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特許7338832光硬化性組成物および光導波路用光硬化性組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】光硬化性組成物および光導波路用光硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 20/20 20060101AFI20230829BHJP
   G02B 6/138 20060101ALI20230829BHJP
   C08F 2/50 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
C08F20/20
G02B6/138
C08F2/50
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019089269
(22)【出願日】2019-05-09
(65)【公開番号】P2020186278
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-04-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 戦略的イノベーション創出推進プログラム、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304036743
【氏名又は名称】国立大学法人宇都宮大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000240477
【氏名又は名称】Orbray株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118201
【弁理士】
【氏名又は名称】千田 武
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(72)【発明者】
【氏名】杉原 興浩
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 英孝
(72)【発明者】
【氏名】藤原 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】行川 毅
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-194619(JP,A)
【文献】特開平10-007707(JP,A)
【文献】特開2005-068348(JP,A)
【文献】特開2018-150426(JP,A)
【文献】特開平04-146905(JP,A)
【文献】特開平11-052127(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00 ー 2/60
C08F 20/00 ー 20/70
G02B 6/138
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光硬化性2官能アクリレート化合物および光硬化性2官能メタクリレート化合物から選ばれる少なくとも1種と、
有機ホウ素塩からなるラジカル発生剤と、
脂肪族3級アミン化合物と、
ジイモニウム色素からなる近赤外線感光性色素と、
を含むことを特徴とする光硬化性組成物。
【請求項2】
前記有機ホウ素塩は、有機ホウ素アンモニウム塩であることを特徴とする請求項1に記載の光硬化性組成物。
【請求項3】
前記近赤外線感光性色素は、波長λ1100nm~1800nmに吸収極大を有することを特徴とする請求項1に記載の光硬化性組成物。
【請求項4】
前記近赤外線感光性色素の前記ジイモニウム色素は、式(I)で表わされる化合物であることを特徴とする請求項1に記載の光硬化性組成物。
(式(I)中、X - は対アニオンである。R はそれぞれ独立に炭素数1~7のアルキル基又は炭素数1~5のアルコキシアルキル基を表す。)
【化1】
【請求項5】
前記近赤外線感光性色素の前記ジイモニウム色素は、対アニオンとしてトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドアニオンを有することを特徴とする請求項4に記載の光硬化性組成物。
【請求項6】
光硬化性2官能アクリレート化合物および光硬化性2官能メタクリレート化合物から選ばれる少なくとも1種と、
有機ホウ素塩からなるラジカル発生剤と、
脂肪族3級アミン化合物と、
ジイモニウム色素からなる近赤外線感光性色素とからなる光硬化性組成物
を含むことを特徴とする光導波路用光硬化性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性組成物および光導波路用光硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバを介した光通信システムには、光ファイバの両端に接続され、光と電気信号との相互変換を行う光モジュールが設けられる。近年、光ファイバと同様な機能を有する光伝送媒体としての光導波路を用いる光モジュールの組み付け技術が一般的である。さらに、最近は、光硬化性樹脂溶液に光ファイバを用いてビーム状のUV光や波長450nm程度の青色光(以下、「UV光等」)を照射し、自己形成光導波路を形成する技術が報告されている。ここで、自己形成光導波路とは、光硬化性樹脂中で重合体に閉じ込められながら、連続的に、重合領域を光の進行方向に沿って長尺状に成長させて得られる透明な重合体である。軸ずれのない光導波路が容易に形成できる特徴がある(特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-347043号公報
【文献】特開2004-149579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、シリコン基板に電気素子と光素子とが形成されたシリコンフォトニクス素子(シリコンチップ)は、近年の光通信速度の飛躍的な増大に加え、益々小型化、精密化が進行している。それに伴い、シリコンチップと光ファイバや光モジュールとの接続に精密アライメント技術が必要となり困難さが増大している。
そこで、シリコンフォトニクスにおいて小型化されるシリコンチップの接続手段として自己形成光導波路技術の適用が想定される。
しかし、シリコンチップを構成するシリコンは、波長(λ)1000nm以上の近赤外線領域において光透過性を有するため、従来、UV光等の照射による光硬化性樹脂の重合によって光導波路を形成している技術は適用が困難である。
【0005】
本発明の目的は、低エネルギの近赤外線を用いる自己形成光導波路の形成が可能な光硬化性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、2官能アクリレート化合物と、ラジカル発生剤と、3級アミン化合物と、近赤外線感光性色素と、を含むことを特徴とする光硬化性組成物が提供される。
ここで、前記ラジカル発生剤は、有機ホウ素塩であることが好ましい。
前記ラジカル発生剤は、有機ホウ素アンモニウム塩であることが好ましい。
前記近赤外線感光性色素は、波長(λ)1000nm以上に吸収極大を有するものであることが好ましい。
前記近赤外線感光性色素は、ジイモニウム色素であるものが好ましい。
さらに、本発明によれば、上記の光硬化性組成物を含むことを特徴とする光導波路用光硬化性組成物が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、低エネルギの近赤外線を用いる自己形成光導波路の形成が可能な光硬化性組成物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】光導波路形成用基板を調製する工程を説明する図である。
図2】自己形成光導波路(LISW)の形成工程を説明する図である。
図3】自己形成光導波路(LISW)の形成結果である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について説明する(以下、実施の形態)。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0010】
(2官能アクリレート化合物)
本実施の形態で使用する2官能アクリレート化合物は、光を照射することにより重合反応を生じ硬化する化合物であって、光硬化性2官能アクリレート化合物、光硬化性2官能メタリレート化合物が挙げられる。
【0011】
光硬化性2官能アクリレート化合物の具体例は、例えば、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、プロポキシ化ビスフェノールAジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、1,10-デカンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート等が挙げられる。
【0012】
光硬化性2官能メタクリレート化合物の具体例は、例えば、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート、1.10-デカンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9-ノナンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、エトキシ化ポリプロピレングリコールジメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート等が挙げられる。
【0013】
これらの光硬化性2官能アクリレート化合物、光硬化性2官能メタクリレート化合物は、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート(2,2-ビス[4-(アクリルオキシポリエトキシ)フェニル]プロパン)、エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート(2,2-ビス[4-(メタクリルオキシポリエトキシ)フェニル]プロパン)が好ましい。
【0014】
(ラジカル発生剤)
本実施の形態におけるラジカル発生剤としては、例えば、ホウ素化合物、ヨードニウム塩、多ハロゲン化合物、有機過酸化物、ビスイミダゾール、チタノセン、スルホン酸誘導体およびN-フェニルグリシンからなる群から選ばれるいずれか1種以上が挙げられる。これらのラジカル発生剤は1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのラジカル発生剤の中でも、ホウ素化合物が好ましい。
ホウ素化合物としては、有機ホウ素塩が好ましく、中でも、下記一般式(1)で表されるアンモニウムカチオンと有機ホウ素アニオンとから構成される有機ホウ素アンモニウム塩が挙げられる。
【0015】
【化1】
【0016】
ここで、式(1)中、Rは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、アリル基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、および脂環基からなる群から選択される。また、Rは、それぞれ独立にアルキル基、アリール基、アリル基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、および脂環基からなる群から選択される。
アルキル基の代表的な例として、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ステアリル基等が挙げられる。アルキル基は、例えば、1つ以上のハロゲン基、シアノ基、アシルオキシ基、アシル基、アルコキシ基、またはヒドロキシル基で置換されていても良い。
【0017】
アリール基の代表的な例としては、フェニル基、p-トリル基、キシリル基、メシチル基、クメニル基、p-メトキシフェニル基、ナフチル基、2,4-ビス(トリフルオロメチル)フェニル基、p-フルオロフェニル基、p-クロロフェニル基、p-ブロモフェニル基等が挙げられる。アラルキル基の代表的な例としては、ベンジル基、p-メチルベンジル、p-メトキシベンジル等がある。アルケニル基の代表的な例としては、ビニル基、1-プロペニル基、1-ブテニル基等が挙げられる。アルキニル基の代表的な例としては、エテニル基、2-tert-ブチルエテニル基、2-フェニルエテニル基等が挙げられる。また、脂環基の代表的な例としては、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0018】
アンモニウムカチオンの具体例としては、例えば、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトライソプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、テトラ-sec-ブチルアンモニウム、テトラ-tert-ブチルアンモニウム、テトラペンチルアンモニウム、テトライソペンチルアンモニウム、テトラネオペンチルアンモニウム、テトラ-tert-ペンチルアンモニウム等のアルキル基含有アンモニウムカチオン;
【0019】
テトラハイドロジェンアンモニウム、トリメチルハイドロジェンアンモニウム、トリエチルハイドロジェンアンモニウム、トリプロピルハイドロジェンアンモニウム、トリプロピルハイドロジェンアンモニウム、トリブチルハイドロジェンアンモニウム、トリペンチルハイドロジェンアンモニウム等の水素含有アンモニウムカチオン;
【0020】
ベンジルトリメチルアンモニウム、ベンジルトリエチルアンモニウム、ベンジルトリプロピルアンモニウム、ベンジルトリブチルアンモニウム、ベンジルトリペンチルアンモニウム、フェニルトリメチルアンモニウム、フェニルトリエチルアンモニウム、フェニルトリプロピルアンモニウム、フェニルトリブチルアンモニウム、フェニルトリペンチルアンモニウム等のベンジル基含有アンモニウムカチオン;
【0021】
トリメチルビニルアンモニウム、トリエチルビニルアンモニウム、トリプロピルビニルアンモニウム、トリブチルビニルアンモニウム、トリペンチルビニルアンモニウム等のビニル基含有アンモニウムカチオン;
【0022】
トリメチルアリルアンモニウム、トリエチルアリルアンモニウム、トリプロピルアリルアンモニウム、トリブチルアリルアンモニウム、トリペンチルアリルアンモニウム、ジメチルジアリルアンモニウム、ジエチルジアリルアンモニウム、ジプロピルジアリルアンモニウム、ジブチルジアリルアンモニウム、ジペンチルジアリルアンモニウム等のアリル基含有アンモニウムカチオン;
【0023】
(2-メトキシエトキシメチル)トリメチルアンモニウム、(2-メトキシエトキシメチル)トリエチルアンモニウム、(2-メトキシエトキシメチル)トリプロピルアンモニウム、(2-メトキシエトキシメチル)トリブチルアンモニウム、(2-メトキシエトキシメチル)トリペンチルアンモニウム等のアルコキシアルキル基含有アンモニウムカチオン;ヘキサメソニウム、デカメソニウム、フェロセニルメチルトリメチルアンモニウム、フェロセニルメチルトリエチルアンモニウム、フェロセニルメチルトリプロピルアンモニウム、フェロセニルメチルトリブチルアンモニウム、フェロセニルメチルトリペンチルアンモニウム等が挙げられる。
【0024】
さらに、コリン、クロロコリン、アセチルコリン、アセチルチオコリン、ブチリルコリン、ブチリルチオコリン、ベンゾイルコリン、ベンゾイルチオコリン、メタコリン、メタクロイルコリン、ラウロイルコリン等のコリン類が挙げられる。
【0025】
有機ホウ素アニオンとしてはトリアリールモノアルキルホウ素アニオンが挙げられる。具体的な化合物としては、例えば、トリフェニルメチルボレート、トリフェニルエチルボレート、トリフェニルプロピルボレート、トリフェニルイソプロピルボレート、トリフェニルブチルボレート、トリフェニルイソブチルボレート、トリフェニル-sec-ブチルボレート、トリフェニル-tert-ブチルボレート、トリス(p-トリル)ブチルボレート、トリメシチルブチルボレート、トリス(p-アニシル)ブチルボレート、トリス(2,4,5-トリフロロフェニル)ブチルボレート、トリス(ペンタフロロフェニル)ブチルボレート等が挙げられる。
【0026】
本実施の形態が適用される光硬化性組成物におけるラジカル発生剤の配合量は、光硬化性組成物中の2官能アクリレート化合物100重量部に対し、ラジカル発生剤0.1重量部以上、好ましくは0.3重量部以上である。但し、通常10重量部以下、好ましくは5重量部以下である。
【0027】
(3級アミン化合物)
本実施の形態における3級アミン化合物は、前述のラジカル発生剤と併用して、光硬化性2官能アクリレート化合物の光重合を促進する化合物である。
3級アミン化合物の具体例としては、例えば、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、n-アミノピペラジン、ジメチルアニリン、ジエチルアニリン、ジメチルトルイジン、ジエチルトルイジン、ジメチルアミノエチルメタアクリレート、2.4.6-シメチルアミノメチルフエノール、4,4’-ジメチルアミノベンゾフェノン、4,4’-ジエチルアミノベンゾフェノン、2-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸(n-ブトキシ)エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、4-ジメチルアミノ安息香酸2-エチルヘキシル等が挙げられる。
【0028】
これらの3級アミン化合物は1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、メチルジエタノールアミン、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸(n-ブトキシ)エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、4-ジメチルアミノ安息香酸2-エチルヘキシル等が好ましい。
【0029】
本実施の形態が適用される光硬化性組成物において、ラジカル発生剤および3級アミン化合物を併用することにより、組成物に含まれる2官能アクリレート化合物の光硬化反応に必要な近赤外線の照射エネルギを、3級アミン化合物を併用しない場合と比較して大幅に低減(約1/5000程度)する。
3級アミン化合物の配合量は、光硬化性組成物中の2官能アクリレート化合物100重量部に対し、3級アミン化合物0.1重量部以上、好ましくは0.3重量部以上である。但し、通常5重量部以下、好ましくは3重量部以下である。3級アミン化合物の配合量が過度に少ないと、2官能アクリレート化合物の重合反応に高エネルギの光照射が必要になる傾向がある。
【0030】
(近赤外線感光性色素)
本実施の形態において、近赤外線とは、極大吸収波長領域が波長λ700nm~2500nmの光(電磁波)をいう。本実施の形態で使用する近赤外線感光性色素は、極大吸収波長をλ900nm~1800nmの範囲に有する色素であることが好ましく、さらに、極大吸収波長を、λ1000nm~1800nmの範囲に有する色素であることが好ましい。
【0031】
近赤外線吸収色素の種類としては、分子内にアニオン部位およびカチオン部位から選ばれる少なくとも1種(イオン部位)を含む色素が挙げられる。具体的には、例えば、シアニン色素、インドシアニン色素、チオシアニン色素、ポリメチン色素、フタロシアニン色素、ピリリウム色素、チオピリリウム色素、アントラキノン色素、アミニウム色素、イミニウム色素、ジインモニウム色素、アズレニウム色素、クロコニウム色素、チオールニッケル錯塩色素、スクアリリウム色素、ナフトキノン色素、フルギド色素、ピロロピロール系色素、ジチオレン系色素、ポルフィリン色素、アゾ色素、トリアリールメタン色素、ペリレン色素等を挙げることができる。これらの近赤外線吸収色素は1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、ジイモニウム色素が好ましい。
【0032】
ここで、ジイモニウム色素は、式(2)で表わされる化合物であることが好ましい。
【0033】
【化2】
【0034】
ここで、式(2)中、Xは対アニオンである。Rはそれぞれ独立に炭素数1~7のアルキル基又は炭素数1~5のアルコキシアルキル基を表す。
【0035】
対アニオンの例としては、ハロゲンイオン(Cl、Br、I)、p-トルエンスルホン酸イオン、エチル硫酸イオン、SO 2-、SbF 、PF 、BF 、B(C 、ClO 、トリス(ハロゲノアルキルスルホニル)メチドアニオン(例えば、(CFSO)、ジ(ハロゲノアルキルスルホニル)イミドアニオン(例えば(CFSO)、テトラシアノボレートアニオン等が挙げられる。これらの中でも、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドアニオンが好ましい。
【0036】
式(2)のRにおける炭素数1~7のアルキル基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、iso-ペンチル基、neo-ペンチル基、1,2-ジメチル-プロピル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、1,3-ジメチル-ブチル基、1-iso-プロピルプロピル基、1,2-ジメチルブチル基、n-ヘプチル基、1,4-ジメチルペンチル基、2-メチ-1-iso-プロピルプロピル基、1-エチル-3-メチルブチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、3-メチル1-iso-プロピルブチル基、2-メチル-1-iso-プロピル基等が挙げられる。これらの中でも、エチル基、n-ブチル基、イソブチル基が好ましい。
【0037】
式(2)のRにおける炭素数1~5のアルコキシアルキル基としては、メトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、プロポキシエチル基、n-ブトキシエチル基、3-メトキシプロピル基、3-エトキシプロピル基、メトキシエトキシメチル基、エトキシエトキシエチル基、ジメトキシメチル基、ジエトチキシメチル基、ジメトキシエチル基、ジエトキシエチル基等が挙げられ、ハロゲン化アルキル基としては、クロロメチル基、2,2,2-トリクロロエチル基、トリフルオロメチル基、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ2-プロピル基等が挙げられる。好ましくはメトキシエチル基、エトキシエチル基、プロポキシエチル、n-ブトキシエチル基であり、特に好ましくはメトキシエチル基である。
【0038】
式(2)のRにおける炭素数1~7のアルキル基が有してもよい置換基としては、例えば、上記の未置換のアルキル基の水素原子がアルコキシ基に置換されたアルコキシアルキル基、アルコキシアルコキシ基に置換されたアルコキシアルコキシアルキル基、アルコキシアルコキシアルコキシ基に置換されたアルコキシアルコキシアルコキシアルキル基等が挙げられ、未置換のアルキル基の水素原子がハロンゲンに置換されたハロゲン化アルキル基、アミノ基に置換されたアミノアルキル基、アルキルアミノ基に置換されたアルキルアミノアルキル基やジアルキルアミノアルキル基、その他アルコキシカルボニルアルキル基、アルキルアミノカルボニルアルキル基、アルコキシスルホニルアルキル基、シアノアルキル基等が挙げられる。
【0039】
式(2)のRにおける炭素数1~5のアルコキシアルキル基が有してもよい置換基としては、例えば、上記の未置換のアルコキシ基の水素原子がアルコキシ基に置換されたアルコキシアルコキシ基、アルコキシアルコキシ基に置換されたアルコキシアルコキシアルコキシ基、アルコキシアルコキシアルコキシ基に置換されたアルコキシアルコキシアルコキシアルコキシ基等が挙げられ、未置換のアルキル基の水素原子がハロンゲンに置換されたハロゲン化アルコキシ基、アミノ基に置換されたアミノアルコキシ基、アルキルアミノ基に置換されたアルキルアミノアルコキシ基やジアルキルアミノアルコキシ基、その他アルコキシカルボニルアルコキシ基、アルキルアミノカルボニルアルコキシ基、アルコキシスルホニルアルコキシ基等が挙げられる。
【0040】
本実施の形態が適用される光硬化性組成物における近赤外線感光性色素の配合量は、光硬化性組成物中の2官能アクリレート化合物100重量部に対し、近赤外線感光性色素0.1重量部以上、好ましくは0.3重量部以上である。但し、通常10重量部以下、好ましくは5重量部以下である。
【0041】
<その他の配合剤>
本実施の形態が適用される光硬化性組成物には、必要に応じて、溶剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤その他の添加剤を配合することができる。
【0042】
本実施の形態が適用される光硬化性組成物は、2官能アクリレート化合物と、ラジカル発生剤、3級アミン化合物及び近赤外線感光性色素からなる組み合わせ系開始剤とを含み、波長(λ)1000nm以上の低エネルギの近赤外光照射による自己形成光導波路の形成が可能である。すなわち、これまでUV光等を使用していた自己形成光導波路の形成技術と比較して、光硬化の閾値が低下し、光通信に使用する低出力光により光導波路が形成できる。
そして、波長(λ)1000nm以上の近赤外光を用いることにより、この波長領域の透過性を有するシリコンを利用するシリコンフォトニクスにおけるインターコネクション形成等が可能となる。
また、近赤外領域の連続レーザ光(CW)の使用は、例えば、小径のシングルモード光ファイバと入力/出力用シリコン製ナノワイヤ導波路とのインターコネクションを形成する際にも、高出力のパルスレーザ光を用いる場合に比較して、シリコン製ナノワイヤが被るダメージを避けることができる。
【実施例
【0043】
以下に、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。尚、実施例及び比較例中の部及び%は、総て重量基準である。
【0044】
[実施例1]
以下の操作により光硬化性組成物Iを調製し、次いで、調製した光硬化性組成物Iに近赤外線を照射して自己形成光導波路を形成する。
<光硬化性組成物の調製>
下記の2官能アクリレート化合物(成分1)、ラジカル発生剤(成分2)、3級アミン化合物(成分3)および近赤外線感光性色素(成分4)を配合し、光硬化性組成物Iを調製する。
【0045】
(光硬化性組成物I)
(成分1)光硬化性2官能アクリレート化合物(2官能アクリレート化合物)
2,2-bis[4-(アクリルオキシジエトキシ)フェニル]プロパン(新中村化学工業株式会社製エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート:A-BPE-4)100部
(成分2)ラジカル発生剤
テトラ-n-ブチルアンモニウムトリフェニル-n-ブチルボレート(昭和電工株式会社製有機ホウ素アンモニウム錯体:P3B)0.6部
(成分3)3級アミン化合物
N-メチルジエタノールアミン(Sigma-Aldrich社製:MDEA)0.8部
(成分4)近赤外線感光性色素
ジイモニウム系色素(日本カーリット株式会社製:CIR-960)0.7部
【0046】
<調製手順>
下記手順に従い、光硬化性組成物Iを調製する。
(手順1)
光硬化性2官能アクリレート化合物(A-BPE-4)、ラジカル発生剤(P3B)、ジイモニウム系色素(CIR-960)をサンプル管瓶に入れ、混合液を作製する。このとき、混合液中の光硬化性2官能アクリレート化合物(A-BPE-4)の重量が1,000mg程度の量で作製する。
なお、使用したサンプル管瓶として、アズワン株式会社製ラボランサンプル管瓶No.2(5cc,品番9-851-04)を使用する。
(手順2)
次に、サンプル管瓶中に攪拌子(15mm×φ5mm)を入れ、上記の混合液を室温下で500rpmの条件で12時間以上攪拌する。
(手順3)
続いて、12時間以上攪拌後、サンプル管瓶中の混合液に3級アミン化合物(MDEA)を添加し、さらに室温下で500rpmの条件で混合液を3時間~4時間攪拌する。
(手順4)
次いで、攪拌を停止し、真空デシケーターおよび真空ポンプを用いて、混合液を減圧下に静置し脱泡を行う。
【0047】
<自己形成光導波路の作製>
(光導波路形成用基板)
図1は、光導波路形成用基板10を調製する工程を説明する図である。
先ず、図1(a)に示すように、スライドガラス11(幅26mm×長さ76mm)の片側に光ファイバ12を接着剤14により固定する。次いで、光ファイバ12の先端部13を、粘着テープ15を使用してスライドガラス11の上面に固定する。
スライドガラス11は、松浪硝子工業株式会社製S1112(白縁磨No.2)を用いる。接着剤14は、2液硬化型エポキシ系接着剤(コニシ株式会社製クイック5)、粘着テープ15は、カプトンテープ(日東電工株式会社P-221AMB)を使用する。光ファイバ12については後述する。
【0048】
次に、図1(b)に示すように、スライドガラス11の上面に固定した光ファイバ12の先端部13の両側に、先端部13と平行になるように2枚の短冊状カバーガラス16,16を接着剤によりそれぞれ固定する。短冊状カバーガラス16,16(武藤化学株式会社製)は、幅5mm×長さ18mmのものを使用し、スライドガラス11上に隙間ができるように所定の厚さ(0.12mm~0.17mm)を有している。
【0049】
続いて、図1(c)に示すように、スライドガラス11の両端に固定した2枚の短冊状カバーガラス16,16の上に、これらを覆うようにカバーガラス17(幅18mm×長さ18mm、厚さ0.12mm~0.17mm)を被せて固定する。これにより、スライドガラス11と2枚の短冊状カバーガラス16,16とカバーガラス17の間に隙間(セルライク領域)が形成され、後述するように、この隙間に、予め調製した光硬化性組成物Iの混合液が注入される。
【0050】
(自己形成光導波路の形成工程)
図2は、自己形成光導波路(LISW)30の形成工程を説明する図である。尚、ここでは、接着剤14と粘着テープ15の表示を省略している。
図2(a)に示すように、スライドガラス11と2枚の短冊状カバーガラス16,16とカバーガラス17の間に形成されたセルライク領域20(隙間)に、毛細効果によって光硬化性組成物Iの溶液を満たし、光ファイバ12の先端部13を十分に浸漬する。さらに、光硬化性組成物Iの溶液にUV照射(Pre-UV照射:強度40mW/cm、60秒間~120秒間、本実施例では80秒間)を行い、光硬化性組成物Iを部分的に重合し、溶液の粘度を高める。UV照射に用いるUV照射器は、ウシオ電機株式会社製スポットキュアSP-9(照射ユニットAF-102NQ-X)である。UV照度計は、ウシオ電機株式会社製UIT-250を使用する。
【0051】
続いて、図2(b)に示すように、光硬化性組成物Iの溶液に、光ファイバ12の先端部13から近赤外線レーザ光を所定時間出射する。光硬化性組成物Iは、出射されるレーザ光により徐々に硬化し、軸状の自己形成光導波路30が形成される。このとき、予めUV照射によって光硬化性組成物Iの溶液の粘度が高められているので、自己形成光導波路30の屈曲が防止される。
【0052】
(レーザ光源)
本実施例では、波長(λ)の異なる3種類(1070nm、1311nm、1550nm)の近赤外線レーザ光を照射し、自己形成光導波路30を形成する。使用するレーザ光源は以下の通りである。
(a)中心波長(λ)1070nm:プレサイスゲージ株式会社製LDS1003シリ-ズ
(b)中心波長(λ)1311nm:プレサイスゲージ株式会社製LDS1003シリ-ズ
(c)波長(λ)1550nm:キーサイト・テクノロジ社製N7711A-210(波長可変)
尚、光導波路形成用基板10のスライドガラス11に固定する光ファイバ12は、片端FC/PCコネクタ付シングルモード光ファイバ(Thorlabs社製SMF-28-J9)を用いる。レーザ光源と光ファイバ12は、FC/PCコネクタで接続する。
【0053】
図3は、自己形成光導波路(LISW)の形成結果である。図3(a)は、中心波長(λ)1070nm、出力1μWの近赤外線レーザ光の1分間照射により、光ファイバの先端部13から長尺状の自己形成光導波路(LISW)が形成されている。形成されている自己形成光導波路(LISW)は、径10μm、長さ0.86mmである。
図3(b)は、中心波長(λ)1310nm、出力3mWの近赤外線レーザ光の1分間照射により、光ファイバの先端部13から長尺状の自己形成光導波路(LISW)が形成されている。形成されている自己形成光導波路(LISW)は、径10μm、長さ1.7mmである。
図3(c)は、中心波長(λ)1550nm、出力20mWの近赤外線レーザ光の2.5分間照射により、光ファイバの先端部13から長尺状の自己形成光導波路(LISW)が形成されている。形成されている自己形成光導波路(LISW)は、径20μm、長さ2.5mmである。
【0054】
[比較例]
下記の光硬化性組成物IIを調製し、図1(c)で調製した光導波路形成用基板10を用いて、光硬化性組成物IIに近赤外線レーザ光を照射し、自己形成光導波路を形成する。
(成分a)2官能アクリレート化合物 100部
2,2-bis[4-(アクリルオキシジエトキシ)フェニル]プロパン(新中村化学工業株式会社製エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート:A-BPE-4)
(成分b)ラジカル発生剤 0.6部
テトラ-n-ブチルアンモニウムトリフェニル-n-ブチルボレート(昭和電工株式会社製有機ホウ素アンモニウム錯体:P3B)
(成分c)ジイモニウム系色素(日本カーリット株式会社製:CIR-960)0.7部
【0055】
光硬化性組成物IIに、中心波長(λ)1070nmの近赤外線レーザ光を1分間照射する場合、実施例1(図3(a))と同程度の長尺状の自己形成光導波路を形成するためには、出力5mWのレーザ光が必要であった。
この結果から、本実施の形態が適用される光硬化性組成物I(実施例1)は、比較例で調製した光硬化性組成物IIと比較して、(1/5000)程度の低出力の近赤外線レーザ光により自己形成光導波路が形成されることが分かる。
【符号の説明】
【0056】
10…光導波路形成用基板、11…スライドガラス、12…光ファイバ、13…先端部、14…接着剤、15…粘着テープ、16…短冊状カバーガラス、17…カバーガラス、20…セルライク領域、30…自己形成光導波路
図1
図2
図3