(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】写真用広角対物レンズ
(51)【国際特許分類】
G02B 13/00 20060101AFI20230829BHJP
G02B 13/18 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
G02B13/00
G02B13/18
(21)【出願番号】P 2021534685
(86)(22)【出願日】2019-12-17
(86)【国際出願番号】 EP2019085673
(87)【国際公開番号】W WO2020127280
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-06-24
(31)【優先権主張番号】102018132472.3
(32)【優先日】2018-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】597114889
【氏名又は名称】ライカ カメラ アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】ロート, シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ケラー, カトリン
【審査官】殿岡 雅仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-025174(JP,A)
【文献】特開2012-185263(JP,A)
【文献】特開平02-081015(JP,A)
【文献】特開昭63-247713(JP,A)
【文献】独国特許発明第102014104457(DE,B3)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 9/00 - 17/08
G02B 21/02 - 21/04
G02B 25/00 - 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体側端から像側端に順に、4枚のレンズ(L1~L4)からなる全屈折力が正の前群(VG)と、3枚のレンズ(L5~L7)からなる全屈折力が正の中群(MG)と、3枚のレンズ(L8~L10)からなる全屈折力が正の後群(HG)とを含む写真用広角対物レンズであって、上記前群(VG)の焦点距離と上記対物レンズの全焦点距離との商が2.28~2.79であり、上記中群(MG)の焦点距離と上記対物レンズの全焦点距離との商が3.02~3.69であり、上記後群(HG)の焦点距離と上記対物レンズの全焦点距離との商が3.50~4.29である、写真用広角対物レンズ。
【請求項2】
上記前群(VG)、上記中群(MG)、及び上記後群(HG)はそれぞれ、負の屈折力を有する少なくとも1枚のレンズ(L2、L3、L6、L9、L10)と、正の屈折力を有する少なくとも1枚のレンズ(L1、L4、L5、L7、L8)とを含むことを特徴とする、請求項1に記載の広角対物レンズ。
【請求項3】
上記負の屈折力を有するレンズ(L2、L3、L6、L9、L10)の半数以上は、屈折率が1.70以下であり、アッベ数が38~45であり、且つ/又は、標準線からの部分分散比の偏差ΔPg,Fが-0.0035以下であることを特徴とする、請求項2に記載の広角対物レンズ。
【請求項4】
上記負の屈折力を有するレンズ(L2、L3、L6、L9、L10)の上記半数以上は、上記後群(HG)の像側端に配置された負の屈折力を有するレンズ(L10)を除く、上記負の屈折力を有する全てのレンズ(L2、L3、L6、L9)を含むことを特徴とする、請求項3に記載の広角対物レンズ。
【請求項5】
上記後群(HG)は浮動要素として形成されており、上記後群(HG)の移動距離は、上記前群(VG)の移動距離及び上記中群(MG)の移動距離よりも小さいことを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の広角対物レンズ。
【請求項6】
該浮動要素は、フォーカシングの際に上記前群(VG)及び上記中群(MG)と同じ方向に移動することを特徴とする、請求項5に記載の広角対物レンズ。
【請求項7】
上記前群(VG)は、物体側端から像側端に順に、少なくとも、正の屈折力を有する第1レンズ(L1)と、負の屈折力を有する第2レンズ(L2)と、負の屈折力を有する第3レンズ(L3)と、正の屈折力を有する第4レンズ(L4)とを含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の広角対物レンズ。
【請求項8】
上記正の屈折力を有するレンズ(L1、L4)は両凸であり、且つ上記負の屈折力を有するレンズ(L2、L3)は両凹であることを特徴とする、請求項7に記載の広角対物レンズ。
【請求項9】
上記前群(VG)のレンズ(L1~L4)は、アッベ数が38~45であることを特徴とする、請求項7または8に記載の広角対物レンズ。
【請求項10】
上記前群(VG)の上記負の屈折力を有するレンズ(L2、L3)は、標準線からの部分分散比の偏差ΔPg,Fが-0.0035以下であることを特徴とする、請求項9に記載の広角対物レンズ。
【請求項11】
上記第1レンズ(L1)の屈折率は1.80~1.86であり、且つ/又は、上記第4レンズ(L4)の屈折率は1.86以上であることを特徴とする、請求項7~10のいずれか1項に記載の広角対物レンズ。
【請求項12】
上記第1レンズ及び上記第2レンズ(L1、L2)は第1下位群(G1)を形成し、該第1下位群(G1)は、接合ダブレットとして形成され、且つ/又は、全屈折力が上記前群(VG)の全屈折力の10%以下であること、及び/又は、上記第3レンズ及び上記第4レンズ(L3、L4)は第2下位群(G2)を形成し、該第2下位群(G2)は接合ダブレットとして形成されることを特徴とする、請求項7~11のいずれか1項に記載の広角対物レンズ。
【請求項13】
上記全屈折力が上記前群(VG)の全屈折力の7.5%以下であることを特徴とする、請求項7~12のいずれか1項に記載の広角対物レンズ。
【請求項14】
上記前群(VG)は、非球面を少なくとも1つ有することを特徴とする、請求項5~13のいずれか1項に記載の広角対物レンズ。
【請求項15】
上記前群(VG)
の上記第1レンズ(L1)
は、非球面を少なくとも1つ有することを特徴とする、請求項14に記載の広角対物レンズ。
【請求項16】
上記第1レンズ(L1)の少なくとも物体側面は非球面であることを特徴とする、請求項14または15に記載の広角対物レンズ。
【請求項17】
上記中群(MG)は、物体側端から像側端に順に、少なくとも、正の屈折力を有する第5レンズ(L5)と、負の屈折力を有する第6レンズ(L6)と、正の屈折力を有する第7レンズ(L7)とを含むことを特徴とする、請求項1~16のいずれか1項に記載の広角対物レンズ。
【請求項18】
上記中群(MG)は、物体側端から像側端に順に、少なくとも、正の屈折力を有する第5レンズ(L5)と、負の屈折力を有する第6レンズ(L6)と、正の屈折力を有する第7レンズ(L7)とを含み、これらのレンズは組み合わされて接合トリプレットを形成することを特徴とする、請求項17に記載の広角対物レンズ。
【請求項19】
上記正の屈折力を有するレンズ(L5、L7)は両凸であり、且つ上記負の屈折力を有するレンズ(L6)は両凹であることを特徴とする、請求項17または18に記載の広角対物レンズ。
【請求項20】
上記中群(MG)の上記正の屈折力を有するレンズ(L5、L7)は、アッベ数が65以上であり、且つ/又は、標準線からの部分分散比の偏差ΔPg,Fが+0.0130以上であることを特徴とする、請求項17~19のいずれか1項に記載の広角対物レンズ。
【請求項21】
上記中群(MG)の上記負の屈折力を有するレンズ(L6)は、アッベ数が38~45であり、且つ/又は、標準線からの部分分散比の偏差ΔPg,Fが-0.0035以下であることを特徴とする、請求項17~20のいずれか1項に記載の広角対物レンズ。
【請求項22】
上記後群(HG)は、物体側端から像側端に順に、少なくとも、正の屈折力を有する第8レンズ(L8)と、負の屈折力を有する第9レンズ(L9)と、負の屈折力を有する第10レンズ(L10)とを含むことを特徴とする、請求項1~21のいずれか1項に記載の広角対物レンズ。
【請求項23】
上記第8及び第9レンズ(L8、L9)は組み合わされて接合ダブレットを形成することを特徴とする、請求項22に記載の広角対物レンズ。
【請求項24】
上記第8レンズ(L8)は両凸であり、且つ/又は、上記第9レンズ(L9)は両凹であり、且つ/又は、上記第10レンズ(L10)はメニスカス形状であることを特徴とする、請求項22または23に記載の広角対物レンズ。
【請求項25】
上記第8レンズ(L8)は、アッベ数が38~45であり、且つ/又は、屈折率が1.80以上1.86以下であることを特徴とする、請求項22~24のいずれか1項に記載の広角対物レンズ。
【請求項26】
上記第9レンズ(L9)は、アッベ数が38~45であり、且つ/又は、標準線からの部分分散比の偏差ΔPg,Fが-0.0035以下であることを特徴とする、請求項22~25のいずれか1項に記載の広角対物レンズ。
【請求項27】
上記第8レンズ(L8)の物体側面及び/又は上記第10レンズ(L10)の両面は非球面であることを特徴とする、請求項22~26のいずれか1項に記載の広角対物レンズ。
【請求項28】
上記負の屈折力を有するレンズ(L2、L3、L6、L9、L10)の半数以上において、レンズ直径と中心厚さとの商が18以上であることを特徴とする、請求項1~27のいずれか1項に記載の広角対物レンズ。
【請求項29】
上記負の屈折力を有するレンズの上記半数以上(L2、L6、L9、L10)は、上記第3レンズ(L3)を除く、上記負の屈折力を有する全てのレンズ(L2、L6,L9、L10)を含むことを特徴とする、請求項28に記載の広角対物レンズ。
【請求項30】
非球面を少なくとも1つ有する両凸レンズ(L1、L8)のそれぞれにおいて、中心厚さとエッジ厚さとの商が5.8以上であることを特徴とする、請求項1~29のいずれか1項に記載の広角対物レンズ。
【請求項31】
上記前群(VG)は、正の屈折力を有する第1下位群(G1)と正の屈折力を有する第2下位群(G2)とを含み、上記中群(MG)は、正の屈折力を有する第3下位群(G3)を含み、上記後群(HG)は、正の屈折力を有する第4下位群(G4)と負の屈折力を有する第5下位群(G5)とを含み、各下位群(G1~G5)は、いずれの場合も、複数のレンズが組み合わされた接合型複合レンズ又は単一のレンズから形成されることを特徴とする、請求項1~30のいずれか1項に記載の広角対物レンズ。
【請求項32】
上記前群(VG)と上記中群(MG)との間に開口絞り(BL)が配置されていることを特徴とする、請求項1~31のいずれか1項に記載の広角対物レンズ。
【請求項33】
画角が62.2°であり、口径比が1:2.0であることを特徴とする、請求項1~32のいずれか1項に記載の広角対物レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、写真用途のための広角対物レンズに関する。
【0002】
負の屈折力を有する前群と正の屈折力を有する後群とを含むレトロフォーカスタイプの広角対物レンズが一般に知られている。
【0003】
更に、正の屈折力を有する中群と、それぞれ負の屈折力を有する前群及び後群とを含む対称型対物レンズ設計が知られている。このような設計は、特にミラーレスカメラに適している。
【0004】
同様に、ミラーレスカメラ用として、それぞれ正の屈折力を有する前群、中群、及び後群を設けた準対称設計も知られている。
【0005】
また、ミラーレスカメラ用として、フォーカシング時の全長が一定であるコンパクトな変形レトロフォーカスタイプの広角対物レンズも知られている。このような対物レンズは、例えば、特許文献1に記載されている。しかしながら、特許文献1に記載された9枚レンズ構成の対物レンズは、インターナルフォーカスが採用されているため、全長が長い。
【0006】
特許文献2には、2つの非球面を有する8枚レンズ構成の広角対物レンズが記載されている。
【0007】
特許文献3により、3つのレンズ群を含む顕微鏡対物レンズが知られている。この対物レンズにおいては、後群が負の屈折力を有し、中群と後群との間に回折光学素子が更に設けられている。
【0008】
特許文献4には、7枚レンズ構成の変形ダブルガウスタイプの写真用対物レンズが開示されている。
【0009】
特許文献5には、10枚のレンズを含む広角対物レンズが記載されている。この対物レンズでは、絞りが第5レンズと第6レンズとの間で中央に配置されている。正の屈折力のレンズと負の屈折力のレンズとが、光方向で絞りの前後に交互に配置され、光方向で絞りの前に配置されたレンズの全屈折力は負である。
【0010】
寸法を極めてコンパクトにできるのは、対称又は準対称設計の対物レンズのみである。レトロフォーカス設計では、その原理上、寸法をコンパクトにすることは不可能である。更に、非対称設計であるため、コマ収差、歪曲収差、及び横方向の色収差の補正は不完全でしかない。
【0011】
一般に、コンパクトな広角対物レンズの設計においては、個々の要素に高い屈折力が求められる。しかしながら、その結果、3次以上の収差が発生して像に未補正の残留誤差が生じ、像のコントラストに悪影響を与える。
【0012】
コンパクトな対物レンズでは、像面湾曲、非点収差、歪曲収差、及び色収差の補正が制限されざるをえないことが多い。
【0013】
本発明は、寸法がコンパクトで、あらゆる像誤差を特に良好に補正できる写真用広角対物レンズを提供することを目的とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】独国特許発明第102014104457号明細書
【文献】独国特許出願公開第2160628号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2194412号明細書
【文献】独国特許出願公開第102004008997号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2993512号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的は、請求項1に記載の特徴を有する写真用広角対物レンズにより満たされる。本発明に係る広角対物レンズは、物体側端から像側端に順に、少なくとも4枚のレンズを有する全屈折力が正の前群と、少なくとも3枚のレンズを有する全屈折力が正の中群と、少なくとも3枚のレンズを有する全屈折力が正の後群とを含み、上記前群の焦点距離と上記対物レンズの全焦点距離との商が2.28~2.79であり、上記中群の焦点距離と上記対物レンズの全焦点距離との商が3.02~3.69であり、上記後群の焦点距離と上記対物レンズの全焦点距離との商が3.50~4.29である。従って、本発明に係る広角対物レンズは、合計で少なくとも10枚のレンズを有する。
【0016】
本発明に係る広角対物レンズは、レトロフォーカスタイプの対物レンズ設計と比較して、寸法、特に全長について極めてコンパクトであるため、特にデジタルミラーレスシステムカメラでの使用に適する。
【0017】
有利な実施形態によれば、上記前群、上記中群、及び上記後群はそれぞれ、負の屈折力を有する少なくとも1枚のレンズと、正の屈折力を有する少なくとも1枚のレンズとを含む。
【0018】
上記負の屈折力を有するレンズの大半は、屈折率が1.70以下であり、アッベ数が38~45であり、且つ/又は、標準線からの部分分散比の偏差ΔPg,Fが-0.0035以下であることが有利である。従って、上記負の屈折力を有するレンズでは、屈折率が比較的に低く、アッベ数が比較的に低く、且つ標準線からの部分分散比の偏差が負であるガラスを用いることが好ましい。部分分散比Pg,Fは以下のように定義される。
【0019】
【0020】
式中、nFはフラウンホーファー線のF線(波長468.13nm)での屈折率、ngはフラウンホーファー線のg線(波長435.83nm)での屈折率、nCはフラウンホーファー線のC線(波長656.28nm)での屈折率である。
【0021】
標準線からの部分分散比の偏差ΔPg,Fは以下のように定義される。
【0022】
【0023】
式中、νdはフラウンホーファー線のd線(波長587.56nm)でのアッベ数である。
【0024】
上記負の屈折力を有するレンズの上記大半は、上記後群の像側端に配置された負の屈折力を有するレンズを除く、上記負の屈折力を有する全てのレンズを含むことが有利である。
【0025】
上記特性の1つ以上を有するガラスを使用することで、一次及び二次スペクトルの色収差を補正できる。精密ガラス成形による非球面設計を優先して、上記後群の最後のレンズは、これらの条件のうち1つ以上を免除されていてもよい。
【0026】
更に有利な実施形態によれば、上記後群は浮動要素として形成される。該浮動要素は、好ましくは、フォーカシングの際に上記前群及び上記中群と同じ方向に移動するが、上記後群の移動距離は、上記前群の移動距離及び上記中群の移動距離よりも小さい。従って、後者の条件は、フォーカシングの際、上記後群の調節経路が上記対物レンズ全体の調節経路よりも小さいことを意味する。この結果、コマ収差及び非点隔差といった像誤差を補償できるため、近距離範囲での結像性能を特に良好とすることができる。
【0027】
更に有利な実施形態によれば、上記前群は、物体側端から像側端に順に、少なくとも、正の屈折力を有する第1レンズと、負の屈折力を有する第2レンズと、負の屈折力を有する第3レンズと、正の屈折力を有する第4レンズとを含む。好ましくは、上記正の屈折力を有するレンズは両凸であり、且つ上記負の屈折力を有するレンズは両凹である。
【0028】
有利には、上記前群のレンズは、アッベ数が38~45であり、好ましくは、上記前群の上記負の屈折力を有するレンズは、標準線からの部分分散比の偏差ΔPg,Fが-0.0035以下である。従って、標準線からの部分分散比の偏差ΔPg,Fは負である。本実施形態により、二次スペクトルの色収差に対する不要な寄与を最小限にできる。
【0029】
有利には、上記第1レンズの屈折率は1.80~1.86であり、且つ/又は、上記第4レンズの屈折率は1.86以上である。
【0030】
有利には、上記第1レンズ及び上記第2レンズは第1下位群を形成し、該第1下位群は、接合ダブレットとして形成され、且つ/又は、全屈折力が上記前群の全屈折力の10%以下、好ましくは7.5%以下である。上記第1下位群の焦点距離と上記対物レンズの全焦点距離との商は特に43.49~53.13である。好ましくは、上記第3レンズ及び上記第4レンズは第2下位群を形成し、該第2下位群は接合ダブレットとして形成される。
【0031】
上記前群の各レンズ面は、それぞれの曲率半径(rnは面nの頂点での半径を表す)を有することが有利である。すなわち、下記の通りである。
・r1は、上記第1レンズL1の物体側面の曲率を表す。
・r2は、上記第1レンズL1と上記第2レンズL2との接触面の曲率を表す。
・r3は、上記第2レンズL2の像側面の曲率を表す。
・r4は、上記第3レンズL3の物体側面の曲率を表す。
・r5は、上記第3レンズL3と上記第4レンズL4との接触面の曲率を表す。
・r6は、上記第4レンズL4の像側面の曲率を表す。
【0032】
2つの半径の各比rn/rmについて、以下の関係の1つ以上が適用されることが好ましい。
-1.58<r1/r6<-1.29
-1.07<r2/r5<-0.88
-1.04<r3/r4<-0.85
【0033】
上記前群のレンズの上述した特徴は、非点隔差を補正し、対物レンズの像面湾曲の指標であるペッツバール和を最小化し、色収差を低減するのに役立つ。
【0034】
有利には、上記前群、好ましくは上記第1レンズは、非球面を少なくとも1つ有し、特に、上記第1レンズの少なくとも物体側面は非球面である。これらの特徴及び上述した第1下位群の特徴により、歪曲収差に対する不要な寄与を最小限にできる。また、上記第1下位群は、上記対物レンズを組み立てる際に像中心でのセンタリング誤差を最小限とするための調節部材又は摺動部材として好適である。
【0035】
一般的に、上記前群のレンズの上述した有利な設計は、横方向の色収差及び歪曲収差を最小化し、像面を平坦化するのに役立つ。
【0036】
本発明の更に有利な実施形態によれば、上記中群は、物体側端から像側端に順に、少なくとも、正の屈折力を有する第5レンズと、負の屈折力を有する第6レンズと、正の屈折力を有する第7レンズとを含む。好ましくは、これらのレンズは組み合わされて接合トリプレットを形成しており、好ましくは、上記正の屈折力を有するレンズは両凸であり、且つ上記負の屈折力を有するレンズは両凹であり、好ましくは、上記正の屈折力を有するレンズの屈折率は、上記負の屈折力を有するレンズの屈折率よりも低い。
【0037】
上記中群の各レンズ面は、それぞれの曲率半径(rnは面nの頂点での半径を表す)を有することが有利である。すなわち、下記の通りである。
・r8は、上記第5レンズL5の物体側面の曲率を表す。
・r9は、上記第5レンズL5と上記第6レンズL6との接触面の曲率を表す。
・r10は、上記第6レンズL6と上記第7レンズL7との接触面の曲率を表す。
・r11は、上記第7レンズL7の像側面の曲率を表す。
【0038】
2つの半径の各比rn/rmについて、以下の関係の1つ以上が適用されることが好ましい。
-7.11<r8/r11<-5.82
-1.51<r9/r10<-1.24
【0039】
このような設計は、非点収差を補正すると同時に、サジタル断面での球面収差を最小化するのに役立つ。更に、このように設計された中群は、組み立ての際に像面でのセンタリング誤差を最小限とするための調節部材又は摺動部材として好適である。
【0040】
上記中群の上記正の屈折力を有するレンズは、アッベ数が65以上であり、且つ/又は、標準線からの部分分散比の偏差ΔPg,Fが+0.0130以上であることが有利である。
【0041】
上記中群の上記負の屈折力を有するレンズは、アッベ数が38~45であり、且つ/又は、標準線からの部分分散比の偏差ΔPg,Fが-0.0035以下であることが有利である。
【0042】
上記中群のレンズの上述した特徴は、像中心での一次及び二次スペクトルの色収差を補正するのに役立つ。
【0043】
本発明の更に有利な実施形態によれば、上記後群は、物体側端から像側端に順に、少なくとも、正の屈折力を有する第8レンズと、負の屈折力を有する第9レンズと、負の屈折力を有する第10レンズとを含む。好ましくは、上記第8及び第9レンズは組み合わされて接合ダブレットを形成し、且つ/又は、好ましくは、上記第8レンズは両凸であり、且つ/又は、上記第9レンズは両凹であり、且つ/又は、上記第10レンズはメニスカス形状であり、好ましくは、その面が物体側に向かって凹状に配置されている。
【0044】
上記第8レンズは、アッベ数が38~45であり、且つ/又は、屈折率が1.80~1.86であることが有利である。
【0045】
上記第9レンズは、アッベ数が38~45であり、且つ/又は、標準線からの部分分散比の偏差ΔPg,Fが-0.0035以下であることが有利である。
【0046】
上記後群のレンズに関する上述した特徴は、ペッツバール和を最小化し、一次及び二次スペクトルの色収差に対する不要な寄与を最小限にするのに役立つ。
【0047】
上記第8レンズの物体側面及び/又は上記第10レンズの両面は非球面であることが有利である。上記面の非球面設計は、像面全体で非点隔差とコマ収差とのバランスを取ることに加えて、球面収差に対する不要な寄与を最小限にすることにも役立つ。
【0048】
上記後群の各レンズ面は、それぞれの曲率半径(rnは面nの頂点での半径を表す)を有することが有利である。すなわち、下記の通りである。
・r12は、上記第8レンズL8の物体側面の曲率を表す。
・r13は、上記第8レンズL8と上記第9レンズL9との接触面の曲率を表す。
・r14は、上記第9レンズL9の像側面の曲率を表す。
・r15は、上記第10レンズL10の物体側面の曲率を表す。
・r16は、上記第10レンズL10の像側面の曲率を表す。
【0049】
面nでの近軸物体距離をsnとすると、大きさΔrnは(sn-rn)/rnで定義される。
【0050】
2つの半径の各関係rn/rm又は大きさΔrnについて、以下の関係の1つ以上が適用されることが好ましい。
+0.5<Δr12<+0.9
-2.5<Δr13<-2.1
-0.2<Δr14<+0.2
-1.3<Δr15<+1.0
-1.3<Δr16<+1.0
r16<r15
【0051】
更に、上記後群のレンズの上述した有利な実施形態は、逆の効果で、個々の要素が組み立ての際に偏心の影響を受けにくくするのに役立ち、結果として、上記後群全体も偏心の影響を受けにくくなる。
【0052】
更に有利な実施形態によれば、上記負の屈折力を有するレンズの大半において、レンズ直径と中心厚さとの商が18以上である。
【0053】
上記負の屈折力を有するレンズの上記大半は、上記第3レンズを除く、上記負の屈折力を有する全てのレンズを含むことが有利である。コマ収差と非点収差とのバランスをより良好にするために、上記第3レンズは上記条件を免除されていてもよい。
【0054】
非球面を少なくとも1つ有する両凸レンズのそれぞれにおいて、中心厚さとエッジ厚さとの商が5.8以上であることが有利である。
【0055】
上記レンズ直径と中心厚さとの商、又は上記中心厚さとエッジ厚さとの商の上述した測定値は、全光路長SO’と像対角線YBの半分の長さとの比が3.1以下、全光路長SO’と上記対物レンズの全焦点距離f’gesとの比が1.9以下となるように上記対物レンズ全体をコンパクトに設計するのに役立つ。
【0056】
更に有利な実施形態によれば、上記前群は、正の屈折力を有する第1下位群と正の屈折力を有する第2下位群とを含み、上記中群は、正の屈折力を有する第3下位群を含み、上記後群は、正の屈折力を有する第4下位群と負の屈折力を有する第5下位群とを含み、各下位群は、いずれの場合も、複数のレンズが組み合わされた接合型複合レンズ又は単一のレンズから形成される。
【0057】
更に有利な実施形態によれば、上記前群と上記中群との間に開口絞りが配置されている。
【0058】
更に有利な実施形態によれば、口径比は1:2.0である。画角は約62.2°である。
【0059】
上記第1レンズは、ヌープ硬さHKが600N/mm2以上であり、且つ/又は、ISO8424に準拠する耐酸性が4.0(耐酸性クラス4、目に見える表面変化無し)より良好であることが有利である。これにより、フロントレンズは、機械的負荷や環境による影響に対して十分な耐性を有するものとなる。このような特徴は、例えば、Ohara製ガラス材「S-LAH89」により満たされる。
【0060】
上述した実施形態のうち1つ以上に係る広角対物レンズは、以下の特徴を有する。
・寸法がコンパクトである。
・像面全体に渡ってコントラスト及び細部再現性が極めて高い。
・歪曲収差がごくわずかである。
・像面が極めて良好に平坦化されると同時に、一次および二次スペクトル全体の色収差及び横方向の色収差が極めて良好に補正される。
・0.3mのクローズアップ範囲までコントラスト再現性及び像誤差補正が均一に良好である。
・光学群の組み立てが簡易である。
【0061】
本発明の更に有利な実施形態が、従属請求項、明細書、及び図面から得られる。これらの個々の特徴及び/又は特徴群は、好適な方法で互いに組み合わせることができ、ここで明示的に言及された特徴の組み合わせとは異なる方法で組み合わせることもできる。
【0062】
以下、本発明について実施形態および図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【
図1】本発明の一実施形態に係る広角対物レンズを無限遠設定した場合のレンズ断面である。
【
図2】
図1に係る広角対物レンズを近距離設定した場合のレンズ断面である。
【
図3】
図1及び
図2に係る広角対物レンズの変調伝達関数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0064】
図1及び
図2は、10枚の屈折レンズL1~L10を有する実施形態例に係る写真用広角対物レンズを示す。
【0065】
レンズL1~L10は、物体側から像側に向かう光路の光伝搬方向に昇順で番号が振られている。「の前」や「の後ろ」等の相対的な位置表示は、この順番に関連する。
【0066】
上記広角対物レンズは、第1~第4レンズL1~L4を含む前群VGと、第5~第7レンズL5~L7を含む中群MGと、第8~第10レンズを含む後群HGとを含む。
【0067】
正の屈折力を有する上記第1レンズL1と負の屈折力を有する上記第2レンズL2は結合されて接合ダブレットを形成し、第1下位群G1を形成する。負の屈折力を有する上記第3レンズL3と正の屈折力を有する上記第4レンズL4も同様に結合されて接合ダブレットを形成し、第2下位群G2を形成する。従って、上記前群VGは、上記第1及び第2下位群G1、G2を含む。
【0068】
正の屈折力を有する上記第5レンズL5、負の屈折力を有する上記第6レンズL6、及び正の屈折力を有する上記第7レンズL7は結合されて接合トリプレットを形成し、第3下位群G3を形成する。上記中群MGは上記第3下位群G3を含む。
【0069】
正の屈折力を有する上記第8レンズL8と負の屈折力を有する上記第9レンズL9は結合されて更なる接合ダブレットを形成し、第4下位群G4を形成する。負の屈折力を有する上記第10レンズL10は単一のレンズとして設計され、第5下位群G5を形成する。上記後群HGは、上記第4及び第5下位群G4、G5を含む。
【0070】
上記前群VGと上記中群MGの間に開口絞りBLが配置されている。
【0071】
上記後群HGは、浮動要素として形成され、フォーカシングの際に、上記前群VG、上記開口絞りBL、及び上記中群MGで形成される対物レンズ残部と同じ方向に移動するが、上記浮動要素すなわち上記後群HGの移動距離、従って調節経路は、対物レンズ残部の移動距離又は調節経路よりも小さい。
【0072】
上記広角対物レンズのレンズ要素に関する詳細な設計データ及び光学データを以下の表に示す。これらのデータは、それぞれ空気からガラス又はガラスからガラスへの移行を示す面に関するものであり、物体側端から像側端へと昇順に番号が振られている。従って、面1は上記第1レンズL1の物体側面を示し、面2は上記第1及び第2レンズL1、L2の共通面を示し、以下同様である。最後の面16は、上記第10レンズL10の像側面である。面7は、上記開口絞りBLに相当する。
【0073】
設計データは、上記広角対物レンズの全焦点距離f=1mmに正規化されている。
【0074】
各面において、rは頂点半径、dMは中心厚さ又は頂点における隣接面からの間隔、neはフラウンホーファー線のe線(波長546.07nm)に対する屈折率、veはフラウンホーファー線のe線に対するアッベ数を示す。更に、D/dMは直径Dと中心厚さdMとの比、dM/drは中心厚さdMとエッジ厚さdrとの比、sは近軸物体距離、s’は近軸像距離、aは無収差物体距離を示す。
【0075】
同様に、それぞれの面が属するそれぞれのレンズL1~L10、下位群G1~G5、並びに群HG、MG、及びHGも示す。
【0076】
【0077】
【0078】
上記第1及び第8レンズL1、L8の物体側面(面1及び12)並びに上記第10レンズL10の両面(面15及び16)は非球面曲率を有し、
図1及び2では符号*を付している。光軸に関して光軸に垂直な高さhを有する点における、光軸に平行な各レンズ面のサグzに対して、以下の非球面式が適用される。
【0079】
【0080】
式中、r0は頂点曲率半径、kは円錐定数、a2、a3、...、a6は非球面係数である。
【0081】
4つの非球面1、12、15、及び16について、係数k、a2~a6を以下の表に示す(指数表示)。
【0082】
【0083】
上記対物レンズ全体、上記下位群G1~G5、上記前、中、及び後群VG、MG、HGの更なる光学データを以下の表に示す。該表は、上記下位群及び群の屈折力の符号、及びそれぞれの焦点距離f’を含む。更に、上記対物レンズの全焦点距離f’gesに対する各焦点距離f’の比を示す。
【0084】
【0085】
上記広角対物レンズのレンズ速度又は口径比は1:2.0である。対角全画角は62.2°である。全光路長SO’と全焦点距離f’gesとの比は1.85であり、全光路長SO’と像対角線の半分の長さとの比は3.08である。像距離S’O’と全焦点距離f’gesとの比は0.43である。
【0086】
上記前群VGと上記中群MGの面について各半径比を以下の表に示す。いずれの場合も、値rnは面nの頂点での曲率半径を示す。
【0087】
【0088】
上述した本発明に係る広角対物レンズの設計についての設計データ及び光学値は、例示にすぎない。異なる設計データ及び光学パラメータを有する広角対物レンズも本発明に含まれ得ることが理解される。
【0089】
特に、例示した上記10枚のレンズに加えて、更なるレンズを設けてもよい。従って、例えば、上記前群VG、上記中群MG、及び/又は上記後群HGはそれぞれ、好適な位置に正又は負の屈折力を有するレンズを更に有していてよい。そのような変更が行われた場合、それに応じてレンズ番号が変化することが理解される。
【0090】
20線対/mmを有する試験対象物の変調伝達関数MTFを
図3に示す。このグラフでは、コントラスト又は変調が、像高比に対してパーセンテージとして入力されている。実線はサジタル構造のMTFを表し、破線はタンジェンシャル構造のMTFを表す。上記広角対物レンズは物体距離が無限遠に設定されている。グラフから、コントラストは像周辺部で約75%を下回らないことが分かる。
【符号の説明】
【0091】
BL 開口絞り
L1~L10 第1~第10レンズ
G1~G5 第1~第5下位群
VG 前群
MG 中群
HG 後群