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特許7339098アーク溶解炉装置及び被溶解物のアーク溶解方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】アーク溶解炉装置及び被溶解物のアーク溶解方法
(51)【国際特許分類】
   F27B 3/08 20060101AFI20230829BHJP
   F27B 3/28 20060101ALI20230829BHJP
   F27D 11/08 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
F27B3/08
F27B3/28
F27D11/08 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019174105
(22)【出願日】2019-09-25
(65)【公開番号】P2021050865
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-06-29
(73)【特許権者】
【識別番号】391037386
【氏名又は名称】大亜真空株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(72)【発明者】
【氏名】亀山 元弘
(72)【発明者】
【氏名】原田 浩平
【審査官】櫻井 雄介
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-072517(JP,A)
【文献】特開平05-332679(JP,A)
【文献】特開2006-349293(JP,A)
【文献】特開2008-164249(JP,A)
【文献】特開2011-017521(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 3/00-3/28
F27D 11/00-11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解室の内部に設置された凹部を有する鋳型と、前記凹部に収容された被溶解物を加熱溶解するアーク電極とを備えたアーク溶解炉装置であって、
前記アーク電極からのアーク放電により前記被溶解物中を流れる電流の方向に対して、交差する方向に磁場を印加するために、鋳型の下方に配置された永久磁石と、
前記永久磁石による鋳型凹部における磁束密度を変化させるため、前記永久磁石を鋳型に対して進退させる永久磁石進退機構と、
を備えることを特徴とするアーク溶解炉装置。
【請求項2】
前記永久磁石進退機構によって永久磁石が鋳型の下側に最も接近した際、前記凹部最低底面の磁束密度の絶対値が5mT以上200mT以下の範囲内にあることを特徴とする請求項1記載のアーク溶解炉装置。
【請求項3】
前記永久磁石進退機構によって永久磁石が鋳型の下方から最も離れた際、前記凹部最低底面の磁束密度の絶対値が5mT未満であることを特徴とする請求項1または請求項2記載のアーク溶解炉装置。
【請求項4】
前記永久磁石進退機構により、前記永久磁石が、鋳型の下側に最も接近した状態と、永久磁石が鋳型の下方から最も離れた状態とに制御され、
または、前記永久磁石が、最も接近した状態と最も離れた状態とに繰り返しなされることを特徴とする請求項1記載のアーク溶解炉装置。
【請求項5】
融けた被溶解物が凝固する際は、前記永久磁石進退機構は、永久磁石が鋳型の下方から最も離れた状態となされることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のアーク溶解炉装置。
【請求項6】
溶解室の内部に設置された凹部を有する鋳型と、前記凹部に収容された被溶解物を加熱溶解するアーク電極とを備えたアーク溶解炉装置を用いた被溶解物の溶解方法であって、
前記アーク溶解炉装置は、前記アーク電極からのアーク放電により前記被溶解物中を流れる電流の方向に対して、交差する方向に磁場を印加するために、鋳型の下方に配置された永久磁石と、
前記永久磁石による、鋳型凹部における磁束密度を変化させるため、前記永久磁石を鋳型に対して進退させる永久磁石進退機構と、
を備え、
前記永久磁石が、永久磁石進退機構によって鋳型の下側に最も接近した位置と、鋳型の下方から最も離れた位置とに制御され、
または、前記永久磁石が、最も接近した状態と最も離れた状態とに繰り返しなされ、
永久磁石が鋳型の下方から最も離れた状態で、溶融した被溶解物の凝固がなされることを特徴とする被溶解物の溶解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク溶解炉装置及び被溶解物のアーク溶解方法に関し、例えば、被溶解物が合金等において好ましく適用することができる、アーク溶解炉装置及び被溶解物のアーク溶解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、純金属の金属塊や、複数の金属元素から成る合金塊、金属元素と非金属元素とから成る合金塊等の被溶解物を高純度で得るために、アーク溶解法が用いられている。
しかしながら、このアーク溶解法では溶融した被溶解物が攪拌され難いため、特に、被溶解物が均一に混ざりにくい複数の元素から成る合金では、均一な品質の金属塊が得られないという問題があった。
【0003】
この問題を解決する装置として、特許文献1において、アーク放電により金属材料を溶解させるアーク溶解炉を利用した金属材料の溶解装置が提案されている。具体的には、この溶解装置は、アーク放電により金属材料中を流れる電流の方向に対して、交差する方向に磁場を印加するための磁石を備えている。
【0004】
この特許文献1に示された金属材料の溶解装置が、溶融した被溶解物を攪拌する理由について、図6図7に基づいて説明する。
図6および図7に示すように、溶解装置のハース50が水冷銅炉床から成り、そのハース50に磁石がサマリウムコバルト(SmCo)などから成るリング状の永久磁石(Magnet ring)51が設けられている。
図6(a)および図7に示すように、ハース50に金属材料Mを入れて、ハースの上方に配置されたアーク電極からアークを発生させると、アークの熱により、上部から下部に向かって金属材料Mが溶解していく。このとき、溶融金属(Molten alloy)の電気抵抗は高温ほど高くなるため、アーク電流(Arc DC current)は、まず電気抵抗の小さい未溶解領域(Insufficient melted region)の見られる溶融金属の底部に向かい、さらにそこで溶融金属Mの底部の縁とハース50との間で生成されている凝着部に向かう。すなわち、溶融金属Mの底部では、中心から周縁に向かってほぼ水平方向に流れていくと考えられる。
【0005】
また、このとき、ハース50の下方に配置されたリング状の磁石51により、溶融金属Mの内部で上向きの磁場(Magnetic Field)がかかるため、アーク電流を帯びた溶融金属Mに対して電磁誘導によって電磁力(Electromagnetic Force)が発生する。
この力は、溶融金属Mの底部で、溶融金属Mの中心から周縁に向かってほぼ水平方向に流れるアーク電流、および上向きの磁場のそれぞれに対して垂直な方向を有し、水平面内で溶融金属を回転させるように作用する。
尚、この力は、アーク電流が強ければ強いほど、また磁石が強ければ強いほど、強くなる。
【0006】
この横回転により、未溶解部分を巻き込んで溶融金属Mの底部が攪拌されるとともに、熱対流による垂直方向の縦回転が加わることにより、図6(b)に示すように、溶融金属全体を均一に溶解して攪拌することができる(Homogenization)。
【0007】
このように、金属材料の溶解装置にあっては、磁石を備え、アーク放電により金属材料中を流れる電流の方向に対して、交差する方向に磁場を印加するため、電流の方向および磁場の方向に対して垂直な方向に力が発生する。
そして、その力の方向に沿って、アーク放電で溶解した金属材料に流れが発生するため、金属材料を攪拌することができる。このように、この溶解装置は、アーク放電とともに磁場を印加するだけの比較的簡単な構造で、金属材料を攪拌することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2013-245354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記したように、特許文献1において提案されていた前記金属材料の溶解装置にあっては、ハースに磁石が配置され、アーク放電により金属材料中を流れる電流の方向に対して、交差する方向に磁場が印加されるため、いわゆるローレンツ力が生じ、この力が溶融金属に作用し、攪拌する。
しかしながら、このローレンツ力は、アーク電流が強ければ強いほど、また磁石が強ければ強いほど、強くなる。
そのため、アーク電極に対して、溶解に必要な電流を印加した際、前記磁石の磁束密度と相俟って、過度なローレンツ力が溶融金属に作用する虞があった。そのため、溶融した被溶解物の湯面から溶融物が飛沫となり飛散し、所定の量、また目的とする混合比の合金(被溶解物)が得られないという技術的課題があった。
【0010】
また、ローレンツ力が溶融した被溶解物に作用した状態で、溶融した被溶解物が凝固すると、凝固した被溶解物は楕円体形状ではなく、上面の荒れた球冠や円環(トーラス)形状等の歪んだ形状になり、後の工程の被溶解物反転時の転回の反転不良や、真空吸着搬送時の真空保持不良に影響を与えるという技術的課題があった。
【0011】
一方、前記磁石の磁場強度を弱くし磁束密度を小さくすることにより、前記ローレンツ力を小さくでき、溶融した被溶解物の湯面から被溶解物が飛沫となり飛散するのを抑制することができる。
しかしながら、溶融した被溶解物に作用するローレンツ力が小さくした場合、溶融した被溶解物を十分に攪拌することができず、均一な被溶解物を得ることができないという技術的課題があった。
【0012】
本発明者らは、磁場強度を可変することにより、被溶解物に作用するローレンツ力を制御し、上記技術的課題を解決できることを知見し、本発明を完成した。
即ち、磁石による磁場強度を大きくすることにより、溶融した被溶解物に作用するローレンツ力を大きくし、溶融した被溶解物を十分に攪拌する。
一方、磁石による磁場強度を小さくすることにより、溶融した被溶解物に作用するローレンツ力を小さくし、溶融した被溶解物の湯面から溶解物が飛沫となり飛散するのを抑制する。また、溶融した被溶解物に作用するローレンツ力を小さくし、溶融した被溶解物を凝固するにより、被溶解物を楕円体形状とすることができる。
【0013】
本発明は、上記したように、磁石による磁場強度を可変することにより、溶融物に作用するローレンツ力を制御した、アーク溶解炉装置及び被溶解物の溶解方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するためになされた本発明にかかるアーク溶解炉装置は、溶解室の内部に設置された凹部を有する鋳型と、前記凹部に収容された被溶解物を加熱溶解するアーク電極とを備えたアーク溶解炉装置であって、前記アーク電極からのアーク放電により前記被溶解物中を流れる電流の方向に対して、交差する方向に磁場を印加するために、鋳型の下方に配置された永久磁石と、前記永久磁石による、鋳型凹部における磁束密度を変化させるため、前記永久磁石を鋳型に対して進退させる永久磁石進退機構と、を備えることを特徴とする。
【0015】
このように、本発明にかかるアーク溶解炉装置にあっては、永久磁石を鋳型に対して進退させる永久磁石進退機構が設けられているため、前記永久磁石による鋳型凹部における磁束密度を変化させることができ、被溶解物に作用するローレンツ力を制御することができる。
その結果、大きなローレンツ力を作用させることにより、被溶解物をより攪拌することができ、一方、小さなローレンツ力を作用させることにより、被溶解物の湯面からの飛散を抑制することができる。また、ローレンツ力の作用をより小さくして、溶融した被溶解物を凝固するにより、被溶解物を楕円体形状とすることができる。
【0016】
ここで、前記永久磁石進退機構によって永久磁石が鋳型の下側に最も接近した際、前記凹部最低底面の磁束密度の絶対値が5mT以上200mT以下の範囲内にあることが望ましい。
凹部最低底面の磁束密度の絶対値が5mT未満の場合には、磁場強度が小さく、溶融した被溶解物の十分な攪拌を行うことができず、好ましくない。
また、前記凹部最低底面の磁束密度の絶対値が200mTを超える場合には、溶融した被溶解物の飛散を抑制できないため、好ましくない。
【0017】
また、前記永久磁石進退機構によって永久磁石が鋳型の下方から最も離れた際、前記凹部最低底面の磁束密度の絶対値が5mT未満であることが望ましい。
前記凹部最低底面の磁束密度の絶対値が5mT未満にすることにより、溶融した被溶解物が凝固する際、被溶解物を楕円体形状とすることができる。
【0018】
また、前記永久磁石進退機構により、前記永久磁石が、鋳型の下側に最も接近した状態と、永久磁石が鋳型の下方から最も離れた状態とに制御されることが望ましく、また前記永久磁石が、最も接近した状態と最も離れた状態とに繰り返しなされることが望ましい。
このように、永久磁石が鋳型の下側に最も接近した状態と、永久磁石が鋳型の下方から最も離れた状態とになされることにより、被溶解物をより攪拌することができ、また被溶解物の湯面から溶解物が飛沫となり飛散するのを抑制できる。また、永久磁石が鋳型の下側に最も接近した状態と、永久磁石が鋳型の下方から最も離れた状態に、繰り返しなされることにより、被溶解物をより攪拌することができる。
【0019】
溶融した被溶解物が凝固する際は、前記永久磁石進退機構は、永久磁石が鋳型の下方から最も離れた状態となされることが好ましい。被溶解物に作用するローレンツ力を小さくして、溶融した被溶解物を凝固することにより、被溶解物を楕円体形状とすることができる。
【0020】
上記目的を達成するためになされた本発明にかかる被溶解物の溶解方法は、溶解室の内部に設置された凹部を有する鋳型と、前記凹部に収容された被溶解物を加熱溶解するアーク電極とを備えたアーク溶解炉装置を用いた被溶解物の溶解方法であって、前記アーク溶解炉装置は、前記アーク電極からのアーク放電により前記被溶解物中を流れる電流の方向に対して、交差する方向に磁場を印加するために、鋳型の下方に配置された永久磁石と、前記永久磁石による、鋳型凹部における磁束密度を変化させるため、前記永久磁石を鋳型に対して進退させる永久磁石進退機構と、を備え、前記永久磁石が、永久磁石進退機構によって鋳型の下側に最も接近した位置と、鋳型の下方から最も離れた位置とに制御され、永久磁石が鋳型の下方から最も離れた状態で、溶融した被溶解物の凝固がなされることを特徴としている。
【0021】
このように、本発明にかかる被溶解物の溶解方法にあっては、永久磁石が、永久磁石進退機構によって鋳型の下側に最も接近した位置と、鋳型の下方から最も離れた位置とに制御され、また、必要に応じて、鋳型の下側に最も接近した位置と鋳型の下方から最も離れた位置とが繰り返されるため、前記永久磁石による鋳型凹部における磁束密度(磁場強度)を変化させ、被溶解物に作用するローレンツ力を制御することができる。
その結果、ローレンツ力を大きくすることにより、被溶解物をより攪拌することができ、一方、被溶解物に作用するローレンツ力を小さくすることにより、溶融した被溶解物の湯面から、溶融した被溶解物が飛散するのを抑制することができる。そして、最後は、永久磁石が鋳型の下方から最も離れた状態とされ、被溶解物に作用するローレンツ力を小さくして、被溶解物の凝固がなされるため、被溶解物の形状を整えることができ、被溶解物を楕円体形状とすることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、上記したように、磁石による磁場強度を可変することにより、溶融物に作用するローレンツ力を制御した、アーク溶解炉装置及び被溶解物の溶解方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明のアーク溶解炉装置にかかる実施形態の概略構成を示す、断面図である。
図2図1に示した永久磁石進退機構の一例を示す概略構成図である。
図3】本発明の実施形態において、永久磁石進退機構によって永久磁石が鋳型の下側に最も接近した状態を示す、概略構成図である。
図4】本発明の実施形態において、永久磁石進退機構によって永久磁石が鋳型の下方から最も離れた状態を示す、概略構成図である。
図5】永久磁石表面からの距離によって、磁束密度の変化の度合いを示した図である。
図6】特許文献1に記載された金属材料の溶解装置および金属材料の溶解方法の動作原理の(a)溶融金属にかかるアーク電流、磁場、力の向きを示す断面図、(b)攪拌後の溶融金属を示す断面図である。
図7】特許文献1に記載された金属材料の溶解装置および金属材料の溶解方法の動作原理の溶融金属にかかるアーク電流および力を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態のアーク溶解炉装置について図面に基づいて説明する。
先ず、本発明の実施形態のアーク溶解炉装置1の全体構成を、図1を用いて説明する。
図1に示すように、アーク溶解炉装置1は、溶解室2の下面に銅鋳型3が密着し、溶解室2は密閉容器となされている。
また、銅鋳型3の下方には、冷却水が循環する水流路4aを有する冷却体4が設けられ、冷却体4上に銅鋳型3が配置されることで、銅鋳型3は水冷鋳型となされている。
【0025】
また、図中の符号5は棒状の水冷電極(アーク電極)であって、水冷電極(アーク電極)5は、陰極としてのタングステン製の先端部を備え、溶解室2の上方から室内に挿設されている。
この水冷電極(アーク電極)5のタングステン製の先端部は、銅鋳型3の上面(凹部3a)と相対向する位置に配置されている。また、この水冷電極(アーク電極)5の先端は、ハンドル部(図示しない)の操作によって溶解室2を上下、前後、左右に移動できるようになされている。
また、前記水冷電極5は、電源部10の陰極に電気的に接続され、前記水冷電極5に電力を供給するようになされている。また前記電源部10の陽極側は溶解室2、銅鋳型3と共に、接地(アース)されている。
【0026】
また前記溶解室2には、真空ポンプ(図示せず)が取り付けられ、この真空ポンプにより溶解室2を真空に排気することができる。
尚、不活性ガス供給部(図示せず)が設けられ、溶解室2を真空に排気した後に、この不活性ガス供給部から溶解室2の内部に不活性ガスが供給、封入され、溶解室2内は不活性ガス雰囲気となされている。
【0027】
また、水冷電極(アーク電極)5からのアーク放電により、被溶解物M中を流れる電流の方向に対して、交差する方向に磁場を印加するために、鋳型3の下方に永久磁石20が配置されている。
【0028】
前記永久磁石20は、例えば、ネオジム磁石から成り、磁束密度430mT、外径30mmの円板状の磁石であって、上面側にS極、下面側がN極になるように構成されている。尚、上面側がN極、下面側がS極であっても効果は同じである。
また、この永久磁石20は、円板形状に限定されるものではなく、リング状の磁石であっても良い。一例を挙げれば、外径が30mm、内径が6mm、厚みが10mmのリング状の磁石であっても良い。
【0029】
この永久磁石20は、永久磁石進退機構21によって昇降自在に構成され、前記永久磁石20を鋳型3に対して進退させることにより、鋳型凹部3aにおける磁束密度(磁場強度)が変化するように構成されている。
【0030】
この永久磁石進退機構21の一例を、図2に基づいて説明する。
この永久磁石進退機構21は、永久磁石20が先端に取り付けられたピストンロッド21aと、ピストンロッド21aの後端に取り付けられたピストン21bと、前記ピストン21bが摺動するシリンダ21cとを備えている。
【0031】
また、前記シリンダ21c内には、室21d、室21eが設けられている。この室21d、室21eは、シリンダ21c内をピストン21bで区切ることによって形成される。
この室21d、室21eには、エアー導入排出口21f、21gが設けられている。このエアー導入排出口21f、21gは,コンプレッサ21hと接続されている。また、コンプレッサ21hは、図示しない切換え弁等を制御する進退機構制御部22に接続されている。
【0032】
そして、エアー導入排出口21fから室21d内にエアー導入され、ピストン21bが摺動すると、室21e内のエアーは、エアー導入排出口21gから排出されるように構成されている。
同様に、そして、エアー導入排出口21gから室21e内にエアー導入され、ピストン21bが摺動すると、室21d内のエアーは、エアー導入排出口21fから排出されるように構成されている。即ち、図示しない切換え弁を動作させることにより、コンプレッサ21hからのエアーが、エアー導入排出口21fとエアー導入排出口21gのいずれかの導入排出口に導入されるように構成されている。
【0033】
このように、エアー導入排出口21fとエアー導入排出口21gのいずれかの導入排出口にエアーが導入されることにより、永久磁石20が先端に取り付けられたピストンロッド21aが進退する(上下動する)。
そして、永久磁石20を鋳型3に対して進退させることにより、鋳型凹部3aにおける磁束密度(磁場強度)が変化する。
【0034】
磁石表面からの距離によって、磁場強度(磁場密度)が変化する割合の一例を図5に示す。図5に示すように、表面から2mmにおける磁束密度186mTの永久磁石において、表面から10mm離れると104mTとなり、40mm離れると14mTとなる。
したがって、永久磁石20を鋳型3に対して進退させることにより、鋳型凹部3aにおける磁束密度(磁場強度)が変化する。被溶解物に作用するローレンツ力は、鋳型凹部3aにおける磁束密度(磁場強度)が強ければ強いほど、強くなる。
【0035】
その結果、ローレンツ力が大きくなることにより、被溶解物をより攪拌することができ、一方、被溶解物に作用するローレンツ力を小さくすることにより、被溶解物の湯面からの飛散を抑制することができる。
更に、被溶解物に作用するローレンツ力を小さくして、溶融した被溶解物を凝固させることにより、被溶解物を楕円体形状とすることができる。
【0036】
具体的には、前記永久磁石進退機構21によって永久磁石20が鋳型3の下側に最も接近した際、前記凹部3aの最低底面の磁束密度(磁場強度)の絶対値が5mT以上200mT以下の範囲内なるように、磁石の磁束密度が選定される。
前記凹部3aの最低底面の磁束密度の絶対値が5mT未満の場合には、磁場強度が小さく、被溶解物Mの十分な攪拌ができず、好ましくない。
また、前記凹部3aの最低底面の磁束密度の絶対値が200mTを超える場合には、溶融した被溶解物Mの飛散を抑制できないため、好ましくない。
【0037】
好ましくは、永久磁石20が鋳型3の下側に最も接近した際、前記凹部3aの最低底面の磁束密度(磁場強度)の絶対値が5mT以上200mT以下の範囲内であって、更に凹部3aの上端部における磁束密度(磁場強度)の絶対値が1mT以上50mT以下の範囲内である。凹部3aの上端部においても、十分な磁束密度を確保し、凹部3a内の被溶解物Mの十分な攪拌を行うためである。
【0038】
また、前記永久磁石進退機構21によって永久磁石20が鋳型3の下方から最も離れた際、前記凹部3aの最低底面の磁束密度の絶対値が5mT未満であることが望ましい。
前記凹部3aの最低底面の磁束密度の絶対値が5mT未満にして、溶融した被溶解物を凝固するにより、被溶解物を楕円体形状とすることができる。
【0039】
また、前記永久磁石進退機構21により、前記永久磁石20が鋳型3の下側に最も接近した状態と、永久磁石20が鋳型3の下方から最も離れた状態とに制御される。
即ち、永久磁石20が図3に示す状態と、図4に示す状態とに制御され、または、永久磁石20が図3に示す状態と図4に示す状態に繰り返しなされる。
このように、永久磁石20が鋳型3の下方に最も接近した状態と、磁場源20が鋳型3の下方から最も離れた状態とが制御され、または、必要に応じて繰り返しなされることにより、被溶解物Mをより攪拌することができる。
【0040】
溶融した被溶解物Mが凝固する際は、永久磁石進退機構21は、永久磁石20が鋳型3の下方から最も離れた状態となされることが好ましい。
被溶解物Mに作用するローレンツ力を小さくして、溶融した被溶解物Mが凝固することにより、被溶解物の表面張力によって、被溶解物を楕円体形状とすることができる。
【0041】
また、このアーク溶解炉装置1にあっては、図1に示すように、被溶解物の溶湯の形状変化を計測し、計測した溶湯の形状に応じた検出信号を、前記制御装置11に出力する溶湯計測手段12が設けられている。
具体的には、CCDカメラ等によって、溶湯の形状を画像解析し、その画像変化(形状変化)に応じた検出信号を、制御装置に送出する。そして前記制御装置11によって電源部10からの出力電流(電流の強度)と該電流周波数を制御し、前記水冷電極5からのアーク放電の出力強度に強弱を加えるように構成されている。
このように、アーク放電の出力強度に強弱を加えることによっても、被溶解物Mに作用するローレンツ力に強弱を加えることができる。
【0042】
また、前記制御装置11は、永久磁石進退機構21を制御する進退機構制御部22に対して、所定の昇降動作を行うように制御信号を送出する。前記制御信号を受けた進退機構制御部22は、図示しない切換え弁を制御し、コンプレッサ21hからのエアーを、エアー導入排出口21fとエアー導入排出口21gのいずれかに導入し、ピストンロッド21aを移動させ、永久磁石20を上下動する。
尚、永久磁石進退機構21には、ピストンロッド21aの位置を検出するセンサ(図示せず)が設けられ、センサからの信号が進退機構制御部22に送出され、コンプレッサ21hからのエアーが導入されるエアー導入排出口が選択される。またセンサからの信号によって、ピストンロッド21aの移動が停止されるように構成されている。
【0043】
このように、前記制御装置11によって、永久磁石進退機構21の進退機構制御部22を制御する。
尚、前記永久磁石進退機構21の進退動作に加えて、前記したように、前記制御装置11によって、アーク放電の出力強度に強弱を加えて、被溶解物Mに作用するローレンツ力を制御しても良い。
【0044】
また、溶解室2の外から操作する反転棒6が設けられ、溶融した被溶解物を冷却した後、溶解室2の外から反転棒6により銅鋳型3(凹部3a)上で材料(被溶解物)Mを反転することができるようになされている。
尚、図1中、符号7は、溶解室2の下面部分を操作するレバーであって、このレバー7を操作することにより、溶解室2から下面部の銅鋳型3を取外すことができ、前記銅鋳型3上(凹部3a内)に被溶解物を収容し、また凹部3a内から被溶解物を取出すことができる。
【0045】
次に、アーク溶解炉において被溶解物を溶解する方法について、図1乃至図4に基づいて、説明する。
まず、秤量した被溶解物を銅鋳型3上に載置(凹部3aに収容)する。そして、溶解室2内を不活性ガス、通常はアルゴンガス雰囲気とした後に、水冷電極5のタングステン電極(陰極)と銅鋳型3上の被溶解物M(陽極)との間でアーク放電を発生させ、被溶解物Mを溶解する。
合金の作製においては、複数の金属材料を秤量し銅鋳型3上に載置(凹部3aに収容)する。そして、上記場合と同様に、溶解室2内を不活性ガス、通常はアルゴンガス雰囲気とした後に、水冷電極5のタングステン電極(陰極)と銅鋳型3上の合金材料M(陽極)との間でアーク放電を発生させ、その熱エネルギーにより複数の異なる合金材料Mが溶解し、合金化される。
【0046】
このとき、上部にS極を配し下部にN極を配した永久磁石20によって、銅鋳型3に入れた被溶解物Mに対して、上下方向の磁場が印加される。そのため、図6および図7に示す基本原理に従って、攪拌がなされる。
ところで、実際は水冷銅鋳型に接する被溶解物の底面の液化は遅く、上部から溶解が始まり、融けた部分から図3(a)に示すように回転が始まる。そして、溶解が進むに従い溶湯の回転も激しくなり図3(b)に示すように遠心力により溶湯は凹部の斜面に沿って盛り上がり、盛り上がった溶湯は中心部に向かって落下する。このような動きにより効果的な攪拌が行われる。
【0047】
そして、被溶解物の溶解する際、永久磁石20は、図3(b)に示すように、永久磁石進退機構21によって鋳型3の下側に最も接近した位置と、図4(b)に示すように鋳型3の下方から最も離れた位置をとることができる。
【0048】
図3(b)に示すように、永久磁石進退機構21によって、永久磁石20が鋳型3の下側に最も接近した位置にある場合、前記凹部3aの最低底面の磁束密度は最も大きくなる。
即ち、永久磁石20が鋳型3の下側に最も接近した位置にある場合には、被溶解物Mに作用するローレンツ力は最も強くなり、図3(a)に示すように、溶融した被溶解物Mが回転する。このとき、前記回転によって図3(b)に示すように、溶融した被溶解物は凹部3aの径方向外側に拡がる。
このような被溶解物Mの回転動作、拡り動作によって、被溶解物Mは攪拌される。
【0049】
また、図4(b)に示す、永久磁石進退機構に21よって、永久磁石20が鋳型3の下方に最も離れた位置にある場合、前記凹部3aの最低底面の磁束密度が最も小さくなる。
即ち、永久磁石20が鋳型3の下方に最も離れた位置にある場合には、被溶解物Mに作用するローレンツ力が小さくなり、溶融した被溶解物Mの回転は遅くなり、又は、回転することはなく、図4(a)(b)に示すように、溶融した被溶解物の自重と表面張力により、被溶解物は、楕円体形状となる。
【0050】
したがって、前記永久磁石進退機構21により、前記永久磁石20が鋳型3の下側に最も接近した状態と、永久磁石20が鋳型3の下方から最も離れた状態とに制御されることにより、さらに、必要に応じて両状態に繰り返しなされることにより、溶融した被溶解物Mの攪拌がより増進される。
尚、既に述べたように、永久磁石進退機構21によって永久磁石20が鋳型3の下側に最も接近した際、凹部3aの最低底面の磁束密度の絶対値が5mT以上200mT以下の範囲内にあることが望ましい。また永久磁石進退機構21によって、永久磁石20が鋳型3の下方から最も離れた際、凹部3aの最低底面の磁束密度の絶対値が5mT未満であることが望ましい。
【0051】
そして、前記永久磁石20が鋳型3の下側に最も接近した状態と、永久磁石20が鋳型3の下方から最も離れた状態とが繰り返しなされ、最後は、永久磁石20が鋳型3の下方から最も離れた状態とし、被溶解物Mが凝固される。
被溶解物Mに作用するローレンツ力を小さくして、凝固することにより、被溶解物Mの形状を整えることができ、溶融した被溶解物Mを楕円体形状とすることができる。
【符号の説明】
【0052】
1 アーク溶解炉装置
2 溶解室
3 銅鋳型
3a 凹部
4 冷却体
4a 水流路
5 水冷電極(アーク電極)
6 反転棒
7 下面部操作レバー
10 電源部
11 制御装置
12 溶湯計測手段
20 永久磁石
21 永久磁石進退機構
21a ピストンロッド
21b ピストン
21c シリンダ
21d 室
21e 室
21f エアー導入排出口
21g エアー導入排出口
21h コンプレッサ
22 進退機構制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7