(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】コンクリート構造物の防水塗装方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/66 20060101AFI20230829BHJP
E04B 1/62 20060101ALI20230829BHJP
E01D 19/10 20060101ALI20230829BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20230829BHJP
C08G 18/10 20060101ALI20230829BHJP
B05D 1/36 20060101ALI20230829BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20230829BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20230829BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20230829BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
E04B1/66 A
E04B1/62 Z
E01D19/10
E01D22/00 A
C08G18/10
B05D1/36 Z
B05D5/00 F
B05D7/00 D
B05D7/24 302T
B05D7/24 303E
E04G23/02 D
(21)【出願番号】P 2019134669
(22)【出願日】2019-07-22
【審査請求日】2022-07-04
(73)【特許権者】
【識別番号】505389695
【氏名又は名称】首都高速道路株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100151448
【氏名又は名称】青木 孝博
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100203035
【氏名又は名称】五味渕 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【氏名又は名称】今藤 敏和
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】中村 充
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 歩
(72)【発明者】
【氏名】井田 達郎
(72)【発明者】
【氏名】関 智行
(72)【発明者】
【氏名】吉田 新
(72)【発明者】
【氏名】田邉 康孝
(72)【発明者】
【氏名】作 周平
(72)【発明者】
【氏名】福地 聖弘
(72)【発明者】
【氏名】塚原 嵩
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-184627(JP,A)
【文献】特開2018-193536(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/62 - 1/99
C08G 18/10
E01D 1/00 - 24/00
B05D 1/00 - 7/26
C08G 18/00 - 18/87
C08G 71/00 - 71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物の表面をウレタン樹脂系プライマーで塗装してプライマー層を形成する工程と、該プライマー層をウレタン樹脂系主材で塗装して主材層を形成する工程とを含むコンクリート構造物の防水塗装方法であって、
前記ウレタン樹脂系プライマーが
、ポリイソシアネート及びシランカップリング剤
を含む主剤と、ポリアミンを含む硬化剤とを含む2液型のウレタン樹脂系プライマーであり、前記プライマー層を構成するウレタン樹脂はウレア結合を有しており、前記ウレタン樹脂系主材が、分子量が100以下のポリオールを構成成分として含むイソシアネート基含有プレポリマーと、潜在性硬化剤とを含むことを特徴とするコンクリート構造物の防水塗装方法。
【請求項2】
前記潜在性硬化剤が、大気中の湿分により加水分解して活性水素基を再生する基を含有する化合物であることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート構造物の防水塗装方法。
【請求項3】
前記ウレタン樹脂系主材が、耐候安定剤を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のコンクリート構造物の防水塗装方法。
【請求項4】
前記ウレタン樹脂系プライマーの塗装が0~35℃の条件下で行われ、前記ウレタン樹脂系主材の塗装が0~35℃の条件下で行われることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のコンクリート構造物の防水塗装方法。
【請求項5】
前記ウレタン樹脂系プライマーと前記ウレタン樹脂系主材の塗装間隔が0.5時間以上4時間以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のコンクリート構造物の防水塗装方法。
【請求項6】
前記ウレタン樹脂系プライマーの塗布量が0.05~0.8kg/m
2であり、前記ウレタン樹脂系主材の塗布量が0.3~2.5kg/m
2であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のコンクリート構造物の防水塗装方法。
【請求項7】
前記主材層の色が、マンセル表色系において5Y8/0.5に該当することを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のコンクリート構造物の防水塗装方法。
【請求項8】
前記コンクリート構造物が、コンクリート壁高欄であることを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載のコンクリート構造物の防水塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の防水塗装方法に関し、特には、省工程及び短期間での施工が可能で、且つ良好な防水性及び剥落防止性をコンクリート構造物に付与することも可能なコンクリート構造物の防水塗装方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高架橋、トンネル、橋梁、壁高欄やその他の構造物は、その強度や耐久性を向上させる必要性から、コンクリート製の構造物が広く用いられている。しかしながら、近年では、コンクリートの塩害による鉄筋の腐食や排ガス等による中性化、アルカリ骨材反応、ひび割れに浸入した水分の凍結等により、コンクリートが劣化し、劣化が進行するとコンクリート構造物の表面からコンクリート片が剥がれ落ち、コンクリート構造物自体の強度低下や美観の低下、剥落による事故の危険性等の課題が発生している。かかる課題を解決するため、コンクリート剥落防止システムの開発が行われている。
【0003】
コンクリート構造物のうち、壁高欄とは、高速道路や線路から人や車両が落下することを防止する目的で設けられる欄干の一種である。そして、コンクリート壁高欄には、コンクリートの硬化初期の収縮、活荷重による桁や床版のたわみほか、鋼床版の場合はグースアスファルト混合物舗設時の熱影響による床版の伸び縮みでひび割れが生じることが知られている。このひび割れ自体は微細で構造上無害なものであっても、汚れやカビが付着し、太い筋になるため、利用者が不安感を持つ場合がある。また、ひび割れから進入した雨水や酸素により内部鉄筋が腐食し、錆び汁が漏出して著しく景観を損ねる場合もある。
【0004】
上記損傷の対策として、附属施設物設計施工要領 第6編〔車両用防護施設編〕では、剥落防止の機能を有する「防水塗装」でコンクリート壁高欄と地覆の全面被覆を行い、ひび割れを露出させないことで良好な景観を長期間維持し、内部鉄筋を腐食因子から保護することとしている。
【0005】
しかし、従来の防水塗装では、エポキシ樹脂系プライマー、ウレタン樹脂系主材(第1層)、ウレタン樹脂系主材(第2層)、ウレタン樹脂系上塗り材の計4回の塗装工程を行うことが必要とされており、高速道路規制下で実施する高欄内面や街路規制をかけて高所作業車上で実施する高欄外面の防水塗装における進捗率がなかなか上がらないという課題がある。例えば、エポキシ樹脂系プライマーの塗装後の塗装間隔は2時間~7日程度、ウレタン樹脂系主材の塗装後の塗装間隔もそれぞれ1日~7日程度とされており、これに交通規制の日程なども加わると、防水塗装を完了するのに数ヶ月を要する場合もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、省工程及び短期間での施工が可能で、且つ良好な防水性及び剥落防止性をコンクリート構造物に付与することも可能なコンクリート構造物の防水塗装方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、シランカップリング剤を含み、ウレア反応を利用するウレタン樹脂系プライマーと、分子量が100以下のポリオールを構成成分として含むイソシアネート基含有プレポリマー及び潜在性硬化剤を含むウレタン樹脂系主材とをコンクリート構造物の表面に適用する防水塗装方法であれば、良好な防水性及び剥落防止性を付与しながら、従来の防水塗装よりも省工程及び短期間での施工が可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明の防水塗装方法は、コンクリート構造物の表面をウレタン樹脂系プライマーで塗装してプライマー層を形成する工程と、該プライマー層をウレタン樹脂系主材で塗装して主材層を形成する工程とを含むコンクリート構造物の防水塗装方法であって、
前記ウレタン樹脂系プライマーがシランカップリング剤を含み、前記プライマー層を構成するウレタン樹脂はウレア結合を有しており、前記ウレタン樹脂系主材が、分子量が100以下のポリオールを構成成分として含むイソシアネート基含有プレポリマーと、潜在性硬化剤とを含むことを特徴とする。
【0009】
本発明の防水塗装方法の好適例においては、前記潜在性硬化剤が、大気中の湿分により加水分解して活性水素基を再生する基を含有する化合物である。
【0010】
本発明の防水塗装方法の他の好適例においては、前記ウレタン樹脂系主材が、耐候安定剤を含む。
【0011】
本発明の防水塗装方法の他の好適例においては、前記ウレタン樹脂系プライマーの塗装が0~35℃の条件下で行われ、前記ウレタン樹脂系主材の塗装が0~35℃の条件下で行われる。
【0012】
本発明の防水塗装方法の他の好適例においては、前記ウレタン樹脂系プライマーと前記ウレタン樹脂系主材の塗装間隔が0.5時間以上4時間以下である。
【0013】
本発明の防水塗装方法の他の好適例においては、前記ウレタン樹脂系プライマーの塗布量が0.05~0.8kg/m2であり、前記ウレタン樹脂系主材の塗布量が0.3~2.5kg/m2である。
【0014】
本発明の防水塗装方法の他の好適例においては、前記主材層の色が、マンセル表色系において5Y8/0.5に該当する。
【0015】
本発明の防水塗装方法の他の好適例においては、前記コンクリート構造物が、コンクリート壁高欄である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、省工程及び短期間での施工が可能で、且つ良好な防水性及び剥落防止性をコンクリート構造物に付与することも可能なコンクリート構造物の防水塗装方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例において水密試験のために作製される試験体を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明のコンクリート構造物の防水塗装方法を詳細に説明する。本発明の防水塗装方法は、コンクリート構造物の表面をウレタン樹脂系プライマーで塗装してプライマー層を形成する工程と、該プライマー層をウレタン樹脂系主材で塗装して主材層を形成する工程とを含むコンクリート構造物の防水塗装方法であって、前記ウレタン樹脂系プライマーがシランカップリング剤を含み、前記プライマー層を構成するウレタン樹脂はウレア結合を有しており、前記ウレタン樹脂系主材が、分子量が100以下のポリオールを構成成分として含むイソシアネート基含有プレポリマーと、潜在性硬化剤とを含むことを特徴とする。
【0019】
本発明の防水塗装方法においては、まず、コンクリート構造物の表面をウレタン樹脂系プライマーで塗装してプライマー層を形成させる(第1の工程)。
【0020】
本明細書において「コンクリート構造物」は、コンクリートを単体で利用した構造物、鉄筋コンクリートを利用した構造物、それらの部材等であり、その具体例としては、高架橋、橋梁、橋脚、橋台、桁、床版、高欄、ドルフィン、トンネル、道路、導水路、貯蔵槽、スラブ、壁等の各種コンクリート構造物やその部材等が挙げられる。本発明の防水塗装方法は、省工程及び短期間での施工が可能で、且つ良好な防水性及び剥落防止性をコンクリート構造物に付与できることから、コンクリート壁高欄、特には施工上制約事項の多い高速道路の壁高欄に対して好適である。
【0021】
本明細書において「プライマー」とは、何らかの改善効果を目的として予め基材上に適用される塗料である。本発明の防水塗装方法において、ウレタン樹脂系プライマーは、主材層を適用する前にコンクリート構造物の表面を塗装することで、コンクリート構造物に対する被膜の付着性を向上させることを目的としている。
【0022】
本明細書において「ウレタン樹脂系プライマー」とは、ウレタン樹脂が既に含まれているプライマーや、ポリオールとポリイソシアネートを含むプライマーのように、塗装時に硬化してウレタン被膜を形成するプライマーを意味する。本発明の防水塗装方法において、ウレタン樹脂系プライマーは、エポキシ樹脂系プライマーと比べて、ひび割れ追従性に優れるため、剥落防止性能も向上させることができる。
【0023】
本発明の防水塗装方法において、ウレタン樹脂系プライマーは、施工期間を短くする観点から、反応硬化型のプライマーであることが好ましく、主剤と硬化剤とから構成される2液混合型のプライマーであることが更に好ましい。
【0024】
上記ウレタン樹脂系プライマーは、2液混合型である場合、通常、主剤としてポリイソシアネートを含み、硬化剤としてポリオールやポリアミンを含むものであるが、本発明の防水塗装方法においては、ウレア形成反応を利用することで硬化性(特には低温硬化性)を向上させるため、硬化剤としてポリアミンを含むことが好ましい。このため、本発明の防水塗装方法において、プライマー層を構成するウレタン樹脂はウレア結合を有することが好ましい。
【0025】
上記ウレタン樹脂系プライマーに使用できるポリオールは、複数の水酸基を有する化合物であるが、好ましくは数平均分子量が500~10000、より好ましくは1000~5000である。また、上記ポリオールは、1分子あたりの水酸基の数が好ましくは2~5、より好ましくは2~3である。なお、ポリオール1分子あたりの水酸基の数(n)は、ポリオールの持つ水酸基価(OHV)と数平均分子量(Mn)から次の計算式により求められる。
n=Mn(g/mol)×OHV(mgKOH/g)/56110
ここで、水酸基価とは、試料1g中の遊離水酸基を無水酢酸で完全にアセチル化した後、それを中和するのに要する水酸化カリウムのmg数である。また、数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定されるポリスチレン換算した数平均分子量である。
【0026】
上記ポリオールとしては、例えば、アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリウレタンポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール等が挙げられる。
アクリルポリオールは、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルと重合性不飽和基を有する化合物を共重合して得られる。水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルとしては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。重合性不飽和基を有する化合物としては、スチレン、ビニルトルエン、(メタ)アクリル酸、フマル酸、マレイン酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。これら重合性不飽和基を有する化合物は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
ポリエステルポリオールは、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、プロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールと、フタル酸、マレイン酸、トリメリット酸、アジピン酸、グルタル酸、コハク酸、セバシン酸、ピメリン酸、スベリン酸等の多塩基カルボン酸とを脱水縮合反応して得られる。また、大豆油、亜麻仁油、米ぬか油、綿実油、桐油、ひまし油、やし油などの天然油を上記多価アルコールで分解して得られる水酸基含有脂肪酸エステルを多価アルコールの全部又は一部として含むこともできる。
ポリウレタンポリオールは、上記多価アルコールと、上述のポリイソシアネートとをアルコール過剰の条件で反応して得られる。また、上記水酸基含有脂肪酸エステルを多価アルコールの全部又は一部として含むこともできる。
ポリエーテルポリオールは、例えば、上記多価アルコールや水酸基含有脂肪酸エステルに、エチレンオキシドやプロピレンオキシド等のアルキレンオキシドを付加させて得られる。
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、上記多価アルコールや水酸基含有脂肪酸エステルと、ジエチルカーボネート等の炭酸エステルとの縮合反応により得られる。
なお、これらポリオールは、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
上記ウレタン樹脂系プライマーにおけるポリオールの含有量は、後述するように、アミンやイソシアネートの官能基の量に応じて適宜調整されるが、10~50質量%であることが好ましい。また、上記ウレタン樹脂系プライマーにおいて、不揮発分中におけるポリオールの含有量は、後述するように、アミンやイソシアネートの官能基の量に応じて適宜調整されるが、15~60質量%であることが好ましい。
【0028】
本明細書において、不揮発分とは、水や有機溶剤等の揮発する成分を除いた成分を指し、最終的に被膜を形成することになる成分であるが、本発明においては、プライマーや主材を130℃で60分間乾燥させた際に残存する成分を不揮発分として取り扱う。上記ウレタン樹脂系プライマー中における不揮発分の含有量は、30~98質量%であることが好ましい。
【0029】
上記ウレタン樹脂系プライマーに使用できるポリアミンは、アミノ基を複数有する化合物であり、具体例としては、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等のアルキレンジアミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、4,4'-メチレンビス[N-(1-メチルプロピル)アニリン]等のアルキレンポリアミン;ノルボルナンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノ3,6-ジエチルシクロヘキサン、イソホロンジアミン等の脂環式ポリアミン;ジエチルジアミノトルエン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジクロロジフェニルメタン、2,4-ジアミノトルエン、2,6-ジアミノトルエン、ジエチルメチルベンゼンジアミン(1-メチル-3,5-ジエチル-2,4-ジアミノベンゼン、1-メチル-3,5-ジエチル-2,6-ジアミノベンゼン等)、1,3,5-トリエチル-2,6-ジアミノベンゼン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,5,3’,5’-テトラエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,5-ジメチルチオ-2,4-トルエンジアミン、3,5-ジメチルチオ-2,6-トルエンジアミン等の芳香族ジアミンが挙げられる。なお、これらポリアミンは、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
上記ウレタン樹脂系プライマーにおけるアミンの含有量は、後述するように、ポリオールやイソシアネートの官能基の量に応じて適宜調整されるが、10~40質量%であることが好ましい。また、上記ウレタン樹脂系プライマーにおいて、不揮発分中におけるポリアミンの含有量は、後述するように、ポリオールやイソシアネートの官能基の量に応じて適宜調整されるが、15~50質量%であることが好ましい。
【0031】
上記ウレタン樹脂系プライマーに使用できるポリイソシアネートは、イソシアネート基(NCO基)を複数有する化合物であるが、例えば、脂肪族、芳香族又は芳香脂肪族のポリイソシアネートが含まれ、具体例としては、トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の他、これらポリイソシアネートの変性体が挙げられる。変性体の具体例としては、ビウレット変性体、イソシアヌレート変性体、アダクト変性体(例えばトリメチロールプロパン付加物)、アロファネート変性体、ウレトジオン変性体、カルボジイミド変性体等が挙げられる。これらの中でも、ヘキサメチレンジイソシアネートの各種変性体やイソホロンジイソシアネートの各種変性体が、硬化性や耐候性の観点から好ましい。これらポリイソシアネートは、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
また、上記ウレタン樹脂系プライマーに使用できるポリイソシアネートとして、ポリイソシアネート基を有するプレポリマー、例えば、後述するようなウレタン樹脂系主剤に使用できるイソシアネート基含有プレポリマーを使用してもよい。
【0033】
上記ウレタン樹脂系プライマーにおいて、ポリイソシアネートの含有量は、ポリオールの水酸基とポリアミンのアミノ基の合計を1当量とした場合にイソシアネート基が0.5~1.5当量であることが好ましい。
【0034】
本発明の防水塗装方法において、ウレタン樹脂系プライマーは、コンクリート構造物に対する被膜の付着性を向上させる観点から、シランカップリング剤を含む。シランカップリング剤としては、公知のものを使用することができるが、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。なお、シランカップリング剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、シランカップリング剤は、主剤成分として使用されることが好ましい。上記ウレタン樹脂系プライマー中において、シランカップリング剤の含有量は、0.1~1質量%であることが好ましい。また、上記ウレタン樹脂系プライマーにおいて、不揮発分中におけるシランカップリング剤の含有量は、0.2~2質量%であることが好ましい。
【0035】
上記ウレタン樹脂系プライマーは、粘度を調整する等の目的で、有機溶剤を含んでもよい。有機溶剤としては、特に限定されるものではなく、炭化水素類(脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素など)、ケトン類、エステル類、エーテル類、アルコール類等の各種有機溶媒が使用できる。なお、有機溶剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。上記ウレタン樹脂プライマー中において、有機溶剤の含有量は、2~70質量%であることが好ましい。
【0036】
上記ウレタン樹脂系プライマーには、その他の成分として、他の樹脂、顔料、増粘剤、防錆剤、分散剤、消泡剤、レベリング剤、沈降防止剤、ダレ止め剤、硬化促進剤、防藻剤、防カビ剤、防腐剤、紫外線吸収剤、光安定剤等を必要に応じて適宜配合してもよい。
【0037】
上記ウレタン樹脂系プライマーは、必要に応じて適宜選択される各種成分を混合することによって調製できる。上記ウレタン樹脂系プライマーは、1液型でも2液型でもよいが、2液型であることが好ましい。例えば、2液混合型のプライマーの場合、ポリイソシアネート及びシランカップリング剤を含む主剤と、ポリオール及びポリアミンを含む硬化剤とを予め用意しておき、塗装時に主剤と硬化剤とを混合する方法や、ポリイソシアネート基を有するプレポリマー及びシランカップリング剤を含む主剤と、ポリアミンを含む硬化剤とを予め用意しておき、塗装時に主剤と硬化剤とを混合する方法により、ウレタン樹脂系プライマーを調製することができる。また、主剤と硬化剤とを混合した後に有機溶剤を更に加えてもよい。
【0038】
上記ウレタン樹脂系プライマーは、せん断速度0.1s-1の粘度が0.1~10,000Pa・sであり、且つせん断速度1,000s-1の粘度が0.05~10Pa・sであることが好ましい。なお、本発明において、粘度はレオメーター(TAインスツルメンツ社製レオメーターARES等)を用い、液温を23℃に調整した後測定される。
【0039】
上記ウレタン樹脂系プライマーの塗装手段は、特に限定されず、既知の塗装手段、例えば、スプレー塗装、ローラー塗装、刷毛塗装、コテ塗装、ヘラ塗装等が利用できる。
本発明の防水塗装方法は、比較的少ない量でも十分にその効果を発揮することができるため、上記ウレタン樹脂系プライマーの塗布量は0.05~0.8kg/m2であることが好ましい。
また、上記ウレタン樹脂系プライマーは、低温硬化性に優れるため、上記ウレタン樹脂系プライマーの塗装は、0~35℃の条件下であっても好適に行うことが可能である。
【0040】
本発明の防水塗装方法においては、次に、上記第1の工程により形成されたプライマー層をウレタン樹脂系主材で塗装して主材層を形成させる(第2の工程)。
【0041】
本明細書において「主材」とは、本発明の防水塗装方法によりコンクリート構造物の表面上に形成される被膜の主要な構成要素を形成するための塗布材であり、防水性(遮蔽性)及び剥落防止性能をコンクリート構造物に付与することを目的としている。
【0042】
本明細書において「ウレタン樹脂系主材」とは、ウレタン樹脂が既に含まれている主材や、ポリオールとポリイソシアネートを含む主材のように、塗装時に硬化してウレタン被膜を形成する主材を意味する。本発明の防水塗装方法において、ウレタン樹脂系主材は、イソシアネート基含有プレポリマーと潜在性硬化剤とを含むものであり、塗装時に硬化してウレタン被膜を形成する主材である。
【0043】
本発明の防水塗装方法において、ウレタン樹脂系主材は、分子量が100以下のポリオールを構成成分として含むイソシアネート基含有プレポリマーと、潜在性硬化剤とを含むことから、防水性(遮蔽性)及び剥落防止性能の向上効果に加えて、ウレタン樹脂系主材により得られるウレタン被膜の結晶性が高くなり、これによって省工程及び短期間での施工を達成することができる。このため、従来の防水塗装方法においては、ウレタン樹脂系主材による塗装工程が2回行われていたが、本発明の防水塗装方法においては、ウレタン樹脂系主材による塗装工程は1回で良好な防水性(遮蔽性)及び剥落防止性能を発揮することができる。
【0044】
本発明で使用されるウレタン樹脂系主材に含まれるイソシアネート基含有プレポリマーは、ポリオール(a)と、ポリイソシアネート化合物(b)とを溶剤存在下で、反応させて得られる。ポリオール(a)としては、分子量が100以下のポリオール(a1)を必須成分とし、必要に応じて高分子量ポリオール(a2)を含む。ここで、a1/a2の質量比は0.01~0.1であることが好ましい。上記イソシアネート基含有プレポリマーのイソシアネート基含有量は、0.1~15.0質量%が好ましく、0.3~10.0質量%が更に好ましく、0.4~8.0質量%が特に好ましい。
【0045】
上記ウレタン樹脂系主材に使用できる分子量が100以下のポリオール(a1)は、複数の水酸基を有する化合物であるが、上記ポリオールは、1分子あたりの水酸基の数が好ましくは2~3である。このようなポリオールとしては、例えば、エチレングリコール(分子量62)、グリセリン(分子量92)、1,4ブタンジオール(分子量90)が挙げられる。
【0046】
上記高分子量ポリオール(a2)は、複数の水酸基を有する化合物であるが、数平均分子量が1000~5000、より好ましくは2000~4000である。また、上記ポリオールは、1分子あたりの水酸基の数が好ましくは2~5、より好ましくは2~3である。なお、ポリオール1分子あたりの水酸基の数(n)は、ポリオールの持つ水酸基価(OHV)と数平均分子量(Mn)から次の計算式により求められる。
n=Mn(g/mol)×OHV(mgKOH/g)/56110
ここで、水酸基価とは、試料1g中の遊離水酸基を無水酢酸で完全にアセチル化した後、それを中和するのに要する水酸化カリウムのmg数である。また、数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定されるポリスチレン換算した数平均分子量である。
【0047】
上記高分子量ポリオール(a2)としては、例えば、アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリウレタンポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール等が挙げられる。
アクリルポリオールは、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルと重合性不飽和基を有する化合物を共重合して得られる。水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルとしては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。重合性不飽和基を有する化合物としては、スチレン、ビニルトルエン、(メタ)アクリル酸、フマル酸、マレイン酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。これら重合性不飽和基を有する化合物は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
ポリエステルポリオールは、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、プロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールと、フタル酸、マレイン酸、トリメリット酸、アジピン酸、グルタル酸、コハク酸、セバシン酸、ピメリン酸、スベリン酸等の多塩基カルボン酸とを脱水縮合反応して得られる。また、大豆油、亜麻仁油、米ぬか油、綿実油、桐油、ひまし油、やし油などの天然油を上記多価アルコールで分解して得られる水酸基含有脂肪酸エステルを多価アルコールの全部又は一部として含むこともできる。
ポリウレタンポリオールは、上記多価アルコールと、上述のポリイソシアネートとをアルコール過剰の条件で反応して得られる。また、上記水酸基含有脂肪酸エステルを多価アルコールの全部又は一部として含むこともできる。
ポリエーテルポリオールは、例えば、上記多価アルコールや水酸基含有脂肪酸エステルに、エチレンオキシドやプロピレンオキシド等のアルキレンオキシドを付加させて得られる。
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、上記多価アルコールや水酸基含有脂肪酸エステルと、ジエチルカーボネート等の炭酸エステルとの縮合反応により得られる。
なお、これら高分子量ポリオールは、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
上記ポリイソシアネート化合物(b)は、イソシアネート基(NCO基)を複数有する化合物であるが、例えば、脂肪族、芳香族又は芳香脂肪族のポリイソシアネートが含まれ、具体例としては、トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、リジンジイソシアネート等のジイソシアネートや、これらのポリイソシアネートの変性体が挙げられる。変性体の具体例としては、ビウレット変性体、イソシアヌレート変性体、アダクト変性体(例えばトリメチロールプロパン付加物)、アロファネート変性体、ウレトジオン変性体、カルボジイミド変性体等が挙げられる。これらの中でも、ヘキサメチレンジイソシアネートの各種変性体やイソホロンジイソシアネートの各種変性体が、硬化性や耐候性の観点から好ましい。これらポリイソシアネート化合物(b)は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
上記ウレタン樹脂系主材におけるイソシアネート基含有プレポリマーの含有量は、後述するように、潜在性硬化剤の官能基の量に応じて適宜調整されるが、10~50質量%であることが好ましい。
【0050】
上記ウレタン樹脂系主材中における不揮発分の含有量は、90質量%以上であることが好ましい。
【0051】
本明細書において「潜在性硬化剤」とは、大気中の水分(湿分)により加水分解して活性水素基を再生する基を含有する化合物である。
【0052】
本発明における湿分により加水分解して活性水素基を再生する基を含有する化合物は、具体的には、湿分により加水分解して第1級および/または第2級アミンを生成するケチミン化合物、エナミン化合物、アルジミン化合物、湿分により加水分解して水酸基とアミノ基を生成するオキサゾリジン環を有する化合物、湿分により加水分解してポリオールを生成することが可能なケイ酸エステル化合物が挙げられる。これらのうち、ウレタン樹脂系主材の貯蔵安定性に優れ、非発泡性、硬化性に優れることから、オキサゾリジン環を有する化合物が好ましい。
【0053】
オキサゾリジン環を有する化合物は、酸素原子と窒素原子を含む飽和5員環の複素環であるオキサゾリジン環を分子内に1個以上、好ましくは2~6個有する化合物であり、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーの潜在性硬化剤として機能するものである。前記イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーのイソシアネート基が大気中の湿分と反応すると、尿素結合が生成して硬化するが、この際炭酸ガスも発生し、硬化物の中に炭酸ガスによる気泡が生じ外観の悪化、硬化物の破断、接着性の低下などの不具合を生じるが、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーにオキサゾリジン環を有する化合物とを混合したものを湿分に暴露した場合は、湿分とイソシアネート基が反応する前にオキサゾリジン環を有する化合物のオキサゾリジン環が湿分により加水分解を受け、2級アミノ基とアルコール性水酸基を再生し、これらの活性水素がイソシアネート基と反応して炭酸ガスを発生することなく硬化するため、炭酸ガスによる発泡を防止できる。
【0054】
特に、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーのイソシアネート基が脂肪族系有機ポリイソシアネート由来のものであるとき、このイソシアネート基は、水やアルコール性水酸基との反応は遅いが、オキサゾリジン環を有する化合物から再生する2級アミノ基とは速やかに反応して硬化するため、後述するように、有機金属系触媒を全く使用しないか、あるいは使用してもその使用量を極めて少量に抑えることができる。
【0055】
オキサゾリジン環を有する化合物としては、具体的には、例えば、水酸基およびオキサゾリジン環を有する化合物の水酸基と、有機イソシアネート化合物のイソシアネート基や有機カルボン酸化合物のカルボキシル基とを反応させて得られる、ウレタン結合含有オキサゾリジン化合物やエステル基含有オキサゾリジン化合物、あるいはまた、オキサゾリジンシリルエーテル、カーボネート基含有オキサゾリジンなどが挙げられ、製造し易く粘度の低い点でウレタン結合及びオキサゾリジン環を有する化合物が好ましい。
【0056】
ウレタン結合含有オキサゾリジン化合物としては、具体的には、水酸基およびオキサゾリジン環を有する化合物の水酸基と、有機イソシアネート化合物のイソシアネート基とを、イソシアネート基/水酸基のモル比が0.9~1.2の範囲、好ましくは0.95~1.05の範囲となるように使用し、有機溶剤の存在下または不存在下に50~100℃の温度で反応して得られるものが挙げられる。
【0057】
ウレタン結合含有オキサゾリジン化合物の合成に用いられる有機イソシアネート化合物としては、前述のイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーの合成に用いられる有機イソシアネート化合物と同様のものが挙げられ、ウレタン基含有オキサゾリジン化合物の結晶性が低く、溶解性に優れる点で、脂肪族系有機ポリイソシアネートが好ましく、さらにイソホロンジイソシアネート及びヘキサメチレンジイソシアネートからなる群より選ばれる少なくとも一種が好ましく、特にヘキサメチレンジイソシアネートか好ましい。
【0058】
前記水酸基およびオキサゾリジン環を有する化合物としては、具体的には、アルカノールアミンの2級アミノ基と、ケトン化合物またはアルデヒド化合物のカルボニル基との脱水縮合反応により得られるN-ヒドロキシアルキルオキサゾリジンが挙げられる。
【0059】
この水酸基およびオキサゾリジン環を有する化合物の合成方法としては、アルカノールアミンの2級アミノ基1.0モルに対し、アルデヒドまたはケトンのカルボニル基が1.0当量以上、好ましくは1.0~1.5当量以上、更に好ましくは1.0~1.2当量以上使用し、トルエン、キシレン等の溶媒中で、加熱、還流し、副生する水を除去しながら脱水縮合反応を行う方法が挙げられる。
【0060】
アルカノールアミンとしてはジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、N-(2-ヒドロキシエチル)-N-(2-ヒドロキシプロピル)アミンなどが挙げられる。ケトン化合物としては、アセトン、ジエチルケトン、イソプロピルケトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル-t-ブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどが挙げられる。アルデヒド化合物としては、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、バレルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、2-メチルブチルアルデヒド、n-へキシルアルデヒド、2-メチルペンチルアルデヒド、n-オクチルアルデヒド、3,5,5-トリメチルへキシルアルデヒド等の脂肪族アルデヒド化合物;ベンズアルデヒド、メチルベンズアルデヒド、トリメチルベンズアルデヒド、エチルベンズアルデヒド、イソプロピルベンズアルデヒド、イソブチルベンズアルデヒド、メトキシベンズアルデヒド、ジメトキシベンズアルデヒド、トリメトキシベンズアルデヒド等の芳香族アルデヒド化合物などが挙げられる。
【0061】
これらのうち、水酸基およびオキサゾリジン環を有する化合物の製造の容易さと、得られるウレタン樹脂系主材が硬化するときの発泡防止性に優れている点で、アルカノールアミンとしてはジエタノールアミンが好ましく、ケトン化合物またはアルデヒド化合物のうちアルデヒド化合物が好ましく、さらにイソブチルアルデヒド、2-メチルペンチルアルデヒド、ベンズアルデヒドが好ましい。これらの具体的な例として、2-イソプロピル-3-(2-ヒドロキシエチル)オキサゾリジン、2-(1-メチルブチル)-3-(2-ヒドロキシエチル)オキサゾリジン、2-フェニル-3-(2-ヒドロキシエチル)オキサゾリジンなどが挙げられる。
【0062】
オキサゾリジンシリルエーテルは、例えば、前述した水酸基およびオキサゾリジン環を有する化合物と、トリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、トリエトキシシラン、ジメトキシジメチルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のアルコキシシランとの脱アルコール反応により得られる。
【0063】
エステル基含有オキサゾリジンは、例えば、前述した水酸基及びオキサゾリジン環を有する化合物とジカルボン酸もしくはポリカルボン酸の低級アルキルエステルとのエステル交換反応によって得ることができる。
【0064】
なお、オキサゾリジン環を有する化合物は、分子内に、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーのイソシアネート基と0~35℃の常温で反応する官能基を実質的に有していない。この実質的に有していないとは、例えば前述のウレタン基及びオキサゾリジン環を有する化合物の合成において、当量比の選択により少量の活性水素が分子内に残存する場合があるが、本発明の目的を達成する上で、有していないとしても差し支えないことを意味する。
【0065】
前記オキサゾリジン環を有する化合物の使用量は、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー中のイソシアネート基1当量に対して、オキサゾリジン環を有する化合物が加水分解して再生する2級アミノ基の活性水素およびアルコール性水酸基の合計量が0.3当量以上、さらに0.5~1.5当量となるように使用するのが好ましい。0.3当量未満では発泡防止が不十分となり好ましくない。
【0066】
また、ウレタン樹脂系主材の硬化速度を向上させるために、オキサゾリジン環の加水分解触媒を添加してもよい。オキサゾリジン環の加水分解触媒は、オキサゾリジン環を有する化合物が湿気と反応し加水分解をして活性水素を再生するのを促進させ、または再生した活性水素とイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーのイソシアネート基との反応を促進させるものであり、有機金属系触媒、有機カルボン酸系触媒、これらの酸無水物、p-トルエンスルホニルイソシアネート、p-トルエンスルホニルイソシアネートと水分との反応物、有機燐酸エステル化合物などを好適に挙げることができる。
【0067】
これらは単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
オキサゾリジン環の加水分解触媒の使用量は、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー100質量部(樹脂分)に対して、0.001~10質量部が好ましく、さらに0.1~5質量部が好ましい。0.001質量部未満ではオキサゾリジン環を有する化合物の加水分解を促進させる効果がなく、10質量部を超えると硬化性組成物の貯蔵安定性に悪影響を及ぼす。
【0068】
上記ウレタン樹脂系主材において、潜在性硬化剤の含有量は、ウレタン樹脂系プレポリマーのイソシアネート基を1当量とした場合に潜在性硬化剤が再生する活性水素基(2級アミノ基およびアルコール性水酸基など)の合計量が0.3当量以上、さらに0.5~1.5当量になるように使用するのが好ましい。なお、潜在性硬化剤は、市販品を使用できる。
【0069】
上記ウレタン樹脂系主材は、着色顔料を含むことが好ましい。上記ウレタン樹脂系主材に使用できる着色顔料としては、特に限定されるものではなく、塗料業界において通常使用されている顔料を使用できる。具体例としては、二酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック等の無機顔料や、フタロシアニン銅、アゾ系顔料、縮合多環式顔料等の有機顔料が挙げられる。なお、着色顔料は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。上記ウレタン樹脂系主材において、不揮発分中における着色顔料の含有量は、0.5~15質量%であることが好ましく、1~10質量%であることが更に好ましい。
【0070】
上記ウレタン樹脂系主材は、防錆顔料、体質顔料、光輝顔料等の他の顔料を含むこともできる。上記ウレタン樹脂系主材に使用できる顔料としては、特に限定されるものではなく、塗料業界において通常使用されている顔料を使用できる。具体例としては、シリカ、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の体質顔料、亜鉛、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ハイドロカルマイト等の防錆顔料、アルミニウム、ニッケル、クロム、錫、銅、銀、白金、金、ステンレス、ガラスフレーク等の光輝顔料等が挙げられる。これら顔料は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
上記ウレタン樹脂系主材における顔料の総量は、1~50質量%であることが好ましい。また、上記ウレタン樹脂系主材において、不揮発分中に含まれる顔料の総量は、1~40質量%であることが好ましく、1~20質量%であることが更に好ましい。
【0072】
上記ウレタン樹脂系主材は、耐候安定剤を含むことが好ましい。ウレタン樹脂系主材により形成される主材層が耐候性に優れる場合、従来の防水塗装方法において耐候性の観点から行われていたウレタン樹脂系上塗り材の塗装工程を省略することが可能となる。上記ウレタン樹脂系主材に使用できる耐候安定剤としては、主材層の酸化や光劣化、熱劣化を防止して耐候性だけでなく耐熱性をさらに向上させる効果を示すものが好ましく、塗料業界において通常使用されている耐候安定剤を使用できる。具体的には、酸化防止剤、紫外線吸収剤等が挙げられる。これら耐候安定剤は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。上記ウレタン樹脂系主材において、不揮発分中に含まれる耐候安定剤の含有量は、0.01~10質量%であることが好ましく、0.1~5質量%であることが更に好ましい。
【0073】
前記酸化防止剤としては、具体的には、ヒンダードアミン系やヒンダードフェノール系酸化防止剤を挙げることができ、ヒンダードアミン系酸化防止剤としては、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、メチル1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルセバケート、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン等が挙げられる。また、三共社製の商品名サノールLS-292などの他、旭電化工業社の商品名アデカスタブシリーズのLA-52、LA-57、LA-62、LA-67、LA-77、LA-82、LA-87などの分子量1,000未満のヒンダードアミン系酸化防止剤、同じくLA-63P、LA-68LDあるいはチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製の商品名CHIMASSORBシリーズの119FL、2020FDL、944FD、944LDなどの分子量1,000以上の高分子量のヒンダードアミン系酸化防止剤なども挙げられる。
【0074】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、例えば、ペンタエリスリトール-テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオアミド]、ベンゼンプロパン酸3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシC7-C9側鎖アルキルエステル、2,4-ジメチル-6-(1-メチルペンタデシル)フェノールなどが挙げられる。
【0075】
前記紫外線吸収剤としては、例えば、2-(3,5-ジ-tert-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]-フェノール等のトリアジン系紫外線吸収剤、オクタベンゾン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤、2,4-ジ-tert-ブチルフェニル-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート等のベンゾエート系紫外線吸収剤などが挙げられる。
【0076】
上記ウレタン樹脂系主材には、その他の成分として、他の樹脂、増粘剤、防錆剤、分散剤、消泡剤、レベリング剤、沈降防止剤、ダレ止め剤、硬化促進剤、防藻剤、防カビ剤、防腐剤等を必要に応じて適宜配合してもよい。
【0077】
上記ウレタン樹脂系主材は、必要に応じて適宜選択される各種成分を混合することによって調製できる。上記ウレタン樹脂系主材は、1液型でも2液型でもよいが、1液型であることが好ましい。
【0078】
上記ウレタン樹脂系主材は、せん断速度0.1s-1の粘度が0.1~10,000Pa・sであり、且つせん断速度1,000s-1の粘度が0.05~10Pa・sであることが好ましい。なお、本発明において、粘度はレオメーター(TAインスツルメンツ社製レオメーターARES等)を用い、液温を23℃に調整した後測定される。
【0079】
上記ウレタン樹脂系主材の塗装手段は、特に限定されず、既知の塗装手段、例えば、スプレー塗装、ローラー塗装、刷毛塗装、コテ塗装、ヘラ塗装等が利用できる。
本発明の防水塗装方法は、比較的少ない量でも十分にその効果を発揮することができるため、上記ウレタン樹脂系主材の塗布量は0.3~2.5kg/m2であることが好ましい。
また、上記ウレタン樹脂系主材の塗装は、潜在性硬化剤を活性化させるため、0~35℃の条件下で行うことが好ましい。
また、本発明の防水塗装方法においては、ウレタン樹脂系プライマーが硬化性に特に優れることから、ウレタン樹脂系プライマーとウレタン樹脂系主材の塗装間隔が0.5時間以上であれば、ウレタン樹脂系主材の塗装を行うことができるため好ましい。また、ウレタン樹脂系プライマーとウレタン樹脂系主材の塗装間隔が4時間以下であれば、1日で防水塗装を行うことができるため、短期間での施工が可能になる。ここで、ウレタン樹脂系プライマーとウレタン樹脂系主材の塗装間隔とは、ウレタン樹脂系プライマーの塗装手段による塗装作業を終了してからウレタン樹脂系主材の塗装を開始するまでの時間である。
【0080】
本発明の防水塗装方法において、コンクリート構造物上に形成される被膜は、プライマー層及び主材層を含む。本発明の防水塗装方法によれば、上記被膜は、良好な防水性及び剥落防止性を有するものであり、好ましくは首都高速道路における鋼橋塗装設計施工要領(平成29年8月)に規定された防水塗装の品質規格を満足することができる。
ここで、主材層が最外層であることが好ましく、主材層はコンクリート色であることが好ましく、マンセル表色系において5Y8/0.5に該当することが更に好ましい。
本発明の防水塗装方法において、上記被膜の厚さは700~2000μmであることが好ましく、プライマー層の厚さは100~500μmであることが好ましく、主材層の厚さは600~1500μmであることが好ましい。
【実施例】
【0081】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0082】
(製造例1:イソシアネート基含有プレポリマーI-1の合成)
攪拌機、温度計、窒素シール管及び加熱・冷却装置付き反応容器に、窒素ガスを流しながら、エクセノール230(ポリエーテルポリオール、AGC社製)366gを仕込み、撹拌しながら、デスモジュールI(イソホロンジイソシアネート、コベストロ社製)を629g仕込み、さらに反応触媒としてジブチル錫ラウレート0.2gを加え、70~80℃で2時間撹拌させながら反応させた。その後、分析を実施しイソシアネート含有量が理論値(15質量%)以下になった時点で反応を終了し、冷却してイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーI-1を合成した。23℃における粘度は 5000mPa・sの常温で透明液体であった。
【0083】
(製造例2:イソシアネート基含有プレポリマーI-2の合成)
攪拌機、温度計、窒素シール管及び加熱・冷却装置付き反応容器に、窒素ガスを流しながら、エクセノール2020(ポリエーテルポリオール、AGC社製)610gと1,4ブタンジオール(三菱化学社製)40gを仕込み、撹拌しながら、デスモジュールIを350g仕込み、さらに反応触媒としてジブチル錫ラウレート0.2gを加え、70~80℃で2時間撹拌させながら反応させた。その後、分析を実施しイソシアネート含有量が理論値(6.9質量%)以下になった時点で反応を終了し、冷却してイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーI-2を合成した。23℃における粘度は 7000mPa・sの常温で透明液体であった。
【0084】
(製造例3:イソシアネート基含有プレポリマーI-3の合成)
攪拌機、温度計、窒素シール管及び加熱・冷却装置付き反応容器に、窒素ガスを流しながら、エクセノール2020を735g仕込み、撹拌しながら、デスモジュールIを265g仕込み、さらに反応触媒としてジブチル錫ラウレート0.2gを加え、70~80℃で2時間撹拌させながら反応させた。その後、分析を実施しイソシアネート含有量が理論値(6.9質量%)以下になった時点で反応を終了し、冷却してイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーI-3を合成した。23℃における粘度は 3000mPa・sの常温で透明液体であった。
【0085】
(製造例4:潜在性硬化剤の合成)
攪拌機、温度計、窒素シール管および加熱・冷却装置付き反応容器に、ジエタノールアミンを435g入れた後、トルエンを183.3g加えた。この中に撹拌しながら更にイソブチルアルデヒド328.3g加えた後、加温して110~150℃で3時間脱水反応を続けて、エステル管により水74.5gを除いた。次いで減圧して、過剰のイソブチルアルデヒド及びトルエンを除去して、水酸基含有オキサゾリジン化合物を得た。この水酸基含有オキサゾリジン化合物658.9g中に、ヘキサメチレンジイソシアネート341.0gを加え、80℃で8時間加熱し、滴定による実測イソシアネート基含有量が0.0質量%以下となった時点で反応の終点とした。得られた反応生成物は常温で半透明の液体であった。
【0086】
(調製例1:ウレタン樹脂系プライマー主剤の調製)
窒素シール管付き混練容器に窒素ガスを流しながら、製造例1で得たイソシアネート基含有プレポリマーI-1を185gとスワクリーン150(炭化水素系溶剤、丸善石油化学社製)10gとKBM-403(アミノシランカップリング剤、信越化学社製)5gを均一に混合し、ウレタン樹脂系プライマーP-1主剤を得た。
【0087】
(調製例2:ウレタン樹脂系プライマー主剤の調製)
窒素シール管付き混練容器に窒素ガスを流しながら、製造例1で得たイソシアネート基含有プレポリマーI-1を185gと炭化水素系溶剤(スワクリーン150、丸善石油化学社製)15gを均一に混合し、ウレタン樹脂系プライマーP-2主剤を得た。
【0088】
(調製例3:ウレタン樹脂系主材の調製)
窒素シール管付き混練容器に窒素ガスを流しながら、製造例2で得たイソシアネート基含有プレポリマーI-2を386.5g、製造例4で得られた潜在性硬化剤を81g、顔料15g、スワクリーン150を15g、耐候安定剤としてチヌビンB75(紫外線吸収剤、ヒンダートアミン、ヒンダードフェノール混合物 BASF社製)2.5gを均一に混合し、一液型ウレタン樹脂系主材U-1を得た。
【0089】
(調製例4:ウレタン樹脂系主材の調製)
窒素シール管付き混練容器に窒素ガスを流しながら、製造例3で得たイソシアネート基含有プレポリマーI-3を386.5g、製造例4で得られた潜在性硬化剤を81g、顔料15g、スワクリーン150を15g、耐候安定剤としてチヌビンB75 2.5gを均一に混合し、一液型ウレタン樹脂系主材U-2を得た。
【0090】
実施例1
性能試験として水密試験(防水性評価)、ひび割れ追従性試験、耐荷性試験(押抜き試験)を行った。
水密試験は、JASS 8 T-501-2014 メンブレン防水層の性能評価試験方法に準拠して行った。
JIS A 5430(繊維強化セメント板)に規定された厚さ6mm以上のフレキシブル板と軽量鉄骨を組み合わせて
図1に示すような出入隅部(高さを250mmとする)、貫通パイプおよびドレンを設置した箱を作り、その内側および立ち上がり面にプライマー主剤としてP-1主剤、プライマー硬化剤としてエタキュア420(ポリアミン系硬化剤、アルベマール社製)を用いて、0.3kg/m
2の量をローラー塗布し、23℃で0.5時間養生した。続いてウレタン樹脂系主材U-1を0.75kg/m
2の量をコテ塗布後23℃で5日間養生し、防水層試験体とした。防水層には、その接続部(被膜防水材など不定形材料による塗重ね・塗継ぎ部分)を設けた。試験体製作・養生後、水深が80cmとなるように水を入れ、漏水の有無を観察した。その期間は1週間とした。試験期間中に漏水のなかったものを合格とし、漏水のあったものは不合格とした。試験結果を表1に示す。
ひび割れ追従性試験は、JSCE-K 532-2010 表面被覆材のひび割れ追従性試験方法に準拠して行った。
試験用基板は、JSCE-K 532-2010規定の方法により作製された(株)ユーコウ商会社製「モルタル 試験片 10×40×120 U溝」を用い、U溝部を折り曲げ、基板を2つに切断した。2つに割った基板をステンレス板上で突き合わせ、側面全周を粘着テープで巻いて固定した。
JIS R 6252に規定する150番研磨紙を用いて表面被覆材塗布面を研磨後、切断面に材料が流れ込まないように注意し両端を30mm残してプライマー主剤としてP-1主剤、プライマー硬化剤としてエタキュア420を用いて、0.3kg/m
2の量をローラー塗布し、23℃で0.5時間養生した。続いてウレタン樹脂系主材U-1を0.75kg/m
2の量をコテ塗布後23℃で28日養生したものを試験体とした。 試験体は各3体とし、鋼橋塗装設計施工要に規定されている被膜の伸びが2.0mm以上という基準を満たす場合を○、被膜の伸びが2.0mm未満を×と評価した。試験結果を表1に示す。
耐荷性試験は、鋼橋塗装設計施工要領参考資料1-9「橋梁構造物設計要領コンクリート剥落防止編における性能照査試験方法」に準拠して行った。
下地として、JIS A 5372に規定されている上ぶた式U形側溝(ふた)の1種呼び名300(400×600×60mm)(以下「U形ふた」という)を用い、施工面の裏面には中央部をφ100mmの形状で底部を5mm残した状態で垂直に削孔処理を施した。プライマー主剤としてP-1主剤、プライマー硬化剤としてエタキュア420を用いて、0.3kg/m
2の量をローラー塗布し、23℃で0.5時間養生した。続いてウレタン樹脂系主材U-1を0.75kg/m
2の量をコテ塗布後23℃で5日間養生し、剥落防止被膜を作製した。
作製した剥落防止被膜層の形成された面の反対側を上面として、スパン400mmにてH鋼上にガタがないように載置した。次いで、コアの中央部に鉛直、均等に荷重がかかるように載荷した。速度はまず1mm/minで載荷しU形ふたの破壊が確認されたのち、5mm/minで載荷した。上記過程では荷重および変位を記録し、変位10~50mmにおける最大荷重(最大耐荷力)を測定した。
鋼橋塗装設計施工要領に規定されている、耐荷性1.5kN以上、伸び性能(耐荷性を保持している変位)10mm以上というA種基準を満たす場合を〇、ロードセルの変位10mm未満、最大耐荷力1.5kN未満を×と評価した。試験結果を表1に示す。
【0091】
実施例2
実施例1と同様の試験方法により水密試験、ひび割れ追従性試験、耐荷性試験を行った。
被膜層の作製条件はプライマー主剤としてP-1主剤、プライマー硬化剤としてエタキュア420を用いて、0.3kg/m2の量をローラー塗布し、5℃で0.5時間養生した。続いてウレタン樹脂系主材U-1を0.75kg/m2の量をコテ塗布後5℃で実施例1と同じ期間養生し、剥落防止被膜を作製した。各試験結果を表1に示す。
【0092】
比較例1
実施例1と同様の試験方法により水密試験、ひび割れ追従性試験、耐荷性試験を行った。
被膜層の作製条件はプライマー主剤としてP-2主剤、プライマー硬化剤としてエタキュア420を用いて、0.3kg/m2の量をローラー塗布し、23℃で0.5時間養生した。続いてウレタン樹脂系主材U-1を0.75kg/m2の量をコテ塗布後23℃で実施例1と同じ期間養生し、剥落防止被膜を作製した。各試験結果を表1に示す。
【0093】
比較例2
実施例1と同様の試験方法により水密試験、ひび割れ追従性試験、耐荷性試験を行った。
被膜層の作製条件はプライマー主剤としてP-1主剤、プライマー硬化剤としてBP-23P(アルコール系硬化剤 三洋化成社製)を用いて、0.3kg/m2の量をローラー塗布し、23℃で0.5時間養生した。続いてウレタン樹脂系主材U-1を0.75kg/m2の量をコテ塗布後23℃で実施例1と同じ期間養生し、剥落防止被膜を作製した。各試験結果を表1に示す。
【0094】
比較例3
実施例1と同様の試験方法により水密試験、ひび割れ追従性試験、耐荷性試験を行った。
被膜層の作製条件はプライマー主剤としてP-1主剤、プライマー硬化剤としてエタキュア420を用いて、0.3kg/m2の量をローラー塗布し、23℃で0.5時間養生した。続いてウレタン樹脂系主材U-2を0.75kg/m2の量をコテ塗布後23℃で実施例1と同じ期間養生し、剥落防止被膜を作製した。各試験結果を表1に示す。
【0095】
比較例4
実施例1と同様の試験方法により水密試験、ひび割れ追従性試験、耐荷性試験を行った。
被膜層の作製条件はプライマーとしてプライマーEP-F(エポキシ樹脂系、ダイフレックス社製)0.3kg/m2の量をローラー塗布し、23℃で0.5時間養生した。続いてウレタン樹脂系主材U-1を0.75kg/m2の量をコテ塗布後23℃で実施例1と同じ期間養生し、剥落防止被膜を作製した。各試験結果を表1に示す。
【0096】
【0097】
実施例1に示すように、ウレタン樹脂系プライマーがシランカップリング剤を含み、またウレタン樹脂系プライマーより形成されるウレタン被膜がウレア結合を有し、ウレタン樹脂系主材が、分子量が100以下のポリオールを構成成分として含むイソシアネート基含有プレポリマーと、潜在性硬化剤とを含む場合は、塗布間隔が0.5時間と短い場合でも剥落防止性能を有することが出来る。また、実施例2に示すように養生温度が5℃と低い場合でも、前述の条件を満たしていれば、剥落防止性能を有する事が出来る。一方、比較例1のようにウレタン樹脂系プライマーがシランカップリング剤を含まない場合は、十分な剥落防止性能を有する事が出来ない。比較例2のようにウレタン樹脂系プライマーより形成されるウレタン被膜がウレア結合を有さない場合も、十分な剥落防止性能を有する事が出来ない。また、比較例3のようにウレタン樹脂系主材中のイソシアネート基含有プレポリマーの構成成分に分子量100以下のポリオールが含まれない場合も、十分な剥落防止性能を有する事が出来ない結果となった。