(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】SiC単結晶基板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/36 20060101AFI20230829BHJP
H01L 21/20 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
C30B29/36 A
H01L21/20
(21)【出願番号】P 2022513335
(86)(22)【出願日】2021-10-20
(86)【国際出願番号】 JP2021038798
【審査請求日】2022-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【氏名又は名称】長谷川 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100218800
【氏名又は名称】河内 亮
(72)【発明者】
【氏名】野崎 史恭
(72)【発明者】
【氏名】松島 潔
(72)【発明者】
【氏名】吉川 潤
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/100564(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/184059(WO,A1)
【文献】特開2010-280546(JP,A)
【文献】国際公開第2021/060368(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/36
H01L 21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
種結晶としてのSiC単結晶と、SiC粉末層とを互いに接触した状態で容器内に配置する工程と、
前記容器を焼成炉内の、設定温度±50℃以内の温度域に制御された有効加熱帯に配置して熱処理を行い、それにより前記種結晶上にSiC単結晶を成長させる工程と、
を含
み、
前記SiC粉末層は前記容器内に層状に敷き詰められたSiC粉末であり、前記種結晶が、その一方の面でのみ、前記SiC粉末層と接触している、SiC単結晶基板の製造方法。
【請求項2】
前記温度域が設定温度±20℃以内である、請求項
1に記載のSiC単結晶基板の製造方法。
【請求項3】
前記温度域が設定温度±10℃以内である、請求項1
又は2に記載のSiC単結晶基板の製造方法。
【請求項4】
前記SiC粉末層の底面及び/又は上面(但し、前記種結晶と接触する面を除く)に、相対密度が90%以上の緻密体が配置される、請求項1~
3のいずれか一項に記載のSiC単結晶基板の製造方法。
【請求項5】
前記SiC粉末層の外周縁に、相対密度が90%以上の緻密体が配置される、請求項1~
4のいずれか一項に記載のSiC単結晶基板の製造方法。
【請求項6】
前記SiC粉末層の底面及び/又は上面(但し、前記種結晶と接触する面を除く)に、相対密度が90%以上の緻密体が配置され、かつ、前記SiC粉末層の外周縁に、相対密度が90%以上の緻密体が配置される、請求項1~
3のいずれか一項に記載のSiC単結晶基板の製造方法。
【請求項7】
前記緻密体の相対密度が95%以上である、請求項
4~6のいずれか一項に記載のSiC単結晶基板の製造方法。
【請求項8】
前記緻密体の相対密度が99%以上である、請求項
4~7のいずれか一項に記載のSiC単結晶基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiC単結晶基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SiC(炭化珪素)が、大電圧及び大電力を低損失で制御できるワイドバンドギャップ材料として注目を集めている。特に近年、SiC材料を用いたパワー半導体デバイス(SiCパワーデバイス)は、Si半導体を用いたものよりも、小型化、低消費電力化及び高効率化に優れるため、様々な用途における利用が期待されている。例えば、SiCパワーデバイスを採用することで、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)向けのコンバータ、インバータ、車載充電器等を小型化して効率を高めることができる。
【0003】
一方、SiCパワーデバイスを高耐圧用途で利用するには、大電流に対応するためにSiCウエハー内の欠陥、特にデバイスキラー欠陥とよばれる基底面転位を極限まで低減し、デバイス特性の低下を抑制することが望まれる。市販されているSiCウエハーは一般的に昇華再結晶法で作製されているが、ウエハー内の欠陥を更に低減する方法として、RAF(Repeated A-Face)法や溶液成長法等が知られている。しかしながら、RAF法は大口径化が困難でコストが高く、溶液成長法は結晶内にインクルージョンが発生しやすい等の問題がある。
【0004】
欠陥を低減する他の製法例として、特許文献1(特許第3248071号公報)には、SiC単結晶上にSiC多結晶体を設けた複合体を熱処理し、SiC多結晶体を固相変態させることでマイクロパイプの少ないSiC単結晶が得られることが開示されている。また、特許文献2(特許第4069508号公報)には、SiC単結晶をSiC粉末に埋設して熱処理することを特徴とする、マイクロパイプが閉塞されたSiC単結晶の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3248071号公報
【文献】特許第4069508号公報
【発明の概要】
【0006】
上述のように、SiC単結晶基板の欠陥(転位)を低減する様々な方法が検討されてはいるものの、更なる改善が求められている。例えば、特許文献1に開示される製法は、マイクロパイプ以外の欠陥の低減に対処するものではなく、また、基板に反りが発生しやすいという問題がある。また、特許文献2は、マイクロパイプの低減に対処しているものの、マイクロパイプ以外の転位は低減できていないという問題がある。そこで、SiCウエハー内の欠陥、特にデバイスキラー欠陥とよばれる基底面転位を低減することが望まれる。
【0007】
本発明者らは、今般、種結晶としてのSiC単結晶とSiC粉末層とを、互いに接触した状態、かつ、温度勾配が小さい状態で熱処理することにより、基底面転位密度が低く、かつ、反り量が小さいSiC単結晶基板を製造できるとの知見を得た。
【0008】
したがって、本発明の目的は、基底面転位密度が低く、かつ、反り量が小さいSiC単結晶基板及びその製造方法を提供することにある。
【0009】
本発明の一態様によれば、種結晶としてのSiC単結晶と、SiC粉末層とを互いに接触した状態で容器内に配置する工程と、
前記容器を焼成炉内の、設定温度±50℃以内の温度域に制御された有効加熱帯に配置して熱処理を行い、それにより前記種結晶上にSiC単結晶を成長させる工程と、
を含む、SiC単結晶基板の製造方法が提供される。
【0010】
本発明の他の一態様によれば、少なくとも一方の表面の基底面転位密度が0~1.0×102cm-2であり、かつ、基板の反り量が0~40μmであるSiC単結晶基板であって、
前記反り量は、前記SiC単結晶基板の表面を平面視したときの平面視図形において、前記平面視図形の重心である点Gを通り互いに直交する2つの直線X及びYを引き、前記直線X上で前記点Gからそれぞれ45mm離れた2点A及びBと、前記直線Y上で前記点Gからそれぞれ45mm離れた2点C及びDとを定めた場合、(i)前記SiC単結晶基板の表面における前記点Aと前記点Bとの間の曲線AB上の任意の点から線分ABに対して垂直になるように延ばした線分のうち、該線分の距離が最長となるような前記曲線AB上の点Pを定め、(ii)前記線分ABと前記点Pとの距離を反り量αとし、(iii)前記SiC単結晶基板の表面における前記点Cと前記点Dとの間の曲線CD上の任意の点から線分CDに対して垂直になるように延ばした線分のうち、該線分の距離が最長となるような前記曲線CD上の点Rを定め、(iv)前記線分CDと前記点Rとの距離を反り量βとしたとき、(v)前記反り量α及びβの算術平均値として定義される、SiC単結晶基板が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】容器内におけるSiC粉末層及び種結晶の配置の一形態を示す模式断面図である。
【
図2】容器内におけるSiC粉末層及び種結晶の配置の他の一形態を示す模式断面図である。
【
図3】容器内におけるSiC粉末層及び種結晶の配置の他の一形態を示す模式断面図である。
【
図4】容器内におけるSiC粉末層及び種結晶の配置の他の一形態を示す模式断面図である。
【
図5】容器内におけるSiC粉末層、種結晶及び緻密体の配置の一形態を示す模式断面図である。
【
図6】容器内におけるSiC粉末層、種結晶及び緻密体の配置の他の一形態を示す模式断面図である。
【
図7】容器内におけるSiC粉末層、種結晶及び緻密体の配置の他の一形態を示す模式断面図である。
【
図8】容器内におけるSiC粉末層、種結晶及び緻密体の配置の他の一形態を示す模式断面図である。
【
図9】容器内におけるSiC粉末層、種結晶及び緻密体の配置の他の一形態を示す模式断面図である。
【
図10】SiC単結晶基板10の反り量の測定方法を説明するためのSiC単結晶基板10の上面図である。
【
図11】SiC単結晶基板10の反り量の測定方法を説明するためのSiC単結晶基板10の模式断面図である。
【
図12】SiC単結晶基板10の反り量の測定方法を説明するためのSiC単結晶基板10の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
SiC単結晶基板の製造方法
本発明は、SiC単結晶基板の製造方法に関する。この製造方法においては、まず、種結晶としてのSiC単結晶と、SiC粉末層とを互いに接触した状態で容器内に配置する。次に、容器を焼成炉内の、設定温度±50℃以内の温度域に制御された有効加熱帯に配置して熱処理を行い、それにより種結晶上にSiC単結晶を成長させる。このように、種結晶としてのSiC単結晶とSiC粉末層とを、互いに接触した状態、かつ、温度勾配が小さい状態で熱処理することにより、基底面転位密度が低く、かつ、反り量が小さいSiC単結晶基板を製造することができる。
【0013】
前述したとおり、SiCパワーデバイスを高耐圧用途で利用するには、大電流に対応するためにSiCウエハー内の欠陥、特にデバイスキラー欠陥とよばれる基底面転位を極限まで低減し、デバイス特性の低下を抑制することが望まれる。また、それに加え基板の反りも抑制することが望まれる。しかしながら、従来の方法では基底面転位密度が低く、かつ、反り量が小さいSiC単結晶基板を製造することは困難であった。この点、本発明によれば、かかる問題を好都合に解消できる。そのメカニズムは必ずしも定かではないが、以下のようなものと考えられる。すなわち、特許文献1に開示されるような従来の製法では、基板の熱膨張差によって反りが発生する問題があったが、本発明の製造方法では温度勾配が小さい状態で熱処理を行うため、基板の熱膨張差が生じにくく、それ故基板の反りが生じにくくなるものと考えられる。また、特許文献2では、SiC単結晶上に新たにSiC単結晶を成長させてはいないため、マイクロパイプ以外の転位は低減できないが、本発明の製造方法では種結晶としてのSiC単結晶とSiC粉末層とを互いに接触した状態で熱処理して新たにSiC単結晶を成長させるため、マイクロパイプ以外の転位(特に基底面転位)をも低減することができる。
【0014】
上述のとおり、SiC単結晶基板の製造方法は、(1)種結晶とSiC粉末層を配置し、(2)熱処理を行ってSiC単結晶を成長させることを含む。
【0015】
(1)種結晶とSiC粉末層の配置
まず、種結晶としてのSiC単結晶と、SiC粉末層とを互いに接触した状態で容器内に配置する。種結晶は、典型的にはSiC単結晶で構成されており、結晶成長面を有する。SiC単結晶の多形(ポリタイプ)、オフ角、及び極性は特に限定されるものではないが、多形は4H、6H又は3Cが好ましい。また、種結晶として、Si基板上に成膜されたSiC単結晶を用いてもよい。種結晶としてのSiC単結晶上の結晶成長面は、Si面でもC面でもよく、Si面及びC面の両面でもよい。
【0016】
SiC粉末層は、典型的には容器内に層状に敷き詰められたSiC粉末のことをいう。また、このSiC粉末層は、典型的にはSiC粉末で構成されている。SiC粉末は、α-SiC、β-SiCのいずれでもよい。SiC粉末の粒度及び純度については特に限定は無く、任意の市販されている粉末を用いることができる。ただし、高純度なSiC単結晶基板を作製するためには、SiC粉末も高純度のものであることが望ましい。なお、SiC粉末層は、SiC粉末の他に添加物を含んでいてもよい。
【0017】
図1~4に示されるように、種結晶4とSiC粉末層6とが互いに接してさえいれば、それらの配置位置に特に限定されない。すなわち、
図1に示されるように容器2の内底面に種結晶4を配置し、その上にSiC粉末層6を配置してもよいし、
図2に示されるように容器2内のSiC粉末層6中に種結晶4を埋設してもよい。あるいは、
図3に示されるように容器2の内底面に配置したSiC粉末層6の上面に種結晶4を載置してもよい。いずれにしても、種結晶4が、その一方の面でのみ、SiC粉末層6と接触しているのが好ましい。また、種結晶4とSiC粉末層6が接触している限り、1つの容器2内に複数の種結晶4を配置してもよい。さらに、
図4に示されるように種結晶4とSiC粉末層6とが接しているかぎり、種結晶4及びSiC粉末層6の側面(外周縁)と容器2の内壁とが非接触となるように側方空間を設けてもよい。
【0018】
図5~7に示されるように、SiC粉末層6の底面及び/又は上面(但し、種結晶4と接触する面を除く)に緻密体8が配置されてもよい。このように緻密体8を配置することで、容器2の内底面及び/又は容器蓋2bからの不純物の侵入を防ぐことができ、より高純度なSiC単結晶を成長させることができる。例えば、SiC粉末層6の上面に種結晶4が配置されない場合、
図5に示されるようにSiC粉末層6の上面に緻密体8が配置されてもよい。容器2の内底面に種結晶4が配置されない場合、
図6に示されるようにSiC粉末層6と容器2の内底面との間に緻密体8が配置されてもよい。SiC粉末層6中に種結晶4が埋設される場合、
図7に示されるように、SiC粉末層6の上面、及び/又はSiC粉末層6と容器2の内底面との間に、緻密体8が配置されてもよい。
【0019】
図8及び9に示されるように、SiC粉末層6の外周縁に緻密体8が配置されていてもよい。このように緻密体8を配置することで、容器2の側面からの不純物の侵入を防ぐことができ、より高純度なSiC単結晶を成長させることができる。例えば、
図8に示されるように、SiC粉末層6の外周部と容器2の内壁との間に、緻密体8が配置されてもよい。このとき、少なくともSiC粉末層6の外周部に緻密体8が接しているのが好ましい。特に、
図9に示されるように、SiC粉末層6の底面及び/又は上面(但し、種結晶4と接触する面を除く)に緻密体8が配置され、かつ、SiC粉末層6の外周縁に緻密体8が配置されるのが好ましい。
【0020】
緻密体8は、相対密度が90%以上の固体であるのが好ましいが、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは99%以上である。相対密度が高いほど、効果的に不純物の侵入を防ぐことができる。相対密度は、例えば、アルキメデス法により緻密体を実測したかさ密度を、緻密体の理論密度で除した値に、100を乗じることにより算出することにより決定できる。緻密体8は、後述する熱処理を行う際の焼成温度において、昇華及び融解せず、かつ、SiCと反応しないものあれば特に限定されない。そのような緻密体8の材質の例としては、TiC、TaC、NbC及びWC等の炭化物やSi3N4及びTiN等の窒化物の多結晶体が挙げられる。緻密体8の形状は特に限定されないが、層状であるのが好ましい。
【0021】
容器2の材質は、後述する熱処理を行う際の焼成温度において、昇華及び融解しないものであれば特に限定されないが、黒鉛製やSiC製の容器が望ましい。また、容器2の内壁や外壁にコーティングが施されていてもよい。コーティング材料の例としては、SiC、TiC、TaC、NbC、WC等が挙げられる。また、容器2の形状は特に限定されないが、種結晶4及びSiC粉末層6を収容可能な内部空間を備え、上部開放された容器本体2aと、容器本体2aの上部開放部に嵌合する容器蓋2bとを備えるのが好ましい。
【0022】
(2)熱処理(単結晶の成長)
上記(1)の後、容器を焼成炉内の、設定温度±50℃以内の温度域に制御された有効加熱帯に配置して熱処理を行い、それにより種結晶上にSiC単結晶を成長させる。こうすることで、温度勾配が小さい状態で熱処理を行うことができる。ここで、「有効加熱帯」とはJIS B 6905:1995により定義される「熱処理の目的に応じて、金属製品を温度許容範囲内に保持できる熱処理装置における装入領域」のことをいう。上記有効加熱帯の温度域は、設定温度±50℃以内であり、好ましくは設定温度±20℃以内、より好ましくは設定温度±10℃以内である。このように温度域が狭いほど、温度勾配がより小さい状態で熱処理を行うことができ、より品質の良い(すなわち、転位密度が低く反り量が小さい)SiC単結晶を成長させることが可能となる。
【0023】
熱処理に用いられる焼成炉は、種結晶上でSiCの結晶成長が生じるかぎり特に限定されず、抵抗炉、アーク炉及び誘導炉等の公知の焼成炉でもよい。焼成時における焼成炉内の雰囲気は、真空、窒素、不活性ガス、又は窒素と不活性ガスの混合雰囲気であるのが好ましい。また、熱処理は常圧下で行ってもよく、ホットプレスのように加圧下で行ってもよい。熱処理温度は、好ましくは1700~2700℃、より好ましくは2000~2600℃、さらに好ましくは2200~2500℃である。また、上記範囲内の温度での保持時間は特に限定されず、長時間保持するほどSiC単結晶をより厚く成長させることができるため、所望の厚さに合わせて保持時間を設定することができる。
【0024】
(3)研磨
こうして種結晶上にSiC単結晶を成長させた後、SiC単結晶の表面を研磨するのが好ましい。例えば、ダイヤモンド砥粒を用いて研磨加工した後、化学機械研磨(CMP)仕上げをすることで、SiC単結晶基板を得ることができる。
【0025】
SiC単結晶基板
上述した製造方法により、基底面転位密度が低く、かつ、反り量が小さいSiC単結晶基板を製造することができる。SiC単結晶基板の少なくとも一方の表面の基底面転位密度は、好ましくは0~1.0×102cm-2、より好ましくは0~5.0×101cm-2、さらに好ましくは0~1.0×101cm-2である。また、SiC単結晶基板の反り量は、好ましくは0~40μm、より好ましくは0~30μm、さらに好ましくは0~20μmである。
【0026】
ここで、本願明細書において、「反り量」とは、
図10~12に示すように、SiC単結晶基板の表面を平面視したときの平面視図形において、平面視図形の重心である点Gを通り互いに直交する2つの直線X及びYを引き、直線X上で点Gからそれぞれ45mm離れた2点A及びBと、直線Y上で点Gからそれぞれ45mm離れた2点C及びDとを定めた場合、(i)SiC単結晶基板の表面における点Aと点Bとの間の曲線AB上の任意の点から線分ABに対して垂直になるように延ばした線分のうち、この線分の距離が最長となるような曲線AB上の点Pを定め、(ii)線分ABと点Pとの距離を反り量αとし、(iii)SiC単結晶基板の表面における点Cと点Dとの間の曲線CD上の任意の点から線分CDに対して垂直になるように延ばした線分のうち、この線分の距離が最長となるような曲線CD上の点Rを定め、(iv)線分CDと点Rとの距離を反り量βとしたとき、(v)反り量α及びβの算術平均値として定義される。
【0027】
SiC単結晶基板は、c軸方向及びa軸方向に配向しているのが好ましい。SiC単結晶基板は、c軸及びa軸の二軸方向に配向している限り、SiC単結晶であってもよいし、モザイク結晶であってもよい。モザイク結晶とは、明瞭な粒界は有しないが、結晶の配向方位がc軸及びa軸の一方又は両方がわずかに異なる結晶の集まりになっているものをいう。配向の評価方法は、特に限定されるものではないが、例えばEBSD(Electron Back Scatter Diffraction Patterns)法やX線極点図等の公知の分析手法を用いることができる。例えば、EBSD法を用いる場合、SiC単結晶基板の表面(板面)又は板面と直交する断面の逆極点図マッピングを測定する。得られた逆極点図マッピングにおいて、(A)板面の略法線方向の特定方位(第1軸)に配向していること、(B)第1軸に直交する、略板面内方向の特定方位(第2軸)に配向していること、(C)第1軸からの傾斜角度が±10°以内に分布していること、及び(D)第2軸からの傾斜角度が±10°以内に分布していること、という4つの条件を満たすときに略法線方向と略板面方向の2軸に配向していると定義できる。言い換えると、上記4つの条件を満たしている場合に、c軸及びa軸の2軸に配向していると判断する。例えば板面の略法線方向がc軸に配向している場合、略板面内方向がc軸と直交する特定方位(例えばa軸)に配向していればよい。SiC単結晶基板は、略法線方向と略板面内方向の2軸に配向していればよいが、略法線方向がc軸に配向していることが好ましい。略法線方向及び/又は略板面内方向の傾斜角度分布は小さい方がSiC単結晶基板のモザイク性が小さくなり、ゼロに近づくほど単結晶に近くなる。このため、SiC単結晶基板の結晶性の観点では、傾斜角度分布は略法線方向及び略板面方向共に小さい方が好ましく、例えば±5°以下がより好ましく、±3°以下がさらに好ましい。
【実施例】
【0028】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。なお、以下の例は本発明を何ら限定するものではない。
【0029】
例1
(1)SiC単結晶の作製
種結晶となる市販のSiC単結晶基板(4H-SiC、直径100mm(4インチ)、オフ角4°、厚さ0.35mm)を、カーボン製の容器内に充填した市販のβ-SiC粉末(体積基準D50粒径:2.3μm)に埋設した。容器を抵抗炉(焼成炉)の、設定温度±50℃以内の温度域に制御された有効加熱帯に配置し、アルゴン雰囲気中で2450℃にて10時間熱処理することで、種結晶上にSiC単結晶を成長させた。
【0030】
(2)研磨
得られたSiC単結晶の表面(Si面及びC面)を、ダイヤモンド砥粒を用いて研磨加工した後、化学機械研磨(CMP)仕上げをしてSiC単結晶基板を得た。
【0031】
(3)SiC単結晶基板の評価
(3-1)基板の反り測定
得られたSiC単結晶基板の研磨面に対し、高精度レーザ測定器(株式会社キーエンス製 LT-9010M)を用いて、反り量を測定した。
図10に示すように、SiC単結晶基板10の表面(SiC単結晶30)を平面視したときの平面視図形において、その平面視図形の重心である点Gを通り互いに直交する2つの直線X及びYを引き、直線X上で点Gからそれぞれ45mm離れた2点A及びBと、直線Y上で点Gからそれぞれ45mm離れた2点C及びDとを定めた。続いて、
図11に示すように、SiC単結晶基板10の表面(SiC単結晶30)における点Aと点Bとの間の曲線AB上の任意の点から線分ABに対して垂直になるように延ばした線分のうち、その線分の距離が最長となるような曲線AB上の点Pを定めた(例えば、
図11において、曲線AB上の任意の点として点Pや点O等があるが、それぞれの点から線分ABに対して垂直になるように延ばした線分のうち最長の線分となるのは点Pから伸ばした線分となる)。そして、線分ABと点Pとの距離を反り量αとした。また、
図12に示すように、SiC単結晶基板10の表面(SiC単結晶30)における点Cと点Dとの間の曲線CD上の任意の点から線分CDに対して垂直になるように延ばした線分のうち、その線分の距離が最長となるような曲線CD上の点Rを定めた(例えば、
図12において、曲線CD上の任意の点として点Rや点O等があるが、それぞれの点から線分CDに対して垂直になるように延ばした線分のうち最長の線分となるのは点Rから伸ばした線分となる)。そして、線分CDと点Rとの距離を反り量βとした。これらの反り量α及びβの平均値をSiC単結晶基板の反り量とした。結果は表1に示されるとおりであった。
【0032】
(3-2)基底面転位密度の評価
ニッケル製の坩堝に、上記(2)で得られたSiC単結晶基板をKOH結晶と共に入れた。この坩堝を電気炉で、500℃で10分間、エッチング処理した。エッチング処理後のサンプル(SiC単結晶基板)を洗浄し、その表面を光学顕微鏡にて観察し、ピットの形状から各種欠陥の種類を判断した。このうち、基底面転位の数を測定し、基底面転位数(個)を観察領域の面積(cm2)で除することで、基底面転位密度(cm-2)を計算した。具体的には、サンプル表面の任意の箇所の部位について、縦2.8mm×横3.6mmの視野を倍率20倍で100視野分撮影して基底面転位の総数を測定し、この総数を100視野分の総面積である10.1cm2で除することにより基底面転位密度を算出した。結果は表1に示されるとおりであった。
【0033】
例2
上記(1)において、種結晶となる市販のSiC単結晶基板を、カーボン製の容器内に充填した市販のβ-SiC粉末上に、種結晶のSi面のみが粉末と接触するように載置したこと以外は、例1と同様にしてSiC単結晶基板の作製及び評価を行った。得られた基板の反り量及び基底面転位密度は表1に示されるとおりであった。
【0034】
例3
上記(1)において、種結晶となる市販のSiC単結晶基板を、基板のSi面が上向きとなるように、カーボン製の容器の底に配置し、その上から市販のβ-SiC粉末を充填したこと以外は、例1と同様にしてSiC単結晶基板の作製及び評価を行った。得られた基板の反り量及び基底面転位密度は表1に示されるとおりであった。
【0035】
例4
上記(1)において、(i)種結晶となる市販のSiC単結晶基板を、基板のSi面が上向きとなるように、カーボン製の容器の底に配置し、その上から市販のβ-SiC粉末を充填したこと、及び(ii)さらにβ-SiC粉末層の上面にTaC多結晶緻密体(相対密度90%以上)を載置したこと以外は、例1と同様にしてSiC単結晶基板の作製及び評価を行った。得られた基板の反り量及び基底面転位密度は表1に示されるとおりであった。
【0036】
例5
上記(1)において、(i)TaC多結晶緻密体(相対密度90%以上)をカーボン製の容器の底に配置したこと、及び(ii)その上から市販のβ-SiC粉末を充填し、さらにβ-SiC粉末層の上に種結晶となる市販のSiC単結晶基板を、基板のSi面のみが粉末と接触するように載置したこと以外は、例1と同様にしてSiC単結晶基板の作製及び評価を行った。得られた基板の反り量及び基底面転位密度は表1に示されるとおりであった。
【0037】
例6
上記(1)において、(i)TaC多結晶緻密体(相対密度90%以上)をカーボン製の容器の底に配置したこと、(ii)その上から市販のβ-SiC粉末を充填後、その中に種結晶となる市販のSiC単結晶基板を埋設したこと、及び(iii)さらにβ-SiC粉末の上にTaC多結晶緻密体(相対密度90%以上)を載置したこと以外は、例1と同様にしてSiC単結晶基板の作製及び評価を行った。得られた基板の反り量及び基底面転位密度は表1に示されるとおりであった。
【0038】
例7
上記(1)において、リング状のTaC多結晶緻密体(相対密度90%以上)を、カーボン製の容器の内壁に沿うように配置したこと(すなわちSiC粉末層の外周縁に相対密度が90%以上の緻密体を配置したこと)以外は、例1と同様にしてSiC単結晶基板の作製及び評価を行った。得られた基板の反り量及び基底面転位密度は表1に示されるとおりであった。
【0039】
例8
上記(1)において、リング状のTaC多結晶緻密体(相対密度90%以上)を、カーボン製の容器の内壁に沿うように配置したこと以外は、例2と同様にしてSiC単結晶基板の作製及び評価を行った。得られた基板の反り量及び基底面転位密度は表1に示されるとおりであった。
【0040】
例9
上記(1)において、リング状のTaC多結晶緻密体(相対密度90%以上)を、カーボン製の容器の内壁に沿うように配置したこと以外は、例3と同様にしてSiC単結晶基板の作製及び評価を行った。得られた基板の反り量及び基底面転位密度は表1に示されるとおりであった。
【0041】
例10
上記(1)において、リング状のTaC多結晶緻密体(相対密度90%以上)を、カーボン製の容器の内壁に沿うように配置したこと以外は、例4と同様にしてSiC単結晶基板の作製及び評価を行った。得られた基板の反り量及び基底面転位密度は表1に示されるとおりであった。
【0042】
例11
上記(1)において、リング状のTaC多結晶緻密体(相対密度90%以上)を、カーボン製の容器の内壁に沿うように配置したこと以外は、例5と同様にしてSiC単結晶基板の作製及び評価を行った。得られた基板の反り量及び基底面転位密度は表1に示されるとおりであった。
【0043】
例12
上記(1)において、リング状のTaC多結晶緻密体(相対密度90%以上)を、カーボン製の容器の内壁に沿うように配置したこと以外は、例6と同様にしてSiC単結晶基板の作製及び評価を行った。得られた基板の反り量及び基底面転位密度は表1に示されるとおりであった。
【0044】
例13(比較)
上記(1)において、β-SiC粉末の代わりに熱CVD法で作製したβ-SiC多結晶板を用い、β-SiC多結晶板と、種結晶となる市販のSiC単結晶基板のSi面とを接触させた状態でカーボン製の容器に配置して熱処理したこと以外は、例1と同様にしてSiC単結晶基板の作製及び評価を行った。得られた基板の反り量及び基底面転位密度は表1に示されるとおりであった。
【0045】
例14(比較)
上記(1)において、種結晶となる市販のSiC単結晶基板を、カーボン製の容器内に充填した市販のβ-SiC粉末上に、種結晶がβ-SiC粉末と接触しないようにカーボン製のスペーサー(厚さ2mm)を介して配置したこと以外は、例1と同様に熱処理を行い、SiC単結晶基板の作製を試みた。しかし、種結晶上にSiC単結晶が成長しなかったため、反り測定及び基底面転位密度の評価は実施しなかった。
【0046】
例15(比較)
SiC単結晶の作製を以下のように行ったこと以外は、例1と同様に、SiC単結晶基板を研磨し、評価を行った。得られた基板の反り量及び基底面転位密度は表1に示されるとおりであった。
【0047】
(SiC単結晶の作製)
上記(1)において、種結晶となる市販のSiC単結晶基板を、カーボン製の容器内に充填した市販のβ-SiC粉末に埋設した。この容器を抵抗炉の有効加熱帯の外に配置し、設定温度±50℃を超えるような温度勾配が大きい状態で、アルゴン雰囲気中で2450℃にて10時間熱処理することで、種結晶上にSiC単結晶を成長させた。
【0048】
【0049】
例1~12より、種結晶としてのSiC単結晶とSiC粉末層とを互いに接触させ、温度勾配が小さい状態で熱処理を行う(すなわち、設定温度±50℃以内の温度域に制御された有効加熱帯にて熱処理を行う)と、原因は不明であるが、基底面転位密度の低いSiC単結晶基板が得られることが分かった。また、このSiC単結晶基板は熱応力が小さい状態であるため、反り量の小さいSiC単結晶基板が得られることが分かった。一方、例13~15(比較)より、SiC粉末の代わりにSiC多結晶板を使用したり、温度勾配が大きい状態で熱処理すると、基板の反り量が増加し、基底面転位密度も高くなることが分かった。また、SiC単結晶とSiC粉末が接触していない状態で熱処理すると、SiC単結晶が成長しないことが分かった。
【要約】
基底面転位密度が低く、かつ、反り量が小さいSiC単結晶基板の製造方法が提供される。この製造方法は、種結晶としてのSiC単結晶と、SiC粉末層とを互いに接触した状態で容器内に配置する工程と、容器を焼成炉内の、設定温度±50℃以内の温度域に制御された有効加熱帯に配置して熱処理を行い、それにより種結晶上にSiC単結晶を成長させる工程とを含む。