(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】空気入りタイヤのトラクション性能評価方法
(51)【国際特許分類】
B60C 19/00 20060101AFI20230829BHJP
G01M 17/02 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
B60C19/00 H
G01M17/02
(21)【出願番号】P 2019206084
(22)【出願日】2019-11-14
【審査請求日】2022-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【氏名又は名称】前堀 義之
(72)【発明者】
【氏名】高橋 尚史
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-059888(JP,A)
【文献】特表2018-535888(JP,A)
【文献】特開2007-062731(JP,A)
【文献】特開2017-128231(JP,A)
【文献】特開2008-207669(JP,A)
【文献】特開2018-100065(JP,A)
【文献】特開2017-013663(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 19/00
G01M 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気入りタイヤの溝の寸法を取得し、
前記空気入りタイヤの平坦路面上における接地幅またはトレッド幅を取得し、
前記溝の寸法と前記接地幅または前記トレッド幅とに基づいて接地範囲における前記溝の体積を算出し、
前記溝の体積を前記空気入りタイヤのトラクション性能として評価する
ことを含む、空気入りタイヤのトラクション性能評価方法。
【請求項2】
前記溝の体積は、前記溝のうちタイヤ周方向に直線状に全周連続した部分であるシースルー部を除いた体積である、請求項1に記載の空気入りタイヤのトラクション性能評価方法。
【請求項3】
前記溝の寸法の取得と前記接地幅または前記トレッド幅の取得とに際して実物の空気入りタイヤを準備し、
前記実物の空気入りタイヤを計測することによって前記溝の寸法を取得する、請求項1または請求項2に記載の空気入りタイヤのトラクション性能評価方法。
【請求項4】
前記溝の寸法の取得と前記接地幅または前記トレッド幅の取得とに際して空気入りタイヤの形状データを準備し、
前記空気入りタイヤの形状データから前記溝の寸法を取得する、請求項1または請求項2に記載の空気入りタイヤのトラクション性能評価方法。
【請求項5】
前記空気入りタイヤの形状データの準備は、タイヤ半幅の形状データからタイヤ全幅の形状データを復元することを含む、請求項4に記載の空気入りタイヤのトラクション性能評価方法。
【請求項6】
前記溝の寸法の取得は、前記溝の深さを複数段階で離散的に評価することを含む、請求項3から請求項5のいずれか1項に記載の空気入りタイヤのトラクション性能評価方法。
【請求項7】
前記溝の体積の算出は、タイヤ幅方向に所定間隔ごとにタイヤ周方向断面における前記溝の断面積を算出し、算出した前記溝の断面積のそれぞれに前記所定間隔を乗算して足し合わせることを含む、請求項3から請求項6のいずれか1項に記載の空気入りタイヤのトラクション性能評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤのトラクション性能評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤのトラクション性能を評価するためには、有限要素法(FEM:Finite Element Method)による有限要素解析がよく用いられている。有限要素解析では、評価しようとする空気入りタイヤを有限個の要素に分割した有限要素モデルを使用する。有限要素モデルの各要素に材料物性および境界条件を設定して解析を実行することで、トラクション性能を含む様々な特性を評価できる。このように有限要素解析によってトラクション性能を評価するタイヤ性能予測方法が、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の有限要素解析による方法では、複雑な有限要素モデルを作成する必要がある。有限要素モデルの作成には、多大な時間を要するため、より簡単な方法でトラクション性能を評価できる方法が求められている。
【0005】
本発明は、空気入りタイヤのトラクション性能評価方法において、複雑な解析または実験を行うことなく簡単な方法で空気入りタイヤのトラクション性能を評価することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、空気入りタイヤの溝の寸法を取得し、前記空気入りタイヤの平坦路面上における接地幅またはトレッド幅を取得し、前記溝の寸法と前記接地幅または前記トレッド幅とに基づいて接地範囲における前記溝の体積を算出し、前記溝の体積を前記空気入りタイヤのトラクション性能として評価することを含む、空気入りタイヤのトラクション性能評価方法を提供する。
【0007】
この方法によれば、接地範囲における溝の体積を空気入りタイヤのトラクション性能として評価する。溝の体積の算出には複雑な解析または実験を伴わないため、複雑な解析または実験を行うことなく簡単な方法で空気入りタイヤのトラクション性能を評価できる。特にこの方法では、溝の体積のみを利用してトラクション性能を評価するため、著しく簡単にトラクション性能を評価できる。また、この方法の有効性に関して、本願発明者は溝の体積とトラクション性能との間に正の相関があることを確認し、この方法が有効であることを確認している。本来、トラクション性能は溝の体積以外にもトレッド部の形状や材質などの様々な要因に影響を受けるものである。しかし、この方法は、上記有効性に関する知見に基づいて様々にある要因の中から溝の体積のみに着目し、簡易かつ迅速にトラクション性能を評価できるものである。
【0008】
前記溝の体積は、前記溝のうちタイヤ周方向に直線状に全周連続した部分であるシースルー部を除いた体積であってもよい。
【0009】
この方法によれば、トラクション性能をより正確に評価できる。シースルー部は、溝の中でもトラクション性能に与える影響が小さい部分である。トラクション性能には、概ねタイヤ幅方向に延びる溝(いわゆる横溝)が大きく寄与する。これは、空気入りタイヤが転動した際に、主に横溝が路面を掻くことによる。そのため、タイヤ周方向に直線状に全周連続した部分であるシースルー部は、トラクション性能にあまり寄与しない。そこで、溝の体積を算出する際に、シースルー部を除外することでより正確な評価を可能としている。なお、シースルー部の名称は、タイヤ周方向に沿ってトレッド部を見た際に、陸部による視線の阻害なしに、先が見える部分を示すことによる。
【0010】
前記溝の寸法の取得と前記接地幅または前記トレッド幅の取得とに際して実物の空気入りタイヤを準備し、前記実物の空気入りタイヤを計測することによって前記溝の寸法を取得してもよい。
【0011】
この方法によれば、実物の空気入りタイヤを準備することによって、正確な寸法の取得が可能となる。従って、トラクション性能をより正確に評価できる。
【0012】
前記溝の寸法の取得と前記接地幅または前記トレッド幅の取得とに際して空気入りタイヤの形状データを準備し、前記空気入りタイヤの形状データから前記溝の寸法を取得してもよい。
【0013】
この方法によれば、空気入りタイヤの形状データを準備することによって、実物の空気入りタイヤを準備することなくトラクション性能を評価できる。従って、トラクション性能をより簡単に評価できる。そのような空気入りタイヤの形状データは、2次元データ(トレッドパターンの展開図)または3次元データのいずれであってもよい。ただし、2次元データの場合には溝の深さの寸法が別途必要となる。
【0014】
前記空気入りタイヤの形状データの準備は、タイヤ半幅の形状データからタイヤ全幅の形状データを復元することを含んでもよい。
【0015】
この方法によれば、タイヤ半幅の形状データのみを準備することにより、トラクション性能を評価できる。線対称または点対称などの対称形のトレッドパターンでは、タイヤ半幅の形状データからタイヤ全幅の形状データを復元可能な場合がよくある。上記方法では、そのような場合にタイヤ半幅の形状データからタイヤ全幅の形状データを復元してトラクション性能を評価できる。
【0016】
前記溝の寸法の取得は、前記溝の深さを複数段階で離散的に評価することを含んでもよい。
【0017】
この方法によれば、溝の深さを連続的ではなく離散的に評価することで、溝の体積の算出を簡易化でき、一層簡単にトラクション性能を評価できる。
【0018】
前記溝の体積の算出は、タイヤ幅方向に所定間隔ごとにタイヤ周方向断面における前記溝の断面積を算出し、算出した前記溝の断面積のそれぞれに前記所定間隔を乗算して足し合わせることを含んでもよい。
【0019】
この方法によれば、簡単かつ確実に溝の体積を算出できる。特に、所定間隔を細かくすることにより、溝の体積を高精度に算出できる。ここで、タイヤ周方向断面とは、空気入りタイヤの回転軸に垂直な断面のことをいう。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、空気入りタイヤのトラクション性能評価方法において、溝の体積をトラクション性能として評価するため、複雑な実験または解析を行うことなく簡単な方法で空気入りタイヤのトラクション性能を評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図3】他の形状のシースルー部を示す模式的な展開図。
【
図4】本発明の第1実施形態に係る空気入りタイヤのトラクション性能評価方法のフローチャート。
【
図5】
図4のフローチャートを実行する空気入りタイヤのトラクション性能評価装置のブロック図。
【
図8】トラクション性能と溝の体積の相関を示すグラフ。
【
図10】
図9のタイヤ半幅の展開図から復元されたタイヤ全幅の展開図。
【
図11】第2実施形態に係る空気入りタイヤのトラクション性能評価方法のフローチャート。
【
図12】
図11のフローチャートを実行する空気入りタイヤのトラクション性能評価装置のブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0023】
(第1実施形態)
図1は、タイヤ組付体1を示す斜視図である。タイヤ組付体1は、空気入りタイヤ2がホイールリム3に組み付けられて構成されている。
図1では、図示を明瞭にするためにトレッドパターンの図示を省略している。また、
図1では、タイヤ幅方向が符号TWで示され、タイヤ周方向が符号TCで示されている。これは以降の図でも同様である。
【0024】
本実施形態の空気入りタイヤ2のトラクション性能評価方法は、空気入りタイヤ2の形状データを利用してトラクション性能を評価する方法である。トラクション性能は、空気入りタイヤ2が路面に対して発揮する駆制動力性能のことをいう。
【0025】
図2は、空気入りタイヤ2の2ピッチ分の展開図である。具体的には、
図1の空気入りタイヤ2の斜線部に対応する展開図である。
図2において、タイヤ幅方向に延びる破線は、2ピッチ分の形状データを2つの1ピッチ分の形状データに区分している。空気入りタイヤ2では、この1ピッチ分の形状データがタイヤ周方向に複数連続して1周分のトレッドパターンが構成される。
【0026】
図2に示すように、空気入りタイヤ2は、複数の溝4を備えている。
図2では、斜線を付された部分が複数の溝4を示しており、斜線を付されていない部分が陸部を示している。本実施形態では、複数の溝4は、1ピッチごとに同一形状で形成されている。
【0027】
複数の溝4は、4本の主溝5を含んでいる。4本の主溝5は、いわゆる縦溝であり、タイヤ周方向に沿って直線状に全周連続して延びている。本実施形態では、4本の主溝5は、シースルー部6に該当する。ここで、シースルー部6とは、タイヤ周方向に沿って直線状に全周連続した溝部である。シースルー部6の名称は、タイヤ周方向に沿ってトレッド部を見た際に、陸部による視線の阻害なしに、先が見える部分を示すことによる。本実施形態では、後述するようにシースルー部6の有無によって算出するトラクション性能が異なるため、シースルー部6の有無を確認する。
【0028】
本実施形態では、4本の主溝5の全体がシースルー部6に該当するが、一部がシースルー部6に該当する場合もある。例えば、
図3の模式的な展開図に示すように、ジグザグ状の2本の主溝5が設けられている場合、2本の主溝5のうちタイヤ周方向に沿って直線状に全周連続した部分(斜線部参照)のみがシースルー部6に該当する。
【0029】
再び
図2を参照して、複数の溝4は、複数の副溝7を備えている。複数の副溝7は、ノッチや横溝などの主溝5以外の溝を示しており、様々な形状をしている。いずれの副溝7もタイヤ周方向に沿って直線状に全周連続して延びる部分を有していない。即ち、いずれの副溝7も、シースルー部6を有していない。
【0030】
図4は、本実施形態に係る空気入りタイヤ2のトラクション性能評価方法のフローチャートである。
図5は、
図4のフローチャートを実行する空気入りタイヤのトラクション性能評価装置10のブロック図である。
【0031】
トラクション性能評価装置10は、入力部11、溝寸法取得部12、接地幅(トレッド幅取得部)13、全周トレッドパターン取得部14、溝体積算出部15、トラクション性能評価部16、および出力部17を備える。入力部11は、空気入りタイヤ2の形状データを入力する部分であり、当該形状データ等を記憶した記憶媒体等であり得る。出力部17は、評価結果を出力する部分であり、ディスプレイ等であり得る。また、各要素12~16は、ハードウェア資源であるプロセッサと、プロセッサ内に記録されるソフトウェアであるプログラムとの協働により実現され、以下のトラクション性能評価方法をそれぞれ実行する部分である。
【0032】
本実施形態では、まず、入力部11から空気入りタイヤ2の形状データが入力されると、溝寸法取得部12によって当該形状データに基づいて空気入りタイヤ2の複数の溝4のそれぞれの寸法を取得する(ステップS41)。具体的には、
図2に示す空気入りタイヤ2の形状データから複数の溝4のそれぞれの幅および深さなどの寸法を取得する。
図2に示すように空気入りタイヤ2の形状データが2次元データの場合には、複数の溝4のそれぞれの深さを取得することはできないため、複数の溝4のそれぞれの深さのデータは入力部11から別途取得する。なお、本実施形態では、2次元データを使用するが、3次元データを使用してもよい。3次元データを使用する場合には、形状データから複数の溝4のそれぞれの深さも取得できる。
【0033】
本実施形態では、複数の溝4のそれぞれの深さを複数段階で離散的に評価する。
図2の例では、取得した複数の溝4のそれぞれの深さを3段階で評価し、3段階の深さの異なる溝ごとに異なる種類の斜線を付している。代替的には、深さの異なる溝ごとに異なる色で着色してもよい。また、複数の溝4のそれぞれの深さの評価は、3段階に限定されず、2段階または4段階以上であってもよい。
【0034】
次に、接地幅(トレッド幅取得部)13によって、空気入りタイヤ2の平坦路面上における接地幅(
図2にて符号W1で示す。)を取得する(ステップS42)。接地幅は、同サイズの他の空気入りタイヤからの推定値であってもよいし、簡易かつ静的な接地解析によって求めてもよい。このとき、推定や解析に必要なデータは、入力部11から取得する。また、簡易的には、接地幅をトレッド幅(
図2にて符号W2で示す。)によって代替してもよい。なお、接地幅は空気入りタイヤ2が路面と接地する際の幅を示し、トレッド幅は空気入りタイヤ2のトレッド部の幅を示す。
【0035】
次に、全周トレッドパターン取得部14によって、空気入りタイヤ2の1周分のトレッドパターンを取得する(ステップS43)。
図2の例では、2ピッチ分の形状データが示されているが、このうち破線で区切られた1ピッチ分の形状データを複数繋げて1周分のトレッドパターンの展開図を作成する。また、1ピッチごとに縮尺が異なるトレッドパターンであれば、1ピッチごとに縮尺を変更しながら複数の形状データを繋げることにより1周分のトレッドパターンの展開図を作成する。また、1ピッチごとに縮尺だけでなく形状まで異なる場合には、必要な複数ピッチの形状データを用意し、それらを繋げて1周分のトレッドパターンを作成する。本実施形態では、1ピッチ分の形状データから1周分のトレッドパターンを作成する例を示したが、1周分のトレッドパターンの図面を予め用意してもよい。
【0036】
次に、溝体積算出部15によって、複数の溝4の体積を算出する(ステップS44)。複数の溝4の体積の算出は、タイヤ幅方向に所定間隔ごとにタイヤ周方向断面における複数の溝4のそれぞれの断面積を算出し、算出した複数の溝4のそれぞれの断面積に所定間隔を乗算して足し合わせることによって行う。ここで、タイヤ周方向断面とは、空気入りタイヤ2の回転軸CL(
図1参照)に垂直な断面のことをいう。
【0037】
図6,7を参照して、複数の溝4の体積の算出方法を詳細に説明する。
図6は、
図2の形状データを6ピッチ分繋げた展開図である。
図7は、
図6のVII-VII線に沿った断面図である。
図7では、タイヤ径方向が符合TRで示されている。なお、
図6では、図示を明瞭にするために複数の溝4のそれぞれの深さを評価した
図2のような斜線を省略している。
【0038】
複数の溝4の体積の算出では、まず、形状データの画像と空気入りタイヤ2の縮尺関係を計算する。具体的には、1ピッチ分の画像におけるタイヤ周方向のピクセル数と、1ピッチ分のタイヤ周方向長さとから、画像のタイヤ周方向の1ピクセルが何mmに対応するかを計算する。同様に、1ピッチ分の画像におけるタイヤ幅方向のピクセル数と、1ピッチ分のタイヤ幅方向長さとから、画像のタイヤ幅方向の1ピクセルが何mmに対応するかを計算する。好ましくは、トラクション性能を精度良く評価するために、タイヤ周方向およびタイヤ幅方向ともに1ピクセルあたり1mm以下とする。
【0039】
上記のようにして計算した縮尺関係に基づいて、ある断面において、複数の溝4のタイヤ周方向長さC1と、複数の溝4のタイヤ径方向深さR1とから長方形近似された複数の溝4の断面積S1を求める(S1=C1×R1)。ここで、複数の溝4のタイヤ周方向長さC1は、当該断面における複数の溝4のそれぞれの長さの和である(C1=C11+C12+C13+C14+C15+・・・)。これをタイヤ幅方向に所定間隔ΔWごとに各断面にて行う。即ち、各断面における複数の溝4のタイヤ周方向長さC1,C2,C3,・・・,Cnと、複数の溝4のそれぞれのタイヤ径方向深さ(本実施形態では3段階R1~R3で評価)とから各断面における断面積S1,S2,S3,・・・,Snをタイヤ幅方向に所定間隔ΔWごとに接地幅またはトレッド幅の範囲内で算出する。そして、算出した複数の溝4の断面積S1,S2,S3,・・・,Snのそれぞれに所定間隔ΔWを乗算して足し合わせることにより、複数の溝4の体積Vを算出する(V=S1×ΔW+S2×ΔW+S3×ΔW+・・・+Sn×ΔW)。このようにして、簡単かつ確実に複数の溝4の体積Vを算出できる。好ましくは、所定間隔ΔWを細かく設定することにより(例えば1mm以下)、複数の溝4の体積Vを高精度に算出できる。また、当該断面における複数の溝4において、タイヤ径方向深さが複数段階存在する場合もありえる。その場合は、S1=「溝深さがR1のタイヤ周方向長さの合計」×R1+「溝深さがR2のタイヤ周方向長さの合計」×R2+「溝深さがR3のタイヤ周方向長さの合計」×R3とする。なお、当該計算は溝深さを3段階R1~R3で評価する場合であるが、溝深さは3段階以外で評価されてもよい。
【0040】
好ましくは、上記複数の溝4の体積Vの算出において、シースルー部6を除いた複数の溝4の体積Vを算出する。複数の溝4の体積Vの算出においてシースルー部6を算出の対象から除外する方法としては、例えば、
図6,7において、各断面における複数の溝4のタイヤ周方向長さC1,C2,C3,・・・を確認し、特定の断面における複数の溝4のタイヤ周方向長さが空気入りタイヤ2の全周の長さに一致する場合、これをシースルー部6として算出の対象から除外する。例えば、仮に、特定の断面における複数の溝4のタイヤ周方向長さC2がタイヤ全周の長さに一致する場合、この特定の断面に表示される溝部はシースルー部6であるとして算出の対象から除外する(V=S1×ΔW+S3×ΔW+・・・+Sn×ΔW)。これにより、4本の主溝5を複数の溝4の体積Vの算出から除外し、即ち複数の副溝7の体積を複数の溝4の体積Vとして算出する。また、当該断面における複数の溝4において、タイヤ径方向深さが複数段階存在する場合もありえる。その場合は、「溝深さがR1のタイヤ周方向長さの合計」+「溝深さがR2のタイヤ周方向長さの合計」+「溝深さがR3のタイヤ周方向長さの合計」が空気入りタイヤ2の全周の長さに一致する場合、これをシースルー部6として算出の対象から除外する。なお、当該計算は溝深さを3段階R1~R3で評価する場合であるが、前述のように溝深さは3段階以外で評価されてもよい。
【0041】
次に、トラクション性能評価部16によって、上記のようにして算出された複数の溝4の体積Vをトラクション性能として評価する(ステップS45)。この評価結果は、出力部17から出力される。即ち、複数の溝4の体積Vが大きいほどトラクション性能が良好であると評価する。
【0042】
図8は、このようにして求められた複数の溝4の体積Vと、有限要素解析によって評価したトラクション性能とを比較したグラフである。
図8のグラフの横軸は複数の溝4の体積Vを示し、縦軸は実際に有限要素モデルを作成して解析を行って評価したトラクション性能である。このような比較を15種類のタイヤに対して行った結果がグラフ上に15点のデータとして示されている。なお、グラフ中の直線は、15点のデータを最小二乗法で近似した直線である。
【0043】
グラフを確認すると、複数の溝4の体積Vと有限要素解析によって評価したトラクション性能との間には正の相関があることがわかる。従って、複数の溝の体積Vをトラクション性能として評価することに対して一定の信頼性が確認された。本来、トラクション性能は複数の溝4の体積V以外にもトレッド部の形状や材質などの様々な要因に影響を受けるものである。しかし、この有効性に関する知見に基づいて、本実施形態のトラクション性能評価方法は、様々にある要因の中から複数の溝4の体積Vのみに着目し、簡易かつ迅速にトラクション性能を評価できる。
【0044】
本実施形態によれば、接地範囲にある複数の溝4の体積Vを空気入りタイヤ2のトラクション性能として評価する。複数の溝4の体積Vの算出には複雑な解析または実験を伴わないため、複雑な解析または実験を行うことなく簡単な方法で空気入りタイヤ2のトラクション性能を評価できる。特にこの方法では、複数の溝4の体積Vのみを利用してトラクション性能を評価するため、著しく簡単にトラクション性能を評価できる。このように簡易にトラクション性能を評価できるため、空気入りタイヤ2を設計する技術者は、このようにして得られたトラクション性能の評価結果に基づいて、トレッドパターンの溝の変形位置、変形方法、または変形量などを変更し、迅速に好適なトラクション性能を有する空気入りタイヤ2を設計できる。
【0045】
また、複数の溝4の体積Vの算出においてシースルー部6を算出の対象から除外することにより、トラクション性能をより正確に評価できる。シースルー部6は、複数の溝4の中でもトラクション性能に与える影響が小さい部分である。トラクション性能には、概ねタイヤ幅方向に延びる溝(いわゆる横溝)が大きく寄与する。これは、空気入りタイヤ2が転動した際に、主に横溝が路面を掻くことによる。そのため、タイヤ周方向に直線状に全周連続した部分であるシースルー部6は、トラクション性能にあまり寄与しない。そこで、複数の溝4の体積Vを算出する際に、シースルー部6を除外することでより正確な評価を可能としている。なお、シースルー部6の名称は、タイヤ周方向に沿ってトレッド部を見た際に、陸部による視線の阻害なしに、先が見える部分を示すことによる。
【0046】
また、本実施形態では、実物の空気入りタイヤ2を使用せず、空気入りタイヤ2の形状データを使用する。そのため、実物の空気入りタイヤ2を準備することなくトラクション性能を評価できる。従って、トラクション性能をより簡単に評価できる。
【0047】
また、本実施形態では、複数の溝4のそれぞれの深さを連続的ではなく離散的に評価する。そのため、複数の溝4の体積Vの算出を簡易化でき、一層簡単にトラクション性能を評価できる。ただし、より正確なトラクション性能評価が求められる場合には、複数の溝4のそれぞれの深さを連続的に評価してもよい。
【0048】
(変形例)
図9は、
図2の空気入りタイヤ2のタイヤ半幅の形状データである。
図2の空気入りタイヤ2は、1ピッチごとに点対称に形成されている。従って、
図10に示すようにタイヤ半幅の形状データを点対称に繋げることによりタイヤ全幅の形状データを復元することができる。
図10では、復元された右半分が破線で示されている。
【0049】
このようにタイヤ全幅の形状データは必ずしも必要でなく、ステップS43では、全周トレッドパターン取得部14によってタイヤ半幅の形状データからタイヤ全幅の形状データを復元してもよい。タイヤ半幅の形状データからタイヤ全幅の形状データを復元できるものとしては、
図9,10のような点対称パターンに加えて、線対称パターン(または指向性パターン)などがある。また、完全に点対称や線対称でなくとも、点対称または線対称の位置からタイヤ周方向に溝を一定量移動させるなどしてタイヤ全幅のトレッドパターンが復元されてもよい。
【0050】
本変形例によれば、タイヤ半幅の形状データのみを準備することにより、トラクション性能を評価できる。
【0051】
(第2実施形態)
第2実施形態の空気入りタイヤ2のトラクション性能評価方法は、形状データではなく実物の空気入りタイヤ2を利用してトラクション性能を評価する。これに関する以外は、第1実施形態の空気入りタイヤ2のトラクション性能評価方法と実質的に同じである。従って、第1実施形態にて示した部分と同じ部分については説明を省略する場合がある。
【0052】
図11は、本実施形態に係る空気入りタイヤ2のトラクション性能評価方法のフローチャートである。
図12は、
図11のフローチャートを実行する空気入りタイヤのトラクション性能評価装置20のブロック図である。
【0053】
トラクション性能評価装置20は、入力部21、溝体積算出部22、トラクション性能評価部23、および出力部24を備える。入力部21は、空気入りタイヤ2の溝の寸法および接地幅等を入力する部分であり、当該溝の寸法および接地幅等を記憶した記憶媒体等であり得る。代替的には、入力部21は、当該溝の寸法および接地幅等を入力可能なキーボードなどの入力デバイスであり得る。出力部24は、評価結果を出力する部分であり、ディスプレイ等であり得る。また、各要素22,23は、ハードウェア資源であるプロセッサと、プロセッサ内に記録されるソフトウェアであるプログラムとの協働により実現され、以下のトラクション性能評価方法をそれぞれ実行する部分である。
【0054】
本実施形態では、まず、空気入りタイヤ2の複数の溝4のそれぞれの寸法を取得する(ステップS111)。本実施形態では、実物の空気入りタイヤ2を計測することにより、複数の溝4のそれぞれの寸法を取得する。例えば、レーザ変位計などの非接触計測器によって複数の溝4のそれぞれの幅や深さなどの寸法を計測してもよい。計測した寸法は、第1実施形態のように複数段階で離散的に評価されてもよい。
【0055】
次に、空気入りタイヤ2の平坦路面上における接地幅を取得する(ステップS112)。接地幅の取得は、実物の空気入りタイヤ2を用いて実際に平坦路面上で測定を行うことで簡単に実行できる。なお、実物の空気入りタイヤ2を用意できる場合には、接地幅を容易に測定できるため、第1実施形態のようなトレッド幅での代替する必要はない。
【0056】
次に、入力部21から上記のように取得した複数の溝4のそれぞれの寸法と接地幅とを入力し、溝体積算出部22によって複数の溝4の体積Vを算出する(ステップS113)。複数の溝4の体積Vの算出は、第1実施形態と実質的に同じである。
【0057】
次に、トラクション性能評価部23によって、上記のようにして算出された複数の溝4の体積Vをトラクション性能として評価する(ステップS114)。即ち、複数の溝4の体積Vが大きいほどトラクション性能が良好であると評価する。この評価結果は、出力部24から出力される。
【0058】
本実施形態によれば、実物の空気入りタイヤ2を準備することによって、正確な寸法の取得が可能となる。従って、トラクション性能をより正確に評価できる。
【0059】
以上より、本発明の具体的な実施形態およびその変形例について説明したが、本発明は上記形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することができる。例えば、複数の溝4の体積Vの算出方法は、上記各実施形態のものに限定されず、任意の方法を採用し得る。例えば、ノンパターンのトレッド部の体積から陸部の体積とシースルー部6の体積とを差し引くことにより、複数の溝4の体積Vを算出してもよい。また、上記各実施形態では、トラクション性能評価装置10,20でトラクション性能評価方法を実行する場合を例に説明したが、上記各実施形態のトラクション性能評価方法は手計算によっても実行可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 タイヤ組付体
2 空気入りタイヤ
3 ホイールリム
4 溝
5 主溝(縦溝)
6 シースルー部
7 副溝
10 トラクション性能評価装置
11 入力部
12 溝寸法取得部
13 接地幅取得部(トレッド幅取得部)
14 全周トレッドパターン取得部
15 溝体積算出部
16 トラクション性能評価部
17 出力部
20 トラクション性能評価装置
21 入力部
22 溝体積算出部
23 トラクション性能評価部
24 出力部