(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04D 29/66 20060101AFI20230829BHJP
F04D 29/54 20060101ALI20230829BHJP
F04D 13/00 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
F04D29/66 F
F04D29/54 A
F04D13/00 F
(21)【出願番号】P 2019085012
(22)【出願日】2019-04-26
【審査請求日】2022-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000151058
【氏名又は名称】株式会社電業社機械製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100120396
【氏名又は名称】杉浦 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】篠塚 泰
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-025807(JP,A)
【文献】特公昭39-008931(JP,B1)
【文献】特開2003-328978(JP,A)
【文献】特開2013-199939(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 13/00-13/16
F04D 29/44
F04D 29/54
F04D 29/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動される羽根車を内部に備え下端に水の吸込口を有すると共に上端側に吐出管が接続された筒状のケーシングと、
前記ケーシングの外周面に設けられた渦流抑制部材とを備え、
前記渦流抑制部材が、前記ケーシングの軸線方向に沿って延在し前記ケーシングの周方向に対して傾斜又は対向した面を有する上下延在板部を備え
、
前記上下延在板部が、前記渦流抑制部材の中心軸から四方に向けて配された4枚の単位板部を有して横断面形状が十字形状とされていることを特徴とするポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載のポンプにおいて、
前記渦流抑制部材が、前記ケーシングの軸線方向に沿って延在し前記上下延在板部の近傍に設置された上下延在棒部を備えていることを特徴とするポンプ。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載のポンプにおいて、
前記渦流抑制部材が、前記上下延在板部の上部を支持する上部支持部と、
前記上下延在板部の下部を支持する下部支持部とを備え、
前記上部支持部及び前記下部支持部が、上下に貫通した流通孔を有していることを特徴とするポンプ。
【請求項4】
請求項1から
3のいずれか一項に記載のポンプにおいて、
前記渦流抑制部材が、前記ケーシングの周方向に互いに離間して複数設けられていることを特徴とするポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸込水槽等の水を汲み上げる際に渦流の発生を抑制することができるポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
河川などに接続される吸込水槽等の水をポンプで汲み上げる際に、吸込水槽内に渦流が生じる場合がある。特に、排水に伴い水位が下がると、水面から空気を吸い込んだ渦流(空気吸込渦)が生じて、この渦流がポンプに引き込まれる場合がある。このような空気吸込渦により、ポンプ内に空気が吸い込まれてしまうと、水流の密度が変化してバランスが崩れ、ポンプに振動等を発生させる原因となると共にポンプ効率が低下してしまう。
【0003】
この渦流対策として、例えば特許文献1には、吸込水槽の底であってポンプの直下に底面から突出した渦流抑制部を設けた渦流抑制装置が記載されている。
また、特許文献2には、ポンプに対向配置され、吸込水槽に水面の上方から下方に向かって延びた板状の渦防止部材を複数設けたポンプ吸水槽が記載されている。
【0004】
さらに、特許文献3には、ポンプのケーシングの外周部に配設されたガイド部材と、ガイド部材に沿って縦方向及び横方向に移動可能なフロートとを備えたポンプが記載されている。このポンプでは、空気吸込渦が発生すると、その渦流によってフロートが横方向に移動して空気吸込渦を上方から覆うことで、空気吸込渦を消滅させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-31894号公報
【文献】特開2014-134142号公報
【文献】特許第6219745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の技術において、以下の課題が残されている。
従来の特許文献1及び2に記載の技術では、吸込水槽自体に渦流対策用の設備を設ける土木工事が必要になり、大掛かりで設備コストが増大してしまう問題があった。
また、特許文献3に記載の技術では、フロートにより空気吸込渦を消滅させようとしているが、水位が変化した際に、付着したゴミ等によってフロートがスムーズに移動しない場合は、十分に機能しないという不都合があった。
【0007】
本発明は、上記従来の問題に鑑みてなされたもので、水位が変化しても低コストで渦流の発生を抑制可能なポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明に係るポンプは、回転駆動される羽根車を内部に備え下端に水の吸込口を有すると共に上端側に吐出管が接続された筒状のケーシングと、前記ケーシングの外周面に設けられた渦流抑制部材とを備え、前記渦流抑制部材が、前記ケーシングの軸線方向に沿って延在し前記ケーシングの周方向に対して傾斜又は対向した面を有する上下延在板部を備えていることを特徴とする。
【0009】
このポンプでは、渦流抑制部材が、ケーシングの軸線方向に沿って延在しケーシングの周方向に対して傾斜又は対向した面を有する上下延在板部を備えているので、ケーシングの周囲に沿って流れる水流が上下延在板部の面に阻まれることで水流が乱れ、そのエネルギーを消費させ、渦流の発生を抑制することができる。また、上下延在板部が、上下に延在しているので、水位が変化しても広い上下範囲で渦流の発生を抑制することができる。さらに、上下延在板部の面が、水流を横方向の流れから縦方向の流れへとガイドして横方向の流れ方向を変更させる効果も有し、横方向の水流による渦流の発生を抑制することができる。
特に、渦流抑制部材を、水の流入方向に対してケーシングよりも下流側に配置することで、ケーシングを回り込んでくる水流がケーシングの下流側で渦流となることを抑制可能である。
【0010】
第2の発明に係るポンプは、第1の発明において、前記渦流抑制部材が、前記ケーシングの軸線方向に沿って延在し前記上下延在板部の近傍に設置された上下延在棒部を備えていることを特徴とする。
すなわち、このポンプでは、渦流抑制部材が、ケーシングの軸線方向に沿って延在し上下延在板部の近傍に設置された上下延在棒部を備えているので、上下延在板部を回り込んだ水流が上下延在板部の近傍で小さい渦流を発生させようとしても、上下延在棒部に水流が邪魔され渦流の発生を阻止することができる。
【0011】
第3の発明に係るポンプは、第1又は第2の発明において、前記上下延在板部が、中心軸から四方に向けて配された4枚の単位板部を有して横断面形状が十字形状とされていることを特徴とする。
すなわち、このポンプでは、上下延在板部が、中心軸から四方に向けて配された4枚の単位板部を有して横断面形状が十字形状とされているので、4つの単位板部によって上下延在板部の周囲を流れる水流を効率的に乱すことができる。特に、渦流抑制部材に対して、どの横方向からの水流に対してもいずれかの単位板部が障害となって、渦流の発生を抑制することができる。
【0012】
第4の発明に係るポンプは、第1から第3の発明のいずれかにおいて、前記渦流抑制部材が、前記上下延在板部の上部を支持する上部支持部と、前記上下延在板部の下部を支持する下部支持部とを備え、前記上部支持部及び前記下部支持部が、上下に貫通した流通孔を有していることを特徴とする。
すなわち、このポンプでは、上部支持部及び下部支持部が、上下に貫通した流通孔を有しているので、上下の流通孔からも水流が上下延在板部側に流れ込み、上下延在板部を回り込んだ水流を乱すことで、渦流の発生をさらに抑制することができる。
【0013】
第5の発明に係るポンプは、第1から第4の発明のいずれかにおいて、前記渦流抑制部材が、前記ケーシングの周方向に互いに離間して複数設けられていることを特徴とする。
すなわち、このポンプでは、渦流抑制部材が、ケーシングの周方向に互いに離間して複数設けられているので、ケーシングの周方向の複数箇所で渦流の発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明のポンプによれば、渦流抑制部材が、ケーシングの軸線方向に沿って延在しケーシングの周方向に対して傾斜又は対向した面を有する上下延在板部を備えているので、ケーシングの周囲に沿って流れる水流が上下延在板部の面に阻まれることで、渦流の発生を抑制することができる。
したがって、本発明のポンプでは、土木工事が不要で低コストであると共に、水位が変動しても広い上下範囲で渦流の発生を抑制することが可能で、渦流による振動の発生等を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係るポンプの一実施形態において、吸込水槽に設置されたポンプを、吸込水槽を破断して示す側面図である。
【
図2】本実施形態において、吸込水槽に設置されたポンプを、吸込水槽を破断して示す正面図である。
【
図3】本実施形態において、吸込水槽に設置されたポンプを、吸込水槽を破断して示すベースプレートより下方の平面図である。
【
図4】
図3におけるポンプを拡大した平面図である。
【
図6】本実施形態の他の例において、吸込水槽に設置されたポンプを、吸込水槽を破断して示す側面図である。
【
図7】本実施形態の他の例において、吸込水槽に設置されたポンプを、吸込水槽を破断して示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明におけるポンプの一実施形態を、
図1から
図5に基づいて説明する。
【0017】
本実施形態におけるポンプ1は、いわゆる立軸ポンプであって、
図1から
図3に示すように、吸込水槽10に設置されており、回転駆動される羽根車12を内部に備え下端に水の吸込口2aを有すると共に上端側に吐出管3が接続された筒状のケーシング2と、ケーシング2の外周面に設けられた渦流抑制部材4とを備えている。
上記渦流抑制部材4は、ケーシング2の軸線方向(上下方向)に沿って延在しケーシング2の周方向に対して傾斜又は対向した面を有する上下延在板部5を備えている。
【0018】
上記吸込水槽10は、雨水等の水を貯留しており、水の流入方向F0に対して下流側を閉塞する端壁10bを備えている。
また、吸込水槽10の上方は、据付床10cで覆われており、ポンプ1は、吸込床10cに開けられた据付孔10eに取り付けられたポンプベース(ベースプレート)10dにケーシング2上部のフランジ部2bが固定されて吊り下げ設置されている。
また、本実施形態のポンプ1は、端壁10bの近傍に設置されていると共に、吸込水槽10の底面10aから上方に離間した位置に吸込口2aを配して設置されている。
【0019】
上記渦流抑制部材4は、ケーシング2の周方向に互いに離間して複数設けられている。なお、本実施形態では、一対の渦流抑制部材4が設けられている。
これらの渦流抑制部材4は、ケーシング2の周面における端壁10b側に配置されている。すなわち、渦流抑制部材4は、ケーシング2の軸線に向かう水の流入方向F0に対して、ケーシング2の軸線から30°後方の位置に配置されている。
【0020】
また、渦流抑制部材4は、
図1,
図2及び
図5に示すように、ケーシング2の軸線方向(上下方向)に沿って延在し上下延在板部5の近傍に設置された上下延在棒部6を備えている。
上記上下延在板部5は、
図5に示すように、中心軸から四方に向けて配された4枚の単位板部5aを有して横断面形状が十字形状とされている。すなわち、4枚の単位板部5aは、互いに隣接する物同士が90°の角度に設定されている。
【0021】
なお、渦流抑制部材4の外径は、吸込口2aの内径に対して約20%に設定されている。
また、渦流抑制部材4の上下長さ及び取付高さ位置は、吸込水槽10内で変動する水位Wの範囲に応じて決定される。
【0022】
上下延在棒部6は、隣接する単位板部5aの間にこれら単位板部5aとの間に隙間を空けて設置されている。すなわち、上下延在棒部6は、渦流抑制部材4の中心軸に対して周方向に互いに離間して4本設置されている。
なお、各上下延在棒部6は、角部を有した断面矩形状に形成されており、断面円形状の場合に比べて、水流Fをより乱し易くなっている。
【0023】
さらに、渦流抑制部材4は、上下延在板部5の上部を支持する上部支持部7Aと、上下延在板部5の下部を支持する下部支持部7Bとを備えている。
なお、上部支持部7Aは、上下延在棒部6の上部も支持しており、下部支持部7Bは、上下延在棒部6の下部も支持している。
上部支持部7A及び下部支持部7Bは、
図4に示すように、上下に貫通した流通孔7aを有している。
本実施形態では、上部支持部7A及び下部支持部7Bに略三角形状の流通孔7aが複数設けられている。
【0024】
各渦流抑制部材4は、
図4に示すように、ケーシング2の外周面から半径方向外方に延びた部材支持部4aによって支持されている。
また、部材支持部4aの先端は、渦流抑制部材4の中間を支持している中間支持部7Cに固定されている。
上記中間支持部7Cは、上下延在板部5と上下延在棒部6との中間を支持している。
【0025】
このように本実施形態のポンプ1では、渦流抑制部材4が、ケーシング2の軸線方向に沿って延在しケーシング2の周方向に対して傾斜又は対向した面を有する上下延在板部5を備えているので、ケーシング2の周囲に沿って流れる水流Fが上下延在板部5の面に阻まれることで水流Fが乱れ、そのエネルギーを消費させ、渦流の発生を抑制することができる。また、上下延在板部5が、上下に延在しているので、水位Wが変化しても広い上下範囲で渦流の発生を抑制することができる。
【0026】
さらに、上下延在板部5の面が、水流Fを横方向の流れから縦方向の流れへとガイドして横方向の流れ方向を変更させる効果も有し、横方向の水流Fによる渦流の発生を抑制することができる。
また、渦流抑制部材4が、ケーシング2の周方向に互いに離間して複数設けられているので、ケーシング2の周方向の複数箇所で渦流の発生を抑制することができる。
特に、渦流抑制部材4を、水の流入方向F0に対してケーシング2よりも下流側に配置することで、ケーシング2を回り込んでくる水流Fがケーシング2の下流側で渦流となることを抑制可能である。
【0027】
また、渦流抑制部材4が、ケーシング2の軸線方向に沿って延在し上下延在板部5の近傍に設置された上下延在棒部6を備えているので、上下延在板部5を回り込んだ水流Fが上下延在板部5の近傍で小さい渦流を発生させようとしても、上下延在棒部6に水流Fが邪魔され渦流の発生を阻止することができる。
【0028】
また、上下延在板部5が、中心軸から四方に向けて配された4枚の単位板部5aを有して横断面形状が十字形状とされているので、4つの単位板部5aによって上下延在板部5の周囲を流れる水流Fを効率的に乱すことができる。特に、渦流抑制部材4に対して、どの横方向からの水流Fに対してもいずれかの単位板部5aが障害となって、渦流の発生を抑制することができる。
【0029】
さらに、上部支持部7A及び下部支持部7Bが、上下に貫通した流通孔7aを有しているので、上下の流通孔7aからも水流Fが上下延在板部5側に流れ込み、上下延在板部5を回り込んだ水流Fを乱すことで、渦流の発生をさらに抑制することができる。
【0030】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態では、上述したように、渦流抑制部材として横断面十字状の上下延在板部を備えることが好ましいが、他に横断面Y字状等の上下延在板部を採用しても構わない。
【0031】
また、上記実施形態のポンプ1は立軸ポンプであるが、
図6及び
図7に示すように、上記実施形態の他の例として、本発明を横軸ポンプのポンプ21に適用しても構わない。すなわち、立軸ポンプのポンプ1では、羽根車12がケーシング2の下部に配され羽根車12の回転軸12aが垂直方向に延在しているのに対し、横軸ポンプのポンプ21では、羽根車22がケーシング2の上部(吐出管3を含む)内に配され及び羽根車22の回転軸22aが水平方向に延在している。
【符号の説明】
【0032】
1,21…ポンプ、2…ケーシング、2a…吸込口、3…吐出管、4…渦流抑制部材、5…上下延在板部、5a…単位板部、6…上下延在棒部、7A…上部支持部、7B…下部支持部、7a…流通孔