(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】スパークプラグおよびスパークプラグの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01T 13/02 20060101AFI20230829BHJP
H01T 13/20 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
H01T13/02
H01T13/20 E
(21)【出願番号】P 2020141674
(22)【出願日】2020-08-25
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142745
【氏名又は名称】伊藤 世子
(74)【代理人】
【識別番号】100136319
【氏名又は名称】北原 宏修
(74)【代理人】
【識別番号】100148275
【氏名又は名称】山内 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100143498
【氏名又は名称】中西 健
(72)【発明者】
【氏名】木村 順二
【審査官】関 信之
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-223769(JP,A)
【文献】特開2020-077603(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 13/02
H01T 13/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁体と、主体金具とを備えているスパークプラグであって、
前記主体金具は、
内燃機関に取り付けられる取付け部と、
前記取付け部の先端側に設けられている接地電極と、
前記取付け部の後端側に位置し、前記取付け部よりも径の大きい大径部と
を有しており、
前記大径部の側面には、
マークと、
前記マークを覆うように設けられている保護層と
が設けられており、
前記大径部を含む前記大径部よりも後端側には、前記主体金具の表面の一部から径方向外側に突出する張り出し部が形成されて
おり、
前記張り出し部は、前記保護層の一部として形成されている、スパークプラグ。
【請求項2】
前記大径部の先端側には、先端向き面が設けられており、
前記張り出し部は、前記先端向き面よりも後端側に位置している、
請求項1に記載のスパークプラグ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のスパークプラグの製造方法であって、
前記大径部の側面にマークを形成する、マーク形成工程と、
前記大径部の先端側に位置する先端向き面に、コーティング材料が前記先端向き面に飛散することを防止するとともに前記大径部より径方向外側に突出する板部材を接触させる板部材設置工程と、
前記板部材設置工程の後に、前記板部材を前記先端向き面に接触させた状態で前記マーク上にコーティング材料を塗布し、前記張り出し部を有する保護層を形成する保護層形成工程と
を含む、スパークプラグの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に用いられるスパークプラグおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用エンジンなどの内燃機関の着火手段として、スパークプラグが用いられている。スパークプラグは、軸状の中心電極と、その中心電極を内側に保持する円筒状の絶縁体と、その絶縁体を内側に保持する主体金具とを有している。主体金具の先端部側には、中心電極との間に火花放電ギャップを形成するように、略L字状の接地電極が溶接などによって取り付けられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような構成を有するスパークプラグは、主体金具の外周に形成されたネジ溝が内燃機関のネジ穴に螺合されることで、内燃機関に取り付けられる。スパークプラグが内燃機関に取り付けられると、主体金具の先端側に位置する接地電極の配置位置が確認できないという問題がある。
【0005】
本発明では、内燃機関に取り付けられた後に接地電極の位置を確認することのできるスパークプラグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一局面にかかるスパークプラグは、絶縁体と、主体金具とを備えている。このスパークプラグにおいて、前記主体金具は、内燃機関に取り付けられる取付け部と、前記取付け部の先端側に設けられている接地電極と、前記取付け部の後端側に位置し、前記取付け部よりも径の大きい大径部とを有している。前記大径部を含む前記大径部よりも後端側には、前記主体金具の表面の一部から径方向外側に突出する張り出し部が形成されている。
【0007】
上記の構成によれば、張り出し部が設けられていることで、スパークプラグが内燃機関に取り付けられる前に張り出し部と接地電極との位置関係を把握しておくことで、スパークプラグが内燃機関に取り付けられた後に、張り出し部の位置から接地電極の位置を容易に特定することができる。したがって、内燃機関に取り付けられた後に接地電極の位置を確認することのできるスパークプラグが得られる。なお、大径部を含む前記大径部よりも後端側とは、スパークプラグが内燃機関に取り付けられたときに、外側に露出している部分である。
【0008】
上記の本発明の一局面にかかるスパークプラグにおいて、前記大径部の側面には、マークと、前記マークを覆うように設けられている保護層とが設けられており、前記張り出し部は、前記保護層の一部として形成されていてもよい。
【0009】
上記の構成によれば、マークを覆うように保護層が設けられていることで、マークを保護することができる。さらに、保護層の一部として張り出し部が形成されていることで、スパークプラグに付されるマークの保護層を利用して、内燃機関に取り付けられた後に接地電極の位置を確認することのできるスパークプラグが得られる。
【0010】
上記の本発明の一局面にかかるスパークプラグにおいて、前記大径部の先端側には、先端向き面が設けられており、前記張り出し部は、前記先端向き面よりも後端側に位置していてもよい。
【0011】
上記の構成によれば、スパークプラグを内燃機関に取り付ける際に、張り出し部が、内燃機関に干渉することを避けることができる。
【0012】
また、本発明のもう一つの局面にかかるスパークプラグの製造方法は、上記の本発明の一局面にかかるスパークプラグを製造する方法である。この製造方法は、前記大径部の側面にマークを形成するマーク形成工程と、前記大径部の先端側に位置する先端向き面に、コーティング材料が前記先端向き面に飛散することを防止するとともに前記大径部より径方向外側に突出する板部材を接触させる板部材設置工程と、前記板部材設置工程の後に、前記板部材を前記先端向き面に接触させた状態で前記マーク上にコーティング材料を塗布し、前記張り出し部を有する保護層を形成する保護層形成工程とを含む。
【0013】
上記の製造方法によれば、コーティング材料を塗布するときに、大径部の先端向き面に板部材が配置されていることで、先端向き面にコーティング材料が飛散することを抑制することができる。また、大径部の先端向き面に板部材を設置した状態でコーティング材料を塗布することで、板部材の表面にまで拡がったコーティング材料を利用して張り出し部を形成することができる。このようにして、張り出し部を有する保護層を形成することで、スパークプラグに付されるマークを利用して、内燃機関に取り付けられた後に接地電極の位置を容易に確認することのできるスパークプラグを製造することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明の一局面にかかるスパークプラグには、大径部よりも後端側における主体金具の表面の一部から径方向外側に突出する張り出し部が設けられている。この構成によれば、スパークプラグが内燃機関に取り付けられる前に張り出し部と接地電極との位置関係を把握しておくことで、スパークプラグが内燃機関に取り付けられた後に、張り出し部の位置から接地電極の位置を容易に特定することができる。したがって、本発明の一局面にかかるスパークプラグによれば、内燃機関に取り付けられた後に接地電極の位置を確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態にかかるスパークプラグの外観を示す側面図およびスパークプラグに付されたマークの拡大図である。
【
図2】本発明の一実施形態にかかるスパークプラグの製造工程の一部を示すフローチャートである。
【
図3】本発明の一実施形態にかかるスパークプラグに保護層を形成するときの状態を示す模式図である。
【
図4】本発明の一実施形態にかかるスパークプラグに保護層を形成するときに使用する板部材の一例を示す平面図である。
【
図5】本発明の一実施形態にかかるスパークプラグに保護層を形成するときに使用する板部材の他の例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0017】
本実施形態では、本発明のスパークプラグの一例として、主体金具30の座部34の表面にマークが付されているスパークプラグについて説明する。
図1には、本実施形態にかかるスパークプラグ1の外観を示す。また、
図1では、スパークプラグ1に付されているマーク(具体的には、二次元コード10)を拡大して示す。
【0018】
(スパークプラグの全体構成)
先ず、スパークプラグ1の全体構成について、
図1を参照しながら説明する。スパークプラグ1は、絶縁体50および主体金具30を備えている。
【0019】
絶縁体50は、スパークプラグ1の長手方向に延びる略円筒形状の部材である。絶縁体50は、絶縁性、耐熱性、および熱伝導性に優れた材料で形成されている。例えば、絶縁体50は、アルミナ系セラミックなどで形成されている。絶縁体50の一方の端部(先端部)には、中心電極21が設けられている。また、絶縁体の他方の端部(後端部)には、端子金具52が取り付けられている。
【0020】
中心電極21は、その先端部が絶縁体50の先端部から突出した状態で、絶縁体50の軸孔に貫通保持されている。中心電極21は、その先端部が略円筒形状の絶縁体50の軸線O上に位置するように、絶縁体50に対して取り付けられている。中心電極21は略円柱形状を有しており、その先端部分は、テーパ状に縮径している。
【0021】
主体金具30は、内燃機関のネジ穴に固定される略円筒形状の部材である。主体金具30は、絶縁体50を部分的に覆うように設けられている。主体金具30は、導電性を有する金属材料で形成されている。このような金属材料としては、低炭素鋼、または鉄を主成分とする金属材料などが挙げられる。
【0022】
主体金具30は、主に、加締め部31、工具係合部32、湾曲部33、座部(大径部)34、および取付け部35などを有している。
【0023】
加締め部31および湾曲部33は、絶縁体50に主体金具30を取り付けるための部位である。工具係合部32は、内燃機関のネジ穴に主体金具30を取り付けるときにレンチなどの工具を係合させる部位である。取付け部35は、絶縁体50の先端部側に位置している。取付け部35は、スパークプラグ1が内燃機関に取り付けられるときに、内燃機関のプラグホールへ圧入またはネジによって挿入される部分である。スパークプラグ1が内燃機関に取り付けられる際には、例えば、取付け部35の外周に形成されたネジ溝が内燃機関のネジ穴に螺合される。
【0024】
座部34は、取付け部35の後端側(端子金具52が配置される側)に位置している。本実施形態では、座部34は、湾曲部33と取付け部35との間に位置している。座部34は、取付け部35よりも大きな径を有していることから、大径部とも呼ばれる。本実施形態では、座部34の径は、取付け部35の径よりも大きく、湾曲部33の径よりも大きくなっている。
【0025】
スパークプラグ1が内燃機関に取り付けられた状態で、座部34の先端側の端面である先端向き面34aには、環状のガスケット42が配置される。先端向き面34aは、ガスケット取付け面、あるいは座面とも呼ばれる。
【0026】
また、主体金具30の先端部側(取付け部35が位置する側)には、接地電極41が取り付けられている。接地電極41は、全体が略L字形に屈曲する棒状体で、基端側が主体金具30の先端面に接合固定されている。接地電極41の先端部は、絶縁体50の軸線Oの仮想延長線が通過する位置にまで延びている。そして、接地電極41の先端部の近傍には、中心電極21側に向かって突出する凸部が形成されている。
【0027】
中心電極21および接地電極41は、例えば、Ni(ニッケル)を主成分として含むNi基合金等の金属材料を母材として形成される。Ni基合金に添加される合金元素としては、Al(アルミニウム)等が挙げられる。中心電極21および接地電極41は、その内部に、熱伝導性に優れた金属、例えば、Cu(銅)又はCu合金等の金属材料等からなる芯材を有していてもよい。
【0028】
また、接地電極41は、Ni以外の成分として、Mn(マンガン)、Cr(クロム)、Al(アルミニウム)、およびTi(チタン)より選択される少なくとも一つの元素を含んでいてもよい。
【0029】
中心電極21の先端部は、例えば、円柱状に成形された貴金属チップにて構成することができ、溶接等により中心電極21の先端に接合される。
【0030】
主体金具30および接地電極41の表面には、メッキ層が形成されている。表面にメッキ層が形成されることで、主体金具30および接地電極41などの腐食を抑えることができる。メッキ層には、例えば、Zn(亜鉛)、Ni(ニッケル)、Sn(スズ)、およびCr(クロム)などが含まれている。
【0031】
なお、絶縁体50の端子金具52の表面にも、上記と同様のメッキ層が形成されている。これにより、端子金具52の腐食を抑えることができる。
【0032】
(スパークプラグのマークについて)
スパークプラグ1には、マークの一例である二次元コード10が付されている。二次元コード10は、座部34の外周面(側面)に設けられている。二次元コード10は、例えば、DataMatrixコード、QRコード(登録商標)などである。二次元コード10には、スパークプラグ1の製品情報、製造過程における履歴情報などといった個々のスパークプラグを識別するための各種情報が含まれている。
【0033】
なお、本発明では、マークは二次元コードに限定されない。二次元コード以外のマークとしては、例えば、バーコードなどの一次元コード、文字、記号、および画像などで構成されるものが挙げられる。また、マークは、一次元コード、二次元コード、文字、記号、および画像のうちのいくつかを組み合わせて構成されるものであってもよい。
【0034】
二次元コード10は、矩形のセルの集合である第1部11と、第1部11よりも反射率の高い矩形のセルの集合である第2部12とを備えている。本実施形態では、第1部11を暗モジュールとし、第2部12を明モジュールとする。第1部11と第2部12との組合せにより、製品や部品に固有の履歴情報が表示される。本実施形態では、後述するように、第1部11は酸化皮膜で形成されており、第2部12は下地領域で形成されている。二次元コード10のより具体的な構成については、従来公知のマーク(例えば、特許文献1に開示されているマーク40など)の構成が適用できる。
【0035】
本実施形態にかかるスパークプラグ1では、二次元コード10の表面は保護層61で覆われている。
図1に示すように、保護層61は、二次元コード10が形成されている領域よりもやや広い領域に形成されている。すなわち、保護層61の形成領域内に、二次元コード10が形成されている領域が含まれている。
【0036】
保護層61は、光透過性を有している。ここで、保護層61が光透過性を有するとは、可視光などの光が保護層61を通過し、保護層61の下層の面が視認可能な状態であることをいう。保護層61が光透過性を有していることで、保護層61の下に形成されている二次元コード10の情報を読み取ることができる。後述するように、保護層61は、二次元コード10を覆うようにコーティング材料を塗布することによって形成される。
【0037】
二次元コード10の表面が保護層61で覆われていることで、二次元コード10およびその周辺の領域から錆が発生することを抑制することができる。また、保護層61が設けられていることで、二次元コード10に傷が付いたり、二次元コード10が擦れたりすることを回避することができる。そのため、複数のスパークプラグ1をまとめて梱包して輸送する際などに、スパークプラグ1に付された二次元コード10が欠損して、読み取りできなくなることを抑制することができる。
【0038】
また、保護層61は、座部34の表面から径方向外側に突出する張り出し部62を有している。張り出し部62は、保護層61を形成しているコーティング材料と同じ材料で形成される。一例では、
図1に示すように、保護層61および張り出し部62は、側面視で略L字の形状を有している。
【0039】
張り出し部62は、座部34の表面の一部から径方向外側に突出している。このような張り出し部62は、スパークプラグ1を内燃機関に取り付けた後の接地電極41の位置確認に利用される。
【0040】
スパークプラグ1が内燃機関に取り付けられると、取付け部35の先端側に位置する接地電極41は内燃機関のプラグホール内に入り込むため、外から接地電極41の位置を把握することができなくなる。本実施形態にかかるスパークプラグ1は、保護層61が張り出し部62を有しているため、主体金具30の取付け部35が内燃機関のプラグホールに取り付けられた状態でも、取付け部35よりも径の大きな座部34から径方向に突出する張り出し部62の位置を容易に確認することができる。
【0041】
また、張り出し部62は、二次元コード10上に設けられている保護層61の一部であるため、軸線方向の後端側からスパークプラグ1を見たときに、張り出し部62の位置には二次元コード10が存在することが分かる。そこで、座部34の側面の特定の位置に二次元コード10を形成することで、二次元コード10と接地電極41との位置関係を特定することができる。
【0042】
例えば、
図1に示す例では、二次元コード10は、座部34の外周面における、接地電極41の配置位置に対して反対側の位置(接地電極41の位置に対して軸線Oを中心とする回転角が約180°となる位置)に形成されている。そのため、スパークプラグ1が内燃機関に取り付けられた状態で後端側からスパークプラグ1を見たとき、張り出し部62が突出している位置とは反対側の位置に接地電極41が存在することがわかる。
【0043】
なお、本実施形態にかかるスパークプラグ1では、二次元コード10などのマークを利用して接地電極41の位置を確認するために、予めマークと接地電極41とが特定の位置関係となるようにマークの形成位置を決めてもよい。また、別の例では、スパークプラグ1を内燃機関に取り付ける前に、接地電極41とマークとの位置関係を確認してもよい。
【0044】
本実施形態では、張り出し部62は、座部34の先端側(すなわち、先端向き面34aの近傍)に位置している(
図1参照)。また、張り出し部62は、座部34の先端向き面34aよりも後端側に位置している。
【0045】
ここで、張り出し部62が先端向き面34aよりも後端側に位置しているとは、張り出し部62の全体が先端向き面34aの仮想延長面X(
図1において一点鎖線で示す)よりも先端側(取付け部35側)へ飛び出していないことを意味する。
【0046】
張り出し部62が先端向き面34aよりも後端側に位置していることで、スパークプラグ1を内燃機関に取り付ける際に、張り出し部62が、内燃機関に干渉することを避けることができる。
【0047】
また、本実施形態では、張り出し部62は、略四角形状の二次元コード10を覆うように形成されている保護層61において、先端向き面34aに近い側の端辺に沿って形成されている(
図1参照)。但し、保護層61における張り出し部62の配置位置は、これに限定はされない。張り出し部62は、座部34の表面の一部から径方向外側に突出するように設けられていれば、その配置位置および形状は特に限定はされない。
【0048】
例えば、
図1に示すように、二次元コード10の形状に合わせて座部34の表面に略四角形状に形成されている保護層61では、その4つの端辺のうちの少なくとも何れか一つ端辺に沿うように張り出し部62が形成されているのがよい。これにより、二次元コード10が形成されている領域の外側に張り出し部62が位置することになり、張り出し部62によって二次元コード10の読み取りが妨げられることを抑制することができる。
【0049】
(スパークプラグの製造方法)
続いて、スパークプラグ1の製造方法について説明する。ここでは、スパークプラグ1の製造方法の中でも、二次元コード10などのマークおよびマークを覆う保護層61を形成する工程を中心に説明する。スパークプラグ1の製造方法における、それ以外の製造工程については、従来のスパークプラグの製造方法と同様の製造方法が適用できる。
【0050】
図2には、二次元コード10および保護層61の形成に関連する工程を順に示す。以下では、スパークプラグ1の完成品に対して二次元コード10を形成する場合を例に挙げて説明する。しかし、製造途中のスパークプラグ1の構成部品に対して、以下に説明する方法と同様の方法で二次元コード10を形成してもよい。
【0051】
図2に示すように、スパークプラグ1の製造方法には、マーク形成工程(S11)、板部材設置工程(S12)、および保護層形成工程(S13)が含まれている。
【0052】
マーク形成工程(S11)を行うにあたって、先ず、二次元コード10が付されていない状態のスパークプラグ1を準備する。マーク形成工程(S11)では、スパークプラグ1のマーク形成面にマークを形成する。ここで、マーク形成面とは、スパークプラグ1の座部34の側面のマークが形成される予定の領域である。
図1に示す例では、マーク形成面は、主体金具30の座部34の外周面において、接地電極41の配置位置に対して反対側の位置(接地電極41の位置に対して軸線Oを中心とする回転角が約180°となる位置)となっている。
【0053】
マークの形成には、例えば、レーザ加工が用いられる。レーザ加工を用いてマークを形成する場合、先ず、マーク形成面に下地領域を形成する。下地領域は、マークの形成領域において背景となる領域である。スパークプラグ1のマーク形成面には、メッキ膜が酸化した酸化皮膜が形成されている。この酸化皮膜は、厚さや密度にムラがある可能性がある。
【0054】
そこで、マーク形成面にレーザビームを照射し、表面に形成されている酸化皮膜を除去することによって下地領域を形成する。これにより、後に形成される第1部11よりも反射率の高い下地領域を形成することができる。下地領域は、例えば、マークが二次元コード10の場合には、第2部12を構成する。
【0055】
その後、下地領域内にさらにレーザビームを照射し、下地領域を部分的に加熱する。これにより、レーザビームを照射して加熱した部分の酸化皮膜の形成を促進する。このレーザビームの照射工程では、走査ヘッドを用いてレーザビームを走査することにより、下地領域内の所定の箇所に酸化皮膜を形成する。このとき、レーザ出力や走査速度、レーザビームの焦点径や焦点深度などを調整して、下地領域を形成するときよりも高いエネルギーのレーザビームをスパークプラグ1に照射する。これにより、レーザビームが照射された部分の酸化が促進され、黒色化した酸化皮膜が形成される。この酸化皮膜が、二次元コード10の第1部11となる。
【0056】
なお、第1部11を構成する酸化皮膜の酸化度合いは、レーザ出力によって制御することができる。そのため、第1部11を構成する酸化皮膜の厚さや密度をほぼ均一にすることができる。
【0057】
マーク形成工程(S11)のより具体的な方法については、例えば、特許文献1などに記載の従来公知のマーク形成方法を適用することができる。
【0058】
以上のようにして、スパークプラグ1にマークを形成した後、保護層61および張り出し部62を形成するための工程が行われる。具体的には、板部材設置工程(S12)および保護層形成工程(S13)が行われる。
【0059】
板部材設置工程(S12)は、後に行われる保護層形成工程で使用されるコーティング材料がガスケット取付け面となる座部34の先端向き面34aに飛散することを防止するために行われる。板部材設置工程(S12)では、座部34からスパークプラグ1の径方向(軸線Oの延伸方向と直交する方向)外側に突出する板部材100を、座部34の先端向き面34aに接触させる。
【0060】
図3には、スパークプラグ1に板部材100を取り付けた状態を示す。
図3では、便宜上、座部34の側面に設けられている二次元コード10を拡大した状態で図示している。
【0061】
板部材100は、例えば、プラスチック板などの樹脂、アルミニウム板などの金属などで形成することができる。
【0062】
図4には、スパークプラグ1に取り付けられる板部材100の一例を示す。
図4に示す板部材100Aは、略長方形の板状の部材である。板部材100Aの中央には、略円形の開口部101が設けられている。スパークプラグ1に板部材100Aを取り付ける際には、スパークプラグ1をその先端側(中心電極21側)から開口部101へ挿入し、座部34の先端向き面34aに板部材100Aの開口部101の端部を接触させる。なお、板部材100Aを用いて保護層61の形成を行う場合には、スパークプラグ1にガスケット42が挿入される前に、板部材100Aをスパークプラグ1に取り付ける。
【0063】
図5には、スパークプラグ1に取り付けられる板部材100のもう一つの例を示す。
図5に示す板部材100Bは、略長方形の板状の部材である。板部材100Bには、一端辺から中央部へ向かって板の一部が切り欠かれた切り欠き部111が設けられている。スパークプラグ1に板部材100Bを取り付ける際には、スパークプラグ1のマークが形成されている側の側方から板部材100Bを差し込む。このとき、板部材100Bの切り欠き部111内にスパークプラグ1の座部34周辺が入り込むようにする。例えば、
図3に示す例では、図中、上側から板部材100Bの切り欠き部111内へスパークプラグ1を入り込ませる。そして、座部34の先端向き面34aに板部材100Bの切り欠き部111の端部を接触させる。
【0064】
板部材設置工程(S12)においてスパークプラグ1の先端向き面34aに板部材100を設置した後、保護層形成工程(S13)が行われる。保護層形成工程(S13)では、
図3に示すように、座部34の先端向き面34aに板部材100の平面を接触させた状態で、二次元コード10上にコーティング材料を塗布し、保護層61を形成する。
【0065】
保護層61の形成に使用されるコーティング材料としては、例えば、防錆性、撥水性などの性質を有する樹脂材料が使用される。樹脂材料としては、例えば、加熱、光照射などによって硬化する性質を有する液状のものが好適に使用される。本実施形態では、紫外線(UV)を照射することで硬化するUV硬化樹脂がコーティング材料として使用される。
【0066】
また、コーティング材料は、二次元コード10に照射した光の反射光をコードリーダなどの読取装置で読み取ることができるように、光透過性を有している。
【0067】
このようなコーティング材料を二次元コード10上に塗布することで、コーティング材料が硬化し、二次元コード10を覆うように無色透明の保護層61が形成される。
【0068】
また、板部材100をスパークプラグ1に取り付けた状態で、適度な粘性を有する液状のコーティング材料を二次元コード10上に塗布すると、コーティング材料の一部が板部材100の表面にまで到達し、板部材100の表面に拡がる。この状態で、コーティング材料が硬化することで、板部材100の表面に拡がったコーティング材料によって張り出し部62が形成される。
【0069】
なお、上述の各工程は、スパークプラグ1にガスケット42を取り付ける前に実施してもよいし、スパークプラグ1にガスケット42を取り付けた後に実施してもよい。スパークプラグ1にガスケット42を取り付けた後に上述の各工程を実施する場合には、例えば、板部材100Bのように切り欠き部111を有する板部材100を使用する。また、スパークプラグ1にガスケット42を取り付ける前に板部材設置工程(S12)を実施する場合には、
図3に示すように、ガスケット42とスパークプラグ1の座部34の先端向き面34aとの間に板部材100を挟むように配置する。
【0070】
保護層形成工程(S13)が終了すると、必要に応じて、スパークプラグ1に対して洗浄などの後処理が行われる。
【0071】
以上のように、本実施形態にかかるスパークプラグ1の製造方法によれば、スパークプラグ1の座部34の表面に、二次元コード10などのマークを付すことができる。また、本実施形態にかかるスパークプラグ1の製造方法によれば、所定の位置に張り出し部62を有する保護層61を形成することができる。
【0072】
(まとめ)
以上のように、本実施形態にかかるスパークプラグ1は、絶縁体50と、主体金具30とを備えている。主体金具30は、内燃機関に取り付けられる取付け部35と、取付け部35の先端側に設けられている接地電極41と、取付け部35の後端側に位置し、取付け部35よりも径の大きい座部(大径部)34とを有している。座部34の側面には、二次元コード10などのマークと、マークを覆うように設けられている保護層61とが設けられている。保護層61は、座部34の表面の一部から径方向外側に突出する張り出し部62を有している。
【0073】
上記の構成によれば、マークを覆うように保護層61が設けられていることで、マークを保護することができる。そのため、スパークプラグ1の流通過程などにおいて、錆や剥がれなどといったマークの劣化を抑制することができる。
【0074】
さらに、保護層61が張り出し部62を有していることで、スパークプラグ1が内燃機関に取り付けられる前に張り出し部62と接地電極41との位置関係を把握しておくことで、内燃機関に取り付けられた後に、張り出し部62の位置から接地電極41の位置を容易に特定することができる。したがって、本実施形態にかかるスパークプラグ1によれば、スパークプラグに付されるマークを利用して、内燃機関に取り付けられた後に接地電極41の位置を容易に確認することができる。
【0075】
本実施形態にかかるスパークプラグ1の製造方法は、マーク形成工程と、板部材設置工程と、保護層形成工程とを含んでいる。板部材設置工程では、座部34の先端向き面34aに、座部34からスパークプラグ1の径方向外側に突出する板部材100を接触させる。保護層形成工程では、板部材設置工程の後に、板部材100を先端向き面34aに接触させた状態でマーク上にコーティング材料を塗布し、張り出し部62を有する保護層61を形成する。
【0076】
この製造方法によれば、コーティング材料を塗布するときに、座部34の先端向き面34aに板部材100が配置されていることで、ガスケット取付け面となる先端向き面34aにコーティング材料が飛散することを抑制することができる。
【0077】
また、座部34の先端向き面34aに板部材100を設置した状態でコーティング材料を塗布することで、板部材100の表面上で拡がったコーティング材料から張り出し部62を形成することができる。このようにして、張り出し部62を有する保護層61を形成することで、スパークプラグ1に付されるマークを利用して、内燃機関に取り付けられた後に接地電極41の位置を容易に確認することのできるスパークプラグ1を製造することができる。
【0078】
なお、本実施形態では、スパークプラグ1に付されるマークを保護するための保護層の一部として張り出し部を形成している。しかし、本発明はこのような構成に限定はされない。例えば、主体金具に使用される金属材料の一部を利用して張り出し部を形成してもよい。
【0079】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。また、本明細書で説明した異なる実施形態の構成を互いに組み合わせて得られる構成についても、本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0080】
1 :スパークプラグ
10 :二次元コード(マーク)
11 :第1部
12 :第2部
30 :主体金具
34 :座部(大径部)
34a :先端向き面
35 :取付け部
41 :接地電極
50 :絶縁体
52 :端子金具
61 :保護層
62 :張り出し部
100 :板部材