(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】黒色めっき被膜
(51)【国際特許分類】
C23C 18/52 20060101AFI20230829BHJP
C25D 15/02 20060101ALI20230829BHJP
C23C 18/36 20060101ALI20230829BHJP
C23C 18/16 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
C23C18/52 A
C25D15/02 F
C25D15/02 N
C23C18/36
C23C18/16 Z
C25D15/02 H
(21)【出願番号】P 2019056219
(22)【出願日】2019-03-25
【審査請求日】2021-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】390036364
【氏名又は名称】清川メッキ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141472
【氏名又は名称】赤松 善弘
(72)【発明者】
【氏名】大平 信孝
(72)【発明者】
【氏名】清川 肇
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-049085(JP,A)
【文献】特開2012-057189(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00-18/54
C25D 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルを含有する黒色めっき被膜であって、
ニッケル化合物とリン化合物とモノカルボン酸、ポリカルボン酸、オキシカルボン酸およびそれらの塩からなる群より選ばれた少なくとも1種のカルボン酸とフッ素樹脂粒子とを含有する黒色めっき被膜形成用めっき液で形成されている黒色めっき被膜形成用被膜がチオ尿素、アルキレンジアミンおよび芳香族スルホン酸塩を含有するめっき被膜黒色化処理液で黒色化されていることを特徴とする黒色めっき被膜。
【請求項2】
黒色めっき被膜のL値が3以下である請求項1に記載の黒色めっき被膜。
【請求項3】
黒色めっき被膜を製造する方法であって、ニッケル化合物とリン化合物とモノカルボン酸、ポリカルボン酸、オキシカルボン酸およびそれらの塩からなる群より選ばれた少なくとも1種のカルボン酸とフッ素樹脂粒子とを含有する黒色めっき被膜形成用めっき液で黒色めっき被膜形成用被膜を形成させた後、当該黒色めっき被膜形成用被膜とチオ尿素、アルキレンジアミンおよび芳香族スルホン酸塩を含有するめっき被膜黒色化処理液とを接触させて黒色めっき被膜を形成することを特徴とする黒色めっき被膜の製造方法
。
【請求項4】
表面に黒色めっき被膜を有する積層めっき被膜であって、ニッケルおよびリンを含有するニッケルめっき被膜上に請求項1または2に記載の黒色めっき被膜が形成されていることを特徴とする積層めっき被膜。
【請求項5】
表面に黒色めっき被膜を有する積層めっき被膜であって、ニッケル化合物とリン化合物とモノカルボン酸、ポリカルボン酸、オキシカルボン酸およびそれらの塩からなる群より選ばれた少なくとも1種のカルボン酸とを含有するニッケルめっき被膜形成用めっき液で形成されているニッケルめっき被膜上に、ニッケル化合物とリン化合物とモノカルボン酸、ポリカルボン酸、オキシカルボン酸およびそれらの塩からなる群より選ばれた少なくとも1種のカルボン酸とフッ素樹脂粒子とを含有する黒色めっき被膜形成用めっき液で黒色めっき被膜形成用被膜が形成されており、当該黒色めっき被膜形成用被膜がチオ尿素、アルキレンジアミンおよび芳香族スルホン酸塩を含有するめっき被膜黒色化処理液で黒色化されている黒色めっき被膜を有することを特徴とする積層めっき被膜。
【請求項6】
表面に黒色めっき被膜を有する積層めっき被膜を製造する方法であって、ニッケル化合物とリン化合物とモノカルボン酸、ポリカルボン酸、オキシカルボン酸およびそれらの塩からなる群より選ばれた少なくとも1種のカルボン酸とを含有するニッケルめっき被膜形成用めっき液でニッケルめっき被膜を形成させ、形成されたニッケルめっき被膜と、ニッケル化合物とリン化合物とモノカルボン酸、ポリカルボン酸、オキシカルボン酸およびそれらの塩からなる群より選ばれた少なくとも1種のカルボン酸とフッ素樹脂粒子とを含有する黒色めっき被膜形成用めっき液とを接触させて当該ニッケルめっき被膜上に黒色めっき被膜形成用被膜を形成させた後、当該黒色めっき被膜形成用被膜とチオ尿素、アルキレンジアミンおよび芳香族スルホン酸塩を含有するめっき被膜黒色化処理液とを接触させて黒色めっき被膜を形成させることを特徴とする積層めっき被膜の製造方法
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒色めっき被膜に関する。さらに詳しくは、本発明は、例えば、光学部材、医療用機器などにおいて黒色および撥水性が要求される部材に好適に使用することができる黒色めっき被膜およびその製造方法、ならびに前記黒色めっき被膜を有する積層めっき被膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、黒色めっき被膜であるクロメート皮膜に代わる黒色化皮膜として、ニッケル、酸化ニッケルおよび酸化亜鉛を含有する黒色化処理層が提案されている(例えば、特許文献1参照)。前記黒色化処理層は、黒色外観および耐食性に優れているとされている。
【0003】
しかし、前記黒色化処理層は、黒色度が十分ではないことから黒色度の改善が望まれ、撥水性に劣ることから撥水性の改善が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、黒色度および撥水性に優れており、さらに摺動性にも優れている黒色めっき被膜および当該黒色めっき被膜を有する積層めっき被膜、ならびに黒色度および撥水性に優れており、さらに摺動性にも優れている黒色めっき被膜を有する積層めっき被膜およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
(1) ニッケルを含有する黒色めっき被膜であって、ニッケル化合物とリン化合物とモノカルボン酸、ポリカルボン酸、オキシカルボン酸およびそれらの塩からなる群より選ばれた少なくとも1種のカルボン酸とフッ素樹脂粒子とを含有する黒色めっき被膜形成用めっき液で形成されている黒色めっき被膜形成用被膜がチオ尿素、アルキレンジアミンおよび芳香族スルホン酸塩を含有するめっき被膜黒色化処理液で黒色化されていることを特徴とする黒色めっき被膜、
(2) 黒色めっき被膜のL値が3以下である前記(1)に記載の黒色めっき被膜、
(3) 黒色めっき被膜を製造する方法であって、ニッケル化合物とリン化合物とモノカルボン酸、ポリカルボン酸、オキシカルボン酸およびそれらの塩からなる群より選ばれた少なくとも1種のカルボン酸とフッ素樹脂粒子とを含有する黒色めっき被膜形成用めっき液で黒色めっき被膜形成用被膜を形成させた後、当該黒色めっき被膜形成用被膜とチオ尿素、アルキレンジアミンおよび芳香族スルホン酸塩を含有するめっき被膜黒色化処理液とを接触させて黒色めっき被膜を形成することを特徴とする黒色めっき被膜の製造方法、
(4) 表面に黒色めっき被膜を有する積層めっき被膜であって、ニッケルおよびリンを含有するニッケルめっき被膜上に前記(1)または(2)に記載の黒色めっき被膜が形成されていることを特徴とする積層めっき被膜、
(5) 表面に黒色めっき被膜を有する積層めっき被膜であって、ニッケル化合物とリン化合物とモノカルボン酸、ポリカルボン酸、オキシカルボン酸およびそれらの塩からなる群より選ばれた少なくとも1種のカルボン酸とを含有するニッケルめっき被膜形成用めっき液で形成されているニッケルめっき被膜上に、ニッケル化合物とリン化合物とモノカルボン酸、ポリカルボン酸、オキシカルボン酸およびそれらの塩からなる群より選ばれた少なくとも1種のカルボン酸とフッ素樹脂粒子とを含有する黒色めっき被膜形成用めっき液で黒色めっき被膜形成用被膜が形成されており、当該黒色めっき被膜形成用被膜がチオ尿素、アルキレンジアミンおよび芳香族スルホン酸塩を含有するめっき被膜黒色化処理液で黒色化されている黒色めっき被膜を有することを特徴とする積層めっき被膜、および
(6) 表面に黒色めっき被膜を有する積層めっき被膜を製造する方法であって、ニッケル化合物とリン化合物とモノカルボン酸、ポリカルボン酸、オキシカルボン酸およびそれらの塩からなる群より選ばれた少なくとも1種のカルボン酸とを含有するニッケルめっき被膜形成用めっき液でニッケルめっき被膜を形成させ、形成されたニッケルめっき被膜と、ニッケル化合物とリン化合物とモノカルボン酸、ポリカルボン酸、オキシカルボン酸およびそれらの塩からなる群より選ばれた少なくとも1種のカルボン酸とフッ素樹脂粒子とを含有する黒色めっき被膜形成用めっき液とを接触させて当該ニッケルめっき被膜上に黒色めっき被膜形成用被膜を形成させた後、当該黒色めっき被膜形成用被膜とチオ尿素、アルキレンジアミンおよび芳香族スルホン酸塩を含有するめっき被膜黒色化処理液とを接触させて黒色めっき被膜を形成させることを特徴とする積層めっき被膜の製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、黒色度および撥水性に優れており、さらに摺動性にも優れている黒色めっき被膜およびその製造方法が提供される。また、本発明によれば、黒色度および撥水性に優れており、さらに摺動性にも優れている黒色めっき被膜を有する積層めっき被膜およびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1で得られた黒色めっき被膜を有する積層めっき被膜の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の黒色めっき被膜は、前記したように、ニッケルを含有する黒色めっき被膜であり、さらにリンおよび硫黄を含有するとともにフッ素樹脂粒子を含有することを特徴とする。また、本発明の積層めっき被膜は、前記したように、ニッケルおよびリンを含有するニッケルめっき被膜上に前記黒色めっき被膜が形成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の黒色めっき被膜および当該黒色めっき被膜を有する積層めっき被膜は、前記構成要件を有することから、黒色度および撥水性に優れており、さらに摺動性にも優れている。
【0011】
一般に、酸化ニッケルからなる黒色めっき被膜の撥水性を高めるために撥水性を有するフッ素樹脂粒子を当該黒色めっき被膜に含有させることが考えられる。しかし、当該黒色めっき被膜にフッ素樹脂粒子を含有させた場合、当該黒色めっき被膜が茶褐色に変色することから却って黒色度が低下する。
【0012】
これに対して、本発明の黒色めっき被膜は、フッ素樹脂粒子が含まれているにもかかわらず黒色度および撥水性に優れており、さらに摺動性にも優れている。
【0013】
本発明の黒色めっき被膜は、ニッケル化合物とリン化合物と特定カルボン酸(塩)とフッ素樹脂粒子とを含有する黒色めっき被膜形成用めっき液で黒色めっき被膜形成用被膜を形成させた後、当該黒色めっき被膜形成用被膜とチオ尿素、アルキレンジアミンおよび芳香族スルホン酸塩を含有するめっき被膜黒色化処理液とを接触させることによって製造することができる。
【0014】
また、本発明の積層めっき被膜は、ニッケル化合物とリン化合物と特定カルボン酸(塩)とを含有するニッケルめっき被膜形成用めっき液でニッケルめっき被膜を形成させ、形成されたニッケルめっき被膜と、ニッケル化合物とリン化合物と特定カルボン酸(塩)とフッ素樹脂粒子とを含有する黒色めっき被膜形成用めっき液とを接触させて当該ニッケルめっき被膜上に黒色めっき被膜形成用被膜を形成させた後、当該黒色めっき被膜形成用被膜とチオ尿素、アルキレンジアミンおよび芳香族スルホン酸塩を含有するめっき被膜黒色化処理液とを接触させて黒色めっき被膜を形成させることによって製造することができる。
【0015】
以下においては、本発明の説明の便宜上、本発明の積層めっき被膜の製造工程の流れに沿って当該積層めっき被膜および当該積層めっき被膜の表面に形成される黒色めっき被膜を製造する方法を説明するが、本発明は、当該方法のみに限定されるものではない。
【0016】
本発明においては、前記したように、ニッケルめっき被膜を基材上に形成させ、形成されたニッケルめっき被膜上に黒色めっき被膜を形成させることにより、表面に当該黒色めっき被膜を有する積層めっき被膜を製造することができる。なお、黒色めっき被膜の表面には、本発明の目的が阻害されない範囲内で、例えば、アクリル樹脂、ポリエステルなどの樹脂層が形成されていてもよい。
【0017】
前記基材に用いられる材料としては、例えば、鋼材、樹脂、ガラス、セラミックなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0018】
前記鋼材としては、例えば、SS330、SS400、SS490、SS540などのJIS G3101に規定されている一般構造用圧延鋼材、SM400、SM490、SM520などのJIS G3106に規定されている圧延鋼材、S10C、S12C、S15CなどのJIS G4051に規定されている炭素鋼鋼材、SK140、SK120、SK105などのJIS G4401に規定されている炭素工具鋼鋼材、SUS301、SUS303、SUS304などのJIS G4304に規定されているオーステナイト系ステンレス鋼、SUS329J1などのJIS G4304に規定されているオーステナイト-フェライト系ステンレス鋼、SUS405、SUS410L、SUS430、SUS434などのJIS G4304に規定されているフェライト系ステンレス鋼、SUS403、SUS410などのJIS G4304に規定されているマルテンサイト系ステンレス鋼などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0019】
前記樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、ナイロン66などのポリアミド、ポリイミド、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂などのスチレン系樹脂、塩化ビニル樹脂などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0020】
基材の形状には特に限定がなく、当該形状は、本発明の黒色めっき被膜および積層めっき被膜の用途に応じて適宜選択することが好ましい。基材の形状としては、例えば、平板状、波板状、フィルム状、線材状、棒状、球状、立方体状、直方体状、所定形状に成形された成形体の形状などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0021】
表面上にニッケルめっき被膜が形成された基材は、基材とニッケルめっき被膜形成用めっき液とを接触させることにより、製造することができる。基材とニッケルめっき被膜形成用めっき液との接触は、例えば、ニッケルめっき被膜形成用めっき液中に基材を浸漬させることによって行なうことができる。
【0022】
以下においては、基材とニッケルめっき被膜形成用めっき液とを接触させるときの一実施態様として、基材が金属製の基材である場合を中心にして説明するが、本発明は、当該実施態様のみに限定されるものではない。
【0023】
基材の表面に脂質が付着している状態でニッケルめっき被膜を形成したとき、当該基材に対するニッケルめっき被膜の付着性が低下する。したがって、基材の表面に脂質が付着している場合には、当該基材に対するニッケルめっき被膜の付着性を向上させる観点から、当該基材の表面にニッケルめっき被膜を形成させる前に、あらかじめ当該基材を脱脂しておくことが好ましい。当該基材の脱脂は、例えば、当該基材をアルカリ性脱脂液に浸漬することによって行なうことができる。アルカリ性脱脂液としては、例えば、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属化合物の水溶液などが挙げられる。当該アルカリ性脱脂液には、脱脂効率を向上させる観点から、必要により、界面活性剤が含まれていてもよい。
【0024】
また、前記基材として金属製基材が用いられている場合には、ニッケルめっき被膜の付着性を向上させる観点から、当該基材には酸性処理液による処理が施されていることが好ましい。酸性処理液による基材の処理は、例えば、当該基材を酸性処理液中に浸漬することによって行なうことができる。酸性処理液としては、例えば、塩酸、硫酸水溶液、硝酸水溶液などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0025】
前記基材が金属製基材である場合、当該基材の表面にニッケルめっき被膜を強固に付着させる観点から、当該基材の表面にパラジウムを付着させておくことが好ましい。当該基材の表面にパラジウムを付着させる方法としては、例えば、パラジウム化合物の酸性溶液中に基材を浸漬させる方法などが挙げられる。パラジウム化合物としては、例えば、塩化パラジウム、硫酸パラジウムなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。また、酸性溶液としては、一般に酸性水溶液が用いられる。酸性溶液に用いられる酸としては、例えば、塩酸、硫酸水溶液、硝酸水溶液などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0026】
前記基材としてステンレス鋼製の基材を用いる場合には、本発明で用いられるニッケルめっき被膜の基材に対する付着性を向上させる観点から、当該基材の表面にあらかじめニッケルストライクめっきを施しておくことが好ましい。
【0027】
基材の表面上にニッケルめっき被膜を形成させる際には、ニッケルめっき被膜形成用めっき液が用いられる。ニッケルめっき被膜形成用めっき液として、ニッケル化合物とリン化合物と特定カルボン酸(塩)とを含有するニッケルめっき被膜形成用めっき液を用いることができる。
【0028】
ニッケル化合物としては、例えば、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、リン酸ニッケル、酢酸ニッケル、炭酸ニッケル、スルファミン酸ニッケル、ギ酸ニッケル、クエン酸ニッケル、ステアリン酸ニッケル、シュウ酸ニッケルなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのニッケル化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらのニッケル化合物のなかでは、基材と黒色めっき被膜との密着性を高める観点から、硫酸ニッケルおよび硝酸ニッケルが好ましく、硫酸ニッケルがより好ましい。
【0029】
ニッケルめっき被膜形成用めっき液におけるニッケル化合物の含有率は、基材と黒色めっき被膜との密着性を高める観点から、好ましくは3g/L以上、より好ましくは5g/L以上、さらに好ましくは10g/L以上であり、基材と黒色めっき被膜との密着性を高める観点から、好ましくは30g/L以下、より好ましくは25g/L以下、さらに好ましくは20g/L以下である。
【0030】
リン化合物は、基材表面上でニッケルの析出を促進させるための成分である。リン化合物としては、例えば、次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウムなど次亜リン酸アルカリ金属塩、次亜リン酸カルシウムなどの次亜リン酸アルカリ土類金属塩などの次亜リン酸塩が挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのリン化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。リン化合物のなかでは、基材表面上でニッケルの析出を促進させるとともに、黒色度、撥水性および摺動性に優れた黒色めっき被膜を形成させる観点から、次亜リン酸アルカリ金属塩および次亜リン酸アルカリ土類金属塩が好ましく、次亜リン酸アルカリ金属塩がより好ましく、次亜リン酸ナトリウムがさらに好ましい。
【0031】
ニッケルめっき被膜形成用めっき液におけるリン化合物の含有率は、基材表面上でニッケルを効率よく析出させる観点から、好ましくは1g/L以上、より好ましくは3g/L以上、さらに好ましくは5g/L以上であり、基材と黒色めっき被膜との密着性を高めるとともに、黒色度、撥水性および摺動性に優れた黒色めっき被膜を形成させる観点から、好ましくは25g/L以下、より好ましくは20g/L以下、さらに好ましくは15g/L以下である。
【0032】
特定カルボン酸(塩)は、モノカルボン酸、ポリカルボン酸、オキシカルボン酸およびそれらの塩からなる群より選ばれた少なくとも1種のカルボン酸である。特定カルボン酸(塩)は、基材表面上で析出するニッケルを均一化させ、黒色度、撥水性および摺動性に優れた黒色めっき被膜を形成させるための成分である。特定カルボン酸(塩)としては、例えば、シュウ酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、マロン酸、グルコン酸、マレイン酸、およびそれらのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの特定カルボン酸(塩)は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。特定カルボン酸(塩)のなかでは、基材表面上で析出するニッケルを均一化させ、黒色度、撥水性および摺動性に優れた黒色めっき被膜を形成させる観点から、シュウ酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、マロン酸、マレイン酸、およびそれらのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩からなる群より選ばれた少なくとも1種のカルボン酸が好ましく、シュウ酸、プロピオン酸、酪酸、マロン酸、マレイン酸、およびそれらのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩からなる群より選ばれた少なくとも1種のカルボン酸がより好ましく、シュウ酸またはそのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩がさらに好ましい。
【0033】
ニッケルめっき被膜形成用めっき液における特定カルボン酸(塩)の含有率は、基材表面上で析出するニッケルを均一化させ、黒色度、撥水性および摺動性に優れた黒色めっき被膜を形成させる観点から、好ましくは20g/L以上、より好ましくは25g/L以上、さらに好ましくは30g/L以上であり、基材と黒色めっき被膜との密着性を高める観点から、好ましくは50g/L以下、より好ましくは45g/L以下、さらに好ましくは40g/L以下である。
【0034】
ニッケルめっき被膜形成用めっき液は、例えば、ニッケル化合物、リン化合物、特定カルボン酸(塩)、および必要に応じて用いられる添加剤を所定濃度となるように水と混合し、各成分を均一な組成となるように水中に溶解または分散させることによって容易に調製することができる。
【0035】
添加剤としては、例えば、析出促進剤、安定化剤、界面活性剤などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。添加剤の量は、当該添加剤の種類によって異なるため、一概には決定することができないことから、当該添加剤の種類に応じて適宜決定することが好ましい。
【0036】
析出促進剤は、基材表面上でニッケルが析出することを促進する成分である。析出促進剤としては、例えば、チオール、スルフィド、アルキレンスリフィド、ジスルフィド、チオアルデヒド、チオケトン、チオシアン酸、チオシアン酸塩、チオ尿素、チオ硫酸、チオ硫酸塩などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの析出促進剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらのなかでは、ニッケルの析出を促進させるとともに、黒色度、撥水性および摺動性に優れた黒色めっき被膜を形成させる観点から、チオール、スルフィド、アルキレンスリフィド、ジスルフィド、チオアルデヒド、チオケトンおよびチオシアン酸からなる群より選ばれた少なくとも1種の析出促進剤が好ましく、チオール、スルフィド、アルキレンスリフィドおよびジスルフィドからなる群より選ばれた少なくとも1種の析出促進剤がより好ましく、チオールがさらに好ましい。
【0037】
ニッケルめっき被膜形成用めっき液における析出促進剤の含有率は、ニッケルの析出を促進させる観点から、好ましくは0.001g/L以上、より好ましくは0.003g/L以上、さらに好ましくは0.005g/L以上であり、基材表面上で析出するニッケルを均一化させる観点から、好ましくは0.05g/L以下、より好ましくは0.03g/L以下、さらに好ましくは0.01g/L以下である。
【0038】
安定化剤は、基材表面上でニッケルを安定して析出させるための成分である。安定化剤としては、例えば、硝酸ビスマス、酢酸ビスマスなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの安定化剤は、それぞれ単独で用いてもよく、併用してもよい。
【0039】
ニッケルめっき被膜形成用めっき液における安定化剤の含有率は、基材表面上でニッケルを安定して析出させる観点から、好ましくは0.01g/L以上、より好ましくは0.03g/L以上、さらに好ましくは0.05g/L以上であり、基材表面上で析出するニッケルを均一化させる観点から、好ましくは0.5g/L以下、より好ましくは0.3g/L以下、さらに好ましくは0.1g/L以下である。
【0040】
界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの界面活性剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。界面活性剤は、ニッケルめっき被膜形成用めっき液に適量で用いられる。
【0041】
前記ニッケルめっき被膜形成用めっき液を用いて基材の表面上にニッケルめっき被膜を形成させる具体的な方法としては、例えば、液温が30~95℃である前記ニッケルめっき被膜形成用めっき液中に基材を浸漬させる無電解めっき法などが挙げられる。
【0042】
金属製基材の表面上に形成されるニッケルめっき被膜の厚さは、基材と黒色めっき被膜との間に介在させて両者の密着性を高める観点から、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上であり、前記と同様に基材と黒色めっき被膜との間に介在させて両者の密着性を高める観点から、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下である。前記ニッケルめっき被膜の厚さは、ニッケルめっき被膜形成用めっき液の温度、めっき時間などのめっき条件を調整することによって容易に調節することができる。
【0043】
以上のようにして前記基材の表面上にニッケルおよびリンを含有するニッケルめっき被膜が形成される。
【0044】
ニッケルめっき被膜におけるニッケルの含有率は、基材と黒色めっき被膜との密着性を高める観点から、好ましくは60質量%以上、より好ましくは65質量%以上であり、基材と黒色めっき被膜との密着性を高める観点から、好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下、さらに好ましくは75質量%以下である。
【0045】
ニッケルめっき被膜におけるリンの含有率は、基材と黒色めっき被膜との密着性を高める観点から、好ましくは0.3質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上であり、基材と黒色めっき被膜との密着性を高める観点から、好ましくは4質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。
【0046】
なお、ニッケルめっき被膜における前記成分の残部は、酸素であるが、当該ニッケルめっき被膜に不純物が含まれることがある。前記不純物としては、例えば、炭素、鉄などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。また、ニッケルめっき被膜には、本発明の目的を阻害しない範囲内で他の元素が含まれていてもよい。
【0047】
ニッケルめっき被膜における各成分の含有率は、ニッケル化合物、リン化合物、必要により添加される析出促進剤、安定化剤、界面活性剤などの量を調整してニッケルめっき被膜形成用めっき液に含まる各成分の含有率が所定値となるように調整することにより、調節することができる。
【0048】
以上のようにしてニッケルめっき被膜が得られる。
次に、ニッケルめっき被膜上に黒色めっき被膜を形成させる。黒色めっき被膜を形成させる際には、黒色めっき被膜形成用めっき液が用いられる。
【0049】
黒色めっき被膜形成用めっき液として、ニッケル化合物、リン化合物、特定カルボン酸(塩)およびフッ素樹脂粒子を含有する黒色めっき被膜形成用めっき液が用いられる。
【0050】
黒色めっき被膜形成用めっき液に用いられるニッケル化合物としては、ニッケルめっき被膜形成用めっき液に用いられるニッケル化合物と同様のものを例示することができる。黒色めっき被膜形成用めっき液におけるニッケル化合物の含有率は、ニッケルめっき被膜との密着性を向上させる観点から、好ましくは3g/L以上、より好ましくは5g/L以上、さらに好ましくは10g/L以上であり、ニッケルめっき被膜との密着性を向上させる観点から、好ましくは30g/L以下、より好ましくは25g/L以下、さらに好ましくは20g/L以下である。
【0051】
黒色めっき被膜形成用めっき液に用いられるリン化合物としては、ニッケルめっき被膜形成用めっき液に用いられるリン化合物と同様のものを例示することができる。黒色めっき被膜形成用めっき液におけるリン化合物の含有率は、ニッケルめっき被膜との密着性を向上させる観点から、好ましくは1g/L以上、より好ましくは3g/L以上、さらに好ましくは5g/L以上であり、ニッケルめっき被膜との密着性を向上させる観点から、好ましくは25g/L以下、より好ましくは20g/L以下、さらに好ましくは15g/L以下である。
【0052】
黒色めっき被膜形成用めっき液に用いられる特定カルボン酸(塩)としては、ニッケルめっき被膜形成用めっき液に用いられる特定カルボン酸(塩)と同様のものを例示することができる。特定カルボン酸(塩)は、基材表面上で析出するニッケルを均一化させ、黒色度、撥水性および摺動性に優れた黒色めっき被膜を形成させるための成分である。特定カルボン酸(塩)としては、例えば、シュウ酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、マロン酸、グルコン酸、マレイン酸、およびそれらのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの特定カルボン酸(塩)は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。特定カルボン酸(塩)のなかでは、基材表面上で析出するニッケルを均一化させ、黒色度、撥水性および摺動性に優れた黒色めっき被膜を形成させる観点から、シュウ酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、マロン酸、マレイン酸、およびそれらのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩からなる群より選ばれた少なくとも1種のカルボン酸が好ましく、シュウ酸、プロピオン酸、酪酸、マロン酸、マレイン酸、およびそれらのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩からなる群より選ばれた少なくとも1種のカルボン酸がより好ましく、シュウ酸またはそのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩がさらに好ましい。
【0053】
黒色めっき被膜形成用めっき液における特定カルボン酸(塩)の含有率は、ニッケルめっき被膜との密着性を向上させる観点から、好ましくは20g/L以上、より好ましくは25g/L以上、さらに好ましくは30g/L以上であり、ニッケルめっき被膜との密着性を向上させる観点から、好ましくは50g/L以下、より好ましくは45g/L以下、さらに好ましくは40g/L以下である。
【0054】
フッ素樹脂粒子を構成するフッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン-エチレン共重合体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのフッ素樹脂は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらのフッ素樹脂のなかでは、黒色度および撥水性に優れており、さらに摺動性にも優れている黒色めっき被膜を形成させる観点から、ポリテトラフルオロエチレンが好ましい。
【0055】
フッ素樹脂粒子の平均粒子径は、黒色度および撥水性に優れており、さらに摺動性にも優れている黒色めっき被膜を形成させる観点から、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.2μm以上であり、摺動性を向上させる観点から、好ましくは3μm以下、より好ましくは2μm以下、さらに好ましくは1μm以下である。なお、フッ素樹脂粒子の平均粒子径は、レーザー回折法によって体積基準の粒度分布を測定し、体積頻度の累積が50%であるときの粒子径を意味する。
【0056】
フッ素樹脂粒子の表面には、黒色めっき被膜形成用めっき液におけるフッ素樹脂粒子の分散性を向上させる観点から、必要により界面活性剤が覆われていてもよい。界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの界面活性剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0057】
フッ素樹脂粒子は、黒色めっき被膜形成用めっき液におけるフッ素樹脂粒子の分散性を向上させる観点から、例えば、水などの溶媒にあらかじめ分散させておいた分散液として用いることが好ましい。
【0058】
黒色めっき被膜形成用めっき液は、ニッケル化合物、リン化合物、特定カルボン酸(塩)およびフッ素樹脂粒子を水中に添加し、均一な組成となるように水中に分散させることによって容易に調製することができる。黒色めっき被膜形成用めっき液には、ニッケルめっき被膜を形成する際に用いられるニッケルめっき被膜形成用めっき液を利用してもよく、ニッケルめっき被膜を形成した後のニッケルめっき被膜形成用めっき液を利用してもよい。
【0059】
黒色めっき被膜形成用めっき液には、必要により、例えば、析出促進剤、安定化剤、界面活性剤などを適量で添加してもよい。
【0060】
黒色めっき被膜形成用めっき液に用いられる析出促進剤としては、ニッケルめっき被膜形成用めっき液に用いられる析出促進剤と同様のものを例示することができる。析出促進剤のなかでは、ニッケルの析出を促進させるとともに、黒色度、撥水性および摺動性に優れた黒色めっき被膜を形成させる観点から、チオール、スルフィド、アルキレンスリフィド、ジスルフィド、チオアルデヒド、チオケトンおよびチオシアン酸からなる群より選ばれた少なくとも1種の析出促進剤が好ましく、チオール、スルフィド、アルキレンスリフィドおよびジスルフィドからなる群より選ばれた少なくとも1種の析出促進剤がより好ましく、チオールがさらに好ましい。
【0061】
黒色めっき被膜形成用めっき液における析出促進剤の含有率は、ニッケルの析出を促進させる観点から、好ましくは0.001g/L以上、より好ましくは0.003g/L以上、さらに好ましくは0.005g/L以上であり、ニッケルめっき被膜上で析出する黒色めっき被膜形成用被膜を均一化させる観点から、好ましくは0.05g/L以下、より好ましくは0.03g/L以下、さらに好ましくは0.01g/L以下である。
【0062】
黒色めっき被膜形成用めっき液に用いられる安定化剤としては、ニッケルめっき被膜形成用めっき液に用いられる析出促進剤と同様のものを例示することができる。黒色めっき被膜形成用めっき液における安定化剤の含有率は、ニッケルめっき被膜上で黒色めっき被膜形成用被膜を安定して形成させる観点から、好ましくは0.01g/L以上、より好ましくは0.03g/L以上、さらに好ましくは0.05g/L以上であり、黒色度および撥水性に優れており、さらに摺動性にも優れている黒色めっき被膜を形成させる観点から、好ましくは0.5g/L以下、より好ましくは0.3g/L以下、さらに好ましくは0.1g/L以下である。
【0063】
黒色めっき被膜形成用めっき液に用いられる界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの界面活性剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。界面活性剤は、黒色めっき被膜形成用めっき液に適量で用いられる。
【0064】
ニッケルめっき被膜の表面上に黒色めっき被膜形成用被膜を形成させる具体的な方法としては、例えば、液温が30~95℃である黒色めっき被膜形成用めっき液中にニッケルめっき被膜が形成されている基材を浸漬させる無電解めっき法などが挙げられる。
【0065】
ニッケルめっき被膜の表面上に形成される黒色めっき被膜形成用被膜の厚さは、黒色度および撥水性に優れており、さらに摺動性にも優れている黒色めっき被膜を形成させる観点から、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上であり、黒色度および撥水性に優れており、さらに摺動性にも優れている黒色めっき被膜を形成させる観点から、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下である。黒色めっき被膜形成用被膜の厚さは、黒色めっき被膜形成用めっき液の温度、めっき時間などのめっき条件を調整することによって容易に調節することができる。
【0066】
以上のようにしてニッケルめっき被膜の表面上に黒色めっき被膜形成用被膜が形成される。
【0067】
黒色めっき被膜形成用被膜におけるニッケルの含有率は、黒色度および撥水性に優れており、さらに摺動性にも優れている黒色めっき被膜を形成させる観点から、好ましくは60質量%以上、より好ましくは65質量%以上であり、黒色度および撥水性に優れており、さらに摺動性にも優れている黒色めっき被膜を形成させる観点から、好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下、さらに好ましくは75質量%以下である。
【0068】
黒色めっき被膜形成用被膜におけるリンの含有率は、黒色度および撥水性に優れており、さらに摺動性にも優れている黒色めっき被膜を形成させる観点から、好ましくは0.3質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上であり、基材と黒色めっき被膜との密着性を高める観点から、好ましくは4質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。
【0069】
黒色めっき被膜形成用被膜におけるフッ素の含有率は、黒色度および撥水性に優れており、さらに摺動性にも優れている黒色めっき被膜を形成させる観点から、好ましくは0.3質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上であり、黒色度および撥水性に優れており、さらに摺動性にも優れている黒色めっき被膜を形成させる観点から、好ましくは3.5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2.5質量%以下である。
【0070】
なお、黒色めっき被膜形成用被膜における前記成分の残部は、酸素であるが、当該黒色めっき被膜形成用被膜に不純物が含まれることがある。前記不純物としては、例えば、炭素、鉄などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。また、黒色めっき被膜形成用被膜には、本発明の目的を阻害しない範囲内で他の元素が含まれていてもよい。
【0071】
黒色めっき被膜形成用被膜における各成分の含有率は、ニッケル化合物、リン化合物、特定カルボン酸(塩)、必要により添加される析出促進剤、安定化剤、界面活性剤などの量を調整して黒色めっき被膜形成用めっき液に含まる各成分の含有率が所定値となるように調整することにより、調節することができる。
【0072】
次に、ニッケルめっき被膜の表面上に形成された黒色めっき被膜形成用被膜に黒色化処理を施すことにより、黒色めっき被膜が形成される。
【0073】
黒色めっき被膜形成用被膜に黒色化処理を施す際には、めっき被膜黒色化処理液が用いられる。めっき被膜黒色化処理液としては、例えば、チオ尿素、アルキレンジアミンおよび芳香族スルホン酸塩を含有するめっき被膜黒色化処理液などが挙げられる。当該めっき被膜黒色化処理液は、例えば、チオ尿素、アルキレンジアミンおよび芳香族スルホン酸塩を水中に溶解させることによって容易に調製することができる。
【0074】
めっき被膜黒色化処理液におけるチオ尿素の含有率は、黒色めっき被膜の黒色度を高める観点から、好ましくは2g/L以上、より好ましくは2.5g/L以上、さらに好ましくは3g/L以上であり、黒色めっき被膜の耐食性を高める観点から、好ましくは15g/L以下、より好ましくは10g/L以下、さらに好ましくは7g/L以下である。
【0075】
めっき被膜黒色化処理液に用いられるアルキレンジアミンは、黒色度および撥水性に優れており、さらに摺動性にも優れている黒色めっき被膜を形成させる成分である。アルキレンジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどのアルキレン基の炭素数が2~6であるアルキレンジアミンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのアルキレンジアミンは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。アルキレンジアミンのなかでは、黒色度および撥水性に優れており、さらに摺動性にも優れている黒色めっき被膜を形成させる観点から、エチレンジアミン、プロピレンジアミンおよびヘキサメチレンジアミンが好ましく、エチレンジアミンがより好ましい。
【0076】
めっき被膜黒色化処理液におけるアルキレンジアミンの含有率は、黒色度および撥水性に優れており、さらに摺動性にも優れている黒色めっき被膜を形成させる観点から、好ましくは3g/L以上、より好ましくは5g/L以上、さらに好ましくは10g/L以上であり、黒色度および撥水性に優れており、さらに摺動性にも優れている黒色めっき被膜を形成させる観点から、好ましくは40g/L以下、より好ましくは35g/L以下、さらに好ましくは30g/L以下である。
【0077】
めっき被膜黒色化処理液に用いられる芳香族スルホン酸塩は、黒色度および撥水性に優れており、さらに摺動性にも優れている黒色めっき被膜を形成させる成分である。芳香族スルホン酸塩としては、例えば、トルエンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの芳香族スルホン酸塩は、それぞれ単独で用いてもよく、併用してもよい。
【0078】
トルエンスルホン酸塩としては、例えば、トルエンスルホン酸ナトリウム、トルエンスルホン酸カリウムなどのトルエンスルホン酸アルカリ金属塩などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0079】
アルキルベンゼンスルホン酸塩としては、例えば、エチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、エチルベンゼンスルホン酸カリウム、プロピルベンゼンスルホン酸ナトリウム、プロピルベンゼンスルホン酸カリウム、ブチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ブチルベンゼンスルホン酸カリウム、ヘキシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ヘキシルベンゼンスルホン酸カリウム、オクチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、オクチルベンゼンスルホン酸カリウム、ノニルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ノニルベンゼンスルホン酸カリウム、デシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、デシルベンゼンスルホン酸カリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム、テトラデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、テトラデシルベンゼンスルホン酸カリウム、オクタデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、オクタデシルベンゼンスルホン酸カリウムなどのアルキル基の炭素数が1~24、好ましくは2~20、より好ましくは2~18であるアルキルベンゼンスルホン酸塩などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのアルキルベンゼンスルホン酸塩は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0080】
芳香族スルホン酸塩のなかでは、黒色度、撥水性および摺動性に優れた黒色めっき被膜を形成させる観点から、トルエンスルホン酸塩およびアルキル基の炭素数が1~24であるアルキルベンゼンスルホン酸塩が好ましく、トルエンスルホン酸塩およびアルキル基の炭素数が2~20であるアルキルベンゼンスルホン酸塩がより好ましく、トルエンスルホン酸塩およびアルキル基の炭素数が2~18であるアルキルベンゼンスルホン酸アルカリ金属塩がさらに好ましく、トルエンスルホン酸塩およびアルキル基の炭素数が8~18であるアルキルベンゼンスルホン酸アルカリ金属塩がさらに一層好ましい。前記塩としては、例えば、アルカリ金属塩などが挙げられる。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどが挙げられるが、黒色度および撥水性に優れており、さらに摺動性にも優れている黒色めっき被膜を形成させる観点から、ナトリウムおよびカリウムが好ましい。黒色度および撥水性に優れており、さらに摺動性にも優れている黒色めっき被膜を形成させる観点から好適な芳香族スルホン酸塩の具体例として、トルエンスルホン酸ナトリウム、ノニルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムおよびドデシルベンゼンスルホン酸カリウムが挙げられ、これらの芳香族スルホン酸塩はそれぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらの芳香族スルホン酸塩は、いずれも、黒色度および撥水性に優れており、さらに摺動性にも優れている黒色めっき被膜を形成させる観点から好適に使用することができるものである。
【0081】
めっき被膜黒色化処理液における芳香族スルホン酸塩の含有率は、黒色度および撥水性に優れており、さらに摺動性にも優れている黒色めっき被膜を形成させる観点から、好ましくは3g/L以上、より好ましくは5g/L以上、さらに好ましくは10g/L以上であり、黒色度および撥水性に優れており、さらに摺動性にも優れている黒色めっき被膜を形成させる観点から、好ましくは40g/L以下、より好ましくは35g/L以下、さらに好ましくは30g/L以下である。
【0082】
黒色めっき被膜は、例えば、黒色めっき被膜形成用被膜が形成された基材をめっき被膜黒色化処理液中に浸漬することによって得ることができる。その際のめっき被膜黒色化処理液の液温は、通常、20~60℃程度である。黒色めっき被膜形成用被膜が形成された金属製基材をめっき被膜黒色化処理液中に浸漬する時間は、形成される黒色めっき被膜の厚さによって異なるので一概には決定することができないことから、当該黒色めっき被膜の厚さに応じて適宜決定することが好ましい。
【0083】
以上のようにして黒色めっき被膜形成用被膜が黒色化した黒色めっき被膜が形成される。黒色めっき被膜形成用被膜は、その全体が黒色化し、黒色めっき被膜となっていてもよく、当該黒色めっき被膜形成用被膜の表面層のみが黒色化し、黒色めっき被膜となっていてもよい。
【0084】
黒色めっき被膜におけるニッケルの含有率は、黒色度および撥水性に優れており、さらに摺動性にも優れている黒色めっき被膜を形成させる観点から、好ましくは60質量%以上、より好ましくは65質量%以上であり、黒色度および撥水性に優れており、さらに摺動性にも優れている黒色めっき被膜を形成させる観点から、好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下、さらに好ましくは75質量%以下である。
【0085】
黒色めっき被膜におけるリンの含有率は、黒色度および撥水性に優れており、さらに摺動性にも優れている黒色めっき被膜を形成させる観点から、好ましくは0.3質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上であり、黒色度および撥水性に優れており、さらに摺動性にも優れている黒色めっき被膜を形成させる観点から、好ましくは4質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。
【0086】
黒色めっき被膜におけるフッ素の含有率は、黒色度および撥水性に優れており、さらに摺動性にも優れている黒色めっき被膜を形成させる観点から、好ましくは0.3質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上であり、黒色度および撥水性に優れており、さらに摺動性にも優れている黒色めっき被膜を形成させる観点から、好ましくは3.5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2.5質量%以下である。
【0087】
黒色めっき被膜における硫黄の含有率は、黒色度および撥水性に優れており、さらに摺動性にも優れている黒色めっき被膜を形成させる観点から、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは2質量%以上であり、黒色度および撥水性に優れており、さらに摺動性にも優れている黒色めっき被膜を形成させる観点から、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは8質量%以下である。
【0088】
なお、黒色めっき被膜における前記成分の残部は、酸素であるが、当該黒色めっき被膜に不純物が含まれることがある。前記不純物としては、例えば、炭素、鉄などが挙げられる。また、黒色めっき被膜には、本発明の目的を阻害しない範囲内で他の元素が含まれていてもよい。
【0089】
黒色めっき被膜の厚さは、黒色度および撥水性に優れており、さらに摺動性にも優れている黒色めっき被膜を形成させる観点から、好ましくは0.3μm以上、より好ましくは0.5μm以上であり、黒色度および撥水性に優れており、さらに摺動性にも優れている黒色めっき被膜を形成させる観点から、好ましくは3μm以下、より好ましくは2μm以下である。
【0090】
以上説明したように、本発明の黒色めっき被膜は、前記構成を有することから、従来、黒色めっき被膜の黒色度を示すL値は低くても5~10程度であるのに対し、本発明の黒色めっき被膜の黒色度を示すL値は3以下であることから、黒色度に非常に優れている。なお、前記L値は、以下の実施例に記載の方法に基づいて測定したときの値である。また、本発明の黒色めっき被膜は、前記構成を有することから、撥水性および摺動性にも優れている。
【0091】
本発明の積層めっき被膜は、ニッケルおよびリンを含有するニッケルめっき被膜上に前記黒色めっき被膜が形成されていることから、黒色度、撥水性および摺動性に優れている。
【0092】
したがって、本発明の黒色めっき被膜および積層めっき被膜は、例えば、光学部材、医療用機器などにおいて黒色、撥水性および摺動性が要求される部材に好適に使用することができる。
【実施例】
【0093】
次に、本発明の黒色めっき被膜および積層めっき被膜を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0094】
実施例1
1.前処理
(1)脱脂処理
基材として鋼板(JIS G3101に規定のSS400圧延鋼板、縦:10cm、横:10cmの正方形、板厚:1.5mm)を用い、水酸化ナトリウムおよび界面活性剤を含有するアルカリ性脱脂液に当該鋼板を浸漬することにより、当該鋼板に脱脂を施した。
【0095】
(2)酸処理
塩酸からなる酸性処理液に前記で脱脂が施された鋼板を浸漬することにより、当該鋼板に酸処理を施した。
【0096】
(3)パラジウム処理
前記鋼板とめっき被膜との密着性を向上させるために、塩酸および塩化パラジウムを含有するパラジウム含有処理液に前記で酸処理が施された鋼板を浸漬することにより、当該鋼板にパラジウム処理を施した。
【0097】
以上の操作の要否は、使用される基材の種類によって異なることから、当該基材の種類に応じて当該操作が必要に応じて行なわれる。
【0098】
2.ニッケルめっき被膜の形成
前記で酸処理が施された鋼板を硫酸ニッケル15g/L、シュウ酸35g/L、チオール0.01g/L、硝酸ビスマス0.1g/Lおよび次亜リン酸ナトリウム10g/Lを含有する90℃のニッケルめっき被膜形成用めっき液中に浸漬することにより、当該鋼板上に厚さが10μmであるニッケルめっき被膜を形成させた。
【0099】
前記で得られたニッケルめっき被膜の元素分析をエネルギー分散型X線分析装置〔アメテック(株)製、品番:Element〕によって調べた。その結果、前記ニッケルめっき被膜にはニッケル71.6質量%、リン2.1質量%、硫黄6.5質量%、炭素1.8質量%、鉄1.9質量%および酸素18.2質量%が含まれていることが確認された。
【0100】
3.黒色めっき被膜形成用被膜の形成
硫酸ニッケル15g/L、シュウ酸35g/L、チオール0.01g/L、硝酸ビスマス0.1g/L、次亜リン酸ナトリウム10g/Lおよびフッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン)粒子(平均粒子径:200nm)65g/Lを含有する90℃の黒色めっき被膜形成用水分散液に前記ニッケルめっき被膜が形成された鋼板を20分間浸漬することにより、当該鋼板上に厚さが10μmである黒色めっき被膜形成用被膜を形成させた。
【0101】
前記で得られた黒色めっき被膜形成用被膜の元素分析をエネルギー分散型X線分析装置〔アメテック(株)製、品番:Element〕によって調べた。その結果、前記黒色めっき被膜形成用被膜にはニッケル70.3質量%、フッ素2.2質量%、リン2.1質量%、硫黄5.5質量%、炭素1.2質量%、鉄2.2質量%および酸素18.7質量%が含まれていることが確認された。
【0102】
4.黒色めっき被膜の形成
次に、前記で得られた黒色めっき被膜形成用被膜が形成された鋼板をチオ尿素5.5g/L、エチレンジアミン20g/Lおよびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム10g/Lを含有する40℃のめっき被膜黒色化処理液に前記黒色めっき被膜形成用被膜が形成された鋼板を20分間浸漬することにより、前記黒色めっき被膜形成用被膜を黒色化させて厚さ1.5μmの黒色めっき被膜を形成させた。
【0103】
以上の操作を行なうことにより、黒色めっき被膜を有する積層めっき被膜が形成された鋼板を得た。前記で得られた黒色めっき被膜の元素分析をエネルギー分散型X線分析装置〔アメテック(株)製、品番:Element〕によって調べた。その結果、前記黒色めっき被膜にはニッケル70.3質量%、フッ素2.2質量%、リン2.1質量%、硫黄5.5質量%、炭素1.2質量%、鉄2.2質量%および酸素18.7質量%が含まれていることが確認された。
【0104】
前記で得られた積層めっき被膜を有する鋼板を裁断し、その断面を走査型電子顕微鏡〔(株)日立ハイテクノロジーズ製、品番:SU3500〕で観察した。その結果を
図1に示す。
図1は、実施例1で得られた黒色めっき被膜を有する積層めっき被膜の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【0105】
図1において、1は基材の鋼板、2はニッケルめっき被膜、3は黒色めっき被膜が形成されていない黒色めっき被膜形成用被膜、4は黒色めっき被膜を示す。
【0106】
前記で得られた黒色めっき被膜を有する積層めっき被膜は、
図1に示されるように、基材1上にニッケルめっき被膜2が形成され、当該ニッケルめっき被膜2上に黒色めっき被膜形成用被膜3が形成され、当該黒色めっき被膜形成用被膜3上に最表面層として黒色めっき被膜4が形成されていることがわかる。
【0107】
次に、黒色めっき被膜を有する鋼板の物性として、黒色めっき被膜の撥水性、摺動性および黒色度を以下の方法に基づいて調べた。その結果を表1に示す。
【0108】
〔撥水性〕
黒色めっき被膜の表面に純水1.0μL(液温:25℃)を滴下し、黒色めっき被膜の表面における水の接触角を接触角計〔協和界面科学(株)製、品番:DM-301〕で測定し、以下の評価基準に基づいて撥水性を評価した。
(評価基準)
A:水の接触角が100°以上
B:水の接触角が90°以上100°未満
C:水の接触角が80°以上90°未満
D:水の接触角が70°以上80°未満
E:水の接触角が70°未満
【0109】
〔摺動性〕
摺動性の評価は、摺動性試験装置(CSEM社製、商品名:TRIBOMETER PIN ON DISK)を用いて行なった。黒色めっき被膜の表面上に直径6mmのクロム鋼球(硬度:300HBM)を置き、当該クロム鋼球に鉛直方向に1Nの荷重を加えながら当該クロム鋼球を10mm/secの定速で移動させたときの動摩擦係数を測定し、以下の評価基準に基づいて摺動性を評価した。
(評価基準)
A:動摩擦係数が0.2μk未満
B:動摩擦係数が0.2μk以上0.3μk未満
C:動摩擦係数が0.3μk以上0.4μk未満
D:動摩擦係数が0.4μk以上0.5μk未満
E:動摩擦係数が0.5μk以上
【0110】
〔黒色度〕
黒色めっき被膜の黒色度は、分光色彩計〔日本電色工業(株)製、品番:SD7000〕を用いて波長400nm、450nmおよび500nmにおける黒色めっき被膜の断面のL値(明度)を測定し、以下の評価基準に基づいて各波長における撥水性をそれぞれ評価した。
(評価基準)
A:L値が2.8未満
B:L値が2.8以上2.9未満
C:L値が2.9以上3.0未満
D:L値が3.0以上3.1未満
E:L値が3.1以上
【0111】
実施例2
実施例1において、黒色めっき被膜形成用めっき液の組成を変更し、めっきに要する時間および黒色めっき被膜形成用被膜を黒色化させる時間を変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行なうことにより、鋼板上に厚さが8μmであるニッケルめっき被膜を形成させ、当該ニッケルめっき被膜上に厚さが15μmである黒色めっき被膜形成用被膜を形成させ、当該黒色めっき被膜形成用被膜を黒色化させることにより、表面層に厚さ1.2μmの黒色めっき被膜を有する積層めっき被膜を得た。前記で得られた黒色めっき被膜の元素分析を実施例1と同様にして行なった。その結果、前記黒色めっき被膜にはニッケル68.5質量%、フッ素1.2質量%、リン2.8質量%、硫黄6.8質量%、炭素1.2質量%、鉄2.2質量%および酸素18.7質量%が含まれていることが確認された。
【0112】
次に、黒色めっき被膜を有する鋼板の物性として、黒色めっき被膜の撥水性、摺動性および黒色度を実施例1と同様にして調べた。その結果を表1に示す。
【0113】
実施例3
実施例1において、黒色めっき被膜形成用めっき液の組成を変更し、めっきに要する時間および黒色めっき被膜形成用被膜を黒色化させる時間を変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行なうことにより、鋼板上に厚さが8μmであるニッケルめっき被膜を形成させ、当該ニッケルめっき被膜上に厚さが15μmである黒色めっき被膜形成用被膜を形成させ、当該黒色めっき被膜形成用被膜を黒色化させることにより、表面層に厚さ0.8μmの黒色めっき被膜を有する積層めっき被膜を得た。前記で得られた黒色めっき被膜の元素分析を実施例1と同様にして行なった。その結果、前記黒色めっき被膜にはニッケル72.4質量%、フッ素2.3質量%、リン1.6質量%、硫黄4.2質量%、炭素1.2質量%、鉄2.2質量%および酸素18.7質量%が含まれていることが確認された。
【0114】
次に、黒色めっき被膜を有する鋼板の物性として、黒色めっき被膜の撥水性、摺動性および黒色度を実施例1と同様にして調べた。その結果を表1に示す。
【0115】
実施例4
実施例1において、ニッケルめっき被膜形成用めっき液の組成を変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行なうことにより、鋼板上に厚さが10μmであるニッケルめっき被膜を形成させ、当該ニッケルめっき被膜上に厚さが1.5μmである黒色めっき被膜形成用被膜を形成させ、当該黒色めっき被膜形成用被膜を黒色化させることにより、表面層に厚さ1.5μmの黒色めっき被膜を有する積層めっき被膜を得た。前記で得られた黒色めっき被膜の元素分析を実施例1と同様にして行なった。その結果、前記ニッケルめっき被膜にはニッケル62.3質量%、リン1.6質量%、硫黄4.5質量%、炭素1.8質量%、鉄1.9質量%および酸素18.2質量%が含まれていることが確認された。
【0116】
次に、黒色めっき被膜を有する鋼板の物性として、黒色めっき被膜の撥水性、摺動性および黒色度を実施例1と同様にして調べた。その結果を表1に示す。
【0117】
実施例5
実施例1において、ニッケルめっき被膜形成用めっき液の組成を変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行なうことにより、鋼板上に厚さが10μmであるニッケルめっき被膜を形成させ、当該ニッケルめっき被膜上に厚さが1.5μmである黒色めっき被膜形成用被膜を形成させ、当該黒色めっき被膜形成用被膜を黒色化させることにより、表面層に厚さ1.5μmの黒色めっき被膜を有する積層めっき被膜を得た。前記で得られた黒色めっき被膜の元素分析を実施例1と同様にして行なった。その結果、前記ニッケルめっき被膜にはニッケル73.1質量%、リン1.3質量%、硫黄4.8質量%、炭素1.6質量%、鉄1.5質量%および酸素18.1質量%が含まれていることが確認された。
【0118】
次に、黒色めっき被膜を有する鋼板の物性として、黒色めっき被膜の撥水性、摺動性および黒色度を実施例1と同様にして調べた。その結果を表1に示す。
【0119】
実施例6
実施例1において、黒色めっき被膜形成用めっき液の組成を変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行なうことにより、鋼板上に厚さが10μmであるニッケルめっき被膜を形成させ、当該ニッケルめっき被膜上に厚さが1.5μmである黒色めっき被膜形成用被膜を形成させ、当該黒色めっき被膜形成用被膜を黒色化させることにより、表面層に厚さ1.5μmの黒色めっき被膜を有する積層めっき被膜を得た。前記で得られた黒色めっき被膜の元素分析を実施例1と同様にして行なった。その結果、前記黒色めっき被膜にはニッケル72.3質量%、フッ素2.1質量%、リン2.0質量%、硫黄5.2質量%、炭素1.4質量%、鉄2.0質量%および酸素18.7質量%が含まれていることが確認された。
【0120】
次に、黒色めっき被膜を有する鋼板の物性として、黒色めっき被膜の撥水性、摺動性および黒色度を実施例1と同様にして調べた。その結果を表1に示す。
【0121】
実施例7
実施例1において、黒色めっき被膜形成用めっき液の組成を変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行なうことにより、鋼板上に厚さが10μmであるニッケルめっき被膜を形成させ、当該ニッケルめっき被膜上に厚さが1.5μmである黒色めっき被膜形成用被膜を形成させ、当該黒色めっき被膜形成用被膜を黒色化させることにより、表面層に厚さ1.5μmの黒色めっき被膜を有する積層めっき被膜を得た。前記で得られた黒色めっき被膜の元素分析を実施例1と同様にして行なった。その結果、前記黒色めっき被膜にはニッケル70.3質量%、フッ素2.2質量%、リン2.1質量%、硫黄5.5質量%、炭素1.2質量%、鉄2.2質量%および酸素18.7質量%が含まれていることが確認された。
【0122】
次に、黒色めっき被膜を有する鋼板の物性として、黒色めっき被膜の撥水性、摺動性および黒色度を実施例1と同様にして調べた。その結果を表1に示す。
【0123】
実施例8
実施例1において、黒色めっき被膜形成用めっき液の組成を変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行なうことにより、鋼板上に厚さが10μmであるニッケルめっき被膜を形成させ、当該ニッケルめっき被膜上に厚さが1.5μmである黒色めっき被膜形成用被膜を形成させ、当該黒色めっき被膜形成用被膜を黒色化させることにより、表面層に厚さ1.5μmの黒色めっき被膜を有する積層めっき被膜を得た。前記で得られた黒色めっき被膜の元素分析を実施例1と同様にして行なった。その結果、前記黒色めっき被膜にはニッケル70.3質量%、フッ素2.2質量%、リン2.1質量%、硫黄5.5質量%、炭素1.2質量%、鉄2.2質量%および酸素18.7質量%が含まれていることが確認された。
【0124】
次に、黒色めっき被膜を有する鋼板の物性として、黒色めっき被膜の撥水性、摺動性および黒色度を実施例1と同様にして調べた。その結果を表1に示す。
【0125】
実施例9
実施例1において、黒色めっき被膜形成用めっき液の組成を変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行なうことにより、鋼板上に厚さが10μmであるニッケルめっき被膜を形成させ、当該ニッケルめっき被膜上に厚さが1.5μmである黒色めっき被膜形成用被膜を形成させ、当該黒色めっき被膜形成用被膜を黒色化させることにより、表面層に厚さ1.5μmの黒色めっき被膜を有する積層めっき被膜を得た。前記で得られた黒色めっき被膜の元素分析を実施例1と同様にして行なった。その結果、前記黒色めっき被膜にはニッケル70.3質量%、フッ素2.2質量%、リン2.1質量%、硫黄5.5質量%、炭素1.2質量%、鉄2.2質量%および酸素18.7質量%が含まれていることが確認された。
【0126】
次に、黒色めっき被膜を有する鋼板の物性として、黒色めっき被膜の撥水性、摺動性および黒色度を実施例1と同様にして調べた。その結果を表1に示す。
【0127】
実施例10
実施例1において、黒色めっき被膜形成用めっき液の組成を変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行なうことにより、鋼板上に厚さが10μmであるニッケルめっき被膜を形成させ、当該ニッケルめっき被膜上に厚さが1.5μmである黒色めっき被膜形成用被膜を形成させ、当該黒色めっき被膜形成用被膜を黒色化させることにより、表面層に厚さ1.5μmの黒色めっき被膜を有する積層めっき被膜を得た。前記で得られた黒色めっき被膜の元素分析を実施例1と同様にして行なった。その結果、前記黒色めっき被膜にはニッケル70.3質量%、フッ素2.2質量%、リン2.1質量%、硫黄5.5質量%、炭素1.2質量%、鉄2.2質量%および酸素18.7質量%が含まれていることが確認された。
【0128】
次に、黒色めっき被膜を有する鋼板の物性として、黒色めっき被膜の撥水性、摺動性および黒色度を実施例1と同様にして調べた。その結果を表1に示す。
【0129】
実施例11
実施例1において、黒色めっき被膜形成用めっき液の組成を変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行なうことにより、鋼板上に厚さが10μmであるニッケルめっき被膜を形成させ、当該ニッケルめっき被膜上に厚さが1.5μmである黒色めっき被膜形成用被膜を形成させ、当該黒色めっき被膜形成用被膜を黒色化させることにより、表面層に厚さ1.5μmの黒色めっき被膜を有する積層めっき被膜を得た。前記で得られた黒色めっき被膜の元素分析を実施例1と同様にして行なった。その結果、前記黒色めっき被膜にはニッケル70.3質量%、フッ素2.2質量%、リン2.1質量%、硫黄5.5質量%、炭素1.2質量%、鉄2.2質量%および酸素18.7質量%が含まれていることが確認された。
【0130】
次に、黒色めっき被膜を有する鋼板の物性として、黒色めっき被膜の撥水性、摺動性および黒色度を実施例1と同様にして調べた。その結果を表1に示す。
【0131】
比較例1
実施例1で使用したのと同じ種類の鋼板にニッケルの含有率が12.5質量%であり、めっきの付着量が20g/m2である亜鉛-ニッケルめっき鋼板を用意した。
【0132】
前記亜鉛-ニッケルめっき鋼板を50℃の1N硝酸水溶液中に10秒間浸漬させることにより、当該亜鉛-ニッケルめっき鋼板の表面に黒色めっき被膜を形成させた後、水洗し、乾燥させることにより、黒色めっき被膜を有する鋼板を得た。
【0133】
前記で得られた黒色めっき被膜を有する鋼板の物性として、黒色めっき被膜の撥水性、摺動性および黒色度を実施例1と同様にして調べた。その結果を表1に示す。
【0134】
【0135】
表1に示された結果から、各実施例で得られた黒色めっき被膜を有する鋼板は、従来の黒色めっき被膜よりも黒色度および撥水性に優れており、さらに摺動性にも優れていることがわかる。
【符号の説明】
【0136】
1 基材
2 ニッケルめっき被膜
3 黒色めっき被膜形成用被膜
4 黒色めっき被膜