(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】副室式点火装置
(51)【国際特許分類】
F02B 19/16 20060101AFI20230829BHJP
F02B 19/12 20060101ALI20230829BHJP
F02P 13/00 20060101ALI20230829BHJP
F02F 1/24 20060101ALI20230829BHJP
F02P 5/15 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
F02B19/16 C
F02B19/16 E
F02B19/12 C
F02P13/00 302B
F02F1/24 E
F02B19/12 D
F02P5/15 E
(21)【出願番号】P 2019237751
(22)【出願日】2019-12-27
【審査請求日】2022-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】保坂 知幸
(72)【発明者】
【氏名】光藤 健太
(72)【発明者】
【氏名】大畠 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】石井 英二
【審査官】二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-075970(JP,A)
【文献】国際公開第2016/057556(WO,A1)
【文献】特表2006-503219(JP,A)
【文献】特開2006-177249(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 19/08-19/12
F02B 19/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
点火プラグのプラグ電極を収容する副室を形成する副室形成部材と、内燃機関の主燃焼室に通じる通路と、を備える副室式点火装置であって、
前記副室形成部材をシリンダヘッドに埋入される第1領域と内燃機関の主燃焼室に突出する第2領域とに分けた場合に、前記第1領域のみの前記副室形成部材の内面に前記副室形成部材を形成する材料よりも熱伝導率の小さい第1遮熱材を備え、
前記第2領域は、内燃機関の主燃焼室に面する外面に、前記副室形成部材を形成する材料よりも熱伝導性の低い第2遮熱材を備え
、当該第2領域の内面の側には前記第1遮熱材及び前記第2遮熱材のいずれも設けないことを特徴とする副室式点火装置。
【請求項2】
請求項1に記載の副室式点火装置であって、
前記第1遮熱材は、熱伝導率が10 W/mK以下の材料で形成されることを特徴とする副室式点火装置。
【請求項3】
請求項1に記載の副室式点火装置であって、
前記第1遮熱材は、前記副室形成部材を形成する材料の体積比熱よりも小さい体積比熱を有する材料で形成されることを特徴とする副室式点火装置。
【請求項4】
請求項1に記載の副室式点火装置であって、
前記第1遮熱材は、シリカ強化したアルミ酸化被膜又は多孔質セラミックスで構成されることを特徴とする副室式点火装置。
【請求項5】
請求項1に記載の副室式点火装置であって、
前記第1遮熱材は、非導電性の材料で構成されることを特徴とする副室式点火装置。
【請求項6】
請求項1に記載の副室式点火装置であって、
前記第1遮熱材は、前記第1領域の内面に埋入されることを特徴とする副室式点火装置。
【請求項7】
請求項1に記載の副室式点火装置であって、
前記第1遮熱材は、周方向の一部に切欠き部を有していることを特徴とする副室式点火装置。
【請求項8】
請求項1に記載の副室式点火装置であって、
前記第1遮熱材は、軸方向において、厚みが異なっており、
前記プラグ電極の近傍に設けられる第1遮熱材は、前記プラグ電極から離れた位置に設けられる第1遮熱材に比べて、厚みが大きいことを特徴とする副室式点火装置。
【請求項9】
請求項1に記載の副室式点火装置であって、
前記副室は、軸方向に延設される第1副室と、前記第1副室の一端部から前記軸方向に垂直な方向に延設される第2副室と、を備え、
前記プラグ電極は、前記第2副室に配置され、
前記第1遮熱材は、第2副室の内面に設けられることを特徴とする副室式点火装置。
【請求項10】
副室式点火装置の点火時期を制御する制御装置であって、
請求項1に記載の副室式点火装置を用い、当該制御装置で定められた通常の点火時期よりも早期に予備点火するように制御することを特徴とする副室点火装置の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に用いられる点火装置であって、副室を有する副室式点火装置に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料の使用量を削減するため、自動車内燃機関の燃料消費量を低減する技術開発が必要となっている。燃費低減のためには、燃焼室内で高速に燃焼を行うことが効果的であり、高速燃焼を実現するエンジンとして、燃焼室(主燃焼室)と副室(副燃焼室)を有し、副室内で予備燃焼を行い、高圧となった副室から噴射される火炎のジェットにより燃焼室内の着火を行う、副室式点火装置が知られている。副室式点火装置として、例えば特開平8-284665号公報(特許文献1)に開示された技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、副室内を保温することで始動時の燃焼性を高める技術が公開されているものの、エンジンの始動直後の温度を上昇させることについての配慮が十分でなく、点火性能の向上に課題がある。
【0005】
本発明の目的は、副室式点火装置における、エンジン始動時の点化性能を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の副室式点火装置は、
点火プラグのプラグ電極を収容する副室を形成する副室形成部材と、内燃機関の主燃焼室に通じる通路と、を備える副室式点火装置であって、
前記副室形成部材をシリンダヘッドに埋入される第1領域と、内燃機関の主燃焼室に突出する第2領域とに分けた場合に、前記第1領域のみの前記副室形成部材の内面に前記副室形成部材を形成する材料よりも熱伝導率の小さい第1遮熱材を備え、
前記第2領域は、内燃機関の主燃焼室に面する外面に、前記副室形成部材を形成する材料よりも熱伝導性の低い第2遮熱材を備え、当該第2領域の内面の側には前記第1遮熱材及び前記第2遮熱材のいずれも設けない。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、副室式点火装置における、エンジン始動時の点火性能を向上することができる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に係る、副室式点火装置を有するエンジン(内燃機関)の構成の概要を示した図である。
【
図2】本発明が実施される基盤となる副室式点火装置の構成を示す断面図である。
【
図3】本発明の第1実施例に係る副室式点火装置の拡大断面図である。
【
図4】本発明の第1実施例に係る副室式点火装置のプラグ電極周辺の拡大断面図である。
【
図5】本発明の第1実施例に係る副室式点火装置のプラグ電極周辺の拡大断面図である。
【
図6】本発明の第1実施例の変更例(第1変更例)に係る副室式点火装置のプラグ電極周辺の拡大断面図である。
【
図7】本発明の第1実施例の変更例(第2変更例)に係る副室式点火装置を示す図であり、副室式点火装置の下端側からプラグ電極の方向を見た断面図である。
【
図8】本発明の第1実施例の変更例(第3変更例)に係る副室式点火装置の拡大断面図である。
【
図9】本発明の第2実施例に係る副室式点火装置の拡大断面図である。
【
図10】本発明の第3実施例に係る副室式点火装置の拡大断面図である。
【
図11】本発明の第3実施例に係る副室点火装置の内部と外部のガス温度の時間履歴を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る実施例を説明する。なお、各図及び各実施例において同様な構成には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0010】
[実施例1]
本発明の第1実施例に係る内燃機関および副室式点火装置について、
図1から
図8を用いて以下説明する。
【0011】
図1を用いてエンジンの基本的な動作を説明する。
図1は、副室式点火装置を有するエンジン(内燃機関)の構成の概要を示した図である。
【0012】
図1において、シリンダヘッド101、シリンダブロック102及びシリンダブロック102に挿入されたピストン103により燃焼室104が形成され、燃焼室104に向けて吸気管105と排気管106とがそれぞれ2つに分岐して接続されている。吸気管105の開口部には吸気弁107が、排気管106の開口部には排気弁108がそれぞれ設けられ、吸気弁107及び排気弁108はカム動作方式により開閉するように動作する。
【0013】
ピストン103はコンロッド114を介してクランク軸115と連結されており、クランク角センサ116によりエンジン回転数を検知できる。回転数の値はECU(エンジンコントロールユニット、制御装置)118に送られる。クランク軸115には図示しないセルモータが連結され、エンジン始動時にはセルモータによりクランク軸115を回転させ始動することができる。シリンダブロック102には水温センサ117が備えられ、図示しないエンジン冷却水の温度を検知できる。エンジン冷却水の温度はECU118に送られる。
【0014】
図1は1気筒のみを図示しているが、吸気管105の上流には図示しないコレクタが備えられ、コレクタに接続される複数の気筒に空気を分配する。コレクタの上流には図示しないエアフローセンサとスロットル弁が備えられ、燃料室104に吸入される空気量をスロットル弁の開度によって調節できる。
【0015】
燃焼室104の上部には副室109が備えられ、副室109の内部には点火プラグ110が挿入されている。点火プラグ110へはECU118から点火信号が送られ、図示しないプラグ電極間で火花が発生することで副室109内のガスに点火する。燃焼室104は副室(副燃焼室)109に対して主燃焼室を構成する。以下、燃焼室104は主燃焼室と呼んで説明する。
【0016】
図2を用いて、本発明が実施される基盤となる副室式点火装置100の構成及び基本的な動作を説明する。
図2は、本発明が実施される基盤となる副室式点火装置100の構成を示す断面図である。
【0017】
以下の説明では上下方向を指定して説明する場合があるが、上下方向は
図1及び
図2における上下方向に基づいており、この上下方向は副室式点火装置100の実装状態における上下方向と必ずしも一致するものではない。すなわち、
図2に示す点火プラグ110の中心軸線100aは、上下方向に沿う。なお、以下の説明では、中心軸線100aに沿う方向を軸方向と呼んで説明する場合がある。
【0018】
本発明に係る副室式点火装置100は、副室形成部材201(
図2参照)に形成された副室109(
図2参照)に点火プラグ110のプラグ電極203を含むプラグ電極203の近傍(プラグ電極203部)を収容して構成される。
【0019】
点火プラグ110は、ターミナル111と、絶縁体112と、ハウジング202と、プラグ電極203等を含んで構成される。絶縁体112は通常、碍子で構成される。ハウジング202は通常、金属部材で構成され、外周にねじ部202Aが形成される。さらにハウジング202の先端部(下端部)には、プラグ電極203が設けられる。プラグ電極203は、正極となる中心電極203Aと、負極となる接地電極203Bと、で構成される。接地電極203Bは、ハウジング202の外周部から径方向中心側に延設され、中心電極203Aと対向する。当然ではあるが、正極となる中心電極203A及び負極となる接地電極203Bは導電性材料で形成される。
【0020】
図2において、シリンダヘッド101には副室109を画成する副室形成部材201が挿入されている。副室形成部材201の上部には、プラグ電極203が副室109の内側に配置されるようにして点火プラグ110が備えられ、ハウジング202に形成されたねじ部202Aで副室形成部材201に固定されている。
【0021】
副室109側に配置された中心電極203Aに、図示しない点火コイルで発生した高電圧が印加されると、中心電極203Aと接地電極203Bとの間に火花が発生し、副室109内の燃焼を引き起こす。副室109内で発生した燃焼により、副室109内の圧力が急上昇し、副室形成部材201に設けられた噴孔204から火炎ジェット205となり、主燃焼室104へと噴出される。
【0022】
火炎ジェット205は高温となった既燃ガスであり、主燃焼室104の未燃ガスが着火することで主燃焼室104内に火炎が広がる。火炎ジェット205は運動量が大きく、主燃焼室104に素早く広がるため、高速燃焼を実現することができる。シリンダヘッド101には冷却水路206が備えられ、冷却水が通過することで、燃焼による点火プラグ110及び副室形成部材201の過熱が防止される。
【0023】
一方、エンジン始動時はプラグ電極203付近の副室形成部材201の内壁207の温度が低く、また図示しない冷却水の温度も低いため、火炎の熱が内壁207に伝達し、火炎温度が低下することで点火性能が著しく悪化する課題がある。
【0024】
図3は、本発明の第1実施例に係る副室式点火装置100Aの拡大断面図である。
【0025】
副室形成部材201のうち、シリンダヘッド101に埋入される第1領域(埋入領域)303と、主燃焼室104に突出する第2領域(突出領域)302があるとき、第1領域303の熱は経路304を通ってシリンダブロック101に伝達され、冷却水路206によって冷やされる。第1領域303は、高温時の冷却が十分に行われる一方、始動時の冷却が大きく、点火性能が悪化する課題がある。
【0026】
第2領域302は、燃焼室104に突出しているため、燃焼熱が経路305を通って加わり、さらに副室109で発生する熱が経路306を通って伝達される。一方、第2領域302は、シリンダヘッド101に接していないため、冷却が行われにくい。このため、第2領域302は、始動時には温度が上がりやすい一方、高負荷運転時には冷却が不十分となり異常燃焼を引き起こしやすい課題がある。
【0027】
そこで、第1領域303のみに、熱伝導率の低い部材(遮熱膜)307を備えることで、始動時に副室109内壁の温度を上昇させ、点火性能を高めることができ、高温時にも十分な冷却を行うことができる。この場合、部材307を構成する材料の熱伝導性は副室形成部材201を構成する材料の熱伝導性よりも低いものとする。
【0028】
部材307は、膜状又は層状をなし、遮熱膜又は遮熱層と呼ぶことができる。この場合、「膜」及び「層」は材料を堆積して製作する「膜」及び「層」に限定されず、切削やその他の加工方法で加工される部材であってもよい。以下、遮熱膜を遮熱材と呼んで説明する。
【0029】
本実施例では、遮熱材307は中心軸線100a(
図2参照)を囲む周方向の全周に設けられるものとする。遮熱材307は副室形成部材201の内面に膜を形成することにより設けられたものであってもよいし、あらかじめ成形した環状部材(又は円筒状部材)を副室形成部材201の内面に嵌め合わせたものであってもよい。
【0030】
遮熱材307が材料を堆積して製作する膜の場合、副室形成部材201に遮熱材307を密着させることができ、放熱効率を高めることができる。また狭小なスペースに配置する場合には、材料を堆積して製作する膜の方が厚みを小さくできるため有利である。一方、例えば切削加工したような部品は、円筒内の任意の位置に容易に取り付けることができる。
【0031】
すなわち本実施例の副室式点火装置100Aは、点火プラグ110のプラグ電極203部を収容する副室109を形成する副室形成部材201と、内燃機関の主燃焼室(エンジン主室)104に通じる通路(噴孔)204と、を備える副室式点火装置100Aであって、副室形成部材201をシリンダブヘッド102に埋入される第1領域303と、主燃焼室104に突出する第2領域302とに分けた場合に、第1領域303のみの内面(内周面)303Aに副室形成部材201を形成する材料よりも熱伝導率の小さい遮熱材(第1遮熱材)307を備える。これにより、始動時の点火性能を高めることができ、高温時にも十分な冷却を行うことができる。この場合、遮熱材307は第1領域303の内周面全面に設けられている必要はなく、一部のみとしてもよい。この場合、第1領域303において、プラグ電極203から離れた部位に対してプラグ電極203に近接する部位に遮熱材307を設けるようにする。
【0032】
また、遮熱材307の熱伝導率は10 W/mK以下の材料とすることで、始動時の温度を好適に高め、点火性能を高めることができる。すなわち本実施例の副室式点火装置100Aの遮熱材(第1遮熱材)307は、熱伝導率が10 W/mK以下の材料で形成される。これにより、始動時の温度を好適に高め、点火性能を高めることができる。
【0033】
また、遮熱材307の体積比熱を第1領域303よりも小さい材質とすることで、始動時の温度上昇速度を高め、点火性能を高めることができる。
【0034】
すなわち遮熱材(第1遮熱材)307は、副室形成部材201を形成する材料の体積比熱よりも小さい体積比熱を有する材料で形成される。これにより、遮熱材307の温度上昇速度を高め、始動時の点火性能を高めることができる。
【0035】
遮熱材307の材料として、例えばシリカ強化したアルマイト(アルミ酸化被膜)又は多孔質セラミックスなどを用いると良い。すなわち遮熱材(第1遮熱材)307は、アルミ酸化被膜又は多孔質セラミックスで構成されるとよい。
【0036】
図4は、本発明の第1実施例に係る副室式点火装置の点火プラグ203周辺の拡大断面図である。なお、シリンダヘッド101は図示を省略している。
【0037】
始動時の点火性能を高めることを目的に、エンジンの点火タイミングより早期に、予め火花401を発生させる予備点火を行う。これにより、点火プラグ203の周囲のガス402の温度が昇温され、点火性能を高めることができる。このとき、副室形成部材201の内周に設けられた遮熱材307に高温ガス402が接触することで、遮熱材307の温度が上昇して熱損失を低減することにより、予備点火による熱を効率的に点火性能の向上に用いることができる。
【0038】
すなわち、本実施例の副室式点火装置の点火時期を制御する制御装置118は、点火プラグ110のプラグ電極203部を収容する副室109を形成する副室形成部材と、内燃機関の主燃焼室(エンジン主室)104に通じる通路(噴孔)204と、を備え、副室形成部材201をシリンダブヘッド102に埋入される第1領域303と、主燃焼室104に突出する第2領域302とに分けた場合に、第1領域303のみの内面(内周面)303Aに副室形成部材201を形成する材料よりも熱伝導率の小さい遮熱材(第1遮熱材)307を形成した副室式点火装置100Aを用い、制御装置118で定められた通常の点火時期(正規の点火時期)よりも早期に予備点火するように制御する。これにより、点火プラグ周囲ガスの温度を好適に高め、始動時の点火性能を高めることができる。
【0039】
図5を用いて、遮熱材307に導電性材料を用いた場合の火花501の挙動の一例を説明する。
図5は、本発明の第1実施例に係る副室式点火装置100Aの点火プラグ203周辺の拡大断面図である。
【0040】
プラグ電極203では、中心電極502を正極として、負極(接地電極)203Bとの間に火花が生じる。ここで遮熱材307が導電性材料である場合、中心電極203Aと遮熱材307との間で火花が生じることがあり、火花により遮熱材307が消耗する。そこで、遮熱材307を非導電性材料、例えば多孔質セラミックス材料とすることで、遮熱材307が接地電位となることを防止し、中心電極203Aと遮熱材307との間の火花の発生を防止又は抑制する。これにより、遮熱材307は火花による摩耗の発生が防止又は抑制される。
【0041】
すなわち遮熱材(第1遮熱材)307は、非導電性の材料で構成されることが好ましい。これにより、遮熱材307の接地による火花の発生を防止又は抑制し、遮熱材307の摩耗を防止又は抑制することができる。
【0042】
[変更例1]
図6を用いて、第1実施例の変更例(第1変更例)を説明する。
図6は、本発明の第1実施例の変更例(第1変更例)に係る副室式点火装置100A-1のプラグ電極203周辺の拡大断面図である。
【0043】
本変更例では、上述した実施例の遮熱材307の代りに、副室形成部材201に埋入するように遮熱材307-1を設けている。これ以外の構成は、第1実施例と同様に構成される。
【0044】
このような構成にすることで、遮熱材307-1の剥落を防止し、強度を高めることができる。また、点火プラグ203との距離が離れることで、小さなスペース内に点火プラグ203及び遮熱材307-1を部材間の干渉を防いで配置することができる。
【0045】
遮熱材307-1は、副室形成部材201の内面に形成した溝に遮熱膜を形成することにより副室形成部材201に埋入されたものであってもよいし、副室形成部材201の内面に形成した溝にあらかじめ成形した遮熱部材を埋入したものであってもよい。すなわち第1変更例では、遮熱材(第1遮熱材)307-1は第1領域303の内面に埋入される。
【0046】
[変更例2]
図7を用いて、第1実施例の変更例(第2変更例)を説明する。
図7は、本発明の第1実施例の変更例(第2変更例)に係る副室式点火装置100A-2を示す図であり、副室式点火装置100A-2の下端側からプラグ電極203の方向を見た断面図である。すなわち
図7は、副室109の断面(中心軸線100aに垂直な断面)において、副室109の噴孔204側の先端部側から、プラグ電極203方向へと指向した視点を示す。
【0047】
図7において、プラグ電極203は断面中心(中心軸線100aが通る断面位置)から径方向外側に延設されるように設けられている。このとき遮熱材307-2は、周方向に一様の厚さに設けず、一部分に切り欠き部307-2Aを設けても良い。すなわち、遮熱材(第1遮熱材)307-2は、周方向の一部に切欠き部307-2Aを有していてもよい。
【0048】
本変更例の遮熱材307-2は、第1実施例の遮熱材307に切り欠き部307-2Aを設けたものであり、その他の構成は第1実施例と同様に構成される。また本変更例の遮熱材307-2は、変更例1と同様に、副室形成部材201に埋入するように設けてもよい。
【0049】
遮熱材307-2は、切り欠き部307-2Aの位置をプラグ電極203の位置と一致させることで、遮熱材307-2とプラグ電極203との干渉が防止される。また、遮熱材307-2は周方向に一様の厚さであることに限らず、周方向に偏りを設けても良い。このように構成することで、本変更例の副室式点火装置100Aは、高負荷時の温度分布を鑑みながら、好適に冷却を行うことができる遮熱材307の構成にすることができる。
【0050】
[変更例3]
図8を用いて、第1実施例の変更例(第3変更例)を説明する。
図8に、本発明に係る副室式点火装置100A-3の拡大断面図を示す。
図8は、本発明の第1実施例の変更例(第3変更例)に係る副室式点火装置100A-3の拡大断面図である。
【0051】
第1実施例の遮熱材307は副室109の軸方向に一様の厚さである必要はなく、本変更例のように軸方向に偏りを設けた遮熱材307-3であっても良い。
図8の遮熱材307-3では、遮熱材307-3Aの厚みが遮熱材307-3Bの厚みよりも大きくなるように構成されている。遮熱材307-3Aは、第1領域303(
図3参照)において、プラグ電極203の近傍に設けられる遮熱材であり、中心軸線100aに沿う方向において、プラグ電極203から離れたその他の部位(範囲)には遮熱材307-3Bを設ける。
【0052】
言い換えれば、遮熱材307-3Aは、中心軸線100aに沿う方向において、プラグ電極203が設けられた範囲とオーバーラップする副室形成部材201の内面部(内周面部)を含む範囲に設けられ、遮熱材307-3Bは遮熱材307-3Aの噴孔204側の端部から噴孔204側の内面部に設けられている。
【0053】
遮熱材307-3Aは、このように構成することで、予熱点火による高温ガスを好適に保温し、点火性能を向上すると同時に、高負荷時の冷却を十分に行うことができる。
【0054】
すなわち遮熱材(第1遮熱材)307-3は軸方向において厚みが異なっており、プラグ電極203の近傍に設けられる第1遮熱材307-3Aは、プラグ電極203から離れた位置に設けられる第1遮熱材307-3Bに比べて、厚みが大きい。これにより、点火プラグ周囲ガスの温度を好適に高め、始動時の点火性能を高めると同時に、高負荷時の冷却を十分に行うことができる。特に、遮熱材307-3Aの厚みが遮熱材307-3Bの厚みよりも大きいことで、プラグ電極203の近傍のガスの温度を高める効果が高まる。そのため、上述した予備点火を行う場合に、プラグ電極203の近傍のガスの温度を高める効果がより高まる。
【0055】
その他の構成は第1実施例と同様に構成される。また本変更例の遮熱材307-3は、変更例1と同様に副室形成部材201に埋入するように設けてもよいし、変更例2と同様な切り欠き部307-2Aを設けてもよい。
【0056】
[実施例2]
本発明の第2実施例に係る副室式点火装置100Bについて、
図9を用いて以下説明する。
図9は、本発明の第2実施例に係る副室式点火装置100Bの拡大断面図である。
【0057】
図9において、副室形成部材201のうちシリンダヘッド101に挿入される部材領域(第1領域)303は、一点鎖線L1で示すように、プラグ電極203を収容するL字状に形成されている。言い換えれば、本実施例の副室式点火装置100Bでは、副室109は軸方向に延設される第1副室109Aと第1副室109Aの一端部から軸方向に垂直な方向に延設される第2副室109Bとを備える。この場合、プラグ電極203は第2副室109Bに配置される。また、遮熱材(第1遮熱材)307Bは第2副室109Bの内面901A,901Bに設けられる。第1副室109Aは円筒状であり、第2副室109Bは第1副室109Aの上端部(プラグ電極203側の一端部)から軸方向に垂直な方向に延設される。遮熱材307Bが設けられる第2副室109Bの内面は、中心電極203Aと対向する内面901Aを含む。
【0058】
本実施例では、プラグ電極203が第1副室109Aの容積よりも小さい容積の第2副室109Bに配置されるため、第1実施例の効果に加えて、予熱点火時の高温ガスの保温を好適に行い、始動時の点火性能を高めることができるという効果を奏することができる。さらに、遮熱材902がプラグ電極203を囲む第2副室109Bの内面901A,901Bに設けられることにより、遮熱材307Bが設けられない第1副室109Aの内面(内周面)303Aからシリンダヘッド101への放熱効果が高まるため、高負荷時の冷却を十分に行うことができる。
【0059】
本実施例に示した副室の構造は一例であり、その形状は円筒状およびL字状に限られるものではない。
【0060】
その他の構成は実施例1と同様であり、さらに第1実施例及びその変更例で説明した遮熱材307,307-1,307-2,307-3に係る構成を本実施例に適宜組み合わせることができる。
【0061】
[実施例3]
本発明の第3実施例に係る副室式点火装置100Cについて、
図10及び
図11を用いて以下説明する。
図10は、本発明の第3実施例に係る副室式点火装置100Cの拡大断面図である。
図11は、本発明の第3実施例に係る副室点火装置100Cの内部と外部のガス温度の時間履歴を示した図である。
【0062】
第3実施例では、主燃焼室104に突出する第2領域302において、主燃焼室104に接する面(露出面又は外側面)に遮熱材1001を設ける。すなわち第2領域302は、内燃機関の主燃焼室104に面する外面に、副室形成部材201を形成する材料よりも熱伝導性の低い遮熱材(第2遮熱材)1001を備える。それ以外の構成は第1実施例と同様である。このように構成することで、高負荷において領域302への主燃焼室104からの入熱を抑制することができる。それ以外の構成は第1実施例と同様であり、遮熱材307は第1実施例と同様に設けられている。遮熱材307は変更例として説明した遮熱材307-1,307-2,307-3のように変更するができ、第2実施例の構成に本実施例の遮熱材1001を適用することも可能である。
【0063】
本実施例では、遮熱材1001の冷却は、吸気行程中の空気との熱交換によって行う。
図11は、エンジンの各行程におけるガス温度の推移を、副室109内部と副室109外部のそれぞれについて示しており、副室109内部のガス温度は、圧縮行程において主燃焼室104から流入する新気によってわずかな時間低下するのみであり、副室109内の流動も弱い一方で、副室109外部のガスは、吸気行程から新気によって冷却される。また、主燃焼室104の流動によって生じた流れにより熱伝達が好適に行われ、遮熱材1001の冷却が可能になる。
【0064】
すなわち本実施例の副室式点火装置100Cは、第2領域302の主燃焼室104に面する外面に、副室形成部材を形成する材料の熱伝導率よりも小さい熱伝導率の材料で形成される遮熱材1001を設ける。これにより本実施例の副室式点火装置100Cは、高負荷時における主燃焼室104から第2領域302への入熱を抑制することができる。
【0065】
なお、本発明は上記した各実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0066】
100A,100B,100C…副室式点火装置、102…シリンダヘッド、104…内燃機関の主燃焼室(エンジン主室)、109…副室、109A…第1副室、109B…第2副室、110…点火プラグ、118…制御装置(ECU)、201…副室形成部材、203…プラグ電極、204…通路(噴孔)、302…副室形成部材201の第2領域、303…副室形成部材201の第1領域、303A…第1領域303の内面(内周面)、307,307-1,307-2,307-3,307-3A,307-3B,307B…遮熱材(第1遮熱材、第1低熱伝導率部材)、307-2A…遮熱材307-2の切欠き部、901A,901B…第2副室109Bの内面、1001…遮熱材(第2遮熱材、第2低熱伝導率部材)。