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特許7338894自己免疫有害事象および免疫チェックポイント遮断療法の遺伝的マウスモデル
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】自己免疫有害事象および免疫チェックポイント遮断療法の遺伝的マウスモデル
(51)【国際特許分類】
   A01K 67/027 20060101AFI20230829BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20230829BHJP
   C12N 5/18 20060101ALI20230829BHJP
   A61K 45/00 20060101ALN20230829BHJP
   A61P 3/10 20060101ALN20230829BHJP
   A61P 9/00 20060101ALN20230829BHJP
   A61P 37/00 20060101ALN20230829BHJP
【FI】
A01K67/027 ZNA
C12N5/0783
C12N5/18
A61K45/00
A61P3/10
A61P9/00
A61P37/00
【請求項の数】 48
(21)【出願番号】P 2021513201
(86)(22)【出願日】2019-09-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-04
(86)【国際出願番号】 US2019050551
(87)【国際公開番号】W WO2020055962
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2022-05-31
(31)【優先権主張番号】62/729,965
(32)【優先日】2018-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500039463
【氏名又は名称】ボード オブ リージェンツ,ザ ユニバーシティ オブ テキサス システム
【氏名又は名称原語表記】BOARD OF REGENTS,THE UNIVERSITY OF TEXAS SYSTEM
【住所又は居所原語表記】210 West 7th Street Austin,Texas 78701 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ, スペンサー
(72)【発明者】
【氏名】アリソン, ジェイムズ
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107384959(CN,A)
【文献】国際公開第2018/041121(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/160721(WO,A1)
【文献】岡崎 一美, 岡崎 拓,癌,自己免疫病とPD-1,医学のあゆみ,2013年,vol. 245, no. 3, p. 247-251
【文献】CHAMBERS CA. et al.,Thumocyte development is normal in CTLA-4-deficient mice,Proc Natl Acad Sci USA,1997年,vol. 94,p. 9296-9301
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マウスであって、前記マウスのゲノムが、(i)Ctla4遺伝子のヘテロ接合性機能喪失型アレルおよび(ii)Pdcd1遺伝子のホモ接合性機能喪失型アレルを含む、マウス。
【請求項2】
前記マウスは、C57BL/6J遺伝子バックグラウンドを有する、請求項1に記載のマウス。
【請求項3】
前記Ctla4遺伝子のヘテロ接合性機能喪失型アレルは、前記Ctla4遺伝子のエキソン3へのネオマイシン耐性カセットのヘテロ接合性挿入としてさらに規定される、請求項1に記載のマウス。
【請求項4】
前記Pdcd1遺伝子のホモ接合性機能喪失型アレルは、前記Pdcd1遺伝子のエキソン2および3のホモ接合性欠失としてさらに規定される、請求項1に記載のマウス。
【請求項5】
前記マウスは、自己免疫に罹患している、請求項1に記載のマウス。
【請求項6】
前記自己免疫は、心臓の自己免疫または膵臓の自己免疫である、請求項に記載のマウス。
【請求項7】
前記心臓の自己免疫は、心筋炎である、請求項に記載のマウス。
【請求項8】
前記心筋炎は、劇症型心筋炎である、請求項に記載のマウス。
【請求項9】
前記膵臓の自己免疫は、インスリン依存性糖尿病である、請求項に記載のマウス。
【請求項10】
前記膵臓の自己免疫は、膵臓外分泌破壊または膵島破壊を含む、請求項に記載のマウス。
【請求項11】
前記自己免疫は、リンパ球性心筋炎、動脈内膜炎、膵臓外分泌破壊、肺血管炎、脂肪組織萎縮、肝臓の炎症、女性生殖器の萎縮、消化管の炎症、滑膜炎、または腎臓、唾液腺、涙腺もしくは胃のリンパ球浸潤である、請求項に記載のマウス。
【請求項12】
前記マウスは雌性マウスである、請求項1~1のいずれか1項に記載のマウス。
【請求項13】
前記マウスは雄性マウスである、請求項1~1のいずれか1項に記載のマウス。
【請求項14】
請求項1~1のいずれか1項に記載のマウスから単離された細胞。
【請求項15】
前記細胞は免疫細胞である、請求項1に記載の細胞。
【請求項16】
前記細胞はT細胞である、請求項1に記載の細胞。
【請求項17】
請求項1~1のいずれか1項に記載のマウスにおいて少なくとも1種の候補因子をスクリーニングするための方法であって、前記方法は、1種またはこれより多くの候補因子を前記マウスに投与する工程を包含する方法。
【請求項18】
前記少なくとも1種の候補因子を、(i)ホモ接合性野生型Ctla4遺伝子および(ii)Pdcd1遺伝子のホモ接合性機能喪失型アレルを含むマウスにおいてスクリーニングする工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記少なくとも1種の候補因子を、(i)ホモ接合性野生型Ctla4遺伝子および(ii)ホモ接合性野生型Pdcd1遺伝子を含むマウスにおいてスクリーニングする工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記少なくとも1種の候補因子を、(i)ホモ接合性野生型Ctla4遺伝子および(ii)Pdcd1遺伝子のヘテロ接合性機能喪失型アレルを含むマウスにおいてスクリーニングする工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記少なくとも1種の候補因子を、(i)Ctla4遺伝子のヘテロ接合性機能喪失型アレルおよび(ii)ホモ接合性野生型Pdcd1遺伝子を含むマウスにおいてスクリーニングする工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記少なくとも1種の候補因子を、(i)Ctla4遺伝子のヘテロ接合性機能喪失型アレルおよび(ii)Pdcd1遺伝子のヘテロ接合性機能喪失を含むマウスにおいてスクリーニングする工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記少なくとも1種の候補因子は、免疫関連有害事象または免疫関連状態の発生を加速するその能力に関してスクリーニングされる、請求項1~2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記少なくとも1種の候補因子は、免疫関連有害事象または免疫関連状態の重篤度を増悪させるその能力に関してスクリーニングされる、請求項1~2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記少なくとも1種の候補因子は、前記マウスの集団において免疫関連有害事象または免疫関連状態の浸透度を増大させるその能力に関してスクリーニングされる、請求項1~2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記少なくとも1種の候補因子は、免疫関連有害事象または免疫関連状態を軽減するその能力に関してスクリーニングされる、請求項1~2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
免疫関連有害事象または免疫関連状態を軽減することは、前記免疫関連有害事象または免疫関連状態の発生を防止することとしてさらに規定される、請求項2に記載の方法。
【請求項28】
免疫関連有害事象または免疫関連状態を軽減することは、前記免疫関連有害事象または免疫関連状態の重篤度を減少させることとしてさらに規定される、請求項2に記載の方法。
【請求項29】
前記少なくとも1種の候補因子は、有効性に関してスクリーニングされる、請求項1~2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記候補因子は、抗がん療法である、請求項129のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記候補因子は、病原体、ストレス、傷害、および/または食事である、請求項129のいずれか1項に記載に記載の方法。
【請求項32】
前記候補因子は、同系腫瘍細胞である、請求項129のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記候補因子は、CTLA-4免疫グロブリン融合タンパク質、ステロイド、免疫細胞の特異的集団を除去する因子、サイトカイン調節因子、または免疫抑制剤である、請求項129のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記免疫関連有害事象は、自己免疫である、請求項2~2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記免疫関連状態は、自己免疫状態である、請求項2~2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記免疫関連有害事象は急性である、請求項2~2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
前記免疫関連有害事象は慢性である、請求項2~2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記免疫関連状態は慢性である、請求項2~2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記免疫関連状態は急性である、請求項2~2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
前記免疫関連有害事象または免疫関連状態は、炎症である、請求項2~2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
前記炎症は、急性または慢性である、請求項4に記載の方法。
【請求項42】
前記免疫関連有害事象または免疫関連状態は、ヒトにおいてチェックポイント遮断療法によって誘導される自己免疫を表すかまたはヒトにおいて免疫関連有害事象を表す自己免疫である、請求項2~2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
前記免疫関連有害事象または免疫関連状態は、心臓の自己免疫または膵臓の自己免疫である、請求項2~2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
前記心臓の自己免疫は、心筋炎である、請求項4に記載の方法。
【請求項45】
前記心筋炎は、劇症型心筋炎である、請求項4に記載の方法。
【請求項46】
前記膵臓の自己免疫は、インスリン依存性糖尿病である、請求項4に記載の方法。
【請求項47】
前記膵臓の自己免疫は、膵臓外分泌破壊または膵島破壊を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項48】
前記免疫関連有害事象または免疫関連状態は、リンパ球性心筋炎、動脈内膜炎、膵臓外分泌破壊、肺血管炎、脂肪組織萎縮、肝臓の炎症、女性生殖器の萎縮、消化管の炎症、滑膜炎、または腎臓、唾液腺、涙腺もしくは胃のリンパ球浸潤である、請求項2~2のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2018年9月11日出願の米国仮特許出願第62/729,965号(その全体は、本明細書に参考として援用される)の利益を主張する。
【0002】
背景
1.分野
本発明は、一般に、免疫学の分野に関する。より詳細には、免疫チェックポイント遮断療法の結果として生じる自己免疫疾患病因論の動物モデル、および上記動物モデルを使用して、上記疾患病因論を軽減する因子をスクリーニングする方法に関する。
【背景技術】
【0003】
2.関連分野の説明
T細胞活性化は、自己を非自己から区別しかつ自己免疫を防止する能力を維持しながら、外来抗原に対して迅速かつ高感度な応答を生じることを可能にする、精巧に調節された生物学的プロセスである。この注目すべきプロセスの根底にある重要な概念は、多数の別個のシグナルが、ナイーブT細胞を十分に活性化する、または初回刺激するために要求されることである。これらのきっかけは、T細胞レセプター(TCR)による同種抗原認識(シグナル1)およびCD28陽性共刺激(シグナル2)が挙げられる。CD28陽性共刺激は、専門の抗原提示細胞によって提供されることから、これは、強いT細胞活性化のために細胞外部の要求を強いる。その次の重要な工程は、陰性共刺激(negative co-stimulation)であり、これは、シグナル1および2の阻害を通じてT細胞活性化を弱めるフィードバック調節機構である。CTLA4およびPD-1は、別個の分子機構を通じてT細胞活性化を減弱する主要な陰性共刺激分子である。CTLA4は、CD28陽性共刺激の競合的阻害を通じてT細胞活性化を減弱するが、PD-1は主に、ホスファターゼSHP2を介して、近くのT細胞レセプター(TCR)シグナル伝達を阻害するように作用する(Chemnitzら, 2004; Krummel & Allison, 1996; Parryら, 2005; Walunasら, 1996)。近年の証拠は、PD-1がまた、CD28陽性共刺激の阻害をもたらす(Huiら, 2017)こと、および関連して、CD28シグナル伝達がPD-1遮断に対する効果的な応答のために必要とされる(Kamphorstら, 2017)ことを示唆する。これは、CD28を減弱することが、PD-1およびCTLA4媒介性T細胞調節の共有される機構であり得ることを示唆する。
【0004】
T細胞活性化は概して、TCRおよび共刺激シグナルが活性化を誘発するために最小のレベルを満たさなければならない閾値モデルによって左右されると考えられる。PD-1およびCTLA4陰性共刺激が、収束性の機能的調節をもたらすか否か、または代わりに、それらが、活性化閾値を定義するために別個の調節圧(regulatory pressure)を発揮するか否かは、未知である。関連して、T細胞減弱化へのCTLA4およびPD-1の特異的機構の相対的な機能的寄与は不明確なままである。これらの別個の機構が、分子レベル、細胞レベル、および/または組織レベルで収束することは、起こり得る。例えば、分子レベルでは、CTLA4およびPD-1は、CD28の阻害を介して細胞内在的な様式でT細胞シグナル伝達を共調節し得る。細胞レベルでは、CTLA4およびPD-1は、活性化に関して別個の動力学でT細胞を減弱し、そしてこのような時間的に分離した調節がまとまるか否かおよびどのようにしてまとまるかは、不明確である。従って、重大で解決のつかない基本的な問題は、CTLA4およびPD-1陰性共刺激の別個の調節機構が、機能的に相互作用するか否かである。
【0005】
抗CTLA4および抗PD-1療法は、多数の腫瘍タイプ、進行性黒色腫および腎細胞癌において有効である。しかし、免疫チェックポイント遮断療法は、重度の免疫関連有害事象、ならびに希な例では正真正銘の自己免疫(例えば、心筋炎およびI型糖尿病を誘導し得る。現在、チェックポイント遮断療法と関連する有害事象を忠実に再現する動物モデルは存在しない。チェックポイント遮断抗体(すなわち、抗CTLA4、抗PD-1)でのマウスの処置は、重大な病理をもたらさず、ヒト患者において認められる免疫関連有害事象の範囲、重篤度、およびタイプを忠実に再現しない。特に、これらのモデルは、チェックポイント遮断と関連する希な自己免疫疾患を再現しない。よって、チェックポイント遮断療法と関連する有害事象を再現する動物モデルは、必要とされる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
要旨
ヒト患者においてチェックポイント遮断によって誘導される自己免疫を再現する動物モデルが、本明細書で提供される。1つの実施形態において、マウスであって、そのゲノムが(i)Ctla4遺伝子のヘテロ接合性機能喪失および(ii)Pdcd1遺伝子のホモ接合性機能喪失を含むマウスが提供される。1つの局面において、上記マウスは、C57BL/6J遺伝子バックグラウンドを有する。いくつかの局面において、上記マウスは、雌性マウスである。いくつかの局面において、上記マウスは、雄性マウスである。
【0007】
いくつかの局面において、上記Ctla4遺伝子のヘテロ接合性機能喪失型アレルは、上記Ctla4遺伝子もエキソン3へのネオマイシン耐性カセットのヘテロ接合性挿入としてさらに定義される。いくつかの局面において、上記Pdcd1遺伝子のホモ接合性機能喪失型アレルは、上記Pdcd1遺伝子のエキソン2およびエキソン3のホモ接合性欠失としてさらに定義される。1つの局面において、上記マウスは、Ctla4tm1AllPdcd1tm1.1Shr マウスである。
【0008】
いくつかの局面において、上記マウスは、自己免疫に罹患している。ある種の局面において、上記自己免疫は、心臓の自己免疫または膵臓の自己免疫である。1つの局面において、上記心臓の自己免疫は、心筋炎である。ある種の局面において、上記心筋炎は、劇症型心筋炎である。1つの局面において、上記膵臓の自己免疫は、インスリン依存性糖尿病またはリンパ球性膵炎である。いくつかの局面において、上記膵臓の自己免疫は、膵臓外分泌破壊または膵島破壊を生じる。いくつかの局面において、上記自己免疫は、リンパ球性心筋炎、動脈内膜炎、膵臓外分泌破壊、肺血管炎、脂肪組織萎縮(白色および褐色の両方)、肝臓の炎症、女性生殖器の萎縮、消化管の炎症、滑膜炎、または腎臓、唾液腺、涙腺もしくは胃のリンパ球浸潤である。
【0009】
1つの実施形態において、本発明の実施形態のうちのいずれかのマウスから単離された細胞が提供される。いくつかの局面において、上記細胞は、免疫細胞である。いくつかの局面において、上記細胞は、T細胞である。
【0010】
1つの実施形態において、本発明の実施形態のマウスにおいて少なくとも1種の候補因子をスクリーニングするための方法であって、上記方法は、1種またはこれより多くの候補因子を上記マウスに投与する工程を包含する方法が、提供される。いくつかの局面において、上記方法は、上記少なくとも1種の候補因子を、(i)ホモ接合性野生型Ctla4遺伝子および(ii)Pdcd1遺伝子のホモ接合性機能喪失を含むマウス;(i)ホモ接合性野生型Ctla4遺伝子および(ii)ホモ接合性野生型Pdcd1遺伝子を含むマウス;(i)ホモ接合性野生型Ctla4遺伝子および(ii)Pdcd1遺伝子のヘテロ接合性機能喪失型アレルを含むマウス;(i)Ctla4遺伝子のヘテロ接合性機能喪失型アレルおよび(ii)ホモ接合性野生型Pdcd1遺伝子を含むマウス;ならびに/または(i)Ctla4遺伝子のヘテロ接合性機能喪失型アレルおよび(ii)Pdcd1遺伝子のヘテロ接合性機能喪失を含むマウス;ならびに/または(i)Ctla4遺伝子のヘテロ接合性機能喪失型アレルおよび(ii)Pdcd1遺伝子のホモ接合性機能喪失型アレルを含むマウスにおいてスクリーニングする工程をさらに包含する。
【0011】
いくつかの局面において、上記少なくとも1種の候補治療剤は、免疫関連有害事象または免疫関連状態を軽減するその能力に関してスクリーニングされる。いくつかの局面において、免疫関連有害事象または免疫関連状態の軽減は、免疫関連有害事象または免疫関連状態の発生を防止するとしてさらに定義される。いくつかの局面において、免疫関連有害事象または免疫関連状態の軽減は、上記免疫関連有害事象または免疫関連状態の重篤度を減少させるとしてさらに定義される。いくつかの局面において、免疫関連有害事象または免疫関連状態の軽減は、Ctla4ハプロ不全から生じる死亡率を軽減するとしてさらに定義される。いくつかの局面において、免疫関連有害事象または免疫関連状態の軽減は、全身性の免疫関連有害事象または免疫関連状態を軽減するとしてさらに定義される。いくつかの局面において、自己免疫の軽減は、器官特異的または組織特異的な自己免疫を軽減するとしてさらに定義される。いくつかの局面において、免疫関連有害事象または免疫関連状態の軽減は、上記免疫関連有害事象または免疫関連状態の重篤度を減少させるとしてさらに定義される。いくつかの局面において、免疫関連有害事象または免疫関連状態の軽減は、上記免疫関連有害事象または免疫関連状態が、マウスの集団において現れる頻度を減少させるとしてさらに定義される。いくつかの局面において、免疫関連有害事象または免疫関連状態の軽減は、上記免疫関連有害事象または免疫関連状態の発生を、またはその始まる時を遅らせるとしてさらに定義される。いくつかの局面において、候補治療剤のスクリーニングは、上記候補治療剤の有効性を試験するとして定義される。
【0012】
いくつかの局面において、上記免疫関連有害事象または免疫関連状態は、例えば、急性炎症または慢性炎症のような炎症である。いくつかの局面において、上記免疫関連有害事象または免疫関連状態は、自己免疫または自己免疫状態である。いくつかの局面において、上記免疫関連有害事象または免疫関連状態は、ヒトにおいてチェックポイント遮断療法によって誘導される免疫関連有害事象または自己免疫を模倣する、免疫関連有害事象または免疫関連状態を含む。ある種の局面において、上記免疫関連有害事象または免疫関連状態は、心臓の自己免疫または膵臓の自己免疫である。1つの局面において、上記心臓の自己免疫は、例えば、劇症型心筋炎のような心筋炎である。1つの局面において、上記膵臓の自己免疫は、インスリン依存性糖尿病である。
【0013】
いくつかの局面において、上記候補因子は、CTLA4-免疫グロブリン融合タンパク質(例えば、アバタセプトまたはそのマウスバージョン)、ステロイド、免疫細胞の特異的集団を除去する因子(例えば、CD4 T細胞を除去する抗CD4抗体またはB細胞を除去する抗CD20モノクローナル抗体(例えば、リツキシマブ))、サイトカイン調節因子(例えば、トシリズマブ(toclizumab)またはそのマウスバージョン)、または免疫抑制剤である。いくつかの局面において、上記候補因子は、抗がん治療(例えば、化学療法、放射線療法、外科手術、キナーゼインヒビター、免疫療法、抗TIM3、抗OX40、腫瘍溶解性ウイルス、二重特異的抗体)であり、上記方法は、免疫関連有害事象を模倣する自己免疫に罹患しているマウスにおいて起こるさらなる有害事象に関してスクリーニングされる。上記スクリーニングは、免疫チェックポイント遮断と組み合わせた場合に、自己免疫または免疫関連有害事象の発生に関して不利なリスクプロフィールを有する治療剤を同定し得る。いくつかの局面において、上記候補因子は、病原体(例えば、片利共生性または感染性)、ストレス、傷害、および/または食事である。いくつかの局面において、上記候補因子は、腫瘍細胞(例えば、同系腫瘍細胞(例えば、B16黒色腫、MC38結腸癌、Lewis肺癌)である。上記腫瘍細胞は、上記マウスに移植され得、上記免疫関連有害事象に対する得られる腫瘍の効果が特徴づけられ得る。試験される腫瘍特性としては、総腫瘍負荷、治療から生じる腫瘍溶解、腫瘍関連抗原の放出(例えば、腫瘍免疫としての照射した腫瘍細胞の注射)、または上記腫瘍の特異的特性(例えば、特異的遺伝子の特異的変異または活性)が挙げられ得る。
【0014】
本明細書で使用される場合、「本質的にない」とは、特定の構成要素に関して、上記特定の構成要素が組成物へと目的を持って製剤化されていないおよび/または夾雑物としてまたは微量でのみ存在することを意味するために、本明細書で使用される。組成物の何らかの意図しない夾雑から生じる上記特定される構成要素の総量は、従って、0.05%を十分に下回り、好ましくは0.01%を下回る。上記特定の構成要素の量が、標準的な分析方法で検出できない組成物は、最も好ましい。
【0015】
ここで本明細書において使用される場合、「1つの、ある(a)」または「1つの、ある(an)」は、1またはこれより大きい、を意味し得る。ここで請求項において使用される場合、文言「含む、包含する」とともに使用される場合、文言「1つの、ある(a)」または「1つの、ある(an)」は、1または1より大きい、を意味し得る。
【0016】
請求項において用語「または」の使用は、選択肢のみに明示的に言及するのでなければ、またはその選択肢が相互に排他的であるのでなければ「および/または」を意味するために使用されるが、本開示は、選択肢および「および/または」のみに言及する定義を支持する。本明細書で使用される場合、「別の、もう1つの」とは、少なくとも第2のまたはこれより多い、を意味し得る。
【0017】
本出願全体を通じて、用語「約」とは、1つの値が、デバイスに関して本質的な誤差の変動、上記値を決定するために使用される方法、または研究被験体の中で存在するバリエーションを含むことを示すために使用される。
【0018】
本発明の他の目的、特徴および利点は、以下の詳細な説明から明らかになる。しかし、詳細な説明および具体例は、本発明の趣旨および範囲内の種々の変更および改変がこの詳細な説明から当業者に明らかになることから、本発明の好ましい実施形態を示すと同時に、例証によって与えられるに過ぎないことは、理解されるべきである。
本発明はまた、以下の項目を提供する。
(項目1)
マウスであって、前記マウスのゲノムが、(i)Ctla4遺伝子のヘテロ接合性機能喪失型アレルおよび(ii)Pdcd1遺伝子のホモ接合性機能喪失型アレルを含む、マウス。
(項目2)
前記マウスは、C57BL/6J遺伝子バックグラウンドを有する、項目1に記載のマウス。
(項目3)
前記Ctla4遺伝子のヘテロ接合性機能喪失型アレルは、前記Ctla4遺伝子のエキソン3へのネオマイシン耐性カセットのヘテロ接合性挿入としてさらに規定される、項目1に記載のマウス。
(項目4)
前記Pdcd1遺伝子のホモ接合性機能喪失型アレルは、前記Pdcd1遺伝子のエキソン2および3のホモ接合性欠失としてさらに規定される、項目1に記載のマウス。
(項目5)
前記マウスは、Ctla4 tm1All Pdcd1 tm1.1Shr マウスである、項目1に記載のマウス。
(項目6)
前記マウスは、自己免疫に罹患している、項目1に記載のマウス。
(項目7)
前記自己免疫は、心臓の自己免疫または膵臓の自己免疫である、項目6に記載のマウス。
(項目8)
前記心臓の自己免疫は、心筋炎である、項目7に記載のマウス。
(項目9)
前記心筋炎は、劇症型心筋炎である、項目8に記載のマウス。
(項目10)
前記膵臓の自己免疫は、インスリン依存性糖尿病である、項目7に記載のマウス。
(項目11)
前記膵臓の自己免疫は、膵臓外分泌破壊または膵島破壊を含む、項目7に記載のマウス。
(項目12)
前記自己免疫は、リンパ球性心筋炎、動脈内膜炎、膵臓外分泌破壊、肺血管炎、脂肪組織萎縮、肝臓の炎症、女性生殖器の萎縮、消化管の炎症、滑膜炎、または腎臓、唾液腺、涙腺もしくは胃のリンパ球浸潤である、項目6に記載のマウス。
(項目13)
前記マウスは雌性マウスである、項目1~12のいずれか1項に記載のマウス。
(項目14)
前記マウスは雄性マウスである、項目1~12のいずれか1項に記載のマウス。
(項目15)
項目1~14のいずれか1項に記載のマウスから単離された細胞。
(項目16)
前記細胞は免疫細胞である、項目15に記載の細胞。
(項目17)
前記細胞はT細胞である、項目15に記載の細胞。
(項目18)
項目1~14のいずれか1項に記載のマウスにおいて少なくとも1種の候補因子をスクリーニングするための方法であって、前記方法は、1種またはこれより多くの候補因子を前記マウスに投与する工程を包含する方法。
(項目19)
前記少なくとも1種の候補因子を、(i)ホモ接合性野生型Ctla4遺伝子および(ii)Pdcd1遺伝子のホモ接合性機能喪失型アレルを含むマウスにおいてスクリーニングする工程をさらに包含する、項目18に記載の方法。
(項目20)
前記少なくとも1種の候補因子を、(i)ホモ接合性野生型Ctla4遺伝子および(ii)ホモ接合性野生型Pdcd1遺伝子を含むマウスにおいてスクリーニングする工程をさらに包含する、項目18に記載の方法。
(項目21)
前記少なくとも1種の候補因子を、(i)ホモ接合性野生型Ctla4遺伝子および(ii)Pdcd1遺伝子のヘテロ接合性機能喪失型アレルを含むマウスにおいてスクリーニングする工程をさらに包含する、項目18に記載の方法。
(項目22)
前記少なくとも1種の候補因子を、(i)Ctla4遺伝子のヘテロ接合性機能喪失型アレルおよび(ii)ホモ接合性野生型Pdcd1遺伝子を含むマウスにおいてスクリーニングする工程をさらに包含する、項目18に記載の方法。
(項目23)
前記少なくとも1種の候補因子を、(i)Ctla4遺伝子のヘテロ接合性機能喪失型アレルおよび(ii)Pdcd1遺伝子のヘテロ接合性機能喪失を含むマウスにおいてスクリーニングする工程をさらに包含する、項目18に記載の方法。
(項目24)
前記少なくとも1種の候補因子は、免疫関連有害事象または免疫関連状態の発生を加速するその能力に関してスクリーニングされる、項目18~23のいずれか1項に記載の方法。
(項目25)
前記少なくとも1種の候補因子は、免疫関連有害事象または免疫関連状態の重篤度を増悪させるその能力に関してスクリーニングされる、項目18~23のいずれか1項に記載の方法。
(項目26)
前記少なくとも1種の候補因子は、前記マウスの集団において免疫関連有害事象または免疫関連状態の浸透度を増大させるその能力に関してスクリーニングされる、項目18~23のいずれか1項に記載の方法。
(項目27)
前記少なくとも1種の候補因子は、免疫関連有害事象または免疫関連状態を軽減するその能力に関してスクリーニングされる、項目18~23のいずれか1項に記載の方法。
(項目28)
免疫関連有害事象または免疫関連状態を軽減することは、前記免疫関連有害事象または免疫関連状態の発生を防止することとしてさらに規定される、項目27に記載の方法。
(項目29)
免疫関連有害事象または免疫関連状態を軽減することは、前記免疫関連有害事象または免疫関連状態の重篤度を減少させることとしてさらに規定される、項目27に記載の方法。
(項目30)
前記少なくとも1種の候補因子は、有効性に関してスクリーニングされる、項目18~23のいずれか1項に記載の方法。
(項目31)
前記候補因子は、抗がん療法である、項目18~30のいずれか1項に記載の方法。
(項目32)
前記候補因子は、病原体、ストレス、傷害、および/または食事である、項目18~30のいずれか1項に記載に記載の方法。
(項目33)
前記候補因子は、同系腫瘍細胞である、項目18~30のいずれか1項に記載の方法。
(項目34)
前記候補因子は、CTLA-4免疫グロブリン融合タンパク質、ステロイド、免疫細胞の特異的集団を除去する因子、サイトカイン調節因子、または免疫抑制剤である、項目18~30のいずれか1項に記載の方法。
(項目35)
前記免疫関連有害事象は、自己免疫である、項目24~29のいずれか1項に記載の方法。
(項目36)
前記免疫関連状態は、自己免疫状態である、項目24~29のいずれか1項に記載の方法。
(項目37)
前記免疫関連有害事象は急性である、項目24~29のいずれか1項に記載の方法。
(項目38)
前記免疫関連有害事象は慢性である、項目24~29のいずれか1項に記載の方法。
(項目39)
前記免疫関連状態は慢性である、項目24~29のいずれか1項に記載の方法。
(項目40)
前記免疫関連状態は急性である、項目24~29のいずれか1項に記載の方法。
(項目41)
前記免疫関連有害事象または免疫関連状態は、炎症である、項目24~29のいずれか1項に記載の方法。
(項目42)
前記炎症は、急性または慢性である、項目41に記載の方法。
(項目43)
前記免疫関連有害事象または免疫関連状態は、ヒトにおいてチェックポイント遮断療法によって誘導される自己免疫を表すかまたはヒトにおいて免疫関連有害事象を表す自己免疫である、項目24~29のいずれか1項に記載の方法。
(項目44)
前記免疫関連有害事象または免疫関連状態は、心臓の自己免疫または膵臓の自己免疫である、項目24~29のいずれか1項に記載の方法。
(項目45)
前記心臓の自己免疫は、心筋炎である、項目44に記載の方法。
(項目46)
前記心筋炎は、劇症型心筋炎である、項目45に記載の方法。
(項目47)
前記膵臓の自己免疫は、インスリン依存性糖尿病である、項目44に記載の方法。
(項目48)
前記膵臓の自己免疫は、膵臓外分泌破壊または膵島破壊を含む、項目44に記載の方法。
(項目49)
前記免疫関連有害事象または免疫関連状態は、リンパ球性心筋炎、動脈内膜炎、膵臓外分泌破壊、肺血管炎、脂肪組織萎縮、肝臓の炎症、女性生殖器の萎縮、消化管の炎症、滑膜炎、または腎臓、唾液腺、涙腺もしくは胃のリンパ球浸潤である、項目24~29のいずれか1項に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0019】
本特許または本出願のファイルは、少なくとも1枚のカラー仕上げの図面を含む。この特許または特許出願公報のカラーズ面付きの写しは、請求および必要な料金の支払いをすれば、当局によって提供される。
【0020】
図1図1A~C。Ctla4とPdcd1との間の遺伝的相互作用は、致死的なハプロ不全表現型を明らかにする。(図1A)Ctla4およびPdcd1ノックアウトアレルを有するトランスジェニックC57BL6/Jマウスのカプラン・マイアー生存曲線(n=138 全マウス(n=5 Ctla4+/+ Pdcd1+/+、n=6 Ctla4+/+ Pdcd1+/-、n=32 Ctla4+/+ Pdcd1-/-、n=10 Ctla4+/- Pdcd1+/+、n=50 Ctla4+/- Pdcd1+/-、n=14 Ctla4+/- Pdcd1-/-、n=14 Ctla4-/- Pdcd1+/+、およびn=7 Ctla4-/- Pdcd1+/-マウス))。マウスは、Pdcd1およびCtla4機能喪失型アレルがtransにあるCtla4+/- Pdcd1+/-マウスのインタークロスに由来した。個々のマウスを、育種に使用される場合またはデータ分析時に生きている場合に打ち切った。死亡事象を、マウスの死亡が見出された場合、または安楽死を要すると動物スタッフが特定した場合と定義した。(図1B)雄性Ctla4+/- Pdcd1-/-および雌性Ctla4+/+ Pdcd1-/-マウスの交配育種に由来するCtla4+/- Pdcd1-/-(n=102)および同腹仔Ctla4+/+ Pdcd1-/-(n=106)マウスのカプラン・マイアー生存曲線。(図1C)マウス性別(n=24および29、雄性および雌性Ctla4+/- Pdcd1-/-; n=38および22、雄性および雌性Ctla4+/+ Pdcd1-/-)によって層別化したCtla4+/- Pdcd1-/-および同腹仔Ctla4+/+ Pdcd1-/-マウスのカプラン・マイアー生存曲線。0.05未満のMantel-Coxログランクp値とのペアワイズ比較を、示す。
【0021】
図2-1】図2A~D。PD-1の非存在下でのCtla4の単一アレル喪失は、50% 浸透度に伴う死亡率をもたらす。(図2A)症候性Ctla4+/- Pdcd1-/-および同腹仔コントロールCtla4+/+ Pdcd1-/-マウスの全体重。(図2B)年齢の関数としてプロットしたCtla4+/- Pdcd1-/-および同腹仔コントロールCtla4+/+ Pdcd1-/-マウスの全体重。安楽死を要すると特定されるCtla4+/- Pdcd1-/-マウスを、特定する。いかなる症状をも示さずに死亡していることが見出されたCtla4+/- Pdcd1-/-マウスの体重は、記録できなかったので、ここには含めなかった。(図2C)表現型が影響を受けない、年齢が4~10ヶ月齢のCtla4+/- Pdcd1-/-、同腹仔コントロールCtla4+/+ Pdcd1-/-マウス、および症候性Ctla4+/- Pdcd1-/-マウスの血清化学検査を、行った。有意に上昇したレベルのALT、AST、およびLDHは、症候性Ctla4+/- Pdcd1-/-マウスにおいて観察された。(図2D)インビトロで刺激したT細胞における全CTLA4タンパク質レベルの代表的プロットを、フローサイトメトリーによって評価した。Ctla4+/+ Pdcd1-/-マウスに由来するT細胞におけるCTLA4発現レベルを破線としてプロットし、Ctla4+/- Pdcd1-/- T細胞のものを実線としてプロットした、定量的データを図10Dに示す。
図2-2】同上。
【0022】
図3-1】図3A~E。Ctla4+/- Pdcd1-/-マウスは、多数の組織において自己免疫を発生させる。(図3A)Ctla4+/- Pdcd1-/-およびCtla4+/+ Pdcd1-/-マウスのH&E染色したFFPE膵臓組織切片の画像。(図3B)Ctla4+/- Pdcd1-/-およびCtla4+/+ Pdcd1-/-マウスのH&E染色したFFPE心臓組織切片の画像。(図3C, 上パネル)心臓および膵臓組織におけるリンパ球浸潤スコアの定量。(図3C, 下パネル)膵臓および心臓組織切片における全T細胞の定量。(図3D)グラフは、心臓組織における全CD3およびリンパ球浸潤スコアの定量を示す。(図3E)パネルは、Ctla4+/- Pdcd1-/-マウスの心臓組織の代表的組織画像を示す。低倍率のH&E染色(左上)およびCD3免疫組織化学(右上)画像を、示す。矢印は、免疫浸潤の例示的領域を示す。下の列: CD3(T細胞マーカー)、CD4(T細胞マーカー)、CD8(T細胞マーカー)、およびF4/80(マクロファージマーカー)の免疫組織化学染色の高倍率での組織画像。これは、Ctla4+/- Pdcd1-/-マウスの心臓組織へのこれらの細胞サブタイプの各々の浸潤の例である。
図3-2】同上。
図3-3】同上。
【0023】
図4図4。Ctla4+/- Pdcd1-/-マウスにおける免疫応答の分子的特徴付け。Ctla4+/- Pdcd1-/-およびCtla4+/+ Pdcd1-/-マウスのリンパ節、心臓および膵臓組織におけるTCR配列決定によって評価されるT細胞クローン性。
【0024】
図5-1】図5A~F。プロテオミクス分析は、Ctla4の1コピー喪失に起因する非常に微妙な分子変化を明らかにする。(図5A)Ctla4-/-、Ctla4+/-、およびCtla4+/+マウスのリンパ節のRPPA分析の主成分分析プロット。(図5B)有意に調節されるタンパク質の発現を、二元の教師なしの階層的クラスター分析)によって体系化したヒートマップとして示した。(図5C~E)野生型 対 ヘテロ接合性マウス(図5C)、野生型 対 Ctla4ノックアウト(図5D)、およびヘテロ接合性 対 Ctla4ノックアウトマウス(図5E)を比較するタンパク質発現のボルケーノプロット。(図5F)細胞周期と関連する特異的タンパク質の発現値を、マウスあたりを基本にしてプロットした。野生型マウスとヘテロ接合性マウスとの間でテューキーの多重比較 p<0.05を有するタンパク質を示す。
図5-2】同上。
図5-3】同上。
図5-4】同上。
図5-5】同上。
図5-6】同上。
【0025】
図6-1】図6A~E。転写分析は、機能的PD-1の文脈においてCtla4の単一コピー喪失に起因する変化はほとんどまたは全くないことを明らかにする。(図6A)Ctla4-/-および同腹仔コントロールマウス(全てホモ接合性野生型Pdcd1)のリンパ節のNanostring遺伝子発現分析の主成分分析プロット。(図6B)有意に調節されるタンパク質の発現を、二元の教師なしの階層的クラスター分析によって体系化したヒートマップとして示した。(図6C~E)野生型 対 ヘテロ接合性マウス(図6C)、野生型 対 Ctla4ノックアウト(図6D)、およびヘテロ接合性 対 Ctla4ノックアウトマウス(図6E)を比較するタンパク質発現のボルケーノプロット。
図6-2】同上。
図6-3】同上。
図6-4】同上。
図6-5】同上。
【0026】
図7-1】図7。Ctla4+/- Pdcd1-/-マウスは、ほぼ純粋なC57BL6/J系統バックグラウンドに接しており、分離SNPsは、病理と関連しない。病原性(影響あり)および非病原性(影響なし)Ctla4+/- Pdcd1-/-マウスの系統バックグラウンドを評価する100-SNPパネル。全ての試験したマウスは、97~100% C57BL6/Jアレルを有した。
図7-2】同上。
図7-3】同上。
図7-4】同上。
図7-5】同上。
【0027】
図8図8。分離SNPsは、Ctla4+/- Pdcd1-/-マウスの病理と関連しない。全てのマウスにわたる非ホモ接合性B6アレルの頻度を、試験した各SNPに関して示す。非ホモ接合性B6遺伝子座を、B6/129に関してヘテロ接合性または129アレルに関してホモ接合性のいずれかとして定義する。
【0028】
図9図9A~B。 Ctla4およびPdcd1の複合機能喪失型アレルを有するトランスジェニックマウスの生成および特徴付け。(図9A)Ctla4およびPdcd1機能喪失型変異アレルの全ての潜在的組み合わせを生成する育種スキームの模式図。(図9B)クラスI(死亡する前に臨床症状を示したマウス)およびクラスII(症状を示す前に死亡したマウス)のCtla4+/- Pdcd1-/-マウスの死亡年齢。
【0029】
図10-1】図10A~D。Ctla4+/- Pdcd1-/-マウスの広い組織学的特徴付けは、多数の組織の自己免疫を明らかにする。(図10A)組織における免疫浸潤のスコアを、Ctla4+/- Pdcd1-/-および同腹仔コントロールマウスの組織学分析に基づいて示した。(図10B)組織学によって分析した肝臓組織の面積あたりの肝壊死および/または炎症の病変の数。(図10C)Ctla4+/- Pdcd1-/-および同腹仔コントロールマウスにおける肺脂肪組織萎縮のスコア。(図10D)インビトロで刺激したT細胞における全CTLA-4タンパク質レベルの定量をフローサイトメトリーによって評価した。Ctla4+/+ Pdcd1-/-マウスに由来するT細胞におけるCTLA-4発現レベルを点線としてプロットし、Ctla4+/- Pdcd1-/- T細胞のものを実線としてプロットする。
図10-2】同上。
【0030】
図11-1】図11A~B。Ctla4+/- Pdcd1-/-マウスにおける心臓および膵臓組織の病理。(図11A)グラフは、膵臓組織からのさらなる組織定量を示す。(図11B)グラフは、血清抗体濃度の定量を示す。
図11-2】同上。
【0031】
図12図12A~D。Ctla4の単一アレル喪失は、減少したCTLA-4タンパク質をもたらす。(図12A~D)Ctla4+/- Pdcd1-/-、同腹仔 Ctla4+/+ Pdcd1-/-、およびC57BL6/Jマウスに由来するCD8T細胞(AおよびB)およびCD4T細胞(CおよびD)における全CTLA-4のフローサイトメトリー分析。
【発明を実施するための形態】
【0032】
詳細な説明
T細胞活性化は、陰性共刺激を含む広い範囲の機構を介して厳密に調節されるが、個々の分子メディエーターが機能的に相互作用する程度は、不明確なままである。CTLA4およびPD-1は、別個の分子機構および細胞機構を利用するT細胞活性化の重要な負の調節因子である。CTLA4およびPD-1は、ともにT細胞の陰性共刺激分子であり、その機能は、T細胞活性を減弱することである。これらの分子は、別個の分子機構を利用して、これらの機能を実行する。これらの分子機構は、大部分は別個の細胞シグナル伝達経路によって媒介される(Weiら, 2018)。CTLA4の主な機能は、B7リガンドの結合(B7-1/CD80、B7-2/CD86)に関して競合することであり、これは、CD28陽性共刺激および下流のPI3K/AKTシグナル伝達における低減をもたらす。PD-1の主な機能は、そのリガンドPD-L1/PD-L2への結合の際に、近くのT細胞レセプターシグナル伝達を阻害することである;しかし、CD28シグナル伝達の阻害はまた、PD-1の顕著な機能として報告されている(Huiら, 2017)。抗体媒介性遮断は、リガンド結合を防止することによって、これらの機能を阻害する。シグナル伝達能力のこの喪失および結論としての下流の生物学的事象は、Ctla4およびPdcd1の機能喪失型アレルの組み合わせを経る遺伝的手段によってモデル化され得る。
【0033】
本発明者らは、CTLA4およびPD-1によって課される調節機構が、機能的に非依存性であるかまたは依存性であるかを理解しようとし、マウスにおいてCtla4とPdcd1(PD-1をコードする)との間の遺伝的相互作用の証拠を見出した。Pdcd1の完全な遺伝的非存在の文脈におけるCtla4の単一アレル喪失は、マウスのうちのおよそ半数において死亡をもたらした。死亡率は、膵臓および心臓を含む多数の組織における自己免疫によって引き起こされた(例えば、図3Eを参照のこと)。対照的に、同腹仔Ctla4+/+ Pdcd1-/-またはCtla4+/- Pdcd1+/-では、死亡または重篤な表現型は観察されなかった。これらのデータは、Ctla4がPdcd1ヌルバックグラウンドの文脈において条件付きのハプロ不全を示すことを明らかにする。合わせると、これらの所見は、CTLA4およびPD-1が機能的に相互作用し、陰性共刺激分子が用量依存性かつ相加的様式で、T細胞活性化を減弱する閾値モデルを支持することを示す。
【0034】
この動物モデルは、疾患病因論の研究および免疫関連有害事象の生成を調節する因子の同定を可能にする。この動物モデルは、心臓および膵臓(ならびに他の器官)において自己免疫を発生させ、これは、致命的な心筋炎(心臓の炎症)およびI型糖尿病(膵臓の自己免疫破壊)がヒト患者において抗CTLA4および抗PD-1併用療法と関連する希であるが非常に重度のな合併症の2つのタイプであることから、重要である。このモデルはまた、チェックポイント遮断と関連する自己免疫有害事象の他のタイプ(例えば、消化管)をモデル化することができるようである。記載されるトランスジェニックマウスモデルは、抗CTLA4と抗PD-1免疫チェックポイント遮断(すなわち、T細胞共刺激レセプターCTLA4およびPD-1を標的化するモノクローナル抗体の処置)との併用のモデルとして使用され得る。PD-1の遺伝的喪失およびCTLA4の単一コピー喪失は、陰性共刺激活性が低減され、モデル化される類似のシナリオにおいてこの治療をモデル化する。従って、CTLA4およびPD-1を調節するこの遺伝的モデルは、チェックポイント遮断療法に起因する免疫関連有害事象の現象を再現する。これは、チェックポイント遮断療法と関連する有害事象を忠実に再現する動物モデルは現在存在しないことから、特に注目に値する。抗CTLA4および抗PD-1チェックポイント遮断併用療法は、黒色腫および腎細胞癌の処置に関して(250超の進行中の臨床試験とともに)現在承認されている。
【0035】
さらに、このマウス系統バックグラウンドは、C57BL6/Jであり、これは、腫瘍免疫学研究のためにこのバックグラウンドの広範囲にわたる使用が原因で、および同様に、このバックグラウンドが通常、自己免疫を誘導することが非常に困難であることから、注目に値する。これは、この表現型が高い生物学的障壁を満足させることを示唆する。また、外因性抗原を導入しなかった(例えば、トランスジェニックウイルス)ので、この自己免疫を駆動するように認識されている抗原は、チェックポイント遮断療法を受ける患者の状況においてあてはまると推測されるように、自己抗原である。さらに、自己免疫および免疫関連疾患病因論の多数のタイプがこの動物モデルにおいて起こることから、これは、これらの疾患の間の関係性の調査を可能にする。
【0036】
従って、このマウスモデルは、これら有害事象がどのように誘導されるかを理解するために、ならびにこのような有害事象および自己免疫を軽減することを目的とする治療の有効性を試験するために使用され得る。このような調査は、治療有効性を保持しかつ有害事象、特に、希で非常に重篤な自己免疫の誘導を低減する次世代の免疫療法をデザインするためにおそらく必要である。
【0037】
I.本発明の局面
T細胞陰性共刺激遺伝子Ctla4とPdcd1(PD-1をコードする)との間の遺伝的相互作用は、本明細書で同定される。この遺伝的相互作用は、Pdcd1の完全な非存在下の文脈においてCtla4の条件付きハプロ不全として現れ、これは、致命的な全身性の自己免疫をもたらす。根本的な観点から、この観察は、T細胞レセプター(TCR)シグナル混乱の多数の原因が、異常なT細胞活性化を生じる可能性が増し得るT細胞活性化の閾値モデルを支持する。これは、CTLA4およびPD-1調節シグナルが機能的に統合され、一緒に重大な緩和システムを提供して、T細胞活性化を抑制することを示す。分子レベルでは、Pdcd1およびCtla4の併用遺伝子投与量の減少は、細胞に内在する様式で、T細胞活性化を減弱する全体的な能力を制限し得る
【0038】
T細胞活性化の基本的機構への重要な洞察に加えて、これらの所見は、がん免疫チェックポイント遮断の状況において注目に値する臨床的関与を有する。抗CTLA4と抗PD-1との併用療法は、進行性黒色腫および腎細胞癌を含む多数の腫瘍タイプにおいて有効である。抗CTLA4および抗PD-1免疫チェックポイント遮断は、別個の細胞機構を利用することが公知である(Dasら, 2015; Weiら, 2017)。本発明の所見の文脈の中で解釈すると、これらの別個の細胞機構は、おそらく機能的に相互作用し、これは、部分的には、単剤療法に対する併用療法の増強された有効性を説明し得る(Curranら, 2010; Postowら, 2015; Wolchokら, 2013)。本発明の所見にさらにより関連して、免疫チェックポイント遮断療法は、重度の免疫関連有害事象および希な場合には、正真正銘の自己免疫(例えば、心筋炎およびI型糖尿病)を誘導し得る。Ctla4+/- Pdcd1-/-マウスは、前臨床的動物モデルを提供し、これを用いて、CTLA4およびPD-1シグナル伝達の喪失によって誘導される自己免疫を研究する。これは、このモデルにおいて観察される自己免疫が、ヒト患者において抗CTLA4と抗PD-1との併用チェックポイント遮断療法の後に生じ得る心筋炎およびI型糖尿病を厳密に反映することを考慮すれば、特に注目に値する。さらなる機械論的理解は、免疫チェックポイント遮断療法の有効性および有害事象を媒介する免疫学的応答の局面を区別しかつ特異的に調節する可能性を提供する。
【0039】
興味深いことに、Ctla4+/- Pdcd1-/-マウスにおいて発生する自己免疫は、特定の解剖学的部位において繰り返し現れる。特定の組織部位が、PD-1およびCTLA4シグナル伝達の喪失によって誘導される自己免疫に対してより高感度である理由は、重大で解決のつかない問題のままである。これらの部位に由来する組織特異的抗原は、陰性共刺激の非存在下での自己免疫認識に特に罹りやすくすることが考えられる。あるいは、組織感受性は、以前に観察されている組織特異的Treg集団間の機能的差異に起因することが考えられる(Legouxら, 2015)。
【0040】
とりわけ、CTLA4のヘテロ接合性生殖系列機能喪失型アレルは、非常に変化しやすい臨床像を伴う免疫調節異常をもたらす(Kuehnら, 2014; Schubertら, 2014)。これは、ヒトにおけるCTLA4の単一コピー喪失が病原性であり、さらに、他の遺伝的および/または環境的因子との遺伝的相互作用を強く示唆する。ヒトまたはマウスにおけるCTLA4の単一コピー喪失(PD-1の非存在下で)は、T細胞活性化閾値を、トニックTCRシグナル伝達が到達し得るレベルへと低下させ、従って、確率論的プロセスは、CTLA4欠損ヒトおよびマウスにおける臨床像の相違を説明し得ることも考えられる。未解決の問題は、他のT細胞共刺激分子またはそれらの機能に関与する分子が、Pdcd1およびCtla4と遺伝的に相互作用する程度である。例えば、LRBA(CTLA4トラフィッキングの重要な調節因子)の機能喪失型アレルを有する患者は、機能喪失型CTLA4を有する患者と類似の自己免疫表現型を示す(Besnardら, 2018; Houら, 2017)。
【0041】
CTLA4とPD-1との間の遺伝的相互作用の重要な所見に加えて、本発明の所見はまた、Ctla4およびPdcd1の同時の遺伝的欠損が、胚致死性であることを示唆する。これは、αβ T細胞が、生後まで出現しないことを考慮すれば、驚くべきことである(Havran and Allison, 1988)。これが起こる機構は不明確なままであるが、2つの大きな可能性が存在する。それら可能性はともに、極めて興味をそそるものである。第1の可能性は、CTLA4およびPD-1がγδ T細胞の活性化を拘束することである。これは、胚発生の間にE14程度の早さで出現する。第2の可能性は、CTLA4およびPD-1が、発生の間に未だ同定されていない非免疫学的機能を有し得ることである。
【0042】
結論として、本発明の所見は、Ctla4とPdcd1との間の遺伝的相互作用を明らかにする。これは、CTLA4およびPD-1の調節機構の間の機能的相互作用に関する決定的な証拠を提供する。さらに、これは、抗CTLA4と抗PD-1との併用免疫チェックポイント遮断療法によって誘導される免疫関連有害事象をモデル化する強い動物を提供する。
【実施例
【0043】
II.実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すために含められる。以下の実施例の中で開示される技術が、本発明の実施において十分に機能することが本発明者らによって発見された技術を表し、従って、その実施のために好ましい態様を構成すると考えられ得ることは、当業者によって認識されるべきである。しかし、当業者は、本開示に照らして、多くの変更が、開示される具体的実施形態の中で行われ得、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、同様のまたは類似の結果をなお得ることができることを認識するべきである。
【0044】
材料および方法
マウス。Ctla4tm1Allマウス(Chambersら, 1997)を、The Jackson Laboratory(021157)から購入したPdcd1ノックアウトマウス(Pdcd1tm1.1Shr)(Keirら, 2007)に交配した。Pdcd1ノックアウトマウスを、この交配の前にC57BL/6Jに一度戻し交配した。得られたF1 Ctla4+/- Pdcd1+/-マウスを、インタークロスして、その2つの遺伝子の野生型および変異アレルの全ての可能な組み合わせを生成した。この第1の育種スキームは、Ctla4+/-(これは、Pdcd1に関して野生型である)およびPdcd1-/-マウス(これは、Ctla4に関して野生型である)の交配から得られるF1マウスを具体的に利用した。この育種スキームは、F1マウスにおけるCtla4およびPdcd1の変異アレルがtransにあり、従って、組換え頻度が計算され得ることを担保する(図9A)。Ctla4とPdcd1との間の遺伝的距離を、この交配における組換え数および全事象を評価することによって計算した。その観察された組換え頻度17.03cMは、Mouse Phenome Database(MPD, RRID:SCR_003212)によって報告されるCtla4とPdcd1との間の16.89センチモルガン遺伝的距離と密接に並んだ(Bogueら, 2018)。これの予測された遺伝的距離は、この育種スキームにおいて観察された組換え頻度と一致した。
【0045】
上記第1の育種スキームからの所見を検証するために、第2の関連する育種スキームを利用した。重要なことには、この育種アプローチは、異なる遺伝子型を利用し、その変異アレルは、cisまたはtransのいずれかにあり得るので、そのアプローチは、Ctla4+/- Pdcd1-/-(実験用)およびCtla4+/+ Pdcd1-/-(コントロール同腹仔)を1:1比で生成する。これは、最初の育種アプローチにおけるより多くのCtla4+/- Pdcd1-/-マウスの生成を可能にする。具体的には、雄性Ctla4+/- Pdcd1-/-および雌性Ctla4+/+ Pdcd1-/-を育種した。雌性Ctla4+/+ Pdcd1-/-を使用して、Ctla4+/- Pdcd1-/-において観察される自己免疫が、致死的な母子間寛容または生存できる同腹仔を生じる能力に影響を与え得る可能性を排除する。
【0046】
生存曲線の生成のために、事象を、死亡(すなわち、マウスが死亡していると見出された)または安楽死を要すると動物スタッフによってマウスが同定される(例えば、不活発、瀕死状態、呼吸困難に起因する)のいずれかとして定義した。安楽死を要すると特定されたマウスに関しては、死亡日を、そのマウスが動物スタッフによって知らされた日として定義した。死亡率と関連する動物表現型を同定し、動物スタッフが報告した。育種のために利用したマウスを、この目的のためにそれらを利用した時点で生存分析から打ち切った。
【0047】
全てのマウスを、The University of Texas MD Anderson Cancer Center South Campus Vivarium、AAALAC認定の特定病原体のない動物施設において飼育した。全ての実験を、The University of Texas MD Anderson Cancer Center動物実験委員会(IACUC)ガイドラインに従って行った。
【0048】
遺伝子型決定。ゲノムDNAを、Direct-to-PCR消化ミックスを使用して単離し、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)ベースの遺伝子型決定を、Ctla4およびPdcd1ノックアウトマウスに関して行った。プライマーを表1に提供する。Ctla4tm1Allマウスを、以前に記載されるように遺伝子型決定した(Chambersら, 1997)。Ctla4野生型および変異アレルに関して予測されるバンドサイズは、それぞれ、約75および約150bpである。Pdcd1ノックアウトマウスを、以前に記載されるように遺伝子型決定した(Keirら, 2007)。Pdcd1野生型および変異アレルに関して予測されるバンドサイズは、それぞれ、418および350bpである。
【表1】
【0049】
SNPタイピング。粗製ゲノムDNA溶解物を、100マーカーパネルを使用するSNPタイピングのために、The University of Texas MD Anderson Cancer Center Laboratory Animal Genetics Services コア施設に提出した。遺伝的改変体が自己免疫と関連するか否かを決定する目的で、「影響なし」マウスを、いかなる症状をも現さなかったかまたは6ヶ月齢以内に死亡しなかったマウスとして定義し、「影響あり」マウスを、症状を現し、疾患のために死亡したクラスIマウスとして定義した。
【0050】
病理分析。動物剖検を、The University of Texas MD Anderson Cancer Center獣医学組織研究室またはAllison研究室において職員が行った。Cobas Integra 400Plus(Roche Diagnostics, Risch-Rotkreuz, Switzerland)を使用する自動化血清化学分析を、安楽死時に集めた血液サンプルに対して行った。ホルマリン固定組織を、パラフィンブロックへと慣用的に処理し、5ミクロンの切片にし、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。さらなる切片を、CD3に対して指向される抗体(ab16669, Abcam, Cambridge, MA)、続いて、色素生成検出のための二次試薬(Bond Polymer Refine Detection system, DS9800, Leica, Buffalo Grove, IL)を使用して、目的の特定の組織の免疫組織化学(IHC)染色のために使用した。染色した切片を、Leica DFC495カメラおよびLeica Application Suite v4.12ソフトウェア付きのLeica DM2500顕微鏡を使用して、獣医病理学者が調べた。組織変化を、0=病変なしから4=重篤な病変までの半定量的スケールを使用してスコア付けした。
【0051】
フローサイトメトリー。プラスチックシリンジの後ろを使用して、70μmフィルターを通して、プールした鼠径リンパ節、腋窩リンパ節、および上腕リンパ節をすり潰すことによって、10% FBSおよび1% ペニシリンストレプトマイシンを補充したRPMI-1640の中に、リンパ節に由来する単一細胞懸濁物を調製した。96ウェル平底プレートに、PBS中の1μg/ml 抗CD3εおよび2μg/ml 抗CD28を前夜に4℃において一晩、200μl/ウェルでコーティングした。次いで、細胞を、CellTrace Violet Proliferationキットで製造業者のプロトコール(Invitrogen, C34557)に従って染色した。各サンプルについて3連で、10% FBS、ピルビン酸ナトリウム、0.1% b-ME、およびP/Sを補充した200μlのRPMI-1640中、1ウェルあたり10 細胞/mLをプレートし、37℃で46時間インキュベートした。次いで、細胞をU底96ウェルプレートに移し、FACS緩衝液で2回洗浄し、2%の各ウシ、マウス、ラット、ハムスター、およびウサギ血清PBSと、25mg/mL 2.4G2抗体とともに、4℃で10分間インキュベートし、その後、50mL容積において、抗体カクテルで4℃において30分間、表面染色した。細胞をFACS緩衝液で2回洗浄し、次いで、FoxP3固定および透過化キットを使用して、製造業者のプロトコール(eBioscience)を使用して固定および透過化した。細胞を、その後、室温において30分間、細胞内抗体カクテルで染色した。次いで、細胞を、Foxp3透過化緩衝液で2回、次いで、FACS緩衝液で2回洗浄し、LSRII(BD)で分析した。
【0052】
表面染色(restim)のために、以下の抗体を使用した: LIVE/DEADTM Fixable Blue Dead Cell Stain L23105(ThermoFisher); BV786ハムスター抗マウスCD3e(クローン145-2C11, 564379(BD)); Brilliant Violet 605抗マウスTCR β鎖抗体(クローン)H57-597, 109241(BioLegend)); Brilliant Violet 650抗マウスCD19抗体(クローン6D5, 115541(BioLegend)); FITC抗マウスCD4抗体(クローンRM4.5, 11-0042-82(ebio)); PE抗マウスCD152抗体(クローンUC10-4B9, 106306(BioLegend)); PEアルメニアンハムスターIgGアイソタイプコントロール抗体(クローンHTK888, 400908(Biolegend); APC抗マウスCD8a抗体(クローン53-6.7, 17-0081-82(ebio));およびAlexa Fluor 700抗マウスCD45.2抗体(クローン104, 56-0454-82(ebio))。IC染色(restim)に関しては、以下の抗体を使用した: BV786ハムスター抗マウスCD3e(クローン145-2C11, 564379(BD)); Brilliant Violet 605抗マウス TCR β鎖抗体(クローンH57-597, 109241(BioLegend)); FITC抗マウスCD4抗体(クローンRM4.5, 11-0042-82(ebio)); PE抗マウスCD152(CTLA-4)抗体(クローンUC10-4B9, 106306(BioLegend)); PEアルメニアンハムスターIgGアイソタイプCTLA-4コントロール抗体(クローンHTK888, 400908(BioLegend));およびAPC抗マウスCD8a抗体(クローン53-6.7, 17-0081-82(ebio))。
【0053】
Luminexサイトカインおよびケモカイン評価。Ctla4+/- Pdcd1-/-およびコントロール同腹仔マウス(上記の育種スキーム両方からのCtla4+/+ Pdcd1-/-マウスおよびCTLA4およびPD-1の両方の能力があるマウス(例えば、Ctla4+/- Pdcd1+/-マウス)の両方が挙げられる)から血清を集めた。簡潔には、血液を末端心臓穿刺によって集め、室温において凝固させ、8,000gにおいて10分間遠心分離し、上清の血清を集め、液体窒素中で急速凍結し、その後、-80℃で貯蔵した。抗体、サイトカインおよびケモカインの血清レベルを、Cytokine & Chemokine 36-plex Mouse ProcartPlex luminex assay(ThermoFisher Scientific)を使用して、製造業者のプロトコールに従って評価した。全てのサンプルを、各それぞれの分析のために単一のバッチにおいて並行して分析した。血清サンプルを、血清抗体レベルの分析のために1:10,000希釈した。
【0054】
逆相プロテオミックアレイ分析。16日齢Ctla4ノックアウトおよび同腹仔コントロールマウスのリンパ節を、その後の分析のために急速凍結した。組織サンプルを、プロテアーゼインヒビター(Roche, 05056489001)およびホスファターゼインヒビター(Roche, 04906837001)を新鮮に添加した状態の1% Triton X-100、50mM HEPES、pH7.4、150mM NaCl、1.5mM MgCl、1mM EGTA、100 mM NaF、10mM ピロリン酸Na、1mM NaVO、10% グリセロールの中で溶解し、Precellysホモジナイザー(Bertin Instruments)を使用してホモジナイズした。サンプルを、アレイプリントおよび分析の前に、サンプル緩衝液(10% グリセロール、2% SDS、62.5mM Tris-HCl、BME, pH6.8)中で希釈した。シグナルを、Array-Pro Analyzerソフトウェア(MediaCybernetics)を使用して定量し、MD Anderson Cancer Center for the RPPA Core Facilityにおいて開発された「Supercurve fitting」アプローチを使用して正規化した。正規化した線形値を、Excel(Microsoft)において、不等分散を想定する両側T検定を使用して分析し、Prism 6.0(GraphPad)を使用してプロットした。
【0055】
Nanostring mRNA分析。Ctla4ノックアウトおよび同腹仔コントロールマウスのリンパ節を解剖した。RNAを、(Qiagen)を使用してリンパ節から抽出した。100ng RNAを、nCounterプラットフォーム(Nanostring)上のMouse Immunology Codeセットパネルを使用して分析した。上記パネル内のハウスキーピング遺伝子を使用して、サンプルベースあたりで値を正規化した。Nanostring遺伝子発現のヒートマップおよびRPPAプロテオミクスデータを、Pearson距離マトリクスおよびウォードの最小分散法を利用してRにおいて生成した。差次的に発現された遺伝子のみ(遺伝子型間での一元配置ANOVA比較で5%という偽発見率によって定義)をプロットした。
【0056】
統計学。別段注記されなければ、Prism 7.0または8.0(GraphPad Software, San Diego, CA)で統計分析を行った。RPPAデータの正規化した線形値を、Excel(Microsoft)において、不等分散を想定する両側T検定を使用して分析し、プロットした。
【0057】
実施例1 - Pdcd1の遺伝的非存在下でのCtla4の致死的ハプロ不全
Ctla4とPdcd1との間の遺伝的相互作用が存在するか否かを試験するために、Ctla4およびPdcd1(PD-1をコードする)ノックアウトトランスジェニックマウスを交配した。マウスCtla4およびPdcd1は、Mouse Phenome Databaseからの予測に基づいて、16.89cMの遺伝的距離で遺伝的に連鎖する(Bogueら, 2018)。ヘテロ接合性インタークロス育種スキーム(材料および方法を参照のこと)を使用した。これは、単交雑に由来する変異アレルの全ての考えられる並べ替えの生成および17.03cMにおいてCtla4とPdcd1との間で観察された組換え頻度の予測を可能にした。驚くべきことに、Ctla4+/- Pdcd1-/-のうちのおよそ50%が、3ヶ月齢以内に自然に死亡した(図1A)。対照的に、関連するコントロール同腹仔(例えば、Ctla4+/+ Pdcd1-/-およびCtla4+/- Pdcd1+/-)は、明白な表現型を示さず、これらの群において死亡は観察されなかった。Ctla4+/+ Pdcd1-/-マウスにおいて明白な表現型がないことと、以前の観察とは一致する(Nishimuraら, 1999)。さらに、Ctla4-/- Pdcd1+/+マウスの全ての死亡は、CTLA4欠損マウス系統の最初の特徴付けと一致する(Chambersら, 1997; Tivolら, 1995; Waterhouseら, 1995)。興味深いことではあるが、Pdcd1の単一アレル喪失は、CTLA4の喪失によって誘導される致死的リンパ球増殖を加速した(図1A)。これは、Pdcd1遺伝子量が、CTLA4欠損マウスの表現型およびtリンパ球増殖性疾患を改変することを示唆する。これらの観察は、Ctla4+/+ Pdcd1+/-またはCtla4+/- Pdcd1+/-マウスにおいていかなるPD-1 ハプロ不全もないことと対照をなす。
【0058】
特に目的のものは、Ctla4+/- Pdcd1-/-マウスの驚くべき自然な死亡であった。なぜならこれは、遺伝的相互作用の強力な証拠を提供するからである。この観察をさらに確認するために、Ctla4+/- Pdcd1-/-およびCtla4+/+ Pdcd1-/-同腹仔マウスを、異なる育種スキームを使用して生成した(材料および方法を参照のこと)。この第2のアプローチは、およそ50%のCtla4+/- Pdcd1-/-マウスが自然に死亡するが、同腹仔Ctla4+/+ Pdcd1-/-マウスでは死亡は観察されないという顕著に類似する所見を引き起こした(図1B)。マウスは、種々の観察される臨床症状を伴って、2~6ヶ月齢の間に自然に死亡したかまたは瀕死状態になった(表2。材料および方法を参照のこと)。これらの特異的表現型の始まりは、これらの症状の事前の提示があるマウスおよびその提示がないマウスは、死亡するまでの時間が類似であることを考慮すれば、観察される致命的自己免疫に関して本質的に必要ではない(図9B)。興味深いことではあるが、雄性および雌性のCtla4+/- Pdcd1-/-マウスは、顕著に異なる頻度で死亡した(図1C)。これは、Ctla4の観察された条件付きハプロ不全が性別依存性であり、雌性マウスが、雄性マウスより高頻度で死亡することを示す。この性別の不均衡は、抗CTLA-4 ICIを受けている雌性患者におけるirAEの全体的なリスクの増大と一致する(Valpioneら, 2018)。死ぬべき運命の前には、死亡したマウスのうちのおよそ2/3において1ヶ月齢程度で始まる、明白な非特異的臨床徴候がある(例えば、体重増加の低減、運動失調、呼吸困難)。この表現型の重篤度を反映して、臨床徴候を示すCtla4+/- Pdcd1-/-マウスの全体重は、臨床徴候を示さないCtla4+/- Pdcd1-/-マウスのものより有意に低かった(図2B)。
【0059】
合わせると、これらの観察は、Pdcd1およびCtla4が、強力な遺伝的相互作用を示すことを示す。具体的には、劇的なCtla4条件付きハプロ不全が存在し、これは、Pdcd1の遺伝的欠失の文脈においてのみ現れ、自然な死亡をもたらす(図1A~B)。
【0060】
表2. Ctla4+/- Pdcd1-/-マウスの死亡率と関連する表現型。死亡が見いだされたかまたは安楽死を要すると特定されたCtla4+/- Pdcd1-/-マウスと関連する表現型の絶対数および相対的な頻度
【表2】
【0061】
Ctla4+/- Pdcd1-/-マウスのうちの50%のみが死亡することを考慮すれば、さらなる遺伝的または環境的因子がCtla4条件付きハプロ不全の浸透度を調節するようである。微妙な遺伝的差異がこの二分法の根底にあり得るか否かを調査した。全ての試験したマウスは、100-マーカー一ヌクレオチド多型タイピングパネルに基づいて97~100% C57BL6/Jであり、表現型出現に伴ういかなる分離するアレル間の関連性も観察されなかった(図7および図8)。
【0062】
次いで、自然に死亡せず、生存プラトーの年齢(およそ6ヶ月)に達したCtla4+/- Pdcd1-/-マウスが、生物学的に関連するが、死亡を引き起こすには十分でない微妙な自己免疫を有するか否かを決定した。対照的に、影響ありのCtla4+/- Pdcd1-/-マウスの全体重は、表現型的には通常のCtla4+/- Pdcd1-/-またはCtla4+/+ Pdcd1-/-マウスのいずれかと比較して、有意に低減した(図2A)。対照的に、表現型的には通常のCtla4+/- Pdcd1-/-およびコントロール同腹仔Ctla4+/+ Pdcd1-/-マウスの全体重は、有意に異ならなかった(図2B)。生物学的にどうかをさらに調べるために、基本的な血清化学検査を、加齢した([4+]ヶ月)影響なしのCtla4+/- Pdcd1-/-およびCtla4+/+ Pdcd1-/-マウスに由来するサンプルに対して行った。興味深いことに、遺伝子型の間で有意差は認められなかった(図2B)。これは、影響なしのマウス(死亡をもたらす表現型の低下が存在しないとして定義される)が、少なくとも全身性の組織損傷(例えば、LDH)のマーカーまたは目視検査によって検出可能な、有意に増大した自己免疫を発生させないことを示唆する。しかしとりわけ、表現型的に影響があるCtla4+/- Pdcd1-/-マウスの血清化学検査の分析は、ALT、AST、およびLDHの有意に上昇した血清レベル、ならびに減少したグルコースレベルとともに、組織損傷の証拠を明らかにした(図2C)。その所見は、Ctla4+/- Pdcd1-/-マウスにおける組織破壊を、および末梢血において検出可能であることを示唆する。
【0063】
これらのデータは、環境的因子がCtla4+/- Pdcd1-/-マウスにおける浸透度および致命的表現型の発生を調節するモデルを裏付ける。根本的な観点から、この観察は、TCRシグナル混乱の多数の原因が、T細胞活性化を調節するために統合されるT細胞活性化の閾値モデルを裏付ける。Ctla4+/- Pdcd1-/-マウスの場合では、活性化の閾値は、さらなる微妙な入力(これは、通常は緩和される)が異常なT細胞活性化および自己免疫を誘導するために十分であるように、有意に低下される。このモデルの予測は、Ctla4+/- Pdcd1-/-マウスに由来するT細胞が、Ctla4+/+ Pdcd1-/-マウスに由来するT細胞と比較して、減少したレベルのCTLA-4を有することである。Ctla4の単一コピー喪失が、利用可能なCTLA-4タンパク質の減少をもたらすことを確認するために、本発明者らは、Ctla4+/- Pdcd1-/-および同腹仔コントロールCtla4+/+ Pdcd1-/-マウスに由来する活性化T細胞における全CTLA-4タンパク質発現を評価した。とりわけ、インビトロ刺激したT細胞のフローサイトメトリー分析は、Ctla4+/+ Pdcd1-/-マウスに由来するT細胞と比較して、Ctla4+/- Pdcd1-/-マウスに由来するT細胞におけるCTLA-4タンパク質がより低いレベルであることを示唆する(図2D)。
【0064】
Ctla4+/-マウスが、生物レベルまたは細胞レベルのいずれでも、いかなるハプロ不全をも示さないという以前の所見の文脈において解釈すると、これらの所見は、PD-1陰性共刺激が、Ctla4の単一アレル喪失を機能的に緩和するために十分であることを示す。この考えと一致して、ほとんどの差異が、Ctla4+/+およびCtla4+/-マウスに由来するリンパ節の転写分析およびプロテオミクス分析において観察されなかった(その分析において、劇的な変化がCtla4-/-マウスにおいて観察された)(図5および6)。
【0065】
興味深いことに、これらの結果は、細胞表現型または頻度における差異が検出されなかったCtla4+/+およびCtla4+/-マウス(Pdcd1において混乱なし)の類似組織のマスサイトメトリープロファイリングからの所見と対照をなす。これは、少なくとも均質な近親交配マウス系統において、さらなる調節性分子機構が、Ctla4の単一コピー喪失によって引き起こされるシグナル伝達の混乱を緩和し得ることを示唆する。しかし、さらなる混乱(例えば、PD-1の遺伝的喪失)の文脈において、単一アレルCtla4に起因するT細胞調節の機能的欠損は、緩和能力の喪失に起因して現れ得る。
【0066】
実施例2 - Ctla4+/- Pdcd1-/-マウスは、多数の組織の自己免疫を発生させる
次に、Ctla4+/- Pdcd1-/-マウスの死亡原因を理解し、特異的組織が影響を受けるか否かを調査しようとした。さらに、特定の細胞タイプが、疾患病因論を媒介するか否かを理解しようとした。これらの問題に対処するために、Ctla4+/+ Pdcd1-/-およびCtla4+/- Pdcd1-/-マウスの42の組織を、組織学的に分析した(材料および方法を参照のこと)。炎症を、心臓、膵臓、肺、肝臓、および消化管を含む多数の組織において観察した。特異的病理観察としては、リンパ球性心筋炎、動脈内膜炎、肺血管炎、およびリンパ球性膵炎が挙げられる。最も劇的な組織学的所見のうち、顕著な免疫浸潤が、Ctla4+/- Pdcd1-/-マウスの心臓および膵臓組織において観察された(図3A~D;図10および図11A)。本質的により軽微であるが、顕著でもあるさらなる病理観察としては、唾液腺、涙腺、ハーダー腺、および腎臓のリンパ球浸潤が挙げられる。他の軽微な観察としては、肝臓変性/壊死、リンパ球性胃炎、および滑膜炎が挙げられるが、これらの所見が遺伝子型と関連する程度は、十分に決定されないままである。興味深いことに、より多くの顕著な組織学的所見が、リンパ器官(例えば、脾臓またはリンパ節)よりむしろ末梢の非リンパ組織において観察された。これは、末梢の免疫学的寛容がCtla4+/- Pdcd1-/-マウスにおいて特異的に突破されることを示唆する。
【0067】
心筋浸潤の性質をより良好に問い合わせるために、より大きなマウスコホートの詳細なH&E組織学的分析、ならびにT細胞に関して類似の組織サンプルの免疫組織化学的染色(汎T細胞マーカーとしてCD3を利用)を行った。心筋炎は、Ctla4+/- Pdcd1-/-マウスにおいて顕著なT細胞浸潤からなった。組織学的分析はまた、マクロファージのような他の免疫集団の浸潤を示唆した。これらのデータは、Ctla4+/- Pdcd1-/-マウスにおいて認められる心筋炎が、ICI関連心筋炎を有する患者と組織学的に類似であることを示唆する。ある範囲の組織学的分析の結果を、以下の表3~4にまとめる。
【0068】
表3: 心臓病変および膵臓病変の組織評価のまとめ
【表3】
【0069】
表4: Ctla4+/- Pdcd1-/-および同腹仔Ctla4+/+ Pdcd1-/-コントロールマウスの組織学的分析。広い範囲の組織にわたる半定量的組織スコア。年齢、性別、観察される症状、および遺伝子型を含むマウス特徴を表示する。偶発的またはマウス系統関連であると考えられる病変は、表中で報告しない。遺伝子型、年齢、性別による病変の分布を、スコアの閾値とともに報告する。全ての解剖学的構造が、試験した切片において評価のために利用可能であるわけではない。
【表4-1】

【表4-2】
【表4-3】
【0070】
肺および皮下(皮膚)を含む広い範囲の解剖学的部位と関連する脂肪組織の重篤な萎縮がまた、観察された(図10)。この表現型が、膵臓外分泌機能の喪失に対して二次的であるのか、または脂肪組織の自己免疫認識に起因する直接的な効果であるのかは、不明確なままである。さらに、女性生殖器の萎縮もまた、観察された。
【0071】
これらの所見は、マウスのC57BL6/J近親交配系統が、自己免疫の発生に非常に抵抗性であることを考慮すれば、さらに注目に値する。例えば、ここでの所見と一致して、PD-1欠損のマウスは、C57BL6/Jバックグラウンドと比較して、Balb/cバックグラウンドに対してより重篤な自己免疫を発生させる(Nishimuraら, 1999; Nishimuraら, 2001)。加齢したマウスにおいてPD-1の遺伝的喪失に起因して発生する自己免疫が、自己抗体によって主に媒介されることに注目することはまた、重要である。しかし、抗体レベルは、Ctla4+/- Pdcd1-/-マウスにおいて上昇しなかった(図11B)。これは、末梢組織におけるリンパ球浸潤がCtla4+/- Pdcd1-/-マウスにおいて観察されたこととは対照をなす。
【0072】
注目すべきは、これらの所見が、自己免疫および抗CTLA4と抗PD-1との併用免疫チェックポイント遮断療法(例えば、イピリムマブとニボルマブ)と関連した他の免疫関連有害事象(irAEs)に著しく似ている点があることである(Sznolら, 2017)。特に、膵臓および心臓組織において観察される重篤な自己免疫が、Ctla4+/- Pdcd1-/-マウスにおいて観察され、これは、CTLA-4およびPD-1の治療的遮断と関連する希であるが、非常に重度の有害事象である劇症型心筋炎およびインスリン依存性糖尿病に類似するようである(Barroso- Sousaら, 2018; Johnsonら, 2016; Moslehiら, 2018)。Ctla4+/- Pdcd1-/-マウスが、この生物学を厳密に再現するという考えを支持して、治療に関連する心筋炎および糖尿病は、直接的にT細胞が媒介するようである。
【0073】
次に、Ctla4の条件付きハプロ不全によって誘導される全身性自己免疫の根底にあるT細胞の抗原特異性の、特に、特定の組織抗原が繰り返して認識されているか否かの洞察を獲得しようとした。この可能性を探求するために、Ctla4+/+ Pdcd1-/-およびCtla4+/- Pdcd1-/-マウスのリンパ節、心臓、および膵臓組織に対してTCR配列決定を行った(材料および方法を参照のこと)。興味深いことに、T細胞クローン性における有意な変化は、Ctla4+/+ Pdcd1-/-とCtla4+/- Pdcd1-/-マウスとの間で観察されなかった(図4)。T細胞クローン性は、以前に特徴づけられた野生型またはCtla4+/-マウスと比較して、両方の系統において増大された。これは、PD-1の喪失が、T細胞増殖およびクロノタイプの拡大を誘導するために十分であるが、これらのクローンの病原性活性が、さらなる機構によって制限されることを示唆する。これは、Pdcd1-/-マウスにおいて自己免疫表現型が存在しないかまたは長期潜伏することと一致する。しかし、この文脈において、Ctla4の単一コピー喪失は、拡大されたT細胞クローンによる病原性活性の出現を可能にする、さらなる調節上の拘束を除去するために十分であると思われる。
【0074】
PD-1の非存在下でのCtla4の条件付きハプロ不全に起因する自己免疫が、単に末梢性の寛容における欠陥、または中枢性の寛容における欠陥にも起因して生じるのかを評価するために、Ctla4+/- Pdcd1-/-および同腹仔Ctla4+/+ Pdcd1-/-マウスにおける胸腺発生を特徴づけた。Ctla4の単一アレル喪失は、CTLA-4が胸腺発生の間に重要な役割を果たさないという以前の報告(Chambersら, 1997; Weiら, 2019)と一致して、胸腺細胞組成に影響を与えなかった。リンパ節由来T細胞におけるこれらの観察と一致して、Ctla4+/- Pdcd1-/-マウスに由来する胸腺由来Treg(新たに生成し、再循環する)は、減少したCTLA-4タンパク質を発現した。合わせると、これらのデータは、Ctla4ハプロ不全が、中枢性の寛容における欠陥よりむしろ末梢性の寛容における欠損をもたらすことを示す。
【0075】
最後に、Ctla4とPdcd1との間の遺伝的相互作用の分子的な基礎を調査した。Ctla4の単一コピー喪失は、他の点で野生型条件の文脈において、T細胞活性化シグナル伝達経路内での強い緩和に起因して、T細胞の活性または表現型を調節しない、シグナル伝達および転写出力における微妙な変化をもたらすと仮説を立てた。しかし、PD-1の、またはおそらく他の陰性共刺激分子のさらなる非存在下では、Ctla4ハプロ不全に起因する部妙な分子欠陥は、明白に現れ得る。この可能性を探索するために、本発明者らは、逆相プロテオミクス分析(RPPA)を利用して、野生型、ヘテロ接合性、およびホモ接合性Ctla4ノックアウトマウスに由来するリンパ節組織において238のタンパク質標的の発現を厳密に調べた。このRPPAパネルは、シグナル伝達分子およびリン酸化エピトープの一団を含んでいたので、真正のシグナル伝達経路における変化を検出するのに十分適している。
【0076】
予測されるように、増殖経路と関連するタンパク質は、Ctla4ノックアウトマウスのリンパ増殖性表現型と一致して、同腹仔コントロールと比較して、Ctla4-/-マウスにおいて高度にアップレギュレートされた。これは、CDK1、p-Rb、p-S6、p-CHK1、およびp-STAT3における有意な増大を含み、p21のダウンレギュレーションが付随した(図5F)。最もとりわけ、主成分分析(PCA)および教師なしの階層的クラスター分析は、Ctla4+/-およびCtla4+/+マウスのプロテオミクスプロフィールが別個であることを示唆する。これらの群間の差異は、Ctla4+/-マウスにおける多数のタンパク質(例えば、p21、DUSP4、およびB7-H3)のダウンレギュレーションによって主に駆動される。同様に、遺伝子発現分析は、dCtla4+/-とCtla4+/+マウスとの間の差異を(より小さい程度であるが)、およびCtla4-/-マウスにおける劇的な転写変化を検出した。プロテオミクスおよび転写のプロフィールにおいて観察された差異は、全リンパ節組織が分析されることを考慮すれば、細胞に内在するシグナル伝達における変化および相対的な細胞組成における変化を反映し得るが、これらの所見は、それにもかかわらず、Ctla4の単一コピー喪失が微妙な分子ハプロ不全表現型をもたらすことを示す。しかし、プロテオミクスレベルでのこれらの微妙な変化(図5)は、転写レベルでのこのような差異の非存在(図6)と一致して、免疫学的応答を調節するには不十分であると思われる。合わせると、これらのデータは、PD-1陰性共刺激が、マウスにおいてCtla4の単一アレル喪失を機能的に緩和するには不十分であることを示す。この機能的緩和は、Ctla4+/- Pdcd1-/-マウスにおいて失われており、従って、これは、自然な自己免疫の発生および始まりを可能にする。
【0077】
本明細書で開示および特許請求される方法の全ては、本開示に照らして過度の実験なしに作製および実行され得る。本発明の組成物および方法は、好ましい実施形態に関して記載されているが、本明細書で記載される方法および方法の工程または工程の順番において、本発明の概念、趣旨および範囲から逸脱することなくバリエーションが適用され得ることは、当業者に明らかである。より具体的には、化学的にかつ生理学的に関連するある種の因子が、本明細書で記載される因子の代わりに使用され得るが、同じまたは類似の結果が達成されることは、明らかである。当業者に明らかであるこのような類似の置換および改変は全て、添付の請求項によって定義されるとおりの発明の趣旨、範囲および概念の範囲内にあるとみなされる。

参考文献
以下の参考文献は、それらが、例示的手順または本明細書で示されるものを補足する他の詳細を提供する程度まで、本明細書に参考として具体的に援用される。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
図1
図2-1】
図2-2】
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図4
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図5-4】
図5-5】
図5-6】
図6-1】
図6-2】
図6-3】
図6-4】
図6-5】
図7-1】
図7-2】
図7-3】
図7-4】
図7-5】
図8
図9
図10-1】
図10-2】
図11-1】
図11-2】
図12
【配列表】
0007338894000001.app