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  • 特許-差動伝送ケーブル及びワイヤーハーネス 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】差動伝送ケーブル及びワイヤーハーネス
(51)【国際特許分類】
   H01B 11/12 20060101AFI20230829BHJP
   H01B 11/00 20060101ALI20230829BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
H01B11/12
H01B11/00 J
H01B7/00 310
H01B7/00 301
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019130880
(22)【出願日】2019-07-16
(65)【公開番号】P2021015749
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2022-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145908
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 信雄
(74)【代理人】
【識別番号】100136711
【弁理士】
【氏名又は名称】益頭 正一
(72)【発明者】
【氏名】三瓶 有輝
(72)【発明者】
【氏名】熊田 健人
(72)【発明者】
【氏名】向後 宏亮
【審査官】木村 励
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-33738(JP,A)
【文献】特開平5-120926(JP,A)
【文献】国際公開第2017/168842(WO,A1)
【文献】特開平8-180741(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 11/12
H01B 11/00
H01B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の導体と、前記複数本の導体の周囲を覆う絶縁体とを有した電線を、対にして撚り合わせたツイスト電線と、前記ツイスト電線を覆うシースとを備えた差動伝送ケーブルであって、
前記複数本の導体の中心に設けられると共に、引張強度が800MPa以上3000MPa以下で、前記複数本の導体よりも高い引張強度を有したテンションメンバーを備え
前記絶縁体は、比誘電率が3.8以下であり、誘電正接が4.0×10 -3 以下であ
ことを特徴とする差動伝送ケーブル。
【請求項2】
前記テンションメンバーは、引張強度が1200MPa以上である
ことを特徴とする請求項1に記載の差動伝送ケーブル。
【請求項3】
前記ツイスト電線は、撚りピッチが前記電線の外径の15倍以上45倍以下である
ことを特徴とする請求項1又は請求項のいずれか1項に記載の差動伝送ケーブル。
【請求項4】
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の差動伝送ケーブルを備えることを特徴とするワイヤーハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動伝送ケーブル及びワイヤーハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用の通信ケーブルには2芯の差動伝送ケーブルが用いられている。差動伝送ケーブルは、例えばイーサネット(登録商標)通信に用いられ、特性インピーダンスを厳しく管理することが求められている。
【0003】
このような差動伝送ケーブルには、例えば引張強度が400MPa以上の導体と導体の外周を被覆する絶縁被覆とからなる絶縁電線が対となって撚り合わせられた対撚線と、対撚線の外周を被覆するシースとを備えたものが提案されている(例えば特許文献1参照)。この差動伝送ケーブルによれば、導体が400MPa以上という高い引張強度を有するため、電線として必要となる所定の破断強度を確保することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6108057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の差動伝送ケーブルは、引張強度が400MPa以上の導体を用いているため剛性が高く、このような導体を撚り合わせた構成となるとケーブルとしても曲げ難く、柔軟性に劣ったものとなってしまう。
【0006】
加えて、特許文献1に記載の差動伝送ケーブルは、必要な強度を得るために或る程度以上の導体断面積を確保する必要があり、細径化や軽量化には限界が生じてしまう。
【0007】
本発明はこのような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、所定の破断強度を確保しつつ細径化・軽量化を図り、より柔軟化した差動伝送ケーブル及びワイヤーハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、複数本の導体と、複数本の導体の周囲を覆う絶縁体とを有した電線を、対にして撚り合わせたツイスト電線と、ツイスト電線を覆うシースとを備えた差動伝送ケーブルである。この差動伝送ケーブルは、複数本の導体の中心に設けられると共に、引張強度が800MPa以上3000MPa以下で、複数本の導体よりも高い引張強度を有したテンションメンバーを備え、絶縁体は、比誘電率が3.8以下であり、誘電正接が4.0×10 -3 以下である。
【0009】
また、本発明に係るワイヤーハーネスは、上記の差動伝送ケーブルを備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、引張強度が800MPa以上で複数本の導体よりも高い引張強度を有したテンションメンバーを備えるため、導体に高い引張強度の金属を用いたり導体断面積を大きくしたりしなくとも所定の破断強度を確保することができる。これにより、所定の破断強度を確保しつつ細径化・軽量化を図り、より柔軟化した差動伝送ケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る差動伝送ケーブルを含むワイヤーハーネスの一例を示す断面図である。
図2図1に示した差動伝送ケーブルを示す側面図である。
図3】実施例1~3及び比較例1,2に係る差動伝送ケーブルを示す概略図である。
図4】実施例1,2に係る差動伝送ケーブルの特性を示すグラフであり、特性インピーダンスを示している。
図5】実施例1,2に係る差動伝送ケーブルの特性を示すグラフであり、周波数に応じた挿入損失を示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を好適な実施形態に沿って説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下に示す実施形態においては、一部構成の図示や説明を省略している箇所があるが、省略された技術の詳細については、以下に説明する内容と矛盾が発生しない範囲内において、適宜公知又は周知の技術が適用されていることはいうまでもない。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る差動伝送ケーブルを含むワイヤーハーネスの一例を示す断面図である。図2は、図1に示した差動伝送ケーブルを示す側面図である。
【0014】
図1に示すように、本実施形態に係るワイヤーハーネスWHは、複数の電線Wを束にしたものであり、複数の電線Wの少なくとも1本(1回路)が以下に詳細説明する差動伝送ケーブル1により構成されている。
【0015】
このようなワイヤーハーネスWHは、例えば複数の電線Wの両端部にコネクタ(図示せず)を備えていてもよいし、複数の電線Wをまとめるためにテープ(図示せず)が巻かれていてもよい。また、ワイヤーハーネスWHは、コルゲートチューブ等の外装部品(図示せず)を備えていてもよい。
【0016】
差動伝送ケーブル1は、ツイスト電線TWと、シース20とを備えている。ツイスト戦線TWは、電線10を対にして(すなわち2本の電線10を)撚り合わせたものであって、各電線10は、複数本の導体11bと、絶縁体12とを有している。
【0017】
複数本の導体11bは、例えば軟銅線、錫メッキ軟銅線、及び銀メッキ軟銅線等によって構成されている。導体11bは単線であっても撚線であってもよい。このような複数本の導体11bは、引張強度が400MPa未満であることが好ましい。なお、導体11bの本数は、例えば4本以上であって図1に示す例では6本となっている。
【0018】
絶縁体12は、複数本の導体11bの周囲を覆う被覆部材であって、例えばPE(Polyethylene)、PP(Polypropylene)、又は発泡させたPE及びPP等が用いられている。
【0019】
シース20は、ツイスト電線TWの周囲を覆う絶縁部材であって、例えばポリオレフィン等によって構成されている。本実施形態においてシース20は、例えば2本のケーブル10間の空間部Sを除き全体的に充填された構造となっている。なお、シース20は、これに限らず円筒状のチューブ等であってもよい。
【0020】
さらに、本実施形態に係る各電線10はテンションメンバー11aを備えている。テンションメンバー11aは、複数本の導体11bの中心位置に設けられており、複数本の導体11bよりも高い引張強度を有したもので構成されている。具体的にテンションメンバー11aは、ポリアリレート繊維やガラス繊維によって構成されており、引張強度が800MPa以上とされている。なお、テンションメンバー11aはポリアリレート繊維やガラス繊維に限られるものではない。
【0021】
本実施形態に係る差動伝送ケーブル1は、このようなテンションメンバー11aを備えることから、導体11bに高い引張強度の金属を用いたり導体断面積を大きくしたりしなくとも所定の破断強度を確保することができる。
【0022】
特に、導体11bの断面積を抑えることができることから、テンションメンバー11a及び複数本の導体11bからなる内側構成11の断面積(非圧縮の断面積)を0.22mm以下(例えば0.13mm)としても必要となる破断強度を確保とすることができる(さらには、導体11bに引張強度400MPa未満の金属を用いたとしても必要となる破断強度を可能とすることができる)。
【0023】
具体的に説明すると、例えばテンションメンバー11a(例えば引張強度800MPa)及び導体11b(例えば軟銅線230MPa)のそれぞれの素線径を0.16mm(0.13sqに用いられる素線径)とした場合、6本の導体11bの合計断面積が0.12mmとなり、テンションメンバー11aの断面積が0.02mmとなる。このため、6本の導体11bの破断強度は0.12×230=27.6Nとなり、テンションメンバー11aの破断強度は0.02×800=16Nとなる。本実施形態において電線10は2本であるため、2本の内側構成11の破断強度は(27.6+16)×2=87.2Nとなる。ここで、絶縁体12及びシース20の破断強度を例えば20Nと想定すると、差動伝送ケーブル1の破断強度は87.2+20=107.2Nとなる。よって、自動車用電線に求められる破断強度100Nを達成することができる。
【0024】
また、テンションメンバー11aは、引張強度が1200MPa以上とされていることが好ましい。これにより、内側構成11だけで100N以上の破断強度を可能とすることができるからである。
【0025】
この場合、6本の導体11bの破断強度は0.12×230=27.6Nとなり、テンションメンバー11aの破断強度は0.02×1200=24Nとなる。本実施形態において電線10は2本であるため、2本の内側構成11の破断強度は(27.6+24)×2=103.2Nとなる。よって、自動車用電線に求められる破断強度100Nを内側構成11だけで達成することができる。
【0026】
さらに、本実施形態に係る絶縁体12は、比誘電率が4.0以下であり、誘電正接が4.0×10-3以下であることが好ましい。
【0027】
比誘電率が4.0以下であると、特性インピーダンスを100±10Ωとするために絶縁体12が必要以上に厚くならず例えば絶縁体12の厚さを0.32mm以下とでき細径化に寄与することができるからである。また、誘電正接が4.0×10-3以下であると、伝送する信号の周波数が高くなるに従って挿入損失に影響を与える誘電損失を小さくすることができるからである。
【0028】
なお、シース20の誘電率は特性への影響度が小さいことから誘電正接は絶縁体12よりも大きくされていてもよく、具体的には1.0×10-3以下とされている。
【0029】
加えて、図2に示すように、2本の電線(ツイスト電線TW)10は撚りピッチが電線10の外径の15倍以上45倍以下(より好ましくは40倍以下)であることが好ましい。
【0030】
撚りピッチが15倍未満のように撚り中央側に応力が加わり絶縁体12が潰れて特性インピーダンスに影響を与えてしまう可能性を低減することができるからである。また、撚りピッチが45倍を超えるときのように撚りが弱くピッチが不安定となり電気ノイズの放射又は耐性に関わるモード変換の特性が劣化してしまう可能性を低減することができるからである。
【0031】
さらに、撚り合わせ後の2本の電線10は、1m当たりの長さの違いが3mm以下とされていることが好ましい。これによっても、電気ノイズの放射又は耐性に関わるモード変換の特性が劣化してしまう可能性を低減することができるからである。
【0032】
次に、本実施形態に係る差動伝送ケーブル1に関する実施例及び比較例について説明する。
【0033】
図3は、実施例1~3及び比較例1,2に係る差動伝送ケーブルを示す概略図である。
【0034】
図3に示すように、実施例1に係る差動伝送ケーブルにおいては、テンションメンバーをガラス繊維(破断強度3000MPa)によって構成した。また、導体本数は6本であり、各導体は素線径0.16mmとなる軟銅線(破断強度230MPa)によって構成した。この結果、内側構成について外径は0.48mmとなった。また、絶縁体は架橋PE(比誘電率2.3、誘電正接1.3×10-3)によって構成され、電線仕上外径は0.83mmとなった。このような電線を2本撚り合わせた結果、撚り合わせ外径は1.66mmとなった。ツイスト電線の周囲にはポリオレフィン(比誘電率4.0、誘電正接4.2×10-3)からなる厚さ(シース外側から最も内部構成に近い部位への距離)0.42mmのシースを設けた。この結果、実施例1に係る差動伝送ケーブルは仕上外径が2.50mmとなった。
【0035】
また、実施例2に係る差動伝送ケーブルについては、テンションメンバーをガラス繊維(破断強度3000MPa)によって構成した。また、導体本数は6本であり、各導体は素線径0.16mmとなる軟銅線(破断強度230MPa)によって構成した。この結果、内側構成について外径は0.48mmとなった。また、絶縁体は難燃材として水酸化マグネシュウム50wt%が含まれたPP(比誘電率3.8、誘電正接4.2×10-3)によって構成され、電線仕上外径は0.88mmとなった。このような電線を2本撚り合わせた結果、撚り合わせ外径は1.76mmとなった。2本の電線の周囲にはポリオレフィンからなる厚さ(シース外側から最も内部構成に近い部位への距離)0.37mmのシース(比誘電率4.1、誘電正接4.2×10-3)を設けた。この結果、実施例2に係る差動伝送ケーブルは仕上外径が2.5mmとなった。
【0036】
実施例3に係る差動伝送ケーブルについては、テンションメンバーを炭素繊維(破断強度840MPa)によって構成した。また、導体本数は6本であり、各導体は素線径0.16mmとなる軟銅線(破断強度230MPa)によって構成した。この結果、内側構成について外径は0.48mmとなった。また、絶縁体は難燃材として水酸化マグネシュウム50wt%が含まれたPP(比誘電率3.8、誘電正接4.2×10-3)によって構成され、によって構成され、電線仕上外径は0.88mmとなった。このような電線を2本撚り合わせた結果、撚り合わせ外径は1.76mmとなった。2本の電線の周囲にはポリオレフィンからなる厚さ(シース外側から最も内部構成に近い部位への距離)0.37mmのシース(比誘電率4.1、誘電正接4.2×10-3)を設けた。この結果、実施例3に係る差動伝送ケーブルは仕上外径が2.5mmとなった。
【0037】
比較例1に係る差動伝送ケーブルについては、テンションメンバーを設けることなく構成した。また、導体本数は7本であり、各導体は素線径0.16mmとなる軟銅線によって構成した。この結果、内側構成について外径は0.48mmとなった。また、絶縁体は架橋PEによって構成され、電線仕上外径は0.83mmとなった。このような電線を2本撚り合わせた結果、撚り合わせ外径は1.66mmとなった。2本の電線の周囲にはポリオレフィンからなる厚さ(シース外側から最も内部構成に近い部位への距離)0.43mmのシースを設けた。この結果、比較例1に係る差動伝送ケーブルは仕上外径が2.5mmとなった。
【0038】
比較例2に係る差動伝送ケーブルについては、テンションメンバーをPP繊維(破断強度290MPa)によって構成した。また、導体本数は6本であり、各導体は素線径0.16mmとなる軟銅線によって構成した。この結果、内側構成について外径は0.48mmとなった。また、絶縁体は架橋PEによって構成され、電線仕上外径は0.83mmとなった。このような電線を2本撚り合わせた結果、撚り合わせ外径は1.66mmとなった。2本の電線の周囲にはポリオレフィンからなる厚さ(シース外側から最も内部構成に近い部位への距離)0.42mmのシースを設けた。この結果、比較例2に係る差動伝送ケーブルは仕上外径が2.5mmとなった。
【0039】
ここで、実施例1~3に示す差動伝送ケーブルは、800MPa以上のテンションメンバーを備えることから、計算上例えば自動車用電線に必要となる100Nの破断強度を満たすものとなっている。
【0040】
これに対して、比較例1,2に示す差動伝送ケーブルは、800MPa以上のテンションメンバーを備えない。このため、比較例1,2に示す差動伝送ケーブルは、計算上例えば自動車用電線に必要となる100Nの破断強度を満たさないものとなっている。ここで、比較例1,2に示す差動伝送ケーブルについて100Nの破断強度を満たすようにするためには、導体断面積を大きくする必要がある。このため、細径化、軽量化及び柔軟化の面で支障が出てしまう。
【0041】
なお、実施例1,2の差動伝送ケーブルは、引張強度が1200MPa以上となるテンションメンバーを備えることから、内側構成のみで100Nの破断強度を満たすことができる。一方、実施例3において実施例1,2と同等の破断強度を実現するためには、実施例1,2よりも差動伝送ケーブルの仕上外径が大きくなってしまう。
【0042】
図4及び図5は、実施例1,2に係る差動伝送ケーブルの特性を示すグラフであり、図4は特性インピーダンスを示し、図5は周波数に応じた挿入損失を示している。
【0043】
図4に示すように、実施例1,2に係る差動伝送ケーブルは、特性インピーダンスが100±10Ω(規格値)の範囲内に収まっている。このため、実施例1,2に係る差動伝送ケーブルは、所望の特性インピーダンスが得られている。
【0044】
しかし、実施例2に係る差動伝送ケーブルは誘電正接が4.2×10-3となっている。このため、図5に示すように、実施例2に係る差動伝送ケーブルは挿入損失が実施例1のものよりも高くなっている。特に、挿入損失の1つである誘電損失は周波数が高くなるに従って誘電正接への依存度が高くなる。このため、実施例1,2を比較すると高周波数域ほど、両者間の挿入損失の差が大きくなってしまう。一方、実施例1に係る差動伝送ケーブルは、誘電正接が1.3×10-3となっているため、誘電損失を抑えることができ、実施例2のものよりも挿入損失が小さく、その効果は高周波数域において顕著となった。
【0045】
このようにして、本実施形態に係る差動伝送ケーブル1によれば、引張強度が800MPa以上で複数本の導体11bよりも高い引張強度を有したテンションメンバー11aを備えるため、導体11bに高い引張強度の金属を用いたり導体断面積を大きくしたりしなくとも所定の破断強度を確保することができる。これにより、所定の破断強度を確保しつつ細径化・軽量化を図り、より柔軟化した差動伝送ケーブル1を提供することができる。
【0046】
また、テンションメンバー11aは引張強度が1200MPa以上であるため、内側構成11だけで100N以上の破断強度を可能とすることができる。
【0047】
また、絶縁体12の比誘電率が4.0以下であるため、特性インピーダンスを100±10Ωとするために絶縁体12が必要以上に厚くならず細径化に寄与することができる。また、絶縁体12の誘電正接が4.0×10-3以下であるため、伝送する信号の周波数が高くなるに従って挿入損失に影響を与える誘電損失を小さくすることができる。
【0048】
また、ツイスト電線TWは撚りピッチが電線10の外径の15倍以上であるため、15倍未満のように撚り中央側に応力が加わり絶縁体が潰れて特性インピーダンスに影響を与えてしまう可能性を低減することができる。また、撚りピッチが電線10の外径の45倍以下であるため、45倍を超えるときのように撚りが弱くピッチが不安定となり電気ノイズの放射又は耐性に関わるモード変換の特性が劣化してしまう可能性を低減することができる。
【0049】
また、本実施形態に係るワイヤーハーネスWHによれば、上記差動伝送ケーブル1を備えるため、所定の破断強度を確保しつつ細径化・軽量化を図り、より柔軟化したワイヤーハーネスWHを提供することができる。
【0050】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよいし、可能であれば公知又は周知の技術を組み合わせてもよい。
【0051】
例えば、本実施形態においてテンションメンバー11aは複数本の導体11bの中心に配置されているが、厳密な中心でなくともよく、許容範囲内で或る程度のずれを有するものであってもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 :差動伝送ケーブル
10 :電線
11 :内側構成
11a :テンションメンバー
11b :導体
12 :絶縁体
20 :シース
W :電線
WH :ワイヤーハーネス
TW :ツイスト電線
図1
図2
図3
図4
図5