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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】スチレン系樹脂組成物および成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 25/02 20060101AFI20230829BHJP
   C08L 1/00 20060101ALI20230829BHJP
   C08F 212/06 20060101ALI20230829BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20230829BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
C08L25/02
C08L1/00
C08F212/06
C08J5/04 CET
C08J5/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019027533
(22)【出願日】2019-02-19
(65)【公開番号】P2020132752
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-11-26
(73)【特許権者】
【識別番号】500199479
【氏名又は名称】PSジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【弁理士】
【氏名又は名称】神 紘一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100178685
【弁理士】
【氏名又は名称】田浦 弘達
(72)【発明者】
【氏名】野寺 明夫
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106046230(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0286551(US,A1)
【文献】国際公開第2009/069641(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/071156(WO,A1)
【文献】特開2017-105963(JP,A)
【文献】特開2015-091916(JP,A)
【文献】特表平09-509694(JP,A)
【文献】特開2019-026777(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0181207(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L、C08F、C08J5
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)共重合樹脂80.0~99.7質量%、(b)平均繊維径3~200nmのナノセルロース0.3~20.0質量%を含むことを特徴とする、スチレン系樹脂組成物であって、
前記(a)共重合樹脂が二元共重合体又は三元共重合体であり、スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、前記スチレン系単量体単位を69.0~98.0質量%含有し、且つ、前記不飽和カルボン酸系単量体単位を2.0~16.0質量%含有し、且つ、前記不飽和カルボン酸エステル系単量体単位を0.0~15.0質量%含有し、
前記不飽和カルボン酸系単量体単位は、メタクリル酸又はアクリル酸である、スチレン系樹脂組成物。
【請求項2】
スチレン系樹脂組成物のメルトフローレートは、0.5グラム/10分以上である、請求項1に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記(a)共重合体樹脂の不飽和カルボン酸系単量体がメタクリル酸である、請求項1または2に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物を含むことを特徴とする、成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン系樹脂組成物および成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂は、成形性、寸法安定性に加え、透明性に優れていることから、広範囲な用途に使用されている。また、環境保護の観点からバイオマス材料が注目されており、樹脂材料と、天然由来の有機充填材やバイオポリマーとの複合材料が検討されている。
例えば、特許文献1、2にはスチレン系樹脂とセルロース系材料からなるスチレン系複合樹脂組成物が開示されている。また、特許文献3にはポリスチレンとナノセルロース(以下、CNFとも称す)からなる車両用灯具について開示されている。さらに、特許文献4,5にはスチレン系樹脂と変性されたCNFからなる組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-173352号公報
【文献】特開平8-231795号公報
【文献】WO2014/017274号公報
【文献】特開2016-176052号公報
【文献】特許第6394934号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1,2では繊維径が大きい木粉、パルプ等が使用されており、スチレン系樹脂に添加した場合、衝撃強度や成形外観の低下が大きく、製品が限定されてしまう。また、この技術では繊維径がナノオーダーのナノセルロースでは分散性を向上させることができず、ナノセルロースの特性である外観性や少量での特性向上を図ることができない。特許文献3にはポリスチレンとCNFの記載はあるものの、実施例にはPPと繊維径が大きいジュート繊維のみであり、CNFを含むポリスチレンの技術開示は一切ない。また、特許文献4,5は変性されたCNFを使用しているため、変性にコストがかかるほか、未反応の変性剤が残留しており、耐熱性、衝撃性、成形性、発泡特性などが低下してしまう問題点がある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、剛性、衝撃、耐熱性、外観、成形性、発泡特性に優れたスチレン系樹脂組成物、および当該スチレン系樹脂組成物を含む成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記問題点に鑑み、鋭意研究し、実験を重ねた結果、従来のスチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位を含有する共重合樹脂と、特定のナノセルロースを特定の比率で混合した樹脂組成物を用いることにより、上記の課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0007】
[1](a)スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位を含有する共重合樹脂80.0~99.7質量%、(b)平均繊維径3~200nmのナノセルロース0.3~20.0質量%を含むことを特徴とする、スチレン系樹脂組成物。
[2]前記(a)共重合樹脂が、スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、前記スチレン系単量体単位を69.0~98.0質量%含有し、且つ、前記不飽和カルボン酸系単量体単位を2.0~16.0質量%含有し、且つ、前記不飽和カルボン酸エステル系単量体単位を0.0~15.0質量%含有する、上記[1]に記載のスチレン系樹脂組成物。
[3]前記(a)共重合体樹脂の不飽和カルボン酸系単量体がメタクリル酸である、上記[1]または[2]に記載のスチレン系樹脂組成物。
[4]上記[1]~[3]のいずれかに記載のスチレン系樹脂組成物を含むことを特徴とする、成形品。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、剛性、衝撃、耐熱性、外観、成形性、発泡特性に優れたスチレン系樹脂組成物、及び成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」と言う。)について詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0010】
[スチレン系樹脂組成物]
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、(a)スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位を含有する共重合樹脂80.0~99.7質量%、(b)平均繊維径3~200nmのナノセルロース0.3~20.0質量%を含むことを特徴とする。なお、以下、(a)スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位を含有する共重合樹脂を単に(a)共重合樹脂や(a)成分とも称し、また、(b)平均繊維径3~200nmのナノセルロースを(b)ナノセルロースや(b)成分とも称す。
【0011】
<(a)共重合樹脂>
本実施形態において、スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位を含有する(a)共重合樹脂の含有量は、(a)共重合樹脂、(b)ナノセルロースの合計質量100質量%としたとき、80.0~99.7質量%であり、好ましくは85.0~99.5質量%、より好ましくは90.0~99.0質量%である。当該含有量を80.0質量%以上とすることにより、衝撃、外観成形性を高めることができる。一方、当該含有量を99.7質量%以下とすることにより、(b)ナノセルロースの合計含有量を確保することができ、剛性、衝撃等を向上させることができる。
【0012】
上記(a)共重合樹脂においては、スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、スチレン系単量体単位の含有量は69.0~96.0質量%であることが好ましく、より好ましくは74.0~92.0質量%であり、さらに好ましくは77.0~87.0質量%の範囲である。当該含有量を69.0質量%以上とすることにより、樹脂の流動性を向上させることができ、一方、当該含有量を96.0質量%以下とすることにより、後述の不飽和カルボン酸系単量体単位及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位を所望量存在させにくくなり、これらの単量体単位による後述の効果を得にくくなる。
【0013】
本実施形態の樹脂組成物において、不飽和カルボン酸系単量体単位は、(b)ナノセルロースの分散性、耐熱性を向上させる役割を果たす。(a)共重合樹脂のスチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、不飽和カルボン酸系単量体単位の含有量は2.0~16.0質量%であることが好ましく、より好ましくは4.0~16.0質量%であり、さらに好ましくは6.0~14.0質量%であり、特に好ましくは8.0~13.0質量%である。当該含有量を2.0質量%以上とすることにより、(b)ナノセルロースの分散性、耐熱性をより向上させることができ、一方、当該含有量を16.0質量%以下とすることにより、成形温度を低くでき、(b)ナノセルロースの熱による劣化による特性低下を防止できるとともに、流動性と機械的物性を向上させることができる。
【0014】
一般に、スチレン-メタクリル酸-メタクリル酸メチル共重合樹脂を含むスチレン-メタクリル酸系樹脂は、工業的規模ではほとんどの場合、ラジカル重合で生産されているが、脱揮工程のゲル化反応を抑制するために、(a)共重合樹脂を重合する際、種々のアルコールを重合系中に添加して重合を行なってもよい。
【0015】
本実施形態において、不飽和カルボン酸エステル系単量体は、不飽和カルボン酸系単量体との分子間相互作用によって不飽和カルボン酸系単量体の脱水反応を抑制するために、及び、樹脂の機械的強度を向上させるために用いることができる。更には、不飽和カルボン酸エステル系単量体は、(b)ナノセルロースの分散、耐候性、表面硬度等の樹脂特性の向上にも寄与する。
【0016】
スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の含有量は0.0~15.0質量%であることが好ましく、より好ましくは1.0~12.0質量%、さらに好ましくは2.0~10.0質量%である。当該含有量を15.0質量%以下とすることにより、樹脂の流動性を向上させ、且つ吸水性を抑制することができる。また、不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の含有量を0.0質量%とすることにより、耐熱性の向上やコスト削減をすることができるが、上記の観点から不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の含有量を0.0質量%超とすることもできる。
【0017】
なお、不飽和カルボン酸系単量体と不飽和カルボン酸エステル系単量体単位とが隣り合わせで結合した場合、高温、高真空の脱揮装置を用いると、条件によっては脱アルコール反応が起こり、六員環酸無水物が形成される場合がある。本実施形態の(a)共重合樹脂は、この六員環酸無水物を含んでいてもよいが、流動性を低下させることから、より少ない方が好ましい。
【0018】
本実施形態において、(a)共重合樹脂中の、スチレン単量体単位、メタクリル酸単量体単位及びメタクリル酸メチル単量体単位の含有量は、それぞれ、プロトン核磁気共鳴(H-NMR)測定機で測定したスペクトルの積分比から求めることができる。
【0019】
本実施形態において、(a)共重合樹脂は、スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位以外の単量体単位を、本発明の効果を損なわない範囲で更に含有することを排除しないが、典型的には、スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位からなる。
【0020】
ここで、スチレン系単量体としては、特に限定されないが例えば、スチレン、α-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン、ο-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、イソブチルスチレン、t-ブチルスチレン、ブロモスチレン、クロロスチレン、インデン等のスチレン誘導体が挙げられる。スチレン系単量体としては、工業的観点からスチレンが好ましい。これらのスチレン系単量体は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0021】
また、不飽和カルボン酸系単量体としては、特に限定されないが例えば、メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられる。不飽和カルボン酸系単量体としては、(b)ナノセルロースの分散性や耐熱性の向上効果が大きく、常温にて液状でハンドリング性に優れることからメタクリル酸が好ましい。これらの不飽和カルボン酸系単量体は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0022】
さらに、不飽和カルボン酸エステル系単量体としては、特に限定されないが例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、耐熱性低下に対する影響が小さいことから(メタ)アクリル酸メチルが好ましい。これらの不飽和カルボン酸エステル系単量体は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0023】
本実施形態において、(a)共重合樹脂の重量平均分子量(Mw)は100,000~350,000であることが好ましく、より好ましくは120,000~300,000、さらに好ましくは140,000~240,000である。重量平均分子量(Mw)が100,000~350,000である場合、機械的強度と流動性とのバランスにより優れる樹脂が得られ、またゲル物の混入も少ない。なお、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用い、標準ポリスレン換算で得られる値である。
【0024】
本実施形態において、(a)共重合樹脂のメルトフローレートは、0.3~5.0g/10minであることが好ましく、より好ましくは0.4~4.0g/10minであり、さらに好ましくは0.4~3.0g/10minである。上記メルトフローレートが0.3g/10min以上である場合、(b)ナノセルロースの分散性や流動性の観点で好ましく、5.0g/10min以下である場合、樹脂の機械的強度の観点で好ましい。なお、メルトフローレートは、ISO 1133に準拠して、200℃、荷重49Nにて測定される値である。
【0025】
本実施形態において、(a)共重合樹脂の重合方法は、特に制限はないが例えば、ラジカル重合法として、塊状重合法又は溶液重合法を好適に採用できる。重合方法は、主に、重合原料(単量体成分)を重合させる重合工程と、重合生成物から未反応モノマー、重合溶媒等の揮発分を除去する脱揮工程とを備える。
以下、本実施形態に用いることができる(a)共重合樹脂の重合方法について説明する。
【0026】
(a)共重合樹脂を得るために重合原料を重合させる際には、重合原料組成物中に、典型的には重合開始剤及び連鎖移動剤を含有させる。重合開始剤としては、有機過酸化物、例えば、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルペルオキシ)バレレート等のペルオキシケタール類、ジ-t-ブチルペルオキシド、t-ブチルクミルペルオキシド、ジクミルペルオキシド等のジアルキルペルオキシド類、アセチルペルオキシド、イソブチリルペルオキシド等のジアシルペルオキシド類、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート等のペルオキシジカーボネート類、t-ブチルペルオキシアセテート等のペルオキシエステル類、アセチルアセトンペルオキシド等のケトンペルオキシド類、t-ブチルヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド類等を挙げることができる。分解速度と重合速度との観点から、なかでも、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサンが好ましい。
【0027】
連鎖移動剤としては、例えば、α-メチルスチレンリニアダイマー、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン等を挙げることができる。
【0028】
重合方法としては、必要に応じて、重合溶媒を用いた溶液重合を採用できる。用いられる重合溶媒としては、芳香族炭化水素類、例えば、エチルベンゼン、ジアルキルケトン類、例えば、メチルエチルケトン等が挙げられ、それぞれ、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。重合生成物の溶解性を低下させない範囲で、他の重合溶媒、例えば脂肪族炭化水素類等を、芳香族炭化水素類に更に混合することができる。これらの重合溶媒は、全単量体100質量部に対して、25質量部を超えない範囲で使用するのが好ましい。全単量体100質量部に対して重合溶媒が25質量部を超えると、重合速度が著しく低下し、且つ得られる樹脂の機械的強度の低下が大きくなる傾向がある。重合前に、全単量体100質量部に対して5~20質量部の割合で添加しておくことが、品質が均一化し易く、重合温度制御の点でも好ましい。
【0029】
本実施形態において、(a)共重合樹脂を得るための重合工程で用いる装置は、特に制限はなく、スチレン系樹脂の重合方法に従って適宜選択すればよい。例えば、塊状重合による場合には、完全混合型反応器を1基、又は複数基連結した重合装置を用いることができる。また脱揮工程についても特に制限はなく、塊状重合で行う場合、最終的に未反応モノマーが、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下になるまで重合を進め、かかる未反応モノマー等の揮発分を除去するために、既知の方法にて脱揮処理する。例えば、フラッシュドラム、二軸脱揮器、薄膜蒸発器、押出機等の通常の脱揮装置を用いることができるが、滞留部の少ない脱揮装置が好ましい。なお、脱揮処理の温度は、通常、190~280℃程度であり、メタクリル酸とメタクリル酸メチルとの隣接による六員環酸無水物の形成を抑制する観点から、190~260℃がより好ましい。また脱揮処理の圧力は、通常0.13~4.0kPa程度であり、好ましくは0.13~3.0kPaであり、より好ましくは0.13~2.0kPaである。脱揮方法としては、例えば加熱下で減圧して揮発分を除去する方法、及び揮発分除去の目的に設計された押出機等を通して除去する方法が望ましい。
【0030】
<(b)ナノセルロース>
本実施形態における(b)ナノセルロースは、平均繊維径が3~200nmであるセルロースである。(b)ナノセルロースの含有量は、(a)共重合樹脂と(b)ナノセルロースの合計質量100質量%に対して、0.3~20.0質量%であり、好ましくは0.5~15.0質量%、より好ましくは1.0~10.0質量%である。(b)ナノセルロースの含有量を0.3質量%以上とすることにより、機械的強度を向上させることができる。一方、当該含有量が多すぎると、衝撃が低下するほか、(b)ナノセルロースの凝集物とみられる外観不良が発生したり、流動性低下により成形性を著しく低下させる。組成物中のセルロース含有量は、組成物を共重合樹脂が溶解する溶媒に溶かし、未溶物を取出し、120℃、4時間の条件で乾燥させたものの質量を測ることでわかる。
【0031】
(b)ナノセルロースの平均繊維径は、3~200nmであり、好ましくは10~150nm、さらに好ましくは20~100nmである。平均繊維径が上記範囲外であると、剛性の向上効果が十分に発揮されなかったり、衝撃、成形外観が低下してしまうことがある。尚、本発明において、平均繊維径は、電子顕微鏡で5000倍に拡大し、100カ所測定した繊維径の平均値をいうものとする。
【0032】
(b)ナノセルロースを構成する繊維は、β-1,4-グルカン構造を有する多糖類で形成されている限り、特に制限されず、例えば、高等植物由来のセルロース繊維[例えば、木材繊維(針葉樹、広葉樹等の木材パルプ等)、竹繊維、サトウキビ繊維、種子毛繊維(コットンリンター、ボンバックス綿、カポック等)、ジン皮繊維(例えば、麻、コウゾ、ミツマタ等)、葉繊維(例えば、マニラ麻、ニュージーランド麻等)等の天然セルロース繊維(パルプ繊維)等]、動物由来のセルロース繊維(ホヤセルロース等)、バクテリア由来のセルロース繊維、化学的に合成されたセルロース繊維[セルロースアセテート(酢酸セルロース)、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等の有機酸エステル;硝酸セルロース、硫酸セルロース、リン酸セルロース等の無機酸エステル;硝酸酢酸セルロース等の混酸エステル;ヒドロキシアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース等);カルボキシアルキルセルロース(カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシエチルセルロース等);アルキルセルロース(メチルセルロース、エチルセルロース等);再生セルロース(レーヨン、セロファン等)等のセルロース誘導体繊維等]等が挙げられる。これらの(b)ナノセルロースを構成する繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0033】
これらの(b)ナノセルロースを構成する繊維のうち、(b)ナノセルロースを製造したときの分散性、剛性、耐衝撃性の観点で製造効率が高く、適度な繊維径及び繊維長を有する点から、植物由来のセルロース繊維、例えば、木材繊維(針葉樹、広葉樹、竹等の木材パルプ等)や種子毛繊維(コットンリンターパルプ等)等のパルプ由来のセルロース繊維が好ましい。
【0034】
<任意添加成分>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、上記(a)~(b)成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて公知の添加剤、加工助剤等の添加成分を添加することができる。これら添加剤、加工助剤等としては、酸化防止剤、耐候剤、滑剤、帯電防止剤、充填剤等が挙げられる。
【0035】
酸化防止剤としては、フェノール系化合物、リン系化合物、チオエーテル系化合物等が挙げられる。
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ第3ブチル-p-クレゾール、2,6-ジフェニル-4-オクタデシロキシフェノール、ジステアリル(3,5-ジ第3ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ホスホネート、1,6-ヘキサメチレンビス〔(3,5-ジ第3ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸アミド〕、4,4’-チオビス(6-第3ブチル-m-クレゾール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-第3ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-第3ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(6-第3ブチル-m-クレゾール)、2,2’-エチリデンビス(4,6-ジ第3ブチルフェノール)、2,2’-エチリデンビス(4-第2ブチル-6-第3ブチルフェノール)、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-第3ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリス(2,6-ジメチル-3-ヒドロキシ-4-第3ブチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス(3,5-ジ第3ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス(3,5-ジ第3ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2,4,6-トリメチルベンゼン、2-第3ブチル-4-メチル-6-(2-アクリロイルオキシ-3-第3ブチル-5-メチルベンジル)フェノール、ステアリル〔3-(3,5-ジ第3ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、テトラキス〔3-(3,5-ジ第3ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸メチル〕メタン、チオジエチレングリコールビス〔(3,5-ジ第3ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6-ヘキサメチレンビス〔(3,5-ジ第3ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、ビス〔3,3-ビス(4-ヒドロキシ-3-第3ブチルフェニル)ブチリックアシッド〕グリコールエステル、ビス〔2-第3ブチル-4-メチル-6-(2-ヒドロキシ-3-第3ブチル-5-メチルベンジル)フェニル〕テレフタレート、1,3,5-トリス〔(3,5-ジ第3ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル〕イソシアヌレート、3,9-ビス〔1,1-ジメチル-2-{(3-第3ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル〕-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン、トリエチレングリコールビス〔(3-第3ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート〕等が挙げられる。
これらは2種以上を混合して使用してもよい。
【0036】
リン系酸化防止剤としては、例えば、トリス(2,4-ジ第3ブチルフェニル)ホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス〔2-第3ブチル-4-(3-第3ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニルチオ)-5-メチルフェニル〕ホスファイト、トリデシルホスファイト、オクチルジフェニルホスファイト、ジ(デシル)モノフェニルホスファイト、ジ(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジ(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ第3ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ第3ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4,6-トリ第3ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、テトラ(トリデシル)イソプロピリデンジフェノールジホスファイト、テトラ(トリデシル)-4,4’-n-ブチリデンビス(2-第3ブチル-5-メチルフェノール)ジホスファイト、ヘキサ(トリデシル)-1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-第3ブチルフェニル)ブタントリホスファイト、テトラキス(2,4-ジ第3ブチルフェニル)ビフェニレンジホスホナイト、9,10-ジハイドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナンスレン-10-オキサイド、2,2’-メチレンビス(4,6-第3ブチルフェニル)-2-エチルヘキシルホスファイト、2,2’-メチレンビス(4,6-第3ブチルフェニル)-オクタデシルホスファイト、2,2’-エチリデンビス(4,6-ジ第3ブチルフェニル)フルオロホスファイト、トリス(2-〔(2,4,8,10-テトラキス第3ブチルジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピン-6-イル)オキシ〕エチル)アミン、2-エチル-2-ブチルプロピレングリコールと2,4,6-トリ第3ブチルフェノールのホスファイト等が挙げられる。
これらは2種以上を混合して使用してもよい。
【0037】
チオエーテル系酸化防止剤としては、例えば、チオジプロピオン酸ジラウリル、チオジプロピオン酸ジミリスチル、チオジプロピオン酸ジステアリル等のジアルキルチオジプロピオネート類、及びペンタエリスリトールテトラ(β-アルキルメルカプトプロピオン酸エステル類が挙げられる。
これらは2種以上を混合して使用してもよい。
【0038】
耐候剤としては、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン光安定剤等を用いることができる。
紫外線吸収剤としては、例えば、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクトキシベンゾフェノン、5,5’-メチレンビス(2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン)等の2-ヒドロキシベンゾフェノン類;2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ第3ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾ-ル、2-(2’-ヒドロキシ-3’-第3ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾ-ル、2-(2’-ヒドロキシ-5’-第3オクチルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジクミルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2,2’-メチレンビス(4-第3オクチル-6-(ベンゾトリアゾリル)フェノール)、2-(2’-ヒドロキシ-3’-第3ブチル-5’-カルボキシフェニル)ベンゾトリアゾール等の2-(2’-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール類;フェニルサリシレート、レゾルシノールモノベンゾエート、2,4-ジ第3ブチルフェニル-3,5-ジ第3ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート、2,4-ジ第3アミルフェニル-3,5-ジ第3ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート、ヘキサデシル-3,5-ジ第3ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート等のベンゾエート類;2-エチル-2’-エトキシオキザニリド、2-エトキシ-4’-ドデシルオキザニリド等の置換オキザニリド類;エチル-α-シアノ-β、β-ジフェニルアクリレート、メチル-2-シアノ-3-メチル-3-(p-メトキシフェニル)アクリレート等のシアノアクリレート類;2-(2-ヒドロキシ-4-オクトキシフェニル)-4,6-ビス(2,4-ジ第3ブチルフェニル)-s-トリアジン、2-(2-ヒドロキシ-4-メトキシフェニル)-4,6-ジフェニル-s-トリアジン、2-(2-ヒドロキシ-4-プロポキシ-5-メチルフェニル)-4,6-ビス(2,4-ジ第3ブチルフェニル)-s-トリアジン等のトリアリールトリアジン類が挙げられる。
これらは2種以上を混合して使用してもよい。
【0039】
ヒンダードアミン系光安定剤としては、例えば、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルステアレート、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルステアレート、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルベンゾエート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1-オクトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)・ジ(トリデシル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)・ジ(トリデシル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,4,4-ペンタメチル-4-ピペリジル)-2-ブチル-2-(3,5-ジ第3ブチル-4-ヒドロキシベンジル)マロネート、1-(2-ヒドロキシエチル)-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノ-ル/コハク酸ジエチル重縮合物、1,6-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルアミノ)ヘキサン/2,4-ジクロロ-6-モルホリノ-s-トリアジン重縮合物、1,6-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルアミノ)ヘキサン/2,4-ジクロロ-6-第3オクチルアミノ-s-トリアジン重縮合物、1,5,8,12-テトラキス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)アミノ)-s-トリアジン-6-イル〕-1,5,8,12-テトラアザドデカン、1,5,8,12-テトラキス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)アミノ)-s-トリアジン-6-イル〕-1,5,8-12-テトラアザドデカン、1,6,11-トリス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)アミノ)-s-トリアジン-6-イル〕アミノウンデカン、1,6,11-トリス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)アミノ)-s-トリアジン-6-イル〕アミノウンデカン等のヒンダードアミン化合物が挙げられる。
これらは2種以上を混合して使用してもよい。
【0040】
滑剤としては、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、脂肪酸、脂肪酸金属塩系等を用いることができる。
脂肪族アミド系滑剤としては、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘニン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスラウリル酸アミド等が挙げられる。
これらは2種以上を混合して使用してもよい。
【0041】
脂肪族エステル系滑剤としては、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、オレイン酸メチル、エルカ酸メチル、ベヘニン酸メチル、ラウリル酸ブチル、ステアリン酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸オクチル、ヤシ脂肪酸オクチルエステル、ステアリン酸オクチル、牛脂脂肪酸オクチルエステル、ラウリル酸ラウリル、ステアリン酸ステアリル、ベヘニン酸ベヘニル、ミリスチン酸セチル、炭素数28~30の直鎖状で分岐がない飽和モノカルボン酸(以下モンタン酸と略記する)とエチレングリコールのエステル、モンタン酸とグリセリンのエステル、モンタン酸とブチレングリコールのエステル、モンタン酸とトリメチロールエタンのエステル、モンタン酸とトリメチロールプロパンのエステル、モンタン酸とペンタエリスリトールのエステル、グリセリンモノステアレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレート、ソルビタンセスクイオレート、ソルビタントリオレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレート等が挙げられる。
これらは2種以上を混合して使用してもよい。
【0042】
脂肪酸系滑剤のうち飽和脂肪酸としては、具体的には、ラウリン酸(ドデカン酸)、イソデカン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸(テトラデカン酸)、ペンタデシル酸、パルミチン酸(ヘキサデカン酸)、マルガリン酸(ヘプタデカン酸)、ステアリン酸(オクタデカン酸)、イソステアリン酸、ツベルクロステアリン酸(ノナデカン酸)、2-ヒドロキシステアリン酸、アラキジン酸(イコサン酸)、ベヘン酸(ドコサン酸)、リグノセリン酸(テトラドコサン酸)、セロチン酸(ヘキサドコサン酸)、モンタン酸(オクタドコサン酸)、メリシン酸等が挙げられ、特に、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、12-ヒドロキシステアリン酸及びモンタン酸等が挙げられる。
【0043】
脂肪酸系滑剤のうち不飽和脂肪酸としては、具体的には、ミリストレイン酸(テトラデセン酸)、パルミトレイン酸(ヘキサデセン酸)、オレイン酸(cis-9-オクタデセン酸)、エライジン酸(trans-9-オクタデセン酸)、リシノール酸(オクタデカジエン酸)、バクセン酸(cis-11-オクタデセン酸)、リノール酸(オクタデカジエン酸)、リノレン酸(9,11,13-オクタデカトリエン酸)、エレステアリン酸(9,11,13-オクタデカトリエン酸)、ガドレイン酸(イコサン酸)、エルカ酸(ドコサン酸)、ネルボン酸(テトラドコサン酸)等が挙げられる。
これらは2種以上を混合して使用してもよい。
【0044】
脂肪酸金属塩系滑剤としては、上記脂肪酸系滑剤の脂肪酸のリチウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、及びアルミニウム塩等が挙げられる。
これらは2種以上を混合して使用してもよい。
【0045】
帯電防止剤としては、カチオン系、アニオン系、ノニオン系、両性系、グリセリン脂肪酸モノエステル等の脂肪酸部分エステル類等を用いることができる。
具体的には、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-N-(3-ドデシルオキシ-2-ヒドロキシプロピル)メチルアンモニウムメソスルフェート、(3-ラウリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムメチルスルフェート、ステアロアミドプロピルジメチル-2-ヒドロキシエチルアンモニウム硝酸塩、ステアロアミドプロピルジメチル-2-ヒドロキシエチルアンモニウムリン酸塩、カチオン性ポリマー、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、アルキル硝酸エステル塩、リン酸アルキルエステル塩、アルキルホスフェートアミン塩、ステアリン酸モノグリセリド、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ジグリセリン脂肪酸エステル、アルキルジエタノールアミン、アルキルジエタノールアミン脂肪酸モノエステル、アルキルジエタノールアミド、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド、ポリエーテルブロックコポリマー、セチルベタイン、ヒドロキシエチルイミダゾリン硫酸エステル等が挙げられる。
これらは2種以上を混合して使用してもよい。
【0046】
充填剤としては、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、炭素繊維、マイカ、ワラストナイト、ウィスカ等を用いることができる。
その他、ブロッキング防止剤、着色剤、ブルーミング防止剤、表面処理剤、抗菌剤、目ヤニ防止剤(特開2009-120717号公報に記載のシリコーンオイル、高級脂肪族カルボン酸のモノアミド化合物、及び高級脂肪族カルボン酸と1価~3価のアルコール化合物とを反応させてなるモノエステル化合物等の目ヤニ防止剤)等を添加してもよい。
【0047】
添加剤及び加工助剤等の任意添加成分の合計含有量は、スチレン系樹脂組成物中、0.05~5質量%としてよい。
【0048】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、実質的に(a)成分~(b)成分及び任意添加成分のみからなっていてもよい。また、(a)成分~(b)成分のみ、又は(a)成分~(b)成分及び任意添加成分のみからなっていてもよい。
「実質的に(a)成分~(b)成分及び任意添加成分のみからなる」とは、スチレン系樹脂組成物の95~100質量%(好ましくは98~100質量%)が(a)成分~(b)成分であるか、又は(a)成分~(b)成分及び任意添加成分であることを意味する。
尚、本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で(a)成分~(b)成分及び任意添加成分の他に不可避不純物を含んでいてもよい。
【0049】
[スチレン系樹脂組成物の物性]
<曲げ弾性率>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物の曲げ弾性率は2500MPa以上であることが好ましく、より好ましくは3000MPa以上である。2500MPa未満であると製品の肉厚を薄くすることができず、軽量化できない。
なお本開示で、曲げ弾性率は、ISO 178に準拠して測定される値である。
【0050】
<シャルピー衝撃強さ>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物のシャルピー衝撃強度は、1.0kJ/m以上であることが好ましく、より好ましくは1.5kJ/m以上である。1.0kJ/m未満であると、用途によっては衝撃等により使用中に破損する懸念がある。
なお本開示で、シャルピー衝撃強度は、ISO 179に準拠してノッチありで測定される値である。
【0051】
<ビカット軟化温度>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物のビカット軟化温度は、100℃以上であることが好ましく、より好ましくは105℃以上である。100℃未満であると、使用中、温度が上昇し製品が変形してしまう恐れがある。
なお本開示で、ビカット軟化温度は、ISO 306に準拠して、荷重49N、昇温速度50℃/時間の条件により測定される値である。
【0052】
<メルトフローレート(MFR)>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物のメルトフローレートは、0.5グラム/10分以上であることが好ましく、より好ましくは0.8グラム/10分以上である。0.5グラム/10分未満では、流動性が低く、加工温度を上げる必要があり、(b)ナノセルロースが劣化による物性低下や成形品が変色してしまう恐れがある。
なお本開示で、メルトフローレートは、ISO1133に準拠して、温度200℃、荷重49Nの条件により測定される値である。
【0053】
<イエローインデックス>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物のイエローインデックスは、30以下であることが好ましく、より好ましくは25以下である。25以下であると、当該樹脂組成物を用いて得られる成形体の黄色みを抑えることができる。
なお本開示で、イエローインデックスは、JIS K 7373:2006に準拠して測定される値である。
【0054】
[スチレン系樹脂組成物の製造方法]
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、各成分を任意の方法で溶融混練することによって製造することができる。例えば、ヘンシェルミキサーに代表される高速撹拌機、バンバリーミキサーに代表されるバッチ式混練機、単軸又は二軸の連続混練機、ロールミキサー等を単独で、又は組み合わせて用いる方法が挙げられる。混練の際の加熱温度は、通常、180~250℃の範囲で選択される。
【0055】
[成形品]
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、上記の溶融混練成形機により、あるいは、得られたスチレン系樹脂組成物のペレットを原料として、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、ブロー成形法、プレス成形法、真空成形法、及び発泡成形法等により、成形品を製造することができる。
【0056】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物を含む成形品、好ましくは射出成形品(射出圧縮を含む)は、複写機、ファックス、パソコン、プリンター、情報端末機、冷蔵庫、掃除機、電子レンジ等のOA機器、家庭電化製品、電気・電子機器のハウジングや各種部品、自動車の内装や外装部材、建設材料、発泡断熱材、絶縁フィルム等に好適に用いられる。
【実施例
【0057】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明の実施形態を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0058】
<測定及び評価方法>
各実施例及び比較例で得られた樹脂組成物の物性の測定及び評価は、次の方法に基づいて行った。
(1)(a)共重合樹脂のスチレン単量体単位、メタクリル酸単量体単位、及びメタクリル酸メチル単量体単位の含有量
プロトン核磁気共鳴(H-NMR)測定機で測定したスペクトルの積分比から、樹脂組成を定量した。
・試料調製:樹脂ペレット30mgをd-DMSO 0.75mLに60℃で4~6時間加熱溶解した。
・測定機器:日本電子(株)製 JNM ECA-500
・測定条件:測定温度25℃、観測核H、積算回数64回、繰り返し時間11秒。
【0059】
(スペクトルの帰属)
ジメチルスルホキシド重溶媒中で測定されたスペクトルの帰属について、0.5~1.5ppmのピークは、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、及び六員環酸無水物のα-メチル基の水素、1.6~2.1ppmのピークはポリマー主鎖のメチレン基の水素、3.5ppmのピークはメタクリル酸メチルのカルボン酸エステル(-COOCH)の水素、12.4ppmのピークはメタクリル酸のカルボン酸の水素である。また、6.5~7.5ppmのピークはスチレンの芳香族環の水素である。なお、本実施例及び比較例の樹脂では六員環酸無水物の含有量が少ないため、本測定方法では通常定量化は難しい。
【0060】
(2)(a)共重合樹脂の重量平均分子量
(a)共重合樹脂の重量平均分子量を、下記の条件や手順で測定した。
・試料調製:テトラヒドロフランに樹脂を約0.05質量%で溶解させた。
・測定条件
機器:TOSOH HLC-8220GPC
(ゲルパーミエイション・クロマトグラフィー)
カラム :super HZM-H
温度 :40℃
キャリア :THF 0.35mL/min
検出器 :RI、UV:254nm
検量線 :TOSOH製の標準PSを使用して作成。
【0061】
(3)メルトフローレート(MFR)
スチレン共重合樹脂のメルトマスフローレート(g/10分)は、ISO 1133に準拠して測定した(200℃、荷重49N)。
【0062】
(4)曲げ弾性率
曲げ弾性率(MPa)は、後述の方法で作製した試験片を用いて、ISO 178に準拠し、測定した。
【0063】
(5)シャルピー衝撃強さ
シャルピー衝撃強さ(kJ/m)は、後述の方法で作製した試験片を用いて、ISO 179に準拠し、ノッチありで測定した。
【0064】
(6)ビカット軟化温度
ビカット軟化温度(℃)は、後述の方法で作製した試験片を用いて、ISO 306に準拠し、荷重49N、昇温速度50℃/時間の条件で測定した。
【0065】
(7)表面外観
表面外観は、後述の方法で作製した試験片の一方の表面を観察し、開口が0.1mm以上の寸法の凹みが20個未満存在する場合を「OK」とし、20個以上存在する場合を「NG」と評価した。
【0066】
(8)YI(イエローインデックス)
YIは、後述の方法で作製した試験片を用い、JIS K 7373:2006に準拠して、日本電色工業(株)製の「SZ-Σ90」で測定した。この数値が高いほど黄色度が高く、着色していることを示す。
【0067】
(9)分散状態
後述の方法で作製したシートにより散状態を評価した。分散状態は、シートの一方の表面を目視にて評価した。評価基準は、以下のとおりである。
A:粒状物が認められない。
B:0.5mm未満の粒状物が認められる。
C:0.5mm以上の粒状物が認められる。
【0068】
(10)発泡特性
発泡特性は、発泡体を目視にて評価した。発泡体は、後述の方法で作製した試験片を温度23℃、湿度50%の雰囲気下に1週間放置した後、温度150℃のオーブンに5分間放置することにより得た。得られた発泡体の評価基準は以下のとおりである。
A:1mm以下の発泡が均一に形成されている。
B:1mmより大きい発泡が見られる。
C:発泡しない。
【0069】
実施例で用いた各材料は下記の通りである。
[(a)成分]
[樹脂(a-1)]
スチレン(ST)71.3質量部、メタクリル酸(MAA)7.3質量部、メタクリル酸メチル(MMA)6.4質量部、エチルベンゼン15.0質量部、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.025質量部から成る重合原料組成液を、1.1リットル/時の速度で、容量が4リットルの完全混合型反応器に、次いで、容量が2リットルの層流型反応器から成る重合装置に、さらに、未反応モノマー、重合溶媒等の揮発分を除去する単軸押出機を連結した脱揮装置に、連続的に順次供給し、樹脂を調製した。
重合工程における重合反応条件は、完全混合反応器は重合温度122℃、層流型反応器は重合温度120~142℃とした。脱揮された未反応ガスは、-5℃の冷媒を通した凝縮器で凝縮し、未反応液として回収した。
最終重合液中のポリマー分は、重合液を215℃、2.5kPaの減圧下で30分間乾燥後、式[(乾燥後の試料質量/乾燥前の試料質量)×100%]により測定したところ、65.6質量%であり、重量平均分子量は214,000(21.4万)であった。
得られた樹脂(a-1)の組成比、物性を表1に示す。
【0070】
[樹脂(a-2)~(a-7)]
表1に示す樹脂の性状になるように組成や重合温度条件等を調整し、樹脂(a-1)と同様の方法で樹脂(a-2)~(a-7)を得た。得られた樹脂(a-2)~(a-7)の組成比、物性を表1に示す。なお、樹脂(a-7)では、単量体として、無水マレイン酸(MAH)を用いた。
【0071】
[GPPS]
・MFR2.2のポリスチレン(GPPS、PSジャパン社製、G9401)を用いた。物性を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
[(b)成分]
・CNF(b-1):セルロースナノファイバー(中越パルプ工業株式会社製、CNF-10、平均繊維径30nm)
・CNF(b-2):セルロースナノファイバー(ダイセルファインケム株式会社製、KY-100G、平均繊維径:100nm)
【0074】
[セルロースファイバー]
・セルロースファイバー(セライト社製、SW-10、平均繊維径25μm)
【0075】
[添加剤]
(フェノール系酸化防止剤)
・3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ステアリル(BASF社製、Irganox1076)
(リン系酸化防止剤)
・トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト(BASF社製、Irgafos168)
【0076】
[実施例1~12]
表2に示す組成比で各成分と(a)~(b)成分100質量部に対して、Irganox1076とIrgafos168を0.2質量部ずつ添加後、予備混合した。得られた予備混合物を一括混合し、二軸押出機(東芝機械社製、TEM-26SS)を用い、180℃~220℃の範囲で溶融押出を行い、混練物としてスチレン系樹脂組成物のペレットを得た。この際、スクリュー回転数は150rpm、吐出量は10kg/hrであった。このようにして得られたペレットを、ISO規格試験片タイプA金型を備え付けた日本製鋼所社製の射出成形機を用い、シリンダー温度220℃、金型温度50℃、射出圧力(ゲージ圧40-60MPa)、射出速度(パネル設定値)50%、射出時間/冷却時間=5sec/20secで成形して試験片を作製した。得られた試験片を用いて、曲げ弾性率、シャルピー衝撃強さ、ビカット軟化温度の測定と成形品の表面外観を評価した。ナノセルロースの分散状態は、得られたペレットを200℃でプレス成型し、0.3mm厚のシートを作製した。これらの評価結果を表2に示す。
【0077】
[比較例1~11]
比較例1~11は、表3に示すように組成を変更したこと以外は実施例1と同様に実施した。各物性の測定及び評価の結果を表2に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
【表3】
【0080】
表2に示すように、実施例1~12は、剛性、衝撃強度、耐熱性が向上し、CNFの分散性が良好であり、表面外観、発泡特性に優れる。
表3に示すように、比較例8のGPPSではCNFの分散性が低く、表面外観は低下し、剛性の向上は少なく、衝撃強度、発泡特性は低下する。
比較例9のミクロンオーダーのセルロースファイバーでは、分散性は良いものの、表面外観は低下し、表面外観は低下し、剛性の向上は少なく、衝撃強度、発泡特性は低下する。
比較例10のようにCNF量が多いとCNFの分散性は低下し、流動性、表面外観が低く、衝撃強度と色調が低下する。
比較例11のようにGPPSにCNFとMAH単量体を含む共重合を添加するとGPPSと共重合は非相溶のため、CNFはドメインの共重合中に偏在してしまい、分散性が低下し、特性は得られない。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の樹脂組成物を含む成形品は、建材、電子・電気部品、自動車、断熱材等に好適に使用することができる。