(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】車両用フード
(51)【国際特許分類】
B62D 25/10 20060101AFI20230829BHJP
【FI】
B62D25/10 E
(21)【出願番号】P 2020012252
(22)【出願日】2020-01-29
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100109058
【氏名又は名称】村松 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 正敏
(72)【発明者】
【氏名】加嶋 寛子
【審査官】林 政道
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-212510(JP,A)
【文献】特開2008-143417(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/10-25/13
B60R 21/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両本体に取り付けられる車両用フードであって、
アウタパネルと、
前記アウタパネルの裏側に配置されたインナパネルと、
前記インナパネルに取り付けられていて前記車両本体と係合することにより前記車両用フードを前記車両本体に対して固定するストライカと、
前記アウタパネルと前記インナパネルとの間に介在し、前記アウタパネル及び前記インナパネルから選ばれる補強対象パネルに取り付けられてその補強対象パネルを補強する補強部材と、を備え、
前記補強部材は、前記ストライカの後端よりも前側に位置する前側部と、前記ストライカの後端よりも後側に位置する後側部と、を有し、
前記前側部は、前記補強対象パネルから前記アウタパネル及び前記インナパネルのうち前記補強対象パネル以外のパネルである相手方パネルへ向かって前記後側部よりも突出する突出部を有し
、
前記補強対象パネルは、前記アウタパネルであり、
前記相手方パネルは、前記インナパネルであり、
前記補強部材は、前記アウタパネルに取り付けられて前記アウタパネルを補強するアウタパネル補強材であり、
前記アウタパネル補強材は、当該アウタパネル補強材の所定の部分が前記インナパネルへ向かって突出するように窪まされることによって形成されたビードを有し、
前記ビードは、前記前側部と前記後側部とに亘って設けられ、
前記突出部は、前記ビードのうち前記前側部に位置する部分からなり、
前記インナパネルに取り付けられて前記インナパネルを補強するインナパネル補強材を備え、
前記突出部は、その突出方向において、前記インナパネル及び前記インナパネル補強材の双方に対して空間を隔てて形成されている、車両用フード。
【請求項2】
前記ビードは、前記車両用フードの前後方向に直交する幅方向に沿ってそれぞれ延びるとともに前記前後方向に並んで設けられ、それぞれ前記インナパネルへ向かって突出するように窪んだ複数のビード部を含み、
前記複数のビード部は、前記前側部に位置するビード部である前側ビード部と、
中間ビード部と、前記後側部に位置するビード部である後側ビード部と、を含み、
前記突出部は、前記前側ビード部からなり、
前記前側ビード部の前記アウタパネルから前記インナパネルへ向けての突出量は、
前記中間ビード部および前記後側ビード部の前記アウタパネルから前記インナパネルへ向けての突出量よりも大きい、請求項
1に記載の車両用フード。
【請求項3】
前記複数のビード部のうちの任意のビード部の前記アウタパネルから前記インナパネルへ向けての突出量は、その任意のビード部よりも後側に位置するビード部の前記アウタパネルから前記インナパネルへ向けての突出量よりも大きい、請求項
2に記載の車両用フード。
【請求項4】
前記ビードは、前記ストライカよりも前側の位置から前記ストライカよりも後側の位置に亘って前記車両用フードの前後方向に延び、
前記ビードのうち前記ストライカの後端よりも前側に位置する部分の前記アウタパネルから前記インナパネルへ向けての突出量は、前記ビードのうち前記ストライカの後端よりも後側に位置する部分の前記アウタパネルからの突出量よりも大きい、請求項
1に記載の車両用フード。
【請求項5】
車両本体に取り付けられる車両用フードであって、
アウタパネルと、
前記アウタパネルの裏側に配置されたインナパネルと、
前記インナパネルに取り付けられていて前記車両本体と係合することにより前記車両用フードを前記車両本体に対して固定するストライカと、
前記アウタパネルと前記インナパネルとの間に介在し、前記アウタパネル及び前記インナパネルから選ばれる補強対象パネルに取り付けられてその補強対象パネルを補強する補強部材と、を備え、
前記補強部材は、前記ストライカの後端よりも前側に位置する前側部と、前記ストライカの後端よりも後側に位置する後側部と、を有し、
前記前側部は、前記補強対象パネルから前記アウタパネル及び前記インナパネルのうち前記補強対象パネル以外のパネルである相手方パネルへ向かって前記後側部よりも突出する突出部を有し、
前記補強対象パネルは、前記インナパネルであり、
前記相手方パネルは、前記アウタパネルであり、
前記補強部材は、前記インナパネルのうち前記ストライカの前後に亘る範囲に取り付けられてその範囲を補強するインナパネル補強材であり、
前記インナパネル補強材は、前記前側部として前記ストライカの後端よりも前側に位置するインナパネル補強材前側部を有するとともに、前記後側部として前記ストライカの後端よりも後側に位置するインナパネル補強材後側部を有し、
前記インナパネル補強材前側部は、前記突出部として、前記インナパネルから前記アウタパネルへ向かって前記インナパネル補強材後側部よりも突出するインナパネル補強材突出部を有
し、
前記アウタパネルに取り付けられて前記アウタパネルを補強するアウタパネル補強材を備え、
前記インナパネル補強材突出部は、その突出方向において、前記アウタパネル及び前記アウタパネル補強材の双方に対して空間を隔てて形成されている、車両用フード。
【請求項6】
前記インナパネル補強材突出部は、前記インナパネル補強材の一部が片持ち梁状となるように曲げ起こされた曲げ起こし部からなる、請求項
5に記載の車両用フード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用フードに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両を構成するとともに当該車両の前部に配置される車両用フードが知られている。近年、車両用フードには、剛性、耐デント性及び張り剛性などに加えて、歩行者の頭部が車両用フードに衝突したときにその頭部に与えられる傷害を低減するための歩行者保護性能の向上が求められている。下記特許文献1には、歩行者の頭部が車両用フードに上方から衝突した場合にその衝突時の頭部の運動エネルギを吸収して歩行者保護性能を向上可能な車両用フード構造が開示されている。
【0003】
下記特許文献1に開示された車両用フード構造は、フードアウタパネルと、当該フードアウタパネルの裏側(下側)に配置されたフードインナパネルと、フードインナパネルの前部の底壁部に設けられて車両本体のフードロック機構によりロックされるストライカと、フードアウタパネルとフードインナパネルとの間に配置されてフードインナパネルの底壁部のうちストライカの設置箇所付近を補強するフードロックリインフォースと、フードアウタパネルとフードロックリインフォースとの間に介在してフードアウタパネルの変形を抑制するデントリインフォースと、を備えている。
【0004】
フードロックリインフォースは、フードインナパネルの底壁部のうちストライカの設置箇所付近の部分の上に重ねられて接合されることによりその部分の剛性を高める厚板と、その厚板の後端部に接合されるとともにその厚板の後端部からアウタパネルへ向かって延びる薄板と、を有する。
【0005】
デントリインフォースは、フードアウタパネルの裏面に沿ってストライカの前後に亘る範囲に設けられ、その前端部がフードロックリインフォースの厚板の前端部上に接合されている。また、デントリインフォースの後端部は、ストライカの後方でフードインナパネルの底壁部から立ち上げられた立壁部の上端から後方へ延びるフードインナパネル中央の一般面の前端に対して接合されている。また、デントリインフォースのうちその後端部よりも僅かに前側に位置する部位は、フードロックリインフォースの前記薄板の上端部に接合されている。
【0006】
そして、下記特許文献1の車両用フード構造では、フードロックリインフォースの前記薄板の剛性が当該フードロックリインフォースの前記厚板の剛性よりも低いことから、歩行者の頭部などの衝突体がストライカよりも後側の位置でアウタパネルに上側から衝突した場合には前記薄板が変形してその衝突体の運動エネルギを吸収し、それによって歩行者保護性能が向上されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、車両用フードのストライカの後端よりも前側の領域では、歩行者保護性能を向上するのに、ストライカの後端よりも後側の領域と異なる事情があり、前記特許文献1の車両用フード構造のようにデントリインフォースによってアウタパネルが補強されているだけでは当該前側の領域における歩行者保護性能を向上することは困難である。
【0009】
具体的に、車両用フードの歩行者保護性能の評価には、一般的に、頭部の衝突時にその頭部に加わる衝突方向と逆向きの加速度の波形から算出されるHIC(Head Injury Criteria)値が用いられる。このHIC値が小さいほど、歩行者の頭部が衝突したとしても頭部に傷害が生じにくく、歩行者保護性能が高いと評価される。前記加速度の波形では、歩行者の頭部がアウタパネルに衝突した時点で加速度一次ピークが生じ、その後、頭部がインナパネルへ向かって進行してアウタパネルとインナパネルとの間の空間を潰し切って突き当たった時点で加速度二次ピークが生じる。HIC値を低減して歩行者保護性能を向上するためには、前記加速度一次ピークを大きくしつつ、前記加速度二次ピークを低減することが効果的である。
【0010】
加速度一次ピークは、歩行者の頭部が衝突した部位の慣性質量が大きいほど、また、その部位周辺のアウタパネルの剛性が高いほど、大きくすることが可能である。車両用フードのストライカの後端よりも前側の領域では、前記車両用フード構造のようにデントリインフォースによってアウタパネルが補強されている場合にはその補強効果により加速度一次ピークを多少は大きくする効果が得られるものの、打撃点が車両用フードの外周部であることから当該前側の領域の慣性質量は比較的小さく、加速度一次ピークをあまり大きくすることはできない。
【0011】
また、ストライカが設けられる車両用フードの前部では、その前端に近づくほど、アウタパネルとインナパネルとの間の間隔が小さくなるため、ストライカの後端よりも前側の領域では、歩行者の頭部がアウタパネルに衝突してそのアウタパネルとインナパネルとの間の空間を潰し切るまでのアウタパネルの変形ストローク、すなわち歩行者の頭部の衝突時の運動エネルギの吸収ストロークが小さい。また、ストライカは車両本体に連結されて固定されることから、当該前側の領域においてインナパネルがアウタパネルと反対側(下側)へ変形して吸収ストロークが増加することも期待できない。従って、このストライカの後端よりも前側の領域に歩行者の頭部が衝突したときには、アウタパネルとインナパネルとの間の小さい吸収ストロークでしか頭部の運動エネルギが吸収されず、頭部が未だ大きな運動エネルギを保ったままで突き当たって非常に急峻で高い加速度二次ピークが生じることが多い。
【0012】
以上のように、ストライカの後端よりも前側の領域では、歩行者の頭部の衝突時に、加速度一次ピークを著しく大きくすることは困難であるとともに、非常に高い加速度二次ピークが生じやすいことから、HIC値を低減することは困難であり、その結果、歩行者保護性能を高めることが困難である。
【0013】
本発明の目的は、ストライカの後端よりも前側及び後側の両方の領域の歩行者保護性能をそれらの領域のそれぞれの事情に応じて適切に向上することが可能な車両用フードを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明により提供される車両用フードは、車両本体に取り付けられる車両用フードである。この車両用フードは、アウタパネルと、前記アウタパネルの裏側に配置されたインナパネルと、前記インナパネルに取り付けられていて前記車両本体と係合することにより前記車両用フードを前記車両本体に対して固定するストライカと、前記アウタパネルと前記インナパネルとの間に介在し、前記アウタパネル及び前記インナパネルから選ばれる補強対象パネルに取り付けられてその補強対象パネルを補強する補強部材と、を備える。前記補強部材は、前記ストライカの後端よりも前側に位置する前側部と、前記ストライカの後端よりも後側に位置する後側部と、を有する。前記前側部は、前記補強対象パネルから前記アウタパネル及び前記インナパネルのうち前記補強対象パネル以外のパネルである相手方パネルへ向かって前記後側部よりも突出する突出部を有する。
【0015】
この車両用フードでは、ストライカの後端よりも前側の領域では歩行者の頭部の衝突時に加速度二次ピークが生じるまでに前記頭部の運動エネルギを補強部材の前側部の突出部と相手方パネルもしくはそれに付随する部材との接触によって低下させ、それによって加速度二次ピークを低減できるとともに、ストライカの後端よりも後側の領域では歩行者の頭部の運動エネルギの吸収ストロークの大きさを有効に活用して加速度二次ピークを低減でき、その結果、ストライカの後端よりも前側及び後側の両方の領域の歩行者保護性能をそれらの領域のそれぞれの事情に応じて適切に向上することができる。
【0016】
具体的に、本発明による車両用フードでは、補強部材の前側部が補強対象パネルから相手方パネルへ向かって当該補強部材の後側部よりも突出する突出部を有するため、ストライカの後端よりも前側の領域において歩行者の頭部の衝突時にアウタパネルが変形してそのアウタパネルとインナパネルとの間の空間が潰れ切る前に前記突出部が相手方パネルもしくはそれに付随する部材に接触して歩行者の頭部に衝突方向と逆向きの加速度を加え、それによって歩行者の頭部の運動エネルギを低下させることができる。このため、ストライカの後端よりも前側の領域において歩行者の頭部の衝突時に生じる加速度二次ピークを低減できる。
【0017】
また、車両用フードのストライカの後端よりも後側の領域では、一般的にアウタパネルとインナパネルとの間の間隔が大きくなっていて、歩行者の頭部の衝突時にアウタパネルが変形してそのアウタパネルとインナパネルとの間の空間が潰れ切るまでの歩行者の頭部の運動エネルギの吸収ストロークを大きく確保でき、さらに、この後側の領域ではインナパネルがアウタパネルと反対側へ変形可能であるため、そのインナパネルの変形による吸収ストロークの増加も期待できる。そこで、本発明による車両用フードでは、補強部材の前側部の突出部が補強対象パネルから相手方パネルへ向かって当該補強部材の後側部よりも突出している、換言すれば補強部材の後側部が前側部の突出部に比べて相手方パネルへ向かって突出していないことにより、ストライカの後端よりも後側の領域に歩行者の頭部が衝突したときに補強部材の後側部が相手方パネルもしくはそれに付随する部材に接触するタイミングを遅らせることができ、ストライカの後端よりも後側の領域における大きな吸収ストロークを有効に活用して歩行者の頭部に加わる前記逆向きの加速度が低い状態のままで歩行者の頭部の運動エネルギを長い時間にわたって吸収できる。このため、ストライカの後端よりも後側の領域において歩行者の頭部の衝突時に生じる加速度二次ピークを低減できる。
【0018】
以上のように、本発明による車両用フードでは、ストライカの後端よりも前側の領域及び後側の領域のそれぞれの事情に応じて歩行者の頭部の衝突時に生じる加速度二次ピークを低減でき、その結果、ストライカの後端よりも前側及び後側の両方の領域のHIC値を低減できる。そのため、ストライカの後端よりも前側及び後側の両方の領域の歩行者保護性能をそれらの領域のそれぞれの事情に応じて適切に向上することができる。
【0019】
前記補強対象パネルは、前記アウタパネルであり、前記相手方パネルは、前記インナパネルであり、前記補強部材は、前記アウタパネルに取り付けられて前記アウタパネルを補強するアウタパネル補強材であり、前記アウタパネル補強材は、当該アウタパネル補強材の所定の部分が前記インナパネルへ向かって突出するように窪まされることによって形成されたビードを有し、前記ビードは、前記前側部と前記後側部とに亘って設けられ、前記突出部は、前記ビードのうち前記前側部に位置する部分からなっていてもよい。
【0020】
この構成によれば、アウタパネル補強材の剛性及び強度をビードによって向上して当該アウタパネル補強材によるアウタパネルの補強効果を高めつつ、そのビードの一部を前記突出部として利用して車両用フードのストライカの後端よりも前側の領域における歩行者保護性能を向上することができる。
【0021】
前記ビードは、前記車両用フードの前後方向に直交する幅方向に沿ってそれぞれ延びるとともに前記前後方向に並んで設けられ、それぞれ前記インナパネルへ向かって突出するように窪んだ複数のビード部を含み、前記複数のビード部は、前記前側部に位置するビード部である前側ビード部と、前記後側部に位置するビード部である後側ビード部と、を含み、前記突出部は、前記前側ビード部からなり、前記前側ビード部の前記アウタパネルから前記インナパネルへ向けての突出量は、前記後側ビード部の前記アウタパネルから前記インナパネルへ向けての突出量よりも大きくてもよい。
【0022】
こうすれば、車両用フードの前後方向に直交する幅方向に沿ってそれぞれ延びるとともに前後方向に並んで設けられた複数のビード部を利用して、補強部材の前側部の突出部が補強対象パネルから相手方パネルへ向かって補強部材の後側部よりも突出している補強部材の構成を得ることができる。
【0023】
前記複数のビード部のうちの任意のビード部の前記アウタパネルから前記インナパネルへ向けての突出量は、その任意のビード部よりも後側に位置するビード部の前記アウタパネルから前記インナパネルへ向けての突出量よりも大きいことが好ましい。
【0024】
この構成によれば、車両用フードのうち歩行者の頭部の衝突時に生じる加速度二次ピークの低減が難しい前端により近い領域において加速度二次ピークを有効に低減できる。具体的に、ストライカが設けられる車両用フードの前部では一般的にその車両用フードの前端に近づくほどアウタパネルとインナパネルとの間の間隔が小さくなるため、前記吸収ストロークが小さくなって歩行者の頭部の衝突時に加速度二次ピークを低減しにくくなるが、本構成では、複数のビード部のうち最も前側に位置するビード部の突出量を最も大きくすることができるため、加速度二次ピークを低減しにくい前端により近い領域において歩行者の頭部の衝突時に最も前側のビード部を相手方パネルもしくはそれに付随する部材に対して早期に接触させて歩行者の頭部の運動エネルギを低下させることができ、その結果、加速度二次ピークを有効に低減できる。
【0025】
前記ビードは、前記ストライカよりも前側の位置から前記ストライカよりも後側の位置に亘って前記車両用フードの前後方向に延び、前記ビードのうち前記ストライカの後端よりも前側に位置する部分の前記アウタパネルから前記インナパネルへ向けての突出量は、前記ビードのうち前記ストライカの後端よりも後側に位置する部分の前記アウタパネルからの突出量よりも大きくてもよい。
【0026】
こうすれば、車両用フードの前後方向に延びるビードを利用して、補強部材の前側部の突出部が補強対象パネルから相手方パネルへ向かって補強部材の後側部よりも突出している補強部材の構成を得ることができる。
【0027】
前記補強対象パネルは、前記インナパネルであり、前記相手方パネルは、前記アウタパネルであり、前記補強部材は、前記インナパネルのうち前記ストライカの前後に亘る範囲に取り付けられてその範囲を補強するインナパネル補強材であり、前記インナパネル補強材は、前記前側部として前記ストライカの後端よりも前側に位置するインナパネル補強材前側部を有するとともに、前記後側部として前記ストライカの後端よりも後側に位置するインナパネル補強材後側部を有し、前記インナパネル補強材前側部は、前記突出部として、前記インナパネルから前記アウタパネルへ向かって前記インナパネル補強材後側部よりも突出するインナパネル補強材突出部を有していてもよい。
【0028】
この構成によれば、インナパネル補強材によってインナパネルのストライカの前後に亘る範囲を補強しつつ、そのインナパネル補強材の一部を突出部として利用して車両用フードのストライカの後端よりも前側の領域における歩行者保護性能を向上することができる。
【0029】
前記インナパネル補強材突出部は、前記インナパネル補強材の一部が片持ち梁状となるように曲げ起こされた曲げ起こし部からなることが好ましい。
【0030】
こうすれば、片持ち梁状の曲げ起こし部は衝突により変形しやすいため、インナパネル補強材が、剛性確保の観点から比較的肉厚になりやすいフードロックリインフォースであっても、インナパネル補強材突出部の潰れ残りによる過大な変形抵抗をもたらさない。このため、インナパネル補強材突出部の潰れ残りによる加速度二次ピークの増大を抑制することができる。
【発明の効果】
【0031】
以上のように、本発明によれば、ストライカの後端よりも前側及び後側の両方の領域の歩行者保護性能をそれらの領域のそれぞれの事情に応じて適切に向上することが可能な車両用フードが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の第1実施形態による車両用フードからアウタパネルを取り外した状態を示す平面図である。
【
図2】
図1中のII-II位置における第1実施形態による車両用フードの断面図である。
【
図3】第1実施形態による車両用フードに用いられるアウタパネル補強材の斜視図である。
【
図4】第1比較例による車両用フードにストライカの後端よりも前側の打撃点でインパクタが衝突するときのアウタパネル及びアウタパネル補強材の挙動を示す
図2相当の断面図である。
【
図5】第1比較例による車両用フードにストライカの後端よりも前側の打撃点でインパクタが衝突したときの加速度-変位波形を示す図である。
【
図6】第1実施形態による車両用フードにストライカの後端よりも前側の打撃点でインパクタが衝突してアウタパネル補強材がベースプレートに接触した状態を示す
図2相当の断面図である。
【
図7】第2比較例による車両用フードにストライカの後端よりも前側の打撃点でインパクタが衝突して
図6中のインパクタと同じ位置まで進行した状態を示す
図2相当の断面図である。
【
図8】第1実施形態による車両用フードにストライカの後端よりも前側の打撃点でインパクタが衝突したときの加速度-変位波形及び第2比較例による車両用フードに同様にインパクタが衝突したときの加速度-変位波形を示す図である。
【
図9】第1実施形態による車両用フードにストライカの後端よりも後側の打撃点でインパクタが衝突してアウタパネル及びアウタパネル補強材が窪むように変形した状態を示す
図2相当の断面図である。
【
図10】第3比較例による車両用フードにストライカの後端よりも後側の打撃点でインパクタが衝突して
図9中のインパクタと同じ位置まで進行した状態を示す
図2相当の断面図である。
【
図11】第1実施形態による車両用フードにストライカの後端よりも後側の打撃点でインパクタが衝突したときの加速度-変位波形及び第3比較例による車両用フードに同様にインパクタが衝突したときの加速度-変位波形を示す図である。
【
図12】本発明の第2実施形態による車両用フードの
図2相当の断面図である。
【
図13】第2実施形態による車両用フードに用いられるアウタパネル補強材の斜視図である。
【
図14】本発明の第3実施形態による車両用フードの
図2相当の断面図である。
【
図15】第3実施形態による車両用フードに用いられるインナパネル補強材、ベースプレート及びストライカの組み合わされた状態での斜視図である。
【
図16】本発明の第1変形例による車両用フードの
図2相当の断面図である。
【
図17】第1変形例による車両用フードに用いられるインナパネル補強材、ベースプレート及びストライカの組み合わされた状態での斜視図である。
【
図18】本発明の第2変形例による車両用フードの
図2相当の断面図である。
【
図19】第2変形例による車両用フードに用いられるインナパネル補強材、ベースプレート及びストライカの組み合わされた状態での斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0034】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態による車両用フード1は、自動車等の車両を構成する部材であり、車両本体の前部に設けられたエンジンルームを開閉可能に車両本体に取り付けられる。当該車両用フード1は、エンジンルームを閉じた状態でエンジンルーム上を覆う。以下の車両用フード1の構成の説明において、前後左右は、車両用フード1が設置された車両において当該車両用フード1がエンジンルームを閉じた状態での車両の前後左右を意味する。左右方向は、車両の幅方向(車幅方向)に相当する。なお、以降において単に幅方向と記載されている場合には、その幅方向は車両の幅方向に相当する。また、車両用フード1についての上下は、車両用フード1がエンジンルームを閉じた状態での上下を言うものとする。各図面には、前後、左右及び上下の各方向が示されている。
【0035】
車両用フード1は、
図2に示すように、アウタパネル2と、インナパネル4と、インナパネル補強材6と、ベースプレート7と、ストライカ8と、アウタパネル補強材10と、を備える。
【0036】
アウタパネル2は、車両用フード1がエンジンルームを閉じた状態で車両用フード1の上面(外面)を構成するものである。当該第1実施形態におけるアウタパネル2は、本発明における補強対象パネルの一例である。アウタパネル2は、例えばアルミニウム系材料からなる板材をプレス成形することにより形成される。アウタパネル2は、ヘム加工(折り返し加工)されることによってインナパネル4の後述の外側接合部12に強固に固着される外周部2a(
図2参照)を有する。また、アウタパネル2は、車両用フード1がエンジンルームを閉じた状態で車両用フード1の上面(外面)を構成する表面2bと、その表面2bと反対の裏面2cと、を有する。アウタパネル2は、その表側から歩行者の頭部が衝突したときに加速度-変位波形において加速度の一次ピークを生じさせるとともに、インナパネル4へ向かって窪むように変形するようになっている。なお、アウタパネル2の表側は、車両用フード1がエンジンルームを閉じた状態でのアウタパネル2の上側に相当する。また、アウタパネル2の裏側は、車両用フード1がエンジンルームを閉じた状態でのアウタパネル2の下側に相当する。
【0037】
インナパネル4は、車両用フード1がエンジンルームを閉じた状態で車両用フード1の下面を構成するものである。当該第1実施形態におけるインナパネル4は、本発明における相手方パネルの一例である。インナパネル4は、例えばアルミニウム系材料からなる板材をプレス成形することにより形成される。インナパネル4は、アウタパネル2の裏側に配置されてアウタパネル2に接合されている。換言すれば、インナパネル4は、アウタパネル2の裏面2cに対向するように配置されてアウタパネル2に接合されている。
【0038】
インナパネル4は、外側接合部12(
図1参照)と、底部14と、接続壁部15(
図2参照)と、内側接合部16と、を有する。
【0039】
外側接合部12は、環状をなしてインナパネル4の外周を構成する部分であり、前記のようにアウタパネル2の外周部2aに接合されている。外側接合部12は、インナパネル4の前端に位置する接合前端部12aを有する。
【0040】
底部14は、インナパネル4の底面を構成する部分である。底部14は、環状の外側接合部12の内側に配置され、その外側接合部12に沿う環状で板状をなしている。底部14は、アウタパネル2の裏面2cから離間している。底部14は、接合前端部12aの後方に隣接して配置された部分である前側底部18を有する。アウタパネル2は、
図2に示すように、その前端部から後側へ向かうにつれて徐々にインナパネル4の前側底部18から離れるように傾斜して延びており、その結果、アウタパネル2と前側底部18との間の間隔は、後側へ向かうにつれて大きくなっている。前側底部18の左右方向における中央には、当該前側底部18をその板厚方向に貫通する底部開口18aが設けられている。
【0041】
また、底部14の左後端近傍の部位と右後端近傍の部位とに、それぞれヒンジ取付部19(
図1参照)が設けられている。このヒンジ取付部19には図略のヒンジが取り付けられ、車両用フード1が、このヒンジを介して、図略の車両本体のエンジンルームの上部開口を開閉可能となるように車両本体に連結される。
【0042】
接続壁部15は、外側接合部12と底部14との間でそれらを相互に繋ぐ部分であり、外側接合部12に沿う環状をなしている。接続壁部15は、接合前端部12aと前側底部18との間でその接合前端部12aの後端と前側底部18の前端とを繋ぐ部分である前側接続壁部20(
図2参照)を有する。前側接続壁部20は、全体的に、接合前端部12aの後端から前側底部18へ近づくにつれて後方へ向かうように傾斜している。前側接続壁部20は、当該前側接続壁部20のうち接合前端部12aと前側底部18との間の所定の中間位置において前側底部18と略平行に配置される前側接続壁中段部20aを有する。
【0043】
内側接合部16は、環状の底部14の内側において底部14からアウタパネル2へ向かって突出し、アウタパネル2の裏面2cに接合されている。内側接合部16は、起立壁部24と、天壁部26と、を有する。
【0044】
起立壁部24は、環状の底部14の内縁からアウタパネル2へ向かって立ち上がり、環状をなしている。この起立壁部24は、前側底部18の後端からアウタパネル2へ向かって延び、その前側底部18の後端と天壁部26の前端とを繋ぐ前側起立壁部28を有する。前側起立壁部28は、全体的に、天壁部26の前端へ近づくにつれて後方へ向かうように傾斜している。前側起立壁部28は、前側底部18の後端と天壁部26の前端との間の所定の中間位置において前側底部18と略平行に配置される前側起立壁中段部28aを有する。
【0045】
天壁部26は、内側接合部16の天面(上面)を構成する部分であり、環状の起立壁部24のうちの底部14と反対側の端縁と繋がっている。天壁部26は、アウタパネル2の裏面2cに沿うように配置されるとともにそのアウタパネル2の裏面2cに対して接合されている。このアウタパネル2の裏面2cへの天壁部26の接合により、アウタパネル2が裏側からインナパネル4によって支えられている。
【0046】
インナパネル補強材6は、アウタパネル2とインナパネル4との間に介在し、インナパネル4に取り付けられてそのインナパネル4を補強する板状の部材である。具体的には、インナパネル補強材6は、インナパネル4の前側底部18のうちストライカ8の周りの部分を補強するいわゆるフードロックリインフォースである。このインナパネル補強材6は、前側底部18のうち底部開口18aの周りの部分、具体的には前側底部18のうち底部開口18aの前後及び左右に亘る範囲において、当該前側底部18のうちアウタパネル2側を向く面を覆うように配置されてその面に接合されている。このようにインナパネル補強材6が前側底部18に接合されることによって、当該インナパネル補強材6は、前側底部18のうち底部開口18aの周りの部分、換言すれば、後述のように前側底部18に対して取り付けられたストライカ8の周りの部分を補強している。インナパネル補強材6のうち前記底部開口18aと対応する箇所には、当該インナパネル補強材6をその板厚方向に貫通する補強材開口6aが設けられている。
【0047】
ベースプレート7は、ストライカ8と結合している部材であり、インナパネル補強材6のうちアウタパネル2側を向く面上に配置されてその面に固定されている。ベースプレート7は、
図2に示すように、ベース部7aと、前側固定部7bと、後側固定部7cと、を有する。
【0048】
ベース部7aは、平板状をなし、インナパネル補強材6のうちアウタパネル2側を向く面上に配置されてその面に固定された部分である。ベース部7aは、インナパネル補強材6の補強材開口6aの前後左右の領域を覆うように配置されている。
【0049】
前側固定部7bは、ストライカ8の後述する前側取付部32が固定される部分である。前側固定部7bは、半筒状をなし、前記補強材開口6aの前端近傍の位置から右方へ延びている。前側固定部7bは、ベース部7aからアウタパネル2へ向かって膨出する一方、アウタパネル2と反対側に窪みを形成している。
【0050】
後側固定部7cは、ストライカ8の後述する後側取付部34が固定される部分である。後側固定部7cは、半筒状をなし、前記補強材開口6aの後端近傍の位置から左方へ延びている。後側固定部7cは、ベース部7aからアウタパネル2へ向かって膨出する一方、アウタパネル2と反対側に窪みを形成している。
【0051】
ストライカ8は、車両用フード1がエンジンルームを閉じた状態で図略の車両本体のロック装置のラッチと係合し、それによって車両用フード1をその状態で車両本体に対して固定するものである。ストライカ8は、インナパネル補強材6及びベースプレート7を介してインナパネル4の前側底部18に取り付けられている。ストライカ8は、係合部30と、前側延出部31と、前側取付部32と、後側延出部33と、後側取付部34と、を有する。
【0052】
係合部30は、車両用フード1がエンジンルームを閉じた状態で図略の前記ラッチと係合する部分である。この係合部30は、前側底部18の底部開口18aからアウタパネル2と反対側に離間した位置で前後方向に延びている。
【0053】
前側延出部31は係合部30の前端部から前側底部18へ向かって延び、後側延出部33は係合部30の後端部から前側底部18へ向かって延びている。前側延出部31のうち係合部30と反対側の端部及び後側延出部33のうち係合部30と反対側の端部は、底部開口18a及び補強材開口6aを通ってアウタパネル2側へそれぞれ突出している。
【0054】
前側取付部32は、ベースプレート7の前側固定部7bに取り付けられる部分である。前側取付部32は、前側延出部31の係合部30と反対側の端部から右方へ延びている。この前側取付部32は、前側固定部7bに形成された窪み内に配置され、その状態で前側固定部7bに固定されている。
【0055】
後側取付部34は、ベースプレート7の後側固定部7cに取り付けられる部分である。後側取付部34は、後側延出部33の係合部30と反対側の端部から左方へ延びている。この後側取付部34は、後側固定部7cに形成された窪み内に配置され、その状態で後側固定部7cに固定されている。
【0056】
前側取付部32が前側固定部7bに固定されるとともに後側取付部34が後側固定部7cに固定されることにより、ストライカ8は、ベースプレート7に固定され、そのベースプレート7とインナパネル補強材6を介してインナパネル4の前側底部18に固定されている。
【0057】
アウタパネル補強材10は、アウタパネル2とインナパネル4との間に介在し、アウタパネル2に取り付けられてそのアウタパネル2を補強する部材である。具体的には、アウタパネル補強材10は、アウタパネル2のうちインナパネル4の前側接続壁部20から天壁部26の前端部に亘る領域と対向する範囲を補強している。当該第1実施形態におけるアウタパネル補強材10は、本発明における補強部材の一例である。このアウタパネル補強材10は、アウタパネル2の耐デント性を高めるためのいわゆるデントリインフォースである。アウタパネル補強材10は、単一の板材からなり、アウタパネル2に表側から歩行者の頭部等が衝突したときにはアウタパネル2とともにインナパネル4へ向かって変形し得るように構成されている。
【0058】
アウタパネル補強材10は、ストライカ8の後端8aよりも前側に位置する前側部10aと、ストライカ8の後端8aよりも後側に位置する後側部10bと、を有する。
【0059】
前側部10aは、前側本体部36と、前側接合部38と、を有する。前側本体部36は、アウタパネル2の裏面2cに沿うように配置され、その裏面2cに対して図略のマスチック接着剤を介して接合されている。前側接合部38は、前側本体部36の前端からインナパネル4の前側接続壁中段部20aへ向かって延び、その前側接続壁中段部20aに対して図略のスポット溶接やFSW接合あるいはTOX接合等のかしめ接合により接合されている。
【0060】
後側部10bは、後側本体部39と、後側接合部40と、を有する。後側本体部39は、前側本体部36から後側へ連続して延びていてアウタパネル2の裏面2cに沿うように配置され、その裏面2cに対して図略のマスチック接着剤を介して接合されている。後側接合部40は、後側本体部39の後端からインナパネル4の天壁部26へ向かって延び、その天壁部26の前端付近の部位に対して図略のスポット溶接やFSW接合あるいはTOX接合等のかしめ接合により接合されている。
【0061】
当該第1実施形態では、前記前側本体部36と前記後側本体部39とによってアウタパネル2のうちストライカ8の前後に亘る範囲を補強するアウタパネル補強材10の補強材本体41が構成されている。補強材本体41は、概ね、前後方向においてインナパネル4の前側接続壁部20の後端部の位置から天壁部26の前端部の位置に亘って配置されている。
【0062】
補強材本体41は、当該補強材本体41の所定の部分がインナパネル4へ向かって突出するように窪まされることによって形成されたビード42を有する。このビード42により、補強材本体41の剛性及び強度が向上されている。ビード42は、前側本体部36と後側本体部39とに亘って設けられている。すなわち、ビード42は、ストライカ8の前後に亘って設けられている。当該第1実施形態では、ビード42は、車両用フード1の前後方向に直交する幅方向(左右方向)にそれぞれ延びるとともに前後方向に並んで配置された複数のビード部44を含む。複数のビード部44は、それぞれ、インナパネル4へ向かって突出するように窪んでいる。これらの複数のビード部44のそれぞれは、インナパネル4、インナパネル補強材6及びベースプレート7のいずれに対しても空間を隔てて上下方向において離間している。
【0063】
複数のビード部44のうちの任意のビード部44のアウタパネル2からインナパネル4へ向けての突出量は、その任意のビード部44よりも後側に位置するビード部44のアウタパネル2からインナパネル4へ向けての突出量よりも大きくなっている。すなわち、複数のビード部44のうち前寄りに位置するビード部44ほど突出量が大きくなっている。
【0064】
複数のビード部44には、前側ビード部44aと、中間ビード部44bと、後側ビード部44cと、が含まれる。前側ビード部44aと中間ビード部44bと後側ビード部44cは、この順番で前から後へ向かって並んでいる。
【0065】
前側ビード部44aは、前側本体部36に設けられており、本発明における突出部の一例である。前側ビード部44aは、補強材本体41が有する複数のビード部44の中で最も前側に位置するビード部44である。前側ビード部44aは、アウタパネル2からインナパネル4へ向かって前記後側部10bよりも突出している。具体的には、前側ビード部44aは、中間ビード部44bのうち後側部10bに設けられた部分、後側ビード部44c、及び、後側接合部40よりもインナパネル4へ向かって突出している。換言すれば、前側ビード部44aのアウタパネル2からインナパネル4へ向けての突出量は、中間ビード部44b、後側ビード部44c及び後側接合部40のアウタパネル2からインナパネル4へ向けての突出量よりも大きくなっている。前側ビード部44aは、歩行者の頭部がストライカ8の後端8aよりも前側の打撃点でアウタパネル2に表側から衝突してアウタパネル2及びアウタパネル補強材10がインナパネル4へ向かって変形したときに最初にベースプレート7、インナパネル補強材6もしくはインナパネル4の前側底部18に接触して変形し得る(潰れ得る)ようになっており、そのことによって歩行者の頭部の運動エネルギを吸収できるようになっている。
【0066】
中間ビード部44bは、前側本体部36と後側本体部39とに跨って設けられている。また、後側ビード部44cは、後側本体部39に設けられている。中間ビード部44bのアウタパネル2からインナパネル4へ向けての突出量は、後側ビード部44cのアウタパネル2からインナパネル4へ向けての突出量よりも大きい。後側ビード部44c及び中間ビード部44bはいずれも前側ビード部44aよりも突出量が小さくなっているため、歩行者の頭部がストライカ8の後端8aよりも後側の打撃点でアウタパネル2に表側から衝突してアウタパネル2及びアウタパネル補強材10がインナパネル4へ向かって変形したときにベースプレート7、インナパネル補強材6及びインナパネル4に対して接触するのが遅れるようになっている。
【0067】
また、補強材本体41は、前側ビード部44aの前側に位置する当該補強材本体41の前端部と、前側ビード部44aと中間ビード部44bとの間と、中間ビード部44bと後側ビード部44cとの間と、後側ビード部44cの後側に位置する当該補強材本体41の後端部とにそれぞれ設けられて、アウタパネル2の裏面2cにそれぞれ接合された複数の本体接合部46を有する。この複数の本体接合部46は、その各々の本体接合部46上に左右方向(幅方向)に所定間隔で配置された図略のマスチック接着剤を介してアウタパネル2の裏面2cに接合されている。
【0068】
この第1実施形態による車両用フード1では、ストライカ8の後端8aよりも前側の領域では歩行者の頭部の衝突時に加速度二次ピークが生じるまでに前記頭部の運動エネルギをアウタパネル補強材10の前側部10aに設けられた突出部としての前側ビード部44aとベースプレート7もしくはインナパネル補強材6もしくはインナパネル4の前側底部18との接触によって低下させ、それによって加速度二次ピークを低減できるとともに、ストライカ8の後端8aよりも後側の領域では歩行者の頭部の運動エネルギの吸収ストロークの大きさを有効に活用して加速度二次ピークを低減でき、その結果、ストライカ8の前後に亘る領域での歩行者保護性能を向上できる。
【0069】
具体的に、車両用フード1の歩行者保護性能は、一般的にHIC値が低いほど高いと評価される。このHIC値を低減するためには、歩行者の頭部が車両用フード1に衝突するときにその衝突方向における歩行者の頭部の変位量と歩行者の頭部に加わる衝突方向と逆向きの加速度との相関関係を示す加速度-変位波形において、衝突の開始時点、すなわち歩行者の頭部がアウタパネル2に接触した時点で生じる加速度一次ピークを大きくしつつ、その後、歩行者の頭部がアウタパネル2とインナパネル4との間の空間を潰し切って突き当たったときに生じる加速度二次ピークを低減することが効果的である。
【0070】
しかしながら、車両用フード1のうちストライカ8が設けられる前端近傍の部分は慣性質量が小さいため、加速度一次ピークを大きくすることは困難である。また、車両用フード1のストライカ8の後端8aよりも前側の領域では、アウタパネル2とインナパネル4との間の間隔が小さいため、歩行者の頭部の衝突時にアウタパネル2が変形してそのアウタパネル2とインナパネル4との間の空間が潰れ切るまでのストローク、すなわち歩行者の頭部の運動エネルギの吸収ストロークが小さく、また、ストライカ8が車両本体に固定されることから当該前側の領域においてインナパネル4がアウタパネル2と反対側へ変形して前記吸収ストロークが増加することも期待できない。そのため、車両用フード1のストライカ8の後端8aよりも前側の領域は、加速度二次ピークを低減するには条件的に不利であるが、当該第1実施形態による車両用フード1では、アウタパネル補強材10の前側部10aがアウタパネル2からインナパネル4へ向かって後側部10bよりも突出する突出部としての前側ビード部44aを有するため、ストライカ8の後端8aよりも前側の領域において歩行者の頭部の衝突時にアウタパネル2とインナパネル4との間の空間が潰れ切るまでに前側ビード部44aがインナパネル4の前側底部18もしくはその前側底部18に付随するインナパネル補強材6もしくはベースプレート7に接触して歩行者の頭部に衝突方向と逆向きの加速度が加えられ、それによって歩行者の頭部の運動エネルギを低下させることができる。このため、ストライカ8の後端8aよりも前側の領域において歩行者の頭部の衝突時に生じる加速度二次ピークを低減できる。
【0071】
また、車両用フード1のストライカ8の後端8aよりも後側の領域では、アウタパネル2とインナパネル4の前側底部18との間の間隔が大きくなっていて、前記吸収ストロークを大きく確保できる。また、この後側の領域では、インナパネル4の前側起立壁部28がアウタパネル2と反対側へ変形可能であるため、その前側起立壁部28の変形による前記吸収ストロークの増加も期待できる。そこで、当該第1実施形態による車両用フード1では、アウタパネル補強材10のうちストライカ8の後端8aよりも前側に位置する前側部10aに設けられた突出部としての前側ビード部44aがアウタパネル2からインナパネル4へ向かってアウタパネル補強材10の後側部10bよりも突出している、換言すればアウタパネル補強材10の後側部10bが前側ビード部44aよりも突出していないことにより、ストライカ8の後端8aよりも後側の領域における大きな吸収ストロークを有効に活用して歩行者の頭部に加わる前記逆向きの加速度が低い状態のままで歩行者の頭部の運動エネルギを長い時間にわたって吸収できる。このため、ストライカ8の後端8aよりも後側の領域において歩行者の頭部の衝突時に生じる加速度二次ピークを低減できる。
【0072】
以上のように、当該第1実施形態による車両用フード1では、ストライカ8の後端8aよりも前側の領域及び後側の領域のそれぞれの事情に応じて歩行者の頭部の衝突時に生じる加速度二次ピークを低減でき、その結果、ストライカ8の後端8aの前後両側の領域におけるHIC値を低減してその前後両側の領域での歩行者保護性能を向上することができる。
【0073】
また、当該第1実施形態による車両用フード1では、ストライカ8の後端8aよりも前側の領域において歩行者の頭部の衝突時にインナパネル4の前側底部18もしくはその前側底部18に付随するインナパネル補強材6もしくはベースプレート7と接触して歩行者の頭部の運動エネルギを低下させる突出部がビード42を構成する複数のビード部44のうち前側部10aに位置する前側ビード部44aからなっている。このため、ビード42によってアウタパネル補強材10の剛性及び強度を向上して当該アウタパネル補強材10によるアウタパネル2の補強効果を高めつつ、そのビード42の一部を前記突出部として利用してストライカ8の後端8aよりも前側の領域における歩行者保護性能を向上できる。
【0074】
また、車両用フード1では、アウタパネル2が前方へ向かうにつれて下方へ向かうように傾斜していることから、ストライカ8が設けられている当該車両用フード1の前部、すなわちインナパネル4の前側起立壁部28よりも前側に位置する車両用フード1の前部において、アウタパネル2とインナパネル4との間の間隔は車両用フード1の前端に近づくほど小さくなり、前記吸収ストロークが小さくなって加速度二次ピークを低減しにくくなる。これに対し、当該第1実施形態による車両用フード1では、アウタパネル補強材10に設けられた複数のビード部44のうちの任意のビード部44のアウタパネル2からインナパネル4へ向けての突出量がその任意のビード部44よりも後側に位置するビード部44のアウタパネル2からインナパネル4へ向けての突出量よりも大きくなっているため、複数のビード部44のうち最も前側に位置する前側ビード部44aの突出量が最も大きくなり、加速度二次ピークを低減しにくい車両用フード1の前端により近い領域において歩行者の頭部の衝突時に前側ビード部44aをベースプレート7もしくはインナパネル補強材6もしくはインナパネル4の前側底部18に対して早期に接触させて歩行者の頭部の運動エネルギを低下させることができ、その結果、当該前端により近い領域において加速度二次ピークを有効に低減できる。
【0075】
また、複数のビード部44のうち最も前側に位置する前側ビード部44aの突出量が最も大きいこと、すなわち当該前側ビード部44aの窪みの深さが複数のビード部44のうちで最も大きいことにより、その前側ビード部44a付近でのアウタパネル補強材10の剛性を著しく高めることができ、その結果、車両用フード1の前端付近でのアウタパネル補強材10によるアウタパネル2の補強効果を非常に高めて、その前端付近での歩行者の頭部の衝突時に生じる加速度一次ピークをより大きくすることができるとともに、その加速度一次ピークが生じた後の加速度の急激な低下を抑制できる。従って、車両用フード1の前端付近での衝突初期における歩行者の頭部の運動エネルギの吸収量を増加させることができ、車両用フード1の前端付近のHIC値をより低下させることができるため、その前端付近での歩行者歩行性能をより向上できる。
【0076】
次に、歩行者の頭部を模擬したインパクタ100が車両用フード1のストライカ8の後端8aよりも前側の打撃点で衝突する場合とストライカ8の後端8aよりも後側の打撃点で衝突する場合とにおける車両用フード1の具体的な変形の挙動について説明するとともに、前記した歩行者保護性能の向上効果についてより具体的に説明する。
【0077】
図4には、アウタパネル補強材10の補強材本体41にビード部44が設けられていない第1比較例による車両用フード1に対してストライカ8の後端8aよりも前側の打撃点でインパクタ100が衝突する場合のアウタパネル2及びアウタパネル補強材10の挙動が示されており、
図5には、この衝突の場合の加速度-変位波形が示されている。
【0078】
第1比較例による車両用フード1に対してストライカ8の後端8aよりも前側の打撃点でインパクタ100が衝突するときには、インパクタ100がアウタパネル2に接触した時点(
図4中の状態A)で、インパクタ100に加わる衝突方向と逆向きの加速度が上昇して加速度-変位波形においてブロードな加速度一次ピークP1(
図5参照)が生じる。その後、アウタパネル2及びアウタパネル補強材10の補強材本体41がインナパネル4へ向かって窪むように変形し、補強材本体41がベースプレート7の前側固定部7bに接触した時点(
図4中の状態B)、すなわち、インパクタ100がアウタパネル2及び補強材本体41を介してベースプレート7の前側固定部7bに突き当たった時点で、加速度-変位波形において加速度二次ピークP2(
図5参照)が生じる。なお、ここでは、インパクタ100がベースプレート7の前側固定部7bに突き当たった時点で加速度二次ピークP2が生じる例を示したが、打撃点が多少ずれた場合にはベースプレート7の他の部分、もしくは、インナパネル補強材6、もしくは、インナパネル4の前側底部18に突き当たる場合もあり、その場合も突き当たった時点で同様に加速度二次ピークが生じる。
【0079】
アウタパネル2及びアウタパネル補強材10の補強材本体41がインナパネル4へ向かって変形する過程で歩行者の頭部の運動エネルギが吸収されるが、車両用フード1のうちストライカ8の後端8aよりも前側の領域では、前記吸収ストローク、すなわち、歩行者の頭部がアウタパネル2に接触してからアウタパネル2及びアウタパネル補強材10を介してベースプレート7、インナパネル補強材6もしくはインナパネル4に突き当たるまでのストロークが小さく、あまり大きくは運動エネルギが吸収されない。すなわち、歩行者の頭部は、まだ大きな運動エネルギを保ったまま突き当たり、その結果、非常に急峻で高い加速度二次ピークが生じる。従って、アウタパネル補強材10の補強材本体41にビード部44が設けられていない第1比較例による車両用フード1では、ストライカ8の後端8aよりも前側の領域のHIC値が高くなり、当該領域の歩行者保護性能が低くなる。
【0080】
これに対し、当該第1実施形態による車両用フード1では、アウタパネル補強材10の補強材本体41が有する複数のビード部44に、ストライカ8の後端8aよりも前側の位置でインナパネル4へ向かって突出する突出部としての前側ビード部44aが含まれるため、ストライカ8の後端8aよりも前側の打撃点で歩行者の頭部がアウタパネル2に表側から衝突してアウタパネル2及びアウタパネル補強材10がインナパネル4へ向かって変形したときに、前側ビード部44aがベースプレート7、インナパネル補強材6もしくはインナパネル4に接触して潰れるように変形することで歩行者の頭部の運動エネルギが吸収される。このため、前側ビード部44aが潰れ切って歩行者の頭部が突き当たるまでにその運動エネルギをある程度低下させておくことができ、歩行者の頭部が突き当たった時点で生じる加速度二次ピークを低減することができる。
【0081】
具体的に、
図6には、当該第1実施形態による車両用フード1に対してストライカ8の後端8aよりも前側の打撃点で歩行者の頭部を模擬したインパクタ100が衝突してアウタパネル2及びアウタパネル補強材10の補強材本体41が変形し、前側ビード部44aがベースプレート7の前側固定部7bに接触した時点での当該車両用フード1の状態が示されている。また、
図7には、アウタパネル補強材10の補強材本体41が複数のビード部44を有しているものの、それらのビード部44のアウタパネル2からインナパネル4へ向けての突出量が均一で第1実施形態による車両用フード1の中間ビード部44bの突出量と同じである第2比較例による車両用フード1に対して
図6と同様にインパクタ100が衝突してアウタパネル2及びアウタパネル補強材10の補強材本体41が変形し、
図6に示されているインパクタ100と同じ変位量の位置までインパクタ100が進行した状態が示されている。そして、
図8には、第1実施形態による車両用フード1に対して
図6のようにインパクタ100が衝突した場合の加速度-変位波形が実線で示されているとともに、第2比較例による車両用フード1に対してインパクタ100が同様に衝突した場合の加速度-変位波形が破線で示されている。
【0082】
第1実施形態による車両用フード1に対してストライカ8の後端8aよりも前側の打撃点でインパクタ100が衝突すると、
図8に示されているように、加速度一次ピークP1が生じ、その後、一旦、加速度が低下した後、再度上昇する。そして、
図8中のCの時点から
図6に示されているように前側ビード部44aがベースプレート7の前側固定部7bに接触してインパクタ100に加わる衝突方向と逆向きの加速度がさらに上昇し、前側ビード部44aが潰れつつインパクタ100の運動エネルギが吸収される。その結果、前側ビード部44aが潰れ切ってインパクタ100が突き当たったときに生じる加速度二次ピークP2は、第1比較例の車両用フード1に同様にインパクタ100が衝突したときに生じる加速度二次ピークP2(
図5参照)に比べて低減される。
【0083】
また、第2比較例による車両用フード1に同様にインパクタ100が衝突した場合の加速度-変位波形は、第1実施形態による車両用フード1にインパクタ100が衝突した場合の加速度-変位波形と
図8中のCの時点までは同様であるが、前側ビード部44aが第1実施形態の車両用フード1における前側ビード部44aほどインナパネル4へ向かって突出していないことから、当該Cの時点では
図7に示すようにまだ前側ビード部44aがベースプレート7の前側固定部7bに接触しておらず、そのため、
図8に示されているようにCの時点では急激に加速度が立ち上がらない。第2変形例では、その後、遅れてDの時点で前側ビード部44aがベースプレート7の前側固定部7bに接触し、加速度が急激に立ち上がって第1実施形態の場合よりも急峻で高い加速度二次ピークP2が発生する。これは、第2比較例では、前側ビード部44aの潰れしろが第1実施形態における前側ビード部44aの潰れしろに比べて小さいことから、前側ビード部44aが潰れることによるインパクタ100の運動エネルギの吸収量が小さく、その結果、第1実施形態の場合の加速度二次ピークP2に比べて急峻で高い加速度二次ピークP2が生じると考えられる。すなわち、第1実施形態による車両用フード1では、ストライカ8の後端8aよりも前側の領域において単に前側ビード部44aが設けられているだけではなく、その前側ビード部44aのアウタパネル2からインナパネル4へ向けての突出量が中間ビード部44b及び後側ビード部44cのアウタパネル2からインナパネル4へ向けての突出量よりも大きいことにより、第2比較例による車両用フード1の場合のように急峻で高い加速度二次ピークが生じるのを抑制できる。
【0084】
以上のように、第1実施形態による車両用フード1では、ストライカ8の後端8aよりも前側の打撃点での歩行者の頭部の衝突時に生じる加速度二次ピークを低減できることから、ストライカ8の後端8aよりも前側の領域におけるHIC値を低減でき、その結果、当該領域の歩行者保護性能を向上できる。
【0085】
図9には、当該第1実施形態による車両用フード1に対してストライカ8の後端8aよりも後側の打撃点でインパクタ100が衝突してアウタパネル2及びアウタパネル補強材10の補強材本体41が変形した状態が示されている。また、
図10には、アウタパネル補強材10の補強材本体41が複数のビード部44を有しているものの、それらのビード部44のアウタパネル2からインナパネル4へ向けての突出量が均一で第1実施形態による車両用フード1の前側ビード部44aの突出量と同じである第3比較例による車両用フード1に対して
図9と同様にインパクタ100が衝突してアウタパネル2及びアウタパネル補強材10の補強材本体41が変形し、
図9に示されているインパクタ100と同じ変位量の位置までインパクタ100が進行した状態が示されている。そして、
図11には、第1実施形態による車両用フード1に対して
図9のようにインパクタ100が衝突した場合の加速度-変位波形が実線で示されているとともに、第3比較例による車両用フード1に対してインパクタ100が同様に衝突した場合の加速度-変位波形が破線で示されている。
【0086】
第1実施形態及び第3比較例による車両用フード1に対してそれぞれストライカ8の後端8aよりも後側の打撃点でインパクタ100が衝突するときには、インパクタ100がアウタパネル2に接触した時点で、
図11に示されているように加速度一次ピークP1が生じ、その後、アウタパネル2及びアウタパネル補強材10がインナパネル4へ向かって窪むように変形する過程で、一旦、インパクタ100に加わる衝突方向と逆向きの加速度が低下する。また、このアウタパネル2及びアウタパネル補強材10が変形する過程において、インナパネル4も、アウタパネル補強材10の後側接合部40から押圧力を受けることによって変形する。具体的には、インナパネル4は、その前側起立壁部28が後方へ倒れつつ当該前側起立壁部28及び天壁部26の前部がアウタパネル2と反対側へ向かうように変形する。そして、第3比較例による車両用フード1では、
図11中のEの時点で
図10に示されているように中間ビード部44bがインナパネル補強材6に接触するとともに後側ビード部44cがインナパネル4の前側起立壁部28に接触する。これにより、インパクタ100に加わる前記逆向きの加速度が上昇し、急峻ではないもののある程度高い加速度二次ピークP2が生じる。
【0087】
一方、第1実施形態による車両用フード1では、前記Eの時点では
図9に示されているようにまだ中間ビード部44b及び後側ビード部44cがインナパネル補強材6及びインナパネル4の前側起立壁部28のいずれにも接触しておらず、その後、遅れて
図11中のFの時点で中間ビード部44bがインナパネル補強材6に接触するかもしくは後側ビード部44cがインナパネル4の前側起立壁部28に接触する。これにより、インパクタ100に加わる前記逆向きの加速度が上昇して加速度二次ピークP2が生じるが、第3比較例の場合に比べて中間ビード部44b及び後側ビード部44cがインナパネル補強材6及び前側起立壁部28に接触するタイミングが遅くなることにより、その接触までにインパクタ100の運動エネルギをより吸収して低下させることができ、その結果、第1実施形態で生じる加速度二次ピークP2は、第3比較例で生じる加速度二次ピークP2に比べて低くなる。
【0088】
以上のように、第1実施形態による車両用フード1では、ストライカ8の後端8aよりも後側の打撃点での歩行者の頭部の衝突時に生じる加速度二次ピークを低減できることから、ストライカ8の後端8aよりも後側の領域におけるHIC値を低減でき、その結果、当該領域の歩行者保護性能を向上できる。
【0089】
(第2実施形態)
図12には、本発明の第2実施形態による車両用フード1の前後方向に沿う縦断面が示されている。
図13は、本発明の第2実施形態による車両用フード1に用いられるアウタパネル補強材10の斜視図である。
【0090】
この第2実施形態による車両用フード1では、アウタパネル補強材10の補強材本体41に設けられた複数のビード部44が、左右方向に並んで配置されているとともに、それぞれ前後方向に延びている。
【0091】
そして、この第2実施形態では、複数のビード部44がそれぞれ、ストライカ8の後端8aよりも前側に位置する部分であるビード部前側部45aと、ストライカ8の後端8aよりも後側に位置する部分であるビード部後側部45bと、を有し、ビード部前側部45aのアウタパネル2からインナパネル4へ向けての突出量がビード部後側部45bのアウタパネル2からインナパネル4へ向けての突出量よりも大きくなっている。ビード部前側部45aは、本発明における突出部の一例であり、アウタパネル補強材10の前側部10aに設けられている。また、ビード部後側部45bは、アウタパネル補強材10の後側部10bに設けられている。ビード部前側部45aは、アウタパネル2からインナパネル4へ向かって後側部10bよりも突出している。
【0092】
また、補強材本体41は、複数のビード部44の隣り合うもの同士の間と、複数のビード部44のうちで最も左側のビード部44のさらに左側に位置する当該補強材本体41の左端部と、複数のビード部44のうちで最も右側のビード部44のさらに右側に位置する当該補強材本体41の右端部とにそれぞれ設けられて、アウタパネル2の裏面2cにそれぞれ接合された複数の本体接合部46を有する。この複数の本体接合部46は、その各々の本体接合部46上に前後方向に所定間隔で配置された図略のマスチック接着剤を介してアウタパネル2の裏面2cに接合されている。
【0093】
また、当該第2実施形態では、前記第1実施形態と同様、アウタパネル2が本発明における補強対象パネルの一例であり、インナパネル4が本発明における相手方パネルの一例であり、アウタパネル補強材10が本発明における補強部材の一例である。
【0094】
当該第2実施形態による車両用フード1の以上の構成以外の構成は、前記第1実施形態による車両用フード1の構成と同様である。
【0095】
当該第2実施形態による車両用フード1では、アウタパネル補強材10の前側部10aがアウタパネル2からインナパネル4へ向かって後側部10bよりも突出する突出部としてのビード部前側部45aを有するため、ストライカ8の後端8aよりも前側の領域において歩行者の頭部の衝突時にアウタパネル2とインナパネル4との間の空間を潰し切る前にビード部前側部45aがインナパネル4の前側底部18もしくはその前側底部18に付随するインナパネル補強材6もしくはベースプレート7に接触して歩行者の頭部に衝突方向と逆向きの加速度が加えられ、それによって歩行者の頭部の運動エネルギを低下させることができる。このため、ストライカ8の後端8aよりも前側の領域においてアウタパネル2とインナパネル4との間の空間を潰し切った時点で生じる加速度二次ピークを低減できる。
【0096】
また、当該第2実施形態による車両用フード1では、アウタパネル補強材10の後側部10bがビード部前側部45aよりも突出していないことにより、ストライカ8の後端8aよりも後側の領域における大きな吸収ストロークを有効に活用して歩行者の頭部に加わる前記逆向きの加速度が低い状態のままで歩行者の頭部の運動エネルギを長い時間にわたって吸収できる。このため、ストライカ8の後端8aよりも後側の領域において歩行者の頭部の衝突時に生じる加速度二次ピークを低減できる。
【0097】
以上のように、当該第2実施形態による車両用フード1では、ストライカ8の後端8aよりも前側の領域及び後側の領域のそれぞれにおいて加速度二次ピークを低減でき、その結果、ストライカ8の後端8aの前後両側の領域におけるHIC値を低減してその前後両側の領域での歩行者保護性能を向上することができる。
【0098】
また、当該第2実施形態による車両用フード1では、ビード42を構成する複数のビード部44によってアウタパネル補強材10の剛性及び強度を向上して当該アウタパネル補強材10によるアウタパネル2の補強効果を高めつつ、その各ビード部44の一部であるビード部前側部45aを利用してストライカ8の後端8aよりも前側の領域における歩行者保護性能を向上できる。
【0099】
(第3実施形態)
図14は、本発明の第3実施形態による車両用フードの
図2相当の断面図である。
図15は、本発明の第3実施形態による車両用フードに用いられるインナパネル補強材、ベースプレート及びストライカの組み合わされた状態での斜視図である。
【0100】
この第3実施形態による車両用フード1では、ストライカ8の後端8aよりも前側の打撃点で歩行者の頭部がアウタパネル2に衝突してアウタパネル2及びアウタパネル補強材10がインナパネル4へ向かって窪むように変形したときに歩行者の頭部に衝突方向と逆向きの加速度を加えるための突出部がインナパネル補強材6に設けられている。
【0101】
具体的に、この第3実施形態では、インナパネル4が本発明における補強対象パネルの一例であり、アウタパネル2が本発明における相手方パネルの一例であり、インナパネル補強材6が本発明における補強部材の一例である。インナパネル補強材6は、ストライカ8の後端8aよりも前側に位置するインナパネル補強材前側部6bと、ストライカ8の後端8aよりも後側に位置するインナパネル補強材後側部6cと、を有する。
【0102】
そして、この第3実施形態による車両用フード1では、インナパネル補強材前側部6bが、アウタパネル2からインナパネル4へ向かってインナパネル補強材後側部6cよりも突出する一対のインナパネル補強材突出部52を有する。当該第3実施形態では、この一対のインナパネル補強材突出部52が本発明における突出部に相当する。インナパネル補強材6は、そのインナパネル補強材前側部6bとインナパネル補強材後側部6cとに亘って設けられてインナパネル4の前側底部18のアウタパネル2に対向する面を覆うようにその面上に設置された板状の補強材基部51を有しており、前記一対のインナパネル補強材突出部52は補強材基部51からアウタパネル2へ向かって突出している。インナパネル補強材突出部52は、本発明における突出部の一例である。
【0103】
補強材基部51は、前記第1実施形態のインナパネル補強材6に設けられた補強材開口6aと同様の補強材開口6aを有する。一対のインナパネル補強材突出部52は、補強材開口6aの左右両側に分かれて設けられている。各インナパネル補強材突出部52は、補強材基部51を構成する板材の一部が切り起されて、その一部が片持ち梁状に補強材基部51からアウタパネル補強材10へ向かって曲げ起こされた曲げ起こし部からなる。換言すれば、各インナパネル補強材突出部52は、その一端である基端部が補強材基部51と繋がり、他端である先端部が自由端となるように構成されている。
【0104】
具体的に、各インナパネル補強材突出部52は、補強材基部51と繋がる基端部から離れるにつれてアウタパネル補強材10へ近づくように補強材基部51に対して斜めに延びる傾斜部52aと、その傾斜部52aの先端から前方へ補強材基部51と略平行に延びる先側部52bと、を有する。
【0105】
この第3実施形態では、ストライカ8の後端8aよりも前側の打撃点で歩行者の頭部がアウタパネル2に表側から衝突してアウタパネル2及びアウタパネル補強材10がインナパネル4へ向かって変形したときには、アウタパネル補強材10がインナパネル補強材突出部52に接触し、そのインナパネル補強材突出部52が変形しつつ歩行者の頭部の運動エネルギを吸収する。その結果、インナパネル補強材突出部52が潰れ切った後、歩行者の頭部が突き当たった時点で生じる加速度二次ピークを低減できる。このため、車両用フード1のストライカ8の後端8aよりも前側の領域の歩行者保護性能を向上できる。
【0106】
また、ストライカ8の後端8aよりも後側に位置するインナパネル補強材後側部6cは、インナパネル補強材突出部52よりもアウタパネル2へ向かって突出していないため、当該インナパネル補強材後側部6cとアウタパネル補強材10との間の空間を大きく確保でき、歩行者の頭部が突き当たって加速度二次ピークが生じるまでの歩行者の頭部の運動エネルギの吸収ストロークを大きく確保することができる。このため、加速度二次ピークが生じるまでに歩行者の頭部の運動エネルギをより低下させることができ、その結果、加速度二次ピークを低減できる。このため、車両用フード1のストライカ8の後端8aよりも後側の領域の歩行者保護性能を向上できる。
【0107】
そして、この第3実施形態では、インナパネル補強材突出部52は、インナパネル補強材6の板材の一部が片持ち梁状となるように曲げ起こされた曲げ起こし部からなり、このような片持ち梁状の曲げ起こし部は衝突により変形しやすい。インナパネル補強材6は、いわゆるフードロックリインフォースであり、このフードロックリインフォースは剛性確保の観点から比較的肉厚になりやすいが、その場合であっても、前記のように片持ち梁状の曲げ起こし部は衝突により変形しやすいことから、インナパネル補強材突出部52の潰れ残りによる過大な変形抵抗をもたらさない。このため、インナパネル補強材突出部52の潰れ残りによる加速度二次ピークの増大を抑制することができる。
【0108】
(変形例)
本発明による車両用フードは、前記のようなものに必ずしも限定されない。例えば、本発明による車両用フードに以下のような構成を採用可能である。
【0109】
例えば、
図16及び
図17に示す第1変形例のように、インナパネル補強材突出部52は、ストライカ8の前端よりも前側の位置で補強材基部51から立ち上げられたものであってもよい。具体的に、この第1変形例では、インナパネル補強材6を構成する板材のうちストライカ8の前方(ベースプレート7の前方)で幅方向(左右方向)において中央に位置する部分の両側が切り欠かれてその部分が曲げ起こされることによって片持ち梁状のインナパネル補強材突出部52が形成されている。
【0110】
また、インナパネル補強材突出部52は、片持ち梁状のものに必ずしも限定されない。例えば、
図18及び
図19に示す第2変形例のように、インナパネル補強材突出部52は、その前端及び後端が両方とも補強材基部51に繋がっていて固定されているものであってもよい。具体的に、この第2変形例では、インナパネル補強材6を構成する板材のうちストライカ8の前方(ベースプレート7の前方)に位置する部分が幅方向(左右方向)の全体に亘ってアウタパネル2へ向かって膨出するように湾曲した形状とされることによってインナパネル補強材突出部52が形成されており、当該インナパネル補強材突出部52の後端部が補強材基部51のうち当該インナパネル補強材突出部52の後側に位置する部分に繋がり、当該インナパネル補強材突出部52の前端部が補強材基部51のうち当該インナパネル補強材突出部52の前側に位置する部分に繋がっている。
【0111】
また、本発明における補強部材の突出部は、ストライカの後端よりも前側に位置する当該補強部材の前側部のうちストライカの前端よりも前側の領域にのみ設けられていてもよいし、ストライカの後端と前端との間の領域にのみ設けられていてもよいし、ストライカの後端と前端との間の領域からストライカの前端よりも前側の領域に亘って設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0112】
1 車両用フード
2 アウタパネル
4 インナパネル
6 インナパネル補強材(補強部材)
6b インナパネル補強材前側部
6c インナパネル補強材後側部
8 ストライカ
10 アウタパネル補強材(補強部材)
10a 前側部
10b 後側部
42 ビード
44 ビード部
44a 前側ビード部(突出部)
44c 後側ビード部
52 インナパネル補強材突出部(突出部)