(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】騒音制御装置
(51)【国際特許分類】
B61D 49/00 20060101AFI20230829BHJP
G10K 11/178 20060101ALI20230829BHJP
B60R 11/02 20060101ALI20230829BHJP
B61D 33/00 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
B61D49/00 A
G10K11/178 140
B60R11/02 S
B60R11/02 M
B61D33/00 A
(21)【出願番号】P 2020012669
(22)【出願日】2020-01-29
【審査請求日】2022-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100118049
【氏名又は名称】西谷 浩治
(72)【発明者】
【氏名】狩野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】工藤 秀和
(72)【発明者】
【氏名】菅沢 正浩
(72)【発明者】
【氏名】二村 有哉
(72)【発明者】
【氏名】原 悠介
(72)【発明者】
【氏名】福永 智行
【審査官】大宮 功次
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-074613(JP,A)
【文献】特開2008-245380(JP,A)
【文献】特開2018-094939(JP,A)
【文献】特開2018-044971(JP,A)
【文献】国際公開第2014/207990(WO,A1)
【文献】特開2013-178471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61D 49/00
G10K 11/178
B60R 11/02
B61D 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両内に設置された座席において、車両走行騒音を前記座席に着座した乗客の頭部近傍で低減させる騒音制御装置であって、
車室内の走行騒音を検出するために車室内に設置された騒音検出器と、
前記騒音検出器からの騒音信号を所定の制御係数を用いて信号処理を行う制御フィルタと、
前記制御フィルタからの出力信号を制御音として再生するために前記座席の乗客頭部近傍に設置されたスピーカと、
前記制御フィルタで用いる制御係数を記憶するメモリと、
車両の走行状態を示す走行情報を受信できる通信部とを備え、
前記通信部で受信した走行情報から前記車両の進行方向を判別し、その方向に応じた制御係数を前記メモリから読み出して前記制御フィルタに設定することを特徴とする、
騒音制御装置。
【請求項2】
前記制御フィルタに設定する制御係数は、
車両の進行方向に対して正面を向くように前記座席を設定した場合に騒音低減効果が得られるように求めた制御係数であることを特徴とする請求項1記載の騒音制御装置。
【請求項3】
前記メモリに記憶する制御係数は、車両の進行方向に対して逆を向くように前記座席を設定した場合に騒音低減効果が得られるように求めた制御係数をさらに含み、
前記座席には座席回転検出器が備えられており、
前記座席が前記判別した車両の進行方向に対して逆向であることを前記座席回転検出器が検出した場合は、前記車両の進行方向に対して逆を向くように前記座席を設定した場合に騒音低減効果が得られるように求めた制御係数を前記制御フィルタに設定することを特徴とする請求項2記載の騒音制御装置。
【請求項4】
前記メモリに記憶する制御係数は、車両の速度が所定の速度内にあるときだけ騒音低減効果が得られるように求めた制御係数であり、
前記通信部で受信した走行情報において、速度を示す情報が前記所定の速度内にある場合は、前記制御係数を前記制御フィルタに設定することを特徴とする請求項2~3のいずれかに記載の騒音制御装置。
【請求項5】
前記メモリに記憶する制御係数は、車両の走行位置が所定の範囲内にあるときだけ騒音低減効果が得られるように求めた制御係数であり、
前記通信部で受信した走行情報において、走行位置を示す情報が前記所定の範囲内にある場合は、前記制御係数を前記制御フィルタに設定することを特徴とする請求項2~4のいずれかに記載の騒音制御装置。
【請求項6】
前記メモリに記憶する制御係数は、車両に乗客が乗車していない回送車両である場合に騒音低減効果が得られるように求めた制御係数であり、
前記通信部で受信した走行情報において、車両編成番号を示す情報により乗客が乗車している車両であるか、乗車していない回送車両であるかを判別し、回送車両
でない場合に前記制御係数を前記制御フィルタに設定することを特徴とする請求項2~5のいずれかに記載の騒音制御装置。
【請求項7】
前記通信部で受信した走行情報において、少なくとも速度を示す情報が所定の速度内にある場合に前記スピーカから制御音を再生して騒音低減動作を実行することを特徴とする請求項1記載の騒音制御装置。
【請求項8】
前記通信部で受信した走行情報において、走行位置を示す情報が所定の範囲内にある場合に前記スピーカから制御音を再生して騒音低減動作を実行することを特徴とする請求項7記載の騒音制御装置。
【請求項9】
前記通信部で受信した走行情報において、車両編成番号を示す情報により乗客が乗車している車両である場合に前記スピーカから制御音を再生して騒音低減動作を実行することを特徴とする請求項7記載の騒音制御装置。
【請求項10】
前記騒音検出器は、
前記座席に最も近い窓の周囲に複数個設置されており、窓の縦方向中心線に対して線対称となるように配置されていることを特徴とする請求項1記載の騒音制御装置。
【請求項11】
前記騒音検出器は、
前記窓の周囲縁から幅10cmで窓を取り囲む範囲内に配置されていることを特徴とする請求項10記載の騒音制御装置。
【請求項12】
車室内上部の荷棚が車室壁に取り付けられた箇所において、
前記騒音検出器は、
前記座席に最も近い窓上部の前記荷棚取付け箇所に複数個設置されており、窓の縦方向中心線に対して線対称となるように配置されていることを特徴とする請求項1記載の騒音制御装置。
【請求項13】
前記騒音検出器は、
前記窓の縦方向中心線上に配置されていることを特徴とする請求項10~12のいずれかに記載の騒音制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の走行騒音を乗客が座っている座席の頭部周辺で低減する騒音制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
騒音と逆位相の制御音をスピーカから再生して騒音を打ち消すアクティブ騒音制御のアイデアは古くから存在し、最近では自動車エンジン音を対象にしたアクティブ騒音制御が実用化されている。その従来例として、特許文献1について説明する。
【0003】
【0004】
図11において、自動車1000のエンジンが起動していると、エンジン回転数に同期したパルス信号をセンサ1010が検出する。このパルス信号は騒音制御装置2000に入力され、装置内で制御係数と信号処理されて制御信号となり、スピーカ1031、1032から再生される。再生された制御音は車室内のエンジン音と干渉する。そして、干渉した結果の残差音がエラーマイク1020でエラー信号として検出され、騒音制御装置2000に入力される。ここで、騒音制御装置2000はこのエラー信号を最小化するように自身の制御係数を変化させていく。この動作を繰り返すことで、車室内のエンジン音は低減されていく。
【0005】
騒音制御装置2000内の動作について、
図12を用いてもう少し詳しく説明する。
【0006】
図12において、センサ1010で検出されたパルス信号は、波形整形器2001でエンジンパルスに重畳されたノイズなどが除去されるとともに波形整形される。この波形整形器2001の出力信号は、余弦波発生器2002と正弦波発生器2003に加えられて参照信号としての余弦波と正弦波が作られる。余弦波発生器2002の出力信号である参照余弦波信号と適応ノッチフィルタ2100のフィルタ係数W0とを乗算する係数乗算器2101の出力信号は、正弦波発生器2003の出力信号である参照正弦波信号と適応ノッチフィルタ2100のフィルタ係数W1とを乗算する係数乗算器2102の出力信号と加算器2103で加算され、スピーカ1031、1032に入力される。そして、スピーカ1031、1032において制御音を再生し、車室内のエンジン音と干渉させて打ち消す。このとき、打ち消しきれなかった残差音はエラー信号として適応制御アルゴリズムに使用される。
【0007】
一方、エンジン回転数から求められた騒音低減すべきノッチ周波数において、適応ノッチフィルタ2100の出力から適応制御アルゴリズムを実行する係数更新器2017までの伝達特性を模擬したC0を有する伝達要素2011に参照余弦波信号を入力し、同じく適応ノッチフィルタ2100の出力から係数更新器2017までの伝達特性を模擬したC1を有する伝達要素2012に参照正弦波信号を入力し、伝達要素2011と伝達要素2012の出力を加算器2015で加算し、加算器2015の出力信号とエラーマイク1020からのエラー信号とを係数更新器2017に入力する。そして、係数更新器2017は、例えばLMSアルゴリズム(Least Mean Square:最小2畳平均法)に基づいて、適応ノッチフィルタ2100のフィルタ係数W0を更新していく。
【0008】
同様に、エンジン回転数から求められた騒音低減すべきノッチ周波数において、適応ノッチフィルタ2100の出力から適応制御アルゴリズムを実行する係数更新器2018までの伝達特性を模擬したC0を有する伝達要素2013に参照正弦波信号を入力し、同じく適応ノッチフィルタ2100の出力から係数更新器2018までの伝達特性を模擬した(-C1)を有する伝達要素2014に参照余弦波信号を入力し、伝達要素2013と伝達要素2014の出力を加算器2016で加算し、加算器2016の出力信号とエラーマイク1020からのエラー信号とを係数更新器2018に入力する。そして、係数更新器2018は、適応ノッチフィルタ2100のフィルタ係数W1を更新していく。
【0009】
このように、再帰的に適応ノッチフィルタ2100のフィルタ係数W0、W1はエラーマイク1020で検出したエラー信号が小さくなるように、すなわち、車室内のエンジン音を低減するように最適値に収束していく。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【非特許文献】
【0011】
【文献】Nelson & Elliot, “Active Control of Sound”, ACADEMIC PRESS, pp. 195-198.
【文献】Nelson & Elliot, “Active Control of Sound”, ACADEMIC PRESS, pp. 407-409.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、自動車の座席は走行方向に対して座席向きが正面を向いて(正対して)固定されており、通常、座席回転することはない。これは自動車に限らず、バスあるいは航空機などでも同様である。ごく稀に座席回転するタイプもあるが、特殊な用途で用意されているものであり、極めて限定的と言える。
【0013】
なぜ、一般的な、大多数の用途では座席向きが回転せず、正面を向いているかについては、座席回転空間余裕がないなどの物理的、構造的な問題以外に、走行方向と逆向きに座った場合、酔い易くなることも一つの要因と思われる。つまり、身体で感じる走行加速度と視覚情報が真逆となるため自動車酔いを誘発しやすくなり、これを避ける意味からも走行方向に対して正対するように座席が取り付けられていると考えられる。
【0014】
一方、鉄道車両は決まった線路上を往復するものが一般的であるため、往路と復路において座席回転させることで常に走行方向に対して座席向きが正対するようになっている。つまり、鉄道車両の座席は、座席回転させることが前提となっている。また、鉄道車両の座席は、通常、2座席を1つにまとめて作られている。これを図を用いて説明する。
【0015】
図13は車両の一部を上部から見た場合を示しており、
図14は通路から1C席、1D席側を見た場合を示している。
図13、
図14において車両は左側に進行しており、これを往路とすると、そのとき各座席はその進行方向に向いている。次に、
図15、
図16に復路の場合の座席向きを示す。復路は往路とは進行方向が逆になるため、進行方向に対して正対するように座席回転させるが、例えば1A席と1B席で1まとめの座席となっており、同様に1C席と1D席で1まとめの座席となっているので、
図15、
図16のように、往路での1D席が復路での1C席となる。( )付きで表しているのが、往路での座席位置である。
【0016】
このように鉄道車両において往路と復路では、窓側席と通路側席が入れ替わった関係となっている。往路と復路では進行向きが逆であることも含め、当然、各座席における走行騒音特性(騒音源からの伝搬経路や周波数特性など)は往路と復路で異なる。すなわち、従来例で説明した自動車では車両進行方向と座席向きは常に正対するため、座席回転を考慮せずに騒音制御が可能であったが、鉄道車両では車両進行方向と座席回転の組み合わせが存在するので、その組み合わせ分の騒音制御に対応する必要がある。この全ての組み合わせに対応できなければ、最適な騒音低減効果が得られないという課題が生じる。場合によっては、騒音低減効果が不十分というだけでなく、逆に騒音増加するという問題も発生する。
【0017】
本発明は、これら課題を解決するものであり、鉄道車両の進行方向に応じて座席向きを正対する(正面を向く)ように設定し、その状態で求めた騒音制御係数を用いることで適切な騒音低減効果を得ることができる騒音制御装置を提供することを目的とする。
【0018】
また、車両の走行情報を受信して進行方向を判別可能とし、さらに座席回転検出器を設けることにより、車両の進行方向と座席向きの組み合わせを全て判別でき、その全ての組み合わせにおける制御係数を求めておくことで、常に最適な騒音低減効果を得ることができる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、上記課題を解決するための騒音制御装置に向けられており、本発明に係る騒音制御装置は、鉄道車室内に設置された騒音検出器と、騒音検出器からの騒音信号を所定の制御係数を用いて信号処理を行う制御フィルタと、制御フィルタからの出力信号を再生するために座席の乗客頭部近傍に設置されたスピーカと、制御フィルタで用いる制御係数を記憶するメモリと、車両の走行状態を示す走行情報を受信できる通信部とを備えたことを特徴とする。
【0020】
これにより、通信部で受信した走行情報から車両の進行方向を判別し、その進行方向に対して正面を向くように座席を設定した場合に騒音低減効果が得られるように求めた制御係数をメモリから読み出して制御フィルタに設定することができるので、適切な騒音低減効果を得ることができる。
【0021】
また、本発明に係る騒音制御装置は、上記構成に加えて、座席に座席回転検出器が備えられており、車両の進行方向に対して逆向であることを座席回転検出器が検出した場合は、進行方向に対して逆を向くように座席を設定した場合に騒音低減効果が得られるように求めた制御係数を制御フィルタに設定することができるので、常に最適な騒音低減効果を得ることができる。
【0022】
さらに、通信部で受信した走行情報から速度情報や走行位置情報あるいは車両編成番号情報を判定し、所定の速度内にある場合や所定の走行位置にいる場合、あるいは乗客が乗車していない回送車両である場合に騒音低減効果が得られるように求めた制御係数を制御フィルタに設定することができるので、走行状態に応じた最適な騒音低減効果を得ることができる。
【0023】
さらに、本発明に係る騒音制御装置は、上記構成に加えて、座席に最も近い窓の周囲や窓上部の荷棚取付け箇所に騒音検出器が複数個設置されており、これら騒音検出器は窓の縦方向中心線に対して線対称となるように配置されている。このため、座席が回転しても座席と各騒音検出器の対称性が維持できるので、座席向きによる騒音低減効果のばらつきが少なくなり、どちらの座席向きであっても一定の騒音低減効果が得られやすくなる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の騒音制御装置によれば、鉄道車両の進行方向に対して座席が正面を向く場合に適切な騒音低減効果を得ることができる。
【0025】
また座席回転を検出できるようにしたことで、座席が車両進行方向と逆向きの場合でも適切な騒音低減効果を得ることができる。
【0026】
さらに車両走行情報を受信可能としたことで、速度情報や走行位置情報あるいは車両編成番号情報から騒音制御可能な状態にあるのかを判断することができ、常に走行状態に応じた最適な騒音低減効果を得ることができる。
【0027】
さらに、窓周囲や窓上部の荷棚取付け箇所に複数の騒音検出器を窓の縦方向中心線に対して線対称となるように配置したことにより、座席が回転しても座席と各騒音検出器の対称性が維持できるので、座席向きによる騒音低減効果のばらつきが少なくなり、どちらの座席向きであっても一定の騒音低減効果が得られやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】実施の形態1に係る騒音制御装置を鉄道車両に適用した場合の車両内を上から俯瞰した図
【
図4】騒音制御装置における制御フィルタ内部の構成図
【
図5】騒音制御装置におけるメモリ内部に記憶した係数例を示す図
【
図6】進行方向が変わった場合の鉄道車両内を上から俯瞰した図
【
図11】従来例に係る自動車エンジン音を制御するための騒音制御装置の構成図
【
図12】従来例に係る騒音制御装置内部の信号処理構成図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下で説明する実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。以下の実施の形態で示される構成要素、構成要素の配置位置および接続形態、動作の順序などは、一例であり、本発明を限定する趣旨ではない。本発明は、特許請求の範囲だけによって限定される。
【0030】
よって以下の実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、本発明の課題を達成するのに必ずしも必要ではないが、より好ましい形態を構成するものとして説明される。
【0031】
(実施の形態1)
実施の形態1に係る騒音制御装置の構成について説明する。
図1は、実施の形態1に係る騒音制御装置を鉄道車両に適用した構成を示す図である。
【0032】
ここで
図1は車両内を上から俯瞰した図を示しており、多数ある座席の一部を記している。
図1に示すように鉄道車両では、通路を挟むように左右にそれぞれ2座席あるのが一般的である。もちろん、新幹線のように3座席が並んだ列車もあるが、いずれにせよ、複数席が1セットとして通路の左右に配置される構成が一般的である。そして、今、
図1の左側に車両が進行しているとすると、通常、各座席は進行方向に対して正対するように座席向きを合わせるのが普通である。この様子を
図2に示す。
【0033】
図2は、通路に立って、C、D席側を見たときの座席を示している。当然、1C席と2C席の向こう側(窓側)に1D席と2D席がある。また、1C席と1D席を真正面から見た構成を
図3に示す。
【0034】
図3において、進行方向は奥から手前側であり、また1C席と1D席は正面を示している。つまり、1C席と1D席は進行方向に対して正面を向いている。
【0035】
図1~
図3において、1C席や1D席などの各座席には、着座した乗客の頭部に近い箇所(ヘッドレスト)に制御スピーカ1C2a、1C2b、1D2a、1D2bなどが内蔵されており、またその制御スピーカ近傍にエラーマイク1C1a、1C1b、1D1a、1D1bなどが内蔵されている。
【0036】
一方、車両壁パネルの各窓周囲には、騒音マイク1CD4a、1CD4b、1CD4c、1CD4dなどが配置されている。
【0037】
これより、
図3を用いて騒音制御装置の動作について説明する。
【0038】
車両が走行しているとき、走行騒音が車両内に侵入してくるが、その主な侵入経路は車両壁パネルの窓であることが多い。なぜなら、窓ガラスは車体壁を構成する鉄板などよりも遮音性能が低い場合が多いからである。故に、騒音マイクを窓周囲に配置することで、窓から侵入する走行騒音を検出しやすくする。
【0039】
ここで、
図3では騒音マイクが2つしか記載していないが、
図2のように4つあるのを省略しているだけである。また当然、騒音マイクは4つ以上あってもよいが、説明を簡単にするため、2つで説明する。
【0040】
図3の騒音マイク1CD4a、1CD4bで検出された走行騒音は、制御フィルタ1C3a、1C3b、1D3a、1D3bに入力される。そして、入力された騒音信号は制御フィルタ1C3a、1C3b、1D3a、1D3bにおいて各制御係数と信号処理され、その出力信号は走行騒音を低減させる制御信号として制御スピーカ1C2a、1C2b、1D2a、1D2bに入力される。制御信号を入力された制御スピーカ1C2a、1C2b、1D2a、1D2bは制御音を再生し、その制御音と走行騒音が空間上で干渉する。干渉した結果を残差音としてエラーマイク1C1a、1C1b、1D1a、1D1bが検出し、そのエラー(残差)信号を制御フィルタ1C3a、1C3b、1D3a、1D3bに戻す。このとき、制御フィルタ1C3a、1C3b、1D3a、1D3bはエラーマイク1C1a、1C1b、1D1a、1D1bが検出したエラー信号を最小とするように制御係数を変化させていく。これを繰り返すことで、1C席と1D席の乗客頭部近傍において走行騒音が低減される。この動作を
図4を用いて、もう少し詳しく説明する。
【0041】
図4では、説明を簡単にするため、1D席のみを記している。制御フィルタ1D3aにおいて、騒音マイク1CD4aで検出された騒音信号はFIRフィルタ101aで制御係数と信号処理され、加算器130に入力される。同様に、騒音マイク1CD4bで検出された騒音信号は、FIRフィルタ101bで制御係数と信号処理され、加算器130に入力される。加算器130で加算された制御信号は制御スピーカ1D2aから再生され、エラーマイク1D1a、1D1bに伝搬する。
【0042】
同様に、制御フィルタ1D3bからの制御信号は制御スピーカ1D2bから再生され、エラーマイク1D1a、1D1bに伝搬する。
【0043】
エラーマイク1D1a、1D1bでは、これらの制御音と走行騒音が干渉し、その残差音が検出され、エラー信号として係数更新器111a、111b、112a、112b、211a、211b、212a、212bに入力される。
【0044】
一方、騒音マイク1CD4a、1CD4bからの騒音信号は、伝達特性補正器121a、121b、122a、122b、221a、221b、222a、222bに入力される。ここで、伝達特性補正器121a、121bには制御スピーカ1D2aからエラーマイク1D1aまでの伝達特性C11が係数として近似されている。同様に、伝達特性補正器122a、122bには制御スピーカ1D2aからエラーマイク1D1bまでの伝達特性C12が、伝達特性補正器221a、221bには制御スピーカ1D2bからエラーマイク1D1aまでの伝達特性C21が、伝達特性補正器222a、222bには制御スピーカ1D2bからエラーマイク1D1bまでの伝達特性C22が、係数としてそれぞれ近似されている。よって、騒音マイク1CD4a、1CD4bからの騒音信号は、伝達特性補正器121a、121b、122a、122b、221a、221b、222a、222bによって制御スピーカからエラーマイクまでの各伝達特性を示す係数と信号処理されて係数更新器111a、111b、112a、112b、211a、211b、212a、212bに入力される。係数更新器111a、111b、112a、112b、211a、211b、212a、212bでは、伝達特性補正器121a、121b、122a、122b、221a、221b、222a、222bからの信号とエラーマイク1D1a、1D1bからのエラー信号を用いて、その各エラー信号が最小となるようにFIRフィルタ101a、101b、201a、201bの係数を求める。そしてそれを繰り返す(係数更新する)ことで、エラーマイク1D1a、1D1bにおける走行騒音が徐々に低減されていく。この制御方法は、例えばFiltered-X LMS法(非特許文献1)、あるいはこれを基本としてマルチチャンネル化したMultiple Error LMS法(非特許文献2)として一般的である。
【0045】
このようにして、
図3における制御フィルタ1C3a、1C3b、1D3a、1D3bの制御係数が求まっていく。そして求まった各係数は、一旦、メモリ1CD5に記憶される。
図3の座席向きは進行方向に対して正対しているので、つまり、
図1および
図2の座席向きとなっており、このとき求めた係数を、例えば
図5に示すように、メモリ1CD5のアドレス0~3番地に記憶する。
【0046】
ところで、鉄道車両はターミナル駅(始発駅と終着駅)間を往復するのが一般的であり、つまり進行方向が往路と復路で逆転することになる。このとき、進行方向に対して座席を正対させるのが一般的であるため、復路は往路時の座席向きを回転させることになる。すると、
図6や
図7に示すような車両内座席構成となる。これらからわかるように、
図1の往路における1D席は窓側席であったが、
図6の復路においては1C席の通路側に移動している。ここで、元は1D席であったことを示すために( )付きで1C席(1D席)と記している。このように、座席向きが変わると窓側席と通路側席が入れ替わることになる。よって、往路で求めた制御係数が復路でそのまま使用できないのは自明の理であり、復路は復路用の制御係数を求める必要がある。そして、そのときの制御係数をメモリ1CD5に記憶する。
【0047】
図5において、復路の通常(座席向きが進行方向に対して正対している場合)の制御係数は、例えばメモリ1CD5のアドレス10~13番地に記憶されることになる。
【0048】
話は変わるが、例えば4人グループで旅行する場合を考えると、前後合わせた4座席にまとまって着席し、且、互いに対面するように前座席の方を回転させることが予想される。つまり、
図8および
図9の1C席、1D席のように、進行方向とは逆向きに座席を調整することがあり得る。この場合も、
図1において通路側であった1C席が
図8では窓側席となり、
図1の窓側席であった1D席が
図8では通路側席となる。これだけを見れば
図6の場合と同じであるが、
図6では座席向きが進行方向に正対していたのに対し、
図8では進行方向と座席向きが逆向き(反対)となっている。よって、この条件での制御係数を新たに求める必要があり、求めた制御係数をメモリ1CD5に記憶する。つまり、求めた制御係数は、例えば
図5におけるメモリ1CD5のアドレス4~7番地に記憶する。
【0049】
以上のように、車両が走行する進行方向と座席向きの各組み合わせにおいて、制御係数を個々に求めておけば、各座席での騒音低減効果を適切に得ることができる。
【0050】
ここで、車両の進行方向と座席向きを本騒音制御装置がどのように認識できるのかについては、例えば
図3に示すように、車両内に通信線が配線されており、本騒音制御装置の通信部1CD6がこの車両通信線から必要な情報を受信することで進行方向を確認できる。また、座席向きについては、座席に設けられた回転センサ1CD7などを介して、どの向きになっているのかを判断することができる。つまり、通信部1CD6で受信した走行情報から判定した進行方向情報と、回転センサ1CD7で検出した座席向き情報とを用いて、メモリから適切な制御係数を選択して、各制御フィルタ1C3a、1C3b、1D3a、1D3bに設定できる。
【0051】
ところで、車両通信線から受信できる走行情報には、進行方向の他に速度情報や車両がいる位置情報、あるいは車両の編成番号を示す情報などが考えられる。
【0052】
一方、制御係数を求める場合は制御すべき騒音環境となっていることが望ましいので、乗客がいないことや走行速度が一定であること、あるいは走行している周囲環境の変化が少ないこと(例えばトンネル内なのか外なのか、比較的長い直線区間なのか、勾配の少ない場所なのか、など)というように騒音レベルや特性の急激な変動が少ない条件が好ましい。
【0053】
そこで、通信部1CD6が受信した速度情報から、ある速度範囲内にあるときだけ制御係数を求めてメモリ1CD5に記憶するように本騒音制御装置を動作させる。
【0054】
同様に、通信部1CD6が受信した位置情報から、ある位置範囲内(例えば東京駅を起点として、50~60km、80~100kmなど、複数条件あってもよい)にあるときだけ制御係数を求めてメモリ1CD5に記憶するように本騒音制御装置を動作させる。
【0055】
さらに、通信部1CD6が受信した車両編成番号情報から回送車両であることを判断し、その車両において制御係数を求めてメモリ1CD5に記憶するように本騒音制御装置を動作させる。
【0056】
以上のように、車両通信線からの走行情報において、進行方向、速度、位置、車両編成がそれぞれ予め設定された条件になれば制御係数を求めることを説明してきたが、それぞれ単独の条件とするだけでなく、複数の条件が揃った場合にだけ制御係数を求めるようにしてもよい。例えば、速度が100~200km/hで、且、位置が50~60kmのときに制御係数を求めるように動作する、など。
【0057】
これまで、制御係数を求めることを前提に説明してきたが、ある走行条件で制御係数を求めるとメモリ1CD5に記憶していくので、全ての条件で制御係数を求め終えれば、それら制御係数は全てメモリ1CD5に記憶されていることになる。よって、以降は制御係数を求める必要はなくなり、走行条件に応じてメモリ1CD5から制御係数を読み出して、各制御フィルタ1C3a、1C3b、1D3a、1D3bなどに設定すればよい。すなわち、このように動作させることで乗客がいる場合でも乗客の会話などに影響されることもなく、適切な制御音が各制御スピーカ1C2a、1C2b、1D2a、1D2bなどから再生されるため良好な騒音低減効果を得ることができる。
【0058】
またこのとき、車両通信線から受信した速度情報を用いて、一定速度内である場合に制御スピーカ1C2a、1C2b、1D2a、1D2bなどから制御音を再生するようにすれば、騒音低減すべき条件において適切に制御できると共に、その条件から外れた場合には制御音を再生しないことになるので消費電力を抑えることができる。また制御スピーカ1C2a、1C2b、1D2a、1D2bなどの動作時間も削減できるので、制御スピーカ1C2a、1C2b、1D2a、1D2bなどにかかる負荷が低減でき、その結果、長時間駆動を原因とした経年変化による性能劣化も抑えることができる。
【0059】
同様に、車両通信線から受信した位置情報を用いて、予め設定していた位置範囲内である場合に制御スピーカ1C2a、1C2b、1D2a、1D2bなどから制御音を再生するようにすれば、騒音低減すべき条件において適切に制御できると共に、その条件から外れた場合には制御音を再生しないことになるので消費電力を抑えることができ、制御スピーカ1C2a、1C2b、1D2a、1D2bなどの性能劣化も抑えることができる。
【0060】
さらに、車両通信線から受信した車両編成情報を用いて、回送ではない場合に制御スピーカ1C2a、1C2b、1D2a、1D2bなどから制御音を再生するようにすれば、乗客が乗車している車両において適切に制御できると共に、その条件から外れた回送列車の場合には制御音を再生しないことになるので消費電力を抑えることができ、制御スピーカ1C2a、1C2b、1D2a、1D2bなどの性能劣化も抑えることができる。
【0061】
ここまで説明してきたように、鉄道車両には自動車とは異なり、座席回転が伴うという鉄道車両に固有の座席条件が存在するため、制御係数を求める場合や乗客がいる場合の騒音制御動作などにおいて、進行方向などの走行条件と座席の向きを考慮した制御が必要であることを示してきた。ここでさらに、座席向きを考慮した騒音マイク配置について説明する。
【0062】
最初の説明で、走行騒音の主な侵入経路は車両壁パネルの窓であるため、例えば
図2の1C席1D席側の場合、車両壁パネルの窓周囲に騒音マイク1CD4a、1CD4b、1CD4c、1CD4dを配置していた。但し、この時点では騒音マイク配置条件は窓周囲以外に特に規定はしていなかった。そこでその配置条件について、
図10を用いて説明する。
【0063】
図10において、窓の周囲に騒音マイク1CD4a、1CD4b、1CD4c、1CD4d、1CD4e、1CD4f、1CD4g、1CD4hが設置されており、さらに荷棚1CD8が車体壁パネルに取り付けられた付近に騒音マイク1CD4i、1CD4jが設置されている。このとき、各騒音マイクは窓の縦方向中心線Xに対して線対称の関係となっている。つまり、
騒音マイク1CD4aと騒音マイク1CD4cが、
騒音マイク1CD4bと騒音マイク1CD4dが、
騒音マイク1CD4eと騒音マイク1CD4fが、
騒音マイク1CD4iと騒音マイク1CD4jが、
それぞれ線対称の関係となっている。
【0064】
また、騒音マイク1CD4gと騒音マイク1CD4hは線対称の関係ではないが、中心線X上に位置している。
【0065】
このような配置関係にあると、座席回転した場合に例えば
図9を見ればわかるように、座席と各騒音マイクの対称性が維持できるので、座席向きによる騒音低減効果のばらつきが少なくなり、どちらの座席向きであっても一定の騒音低減効果が得られやすくなる、という効果が期待できる。
【0066】
またさらに、窓周囲の設置する騒音マイク1CD4a、1CD4b、1CD4c、1CD4d、1CD4e、1CD4f、1CD4g、1CD4hについては、点線で示す範囲内に収めることが望ましい。この点線は、窓の周囲縁から10cmの位置を示している。つまり、窓周囲の騒音マイクは窓の周囲縁から10cmの範囲内に設置するのが望ましい。この理由は、先の述べたように走行騒音の主な侵入経路は窓であるため、窓から離れるほど座席頭部位置の騒音と騒音マイクで検出した騒音信号の相関性が劣化して、騒音低減効果が悪化するためである。なお、窓に直接、騒音マイクを設置できないのは、例えばネジなどでは物理的に設置が難しいというだけでなく、眺望を阻害するという観点からも当然である。
【符号の説明】
【0067】
1A1a、1A1b、1B1a、1B1b、1C1a、1C1b、1D1a、1D1b、2A1a、2A1b、2B1a、2B1b、2C1a、2C1b、2D1a、2D1b エラーマイク
1A2a、1A2b、1B2a、1B2b、1C2a、1C2b、1D2a、1D2b、2A2a、2A2b、2B2a、2B2b、2C2a、2C2b、2D2a、2D2b 制御スピーカ
1A3a、1A3b、1B3a、1B3b、1C3a、1C3b、1D3a、1D3b、2A3a、2A3b、2B3a、2B3b、2C3a、2C3b、2D3a、2D3b 制御フィルタ
1CD4a、1CD4b、1CD4c、1CD4d、1CD4e、1CD4f、1CD4g、1CD4h、1CD4i、1CD4j、2CD4a、2CD4b、2CD4c、2CD4d 騒音マイク
1CD5 メモリ
1CD6 通信部
1CD7 回転センサ
1CD8 荷棚
101a、101b、201a、201b FIRフィルタ
111a、111b、112a、112b、211a、211b、212a、212b 係数更新器
121a、121b、122a、122b、221a、221b、222a、222b 伝達特性補正器
130、230 加算器
1000 自動車
1010 センサ
1020 エラーマイク
1031、1032 スピーカ
2000 騒音制御装置
2001 波形整形器
2002 余弦波発生器
2003 正弦波発生器
2011、2012、2013、2014 伝達要素
2015、2016 加算器
2017、2018 係数更新器
2100 適応ノッチフィルタ
2101、2102 係数乗算器
2103 加算器