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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】トンネルの被覆構造及び被覆パネル部材
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/00 20060101AFI20230829BHJP
   E21D 11/10 20060101ALI20230829BHJP
   E21D 11/04 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
E21D11/00 Z
E21D11/10 Z
E21D11/04 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019221504
(22)【出願日】2019-12-06
(65)【公開番号】P2021092028
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-06-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小出 昌克
(72)【発明者】
【氏名】福田 勝也
(72)【発明者】
【氏名】森 淳
(72)【発明者】
【氏名】楢崎 雄一
(72)【発明者】
【氏名】大野 誠
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-280089(JP,A)
【文献】特開2010-240905(JP,A)
【文献】特開2005-290810(JP,A)
【文献】実開昭61-130694(JP,U)
【文献】特開2019-007258(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/00
E21D 11/10
E21D 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
湾曲断面形状部分を有するトンネルの内壁面を覆って形成されるトンネルの被覆構造であって、
トンネルの延長方向に所定の間隔をおいて、前記湾曲断面形状部分を有するトンネルの内壁面に沿って取り付けられた、内側にパネル取付け面を備える複数の鋼製支保部材と、
各隣接する一対の前記鋼製支保部材の前記パネル取付け面に跨るようにして、前記鋼製支保部材に支持されて周方向に連設して取り付けられた複数の被覆パネル部材と、
取り付けられた前記被覆パネル部材とトンネルの内壁面との間の空間に充填されて、前記鋼製支保部材及び前記被覆パネル部材と一体化する硬化性材料とを含んで構成されており、
前記被覆パネル部材には、背面側に突出して、L字状に折れ曲がった形状のアンカー筋が、トンネルの延長方向Xに折れ曲がり方向が沿うように配置されて、アンカー部材として取り付けられているトンネルの被覆構造。
【請求項2】
前記鋼製支保部材が、I形鋼又はH形鋼であり、そのフランジ面によって前記パネル取付け面が形成されている請求項1に記載のトンネルの被覆構造。
【請求項3】
前記被覆パネル部材が、矩形状の平面形状を有する繊維補強コンクリート製の部材である請求項1又は2に記載のトンネルの被覆構造。
【請求項4】
前記空間の内部に、鉄筋が配設されている請求項1~3のいずれか1項に記載のトンネルの被覆構造。
【請求項5】
前記鋼製支保部材の前記パネル取付け面には、前記空間に硬化性材料を充填する際に、前記被覆パネル部材を前記鋼製支保部材に押付けた状態で固定するための押付け固定部材を、前記鋼製支保部材に締着させるナット部材が固着されている請求項1~4のいずれか1項に記載のトンネルの被覆構造。
【請求項6】
湾曲断面形状部分を有するトンネルの下部の内壁面から前記空間に突出して、下部アンカー部材が取り付けられている請求項1~5のいずれか1項に記載のトンネルの被覆構造。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のトンネルの被覆構造に用いる被覆パネル部材であって、
各隣接する一対の前記鋼製支保部材の前記パネル取付け面に跨る大きさの矩形状の平面形状を有しており、トンネルの内壁面と対向して配置される背面側は、凹凸面となっている被覆パネル部材。
【請求項8】
前記凹凸面は、均等に分散して配置された多数の陥没穴によって形成されている請求項7に記載の被覆パネル部材。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか1項に記載のトンネルの被覆構造に用いる被覆パネル部材であって、
各隣接する一対の前記鋼製支保部材の前記パネル取付け面に跨る大きさの矩形状の平面形状を有しており、トンネルの内壁面と対向して配置される背面側には、前記アンカー部材を取り付けるための、ナット部材が埋設固定されている被覆パネル部材。
【請求項10】
トンネルの湾曲断面形状部分の湾曲形状に沿った、湾曲形状を備えている請求項7~9のいずれか1項に記載の被覆パネル部材。
【請求項11】
繊維補強コンクリートにより形成されている請求項7~10のいずれか1項に記載の被覆パネル部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルの被覆構造及び被覆パネル部材に関し、特に、湾曲断面形状部分を有するトンネルの内壁面を覆って形成されるトンネルの被覆構造、及び該被覆構造に用いる被覆パネル部材に関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネル工法や、シールドトンネル工法等の各種のトンネル工法によって構築されるトンネルは、掘削されたトンネルの周囲の地盤が崩落したり緩んだりするのを防止するために、掘削した内壁面を、モルタルやコンクリートなどによる硬化性材料や、セグメントなどの被覆部材による被覆体によって被覆するようにしている。また、これらの被覆体は、周囲の地盤からの荷重を効率良く支持することが出来るように、馬蹄形や円形等の、湾曲断面形状部分を有する形状となるように形成されるのが一般的である。
【0003】
また、例えば山岳トンネル工法においては、トンネルの側部から上部にかけての、湾曲断面形状部分を含むアーチ形状を備える被覆体を、例えばコンクリート等のセメント系の硬化性材料によって効率良く形成できるようにする型枠として、例えば組立式や移動式のトンネル覆工用型枠が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。これらのトンネル覆工用型枠では、トンネルの掘削作業の進行に伴って、例えば10.5m程度の所定の施工スパン毎に据え付け直しながら、トンネルの掘進方向の後方から前方に向かって、湾曲断面形状部分を含むアーチ形状の被覆体を、順次して形成して行くことができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-280094号公報
【文献】特開2003-262096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
トンネル覆工用型枠を用いてトンネルの内壁面に湾曲断面形状部分を含む形状の被覆体を形成してゆく工法では、形成される被覆体が、相当の施工区間に亘って同様の断面形状を有している場合には、効率良く施工することが可能であるが、例えば断面が拡幅される区間や、被覆体の補強や補修を必要とする区間等の、施工区間が短い領域に対しては、型枠が大掛かりになりすぎると共に、トンネル覆工用型枠は、トンネルの内側に設置された支保構造によって、当該トンネル覆工用型枠とトンネルの内壁面との間の空間に充填される硬化性材料の荷重を支持するものであるため、これらの短い施工区間の断面形状に合わせて、トンネルの内側に設置される支保構造と共に型枠を組み立て直してゆく作業に、多くの手間を要することになる。
【0006】
また、トンネル断面の内側空間を支保構造により占有することになり、トンネルの断面積の大きさや使用状況によっては、トンネル築造のための作業機械や一般走行車両の通行の妨げとなる場合も生じる。
【0007】
さらに、例えばシールトンネル工法等の他のトンネル工法によって形成されるトンネルについても、例えば断面が拡幅する区間や、被覆体の補強や補修を必要とする区間等において、充填される硬化性材料の荷重を支持する大掛かりな支保構造をトンネルの内側に設置することなく、硬化性材料の荷重を簡易な構成によって支持して、湾曲断面形状部分を有するトンネルの内壁面を覆う被覆体を容易に形成することを可能にする技術の開発が望まれている。
【0008】
本発明は、充填される硬化性材料の荷重を支持する大掛かりな支保構造をトンネルの内側に設置することなく、硬化性材料の荷重を簡易な構成によって支持して、湾曲断面形状部分を有するトンネルの内壁面を覆う被覆体を容易に形成することのできるトンネルの被覆構造及び該被覆構造に用いる被覆パネル部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、湾曲断面形状部分を有するトンネルの内壁面を覆って形成されるトンネルの被覆構造であって、トンネルの延長方向に所定の間隔をおいて、前記湾曲断面形状部分を有するトンネルの内壁面に沿って取り付けられた、内側にパネル取付け面を備える複数の鋼製支保部材と、各隣接する一対の前記鋼製支保部材の前記パネル取付け面に跨るようにして、前記鋼製支保部材に支持されて周方向に連設して取り付けられた複数の被覆パネル部材と、取り付けられた前記被覆パネル部材とトンネルの内壁面との間の空間に充填されて、前記鋼製支保部材及び前記被覆パネル部材と一体化する硬化性材料とを含んで構成されており、前記被覆パネル部材には、背面側に突出して、L字状に折れ曲がった形状のアンカー筋が、トンネルの延長方向Xに折れ曲がり方向が沿うように配置されて、アンカー部材として取り付けられているトンネルの被覆構造を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0010】
そして、本発明のトンネルの被覆構造は、前記鋼製支保部材が、I形鋼又はH形鋼であり、そのフランジ面によって前記パネル取付け面が形成されていることが好ましい。
【0011】
また、本発明のトンネルの被覆構造は、前記被覆パネル部材が、矩形状の平面形状を有する繊維補強コンクリート製の部材であることが好ましい。
【0012】
さらに、本発明のトンネルの被覆構造は、前記空間の内部に、鉄筋が配設されていることが好ましい。
【0014】
また、本発明のトンネルの被覆構造は、前記鋼製支保部材の前記パネル取付け面には、前記空間に硬化性材料を充填する際に、前記被覆パネル部材を前記鋼製支保部材に押付けた状態で固定するための押付け固定部材を、前記鋼製支保部材に締着させるナット部材が固着されていることが好ましい。
【0015】
さらに、本発明のトンネルの被覆構造は、湾曲断面形状部分を有するトンネルの下部の内壁面から前記空間に突出して、下部アンカー部材が取り付けられていることが好ましい。
【0016】
また、本発明は、上記のトンネルの被覆構造に用いる被覆パネル部材であって、各隣接する一対の前記鋼製支保部材の前記パネル取付け面に跨る大きさの矩形状の平面形状を有しており、トンネルの内壁面と対向して配置される背面側は、凹凸面となっている被覆パネル部材を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0017】
そして、本発明の被覆パネル部材は、前記凹凸面が、均等に分散して配置された多数の陥没穴によって形成されていることが好ましい。
【0018】
また、本発明の被覆パネル部材は、各隣接する一対の前記鋼製支保部材の前記パネル取付け面に跨る大きさの矩形状の平面形状を有しており、トンネルの内壁面と対向して配置される背面側には、前記アンカー部材を取り付けるための、ナット部材が埋設固定されていることが好ましい。
【0019】
さらに、本発明の被覆パネル部材は、トンネルの湾曲断面形状部分の湾曲形状に沿った、湾曲形状を備えていることが好ましい。
【0020】
さらにまた、本発明の被覆パネル部材は、繊維補強コンクリートにより形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明のトンネルの被覆構造又は該被覆構造に用いる被覆パネル部材によれば、充填される硬化性材料の荷重を支持する大掛かりな支保構造をトンネルの内側に設置することなく、硬化性材料の荷重を簡易な構成によって支持して、湾曲断面形状部分を有するトンネルの内壁面を覆う被覆体を容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の好ましい一実施形態に係るトンネルの被覆構造によってトンネルの内壁面を覆う被覆体が形成される、トンネルの拡幅部分の略示横断面図である。
図2図1のA部拡大図である。
図3】本発明の好ましい一実施形態に係るトンネルの被覆構造を説明する、図2のB-Bに沿った、押付け固定部材が取り付けられた状態の部分縦断面図である。
図4】パネル取付け面に固着されたナット部材を説明する、(a)は鋼製支保部材の断面図、(b)は鋼製支保部材の部分内面図である。
図5】(a)は被覆パネル部材の正面図、(b)は背面図、(c)は(b)のC-Cに沿った断面図、(d)は(c)のD部拡大図である。
図6】複数の被覆パネル部材がトンネルの内壁面に沿って周方向に連設して取り付けた状態を説明する、被覆パネル部材の展開配置図である。
図7】一対の鋼製支保部材のパネル取付け面に跨るようにして、複数の被覆パネル部材を取り付ける状況を説明する、(a)は部分略示内面図、(b)は(a)のE-Eに沿った略示縦断面図、(c)は(a)のF-Fに沿った部分略示横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の好ましい一実施形態に係るトンネルの被覆構造10は、図1に示すように、湾曲断面形状部分を有するトンネル50の内壁面51として、例えば山岳トンネルの拡幅部分における、トンネル50の側壁部52からアーチ形状部分53のまでの内壁面51を覆う所定の厚さの被覆体55(図3参照)を、硬化性材料13として、好ましくは無収縮モルタル等のセメント系の硬化性材料を用いて、効率良く形成して行くための構造として採用されたものである。すなわち、例えば山岳トンネル工法では、掘削されたトンネルの内壁面を覆う被覆体を例えばコンクリートを用いて形成する際に、例えばセントルと呼ばれる移動式や組立式のトンネル覆工用型枠を用いるのが一般的であるが、トンネル覆工用型枠を用いる場合、形成される被覆体が相当の施工区間に亘って同様の断面形状を有していれば、効率良く施工することが可能であるが、例えば断面が拡幅する区間や、被覆体の補強や補修を必要とする区間等の、短い施工区間しか同様の断面形状を有していない部分に対しては、型枠が大掛かりになりすぎると共に、トンネルの内側に設置される支保構造を型枠と共に組み立て直してゆく作業に、多くの手間を要することになる。このようなことから、本実施形態では、後述するトンネルの被覆構造10を採用することにより、簡易な構成によって、短い施工区間に対しても、湾曲断面形状部分を有するトンネル50の内壁面51を覆う被覆体55を、効率良く形成してゆくことができるようにする。
【0024】
そして、本実施形態のトンネルの被覆構造10は、湾曲断面形状部分を有するトンネル50の内壁面51として、例えば山岳トンネルの拡幅部分における、トンネル50の側壁部52からアーチ形状部分53のまでの内壁面51を覆って形成される被覆構造であって、図1図3に示すように、トンネル50の延長方向X(図3参照)に所定の間隔をおいて、湾曲断面形状部分を有するトンネル50の内壁面51に沿って取り付けられた、内側にパネル取付け面11aを備える複数の鋼製支保部材11と、各隣接する一対の鋼製支保部材11のパネル取付け面11aに跨るようにして、鋼製支保部材11に支持されて周方向に連設して取り付けられた複数の被覆パネル部材12と、取り付けられた被覆パネル部材12とトンネル50の内壁面51との間の空間56に充填されて、鋼製支保部材11及び被覆パネル部材12と一体化する硬化性材料である好ましくは無収縮モルタル13とを含んで構成される。鋼製支保部材11、複数の被覆パネル部材12、及び硬化した無収縮モルタル13が一体となって、トンネル50の内壁面51を覆う被覆体55が形成される。
【0025】
本実施形態では、トンネルの被覆構造10を構成する鋼製支保部材11は、好ましくはI形鋼又はH形鋼(本実施形態では、I形鋼)からなり、そのフランジ面によってパネル取付け面11aが形成されている。I形鋼による鋼製支保部材11は、好ましくは予め工場等において、底部のインバート部57(図1参照)よりも上方の、トンネル50の側壁部52からアーチ形状部分53のまでの内壁面51に沿った形状を適宜分割した形状に加工された、複数の単位支保部材として現場に搬入して、ボルト部材等を用いた公知の方法により周方向に一体として連続させることで、側壁部52からアーチ形状部分53のまでの内壁面51に沿って設置することができる。I形鋼による鋼製支保部材11は、トンネル50の延長方向Xに例えば900mm程度の所定の中心間ピッチで、複数リング設置される。
【0026】
また、本実施形態では、I形鋼による鋼製支保部材11は、図2に拡大して示すように、例えばトンネル50を掘削した直後の内壁面51を覆って吹き付けられた一次吹き付けコンクリート58の内側に、所定の厚さの二次吹き付けコンクリート59を吹き付ける際に、外側フランジ11b側の部分を二次吹き付けコンクリート59に埋設しておくことが好ましい。これによって鋼製支保部材11を、側壁部52からアーチ形状部分53のまでの内壁面51に沿って設置して、安定した状態で固定することが可能になる。設置されたI形鋼による鋼製支保部材11の内側フランジ11cの内側面が、被覆パネル部材12が取り付けられるパネル取付け面11aを形成している。内側フランジ11cのパネル取付け面11aとなる内側面には、周方向に好ましくは被覆パネル部材12の連設方向Yの幅と同様の間隔をおいて(図7参照)、図3及び図4(a)、(b)に示すように、後述する押付け固定部材20を鋼製支保部材11に締着させるためのナット部材21が、好ましくは横幅方向の中央部分に溶接等によって固着されている。
【0027】
各隣接する一対の鋼製支保部材11のパネル取付け面11aに、跨るようにして取り付けられる複数の被覆パネル部材12は、各々、図5(a)~(d)に示すように、例えば20mm程度の厚さを有する、好ましくは繊維補強コンクリート製のパネル部材となっている。被覆パネル部材12は、各隣接する一対の鋼製支保部材11のパネル取付け面11aに跨る大きさとして、鋼製支保部材11のトンネル50の延長方向Xの中心間ピッチよりも若干小さい、870mm程度の延長方向Xの横幅を備えると共に、470mm程度の、周方向である連設方向Yの縦幅を備える、矩形状の平面形状を有している。
【0028】
また、被覆パネル部材12は、好ましくは一次吹き付けコンクリート58及び二次吹き付けコンクリート59によって覆われたトンネル50の内壁面51と対向して配置される背面側が、凹凸面12aとなっており、この凹凸面12aは、例えば均等に分散して配置された多数の陥没穴12bによって形成されている。本実施形態では、陥没穴12bは、六角形や円形の陥没穴となっている。被覆パネル部材12の背面側が凹凸面12aとなっていることにより、後に注入充填される無収縮モルタル13との付着面積を広くして、被覆パネル部材12の背面に無収縮モルタル13をより強固に付着させることが可能になる。また、凹凸面12aが均等に分散して配置された多数の六角形や円形の陥没穴12bによって形成されていることにより、鋭角部をなくすことで、陥没穴12b内での無収縮モルタル13の未充填箇所が生じないようにして、無収縮モルタル13を被覆パネル部材12の背面に強固に一体化させることが可能になる。
【0029】
さらに、本実施形態では、好ましくは被覆パネル部材12のトンネル50の内壁面51と対向して配置される背面側には、アンカー部材としてのアンカー筋14(図2図3参照)を取り付けるための、ナット部材12cが埋設固定されている。ナット部材12cは、M10程度の大きさの、フランジ付きナットとなっている。ナット部材12cは、フランジ部を繊維補強コンクリート中に埋設すると共に、雌ネジ孔を背面側に開口させて状態で、分散配置されて4箇所に固定されている。各々のナット部材12cには、L字状に折れ曲がった形状の例えばD10程度の太さのアンカー筋14を、被覆パネル部材12と、一次吹き付けコンクリート58及び二次吹き付けコンクリート59によって覆われたトンネル50の内壁面51との間の空間56に突出させて、着脱可能に取り付けることができる。
【0030】
複数の被覆パネル部材12は、例えば後述する押付け固定部材20を用いて、鋼製支保部材11に支持させて、図1及び図6に示すように、トンネル50のインバート部57よりも上方の側壁部52からアーチ形状部分53までのトンネル50の内壁面51に沿って、周方向に連設して配置されることになる。連設して配置される複数の被覆パネル部材12の中央部のパネルである、アーチ形状部分53の天端部に配置される被覆パネル部材12’には、硬化性材料として好ましくは無収縮モルタルを空間56に供給して充填するための、φ60程度の大きさのモルタル供給孔12dが開口形成されている。モルタル供給孔12dは、例えばソケット部材を用いて、開閉可能に閉塞しておくことができる。
【0031】
本実施形態では、被覆パネル部材12は、好ましくは繊維補強コンクリートを用いて、平坦な矩形状の平面形状を備えるように形成されている。被覆パネル部材12は、トンネル50の湾曲断面形状部分の湾曲形状に沿った、湾曲形状を備えるように形成することもできる。被覆パネル部材12を、トンネル50の湾曲断面形状部分の湾曲形状に沿った湾曲形状を備えるように形成することにより、地山側からの外力に対して、より強固なアーチアクション効果を発揮させることが可能になる。
【0032】
そして、本実施形態のトンネルの被覆構造10では、トンネル50の延長方向Xに所定の中心間ピッチで、湾曲断面形状部分を有するトンネル50の内壁面51に沿って複数設置されたI形鋼による鋼製支保部材11の、各隣接する一対の鋼製支保部材11のパネル取付け面11aに跨るようにして、上述の被覆パネル部材12を、複数、周方向に連設して取り付けると共に、取り付けられた被覆パネル部材12と一次吹き付けコンクリート58及び二次吹き付けコンクリート59によって覆われたトンネル50の内壁面51との間の空間56に、硬化性材料として、好ましくは無収縮モルタル13を充填する。
【0033】
本実施形態では、被覆パネル部材12は、図7(a)~(c)に示すように、当該被覆パネル部材12を鋼製支保部材11のパネル取付け面11aに押付けた状態で固定するための、押付け固定部材20を用いて、周方向に連設して鋼製支保部材11に支持させた状態で各々取り付けられる。押付け固定部材20は、例えば1辺が60mm程度の大きさの矩形断面を有する角パイプからなり、各隣接する一対の鋼製支保部材11のパネル取付け面11aの外側辺部の間の間隔よりも僅か長い、1100mm程度の長さを備えている。押付け固定部材20は、周方向に連設して配置された各々の被覆パネル部材12における、連設方向Yの縦幅の中央部分において、トンネルの延長方向Xに延設させると共に、隣接する一対の鋼製支保部材11の各々と垂直に交差させるようにして取り付けられる。
【0034】
押付け固定部材20は、鋼製支保部材11のパネル取付け面11aに固着されたナット部材21に螺着される、例えばリブ座金や締着ナットを備える固定ボルト部材22を当該ナット部材21に締め着けることにより、リブ座金との間に挟み込むようにして両側の端部を鋼製支保部材11に締着することで、連設する被覆パネル部材12を、鋼製支保部材11に押付けた状態で各々強固に固定しておくことができる。本実施形態では、隣接する一対の鋼製支保部材11に跨るようにして設置される、周方向に連設する各々の段の被覆パネル部材12について、トンネルの延長方向Xに隣接する各一対の被覆パネル部材12を各々押さ付ける押付け固定部材20を、被覆パネル部材12の縦幅方向の中央部分において上下にずらして配置することにより、これらの隣接する被覆パネル部材12の中央部に配置される鋼製支保部材11に、これらの隣接する被覆パネル部材12を各々押え付ける一対の押付け固定部材20の端部を、一本の固定ボルト部材22により、リブ座金を介して同時に締着できるようになっている。
【0035】
押付け固定部材20及び固定ボルト部材22を用いて、鋼製支保部材11のパネル取付け面11aに被覆パネル部材12を、複数、周方向に連設して取り付けることによって、各隣接する一対の鋼製支保部材11により挟まれる部分には、取り付けられた被覆パネル部材12と、一次吹き付けコンクリート58及び二次吹き付けコンクリート59によって覆われたトンネル50の内壁面51との間に、硬化性材料として好ましくは無収縮モルタル13が充填される空間56が形成される。被覆パネル部材12の背面側に、アンカー筋14を取り付けておくことで、これらのアンカー筋14を硬化性材料13が充填される空間56に突出させておくことができる。アンカー筋14によって、被覆パネル部材12と、空間56に充填される無収縮モルタル13との一体性を高めることができる。被覆パネル部材12と無収縮モルタル13との一体性を効果的に高める観点から、L字状に折れ曲がった形状のアンカー筋14は、折れ曲がり方向が、トンネルの延長方向Xに沿うように配置することが好ましい(図7(b)参照)。
【0036】
また、硬化性材料13が充填される空間56には、好ましくは被覆パネル部材12を鋼製支保部材11のパネル取付け面11aに取り付けるのに先立って、内部に鉄筋を配設しておくこともできる。硬化性材料13が充填される空間56の内部に鉄筋を配設することにより、形成される被覆体55の強度を効果的に高めることができる。
【0037】
さらに、本実施形態では、図1に示すように、湾曲断面形状部分を有するトンネル50の下部の内壁面51として、一次吹き付けコンクリート58及び二次吹き付けコンクリート59によって覆われた側壁部52の内壁面51から空間56に突出して、下部アンカー部材15が取り付けられていることが好ましい。下部アンカー部材15は、例えばD19程度の太さの鉄筋棒からなり、硬化性材料13と二次吹き付けコンクリート59との界面のせん断耐力向上と両者の付着力向上による一体化を目的として、アンカー筋14と同様に、L字状に折れ曲がった形状を備えている。下部アンカー部材15は、例えば基端部分を二次吹き付けコンクリート59や一次吹き付けコンクリート58に埋設することによって、好ましくは折れ曲がり方向をトンネル50の周方向に沿わせた状態で、両側の側壁部52の各々3箇所に固定される。トンネル50の下部の内壁面51から、硬化性材料13が充填される空間56に突出して、下部アンカー部材15が設けられていることにより、被覆体55の自重を含めた大きな荷重が作用する、下部の被覆体55と二次吹き付けコンクリート59との界面を、効果的に補強し、且つ両者の連成構造を形成して強固な覆工体とすることが可能になる。
【0038】
本実施形態のトンネルの被覆構造10によれば、上述のようにして形成された、各隣接する一対の鋼製支保部材11によって挟まれる部分の、周方向に連設して配置された被覆パネル部材12と、一次吹き付けコンクリート58及び二次吹き付けコンクリート59によって覆われたトンネル50の内壁面51との間の、1又は2以上の各空間56に、硬化性材料として好ましくは無収縮モルタル13を各々充填することにより、湾曲断面形状部分を有するトンネル50の内壁面51を覆う被覆体55を形成する。
【0039】
すなわち、周方向に連設して配置された複数の被覆パネル部材12のうちの、アーチ形状部分53の天端部に配置される被覆パネル部材12’には、硬化性材料13を空間56に供給するためのモルタル供給孔12dが形成されているので(図1参照)、これらのモルタル供給孔12dにモルタルの供給配管(図示せず)を接続して、無収縮モルタル13を供給することにより、被覆パネル部材12とトンネル50の内壁面51との間の空間56に、無収縮モルタル13を各々充填することができる。充填した無収縮モルタル13が硬化して被覆パネル部材12と一体化した時点で、被覆パネル部材12を鋼製支保部材11に締着固定していた、固定ボルト部材22や押付け固定部材20を取り外すことにより、鋼製支保部材11、複数の被覆パネル部材12、及び硬化した無収縮モルタル13が一体となった、トンネル50の内壁面51を覆う被覆体55が容易に形成されることになる。
【0040】
したがって、本実施形態のトンネルの被覆構造10によれば、トンネル50の延長方向Xに所定の間隔をおいて、湾曲断面形状部分を有するトンネル50の内壁面51に沿って取り付けられた複数の鋼製支保部材11と、各隣接する一対の鋼製支保部材11のパネル取付け面11aに跨るようにして、周方向に連設して取り付けられた複数の被覆パネル部材12と、被覆パネル部材12とトンネル50の内壁面51との間の空間56に充填されて、これらと一体化する硬化性材料13とを含んで構成されるので、充填される硬化性材料13の荷重を支持する大掛かりな支保構造をトンネル50の内側に設置することなく、硬化性材料である好ましくは無収縮モルタル13の荷重を簡易な構成によって支持して、湾曲断面形状部分を有するトンネル50の内壁面51を覆う被覆体55を容易に形成することが可能になる。
【0041】
またこれによって、例えば断面が拡幅する区間や、被覆体の補強や補修を必要とする区間等の、短い施工区間しか同様の断面形状を有していない部分に対して、トンネル50の内壁面51を覆う被覆体55を形成する場合でも、簡易な構成によって、短い施工区間に、湾曲断面形状部分を有するトンネル50の内壁面51を覆う被覆体55を、効率良く形成してゆくことが可能になる。
【0042】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、本発明のトンネルの被覆構造は、山岳トンネルの拡幅部分における、側壁部からアーチ形状部分のまでの内壁面を覆って被覆体を形成する場合の他、拡幅部分以外の部分の山岳トンネルの内壁面や、シールドトンネル等のその他の種々の湾曲断面形状部分を有するトンネルの内壁面を覆って、被覆体を形成する際にも採用することができる。鋼製支保部材が、I形鋼やH形鋼である必要は必ずしも無く、内側にパネル取付け面を設けることが可能な、溝形鋼や山形鋼等のその他の種々の鋼製部材であっても良い。被覆パネル部材は、繊維補強コンクリート製の部材である必要は必ずしも無く、合成樹脂製や鋼製、鋳鉄製等のその他の材料からなるものであっても良い。被覆パネル部材とトンネルの内壁面との間の空間に充填される硬化性材料は、無収縮モルタルの他、通常のモルタル、コンクリート、セメントミルク等のセメント系硬化材料やセメント系以外の硬化性材料であっても良い。
【符号の説明】
【0043】
10 トンネルの被覆構造
11 鋼製支保部材(I形鋼)
11a パネル取付け面
11b 外側フランジ
11c 内側フランジ
12 被覆パネル部材
12a 凹凸面
12b 陥没穴
12c ナット部材
12d モルタル供給孔
13 無収縮モルタル(硬化性材料)
14 アンカー筋
15 下部アンカー部材
20 押付け固定部材
21 ナット部材
22 固定ボルト部材
50 トンネル
51 内壁面
52 側壁部
53 アーチ形状部分
55 被覆体
56 空間
57 インバート部
58 一次吹き付けコンクリート
59 二次吹き付けコンクリート
X トンネルの延長方向
Y 被覆パネル部材の連設方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7