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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】軸ずれ推定装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/40 20060101AFI20230829BHJP
   G01S 13/931 20200101ALI20230829BHJP
   G08G 1/00 20060101ALI20230829BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
G01S7/40 126
G01S13/931
G08G1/00 J
G08G1/16 C
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019186317
(22)【出願日】2019-10-09
(65)【公開番号】P2021060371
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】近藤 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】水谷 玲義
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼山 卓也
【審査官】渡辺 慶人
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-075382(JP,A)
【文献】特開2010-210483(JP,A)
【文献】特開2004-144671(JP,A)
【文献】特表2019-518946(JP,A)
【文献】特開2017-227468(JP,A)
【文献】特開2017-167839(JP,A)
【文献】特開2012-194169(JP,A)
【文献】特開2017-078912(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0050627(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02549289(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/64
13/00 - 17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に搭載された軸ずれ推定装置(4、46)であって、
レーダ装置により検出された複数の反射点のそれぞれについて、前記反射点についての方位角であってレーダビームの中心軸に沿った方向であるビーム方向を基準として求められた水平角度及び垂直角度と、前記レーダ装置と前記反射点との距離と、を少なくとも含む反射点情報を取得するように構成された取得部(S10)と、
少なくとも前記反射点情報に基づいて、前記複数の反射点のうち路面での反射により検出された複数の路面反射点を抽出するように構成された抽出部(S20)と、
前記路面が平坦であることの度合いを表した数値である路面平坦度を算出するように構成された平坦度算出部(S25)と、
前記路面平坦度に基づいて前記路面が平坦であるか否かを判断するように構成された平坦判断部(S26)と、
前記反射点情報に基づいて、前記路面反射点それぞれについて、前記レーダ装置の座標軸に基づく三次元座標である装置系座標、を特定するように構成された装置系座標部(S30、S210)と、
前記移動体の座標軸である水平軸及び進行方向軸のうちの1つである対象軸まわりの前記レーダ装置の座標軸のずれ角度である軸ずれ角度と前記レーダ装置の搭載高さとを含む少なくとも2つの未知パラメータと、前記路面反射点の前記装置系座標に含まれる少なくとも2つの要素と、の間に成立する関係式を用いて、前記軸ずれ角度と前記レーダ装置の搭載高さと、を推定するように構成された推定部(S30、S27)と、
を備え、
前記推定部は、
前記路面が平坦でないと判断された場合に、前記関係式を用いて、前記路面平坦度による重み付けを行って、前記軸ずれ角度と前記レーダ装置の搭載高さと、を推定するように構成された重み付け処理部(S27)を含む
軸ずれ推定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の軸ずれ推定装置であって、
前記反射点情報は、前記レーダ装置により検出された複数の反射点のそれぞれについての相対速度を含み、
前記抽出部は、前記移動体の速度を取得し、取得した前記移動体の速度をCmとし、前記レーダ装置により検出された複数の反射点の前記相対速度をqとし、予め設定された下限の速度閾値をε 1 とし、予め設定された上限の速度閾値をε 2 として、前記レーダ装置により検出された複数の反射点のうち、ε 1 ≦Cm/q<ε 2 を満たす反射点を静止反射点として特定し、前記レーダ装置により検出された複数の反射点のうち少なくとも前記静止反射点として特定された前記反射点を、前記路面反射点として抽出する
軸ずれ推定装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の軸ずれ推定装置であって、
前記水平軸及び前記進行方向軸をそれぞれ対象軸とし、前記水平軸まわりの前記軸ずれ角度である垂直軸ずれ角度θpと前記進行方向軸まわりの前記軸ずれ角度であるロール角度θrと前記搭載高さHとを前記未知パラメータとし、前記路面反射点の前記装置系座標(xs、ys、zs)の要素のうちのxsとysとzsとを前記装置系座標に含まれる少なくとも2つの要素として、
前記推定部は、下記式(12)で表される前記関係式に基づく演算により、前記垂直軸ずれ角度θpと、前記ロール角度θrと、前記搭載高さHと、を決定するように構成された
軸ずれ推定装置。
【数9】
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の軸ずれ推定装置であって、
前記推定部(S30、S220、S230)は、前記軸ずれ角度と前記レーダ装置の搭載高さとを含む前記2つの未知パラメータと、前記路面反射点の前記装置系座標に含まれる前記2つの要素と、の間に成立する関係式を用いて、前記軸ずれ角度と前記レーダ装置の搭載高さと、を推定するように構成された
軸ずれ推定装置。
【請求項5】
請求項4に記載の軸ずれ推定装置であって、
前記水平軸を対象軸とし、前記水平軸まわりの前記軸ずれ角度である垂直軸ずれ角度θpと前記搭載高さHとを前記未知パラメータとし、前記路面反射点の前記装置系座標(xs、ys、zs)の要素のうちのxsとzsとを前記装置系座標に含まれる2つの要素として、
前記推定部は、下記式(1)-式(3)で表される前記関係式に基づく演算により、前記垂直軸ずれ角度と、前記搭載高さと、を決定するように構成された
軸ずれ推定装置。
【数1】
【数2】
【請求項6】
請求項4に記載の軸ずれ推定装置であって、
前記進行方向軸を対象軸とし、前記進行方向軸まわりの前記軸ずれ角度であるロール角度θrと前記搭載高さHとを前記未知パラメータとし、前記路面反射点の前記装置系座標(xs、ys、zs)の要素のうちのysとzsとを前記装置系座標に含まれる2つの要素として、
前記推定部は、下記式(10)(11)(3)で表される前記関係式に基づく演算により、前記ロール角度θrと、前記搭載高さHと、を決定するように構成された
軸ずれ推定装置。
【数7】
【数8】
【数16】
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の軸ずれ推定装置であって、
前記抽出部は、前記移動体が前記路面に対して安定している状態である場合に、前記路面反射点を抽出する、
軸ずれ推定装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の軸ずれ推定装置であって、
前記レーダ装置により検出された複数の前記反射点情報に基づいて、前記複数の反射点のうちから、前記レーダ装置からの距離が距離閾値未満である少なくとも1つの反射点を前記路面反射点として抽出する、
軸ずれ推定装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の軸ずれ推定装置であって、
前記レーダ装置により検出された複数の前記反射点情報に基づいて、前記複数の反射点に含まれる受信強度の反射電力が電力閾値未満である少なくとも1つの反射点を前記路面反射点として抽出する、
軸ずれ推定装置。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の軸ずれ推定装置であって、
前記移動体にはカメラが搭載され、該カメラによる撮像画像を取得し、該撮像画像において前記路面であると識別される方位範囲を推定することにより、前記レーダ装置により
検出された複数の反射点のうちから、前記撮像画像において前記路面であると推定される方位範囲にある少なくとも1つの反射点を前記路面反射点として抽出する、
軸ずれ推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、物体の方位や相対速度を検出するレーダ装置の軸ずれを推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車載レーダ装置では、何らかの原因で設置状態が変化することでレーダビームの中心軸がずれる所謂軸ずれが生じ得る。例えば下記特許文献1には、軸ずれが発生したときは車両近くからの反射波の受信強度が最大となることに基づいて、車載レーダ装置の軸ずれ角度を推定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許6321448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、発明者の詳細な検討の結果、特許文献1に記載の従来装置では、高さ方向におけるレーダ装置の軸ずれを推定できない、という課題が見出された。
本開示の1つの局面は、レーダ装置の軸ずれ角度と高さ方向における軸ずれとの両方を推定できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様は、移動体に搭載された軸ずれ推定装置(4、46)である。軸ずれ推定装置は、取得部(S10)と、抽出部(S20)と、装置系座標部(S30、S210)と、推定部(S30、S220、S230)と、を備える。
【0006】
取得部は、レーダ装置により検出された複数の反射点のそれぞれについて、反射点情報を取得するように構成される。反射点情報は、反射点についての方位角であってレーダビームの中心軸に沿った方向であるビーム方向を基準として求められた水平角度及び垂直角度と、レーダ装置と反射点との距離と、を少なくとも含む。抽出部は、少なくとも反射点情報に基づいて、複数の反射点のうち路面での反射により検出された少なくとも1つの路面反射点を抽出するように構成される。
【0007】
装置系座標部は、反射点情報に基づいて、路面反射点それぞれについて、レーダ装置の座標軸に基づく三次元座標である装置系座標、を特定するように構成される。推定部は、軸ずれ角度とレーダ装置の搭載高さとを含む少なくとも2つの未知パラメータと、路面反射点の装置系座標に含まれる少なくとも2つの要素と、の間に成立する関係式を用いて、軸ずれ角度と搭載高さとを推定するように構成される。軸ずれ角度は、移動体の座標軸である水平軸及び進行方向軸のうちの1つである対象軸まわりのレーダ装置の座標軸のずれ角度である。
【0008】
この結果、軸ずれ推定装置は、軸ずれ角度と、搭載高さとを、同時に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】車両制御システムの構成を示すブロック図。
図2】レーダ波の水平方向における照射範囲を説明する説明図。
図3】レーダ波の垂直方向における照射範囲を説明する説明図。
図4】信号処理部の機能を説明するブロック図。
図5】垂直軸ずれ角度及びロール角度を説明する説明図。
図6】垂直軸ずれの例を説明する説明図。
図7】レーダ装置の高さ方向における位置のずれを説明する説明図。
図8】第1実施形態の軸ずれ推定処理のフローチャート。
図9】路面反射抽出処理のフローチャート。
図10】第1実施形態の算出処理のフローチャート。
図11】第1実施形態において垂直軸ずれ角度を推定する原理を説明する説明図。
図12】変形例1の算出処理のフローチャート。
図13】変形例1においてロール角度を推定する原理を説明する説明図。
図14】変形例3の算出処理のフローチャート。
図15】変形例3において、垂直軸ずれ角度及びロール角度を推定する原理を示す説明図。
図16】第2実施形態の軸ずれ推定処理のフローチャート。
図17】平坦度処理のフローチャート。
図18】重み付け処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本開示の例示的な実施形態を説明する。なお、以下でいう「垂直」とは、厳密な意味での「垂直」に限るものではなく、同様の効果を奏するのであれば厳密に「垂直」でなくてもよい。以下でいう「水平」、「一致」についても同様である。
【0011】
[1.第1実施形態]
[1-1.構成]
(1)全体構成
図1に示す車両制御システム1は、移動体である車両VHに搭載されるシステムである。車両制御システム1は、レーダ装置2と、車載センサ群3と、信号処理部4と、支援実行部5とを備える。又、車両制御システム1は、軸ずれ通知装置51、調整装置52を備えていてもよい。以下では、車両制御システム1を搭載する車両VHを自車VHともいう。また、自車VHの車幅方向を水平方向、車高方向を垂直方向ともいう。
【0012】
レーダ装置2は、図2及び図3に示すように、自車VHの前側に搭載される。レーダ装置2は、自車VH前方の水平方向における所定角度範囲Ra内及び自車VH前方の垂直方向における所定角度範囲Rb内に、レーダ波を照射する。レーダ装置2は、照射したレーダ波の反射波を受信することで、レーダ波を反射した反射点に関する反射点情報を生成する。
【0013】
なお、レーダ装置2は、レーダ波としてミリ波帯の電磁波を使用するいわゆるミリ波レーダであってもよいし、レーダ波としてレーザー光を用いるレーザレーダ、レーダ波として音波を用いるソナーであってもよい。いずれにしても、レーダ波を送受信するアンテナ部は、水平方向及び垂直方向のいずれについても反射波の到来方向を検出できるように構成されている。アンテナ部は、水平方向及び垂直方向に並ぶアレイアンテナを備えていてもよい。
【0014】
レーダ装置2は、ビーム方向が、自車VHの前後方向すなわち進行方向と一致するように取り付けられ、自車VHの前方に存在する各種物標を検出するために用いられる。ビーム方向とは、照射するレーダビームの中心軸CA方向に沿った方向である。
【0015】
レーダ装置2が生成する反射点情報には、反射点の方位角、反射点の距離(すなわち、レーダ装置2と反射点との距離)、が少なくとも含まれる。なお、レーダ装置2は、反射点の自車VHに対する相対速度、反射点により反射されたレーダビームの受信強度、を検出するように構成されてもよい。反射点情報には、反射点に相対速度、受信強度が含まれていてもよい。
【0016】
反射点の方位角とは、図2、3に示すように、レーダビームの中心軸CAに沿った方向であるビーム方向を基準として求められた、反射点が存在する水平方向の角度(以下、水平角度)Hor及び垂直方向の角度(以下、垂直角度)Verの少なくとも一方である。本実施形態では、垂直角度Ver及び水平角度Horの両方が反射点の方位角を表す情報として反射点情報に含まれる。
【0017】
本実施形態では、レーダ装置2は、FMCW方式を採用しており、上り変調区間のレーダ波と下り変調区間のレーダ波を予め設定された変調周期で交互に送信し、反射したレーダ波を受信する。FMCWは、Frequency Modulated Continuous Waveの略である。本実施形態では、レーダ装置2は、変調周期毎に、上述のように反射点の方位角である水平角度Hor及び垂直角度Verと、反射点までの距離と、反射点との相対速度と、受信したレーダ波の受信電力(以下、反射電力)と、を反射点情報として検出する。
【0018】
車載センサ群3は、自車VHの状態等を検出するために自車VHに搭載された少なくとも1つのセンサである。車載センサ群3には、車速センサが含まれていてもよい。車速センサは、車輪の回転に基づいて車速を検出するセンサである。また、車載センサ群3には、カメラが含まれていてもよい。該カメラは、レーダ装置2によるレーダ波の照射範囲と同様の範囲を撮像する。
【0019】
また、車載センサ群3には、加速度センサが含まれていてもよい。加速度センサは、自車VHの加速度を検出する。また、車載センサ群3には、ヨーレートセンサが含まれていてもよい。ヨーレートセンサは、自車VH前方に対する自車VHの進行方向の傾きを表すヨー角の変化速度を検出する。
【0020】
また、車載センサ群3には、地図情報を備えるナビゲーション装置が含まれていてもよい。ナビゲーション装置は、GPS信号等に基づいて自車VHの位置を検出し、該自車VHの位置と地図情報とを対応づけるものであってもよい。地図情報には、道路に関する各種情報として、道路の路面の平坦度を示す数値が含まれていてもよい。車載センサ群3が備えるそれぞれのセンサは、通信線によって信号処理部4と接続される。
【0021】
信号処理部4は、CPU41と、ROM43、RAM44、フラッシュメモリ等の半導体メモリ(以下、メモリ42)と、を含むマイコンを備える。信号処理部4の各種機能は、CPU41が非遷移的実体的記録媒体に格納されたプログラムを実行することにより実現される。この例では、メモリ42が、プログラムを格納した非遷移的実体的記録媒体に該当する。また、このプログラムが実行されることで、プログラムに対応する方法が実行される。なお、信号処理部4は、1つのマイコンを備えていてもよいし、複数のマイコンを備えていてもよい。
【0022】
信号処理部4は、図4に示すように、認識部45、推定部46の機能を備える。認識部45は、レーダ装置2から得られる反射点情報や車載センサ群3から得られる各種情報に基づいて、自車VHが走行する車線や、自車VHと同一車線を走行する先行車両、その他の車両や障害物等を検出する。認識部45での検出結果は、支援実行部5等に出力される。推定部46は、後述するように、レーダ装置2の軸ずれを推定する。
【0023】
支援実行部5は、認識部45での検出結果に基づき、各種車載機器を制御して、所定の運転支援を実行する。制御対象となる各種車載機器には、画像を表示するモニタ、警報音や案内音声を出力する音響機器が含まれていてもよい。又、自車VHの内燃機関、パワートレイン機構、ブレーキ機構等を制御する制御装置が含まれていてもよい。
【0024】
軸ずれ通知装置51は、車室内に設置された音声出力装置であり、自車VHの乗員に対して警告音を出力する。なお、支援実行部5が備える音響機器等が軸ずれ通知装置51として用いられてもよい。
【0025】
調整装置52は、モータと、レーダ装置2に取り付けられた歯車とを備える。調整装置52は、信号処理部4から出力される駆動信号に従ってモータを回転させる。これにより、モータの回転力が歯車に伝達され、水平方向に沿った軸及び垂直方向に沿った軸を中心にレーダ装置2を回転させることができる。また、調整装置52は、レーダ装置2を垂直方向において上下させることができる。
【0026】
(2)レーダ装置2の軸ずれ
推定部46によって検出される、レーダ装置2の軸ずれについて説明する。軸ずれとは、レーダ装置2が自車VHに正確に取り付けられるときの該レーダ装置2の座標軸に対して、レーダ装置2が自車VHに実際に取り付けられたときの該レーダ装置2の座標軸が、ずれていることをいう。レーダ装置2の軸ずれには、装置座標軸まわりの軸ずれと、高さ方向の軸ずれと、が含まれる。
【0027】
(a)座標軸
レーダ装置2の座標軸及び自車VHの座標軸について説明する。
ここで、レーダ装置2の座標軸とは、図5に示すように、自車VHにレーダ装置2が取り付けられた状態において、レーダ装置2の上下に延びる上下軸Zs、レーダ装置2の左右に延びる左右軸Ys、及びレーダ装置2の前後に延びる前後軸Xs、をいう。上下軸Zs、左右軸Ys、及び前後軸Xsは互いに直交する。自車VHの前方にレーダ装置2が設置される本実施形態では、前後軸Xsは中心軸CAに等しい。
【0028】
一方、自車VHの座標軸とは、鉛直方向に延びる軸である垂直軸Zc、水平方向に延びる軸である水平軸Yc、及び自車VHの進行方向に延びる進行方向軸Xc、をいう。垂直軸Zc、水平軸Yc、及び進行方向軸Xcは互いに直交する。
【0029】
なお、上述のように本実施形態では、レーダ装置2が自車VHに正確に取り付けられたときには、中心軸CAは自車VHの進行方向に一致する。つまり、レーダ装置2の座標軸と自車VHの座標軸とは、それぞれ方向が一致する。例えば工場からの出荷時のような初期状態においては、レーダ装置2は、自車VHに正確に、すなわち予め定められた位置に、取り付けられている。自車VHに正確に取り付けられたレーダ装置2の検出結果に基づいて、認識部45では、物標認識の機能が精度良く実現される。
【0030】
(b)装置座標軸まわりの軸ずれ
初期状態以降、自車VHにおいては、装置座標軸まわりの軸ずれが生じ得る。このような軸ずれには、垂直軸ずれとロール軸ずれと、が含まれる。軸ずれ角度とは、このような軸ずれの大きさを角度で表したものである。
【0031】
ここで、垂直軸ずれとは、レーダ装置2の座標軸である上下軸Zsと自車VHの座標軸である垂直軸Zcとにずれが生じている状態をいう。このような垂直軸ずれ時の軸ずれ角度を、垂直軸ずれ角θpという。垂直軸ずれ角θpは、所謂ピッチ角θpであり、自車VHの水平軸Ycまわりの、レーダ装置2の座標軸(すなわち、左右軸Ys)の軸ずれ角度である。つまり、垂直軸ずれ角θpは、レーダ装置2の左右軸Ysまわりの軸ずれが生じているときの軸ずれ角度である。なお、垂直軸ずれ角θpは、図5から明らかであるように、レーダ装置2の座標軸である前後軸Xsと自車VHの座標軸である進行方向軸Xcとのずれの大きさを表す角度でも有り得る。
【0032】
一方、ロール軸ずれとは、レーダ装置2の座標軸である左右軸Ysと、自車VHの座標軸である水平軸Ycとにずれが生じている状態をいう。このようなロール軸ずれ時の軸ずれ角度をロール角度θrという。つまり、ロール角度θrは、自車VHの進行方向軸Xcまわりの、レーダ装置2の座標軸(すなわち、前後軸Xs)の軸ずれ角度である。つまり、ロール角度θrは、レーダ装置2の前後軸Xsまわりの軸ずれが生じているときの軸ずれ角度である。
【0033】
例えば図6は、垂直軸ずれ、すなわちレーダ装置2の左右軸Ysまわりの軸ずれ、が生じている様子を示している。
(c)高さ方向の軸ずれ
上述のように、レーダ装置2は、初期状態においては、自車VHに、正確に、予め定められた位置に取り付けられている。以下でいう初期高さとは、このときのレーダ装置2の路面からの高さをいう。初期高さは、例えばROM43といったメモリ42、に予め記憶されている。
【0034】
初期状態以降、自車VHにおいては、レーダ装置2に高さ方向の軸ずれ(以下、高さずれ)が生じ得る。高さずれの例を図7に示す。点線で示されているレーダ装置200は、初期高さFに設置されているときの位置を示す。高さずれは、例えば、ユーザが、自車VHのタイヤを初期高さが記憶されたときとは異なるタイヤ径のタイヤに交換するときや、自車VHのサスペンションを初期高さが記憶されたときとは異なるサスペンションに交換するとき等に生じ得る。
【0035】
高さずれとは、垂直方向において、搭載高さHに、予め定められた高さである初期高さからのずれが生じている状態をいう。搭載高さHとは、自車VHに搭載されたレーダ装置2の路面からの高さをいう。高さずれ量Dとは、このような高さずれの大きさを距離で表したものである。
【0036】
自車VHの前方にレーダ装置2が設置される本実施形態では、前後軸Xsは中心軸CAに等しい。つまり、高さずれ量Dは、進行方向軸Xcとレーダ装置2の前後軸Xsとの垂直方向の距離に相当する。
【0037】
推定部46は、後述する軸ずれ推定処理を実行し、上述のようなレーダ装置2の軸ずれを推定する。
[1-2.処理]
(1-1)軸ずれ推定処理
次に、信号処理部4が実行する軸ずれ推定処理について、図8のフローチャートを用いて説明する。本処理は、イグニションスイッチがオンされたことをきっかけとして開始される。なお、以下では、信号処理部4が、軸ずれ推定処理によって、軸ずれ角度としての垂直軸ずれ角度(すなわち、ピッチ角)θpと、レーダ装置2の搭載高さHと、を推定する例を説明する。
【0038】
信号処理部4は、本処理が起動すると、S10にて、レーダ装置2から反射点情報を取得する。上述のように、反射点情報とは、自車VHに搭載されたレーダ装置2により検出された複数の反射点のそれぞれについての情報である。反射点情報には、反射点の方位角としての水平角度及び垂直角度と、レーダ装置2と反射点との距離と、を少なくとも含む。以下では、反射点情報から特定される反射点を、取得反射点という。また、信号処理部4は、車載センサ群3から、自車速Cm等を含む、各種検出結果を取得する。
【0039】
信号処理部4は、S20では、路面反射抽出処理を実行する。路面反射抽出処理は、取得反射点のうちから、路面上の反射点である路面反射点を抽出するための処理である。路面反射点とは、路面での反射により検出された反射点をいう。路面反射抽出処理の詳細については後述する。
【0040】
信号処理部4は、S30では、算出処理を実行する。算出処理は、少なくとも路面反射点の位置に基づいて、レーダ装置2の軸ずれ角度とレーダ装置2の搭載高さHとを推定する処理である。本実施形態では、信号処理部4は、レーダ装置2の軸ずれ角度としての垂直軸ずれ角度θpと、レーダ装置2の搭載高さHと、を推定する。算出処理の詳細については後述する。
【0041】
信号処理部4は、S40では、高さずれ量Dを特定する。本実施形態では、高さずれ量Dは、S30にて推定された搭載高さHと初期高さとの差をいう。推定部46は、特定した高さずれ量Dをメモリ42に記憶する。
【0042】
信号処理部4は、S50では、S30にて推定された軸ずれ角度、及びS40にて推定された高さずれ量D、が搭載高さ調整装置52による調整を必要とするか否かを判断する。信号処理部4は、垂直軸ずれ角度θpが予め定められた角度である閾値角度以上であること、及び、高さずれ量Dが予め定められた距離である閾値距離以上であること、のうち少なくとも一方が満たされる場合に、調整を必要とすると判断する。ここで、信号処理部4は、調整を必要としないと判断した場合に、すなわち、垂直軸ずれ角度θpが閾値角度未満であり、且つ、高さずれ量Dが閾値距離未満である場合に、処理をS90へ移行させる。一方、信号処理部4は、調整を必要とすると判断した場合に、処理をS60へ移行させる。
【0043】
信号処理部4は、S60では、S30にて推定された軸ずれ角度、及びS40にて推定された高さずれ量Dの両方が、調整装置52による調整可能範囲内であるか否かを判断する。ここで、信号処理部4は、垂直軸ずれ角度θp及び高さずれ量Dの両方が調整可能範囲内である場合に処理をS70へ移行させる。一方、信号処理部4は、垂直軸ずれ角度θp及び高さずれ量Dの少なくとも一方が調整可能範囲外である場合に、処理をS80へ移行させる。
【0044】
信号処理部4は、S70では、調整装置52によって、S30にて推定された軸ずれ角度ぶんレーダ搭載角を調整する。つまり、信号処理部4は、レーダ装置2の左右軸Ysを中心に該左右軸Ysまわりにレーダ装置2を垂直軸ずれ角度θpぶん回転させて、レーダ装置2の搭載角度を調整する。又、信号処理部4は、調整装置52によって、S40にて推定された高さずれ量Dぶん搭載高さHを調整する。つまり、信号処理部4、レーダ装置2の前後軸Xsを中心に車高方向にレーダ装置2を高さずれ量Dぶん上下させて、搭載高さHを調整する。そして、信号処理部4は、軸ずれ推定処理を終了する。
【0045】
なお、信号処理部4は、本軸ずれ推定処理とは別処理において、S10にて取得された反射点の方位角を、S30にて推定された軸ずれ角度ぶん補正した方位角を算出してもよい。そして、信号処理部4は、補正後の方位角に基づいて、認識部45を実行させてもよい。
【0046】
信号処理部4は、S80では、レーダ装置2に軸ずれが生じていることを示すダイアグ情報(以下、軸ずれダイアグ)を信号処理部4の外部装置に出力する。外部装置は軸ずれ通知装置51であってもよい。信号処理部4は、例えば、軸ずれ通知装置51に軸ずれダイアグを出力してもよい。軸ずれ通知装置51は、軸ずれダイアグに従って警告音を出力してもよい。
【0047】
信号処理部4は、S90では、イグニションスイッチがオフされたか否かを判断する。ここで、信号処理部4は、イグニションスイッチがオフされていない場合に処理をS10へ移行させる。一方、信号処理部4は、イグニションスイッチがオフされた場合に、以上で本軸ずれ推定処理を終了する。
【0048】
(2-2)路面反射抽出処理
次に、信号処理部4が軸ずれ推定処理のS20にて実行する路面反射抽出処理について、図9のフローチャートを用いて説明する。
【0049】
信号処理部4は、S100では、車載センサ群3から各種センサによる自車VHの状態等の検出結果を取得する。ここでいう検出結果には、自車VHの車速、加速度、ヨー角、等が含まれ得る。
【0050】
信号処理部4は、S110では、車載センサ群3から取得した自車VHの状態等の検出結果に基づいて、路面反射点を抽出するか否かを判断する。
具体的には、信号処理部4は、自車VHの状態等の検出結果に基づいて自車VHの車体が路面に対して安定しているか否か判断し、自車VHの車体が路面に対して安定している状態である場合に、路面反射点を抽出すると判断する。
【0051】
自車VHの車体が路面に対して安定している状態とは、自車VHの車体が路面に対して傾いていない状態や、自車VHの車体が路面に対して上下に移動していない状態で有り得る。換言すれば、自車VHの車体が路面に対して安定している状態とは、曲率の大きいカーブ道路を走行していない状態や、凹凸の大きい路面を走行していない状態で有り得る。
【0052】
ここで、凹凸の大きい路面を走行していないときとは、平坦な路面を走行しているときであるといえる。この場合は、凹凸の大きい路面を走行しているときよりも、速度及び加速度が大きいと考えられる。一方、曲率の大きいカーブ道路を走行していないときとは、直線道路を走行している状態に近いときであるといえる。この場合は、速度及び加速度が、曲率の大きいカーブ道路を走行しているときよりも大きく、曲率の大きいカーブ道路を走行しているときよりも、ヨー角の変化速度が小さい場合が多い。
【0053】
そこで、信号処理部4は、自車VHの車速が予め定められた車速閾値以上である場合に、自車VHの車体が路面に対して安定している状態であると判断し、路面反射点を抽出すると判断してもよい。つまり、信号処理部4は、自車VHの車速が車速閾値未満である場合、自車VHの車体が路面に対して安定していない状態であると判断し、路面反射点を抽出しない、と判断してもよい。
【0054】
同様に、信号処理部4は、自車VHの加速度が予め定められた加速度閾値以上である場合に、自車VHの車体が路面に対して安定している状態であると判断し、路面反射点を抽出すると判断してもよい。また同様に、信号処理部4は、自車VHのヨー角の変化速度が予め定められた閾値未満である場合に、自車VHの車体が路面に対して安定している状態であると判断し、路面反射点を抽出すると判断してもよい。
【0055】
信号処理部4は、路面反射点を抽出すると判断した場合に処理をS120へ移行させ、路面反射点を抽出しないと判断した場合に処理をS180へ移行させる。
信号処理部4は、S120では、全ての取得反射点のうちから1つの取得反射点を選択する。信号処理部4は、選択した取得反射点(以下、単に取得反射点という)について、S130-S195の処理を実行する。
【0056】
信号処理部4は、S130では、取得反射点が水平方向において中心軸CAを含む所定の方位範囲である抽出範囲内に位置するか否かを判断する。信号処理部4は、取得反射点が該方位範囲内に位置する場合に処理をS140へ移行させ、選択した取得反射点が該方位範囲内に位置しない場合に処理をS190へ移行させる。
【0057】
つまり、信号処理部4は、複数の取得反射点のうちから抽出範囲内に位置する取得反射点を抽出する。抽出範囲は、例えば、水平方向において中心軸CAを含む±数°-数十°の範囲に定められていてもよい。換言すれば、抽出範囲は、自車VHの前方にレーダ装置2が設置されている本実施形態では、自車VHの進行方向付近の所定の範囲に定められていてもよい。抽出範囲は、実験等によって予め定められていてもよい。抽出範囲は、予めメモリ42に記憶されている。
【0058】
信号処理部4は、S140では、選択した取得反射点についてのレーダ装置2からの距離が所定の距離閾値未満であるか否かを判断する。信号処理部4は、選択した取得反射点についての距離が距離閾値未満である場合に処理をS150へ移行させ、選択した取得反射点についての距離が距離閾値以上である場合に処理をS190へ移行させる。
【0059】
つまり、信号処理部4は、レーダ装置2からの距離が距離閾値未満である取得反射点を抽出する。距離閾値は、予めメモリ42に記憶されている。
信号処理部4は、S150では、取得反射点が静止反射点であるか否かを判断する。信号処理部4は、取得反射点が静止反射点である場合に処理をS160へ移行させ、取得反射点が静止反射点でない場合に処理をS190へ移行させる。静止反射点とは、静止物によってレーダ波が反射された反射点である。
【0060】
つまり、信号処理部4は、取得反射点のうち、静止反射点を抽出する。具体的には、信号処理部4は、S10にて取得した自車速Cmを用い、反射点情報に含まれる相対速度をq、予め設定された下限の速度閾値をε1、上限の速度閾値をε2として、ε1≦q/Cm<ε2を満たす取得反射点を静止反射点として抽出してもよい。すなわち、相対速度qに対する自車速Cmの比が、ε1以上ε2未満といった予め定められた速度閾値範囲内となる取得反射点を静止反射点として抽出してもよい。
【0061】
静止反射点からレーダ装置2に向かう方向とビーム方向とが一致している場合は、その自車速Cmと反射点の相対速度qは同じ大きさとなり、かつ相対速度qの向きは自車速Cmとは反対であるため、q/Cm=-1となる。このように、q/Cm=-1となる反射点は静止反射点であると考えられる。
【0062】
但し、車載センサ群3から取得される自車速Cmは、車輪のスリップ等によって実際の車速とは必ずしも一致しない。また、レーダ装置2にて検出される相対速度qにも誤差が含まれる。このため、静止反射点であったとしても、必ずしもq/Cm=-1になるとは限らない場合がある。下限の速度閾値ε1及び上限の速度閾値ε2は、これらの影響を考慮して適宜設定された値を用いてもよい。
【0063】
信号処理部4は、S160では、取得反射点の反射電力が予め定められた電力閾値未満であるか否かを判断する。信号処理部4は、取得反射点の反射電力が電力閾値未満である場合に処理をS170へ移行させ、取得反射点の反射電力が電力閾値以上である場合に処理をS190へ移行させる。
【0064】
つまり、信号処理部4は、反射電力が電力閾値未満である取得反射点を抽出する。路面からの反射電力は例えば他の車両からの反射電力よりも小さいと考えられる。電力閾値はこのような路面からの反射電力に基づいて適宜定められてもよい。例えば電力閾値は、実験等により予め定められていてもよい。電力閾値は、予めメモリ42に記憶されている。
【0065】
信号処理部4は、S170では、取得反射点がカメラによる撮像画像において路面であると識別されているか否かを判断する。信号処理部4は、取得反射点が撮像画像において路面であると推定されている場合に処理をS180へ移行させ、取得反射点が撮像画像において路面であると推定されていない場合に処理をS195へ移行させる。
【0066】
つまり、信号処理部4は、撮像画像において路面であると識別されている取得反射点を抽出する。なお、信号処理部4は、本軸ずれ推定処理とは別処理において、カメラによる撮像画像を取得し、撮像画像において路面であると識別される方位範囲を推定するように構成されていてもよい。
【0067】
信号処理部4は、S180では、取得反射点を路面反射点であると判断して、該取得反射点の三次元座標を路面反射点としてメモリ42に記憶し、処理をS195へ移行させる。
信号処理部4は、S190では、取得反射点を路面反射点でないと判断して、メモリ42に記憶すること無く、処理をS195へ移行させる。
【0068】
信号処理部4は、S195では、全ての取得反射点について路面反射点であるか否かの確認を終了したか、判断する。ここで、信号処理部4は、確認を終了していない場合に処理をS110へ移行させ、S110-S195の処理を繰り返す。一方、信号処理部4は、確認を終了した場合に、本路面反射抽出処理を終了する。
【0069】
つまり、本実施形態の路面抽出処理では、取得反射点のうち、次の(a)-(d)の全てを満たす取得反射点を路面反射点として抽出する。
(a)水平方向において中心軸CAを含む抽出範囲内に位置すること。
【0070】
(b)レーダ装置2からの距離が距離閾値未満であること。
(c)静止反射点であること。
(d)反射電力が電力閾値未満であること。
【0071】
(e)カメラによる撮像画像において路面であると識別されていること。
なお、路面反射抽出処理は、上記(a)-(e)のうち、少なくとも(a)を満たすように構成されてもよい。つまり、路面反射抽出処理は、(a)を満たし、且つ、(b)-(e)のうち少なくとも1つを更に満たすように構成されてもよい。又は、路面反射抽出処理は、(a)及び(b)を少なくとも満たすように構成されてもよい。つまり、路面反射抽出処理は、(a)及び(b)満たし、路面反射抽出処理は、(c)-(e)のうち少なくとも1つを更に満たすように構成されてもよい。
【0072】
[2-3.算出処理]
次に、信号処理部4が軸ずれ推定処理のS30にて実行する、算出処理について、図10のフローチャートを用いて説明する。信号処理部4は、算出処理によって、垂直軸ずれ角度θpと搭載高さHとを推定する。
【0073】
信号処理部4は、S210では、反射点情報に基づいて、反射点情報に含まれる距離と方位角とを用いて、路面反射点についての装置系座標を算出する。装置系座標とは、レーダ装置2の座標軸に基づく三次元座標である。装置系座標は、ビーム方向に直交する平面上での水平距離(以下、ys)、垂直距離(以下、zs)、及びビーム方向の距離(以下、xs)と、を要素とする座標である。信号処理部4は、全ての路面反射点について装置系座標(xs、ys、zs)を算出し、メモリ42に記憶する。
【0074】
信号処理部4は、S220では、垂直軸ずれ角度θpとレーダ装置2の搭載高さHとを推定する。具体的には、信号処理部4は、未知パラメータである垂直軸ずれ角度θpと、未知パラメータである搭載高さHと、装置系座標に含まれる2つの要素(すなわち、xs及びzs)と、の間に成立する関係式(すなわち、式(1))を用いて、推定を行う。
【0075】
【数1】
【0076】
【数2】
式(1)におけるA及びBは、式(2)に示すとおりである。また、複数個(すなわち、n個)検出された場合、それぞれの路面反射点の装置系座標は、(xsn、ysn、zsn)の様に表される。但し、nは、2以上の整数である。それぞれの路面反射点におけるxs、ys、zsは、式(3)のように表される。つまり、Aはn×2行列であり、Bはn×1行列である。
【0077】
信号処理部4は、式(1)に基づいて、垂直軸ずれ角度θpと搭載高さHとを算出し、算出した垂直軸ずれ角度θpと搭載高さHとをメモリ42に記憶し、本算出処理を終了する。
【0078】
[2-4.関係式の導出]
関係式(すなわち、本実施形態では式(1))の導出について説明する。
なお、はじめに、関係式における軸ずれ角度と装置系座標に含まれる2つの要素と、の対応について説明する。
【0079】
自車VHの座標軸である水平軸Yc及び進行方向軸Xcのうちの1つを対象軸というものとすると、軸ずれ角度とは、対象軸まわりの、レーダ装置2の座標軸のずれ角度であるといえる。例えば、垂直軸ずれ角度θpは、対象軸としての水平軸Ycまわりの、レーダ装置2の座標軸の軸ずれ角度であり、ロール角度θrは、対象軸としての進行方向軸Xcまわりの、レーダ装置2の座標軸の軸ずれ角度である。
【0080】
この対象軸に対応するレーダ装置2の座標軸を対応軸というものとすると、水平軸Ycに対応する対応軸は左右軸Ysであり、進行方向軸Xcに対応する対応軸は前後軸Xsである。
【0081】
上述の装置系座標に含まれる2つの要素とは、レーダ装置2の3つの座標軸のうち対応軸に垂直な平面に含まれる、レーダ装置2の2つの座標軸に関する要素である。換言すれば、上述の装置系座標に含まれる2つの要素は、レーダ装置2の3つの座標軸のうち対応軸に垂直な平面である投影面に路面反射点を投影した投影点の座標に相当する。
【0082】
垂直軸ずれ角度θpを推定する本実施形態では、対象軸は水平軸Ycであり、対応軸は左右軸Ysである。これより、対応軸である左右軸Ysに垂直な平面に含まれる、レーダ装置2の上下軸Zs、及び前後軸Xsに関する要素(すなわち、zs、及びxs)が、上述の装置系座標に含まれる2つの要素に相当する。換言すれば、装置系座標に含まれる2つの要素zs、及びxsは、左右軸Ysに垂直な投影面に路面反射点を投影した投影点の座標に相当する。
【0083】
なお、ロール角度θrを推定する例(すなわち、後述する変形例1)では、対象軸は進行方向軸Xcであり、対応軸は前後軸Xsである。これより、対応軸である前後軸Xsに垂直な平面に含まれる、レーダ装置2の左右軸Ys、及び上下軸Zsに関する要素(すなわち、ys及びzs)が、上述の装置系座標に含まれる2つの要素に相当する。換言すれば、装置系座標に含まれる2つの要素、ys及びzsは、前後軸Xsに垂直な投影面に路面反射点を投影した投影点の座標に相当する。
【0084】
このようにして、関係式における2つの要素が特定される。
次に、関係式の導出について説明する。以下では、垂直軸ずれ角度θpを推定する関係式(すなわち、式(1))の導出を説明する。
【0085】
図11に示すように、路面反射点は路面上に位置する。つまり、路面反射点は、路面という、同一平面上に位置する。このことから、複数の路面反射点は、上述の投影面において直線状に並ぶと考えられる。
【0086】
ここで、レーダ装置2に高さずれが生じていないものと仮定すると、投影面において、レーダ装置2の座標軸である前後軸Xs及び上下軸Zsは、垂直軸ずれ角度θpぶん回転させることにより、自車VHの座標軸である進行方向軸Xc及び垂直軸Zcに一致する。
【0087】
つまり、投影面において、装置系座標の2つの要素(xs、zs)は、進行方向軸Xcまわりに垂直軸ずれ角度θpぶんレーダ装置2の座標軸をずらすことによって、車両系座標の2つの要素(xc、zc)に一致する。ここで、車両系座標とは、自車VHの座標軸に基づく三次元座標(xc、yc、zc)である。
【0088】
換言すれば、投影面において、装置系座標の2つの要素(xs、zs)は、前後軸Xsまわりに、垂直軸ずれ角度θpぶんレーダ装置2を回転させることによって、車両系座標の2つの要素(xc、zc)に一致する。つまり、次に示す式(4)が成立する。
【0089】
【数3】
一方、図9より、車両系座標の(zc)の大きさは、搭載高さHに等しく、符号が負となることが明らかである。このことから、式(5)が得られる。
【0090】
【数4】
そして、式(4)及び式(5)から式(6)の関係が得られる。
【0091】
【数5】
そして、式(6)から式(7)の関係が得られ、式(7)から式(8)、式(9)が得られる。
【0092】
【数6】
式(9)において、A、Bを式(2)のように表し、式(1)を得ることができる。
【0093】
[1-3.効果]
以上詳述した第1実施形態によれば、以下の効果を奏する。
(1a)信号処理部4は、S10にて、レーダ装置2により検出された複数の反射点のそれぞれについて、反射点情報を繰り返し取得する。水平角度及び垂直角度は、ビーム方向を基準として求められる。信号処理部4は、S20では、少なくとも反射点情報に基づいて、複数の反射点のうちから複数の路面反射点を抽出する。
【0094】
信号処理部4は、S210では、反射点情報に基づいて、路面反射点それぞれについて、装置系座標を特定する。信号処理部4は、S220では、関係式(すなわち、式(1)-(3))を用いて、垂直軸ずれ角度θpと搭載高さHとを推定する。式(1)は、2つの未知パラメータ(すなわち、垂直軸ずれ角度θp及び搭載高さH)と、路面反射点の装置系座標に含まれる2つの要素(すなわち、xs及びzs)と、の間に成立する関係式である。
【0095】
レーダ装置2によって、反射点それぞれの装置系座標は精度よく検出されている。信号処理部4は、路面反射点の装置系座標に基づいて、軸ずれ角度としての垂直軸ずれ角度θpと、搭載高さHとを、算術的に推定する。
【0096】
従来、軸ずれ角度と搭載高さとを同時に推定する技術は無かった。
信号処理部4は、軸ずれ角度としての垂直軸ずれ角度θpと、搭載高さHとを、同時に推定することができる。この結果、信号処理部4は、軸ずれ角度と搭載高さHに基づく高さずれ量Dとを推定することができる。また、信号処理部4は、垂直軸ずれ角度θpと、搭載高さHとの両方を補正することが可能となる。
【0097】
ところで、軸ずれが発生したときは車両近くからの反射波の受信強度が最大となることに基づいて軸ずれ角度を推定する従来の装置(以下、比較装置)は、搭載高さHにずれが生じていないことを前提としている。つまり、比較装置は、本来は装置座標軸まわりの軸ずれ及び高さずれのいずれが生じているかが判らないところを、高さずれが生じていないものと仮定して軸ずれ角度を推定する。このため、比較装置では、仮に高さずれのみが生じており装置座標軸まわりの軸ずれが生じていない場合であっても、装置座標軸まわりの軸ずれ角度が推定されるおそれがある。つまり、比較装置では、軸ずれ角度の推定誤差が生じるおそれがある。
【0098】
信号処理部4は、軸ずれ角度と、搭載高さとの両方を推定するので、搭載高さを推定できると共に、軸ずれ角度の推定誤差を抑制することができる。
(1b)上述の装置系座標に含まれる2つの要素(すなわち、xs及びzs)は、レーダ装置2の3つの座標軸のうち対応軸(すなわち、左右軸Ys)に垂直な平面に含まれるレーダ装置2の2つの座標軸(すなわち、前後軸Xs、上下軸Zs)に関する要素である。対応軸とは、対象軸(すなわちYc)に対応するレーダ装置2の座標軸である。これにより、二次元座標に基づいて軸ずれ角度が推定されるので、三次元座標である装置系座標を用いる場合よりも、信号処理部4の処理負荷を低減することができる。
【0099】
(1c)信号処理部4は、S110では、自車VHの状態を検出する車載センサ群3から自車VHの状態の検出結果を取得し、検出結果に基づいて自車VHの車体が路面に対して安定しているか否かを判断するように構成されてもよい。そして、信号処理部4は、自車VHの車体が路面に対して安定していると判断された場合に、S20にて、複数の反射点のうちから少なくとも1つの路面反射点を抽出するように構成されてもよい。これにより、斜面や凹凸面といった平面でない路面上の反射点が路面反射点として抽出され難くなる。すなわち、平らな路面上の反射点が路面反射点として抽出され易くなるので、路面反射点が同一平面上に位置することに基づいて、軸ずれ角度を精度よく推定することができる。
【0100】
(1d)信号処理部4は、反射点情報に基づいて、S130では、複数の反射点のうちから、水平方向においてレーダビームの中心軸CAを含む所定の方位範囲内に位置する少なくとも1つの反射点を、路面反射点として抽出するように構成されてもよい。
【0101】
この結果、路面は自車VHの進行方向(すなわち、レーダビームの中心軸CAの方向)の真正面付近に少なくとも位置すると考えられるため、所定の方位範囲を適宜定めることにより、路面における取得反射点を抽出する精度を向上させることができる。
【0102】
(1e)信号処理部4は、反射点情報に基づいて、S140では、複数の反射点のうちから、レーダ装置2からの距離が距離閾値未満である少なくとも1つの反射点を、路面反射点として抽出するように構成されてもよい。この結果、路面は自車VHの直近に少なくとも位置すると考えられるため、距離閾値を適宜定めることにより、路面における反射点を抽出する精度をより向上させることができる。
【0103】
(1f)反射点情報には、反射点の自車VHに対する相対速度が含まれていてもよい。信号処理部4は、該反射点情報に基づいて、S150では、複数の反射点のうちから、静止反射点である少なくとも1つの反射点を、路面反射点として抽出するように構成されてもよい。この結果、路面は自車VHに対して静止しているため、路面における反射点を抽出する精度をより向上させることができる。
【0104】
(1g)反射点情報には、反射点の受信強度が含まれていてもよい。信号処理部4は、該反射点情報に基づいて、S160では、反射電力が電力閾未満である少なくとも1つの反射点を、路面反射点として抽出するように構成されてもよい。この結果、路面からの反射電力は例えば他の車両からの反射電力よりも小さいと考えられるため、路面からの反射電力に基づいて電力閾値を適宜定めることにより、路面における反射点を抽出する精度をより向上させることができる。
【0105】
(1h)信号処理部4は、カメラによる撮像画像を取得し、撮像画像において路面であると識別される方位範囲を推定するように構成されてもよい。信号処理部4は、S170では、複数の反射点のうちから、撮像画像において路面であると推定される方位範囲にある少なくとも1つの反射点を、路面反射点として抽出するように構成されてもよい。これにより、路面反射点を抽出する精度をより向上させることができる。
【0106】
なお、上記実施形態において、自車VHの座標軸が移動体の座標軸に相当する。また、垂直軸ずれ角度θpが軸ずれ角度に相当し、垂直軸ずれ角度θp及び搭載高さHが軸ずれ角度を含む2つの未知パラメータ及び少なくとも2つの未知パラメータに相当し、xs及びzsが装置系座標に含まれる2つの要素及び少なくとも2つの要素に相当する。水平軸Ycが対象軸に相当し、左右軸Ysが対応軸に相当し、対応軸に垂直な平面に含まれるレーダ装置2の2つの座標軸が前後軸Xs及び上下軸Zsに相当する。
【0107】
[1-4.変形例]
(変形例1)変形例1では、信号処理部4は、垂直軸ずれ角度θpに代えて、ロール角度θrを軸ずれ角度として推定してもよい。具体的には、信号処理部4は、図10に示す算出処理に代えて、図12に示す算出処理を実行してもよい。図12に示す算出処理では、図10におけるS220がS230に置換される。
【0108】
信号処理部4は、S210では、図10に示すS210と同様に、反射点情報に基づいて、路面反射点それぞれについて、装置系座標を特定する。
信号処理部4は、S230では、軸ずれ角度としてのロール角度θrと搭載高さHとを推定する。具体的には、信号処理部4は、未知パラメータであるロール角度θrと、未知パラメータであるレーダ装置2の搭載高さHと、装置系座標に含まれる2つの要素(すなわち、ys及びzs)と、の間に成立する関係式(すなわち、式(10))を用いて、推定を行う。
【0109】
【数7】
【0110】
【数8】
但し、式(11)におけるA及びBは、式(11)に示すとおりである。なお、式(11)におけるys、zsは、式(3)に示すとおりである。
【0111】
信号処理部4は、式(10)に基づいて、ロール角度θrと搭載高さHとを算出し、算出したロール角度θrと搭載高さHとをメモリ42に記憶し、本算出処理を終了する。
なお、図13に示すように、路面反射点は、路面という、同一平面上に位置する。このことから、複数の路面反射点は、前後軸Xsに垂直な投影面(すなわち、Ys-Zs平面)においては直線状に並ぶと考えられる。関係式(すなわち、式(10))は、上述の式(4)-(9)と同様に、上述の式(4)-(9)における垂直軸ずれ角度θpをロール角度θrに置換し、xsをysに置換することによって得ることができる。
【0112】
このように、変形例1における軸ずれ推定装置である信号処理部4は、進行方向軸Xcを対象軸とし、進行方向軸Xcまわりの軸ずれ角度であるロール角度θrと搭載高さHとを未知パラメータとする。また、信号処理部4は、路面反射点の装置系座標のうちのysとzsとを2つの要素とする。信号処理部4では、推定部46は、上述の式(10)-(11)、及び(3)に基づく演算により、ロール角度θrと、搭載高さHと、を決定するように構成されている。
【0113】
この結果、信号処理部4は、軸ずれ角度としてのロール角度θrと、搭載高さHとを、同時に推定することができる。
なお、変形例1において、ロール角度θrが軸ずれ角度に相当し、ロール角度θr及び搭載高さHが軸ずれ角度を含む2つの未知パラメータ及び少なくとも2つの未知パラメータに相当する。ys及びzsが装置系座標に含まれる2つの要素及び少なくとも2つの要素に相当する。前後軸Xsが対応軸に相当し、対応軸に垂直な平面に含まれるレーダ装置2の2つの座標軸が左右軸Ys及び上下軸Zsに相当する。
【0114】
(変形例2)信号処理部4は、垂直軸ずれ角度θpと、ロール角度θrとを軸ずれ角度として、垂直軸ずれ角度θp及びロール角度θrと、搭載高さHと、を推定してもよい。具体的には、信号処理部4は、図10に示す算出処理のS220の後に図12に示す算出処理のS230を追加した処理、を実行してもよい。なお、搭載高さHとしては、S220、及S230に基づいて、それぞれ算出された値の平均値を用いてもよい。
【0115】
(変形例3)信号処理部4は、(変形例2)とは異なる算出方法で、垂直軸ずれ角度θp及びロール角度θrを軸ずれ角度として、垂直軸ずれ角度θp及びロール角度θrと、搭載高さHと、を推定してもよい。具体的には、信号処理部4は、図10に示す算出処理に代えて、図14に示す算出処理を実行してもよい。図14に示す算出処理では、図10におけるS220がS240に置換される。
【0116】
信号処理部4は、S240では、軸ずれ角度としての垂直軸ずれ角度θp及びロール角度θrと、搭載高さHと、を推定する。具体的には、信号処理部4は、未知パラメータである垂直軸ずれ角度θpと、未知パラメータであるロール角度θrと、未知パラメータであるレーダ装置2の搭載高さHと、装置系座標に含まれる3つの要素(すなわち、xs、ys及びzs)と、の間に成立する関係式(すなわち、式(12))を用いて、推定を行う。
【0117】
【数9】
信号処理部4は、式(12)に基づいて、垂直軸ずれ角度θp及びロール角度θrと、搭載高さHとを算出し、算出した垂直軸ずれ角度θp及びロール角度θrと搭載高さHとをメモリ42に記憶し、本算出処理を終了する。
【0118】
なお、式(12)は、図15に示すように、レーダ装置2の座標軸を、左右軸Ysまわりに垂直軸ずれ角度θpぶん、及び前後軸Xsまわりにロール角度θrぶん回転させることにより、自車VHの座標軸に一致すること、に基づいて得られる。つまり、式(13)-式(14)が得られる。
【0119】
【数10】
ここで、上述の式(5)で表される関係式と式(14)とから、式(15)が得られる。また、式(15)を、cosθrcosθpで除算することによって、式(16)が得られる。そして、式(16)より式(12)が導かれる。
【0120】
【数11】
この結果、信号処理部4は、軸ずれ角度としての垂直軸ずれ角度θp及びロール角度θrと、搭載高さHとを、同時に推定することができる。
【0121】
[2.第2実施形態]
[2-1.構成]
第2実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、相違点について以下に説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0122】
第1実施形態では、路面反射点の位置に基づいて、軸ずれ角度と搭載高さHとを推定した。これに対して、第2実施形態では、路面平坦度Wcを算出し、路面反射点の位置に基づいて、路面平坦度Wcに基づく重み付けを行って軸ずれ角度と搭載高さHとを推定する点で、第1実施形態と相違する。路面平坦度Wcとは、路面が平坦であることの度合いを表した数値である。ここでは、路面平坦度Wcは、路面が平坦であるほど、大きい数値で表される。
【0123】
[2-2.処理]
[2-2-1.軸ずれ推定処理]
次に、第2実施形態の信号処理部4が、図8に示す第1実施形態の軸ずれ推定処理に代えて実行する軸ずれ推定処理について、図16のフローチャートを用いて説明する。なお、図16におけるS25-S27以外の処理は、図8におけるS10-S20、S30-S90の処理と同様であるため、説明を一部簡略化している。
【0124】
信号処理部4は、S20に続くS25では、後述する平坦度処理を実行し、路面平坦度Wcを算出する。
信号処理部4は、平坦判断部S26では、路面平坦度Wcに基づいて路面が平坦であるか否かを判断する。具体的には、信号処理部4は、路面平坦度Wcが予め定められた平坦度閾値WT以上である場合に路面が平坦であると判断する。平坦度閾値WTは、予めメモリ42に記憶されている。
【0125】
ここで、信号処理部4は、路面が平坦であると判断した場合に処理をS30へ移行させ、S30以降は図8に示す処理と同様の処理を実行する。一方、信号処理部4は、路面が平坦でないと判断した場合に処理をS27へ移行させる。
【0126】
信号処理部4は、S27では、後述する重み付け処理を実行し、上述の関係式に基づいて、更に路面平坦度Wcによる重み付けを行って垂直軸ずれ角度θpと搭載高さHと、を推定する。そして処理をS40へ移行させ、S40以降は図8に示す処理と同様の処理を実行する。
【0127】
[2-2-2.平坦度処理]
信号処理部4が図16に示す軸ずれ推定処理のS25にて実行する平坦度処理について、図17に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0128】
信号処理部4は、S310では、加速度センサの出力値を取得し、該出力値に基づいて第1係数W1を算出する。第1係数W1は、路面の平坦度を表す数値であって、加速度センサの出力値が大きいほど小さく算出される。例えば、加速度センサの出力値と対応する第1係数W1とがテーブル形式の情報としてメモリ42に記憶されており、信号処理部4は該テーブル形式の情報を参照して加速度センサの出力値に対応する第1係数W1を算出してもよい。
【0129】
信号処理部4は、S320では、複数の路面反射点それぞれの反射電力の値を取得し、該反射電力のばらつきに基づいて第2係数W2を算出する。第2係数W2は、路面の平坦度を表す数値であって、反射電力のばらつきを示す指数が大きいほど小さく算出される。信号処理部4は、例えば反射電力の標準偏差や分散を、ばらつきを示す指数として用いてもよい。例えば、ばらつきを示す指数と第2係数W2との対応を表すテーブル形式の情報がメモリ42に記憶されており、信号処理部4は該テーブルを参照してばらつきを示す指数に対応する第2係数W2を算出してもよい。
【0130】
信号処理部4は、S330では、ナビゲーション装置から自車VHの現在位置を取得し、自車VHの現在位置と地図情報とに基づいて第3係数W3を算出する。第3係数W3は、路面の平坦度を表す数値であって、地図情報に含まれており、路面が平坦であるほど大きい値で表されている。信号処理部4は、地図情報に基づいて、自車VHの現在位置における道路の路面の平坦度を取得し、取得した平坦度を第3係数W3として用いてもよい。
【0131】
信号処理部4は、S340では、カメラによる撮像画像を取得し、撮像画像に基づいて第4係数W4を算出する。第4係数W4は、路面の平坦度を表す数値であって、撮像画像に基づくものであり、路面が平坦であるほど大きい値で表されている。ここでいう撮像画像には、自車VHの前方の路面が含まれているものとする。信号処理部4は、路面が含まれる複数の画像から該画像に含まれる路面の平坦度を推定する学習が予め行われた識別器を用いて、取得した撮像画像に含まれる路面の平坦度を推定し、推定した平坦度を第4係数W4として用いてもよい。
【0132】
信号処理部4は、S350では、第1係数W1-第4係数W4を用いて、路面平坦度Wcを算出する。信号処理部4は、第1係数W1-第4係数W4の平均値を路面平坦度Wcとしてメモリ42に記憶させる。信号処理部4は、以上で平坦度処理を終了する。但し、本開示はこれに限定されるものではない。信号処理部4は、第1係数W1-第4係数W4の最大値、又は中央値等を路面平坦度Wcとして用い、メモリ42に記憶させてもよい。
【0133】
[2-2-3.重み付け処理]
信号処理部4が図16に示す軸ずれ推定処理のS27にて実行する重み付け処理について、図18に示すフローチャートに基づいて説明する。重み付け処理は、軸ずれ推定処理にて処理がS27に移行する毎に繰り返し実行される。なお、重み付け処理における最初から最後までの一連の処理を「サイクル」ともいう。
【0134】
信号処理部4は、S410では、S210と同様に、現サイクルにおける、路面反射点の装置系座標を算出する。なお、複数個(すなわち、n個)の路面反射点におけるそれぞれのxs、ys、zsは、上述の式(3)の様に表される。
【0135】
信号処理部4は、S420-S470では、上述の式(1)の右辺に対して路面平坦度Wcによる重み付けを行う演算を実行する。これによって、式(1)の左辺、すなわち、路面平坦度Wcによる重み付け後の垂直軸ずれ角度θpと搭載高さHとが推定される。
【0136】
まず、信号処理部4は、S420では、式(17)、(18)のように、現サイクルにおける路面反射点の装置系座標から、式(1)の右辺を算出するためのパラメータMa及びMbを算出する。
【0137】
【数12】
ここで、パラメータA及びBは、上述の式(2)に示すとおりである。パラメータMaは2×2行列であり、パラメータMbは2×1行列である。
【0138】
信号処理部4は、S430では、現サイクルの路面平坦度Wcを取得する。
信号処理部4は、S440では、式(19)、(20)のように、現サイクルの重み付けパラメータMwa、Mwbを算出する。現サイクルの重み付けパラメータMwaは、現サイクルのパラメータMaに、現サイクルの路面平坦度Wcを乗算したものである。現サイクルの重み付けパラメータMwbは、現サイクルのパラメータMbに、現サイクルの路面平坦度Wcを乗算したものである。
【0139】
【数13】
信号処理部4は、S450では、式(21)、(22)のように、現サイクルの重み付けパラメータMwaに、メモリ42に記憶されている過去の総合重み付けパラメータMdcwaを加算したものを、現サイクルの総合重み付けパラメータMcwaとして、メモリ42に記憶する。同様に、信号処理部4は、現サイクルの重み付けパラメータMwbに、メモリ42に記憶されている過去の総合重み付けパラメータMdcwbを加算したものを、現サイクルの総合重み付けパラメータMcwbとして、メモリ42に記憶する。ここでいう過去とは、前回サイクルで用いられたことを意味する。
【0140】
【数14】
信号処理部4は、S460では、現サイクルの総合重み付けパラメータMcwa、Mcwbを用いて、式(23)に従って、路面平坦度Wcによる重み付け後の垂直軸ずれ角度θpと搭載高さHとを推定する。信号処理部4は、推定した垂直軸ずれ角度θpと搭載高さHとをメモリ42に記憶する。
【0141】
【数15】
信号処理部4は、S470では、現サイクルの総合重み付けパラメータMcwaを、過去の総合重み付けパラメータMdcwaとしてメモリ42に記憶する。また、信号処理部4は、現サイクルの総合重み付けパラメータMcwbを、過去の総合重み付けパラメータMdcwbとしてメモリ42に記憶する。信号処理部4は、以上で重み付け処理を終了する。
【0142】
[2-3.効果]
以上詳述した第2実施形態によれば、以下の効果を奏する。
(2a)信号処理部4は、S25では、路面平坦度Wcを算出する。信号処理部4は、S26では、路面平坦度Wcに基づいて路面が平坦であるか否かを判断する。信号処理部4は、路面が平坦でないと判断された場合に、関係式(すなわち、式(1)-(3))に基づいて、路面平坦度Wcによる重み付けを行って(すなわち、式(23)を用いて)、軸ずれ角度θpと搭載高さHと、を推定する。
【0143】
路面平坦度Wcが大きいときほど、つまり路面が平坦であるときほど、そのときの路面反射点の数が増加されて、軸ずれ角度θpと搭載高さHとが推定されることになる。換言すれば、重み付けを行うとは、路面が平坦であるときほど、そのときの路面反射点の数を多く採用して、軸ずれ角度θpと搭載高さHとを推定すること、に相当する。この結果、路面平坦度Wcによる重み付けがなされた軸ずれ角度θpと搭載高さHとを推定することができる。
【0144】
[2-4.変形例]
(変形例4)第2実施形態では、路面平坦度Wcによる重み付けがなされた軸ずれ角度θpと搭載高さHとが推定されたが、本開示はこれに限定されるものではない。信号処理部4は、式(1)-(3)に代えて式(10)-(11)、(3)に基づいて、第2実施形態と同様に、路面平坦度Wcによる重み付けがなされたロール角度θrと搭載高さHとを推定してもよい。
【0145】
(変形例5)信号処理部4は、路面平坦度Wcによる重み付けがなされたピッチ角度θpとロール角度θrと搭載高さHとを推定してもよい。例えば、信号処理部4は、式(1)-(3)に基づいて、上述のように路面平坦度Wcによる重み付けがなされた軸ずれ角度θpと搭載高さHとを算出してもよい。そして更に、信号処理部4は、式(10)-(11)、(3)に基づいて、路面平坦度Wcによる重み付けがなされたロール角度θrと搭載高さHと、を推定してもよい。なお、搭載高さHとしては、式(1)-(3)、及び式(10)-(11)、(3)に基づいて重み付けを行ってそれぞれ算出された値の、平均値を用いてもよい。
【0146】
[3.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0147】
(3a)上記実施形態では、レーダ装置2がレーダ波を自車VHの前方に向けて送信する形態を示したが、レーダ波の送信方向は自車VHの前方に限定されるものではない。例えば、レーダ装置2は、自車VHの前方、右前方、左前方、後方、右後方、左後方、右側方及び左側方の少なくとも一方に向けてレーダ波を送信するように構成されてもよい。
【0148】
(3b)上記実施形態では、レーダ装置2がFMCW方式を採用している例を示したが、レーダ装置2のレーダ方式は、FMCWに限定されるものではなく、例えば、2周波CW、FCM又はパルスを採用するように構成されてもよい。FCMは、Fast-Chirp Modulationの略である。
【0149】
(3c)上記実施形態では、信号処理部4が軸ずれ推定処理を実行する例を示したが、レーダ装置2が軸ずれ推定処理を実行するように構成されてもよい。
(3d)本開示に記載の信号処理部4及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の信号処理部4及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の信号処理部4及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組合せにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されてもよい。信号処理部4に含まれる各部の機能を実現する手法には、必ずしもソフトウェアが含まれている必要はなく、その全部の機能が、一つあるいは複数のハードウェアを用いて実現されてもよい。
【0150】
(3e)上記実施形態における1つの構成要素が備える複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が備える1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が備える複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。
【0151】
(3f)上述した信号処理部4、レーダ装置2、車両制御システム1の他、信号処理部4を機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実態的記録媒体、軸ずれ推定方法など、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【0152】
なお、上記実施形態において、自車VHが移動体に相当し、信号処理部4、推定部46が軸ずれ推定装置に相当する。また、S10が取得部としての処理に相当し、S20が抽出部としての処理に相当し、S30、S210が装置系座標部としての処理に相当し、S30、S220、S230、S240が推定部46としての処理に相当する。また、S25が平坦度算出部としての処理に相当し、S26が平坦判断部としての処理に相当し、S27が重み付け処理部としての処理に相当する。
【符号の説明】
【0153】
1 車両制御システム、2 レーダ装置、4 信号処理部、41 CPU、42 メモリ、43 ROM、44 RAM。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図17
図18