(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】圧力容器システムを備えた自動車ならびに自動車の運転法
(51)【国際特許分類】
B60K 15/063 20060101AFI20230829BHJP
F17C 13/12 20060101ALI20230829BHJP
F02D 19/02 20060101ALI20230829BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20230829BHJP
【FI】
B60K15/063 B
F17C13/12 301Z
F02D19/02 Z
H01M8/04 Z
H01M8/04 J
(21)【出願番号】P 2020564619
(86)(22)【出願日】2019-04-09
(86)【国際出願番号】 EP2019058964
(87)【国際公開番号】W WO2019219298
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-01-28
(31)【優先権主張番号】102018207895.5
(32)【優先日】2018-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】592245937
【氏名又は名称】バイエリッシェ モトーレン ヴェルケ アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Bayerische Motoren Werke Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Petuelring 130, D-80809 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【氏名又は名称】久野 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ペルガー
(72)【発明者】
【氏名】クラウス ソウチェク
(72)【発明者】
【氏名】ローレンツ エーガートナー
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-26117(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0307454(US,A1)
【文献】特開2008-157346(JP,A)
【文献】特開2014-92213(JP,A)
【文献】特開2017-137939(JP,A)
【文献】特開2008-223784(JP,A)
【文献】特開2006-200564(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0120738(US,A1)
【文献】国際公開第2011/138826(WO,A1)
【文献】特表2014-522464(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0061081(US,A1)
【文献】特開2011-7229(JP,A)
【文献】中国実用新案第203472526(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 11/00- 15/10
F17C 1/00- 13/12
F02D 13/00- 28/00
H01M 8/04 - 8/0668
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力容器システムを備えた自動車であって、前記圧力容器システムが複数の圧力容器(10,20)を含み、前記複数の圧力容器(10,20)のうちの少なくとも1つの第1の圧力容器(10)が、前記自動車の第1の領域(12)に配置されていて、前記複数の圧力容器(10,20)のうちの少なくとも1つの第2の圧力容器(20)が、前記自動車の第2の領域(22)に配置されていて、
前記第1の領域(12)が、前記第2の領域(22)よりも高い貫入確率を有していて、
前記自動車は、
前記第1の領域(12)に配置された前記第1の圧力容器(10)の下限の充填状態および/または
該第1の圧力容器(10)の限界温度を表す取出し限界値(SoC
10,
grenz)に到達した時に、または該取出し限界値(SoC
10,
grenz)を下回った時に、
前記第2の領域(22)に配置された前記第2の圧力容器(20)がより高い充填状態にあるように、前記圧力容器システムから燃料の取出しを実行するように構成され
ており、前記充填状態は、圧力容器内に貯蔵された燃料の燃料貯蔵圧力、燃料貯蔵密度または充填度である、圧力容器システムを備えた自動車。
【請求項2】
前記圧力容器システムが、複数の圧力容器(10,20)を含み、前記複数の圧力容器(10,20)のうちの少なくとも1つの第1の圧力容器(10)が、前記自動車の第1の領域(12)に配置されていて、前記複数の圧力容器(10,20)のうちの少なくとも1つの第2の圧力容器(20)が、前記自動車の第2の領域(22)に配置されていて、
前記自動車は、前記圧力容器システムの、燃料注入により達成される
べき総充填状態を
表している充填限界値への到達時に、または該充填限界値の超過時に、
前記第2の領域(22)に配置された前記第2の圧力容器(20)が、
前記第1の領域(12)に配置された前記第1の圧力容器(10)よりも高い充填状態に達しているように、前記圧力容器システムへの燃料の充填を実行するように、構成されて
おり、
前記総充填状態は、前記圧力容器システムの前記燃料注入により貯蔵されるべき燃料の総量についての前記充填状態である、請求項1記載の、圧力容器システムを備えた自動車。
【請求項3】
前記第1の圧力容器(10)が、少なくとも部分的に前記自動車の後部座席ベンチ(36)の後方に、かつ/または少なくとも部分的に前記自動車のリヤアクスル(46)の後方に配置されている、かつ/または
前記第1の圧力容器(10)が、少なくとも部分的に前記自動車のサイドシル(53,55)のうちの1つのサイドシル内に収納されている、請求項1
または2記載の自動車。
【請求項4】
前記第2の圧力容器(20)が、少なくとも部分的に前記第1の圧力容器(10)の前方に配置されている、かつ/または前記第2の圧力容器(20)が、少なくとも部分的に前記サイドシル(53,55)の間
に配置されている、請求項
3記載の自動車。
【請求項5】
前記第2の圧力容器(20)が、少なくとも部分的に前記第1の圧力容器(10)の前方に配置されている、かつ/または前記第2の圧力容器(20)が、少なくとも部分的に前記サイドシル(53,55)の間に、かつ、少なくとも部分的にセンタトンネル(51)内に配置されている、請求項3記載の自動車。
【請求項6】
前記圧力容器システムは、前記第1の圧力容器(10)の前記充填状態および/または該第1の圧力容器(10)の限界温度を表示する値(SoC
10,
ist)が、前記取出し限界値(SoC
10,
grenz)に到達するか、または該取出し限界値(SoC
10,
grenz)を下回るまでは、まずは実質的に専ら前記第1の圧力容器(10)から燃料を取り出すように、構成されている、請求項1から5までのいずれか1項記載の自動車。
【請求項7】
前記自動車は、エネルギ変換器に前記圧力容器システムから提供すべき総燃料流量(R,
grenz)が、前記第1の圧力容器(10)の提供可能な最大の燃料流量(R
10,
ist)よりも大きい限り、前記第1の圧力容器(10)からの取出しに対して付加的に、前記第2の圧力容器(20)から同時に燃料を取り出すように、構成されている、請求項1から6までのいずれか1項記載の自動車。
【請求項8】
圧力容器システムを備えた自動車の運転法であって、前記圧力容器システムが複数の圧力容器(10,20)を含み、前記複数の圧力容器(10,20)のうちの少なくとも1つの第1の圧力容器(10)が、前記自動車の第1の領域(12)に配置されていて、前記複数の圧力容器(10,20)のうちの少なくとも1つの第2の圧力容器(20)が、前記自動車の第2の領域(22)に配置されていて、
前記第1の領域(12)が、前記第2の領域(22)よりも高い貫入確率を有していて、該方法が、複数のステップを含み、該ステップにより、
i)
前記第1の領域(12)に配置された前記第1の圧力容器(10)の下限の充填状態および/または
該第1の圧力容器(10)の限界温度を表す取出し限界値(SoC
10,
grenz)への到達時に、または該取出し限界値(SoC
10,
grenz)の下回り時に、
前記第2の領域(22)に配置された前記第2の圧力容器(20)がより高い充填状態にあるように、前記圧力容器システムからの燃料の取出しを行い、かつ/または
ii)前記圧力容器システムの、燃料注入により達成されるべき総充填状態を表している充填限界値への到達時に、または該充填限界値の超過時に、
前記第2の領域(22)に配置された前記第2の圧力容器(20)が、
前記第1の領域(12)に配置された前記第1の圧力容器(10)よりも高い充填状態に達しているように、前記圧力容器システムへの燃料の充填を行
い、
前記充填状態は、圧力容器内に貯蔵された燃料の燃料貯蔵圧力、燃料貯蔵密度または充填度であり、
前記総充填状態は、前記圧力容器システムの前記燃料注入により貯蔵されるべき燃料の総量についての前記充填状態である、
圧力容器システムを備えた自動車の運転法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、圧力容器システムを備えた自動車に関する。さらに、本明細書に開示される技術は、自動車の運転法に関する。圧力容器システムを備えた自動車自体は知られている。たとえば、燃料電池により運転される自動車は、通常、このような圧力容器システムを有している。最大の走行距離を向上させるために、このような圧力容器システムは、自動車の種々異なる箇所に取り付けられ得る複数の圧力容器を有していてよい。最大の走行距離に対する要求の他に、自動車をより安全に構成するという要求も存在している。複数の圧力容器への充填および複数の圧力容器からの取出しに関して、先行技術からは種々異なるコンセプトが知られている。たとえば、出願人による独国特許出願公開第102018201327号明細書は、マルチタンクシステムから水素を取り出す方法を開示している。
【0002】
本明細書に開示される技術の優先的な課題は、既に知られている解決手段の少なくとも1つの欠点を減じるか、または克服し、あるいは代替的な解決手段を提案することである。特に、本明細書に開示される技術の優先的な課題は、自動車のできるだけ長い走行距離と同時に自動車の車両安全性をさらに高めることである。別の優先的な課題は、本明細書に開示される技術の有利な効果から判る。これらの課題は、独立請求項に記載の対象により解決される。従属請求項は好適な構成を示している。
【0003】
本明細書に開示される技術は、圧力容器システムを備えた自動車に関する。自動車は、たとえば乗用車、オートバイまたは商用車であってよい。圧力容器システムは、環境条件下で気体の燃料を貯蔵するために働く。圧力容器システムは、たとえば圧縮天然ガス(「Compressed Natural Gas=CNG」)または液化天然ガス(LNG)または水素により運転される自動車において使用することができる。このような圧力容器システムは、この場合、複数の圧力容器、特に複合圧力容器(composite overwrapped pressure vessels)(COPV)を含んでいる。複数の圧力容器は、たとえば低温圧力容器(CcH2またはCOP)または高圧ガス容器(CGH2)であってよい。高圧ガス容器は、周囲温度において燃料を持続的に、約350バール(大気圧に対する正圧)、さらに好適には約700バール以上の公称運転圧力(nominal working pressureまたはNWPとも呼ばれる)で貯蔵するために形成されている。低温圧力容器は、燃料を、上述の運転圧で、自動車の運転温度よりも著しく低い温度でも貯蔵するために適している。
【0004】
圧力容器システムは、少なくとも1つのエネルギ変換器に燃料を提供するために構成されている。少なくとも1つのエネルギ変換器は、燃料の化学的なエネルギを別のエネルギ形態、たとえば電気的なエネルギおよび/または運動エネルギに変換するために構成されている。エネルギ変換器は、たとえば燃焼機関または少なくとも1つの燃料セルを備えた燃料セルシステム/燃料セルスタックであってよい。
【0005】
複数の圧力容器のうちの少なくとも1つの第1の圧力容器は、自動車の第1の領域に配置されていてよく、複数の圧力容器のうちの少なくとも1つの第2の圧力容器は、自動車の第2の領域に配置されていてよい。
【0006】
第1の領域は、第2の領域よりも高い貫入確率(Intrusionswahrscheinlichkeit)を有していてよい。「貫入確率」という用語は、本明細書に開示される技術の文脈において、別の自動車または(自動車に属しない)外部の物体が、この第1の領域または第2の領域に貫入する確率を示している。たとえばトランクルームまたはエンジンルームへの貫入確率は、乗員室への貫入確率よりも高い。換言すると、第1の領域は、自動車と(この自動車に属しない)外部の物体とが衝突した場合に、第2の領域よりも高い塑性変形確率を有している領域であってよい。特に、第2の領域は、乗員室の領域であるか、または乗員室に隣接していてよいのに対して、第1の領域は、少なくとも部分的に自動車のクラッシャブルゾーンにあるか、またはこのクラッシャブルゾーンに隣接していてよい。さらにもう一度換言すると、貫入確率という用語は、本明細書において開示された技術では、「衝突荷重耐性」に置き換えることもできる。衝突荷重耐性という用語は、有利には、外部から自動車に作用するクラッシュエネルギもしくは衝突エネルギが同一の場合に、第1の領域の圧力容器は、第2の領域の圧力容器よりも多くの衝突エネルギを受けるという状況を含んでいる。
【0007】
複数の圧力容器のうちの少なくとも1つの第1の圧力容器は、少なくとも部分的に、かつ好適には完全に、自動車の後部座席ベンチの後ろに、かつ/または少なくとも部分的に、かつ好適には完全に、自動車のリヤアクスルの後ろに配置されていてよい。このような第1の圧力容器は、後側の圧力容器とも呼ぶことができる。したがって、このような後側の圧力容器は、少なくとも部分的に、トランクルーム底面内に設けられていてよい。つまり、このような後側の圧力容器は、換言すると、通常は、より高い貫入確率を有する第1の領域に配置されている。
【0008】
しかし同様に、複数の圧力容器のうちの第1の圧力容器は、代替的または付加的には、自動車の両サイドシルのうちの1つのサイドシル内に、少なくとも部分的に、好適には完全に収納されていてよい。有利には、各サイドシル内に、少なくとも1つの第1の圧力容器が少なくとも部分的に収納されていてよい。サイドシルは、自動車のモノコックボディの1つの領域である。サイドシルは、有利には、車両の両側で前後のホイールボックスの間に、ドアステップの下側に沿って位置している。つまり、少なくとも部分的にサイドシル内に設けられたこのような第1の圧力容器は、特にサイドシルの間に配置された第2の領域に比べて側方からの衝突時により高い貫入確率を有している第1の領域に配置されている。
【0009】
本明細書に開示される第2の圧力容器は、特に第1の圧力容器が後側の圧力容器である場合に、少なくとも部分的に、かつ好適には完全に、第1の圧力容器の前方に配置されていてよい。有利には、第2の圧力容器は、少なくとも部分的に、かつ好適には完全に、自動車の後部座席ベンチの前方もしくは下側に配置されていてよく、かつ/または少なくとも部分的に、かつ好適には完全に自動車のリヤアクスルの前方に配置されていてよい。たとえば、第2の圧力容器は、少なくとも部分的に、かつ好適には完全に、サイドシルの間に配置されていてよく、特に好適には少なくとも部分的に、かつ好適には完全に自動車のセンタトンネル内に配置されていてよい。1つの構成では、第2の圧力容器は、2つの第1の圧力容器の間に配置されていてよい。
【0010】
自動車、特に圧力容器システムは、第1もしくは後側の圧力容器の下限の充填状態および/または限界温度を表す、圧力容器の取出し限界値への到達時に、または取出し限界値の下回り時に、第2の圧力容器がより高い充填状態にあるように、複数の圧力容器内に貯蔵された燃料の取出しを実行する(つまり、閉ループ制御または開ループ制御する)ために、構成されていてよい。
【0011】
圧力容器の充填状態は、圧力容器内に貯蔵されている燃料の量である。充填状態もしくはチャージ状態は、1つの絶対値、たとえば圧力容器内に貯蔵された燃料の燃料貯蔵圧力もしくは燃料貯蔵密度であってよい。しかし充填状態は、圧力容器内に実際に貯蔵されている量と、最大貯蔵量と、最小貯蔵量とから得られるパーセンテージ値であってもよい。このようなパーセンテージ値は、たとえば充填度(英語でstate of chargeまたはSoC)とも呼ぶことができる。充填度は、たとえば、最大の燃料貯蔵圧力もしくは燃料貯蔵密度のパーセンテージ値、または最大の燃料貯蔵圧力と最小の燃料貯蔵圧力との差もしくは最大の燃料貯蔵密度と最小の燃料貯蔵密度との差のパーセンテージ値であってよい。最大の燃料貯蔵圧力は、通常、圧力容器が標準条件下で公称運転圧力(nominal working pressureまたはNWPとも呼ばれ、たとえば700バールである)に公称運転温度(たとえば15℃)で達する場合に達成されている。最小の燃料貯蔵圧力は、規定された(通常は容器に固有である)最小圧力または大気圧であってよい。同様に、最大の燃料貯蔵密度もしくは最小の燃料貯蔵密度は、標準条件下で生じる。70MPaの圧力容器システムでは、水素圧力容器内の最大の貯蔵密度は、15℃で、たとえば約40.22g/lである。充填度は、直接的にまたは間接的に測定可能であってよい。
【0012】
下限の充填状態は、たとえば、圧力容器内の最小の燃料貯蔵圧力もしくは最小の燃料貯蔵密度に相当する充填状態であってよい。たとえば、下限の充填状態は、たとえば5バールまたは10バールまたは20バールの常に存在していることが望ましい燃料圧力であってよい。このような値は、場合によっては、圧力容器における構造的な損傷を減じるために設定されていてよい。代替的には、下限の充填状態は、最小の燃料貯蔵圧力もしくは最小の燃料貯蔵密度からある程度の安全値を有している燃料貯蔵圧力もしくは燃料貯蔵密度に相当していてよい。
【0013】
第1の圧力容器の取出し限界値は、たとえば、圧力容器内に存在しているか、もしくは圧力容器内に存在することができる燃料の最小量を表示する電子的な信号であってよい。たとえば、取出し限界値は、充填状態および特に充填度、燃料貯蔵圧力もしくは燃料貯蔵密度を表していてよい。しかし、圧力容器内の燃料の量を直接または間接的に表示する、燃料の量のための別の値、たとえば圧力容器膨張も考えられる。特に取出し限界値は、第1のもしくは後側の圧力容器が許容可能な最大の排出状態にまで排出されたことを表すものであってよい。
【0014】
取出し限界値は、代替的または付加的には、圧力容器の限界温度、特に、たとえば圧力容器および/または燃料を案内する別の構成要素が低温のために設計されていないために取出し中に下回ってはいけない下限の限界温度を表示している電子的な信号であってよい。同様に、充填中の上限nの限界温度も考えられる。
【0015】
自動車および特に圧力容器システムは、第1のもしくは後側の圧力容器の現在の充填状態を表示する値が取出し限界値に達するか、または取出し限界値を下回るまで、まずは実質的に専ら第1のもしくは後側の圧力容器から燃料を取り出すように、構成されていてよい。第1のもしくは後側の圧力容器の現在の充填状態を表示する値は、取出し限界値と同じ種類であってよい。好適には、表示値は、圧力容器内に現在貯蔵されている燃料の量を表示する電子的な信号である。「実質的に専ら」という用語は、この文脈において、1回の燃料注入後の取出し限界値に達するまでの全取出し期間にわたって、専ら第1のもしくは後側の圧力容器から燃料が取り出されるか、または圧力容器システムから上述の全取出し期間に提供される燃料の少なくとも70%または少なくとも80%または少なくとも90%が第1の圧力容器から取り出されることを意味している。
【0016】
自動車は、エネルギ変換器に燃料電池システムから提供されるべき総燃料流量が、第1の圧力容器の提供可能な最大の燃料流量(Brennstoffrate)よりも大きな場合に、第1の圧力容器からの取出しに対して付加的に、常に第2の圧力容器から同時に燃料を取り出すように、構成されていてよい。
【0017】
(総)燃料流量は、有利には、(総)体積流量もしくは(総)質量流量である。
【0018】
たとえば、第1の圧力容器が構造的な制限(たとえば過度に強い過冷却)に基づいてその燃料質量流量を提供することができないほどの大きい総燃料流量をエネルギ変換器に供給すべき場合、第2の圧力容器は補助的に支援することができる。特に、i)第1の圧力容器だけでは提供すべき総燃料流量を提供することができない場合、およびii)表示値が取出し限界値を下回っている場合にのみ、第1の圧力容器および第2の圧力容器から主な燃料が取り出されることが規定されていてよい。換言すると、自動車は、第2の圧力容器からの取出しを以下の場合にのみ許容するように、構成されていてよい。すなわち、
i)第1の圧力容器の充填状態を表示する値が、取出し限界値に達するか、または取出し限界値を下回っている場合;または
ii)第1の圧力容器の充填状態を表示する値が取出し限界値に達していないか、または取出し限界値を下回っていないが、提供すべき総燃料流量が、第1の圧力容器の提供可能な最大の燃料流量よりも大きい場合;または
iii)第1の圧力容器の充填状態を表示する値が取出し限界値に達していないか、または取出し限界値を下回っていないが、燃料注入後の全取出し期間にわたって、圧力容器システムから上述の全取出し期間において提供される燃料の少なくとも70%または少なくとも80%または少なくとも90%が、第1の圧力容器から取り出されるほど、第2の圧力容器からの取出し量が少ない場合。
【0019】
本明細書に開示される技術によれば、自動車もしくは圧力容器システムは、圧力容器システムの、燃料注入により到達されるべき総充填状態を表示している、圧力容器システムの充填限界値への到達時に、または充填限界値の超過時に、少なくとも1つの第2の圧力容器は、少なくとも1つの第1の圧力容器よりも高い充填状態に達しているように、圧力容器システムへの燃料の充填を実施する(つまり閉ループ制御するもしくは開ループ制御する)ように、構成されていてよい。
【0020】
充填限界値は、たとえば、圧力容器システム内の総燃料量(Brennstoffmenge)を表す電子的な信号であってよい。有利には、充填限界値への到達時に、または充填限界値の超過時に、充填もしくは燃料注入が自動車側かつ/またはサービスステーション側(tankstellenseitig)で中断される。充填限界値は、この総充填状態を表示している。
【0021】
圧力容器システムの総充填状態は、圧力容器システム全体によって、充填もしくは燃料注入後に貯蔵されるべき燃料の総量についての充填状態である。総充填状態は、有利には、圧力容器システムの個別の圧力容器の充填状態に基づいて生じる。本明細書に開示される技術によれば、有利には、第1の圧力容器および第2の圧力容器は、充填限界値への到達時に、または充填限界値の超過時に、互いに異なる充填状態を有していることが規定されていてよい。好適には、少なくとも1つの第2の圧力容器は、少なくとも1つの第1の圧力容器よりも高い充填状態を有している。換言すると、圧力容器システムは、第1の圧力容器よりも多くの燃料が第2の圧力容器に貯蔵されるように、充填を開ループ制御または閉ループ制御するように、構成されている。特に好適には、第1の圧力容器内に燃料が貯蔵されていないか、または下限の充填状態に達するほどの燃料しか貯蔵されていない。特に、充填限界値への到達時に、または充填限界値の超過時に、第2の燃料容器内には、第1の燃料容器内よりも、少なくとも1.0倍、または少なくとも5.0倍、または少なくとも10.0倍多くの燃料が貯蔵されていることが規定されていてよい。
【0022】
自動車は、
-ユーザ関連データを用いて(たとえば少なくとも1つのカレンダ入力または走行特性等を用いて)、
-車両履歴データを用いて、
-地図情報を用いて、かつ/または
-ユーザ入力を用いて、
充填限界値を特定するために構成されていてよい。
【0023】
本明細書に開示される技術はさらに、圧力容器システムを備えた自動車、特に本明細書に開示される自動車のための運転法に関する。方法は、複数のステップを含んでいてよく、該ステップにより、
i)第1の圧力容器の下限の充填状態および/または限界温度を表している取出し限界値への到達時または該取出し限界値の下回り時に、第2の圧力容器がより高い充填状態にあるように、圧力容器システムからの燃料の取出しを行い、かつ/または
ii)圧力容器システムの、燃料注入により到達されるべき総充填状態を表す充填限界値への到達時に、または充填限界値の超過時に、少なくとも第2の圧力容器が第1の圧力容器よりも高い充填状態に達しているように、圧力容器システムへの燃料の充填を行う。
【0024】
さらに、第1の圧力容器および第2の圧力容器の協働に関する、本明細書に開示される自動車に関連して言及される構造的な特徴は、同様に方法としても一緒に開示されている。
【0025】
本明細書に開示されるシステムは、少なくとも1つの制御ユニットをさらに含んでいる。制御ユニットは、特に、本明細書に開示される方法ステップを実施するために、構成されている。このためには、制御ユニットは、提供された信号に基づいてシステムのアクチュエータを少なくとも部分的に、かつ好適には完全に閉ループ制御(英語:closed loop control)するか、または開ループ制御(英語:open loop control)することができる。制御ユニットは、少なくとも圧力容器システムである。代替的または付加的には、制御ユニットは、別の制御ユニット内に統合されていてもよく、たとえば上位の制御ユニット内に統合されていてもよい。制御ユニットは、自動車の別の制御ユニットと相互作用することができる。
【0026】
換言すると、本明細書に開示される技術は、後側のタンクがまず空にされるという運転ストラテジに関する。この後側のタンクが空になってから(たとえば約20バールの残圧)ようやく、他方の(第2の圧力タンク)または残っているタンクから一緒に取出しを行うことができる。
【0027】
本明細書に開示される技術により、このような自動車の安全性をさらに向上させることができ、かつ/または個別の圧力容器が貫入確率に対応して互いに異なって寸法設計されていることを達成することができ、互いに異なる寸法設計は、部材コスト、重量および/または構造空間に有利に作用することができる。
【0028】
本明細書に開示される技術を図面につき説明する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本明細書に開示される自動車の概略図である。
【
図2】本明細書に開示される自動車の概略図である。
【
図3】本明細書に開示される方法を説明するための概略的なチャート図である。
【0030】
図1は、本明細書に開示される技術思想を有する自動車を上から概略的に示した平面図を示している。自動車の多くの構成部材は、簡略化するために省略されている。矢印Fは、自動車の走行方向を示している。前側の車軸もしくはフロントアクスル44と、後側の車軸もしくはリヤアクスル46との間に、センタトンネル51が配置されている。さらに、前方座席32,34ならびに後部座席ベンチ36が示されている。これらのエレメントは、自動車の構成に応じて任意に配置されていてよい。リヤアクスル46の後方で、第1の領域12に第1の圧力容器10が配置されている。第1の領域12は、この実施形態ではトランクルームに直接に隣接している。この第1のもしくは後側の領域12への貫入確率は、第2の領域22における貫入確率よりも高い。第2の領域22として、本実施形態ではたとえばリヤアクスル46とフロントアクスル44との間の領域を想定することができる。この第2の領域22は、第1の領域12に比べて低い貫入確率を有している。通常、この第2の領域22は、クラッシャブルゾーンに比べて補強された乗員室により形成されていてよい。第2の圧力容器20は、本実施形態では少なくとも部分的にセンタトンネル51内に形成されている。センタトンネル51の領域は、貫入に対して特に良好に保護されている。第2の圧力容器20は、同様に第2の領域22内の別の箇所に配置されていてもよい。
【0031】
図2に図示した代替的な実施例の以下の説明では、
図1に図示した第1の実施例との比較においてその構成および/または作用形式が同一かつ/または少なくとも相応する特徴に対して、同一の参照符号が使用される。これらの特徴がもう一度詳細に説明されることがない限り、その構成および/または構成の作用形式および/または作用形式は、上記で既に説明した特徴に一致する。
【0032】
図2には、側方の両サイドシル53,55が表示されている。これらの各サイドシル53,55内には、本実施形態ではそれぞれ2つの第1の圧力容器10,10が、少なくとも部分的に収容されている。サイドシル53,55は、センタトンネル51よりも高い貫入確率に曝されている。つまり、サイドシル53,55内に少なくとも部分的に配置された第1の圧力容器10,10は、第1の領域12に配置されている。第1の領域12は、本実施形態では少なくとも部分的にセンタトンネル51により形成された第2の領域22に比べて、高い貫入確率を有している。センタトンネル51内には、本実施形態では少なくとも部分的に第2の圧力容器20が収容されている。
【0033】
同様に、
図1および
図2による構成の組み合わせも可能である。つまり換言すると、
図2に示した構成は、リヤアクスルの後方に形成されている別の第1の圧力容器を有していてよい。このような構成では、全ての圧力容器との比較において最大の貫入確率に曝されている第1の圧力容器がまず空にされるか、もしくは最も少なく充填されることが確定されていてよい。
【0034】
図3は、本明細書に開示される方法を示している。方法は、ステップS100で開始する。ステップS200では、第1の圧力容器10の充填状態を表す代表的な値SoC
10,
istが、取出し限界値SoC
10,
grenzに達するか、またはこの取出し限界値SoC
10,
grenzを下回っているか否かが検査される。値SoC
10,
istが、取出し限界値SoC
10,
grenzに達するか、またはこの取出し限界値SoC
10,
grenzを下回っている場合、燃料は、第1の圧力容器10から取り出されるのではなく、専ら第2の圧力容器20から取り出される(S430を参照)。しかし、取出し限界値SoC
10,
grenzに達していない、または取出し限界値SoC
10,
grenzを下回っていない場合、本実施形態では、方法は、選択的なステップS300(破線)において進行させられる。ステップS300において、エネルギ変換器に圧力容器システムによって提供されるべき総燃料流量が、第1の圧力容器10の提供可能な最大の燃料流量R
10,
ist以下であるか否かが検査される。エネルギ変換器に圧力容器システムによって提供されるべき総燃料流量が、第1の圧力容器10の提供可能な最大の燃料流量R
10,
ist以下である場合、第1の圧力容器10は、十分な燃料質量流を提供することができる。この場合、ステップS410において、燃料の取出しは、第1の圧力容器10のみから行われる。しかし、エネルギ変換器に圧力容器システムによって提供されるべき総燃料流量が、第1の圧力容器10の提供可能な最大の燃料流量R
10,
ist以下ではない場合、ステップS420において、燃料の取出しは、第1の圧力容器10から(好適には、最大の取出し流量R
10,
istでの取出し)も、第2の圧力容器20からも行われる。燃料の取出しの途中で充填が行われたか否かの問合わせは、このチャート図では図示されていない。圧力容器システムへの充填が途中で行われた場合には、ステップS200が続行されることになる。
【0035】
読み易さの理由から、簡略的に「少なくとも1つ」という表現は、部分的に省略された。本明細書に開示される技術の特徴が、単数形で、特定されずに記載されている限り(たとえば、第1の圧力容器もしくは第2の圧力容器、第2の領域等)、同時にその複数形も一緒に開示されていると理解すべきである(たとえば、少なくとも1つの第1の圧力容器、少なくとも1つの第2の圧力容器、少なくとも1つの第1の領域、少なくとも1つの第2の領域等)。「実質的に」という用語は(たとえば、「実質的に専ら」)は、本明細書に開示される技術の文脈において、それぞれ正確な特性または正確な値(たとえば、「専ら」)だけでなく、特性/値の機能にとって些細である公差もそれぞれ含まれる(たとえば「許容可能な公差」)。
【0036】
本発明の上述の説明は、例示のためのものであり、本発明を限定することを意図するものではない。本発明およびその等価物の範囲から逸脱することなしに、本発明の範囲内で種々の変更および修正が可能である。