(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】アルミニウム化成箔の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/00 20060101AFI20230829BHJP
C25D 11/04 20060101ALI20230829BHJP
C25D 11/12 20060101ALI20230829BHJP
C25D 11/16 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
H01G9/00 290B
C25D11/04 305
C25D11/12 Z
C25D11/16
H01G9/00 290A
H01G9/00 290D
(21)【出願番号】P 2021522738
(86)(22)【出願日】2020-04-30
(86)【国際出願番号】 JP2020018247
(87)【国際公開番号】W WO2020241174
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2021-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2019097832
(32)【優先日】2019-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142619
【氏名又は名称】河合 徹
(72)【発明者】
【氏名】清水 裕太
(72)【発明者】
【氏名】片野 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】榎 修平
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-224843(JP,A)
【文献】特開2005-175330(JP,A)
【文献】特開2013-153024(JP,A)
【文献】特開2014-135481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/00
C25D 11/04
C25D 11/12
C25D 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる箔状のベース層の両面のうち、第1面にアルミニウムまたはアルミニウム合金の粉体同士が空隙を維持しながら焼結して繋がっている焼結体からなる第1多孔質層が積層されたアルミニウム箔に第1化成皮膜を形成する化成工程を備え、
前記化成工程は、前記アルミニウム箔に陽極酸化を施す陽極酸化工程を備え、
前記化成工程では、前記アルミニウム箔に応力を発生させて前記第1多孔質層の表面に第1方向に延在するクラックを前記第1方向に直交する第2方向で離間して複数設けるクラック形成処理を行い、
前記陽極酸化工程では、
前記クラック形成処理前に所定の陽極酸化電圧に達するまで前記アルミニウム箔に陽極酸化を施すクラック形成前陽極酸化処理と、前記クラック形成処理後に前記アルミニウム箔に陽極酸化を施すクラック形成後陽極酸化処理を行
い、
前記クラック形成前陽極酸化処理における前記所定の陽極酸化電圧が200V以上且つ400V以下であり、
前記クラック形成後陽極酸化処理における陽極酸化電圧が、前記クラック形成前陽極酸化処理において達していた前記所定の陽極酸化電圧よりも高い電圧であることを特徴とするアルミニウム化成箔の製造方法。
【請求項2】
前記クラック形成処理では、300μm以上の長さで前記第1方向に延在する前記クラックを、前記第2方向において95μmから150μmの間隔で複数設けることを特徴とする請求項
1に記載のアルミニウム化成箔の製造方法。
【請求項3】
前記クラック形成処理では、300μm以上の長さで前記第1方向に延在する前記クラックを、前記第2方向において30μmから150μmの間隔で複数設けることを特徴とする請求項
1に記載のアルミニウム化成箔の製造方法。
【請求項4】
前記クラック形成処理では、各クラックを前記ベース層と前記第1多孔質層との境界まで到達させることを特徴とする請求項
1から
3のうちのいずれか一項に記載のアルミニウム化成箔の製造方法。
【請求項5】
前記クラック形成処理では、前記第1方向に延在する第1クラック形成用ローラを、前
記アルミニウム箔の両面のうち前記第1面とは反対側の第2面に接触させて当該アルミニウム箔と当該第1クラック形成用ローラとを前記第2方向に相対移動させることを特徴とする請求項
1から
4のうちのいずれか一項に記載のアルミニウム化成箔の製造方法。
【請求項6】
前記化成工程では、前記第2方向に沿って配置された複数のローラによって前記アルミニウム箔を前記第2方向に走行させ、
複数の前記ローラのうち、他のローラよりも径が小さいローラが前記第1クラック形成用ローラとして配置されていることを特徴とする請求項
5に記載のアルミニウム化成箔の製造方法。
【請求項7】
前記アルミニウム箔には、前記ベース層の前記第1面とは反対の第2面に、アルミニウムまたはアルミニウム合金の粉体の焼結体からなる第2多孔質層が積層されており、
前記化成工程では、前記第2多孔質層に第2化成皮膜を形成し、
前記クラック形成処理では、前記第1方向に延在する第2クラック形成用ローラを、前記第2方向で前記第1クラック形成用ローラとは異なる位置で前記第1面に接触させて当該アルミニウム箔と前記第2クラック形成用ローラとを前記第2方向に相対移動させることを特徴とする請求項
5または
6に記載のアルミニウム化成箔の製造方法。
【請求項8】
前記化成工程は、前記陽極酸化工程の前に、前記アルミニウム箔に水和皮膜を形成する水和工程を備え、
前記陽極酸化工程は、前記水和皮膜が形成された前記アルミニウム箔に陽極酸化を施し、
前記クラック形成処理は、前記水和工程の途中に行うことを特徴とする請求項
1から
7のうちのいずれか一項に記載のアルミニウム化成箔の製造方法。
【請求項9】
前記化成工程は、前記陽極酸化工程の前に、前記アルミニウム箔に水和皮膜を形成する水和工程を備え、
前記陽極酸化工程は、前記水和皮膜が形成された前記アルミニウム箔に陽極酸化を施し、
前記クラック形成処理は、前記水和工程の後に行うことを特徴とする請求項
1から
8のうちのいずれか一項に記載のアルミニウム化成箔の製造方法。
【請求項10】
前記クラック形成処理に引き続いて前記アルミニウム箔に水和皮膜を形成する再水和処理を備えることを特徴とする請求項
9に記載のアルミニウム化成箔の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムまたはアルミニウム合金の粉体の焼結体からなる多孔質層を備えるアルミニウム箔を化成したアルミニウム化成箔、アルミニウム電解コンデンサ用電極、およびアルミニウム化成箔の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム電解コンデンサ用電極として、アルミニウムの粉体の焼結体からなる多孔質層を備えるアルミニウム箔に陽極酸化を施したアルミニウム化成箔を用いることが知られている。このようなアルミニウム化成箔では、アルミニウム箔に陽極酸化を施して化成皮膜を形成する陽極酸化工程においてアルミニウム箔に折れ曲がりが発生すると、アルミニウム箔が破断するという問題がある。特許文献1では、焼結体の表面にエンボス加工を施して焼結体の表面粗度を所定の値の範囲内とし、しかる後に陽極酸化工程を行うことにより、アルミニウム箔の破断を低減させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
陽極酸化工程においてアルミニウム箔の折曲げ強度が低下する理由は、化成皮膜の成長に伴ってアルミニウム箔から応力を逃がすことが困難となるからである。すなわち、陽極酸化工程では、粉体の焼結体からなる多孔質層の表面に化成皮膜が成長する。これにより、隣り合う粉体は、化成皮膜を介して結合する。このような状態で、アルミニウム箔に折れ曲がりが発生した場合には、粉体同士の結合が強固なので、変形に起因して発生した応力をアルミニウム箔から逃がすことができない。この結果、粉体間の結合に局所的な割れが発生する。また、この割れが広がって、アルミニウム箔が破断する。
【0005】
ここで、多孔質層の表面にエンボス加工を施したアルミニウム箔に陽極酸化を施す場合でも、化成皮膜の成長に伴って、隣り合う粉体は化成皮膜を介して結合する。従って、特許文献1の技術を用いた場合でも、変形に起因する応力をアルミニウム箔から逃がすことは容易ではなく、アルミニウム箔の折曲げ強度の低下を十分に抑制することは困難である。
【0006】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、粉体の焼結体からなる多孔質層を備えるアルミニウム箔に陽極酸化を施したときに、折れ曲がりによりアルミニウム箔が破断することを防止あるいは抑制できるアルミニウム化成箔を提供することにある。また、かかるアルミニウム化成箔の製造方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を解決するために、本発明のアルミニウム化成箔の製造方法は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる箔状のベース層の両面のうち、第1面にアルミニウムまたはアルミニウム合金の粉体同士が空隙を維持しながら焼結して繋がっている焼結体からなる第1多孔質層が積層されたアルミニウム箔に第1化成皮膜を形成する化成工程を備え、前記化成工程は、前記アルミニウム箔に陽極酸化を施す陽極酸化工程を備え、前記化成工程では、前記アルミニウム箔に応力を発生させて前記第1多孔質層の表面に第1方向に延在するクラックを前記第1方向に直交する第2方向で離間して複数設けるクラック形成処理を行い、前記陽極酸化工程では、前記クラック形成処理前に所定の陽極酸化電圧に達するまで前記アルミニウム箔に陽極酸化を施すクラック形成前陽極酸化処理と、前記クラック形成処理後に前記アルミニウム箔に陽極酸化を施すクラック形成後陽極酸化処理を行い、前記クラック形成前陽極酸化処理における前記所定の陽極酸化電圧が200V以上且つ400V以下であり、前記クラック形成後陽極酸化処理における陽極酸化電圧が、前記クラック形成前陽極酸化処理において達していた前記所定の陽極酸化電圧よりも高い電圧であることを特徴とする。
【0024】
本発明によれば、化成工程においてアルミニウム箔に応力を発生させることにより、第1多孔質層の表面に第1方向に延在するクラックを第2方向に離間させて複数設ける。また、クラックの形成後に、アルミニウム箔に陽極酸化を施す。ここで、化成工程の途中で第1多孔質層にクラックを形成しておくことで、その後の陽極酸化により第1化成皮膜が成長した場合でも、第1化成皮膜によってクラックが閉じられてしまうことを抑制できる。よって、複数のクラックを備えるアルミニウム化成箔を得ることができる。従って、第1化成皮膜の成長に伴って隣り合う粉体が第1化成皮膜を介して結合しているアルミニウム箔に折れ曲がりが発生した場合でも、変形に起因して発生した応力をクラックから逃がすことができる。これにより、粉体間の結合に局所的な割れが発生することを防止或いは抑制できるので、局所的な割れが広がってアルミニウム箔が破断することを防止或いは抑制できる。また、クラックを形成した後にアルミニウム箔に陽極酸化を施すので、クラックが生じた後の第1多孔質層に第1化成皮膜を再形成することができる。これにより、クラックの形成により第1多孔質層の表面に露出したアルミニウム新生面(剥き出しになった金属アルミニウムの表面)を、再形成した第1化成皮膜により被覆できる。したがって、クラックによって生じる陽極酸化中のアルミニウム箔またはアルミニウム電解コンデンサ用電極の漏れ電流を低減しながら、破断することを防止或いは抑制できる。
【0025】
本発明において、前記クラック形成処理では、300μm以上の長さで前記第1方向に延在する前記クラックを、前記第2方向において95μmから150μmの間隔で複数設けるものとすることができる。あるいは、本発明において、前記クラック形成処理では、300μm以上の長さで前記第1方向に延在する前記クラックを、前記第2方向において
30μmから150μmの間隔で複数設けるものとすることができる。このようなクラックを設ければ、陽極酸化によって第1化成皮膜が成長した場合でも、第1化成皮膜によりクラックが閉じられてしまうことを、防止或いは抑制できる。
【0026】
本発明において、前記クラック形成処理では、各クラックを前記ベース層と前記第1多孔質層との境界まで到達させることが望ましい。このようにすれば、クラックが深いので、陽極酸化を施している間にアルミニウム箔に折れ曲がりが発生した場合でも、変形に起因して発生した応力を、クラックから逃がすことが容易となる。
【0027】
なお、陽極酸化時の電圧が所定の陽極酸化電圧に達するまでに成長する第1化成皮膜の厚みは推定できる。本発明によれば、クラック形成処理前に所定の陽極酸化電圧に達するまでアルミニウム箔に陽極酸化を施すクラック形成前陽極酸化処理を行うので、クラック形成処理を行う時点で第1化成皮膜が厚くなり過ぎて、アルミニウム箔が硬くなり過ぎることを回避できる。これにより、アルミニウム箔に応力を発生させたときに、アルミニウム箔が破断することを回避できる。また、アルミニウム箔に応力を発生させたときに、第1多孔質層の表面に複数のクラックを均一に設けることが可能となる。ここで、第1多孔質層の表面に複数のクラックを均一に形成すれば、目的とする皮膜耐電圧に達するまで第1化成皮膜の厚みが増加した場合でも、折曲げ強度が低下することを抑制できる。
【0028】
本発明によれば、上述した所定の陽極酸化電圧は200V以上且つ400V以下である。なお、所定の陽極酸化電圧に達するまでには、所定の陽極酸化電圧に達した時点を含む。このようにすれば、陽極酸化時の電圧が所定の陽極酸化電圧に達した後にクラック形成処理を行う場合と比較して、クラックを形成する時点で第1化成皮膜が厚くなり過ぎず、
アルミニウム箔が硬くなり過ぎない。従って、アルミニウム箔に応力を発生させたときに、アルミニウム箔が破断し難い。また、本発明によれば、陽極酸化時の電圧が所定の陽極酸化電圧に達するまでにクラック形成処理を行うので、第1化成皮膜が厚くなり過ぎず、アルミニウム箔が硬くなり過ぎないので、アルミニウム箔に応力を発生させることにより、第1多孔質層の表面に複数のクラックを均一に設けることができる。ここで、第1多孔質層の表面に複数のクラックを均一に設けることができれば、陽極酸化時の電圧が所定の陽極酸化電圧に達した後の陽極酸化によって第1化成皮膜が厚く形成される場合でも、折曲げ強度の低下を抑制できる。
【0029】
本発明において、前記クラック形成処理では、前記第1方向に延在する第1クラック形成用ローラを、前記アルミニウム箔の両面のうち前記第1面とは反対側の第2面に接触させて当該アルミニウム箔と当該第1クラック形成用ローラとを前記第2方向に相対移動させるものとすることができる。このようにすれば、第1クラック形成用ローラによりアルミニウム箔に応力を発生させて、第1多孔質層にクラックを形成できる。
【0030】
本発明において、前記化成工程では、前記第2方向に沿って配置された複数のローラによって前記アルミニウム箔を前記第2方向に走行させ、複数の前記ローラのうち、他のローラよりも径が小さいローラが前記第1クラック形成用ローラとして配置されているものとすることができる。第1クラック形成用ローラとして、径の小さいローラが用いれば、第1クラック形成用ローラによってアルミニウム箔に応力を発生させることが容易となる。
【0031】
本発明において、前記アルミニウム箔には、前記ベース層の前記第1面とは反対の第2面に、アルミニウムまたはアルミニウム合金の粉体の焼結体からなる第2多孔質層が積層されており、前記化成工程では、前記第2多孔質層に第2化成皮膜を形成し、前記クラック形成処理では、前記第1方向に延在する第2クラック形成用ローラを、前記第2方向で前記第1クラック形成用ローラとは異なる位置で前記第1面に接触させて当該アルミニウム箔と前記第2クラック形成用ローラとを前記第2方向に相対移動させるものとすることができる。このようにすれば、第2クラック形成用ローラによりアルミニウム箔に応力を発生させて、第2多孔質層にクラックを複数形成できる。従って、アルミニウム箔がベース層の両面に多孔質層を備える場合でも、陽極酸化を施したときにアルミニウム箔に折れ曲がりが発生した場合でも、変形に起因して発する応力をアルミニウム箔から逃がすことができる。よって、アルミニウム箔の破断を防止あるいは抑制できる。
【0032】
本発明において、前記化成工程は、前記陽極酸化工程の前に、前記アルミニウム箔に水和皮膜を形成する水和工程を備え、前記陽極酸化工程は、前記水和皮膜が形成された前記アルミニウム箔に陽極酸化を施し、前記クラック形成処理は、前記水和工程の途中に行うものとすることができる。このようにすれば、水和工程において第1多孔質層の表面に水和皮膜が形成される。さらに、水和工程の途中で第1多孔質層にクラックが設けられる。これにより、クラック形成処理によって、第1多孔質層の表面には、クラックを介して、アルミニウム新生面が露出する。すなわち、クラックによる第1多孔質層の破断面には、表面に水和皮膜が形成されていない粉体が露出する。その後、アルミニウム新生面には、クラック形成処理の後に引き続き行われる水和工程において水和皮膜が形成される。ここで、アルミニウム新生面を被う水和皮膜は、陽極酸化工程において、クラックを間に挟んだ両側に位置する粉体同士が第1化成皮膜を介して結合することを阻害或いは抑制する。従って、水和工程の途中にクラック形成処理を行えば、クラック形成処理および水和工程の後に行う陽極酸化工程において第1化成皮膜が成長したときに、第1化成皮膜によりクラックが閉じられてしまうことを、防止或いは抑制できる。
【0033】
本発明において、前記化成工程は、前記陽極酸化工程の前に、前記アルミニウム箔に水和皮膜を形成する水和工程を備え、前記陽極酸化工程は、前記水和皮膜が形成された前記アルミニウム箔に陽極酸化を施し、前記クラック形成処理は、前記水和工程の後に行うものとすることができる。このようにすれば、水和工程において第1多孔質層の表面に水和皮膜が形成される。ここで、水和皮膜は、陽極酸化工程において粉体同士が第1化成皮膜を介して結合する際の障害となり、粉体同士の結合を阻害或いは抑制する。従って、化成工程の途中における水和工程の後にクラック形成処理を備えれば、第1多孔質層に形成されたクラックが第1化成皮膜によって閉じられてしまうことを、抑制しやすい。
【0034】
本発明において、前記クラック形成処理に引き続いて前記アルミニウム箔に水和皮膜を形成する再水和処理を備えることが望ましい。このようにすれば、クラックの形成により第1多孔質層の表面に露出したアルミニウム新生面には、クラック形成処理の後に引き続き行われる再水和処理において水和皮膜が形成される。ここで、アルミニウム新生面を被う水和皮膜は、陽極酸化工程においてクラックを間に挟んだ両側に位置する粉体同士が第1化成皮膜を介して結合することを阻害或いは抑制する。従って、クラック形成処理に引き続いて再水和処理を行えば、それ以降に第1化成皮膜が成長したときに、第1化成皮膜によりクラックが閉じられてしまうことを、抑制できる。
【発明の効果】
【0037】
本発明のアルミニウム化成箔の製造方法では、第1多孔質層が積層されたアルミニウム箔に第1化成皮膜を形成する化成工程を備え、化成工程がアルミニウム箔への陽極酸化を施す陽極酸化工程を備える。また、化成工程では、第1多孔質層にクラックを形成し、陽極酸化工程では、クラック形成処理前に200V以上且つ400V以下の所定の陽極酸化電圧に達するまでアルミニウム箔に陽極酸化を施し、クラック形成後に所定の陽極酸化電圧よりも高い電圧でアルミニウム箔に陽極酸化を施す。このように、化成工程の途中で第1多孔質層にクラックを形成しておくことで、複数のクラックを備えるアルミニウム化成箔を得ることができる。よって、アルミニウム化成箔の変形に起因して発生した応力をクラックから逃がすことができる。これにより、粉体間の結合に局所的な割れが発生することを防止或いは抑制できるので、局所的な割れが広がってアルミニウム箔が破断することを防止或いは抑制できる。また、クラックを設けた後の陽極酸化処理により、クラックが生じた後の第1多孔質層に第1化成皮膜を再形成することができる。これにより、クラックの形成によって剥き出しになった金属アルミニウムの表面を再形成した化成皮膜により被覆することができる。したがって、クラックによって生じる陽極酸化中のアルミニウム箔またはアルミニウム電解コンデンサ用電極の漏れ電流を低減しながら、破断することを防止或いは抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】アルミニウム化成箔の表面を走査型電子顕微鏡により拡大して撮影した写真である。
【
図2】アルミニウム化成箔を長手方向に沿って切断した断面を走査型電子顕微鏡により拡大して撮影した写真である。
【
図4】アルミニウム化成箔の表面に設けられたクラックの間隔を測定する測定方法の説明図である。
【
図5】ロール形状のアルミニウム電解コンデンサ用電極の模式図である。
【
図6】アルミニウム化成箔の基材となるアルミニウム箔の説明図である。
【
図7】アルミニウム化成箔の第1の製造方法を示すフローチャートである。
【
図8】アルミニウム化成箔の第2の製造方法を示すフローチャートである。
【
図9】アルミニウム化成箔の第3の製造方法を示すフローチャートである。
【
図10】アルミニウム化成箔の第4の製造方法を示すフローチャートである。
【
図11】アルミニウム化成箔の第5の製造方法を示すフローチャートである。
【
図13】実施例1~5のアルミニウム化成箔の製造方法において、クラック形成処理を行うタイミングを説明した表である。
【
図14】実施例1~5のアルミニウム化成箔の製造方法において、クラック形成処理を行うタイミングの説明図である。
【
図15】実施例1~5、比較例1、2について、アルミニウム化成箔のクラックの間隔、折曲げ強度、引張り強さ、静電容量、および皮膜耐電圧を示す表である。
【
図16】実施例5の製造方法により製造されたアルミニウム化成箔の表面を走査型電子顕微鏡により拡大して撮影した写真である。
【
図17】比較例1のアルミニウム化成箔の表面を走査型電子顕微鏡により拡大して撮影した写真である。
【
図18】比較例1のアルミニウム化成箔の断面を走査型電子顕微鏡により拡大して撮影した写真である。
【
図19】実施例6~8のアルミニウム化成箔の製造方法において、クラック形成処理を行うタイミングを説明した表である。
【
図20】実施例6~8のアルミニウム化成箔の製造方法において、クラック形成処理を行うタイミングの説明図である。
【
図21】実施例6~8について、アルミニウム化成箔のクラックの間隔、折曲げ強度、引張り強さ、静電容量、および皮膜耐電圧を示す表である。
【
図22】実施例9~11のアルミニウム化成箔の製造方法において、クラック形成処理を行うタイミングを説明した表である。
【
図23】実施例9~11のアルミニウム化成箔の製造方法において、クラック形成処理を行うタイミングの説明図である。
【
図24】実施例9~11について、アルミニウム化成箔のクラックの間隔、折曲げ強度、引張り強さ、静電容量、および皮膜耐電圧を示す表である。
【
図25】アルミニウム化成箔の第6の製造方法を示すフローチャートである。
【
図26】アルミニウム化成箔の第7の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に、図面を参照して、本発明のアルミニウム化成箔およびアルミニウム化成箔の製造方法の実施の形態を説明する。ただし、本発明は以下の実施形態のみに限定されるものではない。また、実施形態における構成要素は、一部又は全部を適宜組み合わせることができる。本例のアルミニウム化成箔は、アルミニウム電解コンデンサ用電極として用いられる。以下では、アルミニウム化成箔をアルミニウム電解コンデンサ用電極(陽極箔)とするアルミニウム電解コンデンサを説明した後に、アルミニウム化成箔、およびアルミニウム化成箔の製造方法を説明する。なお、本明細書において、記号「~」を用いて下限値と上限値により数値範囲を表記する場合、その下限値及び上限値の両方を包含するものとする。
【0040】
(アルミニウム電解コンデンサ)
アルミニウム化成箔を用いてアルミニウム電解コンデンサを製造するには、アルミニウム化成箔(アルミニウム電解コンデンサ用電極)からなる陽極箔と、陰極箔とをセパレータを介在させて積層し、巻回して、コンデンサ素子を形成する。次に、コンデンサ素子を電解液(ペースト)に含浸する。しかる後に、電解液を含んだコンデンサ素子を外装ケースに収納し、封口体でケースを封口する。
【0041】
また、電解液に代えて固体電解質を用いる場合には、アルミニウム化成箔(アルミニウム電解コンデンサ用電極)からなる陽極箔の表面に固体電解質層を形成した後、固体電解質層の表面に陰極層を形成し、しかる後に、樹脂等により外装する。その際、陽極に電気的接続する陽極端子と陰極層に電気的接続する陰極端子とを設ける。この場合、陽極箔が複数枚積層されることがある。
【0042】
(アルミニウム化成箔)
図1は、本発明のアルミニウム化成箔の表面を走査型電子顕微鏡により拡大して撮影した写真である。
図2は、
図1のアルミニウム化成箔を長手方向に沿って切断した断面を走査型電子顕微鏡により拡大して撮影した写真である。
図3は、アルミニウム化成箔において、多孔質層を構成する粉体と化成皮膜との関係を表す説明図である。
図3では、アルミニウム化成箔を構成するベース層、粉体および化成皮膜を模式的に示す。
図4は、アルミニウム化成箔の表面に設けられたクラックの間隔を測定する測定方法の説明図である。
【0043】
アルミニウム化成箔1は、ベース層2および多孔質層(第1多孔質層3および第2多孔質層4)からなるアルミニウム箔に陽極酸化を施すことによって製造される。アルミニウム化成箔1(アルミニウム電解コンデンサ用電極)は、長尺状である。
【0044】
図2に示すように、アルミニウム化成箔1は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる箔状のベース層2と、ベース層2の第1面2aに積層された第1多孔質層3と、ベース層2の第1面2aとは反対の第2面2bに積層された第2多孔質層4と、を備える。第1多孔質層3および第2多孔質層4は、それぞれアルミニウムまたはアルミニウム合金の粉体の焼結体からなる。また、アルミニウム化成箔1は、第1多孔質層3に形成された第1化成皮膜5と、第2多孔質層4に形成された第2化成皮膜6と、を有する。
【0045】
以下の説明では、互いに直交する3方向をX方向、Y方向、およびZ方向とし、X方向を、アルミニウム化成箔1の長手方向とする。Y方向をアルミニウム化成箔1の短手方向とする。Z方向は、ベース層2に対して第1多孔質層3および第2多孔質層4が積層されている方向である。
【0046】
本例では、ベース層2は、純アルミニウムからなる箔である。ベース層2としては、アルミニウム合金からなる箔を用いることができる。アルミニウム合金は、アルミニウムに、珪素、鉄、銅、マンガン、マグネシウム、クロム、亜鉛、チタン、バナジウム、ガリウム、ニッケル、およびホウ素からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素を添加したもの、或いは、これらの元素のいずれかを不可避的不純物元素として含むアルミニウムである。ベース層2の厚さ寸法T1は、通常、10μm以上、好ましくは20μm以上であり、かつ通常、100μm以下、好ましくは50μm以下である。
【0047】
第1多孔質層3および第2多孔質層4は、アルミニウムおよびアルミニウム合金からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む粉体の焼結体である。
図3に示すように、第1多孔質層3および第2多孔質層4は、粉体同士が空隙を維持しながら焼結して繋がることにより三次元網目構造を有する。第1化成皮膜5および第2化成皮膜6は、粉体11による三次元網目構造の表面に形成されている。ここで、第1多孔質層3および第2多孔質層4は、三次元網目構造を有するので、その表面積が大きい。よって、アルミニウム化成箔1をアルミニウム電解コンデンサ用電極として用いる場合には、静電容量が大きいコンデンサを製造可能である。
【0048】
アルミニウムの粉体11は、アルミニウムの純度が99.80質量%以上である。粉体11として用いるアルミニウム合金は、アルミニウムに、珪素、鉄、銅、マンガン、マグネシウム、クロム、亜鉛、チタン、バナジウム、ガリウム、ニッケル、ホウ素、ジルコニウムなどから選ばれる1種以上を含む。アルミニウム合金中のこれらの元素の含有量は、100質量ppm以下、特に50質量ppm以下とすることが望ましい。
【0049】
第1多孔質層3の厚さおよび第2多孔質層4の厚さは、通常、同一、或いは、略同一である。ただし、第1多孔質層3の厚さと第2多孔質層4の厚さは異なっていてもよい。この場合、第1多孔質層3の厚さが第2多孔質層4の厚さよりも大きくてもよく、第2多孔質層4の厚さが第1多孔質層3の厚さよりも大きくてもよい。本例では、第1多孔質層3の厚さ寸法T2および第2多孔質層4の厚さ寸法T3は、それぞれ、10μm以上、500m以下である。また、第1多孔質層3の厚さ寸法T2および第2多孔質層4の厚さ寸法T3は、好ましくは、50μm以上、200μm以下である。すなわち、第1多孔質層3の厚さおよび第2多孔質層4の厚さを合計した多孔質層の厚さは、20μm以上、1000μm以下である。また、第1多孔質層3の厚さおよび第2多孔質層4の厚さを合計した多孔質層の厚さは、好ましくは、100μm以上、400μmである。また、第1多孔質層3および第2多孔質層4を構成する粉体11の平均粒子径Kは、1μm以上、かつ20μm以下である。
【0050】
粉体11の平均粒子径Kは、第1多孔質層3または第2多孔質層4の断面を、走査型電子顕微鏡で観察することにより測定して得られるものとする。具体的には、焼結後の粉体11を観察すると、一部が溶融した状態、或いは、粉体11同士が繋がった状態となっているが、略円形状を有する部分は近似的に粒子とみなすことができる。従って、断面観察において、略円形状を有する粒子のそれぞれの最大径をその粒子の粒子径とし、50程度の個数の粒子の粒子径を測定し、これらの平均を焼結後の粉体11の平均粒子径Kとする。
【0051】
図1に示すように、第1多孔質層3の表面には、面内方向を300μm以上の長さでY方向(第1方向)に延在するクラック7が、面内方向のX方向(第2方向)において30μmから150μmの間隔で、複数、設けられている。
図2に示すように、第1多孔質層3に設けられた各クラック7は、ベース層2と第1多孔質層3との境界まで到達する。同様に、第2多孔質層4の表面には、300μm以上の長さでY方向に延在するクラック7が、Y方向に直交するX方向において30μmから150μmの間隔で複数設けられている。第2多孔質層4設けられた各クラック7は、ベース層2と第2多孔質層4との境界まで到達する。
【0052】
第1多孔質層3および第2多孔質層4が備える各クラック7の長さ、および間隔は、走査型電子顕微鏡で観察することにより測定して得られるものとする。より具体的には、
図4に示すように、アルミニウム化成箔1のX方向に500μm以上、Y方向に1000μm以上の範囲の視野で観察し、視野の中央付近にX方向に補助線8を引く。そして、長さ300μm以上のクラック7との交点9の数を数える。しかる後に、スケールから換算した補助線8の長さを交点9の数で割り、長さ300μm以上のクラック7の間隔を算出する。かかる測定と算出を、3視野以上で行った平均を、隣り合うクラック7の間隔とする。
【0053】
(アルミニウム化成箔の作用効果)
本例のアルミニウム化成箔1は、多孔質層(第1多孔質層3および第2多孔質層4)の表面に300μm以上の長さでY方向に延在するクラック7を備える。また、クラック7は、アルミニウム化成箔1のX方向において30μmから150μmの間隔で、複数、設けられる。このような複数のクラック7を備えるアルミニウム化成箔1では、陽極酸化によって隣り合う粉体11が化成皮膜(第1化成皮膜5および第2化成皮膜)を介して結合しているアルミニウム箔に折れ曲がりが発生した場合でも、変形に起因して発生した応力を陽極酸化の完了後にクラック7となる部分から逃がすことができる。これにより、粉体11間の結合に局所的な割れが発生することを防止或いは抑制できるので、この割れが広がってアルミニウム箔が破断することを防止或いは抑制できる。
【0054】
また、複数のクラック7のそれぞれは、ベース層2と多孔質層(第1多孔質層3および第2多孔質層4)との境界まで到達している。従って、変形に起因して発生した応力をアルミニウム箔から逃がすことが容易となる。
【0055】
ここで、アルミニウム化成箔1をアルミニウム電解コンデンサ用電極とした場合には、アルミニウム電解コンデンサ用電極は、多孔質層(第1多孔質層3および第2多孔質層4)に複数のクラック7を備える。従って、アルミニウム電解コンデンサ用電極の比表面積は、多孔質層(第1多孔質層3および第2多孔質層4)にクラック7を備えていない場合と比較して、大きい。よって、アルミニウム化成箔をアルミニウム電解コンデンサ用電極とすれば、静電容量を増加させることができる。
【0056】
また、アルミニウム化成箔1を巻回してロール形状のアルミニウム電解コンデンサ用電極とする場合には、複数のクラック7が並ぶX方向に巻回しやすい。従って、クラック7を備えるアルミニウム化成箔1は、アルミニウム化成箔がクラック7を備えていない場合と比較して、真円に近い形状で巻き回すことができる。
【0057】
図5は、アルミニウム化成箔1を第2方向に渦巻曲線状に巻回したアルミニウム電解コンデンサ用電極の模式図であり、アルミニウム化成箔1を第1方向から見た側面図を示している。
図5では、アルミニウム化成箔1を、径寸法が1mmのロール16の外周面に巻き回して、ロール形状としている。このようなロール16に巻き回した場合でも、アルミニウム化成箔1(アルミニウム電解コンデンサ用電極15)は、途中で折れ曲がることなく、真円に近い形状で巻回される。すなわち、クラック7を備えていないアルミニウム化成箔を巻き回した場合には、アルミニウム化成箔の途中に複数の屈曲部が形成されてしまう。これに対して、複数のクラック7を備えるアルミニウム化成箔1を巻き回した場合には、途中に折り曲げられた部分を有することなくX方向に巻回されたロール形状となる。
【0058】
ここで、アルミニウム化成箔1を真円に近い形状で巻回したロール形状のアルミニウム電解コンデンサ用電極15をコンデンサ素子とすれば、コンデンサ素子を外装ケースに収納したときに、アルミニウム電解コンデンサ用電極が真円に近い状態で巻回されていない場合と比較して、X方向に長い寸法を備えるアルミニウム電解コンデンサ用電極15を収容できる。これにより、アルミニウム電解コンデンサ用電極15の表面積が増加するので、アルミニウム電解コンデンサの静電容量を増加させることができる。また、アルミニウム化成箔1を渦巻曲線状に巻回したロール形状とすれば、アルミニウム化成箔1が途中に折り曲げられた部分を有する場合と比較して、折り曲げられた部分に発生するアルミニウム化成箔1の破断を防ぐことができる。従って、アルミニウム化成箔1の巻回性を向上させることができる。
【0059】
(アルミニウム化成箔の製造方法)
図6は、アルミニウム化成箔1の基材となるアルミニウム箔の説明図である。
図6では、アルミニウム箔を模式的に示す。
図7は、アルミニウム化成箔1の第1の製造方法を示すフローチャートである。
図8は、アルミニウム化成箔1の第2の製造方法を示すフローチャートである。
図9はアルミニウム化成箔1の第3の製造方法を示すフローチャートである。
図10は、アルミニウム化成箔1の第4の製造方法を示すフローチャートである。
図11は、アルミニウム化成箔1の第5の製造方法を示すフローチャートである。
【0060】
次に、
図6から
図11を参照して、アルミニウム化成箔1の製造方法を説明する。
図6に示すように、アルミニウム化成箔1の製造に際しては、基材として、アルミニウム箔10を用いる。アルミニウム箔10は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる箔状のベース層2を備える。ベース層2の第1面2aには、アルミニウムまたはアルミニウム合金の粉体11の焼結体からなる第1多孔質層3が積層され、ベース層2の第2面2bには、アルミニウムまたはアルミニウム合金の粉体11の焼結体からなる第2多孔質層4が積層されている。本例では、第1多孔質層3の粉体11と、第2多孔質層4の粉体11とは、同一の金属の粉体11からなる。また、第1多孔質層3の厚みと、第2多孔質層4の厚みとは、同一、あるいは略同一である。
【0061】
図7~
図11に示すように、アルミニウム化成箔1の製造方法は、アルミニウム箔10(基材)の第1多孔質層3に第1化成皮膜5を形成するとともに、第2多孔質層4に第2化成皮膜6を形成する化成工程ST1を備える。化成工程ST1は、アルミニウム箔10に水和皮膜を形成する水和処理を行う水和工程ST2と、水和皮膜が形成されたアルミニウム箔10に陽極酸化を施す陽極酸化処理を行う陽極酸化工程ST3とをこの順で備える。また、本例において、陽極酸化工程ST3では、定電圧化成処理工程の途中にアルミニウム箔10を加熱して欠陥部を露出させる熱処理ST31を行う。すなわち、
図7~
図11に示すように、陽極酸化工程ST3では、熱処理ST31の前後で(図示しない)陽極酸化処理を行う。本明細書において、他にフローチャートを用いて説明する場合も同様である。
【0062】
また、化成工程ST1では、アルミニウム箔10に応力を付与して第1多孔質層3の表面および第2多孔質層4の表面に、Y方向に延在するクラック7をX方向で離間して複数設けるクラック形成処理ST11を行う。
【0063】
より詳細に本例のアルミニウム化成箔1の製造方法を説明すると、陽極酸化工程ST3では、クラック形成処理ST11の後にアルミニウム箔10への陽極酸化を施すクラック形成後陽極酸化処理ST3Aを行う。なお、クラック形成後陽極酸化処理ST3Aは、図中および以下の説明では、後陽極酸化処理ST3Aと略して称する。
【0064】
ここで、
図7、
図11では、化成工程ST1の途中であって、且つ水和処理ST2の途中にクラック形成処理ST11を行う。すなわち、水和工程ST2では、クラック形成処理ST11の前後で(図示しない)水和処理を行う。
【0065】
また、
図9、
図10では、化成工程ST1の途中であって、且つ陽極酸化工程ST3の途中にクラック形成処理ST11を行う。すなわち、陽極酸化工程ST3では、クラック形成処理ST11の前に、陽極酸化時の電圧が所定の陽極酸化電圧に達するまでアルミニウム箔10に陽極酸化を施すクラック形成前陽極酸化処理ST3Bを行う。なお、クラック形成前陽極酸化処理ST3Bは、図中および以下の説明では、前陽極酸化処理ST3Bと略して称する。すなわち、陽極酸化工程ST3の途中でクラック形成処理ST11を行う場合には、陽極酸化工程ST3において、前陽極酸化処理ST3Bと、クラック形成処理ST11と、後陽極酸化処理ST3Aと、をこの順で行う。
【0066】
水和工程ST2では、アルミニウム箔10を液温が80℃以上の水和処理液中でボイルして、アルミニウム箔10にベーマイト等のアルミニウム水和皮膜を形成する。水和処理液としては、純水を用いることができる。また、後述する再水和処理ST21も同様に行うことができる。
【0067】
陽極酸化工程ST3では、アルミニウム箔10を化成処理液中に浸漬し、陽極酸化時の電圧(電源から出力されている電圧)を所定の陽極酸化電圧に到達させる。これにより、アルミニウム箔10に、化成皮膜(第1化成皮膜5および第2化成皮膜6)を形成する。化成処理液としては、硫酸またはその塩、セレン酸またはその塩、ホウ酸またはその塩、リン酸またはその塩、有機酸またはその塩(例えばアジピン酸またはその塩、クエン酸またはその塩、セバシン酸またはその塩、蓚酸またはその塩など)、水酸化ナトリウムまたはその塩などを使用できる。陽極酸化電圧は、5V~1000Vの間で設定される。言うまでもなく、陽極酸化工程ST3にて行う陽極酸化処理(後陽極酸化処理ST3Aおよび前陽極酸化処理ST3B)も同様に行うことができる。
【0068】
陽極酸化工程ST3の途中に行なわれる熱処理ST31では、アルミニウム箔10は、例えば、熱処理炉内に配置して加熱される。熱処理炉内の雰囲気は、温度が300℃以上、600℃以下である。熱処理炉内の雰囲気は、大気雰囲気、不活性ガス雰囲気、水蒸気雰囲気のいずれでもよい。
【0069】
本例のアルミニウム化成箔1の製造方法では、化成皮膜(第1化成皮膜5および第2化成皮膜6)が設けられる前の水和工程ST2の途中、または、水和工程ST2と陽極酸化工程ST3との間に、クラック形成処理ST11を行う。この場合、クラック形成処理ST11に続く陽極酸化工程ST3(後陽極酸化処理ST3A)において、クラック形成後のアルミニウム箔10に陽極酸化が施される。
【0070】
或いは、本例のアルミニウム化成箔1の製造方法では、陽極酸化工程ST3において、陽極酸化時の電圧が最終的な目標となる最終陽極酸化電圧に達する前にクラック形成処理ST11を行う。この場合、陽極酸化工程ST3の途中でクラック形成処理ST11が行われるので、クラック形成の前と後において、前陽極酸化処理ST3Bと後陽極酸化処理ST3Aとが行われる。後陽極酸化処理ST3Aでは、アルミニウム箔10に対して、前陽極酸化処理ST3Bにおいて達していた所定の陽極酸化電圧よりも高い陽極酸化電圧に達する陽極酸化が施される。
【0071】
上述した所定の陽極酸化電圧は、通常400V以下である。また、所定の陽極酸化電圧は、好ましくは300V以下、より好ましくは250V以下である。本例では、陽極酸化工程ST3において、これら上限値となる陽極酸化電圧に達するまでアルミニウム箔10に陽極酸化を施して、その後にクラック形成処理ST11を行う。これにより、化成皮膜が厚くなり過ぎず、アルミニウム箔10が硬くなり過ぎないタイミングにて、アルミニウム箔10に応力を発生させることができる。この結果、アルミニウム箔10に応力を発生させたときに、アルミニウム箔10の破断を抑えて、多孔質層の表面に複数のクラックを均一に設けることができる。ここで、クラック形成処理ST11は、化成工程ST1の途中であれば化成皮膜が形成される前に行っても良いので、所定の陽極酸化電圧の下限値は特に限定されない。従って、所定の陽極酸化電圧の下限値は、通常、0V以上である。なお、所定の陽極酸化電圧の下限値は、好ましくは、10V以上であり、より好ましくは、50V以上である。また、陽極酸化工程ST3において、陽極酸化時の電圧の最終的な目標となる最終陽極酸化電圧は、目的とするアルミニウム化成箔1の性状に応じて適宜設定することができる。従って、最終陽極酸化電圧は、特に限定されないが、例えば、1000V以下に設定することができる。
【0072】
なお、陽極酸化工程ST3では、他の公知の方法でアルミニウム箔10に陽極酸化を施してもよい。
【0073】
ここで、化成工程ST1では、陽極酸化工程ST3が終了すると、化成後のアルミニウム箔10、すなわち、アルミニウム化成箔1は、巻き取りローラに巻き取られ、ロールとなる。
【0074】
アルミニウム化成箔1の製造方法の具体例としては、クラック形成処理ST11を実施するタイミングが相違する以下の第1~第5の製造方法を挙げることができる。
【0075】
アルミニウム化成箔1の第1の製造方法は、
図7に示すように、クラック形成処理ST11を水和工程ST2の途中に行う。そして、水和工程ST2に続いて行う陽極酸化工程ST3において、後陽極酸化処理ST3Aを行う。
【0076】
アルミニウム化成箔1の第2の製造方法は、
図8に示すように、クラック形成処理ST11を水和工程ST2と、陽極酸化工程ST3との間に行う。そして、クラック形成処理ST11に続いて行う陽極酸化工程ST3において、後陽極酸化処理ST3Aを行う。
【0077】
アルミニウム化成箔1の第3の製造方法は、
図9に示すように、クラック形成処理ST11を、陽極酸化工程ST3の途中に行う。具体的には、陽極酸化工程ST3において、所定の陽極酸化電圧に達するまでアルミニウム箔10に陽極酸化を施す前陽極酸化処理ST3Bを行い、前陽極酸化処理ST3Bに続いてクラック形成処理ST11を行い、クラック形成処理ST11の後に、後陽極酸化処理ST3Aを行う。
【0078】
アルミニウム化成箔1の第4の製造方法では、
図10に示すように、第3の製造方法と同様に、クラック形成処理ST11を陽極酸化工程ST3の途中に行う。具体的には、陽極酸化工程ST3において、所定の陽極酸化電圧に達するまでアルミニウム箔10に陽極酸化を施す前陽極酸化処理ST3Bを行い、前陽極酸化処理ST3Bに続いてクラック形成処理ST11を行う。さらに、クラック形成処理ST11に引き続き、アルミニウム箔10に水和皮膜を形成する再水和処理ST21を行い、再水和処理ST21の後に後陽極酸化処理ST3Aを行う。すなわち、アルミニウム化成箔1の第4の製造方法では、クラック形成処理ST11と再水和処理ST21とを、陽極酸化工程ST3の途中で連続して行う。
【0079】
アルミニウム化成箔1の第5の製造方法は、
図11に示すように、クラック形成処理ST11を水和工程ST2の途中に行う。また、クラック形成処理ST11を、陽極酸化工程ST3の途中に行う。具体的には、水和工程ST2において、クラック形成処理ST11を行うとともに、クラック形成処理ST11の前後で水和処理を行う。陽極酸化工程ST3において、所定の陽極酸化電圧に達するまでアルミニウム箔10に陽極酸化を施す前陽極酸化処理ST3Bを行い、前陽極酸化処理ST3Bに続いてクラック形成処理ST11および再水和処理ST21を連続して行い、再水和処理ST21の後に後陽極酸化処理ST3Aを行う。
【0080】
次に、クラック形成処理ST11において、アルミニウム箔10に応力を発生させる具体的な方法を例示する。
図12は、クラック形成処理ST11の説明図である。
図12に示すように、クラック形成処理ST11では、アルミニウム箔10をX方向に配列された複数のローラ21に沿って走行させる。
【0081】
複数のローラ21のそれぞれは、回転軸がY方向に延びる。また、X方向に配列された複数のローラ21の中には、他のローラ21と比較して径の小さいローラ21が配置されている。これらの径の小さいローラ21のうち、走行するアルミニウム箔10の第2面2bに接触するローラ21は、アルミニウム箔10に応力を発生させて第1多孔質層3にクラック7を発生させる第1クラック形成用ローラ21(1)として配置されている。また、これらの径の小さいローラ21のうち、走行するアルミニウム箔10の第1面2aに接触するローラ21は、アルミニウム箔10に応力を発生させて第2多孔質層4にクラック7を発生させる第2クラック形成用ローラ21(2)として配置されている。第1クラック形成用ローラ21(1)および第2クラック形成用ローラ21(2)の径寸法Mは、それぞれ5mm~60mmである。本例においては、第1クラック形成用ローラ21(1)および第2クラック形成用ローラ21(2)の径寸法Mが同一であるものを例示するが、これらの径寸法Mは異なっていてもよい。
【0082】
本例において、第1クラック形成用ローラ21(1)および第2クラック形成用ローラ21(2)は、金属製である。第1クラック形成用ローラ21(1)および第2クラック形成用ローラ21(2)には、それぞれ押圧ローラ23が押し付けられている。各押圧ローラ23の表面は、ゴムなどの弾性部材により覆われている。各押圧ローラ23の径は、第1クラック形成用ローラ21(1)の径、および第2クラック形成用ローラ21(2)の径よりも大きいことが望ましい。
【0083】
アルミニウム箔10が、第1クラック形成用ローラ21(1)と押圧ローラ23との間を走行する際には、アルミニウム箔10に応力が発生する。従って、第1多孔質層3には、所定のクラック7が複数形成される。また、アルミニウム箔10が、第2クラック形成用ローラ21(2)と押圧ローラ23との間を走行する際には、アルミニウム箔10に応力が発生する。従って、第2多孔質層4には、所定のクラック7が複数形成される。
【0084】
アルミニウム箔10が、第1クラック形成用ローラ21(1)と押圧ローラ23との間を走行する際の第1クラック形成用ローラ21(1)の抱き角は、通常、-180°~180°、好ましくは-45°~45°である。アルミニウム箔10が、第2クラック形成用ローラ21(2)と押圧ローラ23との間を走行する際の第2クラック形成用ローラ21(2)の抱き角は、通常、-180°~180°、好ましくは-45°~45°である。さらに、第1クラック形成用ローラ21(1)および第2クラック形成用ローラ21(2)の抱き角は、0°以上であることが、より望ましい。従って、第1クラック形成用ローラ21(1)および第2クラック形成用ローラ21(2)の抱き角は、0°~180°、好ましくは0°~45°である。ここで、第1クラック形成用ローラ21(1)の抱き角を上記範囲とすれば、第1クラック形成用ローラ21(1)をアルミニウム箔10の第2面2bに接触させた際に、第1多孔質層3に所望のクラック7を形成しやすい。また、第2クラック形成用ローラ21(2)の抱き角を上記範囲とすれば、第2クラック形成用ローラ21(2)を、アルミニウム箔10の第1面2aに接触させた際に、第2多孔質層4に所望のクラック7を形成しやすい。
【0085】
なお、複数のローラ21の中に、第1クラック形成用ローラ21(1)を、複数、備えることもできる。第1クラック形成用ローラ21(1)を複数備える場合には、複数のローラ21の中に、第1クラック形成用ローラ21(1)と同数の第2クラック形成用ローラ21(2)を備えることが望ましい。このとき、第1クラック形成用ローラ21(1)と第2クラック形成用ローラ21(2)とは、異なる位置でアルミニウム箔10に接触させることが好ましい。
【0086】
(作用効果)
本例のアルミニウム化成箔1の製造方法では、化成工程ST1においてアルミニウム箔10に応力を発生させることにより、多孔質層(第1多孔質層3および第2多孔質層4)の表面にY方向に延在するクラック7をX方向に離間させて、複数、設ける。また、クラック7の形成後に、アルミニウム箔10に陽極酸化を施す後陽極酸化処理ST3Aを行う。ここで、化成工程ST1の途中で多孔質層(第1多孔質層3および第2多孔質層4)にクラック7を形成しておくことで、その後の陽極酸化により化成皮膜(第1化成皮膜5および第2化成皮膜6)が成長した場合でも、化成皮膜(第1化成皮膜5および第2化成皮膜6)によってクラック7が閉じられてしまうことを抑制できる。よって、複数のクラック7を備えるアルミニウム化成箔1を得ることができる。従って、化成皮膜(第1化成皮膜5および第2化成皮膜6)の成長に伴って隣り合う粉体11が化成皮膜(第1化成皮膜5および第2化成皮膜6)を介して結合しているアルミニウム箔10に折れ曲がりが発生した場合でも、変形に起因して発生した応力をクラック7から逃がすことができる。これにより、粉体11間の結合に局所的な割れが発生することを防止或いは抑制できるので、局所的な割れが広がってアルミニウム箔10が破断することを防止或いは抑制できる。また、クラック7を形成した後にアルミニウム箔10に陽極酸化を施すので、クラック7が生じた後の多孔質層(第1多孔質層3および第2多孔質層4)に化成皮膜(第1化成皮膜5および第2化成皮膜6)を再形成することができる。これにより、クラック7の形成によって多孔質層(第1多孔質層3および第2多孔質層4)の表面に露出したアルミニウム新生面(剥き出しになった金属アルミニウムの表面)を、再形成した化成皮膜(第1化成皮膜5および第2化成皮膜6)により被覆することができる。したがって、クラック7によって生じる陽極酸化中のアルミニウム箔10またはアルミニウム電解コンデンサ用電極の漏れ電流を低減しながら、破断することを防止或いは抑制できる。
【0087】
また、化成工程ST1において、陽極酸化時の電源から出力されている電圧が所定の陽極酸化電圧に達するまでに成長する化成皮膜(第1化成皮膜5および第2化成皮膜6)の厚みは推定できる。従って、化成皮膜(第1化成皮膜5および第2化成皮膜6)の厚みは、陽極酸化時に電源から出力される電圧に基づいて管理できる。よって、クラック形成処理ST11前において陽極酸化時の電圧が所定の陽極酸化電圧に達するまでアルミニウム箔10に陽極酸化を施す前陽極酸化処理ST3Bを行い、その後にクラック形成処理ST11を行えば、クラック形成処理ST11を行う時点で化成皮膜(第1化成皮膜5および第2化成皮膜6)が厚くなり過ぎて、アルミニウム箔10が硬くなり過ぎることを回避できる。従って、クラック形成処理ST11においてアルミニウム箔10に応力を付与したときに、アルミニウム箔10を破断させることを回避できる。
【0088】
さらに、本例では、クラック形成処理ST11を行う際にアルミニウム箔10が硬くなり過ぎることを回避できるので、アルミニウム箔10に応力を発生させることによって多孔質層(第1多孔質層3および第2多孔質層4)の表面に複数のクラック7を均一に設けることが可能となる。ここで、多孔質層(第1多孔質層3および第2多孔質層4)の表面に複数のクラック7を均一に形成すれば、目的とする皮膜耐電圧に達するまで化成皮膜(第1化成皮膜5および第2化成皮膜6)の厚みが増加した場合でも、折曲げ強度が低下することを抑制できる。
【0089】
また、クラック形成処理ST11では、300μm以上の長さでY方向に延在するクラック7を、X方向において30μmから150μmの間隔で、複数、設ける。このようなクラック7を設ければ、陽極酸化によって化成皮膜(第1化成皮膜5および第2化成皮膜6)が成長した場合でも、化成皮膜(第1化成皮膜5および第2化成皮膜6)によりクラック7が閉じられてしまうことを、防止或いは抑制できる。
【0090】
さらに、クラック形成処理ST11では、各クラック7をベース層2と多孔質層(第1多孔質層3および第2多孔質層4)との境界まで到達させる。これにより、陽極酸化を施している間にアルミニウム箔10に折れ曲がりが発生した場合でも、変形に起因して発生した応力を、クラック7から逃がすことが容易となる。
【0091】
なお、後述する実施例に示すように、陽極酸化時の電圧(陽極酸化電圧)が250Vに達するまでの間であれば、化成皮膜(第1化成皮膜5および第2化成皮膜6)が厚くなり過ぎず、アルミニウム箔10の硬さがクラック7を形成するのに適する。従って、化成工程ST1において、250Vに達するまでクラック形成前陽極酸化処理ST3Bを行い、その後にクラック形成処理ST11を設けてアルミニウム箔10に応力を付与すれば、多孔質層(第1多孔質層3および第2多孔質層4)の表面に複数のクラック7を均一に設けることがより容易である。
【0092】
さらに、クラック形成処理ST11では、クラック形成用ローラ(第1クラック形成用ローラ21(1)および第2クラック形成用ローラ21(2))によりアルミニウム箔10に応力を発生させる。従って、多孔質層(第1多孔質層3および第2多孔質層4)にクラック7を複数形成することが容易である。
【0093】
また、クラック形成処理ST11では、アルミニウム箔10を走行させる複数のローラ21のうち、他のローラ21より径が小さいローラ21をクラック形成用ローラ(第1クラック形成用ローラ21(1)および第2クラック形成用ローラ21(2))として配置している。径の小さいローラをクラック形成用ローラ(第1クラック形成用ローラ21(1)および第2クラック形成用ローラ21(2))として用いれば、アルミニウム箔10に応力を発生させて、クラック7を形成することが容易である。
【0094】
さらに、第1の製造方法および第5の製造方法では、化成工程ST1は、陽極酸化工程ST3の前に、アルミニウム箔10に水和皮膜を形成する水和工程ST2を備える。そして、クラック形成処理ST11を、水和工程ST2の途中に行う。このようにすれば、まず、水和工程ST2において多孔質層(第1多孔質層3および第2多孔質層4)の表面に水和皮膜が形成される。そして、水和工程ST2の途中で多孔質層(第1多孔質層3および第2多孔質層4)にクラック7が設けられる。これにより、クラック形成処理ST11によって、多孔質層(第1多孔質層3および第2多孔質層4)の表面には、クラック7を介して、アルミニウム新生面(剥き出しになった金属アルミニウムの表面)が露出する。すなわち、クラック7による多孔質層(第1多孔質層3および第2多孔質層4)の破断面には、表面に水和皮膜が形成されていない粉体11が露出する。その後、アルミニウム新生面には、クラック形成処理ST11の後に引き続き行われる水和工程ST2において水和皮膜が形成される。ここで、アルミニウム新生面を被う水和皮膜は、陽極酸化工程ST3において、クラック7を間に挟んだ両側に位置する粉体11同士が化成皮膜(第1化成皮膜5および第2化成皮膜6)を介して結合することを阻害或いは抑制する。従って、水和工程ST2の途中にクラック形成処理ST11を行えば、クラック形成処理ST11および水和工程ST2の後に行う陽極酸化工程ST3において化成皮膜(第1化成皮膜5および第2化成皮膜6)が成長したときに、化成皮膜(第1化成皮膜5および第2化成皮膜6)によりクラック7が閉じられてしまうことを、防止或いは抑制できる。
【0095】
第2の製造方法、第3の製造方法、および第4の製造方法では、化成工程ST1は、陽極酸化工程ST3の前に、アルミニウム箔10に水和皮膜を形成する水和工程ST2を備える。陽極酸化工程ST3は、水和皮膜が形成されたアルミニウム箔10に陽極酸化を施す。そして、第2の製造方法および第3の製造方法では、クラック形成処理ST11を、水和工程ST2の後に行う。このようにすれば、水和工程ST2において多孔質層(第1多孔質層3および第2多孔質層4)の表面に水和皮膜が形成される。ここで、水和皮膜は、陽極酸化工程ST3において粉体11同士が化成皮膜(第1化成皮膜5および第2化成皮膜6)を介して結合することを阻害或いは抑制する。従って、水和工程ST2の後にクラック形成処理ST11を備えれば、多孔質層(第1多孔質層3および第2多孔質層4)に形成されたクラック7が、水和工程ST2の後に形成される化成皮膜(第1化成皮膜5および第2化成皮膜6)によって閉じられてしまうことを、抑制しやすい。
【0096】
第4の製造方法および第5の製造方法では、陽極酸化工程ST3において、所定の陽極酸化電圧に達するまでクラック形成前陽極酸化処理ST3Bを行い、その後にクラック形成処理ST11を行う。また、クラック形成処理ST11に引き続いてアルミニウム箔10に水和皮膜を形成する再水和処理ST21を連続して行う。さらに、再水和処理ST21の後に後陽極酸化処理ST3Aを行う。このようにすれば、水和工程ST2において多孔質層(第1多孔質層3および第2多孔質層4)の表面に水和皮膜が形成される。ここで、水和皮膜は、陽極酸化工程ST3において粉体11同士が化成皮膜(第1化成皮膜5および第2化成皮膜6)を介して結合することを阻害或いは抑制する。従って、多孔質層(第1多孔質層3および第2多孔質層4)に形成されたクラック7が化成皮膜(第1化成皮膜5および第2化成皮膜6)によって閉じられてしまうことを、抑制しやすい。また、クラック7の形成により多孔質層(第1多孔質層3および第2多孔質層4)の表面に露出したアルミニウム新生面には、クラック形成処理ST11の後に引き続き行われる再水和処理ST21において水和皮膜が形成される。ここで、アルミニウム新生面を被う水和皮膜は、その後の陽極酸化において、クラック7を間に挟んだ両側に位置する粉体11同士が化成皮膜(第1化成皮膜5および第2化成皮膜6)を介して結合することを阻害或いは抑制する。従って、クラック形成処理ST11に引き続いて再水和処理ST21を行えば、後陽極酸化処理ST3Aにおいて化成皮膜(第1化成皮膜5および第2化成皮膜6)が成長したときに、化成皮膜(第1化成皮膜5および第2化成皮膜6)によりクラック7が閉じられてしまうことを、より、抑制できる。
【0097】
ここで、各製造方法において、陽極酸化工程ST3が終了すると、化成後のアルミニウム箔10、すなわち、アルミニウム化成箔1は、巻き取りローラに巻き取られ、渦巻曲線状に巻回されたロール形状となる。この際に、アルミニウム化成箔1は、複数のクラック7を備えているので、X方向に巻き回しやすい。従って、アルミニウム化成箔1は、アルミニウム化成箔1がクラック7を備えていない場合と比較して、真円に近い形状で巻き回すことができる。すなわち、クラックを備えていないアルミニウム化成箔1を巻き回した場合には、アルミニウム化成箔1の途中に複数の屈曲部が形成されてしまう。これに対して、複数のクラック7を備えるアルミニウム化成箔1を巻き回した場合には、途中に折り曲げられた部分を有することなくX方向に巻回されたロール形状となる。この結果、アルミニウム化成箔1が巻回されたロールは、アルミニウム化成箔1がクラックを備えていない場合のロールと比較して、巻き回したアルミニウム化成箔1のX方向の寸法に対するロールの外形寸法が小さくなる。言い換えれば、ロールの外形寸法が同一となるまで巻き回したときに、アルミニウム化成箔1が巻回されたロールは、アルミニウム化成箔1がクラックを備えていない場合のロールと比較して、巻回されたアルミニウム化成箔1のX方向の寸法が長い。よって、本例では、アルミニウム化成箔1をロールとする巻き取り作業の作業効率が向上する。また、アルミニウム化成箔1を渦巻曲線状に巻回したロール形状とすれば、アルミニウム化成箔1が途中に折り曲げられた部分を有する場合と比較して、折り曲げられた部分に発生するアルミニウム化成箔1の破断を防ぐことができる。従って、アルミニウム化成箔1の巻回性を向上させることができる。
【0098】
(実施例)
図13は、実施例1~5のアルミニウム化成箔1の製造方法において、クラック形成処理ST11を行うタイミングを説明した表である。
図14は、実施例1~5のアルミニウム化成箔1の製造方法において、クラック形成処理ST11を行うタイミングの説明図である。実施例1~5のアルミニウム化成箔1の製造方法は、クラック形成処理ST11を行うタイミングが相違するが、化成工程ST1において、アルミニウム箔10に施される処理は同一である。
【0099】
実施例1~5では、基材として、ベース層2の厚さ寸法T1が30μm、第1多孔質層3の厚さ寸法T2および第2多孔質層4の厚さ寸法T3がそれぞれ50μm、第1多孔質層3および第2多孔質層4を形成する粉体11の平均粒子径Kが3μmのアルミニウム箔10を用いる。水和工程ST2では、水和処理溶液として純水を用いる。また、水和工程ST2では、アルミニウム箔10を、95℃で10分間煮沸する。陽極酸化工程ST3では、第1陽極酸化処理ST41、第2陽極酸化処理ST42、および第3陽極酸化処理ST43を行う。また、陽極酸化工程ST3では、第2陽極酸化処理ST42と第3陽極酸化処理ST43との間に熱処理ST31を行う。熱処理ST31では、アルミニウム箔10を、500℃の雰囲気中で2分間加熱して、欠陥部を露出させる。
【0100】
第1陽極酸化処理ST41では、陽極酸化電圧が400Vとなるまでアルミニウム箔10に陽極酸化を施す。第1陽極酸化処理ST41の化成処理液は、アジピン酸アンモニウムを含む。化成処理液におけるアジピン酸アンモニウムの量は、1g/Lである。化成処理液の温度は、80℃である。第2陽極酸化処理ST42では、陽極酸化電圧を550Vとなるまで昇圧させ、さらに30分間保持することで、アルミニウム箔10に陽極酸化を施す。第2陽極酸化処理ST42の化成処理液は、ホウ酸、および五ホウ酸アンモニウム八水和物を含む。化成処理液におけるホウ酸の量は、80g/Lであり、五ホウ酸アンモニウム八水和物の量は、0.5g/Lである。化成処理液の温度は、80℃である。第3陽極酸化処理ST43では、陽極酸化電圧を550Vとなるまで昇圧させ、さらに10分間保持することで、アルミニウム箔10に陽極酸化を施す。第3陽極酸化処理ST43では、第2陽極酸化処理ST42と同一の化成処理液を用いる。化成処理液の温度は、80℃である。クラック形成処理ST11で用いる第1クラック形成用ローラ21(1)の径寸法Mおよび第2クラック形成用ローラ21(2)の径寸法Mは、10mmである。
【0101】
図13、
図14に示すように、実施例1は、第1の製造方法であり、クラック形成処理ST11を水和工程ST2の途中に備える。実施例2は、第2の製造方法であり、クラック形成処理ST11を水和工程ST2と陽極酸化工程ST3の間に備える。実施例1、2では、第1陽極酸化処理ST41、第2陽極酸化処理ST42、および第3陽極酸化処理ST43が、後陽極酸化処理ST3Aに相当する。
【0102】
実施例3~5は、第3の製造方法であり、化成工程ST1に含まれる陽極酸化工程ST3において、最終的な目標となる陽極酸化電圧(550V)に達する前に、クラック形成処理ST11を行う。
【0103】
実施例3では、第1陽極酸化処理ST41において、陽極酸化電圧が100Vに達した時点でクラック形成処理ST11を行う。実施例3では、第1陽極酸化処理ST41の陽極酸化電圧が100Vに達するまでが前陽極酸化処理ST3Bに相当し、第1陽極酸化処理ST41のクラック形成処理ST11以後、第2陽極酸化処理ST42、および第3陽極酸化処理ST43が、後陽極酸化処理ST3Aに相当する。
【0104】
実施例4では、第1陽極酸化処理ST41において、陽極酸化電圧が200Vに達した時点でクラック形成処理ST11を行う。実施例4では、第1陽極酸化処理ST41の陽極酸化電圧が200Vに達するまでが前陽極酸化処理ST3Bに相当し、第1陽極酸化処理ST41のクラック形成処理ST11以後、第2陽極酸化処理ST42、および第3陽極酸化処理ST43が、後陽極酸化処理ST3Aに相当する。
【0105】
実施例5では、第1陽極酸化処理ST41において、陽極酸化電圧が400Vに達した時点でクラック形成処理ST11を行う。実施例5では、第1陽極酸化処理ST41の陽極酸化電圧が400Vに達するまでが前陽極酸化処理ST3Bに相当し、第2陽極酸化処理ST42、および第3陽極酸化処理ST43が、後陽極酸化処理ST3Aに相当する。
【0106】
なお、比較例1の製造方法は、化成工程ST1の途中にクラック形成処理ST11を備えていない。比較例2の製造方法は、陽極酸化工程ST3において、クラック形成処理ST11を第2陽極酸化処理ST42の直後に行う。比較例2の製造方法では、クラック形成処理ST11を行う時点において、陽極酸化時の電源から出力される電圧が所定の陽極酸化電圧(400V)を超え、陽極酸化時の電圧の最終的な目標となる最終陽極酸化電圧(550V)に達している。
【0107】
図15は、実施例1~5、比較例1、2について、化成処理後のアルミニウム箔10、すなわち、アルミニウム化成箔1のクラック7の間隔、折曲げ強度、引張強さ、静電容量、および皮膜耐電圧を示す表である。なお、比較例1の製造方法は、クラック形成処理ST11を備えていない。従って、
図15に示すように、比較例1の製造方法により得られるアルミニウム化成箔1は、第1多孔質層3および第2多孔質層4にクラックを備えない。よって、
図15のクラックの間隔の欄は測定不可と記載されている。
【0108】
ここで、折曲げ強度、引張強さ、静電容量は、日本電子機械工業会規格である「EIAJ RC-2364A」に準じて測定した。折曲げ強度は、アルミニウム化成箔1が破断する折り曲げ回数で示す。折り曲げ回数は、X方向に延びるアルミニウム化成箔1を、X方区およびY方向と交差するZ方向に90°曲げて1回と数え、曲げを元に戻して2回と数え、Z方向で1回目とは反対に90°曲げて3回と数え、曲げを元に戻して4回、と数える。5回以降は、1回から4回までと同様に折り曲げて数える。引張強さは、アルミニウム化成箔1を、X方向に引っ張って破断したとき引張力である。
【0109】
図16は、実施例5の製造方法により製造されたアルミニウム化成箔1の表面を走査型電子顕微鏡により拡大して撮影した写真である。なお、
図1は、実施例1の製造方法により製造されたアルミニウム化成箔1の表面を走査型電子顕微鏡により拡大して撮影した写真である。
図2は、実施例1の製造方法により製造されたアルミニウム化成箔1の断面を走査型電子顕微鏡により拡大して撮影した写真である。
【0110】
図1、
図2、
図16に示すように、実施例1~5の製造方法により得られるアルミニウム化成箔1では、300μm以上の長さでY方向に延びるクラック7が、第1多孔質層3および第2多孔質層4の表面に、30μmから150μmの間隔で、複数、設けられている。具体的には、
図15に示すように、クラック7は、95μmから110μmの間隔で複数設けられている。
【0111】
このようなアルミニウム化成箔1では、アルミニウム箔10に陽極酸化を施すことによって隣り合う粉体11が化成皮膜(第1化成皮膜5および第2化成皮膜6)を介して結合したときにアルミニウム箔10に折れ曲がりが発生した場合でも、変形に起因して発生した応力をクラック7から逃がすことができる。従って、実施例1~5の製造方法により得られるアルミニウム化成箔1では、折曲げ強度は、折り曲げ回数が150回以上であり、比較例1、2の製造方法により得られるアルミニウム化成箔1と比較して、折り曲げに強い。
【0112】
ここで、実施例1~4の製造方法により得られるアルミニウム化成箔1(
図1参照)では、クラック7の間隔が実施例5の製造方法により得られるアルミニウム化成箔1(
図16参照)よりも狭い。従って、
図15に示すように、折曲げ強度を示す折り曲げ回数が実施例5の製造方法により得られるアルミニウム化成箔1よりも多く、折り曲げに強い。ここで、発明者らの検証によれば、陽極酸化工程ST3において、陽極酸化電圧が250Vに達するまでの間にクラック形成処理ST11を行えば、陽極酸化電圧が250Vを超えた後にクラック形成処理ST11を行う場合と比較して、アルミニウム化成箔1を折り曲げに強くすることができる。
【0113】
また、実施例1~5の製造方法により得られるアルミニウム化成箔1をアルミニウム電解コンデンサ用電極として用いる場合には、比較例1の製造方法により得られるアルミウム化成箔をアルミニウム電解コンデンサ用電極として用いる場合と比較して、静電容量が高い。すなわち、実施例1~5の製造方法により得られるアルミニウム化成箔1は、クラック7を備えるので、比較例1の製造方法により得られるアルミニウム化成箔1と比較して、比表面積が大きい。この結果、例1~5の製造方法により得られるアルミニウム化成箔1(アルミニウム電解コンデンサ用電極)では、静電容量が高くなる。
【0114】
ここで、
図17は、比較例1の製造方法により製造されたアルミニウム化成箔1´の表面を走査型電子顕微鏡により拡大して撮影した写真である。
図18は、比較例1のアルミニウム化成箔1´の断面を走査型電子顕微鏡により拡大して撮影した写真である。
図17、および
図18に示すように、比較例1の製造方法により製造されたアルミニウム化成箔1´はクラックを備えていない。このようなアルミニウム化成箔1´では、陽極酸化工程ST3において、粉体11の焼結体からなる多孔質層(第1多孔質層3および第2多孔質層4)の表面に化成皮膜(第1化成皮膜5および第2化成皮膜6)が成長すると、隣り合う粉体11は、化成皮膜を介して、結合する。従って、アルミニウム箔に折れ曲がりが発生した場合には、粉体11同士の結合が強固なので、変形に起因して発生した応力をアルミニウム箔から逃がすことができない。この結果、粉体11間の結合に局所的な割れが発生する。また、この割れが広がって、アルミニウム箔が破断する。よって、
図15に示すとおり、比較例1の製造方法により製造されたアルミニウム化成箔1´では、折曲げ強度は、低い。
【0115】
図19は、実施例6~8のアルミニウム化成箔1の製造方法において、クラック形成処理ST11を行うタイミングを説明した表である。
図20は、実施例6~8のアルミニウム化成箔1の製造方法において、クラック形成処理ST11を行うタイミングの説明図である。
【0116】
実施例6~8は、第4の製造方法であり、化成工程ST1に含まれる陽極酸化工程ST3において、最終的な目標となる最終陽極酸化電圧(550V)に達する前に、クラック形成処理ST11と再水和処理ST21とを連続して行う。実施例6~8において、基材として用いるアルミニウム箔10は、実施例1~5と同一である。すなわち、実施例6~8では、基材として、ベース層2の厚さ寸法T1が30μm、第1多孔質層3の厚さ寸法T2および第2多孔質層4の厚さ寸法T3がそれぞれ50μm、第1多孔質層3および第2多孔質層4を形成する粉体11の平均粒子径Kが3μmのアルミニウム箔10を用いる。
【0117】
また、実施例6~8のアルミニウム化成箔1の製造方法は、化成工程ST1においてアルミニウム箔10に施す処理は実施例1~5と同一である。クラック形成処理ST11で用いられる第1クラック形成用ローラ21(1)の径寸法Mおよび第2クラック形成用ローラ21(2)の径寸法Mは、10mmである。再水和処理ST21では、水和処理液として純水を用いる。また、再水和処理ST21では、アルミニウム箔10を、95℃で2分間煮沸する。
【0118】
ここで、実施例6では、第1陽極酸化処理ST41において、陽極酸化電圧が100Vに達した時点でクラック形成処理ST11および再水和処理ST21を連続して行う。実施例6では、第1陽極酸化処理ST41の陽極酸化電圧が100Vに達するまでが前陽極酸化処理ST3Bに相当し、第1陽極酸化処理ST41のクラック形成処理ST11および再水和処理ST21以後、第2陽極酸化処理ST42、および第3陽極酸化処理ST43が、後陽極酸化処理ST3Aに相当する。
【0119】
実施例7では、第1陽極酸化処理ST41において、陽極酸化電圧が200Vに達した時点でクラック形成処理ST11および再水和処理ST21を連続して行う。実施例7では、第1陽極酸化処理ST41の陽極酸化電圧が200Vに達するまでが前陽極酸化処理ST3Bに相当し、第1陽極酸化処理ST41のクラック形成処理ST11および再水和処理ST21以後、第2陽極酸化処理ST42、および第3陽極酸化処理ST43が、後陽極酸化処理ST3Aに相当する。
【0120】
実施例8では、第1陽極酸化処理ST41において、陽極酸化電圧が400Vに達した時点でクラック形成処理ST11および再水和処理ST21を連続して行う。実施例8では、第1陽極酸化処理ST41の陽極酸化電圧が400Vに達するまでが前陽極酸化処理ST3Bに相当し、第2陽極酸化処理ST42、および第3陽極酸化処理ST43が、後陽極酸化処理ST3Aに相当する。
【0121】
図21は、実施例6~8について、化成処理後のアルミニウム箔10、すなわち、アルミニウム化成箔1のクラック7の間隔、折曲げ強度、引張強さ、静電容量、および皮膜耐電圧を示す説明図である。実施例6~8の製造方法により得られるアルミニウム化成箔1では、300μm以上の長さでY方向に延びるクラック7が、第1多孔質層3および第2多孔質層4の表面に、30μmから150μmの間隔で、複数、設けられている。すなわち、
図21に示すように、実施例6~8の製造方法により得られるアルミニウム化成箔1では、クラック7が105μmから110μmの間隔で、複数、設けられている。従って、アルミニウム箔10に陽極酸化を施すことによって隣り合う粉体11が化成皮膜(第1化成皮膜5および第2化成皮膜6)を介して結合したときにアルミニウム箔10に折れ曲がりが発生した場合でも、変形に起因して発生した応力をクラック7から逃がすことができる。
【0122】
よって、実施例6~8の製造方法により得られるアルミニウム化成箔1では、折曲げ強度は、折り曲げ回数が161回以上であり、比較例1、2の製造方法により得られるアルミニウム化成箔1と比較して、折り曲げに強い。
【0123】
また、実施例6~8の製造方法により得られるアルミニウム化成箔1は、クラック形成処理ST11および再水和処理ST21をこの順で連続して行うので、陽極酸化工程ST3において化成皮膜(第1化成皮膜5および第2化成皮膜6)が成長したときに、化成皮膜(第1化成皮膜5および第2化成皮膜6)によりクラック7が閉じられてしまうことを、防止或いは抑制できる。さらに、化成皮膜(第1化成皮膜5および第2化成皮膜6)はクラック7を備えるので、実施例6~8の製造方法により得られるアルミニウム化成箔1をアルミニウム電解コンデンサ用電極とした場合には、比較例1、2の製造方法により得られるアルミニウム化成箔1をアルミニウム電解コンデンサ用電極とした場合と比較して、静電容量が高い。
【0124】
ここで、実施例6、7の製造方法により得られるアルミニウム化成箔1では、クラック7の間隔が実施例8の製造方法により得られるアルミニウム化成箔1よりも狭い。従って、
図21に示すように、実施例6、7の製造方法により得られるアルミニウム化成箔1は、折曲げ強度を示す折り曲げ回数が実施例8の製造方法により得られるアルミニウム化成箔1よりも多く、折り曲げに強い。また、発明者らの検証によれば、陽極酸化工程ST3において、陽極酸化電圧が250Vに達するまでの間にクラック形成処理ST11および再水和処理ST21を行えば、陽極酸化電圧が250Vを超えた後にクラック形成処理ST11を行う場合と比較して、アルミニウム化成箔1を折り曲げに強くすることができる。
【0125】
図22は、実施例9~11のアルミニウム化成箔1の製造方法において、クラック形成処理ST11を行うタイミングを説明した表である。
図23は、実施例9~11のアルミニウム化成箔1の製造方法において、クラック形成処理ST11を行うタイミングの説明図である。
【0126】
実施例9~11は、第5の製造方法であり、化成工程ST1に含まれる水和工程ST2の途中でクラック形成処理ST11を行う。さらに、実施例9~11では、化成工程ST1に含まれる陽極酸化工程ST3において、電源から出力される電圧が最終的な目標となる最終陽極酸化電圧(550V)に達する前に、クラック形成処理ST11と再水和処理ST21とを連続して行う。また、実施例9~11では、基材として、ベース層2の厚さ寸法T1が30μm、第1多孔質層3の厚さ寸法T2および第2多孔質層4の厚さ寸法T3がそれぞれ100μm、第1多孔質層3および第2多孔質層4を形成する粉体11の平均粒子径Kが3μmのアルミニウム箔10を用いる。すなわち、実施例9~11では、基材として、多孔質層の厚さ寸法(第1多孔質層3の厚さ寸法T2および第2多孔質層4の厚さ寸法T3の合計)が200μmのアルミニウム箔10を用いる。
【0127】
実施例9~11において、化成工程ST1でアルミニウム箔10に施す処理は実施例1~8と同一である。また、クラック形成処理ST11で用いられる第1クラック形成用ローラ21(1)の径寸法Mおよび第2クラック形成用ローラ21(2)の径寸法Mは、10mmである。再水和処理ST21では、水和処理液として純水を用いる。再水和処理ST21では、アルミニウム箔10を、95℃で2分間煮沸する。
【0128】
ここで、実施例9では、第1陽極酸化処理ST41において、陽極酸化電圧が100Vに達した時点でクラック形成処理ST11および再水和処理ST21を連続して行う。実施例9では、第1陽極酸化処理ST41の陽極酸化電圧が100Vに達するまでが前陽極酸化処理ST3Bに相当し、第1陽極酸化処理ST41のクラック形成処理ST11および再水和処理ST21以後、第2陽極酸化処理ST42、および第3陽極酸化処理ST43が、後陽極酸化処理ST3Aに相当する。
【0129】
実施例10では、第1陽極酸化処理ST41において、陽極酸化電圧が200Vに達した時点でクラック形成処理ST11および再水和処理ST21を連続して行う。実施例10では、第1陽極酸化処理ST41の陽極酸化電圧が200Vに達するまでが前陽極酸化処理ST3Bに相当し、第1陽極酸化処理ST41のクラック形成処理ST11および再水和処理ST21以後、第2陽極酸化処理ST42、および第3陽極酸化処理ST43が、後陽極酸化処理ST3Aに相当する。
【0130】
実施例11では、第1陽極酸化処理ST41において、陽極酸化電圧が400Vに達した時点でクラック形成処理ST11および再水和処理ST21を連続して行う。実施例11では、第1陽極酸化処理ST41の陽極酸化電圧が400Vに達するまでが前陽極酸化処理ST3Bに相当し、第2陽極酸化処理ST42、および第3陽極酸化処理ST43が、後陽極酸化処理ST3Aに相当する。
【0131】
図24は、実施例9~11について、化成処理後のアルミニウム箔10、すなわち、アルミニウム化成箔1のクラック7の間隔、折曲げ強度、引張強さ、静電容量、および皮膜耐電圧を示す説明図である。実施例9~11の製造方法により得られるアルミニウム化成箔1では、300μm以上の長さでY方向に延びるクラック7が、第1多孔質層3および第2多孔質層4の表面に、35μmから150μmの間隔で複数設けられている。すなわち、
図24に示すとおり、クラック7が135μmから150μmの間隔で、複数、設けられている。このようなアルミニウム化成箔1では、アルミニウム箔10に陽極酸化を施すことによって隣り合う粉体11が化成皮膜(第1化成皮膜5および第2化成皮膜6)を介して結合したときにアルミニウム箔10に折れ曲がりが発生した場合でも、変形に起因して発生した応力をクラック7から逃がすことができる。
【0132】
よって、実施例9~11の製造方法により得られるアルミニウム化成箔1では、折曲げ強度は、折り曲げ回数が120回以上であり、比較例1、2の製造方法により得られるアルミニウム化成箔1と比較して、折り曲げに強い。
【0133】
また、実施例9~11の製造方法により得られるアルミニウム化成箔1は、クラック形成処理ST11を2回行うとともに、1回目のクラック形成処理ST11を水和工程ST2の途中で行い、2回目のクラック形成処理ST11では、クラック形成処理ST11に引き続き再水和処理ST21を連続して行う。従って、基材として、多孔質層の厚さ寸法(第1多孔質層3の厚さ寸法T2および第2多孔質層4の厚さ寸法T3の合計)が200μmのアルミニウム箔10を用いている場合でも、陽極酸化工程ST3において化成皮膜(第1化成皮膜5および第2化成皮膜6)が成長したときに、化成皮膜(第1化成皮膜5および第2化成皮膜6)によりクラック7が閉じられてしまうことを、防止或いは抑制できる。
【0134】
さらに、化成皮膜(第1化成皮膜5および第2化成皮膜6)はクラック7を備えるので、実施例9~11の製造方法により得られるアルミニウム化成箔1をアルミニウム電解コンデンサ用電極とした場合には、比較例1、2の製造方法により得られるアルミニウム化成箔1をアルミニウム電解コンデンサ用電極とした場合と比較して、静電容量が高い。
【0135】
ここで、実施例9、10の製造方法により得られるアルミニウム化成箔1では、クラック7の間隔が実施例11の製造方法により得られるアルミニウム化成箔1よりも狭い。従って、
図24に示すように、実施例9、10の製造方法により得られるアルミニウム化成箔1は、折曲げ強度を示す折り曲げ回数が実施例11の製造方法により得られるアルミニウム化成箔1よりも多く、折り曲げに強い。また、発明者らの検証によれば、陽極酸化工程ST3において、陽極酸化電圧が250Vに達するまでの間にクラック形成処理ST11および再水和処理ST21を行えば、陽極酸化電圧が250Vを超えた後にクラック形成処理ST11を行う場合と比較して、アルミニウム化成箔1を折り曲げに強くすることができる。
【0136】
また、実施例8~11では、アルミニウム化成箔1のベース層2に積層された多孔質層(第1多孔質層3および第2多孔質層4)が厚い。従って、実施例8~11の製造方法により製造されたアルミニウム化成箔1をアルミニウム電解コンデンサ用電極とする場合には、他の実施例の製造方法により得られるアルミニウム化成箔1をアルミニウム電解コンデンサ用電極とする場合と比較して、静電容量が高い。
【0137】
(その他の実施の形態)
図25は、アルミニウム化成箔1の第6の製造方法のフローチャートである。
図26は、アルミニウム化成箔1の第7の製造方法のフローチャートである。アルミニウム化成箔1の第6の製造方法では、
図8に示す第2の製造方法において、クラック形成処理ST11に引き続いてアルミニウム箔10に水和皮膜を形成する再水和処理ST21を備える。すなわち、
図25に示すように、アルミニウム化成箔1の第6の製造方法は、水和工程ST2と陽極酸化工程ST3との間に、クラック形成処理ST11および再水和処理ST21を連続して行う。このようすれば、クラック形成処理ST11により設けたクラック7を介して露出するアルミニウム新生面に対し、再水和処理ST21により水和皮膜を設けることができる。従って、その後の陽極酸化工程ST3における後陽極酸化処理ST3Aにおいて化成皮膜(第1化成皮膜5および第2化成皮膜6)が成長したときに、化成皮膜(第1化成皮膜5および第2化成皮膜6)によりクラック7が閉じられてしまうことを、防止或いは抑制しやすい。
【0138】
また、クラック形成処理ST11前に行う前陽極酸化処理ST3Bにおいて、クラック形成処理ST11前に陽極酸化を施す際に達する所定の陽極酸化電圧が低い場合であって、例えば、所定の陽極酸化電圧を、5V以上、150V以下とするような場合には、水和工程ST2を省略してもよい。すなわち、化成工程ST1は、陽極酸化工程ST3のみを備えるものとすることができる。
【0139】
この場合の第7の製造方法の製造方法では、
図26に示すように、クラック形成処理ST11を、陽極酸化工程ST3において、上述した所定の陽極酸化電圧に達するまでアルミニウム箔10に陽極酸化を施す前陽極酸化処理ST3Bを行い、その後にクラック形成処理ST11を行う。そして、クラック形成処理ST11後に、後陽極酸化処理ST3Aを行う。このようにしても、第1多孔質層3の表面に、300μm以上の長さでY方向(Y方向)に延在するクラック7を、X方向(X方向)において30μmから150μmの間隔で、複数、設けることができる。また、第2多孔質層4の表面に、300μm以上の長さでY方向に延在するクラック7を、Y方向に直交するX方向において30μmから150μmの間隔で複数設けることができる。従って、アルミニウム箔10に陽極酸化を施すことによって隣り合う粉体11が化成皮膜(第1化成皮膜5および第2化成皮膜6)を介して結合したときにアルミニウム箔10に折れ曲がりが発生した場合でも、変形に起因して発生した応力をクラック7から逃がすことができる。
【0140】
なお、
図7~
図11、
図25、
図26を参照して説明したアルミニウム化成箔1の製造方法では、熱処理ST31が、後陽極酸化処理ST3Aの後に行われる場合を例示した。熱処理ST31は、陽極酸化工程ST3の途中で行えばよく、前陽極酸化処理ST3Bの前で行ってもよく、後で行ってもよく、また、後陽極酸化処理ST3Aの前で行ってもよく、後で行ってもよい。また、熱処理ST31は、前陽極酸化処理ST3Bの途中で行ってもよく、後陽極酸化処理ST3Aの途中で行ってもよい。また、熱処理ST31は省略することもできる。
【0141】
また、アルミニウム化成箔1の基材として、ベース層2と、ベース層2の第1面2aに積層された第1多孔質層3のみを備えるアルミニウム箔10を用いてもよい。この場合には、化成工程ST1の途中に行われるクラック形成処理ST11では、第1クラック形成用ローラ21(1)のみを用いて、第1多孔質層3にクラック7を設ける。
【0142】
また、クラック形成処理ST11では、アルミニウム箔10に対して、第1クラック形成用ローラ21(1)および第2クラック形成用ローラ21(2)を接触させて、第1クラック形成用ローラ21(1)および第2クラック形成用ローラ21(2)とのいずれかを移動させて、アルミニウム箔10に応力を発生させてもよい。すなわち、クラック形成処理ST11では、アルミニウム箔10と第1クラック形成用ローラ21(1)および第2クラック形成用ローラ21(2)とをX方向で相対移動させれば、アルミニウム箔10にクラック7を付与することができる。
【0143】
さらに、クラック形成処理ST11では、アルミニウム箔10と第1クラック形成用ローラ21(1)または第2クラック形成用ローラ21(2)とを所定の抱き角で接触させてアルミニウム箔10を走行させてもよい。すなわち、アルミニウム箔10が、第1クラック形成用ローラ21(1)または第2クラック形成用ローラ21(2)と、押圧ローラ23との間を走行することなく、アルミニウム箔10の第2面2bに接触する第1クラック形成用ローラ21(1)または第1面2aに接触する第2クラック形成用ローラ21(2)によって応力を付与するものであってもよい。この場合、第1クラック形成用ローラ21(1)の抱き角および第2クラック形成用ローラ21(2)の抱き角は、通常0°より大きく、180°以下とすることができる。また、この場合、第1クラック形成用ローラ21(1)の抱き角および第2クラック形成用ローラ21(2)の抱き角は、好ましくは0°より大きく、45°以下である。第1クラック形成用ローラ21(1)の抱き角および第2クラック形成用ローラ21(2)の抱き角を上記範囲とすれば、第1多孔質層3または第2多孔質層4に所望のクラック7を形成しやすい。
【0144】
ここで、本発明のアルミニウム化成箔1は、その表面で試液や血液などの液体を拡散させる拡散部材として用いることができる。この場合、アルミニウム化成箔1は、表面にクラック7を備えるので、液体を拡散させやすい。