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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】不織布の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01D 5/092 20060101AFI20230829BHJP
   D04H 1/736 20120101ALI20230829BHJP
   D04H 3/16 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
D01D5/092 103
D04H1/736
D04H3/16
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021514435
(86)(22)【出願日】2021-03-11
(86)【国際出願番号】 JP2021009818
(87)【国際公開番号】W WO2021193109
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-06-20
(31)【優先権主張番号】P 2020050925
(32)【優先日】2020-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】寺本 祐
(72)【発明者】
【氏名】船越 祥二
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-504218(JP,A)
【文献】実開昭61-011774(JP,U)
【文献】実開昭54-032305(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01D 1/00 - 13/02
D04H 1/00 - 18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形の紡糸口金の長辺方向および短辺方向に配列された複数の吐出孔から熱可塑性ポリマーを溶融紡出し、得られた複数のフィラメントが走行する矩形の走行領域に対して、冷却装置より、前記矩形の長辺の外側から内側に向かって気流を吹き付け、冷却された複数のフィラメントをウエブ状に捕集する不織布の製造方法であって、フィラメントの走行方向に関して紡糸口金と冷却装置との間には、前記矩形の走行領域の全周に亘り吸引口を有する吸引装置を配し、かつ、前記矩形の走行領域の、長辺側の吸引口における単位長さ当たり、かつ、単位時間あたりの吸引流量QLと、前記矩形の走行領域の、短辺側の吸引口における単位長さ当たり、かつ、単位時間あたりの吸引流量QSとが、下記式を満足するように調整する不織布の製造方法。
1<QS/QL<5
【請求項2】
前記冷却装置の吹出面からフィラメントに吹き付ける風速を0.5m/秒以上とする、請求項1に記載の不織布の製造方法。
【請求項3】
前記紡糸口金における吐出孔の配置密度を2孔/cm以上とする、請求項1または2に記載の不織布の製造方法。
【請求項4】
前記紡糸口金の長辺方向における最も外側の吐出孔と、前記矩形の走行領域における短辺側の吸引口との、水平方向における最短距離を、200mm以下とする、請求項1~3のいずれかに記載の不織布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療、衛生材料資材、土木資材、産業資材、包装資材などの各種用途に用いられる不織布、ことにスパンボンド不織布の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スパンボンド不織布の製造方法には、溶融紡糸したフィラメントを気流で冷却し、丸型エアガン或いはスリットエアガンを通して延伸したのち、メッシュベルト上に散布する開放型の製造方法(以降は開放型と呼ぶ)と、紡糸したフィラメントを冷却室に導入して気流により冷却したのち、気流をそのまま延伸風としてフィラメントが走行するノズル内に通し、フィラメントを延伸しながら該ノズルから引出しベルト上に散布する密閉型の製造方法(以降は密閉型と呼ぶ)がある。
【0003】
どちらの方式においても、生産性を上げるために口金の吐出孔密度を多くした場合、それにともなって、より多くの気流が必要となる。また、特に密閉型においては、繊維径を小さくするため延伸張力を上げるには、気流を多くする必要がある。このように気流を多くした場合に、糸揺れが増大し、糸切れが頻発する。特に、フィラメント走行方向に交差する方向の断面が矩形となる走行領域(以下、単に「走行領域」または「矩形の走行領域」と称する)では、その長辺方向における両端部で糸切れが多くなる。
【0004】
また、生産性を上げるために、矩形口金の長尺方向の長さを延長した場合にも、フィラメントの走行領域の両端部にて糸切れが多くなる。
【0005】
さらに近年は、スパンボンド不織布の外観や肌触りを向上するために、繊維径を小さくした細繊度フィラメントの開発が盛んに進められているが、この場合にも糸揺れが生じやすくなり、特にフィラメントの走行領域の両端部にて糸切れが多くなる。また、細繊度フィラメントを製造するには、矩形口金の吐出孔から吐出されるポリマーの吐出量を少なくする場合があるが、生産性が低下することから、矩形口金の単位面積当たりの吐出孔の個数を増加させることが通常行われる。
【0006】
そこで、糸切れの改善方法として、特許文献1では、フィラメントが走行する矩形の走行領域の長辺側に配された向かい合う吸引装置で吸引流量に差を設けることで、糸切れが抑制することが開示されている。
【0007】
また、特許文献2では、フィラメントの走行方向に関して冷却装置の高さの範囲において、走行するフィラメントを挟んで対向配置された冷却装置の側部に気流を排出する機構を設けることで、矩形の走行領域の長辺方向における両端部での糸切れを抑制することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2019-504218号公報
【文献】特開2019-206792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、本発明者らの知見によると、特許文献1の方法では、フィラメントの走行領域の短辺方向の中央における糸切れ改善に一定の効果があるものの、フィラメントの走行領域の長辺方向における両端部では、依然として、糸切れが発生しやすいという問題がある。
【0010】
また、特許文献2の方法では、フィラメントの走行領域の長辺方向における両端部での糸切れを多少抑制できるもののその効果が十分でない。特に、口金の吐出孔から吐出するポリマー量を減らすことにより細繊度フィラメントを製造する場合には、口金近傍での気流乱れがフィラメントを直接揺らし、糸切れを誘発してしまうものの、本方法では、口金から離れた冷却装置での気流制御であるため、効果が十分ではない。また、フィラメントの走行方向に関して冷却装置の高さ範囲において、新たに気流を排出する機構を設けることが必要となるため、設備費が過大となる問題がある。さらに気流を排出するサクションブロアーが必要となるため、電力量が増加する問題がある。
【0011】
そこで本発明は、細繊度フィラメントといった高度化品種を製造した場合、または口金の吐出孔の増加、または矩形口金の長尺化による生産性を向上した場合においても、糸切れの発生を防ぎ、安定的に不織布を製造できる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明は、矩形の紡糸口金の長辺方向および短辺方向に配列された複数の吐出孔から熱可塑性ポリマーを溶融紡出し、得られた複数のフィラメントが走行する矩形の走行領域に対して、冷却装置より、上記矩形の長辺の外側から内側に向かって気流を吹き付け、冷却された複数のフィラメントをウエブ状に捕集する不織布の製造方法であって、フィラメントの走行方向に関して紡糸口金と冷却装置との間には、上記矩形の走行領域の全周に亘り吸引口を有する吸引装置を配し、かつ、上記矩形の走行領域の、長辺側の吸引口における単位長さ当たり、かつ、単位時間あたりの吸引流量QLと、上記矩形の走行領域の、短辺側の吸引口における単位長さ当たり、かつ、単位時間あたりの吸引流量QSが、1<QS/QL<5を満足するように調整する不織布の製造方法である。
【0013】
また、上記本発明の不織布の製造方法においては、以下の構成を有することが望ましい。
・前記冷却装置の吹出面からフィラメントに吹き付ける風速を0.5m/秒以上とすること。
・前記紡糸口金における吐出孔の配置密度を2孔/cm以上とすること。
・前記紡糸口金の長辺方向における最も外側の吐出孔と、前記矩形の走行領域における短辺側の吸引口との、水平方向における最短距離を、200mm以下とすること。
【0014】
本発明において「熱可塑性ポリマー」とは、ポリエステルやポリアミド等の熱可塑性ポリマーに限られず、可塑剤を含有したセルロースエステル系熱可塑性ポリマー等も含まれるものを言う。
【0015】
本発明において「気流」とは、主に空気からなる気流を示すが、(i)地球上の通常の空気のみに限られず、(ii)空気に含まれる酸素等の成分、(iii)水分を含む空気、(iv)希ガスや窒素等の不活性気体、(v)スチーム、(vi)前述の(i)~(v)の混合物などであってもよい。
【0016】
本発明において、フィラメントの「走行領域」とは、上方に配置された矩形の紡糸口金から熱可塑性ポリマーを溶融紡出し、紡出されたフィラメントがウエブ状に捕集されるまでの主たる経路をいう。紡糸口金の長辺方向に複数の紡糸孔が配列され、それらから複数本のフィラメントが揃って紡出される結果、複数のフィラメントで形成される走行領域は、全体としてその横断面形状(フィラメントの走行方向に交差する方向の断面形状)が実質的に矩形である。ここで、フィラメントの走行方向において、紡糸口金に近い側を「上方」といい、ウエブ側に近い側を「下方」という。
【0017】
本発明において「吸引口」とは、気流を排出するための開口部であって、フィラメントの走行方向に関して、冷却装置より上方、かつ、紡糸口金の吐出面より下方に位置しているものである。
【0018】
本発明において「吐出孔の配置密度」は、吐出孔数を該吐出孔の配置領域面積で除することによって求める値をいう。この吐出孔の配置密度が大きい程、紡糸口金に吐出孔が多数にて構成されている。なお、「配置領域」とは、吐出孔径に対して50倍以下の孔間距離で構成される吐出孔を結んだ線分外周の内側の領域を示す。配置領域とならない非穿孔領域の例を図9に示す。
【発明の効果】
【0019】
本発明の不織布の製造方法によれば、フィラメントの走行方向に関して紡糸口金と冷却装置との間に位置する吸引装置の吸引流量を適切に設定することで、口金近傍での気流を制御し、糸切れが生じるのを防ぐことができ、安定的に不織布を製造できる。また、高度化品種となる細繊度フィラメントの製造や、生産性向上のための口金の吐出孔数の増加、または矩形口金の長尺化の場合においても、安定的に不織布を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る方法を実施するための装置例の概略斜視図
図2】本発明に係る方法を実施するための装置例の概略断面図(短辺側)
図3】本発明に係る方法を実施するための装置例の概略断面図(長辺側)
図4】本発明に係る方法を実施しなかった場合の、口金直下での気流の形態(向きや流速)を示した模式図
図5】本発明に係る方法を実施した場合の口金直下での気流の形態を示した模式図
図6】本発明に係る方法で用いることができる紡糸口金における口金吐出孔の配置領域を示した模式図
図7】冷却装置気流吹出面の水平方向中央での気流の形態(向きや流速)を示した概略側面図(短辺側)
図8】本発明に係る方法を実施しなかった場合の、冷却装置気流吹出面の水平方向両端近傍での気流の形態(向きや流速)を示した概略側面図(短辺側)
図9】本発明に係る方法で用いることができる紡糸口金における口金吐出孔の配置領域と非穿孔領域とを示した模式図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の不織布の製造方法について詳細に説明する。図1は本発明の一実施形態に用いられる不織布の製造装置の概略斜視図であり、図2図1のZ-X断面図であり、図3図1のY-Z断面図である。図4は、本発明に係る方法を実施しなかった場合における口金直下での気流の形態を示した、フィラメントの矩形の走行領域11の片側端部の拡大模式図である。図5は、本発明に係る方法を実施した場合における口金直下での気流の形態を示した、フィラメントの矩形の走行領域11の片側端部の拡大模式図である。なお、「口金直下」とは、フィラメント8の走行方向において、冷却装置3より上方、かつ、口金吐出面より下方の領域を示す。紡糸口金2の長辺となる側を長辺方向、短辺となる側を短辺方向と呼ぶ。また、図4図5において、矢印の向きは気流の向きを表し、矢印の長さは気流の速度を相対的に表している。さらに、図面は、本発明の要点を正確に伝えるための概念図であって、簡略化している。そのため、本発明を実施するための製造装置を特に制限するものではなく、また、寸法比などは実施の形態に合わせて変更可能である。
【0022】
本発明の一実施形態に係る不織布の製造方法においては、例えば図1、2、3に示すように、熱可塑性ポリマーを溶融樹脂導入管1より紡糸口金2に供給し、紡糸口金2の下面に配された複数の吐出孔から吐出する。このとき、熱可塑性ポリマーは、溶融樹脂導入管1から紡糸口金2に直接、供給してもよいが、コートハンガーダイからなるスピンブロック(図示なし)を介して紡糸口金2に導いてもよい。その後、吐出孔から連続的に吐出された複数のフィラメント8を、冷却装置3の一方向又は二方向から吹き出される気流で冷却する。冷却装置3は、紡糸口金2の長辺側に配置されており、外側から糸条の走行領域11に向かって気流を吹き出す。
【0023】
ここで、図示は無いが、密封型の場合は、気流をそのままノズルで絞って延伸風としてそれによりフィラメント8を延伸し、開放型の場合は、別途延伸風を導入する丸型エアガン或いはスリットエアガンにフィラメントを通して延伸し、移動捕集面上にウエブ状に堆積させる。
【0024】
紡糸口金2は、複数の吐出孔が吐出面において装置幅方向(紡糸口金2の長辺方向)およびそれに直交する方向(紡糸口金2の短辺方向)に配列されており、実質的に矩形である。また、そのように配列された複数の吐出孔から溶融紡出されるフィラメントの走行領域11も、フィラメントの走行方向に垂直な断面が実質的に矩形となる。ここで、「矩形」とは、紡糸口金2や走行領域の長辺方向、短辺方向を定められる程度に長方形であればよく、厳密に、凹凸を全く有しない長方形であることを必須とするものではない。そのため、吐出面における吐出孔の配置領域10も、完全な矩形である必要はなく、例えば図6(a)~(d)、(g)に示すような形状であってもよい。また、図6の(e)、(f)に示すように、吐出孔の配置領域の中に、吐出孔が配置されていない非配置領域があっても、その全体を示す形状が矩形であればよい。
【0025】
図3に示すように、冷却装置3の気流吹出面9は、フィラメントの矩形の走行領域の長辺方向に、フィラメントの走行領域11の幅より広く設けることが望ましい。気流吹出面9の水平方向端部近傍では、雰囲気場の圧力変動が生じやすく気流の乱れが大きいため、糸揺れが助長されやすいが、前述の構成とすることで、それを防ぐことができる。
【0026】
また、フィラメント8の走行方向において紡糸口金2と冷却装置3との間には吸引装置4を設ける。フィラメントの矩形の走行領域11の長辺側には、吸引口5を有する長辺側の吸引装置4を設け、走行領域11の短辺側には、吸引口7を有する短辺側の吸引装置6を配し、矩形の走行領域11の全周に渡り吸引口が開口するようにする。なお、吸引口5、7は、それらで合わせて矩形の走行領域11の周囲を実質的に囲むように存在すればよく、図3に示すように、部分的にリブが配され、そのリブによって吸引流が多少遮られるような構成であってもよい。これらの吸引装置は、ポリマー揮発物の吸引を目的に設置することを主たる目的とするが、これに限定されることはない。
【0027】
そして、本発明においては、かかる長辺側の吸引口5における単位長さ当たり、かつ、単位時間あたりの吸引流量QLと、短辺側の吸引口7における単位長さ当たり、かつ、単位時間あたりの吸引流量QSとが、下記式を満足するように調整する。
【0028】
1<QS/QL<5
不織布の製造において、紡糸口金2から吐出された直後の熱可塑性ポリマーは、溶融状態であり、糸張力も極めて低い状態であるため、わずかな気流の乱れでも糸揺れが生じやすい。このような状態、すなわち口金直下においては、気流速度が小さく、気流流れ方向の時間変動が小さいことが望ましい。
【0029】
しかしながら、例えば細繊度フィラメントを製造する場合に冷却装置3による気流を増加させると、冷却装置3の気流吹出面9の水平方向中央では、図7に示すように、気流が概ねフィラメント8の走行方向に発生する随伴流として下方に流出する。これに対して、冷却装置3の気流吹出面9の水平方向にみて両端近傍では、気流が糸随伴流に対して過剰な供給となりやすく、図8に示すように多くの気流がフィラメント8の走行方向に対して逆流し、口金近傍に流れ込む。そして、口金直下では、該気流が、図4に示すようにフィラメントの走行領域11へ流れ込む。この口金直下でのフィラメントの走行領域11への気流が糸揺れを増大させ、糸切れを発生させる根本たる原因となる。
【0030】
また、細繊度フィラメントを製造するために、紡糸口金2の吐出孔から吐出するポリマー量を低下させると、フィラメント8の糸張力が低下するため、糸揺れがより顕著となる。
【0031】
さらに、生産性を向上させるために、紡糸口金2の吐出孔の個数を増加、つまりは吐出孔の配置密度を増加した場合には、フィラメントの走行領域11の長辺側の中央(すなわち冷却装置3の気流吹出面9の水平方向中央)と、フィラメントの走行領域11の長辺側の端部(すなわち冷却装置3の気流吹出面9の水平方向両端部)とで随伴流量の差が拡大する。そのため、随伴流量が多い、フィラメントの走行領域11の長辺側の中央に向かい、随伴流量が少ない長辺側の端部からの気流の流れ込みが発生し、それが糸揺れの原因となる。
【0032】
また、紡糸口金2を長尺化した場合にも、紡糸口金2の長辺方向において、中央と端部での圧力差が生じることから、随伴流量の差が大きくなり、同様の問題が発生する。
【0033】
本発明者らは、従来の技術では何の配慮もされていなかった上記の問題に対して、鋭意検討を重ねた結果、本発明の新たな技術を見出すに至った。すなわち、図5に示すように、紡糸口金2と冷却装置3との間で、矩形の走行領域11の長辺側の吸引口5での吸引流量に比べて、短辺側の吸引口7での吸引流量を増加させて適切に調整することで、供給過剰となった冷却装置3からの冷却風が口金直下でフィラメントへ流れ込むことを抑制できることを見出した。具体的には、長辺側の吸引口5における単位長さ当たり、かつ、単位時間あたりの吸引流量QLと、短辺側の吸引口7における単位長さ当たり、かつ、単位時間あたりの吸引流量QSが、1<QS/QL<5の関係を満足するように調整する。1≧QS/QLの場合には、余剰となった気流が長辺側の吸引口に流れやすくなり、フィラメントの走行領域11へ気流が流れやすくなる。また、QS/QL≧5の場合には、短辺側の吸引量が大きくなりすぎるため、フィラメントの走行領域11の両端部でフィラメントが長辺方向外側に広がり、糸揺れを助長する。そのため、本発明においては1<QS/QL<5を満足するように調整することで、口金直下の、矩形の走行領域11の長辺方向における両端部で、フィラメント8へ向かう気流を制御し、糸切れを抑制する。
【0034】
QS/QLは、1.1<QS/QL<2の範囲であることが好ましい。また、不織布の製造装置は、上記2つの吸引流量のバランスを調整する機構を備えていることが好ましい。例えば、長辺側と短辺側の吸引口の幅や吸引した気流が流れる流路の間隙を変更可能なダンパー機構を備えていることが好ましい。
【0035】
なお、特許文献2に示すように、フィラメント8の走行方向に対して冷却装置3の高さ範囲において気流を排出する機構を設ける場合には、冷却装置3の高さの領域に限り、フィラメントの走行領域11に流れ込む気流を減少することは可能となるが、口金直下(紡糸口金2と冷却装置3との間の領域)での気流の流れ込みを十分に抑制することはできない。特に、生産性を維持して細繊度フィラメント8を製造するためには、紡糸口金2の吐出孔の個数を増加しつつ、吐出孔から吐出されるポリマー量を減らすことが好ましいが、この場合には、吐出直後のフィラメント8は糸径が小さく、且つ糸張力が小さいため、糸揺れが発生しやすい状態となる。そのため、特許文献2の冷却装置3の位置に気流を排出する機構を設けても、最も糸揺れが発生しやすい位置での効果が発現しない。また、新たに気流を排出する機構を備える場合、設備費や用役費が増大する問題もある。しかしながら、本発明によれば、特許文献2の冷却装置3に気流を排出する機構を設ける場合に比べて、気流の排出量を最小限に留めることができ、ブロワーによる冷却装置3から発生させる風量を低減できるため、電力量の削減が可能となる。
【0036】
本発明においては、冷却装置3の気流吹出面9からの風速を0.5/秒以上とすることが好ましい。0.5m/秒以上とすることで、フィラメントの冷却を促進し、糸切れ発生をより抑制することができる。該風速は2.0m/秒以下とすることがより好ましい。2.0m/秒以下とすることで、糸揺れ、糸切れ発生をより抑制できる。
【0037】
また、特に、密閉型にて、単糸繊度2dtex以下のフィラメントを生産するには、高い延伸張力が必要となることから、より多くの風量が必要となる。そのため、冷却装置3から供給する風量値の調整が重要となる。冷却装置3から吹き出す気流は、気流吹出面9の水平方向の単位長さ当たり、かつ、単位時間あたり80m/分/m以上とすることが、好ましい。さらに単糸繊度が小さいフィラメントを生産する場合には、より多くの風量を設定することが好ましい。
【0038】
さらに本発明においては、紡糸口金2における吐出孔の配置密度を2孔/cm以上とすることにより、生産性を向上しつつ、糸切れを抑制することが可能となる。口金吐出孔の配置密度を2孔/cm以上へと増加させると、フィラメント8の走行方向への随伴流が増大するため、その随伴流に見合った風量を冷却装置3から供給する必要があり、気流の風量の増加が必須となる。つまりは、上述の通り、フィラメントの走行領域11の長尺方向の端部近傍にて気流乱れが生じやすくなるため、本発明の効果がより顕著となる。
【0039】
また、本発明者らの知見によると、紡糸口金2の長辺方向における最も外側の吐出孔と、短辺側の吸引口7との水平方向における距離が離れることで、フィラメントの走行領域11に流れ込む気流が増大する。そのため、長辺方向における最も外側の吐出孔(すなわちフィラメントの走行領域11の端部)と、短辺側の吸引口7との、水平方向における最短距離Lが、200mm以下であることが好ましい。このようにすることは、設備費抑制の観点からも長尺方向に小さくなる観点からも好ましい。
【0040】
また、本発明においては、吐出孔配置領域内であっても、紡糸口金2の長辺方向における最も外側の吐出孔近傍の領域のみ、好ましくは前記最も外側の吐出孔から内側へ100mm以内の領域のみ、吐出孔の配置密度を、長辺方向中央部の吐出孔の配置密度に比べ小さくすることが好ましい。このような構成により、気流が乱れやすくなるフィラメントの走行領域11の長尺方向の端部近傍においてフィラメント同士の干渉頻度を低減し糸切れを抑制できる。この際、吐出孔の配置密度を小さくすることで単位幅あたりのフィラメント数が減少するが、吐出孔の配置領域を、図6(g)に示すように紡糸口金2の長辺方向に関して局所的に大きくすることで、単位幅あたりのフィラメント数を維持することができる。
【0041】
本発明は、極めて汎用性の高い発明であり、公知の不織布の全ての製造において適用できる。従って、不織布を構成するポリマーにより特に限られるものではない。例えば、不織布を構成するポリマーの一例を挙げれば、ポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリプロピレン等々が挙げられる。更に、上記したポリマーに、紡糸安定性等を損なわない範囲で、二酸化チタン等の艶消し剤、酸化ケイ素、カオリン、着色防止剤、安定剤、抗酸化剤、消臭剤、難燃剤、糸摩擦低減剤、着色顔料、表面改質剤等の各種機能性粒子や有機化合物等の添加剤が含有されていても良く、共重合が含まれても良い。
【0042】
また、不織布を構成するポリマーは、単一成分で構成しても、複数成分で構成してもよく、複数成分の場合には、例えば、芯鞘、サイドバイサイド等の構成が挙げられる。
【0043】
不織布を形成する繊維の断面形状は、丸型状に限定されず、丸型以外の断面状(三角、扁平等)や中空であってもよい。また、不織布の単糸繊度は特に限られるものではない。不織布を構成するフィラメント数も特に限られるものではないが、不織布の単糸繊度が小さければ小さいほど、また、フィラメント数が多ければ多いほど、従来の技術との差異が明確となる。
【0044】
次に、図1に示す装置を用いて、スパンボンド不織布を製造する好ましい態様について、具体的に説明する。
【0045】
図1に示す装置において、例えばポリオレフィン系樹脂は紡糸口金2より溶融紡糸される。この時の紡糸温度は、200~270℃であることが好ましく、より好ましくは210~260℃であり、さらに好ましくは220~250℃である。紡糸温度を上記範囲内とすることにより、安定した溶融状態とし、優れた紡糸安定性を得ることができる。
【0046】
紡糸口金2より溶融紡糸されたフィラメント8は、次に冷却装置3にて冷却される。冷却条件は、紡糸口金2の単孔あたりの吐出量、紡糸する温度および雰囲気温度等を考慮して適宜調整して採用することができる。
【0047】
冷却装置3にて冷却されたフィラメント8は、その後、図示は無いが、丸型エアガン、またはスリットエアガンにより張力が付与されて延伸され、移動捕集面上に吹き付けられ、不織布を形成する。フィラメント8の延伸後の走行速度は、2,000~6,000m/分であることが好ましく、より好ましくは3,000~5,000m/分であり、さらに好ましくは3,500~4,500m/分である。延伸後の走行速度が大きいほど、従来技術との差が明確となる。また、フィラメント8の延伸後の単糸繊度は、0.1~3dtexであることが好ましく、より好ましくは0.5~2dtexであり、さらに好ましくは0.8~1.5dtexである。
【実施例
【0048】
以下、実施例を挙げて、本発明の製造方法の効果を具体的に説明する。なお実施例における特性値の測定法等は次のとおりである。
【0049】
<単糸繊度>
コンベアベルト上にフィラメントを捕集して得た不織布から、幅方向に両端50mmを除いた上で、ランダムに小片サンプル10個を採取した。デジタルマイクロスコープで各小片サンプルの表面写真を撮影し、各サンプルから4本ずつ、計40本の単繊維の直径[μm]を測定し、それらの平均値の小数点第一位を四捨五入した。得られた平均値より、以下の式で単糸繊度を求めた。なお、本実施例ではポリプロピレン樹脂を使用したため、樹脂密度0.91g/cmとした。
単糸繊度[dtex]=(繊維径[μm]/2)×π×10000[m]×樹脂密度[g/cm]×10-6
【0050】
<糸切れ>
紡糸状況を5分間観察し、1分間あたりに糸切れする回数として求め、以下の基準で評価した。
A:糸切れなし(1回/分以下)
B:糸切れややあり(1回/分超3回/分以下)
C:糸切れあり(3回/分超)
【0051】
<吸引流量>
吸引装置での吸引流量は、常温・常湿下において、風速計(日本カノマックス株式会社:MODEL6501シリーズ、または、アリアテクニカ株式会社:MODEL AF101/201)を用いて、風速計のプローブを吸引口高さ中央位置に設置して測定した。長辺側の吸引装置では幅方向に均等間隔で10点にて風速を取得し、それらの風速平均値VL-AVEを算出し、短辺側の吸引装置では幅方向に均等間隔で3点にて風速を取得し、それらの風速平均値VS-AVEを算出した。ここで、各地点での風速値は1秒ごとに10秒間のデータを取得し、平均値を算出した。長辺側と短辺側それぞれの風速平均値と吸引口の面積を掛け合わせたものを、それぞれ吸引流量QLとQSと設定する。
【0052】
<冷却装置の気流吹出面からフィラメントに吹き付ける気流の風速>
冷却装置からの気流の風速は、常温・常湿下において、風速計(日本カノマックス株式会社:MODEL6501シリーズ、または、アリアテクニカ株式会社:MODEL AF101/201)を用いて測定した。風速計のプローブは、気流吹出面の上端より50mm位置、高さ中央位置、および下端より50mm位置、の高さ方向3点と、幅方向に等間隔に10点の、合計3点×10点=30点に設置し、測定を行った。これらの各点データから算出した風速平均値を冷却装置の吹出面からの気流の風速と設定する。
【0053】
<冷却装置からフィラメントに吹き付ける気流の流量>
冷却装置の吹出面からフィラメントに吹き付ける気流の風速に吹出面の面積を掛け合わせたものを気流の流量と設定する。
【0054】
<吐出孔の配置密度>
吐出孔の配置密度は、以下のように定義する。ノズル孔の配置が格子状である場合には、ノズル孔の横方向のピッチをPh(mm)、縦方向のピッチをPv(mm)とし、配置密度を1/(Ph×Pv)(個/mm)で求める。また、ノズル孔の配置が千鳥状である場合には、隣接する3個のノズル孔の中心軸を結んで形成される三角形の面積をSt(mm)とし、0.5/St(個/mm)で配置密度を求める。
【0055】
なお、ノズル孔配置が規則性を有していない場合には、1辺を50mmとする2500mmの正方形中に含まれるノズル孔数を計測し、2500mmで除することで、1mmあたりのノズル孔数としてあらわすものとする。ただし、1辺を50mmとする2500mmの正方形部分が非穿孔領域を含む場合には、非穿孔領域を含めずに計算するものとする。
【0056】
また、特に指定のない限り、吐出孔の配置密度は矩形の吐出領域の長辺方向における中央近傍にて計算するものとする。
【0057】
<吐出孔と吸引口との水平方向における最短距離>
紡糸口金から熱可塑ポリマーが流れ出る吐出孔において、長手方向にみて最も外側の吐出孔と短辺側の吸引装置の吸引面との水平距離を、吐出孔と吸引口との水平方向における最短距離、と設定する。
【0058】
(実施例1~3、比較例1、2)
図1に示すような機構を備えた密閉型の不織布の製造装置を用い、不織布の製造を行った。原料樹脂として、ASTM―D1238に準拠し荷重2.16kgf(21N)、温度230℃でのメルトフローレートが60g/10分のポリプロピレン樹脂を用い、溶融樹脂温度を240℃、冷却装置の気流吹出面からの気流の風速を1.0m/秒、1mあたりの風量を95m/分/m、口金吐出孔の配置密度を3.6孔/cm、吐出孔と吸引口との水平方向における最短距離を80mm、単孔吐出量を0.46g/分として、表1に示す条件で、単糸繊度1.4dtexの不織布の製造を行った。試験結果を表1に示す。
【0059】
比較例1では、フィラメントの走行領域の長辺方向における両端部での糸切れが発生した。これに対して実施例1では、短辺側の吸引装置の吸引流量を増加させて適切に制御することで糸切れ回数が大幅に減少した。実施例2では、実施例1から短辺側の吸引流量を増加させることで、矩形の走行領域の長辺方向における両端部での糸切れが実施例1に比べてさらに低減した。実施例3では、実施例2から、さらに短辺側の吸引流量を増加したが、矩形の走行領域の長辺方向における両端部で、実施例2に比べて糸切れが増加した。さらに、比較例2に示すように、吸引流量を増加させると、糸切れが大幅に増加した。
【0060】
【表1】
【0061】
(実施例4~6、比較例3、4)
比較例3では、図1に示すような機構を備えた開放型の不織布の製造装置を用い、不織布の製造を行った。原料樹脂として、ASTM―D1238に準拠し荷重2.16kgf(21N)、温度230℃でのメルトフローレート60g/10分のポリプロピレン樹脂を用い、溶融樹脂温度を230℃、冷却装置の気流吹出面からの気流の風速を0.7m/秒、1mあたりの風量を34m/分/m、口金吐出孔の配置密度を3.0孔/cm、吐出孔と吸引口との水平方向における最短距離を80m、単孔吐出量を0.40g/分として、表2に示す条件で、単糸繊度1.0dtexの不織布の製造を行った。試験結果を表2に示す。
【0062】
比較例4、実施例4~6も、表2に示すように条件を変更した以外は比較例3と同様にして、不織布の製造を行った。
【0063】
比較例3では、ウエブ取得を試みたが、糸切れが多発した。比較例4では、比較例3から気流の流量を増加させることで糸切れの頻度が減少したが、依然として、糸切れが残存した。一方、実施例4では、比較例3、4に比べて、短辺側の吸引装置での吸引流量を増加させることで、大幅に糸切れ回数が減少した。また、実施例5では、実施例4から、熱可塑ポリマーが流れ出る吐出孔と短辺側の吸引口との水平方向における最短距離Lを180mmまで増加させたが、安定的な紡糸を行えた。さらに、実施例6では、吐出孔と吸引口との水平方向における最短距離Lを増加させ220mmとしたところ、矩形の走行領域の長辺方向における両端部で若干糸切れが発生した。
【0064】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、不織布の製造、特にスパンボンド不織布の製造に際して発生する、紡糸工程での糸切れを抑制する方法に関するもので、かかる製法によって得られた不織布は、工業資材用フィルター、オムツ、生理用品、医療用マスク、花粉ガードマスク、医療用ガウン・ドレープといった衛生材料、電線押え巻き、自動車用資材、液体濾過用フィルター、合紙、洗車ブラシといった産業資材、食品包装材、ふろしき、テープヤーン、靴資材、カイロ、ティーバッグ、クリーニングカバーといった生活資材、べたがけ、農資ポットといった農業資材、屋根下材、土木安定シート、断熱材手段材、床材、ハウスラップといった建材、土木資材などに応用できるが、その応用範囲がこれらに限られるものでない。
【符号の説明】
【0066】
1 溶融樹脂導入管
2 紡糸口金
3 冷却装置
4 長辺側の吸引装置
5 長辺側の吸引口
6 短辺側の吸引装置
7 短辺側の吸引口
8 フィラメント
9 冷却装置の気流吹出面
10 口金吐出孔の配置領域
11 フィラメントの走行領域
12 口金の非穿孔領域
L 紡糸口金の長辺方向における最も外側の吐出孔と、矩形の走行領域における短辺側の吸引口との、水平方向における最短距離
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9