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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】真空断熱グレージング
(51)【国際特許分類】
   C03C 27/06 20060101AFI20230829BHJP
   E06B 3/677 20060101ALI20230829BHJP
   E06B 3/663 20060101ALI20230829BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
C03C27/06 101D
C03C27/06 101J
C03C27/06 101E
E06B3/677
E06B3/663 F
C09K3/10 L
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021576101
(86)(22)【出願日】2020-06-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-22
(86)【国際出願番号】 IB2020055733
(87)【国際公開番号】W WO2020255031
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2023-04-12
(31)【優先権主張番号】102019000009759
(32)【優先日】2019-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511020829
【氏名又は名称】サエス・ゲッターズ・エッセ・ピ・ア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】カロージェロ・シャーシャ
(72)【発明者】
【氏名】オマール・サオンチェッラ
(72)【発明者】
【氏名】ステファノ・レブギーニ
(72)【発明者】
【氏名】フェデリコ・ガッリーノ
【審査官】須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-089557(JP,A)
【文献】特開2001-206740(JP,A)
【文献】特開2003-183624(JP,A)
【文献】特開平05-148477(JP,A)
【文献】特開2010-100676(JP,A)
【文献】国際公開第2016/051714(WO,A1)
【文献】特開平08-218742(JP,A)
【文献】国際公開第2006/024632(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 27/06
E06B 3/66
C09K 3/10
F25D 23/02
F25D 23/06
F25D 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空断熱グレージング(1)であって、
互いに向かい合い、間に空隙容積(4)を創出するように1つ又は複数のピラー(3,3',3'')によって互いに離間されている2枚の板ガラス(2,2')と、
前記容積(4)内に配置された非蒸発性ゲッターシステム(5,5')と、
前記容積(4)を封鎖して、前記板ガラス(2,2')の間の閉鎖空間を画定しているポリマーベースの封止エッジ(6)と、
を含み、
前記封止エッジ(6)が、封止剤組成物であって、
(a)1分子当たり平均で少なくとも2つのエポキシ基を含む硬化可能な熱硬化性非ハロゲン化ポリエポキシド樹脂;
(b)エポキシ樹脂中のエポキシ基1当量当たり0.5~2.0当量のアミンN-Hを供給するのに十分な量の芳香族ジアミン硬化剤;及び
(c)前記封止剤組成物の総質量に対して質量で5%から25%の間の範囲の量の無機乾燥剤
を含む封止剤組成物の硬化によって得られることを特徴とする、真空断熱グレージング。
【請求項2】
前記芳香族ジアミン硬化剤の量が、前記エポキシ樹脂中のエポキシ基1当量当たり0.5~1.0当量のアミンN-Hを供給する、請求項1に記載の真空断熱グレージング。
【請求項3】
前記無機乾燥剤が、酸化物、好ましくはCaO、吸湿性塩、例えば過塩素酸塩乾燥剤、好ましくはMg(ClO4)2、並びに可逆性乾燥剤、例えばゼオライト及び活性炭素、又はそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の真空断熱グレージング。
【請求項4】
前記封止剤組成物が、1又は複数種の不活性フィラーを更に含み、前記不活性フィラーが、ポリ(ビニルアルコール)、ポリイミド、SiO2、TiO2、ガラスビーズ、ガラス繊維、金属又はガラスリボン、及び金属又はガラスワイヤからなる群から選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の真空断熱グレージング。
【請求項5】
前記非ハロゲン化ポリエポキシド樹脂が、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂である、請求項1から4のいずれか一項に記載の真空断熱グレージング。
【請求項6】
前記芳香族ジアミン硬化剤が、スルホン化基及び/又はフェノール基を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の真空断熱グレージング。
【請求項7】
前記非蒸発性ゲッターシステムが、室温でのASTM吸収試験による、1cctorr/g以上のN2吸収容量を有するZr合金を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の真空断熱グレージング。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の真空断熱グレージングを含む、窓又はファサード。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか一項に記載の真空断熱グレージングを含む、家庭用又は業務用冷蔵庫のキャビネット。
【請求項10】
真空断熱グレージングを製造する方法であって、
i)上側及び下側板ガラスを用意し、下記の工程a~c:
a.ピラーを配置する工程;
b.非蒸発性ゲッターシステムをガラス表面上、又は専用空間内に配置し、任意選択で前記ゲッターを接着する工程;及び
c.請求項1に規定の封止剤組成物を堆積させる工程;
を任意の順序で行って前記下側板ガラスを準備する工程と;
ii)前記上側板ガラスを前記下側板ガラスと組にする工程と;
iii)前記封止剤組成物を硬化させて、VIGチャンバを形成する工程と;
iv)前記VIGチャンバからポンプで排気する工程と;
v)前記ゲッターを活性化する工程と;
vi)排気孔を密閉する工程と
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願につながるプロジェクトは、欧州連合のHorizon 2020研究・イノベーションプログラムの助成金を受け、助成契約番号は723868である。
【0002】
本発明は、建築物におけるカーテンウォールシステムから家庭用及び業務用冷蔵庫のキャビネットに至る幾つかの用途において透明な構成要素に優れた断熱性を提供する新規な真空断熱グレージング(VIG)システム、並びに前記VIGの製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
従来の真空断熱グレージング(VIG)は、2枚の平行な平面ガラス板からなり、ガラス板は介在させたスペーサによって分離状態に保持され、エッジが封止されており、2枚のガラス板の間に配置されたスペーサによって創出された狭い真空の空間を含有する。封止後にガラス板間の真空空間に残存する(即ち、ガス放出プロセス)可能性のある残留不純物及びガス、又は外部環境から内部に浸透する(即ち、透過プロセス)可能性のある残留不純物及びガスを吸収又は結合するために、真空管内の残留ガス又は不純物を吸収できることが公知のゲッターをVIGデバイスに組み入れることも開示されている。
【0004】
VIGデバイスは、1913年に初めて特許文献に記載されたが、概念の単純さとそれ以来の数十年の研究にもかかわらず、最初のVIGデバイスは、実際には1989年にようやく作製され、一方、最初の商用バージョンが市場に登場したのは、1996年になってからであった。VIGデバイスは、多くの技術的側面が実際に使えるデバイスの実現を妨げるために、アイディアがその実用化よりも遙かに早く登場した典型的な例を表している。VIGデバイスの成功にとって重要な要素としては、スペーサの材料、形状及び配置に加えて、エッジ封止剤の材料及び加工;通常、低エミッタンス及び反射防止特性を実現するガラスの品質とそのコーティング;並びにVIGの真空化のためのポート、チューブ及びプロセスを挙げることができる。
【0005】
他方、家庭用及び業務用の両方の建築物において、より多くの大きなガラスを用いた外壁の断熱性と透明性を同時に向上させることにより、建築物のエネルギー効率を高める必要性が益々高まっている。したがって、建設業界は、建築物に使用するためのより効率的なVIGデバイスが入手可能となるように努めている。
【0006】
VIGデバイスの断熱性を保つには、高真空レベル(10-3Torr以下)を維持する必要がある。外部環境からデバイス内の密閉空間への大気ガスの透過が少ないほど、内部の真空空間の圧力は低くなる。ガラス及び金属は透過率が無視できる材料であるため、一見して完全なバリアであると考えることができるが、これは、程度の差はあるが、ガスを透過しやすいポリマー材料には当てはまらない。この意味で、ガラスフリット又ははんだ付けされた金属ストリップを使用すると、気密性のエッジ封止剤が得られ、VIGデバイスにおける圧力変化は、ガス放出プロセスからのみ生じることになる。これにより、ゲッターの量を少なくして、通常1又は2個の非蒸発性ゲッター(NEG)焼結錠剤、又は数平方センチメートルの蒸発性バリウムとすることが可能となる。これに対し、ポリマーは定義上半透過性材料であり、VIGエッジ封止剤として使用すると、ガス放出及び透過プロセスの両方のためにゲッターでの解決策の最大許容サイズを超えるリスクがあるため、より多くのガス量の管理が必要となる。この意味で、ポリマーはVIG用途の厳密なガス透過性要件を満たすことができないと一般に認識され、現代のVIGの父と見なされているCollins教授の「現在入手可能なポリマー材料は全て、この用途にはあまりに透過性が高すぎる。筆者の意見では、これは変わりそうもない」[Conference Proceedings of Glass Performance Days GPD 2017、264~267ページ参照]という2017の発言でも確認されていた。したがって、VIGデバイスにおける従来のポリマー材料の封止剤としての使用は、実現不可能であると思われていた。
【0007】
ゲッターシステムがN2、O2、CO2、CO及びH2Oの吸収によって大気ガスを処理するのに有用となり得ることはある程度公知である。しかし、ガス透過性が高いと耐えきれず、ゲッターに実現不可能な負荷を与えることになる。更に、希ガスはゲッターで除去できず、Arは、全大気組成の約1%v/vを占めるため、VIG用途のためのバリア特性の目標は、封止剤のAr透過性によって定義され、VIGの耐用年数全体でVIG内部のAr圧力変化が10-3Torrを超えないことを保証するのに十分な低さとなっている。VIGの寸法と封止エッジの幅に応じて、この目標Ar透過性は、10-2~10-3barrerの範囲で見積もることができる。これまでのところ、絶縁ガラスにおける二次封止剤として使用される市販のポリマーは、VIGの目標よりも1~2桁高いAr透過性を有する。したがって、ポリマーベースの封止剤によって可能となるVIGデバイスを実現するためには、より効率的な解決策が必要である。
【0008】
欧州特許出願公開第2576950号は、有機接着封止剤の使用が提案されているVIGユニットを開示しているが、これには無機コーティングが施されている。この文献は、「VIGユニットの寿命期間中にその空洞への大気ガスの侵入を防止するのに十分な不透過性を有する接着剤又はエポキシは知られていない」と記載している。実際、この出願は、「接着剤層を覆って配置された高気密性コーティングであり、コーティングは無機層である」と主張している。
【0009】
米国特許出願公開第2007178256号も、有機ガス封止剤を主張しているが、これは、あくまでも絶縁性を持たせるために低熱伝導率ガス充填物を使用した非真空断熱ガラスに関するものである。充填ガスを使用する断熱ガラス(IG)は市場に普及しているが、VIGとは全く異なるカテゴリのデバイスであって、VIGよりも熱的性能が遙かに低く、製造方法も遙かに単純である。
【0010】
出願人が知る限りでは、VIGデバイスのエッジの封止に有機材料の使用を記載している数少ない特許文献は、中国特許第107285650号及び欧州特許第1794404号である。特に、欧州特許第1794404号は、封止剤用の有機材料としてのエポキシ材料、アクリラート材料、ブチル材料、ポリウレタン材料、ポリスルフィド材料、アクリル材料及びこれらの混合物の使用を記載する。欧州特許第1794404号には、結果として得られるVIGデバイスのガスに対する透過性に関して更なる情報も示唆も与えられていないが、クラス最高の材料、即ち、エポキシ複合体に関する文献には、0.1~0.6Barrerの範囲のArに対する透過性が報告されている。他の言及した封止剤のファミリー、例えばブチルゴムは、Arに対して0.85~1.1の範囲の透過性を呈し、一方、ポリスルフィド材料の場合は0.8~1.5であり、アクリラート及びポリウレタンは、典型的には更に透過性が高いと報告されている[L. K. Massey、Permeability properties of plastics and elastomers: a guide to packaging and barrier materials、William Andrew、2003]。更に重要なのは、他の大気ガスの場合である。O2及びN2は、典型的にはArと同程度の透過性を有するが、1~2桁豊富に存在するため、その侵入もそれに応じて高くなる。最悪なのは水蒸気の場合であり、典型的には他の永久ガスに比べて高い透過率(典型的には水蒸気透過率(WVTR)で表される)を示し、その結果、空洞内の圧力が上昇し、熱的性能が低下する。
【0011】
非常に性能の高いエポキシ樹脂封止剤配合物、例えば国際特許出願公開第95/26997号に記載されているようなものであっても、VIGの用途には耐えることができない。特に、この種の配合物は、包装材料を通過するガス、例えば二酸化炭素及び/又は酸素の透過性を低減できるとして開示されているが、真空チャンバ又はVIGデバイスの封止については言及されていない。実際、明示された透過率値によると、樹脂自体はVIGへのガス透過を十分に低く保つことはできない。上述のように、VIG用途にポリマー及び有機材料を使用する際の問題の1つは、それらが典型的には1%w/wを超える含水率を有し、ガス放出生成物、主に水分子を発生させ、それが、排除しないと、ガラス板間の空間で使用圧力を超える真空圧の上昇を引き起こすことである。
【0012】
同様の懸案事項は、ケイ素樹脂封止剤、触媒及びグラフェン微小粒子を含有する気密性強化ガラス用の封止剤組成物を開示する中国特許第107285650号にも当てはまる可能性がある。実際のところ、ケイ素樹脂は、ガスに対して非常に透過性が高く、例えば、「The behaviour of water in poly(dimethylsiloxane)」、J.M. Watson、M.G. Baron、Journal of Membrane Science 110(1996)47~57に開示されているように、上記のエポキシ樹脂よりも数桁悪いことが公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】欧州特許出願公開第2576950号
【文献】米国特許出願公開第2007178256号
【文献】中国特許第107285650号
【文献】欧州特許第1794404号
【文献】国際特許出願公開第95/26997号
【非特許文献】
【0014】
【文献】Conference Proceedings of Glass Performance Days GPD 2017、264~267ページ
【文献】L. K. Massey、Permeability properties of plastics and elastomers: a guide to packaging and barrier materials、William Andrew、2003
【文献】「The behaviour of water in poly(dimethylsiloxane)」、J.M. Watson、M.G. Baron、Journal of Membrane Science 110(1996)47~57
【文献】NIST Special Publication 250~93、「NIST Calibration Services for Spinning Rotor Gauge Calibrations」by Robert F. Berg and James A. Fedchak
【文献】MKSのhandbook(https://www.mksinst.com/f/srg-3-spinning-rotor-vacuum-gauge-system)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、上記先行技術に開示された公知の材料はいずれも、VIGデバイス用のエネルギー的に効率的な封止剤を提供するという目標を達成することができず、したがって、そうした封止剤が依然として必要であると感じられている。機械的特性は、最も重要な封止剤の別の特徴である。実際、封止剤は、ガラス接着強度と、ガラス温度の上昇によって生じる可能性のある最大せん断応力(例えば、2.5m×1.5mの板ガラスの場合の推定最大応力:7MPa)よりも高い降伏応力を実現しなければならない。更に、封止剤は、ピラーの動きにつながる板ガラス同士の大きな摺動を回避するのに十分な剛性がなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0016】
したがって、本発明の主題は、公知のVIGデバイスに関して先に強調した技術的問題を解決し、優れたエッジバリア特性及び機械的強度のそれぞれによってもたらされる優れた断熱性能及び構造的信頼性を実現する真空断熱グレージング(VIG)である。
【0017】
本発明の更なる主題は、上記空断熱グレージングを含む、建築物や農業用温室におけるドア及び/若しくは天窓要素として、並びに/又は乗り物、例えば自動車、高速鉄道及び航空機の平面窓としても使用される可能性のある窓又はファサードである。
【0018】
本発明のなお更なる主題は、上記真空断熱グレージングを含む、家庭用及び/又は業務用冷蔵庫のキャビネット(例えば冷凍庫、ワインキャビネット、陳列ケース)である。
【0019】
本発明のなお更なる主題は、少なくとも部分的に自動化でき、適切な封止エッジを有するVIGデバイスを得ることを可能とする、上記真空断熱グレージングの製造方法である。後者は、空隙や気泡がない均一な堆積物であって、温度上昇に伴って封止剤粘度が低下する熱硬化プロセスで現れる可能性のある拡散の問題のない直線的な輪郭を意味する。
【0020】
これらの主題及び更なる主題は、本発明による真空断熱グレージングデバイス、及びその製造方法によって達成され、その本質的特徴は、本明細書に添付された独立請求項に定義されている。本発明による主題の更なる重要な特性は、従属請求項に定義されている。
【0021】
本発明による真空断熱グレージング及びその製造方法の特性及び利点を、下記の例示的かつ非限定的実施形態の説明において、添付の図面も参照して明確に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本真空断熱グレージング及びその主要構成要素の好ましい実施形態を概略的に示す図である。
図2】4つのストリップからなるゲッターの全周型フレームと、均等な封止エッジ幅を有するVIGの優先的なデザインのスケッチである。
図3図3a、3b及び3cは、2つのゲッターストリップのみと、異なる封止エッジ幅を有する代替的なVIGデザインを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
上記のように、本発明の目的は、まず第一に、断熱性及びエネルギー効率の観点から、改良された真空断熱グレージング(本明細書では、「VIG」としても示される)を提供することである。
【0024】
出願人は、真空断熱ガラス技術に基づく新規なデバイスを開発し、デバイスは、ゲッターと特殊な封止剤組成物の両方の使用を伴う革新的なシステムのおかげで、優れた断熱性とガス透過性に対するバリアを実現できるものである。
【0025】
特に図1を参照すると、本発明による真空断熱グレージング1の好ましい実施形態が示されており、互いに向かい合う2枚の板ガラス2及び2'が、その間に空隙容積4を創出するように、複数のピラー3、3'、3''...によって互いに離間されている。ピラー3、3'、3''...は、板ガラス2及び2'をピラーの高さによって決められる所定距離に維持するように、板ガラス2及び2'の間に配置する必要がある。好ましくは、ピラーはガラス表面全体にわたって均等に分布し、その数は、表面の大きさに応じて異なってもよく、当技術分野における通常の技能を有する者であれば、容易に設定可能である。
【0026】
本発明の特定の実施形態によると、本VIGデバイスにおける板ガラス2及び2'は強化ガラスであり、表面の少なくとも一方は、VIGの内部容積4に面する低放射率層で覆われている。板ガラス2及び2'の横方向のサイズは、典型的には0.25から3mの間で構成され、ピラー3、3'、3''...の厚さは、0.1~0.6mmの範囲である。
【0027】
空隙容積4を封鎖するため、本VIGデバイスにおいては、板ガラス2及び2'の間に内側閉鎖空間を画定するように、ポリマーベースの封止剤6を板ガラスのエッジ上に堆積させている。硬化後、本VIGの典型的なサイズの詳細を考慮すると、VIGの外周に沿った封止エッジの対応する好ましい幅は、5から35mmの間で構成される。
【0028】
本VIGデバイスにおける封止エッジ6は、封止剤組成物であって、
(a)1分子当たり平均で少なくとも2つのエポキシ基を含む硬化可能な熱硬化性非ハロゲン化ポリエポキシド樹脂;
(b)エポキシ樹脂中のエポキシ基1当量当たり0.5~2.0当量、好ましくは0.5~1.0当量のアミンN-Hを供給するのに十分な量の芳香族ジアミン硬化剤;及び
(c)前記封止剤組成物の総質量に対して質量で5%から25%の間の範囲の量の無機乾燥剤
を含む封止剤組成物の堆積及び硬化によって得られる。
【0029】
本発明の好ましい実施形態によると、本封止剤組成物中の非ハロゲン化ポリエポキシド樹脂は、ノボラック樹脂としても公知のフェノール-ホルムアルデヒド樹脂又はポリフェノールジグリシジルエーテルであり、より好ましくは、下記式(I):
【0030】
【化1】
【0031】
(式中、nは、0から8の間の範囲に含まれる整数である)
を有する。
【0032】
硬化剤として、本封止剤組成物中の芳香族ジアミンは、好ましくはスルホン化基及び/又はフェノール基を含み、より好ましくは、4,4'-ジアミノ-ジフェニルスルホンである。
【0033】
先に記載したような本封止剤組成物は、ISO 11357-2:2013に準拠した示差走査熱量測定(DSC)によって決定される、好ましくは100℃を超え、より好ましくは150℃を超えるガラス転移温度を有する。
【0034】
欧州特許出願公開第2576950号に開示されているように、本封止剤組成物は、本質的に幾何学的因子に作用して透過ガス負荷を更に低減するのに適する他の封止剤要素と組み合わせて使用できる。VIGの外側エッジ又は少なくともその一部に本封止剤組成物で接着された外周の不透過性フレーム(例えば、アセンブリをクランプする金属製又はガラス製又はセラミック製のU字型プロファイル)を追加することも可能である。そのような構成では、審美的又は技術的理由で封止剤の幅をかなり小さくしなければなければならない場合であっても、透過性を低減することが可能である。
【0035】
本発明によると、図1に5及び5'として示されている非蒸発性ゲッターシステムが、板ガラス2及び2'の間に創出された空隙容積4内に配置される。
【0036】
本発明の特定の実施形態において、非蒸発性ゲッターは、室温でのASTM吸収試験で測定した1cctorr/g以上のN2吸収容量を有するZr合金である。本発明のゲッターに使用可能なZr合金としては、ZrTiV、ZrTiVAl、ZrVAl、ZrVFe、及びZrVFeMn-REからなる群から選択される合金であり、式中、REは1又は複数種の希土類元素であり、任意選択でZr粉末を含む混合物中で焼結されている。錠剤、例えばTiVFeAlSiのようなゲッター合金を有用に選択して使用することも可能であるが、本発明により好ましいのは、金属ストリップに積層させた、又は金属テープにコーティングした粉末ゲッターであり、ゲッターは、金属支持体の片面又は両面に堆積させる。典型的には、ゲッター用の金属支持体は、大きさが5~20mm、厚さが0.05~0.3mmであり、支持体に装填される活性のあるゲッター材料の量は、例えば10から30mg/cmの間の範囲である。
【0037】
図1は、VIGデバイスの最も一般的な製造方法で必要とされる、板ガラス2又は2''の少なくとも一方に設けられた排気孔7の存在も示す。
【0038】
最大量のゲッターを含み、封止剤の近くで全周型の第2のフレーム状に配置された4つのゲッターストリップで構成された、本発明による最も単純なVIGの構成が、図2に報告されている。
【0039】
図3a~3cには、本発明によるVIGの代替的なデザインが示され、図2のデザインに対して含まれるゲッターストリップの数が少なくなっている。これらの代替的なデザインは、活性化プロセスを簡素化するため、2つの異なるエッジに2つのストリップを有する。ストリップの数を減らすことにより、対称性が失われ、エッジの合計幅が非対称となったり(図3a)、封止剤の幅が非対称となったり(図3b及び3c)する可能性がある。図3b及び3cのデザインは同等であり、ゲッターストリップの位置が異なり、図3bのデザインでは短いエッジに沿って、図3cのデザインでは長いエッジに沿っている。
【0040】
封止剤の幅が非対称の場合、堆積プロセスは、幅の狭い封止剤堆積物に相当する封止剤の縁部を選択し、その縁部の倍数を使用して幅の広い封止剤堆積物を生成することによって行うことができる。
【0041】
本封止剤組成物中の無機乾燥剤は、不可逆性乾燥剤、例えばCaO、他の酸化物、過塩素酸塩乾燥剤、及び吸湿性塩、又は可逆性乾燥剤、例えばゼオライト若しくは活性炭素、又はそれらの混合物から選択することができる。
【0042】
本発明の特定の実施形態によると、本封止剤組成物は、1又は複数種の不活性フィラーを更に含み、それは、有機又は無機フィラー、例えばポリ(ビニルアルコール)(PVOH)、ポリイミド、SiO2、TiO2、ガラスビーズ、細断されていても歪み形態であってもよいガラス繊維、金属又はガラスリボン、及び金属又はガラスワイヤであってもよい。
【0043】
下記の表1に、本封止剤組成物の成分の例示的な質量パーセンテージを記載する。
【0044】
【表1】
【0045】
加えて、本発明の主題は、真空断熱グレージングを製造する方法であって、
i)上側及び下側板ガラスを用意し、下記の工程a~c:
a.ピラーを配置する工程;
b.非蒸発性ゲッターシステムをガラス表面上(例えばゲッターストリップの場合)、又は専用空間内(例えばゲッター錠剤用の穿孔)に配置し、任意選択で組にする操作中の移動を回避するためにゲッターを接着する工程;
c.上記のような封止剤組成物を堆積させる工程;
を必ずしも記載された順序ではなく、任意の順序で行って前記下側板ガラスを準備する工程と;
ii)上側板ガラスを下側板ガラスと組にする工程と;
iii)封止剤を、好ましくは加熱によって、任意選択で更にUV硬化によって硬化させる工程と;
iv)優先的にはベーキングしながらVIGチャンバからポンプで排気して真空状態を改善する工程と;
v)優先的には300℃~600℃の温度範囲での高周波(RF)加熱によってゲッターを活性化する工程と;
vi)排気孔を密閉する工程と
を含む、方法である。
【0046】
封止剤の堆積は、従来の堆積技法によって、例えば事前に充填されたシリンジから封止剤組成物を堆積させることによるニードル分注によって、又は事前に形成された封止剤組成物の積層ストリップの配置によって行うことができる。
【0047】
本発明の一態様によると、硬化させる工程iii)は、約200℃で1時間行われる。
【0048】
本発明の別の態様において、硬化させる工程iii)は、約170℃で1時間行われる。
【0049】
本製造方法の特定の実施形態において、上記工程i)及びii)は、VIG全体を囲む大型の真空チャンバ内で遂行してもよく、そうすると、それに続くポンプで排気する工程が必要なくなる。
【0050】
本発明の利点は、ゲッターと先に記載した封止エッジの両方を備える本真空断熱グレージングのために得られる高いエネルギー効率及び断熱性に関連している。本VIGデバイスは、VIGデバイスの内部容積4中で封止剤組成物から分離されずに封止剤組成物に含まれている乾燥剤の存在のおかげで、大気ガスにも水分に対しても高いバリア特性を示す。本封止剤組成物は、下記の実験パートに示すように試験され、試験を行った何れのエイジングプロトコル下でも真空グレードをもたらすことができるが、比較用組成物は、とりわけ長期のエイジングでは、機能しなくなることが見出された。
【0051】
更に、封止剤配合物中に乾燥剤が存在することで、より少ないゲッター量でも、或いは、VIG製造プロセスで課される温度制限によりゲッターが十分に活性化していない状態で使用した場合でも、同じ高効率に到達することができる。
【0052】
本VIGデバイスの更なる利点は、その機械的特性にもある。本VIGデバイス、特にその封止エッジは、実際、内部容積4と外気との圧力差による大きな応力に対応することができる。また、内側と外側の板ガラスの熱膨張の差にも対応することができ、更に、製造プロセスの最後の、100℃を超えるが封止剤のTgよりも低い温度でのVIGデバイスの内部容積からガス及び水分を除去するためのガス放出手順に耐えることができる。本デバイスのガラス表面での高い降伏応力及び接着強度(>7MPa)は、異なる封止剤組成物を含むデバイスと比較して、重ねせん断試験に従う下記の実験パートに示されている。
【0053】
更に、真空断熱グレージングを製造する本方法に関して、本封止剤エッジによる、特に、250℃未満の硬化温度と、100°℃を超えるガラス転移温度を有するという利点が示されている。更に、重合中にガス種が放出されないことが観察された。
【0054】
最後に、本発明の更に重要な利点は、本VIGデバイスの製造方法が単純であり、費用効果が高いことである。
【0055】
実験パート
異なるエイジングプロトコル(表2参照)に供した幾つかの代表的VIGサンプルに対し、最終的に熱特性に影響する圧力変化について試験を行った。
【0056】
【表2】
【0057】
封止エッジ幅1cm、真空空隙0.25mmの300mm×300mmのサイズのVIGを選択した。
【0058】
本発明の配合物を含む封止剤サンプルA、B及びCを表3に報告する。封止剤として他の樹脂を使用した比較用封止剤組成物1、2、3、4及び5が比較用として検討されており、それらも下記の同じ表3に列挙されている。これらのポリマーベースの封止剤全てについて、先に報告したエイジングプロトコルの後に試験を行い、結果は表4に報告されている。試験は全て、厚さ0.1mmのニッケルでめっきされた鉄製8mm幅のストリップの両面に積層したZrVAl合金の形態の完全に活性化されたゲッターを用いて行った。各VIGサンプルには、図2に示すように4つのゲッターストリップを使用した。
【0059】
【表3】
【0060】
先に示したサンプルに対する測定は、スピニングロータゲージ(SRG)によって全圧の変化を監視することによって行った。SRGは高真空圧力測定のための高精度な伝達標準であると考えられているにもかかわらず、ガスに依存した較正係数が必要であるが、現時点では透過物の混合物が不明であるため、較正係数は不明である[例えば、NIST Special Publication 250~93、「NIST Calibration Services for Spinning Rotor Gauge Calibrations」by Robert F. Berg and James A. Fedchak及びMKSのhandbook(https://www.mksinst.com/f/srg-3-spinning-rotor-vacuum-gauge-system)参照]。こうした理由から、下記の表4では、真空グレードの品質を比較して結果を報告している:
+は、高真空、即ち、10-3mbar以下の圧力を意味し;
≒は、中圧、即ち、5・10-3mbar~10-3mbarの範囲を意味し、
-は、低真空範囲、即ち、5・10-3mbar以上の圧力を意味する。
【0061】
【表4】
【0062】
得られた結果は、本封止剤組成物が比較対象よりも優れていることを示しており、後者は、試験を行ったエイジング条件下全てにおいて、とりわけ長期(エイジングプロトコルC)の場合に高真空グレードに到達することができない。これに対し、本発明の封止剤組成物は、長期であっても高又は中程度の真空グレードを維持することができる。特に、1又は複数種の酸化物乾燥剤を含む本組成物は、何れのエイジングプロトコル下でも高真空グレードを示している。
【0063】
サンプル及び比較サンプルは全て、重ねせん断試験によって機械的特性について試験を行った。結果を下記の表5に要約する。
【0064】
データは、ISO 4587:2013「接着剤-剛体から剛体への接着アセンブリの引張重ねせん断強度の決定」に基づいて収集している。
【0065】
【表5】
【0066】
これらの結果から、ガラス表面での高い降伏応力及び接着強度(>7MPa)が確認され、本封止剤組成物がVIG用途のための機械的要件を満たしていることが示されている。
【0067】
以上、本発明をその好ましい実施形態を参照して説明したが、更なる実施形態が存在してもよく、それらは全て、添付の特許請求の範囲によって定義されるように同じ発明の核に含まれる。
【符号の説明】
【0068】
1 真空断熱グレージング
2、2' 板ガラス
3、3'、3" ピラー
4 空隙容積
5、5' 非蒸発性ゲッターシステム
6 封止エッジ
7 排気孔
図1
図2
図3a
図3b
図3c