(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】果物の熟成制御方法
(51)【国際特許分類】
A23B 7/157 20060101AFI20230829BHJP
A23B 7/159 20060101ALI20230829BHJP
B01J 29/03 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
A23B7/157
A23B7/159
B01J29/03 A
(21)【出願番号】P 2017223827
(22)【出願日】2017-11-21
【審査請求日】2020-10-15
【審判番号】
【審判請求日】2022-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】391018341
【氏名又は名称】株式会社NBCメッシュテック
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】松本 貴紀
(72)【発明者】
【氏名】雨宮 真
(72)【発明者】
【氏名】直原 洋平
(72)【発明者】
【氏名】中山 鶴雄
【合議体】
【審判長】植前 充司
【審判官】加藤 友也
【審判官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/188138(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/010472(WO,A1)
【文献】特開昭61-100153(JP,A)
【文献】特開平3-198737(JP,A)
【文献】特開昭63-317040(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B7/157
A23B7/159
B01J29/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
果物を、0~30℃であり、白金または白金含有化合物が担持されている多孔質シリカを含む触媒体が存在する熟成抑制環境下におき、
前記触媒体により酢酸エチル、ブチル酸エチル、ヘキサン酸エチル、オクタン酸エチル、2-エチルヘキサノール、酪酸、アセトフェノン、ジメチルスルフィド、およびジメチルジスルフィドからなる群から選択される1種または2種以上を除去することを含み、
前記果物が、落葉性果樹、常緑性果樹、熱帯果樹および果実的野菜からなる群から選択される1種または2種以上で
あり、
前記多孔質シリカが、メソ孔を含み、該メソ孔が多孔質シリカ内部で分岐して他のメソ孔とつながっている連通構造を有する、果物の熟成制御方法。
【請求項2】
前記多孔質シリカがメソポーラスシリカである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記果物が、熱帯果樹または果実的野菜である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
果物を、0~30℃であり、白金または白金含有化合物が担持されている多孔質シリカを含む触媒体が存在する熟成抑制環境下におくことを含み、
前記果物がキーツマンゴー、キンコウマンゴーまたはいちごで
あり、
前記多孔質シリカが、メソ孔を含み、該メソ孔が多孔質シリカ内部で分岐して他のメソ孔とつながっている連通構造を有する、果物の熟成制御方法。
【請求項5】
野菜を、0~30℃であり、白金または白金含有化合物が担持されている多孔質シリカを含む触媒体が存在する変色抑制環境下におくことを含み、
前記野菜がレタスまたはチンゲン菜で
あり、
前記多孔質シリカが、メソ孔を含み、該メソ孔が多孔質シリカ内部で分岐して他のメソ孔とつながっている連通構造を有する、野菜の変色抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果物の熟成制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
果物は収穫されてから一定期間を経た後に最終消費者の手元に届く。その間にこれらは、これら自身が放出するエチレン等の影響で熟成が進み、場合によっては変色や軟化などが必要以上に進行する結果、商品価値が大きく損なわれることがある。
特に、収穫時期や出荷時期がその一地方で重なることが多い果物については熟成が進み過ぎて商品とならないものも多く、より確実な熟成制御の方法が求められている。
【0003】
果物の熟成の進行を抑える方法のうちエチレンに関するものとしては、例えば特許文献1、2に記載の方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-023889号公報
【文献】特開2017-113721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は果物の熟成を抑制することができる新規な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述のとおりエチレンの影響による熟成の進行が知られているが、果物の中には該エチレンが検出されない環境下にあるにも係らず熟成が進むものも存在することを本発明者は見いだした。該果物については熟成がエチレン以外の影響により熟成が進むと考えられる。
本発明者は、鋭意研究の結果、所定の条件下に果物をおくことでエチレンでないものの影響により熟成が進む果物についてもその進行を抑えることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
本発明の要旨は以下のとおりである。
[1] 果物を、0~30℃であり、白金または白金含有化合物が担持されている多孔質シリカを含む触媒体が存在する熟成抑制環境下におくことを含む、果物の熟成制御方法。
[2] 前記多孔質シリカがメソポーラスシリカである、[1]に記載の方法。
[3] 前記果物が、落葉性果樹、常緑性果樹、熱帯果樹および果実的野菜からなる群から選択される1種または2種以上である、[1]または[2]に記載の方法。
[4] 前記果物が、熱帯果樹または果実的野菜である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の方法。
[5] 前記多孔質シリカにおいて前記白金または白金含有化合物が0.1~5質量%担持されている[1]~[4]のいずれか1項に記載の方法。
[6] 前記多孔質シリカに担持されている白金または白金含有化合物が粒子状の形状を有しており、その粒径が1~10nmである[1]~[5]のいずれか1項に記載の方法。
[7] 前記多孔質シリカが2~10nmの平均細孔直径を有する、[1]~[6]のいずれか1項に記載の方法。
[8] 前記多孔質シリカが300~1,000m2/gの比表面積を有する、[1]~[7]のいずれか1項に記載の方法。
[9] 野菜または花卉を、0~30℃であり、白金または白金含有化合物が担持されている多孔質シリカを含む触媒体が存在する変色抑制環境下におくことを含む、野菜または花卉の変色抑制方法。
[10] 前記野菜についてその一部が切断されている状態で前記変色抑制環境下におく、[9]に記載の方法。
[11] 野菜、果物または花卉を収容する収容部を備え、
前記収容部内に白金または白金含有化合物が担持されている多孔質シリカを含む触媒体が配置されている包装体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、果物の熟成を抑制することができる新規な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例3に係り、キーツマンゴー9日間貯蔵後の容器内部の空気についてのガスクロマトグラムである。
【
図2】実施例4に係り、アップルマンゴー9日間貯蔵後の容器内部の空気についてのガスクロマトグラムである。
【
図3】実施例9に係り、いちご(あまおう)14日間貯蔵後の容器内部の空気についてのガスクロマトグラムである。
【
図4】実施例12に係り、バナナ14日間貯蔵後の容器内部の空気についてのガスクロマトグラムである。
【
図5】実施例13に係り、アボカド8日間貯蔵後の容器内部の空気についてのガスクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態の1つについて詳述する。
本実施形態は、果物を、0~30℃であり、白金または白金含有化合物が担持されている多孔質シリカを含む触媒体が存在する熟成抑制環境下におくことを含む、果物の熟成制御方法に関する。
【0011】
[触媒体]
本実施形態に係る触媒体は、通気性を有し、その表面において開口しており気体が通気可能な細孔を有する、多孔質シリカ(以下、支持体とも称す)と、当該支持体の細孔内に担持されている白金または白金含有化合物とを含む。
なお、後述のとおり、該触媒体は、果物の熟成の進行抑制作用に加えて、野菜および花卉の変色抑制作用を有する。以下の説明においては、これら作用を総称して熟成等の進行抑制、とも称す。
【0012】
該触媒体においては果物をおく条件下に存在する気体が触媒体内部へ拡散して、細孔内の酸化触媒粒子と接触し、果物の熟成を促進させる有機ガスや野菜および花卉の変色を促進させる有機ガスなどが酸化分解される。
【0013】
本実施形態に係る触媒体は、周囲に存在する気体中の有機ガスなどの成分を酸化反応で二酸化炭素と水などに分解処理し、大気中に排出し、本実施形態においても該作用により熟成等の進行抑制に寄与しているものと考えられる。該触媒体により分解される有機ガスについては定かでなく、エチレンのほか、種々の有機化合物が考えられる。
【0014】
本実施形態に係る支持体においては、平均細孔直径が2~10nmであることが、熟成等の進行をより抑制できるため、好ましい。また、本実施形態に係る支持体は、メソ孔である細孔を有するメソポーラスシリカであることがより好ましい。本明細書において、メソ孔とは1の表面における開口部が同一のまたは異なる表面における他の開口部と連通している、BET法で求めた直径が2nm以上50nm以下である細孔を指す。メソ孔の形状やその開口部の位置関係などは特に限定されず、例えば支持体の上面と下面が直線状に連通したシリンダー形状でも、メソ孔が支持体内部で分岐して他のメソ孔とつながっているようないわゆる連通構造でもよい。このうち、連通構造はより多くの開口部がつながっており、支持体内部に水分が付着しても通気性が損なわれにくいため、連通構造のほうがより好ましい。
ここで、支持体がメソポーラスシリカであり、メソ孔のBET法による平均直径が2nm以上10nm以下であることがより好ましい。担持される触媒が粒子である場合に粒子の粒径も当該範囲内となり、より高活性の触媒体が得られる。
なお、支持体が有する細孔の直径はJIS-Z-8831に基づくBET法による自動比表面積/細孔分布測定装置を用いて算出した値である。支持体(多孔質シリカ)は、該装置を用いて測定される比表面積が300~1,000m2/gであることが、より熟成等の進行を抑制できるため、好ましい。
【0015】
本実施形態に係る触媒体においては、多孔質シリカ(支持体)に白金または白金含有化合物が担持されている。白金含有化合物とは、その構成元素として白金元素を含む化合物であり、PtO2、PtO2・H2O、白金黒等を挙げることができる。例えば、白金、PtO2、PtO2・H2O、白金黒等のうち1種または2種以上が本実施形態の触媒体において支持体に担持されるようにしてもよい。
【0016】
触媒体に含まれる白金または白金含有化合物の形態については特に限定されないが、粒子状の形状を有することが、熟成等の進行をより抑制できるため、好ましい。
また、粒子の平均粒径が1nm以上10nm以下であれば、熟成等の進行をさらに抑制できるため、好ましい。
なお、粒子の平均粒径は透過型電子顕微鏡(TEM)の画像写真での粒子サイズを算出し、その平均値として得ることができる。
【0017】
白金または白金含有化合物はこれらを含む状態での多孔質シリカに対して0.1~10質量%担持されることが好ましく、0.1~5質量%であるのがより好ましい。10質量%よりも多く担持させると、特に白金または白金含有化合物が粒子である場合にこれら同士が凝集しやすくなり、範囲内にある場合と比較して触媒活性が減少する。一方、0.1質量%未満では、範囲内にある場合と比較して、十分な触媒活性が得られないので好ましくない。
【0018】
なお、本実施形態に係る触媒体においては白金または白金含有化合物に加えて、助触媒として作用する物質(以下単に助触媒と称する)や各種金属元素などが支持体に担持されていてもよく、特に限定されない。具体的には、助触媒粒子と金または白金含有化合物粒子が混在するものや、各種金属元素を金または白金含有化合物の粒子と複合化させた複合粒子からなる複合触媒であってもよい。助触媒または金属元素としては卑金属およびそれらの酸化物などが挙げられる。
【0019】
本実施形態の触媒体の形状は特に限定されず、当業者が適宜設定でき、例えば粉末状や顆粒状などの粉体としてもよいほか、基材上に膜状に本実施形態の触媒体を形成するようにしてもよい。以下、膜状である触媒体を、触媒体膜とも称する。
膜状である場合、粉体状のような凝集形態はとらないので、白金または白金含有化合物が存在する細孔と気体までの距離は、粉体状など他の形状の触媒体と比較して短い。したがって、触媒体膜の細孔内に気体中の水分が吸着した場合、触媒体膜の周囲の気流への濃度勾配が発生し、気流への吸着水の再拡散が進行し、結果として吸着水が一定量に抑制される効果がある。
【0020】
本実施形態に係る触媒体を膜状とするとき、該触媒体膜は例えば基材上に形成させることができる。このとき、基材が通気性を有するか否かは特に限定されない。通気性のない基材上に触媒体膜が配置されている場合には、触媒体膜表面にエンボス加工などにより凹凸が形成されていてもよい。触媒体膜の表面に凹凸が形成されていると、流通する気体との接触面積が増加し、気体中の熟成に影響を及ぼす化合物の酸化反応をより促進することができる。
【0021】
触媒体膜が形成される基材がフィルター状やメッシュ状など通気可能な基材であれば、触媒体膜の厚み方向に気体を流通させるような使用態様であってもよい。また、基材の両面に触媒体膜が形成されていてもよい。
【0022】
本実施形態に係る触媒体を膜状とするとき、膜の膜厚は50nm以上1000nm以下であることが望ましい。50nm未満であると、触媒の絶対量が低減するので、範囲内にある場合と比較して、気体中の有機ガスを分解し難くなる。1000nmより大きくなると、気体から離れた位置に存在するメソ孔に吸着した水分は再放出されにくくなり、細孔内に吸着する水分量が増加し、白金または白金含有化合物の作用を阻害するため、範囲内にある場合と比較して、触媒効率が低下する。
なお、触媒体膜の膜厚は膜の断面をTEM観察し、断面画像のサイズを測ることにより測定することができる。
【0023】
触媒体膜は上述のとおり基材上に形成されるようにすることができる。基材上に触媒体膜を形成することでより容易に触媒体膜の膜厚を薄くすることができるため、好ましい。基材は、上述のように、板状など通気性のない構造でも通気性を有する構造でもよい。通気性を有する構造としては、例えば、パンチング加工により多数の貫通孔が形成されているシート状のものや、繊維状、布状、メッシュ状で、織物、網物、不織布などから構成される繊維構造体(フィルター状)を挙げることができる。その他、使用形態に合った種々の形状及びサイズ等のものを適宜利用できる。
【0024】
触媒体膜が形成される基材には支持体を膜状に形成する際に加熱する場合があるため、当該加熱温度に耐える耐熱性を有する材料を用いることが望ましい。具体的には金属材料、セラミックス、ガラス、炭素繊維、炭化珪素繊維や耐熱性有機高分子材料などが好ましく、さらには金属、金属酸化物、ガラスがより好ましい。
【0025】
基材に用いられる金属材料としては、タングステン、モリブデン、タンタル、ニオブ、TZM(Titanium Zirconium Molybdenum)、W-Re(tungsten-rhenium)などの高融点金属や、銀、ルテニウムなどの貴金属及びそれらの合金または酸化物、チタン、ニッケル、ジルコニウム、クロム、インコネル、ハステロイなどの特殊金属、アルミニウム、銅、ステンレス鋼、亜鉛、マグネシウム、鉄などの汎用金属およびこれら汎用金属を含む合金またはこれら汎用金属の酸化物を用いることができる。また、各種めっき及び真空蒸着や、CVD法や、スパッタ法などにより、上述した金属、合金または酸化物の被膜が形成された部材を金属材料として用いてもよい。
【0026】
なお、上述した金属表面及びその合金表面には、通常、自然酸化薄膜が形成されており、膜状の支持体をシラン化合物から形成する場合に、この自然酸化薄膜を利用して基材と支持体とを強固に固定させることができる。この場合には、予め、酸化薄膜の表面に付着している油分や汚れを通常の公知の方法により除去することが、安定に、かつ、強固に固定するためには好ましい。また、自然酸化膜を利用する代わりに、金属表面又は合金表面に、公知の方法により化学的に酸化薄膜を形成したり、陽極酸化などの電気化学的な公知の方法により酸化薄膜を形成してもよい。
【0027】
さらに、基材に用いられるセラミックスとしては、土器、陶器、せっ器、磁気などの陶磁器、ガラス、セメント、石膏、ほうろう及びファインセラミックスなどのセラミックスを挙げることができる。構成するセラミックスの組成は、元素系、酸化物系、水酸化物系、炭化物系、炭酸塩系、窒化物系、ハロゲン化物系、及びリン酸塩系などを挙げることができ、また、それらの複合物でもよい。
【0028】
また、基材に用いられるセラミックスとしては、さらに、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、フェライト、アルミナ、フォルステライト、ジルコニア、ジルコン、ムライト、ステアタイト、コーディエライト、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ニューカーボン、ニューガラスなどや、高強度セラミックス、機能性セラミックス、超伝導セラミックス、非線形光学セラミックス、抗菌性セラミックス、生分解性セラミックス、及びバイオセラミックスなどのセラミックスを挙げることができる。
【0029】
また、基材に用いられるガラスとしては、ソーダ石灰ガラス、カリガラス、クリスタルガラス、石英ガラス、カルコゲンガラス、ウランガラス、水ガラス、偏光ガラス、強化ガラス、合わせガラス、耐熱ガラス・硼珪酸ガラス、防弾ガラス、ガラス繊維、ダイクロ、ゴールドストーン(茶金石・砂金石・紫金石)、ガラスセラミックス、低融点ガラス、金属ガラス、及びサフィレットなどのガラスを挙げることができる。
【0030】
また、基材にはその他に、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、及びポルトランドセメントに高炉スラグ、フライアッシュ、シリカ質混合材を添加した混合セメントである高炉セメント、シリカセメント、及びフライアッシュセメントなどのセメントを使用することも可能である。
【0031】
また、基材にはその他に、チタニア、ジルコニア、アルミナ、セリア(酸化セリウム)、ゼオライト、アパタイト、シリカ、活性炭、珪藻土などを使用することができる。さらに、基材には、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、錫などの金属酸化物を用いることも可能である。
さらに、基材には、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアラミド、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾイミダゾール、ポリキノリン、ポリキノキサリン、フッ素樹脂などや、フェノール樹脂やエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂などの当業者に公知な耐熱性有機高分子材料を用いることも可能である。
【0032】
次に、本実施形態の触媒体を得る方法の一例について説明する。
当該方法においては、まず、支持体を形成する。
多孔質シリカである支持体は、例えば、支持体内部の細孔の鋳型として作用する物質が含有している状態で前駆体を形成し、その後鋳型として作用する物質を分解除去することで得ることができる。
当該方法について、触媒体を基材上に膜状に形成する場合を例に挙げて説明する。
まず、鋳型となる界面活性剤とアルコキシシランの加水分解物を含む溶液(以下、前駆体溶液と称する)を調製する。具体的には、例えば、界面活性剤を溶解した溶液にアルコキシシランを加え、pH調整を行ってアルコキシシランを加水分解する。これによりシラノール基もしくは金属水酸化物を生成させる。界面活性剤は溶液中でミセルを形成し細孔の鋳型となる。この前駆体溶液を基材に塗布し、加熱することで溶媒を揮散させるとともに、シラノール基もしくは金属水酸化物を縮合硬化させて、部材表面に膜状の支持体の前駆体を形成させる。その後、さらに300℃以上の高温に焼成することで、前駆体中の鋳型である界面活性剤を分解揮発させることにより除去し、細孔を有する膜状支持体である、多孔質シリカが得られる。
【0033】
前駆体溶液は、例えば、(1)アルコキシシランの加水分解物、(2)溶媒(溶剤)、(3)界面活性剤の3つの成分を含んで構成することができる。アルコキシシランについて溶液中で加水分解処理を行い加水分解物を得る場合には、水が必要なので、溶媒は水や、水とエタノールやメタノールなどのアルコール類との混合溶媒とすることが好ましい。また、アルコキシシランの加水分解処理のための触媒が溶液中にさらに含まれるようにしてもよく、当該触媒としては硝酸、塩酸等の酸を用いることが好ましい。
界面活性剤やアルコキシシランの割合は特に限定されず、適宜設定でき、特に限定されない。界面活性剤/アルコキシシランのモル比を変えることで、得られる支持体における細孔体積率、多孔度を制御することができる。
【0034】
なお、基材への塗布の前に前駆体溶液中に沈殿物を生成させないことが均一な膜厚を有する膜形成の観点から好ましく、pHが酸性のアルコールを用いることで前駆体の沈殿を回避できる。別法としては、水とアルコキシシランのモル比だけを調節するかpH調整と共にモル比を調節し、或いはアルコールを添加し、またはモル比調節とアルコール添加の両方を行うことで沈殿を回避することもできる。
【0035】
界面活性剤としてはポリオキシエチレンエーテルやポリアルキレンオキシドブロックコポリマーなどが使用できる。ポリオキシエチレンエーテルとしてはC12H25(CH2CH2O)10OH、C16H33(CH2CH2O)10OH、C18H37(CH2CH2O)10OH、C12H25(CH2CH2O)4OH、C16H33(CH2CH2O)2OHなどが挙げられる。ポリアルキレンオキシドブロックコポリマーとしてはエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのブロックコポリマーが挙げられる。
【0036】
界面活性剤の差長が細孔の孔径に影響するので、所望される孔径に応じて界面活性剤を選択すればよい。またメシチレンなどの疎水性化合物を添加するようにしてもよく、当該疎水性化合物は前駆体溶液中のミセル径を増大させられるので、メソ孔径の調整に使用することができる。
【0037】
使用するアルコキシシランとしてはテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシランなどを挙げることができる。
【0038】
基材に前駆体溶液を塗布する方法は、前駆体溶液を均一に薄く塗布できれば方法は問わないが、スピンコート法や基材を前駆体溶液に浸漬後に不要な溶液を吹き飛ばすDip&ブロー法などが適用でき、塗布する基材の形状などに合わせて選択すればよい。
また、前駆体を形成した後に鋳型分子を除去するときの加熱条件も特に限定されず、例えば300~600°で前駆体を加熱すればよい。
【0039】
次に、白金または白金含有化合物を膜状支持体の細孔に担持させ、触媒体膜を得る。
まず、膜状支持体と担持させる白金または白金含有化合物に対応する白金化合物が溶解している溶液(以下、白金化合物溶液と称する)とを接触させて支持体の細孔に白金化合物溶液を導入する。その後、焼成および/または還元処理を行い細孔内に白金または白金含有化合物の粒子を形成することにより、触媒体膜を得ることができる。
具体的には、例えば、白金化合物溶液に膜状支持体を浸漬後、焼成および/または還元処理を行うようにすることができる。
より具体的には、白金化合物溶液を20~90℃、好ましくは50~70℃に加温、攪拌しながら、pH3~10、好ましくはpH5~8になるようにアルカリ溶液を用いて調整する。その後、その表面に膜状の支持体が形成されている基材を白金化合物溶液に浸漬し、続いて、減圧脱気処理を行い細孔に白金化合物溶液を浸透させた後、200~600℃で加熱焼成を行うことで細孔内に白金または白金含有化合物の粒子を得ることができる。
【0040】
また、上述のように細孔に白金化合物溶液を浸透させた後に、200~600℃の焼成処理と100~300℃の水素気流に晒す処理を行う水素還元法や、水素化ホウ素ナトリウム溶液に浸漬する液相還元法など公知の還元操作を実施することでも、細孔内に、白金または白金含有化合物の粒子を得ることができる。
なお、用いる白金化合物の種類によっては、上述の公知な還元操作を実施することなく200~600℃の加熱焼成処理のみで、白金または白金含有化合物の粒子を細孔内に得ることもできる。また、白金化合物の還元が一部に留まり、細孔内の粒子中に白金単体と白金酸化物等が共存してもよい。
【0041】
白金または白金含有化合物に対応する白金化合物としては、例えば塩化白金酸、ジニトロジアンミン白金、ジクロロテトラアンミン白金などが挙げられる。
白金化合物溶液における白金化合物の濃度は特に限定されないが、1×10-2~1×10-5mol/Lとして溶液を調製するのが、生成した白金または白金含有化合物の粒子が凝集しにくいので好ましい。
【0042】
なお、触媒体について膜状の形状を有するように構成する場合に、該膜状触媒体は白金または白金含有化合物が担持される多孔質シリカととともに、膜の形状維持を補助する膜支持体領域を有するように構成してもよい。具体的には、該膜状触媒体は、固体粒子、繊維、繊維もしくは固体粒子の集合体、およびモノリス構造体からなる群から1種または2種以上選択されて構成され、膜の形状維持を補助する膜支持体領域と、膜内において膜支持体領域と隣接し、膜表面において開口する細孔を有する多孔質シリカであり、該細孔内に白金または白金含有化合物の粒子が担持されている触媒体領域とを備える多孔質触媒体膜とすることができる。
【0043】
膜状の触媒体では担持できる触媒の絶対量は膜厚に依存する。上記触媒体膜においては膜支持体領域を有しているため、膜支持体領域が膜製造時において増粘剤として作用したり、膜形成の足場としても機能することで、膜支持体領域が存在しない膜と比較して、より厚い膜を形成するのが容易となる。言い換えれば、膜支持体領域は、膜の形状維持を補助し、意図する厚みの膜の提供に寄与する。膜厚を厚くすることで白金または白金含有化合物の担持量を多くして、触媒活性のより高い触媒体膜を得ることができる。
【0044】
膜支持体領域は、触媒体膜内において固体粒子、繊維、固体粒子集合体、繊維集合体、およびモノリス構造体からなる群から材料が1種以上選択されて構成される。
膜支持体領域を含むようにして触媒体膜を形成する方法は特に限定しないが、膜支持体領域を構成する材料を触媒体領域の原料を含む溶液に分散させるなどによって、膜支持体領域と触媒体領域を同時に膜状に形成するようにしてもよく、基材上に膜支持体領域を膜状に形成後、膜状支持体領域に隣接する周囲に存在する空間に触媒体領域を形成することで触媒体膜を得てもよい。
【0045】
[果物の熟成制御]
本実施形態においては、果物とともに上述の触媒体を0~30℃の温度条件を備える環境(熟成抑制環境)下におき、果物の熟成を制御する。0℃よりも低い場合には、果物に結露ができ、この結露自体が果物に冷凍障害等の悪影響を与えたり、また、この結露が融けた場合に、果物に水滴がつき、果物の腐敗等の悪影響がある場合がある。一方、30℃を越える場合には、果物の腐敗等の悪影響がある場合がある。
【0046】
本実施形態の熟成制御方法は、果物(食用果実)について、熟成が進み過ぎ、食用とすることができない状態を防ぐことができる。なお、熟成が進み過ぎた状態とは、糸状菌等によるカビの発生が伴っている場合も含む概念である。
【0047】
本実施形態の方法を適用することでより熟成の進行を抑制することができるため、果物として、落葉性果樹、常緑性果樹、熱帯果樹および果実的野菜から選択される1種または2種以上であることが好ましく、熱帯果樹または果実的野菜であることがさらに好ましい。
落葉性果実としては、ナシ、リンゴ、アメリカンチェリー、ブラックチェリー、ダークチェリー、アンズ、梅、サクランボ、スモモ、モモ、アケビ、イチジク、カキ、カシス、キイチゴ、キウイ、グミ、ザクロ、ナツメ、ブドウ、ブラックベリー、ブルーベリー、マツブサ、ラズベリー、ユスラウメが例示される。
常緑性果樹としては、ミカン、タチバナ、キンカン、オリーブ、ビワ、ヤマモモが例示される。
熱帯果樹としては、マンゴー、バナナ、カカオ 、マンゴスチン、アセロラ、アボカド、パッションフルーツ、パパイア、ババコ、マウンテンパパイア、ライチ、ココナッツ、ナツメヤシが例示される。
果実的野菜としては、イチゴ、スイカ、メロンが例示される。
これらのうち、本実施形態の方法を適用することで熟成の進行をさらにより抑制することができるため、マンゴー、イチゴ、およびアボガドからなる群から選択される1種または2種以上とすることが好ましい。
【0048】
本実施形態に係る方法において、果物とともに上述の触媒体を0~30℃の温度条件を備える環境下におくこと以外の条件については特に限定されず、果物の種類や熟成抑制環境下におき始めるときの果物の熟成の程度などに応じて当業者が適宜設定することができる。
触媒体は例えば果物とともに容器内に配置するなどすればよく、特に限定されない。果物が熟成抑制環境下におかれる一つの態様として、例えば、果物が収容される収容部を備える包装体を挙げることができる。該収容部内には白金または白金含有化合物が担持されている多孔質シリカを含む触媒体が配置される。また、他の態様として、例えば、果物が保管される室内の空気を流通させる装置が有するフィルターにおいて、上述の触媒体膜がその表面に形成されているなどしてもよい。
果物とともに上述の触媒体を密閉容器内で0~30℃の温度条件を備える環境下におく場合、果物の水分の蒸散によって容器内の水蒸気が増加し、高湿度になると結露などによって果物にカビが生え易くなる。そのため、湿度を下げるため、適宜乾燥剤などを用いて容器内の結露を防ぐことが好ましい。
【0049】
このように白金または白金含有化合物が担持されている多孔質シリカを含む触媒体を用い、0~30℃の温度条件を備える環境下におくことで、果物の熟成の進行を抑えることができる。その結果、果物の商品価値の維持等に貢献することが可能である。
【0050】
[野菜または花卉の変色抑制]
野菜や花卉について、収穫してから一定期間が経つと、その一部または全部について、収穫時とは色が変わってしまい(変色、花卉については退色とも称される)、その商品価値が損なわれてしまう。
具体的には、レタスなどの切り口においてアントシアニン等が増加する結果、赤くなってしまう場合や、花卉において花の色が褪せてしまう場合などが挙げられる。
【0051】
ここで、本発明者は、野菜や花卉を上述の触媒体が存在する0~30℃の環境下におくと、これらの変色を抑制することができることを見出した。
したがって、本発明の一態様として、野菜または花卉を、0~30℃であり、多孔質シリカに白金または白金含有化合物を担持させてなる触媒体が存在する環境(変色抑制環境)下におくことを含む、野菜または花卉の変色抑制方法を挙げることができる。該環境下におかれるのが野菜であるときにその一部が切断された状態のものについては、本実施形態の方法を適用することで切断された部分における変色をより抑制できるため、該方法を適用することが好ましい。
【0052】
野菜としては、レタス、もやし、チンゲンサイが例示される。
【0053】
花卉としては、カーネーション、トルコキキョウ、デルフィニウム、スイーピー、シュッコンカスミソウ、デンドロビウム、カンパニュラ、キンギョソウ、ストック、バラ、ブルースターを挙げることができる。
【0054】
果物の場合と同じく、上述の触媒体を0~30℃の温度条件を備える環境下におくこと以外の条件については特に限定されず、野菜、花卉の種類や変色抑制環境下におきはじめるときの野菜、花卉の状態などに応じて当業者が適宜設定することができる。
果物の場合と同様、野菜や花卉が変色抑制環境下におかれる一つの態様としては、例えば、野菜や花卉が収容される収容部を備える包装体を挙げることができる。該収容部内には白金または白金含有化合物が担持されている多孔質シリカを含む触媒体が配置される。
【0055】
このように白金または白金含有化合物が担持されている多孔質シリカを含む触媒体を用い、0~30℃の温度条件を備える環境下におくことで、野菜や花卉の変色を抑えることができる。その結果、野菜や花卉の商品価値の維持等に貢献することが可能である。
【実施例】
【0056】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0057】
[触媒体の製造例1]
ビーカーにテトラエトキシシラン(TEOS)5.2gを入れ、さらにエタノール6.0gを加えた。ここに、さらに0.01M塩酸2.7gを加え、室温で20分攪拌した(A液)。別のビーカーに非イオン系界面活性剤(Pluronic123)1.38g及びエタノール2.62gを加え、室温で30分攪拌した(B液)。その後、A液にB液を加え、室温条件下で混合し、さらに3時間攪拌し、メソポーラスシリカの前駆体溶液を得た。
メソポーラスシリカ前駆体溶液にセラミックハニカム(岩谷産業社製)を浸漬させ、15分間減圧した。その後、セラミックハニカムを引上げ余剰分の溶液をエアブローで除去した後、1℃/分で昇温し、450℃で4時間焼成しメソポーラスシリカ膜を固定化したセラミックハニカムを得た。
【0058】
その後、メソポーラスシリカ膜を固定化したセラミックハニカムにジアンミンジニトロ白金硝酸を含む溶液に浸漬させ、余剰分の溶液をエアブローで除去した。300℃で3時間乾燥後、水素ガス10%、窒素ガス90%の還元処理ガス中で250℃、1時間焼成し、Pt/メソポーラスシリカ膜/ハニカムを得た。メソポーラスシリカ膜(Pt粒子を含む、以下同じ)に対するPtの担持量は1wt%であった。
【0059】
Pt/メソポーラスシリカ膜/ハニカムをBET法による測定を実施したところ、メソポーラスシリカ膜の比表面積、細孔容積、細孔径がそれぞれ377m2/g、0.52cm3/g、7.0nmであった。また、メソポーラスシリカ膜の膜厚は500nmであった。また、Ptの粒子サイズをTEMで観察したところ、3.2nmであった。
【0060】
[触媒体の製造例2]
ビーカーにテトラエトキシシラン(TEOS)5.2gを入れ、さらにエタノール6.0gを加えた。得られた混合物に、さらに0.01M塩酸2.7gを加え、室温で20分攪拌した(A液)。別のビーカーに非イオン系界面活性剤(Pluronic123)1.38g及びエタノール2.62gを加え、室温で30分攪拌した(B液)。その後、A液にB液を加え、室温条件下で混合し、さらに3時間攪拌し、メソポーラスシリカの前駆体溶液を得た。メソポーラスシリカ前駆体溶液に30目付のガラス不織布を浸漬させ、15分間減圧した。その後、ガラス不織布を引上げ余剰分の溶液をエアブローで除去した後、1℃/分で昇温し、450℃で4時間焼成しメソポーラスシリカ膜を固定化したガラス不織布を得た。
【0061】
その後、メソポーラスシリカ膜を固定化したガラス不織布をジアンミンジニトロ白金硝酸溶液に浸漬させた。ガラス不織布を引上げ余剰分の溶液をエアブローで除去した後、水素ガス10%、窒素ガス90%の還元処理ガス中で250℃、1時間焼成し、Pt/メソポーラスシリカ膜/ガラス不織布を得た。メソポーラスシリカ膜に対するPtの担持量は1wt%であった。
【0062】
Pt/メソポーラスシリカ膜/ガラス不織布のBET測定を実施したところ、メソポーラスシリカ膜の比表面積、細孔容積、細孔径はそれぞれ400m2/g、0.39cm3/g、3.3nmであった。また、Ptの粒子サイズをTEMで観察したところ、2.9nmであった。
【0063】
[触媒体の製造例3]
ビーカーにテトラエトキシシラン(TEOS)5.2gを入れ、さらにエタノール6.0gを加えた。得られた混合物に、さらに0.01M塩酸2.7gを加え、室温で20分攪拌した(A液)。別のビーカーに非イオン系界面活性剤(Pluronic123)1.38g及びエタノール2.62gを加え、室温で30分攪拌した(B液)。その後、A液にB液を加え、室温条件下で混合し、さらに3時間攪拌し、メソポーラスシリカの前駆体溶液を得た。その後、メソポーラスシリカ前駆体溶液をステンレス製のバットに入れ、自然乾燥により溶媒を除去した。得られた固形物を1℃/分で昇温し、600℃で4時間焼成しメソポーラスシリカ粉末を得た。
【0064】
その後、メソポーラスシリカ粉末にジアンミンジニトロ白金硝酸溶液を加え、ホットプレートを用いて蒸発乾固した。その後、得られた固形物を一晩減圧乾燥した。その後、水素ガス10%、窒素ガス90%の還元処理ガス中で250℃、1時間焼成し、Pt/メソポーラスシリカ粉末を得た。メソポーラスシリカに対するPtの担持量は1wt%であった。
【0065】
Pt/メソポーラスシリカ粉末のBET測定を実施したところ、メソポーラスシリカの比表面積、細孔容積、細孔径はそれぞれ364m2/g、0.224cm3/g、3.28nmであった。また、Ptの粒子サイズをTEMで観察したところ、2.9nmであった。
【0066】
[実施例1]
上記製造例1で得た、Pt/メソポーラスシリカ膜/ハニカムで構成される触媒体ハニカム(150×150×10mm)を小型空気清浄機(ツインバード工業株式会社 AC-4234)の噴出し口に配置した。以下、該触媒体ハニカムを備える小型空気清浄器を鮮度保持装置と称す。
【0067】
この鮮度保持装置が配置されている室内での環境下、カーネーションを温度20℃、湿度70%で9日間貯蔵したところ、退色などはみられなかった。
【0068】
[比較例1]
鮮度保持装置を用いずカーネーションを9日間貯蔵したところ以外は、実施例1と同様に貯蔵を行った。9日後、カーネーションは、退色していた。
【0069】
[実施例2]
カーネーションに代えてトルコキキョウを9日間貯蔵した以外は、実施例1と同様に貯蔵を行った。トルコキキョウには、9日後、退色はみられなかった。
【0070】
[比較例2]
カーネーションに代えてトルコキキョウを9日間貯蔵した以外は、比較例1と同様に貯蔵を行った。9日後、トルコキキョウは、退色していた。
【0071】
[実施例3]
密閉容器内に、キーツマンゴーおよび上記製造例2で得たPt/メソポーラスシリカ膜/ガラス不織布(100×100mm)の触媒体を3枚入れ、温度26℃の条件にて9日間貯蔵した後、官能評価を行った。その結果、若いフルーティな臭いがし、食してみるとやや強い酸味のある味がした。なお、キーツマンゴーを貯蔵した容器内部の空気からは、エチレンが検出されなかった。また、容器内部の空気をGC-MSで分析した。
【0072】
[比較例3]
触媒体を用いない以外は、実施例3と同様に貯蔵を行った。その結果、発酵臭をともなう腐ったような臭いがした。また、食してみると、アルコール発酵臭を持った、実施例5の場合よりもより成熟しているといえる味がした。
したがって、実施例3の方法のほうが、比較例3の方法よりも、熟成を抑制できていたことがわかる。
なお、キーツマンゴーを貯蔵した容器内部の空気からは、エチレンが検出されなかった。また、容器内部の空気をGC-MSで分析した。
図1(GC-MSの結果)より、実施例3は、比較例3に比べ、保持時間1.8minのジメチルスルフィドのピークが減少しており、製造例2の触媒体によりジメチルスルフィドが除去されていたことがわかる。
【0073】
[実施例4]
密閉容器内に、8割熟成のアップルマンゴーおよび上記製造例2で得たPt/メソポーラスシリカ膜/ガラス不織布(100×100mm)の触媒体を3枚入れ、温度26℃の条件にて12日間貯蔵した後、官能評価を行った。その結果、食すのに適当と感じられるマンゴーの臭いがし、また、食してみると、甘熟したマンゴーであった。なお、貯蔵開始から9日後の容器内部の空気からは、エチレンは不検出であり、貯蔵開始から12日後の容器内部の空気からは、エチレン50ppm以上が検出された。また、容器内部の空気をGC-MSで分析した。
【0074】
[比較例4]
触媒体を用いない以外は、実施例4と同様に行った。その結果、熟し過ぎて腐ったマンゴーの臭いがし、食したところ臭いの通り味はまずいものであった。なお、貯蔵開始から9日後の容器内部の空気からは、エチレン25ppmが検出され、貯蔵開始から12日後の容器内部の空気からは、エチレン50ppm以上が検出された。また、容器内部の空気をGC-MSで分析した。
図2(GC-MSの結果)より、実施例4は、比較例4に比べ、保持時間13.3minのn-オクタン酸エチル、保持時間14minの2-エチルヘキサノール、保持時間16.1minの酪酸、16.8minのアセトフェノンのピークが減少しており、製造例2の触媒体によりこれらの成分が低減されていたことがわかる。
したがって、実施例4においてエチレン以外の成分の低減が確認されたため、発生するエチレンには関係なく、実施例4の方法のほうが比較例4の方法よりも熟成を抑制できていたことがわかる。
【0075】
[実施例5]
密閉容器内に、5割熟成のキンコウマンゴーおよび上記製造例2で得たPt/メソポーラスシリカ膜/ガラス不織布(100×100mm)の触媒体を3枚入れ、温度26℃の条件にて12日間貯蔵した後、官能評価を行った。なお、キンコウマンゴーを貯蔵した容器内部の空気からは、エチレンが検出されなかった。
【0076】
[比較例5]
触媒体を用いない以外は、実施例5と同様に貯蔵を行った。なお、キンコウマンゴーを貯蔵した容器内部の空気からは、エチレンが検出されなかった。
【0077】
上記実験を経たキンコウマンゴーについて、下記の基準で、10名のパネラーが各々評価し、その平均値を表1にあげる。
(熟度の評価基準)
5:硬さ、臭い、色が、かなり強い。
4:硬さ、臭い、色が、やや強い。
3:硬さ、臭い、色が、普通。
2:硬さ、臭い、色が、やや弱い。
1:硬さ、臭い、色が、かなり弱い。
(風味の評価基準)
5:マンゴー独特の香り、甘さに優れ、異味のない。
4:マンゴー独特の香り、甘さにやや優れ、異味のない。
3:マンゴー独特の香り、甘さは、普通。
2:マンゴー独特の香り、甘さにやや劣り、異味がする。
1:マンゴー独特の香り、甘さに劣り、異味がする。
【0078】
【0079】
表1によれば、13日後の熟度は、比較例5が4.5に対して、実施例5が2.5となり、実施例5の方法のほうが比較例5の方法よりも熟成を抑制できていたことがわかる。
【0080】
[実施例6]
密閉容器内に、8割熟成のアップルマンゴーおよび乾燥剤および上記製造例2で得たPt/メソポーラスシリカ膜/ガラス不織布(100×100mm)の触媒体を3枚入れ、温度26℃の条件にて12日間貯蔵した後、官能評価を行った。なお、アップルマンゴーを貯蔵した容器内部の空気からは、エチレンが検出されなかった。
【0081】
[比較例6]
触媒体を用いない以外は、実施例6と同様に貯蔵を行った。なお、アップルマンゴーを貯蔵した容器内部の空気からは、エチレンが検出されなかった。
【0082】
[比較例7]
密閉容器、触媒体、乾燥剤を用いない以外は、実施例6と同様に貯蔵を行った。
【0083】
[実施例7]
温度を15℃にしたこと以外は、実施例6と同様に貯蔵を行った。なお、アップルマンゴーを貯蔵した容器内部の空気からは、エチレンが検出されなかった。
【0084】
[比較例8]
触媒体を用いない以外は、実施例7と同様に貯蔵を行った。なお、アップルマンゴーを貯蔵した容器内部の空気からは、エチレンが検出されなかった。
【0085】
[比較例9]
密閉容器、触媒体、乾燥剤を用いないこと以外は、実施例7と同様に貯蔵を行った。
【0086】
[実施例8]
温度を4℃にしたこと以外は、実施例6と同様に貯蔵を行った。なお、アップルマンゴーを貯蔵した容器内部の空気からは、エチレンが検出されなかった。
【0087】
[比較例10]
触媒体を用いない以外は、実施例8と同様に貯蔵を行った。なお、アップルマンゴーを貯蔵した容器内部の空気からは、エチレンが検出されなかった。
【0088】
[比較例11]
密閉容器、触媒体、乾燥剤を用いないこと以外は、実施例8と同様に貯蔵を行った。
【0089】
上記実験を経たアップルマンゴーについて、上記の基準で、10名のパネラーが各々評価し、その平均値を表2にあげる。
【0090】
【0091】
表2より、12日後の熟度は各貯蔵温度で比較した場合、各比較例より各実施例の方法のほうが熟成を抑制できていたことがわかる。
【0092】
[実施例9]
密閉容器内に、いちご(あまおう)および上記製造例2で得たPt/メソポーラスシリカ膜/ガラス不織布(100×100mm)の触媒体を3枚入れ、温度5℃、湿度95%の条件にて14日間貯蔵し、外観変化を観察した。その結果、カビ発生個数は、26個中、6個であり、カビ発生率は、23%であった。貯蔵開始から14日後の容器内部の空気からは、エチレンは検出されなかった。また、容器内部の空気をGC-MSで分析した。
【0093】
[比較例12]
触媒体を用いない以外は、実施例9と同様に貯蔵を行った。その結果、カビ発生個数は、20個中、14個であり、カビ発生率は、70%であった。貯蔵開始から14日後の容器内部の空気からは、エチレンは検出されなかった。また、容器内部の空気をGC-MSで分析した。
したがって、実施例9の方法のほうが、比較例12の方法よりも、カビの発生が抑えられており、熟成の進行が抑制されていることがわかる。
また、
図3(GC-MSの結果)に示すとおり、実施例9は、比較例12に比べ、酢酸エチル(保持時間2.6 min)、ブチル酸エチル(保持時間5.2 min)、ヘキサン酸エチル(保持時間10min)のピークが減少しており、製造例2の触媒体によりこれらの成分が除去されていたことがわかる。
【0094】
[実施例10]
密閉容器内に、レタスおよび上記製造例2で得たPt/メソポーラスシリカ膜/ガラス不織布(100×100 mm)の触媒体を3枚入れ、温度5℃、湿度90%の条件にて14日間貯蔵し、外観変化を観察した。その結果、レタスの芯の部分の切断面における変色はほとんどなかった。また、貯蔵開始から14日後の容器内部の空気からは、エチレンは検出されなかった。
【0095】
[比較例13]
触媒体を用いない以外は、実施例10と同様に貯蔵を行った。その結果、レタスの芯の部分の切断面が赤褐色に変化していた。また、貯蔵後14日後の容器内部の空気からは、エチレンは検出されなかった。
したがって、実施例10の方法のほうが、比較例13の方法よりも、変色が抑えられており、熟成の進行が抑制されていることがわかる。
【0096】
[実施例11]
密閉容器内に、チンゲン菜および上記製造例2で得たPt/メソポーラスシリカ膜/ガラス不織布(100×100mm)の触媒体を3枚入れ、温度5℃、湿度90%の条件にて14日間貯蔵し、外観変化を観察した。その結果、チンゲン菜の芯の部分の変色はほとんどなかった。また、貯蔵開始から14日後の容器内部の空気からは、エチレンは検出されなかった。
【0097】
[比較例14]
触媒体を用いない以外は、実施例14と同様に貯蔵を行った。その結果、レタスの芯の部分が赤褐色に変化していた。また、貯蔵開始から14日後の容器内部の空気からは、エチレンは検出されなかった。
したがって、実施例10の方法のほうが、比較例13の方法よりも、変色が抑えられており、熟成の進行が抑制されていることがわかる。
【0098】
[実施例12]
密閉容器内に、バナナおよび上記製造例3で得たPt/メソポーラスシリカ粉末(1g)の触媒体を入れ、温度25℃の条件にて14日間貯蔵し、外観変化を観察した。その結果、バナナには、ほとんど傷みがなかった。また、貯蔵開始から14日後の容器内部の空気からは、エチレンは検出されなかった。また、容器内部の空気をGC-MSで分析した。
【0099】
[比較例15]
触媒体を用いない以外は、実施例12と同様に貯蔵を行った。その結果、バナナは、黒く変色していた。また、貯蔵開始から14日後の容器内部の空気からは、エチレンが3ppm検出された。
したがって、実施例12の方法のほうが、比較例15の方法よりも、変色が抑えられており、熟成の進行が抑制されていることがわかる。また、
図4(GC-MSの結果)に示すとおり、実施例12は、比較例15に比べ、保持時間1.9minのジメチルスルフィドのピークが減少しており、製造例3の触媒体によりジメチルスルフィドが除去されていたことがわかる。
【0100】
[実施例13]
密閉容器内に、アボカドおよび上記製造例3で得たPt/メソポーラスシリカ粉末(1g)の触媒体を入れ、温度25℃の条件にて8日間貯蔵し、外観変化を観察した。その結果、カット(貯蔵後にカット、比較例16も同じ)したアボカドの断面には、ほとんど傷みがなかった。また、貯蔵開始から8日後の容器内部の空気からは、エチレンは検出されなかった。また、容器内部の空気をGC-MSで分析した。
【0101】
[比較例16]
実施例13に対して、触媒体を用いない以外は、実施例13と同様に行った。その結果、カットしたアボカドの断面は、黒く変色していた。また、貯蔵開始から14日後の容器内部の空気からは、エチレンが60ppm検出された。
したがって、実施例13の方法のほうが、比較例16の方法よりも、変色が抑えられており、熟成の進行が抑制されていることがわかる。
図5(GC-MSの結果)に示すとおり、実施例13は、比較例16に比べ、保持時間7.0minのジメチルジスルフィドのピークが減少しており、本発明の触媒体によりジメチルジスルフィドが除去されていたことがわかる。
【0102】
以上より、エチレンでないものの影響により熟成等が進む果物、野菜や花卉についても熟成や変色(退色)を抑えることができることが示された。