(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】配列解析方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6869 20180101AFI20230829BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20230829BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
C12Q1/6869 Z ZNA
C12Q1/686 Z
C12N15/11 Z
(21)【出願番号】P 2023521290
(86)(22)【出願日】2022-09-09
(86)【国際出願番号】 JP2022033956
(87)【国際公開番号】W WO2023038126
(87)【国際公開日】2023-03-16
【審査請求日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】P 2021147129
(32)【優先日】2021-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022032911
(32)【優先日】2022-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】516255448
【氏名又は名称】株式会社Epsilon Molecular Engineering
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】樫田 啓
(72)【発明者】
【氏名】香川 恵未莉
(72)【発明者】
【氏名】牧野 航海
(72)【発明者】
【氏名】浅沼 浩之
(72)【発明者】
【氏名】村山 恵司
(72)【発明者】
【氏名】根本 直人
(72)【発明者】
【氏名】清水 優香
【審査官】中野 あい
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/073602(WO,A1)
【文献】KASHIDA H. et al., Control of the chirality and helicity of oligomers of serinol nucleic acid (SNA),Angewandte Chemie international edition in English,2011年01月05日,vol. 50, no. 6,pp. 1285-1288
【文献】和田 健彦, 井上 佳久, ペプチド核酸の新展開-刺激応答性核酸の構築-,有機合成化学協会誌,2005年,vol. 63, no. 1,pp. 63-75
【文献】香川恵未莉他, セリノール核酸配列解析法の開発,日本化学会第102春季年会講演予稿集,2022年03月09日,abstract no. G101-2pm-06
【文献】樫田啓他、ペプチド核酸配列解析法の開発,日本化学会第102春季年会講演予稿集,2022年03月09日,abstract no. G101-2pm-07
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00- 3/00
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工核酸構成単位を含むポリヌクレオチドAの配列解析方法であって、
(1)前記ポリヌクレオチドAとランダム配列を含むポリヌクレオチドBとを接触させて、担体に固定化された2本鎖複合体を得る工程1、
(2)前記2本鎖複合体から前記ポリヌクレオチドBを解離させて、得られた前記ポリヌクレオチドBの配列を解析する工程2、を含み、
前記ポリヌクレオチドAが、配列解析対象配列を含む配列X及びその両側に配置されてなるマッチング配列A1及びマッチング配列A2を含み、
前記ポリヌクレオチドBが、ランダム配列を含む配列Y及びその両側に配置されてなるマッチング配列B1及びマッチング配列B2を含み、
前記マッチング配列A1と前記マッチング配列B1とが互いに相補的であり、
前記マッチング配列A2と前記マッチング配列B2とが互いに相補的であり、且つ
前記2本鎖複合体から前記ポリヌクレオチドBを解離させる際に、条件1、及び核酸2本鎖形成強度が条件1よりも低い条件2を含む複数の条件で、条件1から条件2の順で解離させることを含む、
配列解析方法。
【請求項2】
前記ポリヌクレオチドBがDNAである、請求項1に記載の配列解析方法。
【請求項3】
前記ポリヌクレオチドA中の前記配列解析対象配列が非環状型ポリヌクレオチド構成単位及び/又はペプチド核酸構成単位を含む、請求項
1に記載の配列解析方法。
【請求項4】
前記非環状型ポリヌクレオチド構成単位がSNA構成単位及びTNA構成単位からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項3に記載の配列解析方法。
【請求項5】
前記マッチング配列A1、前記マッチング配列A2、前記マッチング配列B1、及び前記マッチング配列B2の塩基長が1~10である、請求項
1に記載の配列解析方法。
【請求項6】
前記配列解析対象配列の塩基長が10~200である、請求項
1に記載の配列解析方法。
【請求項7】
前記配列解析対象配列の塩基長に対する前記ランダム配列の塩基長の比が0.8~1.2である、請求項
1に記載の配列解析方法。
【請求項8】
前記工程1において、ポリヌクレオチドAのモル数を1としたときに、ポリヌクレオチドBのモル数が500以上である、請求項
1に記載の配列解析方法。
【請求項9】
前記条件が温度条件である、請求項
1に記載の配列解析方法。
【請求項10】
前記工程2において、前記条件2で解離させて得られた前記ポリヌクレオチドBの配列を解析する、請求項1~9のいずれかに記載の配列解析方法。
【請求項11】
前記工程1において、遊離の前記ポリヌクレオチドAと遊離の前記ポリヌクレオチドBとを接触させた後、得られた2本鎖複合体をポリヌクレオチドAを介して担体に固定化させることにより、担体に固定化された2本鎖複合体を得る、請求項1~
9のいずれかに記載の配列解析方法。
【請求項12】
前記工程1において、前記2本鎖複合体がアビジン-ビオチン間結合を介して前記担体に固定化される、請求項1~
9のいずれかに記載の配列解析方法。
【請求項13】
前記工程2において、
ポリヌクレオチドA中の配列解析対象配列が
非環状型ポリヌクレオチド構成単位を含む場合は、前記条件1が0℃以上40℃未満の温度条件であり、且つ前記条件2が40℃以上90℃以下の温度条件であり、
ポリヌクレオチドA中の配列解析対象配列がペプチド核酸構成単位を含む場合は、前記条件1が20℃以上60℃未満の温度条件であり、且つ前記条件2が60℃以上95℃以下の温度条件である、
請求項1~
9のいずれかに記載の配列解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配列解析方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にアプタマー(特異的に標的物質に結合する能力を持った合成ポリヌクレオチド分子)の塩基配列は、SELEX法によりスクリーニングされている。SELEX法とは、ランダム配列を持つ核酸断片と標的分子とを結合させ、標的分子に結合した核酸断片を増幅させ、増幅産物を標的分子と結合させ、結合した増幅産物を溶出させ、その後この増幅産物を上記標的分子と再び結合させる、というサイクルを繰り返すことによって、標的分子と特異的に結合する核酸断片を濃縮する方法である。濃縮された核酸断片の配列解析により、標的分子に結合するアプタマーの塩基配列を取得することができる。
【0003】
アプタマーとしては、ヌクレアーゼ耐性の向上、デリバリー特性の調節等の観点から、人工核酸を採用することが望ましい。非特許文献1には、非環状型核酸構成単位からなるSNAポリヌクレオチドは、天然核酸と安定な2本鎖を形成でき、且つヌクレアーゼ耐性を有することが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Kashida H. et al., Angew. Chem. Int. Ed., 2011, 50, 1285-1288.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、非環状型ポリヌクレオチドに代表される各種人工核酸断片は、シーケンサーによる配列解析ができないので、SELEX法によるスクリーニング対象とすることができない。また、シーケンサーによる配列解析が可能な天然核酸を対象としてSELEX法を行い、得られた塩基配列を有する人工核酸を設計し、それをアプタマーとして使用する手法が考えられるものの、人工核酸化することにより標的分子との結合性及び特異性が変わってしまう可能性がある。
【0006】
本発明は、人工核酸の配列解析方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題に鑑みて鋭意研究を進めた結果、人工核酸構成単位を含むポリヌクレオチドAの配列解析方法であって、(1)前記ポリヌクレオチドAとランダム配列を含むポリヌクレオチドBとを接触させて、担体に固定化された2本鎖複合体を得る工程1、(2)前記2本鎖複合体から前記ポリヌクレオチドBを解離させて、得られた前記ポリヌクレオチドBの配列を解析する工程2、を含み、
前記ポリヌクレオチドAが、配列解析対象配列を含む配列X及びその両側に配置されてなるマッチング配列A1及びマッチング配列A2を含み、
前記ポリヌクレオチドBが、ランダム配列を含む配列Y及びその両側に配置されてなるマッチング配列B1及びマッチング配列B2を含み、
前記マッチング配列A1と前記マッチング配列B1とが互いに相補的であり、
前記マッチング配列A2と前記マッチング配列B2とが互いに相補的であり、且つ
前記2本鎖複合体から前記ポリヌクレオチドBを解離させる際に、条件1、及び核酸2本鎖形成強度が条件1よりも低い条件2を含む複数の条件で、条件1から条件2の順で解離させることを含む、
配列解析方法、であれば、上記課題を解決できることを見出した。本発明者は、この知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0008】
項1. 人工核酸構成単位を含むポリヌクレオチドAの配列解析方法であって、
(1)前記ポリヌクレオチドAとランダム配列を含むポリヌクレオチドBとを接触させて、担体に固定化された2本鎖複合体を得る工程1、
(2)前記2本鎖複合体から前記ポリヌクレオチドBを解離させて、得られた前記ポリヌクレオチドBの配列を解析する工程2、を含み、
前記ポリヌクレオチドAが、配列解析対象配列を含む配列X及びその両側に配置されてなるマッチング配列A1及びマッチング配列A2を含み、
前記ポリヌクレオチドBが、ランダム配列を含む配列Y及びその両側に配置されてなるマッチング配列B1及びマッチング配列B2を含み、
前記マッチング配列A1と前記マッチング配列B1とが互いに相補的であり、
前記マッチング配列A2と前記マッチング配列B2とが互いに相補的であり、且つ
前記2本鎖複合体から前記ポリヌクレオチドBを解離させる際に、条件1、及び核酸2本鎖形成強度が条件1よりも低い条件2を含む複数の条件で、条件1から条件2の順で解離させることを含む、
配列解析方法。
【0009】
項2. 前記ポリヌクレオチドBがDNAである、項1に記載の配列解析方法。
【0010】
項3. 前記ポリヌクレオチドA中の前記配列解析対象配列が非環状型ポリヌクレオチド構成単位及び/又はペプチド核酸構成単位を含む、項1又は2に記載の配列解析方法。
【0011】
項4. 前記非環状型ポリヌクレオチド構成単位がSNA構成単位及びTNA構成単位からなる群より選択される少なくとも1種である、項3に記載の配列解析方法。
【0012】
項5. 前記マッチング配列A1、前記マッチング配列A2、前記マッチング配列B1、及び前記マッチング配列B2の塩基長が1~10である、項1~4のいずれかに記載の配列解析方法。
【0013】
項6. 前記配列解析対象配列の塩基長が10~200である、項1~5のいずれかに記載の配列解析方法。
【0014】
項7. 前記配列解析対象配列の塩基長に対する前記ランダム配列の塩基長の比が0.8~1.2である、項1~6のいずれかに記載の配列解析方法。
【0015】
項8. 前記工程1において、前記ポリヌクレオチドAのモル数に対する前記ポリヌクレオチドBのモル数の比が500以上である、項1~7のいずれかに記載の配列解析方法。
【0016】
項9. 前記条件が温度条件である、項1~8のいずれかに記載の配列解析方法。
【0017】
項10. 前記工程2において、前記条件2で解離させて得られた前記ポリヌクレオチドBの配列を解析する、項1~9のいずれかに記載の配列解析方法。
【0018】
項11. 前記工程1において、遊離の前記ポリヌクレオチドAと遊離の前記ポリヌクレオチドBとを接触させた後、得られた2本鎖複合体をポリヌクレオチドAを介して担体に固定化させることにより、担体に固定化された2本鎖複合体を得る、項1~10のいずれかに記載の配列解析方法。
【0019】
項12. 前記工程1において、前記2本鎖複合体がアビジン-ビオチン間結合を介して前記担体に固定化される、項1~11のいずれかに記載の配列解析方法。
【0020】
項13. 前記工程2において、
ポリヌクレオチドA中の配列解析対象配列がペプチド核酸構成単位を含む場合は、前記条件1が0℃以上40℃未満の温度条件であり、且つ前記条件2が40℃以上90℃以下の温度条件であり、
ポリヌクレオチドA中の配列解析対象配列がペプチド核酸構成単位を含む場合は、前記条件1が20℃以上60℃未満の温度条件であり、且つ前記条件2が60℃以上95℃以下の温度条件である、
項1~12のいずれかに記載の配列解析方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、人工核酸の配列解析方法を提供することができる。当該方法により、シーケンサーによる配列解析ができない或いはシーケンサーによる配列解析の効率、精度等が低い人工核酸の塩基配列を解析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる用語を、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という用語に変更して表される発明もまた、本発明に包含される。
【0024】
本発明は、その一態様において、人工核酸構成単位を含むポリヌクレオチドAの配列解析方法であって、(1)前記ポリヌクレオチドAとランダム配列を含むポリヌクレオチドBとを接触させて、担体に固定化された2本鎖複合体を得る工程1、(2)前記2本鎖複合体から前記ポリヌクレオチドBを解離させて、得られた前記ポリヌクレオチドBの配列を解析する工程2、を含む、配列解析方法(本明細書において、「本発明の方法」と示すこともある。)、に関する。以下、これについて説明する。
【0025】
工程1及び工程2は、通常、生体外で、in vitroで、行う工程である。
【0026】
ポリヌクレオチドAは、人工核酸構成単位を含む、1本鎖のポリヌクレオチドである。人工核酸構成単位は、ポリヌクレオチドを構成するヌクレオチドに相当する構成単位であり、この限りにおいて特に制限されない。人工核酸としては、例えばDNA、RNA等に化学修飾が施されたものが挙げられる。人工核酸としては、例えばヌクレアーゼなどの加水分解酵素による分解を防ぐために、各ヌクレオチドのリン酸残基(ホスフェート)を、例えば、ホスホロチオエート(PS)、メチルホスホネート、ホスホロジチオネート等の化学修飾リン酸残基に置換してなる人工核酸; 各リボヌクレオチドの糖(リボース)の2’位の水酸基を、-OR(Rは、例えばCH3(2´-O-Me)、CH2CH2OCH3(2´-O-MOE)、CH2CH2NHC(NH)NH2、CH2CONHCH3、CH2CH2CN等を示す)に置換してなる人工核酸;塩基部分(ピリミジン、プリン)が化学修飾されてなる人工核酸(例えば、ピリミジン塩基の5位へのメチル基やカチオン性官能基(例えばアミノ基等)の導入、あるいは2位のカルボニル基のチオカルボニルへの置換など);リン酸部分やヒドロキシル部分が、例えば、ビオチン、アミノ基、低級アルキルアミン基、アセチル基等で修飾されてなる人工核酸、ヌクレオチドの糖部(糖分子)の2´酸素と4´炭素とを架橋することにより、糖部のコンフォーメーションをN型に固定してなる人工核酸(例えばBNA、LNA等)、ペプチド核酸(例えばPNA等の、核酸塩基を含む構成単位がペプチド結合で連結してなる人工核酸)等が挙げられる。また、後述のように、人工核酸構成単位としては、非環状型ポリヌクレオチド構成単位を採用することもできる。人工核酸構成単位としては、非環状型ポリヌクレオチド構成単位、及びペプチド核酸構成単位が好ましい。本発明によれば、シーケンサーによる配列解析ができない或いはシーケンサーによる配列解析の効率、精度等が低い人工核酸の塩基配列を解析することができる。
【0027】
人工核酸構成単位としては、1種単独で、又は2種以上の組合せで採用することができる。
【0028】
ポリヌクレオチドAの構成単位数100%に対する人工核酸構成単位の割合は、例えば50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、よりさらに好ましくは95%、特に好ましくは100%である。
【0029】
ポリヌクレオチドAが人工核酸構成単位以外の構成単位を含む場合、各種天然核酸構成単位、例えば未修飾DNA、未修飾RNA等を含むことができる。
【0030】
ポリヌクレオチドAは、配列Xを含む。配列Xは、配列解析対象配列を含む。配列解析対象配列は、本発明の方法により塩基配列を読み取る対象となる配列であり、任意の配列である。配列解析対象配列の塩基長は、配列解析の効率、精度等の観点から、例えば10~200、好ましくは15~200、より好ましくは20~200である。当該塩基長の上限は、例えば150、100、50、又は30であることができる。
【0031】
配列解析対象配列のGC割合は、特に制限されないが、配列解析の効率、精度等の観点から、例えば30~80%、好ましくは40~75%、より好ましくは50~70%、さらに好ましくは55~65%である。
【0032】
ポリヌクレオチドA中の配列解析対象配列は、非環状型ポリヌクレオチド構成単位を含むことが好ましい。非環状型ポリヌクレオチドは、シークエンサーによる従来の配列解析ができないので、従来の配列解析の代替法である本発明の方法を好適に適用することができる。
【0033】
非環状型ポリヌクレオチド構成単位は、ポリヌクレオチドを構成するヌクレオチドに相当する構成単位であり、糖骨格を含まないものである限り、特に制限されない。非環状型ポリヌクレオチド構成単位として、代表的には、一般式(1):
【0034】
【化1】
[式中:R
1及びR
2は同一又は異なって水素原子又は有機基を示す(但し、R
1及びR
2が両方有機基である場合を除く)。Baseは核酸塩基を示す。]
で表される構成単位が挙げられる。
【0035】
有機基は、特に制限されず、例えば炭化水素基が挙げられる。
【0036】
炭化水素基としては、好ましくは鎖状炭化水素基が挙げられる。鎖状炭化水素基としては、例えばアルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられ、中でも好ましくはアルキル基が挙げられる。該アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、3-メチルペンチル基等が挙げられる。炭化水素基の炭素原子数は、特に制限されない。該炭素原子数は、好ましくは1~8、より好ましくは1~6、さらに好ましくは1~4、よりさらに好ましくは1~2、特に好ましくは1である。またアルキニル基(-C≡C-、-C≡CH)を末端あるいは内部に含むようなアルキル基は、クリック反応などで様々な官能基の導入が可能となるので、さらに好ましい。
【0037】
有機基としては、上記以外にも、各種分子、例えばポリヌクレオチドの修飾に使用される分子から1つの水素原子又は官能基を除いてなる一価の基を採用することができる。このような分子としては、例えばポリエチレングリコール鎖、色素分子、ポリカチオン(スペルミン)、グルーブバインダー、アミノ基、ヒドロキシル基、チオール基、金属配位子、光開裂性官能基、糖鎖等が挙げられる。これらは、直接又は間接的に、上記構成単位の骨格に連結することができる。例えば、クリック反応(例えば上述のアルキンとアジドとの反応)を利用して、連結することができる。
【0038】
SNAやLaTNA等の非環状型ポリヌクレオチドの分子モデリングにより、R1及びR2に比較的大きな有機基を採用しても、二重鎖形成能やその構造に影響が無いと考えられる。
【0039】
本明細書において、核酸塩基としては、核酸を構成する塩基を特に制限無く採用することができる。核酸を構成する塩基には、RNA、DNA等の天然核酸中の典型的な塩基(アデニン(A)、チミン(T)、ウラシル(U)、グアニン(G)、シトシン(C)等)のみならず、これ以外の塩基、例えばヒポキサンチン(I)、修飾塩基等も包含される。修飾塩基としては、例えば、シュードウラシル、3-メチルウラシル、ジヒドロウラシル、5-アルキルシトシン(例えば、5-メチルシトシン)、5-アルキルウラシル(例えば、5-エチルウラシル)、5-ハロウラシル(5-ブロモウラシル)、6-アザピリミジン、6-アルキルピリミジン(6-メチルウラシル)、4-アセチルシトシン、5-(カルボキシヒドロキシメチル)ウラシル、5’-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチルウラシル、1-メチルアデニン、1-メチルヒポキサンチン、2,2-ジメチルグアニン、3-メチルシトシン、2-メチルアデニン、2-メチルグアニン、N6-メチルアデニン、7-メチルグアニン、5-メトキシアミノメチル-2-チオウラシル、5-メチルアミノメチルウラシル、5-メチルカルボニルメチルウラシル、5-メチルオキシウラシル、5-メチル-2-チオウラシル、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデニン、ウラシル-5-オキシ酢酸、2-チオシトシン、プリン、2-アミノプリン、イソグアニン、インドール、イミダゾール、キサンチン、シアヌル酸、蛍光修飾塩基(ピレニルシトシン等)等が挙げられる。
【0040】
一般式(1)中、*1及び*2は、ポリヌクレオチドを構成する際の方向を示す。R1が有機基でありR2が水素原子である場合は一般式(1)の*1側が3’側であり一般式(1)の*2側が1’側である。R1が水素原子でありR2が有機基である場合は一般式(1)の*1側が1’側であり一般式(1)の*2側が3’側である。R1が水素原子でありR2が水素原子である場合は*1が(S)側であり*2が(R)側である。
【0041】
非環状型ポリヌクレオチド構成単位としては、1種単独で、又は2種以上の組合せで採用することができる。
【0042】
非環状型ポリヌクレオチド構成単位は、具体的には、例えばSNA構成単位及びTNA(L-aTNA、D-aTNA)構成単位からなる群より選択される少なくとも1種であることができる。
【0043】
SNA、L-aTNA、及びD-aTNAの構成単位(ヌクレオチドに対応する構成単位)の具体例を以下に示す。
【0044】
【化2】
ポリヌクレオチドA中の配列解析対象配列の構成単位数100%に対する非環状型ポリヌクレオチド構成単位の割合は、例えば50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、よりさらに好ましくは95%、特に好ましくは100%である。非環状型ポリヌクレオチドは、シークエンサーによる従来の配列解析ができないので、従来の配列解析の代替法である本発明の方法を好適に適用することができる。
【0045】
ポリヌクレオチドBは、配列Yを含む、1本鎖のポリヌクレオチドである。配列Yは、ランダム配列を含む。ポリヌクレオチドBは、ランダム配列部分の配列が異なる多数の分子を含む混合物である。ランダム配列の塩基長は、例えば10~200、好ましくは15~200、より好ましくは20~200である。本発明の方法においては、ポリヌクレオチドAの配列解析対象配列とポリヌクレオチドBの一部のランダム配列との塩基対形成に基づいて2本鎖を形成させるので、ランダム配列の塩基長は、配列解析対象配列の塩基長に近いことが好ましい。この観点から、配列解析対象配列の塩基長を1としたときの、ランダム配列の塩基長は、好ましくは0.8~1.2、より好ましくは0.9~1.1、さらに好ましくは0.95~1.05、よりさらに好ましくは0.99~1.01、特に好ましくは1である。
【0046】
ポリヌクレオチドBの構成単位は、シーケンサーによる配列解析が可能な構成単位である限り、特に制限されない。好適には、ポリヌクレオチドBはDNAである。
【0047】
ポリヌクレオチドAは、配列X及びその両側に配置されてなるマッチング配列A1及びマッチング配列A2を含み、ポリヌクレオチドBは、配列Y及びその両側に配置されてなるマッチング配列B1及びマッチング配列B2を含む。
【0048】
マッチング配列A1は、配列Xの一方側に隣接して配置されており、マッチング配列A2は、配列Xの他方側に隣接して配置されている。同様に、マッチング配列B1は、配列Yの一方側に隣接して配置されており、マッチング配列B2は、配列Yの他方側に隣接して配置されている。
【0049】
マッチング配列A1とマッチング配列B1とは互いに相補的であり、マッチング配列A2とマッチング配列B2とは互いに相補的である。なお、本明細書において、「相補的」とは、塩基の完全な相補関係(完全相補的:例えばAとT又はU、及びGとC)のみならず、ストリンジェントな条件でハイブリダイズすることができる程度の相補関係も包含される。ストリンジェントな条件は、Berger and Kimmel (1987, Guide to Molecular Cloning Techniques Methods in Enzymology, Vol. 152, Academic Press, San Diego CA) に教示されるように、核酸の融解温度(Tm)に基づいて決定することができる。例えばハイブリダイズ後の洗浄条件として、通常「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度の条件を挙げることができる。かかる条件で洗浄してもハイブリダイズ状態を維持するものであることが好ましい。特に制限されないが、より厳しいハイブリダイズ条件として「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」程度、さらに厳しいハイブリダイズ条件として「0.1×SSC、0.1%SDS、65℃」程度の洗浄条件を挙げることができる。具体的には、マッチング配列A1は、マッチング配列B1に完全に相補的な塩基配列に対して、例えば85%以上の同一性、好ましくは90%以上の同一性、より好ましくは95%以上の同一性、さらに好ましくは98%以上の同一性、よりさらに好ましくは99%以上の同一性、特に好ましくは100%の同一性を有する塩基配列である。同様に、マッチング配列A2は、マッチング配列B2に完全に相補的な塩基配列に対して、例えば85%以上の同一性、好ましくは90%以上の同一性、より好ましくは95%以上の同一性、さらに好ましくは98%以上の同一性、よりさらに好ましくは99%以上の同一性、特に好ましくは100%の同一性を有する塩基配列である。
【0050】
限定的な解釈を望むものではないが、ポリヌクレオチドAの配列解析対象配列とポリヌクレオチドBの一部のランダム配列との塩基対形成に基づいて2本鎖を形成する際に、マッチング配列A1とマッチング配列B1との塩基対形成及びマッチング配列A2とマッチング配列B2との塩基対形成の結合力が加わり、結果として、配列解析対象配列と完全相補的な配列(ランダム配列)を有するポリヌクレオチドBがより特異的にポリヌクレオチドAと2本鎖形成することになると考えられる。
【0051】
ポリヌクレオチドA(PA)がSNAであり、ポリヌクレオチドB(PB)がDNAである場合、SNAの(S)側はDNAの(5´)側に相当し、SNAの(R)側はDNAの(3´)側に相当するので、PA及びPB中のマッチング配列の配置及び方向は以下のようになる。
PA:(S)-マッチング配列A1-配列解析対象配列-マッチング配列A2-(R)PB:(5´)-マッチング配列B2-ランダム配列(配列Yに含まれる配列である)-マッチング配列B1-(3´)。
【0052】
マッチング配列A1、マッチング配列A2、マッチング配列B1、及びマッチング配列B2それぞれの塩基長は、ポリヌクレオチドAとポリヌクレオチドBとの非特異的結合が著しく増加せず、本発明の方法による配列解析が可能な限り、特に制限されない。当該塩基長は、例えば1~20、好ましくは1~10、より好ましくは2~5、さらに好ましくは2~3である。
【0053】
配列解析対象配列の塩基長を1としたときの、マッチング配列A1、マッチング配列A2、マッチング配列B1、及びマッチング配列B2それぞれの塩基長は、好ましくは0.01~0.6、より好ましくは0.02~0.5、さらに好ましくは0.05~0.4、よりさらに好ましくは0.1~0.3、とりわけ好ましくは0.15~0.25である。
【0054】
配列Xにおいて、配列解析対象配列は、連続する一つの配列であってもよいし、他の配列によって分断される複数(例えば2~5、2~3、又は2)の配列であってもよい。また、配列Yにおいては、配列Xの態様に対応して、ランダム配列は、連続する一つの配列であってもよいし、他の配列によって分断される複数の配列数(例えば2~5、2~3、又は2)であってもよい。配列X及びYの後者の態様において、他の配列は、マッチング配列であることが好ましい。この場合、配列Xにおける上記他の配列としてのマッチング配列と、配列Yにおける上記他の配列としてのマッチング配列とは、互いに相補的である。これらのマッチング配列については、上記したマッチング配列(マッチング配列A1、A2、B1、B2)の態様が適用される。例えば、配列X及び配列Yは以下のような構成であることができる。この構成において、nは、0又は自然数を示し、例えば0~5、0~3、0~2、又は0~1である。配列X:(S)又はそれに相当する側-配列解析対象配列-マッチング配列A3-(-配列解析対象配列-マッチング配列AX-)n-配列解析対象配列
配列Y:(5´)又はそれに相当する側-ランダム配列-(-ランダム配列-マッチング配列BY-)n-マッチング配列B3-ランダム配列。
【0055】
マッチング配列A3とマッチング配列B3とは互いに相補的である。マッチング配列AX及びマッチング配列BYそれぞれは、各出現において独立して任意の塩基配列を示し、マッチング配列AXと、それに対応する位置のマッチング配列BYとは、互いに相補的である。
【0056】
ポリヌクレオチドA及びポリヌクレオチドBは、ポリヌクレオチドAとポリヌクレオチドBとの非特異的結合が著しく増加せず、本発明の方法による配列解析が可能な限り、上記以外の他の配列を含むことができる。例えば、ポリヌクレオチドAは、担体に固定する側の末端側にポリT配列等の3~20塩基長(好ましくは3~10塩基長)程度の任意の配列を含むことができる。また、ポリヌクレオチドBは、マッチング配列の外側(ランダム配列側とは反対側、ランダム配列と結合していないマッチング配列の端部)に、プライマー結合配列(例えばPCRプライマーの一部又は全部と相補的な、3~30塩基長(好ましくは5~20塩基長)程度の配列)を含むことができる。
【0057】
工程1においては、ポリヌクレオチドAとランダム配列を含むポリヌクレオチドBとを接触させて、担体に固定化された2本鎖複合体を得る。
【0058】
担体の形状は特に制限されず、例えば粒子状、基板状であるが、好ましくは粒子状である。担体が粒子状である場合、担体の平均粒子径は特に限定されないが、好ましくは、溶液中で容易に沈殿させることができる程度の大きさである。例えば1 nm~1 mm、好ましくは10 nm~100 μmである。担体の材質としては、特に限定されず、例えば金、銀、銅、鉄、アルミ、ニッケル、マンガン、チタン、これらの酸化物等の金属; ポリスチレン、ラテックス等の樹脂; シリカ等が挙げられる。担体粒子の形状としては、特に制限されないが、例えば球体、直方体、立方体、三角錐等、又はこれらに近い形状が挙げられる。担体は、標識物質(例えば、発光物質、放射性同位体、発光酵素等)をさらに含むものであってもよい。担体は、1種のみであってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0059】
工程1において、得られる2本鎖複合体は、好ましくはポリヌクレオチドAを介して担体に固定化されている。換言すれば、得られる2本鎖複合体は、好ましくはポリヌクレオチドAと担体との結合により、担体に固定化されている。
【0060】
工程1においては、例えば、遊離のポリヌクレオチドAと遊離のポリヌクレオチドBとを接触させた後、得られた2本鎖複合体をポリヌクレオチドAを介して担体に固定化させることにより、担体に固定化された2本鎖複合体を得ることができる。或いは、工程1においては、例えば、担体に固定化されたポリヌクレオチドAとランダム配列を含むポリヌクレオチドBとを接触させて、担体に固定化された2本鎖複合体を得ることができる。
【0061】
ポリヌクレオチドAの担体への固定化の方法としては、2本鎖複合体からポリヌクレオチドBを解離させる際でも当該固定化が安定な方法である限り特に制限されず、任意の方法を採用することができる。例えば、担体として、ポリヌクレオチドAを固定化するための物質又は構造、例えばエポキシ基、アミノ基、カルボキシ基、アジド基等の反応性基; アビジン、プロテインA、プロテインB等の、他の分子に親和性を有する物質を保持する担体を採用し、ポリヌクレオチドAを、これらの物質又は構造と結合可能なように修飾し(例えばビオチン修飾、アルキニル基修飾等)、担体とポリヌクレオチドAを適切な条件下で反応させることにより、ポリヌクレオチドAを担体への固定化することができる。本明細書において、「ポリヌクレオチドA」は、上記修飾を含む形態も包含する。本発明の好ましい一態様においては、2本鎖複合体がアビジン-ビオチン間結合を介して担体に固定化されることができる。
【0062】
担体が粒子状である場合、担体への固定化反応のために添加するポリヌクレオチドA 1pmolに対する、担体粒子の重量は、固定化方法や担体の材質などによって異なるが、例えば5.291~7.936μg、好ましくは6.000~7.000μgである。
【0063】
ポリヌクレオチドAとポリヌクレオチドBとの接触の態様は、核酸2本鎖形成が起こる態様である限り特に制限されない。典型的には、ポリヌクレオチドAとポリヌクレオチドBとを溶液中で混合することにより、ポリヌクレオチドAとポリヌクレオチドBとの2本鎖複合体を形成させることができる。
【0064】
2本鎖複合体を形成させる際の溶液としては、例えば緩衝剤及び1価陽イオン源となる塩を含有する溶液が挙げられる。緩衝剤としては、特に制限されず、例えばTris緩衝剤が挙げられる。1価陽イオン源となる塩としては、特に制限されず、例えばNaCl、KCl等が挙げられる。1価陽イオン源となる塩の濃度は、例えば0.5~2.5M、又は0.7~1.5Mとすることができる。2本鎖複合体を形成させる際の溶液は、例えば、さらに少量(例えば0.01~0.05%程度)の界面活性剤(例えばTweenなどの非イオン性界面活性剤)やキレート剤を含むことができる。
【0065】
工程1において、ポリヌクレオチドAのモル数を1としたときの、ポリヌクレオチドBのモル数は、配列解析精度等の観点から、好ましくは500以上、より好ましくは1000以上、さらに好ましくは2000以上、よりさらに好ましくは3000以上、とりわけ好ましくは4000以上である。
【0066】
2本鎖複合体の量は、吸光度測定に基づいて算出することができる。担体に固定化されたポリヌクレオチドAの多くが(例えば30モル%以上、50モル%以上、60モル%以上、又は70モル%以上が)ポリヌクレオチドBと2本鎖形成するように、2本鎖複合体の形成条件(例えば、2本鎖複合体を形成させる際の溶液の組成(例えば、上記の塩濃度の高低、界面活性剤の有無又は濃度の高低、キレート剤の有無又は濃度の高低、等)ポリヌクレオチドAとポリヌクレオチドBとのモル比等)を調節することができる。
【0067】
2本鎖複合体を形成した後は、必要に応じて、2本鎖複合体が固定化された担体を洗浄することができる。これにより、2本鎖複合体を形成していない余分なポリヌクレオチドBを除去し、配列解析精度を高めることができる。洗浄は、2本鎖複合体が解離し難い条件である限り特に制限されず、例えば2本鎖複合体を形成させる際に使用した上記溶液(緩衝剤及び1価陽イオン源となる塩を含有する溶液)を用いて洗浄することができる。
【0068】
工程2においては、2本鎖複合体からポリヌクレオチドBを解離させて、得られたポリヌクレオチドBの配列を解析する。
【0069】
2本鎖複合体からのポリヌクレオチドBの解離の方法は、特に制限されないが、典型的には、2本鎖複合体が固定化された担体に溶出液を接触させる方法が挙げられる。具体的な態様を以下に説明する。
【0070】
本発明の方法においては、工程2において、2本鎖複合体からポリヌクレオチドBを解離させる際に、条件1、及び核酸2本鎖形成強度が条件1よりも低い条件2を含む複数の条件で、条件1から条件2の順で解離させることを含む。工程2においては、先の条件から後の条件へと核酸2本鎖形成強度が順に低くなるように設定される。上記の解離方法の例の場合であれば、例えば、溶出液として、核酸2本鎖形成強度(核酸2本鎖形成のし易さ)が異なる(例えば、温度、塩濃度、界面活性剤濃度等が異なる)少なくとも2種の溶出液を用い、核酸2本鎖形成強度が最も高い溶出液(例えば、温度が最も低い溶出液、又は塩濃度が最も高い溶出液)から、核酸2本鎖形成強度がより低い溶出液(例えば、温度が最も高い溶出液、又は塩濃度が最も低い溶出液)の順に使用して溶出操作を行うことができる。具体的には、例えば、より多くのポリヌクレオチドBが解離するように条件を変えながら、ステップワイズ溶出(溶出条件が段階的に変化する溶出方法)又はグラジエント溶出(溶出条件が連続的に変化する溶出方法)を行うことができる。これにより、核酸2本鎖形成強度が比較的高い条件(条件1)で解離させることにより、非特異的に結合したポリヌクレオチドB(すなわち、ポリヌクレオチドAの配列解析対象配列を反映していないポリヌクレオチドB)を除去し、その後、核酸2本鎖形成強度が比較的低い条件(条件2)で解離させることにより、特異的に結合したポリヌクレオチドB(すなわち、ポリヌクレオチドAの配列解析対象配列を反映したポリヌクレオチドB)を濃縮することができる。条件2で解離させたポリヌクレオチドBの配列を解析することにより、より高い精度でポリヌクレオチドA中の配列解析対象配列の配列を解析することができる。
【0071】
核酸2本鎖形成強度の条件は温度条件であることが好ましい。また、本発明の一態様において、溶出液としては、水を使用することができる。この場合、例えばポリヌクレオチドA中の配列解析対象配列が非環状型ポリヌクレオチド構成単位を含む場合、条件1として、配列解析の効率、精度等の観点から、例えば0℃以上40℃未満の温度条件、好ましくは10℃以上40℃未満の温度条件、より好ましくは20℃以上35℃以下の温度条件、さらに好ましくは25℃以上35℃以下の温度条件が挙げられ、条件2として、配列解析の効率、精度等の観点から、例えば40℃以上90℃以下の温度条件、好ましくは40℃以上80℃以下の温度条件、より好ましくは40℃以上70℃以下の温度条件、さらに好ましくは45℃以上60℃以下の温度条件が挙げられる。また、例えばポリヌクレオチドA中の配列解析対象配列がペプチド核酸構成単位を含む場合、条件1として、配列解析の効率、精度等の観点から、例えば20℃以上60℃未満の温度条件、好ましくは30℃以上60℃未満の温度条件、より好ましくは40℃以上55℃以下の温度条件、さらに好ましくは45℃以上55℃以下の温度条件が挙げられ、条件2として、配列解析の効率、精度等の観点から、例えば60℃以上95℃以下の温度条件、好ましくは70℃以上90℃以下の温度条件、より好ましくは75℃以上90℃以下の温度条件、さらに好ましくは75℃以上85℃以下の温度条件が挙げられる。
【0072】
工程2におけるポリヌクレオチドBの配列の解析は、特に制限されず、公知の方法に従って行うことができる。例えば、各種シーケンサーにより、ポリヌクレオチドBの配列を決定することができる。配列解析の効率の観点から、パイロシーケンシング等を利用した次世代シーケンサーを使用することが好ましい。ポリヌクレオチドBの配列として、複数の配列が示される場合、例えば、最も出現頻度の高い配列を、ポリヌクレオチドBの配列として決定することができる。ポリヌクレオチドBの配列中、ランダム配列に相当する配列(マッチング配列B1とマッチング配列B2に挟まれた配列)を同定し、当該配列の完全相補配列を、ポリヌクレオチドAの配列解析対象配列として決定することができる。
【0073】
本発明の方法は、シーケンサーによる配列解析ができない或いはシーケンサーによる配列解析の効率、精度等が低い人工核酸の塩基配列の解析が求められる、様々な分野で利用することができる。例えば、本発明の方法は、人工核酸アプタマーをSELEX法によりスクリーニングする際に、スクリーニングされた人工核酸アプタマーの塩基配列を決定する際に、利用することができる。
【実施例】
【0074】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0075】
実施例1.配列解析1
本実施例の概要を
図1に示す。
【0076】
配列解析対象配列(10塩基長):(S)-TCCGTGTCAG-(R)(配列番号1)の(S)側に2塩基長のマッチング配列A1(塩基配列:(S)-GC-(R))が付加され、(R)側に2塩基長のマッチング配列A2(塩基配列:(S)-TG-(R))が付加され、さらにマッチング配列A1の(S)側に5塩基長のポリTが付加されてなるSNAポリヌクレオチド(ポリヌクレオチドA:(S)-ポリT-マッチング配列A1-配列解析対象配列-マッチング配列A2-(R))を準備した。SNAポリヌクレオチドの合成は 北海道システム・サイエンス株式会社に委託した。ポリヌクレオチドAの(S)末端をビオチン修飾し、以下の配列解析に用いた。
【0077】
一方で、ランダム配列(10塩基長):(5´)-NNNNNNNNNN-(3´)の(5´)側に2塩基長のマッチング配列B2(塩基配列:(5´)-CA-(3´))が付加され、(3´)側に2塩基長のマッチング配列B1(塩基配列:(5´)-GC-(3´))が付加され、さらにマッチング配列B2の(5´)側にプライマー結合配列1(29塩基長)が付加され、且つマッチング配列B1の(5´)側にプライマー結合配列2(34塩基長)が付加されてなるDNAポリヌクレオチド(ポリヌクレオチドB:(5´)-プライマー結合配列1-マッチング配列B2-ランダム配列-マッチング配列B1-プライマー結合配列2-(3´))を準備した。DNAポリヌクレオチドの合成は Integrated DNA Technologies 株式会社に委託した。ポリヌクレオチドBは、ランダム配列部分の配列が異なる多数の分子を含む混合物である。
【0078】
70 pmolのビオチン修飾ポリヌクレオチドAと350 nmolのポリヌクレオチドBを138 μLのB&W Buffer (5 mM Tris-HCl (pH7.5)、0.5 mM EDTA、1 M NaCl、0.025 % Tween20)中で混合し、4℃で10分間インキュベートした。続いて、10 μg/μLのストレプトアビジン修飾磁気ビーズ(Dynabeads M-270 Streptavidin、インビトロジェン社製)を46 μL添加し、室温で10分間インキュベートした。ビーズを残して上清を除去し、ビーズをB&W Bufferで3回洗浄した。ビーズに46μLの水を添加し、30℃で10分間インキュベートしてポリヌクレオチドBを溶出した後、ビーズを残して上清を回収した。続いて、ビーズに46μLの水を添加し、50℃で10分間インキュベートしてポリヌクレオチドBを溶出した後、ビーズを残して上清を回収した。
【0079】
50℃インキュベート後に回収した上清を鋳型DNA溶液(Template DNA)として、PCRキット(Phusion High Fidelity PCR Kit、NEB社製)を用いて、以下の反応条件(表1:PCR反応溶液組成、表2:PCRサイクル条件)でPCRを行った。
【0080】
【0081】
【0082】
PCR増幅産物の塩基配列を、次世代シーケンサーNextSeq 550(イルミナ株式会社)を用いて解析した。その結果、ポリヌクレオチドAに相補的な配列のDNAのリード数は、全リード数100%に対して約0.22%であり、最も多かった。リード数とは次世代シーケンサーによって解析された配列の数である。また、当該割合は、2番目にリード数が多い配列の全リード数100%に対する割合(約0.09%)に比べて十分に高かった。このことから、本実施例の方法により、SNAポリヌクレオチドの配列を同定できることが分かった。
【0083】
実施例2.配列解析2
マッチング配列として5塩基長の配列を採用し(マッチング配列A1(塩基配列:(S)-GTATG-(R))、マッチング配列A2(塩基配列:(S)-TCCAG-(R))、マッチング配列B2(塩基配列:(5´)-CTGGA-(3´))、マッチング配列B1(塩基配列:(5´)-CATAC-(3´)))、添加するポリヌクレオチドBのモル数を140 nmolに変更する以外は、実施例1と同様にして行った。
【0084】
その結果、ポリヌクレオチドAに相補的な配列のDNAのリード数は、全リード数100%に対して約0.021%であり、最も多かった。また、当該割合は、2番目にリード数が多い配列の全リード数100%に対する割合(0.009%)に比べて十分に高かった。このことから、本実施例の方法により、SNAポリヌクレオチドの配列を同定できることが分かった。
【0085】
比較例1.配列解析3
ポリヌクレオチドA及びポリヌクレオチドBのいずれにおいてもマッチング配列を付加せず、添加するポリヌクレオチドAのモル数を50 pmolに変更し、添加する溶出をポリヌクレオチドBのモル数を50 nmolに変更し、溶出を30℃条件で1回のみ行う以外は、実施例1と同様にして行った。
【0086】
その結果、ポリヌクレオチドAに相補的な配列は、リード数上位200位までには現れなかった。
【0087】
実施例3.配列解析4
配列解析対象配列(10塩基長)中のチミンをシアヌル酸に変換してなるSNAポリヌクレオチドを用い、PCRサイクル数を20回に変更する以外は、実施例1と同様にして行った。
【0088】
その結果、ポリヌクレオチドAに相補的な配列のDNAのリード数は、全リード数100%に対して約0.007%であり、最も多かった。このことから、本実施例の方法により、人工核酸塩基を含むSNAポリヌクレオチドの配列を同定できることが分かった。
【0089】
実施例4.配列解析5
配列解析対象配列(10塩基長):(N)-TCCGTGTCAG-(C)(配列番号1)の(N)側に2塩基長のマッチング配列A1(塩基配列:(N)-GC-(C))が付加され、(C)側に2塩基長のマッチング配列A2(塩基配列:(N)-TG-(C))が付加され、さらに両末端にリシンが付加されてなるPNAポリヌクレオチド(ポリヌクレオチドA:(N)-リシン-マッチング配列A1-配列解析対象配列-マッチング配列A2-(C))を準備した。ポリヌクレオチドAの(N)末端をビオチン修飾し、配列解析に用いた。
【0090】
ポリヌクレオチドAのモル数を20 pmol、ポリヌクレオチドBのモル数を100 nmolとし、50℃での溶出後に80℃で溶出を行い、80℃溶出で回収した上清をPCR反応に供し、且つPCRサイクル数を20回に変更する以外は、実施例1と同様にして行った。
【0091】
その結果、ポリヌクレオチドAに相補的な配列のDNAのリード数は、全リード数100%に対して約0.123%であり、最も多かった。このことから、本実施例の方法により、PNAポリヌクレオチドの配列を同定できることが分かった。
【配列表】