(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20230829BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20230829BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20230829BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20230829BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D101:00
B62D119:00
(21)【出願番号】P 2019175767
(22)【出願日】2019-09-26
【審査請求日】2022-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】都甲 高広
(72)【発明者】
【氏名】片岡 伸文
(72)【発明者】
【氏名】山口 恭史
(72)【発明者】
【氏名】江崎 之進
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-104476(JP,A)
【文献】特開2016-155519(JP,A)
【文献】国際公開第2012/073426(WO,A1)
【文献】特開2018-030532(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
B62D 101/00-137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、前記ハウジング内に往復動可能に収容される転舵軸と、モータを駆動源として前記転舵軸を往復動させるモータトルクを付与するアクチュエータとを備える操舵装置を制御対象とし、
前記転舵軸に連結される転舵輪の転舵角に換算可能な回転軸の回転角であって、360°を超える範囲を含む絶対角で示される絶対舵角を検出する絶対舵角検出部と、
前記転舵軸の移動が規制されているか否かを判定し、前記転舵軸の移動が規制されていると判定された際の前記絶対舵角に応じた規制位置判定角を取得する規制位置判定角取得部と、
前記規制位置判定角に基づいて、前記転舵軸がエンド位置にあることを示す角度であって、前記絶対舵角と対応付けられたエンド位置対応角を設定するエンド位置対応角設定部と
、
前記モータトルクが小さくなるように補正することにより、前記転舵軸が前記エンド位置に近づく場合に、前記転舵軸の移動が規制された際のエンド当ての衝撃を緩和するエンド当て緩和制御を実行するべく、前記モータトルクが小さくなるように補正するための角度制限成分を演算する舵角制限値演算部と、を備え、
前記エンド位置対応角設定部は、
左側及び右側の前記規制位置判定角をそれぞれ取得すると、前記左側の規制位置判定角の絶対値と前記右側の規制位置判定角の絶対値との和である第1ストローク幅と、前記転舵軸の全ストローク範囲に対応するストローク閾値との大小比較を行い、
前記第1ストローク幅が前記ストローク閾値よりも大きい場合には、前記左側及び右側の規制位置判定角に基づいて、左側及び右側の前記エンド位置対応角をそれぞれ設定
し、
前記舵角制限値演算部は、前記エンド位置対応角設定部による前記左側及び右側のエンド位置対応角の設定後、当該左側及び右側のエンド位置対応角に基づいて前記角度制限成分を演算する操舵制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の操舵制御装置において、
前記エンド位置対応角設定部は、左側及び右側のいずれか一方側のみの前記規制位置判定角を複数取得した場合には、前記一方側の複数の規制位置判定角に基づいて、該一方側の前記エンド位置対応角のみを設定する操舵制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の操舵制御装置において、
前記一方側の複数の規制位置判定角と、車両が直進する前記絶対舵角を示す車両中心角との各距離を中心離間角とするとき、
前記エンド位置対応角設定部は、前記各中心離間角が予め設定されたエンド位置判定閾値よりも大きい場合に、前記一方側の複数の規制位置判定角に基づいて、該一方側の前記エンド位置対応角のみを設定する操舵制御装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の操舵制御装置において、
前記エンド位置対応角設定部は、
前記一方側の前記エンド位置対応角のみを設定した後、前記左側及び右側の他方側の前記規制位置判定角を取得すると、
前記一方側の複数の前記規制位置判定角に基づく値の絶対値と前記他方側の前記規制位置判定角の絶対値との和である第2ストローク幅と、前記ストローク閾値との大小比較を行い、
前記第2ストローク幅が前記ストローク閾値よりも大きい場合には、前記他方側の前記規制位置判定角に基づいて該他方側の前記エンド位置対応角を設定する操舵制御装置。
【請求項5】
請求項2~4のいずれか一項に記載の操舵制御装置において、
前記エンド位置対応角設定部は、
前記一方側の前記エンド位置対応角のみを設定した後、前記左側及び右側の他方側の前記規制位置判定角を取得すると、
前記一方側の複数の前記規制位置判定角に基づく値の絶対値と前記他方側の前記規制位置判定角の絶対値との和である第2ストローク幅と、前記ストローク閾値との大小比較を行い、
前記第2ストローク幅が前記ストローク閾値以下の場合には、前記一方側の前記エンド位置対応角を破棄する操舵制御装置。
【請求項6】
請求項1に記載の操舵制御装置において、
前記エンド位置対応角設定部は、前記ストローク閾値を第1ストローク閾値とする場合、前記第1ストローク閾値よりも若干大きい範囲に対応する第2ストローク閾値を含み、
前記左側及び右側の規制位置判定角に基づいて、前記左側及び右側のエンド位置対応角を設定するための条件は、前記第1ストローク幅が、前記第1ストローク閾値よりも大きい、かつ、前記第2ストローク閾値よりも小さいことである操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用操舵装置として、モータを駆動源とするアクチュエータを備えた電動パワーステアリング装置(EPS)が知られている。こうしたEPSには、ステアリングホイールの操舵角を360°を超える範囲を含む絶対角で取得し、該操舵角に基づいて各種制御を行うものがある。こうした制御の一例として、例えば特許文献1には、ラック軸の端部であるラックエンドがラックハウジングに当たる、所謂エンド当ての衝撃を緩和するためのエンド当て緩和制御を実行するものが開示されている。
【0003】
特許文献1のEPSでは、エンド当てによりラック軸の移動が物理的に規制されるラックエンド位置が操舵角と対応付けられており、同角度がエンド位置対応角として設定されている。そして、同EPSでは、操舵角のエンド位置対応角からの距離に応じてモータが出力するモータトルクの目標値を小さくすることで、エンド当ての衝撃を緩和する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車両の仕様等に応じて、例えばイグニッションオフ時やバッテリ交換時等に、エンド位置対応角が消失することがある。このようにエンド位置対応角が消失すると、例えばエンド当て緩和制御を実行できなくなる。そこで、エンド位置対応角を消失してしまった場合には、エンド位置対応角を再度設定し直すことが必要となるが、この際にエンド位置対応角を実際にエンド当てが生じる実エンド角と精度よく対応させるとともに、早期に設定することが求められる。
【0006】
本発明の目的は、実エンド角と精度よく対応するエンド位置対応角を早期に設定できる操舵制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する操舵制御装置は、ハウジングと、前記ハウジング内に往復動可能に収容される転舵軸と、モータを駆動源として前記転舵軸を往復動させるモータトルクを付与するアクチュエータとを備える操舵装置を制御対象とし、前記転舵軸に連結される転舵輪の転舵角に換算可能な回転軸の回転角であって、360°を超える範囲を含む絶対角で示される絶対舵角を検出する絶対舵角検出部と、前記転舵軸の移動が規制されているか否かを判定し、前記転舵軸の移動が規制されていると判定された際の前記絶対舵角に応じた規制位置判定角を取得する規制位置判定角取得部と、前記規制位置判定角に基づいて、前記転舵軸がエンド位置にあることを示す角度であって、前記絶対舵角と対応付けられたエンド位置対応角を設定するエンド位置対応角設定部とを備え、前記エンド位置対応角設定部は、左側及び右側の前記規制位置判定角をそれぞれ取得すると、前記左側の規制位置判定角の絶対値と前記右側の規制位置判定角の絶対値との和である第1ストローク幅と、前記転舵軸の全ストローク範囲に対応するストローク閾値との大小比較を行い、前記第1ストローク幅が前記ストローク閾値よりも大きい場合には、前記左側及び右側の規制位置判定角に基づいて、左側及び右側の前記エンド位置対応角をそれぞれ設定する。
【0008】
例えば転舵輪が縁石等に当たることで転舵軸の移動が規制されると、この際に取得される規制位置判定角の絶対値は、エンド当て時に取得される規制位置判定角の絶対値に比べて小さくなる。そのため、左側及び右側の少なくとも一方の規制位置判定角が、例えば縁石当て時に取得したものである場合には、第1ストローク幅がストローク閾値以下になる。したがって、第1ストローク幅がストローク閾値よりも大きい場合には、左側及び右側の規制位置判定角のそれぞれがエンド当て時に取得されたものであると考えられる。
【0009】
この点を踏まえ、上記構成では、第1ストローク幅とストローク閾値との大小比較を行い、第1ストローク幅がストローク閾値よりも大きい場合に、第1ストローク幅を演算する基礎となった左側及び右側の規制位置判定角に基づいて左側及び右側のエンド位置対応角をそれぞれ設定する。そのため、設定される左右両側のエンド位置対応角が実エンド角と精度よく対応するものとなる。また、左側及び右側の規制位置判定角をそれぞれ1つ取得すれば、第1ストローク幅を演算できるため、左側及び右側の規制位置判定角を複数取得するまで待つことなく、左右両側のエンド位置対応角を速やかに設定できる。
【0010】
上記操舵制御装置において、前記エンド位置対応角設定部は、左側及び右側のいずれか一方側のみの前記規制位置判定角を複数取得した場合には、前記一方側の複数の規制位置判定角に基づいて、該一方側の前記エンド位置対応角のみを設定することが好ましい。
【0011】
上記構成によれば、例えば車両の走行状況等によって一方側の規制位置判定角しか取得できない場合でも、一方側のエンド位置対応角を設定できる。
上記操舵制御装置において、前記一方側の複数の規制位置判定角と、車両が直進する前記絶対舵角を示す車両中心角との各距離を中心離間角とするとき、前記エンド位置対応角設定部は、前記各中心離間角が予め設定されたエンド位置判定閾値よりも大きい場合に、前記一方側の複数の規制位置判定角に基づいて、該一方側の前記エンド位置対応角のみを設定することが好ましい。
【0012】
各中心離間角がエンド位置判定閾値よりも大きい場合には、一方側の複数の規制位置判定角が、実エンド角近傍の角度であると考えられる。そのため、上記構成のように、各中心離間角がエンド位置判定閾値よりも大きい場合に、一方側の複数の規制位置判定角に基づいて、一方側のエンド位置対応角のみを設定することで、該エンド位置対応角が実エンド位置から乖離することを抑制できる。
【0013】
上記操舵制御装置において、前記エンド位置対応角設定部は、前記一方側の前記エンド位置対応角のみを設定した後、前記左側及び右側の他方側の前記規制位置判定角を取得すると、前記一方側の複数の前記規制位置判定角に基づく値の絶対値と前記他方側の前記規制位置判定角の絶対値との和である第2ストローク幅と、前記ストローク閾値との大小比較を行い、前記第2ストローク幅が前記ストローク閾値よりも大きい場合には、前記他方側の前記規制位置判定角に基づいて該他方側の前記エンド位置対応角を設定することが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、第2ストローク幅とストローク閾値との大小比較を行うことで、他方側の規制位置判定角を複数取得するまで待つことなく、実エンド角と精度よく対応する他方側のエンド位置対応角を速やかに設定できる。
【0015】
上記操舵制御装置において、前記エンド位置対応角設定部は、前記一方側の前記エンド位置対応角のみを設定した後、前記左側及び右側の他方側の前記規制位置判定角を取得すると、前記一方側の複数の前記規制位置判定角に基づく値の絶対値と前記他方側の前記規制位置判定角の絶対値との和である第2ストローク幅と、前記ストローク閾値との大小比較を行い、前記第2ストローク幅が前記ストローク閾値以下の場合には、前記一方側の前記エンド位置対応角を破棄することが好ましい。
【0016】
第2ストローク幅がストローク閾値以下の場合、既に設定している一方側のエンド位置対応角が、実エンド角から大きく乖離しているおそれがある。したがって、上記構成のように、第2ストローク幅がストローク閾値以下の場合に一方側のエンド位置対応角を破棄することで、該エンド位置対応角を再度設定することが可能になり、実エンド角と精度よく対応するエンド位置対応角を設定できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、実エンド角と精度よく対応するエンド位置対応角を早期に設定できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図5】規制位置判定角取得部による規制位置判定角の取得に係る処理手順を示すフローチャート。
【
図6】エンド位置対応角設定部によるエンド位置対応角の設定に係る処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、操舵制御装置の一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、操舵制御装置1の制御対象となる操舵装置としての電動パワーステアリング装置(EPS)2は、運転者によるステアリングホイール3の操作に基づいて転舵輪4を転舵させる操舵機構5を備えている。また、EPS2は、操舵機構5にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与するアクチュエータとしてのEPSアクチュエータ6を備えている。
【0020】
操舵機構5は、ステアリングホイール3が固定されるステアリングシャフト11と、ステアリングシャフト11に連結された転舵軸としてのラック軸12と、ラック軸12が往復動可能に挿通されるハウジングとしてのラックハウジング13と、ステアリングシャフト11の回転をラック軸12に変換するラックアンドピニオン機構14とを備えている。なお、ステアリングシャフト11は、ステアリングホイール3が位置する側から順にコラム軸15、中間軸16、及びピニオン軸17を連結することにより構成されている。
【0021】
ラック軸12とピニオン軸17とは、ラックハウジング13内に所定の交差角をもって配置されている。ラックアンドピニオン機構14は、ラック軸12に形成されたラック歯12aとピニオン軸17に形成されたピニオン歯17aとが噛合されることで構成されている。また、ラック軸12の両端には、その軸端部に設けられたボールジョイントからなるラックエンド18を介してタイロッド19がそれぞれ回動自在に連結されている。タイロッド19の先端は、転舵輪4が組付けられた図示しないナックルに連結されている。したがって、EPS2では、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト11の回転がラックアンドピニオン機構14によりラック軸12の軸方向移動に変換され、この軸方向移動がタイロッド19を介してナックルに伝達されることにより、転舵輪4の転舵角、すなわち車両の進行方向が変更される。
【0022】
なお、ラックエンド18がラックハウジング13の左端に当接するラック軸12の位置が右方向に最大限操舵可能な位置であり、同位置が右側のエンド位置としてのラックエンド位置に相当する。また、ラックエンド18がラックハウジング13の右端に当接するラック軸12の位置が左方向に最大限操舵可能な位置であり、同位置が左側のエンド位置としてのラックエンド位置に相当する。
【0023】
EPSアクチュエータ6は、駆動源であるモータ21と、ウォームアンドホイール等の減速機構22とを備えている。モータ21は減速機構22を介してコラム軸15に連結されている。そして、EPSアクチュエータ6は、モータ21の回転を減速機構22により減速してコラム軸15に伝達することによって、モータトルクをアシスト力として操舵機構5に付与する。なお、本実施形態のモータ21には、三相のブラシレスモータが採用されている。
【0024】
操舵制御装置1は、モータ21に接続されており、その作動を制御する。なお、操舵制御装置1は、図示しない中央処理装置(CPU)やメモリを備えており、所定の演算周期ごとにメモリに記憶されたプログラムをCPUが実行する。これにより、各種の制御が実行される。
【0025】
操舵制御装置1には、車両の車速SPDを検出する車速センサ31、及び運転者の操舵によりステアリングシャフト11に付与された操舵トルクThを検出するトルクセンサ32が接続されている。また、操舵制御装置1には、モータ21の回転角θmを360°の範囲内の相対角で検出する回転センサ33が接続されている。なお、操舵トルクTh及び回転角θmは、例えば右方向に操舵した場合に正の値、左方向に操舵した場合に負の値として検出する。さらに、操舵制御装置1には、車両のヨーレートγを検出するヨーレートセンサ34が接続されている。そして、操舵制御装置1は、これら各センサから入力される各状態量を示す信号に基づいて、モータ21に駆動電力を供給することにより、EPSアクチュエータ6の作動、すなわち操舵機構5にラック軸12を往復動させるべく付与するアシスト力を制御する。
【0026】
次に、操舵制御装置1の構成について説明する。
図2に示すように、操舵制御装置1は、モータ制御信号Smを出力するマイコン41と、モータ制御信号Smに基づいてモータ21に駆動電力を供給する駆動回路42とを備えている。なお、本実施形態の駆動回路42には、FET等の複数のスイッチング素子を有する周知のPWMインバータが採用されている。そして、マイコン41の出力するモータ制御信号Smは、各スイッチング素子のオンオフ状態を規定するものとなっている。これにより、モータ制御信号Smに応答して各スイッチング素子がオンオフし、各相のモータコイルへの通電パターンが切り替わることにより、車載電源43の直流電力が三相の駆動電力に変換されてモータ21へと出力される。
【0027】
なお、以下に示す各制御ブロックは、マイコン41が実行するコンピュータプログラムにより実現されるものであり、所定のサンプリング周期で各状態量を検出し、所定の演算周期毎に以下の各制御ブロックに示される各演算処理が実行される。
【0028】
マイコン41には、上記車速SPD、操舵トルクTh、モータ21の回転角θm、及びヨーレートγが入力される。また、マイコン41には、電流センサ44により検出されるモータ21の各相電流値Iu,Iv,Iw、及び電圧センサ45により検出される車載電源43の電源電圧Vbが入力される。電流センサ44は、駆動回路42と各相のモータコイルとの間の接続線46に設けられている。電圧センサ45は、車載電源43と駆動回路42との間の接続線47に設けられている。なお、
図2では、説明の便宜上、各相の電流センサ44及び各相の接続線46をそれぞれ1つにまとめて図示している。そして、マイコン41は、これら各状態量に基づいてモータ制御信号Smを出力する。
【0029】
詳しくは、マイコン41は、電流指令値Id*,Iq*を演算する電流指令値演算部51と、電流指令値Id*,Iq*に基づいてモータ制御信号Smを出力するモータ制御信号生成部52と、絶対舵角θsを検出する絶対舵角検出部53とを備えている。
【0030】
電流指令値演算部51には、操舵トルクTh、車速SPD、ヨーレートγ及び絶対舵角θsが入力される。電流指令値演算部51は、これらの状態量に基づいて電流指令値Id*,Iq*を演算する。電流指令値Id*,Iq*は、モータ21に供給すべき電流の目標値であり、d/q座標系におけるd軸上の電流指令値及びq軸上の電流指令値をそれぞれ示す。このうち、q軸電流指令値Iq*は、モータ21が出力するモータトルクの目標値を示す。なお、本実施形態では、d軸電流指令値Id*は、基本的にゼロに固定されている。電流指令値Id*,Iq*は、例えば右方向への操舵をアシストする場合に正の値、左方向への操舵をアシストする場合に負の値とする。
【0031】
モータ制御信号生成部52には、電流指令値Id*,Iq*、各相電流値Iu,Iv,Iw、及びモータ21の回転角θmが入力される。モータ制御信号生成部52は、これらの状態量に基づいてd/q座標系における電流フィードバック制御を実行することにより、モータ制御信号Smを生成する。
【0032】
具体的には、モータ制御信号生成部52は、回転角θmに基づいて各相電流値Iu,Iv,Iwをd/q座標上に写像することにより、d/q座標系におけるモータ21の実電流値であるd軸電流値Id及びq軸電流値Iqを演算する。そして、モータ制御信号生成部52は、d軸電流値Idをd軸電流指令値Id*に追従させるべく、またq軸電流値Iqをq軸電流指令値Iq*に追従させるべく、それぞれ電流フィードバック制御を行うことによりモータ制御信号Smを生成する。
【0033】
モータ制御信号生成部52は、このように生成したモータ制御信号Smを駆動回路42に出力する。これにより、モータ21には、モータ制御信号Smに応じた駆動電力が供給され、モータ21からq軸電流指令値Iq*に対応したモータトルクが出力されることで、操舵機構5にアシスト力が付与される。
【0034】
絶対舵角検出部53には、回転角θmが入力される。絶対舵角検出部53は、回転角θmに基づいて、360°を超える範囲を含む絶対角で表されるモータ絶対角を検出する。本実施形態の絶対舵角検出部53は、例えば車載電源43の交換後、イグニッションスイッチ等の起動スイッチが初めてオンされた時の回転角θmを原点としてモータ21の回転数を積算し、この回転数及び回転角θmに基づいてモータ絶対角を検出する。そして、絶対舵角検出部53は、モータ絶対角に減速機構22の減速比に基づく換算係数を乗算することにより、ステアリングシャフト11の操舵角を示す絶対舵角θsを検出する。本実施形態の操舵制御装置1では、起動スイッチのオフ時にもモータ21の回転の有無を監視しており、モータ21の回転数が常時積算されている。これにより、車載電源43が交換されてから2回目以降、起動スイッチがオンされた時でも、絶対舵角θsの原点は、起動スイッチが初めてオンされた時に設定された原点と同じになる。
【0035】
なお、上記のようにステアリングシャフト11の回転により転舵輪4の転舵角が変更されることから、絶対舵角θsは、転舵輪4の転舵角に換算可能な回転軸の回転角を示す。また、モータ絶対角及び絶対舵角θsは、例えば原点から右方向の回転角である場合に正の値、左方向の回転角である場合に負の値とする。
【0036】
次に、電流指令値演算部51の構成について詳細に説明する。
電流指令値演算部51は、q軸電流指令値Iq*の基礎成分であるアシスト指令値Ias*を演算するアシスト指令値演算部61と、q軸電流指令値Iq*の絶対値の上限となる制限値Igを設定する制限値設定部62と、アシスト指令値Ias*の絶対値を制限値Ig以下に制限するガード処理部63とを備えている。また、電流指令値演算部51は、メモリ64に記憶される左右のラックエンド位置に対応する絶対舵角θsであるエンド位置対応角θs_le,θs_reを管理するエンド位置対応角管理部65を備えている。
【0037】
アシスト指令値演算部61には、操舵トルクTh及び車速SPDが入力される。アシスト指令値演算部61は、操舵トルクTh及び車速SPDに基づいてアシスト指令値Ias*を演算する。具体的には、アシスト指令値演算部61は、操舵トルクThの絶対値が大きいほど、また車速SPDが遅いほど、より大きな絶対値を有するアシスト指令値Ias*を演算する。このように演算されたアシスト指令値Ias*は、ガード処理部63に出力される。
【0038】
ガード処理部63には、アシスト指令値Ias*に加え、後述するように制限値設定部62において設定される制限値Igが入力される。ガード処理部63は、入力されるアシスト指令値Ias*の絶対値が制限値Ig以下の場合には、アシスト指令値Ias*の値をそのままq軸電流指令値Iq*としてモータ制御信号生成部52に出力する。一方、入力されるアシスト指令値Ias*の絶対値が制限値Igよりも大きい場合には、アシスト指令値Ias*の絶対値を制限値Igの値に制限した値をq軸電流指令値Iq*としてモータ制御信号生成部52に出力する。
【0039】
メモリ64には、モータ21が出力可能なモータトルクとして予め設定されたトルクに対応する最大電流としての定格電流Ir、及びエンド位置対応角θs_le,θs_re等が記憶されている。左側のエンド位置対応角θs_leは、左側のラックエンド位置に対応する絶対舵角θsであり、右側のエンド位置対応角θs_reは、右側のラックエンド位置に対応する絶対舵角θsである。エンド位置対応角θs_le,θs_reは、後述するようにエンド位置対応角管理部65によってその設定が管理される。なお、本実施形態のメモリ64は、例えば車載電源43を取り外さない限り、エンド位置対応角θs_le,θs_reを保持するタイプのものが用いられている。
【0040】
次に、制限値設定部62の構成について説明する。
制限値設定部62には、絶対舵角θs、車速SPD、電源電圧Vb、定格電流Ir及びエンド位置対応角θs_le,θs_reが入力される。そして、制限値設定部62は、これらの状態量に基づいて制限値Igを設定する。
【0041】
詳しくは、
図3に示すように、制限値設定部62は、絶対舵角θsに基づく舵角制限値Ienを演算する舵角制限値演算部71と、電源電圧Vbに基づく他の制限値としての電圧制限値Ivbを演算する電圧制限値演算部72と、舵角制限値Ien及び電圧制限値Ivbのいずれか小さい方を選択する最小値選択部73とを備えている。
【0042】
舵角制限値演算部71には、絶対舵角θs、車速SPD、定格電流Ir、エンド位置対応角θs_le,θs_reが入力される。舵角制限値演算部71は、これらの状態量に基づいて、後述するように絶対舵角θsの左右のエンド位置対応角θs_le,θs_reからの最小距離を示すエンド離間角Δθが所定角度θ1以下となる場合に、該エンド離間角Δθの減少に基づいて小さくなる舵角制限値Ienを演算する。このように演算された舵角制限値Ienは、最小値選択部73に出力される。なお、舵角制限値演算部71は、メモリ64に左右のエンド位置対応角θs_le,θs_reのいずれもが設定されていない場合には、舵角制限値Ienを演算しない。
【0043】
電圧制限値演算部72には、電源電圧Vbが入力される。電圧制限値演算部72は、電源電圧Vbの絶対値が予め設定された電圧閾値Vth以下になった場合に、定格電流Irを供給するための定格電圧よりも小さな電圧制限値Ivbを演算する。具体的には、電圧制限値演算部72は、電源電圧Vbの絶対値が電圧閾値Vth以下になった場合、該電源電圧Vbの絶対値の低下に基づいてより小さな絶対値を有する電圧制限値Ivbを演算する。このように演算された電圧制限値Ivbは、最小値選択部73に出力される。
【0044】
最小値選択部73は、入力される舵角制限値Ien及び電圧制限値Ivbのいずれか小さい方を制限値Igとして選択し、ガード処理部63に出力する。
そして、舵角制限値Ienが制限値Igとしてガード処理部63に出力されることにより、q軸電流指令値Iq*の絶対値が舵角制限値Ienに制限される。これにより、エンド離間角Δθが所定角度θ1以下となる場合に、該エンド離間角Δθの減少に基づいてq軸電流指令値Iq*の絶対値を小さくすることで、ラックエンド18がラックハウジング13に当たるエンド当ての衝撃を緩和するエンド当て緩和制御が実行される。なお、後述するようにメモリ64に左右両側のエンド位置対応角θs_le,θs_reが記憶されている場合が正規のエンド当て緩和制御となり、メモリ64に左右いずれか一方側のエンド位置対応角θs_le,θs_reが記憶されている場合が暫定のエンド当て緩和制御となる。
【0045】
また、電圧制限値Ivbが制限値Igとしてガード処理部63に出力されることにより、q軸電流指令値Iq*の絶対値が電圧制限値Ivbに制限される。これにより、電源電圧Vbの絶対値が電圧閾値Vth以下となる場合に、該電源電圧Vbの絶対値の低下に基づいてq軸電流指令値Iq*の絶対値を小さくする電源保護制御が実行される。
【0046】
次に、舵角制限値演算部71の構成について説明する。
舵角制限値演算部71は、エンド離間角Δθを演算するエンド離間角演算部81と、エンド離間角Δθに応じて定まる電流制限量である角度制限成分Igaを演算する角度制限成分演算部82とを備えている。そして、舵角制限値演算部71は、定格電流Irから角度制限成分Igaを減算することにより、舵角制限値Ienを演算する。
【0047】
詳しくは、エンド離間角演算部81には、絶対舵角θs、及びエンド位置対応角θs_le,θs_reが入力される。エンド離間角演算部81は、メモリ64に左右両方のエンド位置対応角θs_le,θs_reが記憶されている場合には、最新の演算周期での絶対舵角θsと左側のエンド位置対応角θs_leとの間の差分、及び最新の演算周期での絶対舵角θsと右側のエンド位置対応角θs_reとの間の差分を演算する。そして、エンド離間角演算部81は、演算した差分のうちの絶対値が小さい方をエンド離間角Δθとして角度制限成分演算部82に出力する。一方、エンド離間角演算部81は、メモリ64に左右いずれか一方側のみのエンド位置対応角θs_le,θs_reが記憶されている場合には、最新の演算周期での絶対舵角θsとエンド位置対応角θs_le又はエンド位置対応角θs_reとの間の差分を演算する。そして、エンド離間角演算部81は、この差分をエンド離間角Δθとして角度制限成分演算部82に出力する。
【0048】
なお、エンド離間角演算部81は、メモリ64に左右のエンド位置対応角θs_le,θs_reがいずれも記憶されていない場合には、エンド離間角Δθを演算しない。これにより、後述する角度制限成分演算部82において、角度制限成分Igaが演算されず、舵角制限値Ienが演算されない。
【0049】
角度制限成分演算部82には、エンド離間角Δθ及び車速SPDが入力される。角度制限成分演算部82は、エンド離間角Δθ及び車速SPDと角度制限成分Igaとの関係を定めたマップを備えており、同マップを参照することによりエンド離間角Δθ及び車速SPDに応じた角度制限成分Igaを演算する。
【0050】
このマップでは、角度制限成分Igaは、エンド離間角Δθがゼロの状態からその増大に比例して減少し、エンド離間角Δθが所定角度θ1でゼロに達し、エンド離間角Δθが所定角度θ1よりも大きくなると、ゼロになるように設定されている。また、このマップでは、エンド離間角Δθが負の領域も設定されており、角度制限成分Igaは、エンド離間角Δθがゼロよりも小さくなると、その減少に比例して増大し、定格電流Irと同じ値になった以降は一定となる。マップにおける負の領域は、ラックエンド18がラックハウジング13に当接した状態からさらに切り込み操舵を行うことにより、EPS2が弾性変形してモータ21が回転する分を想定している。なお、所定角度θ1は、エンド位置対応角θs_le,θs_re近傍の範囲を示す小さな角度に設定されている。すなわち、角度制限成分Igaは、絶対舵角θsがエンド位置対応角θs_le,θs_reからステアリング中立側に向かうにつれて小さくなり、エンド位置対応角θs_le,θs_re近傍よりもステアリング中立位置側にある場合には、ゼロになるように設定されている。
【0051】
また、このマップは、エンド離間角Δθが所定角度θ1以下の領域では、車速SPDの増大に基づいて、角度制限成分Igaが小さくなるように設定されている。具体的には、車速SPDが低速域である場合は角度制限成分Igaがゼロよりも大きくなるが、車速SPDが中高速域である場合は角度制限成分Igaがゼロとなるように設定されている。このように演算された角度制限成分Igaは、減算器83に出力される。
【0052】
減算器83には、角度制限成分Igaに加え、定格電流Irが入力される。舵角制限値演算部71は、減算器83において定格電流Irから角度制限成分Igaを差し引いた値を舵角制限値Ienとして上記最小値選択部73に出力する。
【0053】
次に、エンド位置対応角管理部65の構成について説明する。
図2示すように、エンド位置対応角管理部65には、操舵トルクTh、ヨーレートγ、絶対舵角θs、及び回転角θmを微分することにより得られるモータ角速度ωmが入力される。エンド位置対応角管理部65は、これらの状態量に基づいて、ラック軸12が左右いずれか一方側への移動が規制されているか否かを判定し、ラック軸12の移動が規制されていると判定された際の絶対舵角θsに応じた規制位置判定角θiを複数取得する。そして、エンド位置対応角管理部65は、複数の規制位置判定角θiに基づいてエンド位置対応角θs_le,θs_reをメモリ64に記憶させる。なお、エンド位置対応角管理部65は、エンド位置対応角θs_le,θs_reをメモリ64に一旦記憶させた後は、これらが消失するまではエンド位置対応角θs_le,θs_reの設定に係る処理を実行しない。
【0054】
詳しくは、
図4に示すように、エンド位置対応角管理部65は、角速度変化量演算部91と、車両中心角演算部92と、規制位置判定角取得部93と、エンド位置対応角設定部94とを備えている。以下、制御ブロック毎に順に説明する。
【0055】
(角速度変化量演算部91)
角速度変化量演算部91には、モータ角速度ωmが入力される。角速度変化量演算部91は、入力されるモータ角速度ωmに基づいてその変化量である角速度変化量Δωmを演算する。そして、角速度変化量演算部91は、角速度変化量Δωmを規制位置判定角取得部93に出力する。なお、本実施形態の角速度変化量演算部91は、角速度変化量Δωmにローパスフィルタ処理を施したものを規制位置判定角取得部93に出力する。
【0056】
(車両中心角演算部92)
車両中心角演算部92には、ヨーレートγ及び絶対舵角θsが入力される。車両中心角演算部92は、これらの状態量に基づいて車両が直進する際の絶対舵角θsである車両中心角θcを演算する。具体的には、車両中心角演算部92は、ヨーレートγとヨーレート閾値γthとの大小比較を行い、ヨーレートγがヨーレート閾値γth以下の場合に車両が直進していると判定する。そして、車両中心角演算部92は、車両が直進していると判定した際の絶対舵角θsを車両中心角θcとして演算し、エンド位置対応角設定部94に出力する。なお、ヨーレート閾値γthは、車両が旋回していないことを示すヨーレートであり、ゼロよりも僅かに大きな値に予め設定されている。
【0057】
(規制位置判定角取得部93)
規制位置判定角取得部93には、操舵トルクTh、モータ角速度ωm、角速度変化量Δωm及び絶対舵角θsが入力される。規制位置判定角取得部93は、これらの状態量に基づいてラック軸12の左右いずれか一方への移動が規制されているか否かを判定し、ラック軸12の移動が規制されていると判定した際の絶対舵角θsを規制位置判定角θiとして取得し、エンド位置対応角設定部94に出力する。
【0058】
具体的には、規制位置判定角取得部93は、次の3つの条件が成立する場合に、ラック軸12の移動が規制されたと判定する。
(a1)操舵トルクThの絶対値が操舵トルク閾値Tth以上である。
【0059】
(a2)モータ角速度ωmの符号が操舵トルクThの符号と同一であって、モータ角速度ωmの絶対値が第1角速度閾値ωth1よりも大きく、かつ第2角速度閾値ωth2以下である。
【0060】
(a3)角速度変化量Δωmの絶対値が角速度変化量閾値Δωth未満である。
なお、操舵トルク閾値Tthは、ラックエンド18がラックハウジング13に当接した状態で車両を旋回走行させる際にステアリングホイール3を保舵するために必要な操舵トルクであり、ゼロよりも大きな適宜の値に設定されている。第1角速度閾値ωth1は、モータ21が停止していることを示す角速度であり、略ゼロに設定されている。第2角速度閾値ωth2は、モータ21が低速で回転していることを示す角速度であり、ゼロよりも大きな適宜の値に設定されている。角速度変化量閾値Δωthは、モータ21が略加減速していないことを示す角速度変化量であり、ゼロよりも僅かに大きな値に設定されている。
【0061】
次に、規制位置判定角取得部93による規制位置判定角θiの取得に係る処理手順を説明する。なお、以下では、説明の便宜上、ラック軸12が右方向へ移動し、右側の規制位置判定角θiを取得する場合について説明するが、ラック軸12が左側へ移動し、左側の規制位置判定角θiを取得する場合も、同様の処理が行われる。
【0062】
図5のフローチャートに示すように、規制位置判定角取得部93は、各種状態量を取得すると(ステップ101)、操舵トルクThが操舵トルク閾値Tth以上であるか否かを判定する(ステップ102)。操舵トルクThが操舵トルク閾値Tth以上である場合には(ステップ102:YES)、モータ角速度ωmが第1角速度閾値ωth1よりも大きく、かつ第2角速度閾値ωth2以下であるか否かを判定する(ステップ103)。すなわち、ステップ103では、モータ角速度ωmの符号が操舵トルクThの符号と同一であって、モータ角速度ωmの絶対値が第1角速度閾値ωth1よりも大きく、かつ第2角速度閾値ωth2以下であるか否かを判定する。モータ角速度ωmが第1角速度閾値ωth1よりも大きく、かつ第2角速度閾値ωth2以下である場合には(ステップ103:YES)、角速度変化量Δωmの絶対値が角速度変化量閾値Δωth未満であるか否かを判定する(ステップ104)。そして、角速度変化量Δωmの絶対値が角速度変化量閾値Δωth未満である場合には(ステップ104:YES)、ラック軸12の移動が規制されていると判定し、同演算周期で取得した絶対舵角θsを規制位置判定角θiとして取得する(ステップ105)。
【0063】
一方、規制位置判定角取得部93は、操舵トルクThが操舵トルク閾値Tth未満である場合(ステップ102:NO)、モータ角速度ωmが第1角速度閾値ωth1以下である、又は第2角速度閾値ωth2よりも大きい場合(ステップ103:NO)、又は角速度変化量Δωmの絶対値が角速度変化量閾値Δωth以上の場合には(ステップ104:NO)、それ以降の処理を実行しない。
【0064】
(エンド位置対応角設定部94)
エンド位置対応角設定部94には、規制位置判定角取得部93から複数の規制位置判定角θiが入力される。エンド位置対応角設定部94は、左側及び右側の規制位置判定角θiをそれぞれ取得した場合には、これら左右両側の規制位置判定角θiに基づいてエンド位置対応角θs_le,θs_reを設定する。なお、エンド位置対応角設定部94は、規制位置判定角θiの符号に基づいて、該規制位置判定角θiが左側及び右側のいずれか一方側のものであるか他方側のものであるかを判定する。以下の説明では、エンド位置対応角θs_le,θs_reの符号について、左側又は右側であることを特定しない場合には、単にエンド位置対応角θs_eと記すことがある。
【0065】
具体的には、エンド位置対応角設定部94は、左右両側の規制位置判定角θiを取得すると、まず左側の規制位置判定角θiの絶対値と右側の規制位置判定角θiの絶対値との和である第1ストローク幅Ws1を演算する。そして、エンド位置対応角設定部94は、第1ストローク幅Ws1がストローク閾値としての第1ストローク閾値Wth1よりも大きく、かつ第2ストローク閾値Wth2よりも小さい場合には、取得した左右の規制位置判定角θiをそのままエンド位置対応角θs_le,θs_reとしてそれぞれ設定する。なお、第1ストローク閾値Wth1は、絶対舵角θsで示される角度範囲であって、ラック軸12の全ストローク範囲に対応する角度範囲よりも若干小さな範囲に設定されている。また、第2ストローク閾値Wth2は、絶対舵角θsで示される角度範囲であって、ラック軸12の全ストローク範囲に対応する角度範囲よりも若干大きな範囲に設定されている。エンド位置対応角設定部94は、第1ストローク幅Ws1が第1ストローク閾値Wth1以下の場合、又は第1ストローク幅Ws1が第2ストローク閾値Wth2以上の場合には、エンド位置対応角θs_le,θs_reを設定せず、入力された規制位置判定角θiを破棄する。
【0066】
一方、エンド位置対応角設定部94は、一方側のみの規制位置判定角θiを複数取得すると、各規制位置判定角θiと車両中心角θcとの距離を示す中心離間角θdを演算する。エンド位置対応角設定部94は、規制位置判定角θi毎の中心離間角θdがエンド位置判定閾値θthよりもそれぞれ大きい場合には、複数の規制位置判定角θiに基づいて対応する側のエンド位置対応角θs_eのみを設定する。具体的には、エンド位置対応角設定部94は、複数の規制位置判定角θiの平均値を対応する側のエンド位置対応角θs_eとして設定する。なお、エンド位置判定閾値θthは、規制位置判定角θiがラックエンド位置近傍にあるか否かを判定するための閾値であり、ステアリングシャフト11の回転可能範囲の半分よりもやや小さな範囲を示す値に予め設定されている。一方、エンド位置対応角設定部94は、各中心離間角θdがエンド位置判定閾値θth以下の場合には、一方側の複数の規制位置判定角θiを破棄する。
【0067】
また、エンド位置対応角設定部94は、一方側のみのエンド位置対応角θs_eを設定した後、他方側の規制位置判定角θiを取得すると、該規制位置判定角θiに基づいて他方側のエンド位置対応角θs_eを設定する。
【0068】
具体的には、エンド位置対応角設定部94は、一方側のエンド位置対応角θs_eのみが設定されている場合に、他方側の規制位置判定角θiを取得すると、第2ストローク幅Ws2を演算する。第2ストローク幅Ws2は、一方側の複数の規制位置判定角θiに基づく値の絶対値と他方側の規制位置判定角θiの絶対値との和であり、本実施形態では、一方側のエンド位置対応角θs_eの絶対値と他方側の規制位置判定角θiの絶対値との和を第2ストローク幅Ws2として演算する。そして、エンド位置対応角設定部94は、第2ストローク幅Ws2が第1ストローク閾値Wth1よりも大きく、かつ第2ストローク閾値Wth2よりも小さい場合には、取得した他方側の規制位置判定角θiをそのまま他方側のエンド位置対応角θs_eとして設定する。一方、エンド位置対応角設定部94は、第2ストローク幅Ws2が第1ストローク閾値Wth1以下の場合、又は第2ストローク幅Ws2が第2ストローク閾値Wth2以上の場合には、一方側のエンド位置対応角θs_le、及び他方側の規制位置判定角θiを破棄する。
【0069】
一例として、左側のエンド位置対応角θs_leのみが設定されている場合を想定する。この場合、エンド位置対応角設定部94は、右側の規制位置判定角θiを取得すると、右側の規制位置判定角θiの絶対値と、左側のエンド位置対応角θs_leの絶対値との和を第2ストローク幅Ws2として演算する。そして、エンド位置対応角設定部94は、第2ストローク幅Ws2が第1ストローク閾値Wth1よりも大きく、かつ第2ストローク閾値Wth2よりも小さい場合には、取得した右側の規制位置判定角θiをそのまま右側のエンド位置対応角θs_reとして設定する。一方、エンド位置対応角設定部94は、第2ストローク幅Ws2が第1ストローク閾値Wth1以下の場合、又は第2ストローク幅Ws2が第2ストローク閾値Wth2以上の場合には、左側のエンド位置対応角θs_le、及び右側の規制位置判定角θiを破棄する。
【0070】
次に、エンド位置対応角設定部94によるエンド位置対応角θs_eの設定に係る処理手順を説明する。
図6のフローチャートに示すように、エンド位置対応角設定部94は、各種状態量を取得すると(ステップ201)、一方側のエンド位置対応角θs_eのみがメモリ64に設定されていることを示す片側完了フラグがセットされているか否かを判定する(ステップ202)。
【0071】
片側完了フラグがセットされていない場合には(ステップ202:NO)、左右両側の規制位置判定角θiを取得しているか否かを判定し(ステップ203)、左右両側の規制位置判定角θiを取得している場合には(ステップ203:YES)、第1ストローク幅Ws1を演算する(ステップ204)。次いで、第1ストローク幅Ws1が第1ストローク閾値Wth1よりも大きく、かつ第2ストローク閾値Wth2よりも小さいか否かを判定する(ステップ205)。第1ストローク幅Ws1が第1ストローク閾値Wth1よりも大きく、かつ第2ストローク閾値Wth2よりも小さい場合には(ステップ205:YES)、第1ストローク幅Ws1を演算する基礎となった左右両側の規制位置判定角θiをエンド位置対応角θs_le,θs_reとしてそれぞれ設定する(ステップ206)。なお、第1ストローク幅Ws1が第1ストローク閾値Wth1以下の場合、又は第1ストローク幅Ws1が第2ストローク閾値Wth2以上の場合には(ステップ205:NO)、取得した規制位置判定角θiを破棄する(ステップ207)。
【0072】
一方、エンド位置対応角設定部94は、左右両側の規制位置判定角θiを取得していない場合には(ステップ203:NO)、一方側の規制位置判定角θiを複数取得しているか否かを判定する(ステップ208)。一方側の規制位置判定角θiを複数取得している場合には(ステップ208:YES)、規制位置判定角θi毎に中心離間角θdを演算し(ステップ209)、各中心離間角θdがエンド位置判定閾値θthよりも大きいか否かを判定する(ステップ210)。各中心離間角θdがエンド位置判定閾値θthよりも大きい場合には(ステップ210:YES)、複数の規制位置判定角θiに基づいて一方側のエンド位置対応角θs_eを設定し(ステップ211)、片側完了フラグをセットする(ステップ212)。
【0073】
なお、エンド位置対応角設定部94は、一方側の規制位置判定角θiを複数取得していない場合(ステップ208:NO)には、それ以降の処理を実行しない。また、各中心離間角θdの少なくとも1つがエンド位置判定閾値θth以下の場合には(ステップ210:NO)、ステップ207に移行し、取得した規制位置判定角θiを破棄する。
【0074】
エンド位置対応角設定部94は、片側完了フラグがセットされている場合には(ステップ202:YES)、他方側の規制位置判定角θiを取得しているか否かを判定する(ステップ213)。他方側の規制位置判定角θiを取得している場合には(ステップ213:YES)、第2ストローク幅Ws2を演算し(ステップ214)、第2ストローク幅Ws2が第1ストローク閾値Wth1よりも大きく、かつ第2ストローク閾値Wth2よりも小さいか否かを判定する(ステップ215)。第2ストローク幅Ws2が第1ストローク閾値Wth1よりも大きく、かつ第2ストローク閾値Wth2よりも小さい場合には(ステップ215:YES)、他方側の規制位置判定角θiを対応する側のエンド位置対応角θs_eとして設定する(ステップ216)。
【0075】
一方、エンド位置対応角設定部94は、第2ストローク幅Ws2が第1ストローク閾値Wth1以下の場合、又は第2ストローク幅Ws2が第2ストローク閾値Wth2以上の場合には(ステップ215:NO)、ステップ211で設定した一方側のエンド位置対応角θs_e及び他方側の規制位置判定角θiを破棄し(ステップ217)、片側完了フラグをリセットする(ステップ218)。なお、他方側の規制位置判定角θiを取得していない場合には(ステップ213:NO)、それ以降の処理を実行しない。
【0076】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)例えば転舵輪4が縁石等に当たることでラック軸12の移動が規制されると、この際に取得される規制位置判定角θiの絶対値は、エンド当て時に取得される規制位置判定角θiの絶対値に比べて小さくなる。そのため、左側及び右側の少なくとも一方の規制位置判定角θiが、例えば縁石当て時に取得したものである場合には、第1ストローク幅Ws1が第1ストローク閾値Wth1以下になる。また、取得した規制位置判定角θiに異常がなければ、第1ストローク幅Ws1が第2ストローク閾値Wth2よりも小さくなる。したがって、第1ストローク幅Ws1が第1ストローク閾値Wth1よりも大きく、かつ第2ストローク閾値Wth2よりも小さい場合には、左側及び右側の規制位置判定角θiのそれぞれがエンド当て時に取得されたものであると考えられる。
【0077】
この点を踏まえ、本実施形態のエンド位置対応角設定部94は、左側及び右側の規制位置判定角θiをそれぞれ取得した場合には、第1ストローク幅Ws1と第1ストローク閾値Wth1及び第2ストローク閾値Wth2との大小比較を行う。そして、第1ストローク幅Ws1が第1ストローク閾値Wth1よりも大きく、かつ第2ストローク閾値Wth2よりも小さい場合に、第1ストローク幅Ws1を演算する基礎となった左側及び右側の規制位置判定角θiに基づいて左側及び右側のエンド位置対応角θs_le,θs_reをそれぞれ設定する。そのため、設定される左右両側のエンド位置対応角θs_le,θs_reが、実際にエンド当てが生じる実エンド角としての実ラックエンド角と精度よく対応するものとなる。また、左側及び右側の規制位置判定角θiをそれぞれ1つ取得すれば、第1ストローク幅Ws1を演算できるため、左側及び右側の規制位置判定角θiを複数取得するまで待つことなく、左右両側のエンド位置対応角θs_le,θs_reを速やかに設定できる。
【0078】
(2)エンド位置対応角設定部94は、一方側のみの規制位置判定角θiを複数取得した場合において、各中心離間角θdがエンド位置判定閾値θthよりも大きければ、該一方側の複数の規制位置判定角θiに基づいて、該一方側のエンド位置対応角θs_eのみを設定する。そのため、例えば車両の走行状況等によって一方側の規制位置判定角θiしか取得できない場合でも、一方側のエンド位置対応角θs_eを設定できる。
【0079】
また、各中心離間角θdがエンド位置判定閾値θthよりも大きい場合には、一方側の複数の規制位置判定角θiが、実ラックエンド角近傍の角度であると考えられる。そのため、本実施形態のように、各中心離間角θdがエンド位置判定閾値θthよりも大きい場合に、一方側の複数の規制位置判定角θiに基づいて、一方側のエンド位置対応角θs_eのみを設定することで、該エンド位置対応角θs_eが実ラックエンド位置から乖離することを抑制できる。
【0080】
(3)エンド位置対応角設定部94は、一方側のエンド位置対応角θs_eのみを設定した後、他方側の規制位置判定角θiを取得すると、第2ストローク幅Ws2を演算する。そして、エンド位置対応角設定部94は、第2ストローク幅Ws2が第1ストローク閾値Wth1よりも大きく、かつ第2ストローク閾値Wth2よりも小さい場合には、他方側の規制位置判定角θiに基づいて他方側のエンド位置対応角θs_eを設定する。このように第2ストローク幅Ws2と第1ストローク閾値Wth1及び第2ストローク閾値Wth2との大小比較を行うことで、他方側の規制位置判定角θiを複数取得するまで待つことなく、実ラックエンド角と精度よく対応する他方側のエンド位置対応角θs_eを速やかに設定できる。
【0081】
(4)エンド位置対応角設定部94は、一方側のエンド位置対応角θs_eのみを設定した後、他方側の規制位置判定角θiを取得すると、第2ストローク幅Ws2を演算する。そして、エンド位置対応角設定部94は、第2ストローク幅Ws2が第1ストローク閾値Wth1以下の場合、又は第2ストローク閾値Wth2以上の場合には、一方側のエンド位置対応角θs_eを破棄する。
【0082】
ここで、第2ストローク幅Ws2が第1ストローク閾値Wth1以下の場合、又は第2ストローク閾値Wth2以上の場合、既に設定している一方側のエンド位置対応角θs_eが実ラックエンド角から大きく乖離しているおそれがある。したがって、本実施形態のように、第2ストローク幅Ws2が第1ストローク閾値Wth1以下の場合、又は第2ストローク閾値Wth2以上の場合に一方側のエンド位置対応角θs_eを破棄することで、エンド位置対応角θs_eを再度設定することが可能になり、実ラックエンド角と精度よく対応するエンド位置対応角θs_le,θs_reを設定できる。
【0083】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態では、左側及び右側の規制位置判定角θiをそれぞれ取得した場合には、第1ストローク幅Ws1と第1ストローク閾値Wth1及び第2ストローク閾値Wth2との大小比較を行った。しかし、これに限らず、第1ストローク幅Ws1と第1ストローク閾値Wth1との大小比較のみを行い、第1ストローク幅Ws1が第1ストローク閾値Wth1よりも大きい場合に、左側及び右側の規制位置判定角θiに基づいて、左側及び右側のエンド位置対応角θs_le,θs_reをそれぞれ設定してもよい。
【0084】
・上記実施形態では、一方側のエンド位置対応角θs_eのみを設定した後、他方側の規制位置判定角θiを取得した場合には、第2ストローク幅Ws2と第1ストローク閾値Wth1及び第2ストローク閾値Wth2との大小比較を行った。しかし、これに限らず、第2ストローク幅Ws2と第1ストローク閾値Wth1との大小比較のみを行い、第2ストローク幅Ws2が第1ストローク閾値Wth1よりも大きい場合に、他方側の規制位置判定角θiに基づいて他方側のエンド位置対応角θs_eを設定してもよい。
【0085】
・上記実施形態では、第2ストローク幅Ws2を演算する際に用いる一方側の複数の規制位置判定角θiに基づく値として、一方側のエンド位置対応角θs_eを用いたが、これに限らず、例えば一方側の複数の規制位置判定角θiのうち、絶対値が最も大きい規制位置判定角θiを用いてもよい。
【0086】
・上記実施形態において、第2ストローク幅Ws2が第1ストローク閾値Wth1以下、又は第2ストローク閾値Wth2以上の場合にも、一方側のエンド位置対応角θs_eを破棄せず、他方側の規制位置判定角θiのみを破棄してもよい。
【0087】
・上記実施形態において、一方側のエンド位置対応角θs_eのみを設定した後、第2ストローク幅Ws2と第1ストローク閾値Wth1及び第2ストローク閾値Wth2との大小比較を行わず、複数の他方側の規制位置判定角θiを取得してから、これらに基づいて他方側のエンド位置対応角θs_eを設定してもよい。
【0088】
・上記実施形態において、各中心離間角θdとエンド位置判定閾値θthとの大小比較を行わず、一方側の複数の規制位置判定角θiに基づいて、一方側のエンド位置対応角θs_eを設定してもよい。この場合には、各中心離間角θdとエンド位置判定閾値θthとの大小比較を行う場合に比べ、より多い数の規制位置判定角θiに基づいてエンド位置対応角θs_eを設定することが好ましい。
【0089】
・上記実施形態では、ヨーレートγに基づいて車両が直進しているか否かを判定したが、これに限らず、例えば左右の車輪速差等に基づいて車両が直進しているか否かを判定してもよく、その判定方法は適宜変更可能である。
【0090】
・上記実施形態では、一方側のみの規制位置判定角θiを複数取得した場合には、これらに基づいて該一方側のエンド位置対応角θs_eのみを設定したが、これに限らず、左右両側の規制位置判定角θiを取得するまでは、エンド位置対応角θs_le,θs_reを設定しなくてもよい。
【0091】
・上記実施形態において、ラック軸12の移動が規制されたか否かの判定条件は適宜変更可能である。例えば上記(a1)及び(a3)が成立すれば、(a2)が成立しなくても、ラック軸12の移動が規制されたと判定してもよい。
【0092】
・上記実施形態では、ラック軸12の移動が規制されていると判定された際の絶対舵角θsを規制位置判定角θiとして取得した。しかし、これに限らず、例えば絶対舵角θsに対してラック軸12の移動が規制されていると判定された際にEPS2に付与されたトルクにより生じるEPS2の機械的な弾性変形に基づいて剛性補償を行った値を規制位置判定角θiとして取得してもよい。
【0093】
・上記実施形態では、一方側のみの規制位置判定角θiを複数取得すると、これらの平均値を一方側のエンド位置対応角θs_eとして設定した。しかし、これに限らず、例えば一方側の複数の規制位置判定角θiのうち、最も絶対角の大きい規制位置判定角θiを一方側のエンド位置対応角θs_eとして設定してもよい。
【0094】
・上記実施形態では、イグニッションスイッチのオフ時にもモータ21の回転の有無を監視することで、原点からのモータ21の回転数を常時積算し、モータ絶対角及び絶対舵角θsを検出した。しかし、これに限らず、例えば操舵角を絶対角で検出するステアリングセンサを設け、該ステアリングセンサにより検出される操舵角及び減速機構22の減速比に基づいて、原点からのモータ21の回転数を積算し、モータ絶対角及び絶対舵角θsを検出してもよい。
【0095】
・上記実施形態では、アシスト指令値Ias*を舵角制限値Ienに制限することで、エンド当て緩和制御を実行したが、これに限らず、例えばアシスト指令値Ias*に対し、ラックエンド位置に近づくほど大きくなる操舵反力成分、すなわちアシスト指令値Ias*と符号が反対の成分を加算することにより、エンド当て緩和制御を実行してもよい。
【0096】
・上記実施形態では、アシスト指令値Ias*に対してガード処理を行ったが、これに限らず、例えば操舵トルクThを微分したトルク微分値に基づく補償量によってアシスト指令値Ias*を補正した値に対してガード処理を行ってもよい。
【0097】
・上記実施形態では、制限値設定部62は、電源電圧Vbに基づいて電圧制限値Ivbを演算する電圧制限値演算部72を備えたが、これに限らず、電圧制限値演算部72に加えて又は代えて、他の状態量に基づく他の制限値を演算する他の演算部を備えてもよい。また、制限値設定部62が電圧制限値演算部72を備えず、舵角制限値Ienをそのまま制限値Igとして設定する構成としてもよい。
【0098】
・上記実施形態では、定格電流Irから角度制限成分Igaを減算した値を舵角制限値Ienとしたが、これに限らず、定格電流Irから角度制限成分Iga、及びモータ角速度に応じて定まる電流制限量を減算した値を舵角制限値Ienとしてもよい。
【0099】
・上記実施形態では、操舵制御装置1は、EPSアクチュエータ6がコラム軸15にモータトルクを付与する形式のEPS2を制御対象としたが、これに限らず、例えばボール螺子ナットを介してラック軸12にモータトルクを付与する形式の操舵装置を制御対象としてもよい。また、EPSに限らず、操舵制御装置1は、運転者により操作される操舵部と、転舵輪を転舵させる転舵部との間の動力伝達が分離されたステアバイワイヤ式の操舵装置を制御対象とし、転舵部に設けられる転舵アクチュエータのモータのトルク指令値又はq軸電流指令値について、本実施形態のようにエンド当て緩和制御を実行してもよい。
【符号の説明】
【0100】
1…操舵制御装置、2…電動パワーステアリング装置、4…転舵輪、6…EPSアクチュエータ、11…ステアリングシャフト、12…ラック軸、3…ラックハウジング、18…ラックエンド、21…モータ、41…マイコン、42…駆動回路、53…絶対舵角検出部、65…エンド位置対応角管理部、92…車両中心角演算部、93…規制位置判定角取得部、94…エンド位置対応角設定部、θc…車両中心角、θi…規制位置判定角、θs…絶対舵角、θd…中心離間角、θth…エンド位置判定閾値、θs_e,θs_le,θs_re…エンド位置対応角、Ws1…第1ストローク幅、Ws2…第2ストローク幅、Wth1…第1ストローク閾値、Wth2…第2ストローク閾値。