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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】車両により補助ブレーキを制御する方法
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/176 20060101AFI20230829BHJP
   B60L 7/24 20060101ALI20230829BHJP
   B60L 7/28 20060101ALI20230829BHJP
   B60L 7/12 20060101ALI20230829BHJP
   B60L 7/26 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
B60T8/176 Z
B60L7/24 D
B60L7/28
B60L7/12 Q
B60L7/26
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2022533622
(86)(22)【出願日】2019-12-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-08
(86)【国際出願番号】 EP2019084372
(87)【国際公開番号】W WO2021115566
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】512272672
【氏名又は名称】ボルボトラックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100169018
【弁理士】
【氏名又は名称】網屋 美湖
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】レイン,レオ
(72)【発明者】
【氏名】エリクソン,アンデシュ
(72)【発明者】
【氏名】ネアンデル,グスタフ
(72)【発明者】
【氏名】スヴェンソン,ヤン‐インゲ
【審査官】宮下 浩次
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-519430(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0299949(US,A1)
【文献】国際公開第2017/102448(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/176
B60L 7/24
B60L 7/28
B60L 7/12
B60L 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主ブレーキシステム(250)および補助ブレーキシステム(260)を備えた大型車両(100)用の車両ブレーキシステムを制御する方法であって、
ホイールスリップの大きさ限度(λLIM)を設定するステップ(S1)と、
要求された補助ブレーキトルク(310)を取得するステップ(S2)と、
ホイールスリップ値(λ、340)を監視しつつ(S4)、
前記要求された補助ブレーキトルク(310)に依存して決定されたトルクで前記主ブレーキシステム(250)を作動させるステップ(S3)と、
前記要求された補助ブレーキトルク(310)および前記監視されたホイールスリップ値(λ、340)に依存して許容できる補助ブレーキトルク(315)を決定するステップ(S6)と、
前記許容できる補助ブレーキトルク(315)で前記補助ブレーキシステム(260)を作動させるステップ(S7)と、を含む方法。
【請求項2】
前記補助ブレーキシステム(260)は、電気機械、電磁式リターダシステム、圧縮ブレーキシステム、および排気ブレーキシステムのいずれかを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記主ブレーキシステム(250)は、常用ブレーキシステム、摩擦ブレーキシステム、回生ブレーキシステム、および電気機械ブレーキシステムのいずれかを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記要求された補助ブレーキトルク(310)は、一セットの離散的な選択可能なトルク値(267)から手動選択によって取得される(S21)、請求項1~3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
前記要求された補助ブレーキトルク(310)は、車両ブレーキ操作を制御するように配置された車両制御ユニット(110)から取得される(S22)、請求項1~3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
前記要求された補助ブレーキトルク(310)まで所定の徐々に増加する関数に従って前記主ブレーキシステム(250)を作動させるステップ(S31)を含む、請求項1~5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
道路摩擦係数(μ)を推定するステップ(S5)を含む、請求項1~6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
前記要求された補助ブレーキトルク(310)が、前記設定されたホイールスリップの大きさ限度(λLIM)未満のホイールスリップの大きさで取得することができない場合、前記許容できる補助ブレーキトルク(315)は、前記要求された補助ブレーキトルク(310)に比べて減少する(S61)、請求項1~7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
前記許容できる補助ブレーキトルク(315)は、前記設定されたホイールスリップの大きさ限度(λLIM)未満のホイールスリップの大きさで、前記主ブレーキシステム(250)によって達成される最大トルクに基づいて決定される(S62)、請求項1~8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
前記許容できる補助ブレーキトルク(315)は、次式の関係に基づいて決定され(S63)、
AUX=λPEAK*M*C*R
ただし、TAUXは補助ブレーキトルクであり、λPEAKは監視されたホイールスリップの大きさの最大値であり、0<M≦1はマージン係数であり、Cは縦方向タイヤ剛性パラメータであり、Rはホイール半径である、請求項1~9のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
前記許容できる補助ブレーキトルク(315)は、次式の関係に基づいて決定され(S64)、
AUX=μPEAK*F*R*G*M
ただし、TAUXは補助ブレーキトルクであり、μPEAKはピーク推定道路摩擦係数であり、Fは推定タイヤ垂直抗力であり、Rはホイール半径であり、Gはギア比であり、0<M≦1はマージン係数である、請求項1~9のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
前記許容できる補助ブレーキトルク(315)は、ホイールスリップの前記監視中に、低摩擦状態が検出される場合に、ゼロになるように決定される(S65)、請求項1~11のいずれか1つに記載の方法。
【請求項13】
前記補助ブレーキシステム(260)を作動させるステップは、一定の総ブレーキトルクのうちで前記主ブレーキシステム(250に配分したブレーキトルクを前記補助ブレーキシステム(260)へ徐々に移すようにトルク配分を調整するステップ(S71)を含む、請求項1~12のいずれか1つに記載の方法。
【請求項14】
ホイールスリップ(λ、340)を監視しつつ、一定の総ブレーキトルクのうちで前記補助ブレーキシステム(260に配分したブレーキトルクを前記主ブレーキシステム(250)へ定期的に戻すようにトルク配分を調整するとともに、前記監視されたホイールスリップ(λ、340)に基づいて前記許容できる補助ブレーキトルク(315)を更新するステップ(S8)を含む、請求項1~13のいずれか1つに記載の方法。
【請求項15】
前記補助ブレーキシステム(260に配分したブレーキトルクを前記主ブレーキシステム(250)へ戻す前記トルク配分の調整は、道路温度値、降雨の有無、降雪の有無、道路傾斜、道路のバンク、および前記道路の視覚像のいずれかに基づいてトリガされる(S81)、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記補助ブレーキシステム(260に配分したブレーキトルクを前記主ブレーキシステム(250)へ戻す前記トルク配分の調整は、ホイールスリップの変化に応答して、または要求されたブレーキトルクの変化に応答してトリガされる(S82)、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
コンピュータプログラム(820)であって、制御ユニット(110)のコンピュータ上または処理回路(810)上で当該プログラムが実行されるときに、請求項1~16のいずれか1つに記載の方法のステップを実行するプログラムコード手段を備えるコンピュータプログラム(820)。
【請求項18】
制御ユニット(110)のコンピュータ上または処理回路(810)上でプログラム製品が実行されるときに、請求項1~16のいずれか1つに記載の方法のステップを実行するプログラムコード手段を備えるコンピュータプログラム(820)を保持するコンピュータ可読媒体(810)。
【請求項19】
大型車両(100)における主ブレーキシステム(250)および補助ブレーキシステム(260)を備えた車両ブレーキシステムを制御するように構成された制御ユニット(110)であって、
ホイールスリップの大きさ限度(λLIM)を設定し、
要求された補助ブレーキトルク(310)を取得し、
前記要求された補助ブレーキトルク(310)に依存して決定されたトルクで前記主ブレーキシステム(250)を作動させ、
ホイールスリップ値(λ、340)を監視し、
前記要求された補助ブレーキトルク(310)および前記ホイールスリップ値(λ、340)に依存して許容できる補助ブレーキトルク(315)を決定し、
前記許容できる補助ブレーキトルク(315)で前記補助ブレーキシステム(260)を作動させるように構成されている、制御ユニット(110)。
【請求項20】
請求項19に記載の制御ユニット(110)を備える車両(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、大型車両上の補助ブレーキ、すなわち、圧縮ブレーキ、排気ブレーキ、ドライブラインリターダなどに関する。本発明は、トラックおよび建設機械などの大型車両に適用することができる。本発明は、セミトレーラ車両およびトラックなどの貨物輸送車に関して主に説明されるが、本発明は、この特定のタイプの車両に限定されず、自動車などの他のタイプの車両にも使用され得る。
【背景技術】
【0002】
トラックまたはセミトレーラなどの車両は、その正規の常用ブレーキに加えて補助ブレーキをしばしば備える。補助ブレーキは、例えば、坂を下って運転するときに、例えば、ディスクまたはドラムブレーキシステムの長時間の使用を控えるために使用することができ、それによってブレーキの摩耗、過熱に関連した問題を減少させる。
【0003】
補助ブレーキシステムは、圧縮ブレーキシステムおよび排気ブレーキシステムを含むいくつかの知られている技法に基づいていることができ、推進の代わりに車両減速のために車両燃焼機関を「逆に」使用する。車両を減速させるとともに、同時に、電気エネルギーを発生させるために作動することができる電磁式リターダも知られている。
【0004】
選ばれた技術次第では、補助ブレーキシステムは、非常に粗野で、制御が難しい場合がある。道路状態がスリップしやすい場合、補助ブレーキシステムによるハードブレーキングの突然の適用は、V字形の折れ曲がりおよび他の車両安定性の問題などの望ましくないイベントをもたらし得る。補助ブレーキを作動させることによる車両安定性への影響を予測することが難しい可能性もある。
【0005】
特許文献1は、大型車両におけるリターダまたは排気ブレーキなどの補助ブレーキを制御する方法を開示する。開示された方法は、補助ブレーキにより可変ブレーキング効果を起動するために運転手がブレーキペダルを操作することを含む。
【0006】
しかしながら、より洗練され、効率的な補助ブレーキシステム制御方法の必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第02/032737号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示の目的は、補助ブレーキシステムを制御する改善された補助ブレーキシステムおよび方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、大型車両のための車両ブレーキシステムを制御する方法によって少なくとも一部達成される。ブレーキシステムは、主ブレーキシステム、および補助ブレーキシステムを備える。方法は、ホイールスリップの大きさ限度λLIMを設定するステップと、要求された補助ブレーキトルクを取得するステップと、ホイールスリップ値λを監視しつつ、要求された補助ブレーキトルクに依存して決定されたトルクで主ブレーキシステムを作動させる(engaging)ステップと、を含む。方法は、要求された補助ブレーキトルクおよび監視されたホイールスリップ値λに依存して許容できる補助ブレーキトルクを決定するステップと、許容できる補助ブレーキトルクで補助ブレーキシステムを作動させるステップと、も含む。
【0010】
そうすることで、主ブレーキシステムは、要求された補助ブレーキトルクレベルで補助ブレーキを作動させる前に、道路状態を自動精査するために使用される。したがって、補助ブレーキシステムによって可変ブレーキトルクを単純に設定することができるのとは異なり、開示された方法およびブレーキシステムは、設定されたトルクが、設定されたホイールスリップの大きさ限度λLIMを破ることなく安全に加えられ得ることを自動的に検証する。要求された補助ブレーキトルクが現在の道路状況であるとサポートできない場合、許容できる補助ブレーキトルクは、現在の道路状況の場合にブレーキトルクの観点で提供できるものを表すことができる。そうすることで、自動化された効率的で安全な補助ブレーキシステムが提供される。特に、セミトレーラ車両によるV字形の折れ曲がりイベントのリスクが、かなり減じられる。
【0011】
開示された方法は、多種多様な異なるタイプの補助ブレーキシステムとともに使用することができる。例えば、開示された方法の態様は、電気機械、電磁式リターダシステム、圧縮ブレーキシステム、および排気ブレーキシステムのいずれかを含む補助ブレーキシステムに関する。また、主ブレーキシステムは、常用ブレーキシステム、摩擦ブレーキシステム、回生ブレーキシステム、および電気機械ブレーキシステムのいずれかを含み得る。したがって、開示された方法およびブレーキシステムは、単一のタイプのブレーキデバイスに限定されず、有利である多くの異なるタイプのブレーキ駆動装置で適用することができる。開示された方法は、2つ以上のタイプの駆動装置を含むブレーキシステム、すなわち、ブレーキの混合を実施するブレーキシステムなどとともに使用することもできる。
【0012】
各態様によれば、方法は、要求された補助ブレーキトルクまで所定の徐々に増加する関数に従って主ブレーキを作動させるステップを含む。そうすることで、プローブブレーキング(probe braking)は、滑らかになり、これにより不安定性または深刻なホイールスリップ状態における車両のリスクを減じる。設定されたホイールスリップの大きさ限度がコントロールされたやり方で破られるので、要求された補助ブレーキトルクからのバックオフでも目立ち得ない。
【0013】
各態様によれば、許容できる補助ブレーキトルクは、要求された補助ブレーキトルクが設定されたホイールスリップの大きさ限度λLIM未満のホイールスリップの大きさで取得することができない場合、要求された補助ブレーキトルクに比べて減じられる。このことは、加えられるトルクレベルが、設定されたホイールスリップレベルを破ることなく加えられ得るレベルに自動的に調整される(減じられる)ことを意味する。
【0014】
各態様によれば、許容できる補助ブレーキトルクは、設定されたホイールスリップの大きさ限度λLIM未満のホイールスリップの大きさで主ブレーキシステムによって達成される最大トルクに基づいて決定される。これにより、車両の安全性が増し、ほぼ最適なレベルの補助ブレーキが加えられるという点で補助ブレーキシステムの効率的な使用も可能にする。
【0015】
各態様によれば、許容できる補助ブレーキトルクは、次式の関係に基づいて決定される。
AUX=λPEAK*M*C*R
ただし、TAUXは補助ブレーキトルクであり、λPEAKは監視されたホイールスリップの大きさの最大値であり、0<M≦1はマージン係数であり、Cは縦方向タイヤ剛性パラメータであり、Rはホイール半径である。そうすることで、許容できる補助ブレーキトルクが、ピークホイールスリップなどの推定された量から直接得ることができ、このことは、有利である。
【0016】
各態様によれば、許容できる補助ブレーキトルクは、次式の関係に基づいて決定される。
AUX=μPEAK*F*R*G*M
ただし、TAUXは補助ブレーキトルクであり、μPEAKはピーク推定道路摩擦係数であり、Fは推定タイヤ垂直抗力であり、Rはホイール半径であり、Gはギア比であり、0<M≦1はマージン係数である。やはり、許容できる補助ブレーキトルクは、ピーク摩擦などの推定された量から直接得ることができ、このことは、有利である。上記の式の組合せを有利に使用することもできる。
【0017】
各態様によれば、許容できる補助ブレーキトルクは、ホイールスリップの監視中に低摩擦状態が検出される場合にゼロであるように決定される。したがって、補助ブレーキは、安全なブレーキング操作が保証できない場合には防がれ、これは利点である。それによって、車両の安全性が確実にされる。
【0018】
各態様によれば、補助ブレーキシステムを作動させるステップは、総ブレーキトルクを主ブレーキシステムから補助ブレーキシステムへ徐々に伝達するステップを含む。これは、総ブレーキトルクが一定に保たれることを意味し、これは、ギクシャクした動きが少ない状態でそこでより滑らかな車両操作が可能にされるので利点である。
【0019】
各態様によれば、方法は、ホイールスリップλを監視しつつ総ブレーキトルクを補助ブレーキシステムから主ブレーキシステムへ戻すように定期的に伝達するとともに、監視されたホイールスリップλに基づいて許容できる補助ブレーキトルクを更新するステップを含む。そうすることで、初期の道路状態だけでなく、現在の道路状況が、補助ブレーキトルクに影響を及ぼす。したがって、道路状態が時間とともに変化する場合、車両は、自動化されたやり方でその補助ブレーキ操作を適応させることができ、安全性の増加をもたらし、ブレーキング効率も改善される。
【0020】
各態様によれば、補助ブレーキシステムから主ブレーキシステムへ戻すブレーキトルクの伝達は、道路温度値、降雨の有無、降雪の有無、および道路の視覚像のいずれかに基づいてトリガされる。そうすることで、補助ブレーキパラメータの再評価は、例えば、視覚的手がかりおよび他のセンサ読取りに基づいて、状態が変化する場合にトリガされ得る。このことは、より高速な更新をもたらし、今では、繰り返し起こる更新の代わりに、更新がセンサデータによってより頻繁に能動的にトリガされるので、潜在的には、ホイールスリップλを監視しつつ総ブレーキトルクを補助ブレーキシステムから主ブレーキシステムへ定期的に戻す伝達の周波数減少ももたらす。
【0021】
各態様によれば、補助ブレーキシステムから主ブレーキシステムへ戻すブレーキトルクの伝達は、ホイールスリップの大きさの増加に応答して、および/または補助ブレーキトルクの変化に応答してトリガされる。許容できるスリップ限度に対してのマージンを含み得るある定められたトルク値で補助ブレーキを操作し、この間に補助ブレーキがより高いレベルに増加する場合、主ブレーキを使用する新しいプロービングフェーズを開始することが望ましい場合がある。
【0022】
上述した利点に関連した制御ユニット、コンピュータプログラム、コンピュータ可読媒体、コンピュータプログラム製品、ブレーキシステム、および車両も本明細書中に開示されている。
【0023】
概して、特許請求の範囲に使用される全ての用語は、本明細書中に別段明示的に定められる場合を除き、当技術分野におけるその通常の意味に従って解釈されるべきである。「要素、機器、構成要素、手段、ステップなど」の全ての参照は、特段明示的に述べられない限り、要素、機器、構成要素、手段、ステップなどの少なくとも1つの例を参照するようにして率直に解釈されるべきである。本明細書中に開示された任意の方法のステップは、明示的に述べられない限り、開示された正確な順序で実行される必要はない。本発明のさらなる特徴、およびそれに関連した利点は、添付の特許請求の範囲および以下の説明を学ぶときに明らかになろう。本発明の異なる特徴は、本発明の範囲から逸脱することなく、以下に説明される実施形態とは異なる実施形態を作り出すように組み合わされてもよいことを当業者は理解する。
【0024】
添付図面を参照して、例として述べられる本発明の実施形態のより詳細な説明を以下に続ける。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1A】大型車両の例を概略的に示す図である。
図1B】大型車両の他の例を概略的に示す図である。
図1C】大型車両の別の例を概略的に示す図である。
図2A】一例のブレーキシステムを示す図である。
図2B】補助ブレーキ制御デバイスを概略的に示す図である。
図3A】ブレーキング操作を示すグラフである。
図3B】ブレーキング操作を示すグラフである。
図4】一例のトラクタユニットブレーキデバイスレイアウトを示す図である。
図5】一例のトレーラユニットブレーキデバイスレイアウトを示す図である。
図6】方法を示すフローチャートである。
図7】制御ユニットを概略的に示す図である。
図8】一例のコンピュータプログラム製品を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、本発明は、本発明のいくつかの態様が示されている添付図面を参照して、以下により十分に説明される。しかしながら、本発明は、多くの異なる形態で具体化することができ、本明細書中に記載の実施形態および態様に限定されると解釈されるべきではなく、むしろ、これらの実施形態は、本開示が徹底的で完全となるように例によって与えられ、本発明の範囲を当業者に十分に伝える。同じ番号は、本明細書の全体にわたって同じ要素を指す。
【0027】
本発明は、本明細書中に記載されたり図面に示されたりした実施形態に限定されず、むしろ、当業者は、多くの変更および修正が添付の特許請求の範囲内でなされてもよいと認識するであろうと理解されたい。
【0028】
図1A図1Cは、本明細書中に開示された技法が有利に適用され得る貨物輸送用のいくつかの例の車両100を示す。図1Aは、一部が被駆動ホイールであるホイール120、140、および160で支持されるトラックを示す。
【0029】
図1Bは、トラクタユニット101がトレーラユニット102を牽引するセミトレーラ車両を示す。トレーラユニット102の前部は第5のホイール接続103によって支持され、一方、トレーラユニット102の後部は一セットのトレーラホイール180で支持される。
【0030】
図1Cは、トレーラユニット102を牽引するように配置されたドリーユニット104を備えたトラックを示す。次いで、トレーラユニットの前部は、一セットのドリーホイール190で支持され、一方、トレーラの後部は、一セットのトレーラホイール180で支持される。
【0031】
各ホイール、または少なくとも大多数のホイールは、それぞれのホイールブレーキ130、150、160(トレーラユニットホイールブレーキは、図1A図1Cに示されていない)と関連付けられる。このホイールブレーキは、例えば、空気圧で駆動されるディスクブレーキまたはドラムブレーキであり得るが、本開示のいくつかの態様は、車両減速中に電力を発生させる回生ブレーキにも適用可能であり、電気機械は、要求に応じてホイール回転速度を減速させることができる。ホイールブレーキは、ブレーキコントローラによって制御される。本明細書中、ブレーキコントローラ、ブレーキモジュレータ、およびホイールエンドモジュールという用語は、交換可能に使用される。それらは全て、車両100などの車両の少なくとも1つのホイールに加えられる制動力を制御するデバイスとして解釈されるべきである。主ブレーキシステムは、駐車時に車両を一定の位置に保つように構成されたパーキングブレーキシステムとは対照的に、運転操作中に車両にブレーキをかけるシステムである。主ブレーキシステムは、しばしば、車両100の常用ブレーキシステムと呼ばれる。
【0032】
各ホイールブレーキコントローラは、制御ユニット110に通信可能に結合され、制御ユニットがブレーキコントローラと通信することを可能にし、それによって車両のブレーキングを制御する。この制御ユニットは、車両にわたって分散したいくつかのサブユニットを潜在的に備えることができ、またはこの制御ユニットは、単一の物理的なユニットであってもよい。例えば、制御ユニット110は、車両安定性を維持するためにホイール間でブレーキ力を配分することができる。
【0033】
例の車両100は、補助ブレーキシステムも備える。補助ブレーキシステムは、主ブレーキ駆動装置以外の手段によって車両を減速させるブレーキシステムである。補助ブレーキシステムは、例えば、ディスクブレーキまたはドラムブレーキに基づく常用ブレーキシステムに過度の摩耗および過熱を引き起こし得る主ブレーキシステムの長時間の使用を控えるために、坂を下って運転している最中に有利に使用することができる。
【0034】
いくつかの例の補助ブレーキシステムは、圧縮ブレーキと、燃焼機関を使用して車両を減速させる排気ブレーキとを備える。運動エネルギーを電力に変換する一方、同時に、車両を減速させる電気機械リターダも知られている。補助ブレーキシステムは、一般に知られており、したがって、本明細書中ではより詳細に説明されない。
【0035】
一部の補助ブレーキシステムは、ブレーキトルクの観点で比較的強力なブレーキングを与える。また、それらは、補助ブレーキ制御システムがトルクを制御することになるとき、補助ブレーキ制御システムはしばしば比較的大きい時定数および粗い細かさを伴うので、しばしば制御するのが難しい。例えば、燃焼機関を駆動モード状態からリターダとして働くことになるように再設定するのに少し時間がかかり、ブレーキングが開始するときにどんなブレーキングトルクが得られるのか予測するのは難しい可能性がある。
【0036】
これは、特に車両が滑りやすい路面上を移動している場合、問題であり得る。突然のブレーキング操作は、深いホイールスリップを引き起こす可能性があり、これは、車両安定性に負の影響を及ぼし得る。例えば、トラクタの前車軸ホイールに対する突然で強い排気ブレーキングは、車両の組合せをV字形に折れ曲がらせる可能性があり、これは望ましくない。
【0037】
図2Aは、本明細書では車両100の前車軸左ホイール120lによって例示されるホイールのためのブレーキ制御システムを示す。ホイールは、主ブレーキシステム250によりホイールブレーキングを制御するようになされたホイールエンドモジュール(WEM)210、すなわち、本明細書ではディスクブレーキによって例示される主ブレーキシステムの一部を備える。主ブレーキシステムは、電気機械を備えることもできるとともに、異なるブレーキ駆動装置の組合せを備えることもできることに留意されたい。
【0038】
WEM210は、インタフェース240を介して主ブレーキシステム250へのブレーキトルクを制御する。
【0039】
縦方向ホイールスリップλは、次式で定義することができる。
【数1】
ただし、Rは、メートル単位のホイール半径であり、ωは、ホイールの角速度であり、vは、(ホイールの座標系における)ホイールの縦方向スピードである。したがって、λは、-1と1の間で束縛され、路面に対してどのくらいホイールがスリップしているのかを定量化する。車両制御ユニット110は、(ホイールの基準系における)vに関する情報を保持し、一方、ホイールスピードセンサは、ωを決定するために使用することができる。特に、以下では、ホイールスリップに関する限度が説明されるとき、それは、制限されるホイールスリップの大きさまたは絶対値である。すなわち、増大したホイールスリップの限度は、より大きい正の許容されたホイールスリップ、またはより小さい負の許容されたホイールスリップのどちらかを指し得る。本開示は、主に、ブレーキングを考えており、すなわち、ホイールスリップは、ブレーキング中はv>Rωのため、本明細書では通常負である。
【0040】
現代のWEMおよび主ブレーキシステムは、きめの細かくスリップ制御することができ、すなわち、一部の現代のブレーキコントローラは、ホイールスリップλをなんらかの公称値の約+/-0.02以内に保つことができる。
【0041】
車両制御ユニット110、例えば、車両モーションマネジメント(VMM)システムは、例えば、要求されたブレーキトルクおよびホイールスリップの大きさ限度を含むブレーキリクエスト220を送信し、例えば、測定されたホイールスリップ、ピークで測定されたホイールスリップ、例えばブレーキトルクの観点の現在のブレーキング能力、および場合によってはさらに、推定された道路摩擦係数に関連したデータ230を折り返し受信する。
【0042】
次いで、WEMは、ホイールスリップの大きさをセットされたホイールスリップの大きさ限度未満で維持しつつ、要求されたブレーキトルクに従ってブレーキングを制御する。これは、例えば、ホイールの基準系における車両スピードに関する制御ユニット110から供給されるデータによって可能にされる。ホイールスリップの大きさがセットされたスリップ限度を超える場合、主ブレーキシステムにおいて生じるホイールトルクの減少を含むことができるスリップ制御ストラテジが、ホイールがセットされたホイールスリップの大きさ限度以下のスリップ値を取り戻すように発動される。スリップ制御機能は、VMMに組み込まれてもよく、またはWEMの中に組み込まれてもよく、あるいは両方に組み込まれてもよい。いくつかの態様によれば、VMMベースのスリップ制御ループは、1つのスリップ限度を使用し、WEMは、より大きいものを使用する。そうすることで、WEMは、VMMが過度のホイールロックを防ぐことができない場合に、セーフティネットとして働く。
【0043】
図2Aのブレーキシステムは、圧縮ブレーキシステムまたは電気機械リターダなどの補助ブレーキシステム260も備える。このシステムは、VMMまたは制御ユニット110からの270で制御される。補助ブレーキシステムの制御は、作動操作および作動解除操作を含み、要求された補助ブレーキトルクの組合せも含み得る。
【0044】
図2Bは、知られている手動補助ブレーキ制御デバイス265を概略的に示す。ブレーキ制御デバイスは、異なる位置間で動くことができるレバー266を備える。図2Bに「A」で示される一方の位置は、車両常用ブレーキシステムが知られているやり方で補助ブレーキシステムと共同で一緒に使用される自動ブレーキ混合操作に関連している。他の位置は、一定のブレーキトルクが補助ブレーキシステムから望まれる場合に使用される。これらのレバー位置は、一セットの離散的な選択可能なトルク値267から要求された補助ブレーキトルクを手動で選択するために運転手によって使用され得る。レベル「0」は、補助ブレーキシステムから、要求されたブレーキトルクがないことを示唆し、一方、レベル「3」は、補助ブレーキシステムから、大きいまたは等しい要求された最大ブレーキトルクを示唆する。離散的な選択可能なトルク値1~3は、共通してすぐに(またはいくらかのわずかな機械的セッティング遅延の後に)加えられ、ブレーキトルクの突然の印加という結果になる。ブレーキトルクのこの印加は、特に道路摩擦状態が好ましくない場合、車両の不安定という結果になり得る。例えば、氷で覆われた下り坂の状況で運転するときの突然加えられた補助ブレーキトルクは、横方向タイヤ力の発生がとても難しい深いスリップ状態に車両をおく可能性がある。下り坂の運転が曲がり目を通り抜けることも含む場合、車両が、道路上に留まることができそうにない。
【0045】
本開示の目的は、道路状態が好ましくないときにも、例えば、道路摩擦が氷により減少するときにも、補助ブレーキシステムの作動を可能にすることである。これは、補助ブレーキシステムを使用するときにやはりホイールスリップを制限する効率的なやり方を実施することによって達成される。
【0046】
本明細書中に開示された技法は、所与のブレーキ力または加えられたブレーキトルクに応答して予期され得るどのホイールがスリップするのかについて認識するために、現代の主ブレーキシステムのきめ細かいスリップ制御が、現在の道路状況を効率的に精査するために使用され得ることの実現に基づいている。主ブレーキシステムは、摩擦測定機器として使用することができ、次いで、補助ブレーキシステムは、測定された摩擦に依存して設定され得る。したがって、しばしば粗い補助ブレーキシステムを突然作動させることに関連した欠点は、完全に軽減または回避され得る。
【0047】
主ブレーキシステムを使用した精査は、通常、補助ブレーキが接続されている車軸と同じ車軸に対して行われる。しかしながら、代替としてまたは補足として、主ブレーキシステムを用いた精査は、補助ブレーキが接続されている車軸とは別の車軸に対して行われてもよい。例えば、非駆動車軸に対して常用ブレーキを用いて精査し、次いで、被駆動車軸に対して、そのブレーキングトルクを段階的に廃止し、補助ブレーキトルクを段階的に導入することが可能である。
【0048】
図3Aおよび図3Bは、提案した補助ブレーキ制御システムによる例示の操作を示すグラフである。上のグラフ301、303は、経時的な要求されたトルクを示し、一方、下のグラフ302、304は、上のグラフに対応するホイールスリップを示す。
【0049】
図3Aは、要求されたブレーキトルクレベル310における補助ブレーキのうまくいった作動を示す。補助ブレーキは、時間tで作動するが、補助ブレーキを突然始動する代わりに、主ブレーキシステム320は、コントロールされたやり方でまず徐々に係合される。ホイールスリップ340は、主ブレーキによって加えられるブレーキトルクが増加するときに監視される。要求されたブレーキトルク310に到達してしまうと、好ましくはいくらかの所定のマージン350だけ、ホイールスリップの大きさが設定されたホイールスリップの大きさ限度λLIM未満であるか調査される。そうであれば、ブレーキトルクは、時間tで始まり時間tまで継続して、補助ブレーキシステム330に徐々に伝達されることが可能である。したがって、時間tにおいて、補助ブレーキシステムは、車両が望ましくないホイールスリップ状態に入ることなく、安全でコントロールされたやり方で、要求されたトルクレベル310で完全に作動している。
【0050】
図3Bは、道路摩擦状態があまり好ましくないシナリオを示す。ここで、主ブレーキシステム320によって道路摩擦を精査すると、監視されたホイールスリップの大きさ340は、ホイールスリップの大きさ限度λLIMを355のタイミングで破っている。これは、車両に望ましくないホイールスリップ状況を受けさせることなく、要求されたブレーキトルクレベルで補助ブレーキシステムが安全に作動させることができないことを意味する。ブレーキトルクは、設定されたホイールスリップの大きさ限度未満に操作を維持するために、WEMによって325のタイミングで減じられる。ホイールスリップの大きさ340は、加えられたブレーキトルクの減少に応答して、容認できるレベルまで減少して下がる。したがって、時間tで、ブレーキトルクは、車両が望ましくないホイールスリップ状況に入るリスクなしで、安全でコントロールされたやり方で、再び補助ブレーキシステムへ徐々に伝達され得る。
【0051】
図6に関連して以下に説明されるように、本明細書中では許容できる補助ブレーキトルクと呼ばれる、主ブレーキシステムによる道路状態の精査後の補助ブレーキシステムによって加えられるトルクは、いくつかの機構に基づき得る。例えば、許容できる補助ブレーキトルクは、設定されたホイールスリップの大きさ限度λLIM未満のホイールスリップの大きさで主ブレーキシステムによって達成される最大トルクに基づいて決定することができる。これは、常用ブレーキシステムなどの主ブレーキシステムが、現在の駆動状態の場合にどんなブレーキトルクのレベルがサポートされ得るかチェックするために使用されることを意味する。次いで、補助ブレーキトルクは、このレベルで、またはいくらかのマージンが望まれる場合はこのレベル未満でセットされる。
【0052】
許容できる補助ブレーキトルク315は、次式の関係に基づいて決定することができる。
AUX=λPEAK*M*C*R
ただし、TAUXは補助ブレーキトルクであり、λPEAKは監視されたホイールスリップの大きさの最大値であり、0<M≦1はマージン係数であり、Cは縦方向タイヤ剛性パラメータであり、Rはホイール半径である。また、許容できる補助ブレーキトルク315は、次式の関係に基づいて決定することもできる。
AUX=μPEAK*F*R*G*M
ただし、TAUXは補助ブレーキトルクであり、μPEAKはピーク推定道路摩擦係数であり、Fは推定タイヤ垂直抗力であり、Rはホイール半径であり、Gはギア比であり、0<M≦1はマージン係数である。これは、まずWEMが、現在の道路および駆動状態に関連したいくつかの重要なパラメータを推定するために使用されることを意味する。そのような重要なデータは、例えば、検出された最大ホイールスリップおよび/または検出された最大道路摩擦係数を含み得る。
【0053】
もちろん、道路状態がとても好ましくないと分かる場合、任意の補助ブレーキを許可しないように、補助ブレーキ操作は、全体として取り消される場合があり、すなわち、許容できる補助ブレーキトルク315は、ゼロであると決定される。
【0054】
道路状態は、すなわち0.2Hz等などのいくつかの所定の周波数を用いて、定期的に再評価されることが好ましい。道路上の氷および雪の形成を突き止めることができる温度センサ、雨センサ、またはカメラセンサなどのいくつかのセンサは、道路摩擦状態が変更した可能性があるときを予測することも可能であり得る。この場合には、道路状態の再評価は、センサ入力に基づいて能動的にトリガされ得る。
【0055】
道路の傾斜およびバンクは、ホイールスリップにやはり影響を及ぼし得る。このデータは、例えば、レベルセンサから得ることができ、道路状態の再評価をトリガするために使用され、最後の精査イベント以来道路状態が変化したかを見るためにホイールスリップを監視するためにブレーキトルクを主ブレーキシステムへ戻すように伝達することを含む。
【0056】
図4は、本教示による一例のブレーキデバイスシステム400の配置を示す。2つの前車軸ホイール120l、120r、および4つの後車軸ホイール140l、160l、140r、160rがある。本ブレーキシステムの原理は、牽引された車両ユニット、ドリーなどを含む、任意の個数の後車軸に適用可能であることが理解される。トレーラユニットブレーキシステム500は、図5に関連して以下に説明される。
【0057】
各ホイールは、図4に1から6で番号が付けられた対応するWEMを有する。また、各ホイールは、図4に1から6で番号が付けられた少なくとも1つの関連したホイールスピードセンサ(WS)を有する。ホイールスピードセンサおよび車両制御のためのその使用は知られており、本明細書中ではより詳細に説明されない。車両100にブレーキをかけるために利用できる主ブレーキシステムおよび補助ブレーキシステムがある。
【0058】
車両モーションマネジメントモジュール(VMM)または制御ユニット110は、車両のブレーキング機能性の少なくとも一部を制御する。VMM110は、コントローラエリアネットワーク(CAN)またはイーサネットデータバス420によって異なるWEMに接続される。
【0059】
図5は、例えば、トレーラユニット102を支持する一セットのトレーラホイール180を制御する一例のブレーキシステム500を示す。図4の後車軸ホイール140、160と同様に、トレーラホイールのセットは、図5の7から12で番号を付けられたそれぞれのWEMによって制御される主ブレーキを含む。図5の7から12で番号が付けられたホイールスピードセンサもある。
【0060】
図6は、上述したことをまとめたフローチャートを示す。図2Aに関連して上述したものを再び参照すると、大型車両100のための車両ブレーキシステムを制御する方法が示されている。ブレーキシステムは、主ブレーキシステム250および補助ブレーキシステム260を備える。上述したように、補助ブレーキシステム260は、いくつかの例をまさに与えるように、電気機械、電磁式リターダシステム、圧縮ブレーキシステム、および排気ブレーキシステムのいずれかを備えることができる。主ブレーキシステム250は、摩擦ブレーキシステム、回生ブレーキシステム、および電気機械ブレーキシステムのいずれかを含むことができる。主ブレーキシステムは、一般的であるが、必ずしも空気圧でまたは油圧で駆動されるディスクブレーキまたはドラムブレーキなどの摩擦ブレーキに基づく常用ブレーキシステムであるとは限らない。
【0061】
方法は、ホイールスリップの大きさ限度λLIMを設定するステップS1を含む。このホイールスリップの大きさ限度は、通常、ホイールスリップの許容できる最大の大きさ、すなわち、どのくらいの差異がホイール回転速度と車両速度との間で許容されるかに関する限度である。しかしながら、それは、(正と負の両方の)許容できるホイールスリップ値の範囲でもあり得る。ホイールスリップの大きさ限度λLIMは、車両安定性を与えるとともに、車両がカーブなどを通り抜けるのに必要な横方向の力を発生させる能力を維持するように、VMMユニットによって設定されることができる。
【0062】
方法は、要求された補助ブレーキトルク310を取得するステップS2も含む。この補助ブレーキトルク310は、図2Bに関連して上述されたように、例えば、一セットの離散的な選択可能なトルク値267から手動選択によって取得するステップS21とすることができる。代替として、または補足として、要求された補助ブレーキトルク310は、車両ブレーキ操作を制御するように配置されたVMMなどの車両制御ユニット110から取得するステップS22としてもよい。自律運転のために、補助ブレーキトルクは、もちろん、VMMによって自動的に決定される。いくつかの態様によれば、要求された補助ブレーキトルク310は、主ブレーキングシステムの状況に依存して決定され得る。例えば、車両100の常用ブレーキが過熱のリスクにある場合、過熱しているユニットに対する常用ブレーキトルクが減じられてもよく、総ブレーキトルクの損失は、補助ブレーキトルクのレベルを追加することによって補償され得る。
【0063】
次に、上述したように、要求されたブレーキトルクで補助ブレーキシステムを直接作動させるのに代えて、方法は、ステップS4でホイールスリップの大きさの値λ、340を監視しつつ、要求された補助ブレーキトルク310に依存して決定されたトルクで主ブレーキシステム320を作動させるステップS3を含む。主ブレーキシステムのこの作動は、車両100の主ブレーキシステムがきめ細かいスリップ制御を含むので、道路状態を有効に測定する。手動で運転される車両については、道路状態を精査するための主ブレーキシステムの作動が、運転手が何らかのアクションをとる必要なく自動的に実行される。これは、開示された技法が、補助ブレーキトルクを制御するための運転手が存在しない自律車両または半自律車両との使用に適していることも意味する。この精査操作は、特許文献1(WO02/32737)に記載された操作とは異なっている。すなわち、特許文献1に記載の操作は、経験を積んだ運転手を必要とし、経験を積んだ運転手が手動入力手段を使用してまずブレーキレベルを設定し、次いで、このブレーキトルクレベルは、ホイールスリップまたは車両安定性に対する影響に関わらず維持される。
【0064】
要求された補助ブレーキトルク310に依存して決定されるトルクで主ブレーキシステム320を作動させることになると、少なくとも2つのオプションが存在する。第1のオプションによれば、VMMは、ホイールスリップの大きさが設定されたスリップ限度を超える場合、要求されたトルクを主システムへ能動的に調整する。この場合、主ブレーキシステムがホイールスリップを減少させるためにバックオフするようになされるので、要求されたトルクに到達しない。しかしながら、第2のオプションによれば、プロービングフェーズ中、VMMは、(短時間の間に)要求されたトルクまで徐々に増加するトルクを実際に加え、次いで、設定されたホイールスリップ限度を破らずに補助ブレーキが適用できることを「読み取る」ためにホイールスリップを監視する。本開示は、これらのオプションのいずれか、または2つの組合せを含むことができる。
【0065】
各態様によれば、主ブレーキシステム320の作動は、要求された補助ブレーキトルク310まで所定の徐々に増加する関数に従って実行される。したがって、ブレーキトルクの突然の印加はなく、好ましくない道路状態は時間内に検出されてブレーキング操作を中止することができるので、そのことは有利である。所定の徐々に増加する関数は、例えば、時間の2次関数などのいくつかの他の関数のうちの線形に増加する関数であり得る。
【0066】
方法のいくつかの態様は、道路摩擦係数μを推定するステップS5も含む。この道路摩擦係数は、例えば、補助ブレーキを加えることができないときを決定するための入力として使用され得る。摩擦係数は、別個のホイールについて、または車両の両側について推定することもでき、車両制御を実行するためにVMMのための入力として使用され得る。
【0067】
方法は、要求された補助ブレーキトルク310およびホイールスリップ値λ、340に依存して許容できる補助ブレーキトルク315を決定するステップS6を含むこともできる。許容できる補助ブレーキトルクは、現在の道路状況および設定されたスリップ限度の場合に認容され得るブレーキトルクである。図3Aにおいて、要求された補助ブレーキトルクは、許容できるブレーキトルクと同じであり、すなわち、要求自体は、現在の道路状況の場合に許容できることが分かったものである。しかしながら、図3Bの例では、要求は許容できず、それは大き過ぎ、したがって、許容できる補助ブレーキトルク315は要求された補助ブレーキトルク310よりも小さい。したがって、図3Bは、要求された補助ブレーキトルク310が設定されたホイールスリップの大きさ限度λLIM未満のホイールスリップの大きさで取得することができない場合に、要求された補助ブレーキトルク310に比べて許容できる補助ブレーキトルク315が減じられるステップS61を含む、開示された方法の態様の一例を示す。加えられる補助ブレーキトルクのこの減少は、車両安定性を改善し、車両が深いホイールスリップ状態に入るのを防ぐ。また、セミトレーラ車両などの組合せ車両によるV字形に折れ曲がる事象は、可能性がずっと低くなる。
【0068】
許容できる補助ブレーキトルク315は、設定されたホイールスリップの大きさ限度λLIM未満のホイールスリップの大きさで主ブレーキシステム320によって達成される最大トルクに基づいて、適宜、ステップS62で決定され得る。したがって、主ブレーキシステムは、道路摩擦係数、道路傾斜、および道路のバンクを含む現在の運転状態が与えられる場合にサポートできるブレーキトルクのレベルを推定するために使用される。主ブレーキシステム320によって達成されるこの最大トルクは、次いで、おそらくあるマージン係数などによる減少の後に、補助ブレーキシステムによって加えられ得る。
【0069】
許容できる補助ブレーキトルク315は、次式の関係に基づいてステップS63で決定されることもできる。
AUX=λPEAK*M*C*R
ただし、TAUXは補助ブレーキトルクであり、λPEAKは監視されたホイールスリップの大きさの最大値であり、0<M≦1はマージン係数であり、Cは縦方向タイヤ剛性パラメータであり、Rはホイール半径である。
【0070】
許容できる補助ブレーキトルク315は、次式の関係に基づいてさらにステップS64で決定されることもできる。
AUX=μPEAK*F*R*G*M
ただし、TAUXは補助ブレーキトルクであり、μPEAKはピーク推定道路摩擦係数であり、Fは推定タイヤ垂直抗力であり、Rはホイール半径であり、Gはギア比であり、0<M≦1はマージン係数である。
【0071】
したがって、許容できる補助ブレーキトルク315は、推定された道路摩擦係数に基づいて、または監視されたホイールスリップレベルに基づいて決定することができる。許容できる補助ブレーキトルク315は、2つの組合せに基づくこともでき、例えば、上記関係の重み付きの組合せに基づく次式などで決定することができる。
【数2】
ただし、aおよびbは、所定のまたは適応的に調節された重み因子である。
【0072】
任意の補助ブレーキをサポートするには道路状態があまりにスリップしやすい場合、許容できる補助ブレーキトルク315は、ゼロであるようにステップS65で決定することができる。これは、例えば、ホイールスリップの監視中に低摩擦状態が検出される場合であり得る。これは、要求された補助ブレーキ操作が、VMMがそのようなブレーキングを安全に加えることができないと判定する場合に自動的にキャンセルされることを意味する。これにより、車両の安全性が増大する。また、例えば、経験がない運転手による、補助ブレーキシステムの偶然の手動作動は、車両がセットされたホイールスリップ限度を破らずにそのような作動を安全に実行することができない場合に防がれる。
【0073】
方法は、許容できる補助ブレーキトルク315で補助ブレーキシステム330を作動させるステップS7をさらに含む。この作動は、例えば、総ブレーキトルクを主ブレーキシステム320から補助ブレーキシステム330へ徐々に伝達するステップS71によって実行され得る。これは、総ブレーキトルクが一定に保たれることを意味し、これは有利であり得る。
【0074】
道路摩擦状態は、時間の経過とともに、さらには単一の下り坂の運転でも変化する可能性があると理解される。したがって、開示された方法のいくつかの態様は、ホイールスリップλ、340を監視しつつ、総ブレーキトルクを補助ブレーキシステム330から主ブレーキシステム320へ戻すように定期的に伝達するとともに、監視されたホイールスリップλ、340に基づいて許容できる補助ブレーキトルク315を更新するステップS8を含む。したがって、道路状態が変化する場合、車両は、安全な操作を維持するために適応する。補助ブレーキシステム330から主ブレーキシステム320へ戻るブレーキトルクの伝達は、例えば、道路温度値、降雨の有無、降雪の有無、道路傾斜、道路のバンク、および道路の視覚像のいずれかに基づいてステップS81でトリガされ得る。
【0075】
図7は、いくつかの機能的ユニットの観点で、本明細書中の考察の実施形態による制御ユニット110の構成要素を概略的に示す。この制御ユニット110は、例えば、VMMユニットの形態で、車両100に備えられ得る。処理回路710は、適切な中央処理装置CPU、例えば、記憶媒体730の形態でコンピュータプログラム製品に記憶されたソフトウェア命令を実行することができるマルチプロセッサ、マイクロコントローラ、デジタルシグナルプロセッサDSPなどの1つまたは複数の任意の組合せを用いて提供される。処理回路710は、少なくとも1つの特定用途向け集積回路ASIC、またはフィールドプログラマブルゲートアレイFPGAとしてさらに提供され得る。
【0076】
特に、処理回路710は、図6に関連して説明された方法などの一セットの動作またはステップを制御ユニット110に実行させるように構成される。例えば、記憶媒体730は、演算のセットを記憶することができ、処理回路710は、制御ユニット110に演算のセットを実行させるために、記憶媒体730から演算のセットを取り出すように構成されてもよい。演算のセットは、一セットの実行命令として与えられることが可能である。したがって、処理回路710は、それによって、本明細書中に開示されたような方法を実行するように配置される。
【0077】
記憶媒体730は、永続ストレージを備えることもでき、永続ストレージは、例えば、磁気メモリ、光メモリ、ソリッドステートメモリ、またはさらには遠隔で取り付けられたメモリのいずれかただ1つまたは組合せであり得る。
【0078】
制御ユニット110は、サスペンションシステムセンサまたはIMUなどの少なくとも1つの外部デバイスと通信するためのインタフェース720をさらに備えることができる。したがって、インタフェース720は、アナログおよびデジタルの構成要素、ならびに有線または無線通信のための適切な個数のポートを備えた1つまたは複数の送信機および受信機を備えることができる。
【0079】
処理回路710は、例えば、データ信号および制御信号をインタフェース720および記憶媒体730へ送信することによって、インタフェース720からデータおよび報告を受け取ることによって、および記憶媒体730からデータおよび命令を取り出すことによって、制御ユニット110の一般的な動作を制御する。制御ノードの他の構成要素、ならびに関連した機能性は、本明細書中に提示される概念をあいまいにしないために省略される。
【0080】
したがって、図2A図3A、および図3Bも参照して、図7は、大型車両100における車両ブレーキシステムを制御するように構成された一例の制御ユニット110を示す。ブレーキシステムは、主ブレーキシステム250、および補助ブレーキシステム260を備える。制御ユニット110は、
ホイールスリップの大きさ限度λLIMを設定し、
要求された補助ブレーキトルク310を取得し、
要求された補助ブレーキトルク310に依存して決定されたトルクで主ブレーキシステム320を作動させ、
ホイールスリップ値λ、340を監視し、
要求された補助ブレーキトルク310およびホイールスリップ値λ、340に依存して許容できる補助ブレーキトルク315を決定し、
許容できる補助ブレーキトルク315で補助ブレーキシステム330を作動させるようになされる。
【0081】
図8は、プログラム製品がコンピュータ上で実行されるときの、図6に示された方法を実行するプログラムコード手段820を含むコンピュータプログラムを保持するコンピュータ可読媒体810を示す。コンピュータ可読媒体およびコード手段は、コンピュータプログラム製品800を一緒に形成することができる。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8