(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】グレージングを製造する方法及びその方法により製造されたグレージング
(51)【国際特許分類】
C03C 17/04 20060101AFI20230829BHJP
C03C 8/14 20060101ALI20230829BHJP
C03C 8/16 20060101ALI20230829BHJP
C03C 27/12 20060101ALI20230829BHJP
B32B 7/027 20190101ALI20230829BHJP
B32B 17/06 20060101ALI20230829BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
C03C17/04 A
C03C8/14
C03C8/16
C03C27/12 Z
C03C27/12 M
B32B7/027
B32B17/06
B32B9/00 A
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021213076
(22)【出願日】2021-12-27
(62)【分割の表示】P 2018520512の分割
【原出願日】2016-10-21
【審査請求日】2022-01-25
(32)【優先日】2015-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2016-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】591229107
【氏名又は名称】ピルキントン グループ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100195556
【氏名又は名称】柿沼 公二
(72)【発明者】
【氏名】アンジェロ コンティ
(72)【発明者】
【氏名】ジョヴァンニ ガリアルディ
(72)【発明者】
【氏名】リアンドロ グラシア
【審査官】須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-538222(JP,A)
【文献】特開2002-038048(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0210122(US,A1)
【文献】特開2001-322835(JP,A)
【文献】特開2009-035444(JP,A)
【文献】特表2004-511581(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0021287(KR,A)
【文献】国際公開第2015/009377(WO,A1)
【文献】特表2008-543938(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 15/00-23/00
C03C 27/12
C03C 1/00-14/00
B32B 1/00-43/00
B60J 1/00-1/20
C09D 1/00-10/00
C09D 101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板の表面の少なくとも第1の部分に接着したエナメルの層を有する前記ガラス基板を含むグレージングであって、前記エナメルは20~80重量%のフリットと、10~50重量%の無機顔料とを含み、前記エナメルの層の厚みは2μm~50μmの範囲にあり、前記無機顔料が、Fe/Cr顔料、Co/Al/Cr顔料、Co/Ti顔料、Co/Cr顔料、Ni/Fe/Cr顔料、Ti/Cr/Sb顔料、Fe顔料、Cr顔料、フェライト顔料、クロマイト顔料、フェライト/クロマイト顔料(鉄クロマイトとしても知られている)、及び/またはこれらの顔料のうちの2つ以上の混合物から選択され、前記無機顔料が、前記ガラス基板の表面のエナメル化された前記第1の部分の赤外反射率が800nm~2250nmの波長範囲内のある領域全体で37%以上であるような、前記赤外反射率を有することを特徴とする、グレージング。
【請求項2】
エナメル化された前記第1の部分が、前記グレージングの周辺部である、請求項1に記載のグレージング。
【請求項3】
乗物のグレージングである、請求項1又は2に記載のグレージング。
【請求項4】
前記ガラス基板が成型されている、請求項1~3のいずれか1項に記載のグレージング。
【請求項5】
前記グレージングのエナメル化された前記第1の部分の前記赤外反射率は、800nm~2250nmの波長範囲内のある領域全体で38%以上、好ましくは39%以上、より好ましくは40%以上、最も好ましくは41%以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載のグレージング。
【請求項6】
前記800nm~2250nmの波長範囲内のある前記領域は400nm以上、好ましくは450nm以上、より好ましくは550nm以上、最も好ましくは610nm以上延びている、請求項1~5のいずれか1項に記載のグレージング。
【請求項7】
前記エナメルは10重量%~40重量%、好ましくは15重量%~35重量%の無機顔料を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載のグレージング。
【請求項8】
前記エナメルが30重量%~80重量%、好ましくは35重量%~75重量%のフリットを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載のグレージング。
【請求項9】
前記無機顔料が実質的にスピネル結晶構造、逆スピネル結晶構造、ヘマタイト結晶構造、コランダム結晶構造、またはルチル結晶構造を示す物質を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載のグレージング。
【請求項10】
前記無機顔料が
、ピグメントグリーン50(CI77377)、ピグメントブラック30(NiCr
Feタイプ、CI77504)、ピグメントブラック33(CI77537)、ピグメントブルー36(CI77343)、ピグメントグリーン17(FeCrタイプ、CI77288)、ピグメントブラウン35(FeCrタイプ、CI77501)、ピグメントブラウン24(CI77310)、ピグメントブラウン29(FeCrタイプ、CI77500)
、ピグメントブラウン33(ZnFeCrタイプ、CI77503)のうちの1つ以上から選択される、請求項1~9のいずれか1項に記載のグレージング。
【請求項11】
前記エナメルが、前記エナメルの総重量の5重量%以上の量で、好ましくは、前記エナメルの総重量の10重量%以上の量で、より好ましくは前記エナメルの総重量の15重量%以上の量で、最も好ましくは前記エナメルの総重量の20重量%以上の量で鉄(Fe
2O
3として決定される)を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載のグレージング。
【請求項12】
前記エナメルが、前記エナメルの総重量の5重量%以上の量で、好ましくは前記エナメルの総重量の10重量%以上の量で、より好ましくは前記エナメルの総重量の15重量%以上の量で、最も好ましくは前記エナメルの総重量の20重量%以上の量でクロム(Cr
2O
3として決定される)を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載のグレージング。
【請求項13】
前記エナメルが、前記エナメルの総重量の25重量%以下の量でクロム(Cr
2O
3として決定される)を含む、請求項1~12のいずれか1項に記載のグレージング。
【請求項14】
前記ガラス基板に接着した前記エナメル層の厚みが4μm~45μm、好ましくは、6μm~40μm、より好ましくは8μm~35μm、最も好ましくは10μm~30μmの範囲にある、請求項1~13のいずれか1項に記載のグレージング。
【請求項15】
グレージングを製造する方法であって、前記方法は、
ガラス基板を提供することと、
20~80重量%のフリット、10~50重量%の無機顔料、及び10~40重量%の液体媒体を含むエナメルインクを提供することと、
前記エナメルインクを前記ガラス基板の表面の少なくとも第1の部分に塗布することと、
任意に前記インクを乾燥及び/または硬化することと、任意に480℃より高い温度に前記インクを前焼成することと、
570℃を超える温度に加熱することにより前記ガラス基板を成型し、それにより前記エナメルインクを焼成して、前記ガラス基板の前記表面の前記少なくとも第1の部分に接着したエナメルの層を製造することと、を含み、前記エナメルの層の厚みは2μm~50μmの範囲にあり、
前記無機顔料が、Fe/Cr顔料、Co/Al/Cr顔料、Co/Ti顔料、Co/Cr顔料、Ni/Fe/Cr顔料、Ti/Cr/Sb顔料、Fe顔料、Cr顔料、フェライト顔料、クロマイト顔料、フェライト/クロマイト顔料(鉄クロマイトとしても知られている)、及び/またはこれらの顔料のうちの2つ以上の混合物から選択され、前記無機顔料が、前記ガラス基板の前記表面のエナメル化された前記第1の部分の赤外反射率が800nm~2250nmの波長範囲にある領域全体で37%以上であるような、前記赤外反射率を有することを特徴とする、方法。
【請求項16】
エナメル化された前記第1の部分が、前記グレージングの周辺部である、請求項
15に記載の方法。
【請求項17】
前記グレージングが乗物のグレージングである、請求項
15又は16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエナメル部分を有するガラス基板を含むグレージング、自動車用及び建築用グ
レージングを含む積層グレージング、そのようなグレージングを製造する方法、ならびに
成型された積層グレージングを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、スクリーン印刷によりエナメルインクをガラスに印刷することが知られている
。エナメルインクは典型的にはフリット(フラックス)、顔料とエナメルインクのスクリ
ーン印刷の特性を改善するためのビヒクルとして機能する液体成分(例えばオイル)を含
む。スクリーン印刷の後、エナメルインクは硬化(例えば、紫外線照射による)または乾
燥(例えば約300℃まで加熱することにより)され得る。そして次に高温に加熱するこ
とにより焼成されフラックスを溶融して、エナメルのガラスの表面への優れた接着を確保
する。そのようなエナメルは、一度焼成されると気候及び摩滅に耐える。ガラス上のエナ
メル領域は、例えば、自動車用途において、自動車のグレージングの周辺域に塗布される
ことにより、日光/紫外(UV)光から接着剤を隠し、保護するなど種々の使用を有し得
る。エナメルのそのようなバンドは一般に掩蔽バンドとして知られ、可視光やUV光に不
透明な黒いまたは非常に暗いエナメルからなる。他の用途ではエナメルは他の技術により
適用され得、他の色を有して、種々の程度で可視光と他の波長を吸収できる。エナメルは
、模様等の種々の形態で塗布され得る。エナメルの別の用途は、日照調整である。
【0003】
US-B-6,171,383は、特に赤外(IR)領域で改善された反射率特性をも
つビスマスマンガンオキサイド緑色顔料を開示している。
【0004】
US-B-6,174,360は、無機着色顔料の固溶体を開示している。特に、これ
は無機着色顔料として有用なコランダム-ヘマタイト結晶構造を有する固溶体を開示しし
ており、それらのいくつかは、低いY CIE三刺激値と電磁波スペクトルの近赤外部に
おいて高い反射率を示している。
【0005】
US-B-6,416,868は、プラスチック、ガラス、セラミック、ペイント、エ
ナメル、インク、及び他の種類の材料用の顔料を開示しており、特に顔料としてアルカリ
土類酸化マンガン組成物の使用に関する。
【0006】
US-A-2015/0152238は、高い日光反射率の黒色顔料を、特に(Cr,
Fe)2O3固溶体を含む黒色顔料を開示している。
【0007】
US-B-8,546,475は、鉄とマンガンを含む赤外光を反射する黒色顔料を開
示している。
【0008】
ガラス上に印刷されたエナメルを焼成する、及びまた印刷されたガラス基板を成型する
種々のプロセスが開示されている。
【0009】
EP-A-0415020(US-B-4,954,153に相当する)は、ガラスの
光学的品質に悪い影響を与えることなく装飾的セラミックエナメル周縁を有するガラス板
を優先して加熱する方法を開示している。優先的加熱は、エナメルをガラスよりも迅速に
加熱するように、ガラスよりもエナメルにより容易に吸収される選択された波長で熱エネ
ルギーを放射するヒーターを用いることにより達成される。1つの特定の実施形態では、
セラミックエナメルの周縁をもつガラスはその歪点より高い温度まで予熱される。コート
されたガラスは次に石英管ヒーターに曝され、ガラス上にエナメルを焼成するのに十分に
高い温度にまで優先的にエナメルを加熱する。セラミックエナメルは、次にガラスの他の
部分の温度にまで冷却される。
【0010】
US-B-5,443,669は、1つまたは2つの曲線をもつ積層ガラス板を製造す
る方法、特に自動車用、さらにとりわけ印刷された模様をもつガラス板を製造する方法、
特に模様が周縁であり得る自動車用フロントガラスを製造する方法を開示している。印刷
された模様はガラスフラックスペースト、少なくとも1つのセラミック顔料、バインダー
形成成分及び有機スクリーン印刷オイルを含むスクリーン印刷可能なエナメルインクを使
用して形成される。
【0011】
WO2013/023832A1は、その表面の少なくとも一部にエナメルコーティン
グを含む自動車用グレージングを開示している。前記コーティングは、光の伝達に対する
障害として作用する。グレージングは、エナメルコーティングが800nmより長い波長
の10%より多く、好ましくは15%より多く反射することを特徴とする。これは熱処理
の間、特に曲げ加工の間の、グレージングのエナメル化されていない部分と比較してエナ
メル化された部分による赤外放射の吸収の違いから生じるガラス板の温度の制御の難しさ
に応じるためである。
【0012】
先に述べたように、自動車では(及び他のグレージングでは)エナメルはグレージング
の周縁に掩蔽バンドを加えるために使用できる。積層ガラス、例えば、フロントガラスで
は、掩蔽バンドは表面4(つまり、取り付けられたとき乗物の内側の積層体の外部表面)
に印刷でき、または積層体の内部表面(例えば、表面2、取り付けられたとき、積層体の
内側にあるガラス/ポリマーの界面であって、ガラスプライの内側表面により形成され、
前記ガラスプライの他の表面は乗物の外側にある積層体の外側表面を形成する)に印刷で
きる。そのようなバンドは不透明であり固定具のようなグレージング上の部品を隠すこと
に、またUV保護を、例えばグレージングを適所に固定するために使用される接着剤に与
えることに役立つ。掩蔽バンドをもつグレージングは通常、エナメルがガラス基板に塗布
された後、高温に加熱することにより成型される。エナメルは加熱工程により焼成される
ことが多い。
【0013】
成型後、ガラスの印刷領域/非印刷領域の間の境界で光学的な歪みが生じる場合がある
。そのような光学的な歪みは、Mika Eronen による、”SAG Bendi
ng Windshields Introduction of Key Proce
ss Parameters to Superior Optical Qualit
y” (2012, Safety Glass Experts Internati
onal Oy Ltd)で論じられているとおり、「バーンライン」(burnlin
e)と呼ばれることがある。
【0014】
温度面の点から曲げプロセスのパラメーターを変えることによりバーンラインを減らす
もしくは除くこと、ならびに/またはガラス曲げ器具/鋳型上の遮蔽の設計、製作及び取
り付けが試みられてきた。他の試みられた解決法は、Kris Vocklerによる”
Solutions to Common Obscuration Band Pro
blems”(2013,www.icdcoatings.com)で述べられている
ように、常に掩蔽バンドを積層体の内側表面(例えば、表面2または表面3)に印刷する
ことを含む。
【0015】
残念ながら、そのような試みられた解決法は、不満足なものであって、遮蔽の設計、製
作、取り付け及び製造の最適化のための多くの余分な費用と時間のような不都合がある。
また、成型ガラスの他の領域の全体的な光学的品質は、追加された遮蔽により悪影響を受
ける場合がある。さらに、試みられた解決法は、焼成中に掩蔽バンドのエナメルインクに
より起こされるさらなる美観上の問題につながる場合がる。
【0016】
本発明の発明者らは、驚くべきことにエナメルの特性を修飾することがバーンライン歪
みを減らすまたは防ぐことができ、それにより先に試みられた解決法の問題を避け得るこ
とを発見した。
【発明の概要】
【0017】
第1の態様では、本発明はしたがって、ガラス基板の表面の少なくとも第1の部分に接
着されたエナメル層を有するガラス基板を含むグレージングであって、エナメルは20~
80重量%のフリット及び10~50重量%の無機顔料を含み、エナメルの層の厚みは2
μm~50μmの範囲にあり、無機顔料が、ガラス基板の表面の第1の部分の赤外反射率
が800nm~2250nmの波長範囲内のある領域全体で37%以上であるように赤外
反射率を有することを特徴とする、グレージングを提供する。
【0018】
他の態様では、本発明はガラス基板の表面の少なくとも第1の部分に接着されたエナメ
ルを有するガラス基板を含むグレージングであって、エナメルはフリット及び無機顔料を
含み、エナメルが、ガラス基板の表面の第1の部分の赤外反射率が800nm~2250
nmの波長範囲内のある領域全体で、27%以上であるように適合されることを特徴とす
るグレージングを提供する。
【0019】
エナメルの特性を変えてNIR(近赤外)とIR(赤外)の波長領域の反射率スペクト
ルを大きくする(これは、特に中間的温度及び高温において、印刷されたガラス表面と印
刷されないガラス表面の間の放射率の違いを少なくすることと等価でありえる)ことによ
り、バーンラインの歪みが大きく減少または除去されるので、これは非常に有利である。
したがって、本発明は印刷/非印刷領域において光学的品質の点で、従来試みられた解決
法よりも非常に良好な結果を与え、遮蔽を備えた高価な曲げ鋳型を開発、製造及び組み立
てる必要がなく、ガラス成型においてより良好な全体的な光学的品質をも与える。さらに
、本発明は焼成下でエナメルから生じる問題を避け、または少なくする。
【0020】
IR反射率特性を与えるためのエナメルの適合化は、適切な顔料を選択すること、エナ
メル中の顔料(及び/またはフリット)の量と比率を調整すること、及び/またはエナメ
ルの厚みを調整すること(例えば、スクリーン印刷される場合、スクリーンのスレッド/
cmを変えることにより)によることができる。これら全ては以下で論じられるとおりで
ある。
【0021】
一般的に、エナメルは可視光に対して実質的に不透明であるように適合され得、その結
果、グレージングのエナメル化された最初の部分のISO9050可視光透過率は1%以
下、好ましくは、0.5%以下、及びさらに好ましくは0.1%以下である。不透明なエ
ナメルは、ガラス上に模様や遮蔽を与え得るので有利である。
【0022】
ガラス基板は成型されていなくてもよい(例えば、それは、ガラスの平らな板であって
もよい)が、しかし成型及び/または強化のため、後の加熱処理プロセスを経ることが意
図されてもよい。しかし、好ましくは成型ガラス基板である。通常、エナメルは平らなガ
ラス基板に塗布され、その後成型される。エナメルは、熱処理の間に焼成されてガラス基
板を成型し単一の加熱工程を可能にするので、これは一般に有利である。いくつかの状況
では、しかし、エナメルは、成型されたガラス基板に塗布されてもよい。この場合、エナ
メルは通常、その後焼成されよう。
【0023】
エナメルは図柄を与えるため着色されることができ、好ましくは非常に暗くでき、より
好ましくは可視色の中では実質的に黒であることができる。通常、ガラス基板の表面のエ
ナメル化された第1の部分はグレージングの周辺部を形成してもよい。そのため、好まし
くは、エナメル化されたガラス基板の表面の第1の部分は掩蔽バンドを形成できる。
【0024】
グレージングの第1の部分の赤外反射率は、800nm~2250nmの波長範囲内の
ある領域全体で、38%以上でありえることが好ましく、好ましくは39%以上、より好
ましくは40%以上、最も好ましくは41%以上でもよい。
【0025】
好ましくは、800nm~2250nmの波長範囲内のある領域は400nm以上、好
ましくは450nm以上、より好ましくは550nm以上、最も好ましくは610nm以
上に延びる。800nm~2250nmの波長範囲内のその領域は650nmを超え、7
00nmを超え、750nmを超え、800nmを超え、また825nmをすら超えて延
びてもよい。
【0026】
好ましくは、エナメルは、適切な赤外及び/または近赤外反射性顔料を選択し、エナメ
ルに適量で赤外反射性顔料を含めることによりIR反射性を与えるように適合される。良
好なIR反射性、良好な色、及び/または十分な可視不透明性を確保するため、エナメル
は10重量%~50重量%の無機顔料を、好ましくは10重量%~40重量%、より好ま
しくは15重量%~35重量%を含む。あるいは、無機顔料の量は10重量%~15重量
%または40重量%~50重量%であることができる。
【0027】
赤外反射性無機顔料は、約0.1重量%~50重量%、または約1重量%~45重量%
、または約5重量%~40重量%、または10重量%~35重量%、または15重量%~
30重量%の量でエナメルを印刷するために使用されるセラミックインクに含まれてもよ
い。好ましくは、赤外または近赤外反射性無機顔料は約10重量%~約40重量%の範囲
の量で、例えば、約20重量%~約30重量%、または約22重量%~約28重量%でセ
ラミックインクに含まれ得る。
【0028】
無機顔料それのみの、つまりエナメルインクに含ませる前にそれのみで測定された顔料
の赤外反射率は40~90%、好ましくは50~85%の範囲であることができる。
【0029】
エナメルは焼成の間に溶け、基板と化学的及び機械的に結合するガラス質の層を作るフ
リット粒子を含む。無機顔料は細かく分割された形で提供され、顔料粒子はフリットから
形成されたガラス質の層に分散されている。エナメルは20重量%~80重量%のフリッ
ト、好ましくは30重量%~75重量%を含む。あるいは、エナメルは20重量%~40
重量%または60重量%~80重量%のフリットを含むことができる。
【0030】
フリットは、通常、シリカと酸化金属を含むことができ、好ましくは酸化物フリットは
、環境及び健康への配慮に適合するよう鉛またはカドミウムを含まない。
【0031】
酸化物フリットはシリカ、チタニア、アルミナ、ジルコニア、フッ素イオンを有する化
合物(例えば、フルオライト、フルオラパタイト、クリオライトなど)、酸化ビスマス、
酸化亜鉛、酸化ホウ素、酸化カリウム、酸化ナトリウム、酸化カルシム、酸化バリウム、
酸化鉛、酸化リチウム、酸化リン、酸化モリブデン、酸化ストロンチウム、酸化マグネシ
ムから選ばれる少なくとも1つの化合物の粒子を含み得る。いくつかの実施形態では、多
数の酸化物フリットが調合され得、及び/または酸化物フリットの粒子サイズは所望の特
性(例えば融点)を達成するために管理できる。例えば、いくつかの実施形態では、使用
される酸化物フリットは、20ミクロン未満のサイズをもつ粒子を使用できる。酸化物フ
リットについて有利なD50値は約2ミクロン~6ミクロンに及んでもよい。1つ以上の
実施形態では、酸化物フリットは約20重量%~80重量%、または30重量%~70重
量%、または40重量%~60重量%の量でセラミックインク組成物に含まれてもよい。
【0032】
シリカが酸化物フリットに含まれるとき、それはセラミックインク組成物中に約1重量
%~60重量%、または約5重量%~55重量%、または約10重量%~45重量%、ま
たは約15重量%~35重量%、または約18重量%~28重量%の量でセラミックイン
ク組成物に含まれることができる。
【0033】
酸化ビスマスが酸化物フリットに含まれるとき、それは、約5重量%~75重量%、ま
たは約10重量%~約70重量%、または約15重量%~65重量%、または18重量%
~62重量%の量でセラミックインク組成物に含まれ得る。
【0034】
フッ素イオンを有する化合物が酸化物フリットに含まれるとき、それらは約0.1重量
%~5重量%、または約0.5重量%~4重量%、または約1重量%~3重量%の範囲の
量でセラミックインク組成物に含まれ得る。
【0035】
酸化亜鉛が酸化物フリットに含まれるとき、それは約0.1重量%~60重量%、また
は約0.5重量%~55重量%、または約0.75重量%~50重量%、または約1重量
%~約45重量%、または約1.25重量%~約40重量%、または約1.5重量%~約
30重量%、または約1.75重量%~約20重量%、または約2重量%~約10重量%
、または約2.25重量%~約8重量%の範囲の量でセラミックインク組成物に含まれ得
る。
【0036】
酸化カリウムが酸化物フリットに含まれるとき、それは約0.1~5重量%、または約
0.5重量%~4重量%、または約1重量%~3重量%の範囲の量でセラミックインク組
成物に含まれ得る。
【0037】
酸化ナトリウムが酸化物フリットに含まれるとき、それは約1重量%~約20重量%、
または、約1.25重量%~約15重量%、または約1.5重量%~約10重量%、また
は約2重量%~約5重量%の範囲の量でセラミックインク組成物に含まれ得る。
【0038】
酸化リチウムが酸化物フリットに含まれるとき、それは約0.1重量%~5重量%、ま
たは約0.5重量%~4.5重量%、または約1重量~4重量%の範囲の量でセラミック
インク組成物に含まれ得る。
【0039】
ジルコニアが酸化物フリットに含まれるとき、それは、約0.1重量%~15重量%、
または約0.25重量%~10重量%、また約0.5重量%~5重量%の範囲の量でセラ
ミックインク組成物に含まれ得る。
【0040】
チタニアが酸化物フリットに含まれるとき、それは約0.1重量%~15重量%、また
は約0.5重量~12重量%、または約1重量~10重量%の範囲の量でセラミックイン
ク組成物に含まれ得る。
【0041】
酸化ストロンチウムが酸化物フリットに含まれるとき、それは約0.1重量%~5重量
%、または約0.25重量%~2.5重量%、または約0.5重量%~2重量%の範囲の
量でセラミックインク組成物に含まれ得る。
【0042】
酸化カルシムが酸化物フリットに含まれるとき、それは約0.1重量%~5重量%、ま
たは約0.5重量%~4重量%、または約1重量%~3重量%の範囲の量でセラミックイ
ンク組成物に含まれ得る。
【0043】
酸化マグネシウムが酸化物フリットに含まれるとき、それは約0.1重量%~5重量%
、または約0.25重量%~2.5重量%、または約0.5重量%~2重量%の範囲の量
でセラミックインク組成物に含まれ得る。
【0044】
酸化モリブデンが酸化物フリットに含まれるとき、約0.1重量%~5重量%、または
0.25重量%~2.5重量%、または約0.5重量%~2重量%の範囲の量でセラミッ
クインク組成物に含まれ得る。
【0045】
酸化リンが酸化物フリットに含まれるとき、それは約0.1重量%~5重量%、または
約0.5重量%~4重量%、または約1重量%~3重量%の範囲の量でセラミックインク
組成物に含まれ得る。
【0046】
アルミナが酸化物フリットに含まれるとき、それは、約0.1重量%~5重量%、また
は約0.5重量%~4重量%、または約1重量%~3重量%の範囲の量でセラミックイン
ク組成物に含まれ得る。
【0047】
酸化ホウ素が酸化物フリットに含まれるとき、それは約0.1重量%~40重量%、ま
たは約1重量%~35重量%、または約2.5重量%~約30重量%、または約5重量%
~約25重量%、または約7.5重量%~約20重量%、または約10重量%~約15重
量%の範囲の量でセラミックインク組成物に含まれ得る。
【0048】
特定の化合物について、上記範囲内に含まれる値のいずれかは、前記化合物の範囲内に
含まれるいずれか他の値と組み合わされ、さらに限定された重量パーセントの範囲を作り
得ることが、本開示に上記化合物を特定の重量パーセント範囲で含める明白な目的である
。さらに、多数の化合物が、それらの相対量が上記に開示された重量パーセントの範囲内
にある限り、または、特定の化合物に関する範囲内に含まれるいずれかの値と、その化合
物に関する範囲内に含まれるいずれか他の値との組み合わせであり得るより限定された重
量パーセントの範囲内にある限り、本開示に従い前記酸化物フリットに含まれ得る。
【0049】
1つ以上の実施形態においては、フリットは酸化亜鉛と、シリカ、フッ素イオンを有す
る化合物、酸化カリウム、酸化ナトリウム、酸化リチウム、ジルコニア、チタニア、酸化
ストロンチウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化モリブデン、酸化リン、アル
ミナ及び酸化ホウ素のうちの少なくとも1つ、を含む亜鉛ベースのフリットであり得る。
例えば、ある実施形態では、亜鉛ベースのフリットは約5重量%~55重量%のシリカ、
約0重量%~5重量%のフッ素含有化合物、約10重量%~50重量%の酸化亜鉛、約0
重量%~5重量%の酸化カリウム、約0重量%~15重量%の酸化ナトリウム、約0重量
%~4重量%の酸化リチウム、約0重量~10重量%ジルコニア、約0重量%~約10重
量%チタニア、約0重量%~2重量%の酸化ストロンチウム、約0重量%~5重量%酸化
カルシウム、約0重量%~2重量%の酸化マグネシウム、約0重量%~2重量%酸化モリ
ブデン、約0重量%~5重量%の酸化リン、約0重量%~5重量%のアルミナ、及び約1
0重量%~28重量%の酸化ホウ素を含み得る。
【0050】
例えば、亜鉛ベースのフリットは下記表1に示される実施形態1~3に従い調合され得
る。
【表1】
【0051】
1つ以上の実施形態では、フリットは酸化ビスマスと、シリカ、酸化亜鉛、フッ素イオ
ンを含む化合物、酸化カリウム、酸化ナトリウム、酸化リチウム、ジルコニア、チタニア
、酸化ストロンチウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化モリブデン、酸化リン
、アルミナ及び酸化ホウ素のうちの少なくとも1つを含むビスマスベースのフリットであ
り得る。
【0052】
例えば、ある実施形態では、ビスマスベースのフリットは約3重量%~40重量%のシ
リカ、10重量%~65重量%の酸化ビスマス、0重量~5重量%のフッ素含有化合物、
0重量%~20重量%の酸化亜鉛、0重量%~5重量%の酸化カリウム、0重量%~8重
量%の酸化ナトリウム、0重量%~4重量%の酸化リチウム、0重量%~6重量%のジル
コニア、0重量%~10重量%のチタニア、0重量%~2重量%の酸化ストロンチウム、
0重量%~5重量%の酸化カルシウム、0重量%~2重量%の酸化マグネシウム、0重量
%~2重量%の酸化モリブデン、0重量%~5重量%の酸化リン、0重量%~5重量%の
アルミナ、及び2重量%~20重量%の酸化ホウ素を含み得る。
【0053】
他の実施形態では、ビスマスベースのフリットは約10重量%~30重量%のシリカ、
40重量%~65重量%の酸化ビスマス、1重量%~10重量%の酸化亜鉛、0.05重
量%~2重量%の酸化カリウム、1重量%~6重量%の酸化ナトリウム、0.05重量%
~2重量%ジルコニア、0.5重量%~5重量%のアルミナ、及び6重量%~16重量%
の酸化ホウ素を含み得る。さらに他の実施形態では、ビスマスベースのフリットは約13
重量%~23重量%のシリカ、50重量%~65重量%の酸化ビスマス、2重量%~6重
量%の酸化亜鉛、0.05重量%~0.5重量%の酸化カリウム、2重量%~5重量%の
酸化ナトリウム、0.1重量%~1重量%のジルコニア、1重量%~4重量%のアルミナ
、及び8重量%~15重量%の酸化ホウ素を含み得る。
【0054】
例えば、ビスマスベースのフリットは、下記表2に示す実施形態4~6により調合でき
る。
【表2】
【0055】
フリット(フラックスとしても知られている)は、ガラス組成物であり得、例えば、ケ
イ酸ホウ素ガラス組成物であり得る。フリットは、エナメルのケイ素/ホウ素(Si/B
)重量%比が10以下、8以下、6以下、4以下、3以下、好ましくは2以下、またはよ
り好ましくは1.5以下であり得る。
【0056】
SiとBの含量を決定するエナメルの分析は、ケイ素についてX線蛍光(XRF)によ
り、ホウ素について誘導結合プラズマスペクトル分析によることができる。一般に、Si
/Biの比はガラス基板上に一度焼成されたエナメルにおける重量%での比であり得る、
またはエナメル化される部分を作るのに用いられるエナメルインクの重量%(乾燥重量ベ
ース)での比であり得る。
【0057】
驚くべきことに、適した赤外反射性無機顔料は、実質的にスピネル結晶構造、逆スピネ
ル結晶構造、ヘマタイト結晶構造、コランダム結晶構造、またはルチル結晶構造を示す物
質を含む無機顔料であり得る。好ましい顔料は実質的にコランダム結晶構造を示す物質を
含む。
【0058】
適した無機顔料はFe/Cr顔料、Co/Al顔料、Co/Al/Cr顔料、Co/T
i顔料、Co/Cr顔料、Ni/Fe/Cr顔料、Ti/Cr/Sb顔料、Fe顔料、C
r顔料及び/またはこれらの顔料の2つ以上の混合物から選択される顔料を含み得る。好
ましい無機顔料はFe顔料である。最も好ましい顔料は鉄とクロムの両者を含む。Fe/
Cr顔料は、例えば、CrFeO3(酸化クロム鉄)であり得、好ましくはコランダム型
構造(例えば、斜方面体晶系)で含む。
【0059】
より具体的には、適した無機顔料は、ピグメントブルー28(CI77346;CAS
1345-16-0)、ピグメントブルー29(CI77007;CAS57455-3
7-5、67053-79-6)、ピグメントグリーン50(CI77377、CAS6
8186-85-6)、ピグメントブラック30(CI77504、CAS71631-
15-7)、ピグメントブラック33(CI77537、CAS68186-94-7)
、ピグメントブルー36(CI77343、CAS68197-11-1)、ピグメント
グリーン17(CI77288、CAS68909-79-5);ピグメントブラウン3
5(CI77501、CAS68187-09-7)、ピグメントブラウン24(CI7
7310、CAS68186-90-3)、ピグメントブラウン29(CI77500、
CAS12737-27-8)、ピグメントイエロー164(CI77899、CAS6
8412-38-4)、ピグメントブラウン33(CI77503、CAS68186-
88-9)のうちの1つ以上から選択され得る。ここで、CI番号はカラーインデックス
インターナショナル標準データベース(the Colour Index Inter
national reference database)(英国染料染色学会及び米
国繊維化学技術・染色技術協会による共同運営)を示す。CASはケミカルアブストラク
トサービス登録番号、またはCAS番号を示すもので、つまり、全ての化学物質にCAS
により割り当てられた識別番号である。
【0060】
一般的に、好ましい無機顔料はクロム-鉄顔料から選ぶことができ、好ましくはフェラ
イト顔料から、加えてまたは代わって、クロム鉄鉱またはフェライト/クロム鉄鉱(鉄ク
ロマイトとしても知られている)顔料から選ぶことができる。特に適した顔料はピグメン
トブラウン33(ZnFeCrタイプ、CI77503、CAS68186-88-9)
、ピグメントブラウン29(FeCrタイプ、CI77500、CAS12737-27
-8)、クロムグリーンブラックヘマタイトピグメントグリーン17(FeCrタイプ、
CI77288、CAS68909-79-5)、ピグメントブラウン35(FeCrタ
イプ、CI77501、CAS68187-09-7)、ピグメントブラック30(Ni
CrMnタイプ、CI77504、CAS71631-15-7)から選ぶことができる
顔料を含む。
【0061】
最も好ましい顔料は、酸化クロム鉄ピグメントブラウン29(CI77500 CAS
12737-27-8)、ピグメントブラック30(CI77504、CAS71631
-15-7)、クロムグリーンブラックヘマタイト(CI77288、CAS68909
-79-5)及び酸化クロム鉄ニッケルから選ばれる。
【0062】
先に論じたように、好ましい顔料は鉄(特に、鉄III)を含む。したがって、エナメ
ルが鉄(Fe2O3として決定される)をエナメルの総重量の5重量%以上の量で含めば
好ましい、好ましくはエナメルの総重量の10重量%以上の量、より好ましくはエナメル
の総重量の15重量%以上の量、及び最も好ましくはエナメルの総重量の20重量%以上
の量で含む。一般に、鉄の重量%はガラス基板に一度焼成されたエナメル中の鉄の重量%
でもよく、またはエナメル化された部分を作るために使用されるエナメルインク中の鉄の
重量%(乾燥重量ベース)であり得る。鉄含量の決定はXRFまたはEDS及び/または
湿式化学法によりなされ得る。
【0063】
エナメルがクロム(Cr2O3として決定される)をエナメルの総重量の5重量%以上
の量で含むことが好ましい。好ましくはエナメルの総重量の10重量%以上の量で、より
好ましくはエナメルの総重量の15重量%以上の量で及び最も好ましくは、エナメルの総
重量の20重量%以上の量で含む。一般に、クロムの重量%はガラス基板上に一度焼成さ
れたエナメル中のクロムの重量%、またはエナメル化された部分を作るため使用されるエ
ナメルインク中のクロムの重量%(乾燥重量ベース)であり得る。クロム含量の決定はX
RF、SEM、または湿式化学法によりなされ得る。
【0064】
好ましくは、エナメルはエナメルの総重量の25重量%以下の量でクロム(Cr2O3
として決定される)を含む。
【0065】
一般に、エナメル層は適切な可視及びIR特性を与えるのに十分な厚みをもつであろう
。したがって、好ましくは焼成後ガラス基板に接着されたエナメル層の厚み(または、例
えば、エナメル層が積層体の一表面より多くで印刷される場合、2つ以上のエナメル層の
厚みの合計)は、2μm~50μmの範囲、好ましくは4μm~40μm、より好ましく
は6μm~35μm、最も好ましくは9μm~30μmの範囲にあり得る。
【0066】
先に論じたように、本発明の大きな利点は、大きくバーンラインの光学的歪みを減らす
ことである。これは、例えば自動車のフロントガラスに使用され得る積層グレージングに
特に重要であり得る。
【0067】
したがって、本発明は、第2の態様において、第1の態様によるガラス基板を含む第1
のガラスプライと、第2のガラスプライと、第1のガラスプライと第2のガラスプライと
の間に延びる、つまりプライの間に「サンドイッチ」された中間層のポリマープライとを
含む積層グレージングを提供する。
【0068】
本グレージングは、特に、乗物のグレージング(例えば、自動車、列車、船、飛行機)
及び/または建築用グレージングまたはストーブ、オーブンまたは大型家電製品(例えば
、フリーザーまたは冷蔵庫)のガラス、またはディスプレイカウンターまたはディスプレ
イキャビネットのガラスになり得る。
【0069】
したがって、本発明は第3の態様において、第1または第2の態様に全般的に従う自動
車用グレージングを提供する。
【0070】
本発明は、第4の態様において、本発明の第1または第2の態様に全般的に従う建築用
グレージングを提供する。
【0071】
本発明によるグレージングはガラス基板の表面にエナメルインクを印刷し、任意に、イ
ンクを乾燥及び/または硬化し、続いて、多くはガラス成型工程において、加熱すること
により作り得る。好ましくは、エナメルインクは平らなガラス基板に印刷され、これは続
いて成型される。いくつかの場合、エナメルインクは、しかし、成型されたガラス基板上
に印刷され、任意に乾燥され及び/または硬化され、そして続いて焼成される。通常、印
刷する方法はスクリーン印刷であり、しかし、パッド印刷(タンポグラフィー)またはイ
ンクジェット及び/またはデジタル印刷という他の方法等の他の方法も適し得る。
【0072】
1つ以上の実施形態では、セラミックインクは無機顔料を懸濁するために使用される液
体媒体(また、ビヒクルまたは担体として知られている)と酸化物フリットを含み、それ
らは焼成前に基板表面に均一に、一様に塗布できる。液体媒体は溶媒(例えばアルコール
)、有機オイル(例えば、1つ以上のテルペン類)、ポリマー前駆体(例えば、インクが
UV照射により硬化されることが意図されている場合、アクリレート前駆体)、及び/ま
たは粘度調整添加剤(例えば、1つ以上のグリコール、例えば、ブチルグリコール)を含
み得る。液体媒体は、任意の乾燥、任意の前焼成または加熱処理プロセスにおいて蒸発ま
たは他の方法で除去されるようなものであるべきである。ビヒクルまたは担体は、セラミ
ックインク組成物内に約10重量%~40重量%、好ましくは約15重量%~35重量%
、より好ましくは約20重量%~30重量%、の量で含まれる。
【0073】
1つ以上の実施形態では、ビヒクルは2,2,4-トリメチルペンタンジオールモノイ
ソブチレート、アルファ-テルピネオール、ベータ-テルピネオール、ガンマテルピネオ
ール、トリデシルアルコール、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコ
ールブチルエーテル、松根油、植物油、鉱油、低分子量石油フラクション、トリデシルア
ルコール、合成または天然樹脂(例えば、セルロース樹脂またはアクリル樹脂)、PM(
プロピレングリコールモノメチルエーテル)、DPM(ジプロプレングリコールモノメチ
ルエーテル)、TPM(トリプロピレングリコールモノメチルエーテル)、PnB(プロ
ピレングリコールモノn-ブチルエーテル)、DPnB(ジプロプレングリコールモノブ
チルエーテル)、TPNB(トリプロピレングリコールモノn-ブチルエーテル)、Pn
P(プロピレングリコールモノプロピルエーテル)、DPnP(ジプロピレングリコール
モノプロピルエーテル)、TPNB-H(プロピレングリコールブチルエーテル)、PM
A(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)、Dowanol DB(ジ
エチレングリコールモノブチルエーテル、(Dow Chemical Company
、USA)より入手可能)または他のエチレンまたはプロピレングリコールエーテルのよ
うな有機溶媒を含む。いくつかの実施形態では、ビヒクルは2つ以上の異なる有機溶媒の
混合物であり得る。
【0074】
さらに、セラミックインク組成物は、セラミックインク組成物及び/または,その焼成
から得られるエナメル膜の特性を調整するため湿潤剤、分散剤、均染剤(levelli
ng agents)、レオロジー修飾剤等を含み得る。
【0075】
したがって、第5の態様では、本発明はグレージングを製造する方法を提供する。この
方法は、ガラス基板を提供することと、20重量%~80重量%のフリット、10重量%
~50重量%の無機顔料、及び10重量%~40重量%の液体媒体を含むエナメルインク
を提供することと、ガラス基板の表面の少なくとも第1の部分にエナメルインクを塗布す
ることと、任意にエナメルインクを乾燥及び/または硬化することと、任意に、約480
℃より高い温度にエナメルインクを前焼成することと、570℃より高い温度に加熱し、
それによりエナメルインクを焼成し、ガラス基板の表面の少なくとも第1部分に接着した
エナメルの層を作ることと、ここでエナメルの層の厚みは2μm~50μmの範囲にあり
、を含み、無機顔料が、ガラス基板の表面の第1の部分の赤外反射率が800nm~22
50nmの波長範囲内のある領域全体で、37%以上であるような赤外反射率を有するこ
とを特徴とする。
【0076】
先に述べたように、液体媒体は好ましくは溶媒、有機オイル、重合性前駆体及び/また
は粘度調整添加剤を含む。
【0077】
通常、エナメルインクを塗布する方法はガラス基板の表面の少なくとも第1の部分に、
好ましくはガラス基板の表面の周辺部分に、インクを印刷することによる。好ましくは、
エナメルインクはスクリーン印刷により塗布される。
【0078】
本明細書で論じたように、グレージングは積層されたグレージングであり得る。したが
って、第6の態様では、本発明は成型された積層グレージングを製造する方法を提供する
。この方法は第1のガラス基板及び第2の基板を提供することと、20~80重量%のフ
リット、10~50重量%の無機顔料及び10~40重量%の液体媒体を含むエナメルイ
ンクを提供することと、エナメルインクを第1のガラス基板の表面の少なくとも第1の部
分に塗布することと、任意にインクを乾燥及び/または硬化することと、任意にインクを
480℃より高い温度に前焼成すること、570℃を超える温度に加熱することにより少
なくとも第1のガラス基板を成型し、それによりエナメルインクを焼成し、第1のガラス
基板の表面の少なくとも第1の部分に接着されたエナメルの層であって、その厚みが2μ
m~50μmの範囲にある、エナメルの層を作ることと、第1のガラス基板と第2のガラ
ス基板との間の中間層であるポリマープライを置くことと、第1のガラス基板、ポリマー
プライ、及び第2のガラス基板を共に積層することと、を含み、エナメルが第1のガラス
基板の表面の第1の部分の赤外反射率が、800nm~2250nmの波長範囲内のある
領域全体で37%以上であるように調整されていることを特徴とする。
【0079】
掩蔽バンドは、必要があれば、もちろん積層体のいずれかの表面に塗布され得る。
【図面の簡単な説明】
【0080】
本発明が、以降単に例として、添付の図面を参照して説明される。
【0081】
【
図1(a)】本発明による積層されたフロントグラスの概略の平面図である。
【
図1(b)】
図1(a)のフロントガラスの直線A-Aに沿った概略の断面図である。
【
図2】実施例1、実施例2、比較例A及び比較例Bによるエナメルを使用した多くのエナメル化された基板について波長の関数としてIR反射率を示すグラフである。
【
図3】実施例1と比較例Cによるエナメルを使用してエナメル化されたガラス基板について、焼成/成型プロセスの焼成及び焼きなまし温度ゾーンにおける、時間の関数として温度(T)とΔTを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0082】
図1は、ポリビニルブチラール(PVB)のポリマー中間層20により共に積層されて
いる外部表面26を備える外部ガラスプライ18(表面1、乗物に取り付けられたときの
外部表面)と内部表面24を備える内部ガラスプライ22(表面4、乗物に取り付けられ
たときの内側)含む本発明による積層グレージング10を示す。積層されたグレージング
は自動車用のフロントガラスである。積層されたグレージング10の周縁で、内部ガラス
プライ22上で、内部表面24にエナメル掩蔽バンド12が印刷される。掩蔽バンドは表
面にエナメルインクをスクリーン印刷し、インクを硬化/乾燥し、そしてそれを焼成し、
それによって内部表面24にエナメルを作ることにより形成されたエナメルの層を含む。
エナメル(下記、実施例1または実施例2におけるような組成を有する)はフリットと、
鉄及びクロムを含む少なくとも1つの無機顔料とを含む。透明なガラスと掩蔽バンド12
の間の境界16では、「バーンライン」光学的歪みに影響を受け易い領域がある。本発明
によるグレージングでは、バーンライン光学的歪みは使用されたエナメルにより大きく減
少または防がれる。
図1(a)に示されている点1、2、3、4、及び5において、本発
明によるグレージングと比較例における光学的歪み(下記実施例参照)は決定され得る。
【0083】
図1に示された積層グレージングは一般的に以下のようにして作られ得る。平坦なガラ
ス基板(例えば、2.1mmの厚みのソーダ石灰フロートガラス)は、シルク-スクリー
ンとドクターブレードによりエナメルインク(例えば実施例1または実施例2のような組
成をもつ、下記参照)でスクリーン印刷を受け(例えば、50~120スレッド/cmの
ポリエステルスクリーン、例えば77または100スレッド/cmのポリエステルスクリ
ーンを有しても良いスクリーンを使い)スクリーン印刷された周縁を形成する、これは3
00℃より低温で赤外ヒーターからの赤外照射をこの基板に受けさせることにより任意に
乾燥される。2枚のガラス基板(1枚は印刷されていない)は、次に重ねられ、重ねられ
た基板は曲げ加工を受ける。この工程では、熱源が与えられ、通常、8分間より長く57
0℃まで加熱され、1分間この温度で保持され、そしていずれかの標準曲げ鋳型または、
型枠の中でプレスにより、またはサグベンディングにより曲げを行うことができる。基板
は分離され、次に、冷却後、PVB中間層(約0.76mmの厚み)を使って共に積層さ
れる。
【0084】
グレージングは、例えば、最初に、ニップローラを含む方法、またはPVB層を脱気す
るため、第1及び第2のガラスのプライの端部に適用された真空リングを使う方法により
積層され得る。第1及び第2のガラスプライならびにPVB層は6バール~14バールの
圧力範囲及び110℃~150℃の温度範囲で、オートクレーブ中で共に積層される。
【0085】
図2では、Perkin Elmer Lambda 950分光器により決定された
、波長の関数としての反射率のグラフが4mmフロートガラス上の焼成エナメル(570
℃で)の試料について示されている。グラフは、77スレッド/cmのポリエステルスク
リーン(曲線30)または100スレッド/cmのポリエステルスクリーン(曲線34)
を使って塗布された実施例1で使用されたエナメル、77スレッド/cmのポリエステル
スクリーン(曲線35)または100スレッド/cmのポリエステルスクリーン(曲線3
6)を使う実施例2におけるエナメル及び、比較例B(曲線38)または比較例A(曲線
40)で使用されたエナメルに関し特性の違いを示す。
【0086】
本発明のエナメルは、800nm~2250nmの範囲上の400nmより大きい領域
で27%より高い反射率を示し、かつバーンライン光学的歪みの減少に関し優れているこ
とをはっきり示した。使用したエナメルは、概して、以下の表1及び表2に示された組成
からなっていた(実施例1、実施例2及び比較例A、B)。
【0087】
図3では、実施例1(表1に示されたようなエナメルインク組成物)及び比較例Cで使
用されたエナメルを使ったエナメル化されたガラス基板に関して時間の関数としての温度
及びΔTは、プロセス全体を通じた温度の大きな違いを示している。表5及び6に示され
ているように、実施例1のエナメルは大きく減少したバーンラインの歪みを示している。
縛られることは望まないが、実施例1によるエナメルの赤外反射率と温度特性は、透明な
エナメルのないガラスに近いので、エナメル化された領域とエナメル化されていない領域
の間の温度の違いは、粘度の違いと同様に減少し、そのため、ガラスの流動性の差及び光
学的歪みも減少すると考えられる。ガラス曲げ加工温度におけるエナメル化された領域と
エナメルのない領域の挙動はより一様になり、そのため、光学的歪みは起こりにくい。
【0088】
本発明はさらに以下の実施例により説明されるが、それにより限定されることはない。
【実施例】
【0089】
エナメル
エナメルの膜は、本開示による赤外反射性無機顔料、または赤外吸収性の従来の無機顔
料のいずれかを含むスクリーン印刷セラミックインク組成物により作られた。表3は実施
例1及び2ならびに比較例Aに使用されるフリットの詳細を提供する。
【表3】
【0090】
実施例の各インク調合物は59.7重量%(±5重量%)のフリット、23.3重量%
(±3重量%)の含量、及び17重量%(±2重量%)ビヒクルを含んでいた。実施例1
では、使用された顔料は酸化クロム鉄顔料ブラウン29(CI77500、CAS127
37-27-8)であった。実施例2では、使用された顔料はクロムグリーンブラックヘ
マタイト(CI77288、CAS68909-79-5)であった。
【0091】
実施例1及び2によるエナメルは、両方とも本発明の開示に従う、フリット及び赤外反
射性無機顔料を含むセラミックインク組成物を印刷するため、100または77スレッド
/cmのスクリーンを使ってスクリーン印刷された。20~25ミクロンの厚みの膜(前
焼成)が100スレッド/cmスクリーン印刷により得られ、26~30ミクロンの厚み
の膜(前焼成)が77スレッド/cmスクリーン印刷より得られた。
【0092】
比較例Aでは、使用された従来の無機顔料は市販される標準ブラック顔料であった。
【0093】
上記のように、実施例1及び実施例2ならびに比較例A使用されたフリットに組成的に
類似のフリット。同一のビヒクルが使用され、それはグリコール、グリコールエーテル及
びセルロース樹脂を含んでいた。したがって、実施例1及び2ならびに比較例Aの間で変
わった唯一の可変要素は実施例1及び2の赤外反射性無機顔料の使用対、比較例Aでの赤
外吸収性顔料の使用であった。
【0094】
実施例1は11.2μmの厚みのエナメル層を有し(焼成後のSEMによる)、実施例
2は12.6μmの厚みのエナメル層を有し(焼成後のSEMによる)、また比較例Bは
13.6μmの厚みのエナメル層を有した(焼成後のSEMによる)。
【0095】
実施例1、実施例2、及び比較例Bによるエナメルに関し、印刷焼成されたサンプルにつ
いて、Burker D8 DiscoverX線回折計を使用してX線回折(XRD)
が行われた。Burker D8 DiscoverX線回折計は、それぞれ波長0.1
54056及び0.154439nmの単色CuKα1及びCuKα2放射を使用し、4
0kVの電圧及び40mAの電流により強度比2:1で放射した。
【0096】
X線回折は実施例1及び実施例2による(結晶性物質のみの)エナメルは、コランダム
型構造(斜方面体晶系)のCrFeO3(酸化クロム鉄)を含むことを示す。比較例Bに
よるエナメルはFeMnNiO4(酸化マンガン鉄ニッケル)(立方体)を含む。
【0097】
バーンライン実施例1及び比較例B
比較例B及びCによるエナメルの組成は、下記表4に示されているとおりである。分析
は、誘導結合プラズマスペクトル分析(ICP)(酸化ホウ素と酸化リチウムに関し)と
X線蛍光分析(XRF)(CERAM、方法C201、C15、及びBS EN ISO
12677使用)による、半定量的なものであった。分析する前に、インクの試料は11
0℃で乾燥され、400℃より高い温度で焼成されて、液体媒体の成分(有機成分を含む
)を除いた。
【表4】
【0098】
図1に関して、概略的に論じたように、実施例1及び比較例Bによるエナメルは表面4
にスクリーン印刷され、積層フロントガラス上に掩蔽バンドを作る。
【0099】
フロントガラスが積層され、底部のバーンラインの箇所1~5(
図1(a)で示されて
いる点を指す)における光学的歪みが12mm離れた平行な黒線をもつ印刷された白いシ
ートを使ってゼブラ試験をして決定された。歪みは、白板を背景に歪んだ黒線を見、フロ
ントガラス全体にわたる5点で最大幅と最小幅を測定することにより決定された。変化率
(最大幅-最小幅)≦4mmで最小幅>8.5mmならば試験は合格とみなされる。傾斜
角は60°であった。
【0100】
比較例Bに対する2個の繰り返し比較試料の光学的歪みの結果は、下記表5に与えられ
ている。実施例1に関する2個の繰り返し試料の結果は、下記表6に与えられている。本
発明によるIR反射性エナメルの使用はバーンライン光学的歪みを著しく減少させる。表
5と6では、Aは最大歪みを示し、Bは最小歪みを示し、Cは変化率を示し、Dはバンド
からの距離を示す。
【0101】
本発明での使用に適したエナメルは、Duke Street,Fenton,Sto
ke-on-Trent,Staffordshire,United Kingdom
,ST4 3NRのPrince Minerals Limitedから、また、Pr
ince Minerals LLC,P.O.Box 251,Quincy,Ill
inois 62306,USA及び15311 Vantage Parkway W
est,Suite 350,Houston,Texas 77032,USAから入
手できる。
【表5】
【表6】