(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】オイルコントロールリング
(51)【国際特許分類】
F16J 9/06 20060101AFI20230829BHJP
F16J 9/20 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
F16J9/06 B
F16J9/20
(21)【出願番号】P 2022580528
(86)(22)【出願日】2022-12-20
(86)【国際出願番号】 JP2022046912
【審査請求日】2022-12-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000139023
【氏名又は名称】株式会社リケン
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100192511
【氏名又は名称】柴田 晃史
(72)【発明者】
【氏名】難波 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】平出 佳之
【審査官】二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】実公平01-024358(JP,Y2)
【文献】特開2018-112276(JP,A)
【文献】特開平09-144881(JP,A)
【文献】特開2004-197818(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 5/00
F16J 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面及び外周面と、前記内周面に略直交する一側面及び他側面とを有する環状の本体部と、前記内周面に沿って装着されるコイルエキスパンダと、を備えたオイルコントロールリングであって、
前記本体部は、一対の環状の第1レール部及び第2レール部と、前記第1レール部及び前記第2レール部を接続する柱部と、を有し、
前記第1レール部及び前記第2レール部の外周面は、それぞれの径方向外側に向かって凸状に突出する断面形状の突出面を有し、
前記突出面は、前記第1レール部又は前記第2レール部の径方向最外点である頂点を含む摺接領域において曲率半径が0.30mm以下の円弧面であ
り、
前記第2レール部は、前記第1レール部と軸方向について前記本体部の幅方向の中央に関して対称である、オイルコントロールリング。
【請求項2】
内周面及び外周面と、前記内周面に略直交する一側面及び他側面とを有する環状の本体部と、前記内周面に沿って装着されるコイルエキスパンダと、を備えたオイルコントロールリングであって、
前記本体部は、一対の環状の第1レール部及び第2レール部と、前記第1レール部及び前記第2レール部を接続する柱部と、を有し、
前記第1レール部及び前記第2レール部の外周面は、それぞれの径方向外側に向かって凸状に突出する断面形状の突出面を含み、
前記突出面の少なくとも一部は、前記第1レール部又は前記第2レール部の径方向最外点である頂点と、前記頂点から軸方向の両側にそれぞれ0.05mm離れると共に径方向内側に所定の落差にて位置する一対の点と、を通る仮想凸面上に位置しており、
前記落差は、0.0045mm以上であ
り、
前記第2レール部は、前記第1レール部と軸方向について前記本体部の幅方向の中央に関して対称である、オイルコントロールリング。
【請求項3】
前記頂点は、前記第1レール部及び前記第2レール部の前記外周面のそれぞれの軸方向の中央部に位置している、請求項1又は2に記載のオイルコントロールリング。
【請求項4】
内周面及び外周面と、前記内周面に略直交する一側面及び他側面とを有する環状の本体部と、前記内周面に沿って装着されるコイルエキスパンダと、を備えたオイルコントロールリングであって、
前記本体部は、一対の環状の第1レール部及び第2レール部と、前記第1レール部及び前記第2レール部を接続する柱部と、を有し、
前記第1レール部及び前記第2レール部の外周面は、それぞれの径方向外側に向かって凸状に突出する断面形状の突出面を有し、
前記突出面は、前記第1レール部又は前記第2レール部の径方向最外点である頂点を含む摺接領域において曲率半径が0.30mm以下の円弧面であり、
前記第1レール部及び前記第2レール部の前記外周面は、前記頂点を含む第1円弧面と、径方向に対して所定角度で傾斜するテーパ面である一対のベベル面と、前記突出面と前記ベベル面とを接続する第2円弧面と、を含み、
前記第1円弧面の曲率半径は、前記第2円弧面の曲率半径よりも大きい
、オイルコントロールリング。
【請求項5】
内周面及び外周面と、前記内周面に略直交する一側面及び他側面とを有する環状の本体部と、前記内周面に沿って装着されるコイルエキスパンダと、を備えたオイルコントロールリングであって、
前記本体部は、一対の環状の第1レール部及び第2レール部と、前記第1レール部及び前記第2レール部を接続する柱部と、を有し、
前記第1レール部及び前記第2レール部の外周面は、それぞれの径方向外側に向かって凸状に突出する断面形状の突出面を含み、
前記突出面の少なくとも一部は、前記第1レール部又は前記第2レール部の径方向最外点である頂点と、前記頂点から軸方向の両側にそれぞれ0.05mm離れると共に径方向内側に所定の落差にて位置する一対の点と、を通る仮想凸面上に位置しており、
前記落差は、0.0045mm以上であり、
前記第1レール部及び前記第2レール部の前記外周面は、前記頂点を含む第1円弧面と、径方向に対して所定角度で傾斜するテーパ面である一対のベベル面と、前記突出面と前記ベベル面とを接続する第2円弧面と、を含み、
前記第1円弧面の曲率半径は、前記第2円弧面の曲率半径よりも大きい
、オイルコントロールリング。
【請求項6】
前記第1円弧面の曲率半径R1と、前記第2円弧面の曲率半径R2との比R2/R1は、0.1以上0.6以下である、請求項
4又は5に記載のオイルコントロールリング。
【請求項7】
内周面及び外周面と、前記内周面に略直交する一側面及び他側面とを有する環状の本体部と、前記内周面に沿って装着されるコイルエキスパンダと、を備えたオイルコントロールリングであって、
前記本体部は、一対の環状の第1レール部及び第2レール部と、前記第1レール部及び前記第2レール部を接続する柱部と、を有し、
前記第1レール部及び前記第2レール部の外周面は、それぞれの径方向外側に向かって凸状に突出する断面形状の突出面を有し、
前記突出面は、前記一側面側及び前記他側面側にそれぞれ設けられた一対の部分円弧面と、一対の部分円弧面を接続するように軸方向に平行に延在する平坦部と、を有する摺接領域を含み、
一対の前記部分円弧面は、前記摺接領域の軸方向の両端を通る曲率半径が0.30mm以下(ただし、半径方向落差が25μm以上となる範囲を除く)の円弧面の一部分であり、
前記摺接領域は、前記円弧面の仮想的な径方向最外点である仮想頂点に関して上下対称な断面形状である、オイルコントロールリング。
【請求項8】
前記平坦部の軸方向寸法は、0mmよりも大きく0.100mmよりも小さい、請求項7に記載のオイルコントロールリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、内燃機関に使用されるオイルコントロールリングに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の内燃機関に用いられるオイルコントロールリングとして、例えば特許文献1には、上下のレール部の外周面を、シリンダ内周面に摺動する摺動面と、摺動面の燃焼室側(オイルリングの上面側)に配置され該燃焼室側に向けて徐々に縮径するテーパ面と、を有するように構成した2ピースオイルリングが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のオイルリングでは、オイル消費量の低減のため、テーパ面を設けることでシリンダ内周面に摺動する摺動面の面積が相対的に小さくされている。当該摺動面とシリンダ内周面との接触面圧が高くなり、ピストン下降時のオイル掻き下げ作用の促進が図られている。ピストン上昇時には、テーパ面とシリンダ内周面との間で形成される油膜に摺動面が乗り上げることで、オイルの掻き上げ抑制が図られている。しかしながら、上記従来のオイルリングは、シリンダ内周面と摺接する部分とその付近とを含む摺接領域の断面形状が上下非対称であり、表裏を管理する必要が生じるため、製造コストに影響がある。
【0005】
本開示は、第1レール部及び第2レール部の外周面の断面形状をシンプル化しつつオイル消費量の低減を図ることができるオイルコントロールリングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討を重ねた。その結果、本発明者らは、オイルコントロールリングの外周面において、オイル消費量の低減を図りつつ、少なくとも摺接領域において上下対称とすることができる外周面の構成を見出した。
【0007】
本開示の一態様に係るオイルコントロールリングは、内周面及び外周面と、内周面に略直交する一側面及び他側面とを有する環状の本体部と、内周面に沿って装着されるコイルエキスパンダと、を備えたオイルコントロールリングであって、本体部は、一対の環状の第1レール部及び第2レール部と、第1レール部及び第2レール部を接続する柱部と、を有し、第1レール部及び第2レール部の外周面は、それぞれの径方向外側に向かって凸状に突出する断面形状の突出面を有し、突出面は、第1レール部又は第2レール部の径方向最外点である頂点を含む摺接領域において曲率半径が0.30mm以下の円弧面である。
【0008】
本開示の一態様に係るオイルコントロールリングでは、第1レール部及び第2レール部の外周面は、それぞれの径方向外側に向かって凸状に突出する断面形状の突出面を有している。突出面は、第1レール部又は第2レール部の径方向最外点である頂点を含む摺接領域において曲率半径が0.30mm以下の円弧面である。このような構成によれば、円弧面をなす突出面の少なくとも一部は、頂点に関して軸方向に対称となる摺接領域を形成する。このように少なくとも摺接領域において上下対称な断面形状とすることで断面形状がシンプル化される。摺接領域によってオイルを十分に掻き下げることができる。よって、オイル消費量の低減を図ることができる。したがって、第1レール部及び第2レール部の外周面の断面形状をシンプル化しつつオイル消費量の低減を図ることができる。
【0009】
本開示の他の態様に係るオイルコントロールリングは、内周面及び外周面と、内周面に略直交する一側面及び他側面とを有する環状の本体部と、内周面に沿って装着されるコイルエキスパンダと、を備えたオイルコントロールリングであって、本体部は、一対の環状の第1レール部及び第2レール部と、第1レール部及び第2レール部を接続する柱部と、を有し、第1レール部及び第2レール部の外周面は、それぞれの径方向外側に向かって凸状に突出する断面形状の突出面を有し、突出面の少なくとも一部は、第1レール部又は第2レール部の径方向最外点である頂点と、頂点から軸方向の両側にそれぞれ0.05mm離れると共に径方向内側に所定の落差にて位置する一対の点と、を通る仮想凸面上に位置しており、落差は、0.0045mm以上である。
【0010】
本開示の他の態様に係るオイルコントロールリングでは、第1レール部及び第2レール部の外周面は、それぞれの径方向外側に向かって凸状に突出する断面形状の突出面を有している。突出面の少なくとも一部は、頂点と、頂点から軸方向の両側にそれぞれ0.05mm離れると共に径方向内側に所定の落差にて位置する一対の点と、を通る仮想凸面上に位置している。落差は、0.0045mm以上である。このような構成によれば、突出面のうち仮想凸面に沿う少なくとも一部は、頂点に関して軸方向に対称となる摺接領域を形成する。このように少なくとも摺接領域において上下対称な断面形状とすることで断面形状がシンプル化される。摺接領域によってオイルを十分に掻き下げることができる。よって、オイル消費量の低減を図ることができる。したがって、第1レール部及び第2レール部の外周面の断面形状をシンプル化しつつオイル消費量の低減を図ることができる。
【0011】
一実施形態において、頂点は、第1レール部及び第2レール部の外周面のそれぞれの軸方向の中央部に位置していてもよい。このような構成によれば、摺接領域だけでなく、第1,第2レール部の外周面のそれぞれが全体として上下対称となる。そのため、オイルコントロールリングの表裏の逆組みを未然に抑制することができる。
【0012】
一実施形態において、第1レール部及び第2レール部の外周面は、頂点を含む第1円弧面と、径方向に対して所定角度で傾斜するテーパ面である一対のベベル面と、突出面とベベル面とを接続する第2円弧面と、を含み、第1円弧面の曲率半径は、第2円弧面の曲率半径よりも大きくてもよい。このような構成によれば、第1,第2レール部のうちオイルコントロールリングの一側面又は他側面に近い部分が鋭利ではない形状となる。そのため、鋭利な形状であった場合に生じ得る欠損を未然に抑制することができる。
【0013】
一実施形態において、第1円弧面の曲率半径R1と、第2円弧面の曲率半径R2との比R2/R1は、0.1以上0.6以下であってもよい。
【0014】
本開示の更に他の態様に係るオイルコントロールリングは、内周面及び外周面と、内周面に略直交する一側面及び他側面とを有する環状の本体部と、内周面に沿って装着されるコイルエキスパンダと、を備えたオイルコントロールリングであって、本体部は、一対の環状の第1レール部及び第2レール部と、第1レール部及び第2レール部を接続する柱部と、を有し、第1レール部及び第2レール部の外周面は、それぞれの径方向外側に向かって凸状に突出する断面形状の突出面を有し、突出面は、一側面側及び他側面側にそれぞれ設けられた一対の部分円弧面と、一対の部分円弧面を接続するように軸方向に平行に延在する平坦部と、を有する摺接領域を含み、一対の部分円弧面は、摺接領域の軸方向の両端を通る曲率半径が0.30mm以下の円弧面の一部分であり、摺接領域は、円弧面の仮想的な径方向最外点である仮想頂点に関して上下対称な断面形状である。
【0015】
本開示の他の態様に係るオイルコントロールリングでは、第1レール部及び第2レール部の外周面は、それぞれの径方向外側に向かって凸状に突出する断面形状の突出面を有している。突出面は、一側面側及び他側面側にそれぞれ設けられた一対の部分円弧面と、一対の部分円弧面を接続するように軸方向に平行に延在する平坦部と、を有する摺接領域を含んでいる。一対の部分円弧面は、摺接領域の軸方向の両端を通る曲率半径が0.30mm以下の円弧面の一部分である。摺接領域は、円弧面の仮想的な径方向最外点である仮想頂点に関して上下対称な断面形状である。このような構成によれば、突出面のうち平坦部及び平坦部の上下両側の一対の部分円弧面は、仮想頂点に関して軸方向に対称となる摺接領域を形成する。このように少なくとも摺接領域において上下対称な断面形状とすることで断面形状がシンプル化される。摺接領域によってオイルを十分に掻き下げることができる。よって、オイル消費量の低減を図ることができる。したがって、第1レール部及び第2レール部の外周面の断面形状をシンプル化しつつオイル消費量の低減を図ることができる。
【0016】
一実施形態において、平坦部の軸方向寸法は、0mmよりも大きく0.100mmよりも小さくてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本開示の種々の態様に係るオイルコントロールリングによれば、第1レール部及び第2レール部の外周面の断面形状をシンプル化しつつオイル消費量の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施形態に係るオイルコントロールリングの一例の斜視図である。
【
図2】
図1のオイルコントロールリングの分解斜視図である。
【
図4】
図3のIV-IV線に沿っての断面図である。
【
図5】
図4の断面の要部拡大図(第1レール部の外周部の拡大図)である。
【
図6】(a)は、
図5の断面における摺接部の拡大断面図である。(b)は、変形例に係るオイルリング本体部についての
図6(a)に相当する拡大断面図である。
【
図7】
図6(b)の断面を有するオイルコントロールリングのシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を用い、重複する説明は省略する。
【0020】
図1は、実施形態に係るオイルコントロールリングの一例の斜視図である。
図2は、
図1のオイルコントロールリングの分解斜視図である。
図3は、
図2のオイルリング本体部の平面図である。
図4は、
図3のIV-IV線に沿っての断面図である。なお、以下の説明において、断面形状とは、オイルコントロールリングの中心軸を含む断面に沿う断面形状を意味する。
【0021】
図1,
図2及び
図3に示されるように、オイルコントロールリング1は、環状の本体部2と、本体部2の内周面2aに沿って装着される環状のコイルエキスパンダ3と、を備えている。オイルコントロールリング1は、いわゆる2ピースオイルリングである。本体部2には、合口部4が形成されている。
【0022】
オイルコントロールリング1は、例えば自動車の内燃機関のピストンの外周面に設けられたリング溝に組み付けられて使用される。本体部2は、コイルエキスパンダ3の接線張力によりシリンダ内周面と略一定の面圧にて当接する。コイルエキスパンダ3は、
図2に示されるように、環状に形成されたバネ状の部品である。コイルエキスパンダ3は、例えば油焼き入れされたバネ鋼等の線材によって形成される。
【0023】
本体部2は、用途に応じて要される強度、耐熱性、及び弾性を有するように、例えば複数の金属元素を含有する鋳鉄又は鋼材(スチール)によって形成されている。本体部2の外周面2b(第1レール部7及び第2レール部8の外周面)等には、例えば硬質クロムめっき層、クロム窒化物層、PVD層、又は鉄の窒化物層などによる表面改質が施され、本体部2の耐摩耗性の向上が図られている。
【0024】
図1,
図2及び
図4に示されるように、本体部2は、一対の第1レール部7及び第2レール部8と、第1レール部7及び第2レール部8を接続する柱部13と、を有している。
【0025】
図4に示されるように、本体部2の内周面2aは、コイルエキスパンダ3が収容されるように柱部13側に向かって窪んだ曲面形状となっている。本体部2は、内周面2aの径方向内側の一対の端面(内周面)2eに略直交する一対の側面2c(一側面)及び側面2d(他側面)を有している。以下の説明では、内周面2aと外周面2bとを結ぶ方向をオイルコントロールリング1の厚さ方向とする。側面2cと側面2dとを結ぶ方向をオイルコントロールリング1の幅方向とする。オイルコントロールリング1の径方向は、厚さ方向と一致する方向である。
【0026】
本体部2の幅h1は、例えば1.0mm以上5.0mm以下である。本体部2の厚さa1は、例えば1.0mm以上5.0mm以下である。本体部2の外径R0(呼称径d1、
図3参照)は、例えば60mm以上400mm以下である。本体部2の各寸法は、接触式又は非接触式の形状測定装置を用いて測定することができる。形状測定装置は、表面粗さ測定装置を含む。
【0027】
一対の第1レール部7及び第2レール部8は、オイルコントロールリング1の軸方向において柱部13を挟んで互いに対向している。柱部13は、第1レール部7及び第2レール部8の厚さ方向中央部同士を結んでいる。第1レール部7は、柱部13の側面2c側に配置され、柱部13に対して径方向の内外両側に張り出している。第2レール部8は、柱部13の側面2d側に配置され、柱部13に対して径方向の内外両側に張り出している。柱部13は、厚さ方向において第1レール部7及び第2レール部8と比べて薄肉に形成されている。このように、本体部2は、略H字形状の断面形状をなしている。第1レール部7及び第2レール部8は、柱部13と一体形成されている。
【0028】
図1,
図2に示されるように、柱部13の幅方向における中央部には、複数の通油孔14がオイルコントロールリング1の周方向に沿って並んで設けられている。複数の通油孔14のそれぞれの周方向に沿った断面形状は、例えば略楕円形状となっている。
図4に示されるように、通油孔14は、柱部13の軸方向中央部に設けられている。通油孔14は、柱部13を径方向に貫通している。
【0029】
複数の通油孔14は、例えば切削又はレーザによる穿孔によって形成される。シリンダ内周面を潤滑するためのオイルは、これら複数の通油孔14を柱部13よりも内周側から外周側に通過することで、シリンダ内周面に供給される。シリンダ内周面のオイルは、これら複数の通油孔14を柱部13よりも外周側から内周側に通過することで、例えばオイルパンに戻される。
【0030】
図1~
図3に示されるように、合口部4は、本体部2の一部が分断された部分であり、互いに対向する一対の合口端部5,6によって形成されている。一対の合口端部5,6のそれぞれは、本体部2の自由端である。合口部4の隙間(合口隙間s1)は、例えばオイルコントロールリング1が加熱されて熱膨張したときに突き当たらないように設定されている。合口部4は、オイルコントロールリング1の使用時において、オイルコントロールリング1とシリンダとの間の温度差に起因する本体部2の熱膨張分の逃げ部として機能する。
【0031】
このようなオイルコントロールリング1では、例えばピストンが上死点側に移動する際、第1レール部7及び第2レール部8によってオイルがシリンダ内周面に塗布されて油膜が形成される。オイルコントロールリング1は、例えばピストンが下死点側に移動する際、シリンダ内周面の余剰なオイルを第1レール部7及び第2レール部8によって掻き落とす。これにより、シリンダ内周面への適切な厚さの油膜の形成が図られる。
【0032】
次に、本体部2の外周面2bについて詳細に説明する。
図4に示されるように、本体部2の外周面2bは、第1レール部7の外周面7aと、第2レール部8の外周面8aと、を含む。ここでの第2レール部8は、第1レール部7と軸方向について本体部2の幅方向の中央に関して対称であるため、代表として第1レール部7の構成について説明し、第2レール部8についての重複する説明は省略する。
【0033】
第1レール部7の外周面7aは、突出面10と、ベベル面7cと、ベベル面7dと、を有している。突出面10は、径方向外側に向かって凸状に突出する断面形状の部分である。ベベル面7c,7dは、径方向に対して所定角度θ1,θ2でそれぞれ傾斜するテーパ面である。ベベル面7cは、接続部7bを介して突出面10と側面2cとを連結する。ベベル面7dは、突出面10と柱部13とを連結する。所定角度θ1,θ2は、例えば、10°以上35°以下であってもよい。突出面10は、シリンダ内周面への油膜を形成しやすいように、その断面形状及び突出の程度が規定されている。所定角度θ1,θ2は、互いに等しくてもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0034】
図5は、
図4の断面の要部拡大図(第1レール部7の外周面7aの拡大図)である。
図6(a)は、
図5の断面における摺接部の拡大断面図である。
図5及び
図6(a)に示されるように、突出面10(第1レール部7の外周面7a)は、第1円弧面11と、一対のベベル面7c,7dと、第1円弧面11とベベル面7c,7dとを接続する一対の第2円弧面12と、を含む。突出面10は、一例として、3つの湾曲領域である第1円弧面11及び一対の第2円弧面12で構成されている。換言すれば、第1レール部7の外周面7aの最外点(頂点10a)を含む第1円弧面11を境に幅方向Aに対称な対称バレル形状となっている。
【0035】
摺接領域15(第1円弧面11)は、シリンダ内周面と摺接する摺接部と、摺接部を挟んで軸方向の両側の一定範囲内の摺接周辺部とを含む領域である。一定範囲とは、第1レール部7のシリンダ内周面との実当り幅Lh1の範囲に相当する。一定範囲は、例えば、第1円弧面11の上死点側の端部11aから下死点側の端部11bまでの範囲と一致している。一定範囲は、第1円弧面11の上死点側の端部11aから下死点側の端部11bまでの一部であってもよい。実当り幅Lh1は、0.010mm以上0.15mm以下であってもよい。実当り幅Lh1は、例えば、0.10mmとすることができる。
【0036】
第1円弧面11は、第1レール部7の径方向最外点である頂点10aを含む。頂点10aは、シリンダ内周面と摺接する摺接部に相当する。第1円弧面11のうち、頂点10aから端部11aまでの間、及び、頂点10aから端部11bまでの間は、摺接部を挟んで軸方向の両側の一定範囲内である摺接周辺部に相当する。
【0037】
頂点10a及びこの一定範囲において、突出面10は、摺接領域15を含んでいる。摺接領域15は、第1レール部7の外周面7aのうちシリンダ内周面への油膜形成に寄与する部分である。摺接領域15は、油膜形成に寄与する部分である。一般的に、油膜形成に寄与する部分は、例えば工夫を重ねると断面形状が複雑化する傾向がある。摺接領域15の断面形状をシンプル化することで、製造コストを抑制し易くなる。そのため、摺接領域15は、頂点10aに関して軸方向に対称(上下対称)な断面形状を有している。
図5及び
図6(a)の例では、摺接領域15は、第1円弧面11の範囲と一致している。なお、摺接領域15は、第1円弧面11の一部であって頂点10aに関して軸方向に対称な範囲であってもよい。
【0038】
図5及び
図6(a)の例では、頂点10aは、第1レール部7の外周面7aの軸方向中央部に位置している。つまり、第1レール部7は、頂点10aに関して軸方向に対称な断面形状を有している。
【0039】
第1円弧面11は、曲率半径R1が0.30mm以下の円弧面となっている。曲率半径R1が0.050mm以上であってもよい。曲率半径R1が0.076mm以上0.276mm以下であってもよい。第1円弧面11は、頂点10aに関して軸方向に対称となる摺接領域15をなしている。
【0040】
第1円弧面11の曲率半径R1は、第2円弧面12の曲率半径R2,R3よりも大きい。例えば、第1円弧面11の曲率半径R1と、第2円弧面12の曲率半径R2,R3との比R2/R1及びR3/R1は、0.1以上0.6以下である。第2円弧面12の曲率半径R2,R3は、例えば、互いに等しい。第2円弧面12の曲率半径R2,R3は、例えば、互いに異なっていてもよい。
【0041】
突出面10の軸方向寸法(外周面幅Lh0)は、例えば、0.10mm以上0.30mm以下である。突出面10の軸方向寸法は、ベベル面7cと突出面10との境界からベベル面7dと突出面10との境界までの軸方向寸法に相当する。ベベル面7c(又はベベル面7d)と突出面10との境界までの頂点10aからの径方向寸法D2は、0.0045mm以上0.0150mm以下であってもよい。
【0042】
別の観点で規定すると、突出面10の少なくとも一部(ここでは第1円弧面11)は、頂点10aと、一対の点である端部11a,11bと、を通る仮想凸面16上に位置している。一対の点である端部11a,11bは、頂点10aから軸方向の両側にそれぞれ0.05mm離れると共に径方向内側に所定の落差D1にて位置する点である。落差D1は、0.0045mm以上である。落差D1は、0.0150mm以下であってもよい。落差D1は、0.0075mm以上0.0100mm以下であってもよい。
【実施例】
【0043】
本開示を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
表1に示されるように、以下の手順で実施例1のオイルコントロールリング1を作製した。まず、第1レール部7の外周面7a及び第2レール部8の外周面8aに第1円弧面11を設けた本体部2を作製した。本体部2は、JIS規格である硬鋼線(SWRH77B相当)を用い、当該線材に圧延ロール成形及び引き抜き成形を施して作製した。本体部2の幅を3.0mmとした。本体部2の厚さを2.5mmとした。実当り幅Lh1と0.04mmとした。張力を12.48Nとした。第1円弧面11は、中央部に頂点10aを配置し、曲率半径R1が0.30mmの円弧面とした。第1レール部7及び第2レール部8の幅を0.25mmとした。オイル消費性能を比較するためにオイルコントロールリング1の面圧を2.6MPa(計算面圧幅=Lh1)とした。本体部2に対して側面加工及び合口加工を行った後、本体部2の外周面2bにPVD法により硬質膜として硬質炭素膜(DLC膜)を形成した。
【0045】
(実施例2)
実施例2のオイルコントロールリング1を作製した。実当り幅Lh1を0.05mm、張力を15.60Nとしたほかは、実施例1のオイルコントロールリング1と同様とした。
【0046】
(比較例1)
オイルコントロールリングの本体部の外周面として軸方向に沿う摺接面とテーパ面とを有する比較例1のオイルコントロールリングを作製した。テーパ面の軸方向に対する角度は9°とした。本体部の外周面の形状を除き、実施例1と同様の手順で作製した。摺接面とシリンダ内周面との当り幅は、0.18mmであった。
【0047】
【0048】
直列6気筒ディーゼルエンジンの各気筒に実施例1,2及び比較例1のオイルコントロールリングを装着した実機試験でオイル消費量(LOC)を評価した。運転条件は、2000rpm、2種類の負荷モード(100%負荷及び50%負荷)とした。オイル消費量の評価結果を表2に示す。LOC改善率は、比較例1のLOC量を100%としたときの実施例1,2のLOC量を%で表した値である。
【0049】
【0050】
表2の評価結果から、実施例1,2のオイルコントロールリング1によれば、比較例1と比べて、100%負荷(全負荷)においてLOC量が約20%改善し、50%負荷(中負荷)においてLOC量が約40%改善した。この結果、第1円弧面11によれば、シリンダ内周面への油膜形成に寄与する部分である摺接領域15が構成された。第1円弧面11は、軸方向寸法(実当り幅Lh1)を弦長とする曲率半径R1の円弧面を形成している。第1円弧面11の断面形状がシンプル化されるにもかかわらず、ピストン下降時にシリンダ内周面のオイルを掻き落とし易い作用を得られることが判った。
【0051】
以上説明したように、本開示の一態様に係るオイルコントロールリング1によれば、第1レール部7の外周面7a及び第2レール部8の外周面8aは、それぞれの径方向外側に向かって凸状に突出する断面形状の突出面10を有している。突出面10は、第1レール部7又は第2レール部8の径方向最外点である頂点10aを含む摺接領域15において曲率半径が0.30mm以下の円弧面である。このような構成によれば、円弧面をなす突出面10の少なくとも一部(第1円弧面11)は、頂点10aに関して軸方向に対称となる摺接領域15を形成する。このように少なくとも摺接領域15において上下対称な断面形状とすることで断面形状がシンプル化される。摺接領域15によってオイルを十分に掻き下げることができる。よって、オイル消費量の低減を図ることができる。したがって、第1レール部7の外周面7a及び第2レール部8の外周面8aの断面形状をシンプル化しつつオイル消費量の低減を図ることができる。
【0052】
本開示の他の態様に係るオイルコントロールリング1によれば、第1レール部7の外周面7a及び第2レール部8の外周面8aは、それぞれの径方向外側に向かって凸状に突出する断面形状の突出面10を有している。突出面10の少なくとも一部(第1円弧面11)は、頂点10aと、頂点10aから軸方向の両側にそれぞれ0.05mm離れると共に径方向内側に所定の落差にて位置する一対の点である端部11a,11bと、を通る仮想凸面16上に位置しており、落差は、0.0045mm以上である。このような構成によれば、突出面10のうち仮想凸面16に沿う少なくとも一部は、頂点10aに関して軸方向に対称となる摺接領域15を形成する。このように少なくとも摺接領域15において上下対称な断面形状とすることで断面形状がシンプル化される。摺接領域15によってオイルを十分に掻き下げることができる。よって、オイル消費量の低減を図ることができる。したがって、第1レール部7の外周面7a及び第2レール部8の外周面8aの断面形状をシンプル化しつつオイル消費量の低減を図ることができる。
【0053】
頂点10aは、第1レール部7の外周面7a及び第2レール部8の外周面8aのそれぞれの軸方向の中央部に位置している。このような構成によれば、摺接領域15だけでなく、第1レール部7の外周面7a及び第2レール部8の外周面8aのそれぞれが全体として上下対称となる。そのため、オイルコントロールリング1の表裏の逆組みを未然に抑制することができる。
【0054】
第1レール部7の外周面7a及び第2レール部8の外周面8aは、頂点10aを含む第1円弧面11と、径方向に対して所定角度で傾斜するテーパ面である一対のベベル面7c,7dと、突出面10とベベル面7c,7dとを接続する第2円弧面12と、を含む。第1円弧面11の曲率半径R1は、第2円弧面12の曲率半径R2,R3よりも大きい。このような構成によれば、第1レール部7,第2レール部8のうちオイルコントロールリング1の側面2c又は側面2dに近い部分が鋭利ではない形状となる。そのため、鋭利な形状であった場合に生じ得る欠損を未然に抑制することができる。
【0055】
[変形例]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述した実施形態に限定されるものではない。本開示は、上述した実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した様々な形態で実施することができる。
【0056】
図5及び
図6(a)の例では、摺接領域15は、第1円弧面11の範囲と一致しており、摺接領域15の全体が、曲率半径R1が0.30mm以下の円弧面となっていたが、この例に限定されない。摺接領域は、軸方向に平行に延在する平坦部を含んでもよい。
図6(b)は、変形例に係るオイルコントロールリング1Mについての
図6(a)に相当する拡大断面図である。
【0057】
図4及び
図6(b)に示されるように、変形例に係る第1レール部7Mの外周面7Maにおいて、突出面10Mは、一対の部分円弧面11c,11fと、一対の部分円弧面11c,11fを接続する平坦部17と、を有する摺接領域15Mを含んでいる。第1レール部7Mの断面形状は、例えば、上述の第1レール部7の外周面7aにおいて頂点10aに関して上下対称な所定範囲(平坦部17)で外周面7aを切り欠いたような形状となっている。
【0058】
一対の部分円弧面11c,11fは、側面2c(一側面)側及び側面2d(他側面)側にそれぞれ設けられている。部分円弧面11cの側面2c側の端部は、第1円弧面11の側面2c側の端部と一致しており、端部11aである。部分円弧面11fの側面2d側の端部は、第1円弧面11の側面2d側の端部と一致しており、端部11bである。一対の部分円弧面11c,11fは、それぞれ、上述の第1円弧面11の上下両端側の一部分に相当している。つまり、一対の部分円弧面11c,11fは、摺接領域15Mの幅方向A(軸方向)の両端である端部11a,11bを通る曲率半径が0.30mm以下の第1円弧面11の一部分である。
【0059】
一対の部分円弧面11c,11fは、仮想頂点10xに関して上下対称となっている。仮想頂点10xは、端部11a,11bを通る第1円弧面11の仮想的な径方向最外点である。仮想頂点10xは、上述の頂点10aに相当する仮想的な頂点である。一対の部分円弧面11c,11fが上述の第1円弧面11とは異なり実際には頂点10aを含まないため、ここでは、頂点10aに相当する仮想的な頂点として仮想頂点10xを規定することができる。
【0060】
平坦部17は、
図6(b)において断面形状が直線状の部分である。平坦部17は、一対の部分円弧面11c,11fを接続するように幅方向Aに平行に延在している。平坦部17の側面2c側の端部は、部分円弧面11cの側面2d側の端部と一致しており、頂端部11dである。平坦部17の側面2d側の端部は、部分円弧面11fの側面2c側の端部と一致しており、頂端部11eである。平坦部17は、頂端部11dから頂端部11eまで、仮想頂点10xに関して上下対称な所定範囲で延在している。したがって、一対の部分円弧面11c,11f及び平坦部17は、仮想頂点10xに関して上下対称となっている。すなわち、摺接領域15Mは、第1円弧面11の仮想的な径方向最外点である仮想頂点10xに関して上下対称な断面形状である。
【0061】
摺接領域15Mは、シリンダ内周面と摺接する摺接部と、摺接部を挟んで軸方向の両側の一定範囲内の摺接周辺部とを含む領域である。平坦部17は、シリンダ内周面と摺接する摺接部に相当する。頂端部11dから端部11aまでの間、及び、頂端部11eから端部11bまでの間は、摺接部を挟んで軸方向の両側の一定範囲内であるの摺接周辺部とを含む領域に相当する。平坦部17及びこの一定範囲において、突出面10Mは、第1レール部7Mの外周面7Maのうちシリンダ内周面への油膜形成に寄与する部分である摺接領域15Mを含んでいる。
【0062】
平坦部17は、頂端部11dから頂端部11eまでの軸方向寸法である平坦部幅Lh2は、0mmよりも大きく0.100mmよりも小さくてもよい。平坦部17の平坦部幅Lh2は、0mmよりも大きく0.085mm以下であってもよい。平坦部17の平坦部幅Lh2は、0mmよりも大きく0.070mm以下であってもよい。
【0063】
具体的には、
図7は、
図6(b)の断面を有するオイルコントロールリング1Mのシミュレーション結果を示す図である。
図7の横軸は、平坦部幅Lh2である。縦軸は、内燃機関のピストンの下降行程における平均最小油膜厚さである。横軸及び縦軸のそれぞれの単位はμmとなっている。
図7では、オイルコントロールリング1Mについて、オイル消費量低減効果を確認するためのシミュレーション結果が示されている。シミュレーションとして、
図7の例では、オイルコントロールリング1Mとシリンダ内周面との油膜厚さについて、Patir&Chengの平均レイノルズ方程式を用いた理論計算を行った。シミュレーションでは、上述の実施例1で用いた仕様のオイルコントロールリング1に平坦部17を設けると共に、平坦部17の平坦部幅Lh2を複数の数値で変化させて計算を行った。
【0064】
図7には、平坦部幅Lh2が0μm(破線の円)、70μm(0.070mm)、85μm(0.085mm)、100μm(0.100mm)(破線の円)、120μm(0.120mm)(破線の円)、及び、150μm(0.150mm)(破線の円)の計算結果がプロットされている。実線の円が実施例3に対応する。比較例として、外周面が軸方向に平行なストレート形状のオイルコントロールリングのプロット(ストレート)と、外周面が軸方向に傾斜したテーパ形状のオイルコントロールリングのプロット(テーパ)と、の計算結果が
図7にプロットされている。油膜厚さとして、内燃機関のピストンの下降行程における平均最小油膜厚さが計算されている。
図7に示されるように、平坦部幅Lh2が100μm(0.100mm)よりも小さい範囲において、比較例のストレート及びテーパの計算結果よりも小さい油膜厚さが得られることがわかる。平坦部幅Lh2が85μm(0.085mm)以下の範囲において、平坦部幅Lh2が100μm(0.100mm)である場合よりも更に小さい油膜厚さが得られることがわかる。平坦部幅Lh2が70μm(0.070mm)以下の範囲において、平坦部幅Lh2が85μm(0.085mm)である場合よりも更に小さい油膜厚さが得られることがわかる。
【0065】
このように、オイルコントロールリング1Mによれば、第1レール部7Mの外周面7Ma(第2レール部の外周面も同様)は、それぞれの径方向外側に向かって凸状に突出する断面形状の突出面10Mを有している。突出面10Mは、側面2c(一側面)側及び側面2d(他側面)側にそれぞれ設けられた一対の部分円弧面11c,11fと、一対の部分円弧面11c,11fを接続するように幅方向Aに平行に延在する平坦部17と、を有する摺接領域15Mを含んでいる。一対の部分円弧面11c,11fは、摺接領域15Mの幅方向A(軸方向)の両端である端部11a,11bを通る曲率半径が0.30mm以下の第1円弧面11の一部分である。摺接領域15Mは、第1円弧面11の仮想的な径方向最外点である仮想頂点10xに関して上下対称な断面形状である。このような構成によれば、突出面10Mのうち平坦部17及び平坦部17の上下両側の一対の部分円弧面11c,11fは、仮想頂点10xに関して幅方向Aに対称となる摺接領域15Mを形成する。このように少なくとも摺接領域15Mにおいて上下対称な断面形状とすることで断面形状がシンプル化される。摺接領域15Mによってオイルを十分に掻き下げることができる。よって、オイル消費量の低減を図ることができる。したがって、第1レール部7M及び第2レール部の外周面7Maの断面形状をシンプル化しつつオイル消費量の低減を図ることができる。
【0066】
上述した実施形態では、仮想凸面16は、曲率半径R1の円弧面と一致していたが、この例に限定されない。例えば、突出面10の少なくとも一部が、頂点10aと一対の点とを通るような多角形状断面の仮想凸面16上に位置していてもよい。
【0067】
上述した実施形態では、突出面10の一部である第1円弧面11の実当り幅Lh1が0.10mmであったが、実施例のように0.10mm未満であってもよい。つまり、仮想凸面16の落差を規定するための頂点10aから軸方向の両側にそれぞれ0.05mm離れた一対の位置が、仮想凸面16上に位置する突出面10の一部を挟むような位置関係となっていてもよい。このような場合、相似の考え方で落差を換算してもよい。例えば、突出面10の少なくとも一部は、頂点10aと、頂点10aから軸方向の両側にそれぞれ0.01mm離れると共に径方向内側に所定の落差にて位置する一対の点と、を通る仮想凸面16上に位置しており、落差は、0.0009mm以上であってもよい。
【0068】
上述した実施形態では、頂点10aは、第1レール部7の外周面7aの軸方向中央部に位置していたが、この例に限定されない。例えば、少なくとも摺接領域15が頂点10aに関して軸方向に対称な断面形状を有していればよく、第1レール部7及び第2レール部8のそれぞれは、全体として頂点10aに関して軸方向に対称でなくてもよい。
【0069】
上述した実施形態では、突出面10は、突出面10とベベル面7c,7dとを接続する第2円弧面12を有していたが、この例に限定されない。例えば、第2円弧面12に代えて、多角形状の断面形状でもよいし、直線状のテーパ形状の面でもよい。
【0070】
なお、以下、本開示の種々の態様の構成要件を記載する。
<発明1>
内周面及び外周面と、前記内周面に略直交する一側面及び他側面とを有する環状の本体部と、前記内周面に沿って装着されるコイルエキスパンダと、を備えたオイルコントロールリングであって、
前記本体部は、一対の環状の第1レール部及び第2レール部と、前記第1レール部及び前記第2レール部を接続する柱部と、を有し、
前記第1レール部及び前記第2レール部の外周面は、それぞれの径方向外側に向かって凸状に突出する断面形状の突出面を有し、
前記突出面は、前記第1レール部又は前記第2レール部の径方向最外点である頂点を含む摺接領域において曲率半径が0.30mm以下の円弧面である、オイルコントロールリング。
<発明2>
内周面及び外周面と、前記内周面に略直交する一側面及び他側面とを有する環状の本体部と、前記内周面に沿って装着されるコイルエキスパンダと、を備えたオイルコントロールリングであって、
前記本体部は、一対の環状の第1レール部及び第2レール部と、前記第1レール部及び前記第2レール部を接続する柱部と、を有し、
前記第1レール部及び前記第2レール部の外周面は、それぞれの径方向外側に向かって凸状に突出する断面形状の突出面を含み、
前記突出面の少なくとも一部は、前記第1レール部又は前記第2レール部の径方向最外点である頂点と、前記頂点から軸方向の両側にそれぞれ0.05mm離れると共に径方向内側に所定の落差にて位置する一対の点と、を通る仮想凸面上に位置しており、
前記落差は、0.0045mm以上である、オイルコントロールリング。
<発明3>
前記頂点は、前記第1レール部及び前記第2レール部の前記外周面のそれぞれの軸方向の中央部に位置している、発明1又は2に記載のオイルコントロールリング。
<発明4>
前記第1レール部及び前記第2レール部の前記外周面は、前記頂点を含む第1円弧面と、径方向に対して所定角度で傾斜するテーパ面である一対のベベル面と、前記突出面と前記ベベル面とを接続する第2円弧面と、を含み、
前記第1円弧面の曲率半径は、前記第2円弧面の曲率半径よりも大きい、発明1~3の何れか一つに記載のオイルコントロールリング。
<発明5>
前記第1円弧面の曲率半径R1と、前記第2円弧面の曲率半径R2との比R2/R1は、0.1以上0.6以下である、発明4に記載のオイルコントロールリング。
<発明6>
内周面及び外周面と、前記内周面に略直交する一側面及び他側面とを有する環状の本体部と、前記内周面に沿って装着されるコイルエキスパンダと、を備えたオイルコントロールリングであって、
前記本体部は、一対の環状の第1レール部及び第2レール部と、前記第1レール部及び前記第2レール部を接続する柱部と、を有し、
前記第1レール部及び前記第2レール部の外周面は、それぞれの径方向外側に向かって凸状に突出する断面形状の突出面を有し、
前記突出面は、前記一側面側及び前記他側面側にそれぞれ設けられた一対の部分円弧面と、一対の部分円弧面を接続するように軸方向に平行に延在する平坦部と、を有する摺接領域を含み、
一対の前記部分円弧面は、前記摺接領域の軸方向の両端を通る曲率半径が0.30mm以下の円弧面の一部分であり、
前記摺接領域は、前記円弧面の仮想的な径方向最外点である仮想頂点に関して上下対称な断面形状である、オイルコントロールリング。
<発明7>
前記平坦部の軸方向寸法は、0mmよりも大きく0.100mmよりも小さい、発明6に記載のオイルコントロールリング。
【符号の説明】
【0071】
1,1M…オイルコントロールリング、2…本体部、2a…内周面、2b…外周面、2c…側面(一側面)、2d…側面(他側面)、3…コイルエキスパンダ、7,7M…第1レール部、8…第2レール部、7a,8a…外周面、7c…ベベル面、7d…ベベル面、10,10M…突出面、10a…頂点、10x…仮想頂点、11…第1円弧面、11c,11f…部分円弧面、12…第2円弧面、13…柱部、15,15M…摺接領域、D1…落差、R1,R2,R3…曲率半径。
【要約】
オイルコントロールリングは、内周面及び外周面と、内周面に略直交する一側面及び他側面とを有する環状の本体部と、内周面に沿って装着されるコイルエキスパンダと、を備えている。オイルコントロールリングでは、本体部は、一対の環状の第1レール部及び第2レール部と、第1レール部及び第2レール部を接続する柱部と、を有している。第1レール部及び第2レール部の外周面は、それぞれの径方向外側に向かって凸状に突出する断面形状の突出面を有している。突出面は、第1レール部又は第2レール部の径方向最外点である頂点を含む摺接領域において曲率半径が0.30mm以下の円弧面である。