一の箇所へスリット光が照射されると周方向でスリット光の重なる部分が生じるが、この計測装置では、スリット光を光軸中心に所定の第2傾斜角を有しており、このスリット光の重なりをより抑制し、測定対象物の形状を取得することができる。
【0031】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0032】
例えば、上述した実施形態では、本開示を計測システム10や計測装置20、計測方法として説明したが、例えば、計測方法を実行するためのプログラムとしてもよい。このプログラムは、コンピュータが読み取り可能な記録媒体(例えばハードディスク、ROM、FD、CD、DVDなど)に記録されていてもよいし、伝送媒体(インターネットやLANなどの通信網)を介してあるコンピュータから別のコンピュータへ配信されてもよいし、その他どのような形で授受されてもよい。このプログラムを1つのコンピュータに実行させるか又は複数のコンピュータに各ステップを分担して実行させれば、上述した計測方法の各ステップが実行されるため、この計測方法と同様の作用効果が得られる。
【実施例】
【0033】
以下には、本開示の計測装置及び計測方法を具体的に検討した例を実験例として説明する。
【0034】
(実験例1:六角柱構造の周方向形状計測)
図1~3に示す計測装置20を作製し、柱状の測定対象物Sの外表面を検出する処理を検討した。
図3に示すように、線状のスリット光を被計測物に照射し、スリット光の光軸から傾いた位置で反射光あるいは散乱光を撮影すると、
図4に示すような像が得られる。この像の形状は、被計測物の形状や大きさを反映したものであり、
図4に示した式により換算が可能である。なおこの
図4に示す方式では、測定対象物Sの上面側しか形状を計測することができない。一方、
図2に示すように、照射光を2つに分岐し、3方向からスリット光を測定対象物Sへ照射すると(
図2A)、単一の撮影素子のみを使用して、測定対象物Sを多面方向から同時に撮像した画像を得ることが可能となる(
図2B)。ここで光路長の異なる光は撮影素子上でピントを合わせられないため、光路長補正素子(クロビット:登録商標)を用いることによって、同時撮影を可能とした。ミラーおよびクロビットの組合せによって分岐数や撮影角度は任意に変更することもできる。
【0035】
まず、
図2に示した光学系で照明光をスリット光とし、測定対象物Sを六角柱状の試料(六角形断面の内接円の直径が3mm)とした場合の撮影画像を撮像した。
図7は、六角柱の多面同時撮影時のスリット光の重なりの説明図である。ここでは、光軸と撮像部26の撮像方法とのなす傾斜角θ2を20°とした。また、境界線Bに直交する基準線Lに対するスリット光の傾斜角θ1は、基準線Lに沿う方向で、0°とした。
図7に示すように、スリット光が六角柱構造に沿って被計測物表面に投影されたが、異なる方向から照射されたスリット光も重なり、撮影した画像から形状を導出することが困難であった。そこでスリット光を光軸中心に回転し、傾斜角θ1=20°とし、その反射光を撮像した。
【0036】
図8は、六角柱の多面同時撮影時のスリット光の傾斜による重なり抑制の説明図である。このように、スリット光を傾斜させることによって、
図8のように分岐したスリット光をそれぞれ独立して撮像するができることがわかった。スリット光を独立して撮影する方法は、スリット光の回転に限らず、ミラーやプリズムを用いた光路変更によっても可能である。この撮影像に対して、スリット光を照射した位置および角度を基に、検出した形状を求めた。
図9は、撮影像から再構成した六角柱の測定対象物の断面形状である。
図9に示すように、反射光の画像解析から、内接円の直径が3mmである六角形形状を計測することができた。柱状構造であれば、同様にその形状計測が可能であることがわかった。
【0037】
(実験例2:溝付き円柱構造の周方向形状計測)
次に、表面に複数の溝が形成された円柱体の外周形状を計測した。
図10は、溝付き円柱構造体の多面同時撮影の撮像画像である。この測定対象物は、長手方向に溝を有する円柱(円柱体の直径2mm)である。
図10の撮影像に対して、スリット光を照射した位置および角度を基に測定対象物の形状を算出した。
図11は、撮影像から再構成した溝付き円柱構造の測定対象物の断面形状である。図中の黒い破線は直径2mmの円を表している。
図11に示すように、計測装置20を用いて、直径が2mmの円柱形状および溝を計測することができた。このように、スリット光が影となるような形状でなければ、例えば、単セル11を測定対象物Sとし、その表面に付いた傷を検知することができることがわかった。特に、計測装置20では、単セル11を移動しながら、連続的にその外周形状を検出し続けることができるため、柱状体12や単セル11の製造時の検査に有用であるものと推察された。
【0038】
なお、本明細書で開示した計測装置、計測方法及びそのプログラムは、上述した実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本明細書で開示した計測装置、計測方法及びそのプログラムは、測定対象物の外周形状を計測する技術分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0040】
10 計測システム、11 単セル、12 柱状体、13 炭素繊維、15 柱状電極、16 分離膜、18 対極、20 計測装置、21 照射部、22 光源、23 スリット、24 光路長補正部材、25 ミラー、26 撮像部、27 撮像素子、28 処理部、29 回線、30 管理PC、31 制御部、32 記憶部、33 測定結果情報、37 入力装置、38 表示装置、40 蓄電デバイス、41 集電体、42 集電体、60 撮像画像、A 光軸、B 境界線、D1 第1光路、D2 第2光路、D3 第3光路、L 直交線、P1 第1画像、P2 第2画像、P3 第3画像。