(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】固形腫瘍癌の治療としての腫瘍内投与のための熱応答性ヒドロゲル
(51)【国際特許分類】
A61K 47/69 20170101AFI20230829BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20230829BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20230829BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20230829BHJP
A61K 47/40 20060101ALI20230829BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20230829BHJP
A61K 9/19 20060101ALI20230829BHJP
A61K 33/243 20190101ALI20230829BHJP
A61K 31/36 20060101ALI20230829BHJP
A61K 49/00 20060101ALI20230829BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
A61K47/69
A61K47/10
A61K47/36
A61K47/22
A61K47/40
A61K9/06
A61K9/19
A61K33/243
A61K31/36
A61K49/00
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2020544122
(86)(22)【出願日】2018-11-07
(86)【国際出願番号】 EP2018080518
(87)【国際公開番号】W WO2019092049
(87)【国際公開日】2019-05-16
【審査請求日】2021-11-04
(32)【優先日】2017-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507261504
【氏名又は名称】ロイヤル カレッジ オブ サージョンズ イン アイルランド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ケリー、ヘレナ
(72)【発明者】
【氏名】ダフィー、ギャリー
(72)【発明者】
【氏名】ロッシ、セオナ
(72)【発明者】
【氏名】ヘイスティングス、コン
【審査官】田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-518619(JP,A)
【文献】特開2014-103985(JP,A)
【文献】特開昭63-258641(JP,A)
【文献】国際公開第2017/015488(WO,A1)
【文献】特開2012-056936(JP,A)
【文献】JORDAN Karen et al.,AN INVESTIGATION OF THE CYTOTOXICITY OF A NOVEL THERMORESPONSIVE GEL FOR USE IN INJECTABLE INTRATUMORAL CANCER THERAPY,THE UNDERGRADUATE JOURNAL,Vol.4,2012年12月03日,p.287-308,https://issuu.com/undergraduateawards/docs/ua_journal_vol4_web
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00-47/69
9/00-9/72
31/00-33/44
49/00-49/22
A61P 1/00-43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱応答性ヒドロゲルであって、
場合によりポロキサマーP188と組み合わされるポロキサマーP407から選択される、15~25%のポロキサマーポリマー(w/w)と、
0.1~1.0%のキトサン(w/w)と、
0.05~0.20%のゲニピン(w/w)と、
5~20%の包接複合体化剤(w/w)と、
水性基剤と、
を含み、未硬化である、熱応答性ヒドロゲル
であり、
前記包接複合体化剤がβ-シクロデキストリンである、
熱応答性ヒドロゲル。
【請求項2】
前記包接複合体化剤が
2-ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリンである、請求項1に記載の熱応答性ヒドロゲル。
【請求項3】
15~18%のポロキサマーポリマー(w/w)を含む、請求項1または2に記載の熱応答性ヒドロゲル。
【請求項4】
0.05~0.15%のゲニピン(w/w)を含む、請求項1~3のいずれかに記載の熱応答性ヒドロゲル。
【請求項5】
1つの
水溶性化学療法剤
を含む、請求項1~4のいずれかに記載の熱応答性ヒドロゲル。
【請求項6】
前記水溶性化学療法剤が白金化合物及び代謝拮抗剤から選択される、請求項5に記載の熱応答性ヒドロゲル。
【請求項7】
難水溶性化学療法剤を含む請求項1~4のいずれかに記載の熱応答性ヒドロゲルであって、前記難水溶性化学療法剤が、前記難水溶性化学療法剤及び前記包接複合体化剤を含む包接複合体の形態でヒドロゲル内に分散される、
熱応答性ヒドロゲル。
【請求項8】
前記難水溶性化学療法剤がポドフィロトキシン誘導体である、請求項7に記載の熱応答性ヒドロゲル。
【請求項9】
造影剤を含む、請求項1~
8のいずれかに記載の熱応答性ヒドロゲル。
【請求項10】
凍結乾燥された形態の、請求項1~
9のいずれかに記載の熱応答性ヒドロゲル。
【請求項11】
0.05~0.15%のゲニピン(w/w)を含む、請求項1~
10のいずれかに記載の熱応答性ヒドロゲル。
【請求項12】
請求項1~
11のいずれかに記載の熱応答性ヒドロゲルであって、
15~25%の熱応答性ベースヒドロゲル(w/w)と、
0.1~1.0%のキトサン(w/w)と、
0.05~0.15%のゲニピン(w/w)と、
5~20%の2-ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン(w/w)と、
化学療法剤と、
水性基剤と、
を含む熱応答性ヒドロゲル。
【請求項13】
請求項1に記載の熱応答性ヒドロゲルの製造方法であって
β-シクロデキストリンおよびキトサンの水性基剤中の第一溶液を準備する工程と、
前記溶液を10℃未満に冷却する工程と、
ポロキサマーを前記溶液に加えて、10℃未満の温度で混合する工程と、
前記溶液を10℃未満の温度で、少なくとも4時間保存して水和させる工程と、
少なくとも4時間攪拌しながら前記水和溶液にゲニピンを加えて、前記熱応答性ヒドロゲルを形成する工程と、
任意で、前記熱応答性ヒドロゲルを凍結乾燥する工程と、
を含む方法。
【請求項14】
前記熱応答性ヒドロゲルが凍結乾燥され、水溶性化学療法剤を含む、請求項
13に記載の方法であって、前記水溶性化学療法剤を水性基剤に溶解して水性化学療法剤溶液を形成する工程、および、前記水性化学療法剤溶液中で前記凍結乾燥した熱応答性ヒドロゲルを再水和する工程、を含む方法。
【請求項15】
前記熱応答性ヒドロゲルが難水溶性化学療法剤を含む、請求項
13又は14に記載の方法であって、前記
β-シクロデキストリンの一部および前記難水溶性化学療法剤を含む包接複合体を形成する工程、ならびに、前記包接複合体を前記
β-シクロデキストリンの残りと共に前記第一溶液に加える工程、を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱応答性ヒドロゲルに関するさらに、熱応答性ポリマー溶液の腫瘍内投与により、増殖性障害を治療する方法も企図されている。
【背景技術】
【0002】
全身化学療法は、放射線および手術と共に、様々な固形癌の治療のための最も一般的なアプローチである。しかしながら、全身化学療法は一般に、例えば免疫抑制および臓器障害など、多くの場合で用量制限となり得る、様々な中毒性オフサイト副作用を伴う。オフターゲット副作用による、従来の化学療法治療中の生活の質の低下は、十分に報告されており、患者に身体的、心理的および社会的な影響をもたらす。全身投与された化学療法剤が標的部位に到達すると、腫瘍微小環境(TME)が変化するため、腫瘍塊への浸透が困難になる。腫瘍の3次元構造は、全身化学療法に対する反応を判定できる。薬物は、有意な細胞毒性を発揮するのに十分な濃度で、腫瘍内のできるだけ多くの生存細胞にアクセスしなければならない。しかしながら、これは、異常な血管の増殖および腫瘍の不安定な血流によって妨げられる可能性がある。これはさらに、腫瘍内に酸性領域および低酸素領域をもたらし得る。腫瘍の細胞内pHは、中性からアルカリ性まで変化する可能性がある一方で、細胞外pHは通常、正常組織よりも低いため、ドキソルビシンなどの弱塩基性で正に帯電した薬物は、膜透過性が低いために、細胞への取り込みが悪い場合がある。さらに、腫瘍の芯での間質圧が上昇すると、薬物分子の組織浸潤が低下する可能性がある。全身投与された薬物分子が、従来の静脈内化学療法を介してその目標に到達して、効果を発揮するために克服しなければならない、TMEの固有の複雑さおよび生理学的バリアを考慮すると、より対象を絞った、制御可能なアプローチが必要である。
【0003】
生理食塩水中の化学療法剤を腫瘍塊内へ直接注入(IT点滴注入)することは、より目標を絞った、作用部位への化学療法剤送達を達成する方法として検討されてきた。しかしながら、化学療法剤溶液の直接IT点滴注入は、これらの薬物の、腫瘍部位からの急速なクリアランスによって制約され、その結果、不正確で予測不可能な投薬、および周辺組織への毒性が生じる。
【0004】
したがって、腫瘍内での滞留および腫瘍内部からの化学療法剤の放出制御を促進できる薬物送達システムの開発が、注目されてきた。熱応答性ヒドロゲルに組み込まれた化学療法剤の腫瘍内投与により、腫瘍内に局所的かつ持続的な薬物の放出を直ちにもたらすことができ、反復投与の必要性がなくなる可能性がある。そのようなヒドロゲルは、標的組織に直接移植可能であるため、組織浸透に対するTMEバリアを回避し、非標的組織への暴露ならびに全身送達およびIT注入に関連する急速な薬物クリアランスを減らすのに役立ち得る。
【0005】
しかしながら、腫瘍内送達のための熱応答性ヒドロゲルへの関心は顕著であるものの、部位の治療へアクセスできないこと、送達後に画像化できないこと、多くの場合における作用部位での急速な崩壊に関連する課題、および非水性薬物システムを可溶化しにくいことによって、これまでそのトランスレーショナルプログレス(translational progress)が制限されてきた。
【0006】
局所領域への化学療法薬送達の問題に対処しようとする、現在利用可能なシステムの数は、限定されている。現在利用可能な製品の大部分は、薬物送達および塞栓形成アプローチの組み合わせの使用による、肝細胞癌(HCC)および結腸直腸肝転移の治療に重点を置いている。これは、主要な肝動脈から発生する腫瘍供給動脈に、塞栓剤+/-化学療法薬を送達して腫瘍塊への血液供給を遮断するためにカテーテルを配置することを含む。それは、TAE(肝動脈塞栓術)またはTACE(肝動脈化学塞栓術)としても知られ、虚血および細胞死をもたらす(動脈内療法)。肝臓は、十分に血管が発達した器官であるので、他の血管によって、健康な他の組織への適切な血液供給が維持され得る。一般的に使用される塞栓剤には、ヨウ化油(リピオドール)および、例えばDC Beads、DC Lumi Beads、Life Pearl Microspheresなどの塞栓ビーズが含まれ、これに薬物、例えばドキソルビシン、イリトネタカンまたは、例えばイットリウムなどのガンマ線放出剤を搭載することができる。これは、この技術を他の腫瘍へトランスレーション(translation)する際に制約要因となり得る。健康な組織が損なわれないことを確認するために、十分に血管が発達した器官が必要とされるからである。
【0007】
別の局所領域薬物送達システムは、神経膠芽腫患者の切除部位に化学療法薬カルムスチンを送達するために使用されるウェーハーである、グリアデルウェハーである。これらのアプローチは、化学療法薬の局所領域薬物送達に重点を置いているが、製剤の種類は、すべての場合において提案された発明とは著しく異なる。
【0008】
しかしながら、近年、文献の数が増加するにつれて、熱応答性ヒドロゲル薬物送達システムに大きな関心が寄せられている。
【0009】
これらの文献の多くは、ポロキサマーとキトサン、および/またはシクロデキストリン、および/または化学療法薬との組み合わせを検討している。(Cho et al.、2011)は、フェキソフェナジンHClの送達用の、ポロキサマー407/HP-β-CD/キトサン製剤について説明している。しかしながら、製剤は、最終成分(ゲニピンの不存在)、その全体的な組成、および製造方法において異なる。(Fatimi et al.、2012)は、血管内塞栓剤として、イメージング剤と組み合わせた感熱性ヒドロゲルを使用する可能性を探究したが、使用された熱応答性ヒドロゲルシステムは、キトサン/βGPを基にした。
Jordan et al.は、注入可能な腫瘍内送達プラットフォームとして利用可能な、ポロキサマーP407、キトサン、Hβ-CDおよびゲニピンを含む熱応答性ヒドロゲルについて説明している。ゲルの溶解の遅延に必要な、ゲニピンの架橋作用を開始するために、ポリマー溶液を37℃で24時間硬化させる必要があった。24時間硬化した後、ポリマー溶液は、約25℃でゾル-ゲル転移を示した。25℃というゾル-ゲル転移温度は、より温暖な環境では、製剤化後、送達前でもゲル化を引き起こす可能性があり、臨床送達中のゲル化が急速で早すぎる傾向があるので、問題であった。さらに、化学療法剤(シスプラチン)を加えると、ヒドロゲルは、臨床的に適切な熱応答性を失った。ヒドロゲルの保存の問題は、凍結乾燥形式でポリマー溶液を提供し、手術で使用する前に再水和することで克服できるが、架橋を活性化するために、使用前に再水和したポリマー溶液を24時間硬化させなければならないという要件は、臨床的状況では実用的でない。
【0010】
本発明の目的は、上記の問題の少なくとも1つを克服することである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
出願人は、Jordan et al.のヒドロゲルが、ゲニピンのレベルを、典型的には0.2%(w/w)未満まで下げることにより、改善されることを発見した。特に、この変更により、ヒドロゲルに臨床的に変換可能なゾル-ゲル転移温度(例えば28~30℃、ヒドロゲルGF1、GF2およびGF4と比較したヒドロゲルGF3およびGF5表1を参照)がもたらされ、ヒドロゲルが、臨床現場でより適切に保存および注入できるようになり、硬化時間を必要としないが、熱応答性は維持するヒドロゲルが提供される(
図2および表1)。これにより、ヒドロゲルは、24時間の硬化時間の要件なく直ちに使用できるので、ポリマー溶液が凍結乾燥形式で提供され、病院環境で再水和され得る臨床現場にとって、理想的になる。さらに、in-vivo腫瘍内の研究では、驚くべきことに、本発明によるヒドロゲルが注入部位に14日間保持され(
図14)、腫瘍体積の増加が大幅に減少し(
図15)、マウスにおいて最大14日間、急性のオフサイト毒性を引き起こさなかった(
図16)。さらに、臨床的に適切な熱応答性を維持しながら、任意で化学療法剤を本発明のヒドロゲルに加えることができる(
図17および18)。
【0012】
一実施形態において、ポロキサマーのレベルは、20%(w/w)未満、例えば17%に低減される。これにより、貯蔵弾性率G’が10,000 Paを超えて増加し、より頑強なゲルがin-vivoで提供され、腫瘍内でのゲルの持続性の向上(表1、
図14)、次いで腫瘍体積の減少へとつながる(
図15)。
【0013】
本発明の第1の態様によれば
熱応答性ベースヒドロゲル(すなわち、ポロキサマーポリマー)、
ヒドロゲル強化剤(すなわちキトサン)、
任意で包接複合体化剤(すなわち、β-シクロデキストリン、例えば2-ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン(HP-β-CD))、
ゲニピン、および
水性基剤含むヒドロゲルが提供される。
【0014】
一実施形態では、ヒドロゲルは
15~25%の熱応答性ベースヒドロゲル(すなわち、ポロキサマーポリマー)、
ヒドロゲル強化剤(すなわち、キトサン)、
任意で包接複合体化剤(すなわち、β-シクロデキストリン、例えば2-ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン(HP-β-CD))、
0.05~0.25%のゲニピン、および
水性基剤を含む。
【0015】
一実施形態では、ヒドロゲルは室温で注入可能であり、
15~18%の熱応答性ベースヒドロゲル(すなわち、ポロキサマーポリマー)、
ヒドロゲル強化剤(すなわち、キトサン)、
包接複合体化剤(すなわち、β-シクロデキストリン、例えば2-ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン(HP-β-CD))、
ゲニピン、および
水性基剤を含む。
【0016】
生理学的温度で、ヒドロゲル強化剤は、ヒドロゲル強化剤がゲニピンと架橋される熱応答性ヒドロゲル内に、相互貫入骨格を形成する。
【0017】
典型的には、ヒドロゲルは、熱応答性ヒドロゲルである。典型的には、ヒドロゲルは、未硬化である。
【0018】
一実施形態では、ヒドロゲル強化剤は、メチルセルロース、デキスタン、カラギーナン、キトサン、およびプルロニックRから選択される。
【0019】
一実施形態では、ヒドロゲル強化剤は、キトサンである。
【0020】
一実施形態では、キトサンは、キトサンがゲニピンと架橋されているヒドロゲル内で、相互貫入骨格を形成する。
【0021】
一実施形態では、ポロキサマーは、任意にポロキサマー188などの追加ポロキサマーと組み合わせたポロキサマー407である。
【0022】
一実施形態では、熱応答性ベースヒドロゲルは、ポロキサマーおよび包接複合体化剤、例えばシクロデキストリンを含む。一実施形態では、包接複合体化剤は、β-シクロデキストリン、例えば、2-ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリンである。
【0023】
一実施形態では、熱応答性ヒドロゲルは、活性剤を含む。一実施形態では、活性剤は、1つ以上の化学療法剤である。一実施形態では、活性剤は、細胞である。一実施形態では、活性剤は、モノクローナル抗体などの抗体、または抗体断片である。一実施形態では、活性剤は、核酸である(任意で、プラスミドなどの核酸ベクターの一部として提供される)。
【0024】
一実施形態では、化学療法剤は、水溶性である。一実施形態では、化学療法剤は、難水溶性である。
【0025】
一実施形態では、化学療法剤は、化学療法剤および2-ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリンなどの包接複合体化剤を含む、包接複合体の形態でヒドロゲル内に分散される。
【0026】
一実施形態では、熱応答性ヒドロゲルは、造影剤を含む。一実施形態では、造影剤は、ヨウ素化造影剤である。
【0027】
一実施形態では、ヒドロゲルは、室温(すなわち、18~23℃)で液体(すなわち、注入可能)である。
【0028】
一実施形態では、ヒドロゲルは、体温(24~37℃)で固体または半固体である。
【0029】
一実施形態では、熱応答性ヒドロゲルは、典型的には15~25%のポロキサマーポリマー(w/w)を含む。一実施形態では、熱応答性ヒドロゲルは、17~22%の熱応答性ポリマー(w/w)を含む。一実施形態では、熱応答性ヒドロゲルは、最大19%のポロキサマーポリマー、例えば15~19%、15~18%または16~18%または約17%のポロキサマーポリマー(w/w)を含む。一実施形態では、ポロキサマーポリマーは、水性基剤の中に提供される。より低いレベル、例えば20%、19%または18%未満のポロキサマーの使用は、驚くべきことに、より高い貯蔵弾性率を有するヒドロゲルをもたらし、これにより、ゲルがより長い期間、例えば最大長14日間、in-vivoで持続することが可能になる。
【0030】
一実施形態では、熱応答性ヒドロゲルは、0.1~1.0%のゲル強化剤(すなわち、キトサン)(w/w)を含む。一実施形態では、熱応答性ヒドロゲルは、0.3~0.5%のゲル強化剤(すなわち、キトサン)(w/w)を含む。
【0031】
一実施形態では、熱応答性ヒドロゲルは、5~20%の包接複合体化剤(w/w)を含む。一実施形態では、熱応答性ヒドロゲルは、8~15%の包接複合体化剤(すなわち、2-ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン)(w/w)を含む。
【0032】
一実施形態では、熱応答性ヒドロゲルは、0.05~2.0%のゲニピン(w/w)を含む。一実施形態では、熱応答性ヒドロゲルは、0.05~0.3%のゲニピン(w/w)を含む。一実施形態では、熱応答性ヒドロゲルは、0.5~0.2%のゲニピン(w/w)を含む。一実施形態では、熱応答性ヒドロゲルは、0.05~0.15%のゲニピン(w/w)を含む。一実施形態では、熱応答性ヒドロゲルは、約0.1%のゲニピン(w/w)を含む。
【0033】
一実施形態では、熱応答性ヒドロゲルは、0.01から10%の化学療法剤(w/w)を含む。一実施形態では、熱応答性ヒドロゲルは、0.1~5%の化学療法剤(w/w)を含む。一実施形態では、熱応答性ヒドロゲルは、0.1~1.0%の化学療法剤(w/w)を含む。一実施形態では、熱応答性ヒドロゲルは、1.0~5.0%の化学療法剤(w/w)を含む。
【0034】
一実施形態では、熱応答性ヒドロゲルは、37℃で少なくとも8,000Paの貯蔵弾性率G’を有する。一実施形態では、熱応答性ヒドロゲルは、37℃で少なくとも9,000Paの貯蔵弾性率G’を有する。一実施形態では、熱応答性ヒドロゲルは、37℃で少なくとも10,000Paの貯蔵弾性率G’を有する。一実施形態では、熱応答性ヒドロゲルは、37℃で少なくとも11,000Paの貯蔵弾性率G’を有する。
【0035】
一実施形態では、熱応答性ヒドロゲルは、造影剤、例えば、約1~10%の造影剤(w/w)を含む。一実施形態では、熱応答性ヒドロゲルは、2~7%の造影剤(w/w)を含む。一実施形態では、造影剤は、ヨウ素化造影剤である。
【0036】
一実施形態では、熱応答性ヒドロゲルは、
ポロキサマー、
0.05~0.15%のゲニピン(w/w)と架橋したキトサンを含むヒドロゲル内の、相互貫入骨格、
β-シクロデキストリン、
1つ以上の化学療法剤、
任意で造影剤、および
水性基剤を含むか、または本質的にそれらからなる。
【0037】
一実施形態では、熱応答性ヒドロゲルは、
15~25%のポロキサマー(w/w)、
0.1~1.0%のキトサン(w/w)、
0.05~0.15%ゲニピン(w/w)、
5~20%のβ-シクロデキストリン(すなわち、2-ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン)(w/w)、
任意で1~10%の造影剤(w/w)、
任意で1つ以上の化学療法剤、および
水性基剤を含むか、または本質的にそれらからなる。
【0038】
一実施形態では、熱応答性ヒドロゲルは、
15~18%の熱応答性ベースヒドロゲル(w/w)、
0.3~0.7%のキトサン(w/w)、
0.05~0.15%のゲニピン(w/w)、
8~15%の2-ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン(w/w)、
1~10%の造影剤(w/w)、
任意で、1つ以上の化学療法剤、および
水を含むか、または本質的にそれらからなる。
【0039】
一実施形態では、熱応答性ヒドロゲルは、
約17%の熱応答性ベースヒドロゲル(w/w)、
約0.5%のキトサン(w/w)、
約0.1%のゲニピン(w/w)、
5~20%の2-ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン(w/w)、
1~10%の造影染料(w/w)、
1つ以上の化学療法剤、および
水性基剤を含むか、または本質的にそれらからなる。
【0040】
本発明はまた、本発明による熱応答性ヒドロゲルを凍結乾燥形態で提供する。
【0041】
本発明はまた、本発明による熱応答性ヒドロゲルを含むシリンジを提供する。
【0042】
本発明はまた、対象の増殖性障害を治療または予防する方法で使用するための、本発明による熱応答性ヒドロゲルを提供する。
【0043】
本発明はまた、対象の固形腫瘍を治療する方法において使用するための、本発明による熱応答性ヒドロゲルを提供し、ここでヒドロゲルは、対象の腫瘍内に投与されるか、または腫瘍を手術で切除した後の部位に投与される。
【0044】
本発明はまた、対象の固形腫瘍(または固形腫瘍が切除された辺縁)を化学療法剤の効果に対して感作する方法で使用するための、本発明による熱応答性ヒドロゲルを提供する。
【0045】
本発明の熱応答性ヒドロゲルは、様々な固形腫瘍癌における腫瘍負荷を軽減するための付随的治療としての、腫瘍内注入可能な薬物送達システムとして、単独で、または他の腫瘍学的治療アプローチ、例えば全身化学療法、手術、放射線治療と組み合わせて使用できる。それはまた、治療の結果を改善するために、切除処置、例えばRFA、MWA、IREと組み合わせて使用してもよい。ヒドロゲルの腫瘍内注入は、画像誘導システムおよび標準的な低侵襲処置、例えば、経皮注入、内視鏡超音波(EUS)または気管支超音波(EBUS)などを使用して達成できる。それを使用して手術後の切除部位を裏打ちし、腫瘍成長の再発の可能性を減らすこともできる。
【0046】
本発明はまた、熱応答性ヒドロゲルの製造方法であって、
(例えば、2-ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリンなどのβ-シクロデキストリン)およびゲル強化剤(例えば、キトサン)の水性基剤中の第一溶液を準備する工程、
溶液を10℃未満(好ましくは6℃未満)に冷却する工程、
熱応答性ベースヒドロゲル(例えば、ポロキサマー)を溶液に加えて、10℃未満(好ましくは6℃未満)の温度で混合する工程、
溶液を10℃未満(好ましくは6℃未満)の温度で、少なくとも4時間保存して水和させる工程、および
少なくとも4時間攪拌しながら水和溶液にゲニピンを加えて、熱応答性ヒドロゲルを形成する工程、および
任意で、熱応答性ヒドロゲルを凍結乾燥する工程を含む方法を提供する。
【0047】
典型的には、方法は、ヒドロゲルを硬化する工程を含まない。
【0048】
一実施形態では、熱応答性ヒドロゲルは、水溶性化学療法剤を含み、方法は、水溶性化学療法剤を第一溶液に加える工程を含む。一実施形態では、水溶性化学療法剤は、水性基剤に溶解され、第一溶液に加えられる。
【0049】
一実施形態では、熱応答性ヒドロゲルは、凍結乾燥され、水溶性化学療法剤を含み、方法は、水溶性化学療法剤を水性基剤に溶解して水性化学療法剤溶液を形成する工程、および凍結乾燥された熱応答性ヒドロゲルを水性化学療法剤溶液中で再水和する工程を含む。
【0050】
一実施形態では、熱応答性ヒドロゲルは、難水溶性化学療法剤を含み、方法は、β-シクロデキストリンの一部および難水溶性化学療法剤を含む包接複合体を形成する工程、ならびに包接複合体を残りのβ-シクロデキストリンと共に、第一溶液に加える工程を含む。一実施形態では、包接複合体は、凍結乾燥される。一実施形態では、β-シクロデキストリンの約3分の2を使用して包接複合体を作製し、残りを遊離β-シクロデキストリンとして加える。
【0051】
一実施形態では、凍結乾燥されたヒドロゲルは、活性剤の水溶液、典型的には可溶性化学療法剤の水溶液で再構成される。
【0052】
本発明の他の態様および好ましい実施形態は、以下に示される他の請求項で定義および説明される。
本発明の一態様を以下に示すが、本発明はそれに限定されない。
[発明1]
熱応答性ヒドロゲルであって、
場合によりポロキサマーP188と組み合わされるポロキサマーP407から選択される、15~25%のポロキサマーポリマー(w/w)と、
0.1~1.0%のキトサン(w/w)と、
0.05~0.20%のゲニピン(w/w)と、
5~20%の包接複合体化剤(w/w)と、
水性基剤と、
を含み、未硬化である、熱応答性ヒドロゲル。
[発明2]
前記包接複合体化剤がβ-シクロデキストリンである、発明1に記載の熱応答性ヒドロゲル。
[発明3]
15~18%のポロキサマーポリマー(w/w)を含む、発明1または2に記載の熱応答性ヒドロゲル。
[発明4]
0.05~0.15%のゲニピン(w/w)を含む、発明1~3のいずれかに記載の熱応答性ヒドロゲル。
[発明5]
1つの化学療法剤または複数の化学療法剤の組み合わせを含む、発明1~4のいずれかに記載の熱応答性ヒドロゲル。
[発明6]
前記化学療法剤が、シスプラチン、パクリタキセル、ゲムシタビン、シスプラチンとパクリタキセルとの組み合わせ、またはゲムシタビンとパクリタキセルとの組み合わせ、から選択される、発明5に記載の熱応答性ヒドロゲル。
[発明7]
造影剤を含む、発明1~6のいずれかに記載の熱応答性ヒドロゲル。
[発明8]
凍結乾燥された形態の、発明1~7のいずれかに記載の熱応答性ヒドロゲル。
[発明9]
約0.1%のゲニピン(w/w)を含む、発明1~8のいずれかに記載の熱応答性ヒドロゲル。
[発明10]
発明1~9のいずれかに記載の熱応答性ヒドロゲルであって、
15~25%の熱応答性ベースヒドロゲル(w/w)と、
0.1~1.0%のキトサン(w/w)と、
0.05~0.15%のゲニピン(w/w)と、
5~20%の2-ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン(w/w)と、
化学療法剤と、
水性基剤と、
を含む熱応答性ヒドロゲル。
[発明11]
発明1~10のいずれかに記載の熱応答性ヒドロゲルであって、
15~18%の熱応答性ベースヒドロゲル(w/w)と、
0.1~1.0%のキトサン(w/w)と、
0.05~0.15%ゲニピン(w/w)と、
5~20%の2-ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン(w/w)と、
化学療法剤と、
水性基剤と、
を含む熱応答性ヒドロゲル。
[発明12]
発明1~11のいずれかに記載の熱応答性ヒドロゲルであって、
15~18%の熱応答性ベースヒドロゲル(w/w)と、
0.1~1.0%のキトサン(w/w)と、
0.05~0.15%のゲニピン(w/w)と、
5~20%の2-ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン(w/w)と、
化学療法剤と、
造影剤と、
水性基剤と、
を含む熱応答性ヒドロゲル。
[発明13]
発明1~12のいずれかに記載の熱応答性ヒドロゲルであって、前記ヒドロゲルを対象の腫瘍内に投与されるかまたは腫瘍切除部位に投与される、前記対象の固形腫瘍の治療方法で使用するための、熱応答性ヒドロゲル。
[発明14]
化学療法剤の効果に対して対象の固形腫瘍を感作する方法で使用するための、発明1~12のいずれかに記載の熱応答性ヒドロゲル。
[発明15]
発明1~12のいずれかに記載の熱応答性ヒドロゲルであって、前記ヒドロゲルが対象の腫瘍内に投与されるかまたは腫瘍切除部位に投与される、前記対象の固形腫瘍の成長を阻害する方法で使用するための、熱応答性ヒドロゲル。
[発明16]
熱応答性ヒドロゲルの製造方法であって
包接複合体化剤およびキトサンの水性基剤中の第一溶液を準備する工程と、
前記溶液を10℃未満に冷却する工程と、
ポロキサマーを前記溶液に加えて、10℃未満の温度で混合する工程と、
前記溶液を10℃未満の温度で、少なくとも4時間保存して水和させる工程と、
少なくとも4時間攪拌しながら前記水和溶液にゲニピンを加えて、前記熱応答性ヒドロゲルを形成する工程と、
任意で、前記熱応答性ヒドロゲルを凍結乾燥する工程と、
を含む方法。
[発明17]
前記包接複合体化剤が2-ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリンである、発明16に記載の方法。
[発明18]
前記熱応答性ヒドロゲルが凍結乾燥され、水溶性化学療法剤を含む、発明16または17に記載の方法であって、前記水溶性化学療法剤を水性基剤に溶解して水性化学療法剤溶液を形成する工程、および、前記水性化学療法剤溶液中で前記凍結乾燥した熱応答性ヒドロゲルを再水和する工程、を含む方法。
[発明19]
前記熱応答性ヒドロゲルが難水溶性化学療法剤を含む、発明16または17に記載の方法であって、前記包接複合体化剤の一部および前記難水溶性化学療法剤を含む包接複合体を形成する工程、ならびに、前記包接複合体を前記包接複合体化剤の残りと共に前記第一溶液に加える工程、を含む方法。
[発明20]
熱応答性ヒドロゲルであって、
場合によりポロキサマーP188と組み合わされるポロキサマーP407から選択される、15~25%のポロキサマーポリマー(w/w)と、
0.1~1.0%のキトサン(w/w)と、
0.05~0.20%のゲニピン(w/w)と、
5~20%の包接複合体化剤(w/w)と、
水性基剤と、
を含む熱応答性ヒドロゲル。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図1】例1 GF3-5(左)および例4(右)の調製の概要図である。
【
図2】AR-1000レオメーター(TA Instruments)を使用して得られた、29℃のゾル-ゲル転移温度を示す、ブランク(薬物不搭載)熱応答性ヒドロゲルのレオロジー温度応答曲線(例10)(例1 GF5に従って調製)を示す図である。G’は、貯蔵弾性率を示す。
【
図3】AR-1000レオメーター(TA Instruments)を使用して得られた、シスプラチンおよびパクリタキセルで薬物搭載した熱応答性ヒドロゲルの、23℃でゾル-ゲル転移を示すレオロジー温度応答曲線(例10)(例3に従って調製)を示す図である。パクリタキセルは、シクロデキストリン複合体としてシクロデキストリンの総濃度に組み込まれた。G’は、貯蔵弾性率を示す。
【
図4】AR-1000レオメーター(TA Instruments)を使用して得られた、シスプラチンおよびパクリタキセルで薬物搭載した熱応答性ヒドロゲルの、31℃でゾル-ゲル転移を示す、レオロジー温度応答曲線(例10)(例4に従って調製)を示す図である。パクリタキセルは、製剤に加えられたシクロデキストリン総量の33.33%のシクロデキストリン複合体として組み込まれた。G’は、貯蔵弾性率を示す。
【
図5】AR-1000レオメーター(TA Instruments)を使用して得られた、ゲムシタビンおよびパクリタキセルで薬物搭載した熱応答性ヒドロゲルの、30℃でゾル-ゲル転移を示すレオロジー温度応答曲線(例10)(例5に従って調製)を示す図である。パクリタキセルは、製剤に加えられたシクロデキストリンの総量の50%のシクロデキストリン複合体として組み込まれた。G’は、貯蔵弾性率を示す。
【
図6】AR-1000レオメーター(TA Instruments)を使用して得られた、ヨウ素化造影剤を含む熱応答性ヒドロゲルの、28℃でゾル-ゲル転移を示すレオロジー温度応答曲線(例10)を示す図である。G’は、貯蔵弾性率を示す。
【
図7A】ブランク熱応答性ヒドロゲル、ならびにパクリタキセルおよびシスプラチンで薬物搭載した熱応答性ヒドロゲル(それぞれ例1および4に従って調製)のin vitro崩壊(例11)(37℃にて)を示す図である。
【
図7B】ヨウ素化造影剤を含む、ブランク熱応答性ヒドロゲル、ならびにパクリタキセルおよびシスプラチンで薬物搭載した熱応答性ヒドロゲル(それぞれ例6および例7に従って調製)のin vitro崩壊(例11)(37℃にて)を示す図である。
【
図8A】パクリタキセルおよびシスプラチンの、薬物搭載熱応答性ヒドロゲル(例4に従って調製)からのin vitro放出プロファイル(37℃にて)(例12)を示す図である。
【
図8B】パクリタキセルおよびシスプラチンの、ヨウ素化造影剤を含む薬物搭載熱応答性ヒドロゲル(例7に従って調製)からのin vitro放出プロファイル(37℃にて)(例12)を示す図である。
【
図9】ブランク熱応答性ヒドロゲル、薬物搭載熱応答性ヒドロゲルおよびヨウ素化造影剤含有熱応答性ヒドロゲルについて実施した定常流動(例13)のレオグラムを示す図である。せん断応力が増加すると、すべてのヒドロゲルにおいて粘度が低下し、製剤のずり流動化挙動を示している。
【
図10】ヨウ素化造影剤を含むブランク熱応答性ヒドロゲル(例5に従って調製)の注入可能性の例(例14)を示す図である。
【
図11】ヨウ素化イメージング剤を含むブランク熱応答性ヒドロゲル(例5に従って調製)の超音波(左)およびCT(右)画像(例15)を示す図である。
【
図12A】異なる用量のブランク熱応答性ヒドロゲルでの処理後24時間および48時間における、ヒト非小細胞肺癌細胞株、A549細胞の生存率への影響(例16)を示す図である。
【
図12B】異なる用量の薬物搭載熱応答性ヒドロゲルでの処理後24時間および48時間における、ヒト非小細胞肺癌細胞株、A549細胞の生存率への影響(例16)を示す図である。示すデータは、平均+平均の標準誤差(SEM)(n=3)として表示される。(A)**=p<0.01、***=p<0.001(同じ時点でのブランク熱応答性ヒドロゲル0uLとの比較)。(B)***=p<0.001(同じ時点での薬物搭載熱応答性ヒドロゲル0uLとの比較)##=p<0.01(同じ時点での薬物搭載熱応答性ヒドロゲル10uLとの比較)を示す図である。
【
図13A】異なる用量のブランク熱応答性ヒドロゲルでの処理後24時間および48時間における、ヒト膵臓癌細胞株、Panc-1細胞の生存率への影響を示す図である。
【
図13B】異なる用量の薬物搭載熱応答性ヒドロゲルでの処理後24時間および48時間における、ヒト膵臓癌細胞株、Panc-1細胞の生存率への影響を示す図である。示すデータは、平均+平均の標準誤差(SEM)(n=2)として表示される。(A)**=p<0.01、***=p<0.001(同じ時点でのブランク熱応答性ヒドロゲル0uLとの比較)。(B)***=p<0.001(同じ時点での薬物搭載熱応答性ヒドロゲル0uLとの比較)##=p<0.01(同じ時点での薬物搭載熱応答性ヒドロゲル10uLとの比較)を示す図である。
【
図14】ブランクおよび薬物ヒドロゲル(例1 GF5(表2)、および例4)は、in vivoで14日間、注入部位に保持された(例17)ことを示す図である。
図14Aは、蛍光タグ付きヒドロゲルGF6(左)または薬物搭載ヒドロゲル(右)100μLの腫瘍内投与後0日目での、生物発光A549-luc細胞の代表的オーバーレイ画像である。青色はA549-luc細胞からの生物発光信号を表し、黄色はブランクまたは薬物ヒドロゲルからの蛍光信号を表す。
図14Bは、生理食塩水(左)、ヒドロゲル(中央)、または薬物搭載したヒドロゲル(右)の腫瘍内投与後、0日目(上)および14日目(下)の代表的蛍光画像である。
図14Cは、生理食塩水(上)またはヒドロゲル(下)の腫瘍内投与後14日目の、切除された腫瘍の代表的写真画像(左)および蛍光画像(右)である。拡大された部分は、肉眼で見えるヒドロゲルを示す。
【
図15】ブランクまたは薬物搭載ヒドロゲル製剤(例1 GF5、および例4)の腫瘍内投与(例17)により、腫瘍の体積増加が著しく減少したことを示す図である。
図15Aは、生理食塩水、ヒドロゲルまたは薬物搭載ヒドロゲルの腫瘍内投与後0日目における、腫瘍体積の倍率変化を示す。示すデータは、平均±SEMとして表示される(n=グループあたり6~7匹のマウス)。有意性は、反復測定の二元配置分散分析を使用して決定された。*=p<0.05、**=p<0.01、****=p<0.0001(同じ時点でのブランクまたは薬物Visipaque(登録商標)ChemoGelの腫瘍体積と比較)。
【
図16】ブランクまたは薬物搭載ヒドロゲル(例1 GF5、例4および例5)の腫瘍内投与は、最大14日間、急性オフサイト毒性を引き起こさなかったことを示す図である。生理食塩水、ヒドロゲルまたは薬物搭載ヒドロゲルで処理されたA549-luc担癌マウスおよびPanc-1担癌マウスの体重(
図16A(1)および
図16A(2))、白血球数(
図16B(1)および
図16A(2))、またはA549-luc担癌マウスのアスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)(左)および尿素(右)の血清中のレベル(
図16C(1)および
図16C(2))に著しい変化は見られなかった。示すデータは、平均+SEMとして表示される(n=グループあたり6匹のマウス)。有意性は、(B)と(C)に対して一元配置分散分析を使用して決定された。ns=p>0.05。生理食塩水(上)、ブランクヒドロゲル(中央)または薬物搭載ヒドロゲル(下)の腫瘍内投与14日後の、切除された肝臓(左)および腎臓(右)組織の代表的なH&E染色(
図16D(1)および
図16D(2))。
【
図17】Jordanゲルへのシスプラチンの添加(GF1-表1)により、臨床的に適切な温度で熱応答性が失われたことを示す図である。シスプラチンを含むJordanゲルの、20℃~40℃の温度スイープのレオグラムは、20℃でG’>G’’であることを、グラフの拡大された部分(緑色の円)で示している。示すデータは、標準を表している。G’は貯蔵弾性率であり、G’’は損失弾性率である。
【
図18】本発明の製剤へのシスプラチンの添加(GF5-表1)により、臨床的に適切な範囲で熱応答性を示すヒドロゲルが生成されたことを示す図である。温度スイープのレオグラムは、31度でG’>G’’を示し、グラフの拡大された部分に示される。示すデータは、標準を表している。
【発明を実施するための形態】
【0054】
本明細書で言及されたすべての出版物、特許、特許出願、およびその他の参考文献は、あたかも個々の出版物、特許、または特許出願が参照により組み込まれることが具体的かつ個別に示され、その内容が完全に列挙されているかのように、あらゆる目的でその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0055】
定義および一般的な設定
本明細書で使用される場合、特に別段の指示がない限り、以下の用語は、当技術分野での用語のより広い(またはより狭い)意味に加えて、以下の意味をもつものとする。
【0056】
文脈によって他に必要とされない限り、本明細書での単数形の使用は、複数形を含むと解釈されるべきであり、逆もまた同様である。対象物に関連して使用される用語「a」または「an」は、その対象物の1つまたは複数を指すものと解釈される。したがって、「a」(または「an」)、「1つまたは複数」、および「少なくとも1つ」という用語は、本明細書では互換的に使用される。
【0057】
本明細書で使用される用語、「含む」、または「含む」または「含んでいる」などのその変形は、列挙された整数(例えば、ある特徴、要素、特性、性質、方法/プロセス工程または制限)、または整数のグループ(例えば、複数の特徴、要素、特性、性質、方法/プロセス工程または制限)の包含を示すが、他の整数または整数のグループを除外するものではない、と解釈される。したがって、本明細書で使用する場合、「含む」という用語は、包括的または非限定的であり、追加の列挙されていない整数または方法/プロセス工程を除外しない。
【0058】
本明細書で使用する用語「疾患」は、生理学的機能を損ない、特定の症状に関連する何らかの異常な状態を定義するために使用される。この用語は、病因の性質に関係なく(または実際に疾患の病因論的根拠が確立されているかどうかにかかわらず)、生理学的機能が損なわれている何らかの障害、疾病、異常、病理、病気、症状または症候群を包含するために広く使用される。したがって、感染症、心的外傷、外傷、手術、放射線アブレーション、中毒または栄養不足から生じる状態が含まれる。
【0059】
本明細書で使用する用語「増殖性障害」は、遠隔または局所部位に広がる可能性を有する、異常な細胞増殖を伴う疾患のグループを指し、特に悪性腫瘍を意味する。典型的には、癌は、食道胃癌、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨形成肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫;リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、大腸癌、膵臓癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、皮脂腺癌、乳頭癌、乳頭腺癌、嚢胞腺癌、髄様癌、気管支癌、腎細胞癌、肝癌、胆管癌、絨毛癌、セミノーマ、胎児性癌、ウィルムス腫瘍、子宮頸癌、子宮癌、精巣腫瘍、肺癌、小細胞肺癌、膀胱癌、上皮癌、神経膠腫、星細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽腫、聴神経腫、乏突起神経膠腫、髄膜腫、黒色腫、網膜芽細胞腫、および白血病を含む群から選択される。
【0060】
本明細書で使用される用語「固形腫瘍」は、(血液悪性腫瘍とは対照的に)器官および組織の癌、理想的には上皮癌を指す。固形腫瘍癌の例には、膵臓癌、膀胱癌、前立腺癌、卵巣癌、結腸直腸癌(CRC)、乳癌、中皮腫、腎臓癌、肺癌、肝細胞癌、子宮頸癌、胃癌、食道癌、頭頸部癌、黒色腫、神経内分泌癌が含まれる。好適には、本発明の方法による治療および予後に適する固形腫瘍癌は、上記一覧から選択できる。
【0061】
本明細書で使用される用語「治療」または「治療する」は、疾患の症状を治癒、改善もしくは軽減するか、またはその原因を取り除く(またはその影響を軽減する)(例えば、病理学的レベルのリソソーム酵素の蓄積の削減)介入(例えば、対象への薬剤の投与)を指す。この場合、この用語は、用語「療法」と同義的に使用される。一実施形態では、本発明の療法は、補助的療法である。一実施形態では、本発明の療法は、本発明のヒドロゲルを別の形態の療法と組み合わせて投与することを含む。
【0062】
さらに、用語「治療」または「治療する」は、疾患の発症もしくは進行を防止もしくは遅延するか、または治療された集団内での発生率を低減(または根絶)する介入(例えば、対象への薬剤の投与)を指す。この場合、治療という用語は、用語「予防」と同義的に使用される。
【0063】
本明細書で使用する用語「腫瘍内」は、注入による腫瘍内への直接投与、または身体の既存の空洞もしくは固形腫瘍の全部もしくは一部の外科的切除の結果として形成される空洞への送達を指す。腫瘍内投与は一般に、好適なシリンジを使用した注入を伴う。
【0064】
上記で定義された治療および有効量の文脈において、用語「対象」(文脈が許す場合、「個体」、「動物」、「患者」または「哺乳動物」を含むと解釈されるべきである)は、任意の対象、特に治療を必要とする哺乳動物対象を定義する。哺乳動物対象には、ヒト、飼育動物、家畜、動物園の動物、スポーツ動物、ペット動物(イヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ラット、マウス、ウマ、ウシ、雌牛など)、類人猿、サル、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類、イヌおよびオオカミなどのイヌ科動物、ネコ、ライオン、トラなどのネコ科動物、ウマ、ロバ、シウマなどのウマ科動物、ウシ、ブタおよびヒツジなどの食用動物、シカおよびキリンなどの有蹄類、マウス、ラット、ハムスターおよびモルモットなどのげっ歯類を含むが、これらに限定されない。好ましい実施形態では、対象はヒトである。
【0065】
本明細書で使用する場合、ヒドロゲルに適用される用語「熱応答性」は、室温で溶液/コロイド分散体を形成し、その後、規定の範囲内の高温で半固体ヒドロゲルに転移する、ポリマーベースの材料を意味する。ヒドロゲルは通常、室温(例えば18~23℃)で十分に流動性があり、通常の注射器を使用してヒドロゲルを体内に注入できるが、体温(例えば24~37℃)で少なくとも部分的に凝固し、体内の部位に保持されやすい固体または半固体を形成する。
【0066】
本明細書で使用される用語「熱応答性ベースヒドロゲル」は、熱応答性質を示すヒドロゲルを形成できるポリマーを指す。例としては、ポロキサマー、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAAm)およびトリブロックコポリマーPLGA-PEG-PLGA(ReGel(登録商標))などが挙げられる。ベースの熱応答性ポリマー溶液は、架橋された相互浸透ネットワークが形成され、ペイロード(使用される場合)が分散される、ヒドロゲルのマトリックスを形成する。ペイロードは一般に、活性剤の何らかの形態、例えば化学療法薬(HPシクロデキストリンなどの包接複合体化剤との包接複合体として提供され得る)であり、活性剤の別の形態、例えばタンパク質、ペプチド、糖、核酸、抗体、抗体断片、細胞、または成長因子であってもよい。細胞は、幹細胞であってもよい。細胞は、遺伝子を改変してもよい。いくつかの実施形態では、ヒドロゲルはペイロードを含まない。いくつかの実施形態では、本発明のヒドロゲルは、15~25%のベースヒドロゲル(すなわち、ポロキサマー)を含む。一実施形態では、ヒドロゲルは、20%未満のベースヒドロゲル、例えば、19または18%未満のベースヒドロゲルを含む。一実施形態では、本発明のヒドロゲルは、15~20%、15~19%、16~18%、または約17%のベースヒドロゲルを含む。
【0067】
本明細書で使用する場合、本発明のヒドロゲルに適用される用語「未硬化」は、硬化工程において、ヒドロゲルを硬化させる熱または他の手段で、ヒドロゲルが処理されていないことを意味する。これは、ヒドロゲルが通常、20℃で0.7~0.05、0.7~0.1または0.5~0.05Pa.s-1の典型的な粘度を有することを意味する。
【0068】
本明細書で使用する場合、熱応答性ヒドロゲルに適用される用語「注入可能」は、周囲温度でのヒドロゲルが、対象の腫瘍内に注入できるほど十分な流動性を有することを意味する。20℃で注入可能なヒドロゲルの典型的な粘度は、0.5~0.05Pa.sであり、応力制御レオメーター(TA instruments)での流動レオメトリー(粘度)測定を使用して測定した場合、せん断応力依存性である。
【0069】
本明細書で使用する用語「ポロキサマー」は、中央の疎水性鎖、およびA-B-Aトリブロック構造に配置された2つの隣接親水性鎖を有する、非イオン性トリブロックコポリマーを指す。それらは、US3740421に記載されている。ポロキサマー407は、中央のポリプロピレングリコールブロックに、2つのポリエチレングリコールブロックが隣接したタイプのポロキサマーである。それは、PLURONIC F127の商品名でBASFから、およびSYNPERONIC PE/F127の商品名でCrodaから販売されている。ポロキサマー188は、ポロキサマー407と組み合わせて使用することもできる。
【0070】
本明細書で使用する用語「ヒドロゲル強化剤」は、ゲニピンと架橋され、熱応答性ヒドロゲル内に相互貫入骨格を形成することができるポリマーを指す。例として、メチルセルロース、デキスタン、カラギーナン、キトサン、およびプルロニックRなどが挙げられる。
【0071】
本明細書で使用する用語「キトサン」は、カニおよびエビなどの甲殻類の殻に由来する天然の多糖を指す。キトサンは、塩、例えばキトサンの塩化物塩として提供されてもよい。この用語には、キトサン誘導体、特に水溶性キトサン誘導体も含まれる。一実施形態では、キトサンは、最大90%の脱アセチル化度を有する。一実施形態では、キトサンは、150~400KDaの分子量を有する。一実施形態では、熱応答性ヒドロゲルは、0.1~5.0%のゲル強化剤(すなわち、キトサン)(w/w)を含む。一実施形態では、熱応答性ヒドロゲルは、0.1~1.0%のゲル強化剤(すなわち、キトサン)(w/w)を含む。一実施形態では、熱応答性ヒドロゲルは、0.3~0.5%のゲル強化剤(すなわち、キトサン)(w/w)を含む。
【0072】
本明細書で使用する用語「ゲニピン」は、クチナシの果実に存在する、ゲニポシドと呼ばれるイルドイドグリコシドに由来するアグリコンを指す。典型的には、本発明のヒドロゲルは、0.01~2.0%のゲニピン(w/w)を含む。典型的には、本発明のヒドロゲルは、0.05~1.0%のゲニピン(w/w)を含む。一実施形態では、熱応答性ヒドロゲルは、0.1~0.5%のゲニピン(w/w)を含む。一実施形態では、熱応答性ヒドロゲルは、0.05~0.20%、または0.05~0.15%のゲニピン(w/w)を含む。一実施形態では、熱応答性ヒドロゲルは、約0.1%のゲニピン(w/w)を含む。
【0073】
本明細書で使用する用語、「包接複合体化剤」は、ゲスト化合物を受け入れることができる空洞を有する化合物を指す。例として、シクロデキストリン、特にベータ-シクロデキストリン(例えば、2-ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリンおよびメチルベータシクロデキストリン)が含まれる。典型的には、本発明のヒドロゲルは、1~20%の包接複合体化剤を含む。典型的には、本発明のヒドロゲルは、5~20%の包接複合体化剤を含む。典型的には、本発明のヒドロゲルは、8~15%の包接複合体化剤を含む。
【0074】
「2-ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン」または「HP-β-CD」は、効果的な包接複合体化剤として機能する、シクロデキストリンの一形態である。それは、Bonacucina et al(Bonacucina G、Spina M、Misici-Falzi M、Cespi M、Pucciarelli S、Angeletti M、et al.Effect of hydroxypropyl beta-cyclodextrin on the self-assembling and thermogelation properties of Poloxamer 407.Eur J Pharm Sci.2007;32:115~22)に記載されている。典型的には、本発明のヒドロゲルは、1~20%のヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリンを含む。典型的には、本発明のヒドロゲルは、5~20%のヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリンを含む。典型的には、本発明のヒドロゲルは、8~15%のヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリンを含む。
【0075】
本明細書で使用される用語、「活性剤」は、哺乳動物において治療的に活性である生物学的および非生物学的薬剤、例えば、薬物、細胞(真核生物および原核生物)、ならびにタンパク質、ペプチド、および核酸などの生体分子、ならびに抗体薬物複合体など、薬物と生体分子との複合体などを意味すると理解されるべきである。一実施形態では、生物学的活性剤は、DNA、RNA、mRNA、tRNA、shRNA、siRNA、gRNAから選択される核酸である。一実施形態では、生物学的活性剤は、抗血管新生抗体、抗体断片、サイトカイン、インターロイキン、インターフェロン、生物医薬品、タンパク質、核酸から選択される治療因子である。一実施形態では、治療的活性剤は、医薬品、例えば化学療法剤である。典型的には、本発明のヒドロゲルは、0.01~10%の活性剤(w/w)を含む。一実施形態では、熱応答性ヒドロゲルは、0.1~5%の活性剤(w/w)を含む。一実施形態では、熱応答性ヒドロゲルは、0.1~1.0%の活性剤(w/w)を含む。一実施形態では、熱応答性ヒドロゲルは、1.0~5.0%の活性剤(w/w)を含む。
【0076】
本明細書で使用される用語「化学療法剤」は、場合により癌性細胞を細胞死するよう誘導することによって、癌細胞を殺す薬剤を指す。好適な化学療法剤は、当業者に知られているであろう。このような化学療法剤には、VEGF阻害剤、EGFR阻害剤、T細胞活性化剤、PD-1阻害剤、EGFR(HER2)阻害剤、VEGFR2阻害剤、およびIL-6阻害剤を含むモノクローナル抗体、アルキル化剤、アントラサイクリン、代謝拮抗剤、細胞毒性抗生物質、植物アルカロイド、白金化合物、ポドフィロトキシン誘導体、トポイソメラーゼI阻害剤、ビンカアルカロイド、インターロイキン、サリドマイド(および関連類似体)、プロテインキナーゼ阻害剤、メトホルミン、ならびに抗血管新生薬が含まれるが、これらに限定されない。化学療法剤の例を、以下の表1に示す。一実施形態では、化学療法剤は、シスプラチン、パクリタキセル、ゲムシタビン、またはこれらの組み合わせ、例えばシスプラチンとパクリタキセルとの組み合わせ、もしくはゲムシタビンとパクリタキセルとの組み合わせから選択される。
【表1-1】
【表1-2】
【0077】
本明細書で使用する場合、薬剤の有効量または治療有効量は、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、またはその他の問題もしくは合併症なく対象に投与できるが、望ましい効果、例えば対象の病状の永続的または一時的な改善によって証明される治療または予防をもたらすのに十分な、合理的な利益/リスク比に相応する量を定義する。量は、個体の年齢および全身状態、投与方法および他の要因に応じて、対象ごとに異なる。したがって、正確な有効量を明記することは不可能であるが、当業者は、慣例的な実験および背景の一般知識を使用して、あらゆる個体のケースにおける適切な「有効」量を決定することができるであろう。この文脈での治療結果には、症状の根絶または軽減、痛みまたは不快感の軽減、生存期間の延長、運動性の改善、およびその他の臨床的改善のマーカーが含まれる。腫瘍内投与あたりの薬物の量は、腫瘍サイズを基に、腫瘍の適切な適用範囲を確認するための画像診断と組み合わせて決定される。例えば、エタノールアブレーション療法では、送達のためのエタノール量は腫瘍のサイズに基づく。
D=腫瘍の大きさの場合、エタノール量(ml)=4/3π[(D/2+0.5)]3(Kuang et al.、2011)
Υ=腫瘍の半径の場合、エタノール量(ml)=4/3×π(Υ+1)3(Lin et al.、2005)
【0078】
ヒドロゲルは、臨床反応および毒性に応じて、規定された間隔で繰り返し投与することができる。
典型的には、本発明のヒドロゲルは、0.01~10%の化学療法剤(w/w)を含む。一実施形態では、熱応答性ヒドロゲルは、0.1~5%の化学療法剤(w/w)を含む。一実施形態では、熱応答性ヒドロゲルは、0.1~1.0%の化学療法剤(w/w)を含む。一実施形態では、熱応答性ヒドロゲルは、1.0~5.0%の化学療法剤(w/w)を含む。
【0079】
本明細書で使用する場合、化学療法剤に適用される用語「難溶性」は、1gの薬剤を溶解するのに、少なくとも30mlの水が必要である薬剤を意味する。
【0080】
本明細書で使用される用語、「細胞」は、例えば、膵臓細胞、膵島、平滑筋細胞、上皮細胞、内皮細胞、前駆細胞、間葉系幹細胞、抗体産生細胞、幹細胞、成体幹細胞またはヒトもしくは非ヒト由来細胞、または細菌細胞を含む、何らかのタイプの真核または原核細胞を意味すると理解されるべきである。細胞は、野生型細胞であってもよく、または遺伝子操作された細胞であってもよい。細胞は、治療を受けている患者(自家細胞移植)から得られても、別の人(同種細胞移植)または別の種(異種細胞移植)から得られてもよい。一般に、細胞は生細胞である。細胞は、患者もしくはドナーの組織から、または細胞寄託機関もしくは研究機関から得ることができる。
【0081】
本明細書で使用される用語、「造影剤」は、例えば、X線撮影法、蛍光透視法、およびCTスキャンなどのX線ベースの画像化技術、ならびに超音波を使用して、本発明の熱応答性ヒドロゲルの体内での可視性を高めるために使用される薬剤を指す。それらはまた、放射線造影剤としても知られている。一般に、造影剤は、ヨウ素化造影剤である。例として、ジストリゾアート、メトリゾアート、イオタラマート、イオキサグラート、イオパミドール、イオヘキソール、イオキシラン、イオプロミド、イオジキサノール、イオベルソルが含まれる。通常、本発明のヒドロゲルは、1~10%、2~9%、典型的には2~7%の造影剤(w/w)を含む。
【0082】
本明細書で使用される用語、「水性基剤」は、水、典型的には蒸留水、または水性溶媒もしくは緩衝液を意味する。一実施形態では、水性基剤は、5~7、典型的には約6のpHを有する。
【実施例】
【0083】
次に、特定の例を参照して本発明を説明する。これらは単なる例示であり、例証のみを目的としている。これらは、請求される独占権の範囲、または記載されている発明に限定することを意図したものでは決してない。これらの例は、本発明を実施するために現在考えられている最良の形態を構成する。
【0084】
材料
ポロキサマー407(P407)
キトサン塩化物塩(CS)
2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(2HPβCD)
ゲニピン(GP)
シスプラチン
パクリタキセル
ゲムシタビン
ヨウ素化造影剤(Iodixonal)
【0085】
例1
ブランク熱応答性ヒドロゲル(薬物非搭載)。本発明のヒドロゲルとJordanヒドロゲルとの比較
2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HP-β-CD)(10%w/w)をdH
2OにpH<6で溶解し、完全に溶解するまで最低30分間、室温で攪拌した。次に、溶液を4℃になるまで氷上で冷却した。溶液にキトサン塩化物塩(CS)(0.5%w/w)を攪拌しながら加え、4℃に維持した。次に、ポロキサマー407(P407)(17%~20%w/w)をHP-β-CD/CS溶液に連続攪拌しながら散布し、すべての成分が完全に溶解するまで最低1時間攪拌した。次に、この溶液を4℃で保存して、ポリマー溶液が完全に水和するのを確認した(通常、保存期間は最低8~12時間)。次に、ゲニピン(GP)(0.1%~0.3%w/w)を溶液に加え、氷上で最低4時間攪拌して、完全に溶解するのを確認した。溶液を秤量し、dH
2Oで最終重量まで調整した。ゲルGF1および2をガラスバイアルに入れ、37℃で24時間水浴中で硬化させた。この工程は、
図1に示す回路図で概説されている。ゲルGF1は、Jordanのヒドロゲルである。熱応答性および貯蔵弾性率(G’)は、すべてのヒドロゲルについて、以下表2で提供されている。
【表2】
【0086】
ゾル-ゲル転移温度は、例10に従って決定される。
【0087】
例2
パクリタキセルと2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンとの複合体形成
必要量のHPβCDを、室温で5分間、攪拌プレート上で必要量のdH2Oに溶解した。次に、必要量のパクリタキセルを、この攪拌溶液に加えた。溶液を、高速で30分間攪拌した。速度を下げ、溶液を72時間攪拌して、完全に溶解するのを確認した。溶液を、-80℃で凍結させた。凍結した溶液をLabcono凍結乾燥機および真空ポンプを使用して一晩凍結乾燥し、Pac-HPβCD包接複合体からなる凍結乾燥粉末を生成した。
【0088】
例3
シスプラチンおよびパクリタキセル(HPβCDを加えたパクリタキセル複合体として)が搭載された熱応答性ヒドロゲル薬物
シスプラチンおよびパクリタキセルを搭載したポリマー溶液を、例1を変更して調製した。シスプラチンを、必要量のdH2Oに溶解した。パクリタキセル-HPβCD(最終製剤の10%w/wのHPβCDを含む)複合体(例2に従って調製)を、pH<6でシスプラチン溶液に溶解し、室温で30分間攪拌した。次に、溶液を4℃まで冷却した。CS(0.5%w/w)を攪拌しながら溶液に加え、4℃に維持した。次に、P407(17%w/w)をHP-β-CD/CS溶液に継続的に攪拌しながら散布し、すべての成分が完全に溶解するまで、最低1時間攪拌した。次に、この溶液を4℃で保存して、ポリマー溶液が完全に水和するのを確認した(通常、保存期間は最低8~12時間)。次に、GP(0.1%w/w)を溶液に加え、氷上で最低4時間攪拌して、完全に溶解するのを確認した。溶液を秤量し、dH2Oで最終重量まで調整した。
【0089】
例4
シスプラチンおよびパクリタキセルを含む二重薬物搭載熱応答性ヒドロゲル(最終的なHPβCD濃度をパクリタキセル複合体と「遊離」HPβCDとに分割)
製剤に含まれるHPβCDの最終濃度を、パクリタキセル複合体と複合体化されていない2-Hβ-CDとの間で、1:2の比率で分割した。シスプラチンを、必要量のdH
2Oに溶解した。パクリタキセル複合体(例2に従って作成)、およびHPβCDの最終量を10%w/wにするために必要な量の遊離HPβCD粉末を、シスプラチン溶液にpH<6で溶解し、室温で30分間攪拌した。次に、溶液を4℃になるまで氷上で冷却した。CS(0.5%w/w)を攪拌しながら溶液に加え、4℃に維持した。次に、P407(17%w/w)をHP-β-CD/CS溶液に継続的に攪拌しながら散布し、すべての成分が完全に溶解するまで、最低1時間攪拌した。次に、この溶液を4℃で保存して、ポリマー溶液が完全に水和するのを確認した(通常、保存期間は最低8~12時間)。次に、GP(0.1%w/w)を溶液に加え、氷上で最低4時間攪拌して、完全に溶解するのを確認した。溶液を秤量し、dH
2Oで最終重量まで調整した。この工程は、
図1に示す回路図で概説されている。
【0090】
例5
ゲムシタビンおよびパクリタキセルを含む二重薬物搭載熱応答性ヒドロゲル(最終的なHPβCD濃度をパクリタキセル複合体と「遊離」HPβCDとに分割)
製剤に含まれるHPβCDの最終濃度を、パクリタキセル複合体と複合体化されていない2-Hβ-CDとの間で、1:1の比率で分割した。ゲムシタビンを、必要量のdH2Oに溶解した。パクリタキセル複合体(例2に従って作成)、およびHPβCDの最終量を10%w/wにするために必要な量の遊離HPβCD粉末を、シスプラチン溶液にpH<6で溶解し、室温で30分間攪拌した。次に、溶液を4℃になるまで氷上で冷却した。CS(0.5%w/w)を攪拌しながら溶液に加え、4℃に維持した。次に、P407(17%w/w)をHP-β-CD/CS溶液に継続的に攪拌しながら散布し、すべての成分が完全に溶解するまで、最低1時間攪拌した。次に、この溶液を4℃で保存して、ポリマー溶液が完全に水和するのを確認した(通常、保存期間は最低8~12時間)。次に、GP(0.1%w/w)を溶液に加え、氷上で最低4時間攪拌して、完全に溶解するのを確認した。溶液を秤量し、dH2Oで最終重量まで調整した。
【0091】
例6
ヨウ素化造影剤を含むブランク熱応答性ヒドロゲル
HPβCD(10%w/w)を、ヨウ素化イメージング剤(Iodixonal 2~7%w/w)を含む必要量のdH2Oに溶解し、室温で30分間攪拌した。次に、溶液を4℃になるまで氷上で冷却した。CS(0.5%w/w)を攪拌しながら溶液に加え、4℃に維持した。次に、P407(17%w/w)をHP-β-CD/CS溶液に継続的に攪拌しながら散布し、すべての成分が完全に溶解するまで、最低1時間攪拌した。次に、この溶液を4℃で保存して、ポリマー溶液が完全に水和するのを確認した(通常、保存期間は最低8~12時間)。次に、GP(0.1%w/w)を溶液に加え、氷上で最低4時間攪拌して、完全に溶解するのを確認した。溶液を秤量し、dH2Oで最終重量まで調整した。
【0092】
例7
シスプラチンおよびパクリタキセル(最終的なHPβCD濃度をパクリタキセル複合体と「遊離」HPβCDとに分割)を含む、ヨウ素化造影剤含有二重薬物搭載熱応答性ヒドロゲル
製剤に含まれるHPβCDの最終濃度を、パクリタキセル複合体と複合体化されていないHPβCDとの間で、1:2の比率で分割した。シスプラチンを、ヨウ素化造影剤(Iodixonal 2~7%w/w)を含む必要量のdH2Oに溶解した。パクリタキセル複合体(例2に従って作成)、およびHPβCDの最終量を10%w/wにするために必要な量の遊離HPβCD粉末を、シスプラチン溶液にpH<6で溶解し、室温で30分間攪拌した。次に、溶液を4℃になるまで氷上で冷却した。CS(0.5%w/w)を攪拌しながら溶液に加え、4℃に維持した。次に、P407(17%w/w)をHP-β-CD/CS溶液に継続的に攪拌しながら散布し、すべての成分が完全に溶解するまで、最低1時間攪拌した。次に、この溶液を4℃で保存して、ポリマー溶液が完全に水和するのを確認した(通常、保存期間は最低8~12時間)。次に、GP(0.1%w/w)を溶液に加え、氷上で最低4時間攪拌して、完全に溶解するのを確認した。溶液を秤量し、dH2Oで最終重量まで調整した。
【0093】
例8
ブランク熱応答性ヒドロゲルの凍結乾燥(ヨウ素化造影剤非含有、または含有)
ヨウ素化造影剤非含有、または含有ブランク熱応答性ヒドロゲルを、それぞれ例1または例6に概説されているように調製した。既知の重量のポリマー溶液を好適なビーカーに移し、液体窒素を使用して急速冷凍した。次に、凍結した溶液を真空下、-55℃で48時間凍結乾燥して、凍結乾燥粉末を生成した。次に、粉末を再水和し、dH2Oで元の重量にし、最低6時間攪拌して、4℃で一晩再水和させた。
【0094】
例9
シスプラチンおよびパクリタキセルを含む二重薬物搭載熱応答性ヒドロゲル(ヨウ素化造影剤含有、または非含有薬物搭載)の凍結乾燥
二重薬物搭載熱応答性ヒドロゲルを、ヨウ素化造影剤非含有または含有に分類して、それぞれ例4または例7に変更を加えて調製した。ヒドロゲルは、シスプラチンを加えずに調製した。パクリタキセルのみを搭載したポリマー溶液を好適なビーカーに移し、液体窒素を使用して急速冷凍した。次に、凍結した溶液を真空下、-55℃で48時間凍結乾燥して、凍結乾燥粉末を生成した。次に、粉末を再水和し、最終製剤に必要な量のシスプラチンを含むdH2Oで元の重量にし、最低6時間攪拌し、4℃で一晩再水和させた。
【0095】
例10
ゾル-ゲル転移温度の決定
種々のヒドロゲル製剤の熱応答性は、温度およびギャップキャリブレーションを内蔵したAR-1000定応力レオメーター(TA instruments)で実施された、振動測定を使用して流動学的に評価した。レオメーターは、コーン/プレートジオメトリー(直径40mm、コーン角度4°)を装備した。脱気したサンプルを、事前に20℃に平衡化して、温度制御されたレオメータープレートに分注した。水を含む溶媒トラップを使用してサンプルを覆い、レオロジー試験中のサンプルからの蒸発を防いだ。水浴(LAUDA-Ecoline)で、試験中ペルチェプレートの温度を制御した。サンプルプレートの温度は、試験中、常に望ましい値の+/-0.1℃以内に制御された。試験前に、ジオメトリーギャップを校正した。過剰なサンプルの充填の後、ジオメトリーは、この所定のギャップまで下げられた。過剰なヒドロゲルをスパチュラで取り除き、廃棄して正しい充填が行われることを確認した。試験を開始する前に、サンプルを所定の時間平衡化させた。TA Data Analysisソフトウェアを使用して、データを処理した。すべてのサンプルを三回分析した。
20℃~40℃の温度スイープを、すべてのヒドロゲル製剤で実施した。ゾル-ゲル転移温度は、ゲル化が起こった温度として定義した。ゲル化点は、貯蔵弾性率(G’)が損失弾性率(G’’)と等しくなる温度として定義される。したがって、G’>G’’の場合、ゲル化が発生したとみなされた。適切なゾル-ゲル転移温度は、平均室温(21℃)を超える、理想的には体温(37℃)に近い温度であると考えられた。温度は、1℃/分の速度で上昇し、振動応力および角周波数は一定を保った。
【0096】
例11
In-vitro崩壊アッセイ
規定量のポリマー溶液(1g)をガラスバイアルに量り入れ、溶液とバイアルとの総重量を記録した。ポリマー溶液を37℃で30分間ゲル化させて、完全にゲル化したことを確認した。予熱したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(pH7.4)1mlをヒドロゲルに加えた。所定の時点で、1mlのPBSをガラスバイアルから完全に除去し、ヒドロゲルおよびガラスバイアルの重量を記録した。次に、ヒドロゲルを水浴に戻し、予熱した1mlの新鮮なPBSをファルコンチューブに加えた。この工程を、28日間、所定の時点で繰り返した。すべての実験を3回行い、3つの個別実験として繰り返した。
【0097】
例12
In-vitro放出プロファイルアッセイ
規定量のポリマー溶液(1g)を、ガラスバイアルに量り入れた。ポリマー溶液を37℃で30分間ゲル化させて、完全にゲル化したことを確認した。予熱したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(pH7.4)1mlをヒドロゲルに加えた。所定の時点で、1mlのPBSをガラスバイアルから完全に取り出し、分析まで-20℃で保存した。次に、ヒドロゲルを水浴に戻し、予熱した1mlの新鮮なPBSをファルコンチューブに加えた。この工程を、28日間、所定の時点で繰り返した。すべての実験を3回行い、3つの個別実験として繰り返した。
シスプラチンの検出のため、ICP-MSを実行した。検量線は、PBSで適切な100万分の1(ppm)まで希釈した、白金(Pt)標準液(塩酸中1000mg/LのPt)を使用して作成した。サンプルをICP-MSに手動で導入した。分析に使用されたパラメーターは、電力1.2kW、プラズマ流量15L/分、補助流量1.5L/分、ネブライザ圧力200kPaであった。検体検出波長を、Pt用に214.423nmに設定した。すべてのサンプルを三回分析した。
HPLCは、UV検出器を備えたAgilent Technologies 1120 Compact L.Cで実施した。パクリタキセルHPLCは、Cho et al.(2004)によって公開された方法に基づき、展開した。HPLCは、Synergi 4u Hydro-RP 80A New Column(150x4.6mm)(Phenomenex、Cheshire、UK)で実施した。カラム温度は、制御しなかった。移動相は、アセトニトリル:H2O(55:45)で構成した。流速は1ml/分で、総実行時間は10分であった。パクリタキセルのUV検出を、227nmで実施した。すべてのサンプルは、最低2回分析した。
【0098】
例13
流動レオロジー(粘度)測定
種々のヒドロゲル製剤の粘度試験は、温度およびギャップキャリブレーションを内蔵したAR-1000定応力レオメーター(TA instruments)で実施され、流動レオロジーを使用して評価した。レオメーターは、コーン/プレートジオメトリー(直径40mm、コーン角度4°)を装備した。脱気したサンプルを、事前に20℃に平衡化して、温度制御されたレオメータープレートに分注した。水を含む溶媒トラップを使用してサンプルを覆い、レオロジー試験中のサンプルからの蒸発を防いだ。水浴(LAUDA-Ecoline)で、試験中ペルチェプレートの温度を制御した。サンプルプレートの温度は、試験中、常に望ましい値の+/-0.1℃以内に制御された。試験前に、ジオメトリーギャップを校正した。過剰なサンプルの充填の後、ジオメトリーは、この所定のギャップまで下げられた。過剰なヒドロゲルをスパチュラで取り除き、廃棄して正しい充填が行われることを確認した。試験を開始する前に、サンプルを所定の時間平衡化させた。TA Data Analysisソフトウェアを使用して、データを処理した。すべてのサンプルを三回分析した。
定常流動実験を20℃で実施して、ヒドロゲルが、せん断応力の上昇下でどのように挙動するかを確認した。サンプルの粘度は、1Pa~100Paの範囲にわたるせん断応力で判定した。
【0099】
例14
注入可能性アッセイ
一軸引張試験を実施して、表3に明記される針またはカテーテルを備えたシリンジからゲルを排出するのに必要な力を、5kNのロードセルを備えた機械的試験機(Z050、Zwick/Roell、Germany)を使用して判定した。ヒドロゲルサンプルを2mlのルアーロックシリンジ(BD、Dublin,Ireland)に充填し、サンプルが確実に液体状態を維持するように、引張試験の前に氷上で冷やし続けた。適切な医療機器をルアーロックを介してシリンジに取り付け、規定された体積のヒドロゲルを排出するのに必要な、最大の力を判定した。
すべての試験で固定グリップを引張試験機に取り付け、シリンジをロードセルが取り付けられた位置に固定した。1Nの事前荷重(予備荷重)が印加され、ゲル0.5mlに相当する距離である、最大伸長(8.5mm)を確認して、試験を終了した(Vernierのカリパスを使用して測定)。注入速度は、2ml/分または1ml/分と規定した。次に、ヒドロゲルサンプルに破壊まで荷重をかけ、カテーテルから排出されたヒドロゲルをバイアルに収集した。
【表3】
【0100】
例15
超音波およびコンピューター断層撮影(CT)画像化
ヨウ素化造影剤に分類されたポリマー溶液5mlを、ex vivoの動物組織(子ウシの肝臓)モデルに注入して、注入されたChemoGelの、組織内での分布を評価した。注入前に、子ウシの肝臓を水浴中で37℃まで加熱した。内部組織温度は、肉温度計を使用して記録した。ポリマー溶液は、長さ5cmの18G針(Cook Medical、Bloomington,Ind)を使用して、一定の速度で注入した。Ex vivo分布は、コンピューター断層撮影(Ingenuity Core 128、Philips)を使用して画像化した。画像は、0.8mmスライス厚、0.4mm再構成間隔、168mAsおよび100kVを使用して取得した。各ウェル内の関心領域(直径100mm)を選択し、平均密度を計算した(最小、最大および標準偏差も記録した)。
超音波画像(Xario、東芝)は、グレースケールBモードで12MHz線形プローブを使用して取得した。
【0101】
例16
In-vitro細胞毒性アッセイ
すべての細胞は、使用前および使用後に70%エタノールで洗浄した、クラスII層エアフローキャビネット内で培養した。エアフローキャビネットに入れるすべてのアイテムも、70%エタノールで拭き上げた。相互汚染を回避するため、異なる細胞株を使用する前に、UV滅菌を少なくとも15分間使用した。細胞株は、使用前に液体窒素中の保存から復活させた。細胞株を入れたバイアルを37℃の水浴中で素早く解凍し、頻繁に回転させて、温度勾配を最小限に抑えた。解凍した細胞に細胞培地を滴下し、室温で5分間、1200rpmで遠心分離した。上清をペレットから吸引して、凍結培地からすべてのDMSOを除去し、細胞を補充の細胞培養培液に再懸濁し、T175cm2フラスコ(Starstedt、Ireland)に移した。
補充の培養液を3日ごとに交換し、細胞が80~90%の集密度に達したときに継代した(A549細胞およびPanc-1細胞)。細胞の継代は、フラスコからすべての培地を除去することによって実施した。5mlのトリプシンをフラスコに加え、5%CO2、湿度90%の環境で5分間、37℃で培養することにより、細胞をフラスコから剥離した。次にフラスコを物理的に攪拌して、完全に剥離したことを確認した。次に10mlの補充培地をフラスコに加えて、トリプシン処理を停止し、細胞死を防いだ。この混合物をフラスコから取り出し、50mlのFalconチューブに加えた。混合物を室温で5分間、1200rpmで遠心分離した。トリプシンと培地の混合物を慎重に廃棄し、形成された細胞のペレットを新鮮な培地に再懸濁した。
細胞毒性を評価するために、製造者の指示に従い、Cell Counting Kit-8(CCK-8)比色アッセイを使用して細胞生存率を判定した。CCK-8アッセイは、水溶性テトラゾリウム塩(WST)、WST-8を使用して、細胞生存率を定量化する。所定の時点で、適切な処理をウェルから取り除き、ウェルをPBSで1回洗浄した。200uLの新鮮な補充培地を各ウェルに加えた。20uLのCCK-8試薬を各ウェルに加え、プレートをA549細胞またはPanc-1細胞つき、それぞれ90分または3時間、インキュベーターに戻した。次に、CCK-8を培養した100uLの培地を96ウェルプレートに移し、Varioskan Flashプレートリーダーで、450nmでの吸光度を読み取った。培地で処理された細胞を100%の生存率とみなし、各処理グループの生存率を、このパーセンテージとして表した。
生細胞/死細胞染色は、製造者の修正版プロトコルを使用して実施した(Invtirogen、Ireland)(Invitrogen、2004)。生細胞をカルセインAMを使用して緑色に染色し、死細胞をエチジウムホモダイマー-1を使用して赤色に染色した。2.5μLのカルセインAMおよび10μLのエチジウムホモダイマー-1を、5mlのPBSに加えた。所定の時点で適切な処理をウェルから取り除き、ウェルをPBSで1回洗浄した。このカルセインAM/エチジウムホモダイマー-1溶液300μLを各処理ウェルに加え、30分間発色させた。その後、染料を取り除き、300μLのPBSをウェルに加えた。生細胞と死細胞を、それぞれLeica DMIL顕微鏡(Leica Microsystems、Switzerland)で青色(FITC/GFP)および緑色(RFP)フィルターを使用して、個別に視覚化した。Image Jを使用して、細胞生存率の合成画像を編集した。
細胞毒性プロトコルは、Ma et al.(2014)(Ma et al.、2014)によって公開された方法を基にした。細胞は、500uLの補充培地を含む24ウェルプレートに、ウェルあたり20,000細胞の密度で播種した。細胞を、5%CO2、湿度90%の環境において、37℃で24時間接着させた。24時間後、培地をウェルから取り除き、新鮮な補充培地と交換した。ブランクまたは薬物を搭載したポリマー溶液の適切な容量(0、10、20、または30uL)を新鮮な補充培地に加えて、各ウェルの最終容量を500uLにした。プレートを、37℃、5%CO2、湿度90%の環境のインキュベーターに、24時間または48時間戻した。所定の培養期間の後、プレートをインキュベーターから取り出し、上清を廃棄した。ウェルをPBSで1回洗浄し、上記で概説した適切な生存率アッセイを実施した。
【0102】
例17
In-vivo研究
例1のヒドロゲル(GF5ヒドロゲル)は、肺癌(A549細胞)および膵臓癌(Panc-1細胞)の2つのin vivo異種移植モデルで評価した。さらに、例4のヒドロゲルを肺癌(A549細胞)異種移植モデルで評価し、例5のヒドロゲルを膵臓癌(Panc-1細胞)異種移植モデルで評価した。
腫瘍は、注入後3~6週間で実験に必要な体積に達し、両方の異種移植モデルの確立に成功した。
すべての動物実験は、アイルランドのAnimal Research Ethics Committee,Royal College of Surgeons(REC no.1389)、および国の実験動物規制当局であるHealth Products Regulatory Authority(HPRA)(プロジェクト認可:AE19127/P040)により承認され、動物の権利に関するEU規則(指令2010/63/EU)に従って実施された。
【0103】
腫瘍異種移植の確立
生物発光A549-ルシフェラーゼ細胞株および非生物発光Panc-1細胞株を使用して、雌Hsd:Athymic Nude-Foxn1nuマウス(体重20~25 g)で、肺および膵臓の異種移植モデルをそれぞれ確立した。Fridman et al.(2012)による方法に基づき、A549-lucまたはPanc-1細胞を80~90%の集密度でトリプシン処理し、PBS:Matrigel混合液(1:1)に1 x 107細胞/mlの密度で再懸濁し、使用まで氷上で維持した。誘導チャンバーで4%v/vイソフルランおよび酸素を使用した吸入により麻酔が導入されたら、2%v/vイソフルランを維持麻酔として、誘導チャンバーまたはノーズコーンで使用した。29Gインスリンシリンジ(Romed、Utrecht、Netherlands)を使用して、100μLの細胞懸濁液(1x106細胞)を、マウスの右下腹部の脇腹に皮下注入した。注入後30秒間、針を所定の位置に残し、回転させ、ゆっくりと取り外して、注入部位からの細胞懸濁液の漏出を防止した。次に、動物を発熱ランプに隣接する清潔な回復用ケージに入れ、麻酔から完全に回復させてから、ホームケージに戻した。
【0104】
腫瘍内注入
腫瘍体積が、A549-luc異種移植では250mm3±50mm3、Panc-1異種移植では170mm3±50mm3に達してから、滅菌ブランクヒドロゲル(例1、GF5)または薬物搭載ヒドロゲル(例5または例7)製剤または生理食塩水の腫瘍内(IT)投与を実施した。注入用のヒドロゲル製剤または生理食塩水の所定の体積(腫瘍体積に基づいて計算)を、22G針を備えた1mlルアーロックシリンジに充填し、投与前は氷上に維持した。プロトコルに従って、吸入麻酔を導入した。鉗子を使用して腫瘍を安定化し、下から固定して、針が腫瘍を貫通するリスクを最小限に抑えた。針を腫瘍内に挿入し、必要な製剤の全量をゆっくりと排出した。注入の完了後、針を所定の位置に30秒間維持して、ヒドロゲル製剤のゲル化を起こさせ、針を回転させ、ゆっくりと取り外して、注入された材料の逆流を防止した。次に、動物を発熱ランプに隣接する清潔な回復用ケージに入れ、麻酔から完全に回復させてから、ホームケージに戻した。
【0105】
異種移植モニタリング
腫瘍が触知できたら、デジタルカリパスを使用して外部から腫瘍の寸法を測定し、長さ(l)および幅(w)を測定した。
腫瘍体積は、方程式1(Tomayko et al、1989)を使用して導出した。
【数1】
A549-luc腫瘍の体積が250mm
3±50mm
3に達した時点で、in vivo生物発光の画像化を実施した。動物に、新たに調製したD-ルシフェリンのPBS溶液をIP注入し(150mg/kg)、プロトコルに従って吸入により麻酔した。IT投与されたヒドロゲル製剤の蛍光画像化もまた、製剤への蛍光タグの組み込み後に行われた。Ex vivo画像化もまた、切除された腫瘍組織で実施した。IVIS(登録商標)Spectrum In Vivo Imaging Systemを使用して、A549-luc細胞およびヒドロゲル製剤から放出されるそれぞれの生物発光および蛍光の可視化を、表1のパラメーターを使用して実施した。
【0106】
生物発光および蛍光信号の疑似カラー画像を生成し、Living Imageソフトウェアによって、動物全体または切除された組織のグレースケール画像に重ね合わせた。画像は、ヒドロゲルの局在および保持の質的な確認に使用した。
【0107】
オフサイト毒性評価
研究全体を通じて体重を監視することにより、一般的な動物福祉を評価した。
深い全身麻酔(ケタミン(90mg/kg)およびキシラジン(10mg/kg)を、25Gの針および1mlのルアーロックシリンジを使用してIP投与した)の下で、1mlのルアースリップシリンジ(B Braun、Melsungen、Germany)および21G針を使用して、終末心臓穿刺を実施した。動物を仰向けにしっかりと置き、針を45°の角度で心臓に挿入した。プランジャーをゆっくりと引き抜いて循環血液を収集し、必要に応じて針の位置を変え、処置中の針またはシリンジ内での血液の凝固を防止するために十分な注意を払って、血液収集を完了した。次に、採取した血液の300μLをK3EDTA抗凝固チューブ(Microvette 500 K3E、Sarstedt,Numbrecht,Germany)内に排出し、残りを2mlのEppendorfチューブ(Eppendorf,Hamburg,Germany)内に排出した。K3EDTAチューブ内の抗凝固処理された血液サンプルは、シスメックスKX-21N血液学分析装置(シスメックスコーポレーション、神戸、日本)を使用して、直ちに白血球数について分析した。残りの血液サンプルを、約30分間放置して凝固させた。次に、サンプルをMinispin(登録商標)遠心分離機(Eppendorf、Hamburg,Germany)を使用して、4,700rpmで5分間遠心分離し、血清を分離した。遠心チューブから血清を慎重に取り出し、CryoPureチューブ(Sarstedt、Numbrecht,Germany)に移し、分析まで-80℃で凍結した。アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)および尿素アッセイキットを使用して、製造者の指示に従い血清を分析した。Victor21420プレートリーダー(Perkin Elmer、MA、USA)を使用して、450nmおよび570nmでの吸光度をそれぞれ読み取った。
【0108】
終末心臓穿刺後、頸椎脱臼を使用して動物の死を確認した。肝臓および腎臓を特定し、鋭利なハサミを使用して切除した。次に、腫瘍を側腹部の右下腹部から切除した。剖検時に収集されたすべての組織を、10%中性緩衝ホルマリン固定液に24時間入れ、その後70%エタノールに移した。ホルマリン固定組織をトリミングし、処理して、パラフィンブロックに埋め込んた。パラフィン包埋腫瘍、腎臓および肝臓サンプル各々から典型的な5um厚切片を調製し、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色した。
【0109】
肺癌および膵臓癌のマウスモデルに投与された本発明のヒドロゲル製剤の保持率、有効性および最小限のオフサイト毒性を裏付ける証拠が確定した。固形腫瘍の治療における局所領域薬物送達プラットフォームとして、本発明のヒドロゲルの使用を支持する結果は、ヒドロゲルの腫瘍内投与によって、
・投与部位での局所的なゲル化を促進され(
図14A)、少なくとも14日間保持されること(
図14Bおよび
図14C)、
・2つの異なるタイプの固形腫瘍において、14~28日間にわたり、腫瘍体積の増加を大幅に低減する効果が実証されること(
図15)、
・急性オフサイト毒性が誘発されない(
図16)、
ことを確立した。
【0110】
同等物
前述の説明は、本発明の現時点の好ましい実施形態を詳述している。これらの説明を考慮すれば、その実践における多数の修正および変更が当業者には思い浮かぶと予想される。これらの修正および変更は、本明細書に添付された特許請求の範囲内に含まれることが意図されている。
【0111】