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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】流体力学的滑り軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 17/03 20060101AFI20230829BHJP
   F16C 33/10 20060101ALI20230829BHJP
   F16C 37/00 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
F16C17/03
F16C33/10 Z
F16C37/00 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021574790
(86)(22)【出願日】2020-06-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-25
(86)【国際出願番号】 EP2020067865
(87)【国際公開番号】W WO2021004803
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2021-12-15
(31)【優先権主張番号】102019118440.1
(32)【優先日】2019-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】522280261
【氏名又は名称】ミバ・インダストリアル・ベアリングス・ジャーマニー・オステローデ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】シューラー・エックハルト
(72)【発明者】
【氏名】ベルナー・オーラフ
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特公昭48-004501(JP,B1)
【文献】実開昭58-038036(JP,U)
【文献】特開平06-147219(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 17/00-17/26
F16C 33/00-33/28
F16C 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平常動作時に支承されて回転するシャフト(14,14’)を液圧により支承する流体力学的な滑り軸受(10,10’)であって、
回転方向(22,22’)に互いに隣接して配置された複数の軸受セグメント(12,12’)を有し、これらの軸受セグメントのセグメント表面が一緒になってシャフト(14,14’)のための一つのすべり面(16,16’)を形成し、
少なくとも一つの軸受セグメント(12,12’)が、そのセグメント表面に、回転方向(22,22’)に対して略横方向に配向された複数の溝(26,26’)を保持している滑り軸受において、
回転方向(22,22’)において前記複数の溝(26,26’)のそれぞれ奥側に設けられた溝縁部(261)が、それらにそれぞれ対応する半径方向面(24,24’)に斜めに配向されているとともに、当該面に対してアンダーカットされており、
回転方向(22,22’)において前記複数の溝(26,26’)のそれぞれ手前側に設けられた溝縁部(262)が、それらにそれぞれ対応する半径方向面(24,24’)に斜めにアンダーカット無しで配向されている
ことを特徴とする滑り軸受。
【請求項2】
請求項1に記載の流体力学的な滑り軸受(10,10’)において、
アンダーカットされた溝縁部(261)は、それらにそれぞれ対応する半径方向面(24,24’)に対して5°乃至20°の角度をなしていることを特徴とする滑り軸受。
【請求項3】
請求項1または2に記載の流体力学的な滑り軸受(10,10’)において、
溝(26,26’)は、溝敷設領域(28,28’)に配置され、当該溝敷設領域は、回転方向(22,22’)においてセグメント長の60%乃至65%のところで始まり、セグメント長の90%乃至95%のところで終わることを特徴とする滑り軸受。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の流体力学的な滑り軸受(10,10’)において、 溝(26,26’)は、溝敷設領域(28,28’)に配置され、当該溝敷設領域は、セグメント幅の中央の60%乃至90%に亘って拡がっていることを特徴とする滑り軸受。
【請求項5】
請求項3または4に記載の流体力学的な滑り軸受(10,10’)において、
溝(26,26’)は、溝敷設領域(28,28’)の面積の10%乃至60%または20%乃至30%を占めることを特徴とする滑り軸受。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の流体力学的な滑り軸受(10,10’)において、 少なくともいくつかの溝(26,26’)は、その長手方向において途切れていることを特徴とする滑り軸受。
【請求項7】
請求項6に記載の流体力学的な滑り軸受(10,10’)において、
回転方向(22,22’)に隣接する二つの溝(26,26’)のそれぞれ途切れた部分は、回転方向(22,22’)に対して横方向に互いにずらされて配置されていることを特徴とする滑り軸受。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の流体力学的な滑り軸受(10,10’)において、 シャフト(14’)の軸線方向に垂直かつ平坦にすべり面(16’)が配向されているとともに、軸受セグメント(12’)が円環の扇形区画として形成されていることを特徴とする滑り軸受。
【請求項9】
請求項1から7のいずれかに記載の流体力学的な滑り軸受(10,10’)において、 シャフト(14)の軸線方向に同軸かつ湾曲してすべり面(16)が配向されているとともに、軸受セグメント(12)が中空シリンダの扇形区画として形成されていることを特徴とする滑り軸受。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の流体力学的な滑り軸受(10,10’)において、 隣接する二つの軸受セグメント(12,12’)のそれぞれの間に、これらを互いに離間させる給油部(18,18’)が、回転方向(22,22’)に対して横方向に延在していることを特徴とする滑り軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平常動作時に支承されて回転するシャフトを支承する流体力学的な滑り軸受であって、回転方向に互いに隣接して配置された複数の軸受セグメントを有し、これらの軸受セグメントのセグメント表面が一緒になってシャフトのための一つのすべり面を形成し、少なくとも一つの軸受セグメントが、そのセグメント表面に、回転方向に対して略横向き、特に、正確に横向きに配向された複数の溝を保持する滑り軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の滑り軸受は、特許文献1より公知である。
【0003】
流体力学的な滑り軸受の基本構造は、当業者に周知である。動作中、支承されるシャフトは、軸受のすべり面との僅かな軸受け内部すきまにより回転し、そのすべり面は、通常は、シャフトの回転方向に互い違いに配置された複数の軸受セグメントから形成されている。軸受け内部すきまは、シャフトがすべり面に直に接触するのを防ぐために油膜により満たされている。油膜を作るために、軸受セグメントは、通常、給油部により互いに離間されている。これらの給油部を介して、動作中、軸受セグメントの幅の少なくとも一部に亘って潤滑油が軸受け内部すきまに導入され、シャフトの回転により運ばれ、側方に流れ出る。上記の潤滑効果に加えて、油膜の基本的な役割は、軸受を冷却することにある。油膜に作用する剪断力により、かなり温度が上昇し、この温度上昇が、上述の定常的な潤滑油の入れ替え(給油部を介した新鮮な潤滑油の供給と加熱された潤滑油の側方への流出)により相殺される。特に、高速回転するシャフトの場合、十分で信頼性の高い熱の放出は、流体力学的な滑り軸受の典型的な利用分野にとって、構造上の中心課題になっている。
【0004】
一般に、シャフトの軸線方向に垂直かつ平坦にすべり面が配向されているスラスト軸受型構成の流体力学的滑り軸受と、支承されるシャフトに同軸かつ湾曲してすべり面が配向されているラジアル軸受型構成の流体力学的滑り軸受とが知られている。スラスト軸受では、軸受セグメントが略円環の扇形区画として形成され、それらの間に径方向に配向された給油部が配置されている。ラジアル軸受では、軸受セグメントが略中空シリンダの扇形区画として形成され、それらの間に軸方向に配向された給油部が配置されている。両方の軸受のタイプを組み合わせたものも当業者には周知である。本発明は、上述のバリエーションの特定のものに限定されていない。さらに、滑り軸受は、それらのセグメントの形態に従って、ティルティングパッド軸受(Kippsegmentlager)と固定パッド軸受(Festsegmentlager)とに分けることができる。
【0005】
特許文献2は、上で言及した冷却問題に焦点を当て、すべり面における、回転方向に略平行に配向された平らな複数の溝を提案している。これらの溝は、油膜の総量を増やすための局所的な潤滑油溜りとして機能し、これにより、その全体の熱容量が増加して熱の放出が改善されることになる。
【0006】
冒頭に挙げた従来の一般的な文献から、回転方向に対して略横方向に配向された溝をすべり面に導入することが周知である。しかし、この構成の動機について、上記文献は、上で言及した冷却問題を挙げていない。これらの溝はむしろ、軸受け内部すきまに侵入した汚れ粒子がシャフト表面若しくは軸受のすべり面に損傷を与えないように、汚れ粒子の汚れトラップとして機能すべきものである。
【0007】
特許文献3より、滑り軸受のすべり面が、摩擦を低減する鉛や錫などの軟質の金属からなるインサートを備えた滑り軸受が公知である。この目的のために、円筒形または半円筒形のロッド材料が、軸受本体のブランクの溝状の凹部に摩擦結合的に圧入される。
【0008】
似たような滑り軸受が特許文献4および特許文献5より公知である。ただし、この滑り軸受は、軸受本体のブランクの溝に形状結合的に固定されたグラファイト片を摩擦低減材として使用している。
【0009】
特許文献6より、スラスト滑り軸受が公知であり、この軸受のすべり面は、潤滑油を供給し且つ汚れを捕まえて除去する溝を備えている。上記の文献に開示された実施形態のいずれか一つにおいて、溝は、その溝壁部が略垂直であり、その底部に近い裾の領域に、製造条件に由来するアンダーカットが形成されているものの、これは溝の機能とは何の関わりもない。
【0010】
基本的に同じように構成された滑り軸受が特許文献7に開示されているが、この文献は、アンダーカットされた溝形状の基本的な可能性にさりげなく言及している。
【0011】
特許文献8、特許文献9、特許文献10および特許文献11は全て、垂直な溝壁部のある溝を備えた滑り軸受を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】国際公開第2012/028345号
【文献】オーストリア国特許発明第382215号明細書
【文献】英国特許出願公開第664426号明細書
【文献】米国特許出願公開第2015/0192172号明細書
【文献】米国特許出願公開第2006/0577059号明細書
【文献】独国特許出願公開第3706571号明細書
【文献】独国特許出願公開第3617087号明細書
【文献】独国特許出願公開第3428846号明細書
【文献】米国特許出願公開第2015/0159692号明細書
【文献】特開平9-144750号公報
【文献】米国特許第5746516号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、改善された冷却が保証されるように従来の一般的な滑り軸受を発展させることである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この課題は、請求項1の前提部分おいて書の特徴に加えて、回転方向において複数の溝のそれぞれ奥側に設けられた溝縁部が、回転方向における後方の溝縁部として、それらにそれぞれ対応する半径方向面に斜めに配向されているとともに、当該面に対してアンダーカットされており、回転方向において複数の溝のそれぞれ手前側に設けられた溝縁部が、回転方向における前方の溝縁部として、それらにそれぞれ対応する半径方向面に斜めにアンダーカット無しで配向されていることによって解決される。
【0015】
本発明の好ましい実施形態は、従属請求項の主題である。
【0016】
本発明は、油膜の層流構造をピンポイントで局所的に乱すと、油膜の熱吸収を著しく改善できるという知見に基づいている。動作中、油膜内には、(回転方向に視て)セグメント端部に向かって、比較的低温のシャフト近くの領域から、温度が明らかにずっと高い軸受近くの領域にかけて、はっきりとした温度勾配が形成されることが判明した。この温度勾配は、層流構造に起因して走行方向に向かってずっと成長を続ける。このとき、軸受近くの領域は非常に熱くなる。これに対して、シャフトに近い領域は比較的低温のままである。つまり、その熱吸収能力、従ってその冷却能力が完全には活かしきれない。従来技術から公知の、回転方向に配向されたすべり面の溝は、これとの関連では何も変えない。冒頭で説明したように、それらの冷却改善効果は、体積を増やして熱容量を増やすという原理に基づいている。従来技術から公知の、他の目的のために考えられた横方向の溝もまた、上述の流れの特性に影響を及ぼすことはなく、従って、懸案となっている温度勾配にも影響を及ぼすことがない。しかしながら、本発明は、いまや特殊な形状の横方向の溝を設けている。この溝は、その後方縁部の特殊な傾斜面に特徴がある。この傾斜面は、注目している溝縁部に対応する半径方向面に対してアンダーカットされている。軸受の中心軸線またはシャフトの回転軸線が載る任意の面が半径方向面と呼ばれる。或る特定の溝または溝縁部に対応する半径方向面とは、溝または溝縁部の注目している位置もまた載っているような半径方向面である。ここで、アンダーカットとは、溝前方縁部が垂直であると仮定した場合に、溝開口部の幅よりも溝底部の幅が大きくなる溝後方縁部の角度状態を意味する。ただし、ここで説明のためだけに述べた垂直な溝前方縁部の前提は、本発明の構成要素ではなく、本発明は、対応する半径方向面に対してアンダーカットされた溝後方縁部の態様にのみ関するものである。むしろ、溝前方縁部は、以下でより詳細に説明するように、同じように斜めに(ただしアンダーカット無しで)、それに対応する半径方向面に対して配向されている。発明者が認めたように、溝後方縁部のアンダーカットは、油膜における局所的な乱流の効率的な形成をもたらし、それが、異なる熱さの潤滑油部分を渦でかき乱し、それにより油膜内での温度の均衡を生じさせている。これにより、回転方向における渦の後方で、渦を起こす前には層流のためにシャフト近くの油膜の領域に捕らわれていた比較的低温の潤滑油部分のこれまで活かされなかった熱吸収能力を利用することができる。こうして、本発明により、潤滑油の体積は増やさなくても、局所的に層を混ぜ合わせることによって油膜の熱吸収能力を余すところ無く使うということのみに起因して、軸受の冷却が改善されることになる。
【0017】
特に効率的であるのは、アンダーカットされた溝縁部が、それらにそれぞれ対応する半径方向面に対して5°乃至20°の角度をなしている場合であることが判明した。このような角度の選択は、狙い通りの効果をもたらすが;同時に、対応する溝も、それほど手間をかけることなく、現実的に好ましい寸法で実現することができる。一般に、溝の深さhは、0.05乃至0.5ミリメートルの範囲にあることが好ましいと言える。(開口側の)溝の幅dは、大体同じ程度の大きさである。
【0018】
上述した冷却メカニズムについては、溝がすべり面全体に亘って配分されているのではなく、滑り軸受または各セグメントのいわゆる圧力降下領域に集中している場合に特に有利であることが判明した。これは、構造上、回転方向においてセグメント長の60乃至65%のところで始まり且つセグメント長の90乃至95%のところで終わる溝敷設領域に溝が配置されていることが好ましいことを意味する。言い換えれば、溝敷設領域は、この軸受セグメントを受け持つ給油部とは反対側のセグメントの端部に位置する。この配置による格別な効率性は特に、給油部を介して供給される新鮮で冷たい潤滑油が、回転方向への搬送途中で温度上昇を続け、好適な溝敷設領域に入るときにはかなりの温度勾配を形成してしまっているところ、今やそれが、上述したように冷やされつつ崩されるということにも基づいている。
【0019】
代替的にまたは-好ましくは-さらに、セグメント幅の中央の60乃至90%に亘って拡がっている溝敷設領域に溝が配置されている。言い換えれば、溝は、すべり面の中央領域に集中しており、側方ではセグメントの端にまでは突出していない。これにより、溝を通して潤滑油が過度に流れ出ることが回避される。
【0020】
溝敷設領域内では、溝は、好ましくはその面積の10乃至60%、特に20乃至30%を占める。残りの面積は、溝の間のウェブにより占められる。
【0021】
溝形状の好ましい形態では、溝は、その長手方向において途切れているものとされている。従って、それらは、長手方向に互いに隣接して配置され、それぞれ横手方向のウェブにより分離されている複数の部分溝を形成する。これは、途切れのない非常に長く延びた溝を有する実施形態に比べて、軸受の耐荷重能力に関して有利である。
【0022】
途切れた部分、つまり横手方向のウェブは、好ましくは、回転方向に対して横方向に互いにずらされて配置されている。これにより、溝が途切れているにもかかわらず、溝敷設領域内に、本発明による乱流が発生しない回転方向に向けられた筋が形成されることのないようにされる。むしろ、本発明により溝敷設領域の全幅に亘って渦が生成され冷却が改善される。
【0023】
本発明は、スラスト軸受とラジアル軸受の両方に使用することができる。固定パッド軸受にも使用可能であるし、同様に、個々の軸受セグメントが固定されずに傾動可能に配置されているティルティングパッド軸受にも使用可能である。複数の軸受セグメントから構成される従来の滑り軸受ではよく見られるように、本発明による滑り軸受においても、好ましくは、隣接する二つの軸受セグメントの間にこれらを互いに離間させる給油部が回転方向に対して横方向に延在している。
【0024】
隣接する二つの溝列の間隔に関して、この大きさが滑り軸受10,10’の大きさに依存することが有利であると判明した。内径が100mmのラジアル軸受10の場合、溝間隔は、0.5mm乃至2.5mm、好ましくは約1mmであることが有利であると判明した。スケーリング因子(D/100)0.5(ここで、B=軸受直径(mm))を用いることで、この大きさを他の軸受寸法に適合させることができる。スラスト軸受の場合、二つの溝列の間の間隔は、セグメント長が周方向に30mmの軸受では、(溝の中心で測って)0.4mm乃至1.6mm、0.8mmであることが好ましいという結果が出た。スケーリング因子(L/30)0.5(ここで、L=セグメント長(mm))を用いることで、この大きさを他の寸法のスラスト軸受に移行させることができる。
【0025】
本発明のさらなる詳細と長所は、以下の特定の記載と図から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】ラジアル軸受の形態の本発明による滑り軸受の概略的な断面図である。
図2図1の滑り軸受の軸受セグメントの一つの概略的な展開図である。
図3】本発明による滑り軸受の溝の概略的な断面図である。
図4】スラスト軸受の形態の本発明による滑り軸受の概略的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図中の同一の符号は、同一または類似の要素を指す。
【0028】
図1は、ラジアル軸受の形態の本発明による滑り軸受10の断面をかなり概略的に示している。滑り軸受10は、図示された実施形態では、三つの軸受セグメント12から組み立てられており、それらの内側のセグメント表面が一緒になって、支承されるシャフト14に同軸に配置された一つのすべり面16を形成している。個々の軸受シェル12の間には、それぞれ給油部18が配置され、この給油部を通して、潤滑および冷却のために、シャフト14とすべり面16の間に形成された軸受け内部すきま20に潤滑油を引き込むことができる。動きの矢印22は、シャフト14の回転方向を示している。一点鎖線で表されているのは半径方向面24である。
【0029】
重さを支える下側の軸受セグメント12は、シャフト14の回転方向におけるそのセグメント表面の後方領域に、溝26が敷設された溝敷設領域28を備えている。シャフト14の重さによる負荷が比較的少ない上側の軸受セグメント12は、図示された実施例においては溝敷設領域を備えていないが、ただしこれは、他の実施形態においては備えているのでも全く構わない。それでも、ラジアル軸受における、それも重さを支えるセグメントのセグメント表面における本発明による溝26は、特に且つ殆ど十分に効果的であることが判明した。通常それらは、下側の一つか二つの軸受セグメントである。
【0030】
図4は、同様に構成されたスラスト軸受の形態の滑り軸受10’を示す。図4で用いられたダッシュの付いた符号は、図1におけるダッシュの付いていない符号に、それらの意味において対応しているが、紙面内または紙面に平行に存在する軸受け内部すきまは、図4では看取できない。スラスト軸受の場合、略全ての軸受セグメント12’が同じ強さで負荷を受けるので、本発明による溝26’は通常、全てのセグメントのセグメント表面に使用されることになる。全てのセグメントに存在する構造には、図を見やすくする意味で、全てのセグメントにおいて符号を付す代わりに図示されたセグメントの一つだけに代表的に符号が付されている。
【0031】
図示された滑り軸受10,10’では、溝敷設領域28,28’は、いずれもシャフト14の回転方向にセグメント長の約65%を過ぎたところから始まり且つセグメント長の約90%を過ぎたところで終わる領域に亘って拡がっている。この溝敷設領域は従って、先行する給油部18,18’からセグメント長の約65%と、後続の給油部18,18’からセグメント長の約10%を除いて配置されている。
【0032】
図4のスラスト軸受10’および図2のラジアル軸受10に見られるように、溝敷設領域は、セグメント幅全てに亘っては拡がっていない。むしろ、セグメント幅の中央の約90%しか占めていない。
【0033】
図2から分かるように、溝26は、図示されたスラスト軸受10では、その長手方向に途切れた溝として形成されている。回転方向に隣接して配置された二つの溝それぞれの、溝が途切れた部分は、回転方向に対して横方向に互いにずらされている。
【0034】
図3は、かなり概略的にではあるが、本発明による溝26の基本的な形状を詳しく示している。この形状は、特に、回転方向において後方の溝縁部261が、対応する半径方向面24に対してアンダーカット角αのアンダーカットを備えている点に特徴がある。前方の溝縁部262は、(製造技術の許す限り)鋭角に形成された溝底部263においてそのまま後方の溝縁部261に突き当たる比較的平坦な傾斜面を形成している。代替的な実施形態では、溝底部は、鋭角ではなく平ら或いは或る径を有して形成されており、前方および後方の溝縁部262,261がそこで互いに直にぶつかることのないようになっている。特にそのような場合には、前方の溝縁部262のかなり急峻な角度も考えられる。本発明によるアンダーカットの効果は、図3に渦30によって示されている。軸受け内部すきま20に流れる油膜は、アンダーカットされた後方の溝縁部261の辺りに停滞し続けるような感じとなり、その結果、その層流構造が破壊されて渦が形成される。これにより、シャフト近くの比較的冷たい潤滑油部分と、軸受近くの比較的熱い潤滑油部分とが入れ替えられることになる。これにより、油膜内、それも、直前に通り過ぎた給油部18から供給された新鮮な潤滑油がすでにかなり熱くなっているシャフト領域において、熱的な均衡が生じる。加えて、選択された溝敷設領域28は、軸受の圧力降下領域に極めて正確に対応している。
【0035】
特定の記載において検討され、図に示された実施形態は、本発明の例示的な実施例に過ぎないことは言うまでもない。本明細書の開示に照らせば、可能なバリエーションの幅広い多彩さが当業者に提示されている。特に、本発明による溝が設けられたセグメントの数は変わってもよい。
なお、本願は特許請求の範囲に記載の発明に係るものであるが、本願の開示は以下も包含する:
1.
平常動作時に支承されて回転するシャフト(14,14’)を支承する流体力学的な滑り軸受(10,10’)であって、
回転方向(22,22’)に互いに隣接して配置された複数の軸受セグメント(12,12’)を有し、これらの軸受セグメントのセグメント表面が一緒になってシャフト(14,14’)のための一つのすべり面(16,16’)を形成し、
少なくとも一つの軸受セグメント(12,12’)が、そのセグメント表面に、回転方向(22,22’)に対して略横方向に配向された複数の溝(26,26’)を保持している滑り軸受において、
回転方向(22,22’)においてそれぞれ後方の溝縁部(261)が、それらにそれぞれ対応する半径方向面(24,24’)に斜めに配向されているとともに、当該面に対してアンダーカットされており、
回転方向(22,22’)においてそれぞれ前方の溝縁部(262)が、それらにそれぞれ対応する半径方向面(24,24’)に斜めにアンダーカット無しで配向されている ことを特徴とする滑り軸受。
2.
上記1に記載の流体力学的な滑り軸受(10,10’)において、
アンダーカットされた溝縁部(261)は、それらにそれぞれ対応する半径方向面(24,24’)に対して5°乃至20°の角度をなしていることを特徴とする滑り軸受。
3.
上記1または2に記載の流体力学的な滑り軸受(10,10’)において、
溝(26,26’)は、溝敷設領域(28,28’)に配置され、当該溝敷設領域は、回転方向(22,22’)においてセグメント長の60%乃至65%のところで始まり、セグメント長の90%乃至95%のところで終わることを特徴とする滑り軸受。
4.
上記1から3のいずれかに記載の流体力学的な滑り軸受(10,10’)において、 溝(26,26’)は、溝敷設領域(28,28’)に配置され、当該溝敷設領域は、セグメント幅の中央の60%乃至90%に亘って拡がっていることを特徴とする滑り軸受。
5.
上記3または4に記載の流体力学的な滑り軸受(10,10’)において、
溝(26,26’)は、溝敷設領域(28,28’)の面積の10%乃至60%、特に20%乃至30%を占めることを特徴とする滑り軸受。
6.
上記1から5のいずれかに記載の流体力学的な滑り軸受(10,10’)において、 少なくともいくつかの溝(26,26’)は、その長手方向において途切れていることを特徴とする滑り軸受。
7.
上記6に記載の流体力学的な滑り軸受(10,10’)において、
回転方向(22,22’)に隣接する二つの溝(26,26’)のそれぞれ途切れた部分は、回転方向(22,22’)に対して横方向に互いにずらされて配置されていることを特徴とする滑り軸受。
8.
上記1から7のいずれかに記載の流体力学的な滑り軸受(10,10’)において、 シャフト(14’)の軸線方向に垂直かつ平坦にすべり面(16’)が配向されているとともに、軸受セグメント(12’)が円環の扇形区画として形成されていることを特徴とする滑り軸受。
9.
上記1から7のいずれかに記載の流体力学的な滑り軸受(10,10’)において、 シャフト(14)の軸線方向に同軸かつ湾曲してすべり面(16)が配向されているとともに、軸受セグメント(12)が中空シリンダの扇形区画として形成されていることを特徴とする滑り軸受。
10.
上記1から9のいずれかに記載の流体力学的な滑り軸受(10,10’)において、 隣接する二つの軸受セグメント(12,12’)のそれぞれの間に、これらを互いに離間させる給油部(18,18’)が、回転方向(22,22’)に対して横方向に延在していることを特徴とする滑り軸受。
【符号の説明】
【0036】
10 滑り軸受(ラジアル軸受)
10’ 滑り軸受(スラスト軸受)
12,12’ 軸受セグメント
14,14’ シャフト
16,16’ すべり面
18,18’ 給油部
20 回転矢印
24,24’ 半径方向面
26,26’ 溝
261 後方の溝縁部
262 前方の溝縁部
263 溝底部
28,28’ 溝敷設領域
30 渦
h 溝の深さ
d (開口側の)溝の幅
図1
図2
図3
図4