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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】洗濯機向けの駆動ユニット
(51)【国際特許分類】
   D06F 37/40 20060101AFI20230829BHJP
   D06F 33/30 20200101ALI20230829BHJP
【FI】
D06F37/40 Z
D06F33/30
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019018807
(22)【出願日】2019-02-05
(65)【公開番号】P2020124381
(43)【公開日】2020-08-20
【審査請求日】2022-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】390019839
【氏名又は名称】三星電子株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】129,Samsung-ro,Yeongtong-gu,Suwon-si,Gyeonggi-do,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中川 幸典
(72)【発明者】
【氏名】園田 康行
【審査官】木戸 優華
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/208003(WO,A1)
【文献】特開2002-210288(JP,A)
【文献】特開2015-167663(JP,A)
【文献】特開2017-099605(JP,A)
【文献】特開2003-326084(JP,A)
【文献】特開2015-086720(JP,A)
【文献】実開昭54-101077(JP,U)
【文献】特開2003-188012(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06F 37/40
D06F 33/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗濯機向けの駆動ユニットであって、
シャフトと、
前記シャフトを回転させるモータと、
前記シャフトと前記モータとの間に介在するクラッチおよび遊星歯車機構を用いた減速機と、
を備え、
前記クラッチは、
回転軸方向にスライドする可動部と、
前記回転軸方向に離れて位置する一対の固定部と、
前記可動部をスライドさせて前記固定部のいずれか一方と連結することにより、前記減速機の連結状態を切り替える駆動部と、
を有し、
前記駆動部は、
前記可動部に設けられてクラッチマグネットを含む可動子と、
前記可動子とギャップを隔てて径方向に対向するように設けられてクラッチコイルおよびクラッチヨークを含む固定子と、
を有し、
前記クラッチマグネットが前記回転軸方向に並ぶ3つの磁極を有し
前記クラッチヨークは、前記磁極のうち、両端部に位置する端部磁極と対向する一対の磁極対向部を有し、
前記クラッチコイルに電流が供給されていない時に、前記可動子が、前記可動部と前記固定部との連結位置の一方の側に、磁気的に安定する第1安定点を有し、前記連結位置の他方の側に、磁気的に安定する第2安定点を有している、駆動ユニット。
【請求項2】
洗濯機向けの駆動ユニットであって、
ユニットベースと、
回転軸を中心に回転可能な状態で前記ユニットベースに支持されているシャフトと、
前記シャフトを回転させるモータと、
前記シャフトと前記モータとの間に介在する減速機およびクラッチと、
を備え、
前記モータは、
前記回転軸を中心に回転可能な状態で支持されているロータと、
前記ユニットベースに固定されて、前記ロータと所定のギャップを隔てて対向するステータと、
を有し、
前記減速機は、
前記シャフトに固定されたキャリアと、
前記回転軸を中心に回転するサンギヤと、
前記サンギヤの周囲に配置されるインターナルギヤと、
前記キャリアに回転可能な状態で支持されていて、前記サンギヤおよび前記インターナルギヤと噛み合うようにこれらの間に配置されている複数のプラネタリギヤと、
を有し、
前記クラッチは、
回転軸方向にスライドする可動部と、
前記回転軸方向に離れて位置する第1および第2からなる一対の固定部と、
前記可動部をスライドさせる駆動部と、
を有し、
前記可動部が第1の前記固定部と連結されることにより、前記モータが前記減速機を介して前記シャフトを回転させる第1モードと、前記可動部が第2の前記固定部と連結されることにより、前記モータが前記減速機を介さずに前記シャフトを回転させる第2モードとに切り替わるように構成され、
前記駆動部は、
前記可動部に設けられてクラッチマグネットを含む可動子と、
前記可動子とギャップを隔てて径方向に対向するように設けられてクラッチコイルおよびクラッチヨークを含む固定子と、
を有し、
前記クラッチマグネットが前記回転軸方向に並ぶ3つの磁極を有し
前記クラッチヨークは、前記磁極のうち、両端部に位置する端部磁極と対向する一対の磁極対向部を有し、
前記クラッチコイルに電流が供給されていない時に、前記可動子が、前記可動部と前記固定部との連結位置の一方の側に、磁気的に安定する第1安定点を有し、前記連結位置の他方の側に、磁気的に安定する第2安定点を有している、駆動ユニット。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の駆動ユニットにおいて、
前記固定部の各々は、回転軸方向に突出する固定側突起を有し、
前記可動部は、前記固定部との連結時に前記固定側突起の各々と噛み合う一対の可動側突起を有し、
前記固定側突起と前記可動側突起とが噛み合う周方向の所定位置に、前記固定部および前記可動部を位置決めする位置決め部を有している、駆動ユニット。
【請求項4】
請求項3に記載の駆動ユニットにおいて、
前記可動部と前記固定部との連結部位に、連結時の衝撃を緩和する緩衝部材が設けられている、駆動ユニット。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1つに記載の駆動ユニットにおいて、
前記モータおよび前記クラッチを制御する制御装置を更に備え、
前記制御装置は、
前記モータの駆動を制御するモータ制御部と、
前記クラッチの駆動を制御するクラッチ制御部と、
を有し、
前記クラッチ制御部が、前記モータ制御部と制御回路を共用している、駆動ユニット。
【請求項6】
請求項5に記載の駆動ユニットにおいて、
前記クラッチ制御部が、前記クラッチに所定の切替電流を供給して前記可動部を前記固定部に連結する直前に、前記切替電流とは逆向きの衝撃緩和電流を前記クラッチに供給する、駆動ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示する技術は、洗濯機に好適な駆動ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、様々なタイプの洗濯機が製品化されている。大別すれば、洗濯物を収容する回転槽が縦軸回りに回転する縦型洗濯機、横軸ないし傾斜した軸回りに回転するドラム式洗濯機がある。傾向として、ドラム式洗濯機の方が、主流になりつつある。これら洗濯機は、いずれもモータで駆動されている。
【0003】
ドラム式洗濯機の場合、洗濯物を収容したドラムが回転することによって、洗い、濯ぎ、脱水などの一連の洗濯処理が行われる。多量の水を含む洗濯物を回転させる洗いや濯ぎの工程では、低速で高トルクの回転力が要求される。洗濯物が水をほとんど含まない状態になるように洗濯物を回転させる脱水の工程では、高速で低トルクの回転力が要求される。
【0004】
従って、洗濯機を駆動するモータは、これら回転力に対応する必要がある。そのため、一般に、減速機およびクラッチが利用されている。例えば、モータと出力軸との間に、プーリとベルトを介在させたり、遊星歯車機構など、複数のギヤを介在させたりして減速できるようにする。更にクラッチを介在させることにより、運転状態を切り替えられるようにする。
【0005】
このような減速機およびクラッチの従来例としては、例えば、特許文献1~4がある。ただし、これらに開示されている減速機およびクラッチでは、2つの出力軸を切り替えたり、クラッチがモータの外に配置されていたり、減速機とクラッチとが軸方向に並んで配置されていたりしている。
【0006】
このような、モータで駆動対象を間接的に駆動するタイプ(インダイレクトドライブ方式)の洗濯機とは異なり、モータで駆動対象を直接的に駆動するタイプ(ダイレクトドライブ方式)の洗濯機もある。そのような洗濯機では、減速機およびクラッチに代えて、インバータ制御が行われている。
【0007】
開示する技術に関し、電磁力で摺動子をスライドさせることによって、切り替えを行うクラッチが、特許文献5に開示されている。ただし、そこでの摺動子は、金属製の吸着子を有しており、その吸着子を電磁力で吸着することにより、バネの弾性力に抗してスライドさせている。
【0008】
特許文献5のクラッチは、摺動子を所定位置に保持するため、常時、電力を供給して電磁力を発生させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2001-778号公報
【文献】特表2006-517126号公報
【文献】特開2017-99605号公報
【文献】特開2010-240006号公報
【文献】特開2001-017778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
洗濯機では、コンパクトなサイズで洗濯容量が大きいこと、低騒音であること、省エネであることなどが要望される。
【0011】
それに対し、ダイレクトドライブ方式の洗濯機の場合、速度差やトルク差の大きな回転力を、制御により、磁気構成が同じ1つのモータで出力しなければならない。そのため、大きく異なる回転状態でモータを駆動させる必要があり、最適な回転性能状態に保持できない。また、そのような回転性能状態に対応するためには、モータ自体が大型になる。
【0012】
一方、インダイレクトドライブ方式の洗濯機の場合、減速機やクラッチが駆動対象とモータとの間に介在する。従って、これらを設置する大きなスペースが必要になる。その分、洗濯容量が制約を受ける。また、出力軸が2つになるなど、機械的な構造が複雑になる。機械的な構造が複雑であると、大きな音が出易い。
【0013】
ダイレクトドライブ方式、インダイレクトドライブ方式のいずれにおいても、一長一短がある。
【0014】
そこで開示する技術の主たる目的は、各方式を効率的に組み合わせることにより、洗濯機の駆動に好適な駆動ユニットを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
開示する技術は、洗濯機向けの駆動ユニットに関する。
【0016】
前記駆動ユニットは、シャフトと、前記シャフトを回転させるモータと、前記シャフトと前記モータとの間に介在するクラッチおよび遊星歯車機構を用いた減速機と、を備える。前記クラッチは、回転軸方向にスライドする可動部と、前記回転軸方向に離れて位置する一対の固定部と、前記可動部をスライドさせて前記固定部のいずれか一方と連結することにより、前記減速機の連結状態を切り替える駆動部と、を有している。前記駆動部は、前記可動部に設けられてクラッチマグネットを含む可動子と、前記可動子とギャップを隔てて径方向に対向するように設けられてクラッチコイルおよびクラッチヨークを含む固定子と、を有している。そして、前記クラッチマグネットが前記回転軸方向に並ぶ複数の磁極を有している。
【0017】
具体的には、前記駆動ユニットは次のように構成することができる。
【0018】
前記駆動ユニットは、ユニットベースと、回転軸を中心に回転可能な状態で前記ユニットベースに支持されているシャフトと、前記シャフトを回転させるモータと、前記シャフトと前記モータとの間に介在する減速機およびクラッチと、を備える。
【0019】
前記モータは、前記回転軸を中心に回転可能な状態で支持されているロータと、前記ユニットベースに固定されて、前記ロータと所定のギャップを隔てて対向するステータと、を有している。
【0020】
前記減速機は、前記シャフトに固定されたキャリアと、前記回転軸を中心に回転するサンギヤと、前記サンギヤの周囲に配置されるインターナルギヤと、前記キャリアに回転可能な状態で支持されていて、前記サンギヤおよび前記インターナルギヤと噛み合うようにこれらの間に配置されている複数のプラネタリギヤと、を有している。
【0021】
前記クラッチは、回転軸方向にスライドする可動部と、前記回転軸方向に離れて位置する第1および第2からなる一対の固定部と、前記可動部をスライドさせる駆動部と、を有している。そして、前記可動部が第1の前記固定部と連結されることにより、前記モータが前記減速機を介して前記シャフトを回転させる第1モードと、前記可動部が第2の前記固定部と連結されることにより、前記モータが前記減速機を介さずに前記シャフトを回転させる第2モードとに切り替わるように構成されている。
【0022】
前記駆動部は、前記可動部に設けられてクラッチマグネットを含む可動子と、前記可動子とギャップを隔てて径方向に対向するように設けられてクラッチコイルおよびクラッチヨークを含む固定子と、を有している。そして、前記クラッチマグネットが前記回転軸方向に並ぶ複数の磁極を有している。
【0023】
この駆動ユニットによれば、駆動力を出力するシャフトとモータとの間に、クラッチと減速機とが備えられている。すなわち、これらが一体的に構成されているので、ユニット全体をコンパクトなサイズにできる。1本のシャフトから減速した出力と減速しない出力とを切り替えて出力できる。従って、洗いや脱水を行う洗濯機に好適である。
【0024】
そして、そのクラッチは、固定子を有する駆動部で、可動子を有する可動部を回転軸方向にスライドさせることによって減速機の連結状態を切り替える。可動子は、回転軸方向に並ぶ複数の磁極を有するクラッチマグネットを有しているので、固定子のクラッチコイルに通電することで、可動部をスライドさせることができる。そして、無通電時には、クラッチヨークとクラッチマグネットとの間に作用する電磁力の作用で、可動部の連結状態を保持できる。
【0025】
従って、クラッチを切り替える時にだけ、クラッチコイルに電流を供給すればよいので、電力の消費が抑制できる。
【0026】
前記駆動ユニットはまた、前記クラッチコイルに電流が供給されていない時に、前記可動部と前記固定部との連結位置の一方の側に、磁気的に安定する第1安定点を有し、前記連結位置の他方の側に、磁気的に安定する第2安定点を有している、としてもよい。
【0027】
特に、前記クラッチマグネットが有する磁極が3つであり、前記クラッチヨークが、前記磁極のうち、両端部に位置する端部磁極と対向する一対の磁極対向部を有している、とするのが好ましい。
【0028】
そうすれば、可動部の連結状態を、より安定して保持できる。
【0029】
前記洗濯機はまた、前記固定部の各々は、回転軸方向に突出する固定側突起を有し、前記可動部は、前記固定部との連結時に前記固定側突起の各々と噛み合う一対の可動側突起を有し、前記固定側突起と前記可動側突起とが噛み合う周方向の所定位置に、前記固定部および前記可動部を位置決めする位置決め部を有している、としてもよい。
【0030】
そうすれば、固定側突起と可動側突起との噛み合いによって固定部と可動部とが連結されるので、簡単な構成で、これらの安定した連結状態を確保できる。そして、位置決め部を有しているので、固定側突起に対して可動側突起が周方向にずれて噛み合わない状態になっても、円滑に噛み合わせることができる。
【0031】
前記洗濯機はまた、前記可動部と前記固定部との連結部位に、連結時の衝撃を緩和する緩衝部材が設けられている、としてもよい。
【0032】
可動部はスライドして固定部に連結される。従って、連結時にはこれらの接触に伴って不快な衝撃音が発生し得る。それに対し、可動部と固定部との連結部位に、弾性部材や制振性部材等、連結時の衝撃を緩和する緩衝部材を設けておけば、衝撃音を低減できる。
【0033】
前記洗濯機はまた、前記モータおよび前記クラッチを制御する制御装置を更に備え、前記制御装置は、前記モータの駆動を制御するモータ制御部と、前記クラッチの駆動を制御するクラッチ制御部と、を有し、前記クラッチ制御部が、前記モータ制御部と制御回路を共用している、としてもよい。
【0034】
そうすれば、半導体素子等の部品点数の増加を抑制でき、安価に実現できる。
【0035】
前記洗濯機はまた、前記クラッチ制御部が、前記クラッチに所定の切替電流を供給して前記可動部を前記固定部に連結する直前に、前記切替電流とは逆向きの衝撃緩和電流を前記クラッチに供給する、としてもよい。
【0036】
そうすれば、構造的な工夫を行わなくても、安価かつ簡便に衝撃音が低減できる。
【発明の効果】
【0037】
開示する技術によれば、洗濯機の駆動に好適な駆動ユニットが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】開示する技術を適用した洗濯機の構造を示す概略図である。
図2】駆動ユニットの外観を示す概略側面図である。
図3】駆動ユニットの主な部材を示す分解斜視図である。
図4】駆動ユニットの要部の概略断面図である。
図5】シャフトおよびロータの部分を示す概略斜視図である。
図6】ステータの部分を示す概略斜視図である。
図7】減速機の部分を示す概略斜視図である。
図8】減速機とクラッチの部分を示す概略斜視図である。
図9】減速機とクラッチの部分の要部を示す概略斜視図である。
図10】減速機とクラッチの部分の要部を示す概略斜視図である。
図11】クラッチの切り替えを説明する図である。
図12A】洗濯機の基本的な運転例を示すフローチャートである。
図12B】クラッチの切り替え例を示すフローチャートである。
図13】クラッチの要部を示す概略斜視図である。
図14A】クラッチの機能を説明するための図である(無通電時の状態)
図14B】クラッチの機能を説明するための図である(通電時の状態)
図15A】駆動ユニットの制御回路を示す概略図である。
図15B】他の駆動ユニットの制御回路を示す概略図である。
図16A】クラッチの切替時の衝撃音を低減する制御例を示す図である。
図16B】他のクラッチの切替時の衝撃音を低減する制御例を示す図である。
図17】減速機の部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、開示する技術の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限するものではない。なお、説明の便宜上、対応した図を基準にして上下等の方向を用いる場合がある。また、回転軸を基準にして、回転軸が延びる方向を「回転軸方向」といい、回転軸を中心とした周りの方向を「周方向」といい、回転軸に対して直径または半径の方向を「径方向」ともいう。
【0040】
<洗濯機>
図1に、開示する技術を適用した洗濯機1を例示する。この洗濯機1は、いわゆるドラム式の洗濯機である。また、この洗濯機1は、いわゆる全自動式洗濯機であり、洗い、濯ぎ、脱水などの工程からなる一連の洗濯処理が、自動的に実行できるように構成されている。
【0041】
洗濯機1は、主に、筐体2、タブ3(固定槽)、ドラム4(回転槽)、駆動ユニット5、コントローラ6(制御装置)などで構成されている。
【0042】
筐体2は、パネルやフレームで構成された箱形の容器であり、洗濯機1の外郭を構成している。筐体2の前面には、洗濯物を出し入れするために、円形の投入口2aが形成されている。投入口2aには透明な窓を有するドア2bが取り付けられている。投入口2aは、ドア2bによって開閉される。筐体2における投入口2aの上側には、ユーザが操作するスイッチ等を有する操作部7が設置されている。
【0043】
(タブ3)
筐体2の内部には、投入口2aに連通するタブ3が設置されている。タブ3は、有底円筒状の貯水可能な容器からなり、その開口が投入口2aと接続されている。タブ3は、その中心線Jを前方に向かって上向きに僅かに傾斜させた姿勢で安定するように、筐体2の内部に設けられたダンパ(図示せず)によって支持されている。
【0044】
タブ3の上部には、給水配管8a、給水弁8b、薬剤投入装置8cなどで構成された給水装置8が設けられている。給水配管8aの上流側の端部は、洗濯機1の外部に突出し、図外の給水源に接続されている。給水配管8aの下流側の端部はタブ3の上部に開口する給水口3aに接続されている。給水弁8bおよび薬剤投入装置8cは、上流側からこの順に給水配管8aの途中に設置されている。
【0045】
薬剤投入装置8cは、洗剤や柔軟剤等の薬剤を収容し、これら薬剤を、給水される水に混合することによってタブ3に投入する。タブ3の下部には、排水口3bが設けられている。排水口3bは、排水ポンプ9に接続されている。排水ポンプ9は、タブ3に溜まる不要な水を、排水管9aを通じて洗濯機1の外部に排出する。
【0046】
(ドラム4)
ドラム4は、タブ3よりも僅かに小径の円筒状の容器からなり、タブ3と中心線Jを一致させた状態で、タブ3に収容されている。ドラム4の前部には、投入口2aに臨む円形開口4aが形成されている。洗濯物は、投入口2aおよび円形開口4aを通じて、ドラム4の内部に投入される。
【0047】
ドラム4の側部には、多数の脱水孔4bが全周にわたって形成されている(図1では一部のみ表示)。また、その側部の内側の複数箇所には、撹拌用のリフター4cが取り付けられている。ドラム4の前部は、投入口2aに回転可能な状態で支持されている。
【0048】
タブ3の底部には、駆動ユニット5が取り付けられている。駆動ユニット5は、図2図3に具体的に示すように、シャフト50、ユニットベース51、モータ52などで構成されている。シャフト50は、タブ3の後部を貫通し、タブ3の内部に突出している。シャフト50の先端は、ドラム4の底部の中心に固定されている。
【0049】
すなわち、ドラム4の後部はシャフト50で軸支されていて、駆動ユニット5は、ドラム4を直接的に駆動する(いわゆるダイレクトドライブ方式に相当)。それにより、ドラム4は、モータ52の駆動によって中心線Jの回りを回転する。
【0050】
中心線Jは、回転軸に相当する(回転軸J)。この洗濯機1はドラム式であるため、回転軸Jは、水平方向に対して傾斜した方向または略水平方向に延びるように配置される。
【0051】
コントローラ6は、筐体2の上部に設置されている。コントローラ6は、CPU、メモリなどのハードウエアと、制御プログラムや各種データなどのソフトウエアとで構成されている。コントローラ6は、洗濯機1の動作を総合的に制御する。
【0052】
筐体2の内部には、外部の電源から電力の供給を受けるインバータ10が設置されている。インバータ10は、コントローラ6および駆動ユニット5と電気的に接続されている。コントローラ6が、インバータ10を制御することによって駆動ユニット5が駆動する。それにより、ドラム4が回転する。
【0053】
<駆動ユニット5>
上述したように、駆動ユニット5は、シャフト50、ユニットベース51、モータ52などで構成されている。図4に、駆動ユニット5の要部の概略断面図を示す。
【0054】
図3に示すように、ユニットベース51は、タブ3の底部に取り付けられる略円板状の金属や樹脂の部材からなる。ユニットベース51の中心部には、中心線Jに沿って延びる円筒状の軸挿入孔511が形成されている。軸挿入孔511の両端部には、一対のボールベアリング(メインベアリング512Mおよびサブベアリング512S)が装着される。図3では、シャフト50およびサブベアリング512Sは、モータ52に組み付けられた状態で表してある。モータ52は、ユニットベース51の裏側に組み付けられる。
【0055】
シャフト50は、軸挿入孔511よりも小径の円柱状の金属部材からなる。シャフト50は、その先端部分を軸挿入孔511から突出した状態で軸挿入孔511に挿入される。シャフト50は、一対のボールベアリング512M,512Sを介してユニットベース51に支持される。それにより、シャフト50は、回転軸Jを中心に回転可能となっている。
【0056】
このモータ52は、洗濯機1の駆動に好適なように、構造が工夫されている。すなわち、洗濯機1では、洗い、濯ぎ、脱水の各工程が行われる。そのために、モータ52には、低速回転での高トルクな出力と、低トルクであるが高速回転の出力とが要求される。
【0057】
一般的には、減速機およびクラッチをドラムとモータとの間に介在させて、間接的にドラムを回転させる方式(インダイレクトドライブ方式)や、モータを、インバータ制御による駆動で直接的にドラムを回転させる方式(ダイレクトドライブ方式)が採用されている。
【0058】
それに対し、この駆動ユニット5では、インダイレクトドライブ方式とダイレクトドライブ方式とを効率的に組み合わせることにより、個々の方式の欠点が解消できるように工夫されている。すなわち、この洗濯機1では、コンパクトなサイズで洗濯容量が大きいこと、低騒音であること、省エネであることなどが実現可能となっている。
【0059】
具体的には、出力軸である1本のシャフト50を回転させるモータ52に、シャフト50とモータ52との間に介在する減速機53およびクラッチ54を効率的に組み込むことによって、これらが一体的に構成されている。それにより、モータ52と減速機53とクラッチ54とが、回転軸Jに対して略垂直な方向に一列に並んだ状態となっている。以下、これらの構造について、詳細に説明する。
【0060】
(シャフト50の基端部50a)
図4に示すように、シャフト50の基端部50aは、サブベアリング512Sから突出している。シャフト50の基端部50aには、中心線Jに沿って延びるネジ孔501が形成されている。シャフト50の基端部50aの外周面には、中心線Jに沿って延びるセレーションが形成されている(図7参照)。ネジ孔501に、止め具502を介してボルト503が締結されている。そうすることにより、シャフト50の基端部50aには、後述するキャリア531のメインフレーム5311が固定されている。
【0061】
(モータ52)
モータ52は、ロータ521およびステータ522を有している。モータ52は、ステータ522の外側にロータ521が位置する、いわゆるアウターロータ型である。
【0062】
図5に示すように、ロータ521は、ロータケース5211、複数の磁石5212などで構成されている。ロータケース5211は、中心が回転軸Jに一致するように配置される有底円筒形状をした部材からなる。ロータケース5211は、中心に丸孔が開口した円板状の底壁5211aと、その底壁5211aの周囲に連なる円筒状の周壁5211bと、を有している。なお、底壁5211aは多物品でも1物品でもよい。ロータケース5211は、底が浅く(厚みが小さく)、底壁5211aの半径よりも周壁5211bの高さの方が小さく形成されている。
【0063】
底壁5211aの中心部に開口した丸孔の周囲には、周壁5211bと対向する円筒状の軸支部5211cが形成されている。軸支部5211cの外周面にはギヤが形成されており、軸支部5211cは、後述するサンギヤを兼ねている(サンギヤ5211c)。
【0064】
軸支部5211cの内側には、円筒状の焼結含油軸受5213が固定されている。軸支部5211cは、この焼結含油軸受5213を介して、シャフト50(詳細には、シャフト50に固定されたメインフレーム5311)に摺動可能な状態で支持されている。それにより、ロータケース5211は、シャフト50に対して回転可能となっている。焼結含油軸受5213は、ロータ軸受部を構成している。
【0065】
各磁石5212は、円弧状に曲げられた矩形の永久磁石からなる。各磁石5212は、周方向に直列に連なって並ぶように、ロータケース5211の周壁5211bの内面に固定されている。各磁石5212は、ロータ521の磁極を構成し、S極とN極とが交互に並ぶように配置されている。
【0066】
図6に示すように、ステータ522は、円環状の部材からなり、円環状のコア部522aと、コア部522aから外側に向かって放射状に突出する複数のティース部522bとを有している。ステータ522は、コア部522aの内側に設けられた固定フランジ部522cを介してユニットベース51に固定されている。ステータ522は、ロータケース5211に収容されている。
【0067】
コア部522aおよび各ティース部522bは、磁性を有する金属製のステータコア5221の表面を、絶縁性のインシュレータで被覆することによって構成されている。また、図示はしないが、各ティース部522bには、所定の順序で導線を巻き付けることにより、複数のコイルが形成されている。ステータ522の外周部分に位置する各ティース部522bの突端面には、ステータコア5221の一部が露出している。これらステータコア5221の露出部分が、所定のギャップを隔ててロータ521の磁石5212と径方向に対向している。
【0068】
複数のコイルは、U、V、およびWからなる3相のコイル群を構成している。これらコイル群の各々に、コントローラ6が、インバータ10を制御することにより、位相をずらしながら交流を供給する。そうすることにより、各コイル群とロータ521の磁極との間で磁界が形成される。磁力の作用で、ロータ521は回転軸Jを中心に回転する。
【0069】
(減速機53)
減速機53は、軸支部5211cの周囲に配置されている。減速機53は、ロータケース5211に収容されている。図7に、その減速機53の部分を示す。減速機53は、いわゆる遊星歯車機構を用いた減速機であり、キャリア531、サンギヤ5211c、複数(図例では4つ)のプラネタリギヤ533、インターナルギヤ534などで構成されている。
【0070】
キャリア531は、メインフレーム5311とサブフレーム5312とを有している。サブフレーム5312は、4つの下側軸受凹部5312aを有する環状の部材からなる。サブフレーム5312は、環状のガイドプレート535を介して、ロータケース5211の上に装着されている。
【0071】
ガイドプレート535の内側には、リング状の摺動部材536が固定されている。ガイドプレート535は、軸支部5211cとの間にその摺動部材536を介在し、回転可能な状態で、ロータケース5211の底壁5211aの上に装着されている。
【0072】
メインフレーム5311は、底の浅い有底円筒形状をした基部5311aと、基部5311aの中央部からその裏側に突出した円筒状の軸止部5311bとを有している。基部5311aの裏面は、サブフレーム5312と対向するように配置される。基部5311aの裏面には、下側軸受凹部5312aの各々と対向する複数の上側軸受凹部5311cが形成されている。
【0073】
軸止部5311bの内周面には、シャフト50の基端部50aに嵌合するセレーションが形成されている。軸止部5311bにシャフト50の基端部50aが挿入されることにより、メインフレーム5311は、回転不能な状態でシャフト50に固定される。軸止部5311bの周囲には、上述したように、ロータ軸受部を構成する焼結含油軸受5213を介して、ロータ521の軸支部5211cが支持されている。この軸支部5211cが、回転軸Jを中心に回転するサンギヤを構成している。
【0074】
インターナルギヤ534は、サンギヤ5211cよりも大径の略円筒状の部材からなる。インターナルギヤ534の内周面の下部にはギヤ部534aが設けられている。ギヤ部534aには、ギヤ歯が全周にわたって形成されている。また、インターナルギヤ534の外周面には、回転軸方向に延びる線状の突起からなる複数の内側スライドガイド534bが、等間隔で全周にわたって形成されている。これら内側スライドガイド534bについては、別途後述する。
【0075】
インターナルギヤ534は、サンギヤ5211cの周囲に、回転軸Jを中心に配置されている。インターナルギヤ534の下部は、ガイドプレート535の上に配置されている。インターナルギヤ534の上部内側には、リング状の摺動部材537が固定されている(図4参照)。キャリア531(メインフレーム5311)は、この摺動部材537を介して、回転可能な状態でインターナルギヤ534に支持されている。
【0076】
各プラネタリギヤ533は、キャリア531に回転可能な状態で支持されていて、サンギヤ5211cとインターナルギヤ534とに噛み合うように、これらの間に配置されている。
【0077】
各プラネタリギヤ533は、小径のギヤ部材からなる。各プラネタリギヤ533の中心部には、ピン孔が貫通して形成されている。ピン孔に挿入されたピン5331の両端部が、メインフレーム5311の上側軸受凹部5311cと、サブフレーム5312の下側軸受凹部5312aとに軸支されている。各プラネタリギヤ533の外周面には、ギヤ歯が全周にわたって形成されている。このギヤ歯が、サンギヤ5211cおよびインターナルギヤ534の双方に噛み合っている。
【0078】
従って、インターナルギヤ534が固定された状態(回転不能な状態)で、サンギヤ5211cが所定の速度で回転すると、それに伴って、各プラネタリギヤ533が、サンギヤ5211cの回りを周回しながら回転する。それにより、キャリア531およびシャフト50は、減速された状態で回転する。
【0079】
(クラッチ54)
クラッチ54は、減速機53の周囲に配置されている。クラッチ54は、ロータケース5211に収容されている。図8図9図10に、減速機53とクラッチ54の部分を示す。クラッチ54は、スライダー541(可動部)、ロータ側およびステータ側の各ロック爪542R,542S(固定部)、およびクラッチドライバ543(駆動部)を有している。クラッチドライバ543は、可動子5431および固定子5432を有している。
【0080】
スライダー541は、インターナルギヤ534よりも大径の円筒状の部材からなる。スライダー541の内周面には、図8に一部のみ示すように、回転軸方向に延びる線状の突起からなる複数の外側スライドガイド541aが、等間隔で全周にわたって形成されている。これら外側スライドガイド541aは、インターナルギヤ534の外周面に形成されている複数の内側スライドガイド534bと噛み合うように構成されている。
【0081】
スライダー541は、その外側スライドガイド541aの各々を、インターナルギヤ534の内側スライドガイド534bの各々に噛み合わせた状態で、インターナルギヤ534の周囲に配置されている。それにより、スライダー541は、回転軸方向にスライド可能となっている。
【0082】
スライダー541の外周面には、ロータ側およびステータ側の各係合爪からなる一対の係合爪5411R,5411Sが形成されている。これら係合爪5411R,5411Sは、回転軸方向に突出する複数の突起(可動側突起)で構成されており、スライダー541の外周面に等間隔で全周にわたって形成されている。ロータ側の係合爪5411Rは、スライダー541の下端部に配置されていて、各突起が下方に向かって突出している。ステータ側の係合爪5411Sは、スライダー541の上端部に配置されていて、各突起が上方に向かって突出している。
【0083】
スライダー541の外周面におけるロータ側およびステータ側の各係合爪5411R,5411Sの間には、可動子5431を収容する可動子収容部541bが形成されている。
【0084】
図10に示すように、ロータ側のロック爪542R(第1の固定部)は、ロータケース5211に取り付けられた環状部材544に設けられている。ロータ側のロック爪542Rは、全周にわたって等間隔で回転軸方向に突出する複数の突起(固定側突起)で構成されている。これら突起は、上方に向かって突出している。また、これらの突起は図示しないが、ロータ側の一体成形時に、他部構成部と同時に構成したり、ロータケース5211に一体的に構成することも可能である。
【0085】
ステータ側のロック爪542S(第2の固定部)は、ステータ522に取り付けられた環状部材545に設けられている。ステータ側のロック爪542Sは、全周にわたって等間隔で回転軸方向に突出する複数の突起(固定側突起)で構成されている。これら突起は、下方に向かって突出している。また、これらの突起はインシュレータと一体的に構成することも可能である。
【0086】
ロータ側のロック爪542Rと、ステータ側のロック爪542Sとは、回転軸方向に離れた位置で対向するように配置されている。そして、ロータ側のロック爪542Rは、ロータ側の係合爪5411Rと噛み合うように構成されるとともに、ステータ側のロック爪542Sは、ステータ側の係合爪5411Sと噛み合うように構成されている。
【0087】
ロータ側のロック爪542Rとステータ側のロック爪542Sとの間の間隔は、ロータ側の係合爪5411Rとステータ側の係合爪5411Sとの間の間隔よりも大きく設定されている。従って、ロータ側のロック爪542Rがロータ側の係合爪5411Rと噛み合って連結されるときには、ステータ側のロック爪542Sはステータ側の係合爪5411Sと噛み合わない。ステータ側のロック爪542Sがステータ側の係合爪5411Sと噛み合って連結されるときには、ロータ側のロック爪542Rはロータ側の係合爪5411Rと噛み合わない。
【0088】
図9に示すように、クラッチドライバ543の可動子5431は、スライダコア5431aと、クラッチマグネット5431bとを有し、可動子収容部541bに設置されている。
【0089】
スライダコア5431aは、磁性を有する金属製の円筒状部材からなり、可動子収容部541bの奥方に設置されている。クラッチマグネット5431bは、永久磁石で構成されている。クラッチマグネット5431bは、スライダコア5431aの表面に接した状態で、可動子収容部541bの全周にわたって設置されている。
【0090】
図10に示すように、クラッチドライバ543の固定子5432は、クラッチコイル5432a、コイルホルダ5432b、ホルダサポート5432cなどで構成されている。コイルホルダ5432bは、開口が径方向外側に向く断面が略C形状をした、絶縁性のリング状の部材からなる。コイルホルダ5432bに電線が巻回されることによってクラッチコイル5432aが形成されている。
【0091】
ホルダサポート5432cは、コイルホルダ5432bを挟持する上下一対の環状の部材からなる。ホルダサポート5432cは、ステータ522に固定されている。それにより、クラッチコイル5432a(固定子5432)は、クラッチマグネット5431b(可動子5431)と、径方向に僅かなギャップを隔てて対向するように構成されている。
【0092】
クラッチコイル5432aへの通電は、コントローラ6によって制御される。クラッチコイル5432aへの通電によって、クラッチコイル5432aとクラッチマグネット5431bとの間に磁界が形成される。それにより、スライダー541は、回転軸方向のいずれか一方にスライドする。
【0093】
それにより、図11に示すように、ステータ側のロック爪542Sにステータ側の係合爪5411Sが噛み合う第1モードと、ロータ側のロック爪542Rにロータ側の係合爪5411Rが噛み合う第2モードとに切り替わる。
【0094】
第1モードでは、インターナルギヤ534がスライダー541を介してステータ522に支持される。それにより、ロータ521およびサンギヤ5211cの回転は、減速機53を介してシャフト50およびキャリア531に伝達される。従って、駆動ユニット5は、低回転で高トルクな回転力を出力する。
【0095】
一方、第2モードでは、インターナルギヤ534がスライダー541を介してロータ521に支持される。それにより、ロータ521およびサンギヤ5211cの回転は、減速機53を介さずに、シャフト50およびキャリア531に伝達される。
【0096】
すなわち、ロータ521、サンギヤ5211c、およびインターナルギヤ534が一体となって回転するため、各プラネタリギヤ533は周回しない。それにより、シャフト50およびキャリア531もこれらと一体になって回転する。従って、駆動ユニット5は、高回転で低トルクな回転力を出力する。
【0097】
このように、この駆動ユニット5によれば、モータ52、減速機53、およびクラッチ54が、回転軸Jに対して略垂直な方向に一列に並ぶように、モータ52に、減速機53およびクラッチ54が効率的に組み込まれて、これらが一体的に構成されている。そして、クラッチ54の切り替えにより、1本のシャフト50を通じて、低回転で高トルクな回転力と、低トルクであるが高回転の回転力とを出力することができる。そしてまた、出力が異なる第1モードと第2モードの両モードにおいても、モータ52の回転数およびトルクの値を比較的近い値に設定できので、モータ効率を最適化できる。
【0098】
従って、この駆動ユニット5は、コンパクトなサイズで、洗濯機に適した回転力を出力できる。駆動ユニット5は、洗濯機に好適である。
【0099】
<洗濯機1の運転>
図12Aに、洗濯機1の基本的な運転例を示す。
【0100】
洗濯機1の運転が行われる場合、最初に、ドラム4に洗濯物が投入される(ステップS1)。この洗濯機1の場合、その際、洗剤等も薬剤投入装置8cに投入される。そして、操作部7の操作により、コントローラ6に、洗濯開始の指示が入力される(ステップS2でYes)。それにより、コントローラ6は、洗い、濯ぎ、および脱水などからなる一連の洗濯工程を自動的に開始する。
【0101】
洗い工程に先だって、コントローラ6は、給水量を設定するため、洗濯物の重量を計測する(ステップS3)。コントローラ6は、計測した洗濯物の重量に基づいて、適切な給水量を設定する(ステップS4)。
【0102】
給水量の設定が終わると、コントローラ6は、洗い工程を開始する(ステップS5)。洗い工程が開始すると、コントローラ6は、給水弁8bを制御し、設定した所定量の水をタブ3に供給する。その際、薬剤投入装置8cに収容された洗剤が給水される水とともにタブ3に投入される。
【0103】
次に、コントローラ6は、駆動ユニット5を駆動し、ドラム4の回転を開始する、その際、コントローラ6は、ドラム4の回転に先立って、図12Bに示すように、洗いまたは濯ぎの工程か否かを判断する(ステップS10)。その結果、洗いまたは濯ぎの工程であれば、コントローラ6は、クラッチ54を制御して、第1モードに切り替える(ステップS11)。洗いまたは濯ぎの工程でない、つまり脱水の工程であれば、コントローラ6は、クラッチ54を制御して、第2モードに切り替える(ステップS12)。
【0104】
ここでは、洗い工程であるため、コントローラ6は、クラッチ54を第1モードに切り替える。それにより、駆動ユニット5により、低速で高トルクな回転力が出力される。従って、比較的重いドラム4を低速で効率よく回転させることができる。
【0105】
洗い工程が終了すると、コントローラ6は、濯ぎ工程を開始する(ステップS6)。濯ぎ工程では、排水ポンプ9の駆動により、タブ3に貯まる洗い水が排水される。次に、コントローラ6は、洗い工程と同様に、給水や撹拌の処理を実行する。
【0106】
濯ぎ工程では、クラッチ54を第1モードに維持した状態で、駆動ユニット5が駆動される。
【0107】
濯ぎ工程が終了すると、コントローラ6は、脱水工程を実行する(ステップS7)。脱水工程では、ドラム4が、所定時間、高速で回転駆動される。従って、コントローラ6は、脱水工程に先立って、クラッチ54を第2モードに切り替える。第2モードであれば、高回転で低トルクな回転力を出力できる。従って、比較的軽いドラム4を高速で効率よく回転させることができる。
【0108】
洗濯物は、遠心力でドラム4の内面に張り付いた状態になる。洗濯物に含まれる水は、ドラム4の外に流出する。それにより、洗濯物は脱水される。
【0109】
脱水によってタブ3に貯まる水は、排水ポンプ9の駆動によって排出される。脱水工程が終了すると、所定のブザーを鳴らすなどして洗濯終了の報知し、洗濯機1の運転が終了する。
【0110】
<クラッチ54の詳細>
図13に、クラッチ54の詳細を例示する。このクラッチ54によれば、簡素な構造で、安定した減速機53の切替が行える。無通電時には、永久磁石による磁気作用により、スライダー541を連結状態に保持できるので、電力消費も抑制できる。
【0111】
クラッチマグネット5431bは、永久磁石の薄板を円弧状にした複数の磁極部材54311で構成されている。各磁極部材54311は、回転軸方向にN極とS極とが交互に並ぶ複数の磁極(図例では3つ)を有している。具体的には、磁極部材54311を横断面方向から見た場合に、その中央部に位置する中間磁極54311aと、その両端部に位置する一対の端部磁極54311bと、を有している。
【0112】
回転軸方向における各端部磁極54311bの大きさは同じであり、回転軸方向における中間磁極54311aの大きさは、各端部磁極54311bよりも大きい。図例では、中間磁極54311aはN極とされ、端部磁極54311bはS極とされている。なお、各磁極54311a,54311bは周方向に延びており、各磁極部材54311の横断面構造は同じである。また、磁極部材54311は、セグメント形状であっても、円環状形状であってもよい。
【0113】
ホルダサポート5432cは、磁性を有する金属で形成されている。すなわち、ホルダサポート5432cは、クラッチヨークを構成している(以下、ホルダサポート5432cをクラッチヨーク5432cという)。クラッチヨーク5432cは、各端部磁極54311bと僅かなギャップを隔てて径方向に対向する一対の磁極対向部54321,54321を有している。
【0114】
一対の磁極対向部54321,54321の間には、中間磁極54311aと僅かなギャップを隔てて径方向に対向する空隙部54322が設けられている。従って、中間磁極54311aは、その空隙部54322を介してコイルホルダ5432bと対向する。
【0115】
そして、クラッチ54の無通電時(クラッチコイル5432aに電流が供給されていない時)には、可動子5431は、固定子5432との間での磁気的な作用により、3つの異なる位置に2つの安定点と1つの不安定点とを有するように設計されている。
【0116】
これら安定点および不安定点の具体的な位置を、図14Aに例示する。図14Aの表に示す曲線は、可動子5431の固定子5432に対する相対的な回転軸方向の位置と、磁気的な作用によって可動子5431に生じる推進力(ディテントトルク)、すなわち、クラッチコイルを励磁していない(通電していない)時に働く磁気力との関係を示している。前者が縦軸であり、後者が横軸である。
【0117】
可動子5431の位置の「0」は、可動子5431が固定子5432と正対する位置(中立位置)である。中立位置では、各端部磁極54311bは各磁極対向部54321と対向し、中間磁極54311aはコイルホルダ5432bと対向している。中立位置では、推進力は「0」である。中立位置では、僅かでもステータ側、またはロータ側に位置がずれると、ずれた方向の推進力が発生し、増加していく。従って、可動子5431は磁気的に不安定になる(不安定点P3)。
【0118】
可動子5431が中立位置にあるとき、スライダー541は、ロータ側のロック爪542Rとステータ側のロック爪542Sとの間に離れて位置する。従って、各係合爪5411R,5411Sは、各ロック爪542R,542Sと噛み合っていない。そして、可動子5431は磁気的に不安定なので、スライダー541は留まることなく、スライドする。なお、各ロック爪542R,542S、および、各係合爪5411R,5411Sの突端部分は、噛み合い易いように、先が尖った逆U形状ないし逆V形状に形成されている(図8,10参照)。
【0119】
可動子5431がステータ側(S側)にスライドすると、それに伴ってステータ側に向かう推進力(プラス方向)が増加し、所定位置でピークに達した後、推進力が低下していく。そうして、再度、推進力が「0」となり、磁気的に安定する点(第1安定点P1)に至る。
【0120】
第1安定点P1では、ステータ側の端部磁極54311bは、クラッチヨーク5432cの外方に位置し、中間磁極54311aはステータ側の磁極対向部54321と対向し、ロータ側の端部磁極54311bは、ロータ側の端部磁極54311bおよび空隙部54322と対向している。可動子5431が第1安定点P1に向かうことで、ステータ側のロック爪542Sがステータ側の係合爪5411Sと噛み合って連結される。
【0121】
本実施例では、後述するように、第1安定点P1に至る前の点P1-1(連結位置Cs)において噛み合うように設定されている(図14B参照)。噛み合い点P1-1では、第1安定点P1へ向かう推進力は保持されている。
【0122】
可動子5431がロータ側(R側)にスライドすると、それに伴ってロータ側に向かう推進力(マイナス方向)が増加し、所定位置でピークに達した後、推進力が低下していく。そうして、再度、推進力が「0」となり、磁気的に安定する点(第2安定点P2)に至る。
【0123】
第2安定点P2では、ロータ側の端部磁極54311bは、クラッチヨーク5432cの外方に位置し、中間磁極54311aはロータ側の磁極対向部54321と対向し、ステータ側の端部磁極54311bは、ステータ側の端部磁極54311bおよび空隙部54322と対向している。可動子5431が第2安定点P2に向かうことで、ロータ側のロック爪542Rがロータ側の係合爪5411Rと噛み合って連結される。
【0124】
本実施例では、後述するように、第2安定点P2に至る前の点P2-1(連結位置Cr)において噛み合うように設定されている(図14B参照)。噛み合い点P2-1では、第2安定点P2へ向かう推進力は保持されている。
【0125】
ロック爪542Sと係合爪5411Sとが噛み合って連結されるステータ側の連結位置Cs、および、ロック爪542Rと係合爪5411Rとが噛み合って連結されるロータ側の連結位置Crは、それぞれ、噛み合い点P1-1および噛み合い点P2-1に設定されている。それにより、ディテントトルクの作用によって、無通電時でも各連結位置Cs,Crでの噛み合い状態を安定して保持できる。
【0126】
なお、クラッチ54の無通電時には、中立位置に位置する可動子5431は不安定である。すなわち、中立位置から回転軸方向に可動子5431がずれると、推進力が作用して可動子5431は容易にスライドする。
【0127】
クラッチ54に通電、すなわちクラッチコイル5432aに電流が供給されると、スライダー541は、その電流の方向に応じてステータ側およびロータ側のいずれか一方にスライドする。電流を流す方向により、ステータ側にスライドする第1モードと、ロータ側にスライドする第2モードとが選択される。
【0128】
図14Bに、通電時における、可動子5431の固定子5432に対する相対的な回転軸方向の位置と、可動子5431に生じる推進力との関係を示す。破線はディテントトルクを表している。実線L1は、第1モードでの推進力を表し、実線L2は、第2モードでの推進力を表している。
【0129】
第1モードでは、ロータ側の磁極対向部54321がN極になり、ステータ側の磁極対向部54321がS極になるように、クラッチコイル5432aに電流が流される。それにより、固定子5432で発生する電磁力がクラッチマグネット5431bに作用し、可動子5431にステータ側に向かう推進力T1が発生する。その推進力T1は、ロータ側の連結位置でも、ディテントトルクに十分に打ち勝ってステータ側に移動できる大きさに設計されている。従って、可動子5431は、いずれの位置にあっても、ステータ側にスライドする。
【0130】
第2モードでは、ロータ側の磁極対向部54321がS極になり、ステータ側の磁極対向部54321がN極になるように、クラッチコイル5432aに電流が流される。それにより、固定子5432で発生する電磁力がクラッチマグネット5431bに作用し、可動子5431にロータ側に向かう推進力T2が発生する。その推進力T2は、ステータ側の連結位置でも発生するように設計されている。従って、可動子5431は、いずれの位置にあっても、ロータ側にスライドする。
【0131】
(クラッチ54の周方向の位置決め)
スライダー541は、ロック爪542Sが係合爪5411Sと円滑に噛み合うように、周方向に位置決めできるように構成されている。
【0132】
クラッチ54の切替時の途中では、可動子5431は、噛み合いの無いフリーな状態になる。そこで上述したように、噛み合い易い形状に形成されている各ロック爪542R,542S、および、各係合爪5411R,5411Sの突端部分に案内されながら、可動子5431は固定子5432と噛み合う。
【0133】
しかしながら、衝撃音の低減など、可動子5431は、固定子5432と、より円滑に噛み合う方が好ましい。そのため、可動子5431と固定子5432との間に位置決め部5433が設けられている。位置決め部5433により、各ロック爪542Sと各係合爪5411Sとが円滑に噛み合う所定位置(基準位置)に、スライダー541を位置決めできる。
【0134】
具体的には、図13に示すように、隣り合う2つの磁極部材54311,54311の間に、所定の大きさの隙間(磁極間隙間5433a)が設けられている。そして、これら磁極間隙間5433aの各々と径方向に対向するように、クラッチヨーク5432cの周方向における複数箇所にスリット5433bが設けられている。各スリット5433bは、磁極対向部54321を周方向に分断するように形成されている。
【0135】
基準位置では、位置決め部5433を構成するこれら磁極間隙間5433aおよびスリット5433bの各々が、径方向に対向するように設定されている。これら磁極間隙間5433aおよびスリット5433bの各々が径方向に対向する時には、周方向において、可動子5431と固定子5432との間に不均一な磁気的作用が発生する。その不均一な磁気的作用を検知することにより、スライダー541を基準位置に位置決めできる。
【0136】
コントローラ6は、モータの回転を制御することにより、第2モードから第1モードへクラッチ54を切り替える前には、スライダー541を基準位置に位置させる。それにより、クラッチ54を円滑に切り替えることができる。
【0137】
(クラッチ54の切替制御)
クラッチ54の切替制御は、コントローラ6によって行われる。図1に、模式的に示すように、コントローラ6は、モータ制御部6aとクラッチ制御部6bとを有している。モータ制御部6aは、モータ52の駆動を制御する。クラッチ制御部6bは、クラッチ54の駆動を制御する。
【0138】
この駆動ユニット5のクラッチ制御部6bは、モータ制御部6aと制御回路60を共用している。図15Aに、その一例を示す。
【0139】
図15Aは、駆動ユニット5を駆動する制御回路60(要部)を表している。この制御回路60は、インバータ駆動回路601、モータ駆動回路602、およびクラッチ駆動回路603を有している。インバータ駆動回路601、モータ駆動回路602、およびクラッチ駆動回路603は、インバータ10に設けられている。
【0140】
モータ52は、上述したように、U、V、およびWからなる3相のコイル群602a,602a,602aを有している。これら各コイル群602aがスター結線(Y結線)されることにより、中性点602bを有するモータ駆動回路602が構成されている。
【0141】
インバータ駆動回路601は、図示しない外部の商用電源と電気的に接続されている。インバータ駆動回路601は、図示しないコンバータを内蔵しており、コンバータは、商用電源の交流を所定の直流電圧に変換して出力する。図15Aでは、その出力される直流電圧を、直流電源601aとして模式的に表している。
【0142】
インバータ駆動回路601は、その直流電圧を、PWM制御等することにより、所定の交流に変換して位相が異なる3相(U相,V相,W相)の交流に変換する。インバータ駆動回路601は、一対の母線の間に架設された、3つのアーム601b,601b,601bを有している。各アーム601bには、逆並列に接続されたスイッチング素子および還流ダイオードからなる素子ユニット601cが2つ、直列に配置されている。
【0143】
各アーム601bの2つの素子ユニット601c,601cの間から引き出された出力線601dが、各コイル群602aに接続されている。各アーム601bの素子ユニット601cが所定のタイミングでオンオフされる。それにより、各相のコイル群602aに位相の異なる交流が供給される結果、その交流に同期してモータ52が回転する。
【0144】
クラッチ駆動回路603は、クラッチコイル5432aと、モータ側配線603aと、インバータ側配線603bとを有している。クラッチコイル5432aの一端は、モータ側配線603aを介して中性点602bに接続されている。クラッチコイル5432aの他端は、インバータ側配線603bを介して直流電源601aの電位を二分する電位点(二分割電位点603c)に接続されている。
【0145】
モータ52の駆動時には、上述したように、各相のコイル群602aに位相の異なる交流が供給される。その際、中性点602bは、二分割電位点603cと略同じ電位差になるので、クラッチコイル5432aには、ほとんど電流は流れない。
【0146】
従って、モータ52の駆動時にクラッチ54が切り替わることはない。クラッチ54の連結状態は、ディテントトルクによって保持される。
【0147】
クラッチ54を切り替える時には、モータ52は駆動しない。そこで、インバータ駆動回路601およびモータ駆動回路602を利用して、クラッチ54を切り替える。すなわち、クラッチ制御部6bが、各アーム601bの素子ユニット601cを制御する。そして、一例として、図15Aに矢印で示すように、モータ駆動回路602に電流を供給する。それにより、クラッチコイル5432aに所定の零相電流Izを供給することができる。
【0148】
クラッチコイル5432aに所定の零相電流Izが供給されると、スライダー541に推進力が発生し、クラッチ54が切り替わる。素子ユニット601cの制御内容を変更することで、零相電流Izを逆方向に流すことができる。従って、クラッチ54の切り替えができる。この制御回路60によれば、モータ52とクラッチ54の駆動に、半導体素子等が共用できるため、部品点数の増加を抑制でき、安価に実現できる。
【0149】
図15Bに、制御回路の他の構成例を示す。この制御回路60’は、上述した制御回路60からクラッチ駆動回路603の構成が変更されている。
【0150】
このクラッチ駆動回路603は、クラッチコイル5432aと、第1配線603hと、第2配線603iと、リレー603jとを有している。クラッチコイル5432aの一端は、第1配線603hを介して、3相の各コイル群602aのうち、いずれか1つコイル群602aの出力線601dとの接続部位に接続されている。クラッチコイル5432aの他端は、他のいずれか1つのコイル群602aの出力線601dとの接続部位に接続されている。リレー603jは、第1配線603hおよび第2配線603iのいずれか一方に配置されている。
【0151】
この制御回路60’の場合、リレー603jのオンオフにより、クラッチ54を駆動することができる。この場合も、モータ52と制御回路60を共用しているので、部品点数の増加を抑制でき、安価に実現できる。
【0152】
(衝撃音の低減)
クラッチ54を切り替える時、各ロック爪542S,542Rと、各係合爪5411S,5411Rとが接触することにより、衝撃音が発生する。衝撃音は、不快な騒音となり得る。
【0153】
クラッチ54を切り替える時に発生する衝撃音は、大別すると、次の3つに分けられる。すなわち、互いに噛み合っていない状態から各ロック爪542S,542Rの先端部が、各係合爪5411S,5411Rの先端部に衝突する時に発生する衝突音(第1衝撃音)、各ロック爪542S,542Rが、各係合爪5411S,5411Rに入り込んでいく過程で発生する摩擦音(第2衝撃音)、および、各ロック爪542S,542Rが、各係合爪5411S,5411Rと完全に噛み合った時に発生する衝突音(第3衝撃音)、である。
【0154】
これら第1~第3の衝撃音の中では、特に、第1および第3の衝撃音が不快な騒音となり易い。そこで、これら衝撃音を低減するため、スライダー541と、ロータ側およびステータ側の各ロック爪542R,542Sとの連結部位には、衝撃音を緩和する弾性部材や制振性部材等の、緩衝部材を設けるのが好ましい。
【0155】
具体的には、ロック爪542Sが設けられている部分および係合爪5411Sが設けられている部分の少なくともいずれか一方と、ロック爪542Rが設けられている部分および係合爪5411Rが設けられている部分の少なくともいずれか一方を、ゴムや弾性、制振性を有するプラスチックなどの素材で形成すればよい。後者であれば、例えば、環状部材544の素材を弾性部材にすることが考えられる。
【0156】
また、ロック爪542Sが設けられている部分および係合爪5411Sが設けられている部分の少なくともいずれか一方と、ロック爪542Rが設けられている部分および係合爪5411Rが設けられている部分の少なくともいずれか一方を、弾性部材を介在させた状態で組み付けてもよい。そうすれば、特に、第1および第3の衝撃音を低減できる。
【0157】
クラッチ54の制御の工夫により、衝撃音を緩和してもよい。
【0158】
例えば、クラッチ制御部6bが、クラッチ54に所定の切替電流(クラッチ54を切り替えるための電流、上述した零相電流Izが該当)を供給してスライダー541を各ロック爪542R,542Sに連結する直前に、切替電流とは逆向きの電流(衝撃緩和電流)をクラッチ54に供給するようにすればよい。
【0159】
詳しくは、図14Bに示すように、クラッチ54の切り替えは、電磁力に起因する推進力T1,T2の作用でスライダー541がスライドすることによって行われる。このとき、ディテントトルクも作用している。中立位置を越えるまでは、ディテントトルクは推進力P1,P2と逆向きに作用するが、中立位置を越えると、ディテントトルクも推進力P1,P2と同方向に作用する。
【0160】
従って、少なくとも中立位置を越えれば、クラッチ54への通電を停止しても、スライダー541はディテントトルクによってスライドするので、クラッチ54を切り替えることができる。そして、中立位置を越えた後からスライダー541が各ロック爪542R,542Sに連結される前までのいずれかのタイミング(直前は、このタイミングを意味する)で、衝撃緩和電流をクラッチ54に供給し、逆向きの推進力(図14Bに、矢印Prで示す)を発生させる。
【0161】
そうすれば、スライダー541の勢いが緩和されるので、衝撃音を低減できる。この制御は、特に、第3の衝撃音の低減に有効である。
【0162】
また、各ロック爪542S,542Rが、各係合爪5411S,5411Rに噛み合った後よりも、各ロック爪542S,542Rが、各係合爪5411S,5411Rに噛み合う前の方が推進力が低くなるように、クラッチ制御部6bが、クラッチコイル5432aに印加する電圧を制御するようにしてもよい。
【0163】
その制御の一例を、図16Aに示す。図16Aの実線は、クラッチコイル5432aに印加される電圧と、可動子5431の固定子5432に対する相対的な回転軸方向の位置との関係を示している。前者が縦軸であり、後者が横軸である。V0は、通常、クラッチコイル5432aに印加される電圧値を表している。
【0164】
区間Aは、各ロック爪542S,542Rが、各係合爪5411S,5411Rに噛み合っていない区間であり、区間Bは、各ロック爪542S,542Rが、各係合爪5411S,5411Rに噛み合っている区間である。
【0165】
点P1は、各ロック爪542S,542Rと各係合爪5411S,5411Rとの噛み合いが始まる位置を示しており、点P2は、各ロック爪542S,542Rと各係合爪5411S,5411Rとの噛み合いが終わる位置を示している。
【0166】
クラッチコイル5432aに印加する電圧を低くすると、固定子5432で発生する電磁力も小さくなる。従って、推進力が弱まる。それにより、区間Aでは、通常よりも、推進力が弱まり、スライダー541の勢いが抑制される。その結果、各ロック爪542S,542Rが各係合爪5411S,5411Rと噛み合う時に発生する第1衝撃音を低減できる。
【0167】
各ロック爪542S,542Rが各係合爪5411S,5411Rと噛み合った後は、通常の電圧になるように昇圧させる。図16Aは、区間Bの開始端から終了端まで、徐々に通常の電圧まで昇圧させる例を示している。
【0168】
図16Bに示すように、クラッチコイル5432aに印加する電圧の昇圧は、区間Bの開始端で一気に通常の電圧まで昇圧してもよい。電圧を昇圧することで、推進力が回復するので、迅速かつ安定して切り替えることができる。
【0169】
<減速機53の詳細>
図17に、減速機53の部分の拡大図を示す。減速機53は、その周辺部位がシールされていて、その内部にグリスが注入されている。
【0170】
具体的には、キャリア531(メインフレーム5311)と回転可能な状態で接している摺動部材537(第1摺動部材537ともいう)の摺動面の下側には、リング状の第1シール材538(ゴム等の弾性部材)が装着されている。それにより、キャリア531と第1摺動部材537との間が液封されている。
【0171】
また、ガイドプレート535の内側に固定されていて、ロータケース5211(軸支部5211c)と回転可能な状態で接している摺動部材536(第2摺動部材536ともいう)の摺動面の下側には、リング状の第2シール材539が装着されている。それにより、ガイドプレート535および第2摺動部材536と、ロータケース5211との間が液封されている。
【0172】
それにより、グリスを安定して減速機53の内部に封入することができ、グリスの潤滑により、サンギア5211c、プラネタリギア533、およびインターナルギア534を円滑に回転させることができる。
【0173】
なお、第1および第2の摺動部材536,537の素材は、安価にできることから、自己潤滑性樹脂が好ましい。その場合、その摺動面の対向面に硬質メッキを施すことにより、滑り性を向上させるのが好ましい。また、第1および第2の摺動部材536,537が設置されている摺動部分は、ボールベアリングで構成してもよい。
【0174】
メインフレーム5311の素材は、アルミが好ましい(アルミダイカスト)。その場合、第1摺動部材537の摺動面に接する部位は、アルマイト処理するのが好ましい。
【0175】
<軸受部の変形例>
上述した実施形態では、ロータ521をシャフト50に回転可能な状態で支持するロータ軸受部を、1つの焼結含油軸受5213で構成した駆動ユニット5を例示した。ロータ軸受部は、それに限らず、仕様に応じて適宜変形可能である。
【0176】
例えば、一対のボールベアリングでロータ軸受部を構成してもよい。具体的には、焼結含油軸受5213に代えて、一対のボールベアリングを、キャリア531の軸止部5311bと、ロータケース5211の軸支部5211cとの間に介在させる。
【0177】
各ボールベアリングは、回転軸方向に離れた位置に配置する。そして、これらボールベアリングとともに与圧機構を設け、与圧機構により、これらボールベアリングに一定の与圧が作用するように構成する。
【0178】
またその場合、一対のボールベアリングのうち、一方のボールベアリングを焼結含油軸受にしてもよい。一般に、焼結含油軸受は高速回転には不向きであるが、この駆動ユニット5の場合、高速で回転する第2モードでは、ロータ軸受部は回転しない。従って、ロータ軸受部に焼結含油軸受を用いても、軸受部の信頼性を向上できる。
【0179】
なお、開示する技術は、上述した実施形態等に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。
【0180】
例えば、実施形態では、ドラム式の洗濯機を例示したが、縦型の洗濯機にも適用は可能である。また、ロータの磁石がステータの外側に位置するアウターロータ型のモータを例示したが、ロータの磁石がステータの内側に位置するインナーロータ型のモータであってもよい。
【0181】
クラッチマグネット5431bの磁極は3つに限らず、4つ以上であってもよい。それに伴い、磁気的に安定する点も4つ以上であってもよい。
【符号の説明】
【0182】
1 洗濯機
3 タブ(固定槽)
4 ドラム(回転槽)
5 駆動ユニット
6 コントローラ(制御装置)
10 インバータ
50 シャフト
51 ユニットベース
52 モータ
521 ロータ
5211 ロータケース
5211c 軸支部(サンギヤ)
5212 磁石
5213 焼結含油軸受(ロータ軸受部)
522 ステータ
53 減速機
531 キャリア
533 プラネタリギヤ
534 インターナルギヤ
54 クラッチ
541 スライダー(可動部)
542R ロータ側のロック爪(固定部)
542S ステータ側のロック爪(固定部)
543 クラッチドライバ(駆動部)
5431 可動子
54311 磁極部材
54311a 中間磁極
54311b 端部磁極
5432 固定子
5432a クラッチコイル
5432b コイルホルダ
5432c ホルダサポート(クラッチヨーク)
54321 磁極対向部
60,60’ 制御回路
601 インバータ駆動回路
602 モータ駆動回路
603 クラッチ駆動回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図13
図14A
図14B
図15A
図15B
図16A
図16B
図17