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  • 特許-仮設足場の選定方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】仮設足場の選定方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 3/00 20060101AFI20230829BHJP
【FI】
E04G3/00 Z ESW
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020049019
(22)【出願日】2020-03-19
(65)【公開番号】P2021147879
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】高尾 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】越川 拓
(72)【発明者】
【氏名】起橋 孝徳
【審査官】沖原 有里奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-153479(JP,A)
【文献】特開2020-033791(JP,A)
【文献】特開平05-158945(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 1/00-7/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超高層建物に設置する仮設足場を選定する方法であって、
過去の気象データから前記超高層建物の存在する地域において吹く風に関して集積したデータと前記超高層建物を含む状況を表すように作成したモデルに風が吹いたと仮定したときに前記超高層建物にどのように風が吹くかの予測とに基づき、予定する工期日数のうち平均風速が吊り式足場における作業を中止すべき平均風速以上となると予測される、前記超高層建物を高さで複数に分けた各層毎に算出される日数合計Bを、前記工期日数に前記層の層数を掛けた値Aで除した値(B/A)が、1年365日を不稼働係数で除した稼働日数と年間稼働日との差を前記年間稼働日で除して求めた余裕度k以上である場合(B/A≧k)、移動昇降式足場を前記超高層建物に設置する仮設足場として選定し、それ以外の場合(B/A<k)、前記吊り式足場を前記超高層建物に設置する仮設足場として選定することを特徴とする仮設足場の選定方法。
【請求項2】
前記余裕度kを前記移動昇降式足場に係る費用Cmに対する前記り式足場に係る費用Chの比c(=Cm/Ch)を掛けた値(k・c)に補正することを特徴とする請求項1に記載の仮設足場の選定方法。
【請求項3】
前記日数の合計Bを、前記超高層建物における複数の方向に応じた複数の面に分けて求めるとともに、前記工期日数の値Aを前記面の面数を掛けたものとすることを特徴とする請求項1又は2に記載の仮設足場の選定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超高層建物の外周に設置する仮設足場の形式を選定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物を改修工事する際には、建物の外周に仮設足場が設けられる。仮設足場には、枠組足場、ゴンドラ等の吊り式足場、リフトクライマー等の移動昇降式足場などがある。枠組足場は、中低層や高層の建物を改修する際に一般的に用いられる形式であり、地上部にかかる荷重が大きくなるに従って補強を行う必要が生じるので、高さが60mを超える超高層建物には不向きである。
【0003】
そこで、超高層建物には吊り式足場又は移動昇降式足場が用いられる。移動昇降式足場は、吊り式足場と比較すると、風に対する安定性が高く、作業可能な風速が大きいが、費用が高い。そのため、作業日程のうち強風で仮設足場での作業ができない日数を考慮して、どちらの形式の足場を選択するか判断する必要がある。従来、このような判断は、対象となる地域の過去の気象データなどを基に、改修工事責任者が個人的な経験などに応じて行っていた。
【0004】
なお、特許文献1には、作業場所である所定の上空位置の風速を予測する方法が開示されている。予測した風速を用いて平均風速を求め、この平均風速が所定値を超える場合、ブザー音を出力して作業員に警告している。
【0005】
また、特許文献2には、風力発電システムに備わる部品を交換又は修理する工事の時期を選択する方法が開示されている。風力発電システムの設置場所の風速が工事を行えない予め定められた閾値以上となる割合を所定日数毎及び所定時間数毎に示す気象データベースを備え、この内容などに基づき工事の時期を選択している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-343145号公報
【文献】特開2012-140905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、仮設足場の選定が改修計画責任者の個人的な経験などに依存するので、予定工期内に改修作業が完了しない、あるいは、予定工期内に改修工事が確実に完了するように移動昇降式足場を選択する傾向があり、費用の抑制が図れていないなどの問題があった。
【0008】
本発明は、以上の点に鑑み、予定工期内に改修作業が完了するともに費用の抑制を図ることが可能な超高層建物に設ける仮設足場の選択方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の仮設足場の選定方法は、超高層建物に設置する仮設足場を選定する方法であって、過去の気象データから前記超高層建物の存在する地域において吹く風に関して集積したデータと前記超高層建物を含む状況を表すように作成したモデルに風が吹いたと仮定したときに前記超高層建物にどのように風が吹くかの予測とに基づき、予定する工期日数のうち平均風速が吊り式足場における作業を中止すべき平均風速以上となると予測される、前記超高層建物を高さで複数に分けた各層毎に算出される日数合計Bを、前記工期日数に前記層の層数を掛けた値Aで除した値(B/A)が、1年365日を不稼働係数で除した稼働日数と年間稼働日との差を前記年間稼働日で除して求めた余裕度k以上である場合(B/A≧k)、移動昇降式足場を前記超高層建物に設置する仮設足場として選定し、それ以外の場合(B/A<k)、前記吊り式足場を前記超高層建物に設置する仮設足場として選定することを特徴とする。
【0010】
本発明の仮設足場の選定方法によれば、移動昇降式足場と吊り式足場との風に対する超高層建物の高さに応じた安定度に基づいて、予定する工期内に仮設足場を用いた作業が完了するともに、仮設足場に係る費用の抑制を図ることが可能な仮設足場の形式の選択を簡易に行うことができる。
【0011】
本発明の仮設足場の選定方法において、前記余裕度kを前記移動昇降式足場に係る費用Cmに対する前記り式足場に係る費用Chの比c(=Cm/Ch)を掛けた値(k・c)に補正することを特徴とすることが好ましい。
【0012】
この場合、費用比cも考慮して、仮設足場の形式の選択を行うことができる。
【0013】
また、本発明の仮設足場の選定方法において、前記日数の合計Bを、前記超高層建物における複数の方向に応じた複数の面に分けて求めるとともに、前記工期日数の値Aを前記面の面数を掛けたものとすることが好ましい。
【0014】
この場合、移動昇降式足場と吊り式足場との風に対する超高層建物の複数の方向に応じた面に分けて選択を行うので、仮設足場の形式の選択を超高層建物の面毎に簡易に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る仮設足場の選定方法を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態に係る仮設足場の選定方法について図1を参照して説明する。本方法により、一般的に高さが60mを超える超高層建物に対して、改修作業などを行うために仮設足場の設置を計画する際に、仮設足場の形式の選定を簡易に行うことが可能となる。
【0017】
超高層建物には、リフトクライマー等の移動昇降式足場、又はゴンドラ等の吊り式足場が仮設足場として用いられる。移動昇降式足場は、建物外周の地上部にマストを設置し、このマストに沿って作業床を昇降させる形式である。吊り式足場は、建物屋上から作業床を吊り下げる形式である。なお、吊り式足場には、建物外周にレールを設置して作業床の揺れを抑制するレール付きや、作業床(ゴンドラ)が連結された連結式のものもある。
【0018】
本発明の実施形態に係る仮設足場の選定方法においては、まず、過去の気象データから対象となる超高層建物(以下、対象建物ともいう)の存在する地域(市町村など)において吹く風に関するデータを集積する風データ集積工程(S1)を行う。この風データ集積工程(S1)においては、例えば、対象建物の存在する地域に位置する地域気象観測所が過去に観測した風速、風向きなどを含む風に関するデータを集積する。
【0019】
次に、対象建築物自体及びその周辺の建物などの状況を表すモデルを作成し、このモデルにおいて様々な風が吹いたと仮定したときに対象建物に対して吹く風を市販の風解析ソフトウェアなどを用いて予測する風予測工程(S2)を行う。この風予測工程(S2)においては、複数の方向から様々な風速の風が吹いたと仮定したときに、対象建物にどのような風速や風向きで風が吹くかを予測する。
【0020】
このとき、地域気象観測所において風速計が設置される高さ(一般的には地上10mであるが例えば大阪では24mであり、この高さの地点での計測値から気象庁が当該地域の平均風速を決定する)に相当する高さの対象建物の部分(以下、この部分を低層部という)における風を予測するだけでなく、対象建物の高さ中央部である中層部、及び最上部である上層部における風も予測する。なお、ここでは、対象建物を高さで3つの層数に分けたが、2つ又は4つ以上に層数を分けてもよい。
【0021】
さらに、対象建物の複数の方向の面、例えば東西南北の4つの面、あるいは正面、後面及び両側面からなる4つの面などに向かって吹く風も予測することが好ましい。
【0022】
移動昇降式足場及び吊り式足場はともに、法令において強風時は作業を中止すべきとされており、強風とは10分間の平均風速が10m/秒以上であることを意味するとされている。そのため、移動昇降式足場及び吊り式足場はともに、地域気象観測所において風速計が設置される高さにおいて平均風速10m/秒以上の風が吹くと作業不可となる。
【0023】
しかし、移動昇降式足場は吊り式足場と比較して風に対する安定性が高く、作業可能な風速の制限が少ない。具体的には、吊り式足場は、さらに、作業高さにおける平均風速が10m/秒以上の場合も作業不可となるが、移動昇降式はマストが安定していればよいので。中層部又は上層部における平均風速が10m/秒以上であっても、低層部(上述したように、気象庁が当該地域の平均風速を決定する高さ)における平均風速が10m/秒未満であれば、作業可能である。
【0024】
このように、低層部において作業不能となる条件は移動昇降式足場も吊り式足場も同じであるが、中層部又は上層部において移動昇降式足場では作業可能であるが吊り式足場では作業不能となることがある。ただし、移動昇降式足場のほうが吊り式足場よりも費用が高いことが一般的である。
【0025】
次に、風データ集積工程(S1)において集積した風に関するデータ及び風予測工程(S2)において予測した対象建物に対して吹く風に基づいて、予定する工期日数Aのうち平均風速が吊り式足場において作業不能となる平均風速以上の風が吹くと予測される日数の合計Bを算出する作業不能日数算出工程(S3)を行う。
【0026】
上述したように、吊り式足場は作業高さで平均風速10m/秒以上の風が吹くと作業不能とされるので、ここでは、予定する工期日数Aのうち平均風速が10m/秒以上の風が吹くと予測される日数の合計Bを算出する。
【0027】
なお、風予測工程(S2)において、上述したように対象建物を低層部、中層部及び上層部の3層に分けて予測しているので、各層部毎に日数の合計Bを算出する。例えば、同じ日において、上層部と中層部において平均風速が10m/秒以上となると予測した場合、日数の合計Bは2日となる。そして、高さに応じて3層に分けたことに合わせて、工期日数の値Aも3倍にする。
【0028】
また、風予測工程(S2)において、上述したように対象建物を複数の面、例えば東西南北の4つの面に分けて予測した場合には、各層部かつ各面毎に日数の合計Bを算出する。例えば、同じ日において、上層部の西面及び北面と中層部の北面において平均風速が10m/秒以上となると予測した場合、日数の合計Bは3日となる。そして、4つの面に分けたことに合わせて、工期日数の値Aをさらに4倍にする。
【0029】
次に、予定する工期日数Aの日程的な余裕度kを算出する余裕度算出工程(S4)を行う。
【0030】
余裕度算出工程(S4)においては、不稼働係数に基づいて予定する工期日数Aの日程的な余裕度kを算出する。不稼働係数は、土日祝日などの休日、降雨日数、その他特殊条件を考慮した不稼働日を基にして算出された係数である。ここでは、不稼働係数として、国土交通省が土木工事に関して標準的な値として定めた定数である1.7を用いるが、対象建物が存在する行政区画を施政する地方公共団体などが定めた値を用いてもよい
【0031】
稼働日数は1年365日を不稼働係数1.7で除した215日であり、年間稼働日は土日祝日を除いた240日とすると、25日(240日-215日)の余裕がある。この25日を240日で割ると0.104・・・となるので、四捨五入して余裕度kを0.1とする。なお、余裕度kは、年末年始などの長期休暇、雪、台風などの自然条件などを考慮して、例えば、季節や地域に応じて修正してもよい。
【0032】
なお、移動昇降式足場に係る費用Cmと吊り式足場に係る費用Chと差額が大きい場合、これらの費用比c(=Cm/Ch)に基づいて余裕度kを補正することが好ましい。移動昇降式足場に係る費用Cmは、一般的に吊り式足場に係る費用Chよりも大きいので、通常、費用比cは1を超える。そこで、費用比cが、所定の値、例えば1.1を超えた場合、余裕度kに費用比cを乗じて、余裕度をk’=(k・c)として補正すればよい。
【0033】
なお、費用Cm,Chには、移動昇降式足場又は吊り式足場、それ自体の費用(例えば、レンタル費や輸送費)の他に、設置及び撤去に要する費用なども含まれることが好ましい。さらに、移動昇降式足場を用いた場合と吊り式足場を用いた場合とで改修工事の作業効率が相違する場合には、その比に基づき費用比cを修正してもよい。
【0034】
次に、上記工程S3,S4において求めた各値に基づいて、下記の式(1)に基づいて仮設足場を選定する選定工程(S5)を行う。ただし、余裕度kに費用比cを乗じて補正する場合には、余裕度kの代わりに余裕度k’を用いる。
A/B≧k ・・・(1)
【0035】
ここで、式(1)が成立する場合(S5:YES)、移動昇降式足場を仮設足場として選定する移動昇降式足場選定工程(S6)を行う。一方、式(1)が成立しない場合、すなわちA/B<kの場合(S5:NO)、吊り式足場を仮設足場として選定した場合に、予定する工期日数A内に改修工事が完了すると予想されるかを作業不能日数算出工程(S3)で算出した日数の合計Bなどに基づいて確認する確認工程(S7)を行う。
【0036】
確認工程(S7)において、吊り式足場を仮設足場として選定しても予定する工期日数内に改修工事が完了すると予想される場合(S7:YES)、吊り式足場を仮設足場として選定する吊り式足場選定工程(S8)を行う。一方、吊り式足場を仮設足場として選定しても予定する工期日数内に改修工事が完了しないと予想される場合(S7:NO)、必要な工期を短くするために移動昇降式足場を仮設足場として選定する移動昇降式足場選定工程(S6)を行う。
【0037】
なお、移動昇降式足場が仮設足場として選定されても、対象建物の外周にマストを設置できない場合には、吊り式足場を設置する。そして、この場合、マストを設置できる面にのみ移動昇降式足場を設置し、他の面に吊り式足場を設置してもよい。
【0038】
さらに、上述した方法では、複数の面にわたって同じ形式の仮設足場を設置する場合を前提に説明したが、各面毎に仮設足場を選定してもよい。この場合、各面毎に上記式(1)に基づいて選定すればよい。
【0039】
なお、本発明は、上述した仮設足場の選択方法に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
図1