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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】塗工方法、及びシート材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/28 20060101AFI20230829BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20230829BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20230829BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20230829BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20230829BHJP
【FI】
B05D1/28
B05D7/00 A
B05D7/24 303A
C09D201/00
C09D7/61
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023530890
(86)(22)【出願日】2023-01-11
(86)【国際出願番号】 JP2023000368
【審査請求日】2023-05-22
(31)【優先権主張番号】P 2022060185
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156867
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 欣浩
(72)【発明者】
【氏名】下村 光平
(72)【発明者】
【氏名】水野 克美
(72)【発明者】
【氏名】栂 孝司
(72)【発明者】
【氏名】手塚 真
【審査官】青木 太一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-175332(JP,A)
【文献】特開2021-181068(JP,A)
【文献】特開2006-128649(JP,A)
【文献】特許第4857217(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 7/00-21/00
B05D 1/00- 7/26
C09D 1/00-10/00;
101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻き掛けられた長尺状の基材を送り出す搬送ローラと、当該搬送ローラの上方において当該搬送ローラに対して隙間をあけて配置され円柱状又は円筒状であってナイフ部が設けられたナイフコーターと、一端部が当該搬送ローラの側方に位置していて当該搬送ローラとの間に液溜め空間を区画する液溜め部材とを有する塗工装置を用いて、当該液溜め部材に収容した塗工液の塗膜を当該基材の表面に形成する塗工方法であって、
前記塗工液は、樹脂、溶剤、及びフィラーを含み、当該フィラーの含有率は、当該樹脂と当該フィラーとの混合物100質量部に対して65~95質量部であり、
前記搬送ローラの外径は、50~270mmであり、
前記ナイフコーターの外径は、50~170mmであり、
前記隙間から前記液溜め部材の前記一端部までの距離は、1~120mmである塗工方法。
【請求項2】
前記溶剤の含有率は、前記樹脂と前記フィラーとの混合物100質量部に対して10~50質量部である、請求項1に記載の塗工方法。
【請求項3】
前記塗工液の粘度は、温度25℃で100~20000cPである、請求項1又は2に記載の塗工方法。
【請求項4】
前記フィラーは、窒化ホウ素と酸化アルミニウムとの混合物であって、
前記窒化ホウ素の含有率は、前記窒化ホウ素と前記酸化アルミニウムとの混合物100質量部に対して60~90質量部である、請求項1~3の何れか一項に記載の塗工方法。
【請求項5】
基材と塗膜とにより構成されるシート材の製造方法であって、
巻き掛けられた長尺状の前記基材を送り出す搬送ローラと、当該搬送ローラの上方において当該搬送ローラに対して隙間をあけて配置され円柱状又は円筒状であってナイフ部が設けられたナイフコーターと、一端部が当該搬送ローラの側方に位置していて当該搬送ローラとの間に液溜め空間を区画する液溜め部材とを有する塗工装置を準備し、
前記基材を前記搬送ローラに巻き掛けるとともに、前記塗膜を当該基材の表面に形成するための塗工液を前記液溜め部材に収容し、
前記塗工液は、樹脂、溶剤、及びフィラーを含み、当該フィラーの含有率は、当該樹脂と当該フィラーとの混合物100質量部に対して65~95質量部であり、
前記搬送ローラの外径は、50~270mmであり、
前記ナイフコーターの外径は、50~170mmであり、
前記隙間から前記液溜め部材の前記一端部までの距離は、1~120mmであって、
前記搬送ローラを回転させることによって前記基材の表面に前記塗膜が形成された前記シート材が製造されるシート材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗工方法、及びシート材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従前より各種の回路基板が使用されている。例えば特許文献1、2には、ベース基板に絶縁層を介して回路パターンを積層させた回路基板が示されている。絶縁層は、ベース基板と回路パターンとの間の耐電圧を確保する役割を持っている。また絶縁層にフィラーを含ませることにより、このフィラーで絶縁層の熱伝導性を確保することができる。このような回路基板によれば、回路パターン上に設けた電子部品で発生して回路パターンに伝わる熱を、絶縁層を介してベース基板に伝え、ベース基板から外部に放出することができる。
【0003】
上記の絶縁層は、例えばPETフィルム等の基材の表面に絶縁層形成用組成物の塗膜を形成したシート材を準備し、シート材の塗膜をベース基板又は回路パターンに対して熱転写することによって得ることができる。基材の表面に塗膜を形成する塗工装置、及び塗工方法は、例えば特許文献3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-246079号公報
【文献】特開2013-254921号公報
【文献】特許第4857217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで近年は、電子機器の高性能化及び小型化が進むにつれて、電子部品の発熱量は益々大きくなっているため、絶縁層の放熱性が重要視されている。この点に関して本願発明者が検討を重ねたところ、絶縁層形成用組成物に含まれるフィラーの含有率を従来よりも大きく増やすことによって、放熱性に優れた絶縁層が得られる可能性があることを見出した。しかし、このようなフィラーの含有率を増やした塗工液によって基材の表面に塗膜を設ける場合、特許文献3に示されている如き従来の塗工方法では、外観上、塗膜にムラが認められ、また塗膜の膜厚ばらつきが大きくなっていて、量産性の点で難があった。
【0006】
このような問題点に鑑み、本発明は、フィラーの含有率を増やした塗工液を用いて基材の表面に塗膜を形成するにあたり、塗膜ムラを抑制するとともに塗膜の膜厚ばらつきも抑えることができる塗工方法、及びこの塗工方法で得られるシート材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、巻き掛けられた長尺状の基材を送り出す搬送ローラと、当該搬送ローラの上方において当該搬送ローラに対して隙間をあけて配置され円柱状又は円筒状であってナイフ部が設けられたナイフコーターと、一端部が当該搬送ローラの側方に位置していて当該搬送ローラとの間に液溜め空間を区画する液溜め部材とを有する塗工装置を用いて、当該液溜め部材に収容した塗工液の塗膜を当該基材の表面に形成する塗工方法であって、前記塗工液は、樹脂、溶剤、及びフィラーを含み、当該フィラーの含有率は、当該樹脂と当該フィラーとの混合物100質量部に対して65~95質量部であり、前記搬送ローラの外径は、50~270mmであり、前記ナイフコーターの外径は、50~170mmであり、前記隙間から前記液溜め部材の前記一端部までの距離は、1~120mmである塗工方法である。
【0008】
上述した塗工方法において、前記溶剤の含有率は、前記樹脂と前記フィラーとの混合物100質量部に対して10~50質量部であることが好ましい。
【0009】
また上述した塗工方法において、前記塗工液の粘度は、温度25℃で100~20000cPであることが好ましい。
【0010】
また上述した塗工方法において、前記フィラーは、窒化ホウ素と酸化アルミニウムとの混合物であって、前記窒化ホウ素の含有率は、前記窒化ホウ素と前記酸化アルミニウムとの混合物100質量部に対して60~90質量部であることが好ましい。
【0011】
また本発明は、基材と塗膜とにより構成されるシート材の製造方法であって、巻き掛けられた長尺状の前記基材を送り出す搬送ローラと、当該搬送ローラの上方において当該搬送ローラに対して隙間をあけて配置され円柱状又は円筒状であってナイフ部が設けられたナイフコーターと、一端部が当該搬送ローラの側方に位置していて当該搬送ローラとの間に液溜め空間を区画する液溜め部材とを有する塗工装置を準備し、前記基材を前記搬送ローラに巻き掛けるとともに、前記塗膜を当該基材の表面に形成するための塗工液を前記液溜め部材に収容し、前記塗工液は、樹脂、溶剤、及びフィラーを含み、当該フィラーの含有率は、当該樹脂と当該フィラーとの混合物100質量部に対して65~95質量部であり、前記搬送ローラの外径は、50~270mmであり、前記ナイフコーターの外径は、50~170mmであり、前記隙間から前記液溜め部材の前記一端部までの距離は、1~120mmであって、前記搬送ローラを回転させることによって前記基材の表面に前記塗膜が形成された前記シート材が製造されるシート材の製造方法でもある
【発明の効果】
【0012】
本発明の塗工方法によれば、フィラーの含有率を増やした塗工液を用いる場合において、基材の表面に形成した塗膜のムラを抑制し、また塗膜の膜厚ばらつきも抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る塗工方法で用いられる塗工装置の一実施形態を示した図である。
図2A】塗膜のムラに関する図(グレースケール)である。
図2B】塗膜のムラに関する図(グレースケール)である。
図2C】塗膜のムラに関する図(図2Aを2値化した図)である。
図2D】塗膜のムラに関する図(図2Bを2値化した図)である。
図3A】SEM解析による塗膜の断面に関する図(グレースケール)である。
図3B】SEM解析による塗膜の断面に関する図(グレースケール)である。
図3C】SEM解析による塗膜の断面に関する図(図3Aを2値化した図)である。
図3D】SEM解析による塗膜の断面に関する図(図3Bを2値化した図)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら本発明に係る塗工方法の一実施形態について説明する。なお、添付図面に示した図は模式的なものであり、各部分の厚みや幅、各部分同士の比率等は、実際に実施されるものとは異なる場合がある。
【0015】
まず、本発明に係る塗工方法で用いられる塗工装置について、図1を参照しながら説明する。本実施形態の塗工装置1は、搬送ローラ2と、ナイフコーター3と、液溜め部材4を備えていて、長尺状になる基材Wの表面に塗膜Cを設けて基材Wと塗膜Cで構成されるシート材を形成するものである。
【0016】
搬送ローラ2は、円柱状又は円筒状をなしていて、不図示のモータ等によって図示した矢印の向きに回転するように構成されている。搬送ローラ2には、基材Wが巻き掛けられていて、搬送ローラ2の回転に伴って基材Wを送り出すことができる。本実施形態における搬送ローラ2は、最大で幅が1m程度になる基材Wを使用できる程度の長さを有している。なお、搬送ローラ2の外径D1については後述する。
【0017】
ナイフコーター3は、円柱状又は円筒状になる本体部3aと、本体部3aの外周面に設けられたナイフ部3bとを備えている。ナイフ部3bは、図示したように横断面形状がエッジ状(先鋭状)であって、本体部3aの軸線方向に沿って長く延在するものである。ナイフコーター3の長さは、搬送ローラ2と同程度に設定されている。なお、ナイフコーター3の外径D2については後述する。
【0018】
ナイフコーター3は、図示したように搬送ローラ2の上方において、ナイフ部3bが搬送ローラ2に最も近づく姿勢とし、ナイフ部3bの先端部と搬送ローラ2の外周面との間に隙間があく状態で保持されている。なおこの隙間は、搬送ローラ2に基材Wを巻き回した状態で、基材Wの表面に所定の厚みの塗膜Cが形成される程度(一例として塗膜Cの厚みは200μm程度)に設定されている。
【0019】
液溜め部材4は、図示したように上下方向に対して傾いた状態で配置されていて、液溜め部材4の一端部4aは、搬送ローラ2の側方に位置している。なお、図1に示した符合D3は、上述した隙間から一端部4aまでの距離(搬送ローラ2の外周面においてナイフ部3bに最も近い部位から一端部4aに最も近い部位までを結んだ弦の長さ)を示している。
【0020】
図示したように塗工装置1は、搬送ローラ2と液溜め部材4で区画形成される液溜め空間Sを備えている。液溜め空間Sには、塗膜Cを形成するための塗工液Lが収容される。なお塗工液Lを液溜め空間Sに収容した状態において、ナイフコーター3の下部は塗工液Lに浸漬されている状態にある。
【0021】
そして基材Wは、例えば剥離性を有するPETフィルム等によって形成される。
【0022】
また塗工液Lは、樹脂、溶剤、及びフィラーを含んでいる。樹脂について例示すると、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、シアネート樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。また樹脂は、液晶ポリマー、メソゲン骨格を持つ樹脂、ポリカーボネート、ナイロン、ポリアミドのようなエンジニアリングプラスチック等、その他の高熱伝導性樹脂でもよい。樹脂は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また溶剤は、例えばグリコールエーテル系溶剤(一例として、エチルカルビトール、メチルカルビトール、ブチルカルビトール等)が使用される。そしてフィラーは、絶縁性に優れかつ熱伝導率の高いものが好ましく、例えば、酸化アルミニウム、窒化ホウ素、シリカ、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化マグネシウム等が挙げられる。他に塗工液Lに含まれるものとしては、例えば主剤である樹脂を硬化させる添加剤(硬化剤)が挙げられる。硬化剤は、樹脂の種類に応じて選択され、これと反応するものであれば特に限定されない。例えばエポキシ樹脂を使用する場合における硬化剤としては、アミン系硬化剤、イミダゾール系硬化剤、フェノール系硬化剤等が挙げられる。また、樹脂の硬化を促進させるために触媒を添加してもよい。例えばエポキシ樹脂を使用する場合には、リン系、チオール系、第三級アミン系、イミダゾール系の触媒を使用してもよい。なお塗工液Lに含まれる樹脂の含有率に関し、樹脂(主剤)とともに硬化剤や触媒(添加剤)を使用する場合は、硬化剤や触媒も含めて樹脂の含有率を算出するものとする。
【0023】
本実施形態の塗工液Lに含まれるフィラーの含有率は、従来、塗膜Cから絶縁層を形成していた場合の含有率よりも大きく増えている。具体的には、塗工液Lに含まれる樹脂とフィラーとの混合物100質量部に対して、フィラーの含有率は、65~95質量部である。このようにフィラーの含有率を大きく増やすことにより、塗工液Lから得られる塗膜Cによって回路基板の絶縁層を形成した際、一例として絶縁層の熱伝導率を15W/mk以上にすることができ、絶縁層に高い熱伝導性を持たせることができる。なお、絶縁層として得られる高い熱伝導性を確保しつつ塗工液Lから塗膜Cを形成する際の品質や生産性を考慮すると、上述したフィラーの含有率は、樹脂とフィラーとの混合物100質量部に対して70~90質量部であることがより効果的であり、75~85質量部であることが更に効果的であった。またフィラーは、塗膜Cの品質や絶縁層の熱伝導性の見地から、例えば窒化ホウ素と酸化アルミニウムとの混合物を用いることが好ましい。この場合、窒化ホウ素の含有率は、窒化ホウ素と酸化アルミニウムとの混合物100質量部に対して60~90質量部であることが効果的であり、65~85質量部であることがより効果的であり、70~80質量部であることが更に効果的であった。
【0024】
また塗膜Cの品質や生産性を鑑みると、溶剤の含有率は、樹脂とフィラーとの混合物100質量部に対して10~50質量部であることが好ましく、20~45質量部であることがより好ましく、30~40質量部であることが更に好ましい。
【0025】
次に、塗工装置1を用いて基材Wの表面に塗膜Cを形成するための塗工方法について説明する。この塗工方法を実施するにあたっては、図1に示すように搬送ローラ2に基材Wを巻き掛けるとともに、塗工液Lを液溜め空間Sに収容する。そして不図示のモータ等を駆動させて搬送ローラ2を図示した矢印の向きに回転させる。これにより、基材Wが図示した矢印の向きに送り出され、それに伴い搬送ローラ2とナイフコーター3との隙間を塗工液Lが通過して、基材Wの表面に塗膜Cが形成される。
【0026】
ところで従来の塗工装置1は、後述する比較例のように、搬送ローラ2の直径D1は300mm程度、ナイフコーター3の直径D2は200mm程度、搬送ローラ2とナイフコーター3との隙間から一端部4aまでの距離D3は140mm程度に設定されている。このような塗工装置1によって、フィラーの含有率を増やした塗工液Lを用いて基材Wの表面に塗膜Cを形成したところ、塗膜Cに外観上のムラが認められ、また塗膜Cの膜厚ばらつきが大きくなっていた。塗膜Cにムラがあると、外観検査機等によって塗膜Cに含まれる異物を自動的に検出する自動異物検査を行うことが難しくなる。また塗膜Cの膜厚ばらつきが大きくなると、例えば塗膜Cを回路基板の絶縁層に使用する場合にベース基板や回路パターンとの均一な接触性が確保できないおそれがある。
【0027】
このような塗膜Cのムラや膜厚ばらつきについて検討を重ねたところ、使用した塗工液Lは、フィラーの含有率が増えることで逆に樹脂の含有率が減っていて、それが要因の一つと推察された。すなわち、基材Wを送り出すことで、搬送ローラ2とナイフコーター3との隙間には塗工液Lが連続的に供給される状態になる。このためこの隙間では、順次供給される塗工液Lによって圧縮力が強く作用する。ここで本願発明者は、フィラーに比して樹脂の流動性は高いため、この圧縮力が塗工液Lから樹脂を搾り取るように作用し、それがムラの発生と膜厚のばらつきにつながっていると推察した。またフィラーの含有率が増えているため、収容した液溜め空間Sでフィラーが沈降しやすいことも要因の一つであると推察される。
【0028】
このため本願発明者は、搬送ローラ2とナイフコーター3との隙間に供給される塗工液Lの量をできるだけ減らすことによって圧縮力が低下し、これによって塗工液Lが隙間を通過する際も樹脂とフィラーの混合状態が乱れにくくなると考えた。すなわち、搬送ローラ2とナイフコーター3の外径を小さくすることによって、搬送ローラ2とナイフコーター3との隙間に供給される塗工液Lの量を減らすことが有効であると考えた。また液溜め空間Sでのフィラーの沈降を抑制するべく、塗工液Lの量を少なくするために、液溜め部材4を搬送ローラ2に近づけて液溜め空間Sの容積を減らすことが有効であると考えた。
【0029】
そしてこのような考察の下で検討を重ねたところ、搬送ローラ2の外径D1が50~270mmであり、ナイフコーター3の外径D2が50~170mmであり、上記の隙間から一端部4aまでの距離D3が1~120mmである場合は、塗膜Cに発生していたムラが抑制され、また塗膜Cの膜厚ばらつきも抑えられることが認められた。そして更に検討を重ねたところ、塗膜Cにおいてこのようなムラの発生を抑制して膜厚ばらつきを抑えるには、搬送ローラ2の外径D1は75~250mmがより好ましく、100~200mmが更に好ましいことが認められた。またナイフコーター3の外径D2は、75~170mmがより好ましく、100~150mmが更に好ましいことが認められた。そして上記の隙間から一端部4aまでの距離D3は、1~100mmがより好ましく、1~50mmが更に好ましいことが認められた。
【0030】
また本願発明者は、塗工装置1における搬送ローラ2の直径D1等の検討に加え、塗工液Lの粘度についても検討をおこなった。塗工液Lの粘度を下げることにより、塗膜Cにおける外観上のムラの発生を抑制できる可能性があると考えられるからである。しかし塗工液Lの粘度を下げると、形成した塗膜Cにおいてフィラーの沈降が認められた。このため、ムラの発生を抑制しつつフィラーの沈降も抑えることができる粘度について検討を重ねたところ、塗工液Lの粘度が温度25℃で100~20000cPであれば、ムラの発生とフィラーの沈降を抑制できるとの知見が得られた。この点につき、更に検討を重ねたところ、粘度は2000~10000cPがより好ましく、4000~6000cPが更に好ましいことが認められた。なお粘度は、B型粘度計(Brookfield回転粘度計、デジタル粘度計DV2T(英弘精機株式会社製))を用いて、せん断速度8(1/s)で測定される値である。
【0031】
以下に本発明の実施例を記載する。なお本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0032】
<実施例>
基材Wとして、PETフィルムを準備した。また塗工液Lとして、樹脂(主剤と添加剤(硬化剤))、溶剤、フィラーを配合した組成物を準備した。塗工液Lに対する各成分の含有率(塗工液Lを100質量部とする場合の各成分の質量部)を併せて示す。
[主剤]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名EXA-850CRP;DIC社製)、11.2質量部
[硬化剤]
4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(商品名セイカキュアS;和歌山精化工業社製)、4.2質量部
[溶剤]
エチルカルビトール(商品名エチルカルビトール;三協化学社製)、27.6質量部
[フィラー(A)]
窒化ホウ素(BN)(商品名HP-40、粒子形状は凝集状、平均粒子径(d50)は36μm;水島合金鉄社製)、43質量部
[フィラー(B)]
酸化アルミニウム(商品名AS20、粒子形状は丸み状、平均粒子径(d50)は22μm;昭和電工社製)、14質量部
すなわち準備した塗工液Lにおいて、フィラー(A)とフィラー(B)の含有率は、樹脂(主剤と硬化剤)、フィラー(A)、及びフィラー(B)の混合物100質量部に対して78.7質量部であり、溶剤の含有率は、樹脂(主剤と硬化剤)、フィラー(A)、及びフィラー(B)の混合物100質量部に対して38.1質量部である。またフィラー(A)の含有率は、フィラー(A)及びフィラー(B)の混合物100質量部に対して75.4質量部である。
【0033】
また塗工液Lの粘度は、B型粘度計(Brookfield回転粘度計、デジタル粘度計DV2T(英弘精機株式会社製))を用いて、せん断速度8(1/s)で測定される値で4300cPある。
【0034】
そして塗工装置1における搬送ローラ2の直径D1、ナイフコーター3の直径D2、搬送ローラ2とナイフコーター3との隙間から一端部4aまでの距離D3は、下記の表1に示した比較例、及び実施例1~3の通りである。また比較例、及び実施例1~3の塗工装置1を用いて上記の基材Wと塗工液Lによって塗膜Cを形成したところ、結果は表1に示す通りであった。
【0035】
【表1】
表1における「外観」欄の評価は以下の通りである。
◎:外観上、塗膜Cにムラは殆ど認められない
○:外観上、塗膜Cに多少のムラが認められる
×:外観上、塗膜Cに多くのムラが認められる
【0036】
表1に示したように、比較例の塗工装置1で得られた塗膜Cは、外観上、多くのムラが認められた。図2Aは、比較例における塗膜Cの表面を撮影した写真である。なお図2Aは、この写真をグレースケールで示していて、図2Cは、図2Aと同一の写真を2値化して示している。また比較例の塗膜Cは、膜厚ばらつきも大であった。一方、実施例1、2の塗工装置1で得られた塗膜Cは、外観上、ムラは多少認められる程度であった。また塗膜Cの膜厚ばらつきも十分に小さくなっていた。そして実施例3の塗工装置1で得られた塗膜Cは、外観上、ムラは殆ど認められなかった(図2B参照。なお図2Bは、塗膜Cの表面の写真をグレースケールで示していて、図2Dは、図2Bと同一の写真を2値化して示している)。また塗膜Cの膜厚ばらつきは、実施例1、2よりも更に小さくなっていた。
【0037】
ところで、上述したように塗工液Lの粘度によっては、形成した塗膜Cにフィラーの沈降が認められる。ここで、実施例3の塗工装置1を使用し、粘度を下げた塗工液L(上述した溶剤の量を増やす一方で他の成分はそのままにして粘度3300cPにしている)を用いて塗膜Cを形成し、この断面をSEM観察したところ、フィラー(酸化アルミニウム)の沈降が認められた(図3A参照。なお図3Aは、SEM観察時の写真をグレースケールで示していて、図3Cは、図3Aと同一の写真を2値化して示している。)。これに対して上述した塗工液L(粘度4300cP)を用いて実施例3の塗工装置1で得られた塗膜Cの断面をSEM観察したところ、フィラーの沈降は認められず、結果は良好であった(図3B参照。なお図3Bは、SEM観察時の写真をグレースケールで示していて、図3Dは、図3Bと同一の写真を2値化して示している。)。
【0038】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、上記の説明で特に限定しない限り、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。また、上記の実施形態における効果は、本発明から生じる効果を例示したに過ぎず、本発明による効果が上記の効果に限定されることを意味するものではない。
【0039】
例えば搬送ローラ2の外径D1とナイフコーター3の外径D2を小さくしていくと、搬送ローラ2とナイフコーター3の剛性が低下して撓んでしまうおそれがある。このような場合には、例えば搬送ローラ2とナイフコーター3が撓む側に撓みを抑制するための補強ローラを設け、この塗工装置1で塗膜Cを形成してもよい。
【符号の説明】
【0040】
1:塗工装置
2:搬送ローラ
3:ナイフコーター
3b:ナイフ部
4:液溜め部材
4a:一端部
C:塗膜
L:塗工液
S:液溜め空間
W:基材
【要約】
フィラーの含有率を増やした塗工液を用いて基材の表面に塗膜を形成するにあたり、塗膜ムラを抑制し塗膜の膜厚ばらつきも抑えることができる塗工方法を提案する。
基材(W)を送り出す搬送ローラ(2)と、搬送ローラ(2)に対して隙間をあけて配置されナイフ部(3b)が設けられたナイフコーター(3)と、一端部(4a)が搬送ローラ(2)の側方に位置していて搬送ローラ(2)との間に液溜め空間(S)を区画する液溜め部材(4)とを有する塗工装置(1)を用いて塗膜(C)を基材(W)の表面に形成する塗工方法であって、塗工液(L)は、樹脂、溶剤、及びフィラーを含み、フィラーの含有率は、樹脂とフィラーとの混合物100質量部に対して65~95質量部であり、搬送ローラ(2)の外径D1は50~270mmであり、ナイフコーター(3)の外径D2は50~170mmであり、隙間から一端部(4a)までの距離D3は1~120mmである。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図3D